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  • 特開-ポリエステルフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007155
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240111BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20240111BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C08J5/18
C08J7/04 A CFD
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108431
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智博
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB33
4F006AB34
4F006AB65
4F006AB76
4F006BA03
4F006CA08
4F006EA03
4F071AA45
4F071AE09
4F071AF13
4F071AF29
4F071AF30
4F071AF34
4F071AF61
4F071AH12
4F071AH16
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F100AH02A
4F100AK01B
4F100AK41A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA02B
4F100CA13A
4F100GB41
4F100JA11A
4F100JB12B
4F100JK02A
4F100JK17
4F100JN01A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】
耐屈曲性及び視認性に優れたポリエステルフィルムを提供することにある。
【解決手段】
ポリブチレンナフタレートを含有し、b値が2.0以下であり、かつ、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの方向に5%引張ひずみまでの引張サイクル試験を行った際のヒステリシスロス率の平均値が56%以下である、ポリエステルフィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンナフタレートを含有し、
値が2.0以下であり、かつ、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの方向に5%引張ひずみまでの引張サイクル試験を行った際のヒステリシスロス率の平均値が56%以下である、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
黄色度(YI)が、0.00未満である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリブチレンナフタレートを5~70質量%含有する、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
さらに結晶性ポリエステルを含む、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記結晶性ポリエステルが、ポリエチレンナフタレートである、請求項4に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
さらに青色着色剤を含む、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記青色着色剤の含有量が、ポリエステルフィルム全体に対して0.01~1質量%である、請求項6に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記青色着色剤が、アントラキノン系青色染料である、請求項6に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
フレキシブルディスプレイ用である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層上に硬化樹脂層を有し、該硬化樹脂層が、架橋剤を不揮発成分に対して70質量%以上含有する樹脂組成物から形成される、積層ポリエステルフィルム。
【請求項11】
フレキシブルディスプレイ用である、請求項10に記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、耐熱性、耐候性、機械的強度、透明性、耐薬品性、ガスバリア性などの性質に優れており、かつ、価格的にも入手し易いことから、汎用性が高く、包装材料、光学用途などの各種用途に使用されている。
【0003】
一方、近年、電子機器などの小型化、軽量化に伴い、フレキシブル基板やフレキシブルプリント回路が用いられる傾向にある。その流れに伴い、ディスプレイ用途においてもフレキシブル性の要求が高まり、復元性に優れ、繰り返しの折り曲げ耐性(耐屈曲性)に優れるフィルムが強く求められている。
【0004】
フレキシブルディスプレイとしては、折り畳めるフォルダブル、折り返し曲げが可能なベンダブル、巻き取ることができるローラブル、伸縮されるストレッチャブルなどのタイプが挙げられる。
フレキシブルディスプレイの典型例は、ポリイミドなどの合成樹脂から形成された基板フィルムと、その基板フィルムに支持された薄膜トランジスタ(TFT)及び有機発光ダイオード(OLED)などの素子を備えており、また、前記基板フィルム以外にもフレキブル性に優れた光学フィルムが、フレキシブルディスプレイ前面板やタッチセンサー用基材フィルム、基板フィルムを保護するフィルム等の構成部材として使用されている。
【0005】
例えば特許文献1には、量産性に優れており、折り曲げた後に折りたたみ部分で表示される画像に乱れを生じるおそれがない折りたたみ型ディスプレイと、そのような折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器を提供できるようにするため、折りたたみ部に折り跡やクラックが発生することのない、折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルムが開示されている。
【0006】
また、特許文献2及び3には、耐折性、耐熱性に優れたディスプレイ用フィルムとして、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートとポリアリレートとを含有するポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021/182191号公報
【特許文献2】特開2020-50872号公報
【特許文献3】特開2020-56016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているポリエステルフィルムは、耐屈曲性のレベルとしては低く、市場の要求を満たすものではなかった。
【0009】
また、特許文献2及び3に記載のポリエステルフィルムは、ポリアリレートが紫外線に当たると黄変してしまうことから、視認性を損なう場合がある。
【0010】
さらに、特許文献1~3以外にも、選択するポリエステルの種類によっては、フィルムが黄色味を呈してしまうことがあり、画質の劣化や変色といった視認性の問題につながる場合がある。
【0011】
本発明で解決しようとする課題は、上記の問題点を解決し、耐屈曲性及び視認性に優れたポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、次の構成を有することで、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、以下の態様を有する。
【0013】
[1]ポリブチレンナフタレートを含有し、b値が2.0以下であり、かつ、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの方向に5%引張ひずみまでの引張サイクル試験を行った際のヒステリシスロス率の平均値が56%以下である、ポリエステルフィルム。
[2]黄色度(YI)が、0.00未満である、上記[1]に記載のポリエステルフィルム。
[3]ポリブチレンナフタレートを5~70質量%含有する、上記[1]又は[2]に記載のポリエステルフィルム。
[4]さらに結晶性ポリエステルを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[5]前記結晶性ポリエステルが、ポリエチレンナフタレートである、上記[4]に記載のポリエステルフィルム。
[6]さらに青色着色剤を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[7]前記青色着色剤の含有量が、ポリエステルフィルム全体に対して0.01~1質量%である、上記[6]に記載のポリエステルフィルム。
[8]前記青色着色剤が、アントラキノン系青色染料である、上記[6]又は[7]に記載のポリエステルフィルム。
[9]フレキシブルディスプレイ用である、上記[1]~[8]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層上に硬化樹脂層を有し、該硬化樹脂層が、架橋剤を不揮発成分に対して70質量%以上含有する樹脂組成物から形成される、積層ポリエステルフィルム。
[11]フレキシブルディスプレイ用である、上記[10]に記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、優れた耐屈曲性及び視認性を有する。
したがって、本発明のポリエステルフィルムは、ディスプレイ用、特にフレキシブルディスプレイ用等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】応力-ひずみ曲線のプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<<ポリエステルフィルム>>
本発明のポリエステルフィルム(以下、「本フィルム」とも称する)は、ポリブチレンナフタレート(以下、「PBN」とも称する)を含有し、b値が2.0以下であり、かつ、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの方向に5%引張ひずみまでの引張サイクル試験を行った際のヒステリシスロス率の平均値が56%以下である。
【0018】
なお、フィルムの長手方向(MD)とは、フィルムの製造工程でフィルムが進行する方向、すなわちフィルムロールの巻き方向をいう。フィルムの幅方向(TD)とは、フィルム面に平行かつ長手方向と直交する方向をいい、すなわち、フィルムロール状としたときロールの中心軸と平行な方向である。
【0019】
<ポリブチレンナフタレート>
本フィルムは、上述のとおり、PBNを含有する。
本フィルムが、PBNを含有することで、優れた耐屈曲性を有する機構については定かではないが、縮合多環芳香族構造であるナフタレン環の剛直性かつ対称性に基づいて、耐衝撃性が向上するためだと推定している。
例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートはベンゼン環が一つのテレフタル酸を使っているのに対して、ポリエチレンナフタレートやポリブチレンナフタレートはベンゼン環が二つ連結したナフタレン環を使っているため、対称性を維持しながら剛直性を向上させることができる。
【0020】
また、PBNは、ジオール成分に1,4-ブタンジオールを有しており、アルキル鎖のコンフォメーションによって、α結晶とβ結晶で構造転移を起こすため、耐衝撃性により優れると推定している。
したがって、耐衝撃性の向上により耐屈曲性を優れたものにする観点から、ジカルボン酸としてテレフタル酸よりも2,6-ナフタレンジカルボン酸を含有していることが好ましく、ジオール成分としてエチレングリコールより1,4-ブタンジオールを含有していることが好ましい。
【0021】
本フィルムを構成するPBNは、ジカルボン酸成分(a-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸を、ジオール成分(a-2)として1,4-ブタンジオールを含むポリエステルであり、好ましくは2,6-ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールを主成分とする。すなわち、ジカルボン酸成分(a-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸を50モル%以上、ジオール成分(a-2)として1,4-ブタンジオールを50モル%以上含むことが好ましい。
特に、本発明で用いるPBNは、ジカルボン酸成分(a-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸を90モル%以上、ジオール成分(a-2)として1,4-ブタンジオールを90モル%以上含むことがより好ましい。
【0022】
前記PBNを構成するジカルボン酸成分(a-1)は、2,6-ナフタレンジカルボン酸を含み、ジカルボン酸成分(a-1)のうち、2,6-ナフタレンジカルボン酸が92モル%以上であることがより好ましく、94モル%以上であることがさらに好ましく、96モル%以上であることが特に好ましく、98モル%以上であることがとりわけ好ましく、ジカルボン酸成分(a-1)の全て(100モル%)が2,6-ナフタレンジカルボン酸であることが最も好ましい。
ジカルボン酸成分(a-1)として、2,6-ナフタレンジカルボン酸を90モル%以上とすることにより、PBNのガラス転移温度及び結晶性が向上し、ひいては本フィルムの耐熱性及び機械的特性が向上する。
また、ジカルボン酸成分(a-1)として、2,6-ナフタレンジカルボン酸を90モル%以上とすることにより、ナフタレン骨格の含有量が多くなり、耐衝撃性が向上する。そして、結果として耐屈曲性が向上する。
【0023】
前記PBNは、成形性や耐熱性の向上を目的として、2,6-ナフタレンジカルボン酸以外の酸成分を共重合してもよい。具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。これらの酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも成形性の観点から、イソフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸が好ましい。
また、これらの中でも耐屈曲性の観点からは、剛直性かつ対称性の高いナフタレン骨格を有する酸成分等が好ましく、例えば、テレフタル酸やイソフタル酸等のようなベンゼン骨格を有する酸成分は5モル%以下であることが好ましく、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
なお、前記2,6-ナフタレンジカルボン酸以外の酸成分の含有量は、2,6-ナフタレンジカルボン酸を含む全酸成分中10モル%以下であることが好ましい。
【0024】
前記PBNを構成するジオール成分(a-2)は、1,4-ブタンジオールを含み、ジオール成分(a-2)のうち、1,4-ブタンジオールが92モル%以上であることがより好ましく、94モル%以上であることがさらに好ましく、96モル%以上であることが特に好ましく、98モル%以上であることがとりわけ好ましく、ジオール成分(a-2)の全て(100モル%)が1,4-ブタンジオールであることが最も好ましい。ジオール成分(a-2)として、1,4-ブタンジオールを90モル%以上とすることにより、混合するポリエステルとの相溶性が向上し、さらにはPBNのガラス転移温度及び結晶性が向上し、ひいては本フィルムの耐熱性及び機械的特性が向上する。
【0025】
前記PBNは、成形性や耐熱性の向上を目的として、1,4-ブタンジオール以外のジオール成分を共重合してもよい。具体的には、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキノン、ビスフェノール、スピログリコール、2,2,4,4,-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール、イソソルバイド等が挙げられる。これらのジオール成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも成形性の観点からエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
なお、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール成分の含有量は、1,4-ブタンジオールを含む全ジオール成分中10モル%以下であることが好ましい。
【0026】
前記PBNの含有量は、本フィルムを100質量%としたときに、5~70質量%であることが好ましい。当該含有量が5質量%以上であれば、PBNの有する優れた耐屈曲性が発揮される。また、当該含有量が70質量%以下であれば、後述するPBN以外の少なくとも1種のポリエステルの含有量を適切量確保できるため、フィルム製膜時の押出成形性や延伸加工性を向上させながら、耐屈曲性を良好なものとすることができる。
【0027】
その中でも、耐屈曲性をより優れたものとする観点からは、前記PBNの含有量は、35~70質量%であることが好ましく、より好ましくは40~65質量%、さらに好ましくは45~62質量%、特に好ましくは50~60質量%である。
【0028】
<PBN以外の少なくとも1種のポリエステル>
本フィルムは、上述のように、PBNを必須成分として含有するが、2種以上のポリエステルを含むことが好ましく、PBNに加えて、PBN以外の少なくとも1種のポリエステル(以下、「PBN以外のポリエステル」とも称する)を含むことが好ましい。当該PBN以外のポリエステルを含むことで、結晶化速度をコントロールすることができ、PBN単体だと困難である押出成形や延伸加工にも優れたものとなる。なお、PBN以外のポリエステルは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
前記PBN以外のポリエステルとしては、特に制限されず、下記のようなジカルボン酸成分及びジオール成分からなるものが挙げられる。
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩及びそれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0030】
ジオール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、2-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、p-キシリレングリコ-ル、ビスフェノールA-エチレングリコ-ル付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル、ポリテトラメチレンオキシドグリコ-ル、ジメチロ-ルプロピオン酸、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、ジメチロ-ルエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロ-ルプロピオン酸カリウム等が挙げられる。
上記化合物の中から、それぞれ適宜1種以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステルを合成すればよい。
なお、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分の組合せによっては、上記PBNに相当するポリエステルが含まれるが、本発明においては、上記PBNとは異なるポリエステルを用いる。
【0031】
前記PBN以外のポリエステルとしては、結晶性ポリエステルであることが好ましく、さらに、前記結晶性ポリエステルは、前記PBNよりもガラス転移温度が高いことがより好ましい。
PBNに対して、前記結晶性ポリエステルを混合することにより、PBNの結晶化速度をコントロールし、押出成形性や延伸加工性を向上させることができる。
また、前記結晶性ポリエステルが、PBNよりもガラス転移温度が高いことで、PBN単体よりもガラス転移温度の高い樹脂組成物が得られ、耐熱性が良好となる。
【0032】
前記結晶性ポリエステルとしては、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等が好ましく、耐屈曲性、耐熱性及び成形性のバランス向上の観点から、ポリエチレンナフタレート(以下、「PEN」とも称する)を含有することがより好ましい。また、PENであれば、PBNと共結晶を形成することから、結晶化を阻害し合うことなく高い結晶化度を持つことが期待できる。さらに、PENは、PBNとの構造類似性が高いため、相溶性がよく、エステル交換しやすいと期待できる。
【0033】
(ポリエチレンナフタレート)
前記PENは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよいが、全ジカルボン酸成分中、2,6-ナフタレンジカルボン酸以外のその他の共重合成分としてのベンゼン骨格を有する酸成分が5モル%以下であることが好ましい。なお、その他の共重合成分を含まず、ジカルボン酸成分の全て(100モル%)が2,6-ナフタレンジカルボン酸であってもよい。
中でも、高い結晶性を維持する観点からは、ホモポリエステルが好ましい。また、ナフタレン骨格の含有量を多くすることで剛直性及び対称性を高め、耐屈曲性を向上させやすくする観点からも、ホモポリエステルが好ましい。
また、ホモポリエステルと共重合ポリエステルをブレンドしてもよいが、ホモポリエステルと1種の共重合ポリエステルをブレンドした場合は、前記結晶性ポリエステルを2種用いたものとする。
【0034】
PENが、ホモポリエステルからなる場合、ジカルボン酸成分(b-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸と、ジオール成分(b-2)としてエチレングリコールとを重縮合させて得られる。
なお、通常、エチレングリコールを原料の1つとして、ポリエステルを製造(重縮合)する場合、エチレングリコールからジエチレングリコールが副生する。本明細書においては、このジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールと称する。エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生量は、重縮合の様式等によっても異なるが、エチレングリコールのうち5モル%以下程度である。本発明においては、5モル%以下の前記副生ジエチレングリコールもエチレングリコールに包含されるものとする。一方で、ジエチレングリコールの含有量によっては、より具体的にはジエチレングリコールが5モル%を超えて含有されている場合には、当該ジエチレングリコールはエチレングリコールとは区別される。
【0035】
一方、PENが、共重合ポリエステルからなる場合、ジカルボン酸成分(b-1)としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸が必須成分であり、これに必要に応じて、その他の共重合成分が加えられる。
他の共重合成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも成形性の観点からイソフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸が好ましい。また、これらの中でも耐屈曲性の観点からは、剛直性及び対称性の高いナフタレン骨格を有する共重合成分が好ましい。これらの共重合成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
ジオール成分(b-2)としては、エチレングリコールが必須成分であり、これに必要に応じ、その他の共重合成分として、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキノン、スピログリコール、2,2,4,4,-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール、イソソルバイド、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマージオール、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF若しくはビスフェノールSなどのビスフェノール化合物若しくはその誘導体又はそれらのエチレンオキサイド付加物)等が挙げられ、これらのうち1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマージオール、ビスフェノール類が好ましい。特に強度保持の観点から、ビスフェノール類を用いることが好ましい。また、ビスフェノール類としてはビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。これらの共重合成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
PENを構成する共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分(b-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸を含み、ジオール成分(b-2)としてエチレングリコールと、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物と、を含むことが好ましい。
【0038】
前記共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分中にその他の共重合成分を好ましくは0モル%以上10モル%以下、より好ましくは0モル%以上8モル%以下、さらに好ましくは0モル%以上6モル%以下、特に好ましくは0モル%以上4モル%以下、とりわけ好ましくは0モル%以上2モル%以下含有する。
ジカルボン酸成分中のその他の共重合成分の含有量を上記数値範囲内とすることにより、共重合ポリエステルのガラス転移温度及び結晶性が向上し、ひいては本フィルムの耐熱性及び機械的特性が向上する。
特に好ましい形態としては、上述のとおり、その他の共重合成分として剛直性及び対称性の高いナフタレン骨格を有する共重合成分を用いることであり、例えば、テレフタル酸やイソフタル酸等のようなベンゼン骨格を有する酸成分は5モル%以下であることが好ましく、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0039】
前記共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分中に2,6-ナフタレンジカルボン酸を好ましくは90モル%以上、より好ましくは92モル%以上、さらに好ましくは94モル%以上、特に好ましくは96モル%以上、とりわけ好ましくは98モル%以上含有し、ジカルボン酸成分の全て(100モル%)が2,6-ナフタレンジカルボン酸であってもよい。
ジカルボン酸成分中の2,6-ナフタレンジカルボン酸の含有量を上記数値範囲内とすることにより、共重合ポリエステルのガラス転移温度及び結晶性が向上し、ひいては本フィルムの耐熱性及び機械的特性が向上する。また、ジカルボン酸成分中の2,6-ナフタレンジカルボン酸の含有量を上記数値範囲内とすることにより、ナフタレン骨格の含有量が多くなり、耐衝撃性が向上する。そして、結果として耐屈曲性が向上する。
【0040】
前記共重合ポリエステルは、ジオール成分中にその他の共重合成分を好ましくは4モル%以上70モル%以下、より好ましくは4.2モル%以上60モル%以下、さらに好ましくは4.4モル%以上50モル%以下、特に好ましくは4.6モル%以上40モル%以下、とりわけ好ましくは4.8モル%以上30モル%以下含有する。
ジオール成分中のその他の共重合成分の含有量を上記数値範囲内とすることにより、共重合ポリエステルのガラス転移温度が向上し、ひいては本フィルムの耐熱性が向上する。また、結晶性を制御することができるため、結晶化速度を遅くし、フィルムの押出成形性、延伸加工性の向上が可能となる。また、当該含有量が70モル%以下であると、融点が高くなりすぎることがない。したがって、成形温度を高く設定する必要がなく、熱分解する懸念がない。
【0041】
前記共重合ポリエステルは、ジオール成分中にエチレングリコールを好ましくは30モル%以上96モル%以下、より好ましくは40モル%以上95.8モル%以下、さらに好ましくは50モル%以上95.6モル%以下、特に好ましくは60モル%以上95.4モル%以下、とりわけ好ましくは70モル%以上95.2モル%以下含有する。
ジオール成分中のエチレングリコールの含有量を上記数値範囲内とすることにより、共重合ポリエステルの結晶性が保持され、ひいては本フィルムの耐熱性が向上する。
【0042】
PEN等の前記結晶性ポリエステルの含有割合は、耐屈曲性、耐熱性及び成形性のバランス向上の観点から、PBN100質量部に対して、50質量部以上1000質量部以下含むことが好ましく、より好ましくは55質量部以上980質量部以下、さらに好ましくは60質量部以上950質量部以下であり、特に好ましくは65質量部以上900質量部以下である。
本フィルム中の前記結晶性ポリエステルの含有割合が50質量部以上であれば、結晶化速度を遅くすることができるため、フィルム製膜時の押出成形性や延伸加工性を向上させることができる。また、50質量部以上であれば、ガラス転移温度が向上し、本フィルムの耐熱性を向上させることができる。
一方、前記結晶性ポリエステルの含有割合が1000質量部以下であれば、PBNの優れた耐屈曲性を大きく損なうことがないため、得られる本フィルムの耐屈曲性が良好なものとなる。
【0043】
その中でも、耐屈曲性をより優れたものとする観点からは、PEN等の前記結晶性ポリエステルの含有割合は、PBN100質量部に対して、50質量部以上185質量部以下で含むことが好ましく、より好ましくは55質量部以上150質量部以下、さらに好ましくは60質量部以上125質量部以下、特に好ましくは65質量部以上110質量部以下である。
【0044】
例えば、前記結晶性ポリエステルとしてPENを用いた場合、前記PBN及び前記PENは、どちらもナフタレン骨格を有するポリエステルであるが、上述のとおり、ジオール成分に1,4-ブタンジオールを有していると耐衝撃性により優れたものとなる。
つまり、本フィルムが前記PBN及び前記PENを含有する場合、PBNの含有量が増えるに伴って耐屈曲性が向上すると考えられる。
【0045】
<他の樹脂>
本フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲において、前記PBN及び前記PBN以外のポリエステルとは異なる他の樹脂を含むことを許容することができる。
他の樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、及び、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0046】
<青色着色剤>
本フィルムには、視認性向上のため、必要に応じて、青色着色剤を含有させることが好ましい。本フィルムは、上述のとおり、PBNを含有するが、PBNはナフタレン骨格、すなわちポリエチレンテレフタレートよりも環状構造を多く有するため、共鳴効果が強まる結果、より黄色く着色する傾向にある。
したがって、画質の劣化や変色といった視認性の問題を抑制させるため、色調調整として、青色着色剤を含有させることが好ましい。
【0047】
前記青色着色剤としては、従来公知の青色染料、青色顔料等が挙げられる。中でも、青色染料を使用することが好ましく、青色染料としてはアントラキノン系、アゾ系、フタロシアニン系等の青色染料が挙げられるが、染料性や堅牢性の観点からアントラキノン系青色染料がより好ましい。
また、前記青色着色剤は、ハロゲン非含有のものが好ましい。ハロゲン非含有の着色剤を用いると、ポリエステルフィルムを廃棄する場合に、環境に与える悪影響、すなわち環境負荷を小さくすることができる。
したがって、前記青色着色剤としては、ハロゲン非含有の青色染料を用いることが特に好ましく、ハロゲン非含有アントラキノン系青色染料を用いることが最も好ましい。
【0048】
本発明に用いるハロゲン非含有アントラキノン系青色染料は、特に制限されないが、例えば下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【化1】
【0050】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に置換又は非置換アミノ基を表し、R、R、R~Rはそれぞれ独立に水素原子又は置換基であり、RとRは互いに結合し環を形成していてもよい。)
【0051】
及びRは、それぞれ独立に置換又は非置換アミノ基を表し、置換アミノ基の置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基、2-ヒドロキシエチル基、2-メトキシエチル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチル基、ベンジル基、2-フェネチル基、テトラヒドロフルフリル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;置換又は非置換のアリール基で置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基等を有するもので、具体的にはフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メトキシフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2,6-ジエチル-4-メチルフェニル基、p-シアノフェニル基、p-カルボキシフェニル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-メルカプトフェニル基、p-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル基、p-ニトロフェニル基、p-アセチルフェニル基、1-ナフチル基等の置換又は非置換アリール基;ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピラニル基、ピローリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基等の置換又は非置換のヘテロ環基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、1-ナフトイル基、チエノイル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アシル基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、2-メトキシエチルスルホニル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、p-メチルフェニルスルホニル基、p-メトキシフェニルスルホニル基、1-ナフチルスルホニル基等の置換又は非置換アリールスルホニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アルコキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基、p-メチルフェニルオキシカルボニル基、1-ナフチルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アリールオキシカルボニル基;シクロヘキシルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等のシクロアルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
置換アミノ基は、これらの置換基を1個あるいは2個有することができる。また、アミノ基の窒素原子と2個の置換基が一緒になって5員環あるいは6員環を形成してもよく、環としてはモルホリン環、チオモルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環、下記構造(II-a)~(II-d)で表される環等が挙げられ、これらの環は置換基を有することもできる。
【0052】
【化2】
【0053】
(前記構造(II-a)~(II-d)において、*はアントラキノン骨格との結合部分を示す。)
【0054】
、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、上記置換基は、具体的には、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、シアノ基、チオシアノ基、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルケニル基、置換又は非置換アリール基、置換又は非置換ヘテロ環基、置換又は非置換アミノ基、置換又は非置換アルコキシ基、置換又は非置換シクロアルキルオキシ基、置換又は非置換アルケニルオキシ基、置換又は非置換アリールオキシ基、置換又は非置換ヘテロ環オキシ基、置換又は非置換アシルオキシ基、置換又は非置換アルキルスルホニルオキシ基、置換又は非置換アリールスルホニルオキシ基、置換又は非置換アルコキシカルボニルオキシ基、置換又は非置換アリールオキシカルボニルオキシ基、置換又は非置換アルコキシカルボニル基、置換又は非置換シクロアルキルオキシカルボニル基、置換又は非置換アルケニルオキシカルボニル基、置換又は非置換アリールオキシカルボニル基、置換又は非置換ヘテロ環オキシカルボニル基、置換又は非置換カルバモイル基、置換又は非置換スルファモイル基、置換又は非置換アシル基、置換又は非置換アルキルスルホニル基、置換又は非置換アリールスルホニル基、置換又は非置換アルキルチオ基、置換又は非置換シクロアルキルチオ基、置換又は非置換アリールチオ基、置換又は非置換ヘテロ環チオ基、置換又は非置換アルコキシスルホニル基、置換又は非置換シクロアルキルオキシスルホニル基、置換又は非置換アルケニルオキシスルホニル基、置換又は非置換アリールオキシスルホニル基、置換又は非置換ヘテロ環オキシスルホニル基を表す。R2とR3は互いに結合し環を形成していてもよい。
【0055】
非置換アルキル基としては炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、i-プロピル基、n-プロピル基、i-ブチル基、n-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。
【0056】
置換アルキル基としては2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシエチル基等のヒドロキシ基置換アルキル基;カルボキシルメチル基、2-カルボキシエチル基等のカルボキシル基置換アルキル基;2-シアノエチル基等のシアノ基置換アルキル基;2-アミノエチル基、2-(N-メチルアミノ)エチル基、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル基等の置換又は非置換アミノ基置換アルキル基;カルバモイルメチル基、N,N-ジメチルカルバモイルエチル基等の置換又は非置換カルバモイル基置換アルキル基;2-フェニルエチル基、2-(p-メチルフェニル)エチル基等の置換又は非置換アリール基置換アルキル基;2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル等の置換又は非置換アルコキシ基置換アルキル基;2-フェノキシエチル基、2-(p-メチルフェノキシ)エチル基等の置換又は非置換アリールオキシ基置換アルキル基;2-アセトキシエチル基等の置換又は非置換アシルオキシ基置換アルキル基;シクロヘキシルオキシメチル基等のシクロアルキルオキシ基置換アルキル基;2-メチルチオエチル基、3-エチルチオプロピル基等のアルキルチオ基置換アルキル基;フェニルチオメチル基、2-(p-メチルフェニルチオ)エチル基等の置換又は非置換アリールチオ基置換アルキル基;シクロヘキシルチオメチル基等のシクロアルキルチオ基置換アルキル基;2-(2-メルカプトベンゾチアゾリル)エチル基等のヘテロ環チオ基置換アルキル基;メトキシカルボニルメチル基、2-エトキシカルボニルエチル基、2-(2-メトキシエトキシ)カルボニルエチル基等の置換又は非置換アルコキシカルボニル基置換アルキル基;2-フェノキシカルボニルエチル基、2-(p-メトキシフェノキシ)カルボニルエチル基等の置換又は非置換アリールオキシカルボニル基置換アルキル基;2-シクロヘキシルオキシカルボニルエチル基等のシクロアルキルオキシカルボニル基置換アルキル基;2-カルボキシエチル基等のカルボキシル基置換アルキル基;2-メルカプトエチル基等のメルカプト基置換アルキル基等が挙げられる。
【0057】
置換又は非置換シクロアルキル基としては炭素数4~7のもの、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
置換又は非置換アルケニル基としては炭素数が2~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のもの、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられる。
【0058】
置換又は非置換アリール基としてはフェニル基、ナフチル基が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0059】
置換又は非置換ヘテロ環基としてはピリジル基、キノリル基、フリル基、ピラニル基、ピローリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基等が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0060】
置換アミノ基の置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基、2-ヒドロキシエチル基、2-メトキシエチル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチル基、ベンジル基、2-フェネチル基、テトラヒドロフルフリル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;置換又は非置換のアリール基で置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基等を有するもので、具体的にはフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メトキシフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2,6-ジエチル-4-メチルフェニル基、p-シアノフェニル基、p-カルボキシフェニル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-メルカプトフェニル基、p-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル基、p-ニトロフェニル基、p-アセチルフェニル基、1-ナフチル基等の置換又は非置換アリール基;ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピラニル基、ピローリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基等の置換又は非置換のヘテロ環基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、1-ナフトイル基、チエノイル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アシル基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、2-メトキシエチルスルホニル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、p-メチルフェニルスルホニル基、p-メトキシフェニルスルホニル基、1-ナフチルスルホニル基等の置換又は非置換アリールスルホニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アルコキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基、p-メチルフェニルオキシカルボニル基、1-ナフチルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アリールオキシカルボニル基;シクロヘキシルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等のシクロアルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
置換アミノ基はこれらの置換基を1個あるいは2個有することができる。また、アミノ基の窒素原子と2個の置換基が一緒になって5員環あるいは6員環を形成してもよく、環としてはモルホリン環、チオモルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環、下記構造(II-a)~(II-d)で表される環等が挙げられ、これらの環は置換基を有することもできる。
【0061】
【化3】

【0062】
(前記構造(II-a)~(II-d)において、*はアントラキノン骨格との結合部分を示す。)
【0063】
置換又は非置換アルコキシ基として、非置換のアルコキシ基としては炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、i-プロポキシ基、n-プロポキシ基、i-ブトキシ基、n-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基等が挙げられ、置換アルコキシ基としては、置換アルコキシ基全体の炭素数として1~20であることが好ましく、2-ヒドロキシエトキシ基、2-ヒドロキシプロポキシ基、3-ヒドロキシプロポキシ基、4-ヒドロキシブトキシ基等のヒドロキシ置換アルコキシ基;ベンジルオキシ基、2-フェニルエトキシ基等のフェニル置換アルコキシ基;2-メトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-(n)プロポキシエトキシ基、2-(iso)プロポキシエトキシ基、3-メトキシプロポキシ基、4-メトキシブトキシ基、3-メトキシブトキシ基、2,3-ジメトキシプロポキシ基、2,2-ジメトキシエトキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基;2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ基、2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ基,2-(2-(n)プロポキシエトキシ)エトキシ基,2-(2-(n)ブトキシエトキシ)エトキシ基、2-{2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ}エトキシ基等のアルコキシアルコキシ置換アルコキシ基;2-フェネチルオキシエトキシ基、2-ベンジルオキシエトキシ基等のアラルキルオキシ置換アルコキシ基;2-アセチルオキシエトキシ基、2-プロピオニルオキシエトキシ基等のアシルオキシ置換アルコキシ基;2-メトキシカルボニルエトキシ基、2-エトキシカルボニルエトキシ基等のアルコキシカルボニル置換アルコキシ基;フルフリルオキシ基、テトラヒドロフルフリルオキシ基等のヘテロ環置換アルコキシ基;2-アリルオキシエトキシ基等のアルケニルオキシ置換アルコキシ基;2-フェノキシエトキシ基等のアリールオキシ置換アルコキシ基等が挙げられる。
【0064】
置換又は非置換シクロアルキルオキシ基としては、炭素数4~7のもの、例えばシクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基等が挙げられる。
置換又は非置換アルケニルオキシ基としては、炭素数が2~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のもの、例えばビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基等が挙げられる。
【0065】
置換又は非置換アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基が挙げられ、それらの置換基としてはニトロ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;カルボキシル基;シアノ基;チオシアノ基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基;ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0066】
置換又は非置換ヘテロ環オキシ基としてはピリジルオキシ基、キノリルオキシ基、フリルオキシ基、ピラニルオキシ基、ピローリルオキシ基、イミダゾリルオキシ基、オキサゾリルオキシ基、ピラゾリルオキシ基、チエニルオキシ基、チアゾリルオキシ基、イソチアゾリルオキシ基、イソオキサゾリルオキシ基、ピリミジルオキシ基、トリアジニルオキシ基、ベンゾチアゾリルオキシ基、ベンゾオキサゾリルオキシ基等が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0067】
置換又は非置換アシルオキシ基としてはアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p-メチルベンゾイルオキシ基、1-ナフトイルオキシ基、チエノイルオキシ基等の炭素数1~20のものが挙げられる。
置換又は非置換アルキルスルホニルオキシ基としてはメチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基、プロピルスルホニルオキシ基、ブチルスルホニルオキシ基、ペンチルスルホニルオキシ基、ヘキシルスルホニルオキシ基、2-エチルヘキシルスルホニルオキシ基、n-オクチルスルホニルオキシ基、n-デシルスルホニルオキシ基、n-ドデシルスルホニルオキシ基、2-メトキシエトキシスルホニルオキシ基等の炭素数1~20のものが挙げられる。
【0068】
置換又は非置換アリールオキシカルボニルオキシ基としてはフェノキシカルボニルオキシ基、p-メチルフェノキシカルボニルオキシ基、p-メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、1-ナフトキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
置換又は非置換アルコキシカルボニル基として、非置換のアルコキシカルボニル基としては炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシカルボニル基を有するもの、具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、i-プロポキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、i-ブトキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、n-オクチルオキシカルボニル基、n-デシルオキシカルボニル基、n-ドデシルオキシカルボニル基等が挙げられ、置換アルコキシカルボニル基としては、置換アルコキシ基全体の炭素数として1~20であるのが好ましく、2-ヒドロキシエトキシカルボニル基、2-ヒドロキシプロポキシカルボニル基、3-ヒドロキシプロポキシカルボニル基、4-ヒドロキシブトキシカルボニル基等のヒドロキシ置換アルコキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基、2-フェニルエトキシカルボニル基等のフェニル置換アルコキシカルボニル基;2-メトキシエトキシカルボニル基、2-エトキシエトキシカルボニル基、2-(n)プロポキシエトキシカルボニル基、2-(iso)プロポキシエトキシカルボニル基、3-メトキシプロポキシカルボニル基、4-メトキシブトキシカルボニル基、3-メトキシブトキシカルボニル基、2,3-ジメトキシプロポキシカルボニル基、2,2-ジメトキシエトキシカルボニル基等のアルコキシ置換アルコキシカルボニル基;2-(2-メトキシエトキシ)エトキシカルボニル基、2-(2-エトキシエトキシ)エトキシカルボニル基,2-(2-(n)プロポキシエトキシ)エトキシカルボニル基,2-(2-(n)ブトキシエトキシ)エトキシカルボニル基、2-{2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ}エトキシカルボニル基等のアルコキシアルコキシ置換アルコキシカルボニル基;2-フェネチルオキシエトキシカルボニル基、2-ベンジルオキシエトキシカルボニル基等のアラルキルオキシ置換アルコキシカルボニル基;2-アセチルオキシエトキシカルボニル基、2-プロピオニルオキシエトキシカルボニル基等のアシルオキシ置換アルコキシカルボニル基;2-メトキシカルボニルエトキシカルボニル基、2-エトキシカルボニルエトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル置換アルコキシカルボニル基;フルフリルオキシカルボニル基、テトラヒドロフルフリルオキシカルボニル基等のヘテロ環置換アルコキシカルボニル基;2-アリルオキシエトキシカルボニル基等のアルケニルオキシ置換アルコキシカルボニル基;2-フェノキシエトキシカルボニル基等のアリールオキシ置換アルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0069】
置換又は非置換シクロアルキルオキシカルボニル基としては炭素数4~7のもの、例えばシクロペンチルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘプチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
置換又は非置換アルケニルオキシカルボニル基としては炭素数が2~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のもの、例えばビニルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、プロペニルオキシカルボニル基、ブテニルオキシカルボニル基、ペンテニルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0070】
置換又は非置換アリールオキシカルボニル基としてはフェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基が挙げられ、それらの置換基としてはニトロ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;カルボキシル基;シアノ基;チオシアノ基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基;ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0071】
置換又は非置換ヘテロ環オキシカルボニル基としてはピリジルオキシカルボニル基、キノリルオキシカルボニル基、フリルオキシカルボニル基、ピラニルオキシカルボニル基、ピローリルオキシカルボニル基、イミダゾリルオキシカルボニル基、オキサゾリルオキシカルボニル基、ピラゾリルオキシカルボニル基、チエニルオキシカルボニル基、チアゾリルオキシカルボニル基、イソチアゾリルオキシカルボニル基、イソオキサゾリルオキシカルボニル基、ピリミジルオキシカルボニル基、トリアジニルオキシカルボニル基、ベンゾチアゾリルオキシカルボニル基、ベンゾオキサゾリルオキシカルボニル基等が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0072】
置換カルバモイル基の置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基、2-ヒドロキシエチル基、2-メトキシエチル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチル基、ベンジル基、2-フェネチル基、テトラヒドロフルフリル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;置換又は非置換のアリール基で置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基等を有するもので、具体的にはフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-シアノフェニル基、p-カルボキシフェニル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-メルカプトフェニル基、p-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル基、p-ニトロフェニル基、p-アセチルフェニル基、1-ナフチル基等の置換又は非置換アリール基;ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピラニル基、ピローリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基等の置換又は非置換のヘテロ環基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、1-ナフトイル基、チエノイル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アシル基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、2-メトキシエチルスルホニル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、p-メチルフェニルスルホニル基、p-メトキシフェニルスルホニル基、1-ナフチルスルホニル基等の置換又は非置換アリールスルホニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アルコキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基、p-メチルフェニルオキシカルボニル基、1-ナフチルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アリールオキシカルボニル基;シクロヘキシルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等のシクロアルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
置換カルバモイル基はこれらの置換基を1個あるいは2個有することができる。また、カルバモイル基の窒素原子と2個の置換基が一緒になって5員環あるいは6員環を形成してもよく、環としてはモルホリン環、チオモルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環、下記構造(II-a)~(II-d)で表される環等が挙げられ、これらの環は置換基を有することもできる。
【0073】
【化4】

【0074】
置換スルファモイル基の置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基、2-ヒドロキシエチル基、2-メトキシエチル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチル基、ベンジル基、2-フェネチル基、テトラヒドロフルフリル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;置換又は非置換のアリール基で置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基等を有するもので、具体的にはフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-シアノフェニル基、p-カルボキシフェニル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-メルカプトフェニル基、p-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル基、p-ニトロフェニル基、p-アセチルフェニル基、1-ナフチル基等の置換又は非置換アリール基;ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピラニル基、ピローリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基等の置換又は非置換のヘテロ環基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、1-ナフトイル基、チエノイル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アシル基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、2-メトキシエチルスルホニル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、p-メチルフェニルスルホニル基、p-メトキシフェニルスルホニル基、1-ナフチルスルホニル基等の置換又は非置換アリールスルホニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アルコキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基、p-メチルフェニルオキシカルボニル基、1-ナフチルオキシカルボニル基等の置換又は非置換アリールオキシカルボニル基;シクロヘキシルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等のシクロアルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
置換スルファモイル基はこれらの置換基を1個あるいは2個有することができる。また、スルファモイル基の窒素原子と2個の置換基が一緒になって5員環あるいは6員環を形成してもよく、環としてはモルホリン環、チオモルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環、下記構造(II-a)~(II-d)で表される環等が挙げられ、これらの環は置換基を有することもできる。
【0075】
【化5】

【0076】
置換又は非置換アシル基としてはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、1-ナフトイル基、チエノイル基等の炭素数1~20の置換又は非置換アシル基等が挙げられる。
【0077】
置換又は非置換アルキルスルホニル基としては炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキルキスルホニル基、具体的にはメチルスルホニル基、エチルスルホニル基、i-プロピルスルホニル基、n-プロピルスルホニル基、i-ブチルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基、ヘキシルスルホニル基、2-エチルヘキシルスルホニル基、n-オクチルスルホニル基、n-デシルスルホニル基、n-ドデシルスルホニル基等が挙げられ、これらはヒドロキシ基、アルコキシ基等の置換基を有していても良い。
【0078】
置換又は非置換アリールスルホニル基としてはフェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0079】
置換又は非置換アルキルチオ基としては炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキルチオ基、具体的にはメチルチオ基、エチルチオ基、i-プロピルチオ基、n-プロピルチオ基、i-ブチルチオ基、n-ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、2-エチルヘキシルチオ基、n-オクチルチオ基、n-デシルチオ基、n-ドデシルチオ基等が挙げられ、これらはヒドロキシ基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0080】
置換又は非置換シクロアルキルチオ基としては炭素数4~7のもの、例えばシクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、シクロヘプチルチオ基等が挙げられる。
置換又は非置換アリールチオ基としてはフェニルチオ基、ナフチルチオ基が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0081】
置換又は非置換ヘテロ環チオ基としてはピリジルチオ基、キノリルチオ基、フリルチオ基、ピラニルチオ基、ピローリルチオ基、イミダゾリルチオ基、オキサゾリルチオ基、ピラゾリルチオ基、チエニルチオ基、チアゾリルチオ基、イソチアゾリルチオ基、イソオキサゾリルチオ基、ピリミジルチオ基、トリアジニルチオ基、ベンゾチアゾリルチオ基、ベンゾオキサゾリルチオ基等が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0082】
置換又は非置換アルコキシスルホニル基として、非置換のアルコキシスルホニル基としては炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシスルホニル基を有するもの、具体的にはメトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基、i-プロポキシスルホニル基、n-プロポキシスルホニル基、i-ブトキシスルホニル基、n-ブトキシスルホニル基、ペンチルオキシスルホニル基、ヘキシルオキシスルホニル基、2-エチルヘキシルオキシスルホニル基、n-オクチルオキシスルホニル基、n-デシルオキシスルホニル基、n-ドデシルオキシスルホニル基等が挙げられ、置換アルコキシスルホニル基としては、置換アルコキシ基全体の炭素数として1~20であることが好ましく、2-ヒドロキシエトキシスルホニル基、2-ヒドロキシプロポキシスルホニル基、3-ヒドロキシプロポキシスルホニル基、4-ヒドロキシブトキシスルホニル基等のヒドロキシ置換アルコキシスルホニル基;ベンジルオキシスルホニル基、2-フェニルエトキシスルホニル基等のフェニル置換アルコキシスルホニル基;2-メトキシエトキシスルホニル基、2-エトキシエトキシスルホニル基、2-(n)プロポキシエトキシスルホニル基、2-(iso)プロポキシエトキシスルホニル基、3-メトキシプロポキシスルホニル基、4-メトキシブトキシスルホニル基、3-メトキシブトキシスルホニル基、2,3-ジメトキシプロポキシスルホニル基、2,2-ジメトキシエトキシスルホニル基等のアルコキシ置換アルコキシスルホニル基;2-(2-メトキシエトキシ)エトキシスルホニル基、2-(2-エトキシエトキシ)エトキシスルホニル基,2-(2-(n)プロポキシエトキシ)エトキシスルホニル基,2-(2-(n)ブトキシエトキシ)エトキシスルホニル基、2-{2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ}エトキシスルホニル基等のアルコキシアルコキシ置換アルコキシスルホニル基;2-フェネチルオキシエトキシスルホニル基、2-ベンジルオキシエトキシスルホニル基等のアラルキルオキシ置換アルコキシスルホニル基;2-アセチルオキシエトキシスルホニル基、2-プロピオニルオキシエトキシスルホニル基等のアシルオキシ置換アルコキシスルホニル基;2-メトキシカルボニルエトキシスルホニル基、2-エトキシカルボニルエトキシスルホニル基等のアルコキシカルボニル置換アルコキシスルホニル基;フルフリルオキシスルホニル基、テトラヒドロフルフリルオキシスルホニル基等のヘテロ環置換アルコキシスルホニル基;2-アリルオキシエトキシスルホニル基等のアルケニルオキシ置換アルコキシスルホニル基;2-フェノキシエトキシスルホニル基等のアリールオキシ置換アルコキシスルホニル基等が挙げられる。
【0083】
置換又は非置換シクロアルキルオキシスルホニル基としては炭素数4~7のもの、例えばシクロペンチルオキシスルホニル基、シクロヘキシルオキシスルホニル基、シクロヘプチルオキシスルホニル基等が挙げられる。
置換又は非置換アルケニルオキシスルホニル基としては炭素数が2~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のもの、例えばビニルオキシスルホニル基、アリルオキシスルホニル基、プロペニルオキシスルホニル基、ブテニルオキシスルホニル基、ペンテニルオキシスルホニル基等が挙げられる。
【0084】
置換又は非置換アリールオキシスルホニル基としてはフェノキシスルホニル基、ナフトキシスルホニル基が挙げられ、それらの置換基としてはニトロ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;カルボキシル基;シアノ基;チオシアノ基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基;ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0085】
置換又は非置換ヘテロ環オキシスルホニル基としてはピリジルオキシスルホニル基、キノリルオキシスルホニル基、フリルオキシスルホニル基、ピラニルオキシスルホニル基、ピローリルオキシスルホニル基、イミダゾリルオキシスルホニル基、オキサゾリルオキシスルホニル基、ピラゾリルオキシスルホニル基、チエニルオキシスルホニル基、チアゾリルオキシスルホニル基、イソチアゾリルオキシスルホニル基、イソオキサゾリルオキシスルホニル基、ピリミジルオキシスルホニル基、トリアジニルオキシスルホニル基、ベンゾチアゾリルオキシスルホニル基、ベンゾオキサゾリルオキシスルホニル基等が挙げられ、それらの置換基として炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基、ヒドロキシエチル基,メトキシエチル基等の置換アルキル基が挙げられる。
【0086】
、R、R~Rは、それぞれ水素原子であることが好ましく、又はR~Rはそれぞれ水素原子を示し、かつRとRは置換基であり、互いに結合し環を形成していることが好ましい。置換基の具体例については、上述のとおりである。
また、RとRが互いに結合し環を形成する例としては下記一般式(III)で表される構造の化合物等が挙げられる。
【0087】
【化6】

【0088】
(式中、X及びX~Xは、それぞれ式(I)のR及びR~Rと同義である。X及びX10は酸素原子、硫黄原子あるいはNHを表し、X11は置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、フェニル基、置換又は非置換アリール基、置換又は非置換アラルキル基を表す。)
【0089】
式(III)のX11における置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、置換又は非置換アリール基については、R~Rにおいて説明したとおりである。置換又は非置換アラルキル基におけるアラルキル基としては、炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。アラルキル基に置換してもよい基としては、炭素数1~15のアルキル基、炭素数1~15のアルコキシ基、水酸基、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシル基などが挙げられる。アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、α-メチルフェニルエチル基、β-メチルフェニルエチル基、フルオレニル基等が挙げられる。
【0090】
また、上記一般式(III)で表される化合物の中でも、下記一般式(III-a)で表される化合物が好ましい。
【0091】
【化7】

【0092】
(式中、X11は上記のとおりである。)
【0093】
11は、好ましくは炭素数1~20であり、より好ましくは炭素数2~10、さらに好ましくは炭素数2~6である。特に、X11は炭素数2~6であり、かつ置換又は非置換のアルキル基であることが好ましく、堅牢性の観点からX11が2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル基等のアルコキシ基置換アルキル基であることがより好ましい。
【0094】
本発明に用いるハロゲン非含有アントラキノン系青色染料は、下記一般式(IV)で表される化合物も好ましい。
【0095】
【化8】

【0096】
(式中、X21~X24はそれぞれ独立に水素原子、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、フェニル基、置換又は非置換アリール基、置換又は非置換アラルキル基を表す。)
【0097】
一般式(IV)のX21~X24における置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、置換又は非置換アリール基については、R~Rにおいて説明したとおりであり、置換又は非置換アラルキル基はX11において説明したとおりである。
前記一般式(IV)において、X21~X24それぞれは、水素原子以外の場合、炭素数が好ましくは1~20であり、より好ましくは6~15であり、さらに好ましくは8~14である。
前記一般式(IV)で表される化合物の中でも、X21及びX23が水素原子である下記一般式(IV-a)で表される化合物が好ましく、堅牢性の観点から、中でもX22及びX24それぞれがフェニル基、及び、置換又は非置換アリール基から選択される化合物がより好ましく、X22及びX24それぞれが、2,4,6-トリメチルフェニル基、及び、2,6-ジエチル-4-メチルフェニル基から選択されるいずれかであることがさらに好ましい。
【0098】
【化9】
【0099】
(式中、X22及びX24はそれぞれ上記のとおりである。)
【0100】
さらに、本発明に用いるハロゲン非含有アントラキノン系青色染料は、下記一般式(V)で表される化合物も好ましい。
【0101】
【化10】
【0102】
(式中、X27、X28は、それぞれ独立に水素原子、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、フェニル基、置換又は非置換アリール基、置換又は非置換アラルキル基を表す。Y及びYは、一方がヒドロキシ基、他方がニトロ基(-NO)又はアミノ基(-NH)であるか、あるいは、両方が水素原子である。)
【0103】
一般式(V)のX27、X28における置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、置換又は非置換アリール基については、R~Rにおいて説明したとおりであり、置換又は非置換アラルキル基はX11において説明したとおりである。
27及びX28それぞれは、水素原子以外の場合、炭素数が好ましくは1~20であり、より好ましくは4~15であり、さらに好ましくは6~14である。
【0104】
上記一般式(V)で表される化合物の中でも、下記一般式(V-a)~(V-c)で表される化合物がより好ましい。
【0105】
【化11】
【0106】
(式中、X31~X34は、それぞれ独立に水素原子、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、フェニル基、置換又は非置換アリール基、置換又は非置換アラルキル基を表す。)
【0107】
一般式(V-a)~(V-c)のX31~X34における置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換アルコキシ基、置換又は非置換アリール基については、R、R、R~Rにおいて説明したとおりであり、置換又は非置換アラルキル基はX11において説明したとおりである。
前記一般式(V-a)~(V-c)において、X31~X34それぞれは、水素原子以外の場合、炭素数が好ましくは1~20であり、より好ましくは4~15であり、さらに好ましくは6~14である。
前記一般式(V-a)~(V-c)で表される化合物の中でも、耐光性を向上させる観点から、一般式(V-a)で示される化合物においては、X31が4-(2-エトキシエトキシ)フェニル基、X32が水素原子である化合物、X31が4-ヒドロキシフェノキシ基、X32が水素原子である化合物、又はX31が4-メトキシフェノキシ基、X32が水素原子である化合物が好ましい。また、一般式(V-b)で示される化合物においては、X33が2-ヒドロキシエチルフェニル基である化合物や、X33がフェニル基である化合物も好ましい。更に一般式(V-c)で示される化合物においては、X34がフェニル基である化合物も好ましい。
ただし、本発明では、ハロゲン非含有アントラキノン系青色染料として、一般式(I)及び一般式(V)で表される化合物以外も使用可能である。
【0108】
ハロゲン非含有アントラキノン系青色染料の具体例としては、Disperse Blue 3、Disperse Blue 5、Disperse Blue 14、Disperse Blue 26、Disperse Blue 28、Disperse Blue 35、Disperse Blue 334、Disperse Blue 359、Disperse Blue 60、Disperse Blue 72、Disperse Blue 73、Disperse Blue 77、Disperse Blue 214、Disperse Blue 167、Disperse Blue 54、SolventBlue 101、Solvent Blue 102、Solvent Blue 104、Solvent Blue 122、Solvent Blue 35、Solvent Blue 36、Solvent Blue 59、Solvent Blue 63、Solvent Blue 68、Solvent Blue 78、Solvent Blue 97などが挙げられる。
これらの中では、好ましい化合物として、上記した一般式(III-a)で示される化合物を含む染料として、Disperse Blue 60が挙げられる。また、上記した一般式(IV)で示される化合物を含む染料として、Solvent Blue 104、Solvent Blue 97が挙げられる。また、上記した一般式(V)で示される化合物を含む染料として、Disperse Blue 214、Disperse Blue 167、Disperse Blue 54が挙げられる。
上記した染料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
ポリエステル中の青色着色剤の含有量は、後述するように、本フィルムの原料となるポリエステルに添加してマスターバッチ化する場合には、該フィルムのポリエステル原料中への含有量として、0.5~20質量%であることが好ましく、より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。上記下限値以上であると青色着色剤の効果が十分に得られ、上記上限値以下であるとマスターバッチの安定性の点で好ましい。
また、前記青色着色剤の含有量は、ポリエステルフィルム全体に対して0.01~1質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~0.8質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.01~0.6質量%、特に好ましくは0.01~0.5質量%である。かかる範囲であれば、本フィルムを問題なく製膜でき、本フィルムのb値や黄色度(YI)を所望の値に調整しやすく、視認性の向上につながる。
【0110】
なお、前記青色着色剤を添加する方法としては、特に制限されるものではないが、青色着色剤と本フィルムの原料(例えばポリエステル)とを予めマスターバッチ化してもよく、本フィルムの製造工程における原料投入段階で直接添加してもよい。
【0111】
<その他>
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
【0112】
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、ポリエスエルは、エステル化もしくはエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0113】
本フィルムは、未延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、少なくとも一方向に延伸された、具体的には一軸又は二軸延伸フィルムであることが好ましく、力学特性のバランス、平面性及び薄膜化の観点から、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0114】
ポリエステルの固有粘度は、特に限定されないが、製膜性、生産性などの観点から、0.45~1.3dL/gが好ましく、0.5~1.2dL/gがより好ましい。
【0115】
本フィルム中には、易滑性の付与及び各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有させることも可能である。
上記粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されない。例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子;アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。
さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0116】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されず、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、1種を単独で使用してもよいし、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0117】
用いる粒子の平均粒径は、特に制限されず、通常5μm以下、好ましくは0.01~3μmの範囲である。粒子の平均粒径が5μm以下であると、フィルムの透明性を確保できるとともに、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎず好ましい。粒子の平均粒径が0.01μm以上であれば、易滑性の付与や傷発生防止等の効果を確保することができる。
なお、粒子の平均粒径は、粒子が粉体の場合には、遠心沈降式粒度分布測定装置(例えば株式会社島津製作所製、「SA-CP3型」)を用いて粉体を測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径(d50)を平均粒径とすることができる。フィルム、層又は樹脂中の粒子の平均粒径については、10個以上の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0118】
上記粒子を含有する層における粒子の含有量は、特に制限されず、通常5質量%未満、好ましくは0.0003~3質量%の範囲である。粒子を含有しない場合、あるいは粒子の含有量が少ない場合は、透明性に優れたフィルムとなる。一方、上記範囲で粒子を含有すると、滑り性の点でも十分なフィルムとなる。なお、粒子を含有する場合であっても、粒子含有量が5質量%未満であれば、フィルムの透明性が十分担保できる。
本フィルムに粒子を含有させる場合、例えば表層と中間層を設けて、少なくとも一方の表層に粒子を含有させることが好ましい。
なお、本フィルムが単層である場合には、粒子を含有する層は、本フィルム全体である。
【0119】
本フィルムは単層でも多層でもよく、多層の場合は表層と中間層からなる2層構成又は中間層の両側を表層で挟む形の3層構成等が挙げられる。
なお、単層又は多層いずれの場合も各層の樹脂組成は、上記の通りPBN単独からなるものであってもよいし、PBNと、PBN以外のポリエステル及びこれらポリエステル以外の他の樹脂の少なくともいずれかとの混合物からなるものでもよい。多層の場合の各層それぞれにおける各樹脂の含有量についても、各層基準で、上記した通りであればよい。
また、多層において、各層の樹脂組成は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
【0120】
本フィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、原料であるポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加することが好ましい。
【0121】
また、本フィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、上記以外の着色剤(染料、顔料)等を添加することができる。
【0122】
本フィルムの厚みは、4~300μmであることが好ましく、20~250μmであることがより好ましく、25~200μmであることがさらに好ましく、30~150μmであることが特に好ましい。
本フィルムの厚みが4μm以上であれば、フィルム強度が実用範囲内に保たれ、ディスプレイ用として好適に使用することができる。一方、厚みが300μm以下であれば、耐屈曲性が発現しやすくなり、特にフレキシブルディスプレイ用として好適に使用することができる。厚みは、製膜及び延伸条件によって調整することができる。
なお、本フィルムの厚みは、本フィルムから一辺40mmの略正方形の試料片を切り出し、目量1/1000mmのダイヤルゲージにて、フィルム面内の任意の5箇所で厚みを測定し、その平均値を求めた。
【0123】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本フィルムの製造方法について説明する。ただし、以下の説明は、ポリエステルフィルムを製造する方法の一例であり、限定されるものではない。
【0124】
例えば、ポリエステルフィルムとして二軸延伸フィルムを製造する場合、先に述べた、原料となるポリエステルを、押出機を用いてダイから溶融シートとして押出し、回転冷却ドラム(キャスティングドラム)で冷却固化して、未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましく採用される。このようにして、未延伸シートを得る。
なお、原料となるポリエステルは、ペレットなどとして、適宜乾燥されたうえで押出機に供給されるとよい。また、粒子、紫外線吸収剤、その他の添加剤などは、適宜ペレットに配合されてもよい。
【0125】
次に、得られた未延伸シートを二軸方向に延伸する。まず、前記の未延伸シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍である。
【0126】
そして、引き続き180~270℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0127】
また、ポリエステルフィルムの製造には、同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で長手方向及び幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0128】
<ポリエステルフィルムの物性>
本フィルムのb値は、2.0以下である。b値は、黄味-青味を示す物性であり、ゼロ付近であることが好ましい。
値が2.0以下であれば、フィルムが黄ばんで見えることがなく、ディスプレイ用フィルムに適用した際、画質の劣化や変色といった問題がなく好ましい。かかる観点から、b値は、1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.3以下である。一方、当該b値は、-0.5以上であることが好ましい。-0.5以上であれば、フィルムが青く見えることがなく、暗い印象を与えないので好ましい。かかる観点から、-0.3以上であることがより好ましく、さらに好ましくは-0.1以上である。
なお、b値は、本フィルムに使用するポリエステルや、着色剤の添加等によって調整することができ、本発明で規定するb値は本フィルムが125μmのときの測定値である。
【0129】
本フィルムの黄色度(YI)は、0.00未満であることが好ましい。黄色度(YI)は、上述のb値では捉えきれない色味の程度を捉えることが可能である。
黄色度(YI)が0.00未満であれば、フィルムの黄色味による画像の劣化や変色といった問題がなく好ましい。かかる観点から、-0.03以下であることがより好ましく、より好ましくは-0.05以下、さらに好ましくは-0.10以下である。一方、当該黄色度(YI)は、-0.30以上であることが好ましい。-0.30以上であれば、フィルムが青く見えすぎることがなく、暗い印象を与えないので好ましい。かかる観点から、-0.20以上であることがより好ましく、さらに好ましくは-0.15以上である。
なお、黄色度(YI)は、本フィルムに使用するポリエステルや、着色剤の添加等によって調整することができ、本発明で規定する黄色度(YI)は本フィルムが125μmのときの測定値である。
【0130】
本フィルムの長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの方向に5%引張ひずみまでの引張サイクル試験を行った際のヒステリシスロス率の平均値は56%以下である。なお、下限値は、特に制限されず、0.1%以上である。
前記ヒステリシスロス率が小さいほど、フィルムの復元力が大きくなり、元の状態に戻りやすい、すなわち耐屈曲性に優れているといえ、本フィルムのヒステリシスロス率が56%以下であれば、フィルムの復元力が大きくなって、耐屈曲性が良好となる。かかる観点から、当該ヒステリシスロス率は53%以下が好ましく、より好ましくは50%以下である。
なお、ヒステリシスロス率は、本フィルムに使用するポリエステルや、本フィルムの製膜及び延伸条件等によって調整することができ、本発明で規定するヒステリシスロス率は本フィルムが125μmのときの測定値である。
【0131】
本フィルムのヘーズは、3.0%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下、特に好ましくは1.5%以下である。下限値は、特に制限されないが、0.1%以上である。
ヘーズがかかる範囲にあれば、本フィルムが良好な透明性を有しているといえ、視認性に優れる。
【0132】
本フィルムの150℃、30分間熱処理後の熱収縮率は、長手方向(MD)及び幅方向(TD)のいずれも、-5~5%であることが好ましく、より好ましくは-3~3%、さらに好ましくは-2~2%である。
熱収縮率がかかる範囲であれば、フィルムとして十分な平面性及び耐熱性を有する。特に、高温下での寸法安定性に優れ、ディスプレイ用として実用上問題なく使用することができる。
なお、熱収縮率は実施例に記載の方法により測定され、正の数値は収縮率であり、負の値は膨張率となる。
【0133】
<<積層ポリエステルフィルム>>
本発明の積層ポリエステルフィルム(以下、「本積層フィルム」とも称する)は、視認性向上を目的として、必要に応じて、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層上に硬化樹脂層を有していてもよく、該硬化樹脂層は、架橋剤を不揮発成分に対して70質量%以上含有する樹脂組成物から形成されることが好ましい。中でも、ポリエステルフィルムの両表層上に硬化樹脂層を設けることがより好ましい。ここで、硬化樹脂層を有するポリエステルフィルムは、積層ポリエステルフィルムと称し、ポリエステルフィルムとは区別される。
なお、ポリエステルフィルムと前記硬化樹脂層との間には、その他の層を有していてもよい。
【0134】
<架橋剤>
前記架橋剤としては、種々公知の架橋剤が使用でき、例えば、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。
これらの中でも、例えば硬化樹脂層上に他の層を設ける場合、耐久密着性が向上するという観点から、オキサゾリン化合物が好適に用いられる。
また、加熱によるフィルム表面へのオリゴマーの析出防止や、硬化樹脂層の耐久性向上という観点からは、メラミン化合物が好適に用いられる。
【0135】
(オキサゾリン化合物)
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限はなく、例えばアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。また、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩等の不飽和カルボン酸類が挙げられ、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等が例示される。さらに、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類が挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等が例示される。また、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上のモノマーを使用することができる。
硬化樹脂層の耐久性向上の観点から、オキサゾリン化合物のオキサゾリン基量は、好ましくは0.5~10mmol/g、より好ましくは3~9mmol/g、さらに好ましくは5~8mmol/gの範囲である。
【0136】
(メラミン化合物)
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えばアルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノール等が好適に用いられる。
また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0137】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えばエピクロロヒドリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン及びビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物や、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。
ポリエポキシ化合物としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
ジエポキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
モノエポキシ化合物としては、例えばアリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル及びフェニルグリシジルエーテル等が挙げられ、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0138】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)及びイソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物及びカルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。
これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0139】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール及びエチルフェノールなどのフェノール系化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール及びエタノールなどのアルコール系化合物;イソブタノイル酢酸メチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物;ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物;ジフェニルアニリン、アニリン及びエチレンイミンなどのアミン系化合物;アセトアニリド、酢酸アミドなどの酸アミド化合物;ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0140】
また、イソシアネート化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0141】
(カルボジイミド化合物)
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上のカルボジイミド構造を有するポリカルボジイミド化合物がより好ましい。
【0142】
カルボジイミド化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0143】
カルボジイミド化合物に含有されるカルボジイミド基の含有量は、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1molを与えるためのカルボジイミド化合物の重さ[g])で、通常100~1000、好ましくは250~700、より好ましくは300~500の範囲である。上記範囲で使用することで、硬化樹脂層の耐久性が向上する。
【0144】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、ポリカルボジイミド化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩及びヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0145】
(シランカップリング化合物)
シランカップリング化合物とは、1つの分子中に有機官能基とアルコキシ基などの加水分解基を有する有機ケイ素化合物である。例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有化合物;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシランなどのスチリル基含有化合物;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有化合物;トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート基含有化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどのメルカプト基含有化合物などが挙げられる。
【0146】
これらの架橋剤は、単独でも2種以上の併用であってもよいが、2種以上併用することにより、加熱後のオリゴマーの析出防止性を向上させることができる。また、架橋剤を2種以上併用することにより、例えば、本積層フィルムが硬化樹脂層上にさらに他の層を有する場合に、硬化樹脂層と当該他の層との密着性を向上させることができる。その中でも、特に硬化樹脂層上の当該他の層との密着性を向上させられるオキサゾリン化合物と、加熱後のオリゴマーの析出防止性が良好なメラミン化合物との組み合わせが好ましい。
【0147】
また、本積層フィルムが、硬化樹脂層上にさらに他の層を有する場合に、硬化樹脂層と当該他の層との密着性をより向上させるためには、3種以上の架橋剤を組み合わせることがより好ましく、3種以上の架橋剤の組み合わせとしては、架橋剤の1つとしてはメラミン化合物を選択することが好適であり、メラミン化合物と組み合わせる架橋剤としては、オキサゾリン化合物とエポキシ化合物、カルボジイミド化合物とエポキシ化合物がさらに好ましい。また、加熱後のオリゴマーの析出防止性を向上させることで優れた視認性を得る観点から、メラミン化合物、オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物の組み合わせが特に好ましい。
【0148】
かかる架橋剤を含有する場合、同時に架橋を促進するための成分、例えば架橋触媒などを併用することができる。
【0149】
本発明に係る硬化樹脂層を形成する樹脂組成物中の全不揮発成分に対する割合として、前記架橋剤は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。70質量%以上であれば、加熱後のオリゴマー析出防止性が良好となるだけでなく、硬化樹脂層上にさらに設けられ得る他の層との密着性も向上させることができる。
【0150】
<バインダー樹脂>
硬化樹脂層を形成する前記樹脂組成物は、硬化樹脂層の外観の向上や、硬化樹脂層上に設けられ得る他の層との密着性向上等のために、本発明の主旨を損なわない範囲において、バインダー樹脂を含有することも可能である。
前記バインダー樹脂としては、従来公知のものを使用できるが、硬化樹脂層上に設ける層との密着性向上の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0151】
<粒子>
また、前記樹脂組成物は、ブロッキング、滑り性改良を目的として、粒子を含有することも可能である。その平均粒径は、フィルムの透明性の観点から、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。一方、滑り性をより効果的に向上させるために、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、特に好ましくは硬化樹脂層の膜厚よりも大きい範囲である。
なお、粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、有機粒子等が挙げられる。
【0152】
<その他>
さらに、本発明の主旨を損なわない範囲において、前記樹脂組成物には必要に応じて、架橋触媒、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することが可能である。
【0153】
なお、硬化樹脂層中の各種化合物(成分)の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等によって行うことができる。
【0154】
硬化樹脂層の膜厚(乾燥後)としては、0.003~1.0μmが好ましく、0.005~0.5μmがより好ましく、0.01~0.2μmがさらに好ましい。膜厚が1.0μm以下であれば、硬化樹脂層の外観や耐ブロッキング性が十分である。一方、膜厚が0.003μm以上であれば、フィルムから析出するオリゴマー析出量が少なくなり、視認性を向上させることができる。
【0155】
<硬化樹脂層の形成方法>
硬化樹脂層の形成方法について説明するが、以下の説明は、硬化樹脂層を形成する方法の一例であり、かかる形成方法に限定されるものではない。
【0156】
前記樹脂組成物は、一般的に、水、有機溶剤、又はこれらの混合液により希釈されていることが好ましく、硬化樹脂層は、樹脂組成物の希釈液を、ポリエステルフィルムの表面に塗布液としてコーティングして、乾燥することにより形成するとよい。
フィルムに塗布液を塗布する方法としては、例えば、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、ナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、スプレイコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗布方法を用いることができる。
なお、塗布剤(塗布液)のフィルムへの塗布性、密着性を改良するために、塗布前にフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0157】
コーティングの方法としては、インラインコーティング及びオフラインコーティングが挙げられるが、インラインコーティングで行うことが好ましい。インラインコーティングは、ポリエステルフィルムの製造工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、原料であるポリエステルを溶融押し出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前のポリエステルフィルムの何れかにコーティングするが、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に幅方向(横方向)に延伸する方法が好ましい。
なお、インラインコーティングによって硬化樹脂層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液又は水分散体として、固形分濃度が0.1~50質量%程度を目安に調整した塗布液を用いることが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の1種以上の有機溶剤を含有していてもよい。
【0158】
フィルム上に硬化樹脂層を形成する際の乾燥及び硬化条件に関しては、特に制限されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより硬化樹脂層を設ける場合、好ましくは80~200℃で3~40秒間、より好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
一方、インラインコーティングにより硬化樹脂層を設ける場合は、好ましくは70~280℃で3~200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0159】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに関わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。
【0160】
<硬化樹脂層の物性>
本積層フィルムが硬化樹脂層を有する場合には、加熱によるフィルム表面へのオリゴマーの析出防止に効果がある。オリゴマーの析出を低減させることで、オリゴマーが析出・白化して起こるフィルム外観の白化による視認性低下を抑制することができる。
本積層フィルムにおける少なくとも一方の硬化樹脂層表面のオリゴマー(エステル環状三量体)析出量は、0.40mg/m以下であることが好ましく、0.35mg/m以下であることがより好ましく、0.30mg/m以下であることがさらに好ましく、0.25mg/m以下であることが特に好ましく、0.20mg/m以下であることがとりわけ好ましい。
オリゴマー析出量が0.40mg/m以下であれば、表面にオリゴマーが析出・結晶化して起こるフィルム外観の白化による視認性の低下、後加工での欠陥の発生及び工程内や部材の汚染などがなく好ましい。下限値は特に制限されないが、0.01mg/m以上である。
なお、オリゴマー析出量は実施例に記載の方法により得られる値である。
【0161】
<<用途>>
本フィルム及び本積層フィルムは、優れた耐屈曲性及び視認性を有することから、ディスプレイ用、特にフレキシブルディスプレイ用として好適に用いることができる。
フレキシブルディスプレイとしては、折り畳めるフォルダブル、折り返し曲げが可能なベンダブル、巻き取ることができるローラブル、伸縮されるストレッチャブル等が挙げられ、中でも、フォルダブルディスプレイ用として好ましく用いられる。
なお、フレキシブルディスプレイ用とは、前面板、タッチセンサー用基材フィルム、表示装置の裏面側を保護するフィルム等のディスプレイ用構成部材を意味する。本フィルムは、視認性に優れていることから、これらのディスプレイ用構成部材の中でも、前面板用として特に好ましく用いることができる。
【0162】
また、ディスプレイは、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、パソコン等において使用するとよい。ディスプレイの種類は、特に制限されないが、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等が挙げられ、タッチパネル型のディスプレイであってもよい。
【0163】
<<語句の説明など>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0164】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0165】
<評価方法>
(1)ポリエステルの固有粘度
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0166】
(2)粒子の平均粒径
株式会社島津製作所製の遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径d50とした。
【0167】
(3)ポリエステルフィルムのb
ポリエステルフィルムのb値を、コニカミノルタジャパン株式会社製の分光測色計CM-3700dを用いて次のようにして求めた。所定の場所からφ約60mmの丸型ホルダー刃でサンプルを打ち抜いてサンプリングした。測定条件は透過条件とした。なお、b値の測定は、23℃の環境で行った。
【0168】
(4)ポリエステルフィルムの黄色度(YI)
ポリエステルフィルムの黄色度(YI)を、コニカミノルタジャパン株式会社製の分光測色計CM-3700dを用いて次のようにして求めた。所定の場所からφ約60mmの丸型ホルダー刃でサンプルを打ち抜いてサンプリングした。測定条件は透過条件とし、補助イルミナントCを使用し、XYZ表色系で得られた値から下記式(1)より算出した。
黄色度(YI)=100(1.2769X―1.0592Z)/Y・・・式(1)
なお、黄色度(YI)の測定は、23℃の環境で行った。
【0169】
(5)ポリエステルフィルムのヒステリシスロス率
JIS K 7312:1996に準じて、以下の方法により23℃におけるヒステリシスロス率の平均値を求めた。測定装置は、引張試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAG-I)を用いた。
試験片は、測定対象であるポリエステルフィルムの任意の場所から、測定方向の長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出したものを用いた。試験片の長さ方向の両端部をチャック間距離50mmでチャックし、クロスヘッドスピード0.5mm/分にてひずみ5%まで上昇させた後、同様の速度で初期位置まで下降させる1サイクルの引張サイクル試験から応力-ひずみ曲線を得た。応力-ひずみ曲線は、図1に示すようなプロファイルをとり、ヒステリシスロス率は得られた応力-ひずみ曲線から、上昇動作で得られた曲線の面積A1(abcda)と、面積A1と下降動作で得られた曲線の面積の差となる面積A2(abcef)を用いて、下記式(2)にて算出した。試験は3回測定し、その平均値を求めた。上記引張サイクル試験はフィルムの長手方向(MD)及び軸方向(TD)にてそれぞれ実施し、その平均値を求めた。
ヒステリシスロス率=A2/A1×100 ・・・式(2)
【0170】
(6)ポリエステルフィルムの屈曲試験
得られたフィルムについて、ユアサシステム機器株式会社製の折り曲げ試験機(CL09-typeD01-FSC90)を用いて23℃における1000回の折り曲げ試験を、屈曲半径(R)=5mm、3mmの条件で実施した。外観変化がないものは◎、実用上問題ない程度の折り曲げ跡が見られたものは〇、実用上問題となり得る程度の折り曲げ跡が見られたものは△、明確な折り曲げ跡が見られたものは×とした。
(総合評価)
屈曲試験の結果から、以下のように評価した。
〇:R=5、3mmの評価で実用上問題となる外観変化がなく、実用性あり。
×:R=5、3mmのいずれかの評価で実用上問題となり得る外観変化があり、実用性低い。
【0171】
(7)ポリエステルフィルムのヘーズ
JIS K 7136:2000に準拠し、日本電色工業(株)製ヘーズメーター DH-2000を用いて測定した。
【0172】
(8)ポリエステルフィルムの熱収縮率
1.5cm×15cmの試料フィルムを無張力状態で所定の温度(150℃)に保った熱風式オーブン中、30分間熱処理を施し、その前後の試料フィルムの長さを測定して下記式にて算出した。なお、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)のそれぞれについて測定した。
熱収縮率(%)={(熱処理前のサンプル長)-(熱処理後のサンプル長)}÷(熱処理前のサンプル長)×100
【0173】
(9)加熱による硬化樹脂層表面のオリゴマー(エステル環状三量体)析出量
積層ポリエステルフィルムの両硬化樹脂層について、縦300mm、横225mmのサイズの試料サンプルとして、所定の温度(180℃)に保った熱風式オーブン中、120分間熱処理を施した。熱処理後、測定面を内面として、縦200mm、横125mmの上部が開いている箱型の形状を作製した。
次いで、上記の箱型形状の中にDMF(ジメチルホルムアミド)10mLを入れて3分放置した後、DMFを回収し、液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製:LC-7A 移動相A:アセトニトリル、移動相B:2%酢酸水溶液、カラム:三菱ケミカル株式会社製「MCI GEL ODS 1HU」、カラム温度:40℃、流速:1mL/分、検出波長:254nm)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、硬化樹脂層表面のオリゴマー(エステル環状三量体)量(mg/m)とした。DMF中のエステル環状三量体は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。
なお、標準試料は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し、作製した。
【0174】
(10)ポリエステルフィルムの厚み
ポリエステルフィルムの厚みについては、1/1000mmのダイヤルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
【0175】
(11)硬化樹脂層の厚み
硬化樹脂層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuOで染色し、硬化樹脂層断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、H-7650、加速電圧100kV)を用いて測定した。
【0176】
<使用した材料>
[ポリエステル原料]
原料A:ホモポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.64dL/g)
【0177】
原料B:ホモポリエチレンテレフタレートに、平均粒径3μmのシリカ粒子を0.3質量%配合したマスターバッチ(固有粘度=0.61dL/g)
【0178】
原料C:ホモポリブチレンナフタレート(固有粘度=1.13dL/g)
【0179】
原料D:ホモポリエチレンナフタレート(結晶性ポリエステル)
【0180】
原料E:ホモポリエチレンナフタレートと青色着色剤とを溶融混合してチップ化したポリエステルで、より具体的には、ポリエチレンナフタレートと青色着色剤とを90:10の割合(質量比)で混合したものである。青色着色剤は、アントラキノン系青色着色剤であるSolvent Blue 104であり、構造式は以下のとおりである。
【0181】
【化12】
【0182】
原料F:ポリアリレート(ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸(モル比)=50/50、二価フェノール成分:ビスフェノールA100モル%)
【0183】
[硬化樹脂層]
硬化樹脂層を形成するための樹脂組成物としては、下記を用いた。
(A1):ヘキサメトキシメチロールメラミン
(A2):オキサゾリン化合物であるエポクロス(株式会社日本触媒製);オキサゾリン基量7.7mmоl/g
(A3):ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
(B1):平均粒径0.07μmのシリカ粒子
【0184】
なお、実施例及び比較例で用いた塗布液の組成は表1に示すとおりである。より具体的には、下記表1に示す組成にて撹拌混合して得られる樹脂組成物を水で希釈して塗布液を調製した。
【0185】
【表1】
【0186】
(実施例1)
原料C及び原料Dを質量比60:40で混合し、二軸スクリュー押出機に投入し、280℃で押出をして、50℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に100℃で3.0倍に延伸した。さらに、テンター内にて100℃で予熱した後、幅方向(TD)に110℃で4.5倍に延伸した。最後に200℃(熱固定温度)で熱処理を施し、厚み125μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムの特性は、上記の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0187】
上記ポリエステルフィルムの製膜において、長手方向(MD)延伸後、幅方向(TD)延伸前に、一軸延伸ポリエステルフィルムの両面に、膜厚(乾燥後)が0.04μmになるように上記した硬化樹脂層を形成する樹脂組成物の塗布液を両面に塗布した後、上記したとおりの条件で幅方向の延伸及び熱処理を行うことにより、積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの特性は、上記の方法により評価した。評価結果を表4に示す。
【0188】
(実施例2、比較例1~2)
下記表2に記載の組成、厚み及び製膜条件で行った以外は、実施例1と同様に、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムの評価結果を表3に示す。
【0189】
また、上記ポリエステルフィルムの製膜において、各実施例、比較例のポリエステルフィルムの両面に、実施例1と同様にして硬化樹脂層を設け、積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの評価結果を表4に示す。
【0190】
【表2】
【0191】
【表3】
【0192】
【表4】
【0193】
以上の実施例に示すように、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの方向に5%引張ひずみまでの引張サイクル試験を行った際のヒステリシスロス率の平均値を、特定の値以下とすることで、フィルムの復元力が大きくなり、元の状態に戻りやすい、すなわち耐屈曲性に優れるフィルムとなったことがわかる。
これに対し、比較例2のポリエステルフィルムは、ヒステリシスロス率の平均値が特定の値を超えていたため、屈曲試験における評価も劣ったものとなり、耐屈曲性が十分なものとならなった。
【0194】
また、以上の実施例に示すように、b値を特定の値以下とすることで、画質の劣化や変色といった視認性の問題の発生を抑制できると期待できる。
これに対し、比較例1のポリエステルフィルムは、PBNを含有する点では実施例と同様であるものの、それ以外の組成の選択によって、b値が特定の値を超えるフィルムとなり、視認性に優れたものとはならなかった。
【0195】
さらに、実施例のフィルムは、ヘーズ及び熱収縮率が低く、透明性及び耐熱性にも優れることがわかる。
また、本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、ポリエステルフィルム上に硬化樹脂層を有することで、硬化樹脂層表面のオリゴマー析出量を低減させ得るため、視認性を向上させることができる。
したがって、本発明のポリエステルフィルム及び積層ポリエステルフィルムは、ディスプレイ用、特にフレキシブルディスプレイ用として非常に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明のポリエステルフィルムは、優れた耐屈曲性及び視認性を有することから、ディスプレイ用、特にフレキシブルディスプレイ用に好適に用いることができる。
したがって、本開示の実施形態は、折り畳んだり、折り返し曲げたり、丸めたりできるフレキシブルディスプレイパネルの長所を利用したフォルダブルディスプレイ、ベンダブルディスプレイ、ローラブルディスプレイ、ストレッチャブルディスプレイ等のフレキシブルディスプレイに有用である。

図1