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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071783
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】保水材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/35 20180101AFI20240517BHJP
   A01G 24/42 20180101ALI20240517BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20240517BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A01G24/35
A01G24/42
A01G24/44
C09K3/00 N
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061869
(22)【出願日】2024-04-08
(62)【分割の表示】P 2019124722の分割
【原出願日】2019-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正博
(72)【発明者】
【氏名】三枝 裕典
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利典
(57)【要約】
【課題】肥料による根焼けが起こりにくく、植物の生育が良好である保水材の製造方法を提供すること。
【解決手段】吸水性樹脂を含む保水材の製造方法であって、前記吸水性樹脂の調製中にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物およびイオンを残留させる工程を含む、製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性樹脂を含む保水材の製造方法であって、
前記吸水性樹脂の調製中にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物およびイオンを残留させる工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記吸水性樹脂は、前記樹脂内部に、前記樹脂の重合体骨格を構成しない、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂内部に存在するリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.001~50質量%である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
吸水性樹脂と、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物またはイオンを混合する工程、および/または
吸水性樹脂にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物を任意の溶媒に溶解させた溶液または前記元素を含むイオンを含む溶液をスプレー噴霧して混合するかもしくは前記溶液に吸水性樹脂を浸漬して混合する工程
をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記保水材は、樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素をさらに含有する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.001~50質量%である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記吸水性樹脂は、ビニルアルコール系重合体、アクリル酸系重合体、アクリルアミド系重合体、メタクリル酸系重合体およびデンプン系重合体からなる群から選択される重合体を含む、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位を含む共重合体を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ビニルアルコール系重合体は、イオン性基のカウンターカチオンとして、カリウムイオンまたはアンモニウムイオンを含む、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ビニルアルコール系重合体は、架橋構造を有する、請求項7~9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記保水材は農業用である、請求項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記保水材は育苗用である、請求項1~11のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、慢性的な水資源の枯渇に伴い、農業用水を有効にかつ適切に利用することおよび、従来よりも少量の灌漑水量でも農産物の収穫量を維持あるいは増大させる試みが、いわゆる農業用保水材を用いて検討されている(例えば、特許文献1~3を参照)。これらの農業用保水材は高吸水性樹脂(SAP)を主要構成成分としており、例えば、土壌全体の保水性の改善に用いられるピートモスなどに比べると、極めて少量で効果を発現することから、農家が用いる際の負担が少ないという利点がある。
【0003】
保水材を培地に用いる場合でも植物の生育には通常肥料が必要であり、特許文献4には吸水性樹脂と肥料を混合して、土壌に施用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第1998/005196号パンフレット
【特許文献2】特表2013-544929号公報
【特許文献3】特表2013-540164号公報
【特許文献4】特開昭59-102888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献4に開示された吸水性樹脂と肥料の混合物は根の良好な生育を阻害してしまうことが分かった。これは、根の周囲の肥料濃度が高い場合、浸透圧により根から水が流出してしまう、いわゆる根焼けの状態が生じたものと推定した。つまり、吸水性樹脂を培地に添加することで培地の水分量が著しく増加して、吸水性樹脂を含まない培地と比較して肥料が溶解しやすくなることで、根焼けが起きやすくなることが分かった。
【0006】
したがって、本発明の目的は上記課題を解決することであり、肥料による根焼けが起こりにくく植物の生育が良好である保水材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕吸水性樹脂を含む保水材の製造方法であって、
前記吸水性樹脂の調製中にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物およびイオンを残留させる工程
を含む、製造方法。
〔2〕前記吸水性樹脂は、前記樹脂内部に、前記樹脂の重合体骨格を構成しない、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含有する、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記樹脂内部に存在するリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.001~50質量%である、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 吸水性樹脂と、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物またはイオンを混合する工程、および/または
吸水性樹脂にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物を任意の溶媒に溶解させた溶液または前記元素を含むイオンを含む溶液をスプレー噴霧して混合するかもしくは前記溶液に吸水性樹脂を浸漬して混合する工程
をさらに含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の製造方法。
〔5〕前記保水材は、樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素をさらに含有する、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕前記樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.001~50質量%である、〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕前記吸水性樹脂は、ビニルアルコール系重合体、アクリル酸系重合体、アクリルアミド系重合体、メタクリル酸系重合体およびデンプン系重合体からなる群から選択される重合体を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の製造方法。
〔8〕前記ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位を含む共重合体を含む、〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕前記ビニルアルコール系重合体は、イオン性基のカウンターカチオンとして、カリウムイオンまたはアンモニウムイオンを含む、〔7〕または〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕前記ビニルアルコール系重合体は、架橋構造を有する、〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の製造方法。
〔11〕前記保水材は農業用である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の製造方法。
〔12〕前記保水材は育苗用である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、肥料による根焼けが起こりにくく、植物の生育が良好である保水材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に限定することは意図されていない。
【0011】
<保水材>
本発明における保水材は、吸水性樹脂を含む保水材であって、前記吸水性樹脂は、前記樹脂内部に、前記樹脂の重合体骨格を構成しない元素を含有しており、当該元素が、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素である。
【0012】
<リン元素、カリウム元素および窒素元素>
本発明における保水材は、吸水性樹脂の内部にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含有する。
【0013】
本明細書において、吸水性樹脂内部の樹脂の重合体骨格を構成しない元素の含有量は、通常、後述の実施例に記載の通り、未処理の樹脂断面の元素含有量(樹脂内部に含まれる、重合体骨格を構成する元素含有量と重合体骨格を構成しない元素含有量の合計値)から、水洗および乾燥処理後の樹脂断面の元素含有量(重合体骨格を構成する元素含有量)を引いて算出された値を指す。
【0014】
前記リン元素、カリウム元素および窒素元素の由来としては、例えば硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、過リン酸石灰、尿素、第一リン酸カルシウム、硝酸カリウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、アンモニウムイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸二水素イオン、リン酸一水素イオンおよびカリウムイオン等の前記原子を有する化合物またはイオンが挙げられ、植物に利用されやすいという観点から、リン酸水素二アンモニウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、尿素および過リン酸石灰が好ましい。
【0015】
前記樹脂内部に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.001~50質量%であることが好ましく、0.05~40質量%がより好ましく、0.1~30質量%がさらに好ましく、1.0~25質量%がさらにより好ましい。前記樹脂内部に存在するリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量が前記範囲であると、該元素が樹脂内部から適度に放出されやすいため好ましい。前記樹脂内部に存在するリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量は、後述の実施例に記載されているように、例えばエネルギー分散型X線元素分析や、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分析)法によって測定できる。
前記樹脂内部に存在する元素は、リン元素、カリウム元素および窒素元素の2種以上でもよく、リン元素とカリウム元素である態様、リン元素と窒素元素である態様、カリウム元素とリン元素である態様のいずれも好ましい。また、リン元素、カリウム元素および窒素元素の全てである態様も好ましい。
また、前記樹脂内部に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素の合計の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.002質量%以上が好ましく、0.06質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましく、1.1質量%以上が最も好ましい。また当該含有量は。70質量%以下が好ましく、45質量%以下より好ましく、32質量%以下がさらに好ましく、27質量%以下がさらにより好ましく、10質量%以下が特に好ましく、5質量%以下が最も好ましい。
【0016】
本明細書において、樹脂の質量は、その乾燥状態の質量である。本明細書において「乾燥状態」とは、樹脂が水または有機溶媒等の揮発成分を一般的な検出方法(例えば、真空下において60℃で加熱した前後での質量変化)により検出可能な量(例えば0.1質量%以上)では含んでいない状態のこととしてよい。
【0017】
本発明における保水材は、樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素をさらに含有してもよい。
【0018】
前記樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素は、前述した樹脂内部に含有される元素と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
前記樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.001~50質量%であることが好ましく、0.3~20質量%がより好ましく、1.0~15質量%がさらに好ましく、1.5~10質量%がさらにより好ましい。前記樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素の含有量が前記範囲であると、植物が根焼けを起こしにくいため好ましい。
前記樹脂内部に存在せず保水材中に存在する元素は、リン元素、カリウム元素および窒素元素の2種以上でもよく、リン元素とカリウム元素である態様、リン元素と窒素元素である態様、カリウム元素とリン元素である態様のいずれも好ましい。また、リン元素、カリウム元素および窒素元素の全てである態様も好ましい。
また、樹脂内部に存在せず保水材中に存在する、リン元素、カリウム元素および窒素元素の合計の含有量は、前記樹脂の質量に対して、0.4質量%以上が好ましく、1.1質量%以上がより好ましく、1.6質量%以上がさらに好ましい。また当該含有量は。70質量%以下が好ましく、25質量%以下より好ましく、17質量%以下がさらに好ましく、11質量%以下がさらにより好ましく、5質量%以下が最も好ましい。
【0020】
<吸水性樹脂>
本発明における吸水性樹脂は、特に限定されない。吸水性樹脂として、例えば、アクリル酸系重合体、イソブチレン-マレイン酸系共重合体、カルボキシメチルセルロース系重合体、アクリロニトリルのケン化物系重合体、アルギン酸エステル系重合体、スルホン酸系重合体、酢酸ビニル-無水マレイン酸系共重合体、N-ビニルアセトアミド系重合体、アクリルアミド系重合体、メタクリル酸系重合体、デンプン系重合体、エチレングリコール系重合体、及びビニルアルコール系重合体等を用いてよい。これらの重合体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0021】
前記吸水性樹脂は、製造容易性及び保水性の観点から、好ましくはビニルアルコール系重合体、アクリル酸系重合体、アクリルアミド系重合体、メタクリル酸系重合体およびデンプン系重合体からなる群から選択される重合体を含み、さらに好ましくはビニルアルコール系重合体を含み、好ましい一実施態様では該吸水性樹脂はビニルアルコール系重合体である。
【0022】
<ビニルアルコール系重合体>
ビニルアルコール系重合体〔以下、ビニルアルコール系重合体(A)と称することがある〕としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびそれらのビニルアルコール単位がアセタール化剤によりアセタール化されたものが挙げられる。リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素との親和性が良い観点から、上記ビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位とを含む共重合体を含むことが好ましい。イオン性基またはその誘導体は、好ましくはカルボキシル基、スルホン酸基、アンモニウム基またはその塩であり、より好ましくはカルボキシル基またはその塩である。前記吸水性樹脂におけるビニルアルコール系重合体(A)の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。さらに、ビニルアルコール系重合体(A)における前記共重合体の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、更により好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。即ち、好ましい一実施態様では、ビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位との共重合体からなる。
【0023】
ビニルアルコール系重合体(A)がイオン性基としてカルボキシル基、スルホン酸基またはアンモニウム基を有する場合、ビニルアルコール系重合体(A)としては、例えば(i-1)カルボキシル基、スルホン酸基またはアンモニウム基を有するモノマーおよび該モノマーの誘導体から選ばれる1種以上とビニルエステルとの共重合体のケン化物;(i-2)ビニルアルコール系重合体と、ヒドロキシル基と反応可能な官能基(b1)とカルボキシル基および/またはカルボキシル基に誘導可能な官能基(b2)とを有する化合物(B)との反応物;等が挙げられる。
【0024】
上記(i-1)において、カルボキシル基を有するモノマーとしては特に制限はないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、およびマレイン酸等が挙げられる。また、上記カルボキシル基を有するモノマーの誘導体としては、該モノマーの無水物、エステル化物、および中和物等が挙げられ、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、イタコン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、および無水マレイン酸等が用いられる。
【0025】
上記(i-1)において、スルホン酸基を有するモノマーとしては特に制限はないが、例えばビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸が挙げられる。また、上記スルホン酸基を有するモノマーの誘導体としては、該モノマーのエステル化物、および中和物等が挙げられ、例えば、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムおよびp-スチレンスルホン酸ナトリウム等が用いられる。
【0026】
上記(i-1)において、アンモニウム基を有するモノマーとしては特に制限はないが、例えばジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ビニルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、p-ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。また、上記アンモニウム基を有するモノマーの誘導体としては、該モノマーのアミン等が挙げられ、例えば、ジアリルメチルアミン、ビニルアミン、アリルアミンおよびp-ビニルベンアミン3-(メタクリルアミド)プロピルアミン等が用いられる。
【0027】
上記(i-1)において、ビニルエステルとしては特に制限はないが、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、およびピバル酸ビニル等が挙げられ、酢酸ビニルが好ましい。
【0028】
上記(i-1)のケン化物を製造する方法に特に制限はなく、カルボキシル基を有するモノマーおよび該モノマーの誘導体から選ばれる1種以上とビニルエステルとを、公知の重合開始剤を用いて公知の重合反応を行い、次いで公知の方法でケン化反応を行うことで製造できる。
【0029】
上記(i-2)で用いる、ヒドロキシル基と反応可能な官能基(b1)とカルボキシル基および/またはカルボキシル基に誘導可能な官能基(b2)とを有する化合物(B)において、ヒドロキシル基と反応可能な官能基(b1)としては特に制限はないが、例えばアルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基およびこれらの官能基の誘導体等が挙げられる。中でも、製造容易性、またはビニルアルコール系重合体の耐久性の観点から、アルデヒド基およびアルデヒド基の誘導体が好ましい。すなわち、前記化合物(B)としては、カルボキシル基を有するアルデヒドおよび/または該アルデヒドの誘導体が好ましい。
【0030】
すなわち、上記(i-2)の反応物としては、カルボキシル基を有するアルデヒドおよび/または該アルデヒドの誘導体から選ばれる1種以上により、少なくとも一部のビニルアルコール単位がアセタール化されたビニルアルコール系重合体〔以下、ビニルアルコール系重合体(A-1)と称することがある〕が好ましい。
【0031】
前記化合物(B)である、上記カルボキシル基を有するアルデヒドとしては特に制限はないが、例えばグリオキシル酸、2-ホルミルプロパン酸、3-ホルミルプロパン酸、およびフタルアルデヒド酸等が挙げられる。中でも、入手容易性および生分解性の観点から、グリオキシル酸が好ましい。また、前記化合物(B)である、上記カルボキシル基を有するアルデヒドの誘導体としては、該アルデヒドの無水物、水和物、エステル化物、アセタール化物、および中和物等が挙げられ、例えばグリオキシル酸塩、グリオキシル酸一水和物、グリオキシル酸エステルおよびグリオキシル酸ジメチルアセタール等が用いられる。
【0032】
上記グリオキシル酸塩のカウンターカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびリチウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、およびマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン等の有機カチオン:等が挙げられる。中でも、より優れた吸水速度を発現させやすい観点から、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンが好ましい。土壌中に含まれる二価イオンとの接触時の吸水性を維持しやすい観点からはカルシウムイオンがより好ましく、植物の生育の観点からはカリウムイオンがより好ましい。上記のカウンターカチオンは、樹脂の重合体骨格を構成するとみなす。
【0033】
上記グリオキシル酸エステルとしては、例えばグリオキシル酸メチル、グリオキシル酸エチル、グリオキシル酸プロピル、グリオキシル酸イソプロピル、グリオキシル酸ブチル、グリオキシル酸イソブチル、グリオキシル酸sec-ブチル、グリオキシル酸tert-ブチル、グリオキシル酸ヘキシル、グリオキシル酸オクチル、およびグリオキシル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0034】
ビニルアルコール系重合体(A-1)の製造方法としては特に制限はなく、公知の手法で製造されたビニルアルコール系重合体の少なくとも一部のビニルアルコール単位を、触媒の存在下または不存在下で、カルボキシル基を有するアルデヒドおよび該アルデヒドの誘導体から選ばれる1種以上によりアセタール化することで製造できる。
【0035】
上記触媒としては、例えば塩酸、硫酸、およびリン酸等の無機酸;カルボン酸、およびスルホン酸等の有機酸;陽イオン交換樹脂、およびヘテロポリ酸等の固体酸;等が挙げられる。これらの触媒は単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。なお、グリオキシル酸はアセタール化反応を促進する酸でもあるため、ビニルアルコール系重合体(A-1)を製造する際には触媒としても作用する。すなわち、反応後の処理の容易性の観点からは、ビニルアルコール系重合体(A-1)の製造に際して、カルボキシル基を有するアルデヒドとしてグリオキシル酸を用いる方法が好ましい。
【0036】
ビニルアルコール系重合体(A-1)の製造において原料として用いるビニルアルコール系重合体は、工業的に製造された市販品;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルおよび必要に応じて他のモノマーを共存させて、公知の重合開始剤を用いて公知の重合反応を行い、次いで公知の方法でケン化反応を行って製造したもの;ビニルエーテルのカチオン重合反応および加水分解反応により製造したもの;アセトアルデヒドの直接重合により製造したもの;等のいずれでもよいが、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをケン化して製造したものが好ましい。上記原料として用いるビニルアルコール系重合体のケン化度は30モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、本発明の一実施態様において適量のカルボキシル基を導入しやすい観点からは、80モル%以上がさらに好ましい。
【0037】
ビニルアルコール系重合体(A-1)のアセタール化度は0.01モル%以上85モル%以下であることが好ましい。アセタール化度が前記範囲内であると、水の吸収性を向上させやすい。前記観点からアセタール化度は好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上、よりさらに好ましくは8モル%以上、特に好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下、よりさらに好ましくは50モル%以下、特に好ましくは45モル%以下、一層好ましくは40モル%以下である。
【0038】
ビニルアルコール系重合体の育苗時における溶出を抑制しやすい観点から、ビニルアルコール系重合体(A-1)の製造において、カルボキシル基を有するアルデヒドおよび該アルデヒドの誘導体以外の他のアルデヒドを併用してアセタール化反応を行ってもよい。かかる他のアルデヒドとしては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、i-ブチルアルデヒド、sec-ブチルアルデヒド、およびtert-ブチルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド;ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、ケイ皮アルデヒド、4-ベンジルオキシベンズアルデヒド、3-ベンジルオキシベンズアルデヒド、4-アミルオキシベンズアルデヒド、および3-アミルオキシベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド;等が挙げられる。中でも、製造容易性または得られるビニルアルコール系重合体の吸水性の観点から、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、およびn-ブチルアルデヒドが好ましい。他のアルデヒドを併用する場合、その使用量に特に制限はないが、カルボン酸を有するアルデヒドおよび該アルデヒドの誘導体の合計に対して通常0.01~30モル%、好ましくは0.1~10モル%、さらに好ましくは1~5モル%である。他のアルデヒドの使用量が前記上限値以下であると、得られるビニルアルコール系重合体の吸水性が優れる傾向があり、前記下限値以上であると、他のアルデヒドを併用することによるビニルアルコール系重合体の育苗時における溶出を抑制する効果を得やすい。なお、前記他のアルデヒドは、例えばアセタール体等の誘導体として用いてもよい。
【0039】
本発明の一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)がイオン性基(例えばカルボキシル基)を有する場合、イオン性基の一部または全部が塩(イオン性基がカルボキシル基の場合はカルボン酸塩)の形態であってもよい。塩のカウンターカチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、およびセシウムイオン等のアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、およびバリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アルミニウムイオン、および亜鉛イオン等のその他金属イオン;アンモニウムイオン、イミダゾリウム類、ピリジニウム類、およびホスホニウムイオン類等のオニウムカチオン;等が挙げられる。中でも、所望の吸水性を得やすい観点から、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびアンモニウムイオンが好ましく、土壌中に含まれる二価イオンとの接触時の吸水性を維持しやすい観点からはカルシウムイオンがより好ましく、植物の生育の観点からはカリウムイオンがより好ましい。従って、本発明の好ましい一実施態様では、ビニルアルコール系重合体(A)は、イオン性基の塩のカウンターカチオンとしてカリウムイオンまたはアンモニウムイオン、好ましくはカリウムイオンを有する。イオン性基がカルボキシル基である場合、カルボキシル基の一部または全部がカルボン酸塩であるビニルアルコール系重合体(A)の製造方法としては、例えば、上記(i-1)においてカルボキシル基を有するモノマーの中和物を用いる方法(I);上記(i-2)においてヒドロキシル基と反応可能な官能基とカルボキシル基とを有する化合物の中和物を用いる方法(II);上述の各種方法等によりカルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体(A)を製造した後、中和する方法(III);等が挙げられ、中でも上記方法(III)が好ましい。
【0040】
本発明の一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)がイオン性基を有する場合、該ビニルアルコール系重合体(A)中のイオン性基の量は、上記ビニルアルコール系重合体(A)の全構成単位に対して好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、特に好ましくは3モル%以上、最も好ましくは5モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、特に好ましくは20モル%以下、最も好ましくは18モル%未満である。上記イオン性基の量が前記下限値以上であると、本発明に用いられるビニルアルコール系重合体の吸水性がより優れ、前記上限値以下であると、土壌中に含まれる二価イオンとの接触時にも吸水性を維持しやすい。また、ビニルアルコール系重合体(A)がイオン性基としてカルボキシル基を有する場合、上記カルボキシル基のうちアクリル酸またはその塩に由来するカルボキシル基の量は、ビニルアルコール系重合体の全構成単位に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下、特に好ましくは10モル%以下であり、0モル%であってもよい。上記カルボキシル基のうちアクリル酸またはその塩に由来するカルボキシル基の量が前記上限値以下であると、より優れた耐候性(特に耐紫外線性)を得やすい。なお、ビニルアルコール系重合体(A)に含まれるイオン性基の一部または全部がその誘導体(例えば塩)の形態をとっている場合、上述のイオン性基の含有量は、イオン性基およびその誘導体の含有量またはイオン性基の誘導体の含有量である。
好ましい一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)に含まれるイオン性基の半数以上は誘導体の形態であり、より好ましい一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)に含まれるイオン性基のほとんどは誘導体の形態であり、特に好ましい一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)に含まれるイオン性基の全ては誘導体の形態である。
【0041】
ビニルアルコール系重合体(A)中のイオン性基の含有量、特に上記カルボキシル基の量および当該カルボキシル基のうちのアクリル酸またはその塩に由来するカルボキシル基の量は、例えば固体13C-NMR(核磁気共鳴分光法)、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)または酸塩基滴定等によって測定できる。なお、本発明において「構成単位」は重合体を構成する繰り返し単位のことを意味し、例えばビニルアルコール単位は「1単位」、2単位のビニルアルコール単位がアセタール化された構造は「2単位」と数えることとする。
【0042】
ビニルアルコール系重合体(A)のビニルアルコール単位の含有量は、上記ビニルアルコール系重合体(A)の全構成単位に対して好ましくは20モル%超、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上であり、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下である。上記ビニルアルコール単位の含有量は、例えばFTIR(フーリエ変換赤外分光法)、固体13C-NMR(核磁気共鳴分光法)等により測定できるほか、一定量の無水酢酸と反応させた際の無水酢酸の消費量から算出することもできる。
【0043】
ビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。上記他の構成単位の例としては、酢酸ビニル、およびピバル酸ビニル等のカルボン酸ビニル由来の構成単位;エチレン、1-ブテン、およびイソブチレン等のオレフィン由来の構成単位;アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体、メタクリルアミドおよびその誘導体、マレイン酸およびその誘導体、およびマレイミド誘導体等に由来する構成単位;等が挙げられる。上記他の構成単位は1種を含有していても複数種を含有していてもよい。上記他の構成単位の含有量は、ビニルアルコール系重合体(A)の全構成単位に対して好適には50モル%以下、より好適には30モル%以下、更に好適には15モル%以下であり、0モル%であってもよい。上記他の構成単位の含有量が前記上限値以下であると、本発明の保水材のより優れた吸水性および吸水速度を得やすい。
【0044】
ビニルアルコール系重合体(A)の粘度平均重合度に特に制限はないが、製造容易性の観点から、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、さらに好ましくは4000以下、特に好ましくは3000以下である。一方、ビニルアルコール系重合体(A)の力学特性および水への耐溶出性の観点からは、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは400以上である。ビニルアルコール系重合体(A)の粘度平均重合度は、例えばJIS K 6726に準拠した方法により測定できる。ビニルアルコール系共重合体(A)が後述のように架橋構造を有する場合、例えばビニルアルコール系共重合体(A)が架橋構造としてアセタール構造またはエステル構造を有する場合、粘度平均重合度の測定は、架橋構造を切断した後に行うことができる。前記切断は、一般的な方法(例えば、酸若しくはアルカリを用いた加水分解)により行うことができる。
【0045】
本発明に用いられるビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール系重合体の育苗時の溶出を防ぐ観点から、架橋構造を含むことが好ましい。本発明に用いられるビニルアルコール系重合体(A)が架橋構造を含む場合、吸水時にはゲル状態となる。架橋構造の形態に特に制限はなく、例えばエステル結合、エーテル結合、アセタール結合、および炭素-炭素結合等による架橋構造が挙げられる。
【0046】
上記エステル結合の例としては、ビニルアルコール系重合体(A)がイオン性基としてカルボキシル基を有する場合に、ビニルアルコール系重合体(A)が有する水酸基とカルボキシル基との間で形成されるエステル結合が挙げられる。上記エーテル結合の例としては、ビニルアルコール系重合体(A)が有する水酸基間の脱水縮合により形成されるエーテル結合が挙げられる。上記アセタール結合の例としては、ビニルアルコール系重合体(A)の製造においてカルボキシル基を有するアルデヒドを用いた場合に、2つのビニルアルコール系重合体(A)が有する水酸基同士が上記アルデヒドとアセタール化反応することにより形成されるアセタール結合が挙げられる。上記炭素-炭素結合としては、例えば活性エネルギー線をビニルアルコール系重合体(A)に照射したときに生じる、ビニルアルコール系重合体(A)の炭素ラジカル間のカップリングにより形成される炭素-炭素結合が挙げられる。これらの架橋構造は単独で含まれていても、複数種が含まれていてもよい。中でも、製造容易性の観点からエステル結合、アセタール結合による架橋構造が好ましく、育苗時における保水性維持および耐紫外線性の観点から、アセタール結合による架橋構造がより好ましい。
このような架橋構造は、例えばカルボキシル基を有するアルデヒドおよび該アルデヒド誘導体から選ばれる1種以上により少なくとも一部のビニルアルコール単位をアセタール化する工程において、アセタール化反応と同時に形成されてもよいし、別の工程において形成されてもよいが、本発明においては架橋剤をさらに添加することにより架橋構造を形成することが好ましい。
【0047】
架橋剤としては、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、1,9-ノナンジアール、アジポアルデヒド、マレアルデヒド、タルタルアルデヒド、シトルアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、およびテレフタルアルデヒド等が挙げられる。
【0048】
架橋剤を添加する場合、ビニルアルコール系重合体(A)中の架橋剤量としては、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素が架橋構造中に適度に保持されやすい観点から、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.005モル%以上、さらに好ましくは0.01モル%以上、よりさらに好ましくは0.03モル%以上であり、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.4モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以下である。
【0049】
<アクリル酸系重合体>
前記吸水性樹脂が含んでもよい重合体として、アクリル酸系重合体が挙げられる。本明細書において、アクリル酸系重合体とは、通常、アクリル酸またはアクリル酸誘導体の単独重合体、およびアクリル酸またはアクリル酸誘導体を主モノマー(モノマー成分のうち最もそのモル%が多いモノマー)とするモノマー成分を共重合して得られるアクリル酸系共重合体のことを指す。例えば原料として、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシルおよびアクリル酸フェニル等が挙げられ、これら1種または2種以上のモノマーと架橋剤とを重合させたもの、あるいは前記少なくとも1種のモノマー、架橋剤、およびさらに共重合が可能な別の少なくとも1種のモノマーとを、公知の方法を用いて共重合させたものが挙げられる。具体的には、例えば、アクリル酸-アクリル酸ナトリウム共重合体の架橋物が挙げられる。市販品としては、高吸収性ポリマー(アクリル酸塩系);和光純薬工業(株)製、アクリホープ(登録商標);(株)日本触媒製、サンウェット(登録商標);三洋化成工業(株)等が挙げられる。
【0050】
<アクリルアミド系重合体>
前記吸水性樹脂が含んでもよい重合体として、アクリルアミド系重合体が挙げられる。本明細書において、アクリルアミド系重合体とは、通常、アクリルアミドまたはアクリルアミド誘導体の単独重合体、およびアクリルアミドまたはアクリルアミド誘導体を主モノマー(モノマー成分のうち最もそのモル%が多いモノマー)とするモノマー成分を共重合して得られるアクリルアミド系共重合体のことを指す。例えば原料として、アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸およびN-アルキルアクリルアミド等が挙げられ、これら1種または2種以上のモノマーと架橋剤とを共重合させたもの、あるいは前記少なくとも1種のモノマー、架橋剤およびさらに共重合が可能な別の少なくとも1種のモノマーとを、公知の方法を用いて重合させたものが挙げられる。具体的には例えば、アクリルアミド-アクリル酸-アクリル酸ナトリウム共重合体の架橋物、アクリルアミド-アクリル酸-アクリル酸カリウム共重合体の架橋物が挙げられる。市販品として、Miracle-Gro(登録商標) ウォーターストアーリングクリスタル;スコッツ・ミラクルグロー社製、アクアソーブ(登録商標);(株)SNF社製等が挙げられる。
【0051】
<メタクリル酸系重合体>
前記吸水性樹脂が含んでもよい重合体として、メタクリル酸系重合体が挙げられる。本明細書において、メタクリル酸重合体とは、通常、メタクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体、およびメタクリル酸またはメタクリル酸誘導体を主モノマー(モノマー成分のうち最もそのモル%が多いモノマー)とするモノマー成分を共重合して得られるメタクリル酸系共重合体のことを指す。例えば原料として、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(t-ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジルおよびメタクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられ、これら1種または2種以上のモノマーを重合させたもの、あるいは前記少なくとも1種のモノマー、架橋剤およびさらに共重合が可能な別の少なくとも1種のモノマーとを、公知の方法を用いて共重合させたものが挙げられる。
【0052】
<デンプン系重合体>
前記吸水性樹脂が含んでもよい重合体として、デンプン系重合体が挙げられる。デンプン系重合体としては、デンプンにアクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムおよびアクリロニトリル等をグラフト重合させたものが挙げられる。
【0053】
<添加剤>
本発明の保水材は、吸水性樹脂およびリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1種以上の元素に加えて、任意に添加剤を含有してよい。そのような添加剤の例としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、セルロースおよびその誘導体等の多糖類;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリコハク酸、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、ポリノナメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリウレタン等の樹脂類;天然ゴム、合成イソプレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、およびアミド系熱可塑性エラストマー等のゴム・エラストマー類;紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、有機溶媒、消泡剤、増粘剤、界面活性剤、滑剤、防カビ剤および帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。保水材が添加剤を含有する場合、その合計含有量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、保水材の総質量に対して通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。これらの添加剤がリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含有する場合、その含有量は3質量%以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の保水材の形状は粒子状であることが好ましい。本発明の保水材が粒子状であるとき、該粒子の体積平均粒子径は好ましくは1μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上、特に好ましくは300μm以上であり、好ましくは10000μm以下、より好ましくは2000μm以下、さらに好ましくは1500μm以下である。上記体積平均粒子径が前記下限値以上であると優れた取扱い性に優れ、前記上限値以下であると優れた吸水速度を得やすい。前記体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱で測定できる。
【0055】
<保水材の製造方法>
本発明における保水材は、例えば、(ii-1)吸水性樹脂と、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物またはイオンおよび任意に上記添加剤を混合する方法、(ii-2)吸水性樹脂にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物を任意の溶媒に溶解させた溶液または前記元素を含むイオンを含む溶液をスプレー噴霧して混合するか若しくは前記溶液に吸水性樹脂を浸漬して混合し、任意に、混合後の吸水性樹脂と上記添加剤とを混合する方法、(ii-3)吸水性樹脂の調製中にリン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物およびイオンを残留させ、任意に、得られた調製物と上記添加剤とを混合する方法、または(ii-4)上記(ii-1)~(ii-3)を組み合わせた方法等により製造することができる。上記(ii-1)~(ii-4)において、リン元素、カリウム元素および窒素元素を含む化合物の使用量や、保水材の洗浄の程度を調整することにより、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の化合物の含有量を調整できる。
【0056】
上記(ii-1)~(ii-3)において、混合は、一般的な装置(例えば、攪拌翼を備え付けた反応釜およびミキサー等)で、順次または同時に実施してよい。上記(ii-3)において、残留させる化合物およびイオンとしては、ビニルアルコール系重合体の調製に用いることができる化合物、例えば、水酸化カリウム、硝酸、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、アンモニア、硫酸水素カリウム、リン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムカリウムイオン、アンモニウムイオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン等が挙げられる。
【0057】
好ましい一実施態様において、本発明における保水材は、農業用である。さらに好ましい一実施態様において、本発明における保水材は、育苗用である。従って、本発明の一実施態様において、保水材は育苗のための培地に用いることができる。培地は保水材以外に任意成分を含んでもよい。
【0058】
<任意成分>
そのような任意成分としては、例えば、保水材に含まれる吸水性樹脂以外の樹脂、培土、後述するその他の任意成分、およびそれらの組み合わせを挙げることができる。なお、以下における、培地が上記任意成分を含む場合の任意成分の好ましい含有量等の記載において、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む化合物以外の培地構成成分(保水材に含まれる吸水性樹脂、保水材に含まれている場合の添加剤、および含まれている場合の任意成分)の質量は、乾燥状態の質量であってよい。
【0059】
<吸水性樹脂以外の樹脂>
吸水性樹脂以外の樹脂の例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、およびポリウレタンを挙げることができる。これらの樹脂は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて使用できる。培地が上記樹脂を含む場合、その合計含有量は、培地の総質量に対して好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0060】
<培土>
培地が培土を含有する場合、培土の間隙に根が生長することで適当に根が互いに絡み合いやすくなり、また、培地の優れた排水性および通気性を得やすくなる。培土は特に限定されず、市販の培土の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、培土に、後述する任意成分を常法(例えば、任意成分の溶液または分散液を培土に噴霧した後に乾燥させる方法)で付着させ、用いることもできる。
【0061】
より優れた排水性および通気性を得やすい観点から、培土は粒状であることが好ましい。粒状培土の粒径は、好ましくは0.2~20mm、より好ましくは0.5~10mm、特に好ましくは1~5mmである。粒状培土の粒径を前記範囲内に調整するため、市販の水稲用粒状培土を篩過して用いることもできる。粒状培土の製造には圧縮造粒法、押し出し造粒法、転動造粒法、流動層造粒法等の造粒法を用いることができる。粒状培土の粒径は、次の方法で測定できる。粒状培土から粒子をランダムに30個選び、ノギスを用いて各粒子の直径を測定し、その平均値を粒状培土の粒径とする。なお、粒子が球状ではない場合、最も長い辺と最も短い辺の平均値をその粒子の直径とする。
【0062】
培地が培土を含む場合、培土の含有量は、培地の総質量に対して、好ましくは20~99.9999質量%、より好ましくは70~99.95質量%、特に好ましくは80~99.9質量%、最も好ましくは90~99.8質量%である。
【0063】
<その他の任意成分>
その他の任意成分としては、泥炭、草炭、ピート、ピートモス、ココピート、籾殻、腐植酵質資材、木炭、珪藻土焼成粒、貝化石粉末、貝殻粉末、カニ殻、VA菌根菌、微生物資材等の動植物質;バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、天然ゼオライト、合成ゼオライト、石こう、フライアッシュ、ロックウール、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、クロライト、グローコナイトおよびタルク等の鉱物質;およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらは、必要に応じて消毒または殺菌して用いてもよく、pH調整剤または農薬と一緒に用いてもよい。培地がその他の任意成分を含有する場合、その合計含有量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、培地の総質量に対して通常は50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0064】
農薬の例としては、殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、防腐剤、植物生長調整剤等が挙げられる。
【0065】
保水材を任意成分と組み合わせて用いる場合、保水材と任意成分とを混合して用いることが好ましい。混合方法は特に限定されない。一般的な方法により保水材と任意成分とを混合することで、育苗用の培地を作製できる。
【0066】
培地が水稲育苗用である場合、培地には、種籾を播種することができる。種籾の播種は、水稲育苗培地が導入された水稲育苗箱に対して行うことが多い。通常、種籾の量は水稲育苗箱(縦28cm×横58cm)1箱あたり100~500gである。
培地は、床土(種籾を播種する前に水稲育苗箱に導入されている土)または覆土(種籾を播種した後に上から覆う土)のいずれか一方に用いてもよく、両方に用いてもよい。両方に用いる場合、培地の組成は床土と覆土で同一であっても、同一でなくてもよい。
【実施例0067】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されない。
【0068】
<評価項目および評価方法>
(1)リン元素、カリウム元素および窒素元素含有量
(1)-1.吸水性樹脂の重合体骨格を構成する元素の含有量および前記重合体骨格を構成せず吸水性樹脂内部に含まれる元素の含有量の合計の含有量(Fa)
本発明の保水材に含まれる吸水性樹脂(直径130μm)をエポキシ樹脂中に包埋した後、切断することで吸水性樹脂の断面を作製した。エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡に導入し、樹脂内部の一部として、樹脂の表面から5μmの点、中心およびそれらの中間点の3点を測定し、平均値を算出して各元素の含有量Fa(質量%)とした。
(1)-2.吸水性樹脂の重合体骨格に含まれる元素の含有量(Fb)
本発明の保水材に含まれる吸水性樹脂0.1gを純水100gで5回洗浄し、重合体骨格を構成しない樹脂内部に含有されるリン元素、カリウム元素および窒素元素を除去した。洗浄後の樹脂を40℃で12時間真空乾燥を行った後、エポキシ樹脂中に包埋した後、切断することで吸水性樹脂の断面を作製した。エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡に導入し、(1)-1.と同様に、吸水性樹脂断面の元素分析を行い、吸水性樹脂の重合体骨格を構成する各元素の含有量Fb(質量%)を測定した。
(1)-3.保水材中に含まれる元素の含有量(Fc)
窒素元素は、保水材を有機元素分析計にて燃焼させ、含有量を測定した。
リン元素およびカリウム元素については、保水材に硝酸を加えてマイクロ波分解を行った後、ICP-AESにて含有量を測定した。
保水材中に含まれるリン元素、カリウム元素および窒素元素の含有量をFc(質量%)とした。
重合体骨格を構成しない、吸水性樹脂内部に含有されるリン元素、カリウム元素および窒素元素含有量Fiを以下の式から求めた。
Fi=Fa-Fb
樹脂内部に含まれず保水材中に含有されるリン元素、カリウム元素および窒素元素Foを以下の式から求めた。
Fo=Fc-Fa
【0069】
(2)出芽率(播種から2日後)
水稲育苗箱において、出芽して覆土の上に出てきている芽の数(N1)を目視により数えた。播種した催芽籾の数(N2)を用い、下記式に従い出芽率を算出した。
出芽率[%]=(N1/N2)×100
【0070】
(3)草丈(播種から9日後)
水稲育苗箱において、ランダムにサンプリングした苗10本について、水稲育苗培土の上面から苗の上端までの長さを測定し、その平均値を草丈として採用した。
【0071】
<吸水性樹脂の合成>
[合成原料]
グリオキシル酸一水和物、40質量%グリオキサール水溶液、25質量%グルタルアルデヒド水溶液、アセトニトリル、メタノール、酢酸ビニル、水酸化ナトリウム、アクリル酸メチル、及びアゾビスイソブチロニトリル、酢酸、酢酸ナトリウム、アクリル酸-アクリル酸ナトリウム共重合体の架橋物(製品名:高吸水性ポリマー(アクリル酸塩系));和光純薬工業株式会社製
アクリルアミド-アクリル酸-アクリル酸カリウム共重合体の架橋物(組成比(mol)67:11:22)(製品名:Miracle-Gro(登録商標) ウォーターストアーリングクリスタル);スコッツ・ミラクルグロー社製
ポリビニルアルコールA;クラレアメリカ社製ELVANOL(登録商標)71-30
【0072】
[吸水性樹脂a-0の合成]
還流冷却管及び撹拌翼を備えた容量500mLの四つ口セパラブルフラスコに、グリオキシル酸一水和物12.55g、40質量%グリオキサール水溶液0.11g、イオン交換水12.55g、アセトニトリル150mL及びポリビニルアルコールA40.0g導入し、23℃で1時間撹拌した。得られた混合物を70℃に昇温した後、25質量%硫酸水溶液16.87gを10分かけて滴加し、70℃に保持したまま6時間反応させた。次いで30℃に冷却した後、イオン交換水150mLを加え、ろ過により樹脂を取り出した。続いて、ろ取した樹脂を1回あたり200mLのメタノールを使用して5回洗浄した(洗浄1)。洗浄した樹脂を還流冷却管及び撹拌翼を備えた容量500mLの四つ口セパラブルフラスコに導入し、メタノール180mL、イオン交換水11.6mL及び8mol/L水酸化カリウム水溶液16.8mLを加え、還流下で2時間反応させた。ろ過により樹脂を取り出し、1回あたり200mLのメタノールを使用して6回洗浄し(洗浄2)、40℃で6時間真空乾燥を行い、目的の吸水性樹脂(以下、「吸水性樹脂a-0」と称する)を得た。
【0073】
[吸水性樹脂b-0の合成]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、及び開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル602g、アクリル酸メチル1.21g、メタノール254gを導入し、窒素バブリングをしながら30分間反応器内を不活性ガス置換した。水浴を用いて反応器の昇温を開始し、反応器の内部温度が60℃となったところで、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.16g添加し、重合を開始させた。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、導入した酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計質量に対する、重合により消費された酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計質量である、消費率を求めた。消費率が4%に到達したところで、反応器の内部温度を30℃まで冷却して重合を停止させた。真空ラインに接続し、残留する酢酸ビニルをメタノールとともに30℃で減圧留去した。反応器内を目視で確認しながら、粘度が上昇したところで適宜メタノールを添加しながら留去を続け、5.2mol%のアクリル酸構成単位を含有するポリ酢酸ビニルを得た。アクリル酸構成単位の含有量は13C-NMRを用いて測定した。
次に、上記と同様の反応器に、得られたアクリル酸構成単位含有ポリ酢酸ビニル1gとメタノール18.2gを添加し、アクリル酸構成単位含有ポリ酢酸ビニルを溶解させた。水浴を用いて反応器の昇温を開始し、反応器の内部温度が70℃になるまで撹拌しながら加熱した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(メタ苛性、濃度15質量%)0.78gを添加し、70℃で2時間ケン化を行った。得られた溶液をろ過し、5.2mol%のアクリル酸構成単位を含有するポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコールb」と称する)を得た。
還流冷却管及び撹拌翼を備え付けた三つ口セパラブルフラスコに、アセトニトリル58.9g、イオン交換水6.28g、25質量%グルタルアルデヒド水溶液0.171g、ポリビニルアルコールb20gを導入し、23℃で撹拌し、ポリビニルアルコールbを分散させた。16.9質量%硫酸水溶液12.38gを15分かけて滴加し、65℃に昇温して6時間反応させた。反応後、ろ過により樹脂を取り出した後、ろ取した樹脂を1回あたり160gのメタノールを使用して、6回洗浄した(洗浄3)。洗浄後の樹脂を還流冷却管及び撹拌翼を備え付けた三つ口セパラブルフラスコに導入し、メタノール71g、イオン交換水13.3g、水酸化カリウム5.7gを加え、65℃で2時間反応させた。反応後、ろ過により樹脂を取り出した後、ろ取した樹脂を1回あたり160gのメタノールを使用して、6回洗浄し(洗浄4)、40℃で12時間真空乾燥を行い、目的の吸水性樹脂(以下、「吸水性樹脂b-0」と称する)を得た。
【0074】
[実施例1]
洗浄3の回数を6回から5回に変更した以外は吸水性樹脂b-0と同様にして吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-1」と称する)の合成を行った。吸水性樹脂b-1は、樹脂内部にカリウム元素を0.11質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-1は保水材(以下「保水材b-1」と称する)に相当する。
48gの保水材b-1と粒状培土A(肥料を含まない、平均粒径3.0mm)600gとを均一に混合し、水稲育苗培土を作製した。この水稲育苗培土の60質量%を、内寸58cm×28cmで底面に直径2mmの穴が56個存在する水稲育苗箱に敷き詰め、1000mLの水をじょうろで5秒間かけて潅水した。催芽籾(品種:コシヒカリ)200gを均一に撒いた後、その上に残りの水稲育苗培土(作製した水稲育苗培土の40質量%)を均一に敷き詰め、水稲育苗培土及び水が導入された水稲育苗箱を作製した。以上の操作をさらに2回行い、同じ、水稲育苗培土及び水が導入された水稲育苗箱を3個作製した。30℃、湿度100%の出芽庫にて2日間かけて出芽を行った後、出芽率を測定した。引き続き育苗を行い、播種から9日後に草丈を測定した。測定は3個の育苗箱それぞれで行い平均値を採用した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例2]
洗浄3の回数を6回から1回に変更した以外は吸水性樹脂b-0と同様にして吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-2」と称する)の合成を行った。吸水性樹脂b-2は、樹脂内部にカリウム元素を1.08質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-2は保水材(以下「保水材b-2」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
洗浄3の回数を6回から2回に変更した以外は吸水性樹脂b-0と同様にして、吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-3」と称する)の合成を行った後、硫酸カリウムを混合した。吸水性樹脂b-3は、樹脂内部にカリウム元素を0.75質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-3は保水材(以下「保水材b-3」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例4]
洗浄3の回数を6回から1回に変更した以外は吸水性樹脂b-0と同様にして、吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-4」と称する)の合成をおこなった後、リン酸水素二アンモニウムを混合した。吸水性樹脂b-4は、樹脂内部にカリウム元素を1.08質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-4は保水材(以下「保水材b-4」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例5]
硫酸に加えてリン酸水素二アンモニウムを5.0g添加してポリビニルアルコールbとグルタルアルデヒドの反応を行った後、洗浄3の回数を3回とした以外は吸水性樹脂b-0と同様にして、吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-5」と称する)の合成を行った。合成後、リン酸水素二アンモニウムと硫酸カリウムを混合した。吸水性樹脂b-5は、樹脂内部にリン元素を0.33質量%、カリウム元素を0.54質量%および窒素元素を0.63質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-5は保水材(以下「保水材b-5」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例6]
硫酸に加えてリン酸水素二アンモニウムを5.0g添加してポリビニルアルコールbとグルタルアルデヒドの反応を行った後、洗浄3の回数を1回とした以外は吸水性樹脂b-0と同様にして、吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-6」と称する)の合成を行った。合成後、リン酸水素二アンモニウムと硫酸カリウムを混合した。吸水性樹脂b-6は、樹脂内部にリン元素を0.67質量%、カリウム元素を1.08質量%および窒素元素を1.25質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-6は保水材(以下「保水材b-6」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例7]
16.9質量%硫酸水溶液12.38gを10質量%塩酸16.32gに変更し、加えてリン酸水素二アンモニウムを5.0g添加してポリビニルアルコールbとグルタルアルデヒドの反応を行った後、洗浄3の回数を3回とした以外は吸水性樹脂b-0と同様にして、吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-7」と称する)の合成を行った。合成後、リン酸水素二アンモニウムと塩化カリウムを混合した。吸水性樹脂b-7は、樹脂内部にリン元素を0.33質量%、カリウム元素を0.54質量%および窒素元素を0.63質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-7は保水材(以下「保水材b-7」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例8]
16.9質量%硫酸水溶液12.38gを10質量%硝酸27.06gに変更し、加えてリン酸水素二アンモニウムを5.0g添加してポリビニルアルコールbとグルタルアルデヒドの反応を行った後、洗浄3の回数を3回とした以外は吸水性樹脂b-0と同様にして、吸水性樹脂(以下「吸水樹脂b-8」と称する)の合成を行った。合成後、リン酸水素二アンモニウムと硝酸カリウムを混合した。吸水性樹脂b-8は、樹脂内部にリン元素を0.33質量%、カリウム元素を0.54質量%および窒素元素を0.79質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-8は保水材(以下「保水材b-8」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例9]
硫酸に加えて尿素を2.3g添加してポリビニルアルコールbとグルタルアルデヒドの反応を行った後、洗浄3の回数を1回とした以外は吸水性樹脂b-0と同様にして、吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂b-9」と称する)の合成を行った。合成後、リン酸水素二アンモニウムと硫酸カリウムを混合した。吸水性樹脂b-9は、樹脂内部にカリウム元素を1.08質量%および窒素元素を1.25質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂b-9は保水材(以下「保水材b-9」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例10]
洗浄1の回数を5回から2回に変更した以外は吸水性樹脂a-0と同様にして吸水性樹脂(以下「吸水性樹脂a-1」と称する)の合成を行った後、硫酸カリウムを混合した。吸水性樹脂a-1は、樹脂内部にカリウム元素を0.66質量%含んでいた。すなわち、吸水性樹脂a-1は保水材(以下「保水材a-1」と称する)に相当する。
この保水材を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
吸水性樹脂b-0を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
48gの吸水性樹脂b-0に1.2gの硫酸カリウムを混合した。この混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
48gの吸水性樹脂b-0に3.1gのリン酸水素二アンモニウムと1.2gの硫酸カリウムを混合した。この混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例4]
48gの吸水性樹脂a-0に1.2gの硫酸カリウムを混合した。この混合物を用いて、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0088】
[比較例5]
保水材を使用せず、粒状培土B(肥料としてリン-カリウム-窒素を0.33-0.42-0.5g/kgを含む、平均粒径3.0mm)3000gのみを使用したこと以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製および測定を行った。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
樹脂内部に、前記樹脂の重合体骨格を構成しない、リン元素、カリウム元素および窒素元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含有する、実施例1~10の保水材を使用すると出芽率(植物の生育初期の成長指標)および草丈(植物の生育後期の成長指標)の両方の値が優れる。一方、樹脂内部に前記元素を含まない比較例1~4では、出芽率および草丈ともに低い値である。また、保水材を含まず培地中に肥料成分を含有する比較例5では、出芽率が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の製造方法による保水材は、肥料による根焼けが起こりにくく植物の生育が良好であるため、農業用、特に育苗用に好適に利用できる。