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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071815
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】表面処理された基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/12 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
C08J7/12 Z CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182244
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】井戸 栄善
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 俊介
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073AA02
4F073BA18
4F073BB02
4F073EA03
4F073EA21
4F073EA22
4F073EA24
4F073EA62
4F073EA64
4F073EA71
(57)【要約】
【課題】本発明は、所望の表面処理効果が発現しやすい、表面処理された基材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一例に係る表面処理された基材の製造方法は、アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アルコール(B1)とのエステル交換反応を触媒(C)の存在下で行うことで、アルコール(B1)に由来する構造を基材(A)の表面に導入することを含む。他の例に係る表面処理された基材の製造方法は、アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アミン(B2)とのアミド化反応を触媒(C)の存在下で行うことで、アミン(B2)に由来する構造を基材(A)の表面に導入することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アルコール(B1)とのエステル交換反応を触媒(C)の存在下で行うことで、前記アルコール(B1)に由来する構造を前記基材(A)の表面に導入することを含む、表面処理された基材の製造方法。
【請求項2】
アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アミン(B2)とのアミド化反応を触媒(C)の存在下で行うことで、前記アミン(B2)に由来する構造を前記基材(A)の表面に導入することを含む、表面処理された基材の製造方法。
【請求項3】
前記基材(A)の表面の少なくとも一部が、前記重合体(α)で被覆されている、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基材(A)が、板材、ペレットまたはフィルムである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒(C)が、グアニジン系化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理された基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面処理によって、種々の特性を基材の表面に付与することがある(例えば、特許文献1、2)。
特許文献1では、基材の表面に形成した樹脂層の表面にスルホ基を導入することが提案されている。特許文献2では、アクリル樹脂の表面に180~360nmの紫外線レーザー光を照射することにより該アクリル樹脂の表面を選択的に改質することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-186864号公報
【特許文献2】特開平5-222223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の表面処理では、所望の特性を基材の表面に付与できず、表面処理効果が充分に発揮されにくいことがある。
本発明は、所望の表面処理効果が発現しやすい、表面処理された基材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アルコール(B1)とのエステル交換反応を触媒(C)の存在下で行うことで、前記アルコール(B1)に由来する構造を前記基材(A)の表面に導入することを含む、表面処理された基材の製造方法。
[2]アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アミン(B2)とのアミド化反応を触媒(C)の存在下で行うことで、前記アミン(B2)に由来する構造を前記基材(A)の表面に導入することを含む、表面処理された基材の製造方法。
[3]前記基材(A)の表面の少なくとも一部が、前記重合体(α)で被覆されている、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記基材(A)が、板材、ペレットまたはフィルムである、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記触媒(C)が、グアニジン系化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、所望の表面処理効果が発現しやすい、表面処理された基材の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0008】
<第1の態様>
第1の態様に係る表面処理された基材の製造方法は、アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アルコール(B1)とのエステル交換反応を触媒(C)の存在下で行うことで、アルコール(B1)に由来する構造を基材(A)の表面に導入することを含む。
【0009】
(基材(A))
基材(A)は、アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する。基材(A)は、重合体(α)を含む成形材料を成形したものであってもよく、基材(A)の表面の少なくとも一部が重合体(α)で被覆されたものであってもよい。
【0010】
重合体(α)は、アクリレートに基づく単位(以下、「アクリレート単位(a1)」と記す。)を有する。重合体(α)は、1種のアクリレート単位(a1)を有する単独重合体であってもよく;2種以上のアクリレート単位(a1)を有する共重合体であってもよく;アクリレート単位(a1)と、アクリレート以外の他のモノマーに基づく単位(以下、「他のモノマー単位(a2)」と記す。)とを有する共重合体であってもよい。
重合体(α)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
アクリレートは、ヒドロキシ基、アミノ基およびエポキシ基を含有しないアクリル酸エステルである。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イソステアリル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸3,5,5-トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、テルペンアクリレートおよびその誘導体、水添ロジンアクリレートおよびその誘導体、アクリル酸ドコシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2-メトキシエチルが挙げられる。ただし、アクリレートはこれらの例示に何ら限定されない。
アクリレートは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
他のモノマーは、アクリレートと共重合可能なモノマーであれば特に限定されない。例えば、エチレン、プロピレン、メタクリレート、スチレンおよびその誘導体、アクリロニトリルが挙げられる。ただし、他のモノマーはこれらの例示に何ら限定されない。
他のモノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
重合体(α)がアクリレート単位(a1)と他のモノマー単位(a2)を有する共重合体の場合、アクリレート単位(a1)の割合は重合体(α)の全構成単位に対して5~99質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましい。アクリレート単位(a1)の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、所望の表面処理効果が発現しやすい。アクリレート単位(a1)の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、エステル交換反応(後述の第2の態様においては、アミド化反応)の反応効率が向上しやすい。
【0014】
重合体(α)がアクリレート単位(a1)と他のモノマー単位(a2)を有する共重合体の場合、他のモノマー単位(a2)の割合は重合体(α)の全構成単位に対して1~95質量%が好ましく、20~90質量%がより好ましい。他のモノマー単位(a2)の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、エステル交換反応(後述の第2の態様においては、アミド化反応)の反応効率が向上しやすい。他のモノマー単位(a2)の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、所望の表面処理効果が発現しやすい。
【0015】
重合体(α)の数平均分子量は30000以上が好ましく、30000~500000がより好ましい。重合体(α)の数平均分子量が30000以上であると、基材(A)の形状を維持しやすい。重合体(α)の数平均分子量が前記数値範囲内の上限値以下であると、反応効率が向上しやすい。
重合体(α)の数平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を使用し、ポリメチルメタクリレート(PMMA)の検量線から算出される値である。
【0016】
重合体(α)のガラス転移点は40℃以上が好ましく、40~200℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。ガラス転移点が複数存在する場合は、最も温度の高いガラス転移点を重合体(α)のガラス転移点とする。重合体(α)のガラス転移点が40℃以上であると、基材(A)の形状を維持しやすい。重合体(α)のガラス転移点が前記数値範囲内の上限値以下であると、反応効率が向上しやすい。
ガラス転移点(℃)は、示差走査熱量計(X-DSC7000,日立ハイテクサイエンス社製)を使用して測定される。サンプルを-30~200℃まで10℃/分で昇温した後、200℃から-30℃まで10℃/分で降温するサイクルを2度行い、2度目の昇温過程よりガラス転移点(℃)を測定する。
【0017】
基材(A)の表面の少なくとも一部が重合体(α)で被覆されている場合、基材(A)の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、二酸化ケイ素、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカ―ネート、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene)、ポリアミドが挙げられる。基材(A)の材質が重合体(α)である場合、基材を被覆する重合体(α)は基材の重合体(α)と同じでもよく、異なっていてもよい。
基材(A)の形状は特に限定されるものではないが、例えば、板材、ペレットまたはフィルム等であり得る。
【0018】
(アルコール(B1))
アルコール(B1)は、所望の特性を基材(A)の表面に付与するために使用される。アルコール(B1)が基材(A)の表面の重合体(α)のアクリレート単位(a1)とエステル交換反応することで、アルコール(B1)の水酸基以外の化学構造が基材(A)の表面に導入される。結果、アルコール(B1)の該水酸基以外の部分の化学構造に基づく特性が基材(A)に付与される。
【0019】
アルコール(B1)は低級アルコールでもよく、脂肪族アルコールでもよく、芳香族アルコールでもよく、含フッ素アルコールでもよい。また、アルコール(B1)は直鎖状でもよく、分岐構造を有してもよく、環構造を有してもよい。
また、アルコール(B1)は1価のアルコール(モノアルコール)でもよく、二価のアルコール(ジアルコール)でもよく、3価以上の多価アルコール(トリアルコール、ポリオール)でもよい。また、アルコール(B1)は、炭素原子間にエーテル結合を有するエーテル結合含有アルコールであってもよい。
【0020】
1価の低級アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール類、エタノール類、プロパノール類、ブタノール類、ヘキサノール類、ヘプタノール類が挙げられる。
1価の低級アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
1価の脂肪族アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、1-テトラデカノール、ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデカノール、シス-9-ヘキサデセン-1-オール、1-ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール、リノレニルアルコール、エライドリノレニルアルコール、リシノレイルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール、1-ヘプタコサノール、モンタニルアルコール、1-ノナコサノール、ミリシルアルコール、1-ドトリアコンタノール、ゲジルアルコール、セテアリルアルコール、イソボルニルアルコールが挙げられる。
1価の脂肪族アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
1価の芳香族アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジルアルコール、フェニチルアルコールが挙げられる。
1価の芳香族アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
1価の含フッ素アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタン-1-オール、2-パーフルオロヘキシルエタノール、3-(パーフルオロヘキシル)プロパノールが挙げられる。
1価の含フッ素アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
2価のアルコール(ジアルコール)としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールが挙げられる。
2価のアルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
3価のアルコール(トリアルコール)としては、特に限定されるものではないが、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリンが挙げられる。
3価のアルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
多価アルコール(ポリオール)としては、特に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトール、ソルビトール、スクロースが挙げられる。
多価アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
エーテル結合含有アルコールは、特に限定されるものではないが、例えば、2-メトキシエタノール、グリシジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ポリエーテルジオール、フルフリルアルコールが挙げられる。
エーテル結合含有アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
アルコール(B1)の水酸基以外の部分の化学構造は、基材への付与を所望する特性に応じて変更可能である。例えば、親水性を基材(A)の表面に付与する場合、二価のアルコール(ジアルコール)でもよく、3価以上の多価アルコールが好適に使用される。また、疎水性を基材(A)の表面に付与する場合、1価のアルコールが好適に使用される。
【0029】
(触媒(C))
触媒(C)は、重合体(α)とアルコール(B1)との間のエステル交換反応において触媒として機能する化合物である。触媒(C)としては、特に限定されるものではないが、例えば、グアニジン系化合物、チタン系化合物、スズ系化合物、p-トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0030】
触媒(C)としては、エステル交換反応(後述の第2の態様においては、アミド化反応)による導入効率が向上することから、グアニジン系化合物が好ましい。
グアニジン系化合物としては、例えば、下記の化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)が挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
式(4)中、R、R、R、Rは水素原子、メチル基、エチル基またはtert-ブチル基である。
【0033】
なかでも、グアニジン系化合物としては化合物(1)、すなわち、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)が好ましい。
【0034】
(エステル交換反応)
第1の態様においては、基材(A)の表面の重合体(α)のアクリレート単位(a1)とアルコール(B1)との間でエステル交換反応が起きる。重合体(α)のアクリレート単位(a1)を-(CHCH(C(=O)O-Ra1))-で表し、アルコール(B1)をRb1-OHで表すとき、Ra1とRb1との間でエステル交換反応が起きる(Rb1は1価の有機基である。)。結果、重合体(α)のアクリレート単位(a1)のうち、少なくとも一部のRa1がRb1に変換される。そのため、アクリレート単位(a1)のエステル結合を介してアルコール(B1)に由来する構造、すなわち、-Rb1基を基材(A)の表面の重合体(α)に導入できる。
【0035】
エステル交換反応に際し、重合体(α)のアクリレート単位(a1)のすべてをエステル交換反応させてもよく、アクリレート単位(a1)の一部をエステル交換反応させてもよい。
【0036】
エステル交換反応のための触媒(C)の使用量は、アルコール(B1)100質量部に対して0.1~5質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましく、1~2質量部がさらに好ましい。触媒(C)の使用量が前記数値範囲内の下限値以上であると、エステル交換反応の反応効率がより向上する。結果、所望の表面処理効果がより発現しやすい。触媒(C)の使用量が前記数値範囲内の上限値以下であると、基材(A)の外観が損なわれにくい。
【0037】
エステル交換反応の反応温度は特に限定されないが、例えば、70~200℃が好ましい。エステル交換反応の反応温度が前記数値範囲内の下限値以上であると、エステル交換反応の反応効率が向上しやすい。エステル交換反応の反応温度が前記数値範囲内の上限値以下であると、触媒の分解が抑制されやすい。
【0038】
エステル交換反応の反応時間は特に限定されないが、例えば、0.5時間~24時間が好ましい。エステル交換反応の反応時間が前記数値範囲内の下限値以上であると、エステル交換反応の反応効率が向上しやすい。エステル交換反応の反応時間が前記数値範囲内の上限値以下であると、基材(A)の外観が損なわれにくい。
【0039】
エステル交換反応は溶媒中で行ってもよく、溶媒を用いずに行ってもよい。溶媒は、エステル交換反応に不活性な化合物であればよく、特に限定されない。また、アルコール(B1)を溶媒として用いてもよい。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の極性溶媒が挙げられる。溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
エステル交換反応を行う際、反応によって生成されるアルコール類を取り除く目的でモレキュラーシーブを加えてもよい。モレキュラーシーブの使用量は重合体(α)100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。モレキュラーシーブの使用量が前記数値範囲内の下限値以上であるとエステル交換反応の反応効率が向上しやすい。モレキュラーシーブの使用量が前記数値範囲内の上限値以下であると、反応溶液を撹拌しやすい。
【0041】
(第1の態様の作用機序)
以上説明した第1の態様においては、触媒(C)の存在下で、基材(A)の表面の重合体(α)とアルコール(B1)との間でエステル交換反応を行う。そのため、エステル交換反応の反応効率が向上する。結果、アルコール(B1)に由来する構造を重合体(α)に充分に導入できる。よって、アルコール(B1)に由来する構造に基づく表面処理効果が発現しやすい。
アルコール(B1)に由来する構造は、所望に応じて任意に変更可能である。そのため、所望の特性を基材の表面に付与できる。
【0042】
<第2の態様>
第2の態様に係る表面処理された基材の製造方法は、アクリレートに基づく単位を有する重合体(α)を表面に有する基材(A)と、アミン(B2)とのアミド化反応を触媒(C)の存在下で行うことで、アミン(B2)に由来する構造を基材(A)の表面に導入することを含む。
基材(A)および触媒(C)の詳細および好ましい態様は、第1の態様において説明した内容と基本的には同じである。
【0043】
(アミン(B2))
アミン(B2)は、所望の特性を基材(A)の表面に付与するために使用される。アミン(B2)が基材(A)の表面の重合体(α)のアクリレート単位(a1)とアミド化反応することで、アミン(B2)のアミノ基以外の化学構造が基材(A)の表面に導入される。結果、アミン(B2)の該アミノ基以外の部分の化学構造に基づく特性が基材(A)に付与される。
【0044】
アミン(B2)は脂肪族アミンでもよく、芳香族アミンでもよく。脂肪族アミンは直鎖状でもよく、分岐構造を有してもよく、環構造を有してもよい。
また、アミン(B2)は1価のアミン(モノアミン)でもよく、二価のアミンでもよく(ジアミン)、3価のアミン(トリアミン)でもよい。また、アミン(B2)は1級アミンでもよく、2級アミンでもよい。
【0045】
アミン(B2)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、ベンジジン、エチレンジアミン、カダベリン、1,6-ジアミノヘキサン、ジエチレントリアミンが挙げられる。
アミン(B2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
(アミド化反応)
第2の態様においては、アクリレート単位(a1)とアミン(B2)との間でアミド化反応が起きる。重合体(α)のアクリレート単位(a1)を-(CHCH(C(=O)O-Ra1))-で表し、アミン(B2)をN(Rb2)(Rb3)Hで表すとき、Ra1とRb2、Rb3との間でアミド化反応が起きる(Rb2、Rb3はそれぞれ独立に、1価の有機基または水素原子であり、同時に水素原子ではない。)。結果、重合体(α)のアクリレート単位(a1)のうち、少なくとも一部のRa1がRb2またはRb3に変換される。そのため、アクリレート単位(a1)のエステル結合を介してアミン(B2)に由来する構造、すなわち、-Rb2基または-Rb3基を基材(A)の表面の重合体(α)に導入できる。
【0047】
アミド化反応のための触媒(C)の使用量は、アミン(B2)100質量部に対して0.5~5質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましく、1~2質量部がさらに好ましい。触媒(C)の使用量が前記数値範囲内の下限値以上であると、アミド化反応の反応効率がより向上する。結果、所望の表面処理効果がより発現しやすい。触媒(C)の使用量が前記数値範囲内の上限値以下であると、基材(A)の外観が損なわれにくい。
【0048】
アミド化反応に際し、重合体(α)のアクリレート単位(a1)のすべてをアミド化反応させてもよく、アクリレート単位(a1)の一部をアミド化反応させてもよい。
【0049】
アミド化反応の反応温度は特に限定されないが、例えば、70~200℃が好ましい。アミド化反応の反応温度が前記数値範囲内の下限値以上であると、アミド化反応の反応効率が向上しやすい。アミド化反応の反応温度が前記数値範囲内の上限値以下であると、触媒の分解を抑制しやすい。
【0050】
アミド化反応の反応時間は特に限定されないが、例えば、0.5時間~24時間が好ましい。アミド化反応の反応時間が前記数値範囲内の下限値以上であると、アミド化反応の反応効率が向上しやすい。アミド化反応の反応時間が前記数値範囲内の上限値以下であると、基材(A)の外観が損なわれにくい。
【0051】
第2の態様においても、アミド化反応は溶媒中で行ってもよく、溶媒を用いずに行ってもよい。溶媒は、アミド化反応に不活性な化合物であればよく、特に限定されない。溶媒の例としては、第1の態様で例示した化合物と同じものが挙げられる。
【0052】
(第2の態様の作用機序)
以上説明した第2の態様においては、触媒(C)の存在下で、基材(A)の表面の重合体(α)とアミン(B2)との間でアミド化反応を行う。そのため、アミド化反応の反応効率が向上する。結果、アミン(B2)に由来する構造を重合体(α)に充分に導入できる。よって、アミン(B2)に由来する構造に基づく表面処理効果が発現しやすい。
アミン(B2)に由来する構造は、所望に応じて任意に変更可能である。そのため、所望の特性を基材の表面に付与できる。
【0053】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【実施例0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の記載に限定されない。
【0055】
(略称)
実験結果における略称の意味は、以下の通りである。
試験基材:メチルメタクリレート重合体を板状に成形した成形体の表面にアクリレートに基づく単位を有する重合体(特許第5903889号公報参照)を被覆したもの。
TBD:1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(触媒)
EG:エチレングリコール(アルコール)
【0056】
(実施例A1)
反応容器中にEG100質量部、TBD0.5質量部を加えて反応液を調製した後、反応液に試験基材を浸漬した。熱媒に反応容器を浸漬させた状態で所定の反応温度に加熱するとともに、所定の反応時間が経過するまで反応液を攪拌した。反応温度は60℃,80℃,100℃,120℃,150℃の5段階に設定した。各反応温度において、反応時間を30分,60分,120分,360分としてエステル交換反応を実施した。
反応終了後、試験基材をアセトンで洗浄した。洗浄後の試験基材の表面について、接触角を測定した。反応時間を30分、360分としたときの接触角の測定結果を抜粋して表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
いずれの反応温度においても、反応時間30分、360分の接触角は反応時間0分の接触角と比べて小さくなった。この結果から、試験基材の表面にEGに由来する構造として-CHCHOH基を導入することで親水性を付与できたと考えられた。
【0059】
接触角の測定方法は、液滴法の通りとした。以下に記載の各実験でも同じ手法で接触角を測定した。
反応温度は、熱媒の温度計の計測値とした。反応時間は、反応容器を熱媒に浸漬した時点から、熱媒から取り出した時点までの時間とした(以下、同様)。
【0060】
(実施例A2)
TBDの使用量をEG100質量部に対して1.0質量部とした以外は、実施例A1と同じ手法によってエステル交換反応を実施した後、試験基材をアセトンで洗浄した。反応時間を30分、360分としたときの接触角の測定結果を抜粋して表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
いずれの反応温度においても、反応時間30分、360分の接触角は反応時間0分の接触角と比べて小さくなった。この結果から、試験基材の表面にEGに由来する構造として-CHCHOH基を導入することで親水性を付与できたと考えられた。
【0063】
(実施例A3)
TBDの使用量をEG100質量部に対して2.0質量部とした以外は、実施例A1と同じ手法によってエステル交換反応を実施した後、試験基材をアセトンで洗浄した。反応時間を30分、360分としたときの接触角の測定結果を抜粋して表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
いずれの反応温度においても、反応時間30分、360分の接触角は反応時間0分の接触角と比べて小さくなった。この結果から、試験基材の表面にEGに由来する構造として-CHCHOH基を導入することで親水性を付与できたと考えられた。
【0066】
(実施例B)
反応容器中にEG100質量部に対して所定量のTBDを加えて反応液を調製した後、反応液に試験基材を浸漬した。熱媒に反応容器を浸漬させた状態で40℃に加熱するとともに、所定の反応日数が経過するまで反応液に試験基材を浸漬した。TBDの使用量はEG100質量部に対して0.5質量部,1.0質量部,2.0質量部の3段階に設定した。各使用量において、反応日数を5日,20日としてエステル交換反応を実施した。
反応終了後、試験基材をアセトンで洗浄した。洗浄後の試験基材の表面について、接触角を測定した。接触角の測定結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
いずれのTBD使用量においても、5日目、20日目の接触角は0日目の接触角と比べて小さくなった。この結果から、試験基材の表面にEGに由来する構造として-CHCHOH基を導入することで親水性を付与できたと考えられた。
【0069】
(実施例C)
反応容器中に1-テトラデカノール100質量部、TBD1.0質量部を加えて反応液を調製した後、反応液に試験基材を浸漬した。熱媒に反応容器を浸漬させた状態で120℃に加熱するとともに、所定の反応時間として360分が経過するまで反応液を攪拌した。反応終了後、試験基材をアセトンで洗浄した。洗浄後の試験基材の表面について、接触角を測定した。接触角の測定結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
反応時間360分の接触角は反応時間0分の接触角と比べて大きくなった。この結果から、試験基材の表面に1-テトラデカノールに由来する構造として-(CH13CH基を導入することで疎水性を付与できたと考えられた。
【0072】
(実施例D)
反応容器中にEG100質量部、チタンテトライソプロポキシド1.0質量部を加えて反応液を調製した後、反応液に試験基材を浸漬した。熱媒に反応容器を浸漬させた状態で120℃に加熱するとともに、所定の反応時間が経過するまで反応液を攪拌した。反応時間は360分としてエステル交換反応を実施した。反応終了後、試験基材をアセトンで洗浄した。洗浄後の試験基材の表面について、接触角を測定した。接触角の測定結果を表6に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
反応時間360分の接触角は反応時間0分の接触角から低下したが、触媒としてTBDを使用したときほど変化しなかった。試験基材の表面にある程度の親水性を付与できたものの、TBDと比較して-CHCHOH基の導入効率は高くはなかった。
【0075】
(比較例A)
反応容器中にEG100質量部を加えて反応液を調製した後、反応液に試験基材を浸漬した。熱媒に反応容器を浸漬させた状態で120℃に加熱するとともに、所定の反応時間が経過するまで反応液を攪拌した。反応時間は360分としてエステル交換反応を実施した。比較例Aでは触媒を使用せずにエステル交換反応を実施した。
反応終了後、試験基材をアセトンで洗浄した。洗浄後の試験基材の表面について、接触角を測定した。接触角の測定結果を表7に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
反応時間360分の接触角は、反応時間0分の接触角からほとんど変化しなかった。表1-3等に示す結果と併せて考慮した結果、比較例Aでは触媒を使用しなかったため、試験基材の表面に親水性を付与できなかったと考えられた。
【0078】
(比較例B)
反応容器中に1-テトラデカノール100質量部を加えて反応液を調製した後、反応液に試験基材を浸漬した。熱媒に反応容器を浸漬させた状態で120℃に加熱するとともに、所定の反応時間が経過するまで反応液を攪拌した。反応時間は360分としてエステル交換反応を実施した。比較例Bでも触媒を使用せずにエステル交換反応を実施した。
反応終了後、試験基材をアセトンで洗浄した。洗浄後の試験基材の表面について、接触角を測定した。接触角の測定結果を表8に示す。
【0079】
【表8】
【0080】
反応時間360分の接触角は、反応時間0分の接触角からほとんど変化しなかった。表5に示す結果と併せて考慮した結果、比較例Bでは触媒を使用しなかったため、試験基材の表面に疎水性を付与できなかったと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、所望の表面処理効果が発現しやすい、表面処理された基材の製造方法が提供される。