(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071844
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】剥離シートおよび剥離シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240520BHJP
C08J 7/18 20060101ALI20240520BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20240520BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B32B27/00 L
C08J7/18 CER
C08J7/18 CEZ
C08F2/00 C
B32B27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182296
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】矢野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】臼井 博明
【テーマコード(参考)】
4F073
4F100
4J011
【Fターム(参考)】
4F073AA32
4F073BA24
4F073BB01
4F073CA01
4F073CA51
4F073FA03
4F073GA09
4F073HA03
4F100AK25B
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH66B
4F100EJ52B
4F100JK06
4F100JL14B
4J011AA05
4J011AA10
4J011AC04
4J011CA01
4J011CC10
4J011DB18
4J011DB22
4J011QA03
4J011UA03
4J011VA01
4J011VA08
4J011WA02
(57)【要約】
【課題】シリコーン成分および有機溶剤を使用しなくても製造することのできる剥離シート、およびシリコーン成分および有機溶剤を使用しなくても剥離シートを製造することのできる剥離シートの製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、当該基材の少なくとも片面側に設けられた剥離層とを備えた剥離シートであって、上記剥離層が、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合してなる層である、剥離シート。上記長鎖アルキル基含有化合物における長鎖アルキル基の炭素数は、10以上、30以下であることが好ましい。また、上記ラジカル重合性官能基は、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面側に設けられた剥離層とを備えた剥離シートであって、
前記剥離層が、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合してなる層である、剥離シート。
【請求項2】
前記長鎖アルキル基含有化合物における長鎖アルキル基の炭素数が、10以上、30以下であることを特徴とする請求項1に記載の剥離シート。
【請求項3】
前記ラジカル重合性官能基が、炭素-炭素二重結合を含む官能基であることを特徴とする請求項1に記載の剥離シート。
【請求項4】
前記ラジカル重合性官能基が、(メタ)アクリロイル基であることを特徴とする請求項1に記載の剥離シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の剥離シートの製造方法であって、
少なくとも、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合して、前記剥離層を形成する工程を有する、剥離シートの製造方法。
【請求項6】
前記蒸着重合が、少なくとも下記工程(1)及び(2)を、この順で又は同時に行うものであることを特徴とする請求項5項に記載の剥離シートの製造方法。
工程(1):減圧した容器内に、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の気体を供給して、基材の少なくとも片面側に蒸着させる工程。
工程(2):減圧した容器内で、イオン照射及びエネルギー線照射から選ばれる少なくとも1種により、前記ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の重合を開始させる工程。
【請求項7】
前記工程(2)で照射するイオンが、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、酸素、又は二酸化炭素をイオン化したものであることを特徴とする請求項6に記載の剥離シートの製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)のイオン照射を、前記基材上に蒸着したラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸着面積1cm2あたり、イオン照射量が0.01μA/cm2以上となる条件で行うことを特徴とする請求項6に記載の剥離シートの製造方法。
【請求項9】
前記基材が樹脂シートであることを特徴とする請求項6に記載の剥離シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離シートおよび剥離シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、剥離シートは、例えば、紙、プラスチックフィルム、ポリエチレンラミネート紙などの基材と、基材上に設けられた剥離層とを有する。剥離シートは、例えば、粘着シート等が有する粘着剤層の保護用シート、樹脂シート作製用工程フィルム、セラミックグリーンシート成膜用工程フィルム、合成皮革製造用工程フィルム等として幅広く用いられている。
【0003】
剥離シートの剥離層は、通常、反応性化合物を含む剥離剤組成物を基材上に塗布して硬化させることにより形成される。剥離層を形成するための剥離剤組成物としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリシロキサン、シリコーンオイル等のシリコーン化合物を含むシリコーン系剥離剤組成物が広く用いられている。
【0004】
一方、剥離シートとは技術分野が異なるが、近年、ドライプロセスを利用して、基材上に特定の機能層を形成する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、ガスバリア積層体を提供することを主目的として、原料として特定のビニル重合性モノマーを用い、これを基材上に真空中で成膜する成膜工程と、成膜されたモノマーに対し、活性照射線を照射して重合させ、樹脂薄膜層を形成する重合工程とを有することを特徴とする積層体の製造方法、及び、原料として特定のビニル重合性モノマーを用い、これを基材上に真空中でイオンを援用した蒸着法を用いて成膜・重合し、樹脂薄膜層を形成する樹脂薄膜層形成工程を有することを特徴とする積層体の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、イオン照射を併用したフッ素系モノマー材料の蒸着重合による反射防止機能を高めた機能膜の成膜に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-276115号公報
【特許文献2】特許第5458277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のとおり、シリコーン系剥離剤組成物から形成される剥離層は、一般に、シリコーン系剥離剤組成物を基材上に塗布して硬化させることにより形成される。ここで、シリコーン系剥離剤組成物をそのまま基材上に塗布して塗膜を形成することは難しいため、通常、シリコーン系剥離剤組成物を大量の有機溶剤で希釈してから基材上に塗布している。
【0007】
このとき、使用した有機溶剤の廃棄処理等によって二酸化炭素が排出されるため、環境に対する負荷が問題視されている。そのため、有機溶剤を使用せずに剥離シートが製造できれば、環境負荷の低減に有効である。
【0008】
一方、シリコーン系剥離剤から形成される剥離層を備えた剥離シートにおいては、当該剥離層に密着した層、例えば粘着剤層やセラミックグリーンシートに対して、シリコーン成分が転移することがある。シリコーン成分が転移した粘着剤層では、粘着力の低下という問題が生じることがあり、また、シリコーン成分が転移したセラミックグリーンシートでは、密着性の低下という問題が生じ得る。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、シリコーン成分および有機溶剤を使用しなくても製造することのできる剥離シート、およびシリコーン成分および有機溶剤を使用しなくても剥離シートを製造することのできる剥離シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の少なくとも片面側に設けられた剥離層とを備えた剥離シートであって、前記剥離層が、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合してなる層である、剥離シートを提供する(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)に係る剥離シートは、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合して剥離層を形成することで、シリコーン成分および有機溶剤を使用しなくても製造することができる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記長鎖アルキル基含有化合物における長鎖アルキル基の炭素数が、10以上、30以下であることが好ましい(発明2)。
【0013】
上記発明(発明1~2)においては、前記ラジカル重合性官能基が、炭素-炭素二重結合を含む官能基であることが好ましい(発明3)。
【0014】
上記発明(発明1~3)においては、前記ラジカル重合性官能基が、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい(発明4)。
【0015】
第2に本発明は、前記剥離シート(発明1~4)の製造方法であって、少なくとも、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合して、前記剥離層を形成する工程を有する、剥離シートの製造方法を提供する(発明5)。
【0016】
上記発明(発明5)においては、前記蒸着重合が、少なくとも下記工程(1)及び(2)を、この順で又は同時に行うものであることが好ましい(発明6)。
工程(1):減圧した容器内に、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の気体を供給して、基材の少なくとも片面側に蒸着させる工程。
工程(2):減圧した容器内で、イオン照射及びエネルギー線照射から選ばれる少なくとも1種により、前記ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の重合を開始させる工程。
【0017】
上記発明(発明6)においては、前記工程(2)で照射するイオンが、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、酸素、又は二酸化炭素をイオン化したものであることが好ましい(発明7)。
【0018】
上記発明(発明6,7)においては、前記工程(2)のイオン照射を、前記基材上に蒸着したラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸着面積1cm2あたり、イオン照射量が0.01μA/cm2以上となる条件で行うことが好ましい(発明8)。
【0019】
上記発明(発明6~8)においては、前記基材が樹脂シートであることが好ましい(発明9)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る剥離シートは、シリコーン成分および有機溶剤を使用しなくても製造することができる。また、本発明に係る剥離シートの製造方法によれば、シリコーン成分および有機溶剤を使用しなくても剥離シートを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る剥離シートは、基材と、当該基材の少なくとも片面側に設けられた剥離層とを備えて構成される。なお、剥離層は、基材に直接積層されていてもよく、または、その他の層を介して基材に積層されていてもよい。また、剥離層は、基材の両面側に設けられてもよい。本明細書において、剥離層の露出した表面(基材とは反対側の面)を、剥離面という場合がある。
【0022】
1.剥離シートを構成する各部材
(1)基材
本実施形態に係る剥離シートの基材は、剥離層を積層することができれば特に限定されるものではない。かかる基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、アクリルウレタン、シクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンスルフィド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、各種熱可塑性エラストマーなどの樹脂からなる樹脂フィルム、またはそれらの積層フィルム;上質紙、コート紙、グラシン紙、クラフト紙、ポリエチレンラミネート紙等の紙類からなるシート材料などが挙げられる。これらのシート材料は、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
【0023】
上記の中でも、後述する剥離層の形成、具体的には蒸着重合による剥離層の形成に適している樹脂フィルムを使用することが好ましい。また、樹脂フィルムによれば、剥離シートの剥離面上に精度の高い粘着剤層を形成することができ、さらには、セラミックグリーンシートの形成にも適する。
【0024】
上記樹脂フィルムの中でも、蒸着重合に適した耐熱性や機械的強度に優れたポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。特にポリエチレンテレフタレートフィルムによれば、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合してなる剥離層の密着性が高いものとなる。
【0025】
樹脂フィルムは、公知のフィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒等を含有してもよい。また、樹脂フィルムは、透明なものであってもよいし、所望により着色等されていてもよい。
【0026】
樹脂フィルムにおいては、その表面に設けられる剥離層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、プラスチックフィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0027】
基材の厚さは、剥離シートの用途に応じて適宜設定することができる。一般的には、ハンドリング性の観点から、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、同様の観点から、基材の厚さは、500μm以下であることが好ましく、特に300μm以下であることが好ましく、さらには200μm以下であることが好ましい。ここで、「基材の厚さ」とは、基材全体の厚さを意味し、例えば、前述した2層以上積層した基材を用いる場合、当該基材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0028】
(2)剥離層
本実施形態における剥離層は、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合してなる層である。この剥離層は、長鎖アルキル基含有化合物の重合体からなり、好ましくは長鎖アルキル基含有化合物の単独重合体からなる。
【0029】
剥離層が長鎖アルキル基含有化合物の重合体(単独重合体)からなることにより、剥離層にシリコーン成分を含む必要がなく、剥離面に密着した層(例えば、粘着剤層やセラミックグリーンシート)に対するシリコーン成分の移行の問題がない。また、本実施形態に係る剥離シートでは、蒸着重合によって剥離層を形成するため、有機溶剤を使用しなくても剥離シートを製造することができ、環境負荷の低減に有効である。さらに、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合してなる剥離層によれば、得られる剥離シートの剥離力を比較的低くすることができ、また、架橋剤を必要とすることなく、高い膜強度を得ることができる。
【0030】
(2-1)剥離層の成分
本実施形態において剥離層を形成するラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物は、長鎖アルキル基を含有するとともに、ラジカル重合性官能基を介して重合可能なものであればよい。
【0031】
長鎖アルキル基含有化合物における長鎖アルキル基の炭素数は、10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、特に14以上であることが好ましく、さらには16以上であることが好ましい。また、当該長鎖アルキル基の炭素数は、30以下であることが好ましく、22以下であることがより好ましく、特に20以下であることが好ましく、さらには18以下であることが好ましい。長鎖アルキル基含有化合物が上記範囲の炭素数の長鎖アルキル基を含有することで、蒸着重合により剥離層を良好に形成することができるとともに、剥離層の剥離面における表面自由エネルギーを適度に低下させることができ、これにより、剥離力を効果的に低下させることができる。
【0032】
長鎖アルキル基含有化合物が有するラジカル重合性官能基は、炭素-炭素二重結合を含む官能基であることが好ましい。具体的には、ビニルエーテル基、(メタ)アクリロイル基、アリルエーテル基、マレイミド基、スチレン基、ビニル基、アリル基等が挙げられ、中でも、蒸着重合を良好に行うことのできる(メタ)アクリロイル基が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0033】
本実施形態における長鎖アルキル基含有化合物の例としては、上述したラジカル重合性官能基が付加された長鎖アルカンが挙げられる。この場合、ラジカル重合性官能基は、長鎖アルカンのいずれの位置に存在していてもよいものの、蒸着重合性に優れる観点から、長鎖アルカンの末端に存在することが好ましい。この場合、片末端であってもよいし、両末端であってもよいが、剥離性に優れる観点から、片末端にラジカル重合性官能基が存在することが好ましい。
【0034】
ラジカル重合性官能基として(メタ)アクリロイル基が付加された長鎖アルカンの具体例としては、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレート、トリアコンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、蒸着重合性および剥離性に優れる観点から、ステアリル(メタ)アクリレートまたはドコシル(メタ)アクリレートが好ましく、特にステアリルメタクリレートまたはドコシルアクリレートが好ましい。
【0035】
上記長鎖アルキル基含有化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。また、上記剥離層は、実質的に長鎖アルキル基含有化合物の重合体のみからなる層であってもよい。「実質的に長鎖アルキル基含有化合物の重合体のみからなる層」とは、剥離層を形成する成分の総量100質量%中、上記長鎖アルキル基含有化合物の重合体以外の他の成分の合計含有量が、10.0質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下であることを意味する。
【0036】
(2-2)剥離層の厚さ
剥離層の厚さは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、特に20nm以上であることが好ましく、さらには30nm以上であることが好ましい。これにより、良好な剥離性が発揮され易くなる。また、剥離層の厚さは、1000nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、特に400nm以下であることが好ましく、さらには200nm以下であることが好ましい。これにより、剥離シートをロール状に巻き取った際に、ブロッキングが発生することを効果的に抑制することができる。
【0037】
2.剥離シートの物性
本実施形態に係る剥離シートでは、剥離力を用途に応じて適宜設定することができる。本実施形態に係る剥離シートの剥離力は、7000mN/20mm以下であることが好ましく、5000mN/20mm以下であることがより好ましく、特に4000mN/20mm以下であることが好ましく、さらには3000mN/20mm以下であることが好ましく、2000mN/20mm以下であることが最も好ましい。本実施形態に係る剥離シートによれば、上記のように低い剥離力を容易に達成することができる。一方、本実施形態に係る剥離シートの剥離力は、ハンドリング性を考慮すると、100mN/20mm以上であることが好ましく、特に200mN/20mm以上であることが好ましく、さらに400mN/20mm以上であることが好ましい。なお、本明細書における剥離力の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0038】
3.剥離シートの製造方法
本実施形態に係る剥離シートの好ましい製造方法は、少なくとも、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着重合して、長鎖アルキル基含有化合物の重合体からなる剥離層を形成する工程を有する。
【0039】
蒸着重合としては、少なくともラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の気体を供給する工程と、当該長鎖アルキル基含有化合物の重合を開始させる工程とを有する重合方法であればよく、物理蒸着(PVD)による重合法および化学気相蒸着(CVD)による重合法のいずれの方法を用いてもよい。例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法、プラズマ重合法、プラズマCVD法等の蒸着法を利用した重合方法等を用いることができる。上記の中でも、長鎖アルキル基含有化合物の重合体からなる剥離層を良好に形成することのできるイオンアシスト蒸着法を用いることが好ましい。
【0040】
また、上記蒸着重合としては、例えば、減圧容器内に、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の気体の気体を供給し、当該長鎖アルキル基含有化合物を、基材の少なくとも一方の表面側に蒸着させた後、又は、蒸着させたと同時に、イオン照射及びエネルギー線照射から選ばれる少なくとも1種により、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の重合を開始させる重合方法がより好ましい。具体的には、少なくとも下記工程(1)及び(2)を、この順で又は同時に行う蒸着重合であることがより好ましい。
工程(1):減圧した容器内に、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の気体を供給して、基材の少なくとも一方の表面側に蒸着させる工程。
工程(2):減圧した容器内で、イオン照射及びエネルギー線照射から選ばれる少なくとも1種により、上記ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の重合を開始させる工程。
【0041】
〔工程(1)〕
工程(1)では、減圧した容器内に、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の気体を供給して、基材の少なくとも一方の表面側に蒸着させる。
【0042】
工程(1)において、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の気体は、例えば、チャンバー等の減圧可能な容器(以下、単に「減圧容器」ともいう。)外に設けられたるつぼ等の容器(以下、単に「原料容器」ともいう。)内に導入されたラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物(室温で液体又は固体)を蒸発又は気化させたものを、原料供給管等を用いて、減圧容器内に供給してもよい。あるいは、減圧容器内に設けられた原料容器内に導入されているラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物(室温で液体又は固体)を蒸発又は気化させ、直接、または原料供給管等を介して、減圧容器内に導入してもよい。
【0043】
上記減圧容器は、蒸着重合で用いられる公知の真空容器を用いることができる。また、上記原料容器の開口部または上記原料容器に連結している原料供給管の出口を、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着させる基材の表面側に向けることで、当該長鎖アルキル基含有化合物の放出方向を制御することもできる。すなわち、当該方法を用いることで、基材表面へのラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸着部分を制御することもできる。上記原料供給管は、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の排出量を制御するためのバルブ機構等を備えていてもよい。
【0044】
ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸発又は気化は、例えば、加熱等によって行うことができる。ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の加熱方法は、特に制限はなく、公知の加熱方法を用いることができる。加熱温度としては、用いるラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物によって、適宜設定可能であるが、当該長鎖アルキル基含有化合物が熱分解しない温度であることが好ましい。上記加熱温度は、例えば、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸発速度を速めて所定の膜厚とするまでの時間を短縮できる観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。一方、材料の熱劣化を抑制する観点から、好ましくは500℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。
【0045】
工程(1)における、減圧した容器内の圧力(真空度)としては、剥離層を蒸着重合で形成できる限り、特に制限はないが、好ましくは2.0×10-5Torr以下、より好ましくは1.5×10-5Torr以下、さらに好ましくは1.0×10-5Torr以下である。真空度をこのように設定することにより、減圧容器内に存在する、剥離層を形成する原料以外の吸着ガス成分が剥離層に混入する確率が低くなり、より良質な剥離層が得られ易くなる。
【0046】
〔工程(2)〕
工程(2)では、減圧した容器内で、イオン照射及びエネルギー線照射から選ばれる少なくとも1種により、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の重合を開始させる。ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物に対して、イオン及びエネルギー線から選ばれる少なくとも1種が作用することにより、当該長鎖アルキル基含有化合物分子内のラジカル重合性官能基が活性化され、当該長鎖アルキル基含有化合物の重合が開始する。
【0047】
上記イオンとしては、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の重合が開始できるものであれば、特に制限はないが、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、酸素、又は二酸化炭素をイオン化したものが挙げられる。中でも、長鎖アルキル基含有化合物の重合体からなる剥離層が剥離性に優れる観点から、アルゴン、ヘリウム及びネオンからなる群より選ばれる1種以上のイオンを用いることが好ましい。
【0048】
上記イオンとしては、公知のイオン発生装置を用い、各分子の気体をイオン化したものを用いることができる。イオン発生装置としては、例えば、外側にタングステンフィラメントからなる陰極を、内側にグリッド状の陽極を配置し、イオンの原料となる気体を内部に充填できる電子発生装置等が挙げられる。かかる電子発生装置においては、陰極のタングステンフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、当該熱電子がグリッド状の陽極へ向かうように電圧を印加し、熱電子を気体に衝突させることによって、当該気体をイオン化することができる。
【0049】
また、例えば、各気体のうちプラズマ化できる原料を、プラズマ発生装置等により電離させてプラズマを発生させ、対象となるイオン(例えば、アルゴンプラズマから、アルゴンイオン(Ar+))を取り出し、当該イオンを用いてもよい。
【0050】
上記のように発生させたイオンは、後述するようにイオン加速電圧を印加することで、基材表面に照射してもよい。また、公知のイオン銃やプラズマ銃といった装置から照射したイオンを用いることもできる。
【0051】
上記エネルギー線としては、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物のラジカル重合が開始できるものであれば、特に制限はないが、例えば、公知のγ線、電子線、紫外線等が挙げられる。
【0052】
上記のイオン照射及びエネルギー線照射においては、イオン発生装置又はエネルギー線発生装置のイオン照射部又はエネルギー線照射部を、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物を蒸着させる基材の表面側、すなわち、基材表面に蒸着したラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸着面に向けて、イオン又はエネルギーを照射することが好ましい。
【0053】
剥離層を形成するラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の特性等によって、工程(2)におけるイオン照射条件は、適宜選択することができるが、一態様として、上記イオン照射は、イオンに対し電圧(イオン加速電圧)を印加して、イオンを加速させて行うことが好ましい。当該イオン加速電圧は、特に制限はないが、剥離力および剥離層の膜強度の観点から、好ましくは0.1kV以上、より好ましくは0.2kV以上、特に好ましくは0.3kV以上、さらに好ましくは0.5kV以上である。また、同じく剥離力の観点から、好ましくは10.0kV以下、より好ましくは5.0kV以下、特に好ましくは3.0kV以下、さらに好ましくは2.0kV以下である。
【0054】
イオン加速電圧を印加する方法は、特に制限はないが、例えば、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物が蒸着する基材の表面側に向けて、加速されたイオンがより照射され易くなる観点から、当該基材を保持するための基板ホルダーに対して電圧を印加することによって行うことが好ましい。基材を保持するための基板ホルダーは、減圧容器内に設けられ、電圧が印加可能な基板ホルダーを用いることが好ましく、さらに、温度調節が可能な基板ホルダーを用いることもできる。また、当該基板ホルダーは、固定式であってもよいし、連続製造可能なように、回転ドラムやコンベア等のように一定速度で移動するものであってもよい。連続製造時には、基板ホルダー上に、例えば、長尺の樹脂シート(原反)等を保持しながら運転することで、長尺の剥離シートを製造してもよい。
【0055】
工程(2)のイオン照射は、低剥離力および剥離層の膜強度の観点から、基材上に蒸着したラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸着面積1cm2あたり、イオン照射量が0.01μA/cm2以上となる条件で行うことが好ましい。同様の観点から、イオン照射量は、より好ましくは0.05μA/cm2以上、特に好ましくは0.2μA/cm2以上、さらに好ましくは0.4μA/cm2以上である。また、副反応の抑制の観点から、上記イオン照射量は、好ましくは1000μA/cm2以下、より好ましくは500μA/cm2以下、特に好ましくは200μA/cm2以下、さらに好ましくは100μA/cm2以下である。なお、イオン照射量は変動するため、イオン照射量の変動範囲の最大値を、「イオン照射量」とする。
【0056】
工程(2)において、イオン照射を行うにあたりイオン源となる気体を減圧した容器内に導入する場合、減圧した容器内の圧力(真空度)としては、剥離層を蒸着重合で形成できる限り、特に制限はないが、例えば、減圧容器を減圧するための設備への負荷を低減する観点から、好ましくは5.0×10-5Torr以下、より好ましくは4.0×10-5Torr以下、特に好ましくは3.0×10-5Torr以下である。また、当該圧力の下限値の範囲は、特に制限はないが、剥離層をより形成し易くする観点から、好ましくは工程(1)における圧力以上であり、より好ましくは2.0×10-5Torr以上である。
【0057】
剥離層を形成するラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の特性等によって、工程(2)におけるエネルギー線の照度、光量等のエネルギー線照射条件などは、適宜選択することができる。
【0058】
剥離層の基材に対する十分な密着性と良好な剥離性を得る観点から、上記工程(1)及び上記工程(2)は、同時に行うことがより好ましい。上記工程(1)及び上記工程(2)を同時に行うことにより、基材の表面に長鎖アルキル基含有化合物が蒸着すると同時にイオン等と衝突して重合が開始されるため、得られる剥離層中に未反応のラジカル重合性官能基及び長鎖アルキル基含有化合物(モノマー)が残存し難くなると考えられる。また、イオン等のエネルギーは、イオン等が衝突する蒸着膜の表面で最も運動エネルギーが伝わるため、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物が活性化され重合反応がより進み易くなる。一方で、蒸着膜の深部(基材側に近い部分)に進むほど、二次、三次衝突した分子の衝突エネルギーとなるために、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の反応に供されるエネルギー量が少なくなる。そのため、工程(1)及び工程(2)を同時に行うことで、イオン等の衝突エネルギーをより有効に利用でき、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の反応が進み易くなり、得られる剥離層内に未反応の長鎖アルキル基含有化合物(モノマー)が、より一層残存し難くなると考えられる。したがって、工程(1)及び工程(2)を同時に行うことで、剥離層の基材に対する十分な密着性と良好な剥離性を示す剥離シートが得られ易くなると考えられる。
【0059】
なお、上記工程(1)及び工程(2)において使用される減圧容器については、特に制限はなく、公知の蒸着重合で使用される真空容器等を用いることができる。また、上記減圧容器は、前述した各種装置の他、必要に応じて、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物の蒸着やイオン等の基材表面への照射を遮断するためのシャッター、蒸着膜や剥離層の厚さを測定するための膜厚モニター、圧力モニター、ニュートラライザー(中和器)、長鎖アルキル基含有化合物トラップ、排気設備等のその他の設備を備えていてもよい。
【0060】
ここで、本実施形態に係る剥離シートにおける剥離層については、上述のとおり、その重合条件等の相違により、得られる剥離層中の長鎖アルキル基含有化合物の重合反応の進行状況にも差が生じると考えられ、その結果、得られる剥離シートの剥離力に差が生じると考えられる。そのため、非常に微視的な観点からは、得られる剥離層の構造にも相違が生じているものと考えられる。しかしながら、得られた剥離層について、その剥離層の構造中の欠陥(未反応部位)の存在等を評価し、その微視的な構造の相違等から区別することは非常に困難であるといえる。また、得られる剥離層が数百nmレベルの薄膜である場合、当該層内の分子中の未反応箇所等を明確に分析・特定することは、現時点では、現実的に困難であるという事情が存在する。したがって、本実施形態に係る剥離シートにおける剥離層を、具体的な化学構造等によって直接特定することが、現時点の技術においては不可能又は非実際的であるため、上記剥離層について、その製造方法(蒸着重合)によって特定しているという事情がある。
【0061】
4.剥離シートの用途
本実施形態に係る剥離シートは、一般的な剥離シートと同様の用途に使用することができる。
【0062】
例えば、本実施形態に係る剥離シートは、粘着シートの製造において使用することができる。この場合、本実施形態に係る剥離シートの剥離面上に、粘着シートの粘着剤層を形成するための粘着性組成物の塗布液を塗布し、乾燥させて粘着剤層を形成する。その後、当該粘着剤層における剥離シートとは反対の面に粘着シート用の基材を積層することで、剥離シート付きの粘着シートを製造することができる。あるいは、上記の通り形成した粘着剤層における剥離シートとは反対の面に、別の剥離シート、好ましくは本実施形態に係る剥離シートの剥離面を貼合することで、2枚の剥離シートとそれらの間に積層された粘着剤層とからなる両面粘着シートを製造することもできる。また、製造された粘着シートは、剥離シートが貼付された状態で保管することにより、粘着シートの粘着面を剥離シートにより保護することもできる。
【0063】
また、本実施形態に係る剥離シートは、セラミックグリーンシートを製造するために使用することもできる。例えば、剥離シートの剥離面に対し、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを塗工した後、当該セラミックスラリーを乾燥させることで、剥離シートの剥離面上にセラミックグリーンシートを形成することができる。
【0064】
さらに、本実施形態に係る剥離シートは、各種樹脂シート、合成皮革、各種複合材料等のシート材料を製造するときの工程シートとしても使用可能である。例えば、剥離シートの剥離面に樹脂等を流延、塗布等してシート材料を形成する工程にて用いられる工程シートとして使用することができる。
【0065】
本実施形態に係る剥離シートは、剥離層からのシリコーン成分の移行がないため、シリコーン成分による汚染を低減することが望まれる用途、例えば、高い残留接着率の粘着力が必要となる粘着ラベル用の剥離シート、絶縁性のシリコーン成分の移行や低分子シロキサンガスの揮発を嫌う電子部品用ラベルの剥離シート、セラミックグリーンシート形成用の剥離シート等の用途にも好適に用いることができる。
【0066】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0067】
例えば、剥離シートにおける基材における剥離層の反対側の面や、基材と剥離層との間には、帯電防止層等の他の層が設けられてもよい。
【実施例0068】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1〕
基材として、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製,製品名「ダイアホイル(登録商標)T100」)を用意し、当該基材を、減圧容器であるチャンバー内の基板ホルダー上に保持した。一方、上記チャンバー内に設けられた原料容器であるるつぼ内に、ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物としてのステアリルメタクリレート(東京化成工業社製)を供給した。その後、上記チャンバー内の真空度を1.0×10-5Torrまで減圧した。
【0070】
次に、上記るつぼを120℃に加熱して、当該るつぼ内に供給したステアリルメタクリレートを蒸発させた。蒸発したステアリルメタクリレートは、上記るつぼから上記基材の一方の表面に向けて放出されるようになっており、この操作により、上記基材表面上にステアリルメタクリレートを蒸着した。
【0071】
一方、上記チャンバー内に設けられた、外側にタングステンフィラメントからなる陰極、内側にグリッド状の陽極が配置され、内部がアルゴンガスで充満される電子発生装置を用いて、上記チャンバー内の真空度が2.0×10-5Torrになるようにアルゴンガスを導入した。その後、上記タングステンフィラメントを加熱し、加熱したタングステンフィラメントから発生した熱電子が上記グリッド状の陽極へ向かうように電圧を印加した。この操作によりアルゴンガスをイオン化した。
【0072】
さらに、上記基材を保持する基板ホルダーに所定電圧(基板電圧(イオン加速電圧))を印加した。このようにして、基材表面に蒸着されるステアリルメタクリレートに対してイオン照射を行った。当該イオン照射のイオン照射量は、電子発生装置の熱電子量を制御することで調整した。基板電圧および蒸着面積1cm2あたりのイオン照射量は、下記表1の通りとした。
【0073】
上記基材表面へのステアリルメタクリレートの蒸着と、イオン照射とを同時に行うことで、基材表面上でステアリルメタクリレートを重合(蒸着重合)させ、厚さ8nmの剥離層を形成した。このようにして、基材および剥離層からなる剥離シートを得た。
【0074】
なお、基材の厚さは、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02J」)を使用し、JIS K6783:1994、JIS Z1702:1994およびJIS Z1709:1995に準拠して測定した。また、剥離層の厚さは、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製,製品名「M-2000」)を用いて測定した。
【0075】
〔実施例2~4〕
蒸着を行う時間を調整することにより、形成される剥離層の厚さを表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0076】
〔実施例5~7〕
基板電圧およびイオン照射量を表1に記載の通り変更するとともに、剥離層の厚さを表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0077】
〔実施例8〕
ラジカル重合性官能基を有する長鎖アルキル基含有化合物として、ステアリルメタクリレートに替えてドコシルアクリレート(東京化成工業社製)を使用するとともに、剥離層の厚さを表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0078】
〔実施例9〕
基板電圧を表1に記載の通り変更した以外は、実施例8と同様にして剥離シートを製造した。
【0079】
〔比較例1〕
イオン照射量を0kVに変更するとともに、剥離層の厚さを表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0080】
〔比較例2〕
ステアリルメタクリレートに替えて1-ドコセン(東京化成工業社製)を使用するとともに、剥離層の厚さを表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0081】
〔比較例3〕
ステアリルメタクリレートに替えてテトラコンタン(東京化成工業社製)を使用するとともに、剥離層の厚さを表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0082】
〔試験例1〕(剥離力の測定)
実施例および比較例で得られた剥離シートを、23℃、50%RHの環境下で1日以上保管したものを試験対象の剥離シートとした。当該剥離シートについて、その剥離面に、幅20mmの粘着テープ(日東電工社製,製品名「No.31B」)を、2kgローラーを1往復させて貼付した後、23℃、50%RHの環境下で30分静置し、これを剥離力測定用のサンプルとした。当該サンプルを万能引張試験機(島津製作所製,製品名「オートグラフAGS-20NX」)に固定し、JIS K6854:1999に準拠して、180°方向に引張速度0.3m/分の速度で剥離層から粘着テープを剥離させることにより、剥離シートの剥離力(mN/20mm)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0083】
〔試験例2〕(剥離層の硬化性評価)
実施例および比較例で得られた剥離シートの剥離面を指で擦り、剥離層の脱落および曇り発生の有無を目視により確認した。そして、以下の基準に基づき、剥離層の硬化性を評価した。結果を表1に示す。
◎…剥離層の脱落も曇り発生もなかった。
〇…剥離層は脱落しなかったが、曇りは発生した。
×…剥離層が未硬化であったか、脱落した。
【0084】
【0085】
表1から明らかなように、実施例で得られた剥離シートは、比較的低い剥離力を発揮した。また、実施例で得られた剥離シートの剥離層は、良好に硬化していた。