(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000719
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】バッター生地加熱食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20231226BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20231226BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20231226BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20231226BHJP
【FI】
A21D2/18
A23L29/269
A23L29/256
A23L29/238
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099581
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】上垣外 雪絵
【テーマコード(参考)】
4B032
4B041
【Fターム(参考)】
4B032DB06
4B032DB10
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK42
4B032DK47
4B032DL01
4B032DP08
4B032DP40
4B041LC03
4B041LD01
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4B041LK01
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4B041LK37
4B041LK38
4B041LK50
4B041LP01
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】本発明は、ふんわりと柔らかく、口溶けが良好なバッター生地加熱食品を得ることができる、バッター生地加熱食品の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】バッター生地の原料の一部を用いて特定の条件を満たす比重を有する含気生地を調製した後に、含気生地と卵液以外の残りの原料とを混合して特定の条件を満たす比重を有する前生地とし、さらに卵液と混合してバッター生地とすることにより上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)~(4)を含み、工程(1)における下記条件(i)~(iii)及び工程(2)における条件(iv)を満たす、バッター生地加熱食品の製造方法。
工程(1):非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む粉原料と、水、乳及びこれらの混合物からなる群から選択される液体原料と、を混合して含気生地を得る工程
条件(i):非α化澱粉質原料の量が、液体原料100質量部に対して2~45質量部
条件(ii):混合終了1分後における含気生地の比重(X)が0.90g/ml以下
条件(iii):混合終了5分後における含気生地の比重(Y)が0.90g/ml以下
工程(2):前記含気生地と、残余の粉原料と、を混合して前生地を得る工程
条件(iv):混合終了1分後の前生地の比重(Z)が1.00g/ml以下
工程(3):前記前生地と卵液とを混合してバッター生地を得る工程
工程(4):前記バッター生地を加熱する工程
【請求項2】
前記増粘剤が、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸エステル、アルギン酸ナトリウム、タマリンドシードガム、ウェランガムからなる群から選択される1以上を含む、請求項1に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
【請求項3】
前記増粘剤が、工程(1)に用いる液体原料100質量部に対して1.5質量部以下のα化澱粉質原料を更に含む、請求項2に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
【請求項4】
工程(2)における前記残余の粉原料が、工程(1)における前記非α化澱粉質原料を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のバッター生地加熱食品の製造方法に使用するためのキットであって、
非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む含気生地用組成物と、
残余の粉原料を含む前生地用組成物と、
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッター生地加熱食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンケーキは、小麦粉、牛乳、砂糖、卵、膨張剤等を混ぜ合わせて、フライパンの上で手軽に焼くことができ、非常に親しまれている代表的なお菓子の一種である。そして、牛乳、卵以外の原料を予め混合したパンケーキミックスが市販されており、家庭で手軽に美味しいパンケーキを作ることができる。従来、パンケーキミックスを使用する場合、パンケーキミックスに牛乳や卵などを加え、焼成する作り方が一般的である。さらにふんわりしたパンケーキを焼こうとすると、メレンゲを用意する等、別の工程や材料の準備が必要であった。
【0003】
柔らかく口溶けの良いパンケーキを得るために種々検討されている。
特許文献1では乳化剤として植物性ステロール及びレシチンを含有することを特徴とするベーカリー製品用ミックス(請求項1)が開示されており、ソフトで軽い食感を有するベーカリー食品が得られたことが記載されている。
【0004】
特許文献2では穀粉類を主体とする生地原料に、少なくともゲル化剤と乳蛋白質と水とで構成される複合体を、上記穀粉類100質量部に対し1~30質量部混練してなることを特徴とするホットケーキ類生地(請求項1)が開示されており、ホットケーキ類生地を焼成または蒸すことにより、ソフトで、かつ歯切れの良いホットケーキ類が得られたことが記載されている。
【0005】
特許文献3では、湿熱処理した小麦粉であって、α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が、1Pa・s以上、10Pa・s以下であることを特徴とするベーカリー類用湿熱処理小麦粉(請求項1)が開示されており、ボリュームを向上させ、内層のキメが細かく、柔らかく、しっとり感および口溶け感に優れたパンケーキが得られたことが記載されている。
【0006】
何れも優れた技術ではあるが、更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-84962号公報
【特許文献2】特開2005-304373号公報
【特許文献3】特開2008-92941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ふんわりと柔らかく、口溶けが良好なバッター生地加熱食品を得ることができる、バッター生地加熱食品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、バッター生地の原料の一部を用いて特定の条件を満たす比重を有する含気生地を調製した後に、含気生地と卵液以外の残りの原料とを混合して特定の条件を満たす比重を有する前生地とし、さらに卵液と混合してバッター生地とすることで、柔らかく、口溶けが良好なバッター生地加熱食品を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕下記工程(1)~(4)を含み、工程(1)における下記条件(i)~(iii)及び工程(2)における条件(iv)を満たす、バッター生地加熱食品の製造方法。
工程(1):非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む粉原料と、水、乳及びこれらの混合物からなる群から選択される液体原料と、を混合して含気生地を得る工程
条件(i):非α化澱粉質原料の量が、液体原料100質量部に対して2~45質量部
条件(ii):混合終了1分後における含気生地の比重(X)が0.90g/ml以下
条件(iii):混合終了5分後における含気生地の比重(Y)が0.90g/ml以下
工程(2):前記含気生地と、残余の粉原料と、を混合して前生地を得る工程
条件(iv):混合終了1分後の前生地の比重(Z)が1.00g/ml以下
工程(3):前記前生地と卵液とを混合してバッター生地を得る工程
工程(4):前記バッター生地を加熱する工程
〔2〕前記増粘剤が、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸エステル、アルギン酸ナトリウム、タマリンドシードガム、ウェランガムからなる群から選択される1以上を含む、前記〔1〕に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
〔3〕前記増粘剤が、工程(1)に用いる液体原料100質量部に対して1.5質量部以下のα化澱粉質原料を更に含む、前記〔2〕に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
〔4〕工程(2)における前記残余の粉原料が、工程(1)における前記非α化澱粉質原料を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
〔5〕前記〔1〕~〔4〕に記載のバッター生地加熱食品の製造方法に使用するためのキットであって、
非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む含気生地用組成物と、
残余の粉原料を含む前生地用組成物と、
を含む、キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ふんわりと柔らかく、口溶けが良好なバッター生地加熱食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、下記工程(1)~(4)を含み、工程(1)における下記条件(i)~(iii)及び工程(2)における条件(iv)を満たす、バッター生地加熱食品の製造方法に関する。
工程(1):非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む粉原料と、水、乳及びこれらの混合物からなる群から選択される液体原料と、を混合して含気生地を得る工程
条件(i):非α化澱粉質原料の量が、液体原料100質量部に対して2~45質量部
条件(ii):混合終了1分後における含気生地の比重(X)が0.90g/ml以下
条件(iii):混合終了5分後における含気生地の比重(Y)が0.90g/ml以下
工程(2):前記含気生地と、残余の粉原料と、を混合して前生地を得る工程
条件(iv):混合終了1分後の前生地の比重(Z)が1.00g/ml以下
工程(3):前記前生地と卵液とを混合してバッター生地を得る工程
工程(4):前記バッター生地を加熱する工程
【0013】
(1)非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む粉原料と、水、乳及びこれらの混合物からなる群から選択される液体原料と、を混合して含気生地を得る工程
(1-1)非α化澱粉質原料
非α化澱粉質原料とは、α化(糊化)処理をしていない澱粉質原料のことであり、澱粉質原料とは、穀粉類及び穀粉類から精製された生澱粉類のことである。
「穀粉類」とは、普通小麦、デュラム小麦、米、ライ麦、大麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の穀粉;馬鈴薯、里芋、キャッサバあるいは甘藷、山芋等の穀物に準ずる主食となる農作物である塊茎粉あるいは塊根粉などをいう。
「生澱粉類」とは、穀物、塊茎、塊根、樹幹等及びそれらのワキシー種又はハイアミロース種から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、及びそれらのワキシー澱粉並びにハイアミロース澱粉)をいう。生澱粉類には、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理、熱処理、酵素処理等並びにそれらを組合せて処理を行った加工(変性)澱粉類は含まれない。
これらの非α化澱粉質原料は、いずれか1種又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明において、非α化澱粉質原料は、小麦粉を主体とし、所望する食味や食感あるいは製造における作業性を考慮して小麦粉以外の穀粉類及び/又は生澱粉類を使用することができる。そのような場合、非α化澱粉質原料における小麦粉の含有率は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。非α化澱粉質原料は、より好ましくは全量が小麦粉であり、小麦粉は薄力粉、中力粉、強力粉のいずれでもよいが、薄力粉又は中力粉であることが好ましい。
【0014】
(1-2)増粘剤
本発明に用いる増粘剤としては特に限定はなく、含気生地の比重を小さくし、小さくなった比重を維持できるものであれば何れも適用することができる。そのような増粘剤としてはグアーガム、キサンタンガム、アルギン酸エステル、アルギン酸ナトリウム、タマリンドシードガム、ウェランガム等が挙げられ、好ましくはグアーガム、キサンタンガム、アルギン酸エステルである。
【0015】
増粘剤は、上記のものに加え、α化澱粉質原料を更に含んでいてもよい。α化澱粉質原料を用いることにより、混合直後の含気生地の比重が小さくなり、且つ、泡立ちの減少に伴う経時的な比重の増加が抑制され、バッター生地加熱食品の食感をより優れたものとすることができる。
α化澱粉質原料とは、α化(糊化)処理を施した澱粉質原料のことであり、穀粉類又は生澱粉類もしくは加工澱粉類を水とともに加熱することで得られる糊化した穀粉類(α化穀粉類)及び澱粉類(α化澱粉類)のことである。α化澱粉質原料は、いずれか1種又は2種以上を混合して使用することができる。糊化した穀粉類及び/又は澱粉類を乾燥させ粉砕し粉末状にしたものが使い勝手がよいため、本発明においては粉末状のものを使用する。α化度は80%以上であることが好ましく、85%であることがより好ましく、95%以上であることがよりさらに好ましい。発明において使用するα化澱粉質原料としては上記公知の方法により製造したものでも良く、また市販品を使用してもよく、そのような市販品としてアミコールKF(日澱化学株式会社製)、アミコールHF(日澱化学株式会社製)、アミコールC(日澱化学株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
(1-3)粉原料
含気生地を得る工程(1)で使用する粉原料は、非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む。工程(1)で使用する粉原料は、バッター生地加熱食品の種類に応じて、エーテル化澱粉やアセチル化澱粉等の加工澱粉、膨張剤、調味料(例えば、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、カツオパウダーなどの粉末調味料食物繊維、保存料、香料、色素、香辛料、ビタミン、カルシウム等の強化剤などを更に含んでいてもよい。
【0017】
(1-4)液体原料
含気生地を得る工程(1)で使用する液体原料は、水、乳及びこれらの混合物からなる群から選択される。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、ミネラルウォーター等が挙げられる。乳としては、牛乳、山羊乳、めん羊乳等の畜乳が挙げられ、生乳であっても殺菌乳(低温殺菌乳、高温殺菌乳、超高温殺菌乳)であってもよく、成分無調整乳であっても成分調整乳であってもよく、加工乳であってもよい。より具体的には、生牛乳、殺菌牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工牛乳等が挙げられる。
含気生地を得る工程(1)で使用する液体原料の量は特に制限されるものではなく、バッター生地加熱食品の製造に用いる液体原料の全量又は一部であってもよい。ふんわりと柔らかく口溶けの良いバッター生地加熱食品を得る観点から、工程(1)で用いる液体原料の割合は、バッター生地加熱食品の製造に用いる液体原料の60質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは全量である。
【0018】
(1-5)含気生地を得る工程
本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む粉原料と液体原料とを混合して含気生地を得る工程(1)を含む。「含気生地」とは生地中に気体が包含されるように原料を混合し得られる生地である。含気の方法は特に制限がなく、気体を巻き込ませるように混合撹拌する方法や、ポンプ等で空気を強制的に吹き込みながら撹拌する方法など、各種の方法で行うことができる。ホイッパーなど使用し手作業で混合してもよく、混合機を使用してもよい。混合機としては、ハンドミキサー、モンドミキサー、オーバーミキサーなどを使用することができる。例えば、ハンドミキサーを用いる場合、回転速度は、300rpm/分以上、400以上、又は500rpm/分であってもよく、800rpm/分以下、700rpm/分以下、又は600rpm/分以下であってもよく、混合時間は、1秒以上、5秒以上、10秒以上、又は30秒以上であってもよく、10分以下、5分以下、3分以下、又は2分以下であってもよい。
【0019】
(1-6)条件(i)~(iii)
条件(i)
本発明において、工程(1)で用いる非α化澱粉質原料の量は、工程(1)で用いる液体原料100質量部に対して2~45質量部であり、好ましくは2.5~35質量部であり、より好ましくは3~33質量部であり、更に好ましくは5~30質量部であり、より更に好ましくは10~25質量部である。含気生地を調製するとき、液体原料に対して非α化澱粉質原料の量が少なすぎると原料を混合撹拌しても生地が泡立たず好ましくなく、また、非α化澱粉質原料の量が多すぎると生地が硬くなり気体を包含することができず好ましくない。
【0020】
条件(ii)
前記工程により得られた含気生地において、混合1分後の含気生地の比重(X)は、0.90g/ml以下であり、好ましくは0.85g/ml以下であり、より好ましくは0.80g/ml以下であり、更に好ましくは0.75g/ml以下である。
【0021】
条件(iii)
前記工程により得られた含気生地において、混合5分後の含気生地の比重(Y)は、0.90g/ml以下であり、好ましくは0.85g/ml以下であり、より好ましくは0.80g/ml以下であり、更に好ましくは0.75g/ml以下である。
【0022】
条件(i)~(iii)を満たせば、ふんわりと柔らかく、口溶けが良好なバッター生地加熱食品を得ることができる。
【0023】
このように含気生地の比重が経時的に変化し難くするためには増粘剤の作用が欠かせない。ところで、前述のように増粘剤は多糖類性やタンパク質性等に区別されるが、一般に個々の増粘剤の性状により得られる含気生地の粘度や泡立性は異なる。例えば、条件(ii)及び(iii)の比重を満たす含気生地を得るために、グアーガムであれば液体原料100質量部に対して0.1~3.0質量部、キサンタンガムであれば0.01~1.1質量部、アルギン酸エステルであれば0.01~1.1質量部を用いればよい。他の増粘剤を用いる場合には、前記増粘剤と同様に、含気生地の比重が条件(ii)及び(iii)を満たすように使用する量を調節すればよい。α化澱粉質原料を追加で用いる場合、α化澱粉質原料の量は、工程(1)で用いる液体原料100質量部に対して好ましくは1.5質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下であり、更に好ましくは0.8質量部以下であり、また、好ましくは0.005質量部以上であり、より好ましくは0.01質量部以上であり、更に好ましくは0.015質量部以上である。前記範囲内であれば、バッター生地加熱食品の食感を更に良好に改良することができる。
【0024】
(2)含気生地と残余の粉原料とを混合して前生地を得る工程
(2-1)前生地を得る工程
本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、工程(1)で得た含気生地と残余の粉原料とを混合して前生地を得る工程(2)を含む。「残余の粉原料」とは、バッター生地の粉原料のうち、含気生地を製造する工程(1)で使用されなかった残りの粉原料をいう。
残余の粉原料として、非α化澱粉質原料(工程(1)で用いたものと同じでも異なるものでもよい)を含んでいてもよい。すなわち、バッター生地を製造するための非α化澱粉質原料の全量の一部を工程(1)において使用し、その残りを工程(2)において使用してもよい。工程(1)と工程(2)における非α化澱粉質原料の質量の割合は、例えば2:63~45:20であり、2.5:62.5~35:30であることが好ましく、3:62~33:32であることがより好ましく、5:60~30:35であることがよりさらに好ましい。
残余の粉原料としては、バッター生地加熱食品の種類に応じて、エーテル化澱粉やアセチル化澱粉等の加工澱粉、膨張剤、調味料(例えば、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、カツオパウダーなどの粉末調味料)、食物繊維、保存料、香料、色素、香辛料、ビタミン、カルシウム等の強化剤などが例示できる。これら残余の粉原料は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。残余の粉原料は、増粘剤(工程(1)で用いたものと同じでも異なるものでもよい)を含んでいてもよい。
【0025】
混合の方法には特に制限はなく、工程(1)と同様に、気体を巻き込ませるように混合撹拌する方法や、ポンプ等で空気を強制的に吹き込みながら撹拌する方法など、各種の方法で行うことができる。ホイッパーなど使用し手作業で混合してもよく、混合機を使用してもよい。混合機としては、ハンドミキサー、モンドミキサー、オーバーミキサーなどを使用することができる。
【0026】
(2-2)条件(iv)
工程(2)で得られた前生地において、混合1分後の前生地の比重(Z)は、1.10g/ml以下であり、好ましくは1.00g/ml以下であり、より好ましくは0.95g/ml以下であり、更に好ましくは0.90g/ml以下である。この範囲内であれば、ふんわりと柔らかく口溶けの良いバッター生地加熱食品を得ることができる。
【0027】
(3)前生地と卵液とを混合してバッター生地を得る工程
本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、工程(2)で得た前生地に卵液を混合してバッター生地を得る工程(3)を含む。卵液としては、全卵、卵白、卵黄のいずれを使用してもよい。
卵液の量は、液体原料100質量部に対して、好ましくは50質量部以下であり、より好ましくは40質量部以下であり、更に好ましくは30質量部以下であり、また、好ましくは10質量部以上であり、より好ましくは15質量部以上であり、更に好ましくは20質量部以上である。前記範囲内であれば、ふんわりと柔らかく口溶けの良いバッター生地加熱食品を得ることができる。
製造するバッター生地加熱食品に応じて、必要により油:醤油、醸造酢等の調味液:オレンジジュース等の農作物の搾り汁:豆乳等の農作物煮汁:かつお出汁、昆布出汁等の海産物の煮汁等の工程(1)で使用する液体原料以外の液状の材料を使用する場合には、含気生地や前生地の比重に影響を与えないように、工程(3)において添加するのが好ましい。
【0028】
(4)バッター生地を加熱する工程
本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、バッター生地を加熱する工程を含む。
バッター生地を加熱する方法は、茹でる、煮る、蒸す、炊くなどの湿式加熱、焼く、揚げる、炒めるなどの乾式加熱、電磁調理器を使う誘導加熱、電子レンジを使う誘電加熱など一般的な加熱調理に用いられる方法の中から選ぶことができる。
【0029】
バッター生地としては例えば、パンケーキ生地、お好み焼き生地、たこ焼き生地、和風スナック生地、ケーキ生地、ワッフル生地、ホットドッグ生地、ドーナツ生地等が挙げられ、それぞれの製品に適した加熱方法で加熱することにより、パンケーキ、お好み焼き、たこ焼き、大判焼や鯛焼き等の和風スナック、ケーキ、ワッフル、ホットドッグ、ドーナツ等が得られる。
【0030】
バッター生地加熱食品が大判焼、鯛焼き、お好み焼き、たこ焼き等、バッター生地以外の具材を含むものである場合には、バッター生地を加熱する工程(4)において、各種の具材を適用することができる。例えば、大判焼きや鯛焼きの場合、そのような具材としては、あんこ、カスタードクリーム、チョコレートクリーム、等が挙げられる。
【0031】
(5)バッター生地加熱食品製造用キット
本発明はまた、上記製造方法に使用するためのキットに関する。
本発明のキットには、バッター生地の原料のうちの粉原料が含まれる。好ましくは、キットは、工程(1)で使用するための、非α化澱粉質原料及び増粘剤を含む含気生地用組成物と、工程(2)で使用するための、残余の粉原料を含む前生地用組成物とを含む。
【実施例0032】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
<製造例1 パンケーキの製造(従来法)>
(a)牛乳100質量部と、小麦粉(ダイヤ、株式会社ニップン製)65質量部、増粘剤0.06質量部、砂糖15質量部、膨張剤1.5質量部を粉体混合したものとをボウルに投入し、ハンドミキサーを用いて560rpm/分の回転速度で1分間含気させながら(泡立てながら)混合して前生地を得た。
(b)(a)で得られた前生地に全卵20質量部を投入し、ゴムベラを用いて十分に混合しバッター生地を得た。
(c)180℃に予熱した鉄板でバッター生地を焼成した。
【0034】
<製造例2 パンケーキの製造(本発明)>
(a)牛乳100質量部と、小麦粉13質量部、増粘剤(キサンタンガム)0.06質量部を粉体混合したものとをボウルに投入し、ハンドミキサーを用いて560rpm/分の回転速度で1分間含気させながら(泡立てながら)混合して含気生地を得た。
(b)(a)の含気生地に小麦粉52質量部、砂糖15質量部、膨張剤1.5質量部を粉体混合したものを投入し、泡だて器を用いて右に10回転、左に10回転混合して前生地を得た。
(c)(b)で得られた前生地に全卵20質量部を投入し、ゴムベラを用いて十分に混合しパンケーキ用バッター生地を得た。
(d)180℃に予熱した鉄板でバッター生地を焼成した。
【0035】
配合表 パンケーキ
*小麦粉は、非α化薄力粉(ダイヤ、株式会社ニップン製)である。
【0036】
<評価例1 パンケーキの官能評価>
製造したパンケーキを10名の熟練パネラーにより下記評価表に従って官能評価を行った。
評価表
【0037】
<評価例2 比重の測定>
比重X:製造例2の工程(a)で得られた含気生地の一部を100ml容メスシリンダーに入れ、混合終了1分後の容積と質量を測定し、比重を求めた。
比重Y:製造例2の工程(a)で得られた含気生地を4分間静置し、上記同様にその一部を100ml容メスシリンダーに入れ、混合終了5分後の容積と質量を測定し、比重を求めた。
比重Z:製造例2の工程(b)で得られた前生地の一部を100ml容メスシリンダーに入れ、混合終了1分後の容積と質量を測定し、比重を求めた。
比重A:製造例1の工程(a)で得られた前生地の一部を100ml容メスシリンダーに入れ、混合終了1分後の容積と質量を測定し、従来のパンケーキ用前生地の比重を求めた。
【0038】
<試験例1 増粘剤の量の検討>
増粘剤の量を表1記載の量にした以外は製造例2に従ってパンケーキを製造し、評価例1に従って評価し評価点数の平均点と標準偏差(SD)を算出した。また、評価例2に従って生地比重を測定した。なお、製造例1(従来法)に従って製造したパンケーキを参考例1とし、その柔らかさと口溶けを3点とした。
その結果、実施例1は参考例1に比べ食感はやわらかく、口溶けがよかった。実施例3は含気生地の泡立ちが良く、パンケーキの食感はやわらかく、口溶けが良かった。比較例1では、含気生地は起泡するが、泡がすぐに消えてしまい、パンケーキの食感は参考例1とあまり変わりがなかった。比較例2はキサンタンガムの量が多すぎたためか、実施例1~5と比べると比重X~Zのいずれも大きく、口溶けがやや物足りないパンケーキであった。
【0039】
表1
*キサンタンガムは、ADM社のノヴァザン200メッシュである。
【0040】
<試験例2 増粘剤の種類の検討>
増粘剤の量を0.3質量部とし、表2記載の増粘剤を用いた以外は製造例2に従ってパンケーキを製造し、評価例1に従って食感を評価した。また、評価例2に従って生地比重を測定した。
その結果、何れの増粘剤を用いても柔らく口溶けの良いパンケーキが得られ、比重X~Zが小さくなるほどより良好になった。増粘剤はその種別によって性質が異なるが、増粘剤の種別に応じて使用する量を適宜調節し、生地内に気泡を保持して生地の比重を小さくすることにより本発明の効果が得られることが考えられた。
【0041】
表2
*キサンタンガムは、ADM社のノヴァザン200メッシュである。
*グアーガムは、タカラゲン社のグアーガムである。
*アルギン酸エステルは、太陽化学社のネオソフトAL-31である。
【0042】
<試験例3 α化澱粉質原料の検討>
増粘剤として、キサンタンガムに加えてα化澱粉を表3記載の量で更に用いて含気生地を得た以外は製造例2に従ってパンケーキを製造し、評価例1に従って評価した。また、評価例2に従って生地比重を測定した。
その結果、実施例8~12の何れにおいてもα化澱粉を使用することによりパンケーキの柔らかさ及び口溶けが良好になった。α化澱粉を2.5質量部用いた比較例3では、実施例3よりも含気生地及び前生地の比重が大きくなり、特に前生地では参考例1の従来の前生地の比重よりもやや低い程度になり、そのためかパンケーキの柔らかさ及び口溶けが実施例3よりも悪くなった。
実施例9よりも実施例10の方が含気生地及び前生地の比重がやや大きくなっており、実施例3、8~10及び比較例3の比重と官能評価との関連から、α化澱粉の使用量の上限はおおよそ牛乳100質量部に対して1.5質量部程度であると見積もられた。
【0043】
表3
*α化澱粉は、α化タピオカ澱粉(日澱化学社のアミコールKF、α化度98%)である。
【0044】
<試験例4 含気生地を得る工程に用いる非α化澱粉質原料の量の検討>
使用する小麦粉(非α化澱粉質原料)65質量部のうち、含気生地を得る工程(a)に用いる小麦粉の量を表4記載の量に変えた以外は製造例2に従ってパンケーキを製造し、評価例1に従って評価した。また、評価例2に従って生地比重を測定した。
実施例3よりも含気生地に用いる小麦粉の量を減らした実施例13では、含気生地と前生地の比重が大きくなり、パンケーキの柔らかさと口溶けは実施例3ほど高評価ではなかったが、参考例1よりは高評価であり、十分に合格レベルであった。実施例3よりも含気生地に用いる小麦粉の量を増加させた実施例14及び15では、その量の増加に伴って含気生地及び前生地の比重が大きくなり、パンケーキの柔らかさと口溶けは実施例3ほど高評価ではなかったが、参考例1よりは高評価であり、合格レベルであった。比較例4では、含気生地に用いる小麦粉が少なすぎたためか含気生地の比重が大きく、また、泡立ちを維持できず経時的に比重が大きくなり、そのためかパンケーキの柔らかさ及び口溶けは満足できるものではなかった。含気生地に小麦粉を52質量部使用した比較例5では、含気生地の比重は小さくなり難くパンケーキの食感は参考例1と同等であった。
【0045】
【0046】
製造例3 ケーキの製造法(従来法)
(a)小麦粉65質量部、グラニュー糖25質量部、脱脂粉乳1.5質量部、塩1.2質量部、ベーキングパウダー2.0質量部、増粘剤(アルギン酸エステル)0.1質量部をボウルに投入し、ハンドミキサーを用いて560rpm/分の回転速度で1分間混合した。
(b)水80質量部を投入し、ハンドミキサーを用いて560rpm/分の回転速度で1分間含気させながら(泡立てながら)混合して前生地を得た。
(c)(b)で得られた前生地に全卵20質量部とサラダ油10質量部とを投入し、ゴムベラを用いて十分に混合しケーキ用バッター生地を得た。
(d)170℃に余熱したオーブンに投入し25分焼成してケーキB(従来のケーキ)を得た。
【0047】
製造例4 ケーキの製造法(本発明)
(a)水80質量部と、小麦粉13質量部、増粘剤(アルギン酸エステル)0.1質量部を粉体混合したものとをボウルに投入し、ハンドミキサーを用いて560rpm/分の回転速度で1分間含気させながら(泡立てながら)混合して含気生地を得た。
(b)(a)の含気生地に小麦粉52質量部、グラニュー糖25質量部、脱脂粉乳1.5質量部、ベーキングパウダー2.0質量部、塩1.2質量部を粉体混合したものを投入し、泡だて器を用いて右に10回転、左に10回転混合して前生地を得た。
(c)(b)で得られた前生地にサラダ油10質量部と全卵20質量部を投入し、ゴムベラを用いて十分に混合しケーキ用バッター生地を得た。
(d)170℃に予熱したオーブンに投入し25分焼成してケーキA(本発明のケーキ)を得た。
【0048】
【0049】
<試験例5 ケーキの検討>
熟練パネラー10名により評価例1に従ってケーキAとケーキBとを官能評価したところ、ケーキA(本発明のケーキ)の方がふんわりと柔らかく、非常に口溶けが良いという評価であった。また、評価例2に従ってケーキAの生地比重を測定した。結果を表5に示す。なお、ケーキBの柔らかさと口溶けを3点とした。
【0050】