IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特開2024-71915コンクリート構造体用充填材積層体、及びコンクリート構造体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071915
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】コンクリート構造体用充填材積層体、及びコンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 14/00 20060101AFI20240520BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240520BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240520BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C04B14/00
E04G23/02 B
B32B27/00 101
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182422
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 高志
(72)【発明者】
【氏名】山崎 理恵
(72)【発明者】
【氏名】桐澤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】入江 博美
【テーマコード(参考)】
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB13
4F100AC10A
4F100AK02B
4F100AK04A
4F100AK25A
4F100AK26A
4F100AK51B
4F100AK52B
4F100AK80A
4F100AR00A
4F100BA02
4F100CC10A
4F100CC10B
4F100EH46A
4F100EH46B
4F100GB07
4F100JB07
4F100JK06
4F100JL09
(57)【要約】
【課題】層間密着性、耐水性、及び耐候性に優れるコンクリート構造体用充填材積層体、及び、該コンクリート構造体用充填材積層体により間隙を充填されたコンクリート構造体を提供することである。
【解決手段】有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有するコンクリート構造体用充填材積層体であって、前記水性塗料が、ポリシロキサン複合樹脂(b)を含有するものであることを特徴とするコンクリート構造体用充填材積層体を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有するコンクリート構造体用充填材積層体であって、前記水性塗料が、ポリシロキサン複合樹脂(b)を含有するものであることを特徴とするコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項2】
前記ポリシロキサン複合樹脂(b)が、ポリウレタン(b1)とビニル重合体(b2)とがポリシロキサン(b3)を介して結合したものである請求項1記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項3】
前記有機無機複合ヒドロゲル層(A)が、水溶性有機モノマーの重合体、水膨潤性粘土鉱物、及び水を含有するものである請求項1記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項4】
前記有機無機複合ヒドロゲル層(A)が、揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm・hr・60℃・1atm以下)である低揮発性溶媒を含有するものである請求項3記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項5】
前記水膨潤性粘土鉱物が、ホスホン酸変性ヘクトライトを含むものである請求項3記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のコンクリート構造体用充填材積層体により間隙を充填されたことを特徴とするコンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体用充填材積層体、及びコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物継目やひび割れに対し、各種の充填材が提案されてきた。しかしながら、複雑形状部や湿潤面では付着自体が難しく、また、構造物の季節変動による伸縮に追従できず、剥離、脆性破壊が生じる問題があった。
【0003】
これらの問題に対し、水溶性有機モノマーの重合体及び水膨潤性粘度鉱物により形成された高分子ヒドロゲルからなるコンクリート構造体用充填材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この充填材は、大気開放条件下で水が蒸散することにより、最終的に脆い材料へと変化し、コンクリート構造体と剥離してしまう問題があった。
【0004】
そこで、大気開放条件下においても柔軟性を長期間保持できるコンクリート構造体用充填材が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/169002号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、層間密着性、耐水性、及び耐候性に優れるコンクリート構造体用充填材積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、有機無機複合ヒドロゲル層の上に特定の水性塗料から得られる塗膜を有するコンクリート構造体用充填材積層体によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有するコンクリート構造体用充填材積層体であって、前記水性塗料が、ポリシロキサン複合樹脂(b)を含有するものであることを特徴とするコンクリート構造体用充填材積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、層間密着性、耐水性、及び耐候性に優れるため、柔軟性を長期間保持可能であり、トンネル、道路、橋梁、軌道、ビル、護岸、上下水道等のコンクリート構造物などに用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有するコンクリート構造体用充填材積層体であって、前記水性塗料が、ポリシロキサン複合樹脂(b)を含有するものである。
【0011】
前記ヒドロゲル層(A)は、柔軟性に優れることから、水溶性有機モノマーの重合体、水膨潤性粘土鉱物、及び水を含有するものが好ましい。
【0012】
前記水溶性有機モノマーの重合体は、水溶性有機モノマーの重合により得られるが、前記水溶性有機モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマー、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマー、ヒドロキシル基を有するアクリルモノマー等が挙げられる。
【0013】
前記(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、メタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0014】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーとしては、例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシメチルアクリレート、エトキシメチルアクリレート等が挙げられる。
【0015】
前記ヒドロキシル基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、溶解性及び得られる有機無機ヒドロゲル層の物性の観点から、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーを用いることが好ましく、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンを用いることがより好ましく、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンを用いることがさらに好ましく、重合が進行しやすい観点から、N,N-ジメチルアクリルアミドが特に好ましい。
【0017】
上述の水溶性有機モノマーは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記水溶性有機モノマーの重合体は、必要に応じて、前記水溶性有機モノマー以外のその他のモノマーを共重合することもできる。
【0019】
前記ヒドロゲル層(A)中の前記水溶性有機モノマーの重合体の含有量は、1~50質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。前記水溶性有機モノマーの重合体の含有量が1質量%以上であると、力学物性に優れるヒドロゲルを得ることができることから好ましい。一方、前記水溶性有機モノマーの重合体(A)が50質量%以下であると、重合前のヒドロゲル前駆体組成物の調製が容易にできることから好ましい。
【0020】
前記水膨潤性粘土鉱物は、上記水溶性有機モノマーの重合体とともに三次元網目構造を形成し、前記ヒドロゲル層の構成要素となる。
【0021】
前記水膨潤性粘土鉱物としては、特に制限されないが、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性雲母等が挙げられる。
【0022】
前記水膨潤性スメクタイトとしては、例えば、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト等が挙げられる。
【0023】
前記水膨潤性雲母としては、例えば、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、ヒドロゲル前駆体組成物の安定性の観点から、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイトを用いることが好ましく、水膨潤性ヘクトライトを用いることがより好ましい。
【0025】
前記水膨潤性粘土鉱物は、天然由来のもの、合成されたもの、および表面を修飾されたものを用いることもできる。表面を修飾された水膨潤性粘土鉱物としては、例えば、ホスホン酸変性ヘクトライト、フッ素変性ヘクトライト等が挙げられるが、得られる有機無機複合ヒドロゲルの強度及び接着性の観点から、ホスホン酸変性ヘクトライトを用いることが好ましい。
【0026】
前記ホスホン酸変性ヘクトライトとしては、例えば、ピロリン酸変性ヘクトライト、エチドロン酸変性ヘクトライト、アレンドロン酸変性ヘクトライト、メチレンジホスホン酸変性ヘクトライト、フィチン酸変性ヘクトライト等を用いることができる。これらのホスホン酸変性ヘクトライトは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
なお、上述の水膨潤性粘土鉱物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記ヒドロゲル層(A)中の水膨潤性粘土鉱物の含有量は、得られるヒドロゲルの力学物性がより向上することから、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、前記ヒドロゲル層中の水膨潤性粘土鉱物の含有量は、ヒドロゲル前駆体組成物の粘度上昇をより抑制することができることから、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、前記ヒドロゲル層(A)は、水以外の有機溶媒を含んでいてもよく、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の力学物性を安定して保持できるヒドロゲルが得られることから、揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm・hr・60℃・1atm以下)のものが好ましく、0.05g以下のものがより好ましく、0.01g以下のものがさらに好ましい。具体的には、水と混和しやすい溶媒が好ましいことからグリセリン(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、ジグリセリン(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、エチレングリコール(0.01g以下/cm・hr・60℃・1atm)、プロピレングリコール(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、ポリエチレングリコール(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)等の揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm・1時間あたり、0.01g以下の多価アルコールが好ましく、グリセリン、ジグリセリンがより好ましい。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの有機溶媒は、本発明の有機無機複合ヒドロゲルに均一に含まれることが望ましい。
【0030】
前記ヒドロゲル層(A)中の水と前記有機溶媒との質量比(水/有機溶媒)は、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の各種物性に優れる有機無機ヒドロゲルが得られることから、60/40~20/80であることが重要であり、50/50~30/70であることが好ましい。
【0031】
前記ヒドロゲル層(A)の製造方法としては、簡便に三次元網目構造を有するヒドロゲルが得られることから、水溶性有機モノマー、水膨潤性粘度鉱物、水、及び、必要に応じて有機溶媒の混合液と、重合開始剤と、重合促進剤とを含むヒドロゲル前駆体組成物中で、前記水溶性有機モノマーを重合させる方法が好ましい。得られた水溶性有機モノマーの重合体は水膨潤性粘土鉱物ととともに三次元網目構造を形成し、ヒドロゲルの構成要素となる。
【0032】
前記重合開始剤は、空気雰囲気下においても、前記水溶性有機モノマーの重合を十分に進行させることができることから、20℃における水への溶解度が50g/100ml以上であることが好ましい。
【0033】
前記重合開始剤としては、例えば、20℃における水への溶解度が50g/100ml以上である水溶性の過酸化物、水溶性のアゾ化合物等が挙げられる。
【0034】
前記水溶性の過酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、t-ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0035】
前記水溶性のアゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、前記水膨潤性粘度鉱物との相互作用の観点から、水溶性の過酸化物を用いることが好ましく、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0037】
なお、前記重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記ヒドロゲル前駆体組成物中の前記水溶性有機モノマーに対する前記重合開始剤のモル比は、空気雰囲気下においても、前記水溶性有機モノマーの重合を十分に進行させることができることから、0.01~0.1の範囲が好ましく、0.01~0.05の範囲がより好ましい。
【0039】
前記重合促進剤としては、例えば、3級アミン化合物、チオ硫酸塩、アスコルビン酸類等が挙げられる。
【0040】
前記3級アミン化合物としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、3-ジメチルアミノプロピオニトリルが挙げられる。
【0041】
前記チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0042】
前記アスコルビン酸類としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウムが挙げられる。
【0043】
これらのうち、水膨潤性粘土鉱物との親和性及び相互作用の観点から、3級アミン化合物を用いることが好ましく、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを用いることがより好ましい。
【0044】
なお、前記重合促進剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記ヒドロゲル前駆体組成物中の前記重合促進剤の含有量は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましい。0.01質量%以上であると、得られるヒドロゲルの有機モノマーの合成を効率よく促進できることから好ましい。一方、1質量%以下であると、前記ヒドロゲル前駆体組成物が重合前に凝集せずに使用することができて、取扱性が向上することから好ましい。
【0046】
前記ヒドロゲル前駆体組成物は、必要に応じて、有機架橋剤、防腐剤、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。
【0047】
前記水溶性有機モノマーの重合温度としては、10~80℃であることが好ましく、20~80℃であることがより好ましい。重合温度が10℃以上であると、ラジカル反応が連鎖的に進行できることから好ましい。一方、重合温度が80℃以下であると、水が沸騰せずに重合できることから好ましい。
【0048】
前記重合時間としては、前記重合開始剤や前記重合促進剤の種類によって異なるが、数十秒~24時間の間で実施される。特に、加熱やレドックスを利用するラジカル重合の場合は、1~24時間であることが好ましく、5~24時間であることがより好ましい。重合時間が1時間以上であると、前記水膨潤性粘土鉱物と前記水溶性有機モノマーの重合物が三次元網目を形成できることから好ましい。一方、重合反応は24時間以内にほぼ完了するので、重合時間は24時間以下が好ましい。
【0049】
前記塗膜(B)は、前記ヒドロゲル層(A)上に水性塗料を塗装することにより得られるものであるが、前記ヒドロゲル層(A)と水性塗料との親和性が優れることから、前記ヒドロゲル層(A)と前記塗膜(B)とは優れた層間密着性を発現する。
【0050】
前記水性塗料は、ポリシロキサン複合樹脂(b)が水性媒体中に溶解又は分散しているものであり、耐候性や耐水性等の耐久性に優れる塗膜が得られる。
【0051】
前記複合樹脂(b)は、ポリシロキサンとその他のポリマーとが共有結合により複合化した樹脂である。
【0052】
前記複合樹脂(b)としては、例えば、親水性基を有するポリウレタン(b1)とビニル重合体(b2)とがポリシロキサン(b3)を介して結合したものが挙げられる。
【0053】
前記複合樹脂(b)中の前記ポリシロキサン(b3)由来の構造の質量割合は、塗膜の耐候性と柔軟性とのバランスがより向上することから、5~65質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0054】
なお、前記ポリシロキサン(b3)由来の構造とは、前記複合樹脂(b)を構成する親水性基を有するポリウレタン(b1)とビニル重合体(b2)との連結部分を構成する主鎖が酸素原子と珪素原子とからなる構造を指す。また、前記ポリシロキサン(b3)由来の構造の質量割合は、前記複合樹脂(b)の製造に使用する原料の仕込み割合に基づき、ポリシロキサン(b3)等の加水分解縮合反応によって生成しうるメタノールやエタノール等の副生成物の生成を考慮し算出した値である。
【0055】
また、前記複合樹脂(b)は、水系媒体中に溶解又は分散するうえで、親水性基を有することが必須である。
【0056】
親水性基は、主として前記複合樹脂(b)の外層を構成するポリウレタン(b1)中に存在することが必須であるが、必要に応じて、前記ビニル重合体(b2)中に存在していても良い。
【0057】
前記親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基、及びノニオン性基を使用できるが、これらの中でもアニオン性基を使用することがより好ましい。
【0058】
また、前記親水性基を有するポリウレタン(b1)と前記ビニル重合体(b2)との質量比(b2/b1)は、塗膜の耐久性と柔軟性とのバランスがより向上することから、20/1~1/20が好ましく、10/1~1/10がより好ましく、5/1~1/5が特に好ましい。
【0059】
前記親水性基を有するポリウレタン(b1)と前記ポリシロキサン(b3)との結合は、例えば、前記親水性基を有するポリウレタン(b1)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(b3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との縮合結合である。また、前記ビニル重合体(b2)と前記ポリシロキサン(b3)との結合は、前記ビニル重合体(b2)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(b3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との縮合結合である。
【0060】
前記親水性基を有するポリウレタン(b1)の数平均分子量は、塗膜の耐久性と柔軟性とのバランスがより向上することから、3,000~100,000が好ましく、5,000~10,000がより好ましい。
【0061】
前記親水性基を有するポリウレタン(b1)としては、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタンを使用することができる。前記親水性基を有するポリウレタン(b1)の有する親水性基は、例えば、前記ポリオールを構成する一成分として、親水性基を有するポリオールを使用することによって、前記親水性基を有するポリウレタン(b1)中に導入することができる。
【0062】
前記親水性基を有するポリウレタン(b1)の製造に使用可能なポリオールとしては、例えば、前記親水性基を有するポリオール及びその他のポリオールを組み合わせ使用することができる。
【0063】
前記親水性基を有するポリオールとしては、例えば、2,2’-ジメチロールプロピオン酸、2,2’-ジメチロールブタン酸、2,2’-ジメチロール酪酸、2,2’-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基を有するポリオールや、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、5[4-スルホフェノキシ]イソフタル酸等のスルホン酸基を有するポリオールを使用することができる。また、前記親水性基を有するポリオールとしては、前記した低分子量の親水性基を有するポリオールと、例えば、アジピン酸等の各種ポリカルボン酸とを反応させて得られる親水性基を有するポリエステルポリオール等を使用することもできる。
【0064】
前記親水性基を有するポリオールと組み合わせ使用可能なその他のポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオール等を使用することができる。
【0065】
前記ポリエーテルポリオールは、本発明の水性塗料に、特に優れた柔軟性を付与することができるため、前記親水性基を有するポリオールと組み合わせ使用することが好ましい。
【0066】
また、前記親水性基を有するポリウレタン(b1)を製造する際に使用するポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造含有ジイソシアネートなどが挙げられる。これらのなかでも、より長期耐候性に優れる塗膜を形成できることから、脂肪族環式構造含有ジイソシアネートが好ましい。これらのポリイソシアネートは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
前記親水性基を有するポリウレタン樹脂(b1)は、前記したような親水性基の他に、必要に応じてその他の官能基を有していてもよく、かかる官能基としては、後述するポリシロキサン(b3)と反応しうる加水分解性シリル基、シラノール基や、アミノ基、イミノ基、水酸基等が挙げられ、なかでも加水分解性シリル基であることが、長期耐候性に優れる塗膜を形成できるため好ましい。
【0068】
前記親水性基を有するポリウレタン(b1)が有していても良い加水分解性シリル基は、加水分解性基が珪素原子に直接結合した官能基であり、例えば、下記の一般式(1)で表される官能基が挙げられる。
【0069】
【化1】
(式中、Rはアルキル基、アリール基またはアラルキル基等の1価の有機基を、Rはハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基またはアルケニルオキシ基である。また、xは0~2の整数である。)
【0070】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。
【0071】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基等が挙げられ、前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0072】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0073】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0074】
前記アシロキシ基としては、例えば、アセトキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、フェニルアセトキシ、アセトアセトキシ等が挙げられ、前記アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ等が挙げられ、前記アルケニルオキシ基としては、例えば、アリルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基等が挙げられる。
【0075】
前記Rは、加水分解によって生じうる一般式ROH等の脱離成分の除去が容易であることから、好ましくはそれぞれ独立してアルコキシ基であることが好ましい。
【0076】
また、前記親水性基を有するポリウレタン(b1)が有していてもよいシラノール基は、水酸基が直接珪素原子に結合した官能基であって、主に前記した加水分解性シリル基が加水分解して生じる官能基である。
【0077】
次に、前記複合樹脂(b)を構成するビニル重合体(b2)について説明する。前記ビニル重合体(b2)は、後述するポリシロキサン(b3)を介して前記親水性基を有するポリウレタン(b1)と結合しうるものである。
【0078】
前記ビニル重合体(b2)の数平均分子量は、塗膜の耐久性と柔軟性とのバランスがより向上することから、3,000~100,000が好ましく、5,000~25,000がより好ましい。
【0079】
前記ビニル重合体(b2)としては、例えば、各種ビニル単量体を重合開始剤の存在下で重合することによって製造したものを使用することができる。
【0080】
前記ビニル単量体としては、前記ポリシロキサン(b3)の有する加水分解性シリル基等と反応しうる官能基を、ビニル重合体(b2)中に導入する観点から、加水分解性シリル基を有するビニル単量体や水酸基を有するビニル単量体等を使用することが好ましい。
【0081】
前記加水分解性シリル基を有するビニル単量体としては、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランもしくは3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等を使用することができ、なかでも、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを使用することが好ましい。
【0082】
また、前記水酸基を有するビニル単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等を使用することができる。
【0083】
前記ビニル単量体としては、前記加水分解性シリル基を有するビニル単量体や水酸基を有するビニル単量体等の他に、必要に応じてその他のビニル単量体を併用しても良い。
【0084】
前記その他のビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の三級アミノ基を有するビニル単量体;N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の二級アミノ基を有するビニル単量体;アミノメチルアクリレート等の一級アミノ基を有するビニル単量体等の塩基性窒素原子含有基を有するビニル単量体;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有ビニル単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和カルボン酸のニトリル類;スチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン等のα-オレフィン類、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するビニル単量体;(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有するビニル単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基及びそのアルコキシ化物含有ビニル単量体;2-アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基を有するビニル単量体;(メタ)アクリロイルイソシアナート等のイソシアナート基及び/またはブロック化イソシアナート基を有するビニル単量体;2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン基を有するビニル単量体;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロペンテニル基を有するビニル単量体;アクロレイン等のカルボニル基を有するビニル単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセチル基を有するビニル単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、もしくはこれらの半エステルまたはこれらの塩等のカルボキシル基を有する単量体などを1種または2種以上使用することができる。
【0085】
前記ポリシロキサン(b3)は、前記親水性基を有するポリウレタン(b1)と前記ビニル重合体(b2)との連結部分を構成するものである。
【0086】
前記ポリシロキサン(b3)は、ケイ素原子と酸素原子とからなる鎖状構造を有するものであって、必要に応じて加水分解性シリル基やシラノール基等を有するものである。前記ポリシロキサン(b3)としては、例えば、下記一般式(2)及び(3)からなる群より選ばれる1種以上の構造を有するポリシロキサンと、アルキル基の炭素原子数が1~3個であるアルキルトリアルコキシシランの縮合物との反応物等が挙げられる。
【0087】
【化2】
【0088】
【化3】
(一般式(2)及び(3)中のRはケイ素原子に結合した炭素原子数が4~12の有機基、R及びRは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を表す。)
【0089】
前記加水分解性シリル基は、加水分解性基が前記ケイ素原子に直接結合した原子団であって、例えば、前記親水性基を有するポリウレタン(b1)の説明の際に例示した一般式(1)に示されるような構造からなるものを使用することができる。
【0090】
前記加水分解性基は、水の影響により水酸基を形成しうるものであって、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられ、なかでもアルコキシ基や置換アルコキシ基であることが好ましい。
【0091】
また、前記シラノール基は、水酸基が前記ケイ素原子に直接結合した原子団を示すものであって、前記加水分解性シリル基が加水分解した際に形成される。
【0092】
また、前記ポリシロキサン(b3)としては、前記したものの他に、必要に応じてメチル基等のアルキル基やフェニル基等を有しているものを使用することができ、例えば、ポリシロキサン(b3)を構成するケイ素原子に、フェニル基等の芳香族環式構造、炭素原子数1~3個を有するアルキル基、及び炭素原子数1~3個を有するアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上が直接結合したものを使用することが、水性樹脂の良好な水分散安定性を維持するうえでより好ましい。
【0093】
前記ポリシロキサン(b3)としては、例えば、後述するシラン化合物を完全にまたは部分的に加水分解縮合して得られるものを使用することができる。
【0094】
前記シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ-n-ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、iso-ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランもしくは3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ-n-ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシランもしくはメチルフェニルジメトキシシラン等のジオルガノジアルコキシシラン類;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシランもしくはジフェニルジクロロシラン等の各種のクロロシラン類や、それらの部分加水分解縮合物等を使用することができ、なかでもオルガノトリアルコキシシランやジオルガノジアルコキシシランを使用することが好ましい。これらシラン化合物は、単独使用でも2種類以上の併用でもよい。
【0095】
また、前記ポリシロキサン(b3)は、複合樹脂(b)を製造する工程において、2段階の反応工程を経ることによって形成することが好ましい。具体的には、前記ビニル重合体(b2)の有する加水分解性基等に、フェニルトリメトキシシラン等の比較的低分子量のシラン化合物を反応させることでポリシロキサン構造を形成し、次いで、該反応物と、メチルトリメトキシシランやエチルトリメトキシシラン等の縮合物とを反応させることによって、ポリシロキサン(b3)からなる構造を形成することができる。これにより、より一層、柔軟性に優れ、かつ耐久性や耐汚染性に優れた塗膜を得ることができる。
【0096】
また、前記水系媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-及びイソプロパノール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール溶剤;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル溶剤;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤、などが挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、または、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましい。
【0097】
前記複合樹脂(b)は、例えば、以下の(I)~(III)の工程によって製造することができる。
【0098】
(I)の工程は、有機溶剤中で、前記したビニル単量体を前記重合開始剤の存在下で重合することによってビニル重合体(b2)の有機溶剤溶液を得る工程である。
【0099】
かかる反応は、例えば、重合開始剤を含む有機溶剤中に、前記ビニル単量体を逐次供給または一括供給し、次いで、攪拌下、20~120℃の範囲で0.5~24時間程度行うことが好ましい。
【0100】
また、(II)の工程は、前記ビニル重合体(b2)の有機溶剤溶液下で前記ビニル重合体(b2)の有する加水分解性シリル基等の反応性官能基と、シラン化合物の有する加水分解性シリル基またはシラノール基との反応と、前記シラン化合物間の加水分解縮合反応とを進行させることによって、ビニル重合体(b2)とポリシロキサン(b3)とが結合した複合樹脂(b’)の有機溶剤溶液を得る工程である。
【0101】
かかる反応は、例えば、(I)の工程に引き続き、前記ビニル重合体(b2)の有機溶剤溶液中に、前記ポリシロキサン(b3)を形成しうる前記シラン化合物を逐次供給または一括供給し、次いで、攪拌下、20~120℃の範囲で0.5~24時間程度行うことが好ましい。
【0102】
(II)の工程は、更に2段階の反応工程を経ることが好ましい。具体的には前記ビニル重合体(b2)の有する加水分解性シリル基またはシラノール基と、前記したフェニルトリメトキシシラン等の比較的低分子量のシラン化合物とを反応させる工程と、次いで、該反応物と、メチルトリメトキシシランやエチルトリメトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン及びエチルトリアルコキシシランを予め縮合させた縮合物とを反応させる工程とを経ることが好ましい。ポリシロキサン(b3)の構造形成を上記のような2段階で行うことで、一層、柔軟性に優れ、かつ耐久性に優れた塗膜を得ることができる。
【0103】
また、(III)の工程は、前記樹脂(b’)と、親水性基を有するポリウレタン(b1)とを混合し加水分解縮合させることにより、前記ビニル重合体(b2)と親水性基を有するポリウレタン(b1)とが前記ポリシロキサン(b3)を介して結合した複合樹脂(b)の有機溶剤溶液を得る工程である。
【0104】
前記反応は、例えば、(II)の工程に引き続き、前記複合樹脂(b)の有機溶剤溶液中に前記親水性基を有するポリオールを含むポリオールと前記ポリイソシアネートとを反応させることによって得られる親水性基を有するポリウレタン(b1)を逐次供給または一括供給し、次いで、攪拌下、20~120℃の範囲で0.5~24時間程度行うことが好ましい。
【0105】
上記の工程(I)~(III)によって得られた複合樹脂(b)の有機溶剤溶液は、下記の工程(IV)によって水性化することが好ましい。
【0106】
工程(IV)は、例えば、(III)の工程に引き続き、前記複合樹脂(b)の有する親水性基を中和し、該中和物を水系媒体中に分散する工程である。
【0107】
前記親水性基の中和は、必ずしも行う必要はないが、前記複合樹脂(b)の水分散安定性を向上する観点から、行うことが好ましい。とりわけ前記親水性基がカルボキシル基やスルホン酸基等のアニオン性基である場合には、それらの全部または一部を、塩基性化合物を用いて中和し、カルボキシレート基やスルホネート基とすることが、水分散安定性を一層向上する上で好ましい。
【0108】
前記中和は、例えば、前記複合樹脂(b)の有機溶剤溶液中に、塩基性化合物等を逐次または一括供給し、攪拌することによって行うことができる。
【0109】
前記中和後、複合樹脂(b)の中和物の有機溶剤溶液中に水系媒体を供給し、次いで、該有機溶剤を除去することによって、前記複合樹脂(b)の水系媒体分散液を製造することができる。
【0110】
前記有機溶剤の除去は、例えば、蒸留によって行うことができる。
【0111】
前記水性塗料中の複合樹脂(b)は、その塗工のしやすさや乾燥性等を向上する観点から、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
【0112】
前記水性塗料には、必要に応じてその他樹脂を含有させることも可能である。かかる樹脂としては、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、シリコン樹脂、あるいはこれらの変性樹脂等が挙げられる。
【0113】
また、前記水性塗料は、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、顔料等の各種の添加剤を含有することができる。
【0114】
前記水性塗料は、必要に応じて硬化剤を使用してもよい。
【0115】
前記硬化剤としては、前記複合樹脂(b)が有する親水性基やシラノール基と反応する官能基を有する化合物を使用することができる。
【0116】
前記硬化剤の具体例としては、シラノール基及び/または加水分解性シリル基を有する化合物、ポリエポキシ化合物、ポリオキサゾリン化合物、ポリカルボジイミド化合物、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。特に、前記複合樹脂としてカルボキシル基またはカルボキシレート基を有するものを使用する場合には、エポキシ基とシラノール基及び/または加水分解性シリル基を有する化合物、ポリエポキシ化合物、ポリオキサゾリン化合物、ポリカルボジイミド化合物を使用する組み合わせとすることが好ましい。
【0117】
前記水性塗料の前記ヒドロゲル層(A)への塗装方法としては、公知各種の塗装方法を用いることができるが、前記ヒドロゲル層(A)が複雑な形状を有する場合にも容易に塗装できることから、刷毛、スプレー、ローラーによる塗装が好ましい。
【0118】
また、前記水性塗料を塗装後、塗膜とする方法としては、常温下で0.5~7日間程度養生する方法が挙げられるが、40~80℃に加温し、養生時間を短縮することもできる。
【0119】
前記水性塗料の塗布量は、前記ヒドロゲル層(A)との層間密着性に優れ、前記ヒドロゲル層(A)からの水の蒸散をより抑制することができることから、塗布量が多く、膜厚を厚く形成できる方が好ましいが、塗布量が多くなると乾燥性が遅くなる場合があることから、0.05~0.5kg/mが好ましい。
【0120】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体の製造方法としては、複雑形状部等にも容易に充填することができ、土木工事現場や建築工事現場等での作業性がより向上することから、前記ヒドゲル前駆体組成物をコンクリート構造体の間隙又は表面上に注入し、間隙内又は表面上で前記有機無機複合ヒドロゲルを生成させ、その上に前記水性塗料を塗装する方法が好ましい。
【0121】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、コンクリートとの親和性により毛細管現象で多孔質に入り密着する。
【0122】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、大気開放条件下においても、層間密着性に優れ、優れた柔軟性を長期間保持可能であることから、各種工業材料に用いることができる。例えば、トンネル、道路、橋梁、軌道、ビル、護岸、上下水道等のコンクリート構造物の充填材として、また、それらの補修材として用いることができる。
【実施例0123】
以下に、本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0124】
(調製例1:ヒドロゲル前駆体組成物(1)の調製)
平底ガラス容器に、純水40g、精製グリセリン63g、ホスホン酸変性合成ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン株式会社製「ラポナイトRDS」)4.8g、ジメチルアクリルアミド(以下、「DMAA」と略記する。)20g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド20mgを入れて、撹拌により均一透明な組成物(1)を調製した。この組成物(1)を水温25℃恒温槽に保持した後の粘度をB型粘度計(東機産業株式会社製「VISCOMETER TV-20」)を用いて測定したところ、50mPa・sであった。
次いで、別の平底ガラス容器に精製グリセリン12.6g、テトラメチルエチレンジアミン(以下、「TEMED」と略記する。)80μLを入れて撹拌し、均一なTEMED溶液を調製した。
200mLのガラスビーカーに前記組成物(1)を全量入れ、そこに過硫酸ナトリウム(以下、「NPS」と略記する。)0.5gを入れて、溶解するまで撹拌した。さらに上記で調製したTEMED溶液を加えていき、均一に混合するまで撹拌を続け、ヒドロゲル前駆体組成物(1)を調製した。
【0125】
(調製例2:ヒドロゲル前駆体組成物(2)の調製)
調製例1で用いたN,N’-メチレンビスアクリルアミド20mgを、ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトアクリレート4EG-A」)0.05gに変更した以外は調製例1と同様にして、ヒドロゲル前駆体組成物(2)を調製した。
【0126】
(合成例1:メチルトリメトキシシランの縮合物(b3’-1)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、メチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」と略記する。)1,421質量部を仕込んで、60℃まで昇温した。次いで、前記反応容器中にiso-プロピルアシッドホスフェート(堺化学株式会社製「A-3」)0.17質量部と脱イオン水207質量部との混合物を5分間で滴下した後、80℃の温度で4時間撹拌して加水分解縮合反応させた。
【0127】
上記の加水分解縮合反応によって得られた縮合物を、温度40~60℃及び40~1.3kPaの減圧下(メタノールの留去開始時の減圧条件が40kPaで、最終的に1.3kPaとなるまで減圧する条件をいう。以下、同様。)で蒸留し前記反応過程で生成したメタノール及び水を除去することによって、数平均分子量1,000のMTMSの縮合物(b3’-1)を含有する液(有効成分70質量%)1,000質量部を得た。
【0128】
なお、前記有効成分とは、MTMS等のシランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)を、縮合反応後の実収量(質量部)で除した値〔シランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)/縮合反応後の実収量(質量部)〕により算出したものである。
【0129】
(合成例2:複合樹脂中間体(b’-1)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(以下、「PnP」と略記する。)125質量部、フェニルトリメトキシシラン(以下、「PTMS」と略記する。)168質量部及びジメチルジメトキシシラン(以下、「DMDMS」と略記する。)102質量部を仕込んで、80℃まで昇温した。
次いで、同温度で、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略記する。)38質量部、ブチルメタクリレート(以下、「BMA」と略記する。)24質量部、ブチルアクリレート(以下、「BA」と略記する。)36質量部、アクリル酸(以下、「AA」と略記する。)24質量部、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「MPTS」と略記する。)4質量部、PnP 54質量部及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(以下、「TBPEH」と略記する。)6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ4時間で滴下した後、更に同温度で2時間反応させることによって、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が10,200のアクリル重合体(b2-1)の有機溶剤溶液を得た
次いで、iso-プロピルアシッドホスフェート(堺化学株式会社製「A-3」)2.7質量部と脱イオン水76質量部との混合物を5分間で滴下し、更に同温度で1時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、アクリル重合体(b2-1)の有する加水分解性シリル基と、前記PTMS及びDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基及びシラノール基とが結合した複合樹脂中間体(b’’-1)を含有する液を得た。
次いで、前記複合樹脂中間体(b’’-1)を含有する液と合成例1で得られたMTMSの縮合物(b3’-1)を含有する液(有効成分70質量%)291質量部とを混合し、更に、脱イオン水49質量部を添加して同温度で16時間撹拌し、加水分解縮合反応させることによって、前記複合樹脂中間体(b’’-1)とMTMSの縮合物(b3’-1)とが結合した複合樹脂中間体(b’-1)を含有する液1,000質量部(不揮発分50質量%)を得た。
【0130】
(合成例3:複合樹脂(b-1)の水分散液の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG-2000」)158質量部、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」と略記する。)66質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。
次いで、温度を80℃に下げ、ジメチロールプロピオン酸(以下、「DMPA」と略記する。)13質量部、ネオペンチルグリコール(以下、「NPG」と略記する。)5質量部、及びメチルエチルケトン(以下、「MEK」と略記する。)121質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。
次いで、温度を50℃に下げ、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、「APTES」と略記する。)30質量部、及びイソプロピルアルコール(以下、「IPA」と略記する。)285質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,400のポリウレタン(a1-1)の有機溶剤溶液を製造した。
次いで、前記ポリウレタン(b1-1)の有機溶剤溶液の全量と前記複合樹脂中間体を含有する液(b’-1)158質量部とを混合し、攪拌下80℃で1時間、加水分解縮合反応させることで、ポリウレタン(b1-1)が有する加水分解性シリル基と、前記複合樹脂中間体(b’-1)が有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。次いで、この液とトリエチルアミン(以下、「TEA」と略記する。)10質量部とを混合することで前記複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、300~10mmHgの減圧下で、40~60℃の条件で4時間蒸留し、生成したメタノールや有機溶媒及び水を除去することで、不揮発分が35質量%の複合樹脂(b-1)の水分散液1,000質量部を得た。
【0131】
(合成例4:複合樹脂(b-2)の水分散液の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG-2000」)122質量部、IPDI 51質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。
次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 10質量部、NPG 4質量部、及びMEK 94質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。
次いで、温度を50℃に下げ、APTES 23質量部、及びIPA 221質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,500のポリウレタン(b1-2)の有機溶剤溶液を得た。
次いで、前記ポリウレタン(b1-2)の有機溶剤溶液の全量と合成例2で得られた複合樹脂中間体(b’-1)を含有する液279質量部とを混合し、攪拌下80℃で1時間加水分解縮合反応させることで、ポリウレタン(b1-2)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(b’-1)の有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。ついで、この液とTEA 14質量部とを混合することで複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、合成例3と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が35質量%の複合樹脂(b-2)の水分散液1,000質量部を得た。
【0132】
(合成例5:複合樹脂(b-3)の水分散液の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、1,6-ヘキサンジオール骨格を有する数平均分子量2,000のポリカーボネートポリオール(宇部興産株式会社製「UH-200」) 123質量部、IPDI 50質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。
次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 10質量部、NPG 4質量部、及びMEK 94質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。
次いで、温度を50℃に下げ、APTES 23質量部、IPA 221質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,300のポリウレタン(b1-3)の有機溶剤溶液を得た。
次いで、前記ポリウレタン(b1-3)の有機溶剤溶液の全量と合成例2で得られた複合樹脂中間体(b’-1)を含有する液279質量部を混合し、攪拌下80℃で1時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(b1-3)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(b’-1)の有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。次いで、この液とTEA 14質量部とを混合することで、前記複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、合成例3と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が35質量%の複合樹脂(b-3)の水分散液1,000質量部を得た。
【0133】
(合成例6:複合樹脂(b-4)の水分散液の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製PTMG-2000) 61質量部、IPDI 26質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。
【0134】
次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 5質量部、NPG 2質量部、及びMEK 47質量部を前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。
次いで、温度を50℃に下げ、APTES 12質量部、及びIPA 110質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,500のポリウレタン(b1-4)の有機溶剤溶液を得た。
次いで、前記ポリウレタン(b1-4)の有機溶剤溶液の全量と合成例2で得られた複合樹脂中間体(b’-1)を含有する液489質量部とを混合し、攪拌下80℃で1時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(b1-4)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(b’-1)の有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。次いで、この液とTEA 16質量部とを混合することで、複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水560質量部とを混合したものを、合成例3と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が35質量%の複合樹脂(b-4)の水分散液1,000質量部を得た。
【0135】
合成例3で得た複合樹脂(b-1)の水分散液を水性塗料(1)として用いた。
【0136】
合成例4で得た複合樹脂(b-2)の水分散液を水性塗料(2)として用いた。
【0137】
合成例5で得た複合樹脂(b-3)の水分散液を水性塗料(3)として用いた。
【0138】
合成例6で得た複合樹脂(b-3)の水分散液を水性塗料(4)として用いた。
【0139】
合成例4で得た複合樹脂(b-2)の水分散液100質量部に、グリセリン5質量部を加え、均一に混合するまで撹拌し、水性塗料(5)を調製した。
【0140】
(実施例1)
モルタル平板(70mm×70mm×20mm)2枚の平面同士が平行になるように並べて、その間に40mm幅のポリプロピレン製スペーサーを2個挿入した。2個のスペーサーの距離を30mm開け、ヒドロゲルを充填する空間を作製して、モルタル板とスペーサー全体とをアルミテープで固定した。この型枠に上記で得たヒドロゲル前駆体組成物(1)110gを流し込み、20分間静置し、有機無機複合ヒドロゲルを作製後、型枠を撤去しH型試験体を得た。H型試験体の有機無機複合ヒドロゲルの上に、上記で得た水性塗料(1)を刷毛で塗布(塗布量:0.3kg/m)し、24時間静置し、コンクリート構造体用充填材積層体(1)、及びコンクリート構造体(1)としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た。
【0141】
[層間密着性の評価]
上記で得たコンクリート構造体(1)のH型試験体を5mm/minの速度で、25%の伸度まで伸張し、その後、同速度で0%の伸度(元の位置)まで伸張を戻した。このサイクルを5回連続繰り返した後、さらに25%の伸度まで伸張し、目視により塗膜外観を観察し、層間密着性を下記の基準により評価した。
○:異常なし
×:塗膜に剥離がみられる
【0142】
[耐水性の評価]
上記で得たコンクリート構造体(1)のH型試験体を23℃の水に24時間浸漬した後、目視により塗膜外観を観察し、耐水性を下記の基準により評価した。
○:異常なし
×:塗膜に剥離がみられる
【0143】
[耐候性の評価]
上記で得たコンクリート構造体(1)のH型試験体を屋外に90日間曝露した後の2枚のモルタル平板間距離を測定し、耐候性を評価した。モルタル平板間距離が曝露前(40mm)に近い程、ヒドロゲルの収縮率が小さく、耐候性は良好である。なお、屋外曝露試験は、大阪府高石市(DIC株式会社堺工場内)にて実施した。
○:モルタル平板間距離が28mm以上
×:モルタル平板間距離が28mm未満
【0144】
(実施例2~7)
実施例1で用いたヒドロゲル前駆体組成物(1)及び水性塗料(1)を表1又は表2の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、コンクリート構造体用充填材積層体、及びコンクリート構造体としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、各性能を評価した。
【0145】
(比較例1)
実施例1で塗布した水性塗料(1)を塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、コンクリート構造体としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、耐候性を評価した。
【0146】
(比較例2)
実施例1で用いた水性塗料(1)を溶剤系塗料(DIC株式会社製「プライアデック T-46NX」)に変更した以外は、実施例1と同様にして、コンクリート構造体用充填材積層体、及びコンクリート構造体としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、各性能を評価した。
【0147】
なお、上記の実施例及び比較例の操作は、屋外曝露試験を除き、23℃、50%RH条件の試験室内で行ったものである。
【0148】
実施例1~5の組成及び評価結果を表1に示す。
【0149】
【表1】
【0150】
実施例6~7及び比較例1~2の組成及び評価結果を表2に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
実施例1~7の本発明のコンクリート構造体用充填材層は、層間密着性、耐水性及び耐候性に優れることが確認された。
【0153】
一方、比較例1は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に塗膜を有さない例であるが、ヒドロゲルの収縮率が大きく、耐候性が不十分であることが確認された。
【0154】
比較例2は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に、溶剤系塗料から得られた塗膜を有する例であるが、層間密着性、耐水性、及び耐候性が不十分であることが確認された。