(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071922
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 131/08 20060101AFI20240520BHJP
C10M 147/04 20060101ALI20240520BHJP
C10M 149/02 20060101ALI20240520BHJP
C10M 153/02 20060101ALI20240520BHJP
C10M 155/02 20060101ALI20240520BHJP
C10M 155/04 20060101ALI20240520BHJP
C10M 139/04 20060101ALI20240520BHJP
C10M 169/06 20060101ALI20240520BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20240520BHJP
C10M 117/00 20060101ALN20240520BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240520BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240520BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240520BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
C10M131/08
C10M147/04
C10M149/02
C10M153/02
C10M155/02
C10M155/04
C10M139/04
C10M169/06
C10M115/08
C10M117/00
C10N50:10
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182437
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】甲嶋 宏明
(72)【発明者】
【氏名】中西 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB14B
4H104BE13B
4H104CD04C
4H104CE01C
4H104CH01C
4H104CJ10C
4H104CJ15C
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA02
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】撥水性および撥油性を改善したグリース組成物が求められている。
【解決手段】基油と、増ちょう剤と、下記式(1)で表されるフッ素含有化合物とを含有する、グリース組成物。
【化1】
(式中、
Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表し、
Rは、複数有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
mは、1~100の整数であり、
nは、Xの価数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、下記式(1)で表されるフッ素含有化合物とを含有する、グリース組成物。
【化1】
(式中、
Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表し、
Rは、複数有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
mは、1~100の整数であり、
nは、Xの価数である。)
【請求項2】
式(1)で表されるフッ素含有化合物の含有量が、グリース組成物の全量基準で、0.01~20.0質量%である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記増ちょう剤が、ウレア系増ちょう剤またはせっけん系増ちょう剤である、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応して用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、請求項4に記載のグリース組成物を用いる潤滑方法。
・工程(I):グリースと式(1)で表されるフッ素含有化合物とを混錬する工程、
・工程(II):得られた組成物を1時間以上保持する工程。
【請求項6】
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、請求項4に記載のグリース組成物を用いる潤滑方法。
・工程(A):式(1)で表されるフッ素含有化合物を含有する溶液に酸または塩基を添加してゾルを形成する工程、
・工程(B):得られたゾルを加熱して溶媒を除去し、ゲルを形成する工程、
・工程(C):得られたゲルとグリースとを混錬する工程。
【請求項7】
下記式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する工程を含む、グリース組成物の製造方法。
【化2】
(式中、
Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表し、
Rは、複数有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
mは、1~100の整数であり、
nは、Xの価数である。)
【請求項8】
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、請求項7に記載の製造方法。
・工程(I):グリースと式(1)で表されるフッ素含有化合物とを混錬する工程、
・工程(II):得られた組成物を1時間以上保持する工程。
【請求項9】
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、請求項7に記載の製造方法。
・工程(A):式(1)で表されるフッ素含有化合物を含有する溶液に酸または塩基を添加してゾルを形成する工程、
・工程(B):得られたゾルを加熱して溶媒を除去し、ゲルを形成する工程、
・工程(C):得られたゲルとグリースとを混錬する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物およびその製造方法、並びにグリース組成物を用いる潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、基油と増ちょう剤とを含む半固体状の潤滑剤であり、例えば、リチウム石けんを増ちょう剤として用いたグリースは、自動車、工作機械、及び建設機械の軸受等に広く用いられている。また、高温下での潤滑寿命が長く、酸化安定性、耐熱性、及び耐水性に優れるグリースとして、ウレア系増ちょう剤を用いたグリースも広く用いられている。
しかしながら、これらのグリースは、水や油が混入することによってその性能が大きく低下することも知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、撥水性および撥油性を改善したグリース組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は下記態様[1]~[9]を提供する。
[1]
基油と、増ちょう剤と、下記式(1)で表されるフッ素含有化合物とを含有する、グリース組成物。
【化1】
(式中、
Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表し、
Rは、複数有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
mは、1~100の整数であり、
nは、Xの価数である。)
[2]
式(1)で表されるフッ素含有化合物の含有量が、グリース組成物の全量基準で、0.01~20.0質量%である、[1]に記載のグリース組成物。
[3]
前記増ちょう剤が、ウレア系増ちょう剤またはせっけん系増ちょう剤である、[1]または[2]に記載のグリース組成物。
[4]
式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応して用いる、[1]~[3]のいずれか一項に記載のグリース組成物。
[5]
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、[4]に記載のグリース組成物を用いる潤滑方法。
・工程(I):グリースと式(1)で表されるフッ素含有化合物とを混錬する工程、
・工程(II):得られた組成物を1時間以上保持する工程。
[6]
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、[4]に記載のグリース組成物を用いる潤滑方法。
・工程(A):式(1)で表されるフッ素含有化合物を含有する溶液に酸または塩基を添加してゾルを形成する工程、
・工程(B):得られたゾルを加熱して溶媒を除去し、ゲルを形成する工程、
・工程(C):得られたゲルとグリースとを混錬する工程。
[7]
下記式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する工程を含む、グリース組成物の製造方法。
【化2】
(式中、
Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表し、
Rは、複数有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
mは、1~100の整数であり、
nは、Xの価数である。)
[8]
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、[7]に記載の製造方法。
・工程(I):グリースと式(1)で表されるフッ素含有化合物とを混錬する工程、
・工程(II):得られた組成物を1時間以上保持する工程。
[9]
下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する、[7]に記載の製造方法。
・工程(A):式(1)で表されるフッ素含有化合物を含有する溶液に酸または塩基を添加してゾルを形成する工程、
・工程(B):得られたゾルを加熱して溶媒を除去し、ゲルを形成する工程、
・工程(C):得られたゲルとグリースとを混錬する工程。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様のグリース組成物は、優れた撥水性および撥油性を有する。そのため、本発明のグリース組成物は、軸受やベアリングなど、各種装置の摺動部の潤滑に好適に使用し得る。また、本発明の一態様によれば、当該グリース組成物の製造方法、当該グリース組成物を用いた潤滑方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
加えて、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
さらに、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
加えて、本明細書に記載された好ましい態様として記載の各種要件は複数組み合わせることができる。
【0008】
〔グリース組成物の構成〕
本発明の一態様のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、上述の式(1)で表されるフッ素含有化合物(本明細書中、単に「フッ素含有化合物」ともいう)とを含有する。以下、グリース組成物の具体的な構成について説明する。
【0009】
<基油>
基油は、グリース組成物に一般的に用いられる基油であればよく、例えば、鉱油であってもよく、合成油であってもよく、鉱油と合成油との混合油を用いてもよい。
【0010】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0011】
合成油としては、例えば、α-オレフィンやその単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL);石炭からフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(CTLワックス(Coal To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(CTL);バイオマスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(BTLワックス(Biomass To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(BTL)等が挙げられる。
【0012】
本発明の一態様で用いる基油の40℃における動粘度としては、好ましくは10~150mm2/s、より好ましくは30~130mm2/s、更に好ましくは50~110mm2/sである。本発明の一態様において、高粘度の基油と、低粘度の基油とを組み合わせて、動粘度を上記範囲に調製した混合基油を用いてもよい。
【0013】
本発明の一態様で用いる基油の粘度指数としては、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。
なお、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2003に準拠して測定又は算出した値を意味する。
【0014】
本発明の一態様のグリース組成物において、基油の含有量は、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、通常55質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、また、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。
【0015】
<増ちょう剤>
本発明のグリース組成物に含まれる増ちょう剤としては、ウレア系増ちょう剤であってもよく、石けん系増ちょう剤であってもよい。また、本発明の一態様のグリース組成物は、ベントナイト、シリカ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびセルロースナノファイバーからなる群から選択される1種以上を増ちょう剤として用いたものであってもよい。
なお、本発明の一態様で用いる増ちょう剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(ウレア系増ちょう剤)
ウレア系増ちょう剤としては、ウレア結合を有する化合物であればよいが、2つのウレア結合を有するジウレアが好ましく、下記一般式(b1)で表される化合物がより好ましい。
R1-NHCONH-R3-NHCONH-R2 (b1)
なお、本発明の一態様で用いるウレア系増ちょう剤は、1種からなるものであってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0017】
上記一般式(b1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示し、R1及びR2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。R3は、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。
【0018】
前記一般式(b1)中のR1及びR2として選択し得る1価の炭化水素基の炭素数としては、6~24であるが、好ましくは6~20、より好ましくは6~18である。
また、R1及びR2として選択し得る1価の炭化水素基としては、飽和又は不飽和の1価の鎖式炭化水素基、飽和又は不飽和の1価の脂環式炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基が挙げられ、飽和又は不飽和の1価の鎖式炭化水素基、もしくは飽和又は不飽和の1価の脂環式炭化水素基が好ましい。
【0019】
1価の飽和鎖式炭化水素基としては、炭素数6~24の直鎖又は分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、オクタデセニル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
1価の不飽和鎖式炭化水素基としては、炭素数6~24の直鎖又は分岐状のアルケニル基が挙げられ、具体的には、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、オレイル基、ゲラニル基、ファルネシル基、リノレイル基等が挙げられる。
【0020】
1価の飽和脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基等のシクロアルキル基;メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1-メチル-プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ペンチルシクロヘキシル基、ペンチル-メチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロアルキル基等が挙げられる。
【0021】
1価の不飽和脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基等のシクロアルケニル基;メチルシクロヘキセニル基、ジメチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基、ジエチルシクロヘキセニル基、プロピルシクロヘキセニル基等の炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロアルケニル基等が挙げられる。
【0022】
1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、ジフェニルメチル基、ジフェニルエチル基、ジフェニルプロピル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基等が挙げられる。
【0023】
前記一般式(b1)中のR3として選択し得る2価の芳香族炭化水素基の炭素数としては、6~18であるが、好ましくは6~15、より好ましくは6~13である。
R3として選択し得る2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基、ジフェニルメチレン基、ジフェニルエチレン基、ジフェニルプロピレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、エチルフェニレン基等が挙げられる。
これらの中でも、フェニレン基、ジフェニルメチレン基、ジフェニルエチレン基、又はジフェニルプロピレン基が好ましく、ジフェニルメチレン基がより好ましい。
【0024】
(石けん系増ちょう剤)
石けん系増ちょう剤としては、1価脂肪酸の金属塩からなる金属石けんであってもよく、1価脂肪酸の金属塩と2価脂肪酸の金属塩とからなる金属コンプレックス石けんであってもよい。
金属石けんとしては、例えば、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、バリウム石けん、アルミニウム石けん等が挙げられる。
金属コンプレックス石けんとしては、例えば、リチウムコンプレックス石けん、カルシ
ウムコンプレックス石けん、バリウムコンプレックス石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等が挙げられる。
【0025】
金属石けん及び金属コンプレックス石けんを構成する1価脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、牛脂脂肪酸、9-ヒドロキシステアリン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、9,10-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、リシノエライジン酸等が挙げられ、炭素数12~24(好ましくは12~18、より好ましくは14~18)の1価飽和脂肪酸が好ましい。
【0026】
金属コンプレックス石けんを構成する2価脂肪酸としては、例えば、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0027】
本発明の一態様のグリース組成物において、増ちょう剤の含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1~40質量%、より好ましくは3~30質量%、更に好ましくは5~25質量%である。
【0028】
<フッ素含有化合物>
本発明の一態様のグリース組成物は、下記式(1):
【化3】
(式中、
Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表し、
Rは、複数のRを有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
mは、1~100の整数であり、
nは、Xの価数である。)で表されるフッ素含有化合物を含有する。
上記式(1)で表されるフッ素含有化合物を配合することで、撥水性および撥油性が向上したグリース組成物となり得る。
【0029】
式(1)中のRfは、アルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子に置き換えたパーフルオロアルキル基であってもよく、アルキル基の水素原子を部分的にフッ素原子に置き換えたポリフルオロアルキル基であってもよい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。なお、上述の基には、構造異性体も含まれる。
【0030】
また、式(1)中のRfは、オキシアルキレン基の水素原子のすべてをフッ素原子に置き換えたパーフルオロオキシアルキレン基であってもよく、オキシアルキレン基の水素原子を部分的にフッ素原子に置き換えたポリフルオロオキシアルキレン基であってもよい。
オキシアルキレン基としては、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシペンチレン基、オキシへキシレン基、オキシヘプチレン基、オキシオクチレン基等が挙げられる。なお、上述の基には、構造異性体も含まれる。
【0031】
式(1)中のRは、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。
Rとして選択し得る、直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基の炭素数は1~30であるが、基油への溶解性をより向上させる観点から、当該アルキル基の炭素数は、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上としてもよい。また、当該アルキル基の炭素数の上限は特に限定されないが、フッ素含有化合物合成時の精製のしやすさの観点から、好ましくは28以下、より好ましくは26以下、更に好ましくは24以下であり、また、22以下、20以下、18以下、16以下、14以下、12以下、10以下、または8以下としてもよい。
なお、Rが複数存在する場合、複数のRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0032】
式(1)中のRとして選択し得る、直鎖または分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。なお、上述の基には、構造異性体も含まれる。
【0033】
式(1)中のRとして選択し得る、直鎖または分岐状のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基(オレイル基)、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。なお、上述の基には、構造異性体も含まれる。
【0034】
式(1)中のXは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であるが、基油への溶解性をより向上させる観点から、炭素原子またはケイ素原子であることが好ましく、ケイ素原子であることがより好ましい。
【0035】
式(1)中のmは、1~100の整数であるが、好ましくは1~50、より好ましくは1~10、更に好ましくは2~5の整数である。また、式(1)中のnは、Xの価数であるが、具体的には、Xが炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子である場合、nは3または4であり、Xが窒素原子、リン原子またはホウ素原子である場合、nは3であり、Xが炭素原子またはケイ素原子である場合、nは4である。
【0036】
本発明の一態様のグリース組成物において、上述のフッ素含有化合物の含有量は、撥水性および撥油性をより向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上であり、グリース組成物の性能を十分に発揮する観点から、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは18.0質量%以下、更に好ましくは16.0質量%以下、より更に好ましくは14.0質量%以下、特に好ましくは12.0質量%以下である。
【0037】
<汎用添加剤>
本発明の一態様のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、上述したフッ素含有化合物には該当せず、一般的なグリース組成物に配合される、汎用添加剤(以下、「汎用添加剤」ともいう)を配合されてなるものであってもよいし、そのような配合添加剤を配合しないものであってもよい。
汎用添加剤としては、例えば、極圧剤、防錆剤、酸化防止剤、潤滑性向上剤、増粘剤、改質剤、清浄分散剤、腐食防止剤、消泡剤、金属不活性剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤等が挙げられる。これらの汎用添加剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
また、本発明の一態様のグリース組成物は、これらの汎用添加剤を複数配合してなるパッケージ添加剤を用いてもよい。
【0038】
これらの汎用添加剤のそれぞれの配合量は、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.05~15質量%である。
また、汎用添加剤の合計配合量は、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~40質量%、より好ましくは0.1~35質量%である。
【0039】
また、本発明の一態様のグリース組成物は、式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応して用いる。当該架橋反応を行うことで、フッ素含有化合物がグリース組成物中に架橋構造(ネットワーク構造)を形成し、グリースの撥水性および撥油性を高めることができる。
このような態様のグリース組成物は、グリース組成物中に形成される架橋構造等を直接特定することが困難であるか、またはおよそ実際的ではない場合がある。このような場合には、本発明の一態様のグリース組成物は、その製造方法によって特定することが許されるべきである。
本発明の一態様である、式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応して用いるグリース組成物は、具体的には、以下に説明する架橋反応を行うことで得られる。
【0040】
〔グリース組成物を用いる潤滑方法〕
本発明の一態様は、式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応して用いる、潤滑方法にも関する。架橋反応の方法は、当該フッ素含有化合物が架橋構造を形成できる方法であれば特に制限されないが、例えば、以下の2つの方法が挙げられる。
【0041】
(方法1)
本発明の一態様の潤滑方法は、下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する操作を含む。
・工程(I):グリースと式(1)で表されるフッ素含有化合物とを混錬する工程、
・工程(II):得られた組成物を1時間以上保持する工程。
【0042】
<工程(I)>
工程(I)においては、基油、増ちょう剤、および必要に応じて用いる各種汎用添加剤を含有するグリースと、式(1)で表されるフッ素含有化合物とを混錬する。フッ素含有化合物は、グリースの製造時に、他の添加剤とともに配合してもよいし、グリースの製造後に別途配合してもよい。
混錬する際の温度は特に制限されず、例えば、室温(約15~約30℃)であってもよい。また、混錬する時間も特に制限されないが、例えば、1分~1時間、好ましくは5~30分、より好ましくは10~20分が挙げられる。
また、混錬後のグリース組成物に対して、コロイドミルやロールミル等を用いて、見リング処理を施すことが好ましい。ミリング処理の回数は、例えば、1回以上、2回以上、3回以上等としてもよい。
【0043】
<工程(II)>
工程(II)においては、フッ素含有化合物の架橋構造の形成を促進する観点から、上記工程(I)により得られた組成物を1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間以上、特に好ましくは8時間以上、その状態のまま保持する。保持する時間の上限は、フッ素含有化合物の架橋構造が形成される時間であれば特に制限されないが、製造効率等の観点から、好ましくは72時間以下、より好ましくは60時間以下、更に好ましくは48時間以下である。
工程(II)における温度としては、例えば、室温(約15~約30℃)であってもよく、30~50℃、30~40℃等としてもよい。工程(II)の温度を上記範囲とすることで、フッ素含有化合物の架橋構造の形成を促進することができ、製造効率等の観点から好ましい。
【0044】
(方法2)
本発明の一態様の潤滑方法は、下記工程により式(1)で表されるフッ素含有化合物をゾル-ゲル反応により架橋反応する操作を含む。
・工程(A):式(1)で表されるフッ素含有化合物を含有する溶液に酸または塩基を添加してゾルを形成する工程、
・工程(B):得られたゾルを加熱して溶媒を除去し、ゲルを形成する工程、
・工程(C):得られたゲルとグリースとを混錬する工程。
【0045】
<工程(A)>
工程(A)は、フッ素含有化合物を含有するゾルを作製する工程である。本工程において、フッ素含有化合物を含有する溶液は、メタノール等の汎用の有機溶剤にフッ素含有化合物を溶解させることで得られる。この溶液に、少量の酸(例えば、1N塩酸水)又は少量の塩基(例えば、アンモニア水)を添加し、攪拌する。これにより、フッ素含有化合物の加水分解反応を進行させ、フッ素含有化合物の縮合体、すなわちフッ素含有化合物を含有するゾルが得られる。
【0046】
<工程(B)>
工程(B)では、上記工程(A)により得られたゾルを、フッ素含有化合物が固化しないように加熱処理する。加熱処理の温度としては、ゲル化反応を促進しつつ、ゲルを通り越して固化しないよう加熱処理を行う観点から、好ましくは30~60℃、より好ましくは35~55℃、更に好ましくは40~50℃である。これにより、ゾル中に含まれる有機溶剤および酸または塩基の大部分が除去され、フッ素含有化合物を含有するゲルが得られる。なお、加熱処理の時間は、特に制限されず、ゾルからゲルへと変化したことが確認できた段階で加熱処理を終了すればよい。
【0047】
<工程(C)>
工程(C)では、上記工程(B)により得られたゲルを、基油、増ちょう剤、および必要に応じて用いる各種汎用添加剤を含有するグリースと混錬する。混錬は、上記「方法1」の<工程(1)>で説明した方法と同様の方法により行うことができる。なお、本工程において、上記工程(B)の後に残存した有機溶剤等を減圧により除去することが好ましい。
また、上記グリースは、工程(A)または(B)の段階で別途調製したものを用いてもよいし、工程(C)において、上記ゲルとの混錬を行う際に調製してもよい。
【0048】
これらの方法により、式(1)で表されるフッ素含有化合物の架橋構造が形成された、グリース組成物を得ることができる。本発明の一態様は、このような架橋反応を経て得られるグリース組成物を用いる、潤滑方法を提供する。
【0049】
〔グリース組成物の製造方法〕
本発明の一態様のグリース組成物の製造方法は、式(1)で表されるフッ素含有化合物を架橋反応する工程を含む。架橋反応の方法は、上記「グリース組成物を用いる潤滑方法」で説明した方法と同じ方法とすることができる。
【0050】
〔フッ素含有化合物の製造方法〕
本発明は、式(1)で表されるフッ素含有化合物の製造方法も提供する。本発明の一態様の製造方法は、具体的には、以下のとおりである。
下記式(1a)で表される化合物と、下記式(1b)で表される化合物とを重合反応させる工程(1)と、
前記重合反応により得られた化合物と、炭素数6~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を含むアルコールとを反応させる工程(2)とを含む、下記式(1)で表されるフッ素含有化合物の製造方法。
【化4】
(式中、Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表す。)
【化5】
(式中、
Rは、複数のRを有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルキニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
nは、Xの価数である。)
【化6】
(式中、
Rfは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基またはオキシフルオロアルキレン基を表し、
Rは、複数のRを有する場合には、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表し、
Xは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、リン原子またはホウ素原子であり、
mは、1~100の整数であり、
nは、Xの価数である。)
【0051】
式(1a)中のRfは、上記〔グリース組成物の構成〕の<フッ素含有化合物>で述べたものと同じである。
また、式(1b)中のXおよびnも、上記〔グリース組成物の構成〕の<フッ素含有化合物>で述べたものと同じである。
式(1b)中のRは、水素原子または炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基であるが、好ましくは炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基であり、より好ましくは炭素数1~15の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基であり、更に好ましくは炭素数1~5の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基であり、特に好ましくは炭素数1のアルキル基(メチル基)である。
また、Rが複数存在する場合、複数のRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。なお、Rとして選択し得るアルキル基またはアルケニル基としては、上記〔グリース組成物の構成〕の<フッ素含有化合物>で述べたものと同様の基が挙げられる。
【0052】
式(1)で表されるフッ素含有化合物の具体的な態様は、上記〔グリース組成物の構成〕の<フッ素含有化合物>で述べたとおりである。
【0053】
<工程(1)>
本発明の一態様において、上記式(1a)で表される化合物と、上記式(1b)で表される化合物とを重合反応させる工程は特に制限されず、常法によりこれらの化合物の重合を行ってよい。なお、当該重合後の反応生成物には、フルオロアルキル基を含有する基(Rf)が片末端のみに導入されているオリゴマーが任意の割合で含まれていてもよい。
【0054】
<工程(2)>
本発明の一態様において、式(1)のRが複数存在する場合、複数のRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよいが、少なくとも一つのRは、炭素数6~30の直鎖または分岐状のアルキル基又はアルケニル基であってもよい。その場合、上記重合反応により得られた化合物と、炭素数6~30の直鎖または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を含むアルコールとを反応させて、少なくとも一つのRを付与することができる。本明細書中、上記重合反応により得られた化合物を「重合反応生成物」とも称する。
【0055】
上記アルコールの炭素数は、得られるフッ素含有化合物の基油への溶解性をより向上させる観点から、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、また、フッ素含有化合物合成時の精製のしやすさの観点から、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である。
アルキル基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。なお、上述の基には、構造異性体も含まれる。
アルケニル基としては、例えば、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基(オレイル基)、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。なお、上述の基には、構造異性体も含まれる。
【0056】
反応温度は、室温(例えば、約15~約30℃)で行ってもよいが、反応を促進する観点から、好ましくは45~90℃、より好ましくは50~85℃、更に好ましくは60~80℃である。
反応時間は、通常1~24時間、好ましくは4~16時間、より好ましくは8~12時間である。
【0057】
また、上述のアルコールおよび重合反応生成物のモル比(アルコール/重合反応生成物)は、好ましくは1~30、より好ましくは5~25、更に好ましくは10~20である。
【0058】
本発明の一態様において、上述の工程(1)および工程(2)の後に、更に減圧蒸留を行うことで、式(1)で表されるフッ素含有化合物を得ることができる。
【0059】
〔グリース組成物の性状〕
本発明のグリース組成物の撥水性および撥油性は、水または油との接触角を指標として評価することができる。接触角の測定方法については後述する。
本発明の一態様のグリース組成物は、水に対する接触角が、好ましくは65度以上、より好ましくは68度以上、更に好ましくは72度以上、特に好ましくは75度以上である。
本発明の一態様のグリース組成物は、油(例えば、ポリα-オレフィン)に対する接触角が、好ましくは15度以上、より好ましくは18度以上、更に好ましくは21度以上、特に好ましくは24度以上である。
本発明の一態様のウレア系グリース組成物は、水に対する接触角が、好ましくは90度以上、より好ましくは92度以上、更に好ましくは94度以上、より更に好ましくは96度以上、特に好ましくは98度以上である。
本発明の一態様のウレア系グリース組成物は、油(例えば、ポリα-オレフィン)に対する接触角が、好ましくは20度以上、より好ましくは22度以上、更に好ましくは24度以上、特に好ましくは26度以上である。
本発明の一態様の石けん系グリース組成物は、水に対する接触角が、好ましくは70度以上、より好ましくは72度以上、更に好ましくは74度以上、特に好ましくは76度以上である。
本発明の一態様の石けん系グリース組成物は、油(例えば、ポリα-オレフィン)に対する接触角が、好ましくは15度以上、より好ましくは18度以上、更に好ましくは21度以上、特に好ましくは24度以上である。
【0060】
(接触角の測定方法)
各グリース組成物をステンレス板の上に平らに盛り、水または油4μLを滴下して、接触角測定装置(協和界面科学株式会社製、型番DMe-201)を用いて接触角を測定する。油としては、ポリα-オレフィン(合成品のデセン二量体、40℃動粘度:4.98mm2/s、100℃動粘度:1.774mm2/s)を使用する。
【0061】
〔グリース組成物の用途〕
本発明のグリース組成物を用いた機構部品としては、特に限定されないが、軸受や歯車等が挙げられ、より具体的には、すべり軸受、ころがり軸受、含油軸受、流体軸受等の各種軸受、歯車、内燃機関、ブレーキ、トルク伝達装置用部品、流体継ぎ手、圧縮装置用部品、チェーン、油圧装置用部品、真空ポンプ装置用部品、時計部品、ハードディスク用部品、冷凍機用部品、切削機用部品、圧延機用部品、絞り抽伸機用部品、転造機用部品、鍛造機用部品、熱処理機用部品、熱媒体用部品、洗浄機用部品、ショックアブソーバ機用部品、密封装置用部品、建機用部品、農機用部品等が挙げられる。
【実施例0062】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0063】
実施例A-1~A-6、比較例A-1
下記の基油およびウレア系増ちょう剤を配合してなるグリースに、下記表1に示す処方および条件で、下記の式(1)で表されるフッ素含有化合物を添加し、グリース組成物を調製した。その後、以下の方法で水またはポリα-オレフィン(PAO)に対する接触角を測定した。なお、表1において、実施例番号の下部の数値(例えば、1.0%等)は、グリース組成物の全量(100質量%)を基準とした際のフッ素含有化合物の含有量である。
本実施例において、水に対する接触角は、100度以上を合格とし、PAOに対する接触角は、28度を合格とした。
【0064】
・基油:アルキルジフェニルエーテル系合成油 40℃動粘度:100mm2/s、粘度指数:117
・増ちょう剤:ウレア系増ちょう剤(グリース組成物の全量(100質量%)基準で12質量%)
・フッ素含有化合物:式(1)においてRf=パーフルオロ-2-n-プロポキシプロピオニル基、R=メチル基、X=ケイ素、m=2と3の混合物、n=4であるフッ素含有化合物。
なお、当該アルキルジフェニルエーテル系合成油および当該ウレア系増ちょう剤を配合してなるグリースが、実施例A-1~A-6、比較例A-1における、上記「下記の基油およびウレア系増ちょう剤を配合してなるグリース」に相当する。
【0065】
(接触角の測定方法)
各グリース組成物をステンレス板の上に平らに盛り、水またはポリα-オレフィン(PAO)4μLを滴下して、接触角測定装置(協和界面科学株式会社製、型番DMe-201)を用いて接触角を測定した。ポリα-オレフィンは、合成品のデセン二量体(40℃動粘度:4.98mm2/s、100℃動粘度:1.774mm2/s)を使用した。
【0066】
【0067】
実施例B-1~B-8、比較例B-1~B-2
下記の基油およびリチウム石けん系増ちょう剤を配合してなるグリースに、下記表2に示す処方および条件で、下記の式(1)で表されるフッ素含有化合物を添加し、ウレア系グリースと同様の方法で水またはポリα-オレフィン(PAO)に対する接触角を測定した。なお、表2において、実施例番号の下部の数値(例えば、1.0%等)は、グリース組成物の全量(100質量%)を基準とした際のフッ素含有化合物の含有量である。
本実施例において、水に対する接触角は、78度以上を合格とし、PAOに対する接触角は、25度を合格とした。
【0068】
・基油:パラフィン系鉱物油 40℃動粘度:92mm2/s、粘度指数:105
・増ちょう剤:リチウム石けん系増ちょう剤(グリース組成物の全量(100質量%)基準で10質量%)
・フッ素含有化合物:式(1)においてRf=パーフルオロ-2-n-プロポキシプロピオニル基、R=メチル基、X=ケイ素、m=2と3の混合物、n=4であるフッ素含有化合物。
なお、当該パラフィン系鉱物油および当該リチウム石けん系増ちょう剤を配合してなるグリースが、実施例B-1~B-8、比較例B-1~B-2における、上記「下記の基油およびリチウム石けん系増ちょう剤を配合してなるグリース」に相当する。
【0069】
【0070】
実施例C-1~C-3
下記の基油およびリチウム石けん系増ちょう剤を配合してなるグリースに、下記表3に示す処方および条件で、下記の式(1)で表されるフッ素含有化合物を添加し、ウレア系グリースと同様の方法で水またはポリα-オレフィン(PAO)に対する接触角を測定した。なお、表3において、実施例番号の下部の数値(例えば、1.0%等)は、グリース組成物の全量(100質量%)を基準とした際のフッ素含有化合物の含有量である。また、ゾル-ゲル反応は、以下の方法で行った。
本実施例において、水に対する接触角は、78度以上を合格とし、PAOに対する接触角は、25度を合格とした。
【0071】
・基油:パラフィン系鉱物油 40℃動粘度:92mm2/s、粘度指数:105
・増ちょう剤:リチウム石けん系増ちょう剤(グリース組成物の全量(100質量%)基準で10質量%)
・フッ素含有化合物:式(1)においてRf=パーフルオロ-2-n-プロポキシプロピオニル基、R=メチル基、X=ケイ素、m=2と3の混合物、n=4であるフッ素含有化合物。
なお、当該パラフィン系鉱物油および当該リチウム石けん系増ちょう剤を配合してなるグリースが、実施例C-1~C-3における、上記「下記の基油およびリチウム石けん系増ちょう剤を配合してなるグリース」に相当する。
【0072】
(ゾル-ゲル反応)
フッ素含有化合物を5mLのメタノール溶液に溶解し、1N HClを1滴加え室温下で1時間反応を行った。その後、その溶液を40℃に加熱し、フッ素含有化合物を固化させないようHClとメタノールを除去した。そして、ゲル化したフッ素含有化合物をグリースと混合し、メタノールを完全に減圧留去した。
【0073】
【0074】
表1~3から、特定のアルキル基を有するフッ素含有化合物を配合することで、優れた撥水性および撥油性を有するグリース組成物が得られることが分かった。