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特開2024-72016ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072016
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/38 20060101AFI20240520BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20240520BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20240520BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
C07C67/38
C07C69/753 C
B01J23/44 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182585
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】徳永 信
(72)【発明者】
【氏名】村山 美乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 英治
(72)【発明者】
【氏名】白倉 那桜
(72)【発明者】
【氏名】シム ジュヨン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB25
4G169CB75
4G169DA05
4G169EA04Y
4G169EC05Y
4G169EC13Y
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC48
4H006BA02
4H006BA15
4H006BA18
4H006BA25
4H006BA37
4H006BA55
4H006BB14
4H006BE30
4H006BE40
4H006BJ30
4H006KA34
4H006KC20
4H039CA66
4H039CL00
(57)【要約】
【課題】オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、高い収率でジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および金属ハロゲン化物の存在下で反応させる反応工程を有し、前記金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ニッケル(II)、四塩化テルル、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上である、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および金属ハロゲン化物の存在下で反応させる反応工程を有し、
前記金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ニッケル(II)、四塩化テルル、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上である、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【請求項2】
前記金属ハロゲン化物が、塩化ニッケル(II)、臭化リチウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【請求項3】
前記オレフィンが、脂環式オレフィンである、請求項1または請求項2に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【請求項4】
前記オレフィンが、下記式(1)で示される化合物である、請求項1または請求項2に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【請求項5】
前記ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が、下記式(2)で示される化合物である、請求項1または請求項2に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【化2】
(式(2)中、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン(不飽和炭化水素)の炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入してなるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、種々の化合物の原料、樹脂への添加剤などに用いられている。
このようなジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法として、特許文献1または特許文献2に記載された方法がある。
【0003】
特許文献1には、ジシクロペンタジエン、一酸化炭素、アルコール及び/又はその誘導体であるアセタール、ケタール、オルト蟻酸アルキルを、パラジウム触媒、銅又は鉄化合物及び/又は酸素の存在下で反応させるトリシクロ[5.2.1.02,6]デセ-3-エン-8.9-ジカルボン酸ジエステルの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ノルボルネン類と、アルコール、一酸化炭素および酸素とを、パラジウム金属またはその化合物、銅の化合物、塩素化合物および、マンガンまたは亜鉛の化合物を含有する触媒の存在下に反応させて、ノルボルネン類の炭素炭素二重結合に2個のカルボン酸エステル基が導入されたノルボルネン類の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-104039号公報
【特許文献2】特開平7-138205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを反応させて、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造する従来の方法では、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の収率を向上させることが求められていた。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、高い収率でジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
なお、本発明における「ジカルボン酸誘導体構造」とは、カルボキシ基およびカルボン酸エステル基の少なくとも1種を合計で2個以上有する構造を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを反応させて、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造する際に使用する触媒に着目し、鋭意検討した。
【0009】
その結果、触媒として、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ニッケル(II)、四塩化テルル、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上の金属ハロゲン化物とを用いればよいことを見出した。
さらに、本発明者は、上記の触媒の存在下で、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを反応させることにより、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できることを確認し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
[1] オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および金属ハロゲン化物の存在下で反応させる反応工程を有し、
前記金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ニッケル(II)、四塩化テルル、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上である、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0011】
[2] 前記金属ハロゲン化物が、塩化ニッケル(II)、臭化リチウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上である、[1]に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
[3] 前記オレフィンが、脂環式オレフィンである、[1]または[2]に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0012】
[4] 前記オレフィンが、下記式(1)で示される化合物である、[1]または[2]に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0013】
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【0014】
[5] 前記ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が、下記式(2)で示される化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0015】
【化2】
(式(2)中、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法では、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒、および塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ニッケル(II)、四塩化テルル、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上の金属ハロゲン化物の存在下で反応させる。このため、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法は、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および特定の金属ハロゲン化物の存在下で反応させる反応工程を有する。
【0018】
本実施形態の製造方法における反応工程では、触媒として、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒、および塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ニッケル(II)、四塩化テルル、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上の金属ハロゲン化物を用いるので、オレフィンのジカルボキシ化反応の反応速度が十分に速いものとなる。このため、目的物である、オレフィン(不飽和炭化水素)の炭素炭素二重結合に、カルボキシ基(-COOH)および/またはカルボン酸エステル基(-COOR(Rは原料として使用したアルコール(R-OH)に由来するアルキル基))が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できる。
【0019】
「オレフィン」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用されるオレフィンは、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の構造に応じて適宜決定できる。原料として使用されるオレフィンは、鎖式オレフィンであってもよいし、脂環式オレフィンであってもよく、置換基を有していてもよい。
【0020】
鎖式オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、ドデセンなどが挙げられる。
脂環式オレフィンとしては、例えば、シクロペンテン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、シクロオクテン、ノルボルナジエン、トリシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデン、4-ビニル-1-シクロヘキセンなどが挙げられる。原料として脂環式オレフィンを用いた場合、本実施形態の製造方法を用いることによる収率を向上させる効果が顕著に得られるため、好ましい。
【0021】
原料として使用されるオレフィンが有していてもよい置換基としては、弱酸性条件下で安定な置換基であれば特に限定されないが、例えば、アルキル基を有するカルボン酸エステル基、カルボキシ基、ホルミル基、ヒドロキシ基、第三級アミン、アセタールなどが挙げられる。アルキル基を有するカルボン酸エステル基としては、炭素数1以上5以下のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基を有するものがより好ましい。本実施形態の製造方法を用いることにより、カルボン酸エステル基を有する工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できるためである。
オレフィンが有していてもよい置換基の数は、1つであってもよいし、複数であってもよく、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の構造に応じて適宜決定できる。
【0022】
原料として使用されるオレフィンは、具体的には、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸のメチルエステル、エチルエステルまたはプロピルエステル、2-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸、2-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸のメチルエステル、エチルエステルまたはプロピルエステル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、またはビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステルまたはジプロピルエステルなどから選ばれるノルボルネン類であることが好ましい。
【0023】
原料として使用されるオレフィンは、下記式(1)で示される化合物であることが好ましい。原料として式(1)で示される化合物を用いた場合、本実施形態の製造方法を用いることにより、工業的に有用なテトラカルボン酸誘導体を高い収率で製造できるためである。
【0024】
【化3】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【0025】
式(1)で示される化合物において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましい。RとRとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。Rおよび/またはRは、本実施形態の製造方法を用いることにより、工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できるため、メチル基であることが特に好ましい。
式(1)で示される化合物は、ディールズ・アルダー反応を用いる方法など、公知の方法を用いて容易に製造できる。
【0026】
「アルコール」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用されるアルコールは、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の構造に応じて適宜決定できる。原料として使用されるアルコールとしては、アルキルアルコール(R-OH、Rはアルキル基)が好ましい。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ドデカノールなどが挙げられる。これらの中でも、アルコールとしては、前記Rが炭素数1以上5以下のアルキル基であるものが好ましい。ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できるためである。本実施形態の製造方法を用いることにより、工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できるため、アルコールとしてメタノールを用いることが特に好ましい。
【0027】
「一酸化炭素」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用される一酸化炭素の使用量は、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の分圧が、0.01MPa(絶対圧、以下同様)~10MPaの範囲内となる量であることが好ましく、0.1MPa~5.0MPaの範囲内となる量であることがより好ましい。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の一酸化炭素の分圧が0.01MPa以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が進行しやすくなり、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の一酸化炭素の分圧が10MPa以下であると、反応容器の耐圧設計の容易性の観点から反応容器が調達しやすくなるため好ましい。
【0028】
「酸素」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用される酸素の使用量は、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の分圧が、0.01MPa(絶対圧、以下同様)~2.0MPaの範囲内となる量であることが好ましく、0.1MPa~1.0MPaの範囲内となる量であることがより好ましい。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の酸素の分圧が0.01MPa以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が進行しやすくなり、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の酸素の分圧が2.0MPa以下であると、オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気が爆発範囲となることを防止できるため好ましい。
【0029】
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用される一酸化炭素および/または酸素は、必要に応じて、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などのオレフィンのジカルボキシ化反応を阻害しない希釈ガスと混合して用いてもよい。この場合、オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気が爆発範囲となることを防止でき、好ましい。
一酸化炭素および/または酸素を希釈ガスと混合して用いる場合、一酸化炭素および/または酸素は、希釈ガスとを混合して混合ガスとしてから反応装置に供給してもよいし、希釈ガスとは別に反応装置に供給し、反応装置内で希釈ガスと混合してもよい。本実施形態の製造方法では、酸素と希釈ガスとの混合ガスとして、空気を使用してもよい。
【0030】
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法においては、オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気に、必要に応じて、水素ガスを供給してもよい。オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気が水素ガスを含む場合、水素ガスは、一酸化炭素および/または酸素と混合してから反応装置に供給してもよいし、一酸化炭素および/または酸素とは別に反応装置に供給してもよい。また、合成ガスとして知られ、C1化学における基本的な原料の1つであるオキソガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を原料として用いてもよい。この場合、純粋な一酸化炭素ガスを用いる場合と比較して、経済的に安価な一酸化炭素源として利用できる。
【0031】
オレフィンのジカルボキシ化反応後、反応装置内に残った一酸化炭素と酸素と必要に応じて使用された希釈ガスのいずれか1種以上を含む残気体は、反応装置内から回収し、濃度を調整した上で、再度、オレフィンのジカルボキシ化反応に使用してもよい。
【0032】
「担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒」
本実施形態において使用される不均一触媒は、担体にパラジウムを含む化合物を担持させたものである。不均一触媒は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法では、触媒として、担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒を用いているので、例えば、パラジウムを含む均一触媒を用いた場合と比較して、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できる。
【0033】
不均一触媒を用いることによって好ましい結果が得られる理由については、よくわかっていない。オレフィンのジカルボキシ化反応では、パラジウムを含む化合物が触媒として機能することにより、オレフィンのジカルボン酸誘導体構造を有する化合物への変換が促進され進行する。その後、反応系中に存在する上記の金属ハロゲン化物と酸素の働きによって、反応により変化したパラジウムを含む化合物が、再度、触媒として使用できる状態に戻される(触媒化される)ものと考えられる。ここでの触媒として使用できる状態に戻される現象は、不均一触媒を用いた場合、均一触媒を用いた場合と比較して有利になる何らかの理由があると推定される。
【0034】
不均一触媒の担体としては、例えば、活性炭、チタニア、ジルコニア、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ケイソウ土、マグネシア、軽石またはモレキュラーシーブなどを用いることができる。これらの中でも担体として、活性炭および/またはアルミナを用いることが好ましい。これらの担体は、調達が容易であるし、比表面積が高いため、パラジウムを含む化合物からなる微細な粒子を担体内部に微分散させることにより、高い活性が得られるし、耐被毒性も高いためである。
不均一触媒に使用される担体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0035】
不均一触媒の担体の形状および大きさは、特に限定されるものではなく、十分な強度を有し、かつ原料との接触面積を十分に確保できる形状であることが好ましい。
具体的には、不均一触媒の担体としては、例えば、平均粒径0.020mm~0.36mmの球形状のものを用いることができる。
【0036】
また、不均一触媒の担体としては、例えば、比表面積が5m/g~1500m/gであるものを用いることができる。また、不均一触媒の担体としては、例えば、平均細孔径が1nm~50nmであるものを用いることができる。上記値は、BET法(窒素吸着法)で測定して求めた数値である。
【0037】
不均一触媒の担体に担持されたパラジウムを含む化合物は、金属パラジウムであってもよいしパラジウム化合物であってもよい。パラジウムを含む化合物として用いることのできるパラジウム化合物としては、例えば、酸化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、燐酸パラジウムなどのパラジウムの無機酸塩、塩化パラジウム、臭化パラジウムなどのハロゲン化パラジウム、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、安息香酸パラジウムなどのパラジウムの有機酸塩などが挙げられる。これらの中でもパラジウムを含む化合物としては、金属パラジウムを用いることが好ましい。オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、より高い収率で製造できるためである。
不均一触媒の担体に担持されたパラジウムを含む化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0038】
不均一触媒中におけるパラジウムを含む化合物の担持量(パラジウム原子の含有量)は、特に限定されるものではなく、例えば、0.1質量%~20質量%とすることができ、0.5質量%~10質量%とすることが好ましく、原料として使用されるオレフィンの使用量に対する不均一触媒の使用量などに応じて適宜決定できる。
【0039】
担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒は、特に限定されない。
例えば、パラジウム担持量(パラジウム原子の含有量)が5質量%であるアルミナ担持パラジウム触媒を製造する場合、以下に示す方法等により製造できる。
濃度200g/Lの硝酸パラジウム(II)水溶液を250μL用意する。硝酸パラジウム(II)水溶液に、アルミナ担体0.95gを加えて、常温で30分間攪拌する。その後、真空乾燥することにより水を除去する。得られた残留物を、空気中で、550℃の温度で4時間焼成する。このことにより、パラジウム担持量(パラジウム原子の含有量)5質量%で酸化パラジウム(II)が担持されたアルミナ担持パラジウム触媒からなる不均一触媒が得られる。
【0040】
また、例えば、活性炭にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒は、以下に示す方法により製造できる。
まず、担体である活性炭を硝酸で洗浄する。その後、所定量の塩化パラジウム(II)を濃塩酸に溶解させた溶液中に、洗浄した活性炭を加えて混合する。得られた混合溶液中に、水素あるいはホルムアルデヒドを所定量供給して作用させる。その後、混合溶液中から固体をろ取し、乾燥させる。このことにより、金属パラジウムが担持された活性炭担持パラジウム触媒からなる不均一触媒が得られる。
【0041】
担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒としては、市販されているものを用いてもよい。市販されている不均一触媒としては、例えば、活性炭に金属パラジウムが担持された不均一触媒(Scitem;YMC社)、硫酸バリウム担持Pd(TCI社製)、炭酸カルシウム担持Pd(TCI社製)、活性炭担持Pd(SIGMA-ALDRICH社製)などが挙げられる。
【0042】
不均一触媒に含まれるパラジウムを含む化合物は、反応に使用されるオレフィン1モルに対して、1.0μモル%~10モル%であることが好ましく、5.0μモル%~1.0モル%であることがより好ましい。不均一触媒に含まれるパラジウムを含む化合物の量がオレフィン1モルに対して、1.0μモル%以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、より高い収率で製造できる。上記のパラジウムを含む化合物の量が10モル%以下であると、オレフィンのジカルボキシ化反応における副反応を効果的に抑制でき、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。
【0043】
本実施形態において使用される不均一触媒は、オレフィンのジカルボキシ化反応後の反応液を必要に応じて希釈した後、遠心分離する方法および/または濾過する方法などを用いて、反応液と分離できる。反応液と分離した不均一触媒は、再度、オレフィンのジカルボキシ化反応に使用できる。このことから、不均一触媒は、均一触媒と比較して、工業的製造法に使用する触媒として好ましい。
【0044】
「金属ハロゲン化物」
本実施形態において使用される金属ハロゲン化物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ニッケル(II)、四塩化テルル、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上である。これらの金属ハロゲン化物は、反応により変化したパラジウムを含む化合物の再酸化による再生および触媒化に効果的に寄与するとともに、カウンターアニオンのハロゲン化物イオンにより、不均一触媒の有するパラジウムを含む化合物を安定化させる。このことにより、オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できる。これらの中でも金属ハロゲン化物として、塩化ニッケル(II)、臭化リチウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、より高い収率で製造できるためである。
【0045】
原料として使用されるオレフィン1モルに対する金属ハロゲン化物の使用量は、0.5モル量~10.0モル量であることが好ましく、1.0モル量~5.0モル量であることがより好ましい。オレフィン1モルに対する不均一触媒に含まれる金属ハロゲン化物の使用量が0.5モル量以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、より高い収率で製造できる。上記の金属ハロゲン化物の使用量が5.0モル量以下であると、オレフィンのジカルボキシ化反応における金属ハロゲン化物の析出を効果的に抑制でき、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。
【0046】
また、従来触媒として使用されていた塩化銅は、水の存在下において酸性を示す。このため、反応系が酸性になり、オレフィンの置換基、および反応に使用する反応容器の素材に制限があるなどの不都合があった。
これに対し、本実施形態の製造方法において触媒として不均一触媒とともに、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムから選ばれる1種または2種以上の金属ハロゲン化物を使用する場合には、反応系を中性付近に保つことができ、好ましい。
【0047】
「溶媒」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法においては、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う反応液に、必要に応じて、オレフィンのジカルボキシ化反応を阻害しない溶媒を1種または2種以上含有させてもよい。本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法においては、原料として使用するアルコールを実質的に溶媒として使用してもよい。
【0048】
本実施形態の製造方法において使用できる溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテルまたはトリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンまたはアセトフェノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルまたはプロピオン酸メチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、p-キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類またはその置換化合物、n-ヘキサン、n-ペンタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどの脂肪族または脂環族の炭化水素類、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルなどのカーボネート類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド化合物類、またはスルホランなどのスルホン化合物類などが挙げられる。
また、溶媒が、使用する金属ハロゲン化物を溶解しない場合には、金属ハロゲン化物の溶解を助けるために少量の蒸留水を添加することを行ってもよい。
【0049】
「反応条件」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法における反応工程は、以下に示す工程であることが好ましい。まず、反応装置の反応容器内に、オレフィンとアルコールと上記の不均一触媒と上記の金属ハロゲン化物と、必要に応じて使用される溶媒を、それぞれ所定量入れる。次に、反応装置の反応容器内に、一酸化炭素と酸素と必要に応じて使用される希釈ガスとを供給し、公知の方法により反応容器内を攪拌しながら、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う。
【0050】
一酸化炭素は、オレフィンのジカルボキシ化反応に必要な量の全量を反応装置に一括して供給してもよいし、連続的もしくは間欠的に供給してもよい。本実施形態では、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の一酸化炭素の分圧が、0.01MPa~10MPaの範囲内で維持されるように、オレフィンのジカルボキシ化反応によって消費された一酸化炭素を補いながら反応を行うことが特に好ましい。
【0051】
酸素は、オレフィンのジカルボキシ化反応に必要な量の全量を反応装置に一括して供給してもよいし、連続的もしくは間欠的に供給してもよい。本実施形態では、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の酸素の分圧が、0.01MPa~2.0MPaの範囲内で維持されるように、オレフィンのジカルボキシ化反応によって消費された酸素を補いながら反応を行うことが特に好ましい。
【0052】
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法における反応工程の反応条件は、オレフィンのジカルボキシ化反応反応が進行する範囲内で、原料であるオレフィンおよびアルコールの種類、触媒である上記の不均一触媒および金属ハロゲン化物の種類などに応じて、適宜決定できる。
反応条件は、例えば、以下に示す(a)反応装置、(b)反応圧力、(c)反応温度、(d)反応時間のうち、いずれか1つ以上の条件を満たすことが好ましい。
【0053】
(a)反応装置
本実施形態において、オレフィンのジカルボキシ化反応に使用する反応装置は、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、上記の不均一触媒および金属ハロゲン化物とともに封入でき、加圧下で密閉できる耐圧反応容器を備えるものであることが好ましい。具体的には、反応装置として、例えば、SUS304、SUS316、SUS316Lなどのステンレス、チタン、タンタル、ニッケル、ハステロイ、インコネルなどからなる耐圧反応容器を備えるオートクレーブを用いることが好ましい。
【0054】
(b)反応圧力
オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気の圧力(耐圧反応容器内の圧力)は、一酸化炭素および酸素の分圧がそれぞれ上記の範囲内であることが好ましい。さらに、耐圧反応容器内の圧力(全圧)は、0.1MPa(絶対圧、以下同様)~10MPaの範囲内であることが好ましく、0.1MPa~5MPaの範囲内であることがより好ましい。耐圧反応容器内の圧力が0.1MPa以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、ジカルボン酸誘導体をより高い収率で製造できる。また、耐圧反応容器内の圧力が10MPa以下であると、反応容器の仕様がプロセス設計上、一般的な工業用途で使用されうる容器でよいため、特殊構造が不要であり、好ましい。
【0055】
(c)反応温度
オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気の温度(耐圧反応容器内の温度)は、0℃~150℃の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは20℃~100℃である。耐圧反応容器内の温度が0℃以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。耐圧反応容器内の温度が150℃以下であると、オレフィンのジカルボキシ化反応における副反応を効果的に抑制でき、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。
【0056】
(d)反応時間
反応工程における反応時間は、0.5時間~100時間の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは3~48時間である。反応時間が0.5時間以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が十分に進行するため、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。反応時間が100時間以下であると、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を効率よく製造でき、しかも、オレフィンのジカルボキシ化反応における副反応を効果的に抑制できる。
【0057】
「ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法では、オレフィン(不飽和炭化水素)の炭素炭素二重結合に、カルボキシ基(-COOH)および/またはカルボン酸エステル基(-COOR(Rは原料として使用したアルコールに由来するアルキル基))が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が得られる。得られたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、隣り合った炭素原子に、それぞれカルボキシ基またはカルボン酸エステル基が結合している化合物であり、種々の化合物の原料、樹脂への添加剤などとして使用できる有用なものである。具体的には、例えば、本実施形態の製造方法を用いて製造したジカルボン酸誘導体構造を有する化合物と、アミノ化合物とを反応させることにより、工業的に有用なイミド結合を有する化合物を製造できる。したがって、本実施形態の製造方法を用いて製造したジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、イミド結合を有する化合物の原料として使用できる。
【0058】
本実施形態の製造方法において、原料として脂環式オレフィンを用いた場合、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物として、環状の骨格を有し、隣り合った炭素原子にそれぞれカルボキシ基またはカルボン酸エステル基が結合している化合物が得られる。得られたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、工業的により有用なイミド結合を有する化合物の原料として使用できる。よって、本実施形態の製造方法を用いることによる収率を向上させる効果が顕著となる。
【0059】
例えば、本実施形態の製造方法において、原料として脂環式オレフィンである式(1)で示される化合物を用いた場合、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物として下記式(2)で示される化合物が得られる。この場合、式(2)中のR11およびR12は、それぞれ式(1)のRおよびRに由来する基である。
【0060】
【化4】
(式(2)中、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【0061】
式(2)で示される化合物において、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、水素原子あるいは、炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましい。R11、R12、RおよびRは、それぞれ異なっていてもよいし、一部または全部が同じであってもよい。
【0062】
式(2)で示される化合物において、R11およびR12は、原料として使用した式(1)で示される化合物におけるRおよびRに由来する基である。
式(2)中のR11は、式(1)中のRと同じであってもよいし、式(1)中のエステル部位である-COORが加水分解されてカルボキシ基(-COOH)とされたことによって水素原子とされていてもよい。また。式(2)中のR12は、式(1)中のRと同じであってもよいし、式(1)中の-COORが加水分解されてカルボキシ基とされたことにより水素原子とされていてもよい。
【0063】
およびRは、原料として使用したアルコールに由来する基である。例えば、アルコールとしてアルキルアルコールを用いた場合、RとRはアルキルアルコールのアルキル基に由来する基である。原料として使用したアルコールが1種類のみである場合、RとRは同一の基となりやすい。反応後の反応液からの目的物の分離および精製のしやすさを考慮すると、RとRとは同一であることが好ましい。Rおよび/またはRは、工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物であるため、メチル基であることが特に好ましい。
【0064】
11、R12、RおよびRの一部または全部は、水素原子であってもよい。すなわち、式(2)で示される化合物はカルボン酸であってもよい。R11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物は、ジカルボン酸誘導体構造が生成する反応において、以下に示す<1>~<3>のいずれかの1つ以上の反応により生成する。
<1>反応系中に存在する水分子が、原料として使用したアルコールに代わって式(1)で示される化合物中の炭素炭素二重結合と反応する。
<2>式(1)で示される化合物中の炭素炭素二重結合に導入されたエステル部位である-COORおよび-COORのうち一方または両方が、反応系中に存在する水分子と反応して加水分解される。
<3>式(1)で示される化合物中のエステル部位である-COORおよび-COORのうち一方または両方が、反応系中に存在する水分子と反応して加水分解される。
【0065】
本実施形態の製造方法において、反応の収率を評価する場合、R11、R12、RおよびRが、それぞれ炭素数1以上5以下のアルキル基である化合物の収率と、R11、R12、RおよびRの一部または全部が、水素原子である化合物の収率と、それらの合計の収率とを考慮して評価できる。
【0066】
式(2)で示される化合物は、例えば、ジイミド化合物の原料として使用できる。具体的には、式(2)で示される化合物のエステル基を加水分解して、カルボン酸構造とする。このことにより、式(2)で示される化合物におけるR11、R12、RおよびRが、全て水素原子に置換されたテトラカルボン酸化合物となる。その後、得られたテトラカルボン酸化合物を用いて公知の方法によりイミド化合物を製造する。
【0067】
このように式(2)で示される化合物をジイミド化合物の原料として使用する場合、エステル基を加水分解してカルボン酸構造としてから使用する。したがって、本実施形態の製造方法により、式(2)で示される化合物として、R11、R12、RおよびRが、それぞれ、炭素数1以上5以下のアルキル基である化合物が得られた場合も、R11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物が得られた場合も、これらの化合物の混合物が生成した場合も、ジイミド化合物の合成において原料として同様に利用できる。
【0068】
式(2)で示される化合物は、-COOR11、-COOR12、-COOR、-COORの4つの基がノルボルネン骨格に結合した構造を有する。このため、式(2)で示される化合物は、アミノ化合物と反応させることにより、工業的に有用なノルボルネン骨格とイミド結合を有するポリイミドの原料として使用できる。よって、本実施形態の製造方法を用いることによる収率を向上させる効果が顕著となる。
【実施例0069】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0070】
(参考例)
[式(1)で示される化合物の合成]
ビシクロ[2.2.1]へプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸(「ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸」と記載する場合もある。)10.3g(57mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド200mL(富士フイルム和光製)に溶解させた。この溶液に、炭酸カリウム31.3g(富士フイルム和光、226mmol)と、ヨードメタン14mL(東京化成製、226mmol)とを加え、室温で48時間撹拌し、反応させた。
【0071】
反応後の反応液に、水と酢酸エチルとを加えて分液した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、反応生成物であるビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステルを、白色固体として得た(収量10.0g、収率84%)。
得られた白色固体を、以下に示すガスクロマトグラフィーを用いて、以下に示す分析条件で分析した。その結果、式(1)で示される化合物(式(1)中のRおよびRはメチル基である。)であるビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステルであることが確認できた。
【0072】
(ガスクロマトグラフィーの分析条件)
ガスクロマトグラフィーとして、Agilent社製のGC6850Series IIを使用した。検出器として、FID(flame ionization detector)を使用した。カラムとして、J&W HP-1カラム(0.25μm厚み、0.32mm I.D.30m)を使用した。そして、カラム温度40℃、測定温度:40~240℃にて測定を行った。具体的には、40℃で5分間保持したのち、昇温速度毎分10℃で240℃まで昇温し、240℃で5分間保持するプログラムで行った。
【0073】
(実施例1)
[ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造]
上記の方法により合成した式(1)で示される化合物(式(1)中のRおよびRはメチル基である。)であるビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステル200mg(0.95mmol)と、活性炭担持パラジウム(YMC社製)10.2mg(金属パラジウム量として、4.8μmol)と、金属ハロゲン化物である塩化ナトリウム140mg(富士フイルム和光製、2.4mmol)とを、それぞれ秤量し、ガラス製の円筒状の容器に入れた。
【0074】
活性炭担持パラジウム(YMC社製)は、平均粒径が0.36mm、比表面積が1371m/g、平均細孔径が1.7nmである球状の活性炭からなる担体に、金属パラジウムが担持されており、パラジウム含有量は、5質量%であるもの用いた。活性炭の比表面積は、BET法(表面積測定法)で測定して求めた数値である。
【0075】
上記の円筒状の容器内に、さらに3.0mLのメタノール(富士フイルム和光製)と、1.0mLの蒸留水(塩化ナトリウムを溶解させるために添加)とを加えた。その後、上記の材料の入れられた円筒状の容器をオートクレーブの耐圧反応容器内に入れて封緘した。
耐圧反応容器内に酸素を供給して酸素の分圧を1.0MPaとした後、一酸化炭素を供給して一酸化炭素の分圧を3.5MPaとし、耐圧反応容器内の全圧を4.5MPaとした。その後、耐圧反応容器内を激しく撹拌しながら、60℃で24時間反応させた。
【0076】
反応終了後、耐圧反応容器内の温度が室温となるまで冷却して放圧し、上記の円筒状の容器内の反応液を回収した。反応液の一部を以下に示す方法により試験体としてサンプリングし、上述したガスクロマトグラフィーを用いて上述した分析条件で分析し、反応生成物を同定した。その結果、反応生成物が、実施例1の目的物であるビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2エンド,3エンド,5エキソ,6エキソ-テトラカルボン酸テトラメチルエステル(式(2)で示される化合物(式(2)中のR11、R12、R、Rはメチル基である。))であることが確認できた。
【0077】
(試験体のサンプリング方法)
反応後の円筒状の容器内の反応液に、内部標準物質として、ジエチレングリコールジメチルエーテル50μLを加え、反応液とともにねじ口試験管に移し、さらに7mLのメタノールを加えて希釈した。希釈した反応液を、室温で、回転数3000rpmで5分間遠心分離することにより、希釈した反応液中に含まれる不均一触媒を沈殿させ、その上澄み液を分析用の試験体として採取(サンプリング)した。
【0078】
また、反応生成物の同定結果を用いて、式(1)で示される化合物の転化率と、目的物(式(2)中のR11、R12、R、Rがメチル基である化合物)の収率と、実施例1の目的物の加水分解体(式(2)中のR11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物の合計)の収率と、それらの合計収率(目的物の収率+加水分解体の収率)とを算出した。その結果を表1に示す。
【0079】
(実施例2~実施例7、比較例1~比較例4)
表1に示す金属ハロゲン化物を、表1に示す使用量(2.4mmol)で用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造した。
得られた反応生成物を実施例1と同様にして同定した。その結果、実施例2、4、5、7では、反応生成物が、目的物である式(2)中のR、R、R、Rがメチル基である化合物と、目的物の加水分解体である式(2)中のR11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物とを含む混合物であることが確認できた。また、実施例3、6、比較例1~4では、反応生成物が、目的物である式(2)中のR、R、R、Rがメチル基である化合物ことが確認できた。
【0080】
また、反応生成物の同定結果を用いて実施例1と同様にして、式(1)で示される化合物の転化率と、目的物の収率と、加水分解体の収率と、それらの合計収率(目的物の収率+加水分解体の収率)とを算出した。その結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示すように、実施例1~実施例7では、比較例1~比較例4と比較して、目的物の収率および合計収率が高いものであった。特に、金属ハロゲン化物として、塩化ニッケル(II)を用いた実施例2、臭化リチウムを用いた実施例5、ヨウ化ナトリウムを用いた実施例6は、いずれも目的物の収率および合計収率の収率が60%以上であり、収率が高かった。