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特開2024-72017ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072017
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/38 20060101AFI20240520BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20240520BHJP
   B01J 38/00 20060101ALI20240520BHJP
   B01J 23/96 20060101ALI20240520BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20240520BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20240520BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
C07C67/38
C07C69/753 C
B01J38/00 301A
B01J23/96 Z
B01J23/44 Z
B01J23/63 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182586
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】徳永 信
(72)【発明者】
【氏名】村山 美乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 英治
(72)【発明者】
【氏名】白倉 那桜
(72)【発明者】
【氏名】シム ジュヨン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA10
4G169BA01A
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA06A
4G169BA06B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB25
4G169CB75
4G169DA05
4G169EA04Y
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB30
4G169GA20
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC48
4H006BA05
4H006BA25
4H006BA37
4H006BA55
4H006BB14
4H006BE30
4H006BE40
4H006BJ30
4H006KA34
4H006KC20
4H039CA66
4H039CL00
(57)【要約】
【課題】オレフィンが有する炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、高い収率でジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および前記オレフィンが有する炭素炭素二重結合1当量に対して0.10当量以上0.75当量以下の塩化銅の存在下で反応させる反応工程を有する、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および前記オレフィンが有する炭素炭素二重結合1当量に対して0.10当量以上0.75当量以下の塩化銅の存在下で反応させる反応工程を有する、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物が、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、三酸化二アルミニウム、二酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【請求項3】
前記オレフィンが、脂環式オレフィンである、請求項1または請求項2に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【請求項4】
前記オレフィンが、下記式(1)で示される化合物である、請求項1または請求項2に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【請求項5】
前記ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が、下記式(2)で示される化合物である、請求項4に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【化2】
(式(2)中、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【請求項6】
前記反応工程を行うことにより得られた反応液から前記不均一触媒を分離して再生不均一触媒を得る分離工程と、
オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、前記再生不均一触媒および塩化銅の存在下で反応させる再反応工程とを有する、請求項1または請求項2に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン(不飽和炭化水素)の炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入してなるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、種々の化合物の原料、樹脂への添加剤などに用いられている。
このようなジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法として、特許文献1または特許文献2に記載された方法がある。
【0003】
特許文献1には、ジシクロペンタジエン、一酸化炭素、アルコール及び/又はその誘導体であるアセタール、ケタール、オルト蟻酸アルキルを、パラジウム触媒、銅又は鉄化合物及び/又は酸素の存在下で反応させるトリシクロ[5.2.1.02,6]デセ-3-エン-8.9-ジカルボン酸ジエステルの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ノルボルネン類と、アルコール、一酸化炭素および酸素とを、パラジウム金属またはその化合物、銅の化合物、塩素化合物および、マンガンまたは亜鉛の化合物を含有する触媒の存在下に反応させて、ノルボルネン類の炭素炭素二重結合に2個のカルボン酸エステル基が導入されたノルボルネン類の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-104039号公報
【特許文献2】特開平7-138205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを反応させて、オレフィンが有する炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造する従来の方法では、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の収率を向上させることが求められていた。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、オレフィンが有する炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、高い収率でジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
なお、本発明における「ジカルボン酸誘導体構造」とは、カルボキシ基およびカルボン酸エステル基の少なくとも1種を合計で2個以上有する構造を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを反応させて、オレフィンが有する炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を合計で2個導入して、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造する際に使用する触媒に着目し、鋭意検討した。
【0009】
その結果、触媒として、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒を、塩化銅とともに用いればよいことを見出した。
さらに、本発明者は、上記の触媒と、所定量の塩化銅の存在下で、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを反応させることにより、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できることを確認し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
[1] オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および前記オレフィンが有する炭素炭素二重結合1当量に対して0.10当量以上0.75当量以下の塩化銅の存在下で反応させる反応工程を有する、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0011】
[2] 前記金属酸化物が、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、三酸化二アルミニウム、二酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる1種または2種以上である、[1]に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0012】
[3] 前記オレフィンが、脂環式オレフィンである、[1]または[2]に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
[4] 前記オレフィンが、下記式(1)で示される化合物である、[1]または[2]に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0013】
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【0014】
[5] 前記ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が、下記式(2)で示される化合物である、[4]に記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【0015】
【化2】
(式(2)中、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【0016】
[6] 前記反応工程を行うことにより得られた反応液から前記不均一触媒を分離して再生不均一触媒を得る分離工程と、
オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、前記再生不均一触媒および塩化銅の存在下で反応させる再反応工程とを有する、[1]~[5]のいずれかに記載のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法では、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒、および、所定量の塩化銅の存在下で反応させる。このため、オレフィンが有する炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0019】
「反応工程」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法は、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒およびオレフィンが有する炭素炭素二重結合1当量に対して0.10当量以上0.75当量以下の塩化銅の存在下で反応させる反応工程を有する。本実施形態の製造方法は、さらに、反応工程を行うことにより得られた反応液から不均一触媒を分離して再生不均一触媒を得る分離工程と、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、再生不均一触媒および塩化銅の存在下で反応させる再反応工程とを有することが好ましい。
【0020】
本実施形態の製造方法における反応工程では、触媒として、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒および所定量の塩化銅を用いるので、オレフィンのジカルボキシ化反応の反応速度が十分に速いものとなる。このため、目的物である、オレフィン(不飽和炭化水素)の炭素炭素二重結合に、カルボキシ基(-COOH)および/またはカルボン酸エステル基(-COOR(Rは原料として使用したアルコール(R-OH)に由来するアルキル基))が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できる。
【0021】
「オレフィン」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用されるオレフィンは、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の構造に応じて適宜決定できる。原料として使用されるオレフィンは、鎖式オレフィンであってもよいし、脂環式オレフィンであってもよく、置換基を有していてもよい。
【0022】
鎖式オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、ドデセンなどが挙げられる。
脂環式オレフィンとしては、例えば、シクロペンテン、ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、ジシクロペンタジエン、シクロオクテン、ノルボルナジエン、トリシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデン、4-ビニル-1-シクロヘキセンなどが挙げられる。原料として脂環式オレフィンを用いた場合、本実施形態の製造方法を用いることによる収率を向上させる効果が顕著に得られるため、好ましい。
【0023】
原料として使用されるオレフィンが有していてもよい置換基としては、弱酸性条件下で安定な置換基であれば特に限定されないが、例えば、アルキル基を有するカルボン酸エステル基(アルコキシカルボニル基)、カルボキシ基、ホルミル基、ヒドロキシ基、第三級アミン、アセタールなどが挙げられる。これら置換基の中では、アルキル基を有するカルボン酸エステル基、カルボキシ基が好ましい。アルキル基を有するカルボン酸エステル基としては、炭素数1以上5以下のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基を有するものがより好ましい。本実施形態の製造方法を用いることにより、カルボン酸エステル基を有する工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できるためである。
オレフィンが有していてもよい置換基の数は、1つであってもよいし、複数であってもよく、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の構造に応じて適宜決定できる。
【0024】
原料として使用されるオレフィンは、工業的により有用な生成物が得られるため、置換基を有する脂環式オレフィンであることが好ましい。
【0025】
原料として使用されるオレフィンは、具体的には、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸のメチルエステル、エチルエステルまたはプロピルエステル、2-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸、2-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸のメチルエステル、エチルエステルまたはプロピルエステル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、またはビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステルまたはジプロピルエステルなどから選ばれるノルボルネン類であることが好ましい。
【0026】
原料として使用されるオレフィンは、下記式(1)で示される化合物であることが好ましい。原料として式(1)で示される化合物を用いた場合、本実施形態の製造方法を用いることにより、工業的に有用なテトラカルボン酸誘導体を高い収率で製造できるためである。
【0027】
【化3】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【0028】
式(1)で示される化合物において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましい。RとRとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。Rおよび/またはRは、本実施形態の製造方法を用いることにより、工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できるため、メチル基であることが特に好ましい。
式(1)で示される化合物は、ディールズ・アルダー反応を用いる方法など、公知の方法を用いて容易に製造できる。
【0029】
「アルコール」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用されるアルコールは、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の構造に応じて適宜決定できる。原料として使用されるアルコールとしては、アルキルアルコール(R-OH、Rはアルキル基)が好ましい。アルキルアルコールとしては、炭素数1以上15以下のアルキル基を有するものが好ましい。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ドデカノールなどが挙げられる。これらの中でも、アルコールとしては、炭素数1以上5以下のアルキル基を有するアルキルアルコールがより好ましい。ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できるためである。本実施形態の製造方法を用いることにより、工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できるため、アルコールとしてメタノールを用いることが特に好ましい。
【0030】
「一酸化炭素」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用される一酸化炭素の使用量は、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の分圧が、0.01MPa(絶対圧、以下同様)~10MPaの範囲内となる量であることが好ましく、0.1MPa~5.0MPaの範囲内となる量であることがより好ましい。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の一酸化炭素の分圧が0.01MPa以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が進行しやすくなり、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の一酸化炭素の分圧が10MPa以下であると、反応容器の耐圧設計の容易性の観点から反応容器が調達しやすくなるため好ましい。
【0031】
「酸素」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用される酸素(O)の使用量は、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の分圧が、0.01MPa(絶対圧、以下同様)~2.0MPaの範囲内となる量であることが好ましく、0.1MPa~1.0MPaの範囲内となる量であることがより好ましい。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の酸素の分圧が0.01MPa以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が進行しやすくなり、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の酸素の分圧が2.0MPa以下であると、オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気が爆発範囲となることを防止できるため好ましい。
【0032】
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法において、原料として使用される一酸化炭素および/または酸素は、必要に応じて、窒素ガス、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などのオレフィンのジカルボキシ化反応を阻害しない希釈ガスと混合して用いてもよい。この場合、オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気が爆発範囲となることを防止でき、好ましい。
一酸化炭素および/または酸素を希釈ガスと混合して用いる場合、一酸化炭素および/または酸素は、希釈ガスとを混合して混合ガスとしてから反応装置に供給してもよいし、希釈ガスとは別に反応装置に供給し、反応装置内で希釈ガスと混合してもよい。本実施形態の製造方法では、酸素と希釈ガスとの混合ガスとして、空気を使用してもよい。
【0033】
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法においては、オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気に、必要に応じて、水素ガスを供給してもよい。オレフィンのジカルボキシ化反応中の雰囲気が水素ガスを含む場合、水素ガスは、一酸化炭素および/または酸素と混合してから反応装置に供給してもよいし、一酸化炭素および/または酸素とは別に反応装置に供給してもよい。また、合成ガスとして知られ、C1化学における基本的な原料の1つであるオキソガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を原料として用いてもよい。この場合、純粋な一酸化炭素ガスを用いる場合と比較して、経済的に安価な一酸化炭素源として利用できる。
【0034】
オレフィンのジカルボキシ化反応後、反応装置内に残った一酸化炭素と酸素と必要に応じて使用された希釈ガスのいずれか1種以上を含む残気体は、反応装置内から回収し、濃度を調整した上で、再度、オレフィンのジカルボキシ化反応に使用してもよい。
【0035】
「金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒」
本実施形態において使用される不均一触媒は、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させたものである。不均一触媒は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0036】
不均一触媒の担体は、金属酸化物からなる。担体は、金属酸化物からなるものであればよく、例えば、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、三酸化二アルミニウム、二酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの金属酸化物、二酸化ケイ素-三酸化二アルミニウム、二酸化ケイ素-酸化マグネシウム、二酸化セリウム-二酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム-酸化ランタンなどの複合酸化物、各種ゼオライトなどからなるものを用いることができる。これらの金属酸化物の中でも、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、三酸化二アルミニウム、二酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。担体は、2種以上の金属元素を含む二酸化セリウム-二酸化ジルコニウムなどの複合酸化物であってもよい。
これらの金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒では、オレフィンのジカルボキシ化反応に伴って、パラジウムを含む化合物のパラジウムの価数が、0価から2価、2価から0価と変化する際に、パラジウムを含む化合物に対する安定化寄与やパラジウムを含む化合物が担体から溶出することを抑制することができる。これにより、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、より一層、高い収率で製造できる。不均一触媒の担体は、繰り返し使用した時に、パラジウムを含む化合物のリーチング量が低く、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が高い収率で得られる点で、特に、二酸化ジルコニウムおよび/または二酸化チタンからなるものであることが好ましい。
【0037】
不均一触媒の担体の形状および大きさは、特に限定されるものではなく、十分な強度を有し、かつ原料との接触面積を十分に確保できる形状であることが好ましい。
具体的には、不均一触媒の担体としては、例えば、平均粒径0.020mm~0.360mmの球形状のものを用いることができる。
【0038】
不均一触媒の担体としては、例えば、比表面積が5m/g~1500m/gであるものを用いることができる。また、不均一触媒の担体としては、例えば、平均細孔径が1nm~50nmであるものを用いることができる。上記値は、BET法(窒素吸着法)で測定して求めた数値である。
【0039】
不均一触媒の担体に担持された、パラジウムを含む化合物は、金属パラジウムであってもよいしパラジウム化合物であってもよい。パラジウム化合物としては、例えば、酸化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、燐酸パラジウムなどのパラジウムの無機酸塩、塩化パラジウム、臭化パラジウムなどのハロゲン化パラジウム、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、安息香酸パラジウムなどのパラジウムの有機酸塩などが挙げられる。金属パラジウムを担持する場合は、パラジウム化合物を担持したのちに、適当な方法で還元することで得ることができる。これらの中でもパラジウムを含む化合物としては、金属パラジウムを用いることが好ましい。オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、オレフィンが有する炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、より高い収率で製造できるためである。
不均一触媒の担体に担持されたパラジウムを含む化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0040】
不均一触媒の担体に担持されたパラジウムを含む化合物の形状は、特に限定されるものではないが、球状であることが好ましい。パラジウムを含む化合物の粒径は、使用する担体の種類などに応じて適宜決定できる。パラジウムを含む化合物は、粒径が1nm~500nmであるナノ粒子であることが好ましく、1nm~100nmであることがより好ましい。
パラジウムを含む化合物の粒径が500nm以下であると、パラジウムを含む化合物のオレフィンと接触できる単位質量当たりの面積が広くなるため、オレフィンのジカルボキシ化反応をより効果的に促進できる不均一触媒となる。したがって、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、より一層、高い収率で製造できる。また、パラジウムを含む化合物の粒径が500nm以下であると、パラジウムを含む化合物の担体と接触できる単位質量当たりの面積も多くなる。その結果、担体に担持されたパラジウムを含む化合物が担体から剥離しにくいものとなり、反応工程を行うことによるパラジウムを含む化合物のリーチング(分離)量が少ない不均一触媒となる。したがって、後述する分離工程を行うことにより得た再生不均一触媒を、後述する再反応工程において使用できる。パラジウムを含む化合物の粒径が1nm以上であると、後述する製造方法により、容易に不均一触媒を製造できる。
パラジウムを含む化合物の粒径は、電子顕微鏡観察によりにより測定した値である。必要に応じて、粉末X線回折、一酸化炭素パルス吸着法、X線吸収分光法なども用いて測定してもよい。
【0041】
不均一触媒中におけるパラジウムを含む化合物の担持量(パラジウム原子の含有量)は、特に限定されるものではなく、例えば、0.1質量%~20質量%とすることができ、0.5質量%~10質量%とすることが好ましい。パラジウムを含む化合物の担持量は、原料として使用されるオレフィンの使用量に対する不均一触媒の使用量などに応じて適宜決定できる。
【0042】
金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法などにより製造できる。
金属酸化物からなる担体と、パラジウムを含む化合物とを、溶媒中に分散させて攪拌する。攪拌後、真空乾燥により溶媒を除去する。得られた残留物を焼成する。これにより、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒を製造できる。
【0043】
不均一触媒に含まれるパラジウムを含む化合物は、バッチ式反応の場合、反応に使用されるオレフィンが有する炭素炭素二重結合1モルに対して、1.0μモル%~10モル%であることが好ましく、5.0μモル%~1.0モル%であることがより好ましい。不均一触媒に含まれるパラジウムを含む化合物の量がオレフィンが有する炭素炭素二重結合1モルに対して、1.0μモル%以上であると、オレフィンが有する炭素炭素二重結合のジカルボキシ化反応が効果的に促進され、オレフィンが有する炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。上記のパラジウムを含む化合物の量が10モル%以下であると、オレフィンが有する炭素炭素二重結合のジカルボキシ化反応における副反応を効果的に抑制でき、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。
【0044】
「塩化銅」
本実施形態において使用される塩化銅は、塩化第二銅二水和物および/または無水塩化第二銅であってもよく、無水塩化第二銅であることが好ましい。塩化銅は、オレフィンのジカルボキシ化反応に伴って、パラジウムを含む化合物から中間体を経て生成した0価パラジウムを2価パラジウムに酸化させて、不均一触媒に担持されたパラジウムを含む化合物を再生させる。塩化銅が、無水塩化第二銅であると、パラジウム水素化物を酸化させることによって生成される水分子が少なくて済む。その結果、水分子によってオレフィンのジカルボキシ化反応が抑制されることを防止できる。
【0045】
塩化銅の使用量は、反応に使用されるオレフィンが有する炭素炭素二重結合1当量(オレフィンが有するエチレン性炭素炭素二重結合1当量)に対して、0.75当量以下であり、0.6当量以下であることがより好ましい。塩化銅の使用量は、反応に使用されるオレフィンが有する炭素炭素二重結合1当量に対して、0.10当量以上であり、0.20当量以上であることがより好ましい。塩化銅の使用量が0.75当量以下であるので、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できる。塩化銅の使用量が0.75当量以下であるので、反応工程を行うことによる塩化第一銅の析出が抑制され、反応工程を行うことにより得られた反応液から不均一触媒を分離しやすくなる。塩化銅の使用量が0.75当量以下であると、オレフィンのジカルボキシ化反応の反応中に、反応液中の酸性度が高くなって、オレフィンのジカルボキシ化反応に使用する反応装置が腐食されることを防止できる。また、塩化銅の使用量が0.10当量以上であると、塩化銅によるパラジウムを含む化合物の再生機能が十分に得られる。このため、再生したパラジウムを含む化合物によって、オレフィンのジカルボキシ化反応がより効果的に促進される。
【0046】
「溶媒」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法においては、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う反応液に、必要に応じて、オレフィンのジカルボキシ化反応を阻害しない溶媒を1種または2種以上含有させてもよい。本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法においては、原料として使用するアルコールを実質的に溶媒として使用してもよい。
【0047】
本実施形態の製造方法において使用できる溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテルまたはトリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンまたはアセトフェノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルまたはプロピオン酸メチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、p-キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類またはその置換化合物、n-ヘキサン、n-ペンタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどの脂肪族または脂環族の炭化水素類、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルなどのカーボネート類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド化合物類、またはスルホランなどのスルホン化合物類などが挙げられる。
また、溶媒が、塩化銅を溶解しないものである場合には、塩化銅の溶解を助けるために、少量の蒸留水を添加してもよい。反応にメタノールを使用する場合は、反応に使用するメタノールを増量しても良い。
【0048】
「反応条件」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法における反応工程は、以下に示す工程であることが好ましい。まず、反応装置の反応容器内に、オレフィンとアルコールと上記の不均一触媒と塩化銅と、必要に応じて使用される溶媒を、それぞれ所定量入れる。次に、反応装置の反応容器内に、一酸化炭素ガスと酸素ガスと必要に応じて使用される希釈ガスとを供給し、公知の方法により反応容器内を攪拌しながら、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う。
【0049】
一酸化炭素ガスは、オレフィンのジカルボキシ化反応に必要な量の全量を反応装置に一括して供給してもよいし、連続的もしくは間欠的に供給してもよい。本実施形態では、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の一酸化炭素ガスの分圧が、0.01MPa~10MPaの範囲内で維持されるように、オレフィンのジカルボキシ化反応によって消費された一酸化炭素を補いながら反応を行うことが特に好ましい。
【0050】
酸素ガスは、オレフィンのジカルボキシ化反応に必要な量の全量を反応装置に一括して供給してもよいし、連続的もしくは間欠的に供給してもよい。本実施形態では、オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気中の酸素ガスの分圧が、0.01MPa~2.0MPaの範囲内で維持されるように、オレフィンのジカルボキシ化反応によって消費された酸素を補いながら反応を行うことが特に好ましい。
【0051】
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法における反応工程の反応条件は、オレフィンのジカルボキシ化反応反応が進行する範囲内で、原料であるオレフィンおよびアルコールの種類、触媒である上記の不均一触媒および塩化銅の種類などに応じて、適宜決定できる。
反応条件は、例えば、以下に示す(a)反応装置、(b)反応圧力、(c)反応温度、(d)反応時間のうち、いずれか1つ以上の条件を満たすことが好ましい。
【0052】
(a)反応装置
本実施形態において、オレフィンのジカルボキシ化反応に使用する反応装置は、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、上記の不均一触媒および塩化銅とともに封入でき、加圧下で密閉できる耐圧反応容器を備えるものであることが好ましい。具体的には、反応装置として、例えば、SUS304、SUS316、SUS316Lなどのステンレス、チタン、タンタル、ニッケル、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)などからなる耐圧反応容器を備えるオートクレーブを用いることが好ましい。
【0053】
(b)反応圧力
オレフィンのジカルボキシ化反応を行う雰囲気の圧力(耐圧反応容器内の圧力)は、一酸化炭素ガスおよび酸素ガスの分圧がそれぞれ上記の範囲内であることが好ましい。さらに、耐圧反応容器内の圧力(全圧)は、0.1MPa(絶対圧、以下同様)~10MPaの範囲内であることが好ましく、0.1MPa~5MPaの範囲内であることがより好ましい。耐圧反応容器内の圧力が0.1MPa以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、ジカルボン酸誘導体をより高い収率で製造できる。また、耐圧反応容器内の圧力が10MPa以下であると、反応容器の仕様がプロセス設計上、一般的な工業用途で使用されうる容器でよいため、特殊構造が不要であり、好ましい。
【0054】
(c)反応温度
オレフィンのジカルボキシ化反応を行う温度(耐圧反応容器内の温度)は、0℃~150℃の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは40℃~100℃である。耐圧反応容器内の温度が0℃以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が効果的に促進され、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。耐圧反応容器内の温度が150℃以下であると、オレフィンのジカルボキシ化反応における副反応を効果的に抑制でき、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。
【0055】
(d)反応時間
反応工程における反応時間は、0.5時間~100時間の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは3~48時間である。反応時間が0.5時間以上であると、オレフィンのジカルボキシ化反応が十分に進行するため、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物をより高い収率で製造できる。反応時間が100時間以下であると、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を効率よく製造でき、しかも、オレフィンのジカルボキシ化反応における副反応を効果的に抑制できる。
【0056】
「ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物」
本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法では、オレフィン(不飽和炭化水素)の炭素炭素二重結合に、カルボキシ基(-COOH)および/またはカルボン酸エステル基(-COOR(Rは原料として使用したアルコールに由来するアルキル基))が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が得られる。得られたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、隣り合った炭素原子に、それぞれカルボキシ基またはカルボン酸エステル基が結合している化合物であり、種々の化合物の原料、樹脂への添加剤などとして使用できる有用なものである。具体的には、例えば、本実施形態の製造方法を用いて製造したジカルボン酸誘導体構造を有する化合物と、アミノ化合物とを反応させることにより、工業的に有用なイミド結合を有する化合物を製造できる。したがって、本実施形態の製造方法を用いて製造したジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、イミド結合を有する化合物の原料として使用できる。
【0057】
本実施形態の製造方法において、原料として脂環式オレフィンを用いた場合、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物として、環状の骨格を有し、隣り合った炭素原子にそれぞれカルボキシ基またはカルボン酸エステル基が結合している化合物が得られる。得られたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物は、工業的により有用なイミド結合を有する化合物の原料として使用できる。よって、本実施形態の製造方法を用いることによる収率を向上させる効果が顕著となる。
【0058】
例えば、本実施形態の製造方法において、原料として脂環式オレフィンである式(1)で示される化合物を用いた場合、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物として下記式(2)で示される化合物が得られる。この場合、式(2)中のR11およびR12は、それぞれ式(1)のRおよびRに由来する基である。
【0059】
【化4】
(式(2)中、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。)
【0060】
式(2)で示される化合物において、R11、R12、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子あるいは、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、水素原子あるいは、炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましい。R11、R12、RおよびRは、それぞれ異なっていてもよいし、一部または全部が同じであってもよい。
【0061】
式(2)で示される化合物において、R11およびR12は、原料として使用した式(1)で示される化合物におけるRおよびRに由来する基である。
式(2)中のR11は、式(1)中のRと同じであってもよいし、式(1)中のエステル部位である-COORが加水分解されてカルボキシ基(-COOH)とされたことによって水素原子とされていてもよい。また。式(2)中のR12は、式(1)中のRと同じであってもよいし、式(1)中の-COORが加水分解されてカルボキシ基とされたことにより水素原子とされていてもよい。
【0062】
およびRは、原料として使用したアルコールに由来する基である。例えば、アルコールとしてアルキルアルコールを用いた場合、RとRはアルキルアルコールのアルキル基に由来する基である。原料として使用したアルコールが1種類のみである場合、RとRは同一の基となりやすい。反応後の反応液からの目的物の分離および精製のしやすさを考慮すると、RとRとは同一であることが好ましい。Rおよび/またはRは、工業的に有用なジカルボン酸誘導体構造を有する化合物であるため、メチル基であることが特に好ましい。
【0063】
11、R12、RおよびRの一部または全部は、水素原子であってもよい。すなわち、式(2)で示される化合物はカルボン酸であってもよい。R11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物は、ジカルボン酸誘導体構造が生成する反応において、以下に示す<1>~<3>のいずれかの1つ以上の反応により生成する。
<1>反応系中に存在する水分子が、原料として使用したアルコールに代わって式(1)で示される化合物中の炭素炭素二重結合と反応する。
<2>式(1)で示される化合物中の炭素炭素二重結合に導入されたエステル部位である-COORおよび-COORのうち一方または両方が、反応系中に存在する水分子と反応して加水分解される。
<3>式(1)で示される化合物中のエステル部位である-COORおよび-COORのうち一方または両方が、反応系中に存在する水分子と反応して加水分解される。
【0064】
本実施形態の製造方法において、反応の収率を評価する場合、R11、R12、RおよびRが、それぞれ炭素数1以上5以下のアルキル基である化合物の収率と、R11、R12、RおよびRの一部または全部が、水素原子である化合物の収率と、それらの合計の収率とを考慮して評価できる。
【0065】
式(2)で示される化合物は、例えば、ジイミド化合物の原料として使用できる。具体的には、式(2)で示される化合物のエステル基を加水分解して、カルボン酸構造とする。このことにより、式(2)で示される化合物におけるR11、R12、RおよびRが、全て水素原子に置換されたテトラカルボン酸化合物となる。その後、得られたテトラカルボン酸化合物を用いて公知の方法によりイミド化合物を製造する。
【0066】
このように式(2)で示される化合物をジイミド化合物の原料として使用する場合、エステル基を加水分解してカルボン酸構造としてから使用する。したがって、本実施形態の製造方法により、式(2)で示される化合物として、R11、R12、RおよびRが、それぞれ炭素数1以上5以下のアルキル基である化合物が得られた場合も、R11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物が得られた場合も、これらの化合物の混合物が生成した場合も、ジイミド化合物の合成において原料として同様に利用できる。
【0067】
式(2)で示される化合物は、-COOR11、-COOR12、-COOR、-COORの4つの基がノルボルネン骨格に結合した構造を有する。このため、式(2)で示される化合物は、アミノ化合物と反応させることにより、工業的に有用なノルボルネン骨格とイミド結合を有するポリイミドの原料として使用できる。よって、本実施形態の製造方法を用いることによる収率を向上させる効果が顕著となる。
【0068】
「分離工程」
分離工程では、反応工程を行うことにより得られた反応液から不均一触媒を分離して再生不均一触媒を得る。反応液から不均一触媒を分離する方法としては、例えば、遠心分離法、濾過法、デカンテーション、沈降分離から選ばれる1種または2種以上の方法を用いることができる。
反応工程を行うことにより得られた反応液中には、不均一触媒以外の固体が含まれている場合がある。このような固体としては、触媒として使用した塩化銅に由来する塩化第一銅などの析出物が挙げられる。反応工程を行うことにより得られた反応液中に不均一触媒以外の固体が含まれている場合には、固体成分を有機溶剤で溶解し、不均一触媒と分離してから、不均一触媒を回収するなどの方法により、不均一触媒と分離することが好ましい。
分離工程において、反応液から分離した不均一触媒は、必要に応じて洗浄してもよいし、乾燥させてもよい。簡便には、分離した不均一触媒をメタノールなどのアルコール系溶剤で洗浄、乾燥する。
【0069】
「再反応工程」
再反応工程では、オレフィンとアルコールと一酸化炭素および酸素とを、再生不均一触媒および塩化銅の存在下で反応させる。再生不均一触媒のみ用いてもよいし、再生不均一触媒と不均一触媒とを混合して用いてもよい。
再反応工程において使用するオレフィン、アルコール、一酸化炭素、酸素、塩化銅としては、反応工程において使用できるものと同様のものを用いることができる。再反応工程において使用するオレフィン、アルコール、一酸化炭素、酸素、塩化銅は、それぞれ反応工程と同じものを使用してもよいし、これらのうち一部または全部は、反応工程と異なるものを使用してもよい。また、再反応工程において使用するオレフィン、アルコール、一酸化炭素、酸素、塩化銅の使用量についても、それぞれ反応工程と同じであってもよいし、これらのうち一部または全部が、反応工程と異なっていてもよい。
【0070】
再反応工程におけるオレフィンのジカルボキシ化反応の条件は、反応工程と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
再反応工程においては、触媒として、再生不均一触媒と不均一触媒だけでなく、必要に応じて、これらに加えて反応工程において使用する不均一触媒を使用してもよい。
【0071】
本実施形態では、再反応工程の後に、再反応工程を行うことにより得られた反応液から不均一触媒を分離して再生不均一触媒を得る再分離工程を行ってもよい。
再分離工程を行う場合には、再分離工程の後に、再反応工程を行うことが好ましい。再分離工程と再反応工程とは、この順に複数回繰り返し行うことが好ましい。この場合、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造に使用する不均一触媒の使用量をより一層抑制でき、工業的な製造方法として好ましい。
【0072】
本実施形態の製造方法は、オレフィンをジカルボキシ化する反応工程を含む。本実施形態における反応工程では、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒、および塩化銅の存在下で反応させる。このため、オレフィンの炭素炭素二重結合に、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基が合計で2個導入されたジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を、高い収率で製造できる。
【0073】
より詳細には、本実施形態のジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造方法では、オレフィンのジカルボキシ化反応中に、不均一触媒上の2価のパラジウムは、オレフィンと反応して中間体を生成する。生成した中間体と、一酸化炭素およびアルコールが反応することにより、オレフィン反応物が生成され、中間体から0価のパラジウムが塩化水素とともに離脱される。0価のパラジウムは、塩化銅により酸化され、2価のパラジウムになり、さらにオレフィンと反応する。生じた塩化水素分子と系中の酸素分子は、0価のパラジウムとの反応で還元され生じた塩化銅(I)と反応し、水分子が生成される。本実施形態において使用される不均一触媒は、担体として金属酸化物を用いているため、オレフィンのジカルボキシ化反応に伴って、オレフィンのジカルボキシ化反応を促進する機能(触媒活性)が低下しにくい。その結果、本実施形態の製造方法では、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できるものと推定される。
【0074】
これに対し、例えば、炭素からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒を使用した場合、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を十分な収率で製造することはできなかった。この原因は不明であるが、オレフィンのジカルボキシ化反応中に生成した水分子の反応への影響が、炭素からなる担体を使用した場合に、より強いためではないかと推測される。水分子は、触媒活性そのものに影響を及ぼすものではないと考えられる。しかし、水分子によって、オレフィンに対する触媒の作用が阻害される可能性がある。また、炭素からなる担体の場合は、パラジウムを含む化合物が物理吸着しているが、金属酸化物からなる担体の場合は、パラジウムを含む化合物は物理的吸着と、イオン的吸着とによって担持されているものと推定される。このことにより、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒では、炭素からなる担体を用いた場合と比較して、活性低下が抑制されている可能性がある。
【0075】
本実施形態における反応工程では、触媒として不均一触媒を用いている。不均一触媒は、遠心分離法、濾過法、デカンテーションなどを用いて、反応工程を行うことにより得られた反応液から容易に分離できるため、均一触媒と比較して好ましい。
【0076】
本実施形態の製造方法では、反応工程の後に、分離工程と再反応工程とをこの順に行うことが好ましい。この場合、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造に使用する不均一触媒の使用量を抑制でき、工業的な製造方法として好ましい。
本実施形態の反応工程において使用する、金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒は、パラジウムを含む化合物が担体から剥離しにくいため、反応工程を行っても担体上にパラジウムを含む化合物がとどまりやすい。したがって、本実施形態の反応工程において使用した不均一触媒は、反応工程を行うことによるパラジウムを含む化合物のリーチング(分離)量が少ない。このため、分離工程を行うことにより得た再生不均一触媒を再反応工程において使用できる。そして、再反応工程を行うことによって、目的物であるジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を高い収率で製造できる。
【0077】
本実施形態における反応工程では、塩化銅の使用量をオレフィンが有する炭素炭素二重結合1当量に対して0.10当量以上0.75当量以下としている。これにより、反応工程を行うことにより得られた反応液から不均一触媒を分離し、不均一触媒を繰り返し使用することができる。
【実施例0078】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0079】
(参考例)
[式(1)で示される化合物の合成]
ビシクロ[2.2.1]へプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸(「ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸」と記載する場合もある。)10.3g(57mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド200mL(富士フイルム和光製)に溶解させた。この溶液に、炭酸カリウム31.3g(富士フイルム和光、226mmol)と、ヨードメタン14mL(東京化成製、226mmol)とを加え、室温で48時間撹拌し、反応させた。
【0080】
反応後の反応液に、水と酢酸エチルとを加えて分液した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、反応生成物であるビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステルを、白色固体として得た(収量10.0g、収率84%)。
得られた白色固体を、以下に示すガスクロマトグラフィーを用いて、以下に示す分析条件で分析した。その結果、式(1)で示される化合物(式(1)中のRおよびRはメチル基である。)であるビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステルであることが確認できた。
【0081】
(ガスクロマトグラフィーの分析条件)
ガスクロマトグラフィーとして、Agilent社製のGC6850Series IIを使用した。検出器として、水素炎イオン化型検出器(FID(flame ionization detector))を使用した。カラムとして、J&W HP-1カラム(0.25μm厚み、0.32mm I.D.30m)を使用した。そして、カラム温度40℃、測定温度40~240℃にて測定を行った。具体的には、40℃で5分間保持したのち、昇温速度毎分10℃で240℃まで昇温し、240℃で5分間保持するプログラムで行った。
【0082】
(実施例1)
[金属酸化物からなる担体にパラジウムを含む化合物を担持させた不均一触媒の製造]
実施例1では、不均一触媒として、以下に示す方法により製造した二酸化ジルコニウム担持パラジウムを使用した。
担体として、平均粒径が30μm、比表面積が279m/gである球状の二酸化ジルコニウムを用意した。担体の比表面積は、BET法(表面積測定法)で測定して求めた数値である。250μLの硝酸パラジウム溶液(パラジウム金属として200g/Lを含む。低塩素品 田中貴金属社製)を1mLのイオン交換水に分散させて、乳鉢と乳棒を用いて30分間攪拌し、混合液を得た。得られた混合液を、真空乾燥して溶媒を除去し、残留物を550℃で4時間焼成した。これにより、二酸化ジルコニウムからなる担体に、パラジウムを含む化合物が5質量%担持された1.0gの不均一触媒を得た。パラジウムを含む化合物は、酸化パラジウムとして担持されていると考えられる。
【0083】
[ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物の製造]
上記の方法により合成した式(1)で示される化合物(式(1)中のRおよびRはメチル基である。)であるビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステル200mg(0.95mmol)と、上記の方法により製造した二酸化ジルコニウム担持パラジウム10.23mg(金属パラジウムとして、4.8μmol)と、無水塩化第二銅64.4mg(ナカライテスク製、0.48mmol)とを、それぞれ秤量し、ガラス製の円筒状の容器に入れた。ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステル中のエチレン性炭素炭素二重結合1当量に対する塩化銅の使用量は0.51当量である。
【0084】
上記の円筒状の容器内に、さらに3.0mLのメタノール(富士フイルム和光製)を加えた。その後、上記の材料の入れられた円筒状の容器をオートクレーブの耐圧反応容器内に入れて封緘した。
耐圧反応容器内に酸素ガスを供給して酸素ガスの分圧を1.0MPaとした後、一酸化炭素ガスを供給して一酸化炭素ガスの分圧を3.5MPaとし、耐圧反応容器内の全圧を4.5MPaとした。その後、耐圧反応容器内を激しく撹拌しながら、60℃で12時間反応させた。
【0085】
反応終了後、耐圧反応容器内の温度が室温となるまで冷却して放圧し、上記の円筒状の容器内の反応液を回収した。反応液の一部を以下に示す方法により試験体としてサンプリングし、上述したガスクロマトグラフィーを用いて上述した分析条件で分析し、反応生成物を同定した。その結果、反応生成物が、式(2)中のR11、R12、R、Rがメチル基である化合物のビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2エンド,3エンド,5エキソ,6エキソ-テトラカルボン酸テトラメチルエステル(生成物1)と、式(2)中のR11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物(生成物2)とを含む混合物であることが確認できた。
【0086】
(試験体のサンプリング方法)
反応後の円筒状の容器内の反応液に、内部標準物質として、ジエチレングリコールジメチルエーテル50μLを加え、反応液とともにねじ口試験管に移し、さらに7mLのメタノールを加えて希釈した。希釈した反応液を、室温で、回転数3000rpmで5分間遠心分離することにより、希釈した反応液中に含まれる不均一触媒を沈殿させ、その上澄み液を分析用の試験体として採取(サンプリング)した。
【0087】
また、反応生成物の同定結果を用いて、式(1)で示される化合物の転化率と、式(2)中のR11、R12、R、Rがメチル基である化合物(生成物1)の収率と、式(2)中のR11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物(生成物2)の合計の収率と、それらの合計収率(生成物1の収率+生成物2の収率)とを算出した。その結果を表1に示す。
【0088】
(実施例2~実施例5、比較例1、比較例2)
実施例2~実施例5では、不均一触媒として、表1に示す金属酸化物からなる担体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして不均一触媒を製造し、その不均一触媒を使用してジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造した。
実施例2では、担体として、平均粒径が21μm、比表面積が35m/g~65m/gである球状の二酸化チタンを用いた。
実施例3では、担体として、平均粒径が4μm、比表面積が51.7m/gである球状の二酸化セリウムと二酸化ジルコニウムの複合酸化物(第一稀元素化学工業製)を用いた。二酸化セリウムと二酸化ジルコニウムとは、質量比で50:50(二酸化セリウム:二酸化ジルコニウム)である。

実施例4では、担体として、平均粒径が190nm~240nm、比表面積が7m/g~8m/gである球状の酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ製(JRC-MGO-4 500A))を用いた。
実施例5では、担体として、球状酸化亜鉛(富士フイルム和光純薬製(製品コード:267-00355)を使用した。
【0089】
比較例1では、不均一触媒の代わりに、塩化パラジウム(富士フイルム和光社製)8.5mg(5mol%)を使用した。
比較例2では、不均一触媒として、炭素担持パラジウム10.2mg(YMC製、金属パラジウムとして、4.8μmol)を使用した。比較例2の炭素担持パラジウムにおけるパラジウム含有量は5質量%であった。上記触媒を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造した。
【0090】
得られた反応生成物を実施例1と同様にして同定した。その結果、実施例2、5では、反応生成物が、式(2)中のR11、R12、R、Rがメチル基である化合物(生成物1)と、式(2)中のR11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物(生成物2)とを含む混合物であることが確認できた。また、実施例3、4、比較例1、2では、反応生成物が生成物1であることが確認できた。
【0091】
反応生成物の同定結果を用いて実施例1と同様にして、式(1)で示される化合物の転化率と、生成物1の収率と、生成物2の収率と、それらの合計収率(生成物1の収率+生成物2の収率)とを算出した。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示すように、実施例1~実施例5では、比較例1、比較例2と比較して、合計収率が高いものであった。
【0094】
(実施例6)
[不均一触媒の分離工程および再反応工程]
実施例1におけるジカルボキシ化反応により得られた反応液を、室温で、回転数300rmpで20分間遠心分離することにより、不均一触媒を沈殿させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、不均一触媒を分離し、室温で3時間真空乾燥して再生不均一触媒を得た(分離工程)。得られた再生不均一触媒の質量は、51.5mgであった。
不均一触媒に代えて再生不均一触媒を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造した(再反応工程)。その後、再反応工程を行うことにより得られた反応液を用いたこと以外は、分離工程と同様にして再生不均一触媒を得た(再分離工程)。さらに、再分離工程の後、2回目の再反応工程を行い、さらに再分離工程と再反応工程とを、5回目の再反応工程(反応工程と再反応工程との合計6回)が終了するまで交互に行った。
【0095】
(実施例7)
実施例1におけるジカルボキシ化反応により得られた反応液に代えて、実施例2におけるジカルボキシ化反応により得られた反応液を用いたこと以外は、実施例6と同様にして分離工程と再反応工程とを行い、さらに再分離工程と再反応工程とを、5回目の再反応工程(反応工程と再反応工程との合計6回)が終了するまで交互に行った。
【0096】
実施例6および実施例7において得られた反応生成物を、実施例1と同様にして同定した。その結果、実施例6、7では、反応生成物が、式(2)中のR11、R12、R、Rがメチル基である化合物(生成物1)と、式(2)中のR11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物(生成物2)とを含む混合物であることが確認できた。
【0097】
反応生成物の同定結果を用いて実施例1と同様にして、式(1)で示される化合物の転化率と、生成物1の収率と、生成物2の収率と、それらの合計収率(生成物1の収率+生成物2の収率)とを算出した。その結果を表2に示す。
【0098】
分離工程と再反応工程とを繰り返して得られた実施例6、7の反応液に、さらに分離工程を実施して不均一触媒を得た。得られた不均一触媒のパラジウムを含む化合物のリーチング量を以下に示す方法により測定した。その結果を表2に示す。
【0099】
実施例6において5回目の再反応工程を行うことにより得られた反応液を用いたこと以外は、実施例6における分離工程と同様にして、再生不均一触媒を得た。得られた再生不均一触媒について、実施例1の不均一触媒に対するリーチング量を、以下に示す方法により測定した。その結果を表2に示す。再生不均一触媒のリーチング量は、不均一触媒および再生不均一触媒に担持されているパラジウム原子の質量に基づいて、以下の式により算出した値である。不均一触媒および再生不均一触媒に担持されているパラジウム原子の質量は、実施例と同様にして測定した。
リーチング量(質量%)={1-(再生不均一触媒のパラジウム原子量/不均一触媒のパラジウム原子量)}×100
【0100】
【表2】
【0101】
表2に示すように、実施例6、7では、不均一触媒を繰り返し使用しても、パラジウムを含む化合物のリーチング量が低く、ジカルボン酸誘導体構造を有する化合物が高い収率で得られた。また、実施例1、実施例2と同等の合計収率が得られた。
【0102】
(比較例3)
実施例1における無水塩化第二銅の使用量を96.6mg(ナカライテスク製、0.72mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてジカルボン酸誘導体構造を有する化合物を製造した。ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2エンド,3エンド-ジカルボン酸ジメチルエステル中のエチレン性炭素炭素二重結合1当量に対する塩化銅の使用量は0.76当量である。
得られた反応生成物を実施例1と同様にして同定した。その結果、比較例3では、反応生成物が、式(2)中のR11、R12、R、Rがメチル基である化合物(生成物1)と、式(2)中のR11、R12、RおよびRの一部または全部が水素原子である化合物(生成物2)とを含む混合物であることが確認できた。式(1)で示される化合物の転化率は99%であった。生成物1の収率は28%であった。生成物2の収率は12%であった。合計収率は40%であった。
ジカルボキシ化反応後の反応液では、塩化第一銅の析出物が確認された。このため、実施例6,7と同様に、反応液から不均一触媒を分離しようとしたが、不均一触媒と塩化第一銅の析出物との分離できず、不均一触媒を繰り返し使用することができなかった。