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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072078
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】潜在性触媒の製造方法及び潜在性触媒
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/02 20060101AFI20240520BHJP
   C08F 4/52 20060101ALI20240520BHJP
   B01J 13/20 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C08F4/02
C08F4/52
B01J13/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182694
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】吉成 保彦
(72)【発明者】
【氏名】川守 崇司
【テーマコード(参考)】
4G005
4J015
【Fターム(参考)】
4G005AA01
4G005AB06
4G005BA12
4G005BB19
4G005BB24
4G005DC34Y
4G005DC67X
4G005DD58Z
4G005EA06
4J015DA04
4J015EA10
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れる潜在性触媒を提供する。
【解決手段】内油相及び水相を含み、内油相に有機ボレート塩が含まれる水中油型エマルションを得る工程と、水中油型エマルションと、外油相と、疎水部及び親水部を有し2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系高分子化合物とを多孔質ガラスを用いて膜乳化し、O/W/O型エマルションを得る工程と、O/W/O型エマルションに水溶性重合開始剤を添加し(メタ)アクリレート系高分子化合物を重合させ、水中油型エマルションの液滴が(メタ)アクリル樹脂によって被覆されたカプセル化樹脂粒子前駆体を得る工程と、カプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分を除去しカプセル化樹脂粒子を得る工程とを含む、潜在性触媒の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内油相及び水相を含み、前記内油相に有機ボレート塩が含まれる水中油型エマルションを得る工程と、
前記水中油型エマルションと、外油相と、疎水部及び親水部を有し2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系高分子化合物とを多孔質ガラスを用いて膜乳化し、O/W/O型エマルションを得る工程と、
前記O/W/O型エマルションに水溶性重合開始剤を添加し前記(メタ)アクリレート系高分子化合物を重合させ、前記水中油型エマルションの液滴が(メタ)アクリル樹脂によって被覆されたカプセル化樹脂粒子前駆体を得る工程と、
前記カプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分を除去しカプセル化樹脂粒子を得る工程とを含む、潜在性触媒の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質ガラスの平均細孔径が1~50μmである、請求項1に記載の潜在性触媒の製造方法。
【請求項3】
前記O/W/O型エマルションに含まれる液滴は、レーザー回折散乱法による個数基準の平均粒子径が10~100μmである、請求項1又は2に記載の潜在性触媒の製造方法。
【請求項4】
(メタ)アクリル樹脂と、前記(メタ)アクリル樹脂に内包される有機ボレート塩とを含むカプセル化樹脂粒子を含み、
前記カプセル化樹脂粒子は、レーザー回折散乱法による個数基準の平均粒子径が100μm以下である、潜在性触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、潜在性触媒の製造方法及び潜在性触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
低温硬化性組成物は、低温において硬化反応が進むという利点から、塗料、電気絶縁材料、土木材料、建築材料、接着剤、充填剤、電子材料等の各種の用途に用いることができる。低温硬化性組成物において、反応性化合物と触媒とを含む一液型の組成物では、触媒として潜在性触媒を用いることができる。潜在性触媒は、常温常圧の通常条件では活性を示さず、外部刺激により活性を示す触媒である。潜在性触媒は、熱、光等の外部刺激を受けて重合開始の活性種を生成し、組成物中において反応性化合物の重合を促進させることができる。
【0003】
低温硬化性組成物をより低温で硬化させることで、耐熱性が低い被塗工基材への応用を広げることができ、さらに、電子部品等に応用する際に部品の熱による劣化を防止することができる。低温硬化性組成物の硬化温度を低下させるために、より低温で活性を発現する潜在性触媒を用いる方法がある。このような潜在性触媒として有機ボレート塩が知られている。特許文献1には、アリールボレート化合物を化学重合触媒に用いることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-187907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低温硬化性組成物に、より低温において触媒活性を発現する潜在性触媒が含まれる場合、外部刺激が与えられない状態においても触媒活性が徐々に発現し、潜在性触媒の保存安定性が損なわれることがある。特許文献1には、アリールボレート化合物の保存中の劣化を防止するために、アリールボレート化合物は他の成分と分けて包装することが好ましいことが開示される。
【0006】
本発明の一目的としては、保存安定性に優れる潜在性触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のいくつかの実施形態を以下に示す。
[1]内油相及び水相を含み、前記内油相に有機ボレート塩が含まれる水中油型エマルションを得る工程と、前記水中油型エマルションと、外油相と、疎水部及び親水部を有し2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系高分子化合物とを多孔質ガラスを用いて膜乳化し、O/W/O型エマルションを得る工程と、前記O/W/O型エマルションに水溶性重合開始剤を添加し前記(メタ)アクリレート系高分子化合物を重合させ、前記水中油型エマルションの液滴が(メタ)アクリル樹脂によって被覆されたカプセル化樹脂粒子前駆体を得る工程と、前記カプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分を除去しカプセル化樹脂粒子を得る工程とを含む、潜在性触媒の製造方法。
【0008】
[2]前記多孔質ガラスの平均細孔径が1~50μmである、[1]に記載の潜在性触媒の製造方法。
【0009】
[3]前記O/W/O型エマルションに含まれる液滴は、レーザー回折散乱法による個数基準の平均粒子径が10~100μmである、[1]又は[2]に記載の潜在性触媒の製造方法。
【0010】
[4](メタ)アクリル樹脂と、前記(メタ)アクリル樹脂に内包される有機ボレート塩とを含むカプセル化樹脂粒子を含み、前記カプセル化樹脂粒子は、レーザー回折散乱法による個数基準の平均粒子径が100μm以下である、潜在性触媒。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、保存安定性に優れる潜在性触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、潜在性触媒の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
図2図2は、実施例で得られた水中油型エマルションの光学顕微鏡像である。
図3図3は、実施例で得られたO/W/O型エマルションの光学顕微鏡像である。
図4図4は、実施例で得られたマイクロカプセル化樹脂粒子の光学顕微鏡像である。
図5図5は、実施例で得られたマイクロカプセル化樹脂粒子から完全に水相が除去されていない状態を観察した光学顕微鏡である。
図6図6は、参考例で得られた水中油型エマルションの光学顕微鏡像である。
図7図7は、参考利絵で得られたO/W/O型エマルションの光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の例示によって本発明は限定されない。
【0014】
(潜在性触媒の製造方法)
一実施形態による潜在性触媒の製造方法としては、内油相及び水相を含み、内油相に有機ボレート塩が含まれる水中油型エマルションを得る工程と、水中油型エマルションと、外油相と、疎水部及び親水部を有し2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系高分子化合物とを多孔質ガラスを用いて膜乳化し、O/W/O型エマルションを得る工程と、O/W/O型エマルションに水溶性重合開始剤を添加し(メタ)アクリレート系高分子化合物を重合させ、水中油型エマルションの液滴が(メタ)アクリル樹脂によって被覆されたカプセル化樹脂粒子前駆体を得る工程と、カプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分を除去しカプセル化樹脂粒子を得る工程とを含む。
【0015】
一実施形態によれば、保存安定性に優れる潜在性触媒を提供することができる。
【0016】
以下の説明において、疎水部及び親水部を有し2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系高分子化合物を(メタ)アクリレート系高分子化合物とも記す。本開示において、(メタ)アクリロイルオキシ基は、メタクリロイルオキシ基、アクリロイオルオキシ基、又はこれらの組み合わせの総称を意味する。また、(メタ)アクリレートは、メタクリレート、アクリレート、又はこれらの組み合わせの総称を意味する。また、(メタ)アクリルは、メタクリル、アクリル、又はこれらの組み合わせの総称を意味する。
【0017】
本開示において、潜在性触媒は、有機ボレート塩及び(メタ)アクリル樹脂を含むカプセル化樹脂粒子である。潜在性触媒は、例えば、有機ボレート塩を含む中心部と、中心部の表面を被覆し(メタ)アクリル樹脂を含む表層部とを含む。中心部の表面は、(メタ)アクリル樹脂によって部分的に被覆されてもよく、中心部の表面の全面が(メタ)アクリル樹脂に被覆されてもよい。
【0018】
有機ボレート塩と(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル樹脂が有機ボレート塩に吸着又は結合等によって固定されて内包されている状態であってもよく、(メタ)アクリル樹脂の中空状の粒子内に有機ボレート塩が固定されずに内包されている状態であってもよい。
【0019】
本開示において、潜在性触媒は、温度、圧力、pH等の外部刺激により、有機ボレート塩がカプセル化樹脂粒子から放出されて、有機ボレート塩が触媒活性を発現するように設計されることが好ましい。また、潜在性触媒は、温度、圧力、pH等の外部刺激が所定範囲に満たない状態では、有機ボレート塩がカプセル化樹脂粒子から放出されないように設計されることが好ましい。例えば、潜在性触媒は、60℃以上に加熱されると、有機ボレート塩がカプセル化樹脂粒子から放出されることが好ましい。
【0020】
有機ボレート塩は、熱、圧力、pH等の外部刺激を受けて活性を示し、常温及び常圧等の通常条件では活性を示さないものであることが好ましい。このような有機ボレート塩は、潜在性触媒の材料として用いることができる。また、有機ボレート塩は、より低温の外部刺激により触媒活性を示すことから、低温硬化性組成物に好ましく用いることができる。一方で、潜在性触媒が活性化する温度が低温化すると、組成物の保存の間にも潜在性触媒が活性種を生成する可能性がある。このような状態では、実際の硬化過程において、潜在性触媒により強い外部刺激を与えないと活性化しにくくなり、硬化に要する温度及び圧力等が過大になることがある。さらにこのような状態では、実際の硬化過程において触媒活性の即応性の低下が引き起こされることがある。
【0021】
有機ボレート塩が(メタ)アクリル樹脂によって少なくとも部分的に被覆されることで、保存中に有機ボレート塩の触媒活性が抑制され、保存後においても有機ボレート塩の触媒活性が良好に維持されるため、潜在性触媒の保存安定性が改善されると考えられる。
【0022】
また、保存中に有機ボレート塩の触媒活性が発現すると、組成物中の反応性化合物と相互作用して、より反応性が高い副生成物が生成されることがある。このような副生成物は、組成物の保存安定性を低下させ、実際の硬化過程において硬化温度の上昇を引き起こすことがある。有機ボレート塩が(メタ)アクリル樹脂によって少なくとも部分的に被覆されることで、組成物中において有機ボレート塩と反応性化合物との相互作用を抑制することが可能になり、組成物の保存安定性を高めることができる。
【0023】
また、潜在性触媒がO/W/O型エマルションを用いて作製されることで、得られる潜在性触媒において、有機ボレート塩の表面が(メタ)アクリル樹脂によって被覆される状態が微視的に調節される。このような潜在性触媒を含む組成物に外部刺激が付与され、潜在性触媒のカプセル化樹脂粒子から有機ボレート塩が放出されると、保存中において触媒活性の低下が抑制されているため、外部刺激を受けて触媒活性が良好に発現し、当該組成物の硬化性能を高めることができる。
【0024】
図1に、潜在性触媒の製造方法の一例を模式的に示す。なお、本発明は図面に開示される具体例によって限定されない。
【0025】
(a)は、内油相1と、内油相1中に分散される有機ボレート塩2と、水相3とを含み、内油相と水相との界面に界面活性剤4が含まれる組成物を示す。(b)では、この組成物を乳化することで、水相中に、有機ボレート塩を含む内油相が分散された水中油型エマルション5が形成される。(c)は、この水中油型エマルション5に外油相6及び(メタ)アクリレート系高分子化合物7を加えた組成物を示す。(d)では、この組成物を多孔質ガラスを用いて乳化することで、外油相中に、水中油型エマルションの液滴9が分散し、水中油型エマルションの液滴と外油相の界面に(メタ)アクリレート系高分子化合物7が含まれるO/W/Oエマルション8が形成される。(e)では、このO/W/O型エマルションに水溶性重合開始剤が添加されて、水中油型エマルションの液滴の表面に(メタ)アクリル樹脂が形成され、カプセル化樹脂粒子前駆体10が得られる。
【0026】
以下、一実施形態による潜在性触媒の製造方法についてより詳しく説明する。
【0027】
まず、内油相及び水相を含み、内油相に有機ボレート塩が含まれる水中油型エマルションを得る工程について説明する。水中油(O/W)型エマルションにおいて、内油相は分散相であり、水相は連続相である。水中油型エマルションは、水相中に内油相の液滴が分散した状態であることが好ましい。内油相は有機ボレート塩を溶解可能又は分散可能であり、水相中に内油相の液滴が分散された状態で、内油相の液滴に有機ボレート塩が含まれるものが好ましい。
【0028】
一実施形態の潜在性触媒の製造方法において、使用可能な有機ボレート塩について以下に説明する。有機ボレート塩は、有機ボレート化合物のカチオン塩であることが好ましく、有機ボレート化合物のアンモニウム塩であることがより好ましい。
【0029】
有機ボレート化合物は、アルキルトリアリールボレート、トリアリールボレート等が挙げられる。
有機ボレート化合物においてホウ素原子に結合するアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は脂環式のアルキル基であってよく、炭素数は1~18、1~12、又は1~6であってよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。好ましくはn-ブチル基である。
【0030】
有機ボレート化合物においてホウ素原子に結合するアリール基は、単環構造、多環構造、又は縮合環構造のアリール基であってよい。例えば、フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、メシチル基、キシリル基、p-tert-ブチルフェニル基、p-メトキシフェニル基、ビフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、4-メチルナフチル基等が挙げられる。好ましくは1-ナフチル基である。有機ボレート化合物において複数のアリール基は互いに同一でも、一部又は全てが異なってもよい。
【0031】
有機ボレート化合物は、低温での触媒活性及び保存安定性の観点から、アルキルトリアリールボレートが好ましく、n-ブチルトリアリールボレート又はアルキルトリ1-ナフチルボレートがより好ましく、n-ブチルトリ(1-ナフチル)ボレートがさらに好ましい。
【0032】
アンモニウム化合物としては、窒素原子に結合するアルキル基を少なくとも1つ有するアンモニウム化合物であることが好ましく、例えば、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、モノアルキルアンモニウム等が挙げられる。好ましくはテトラアルキルアンモニウムである。
【0033】
窒素原子に結合するアルキル基を少なくとも1つ有するアンモニウム化合物において窒素原子に結合するアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は脂環式のアルキル基であってよく、炭素数は1~18、1~12、又は1~6であってよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。好ましくはn-ブチル基である。アンモニウム化合物に複数のアルキル基が含まれる場合、複数のアルキル基は互いに同一でも、一部又は全てが異なってもよい。好ましくはテトラn-ブチルアンモニウムである。
【0034】
有機ボレート塩は、低温での触媒活性及び保存安定性の観点から、テトラn-ブチルアンモニウム=n-ブチルトリフェニルボレート、テトラn-ブチルアンモニウム=n-ブチルトリ(1-ナフチル)ボレート等が挙げられる。有機ボレート塩は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
有機ボレート塩の市販品例は、カレンズ(登録商標)P3B、カレンズ(登録商標)N3B(以上、いずれも昭和電工株式会社)等が挙げられる。
【0036】
有機ボレート塩の融点は、保存安定性の観点から、60℃以上、80℃以上、又は100℃以上であってよい。有機ボレート塩の融点は、低温での触媒活性の観点から、300℃以下、250℃以下、又は200℃以下であってよい。
【0037】
内油相は、水相中に液滴状態で分散可能であり、内油相中に有機ボレート塩を溶解可能又は分散可能である有機溶剤であることが好ましい。例えば、低級炭化水素類、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。具体的には、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル等が挙げられる。
内油相の有機溶剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の有機溶剤を用いる場合は、互いに相溶性を有し、内油相が同一相を形成可能なように組み合わせるとよい。
【0038】
水中油型エマルションを外油相とともに用いてO/W/O型エマルションを得る際に、O/W/O型エマルションの乳化安定性をより高める観点から、内油相に水と相溶性が低く、かつ高極性の有機溶剤を用いることが好ましい。この場合、外油相に水と相溶性が低く、かつ低極性の有機溶剤を用いることで、外油相中に水中油型エマルションの液滴をより安定に乳化させることができる。例えば、内油相は、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル等であることが好ましい。
【0039】
水相は、主に水を含む。水相は、水溶性有機溶剤をさらに含んでもよい。この場合、水相全量に対し、水溶性有機溶剤は10質量%以下が好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。水相の水溶性有機溶剤は、水と同一相を形成可能なように選択されることが好ましく、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
水中油型エマルションは、界面活性剤を用いて、内油相と水相とを乳化させて得てもよい。界面活性剤は、内油相及び水相の一方又は両方に含まれてもよいが、系の安定性から内油相に含まれることが好ましい。
【0041】
水中油型エマルションの作製で用いられる界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤を用いることができる。非イオン性界面活性剤としては、イソプロピルアルコール(IPA)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。界面活性剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、水中油型エマルションの作製では界面活性剤は乳化剤として機能すればよいため、後述する(メタ)アクリレート系高分子化合物を用いなくてもよい。
【0042】
水中油型エマルションは、内油相及び水相の成分を一括又は分割して混合し、次いで乳化することで得ることができる。別の方法では、水中油型エマルションは、有機溶剤と有機ボレート塩とを混合し分散又は溶解させて内油相を得て、水相に内油相を一括又は分割して添加し、乳化することができる。
【0043】
乳化方法は特に限定されず、撹拌方法、超音波方法、膜乳化方法等が挙げられる。多孔質ガラスを用いて乳化を行ってもよい。この場合、水中油型エマルションにおいて内油相の液滴をより小さく制御するために、多孔質ガラスの平均細孔径は0.1~50μmが好ましく、0.5~20μmがより好ましく、1~5μmがさらに好ましい。
【0044】
ここで、多孔質ガラスの平均細孔径の測定方法は、後述するO/W/O型エマルションを作製する工程で説明する手順に従う。また、多孔質ガラスを用いる乳化方法は、後述するO/W/O型エマルションを作製する工程と同様に行うことができる。
【0045】
水中油型エマルションに含まれる液滴は、0.1~20μmが好ましく、1~10μmがより好ましく、2~4μmがさらに好ましい。水中油型エマルションに含まれる液滴が上記範囲内であると、液滴がより安定して存在しやすく、互いに合一しにくい傾向がある。また、後述するO/W/O型エマルションをより安定的に作製しやすくするためである。
【0046】
水中油型エマルションの全量に対し内油相の含有量は、特に限定されないが、1~75質量%が好ましく、2~50質量%がより好ましく、3~25質量%がさらに好ましい。含有量が上記範囲内にあると、エマルション化がより安定に進みやすい傾向がある。また、水中油型エマルションの作製がより容易になる傾向がある。ここで、内油相の含有量は、有機溶剤と有機ボレート塩との合計量である。以下、断りのない限り同じである。
【0047】
水中油型エマルションにおいて、有機ボレート塩は、内油相の全量に対し、0.1~90質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。含有量が上記範囲内にあると、潜在性触媒としての効果がより得られやすい傾向がある。また、含有量が90質量%以下であることで、内油相中で溶けやすくなる傾向がある。
【0048】
界面活性剤を用いる場合は、界面活性剤の含有量は、内油相100質量部に対し、0.1~90質量部が好ましく、1~50質量部がより好ましく、3~10質量部がさらに好ましい。含有量が上記範囲内にあると、エマルション化がより安定して進みやすくなる。また、有機ボレート塩を含有するエマルション化に関与しない界面活性剤がより適正な量になり得る。この場合、有機ボレート塩を含むO/W/O型エマルションを作製する際の収率が向上する傾向があるという利点もある。
【0049】
次に、水中油型エマルションと、外油相と、疎水部及び親水部を有し2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系高分子化合物とを多孔質ガラスを用いて膜乳化し、O/W/O型エマルションを得る工程について説明する。
【0050】
O/W/O型エマルションにおいて、水中油型エマルションは分散相であり、外油相は連続相である。O/W/O型エマルションは、外油相中に液滴が分散した状態であることが好ましい。この液滴には、水中油型エマルションと(メタ)アクリレート系高分子化合物とが含まれる。
【0051】
外油相は、外油相中で、水中油型エマルションを含む液滴を分散可能である有機溶剤が好ましい。例えば、外油相は、非水溶性を示し、水相と相溶性が低い有機溶剤であることが好ましい。また、外油相は、極性の違いから、内油相と相溶性が低い有機溶剤であることが好ましい。これらの特性を備える有機溶剤を外油相として用いることで、O/W/O型エマルションをより安定して得ることができる。
【0052】
外油相の有機溶剤は、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等が挙げられる。外油相の有機溶剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の有機溶剤を用いる場合は、互いに相溶性を有し、外油相が同一相を形成可能なように組み合わせるとよい。
【0053】
O/W/O型エマルションは、界面活性剤を用いて、水中油型エマルションと外油相とを乳化させて得られるものである。O/W/O型エマルションの作製において界面活性剤として疎水部及び親水部を有し2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系高分子化合物を用いることで、外油相中において水中油型エマルションの液滴の界面に(メタ)アクリレート系高分子化合物の層を形成させることができる。
【0054】
(メタ)アクリレート系高分子化合物は、疎水部と親水部を有することから、O/W/O型エマルション中で界面活性剤として機能し、分散相の水中油型エマルションの液滴と、連続相の外油相との界面に介在し、水中油型エマルションの液滴の周囲に(メタ)アクリレート系高分子化合物の層を形成する。
【0055】
(メタ)アクリレート系高分子化合物において、(メタ)アクリロイルオキシ基は2官能以上であれば、後続の工程において(メタ)アクリレート系高分子化合物の層を重合して(メタ)アクリル樹脂を形成することができる。(メタ)アクリレート系高分子化合物において(メタ)アクリロイルオキシ基は2~10官能が好ましく、2~8官能がより好ましく、3~6官能がさらに好ましい。(メタ)アクリレート系高分子化合物の(メタ)アクリロイルオキシ基が10官能以下であることで、重合される(メタ)アクリル樹脂の強度を適度に保ち、得られる潜在性触媒において加熱等によって(メタ)アクリル樹脂から有機ボレート塩が放出され、触媒活性の即応性をより高めることができる。(メタ)アクリレート系高分子化合物の(メタ)アクリロイルオキシ基が2官能以上であることで重合に寄与するが、好ましくは3官能以上であることで重合反応を促進しより強固なアクリル樹脂の被膜が形成され、潜在性触媒において保存中に有機ボレート塩の反応を抑制し保存安定性をより改善することができる。
【0056】
(メタ)アクリレート系高分子化合物は、オリゴマー又はポリマーの主骨格に2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基が導入され、浸水化処理された化合物が好ましい。この化合物ではオリゴマー又はポリマーの主骨格が疎水性を示し、化合物自体が浸水化処理されているため、界面活性剤の作用をより発揮することができる。高分子化合物の浸水化処理は、例えば、親水性基の導入、親水性基を有する表面改質剤による処理等が挙げられる。
【0057】
オリゴマー又はポリマーの主骨格は、ポリウレタン構造、ポリエステルテレフタレート構造、ポリオレフィン構造、ポリビニル構造、ポリ酢酸ビニル構造等が挙げられる。好ましくはポリウレタン構造である。より好ましくはウレタンオリゴマー又はウレタンポリマーに2官能以上の(メタ)アクリロイルオキシ基が導入された化合物である。
【0058】
(メタ)アクリレート系高分子化合物は、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー又はポリマー等が挙げられる。
【0059】
(メタ)アクリレート系高分子化合物の市販品例として、荒川化学工業株式会社のビームセットAQ-19(商品名)、東亜合成株式会社のマクロモノマーAA-6(商品名)等が挙げられる。
【0060】
O/W/O型エマルションは、水中油型エマルション、外油相の成分、及び(メタ)アクリレート系高分子化合物を一括又は分割して混合し、次いで乳化することで得ることができる。別の方法では、O/W/O型エマルションは、水中油型エマルションと(メタ)アクリレート系高分子化合物とを混合し分散又は溶解させて分散相を得て、外油相に分散相を一括又は分割して添加し、乳化することができる。
【0061】
乳化方法は、多孔質ガラスを用いて行うことが好ましい。多孔質ガラスは、0.1μm~50μmまで細孔径の制御が容易であることから、細孔径制御の点で、外油相中において水中油型エマルションの液滴を小粒子径化することができる。また、得られるO/W/O型エマルションにおいて、水中油型エマルションの小粒子径の液滴の安定性を得ることができる。
【0062】
多孔質ガラスとしては、SiO及びAlを含む多孔質ガラス、シラス多孔質ガラス、CaO-Al-B-SiO系基礎ガラスを原料とするガラスの多孔質体等が挙げられる。なかでもシラス多孔質ガラスが好ましい。シラス多孔質ガラスは、原料にシラスを用いたガラスのミクロ相分離を活用し、ミクロンオーダーの均一な連続した細孔を自在に設計できる材料である。シラスは、主に南九州地方に広く堆積する火山灰である。このようなシラス多孔質ガラスを用いてO/W/O型エマルションを乳化すると、水中油型エマルションの液滴の粒子径を適度に制御することができる。また、シラス多孔質ガラスは溶剤耐性に優れることからO/W/O型エマルションのように油相成分が多いエマルションにおいても連続して安定的な乳化を行うことができる。シラス多孔質ガラスは、エス・ピー・ジーテクノ株式会社のSPG膜等が挙げられる。
【0063】
多孔質ガラスの平均細孔径は1~50μmであることが好ましく、1~25μmであることがより好ましく、10~20μmであることがさらに好ましい。均一な粒径のエマルションの収率をより向上するため、多孔質ガラスの平均細孔径は1μm以上、又は10μm以上であることが好ましい。小粒子径をより簡便に制御して作製するため、多孔質ガラスの平均細孔径は50μm以下、25μm以下、又は20μm以下であることが好ましい。
【0064】
ここで、多孔質ガラスの平均細孔径は、水銀圧入式ポロシメーターにより細孔分布を測定し、細孔直径の平均値を算出して求めたものである。水銀圧入式ポロシメーターには、Micromeritics Inc.製「Pore Sizer 9320」等を用いることができる。
【0065】
多孔質ガラスの形状は、円盤状、円筒状、平板上等のいずれであってもよい。例えば、内油相及び水相を含む混合物を、多孔質ガラスによって隔壁された空間に流し込み、多孔質ガラスを通過させることで、乳化を行うことができる。多孔質ガラスを通過させる回数は特に限定されず、1回、又は2回以上であってよい。
【0066】
O/W/O型エマルションに含まれる液滴の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、外油相中での液滴の分散性の観点から、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上、又は40μm以上であってよい。O/W/O型エマルションに含まれる液滴の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、この液滴の安定性の観点から、1000μm以下、500μm以下、100μm以下、又は60μm以下であってよい。
【0067】
例えば、O/W/O型エマルションに含まれる液滴は、平均粒子径が0.1~1000μmが好ましく、1~500μmがより好ましく、10~100μmがさらに好ましく、40~60μmが一層好ましい。なかでも、O/W/O型エマルションに含まれる液滴の平均粒子径が10~100μm、より好ましくは40~60μmである場合、外油相中での液滴の分散性がより良好になる傾向があり、この液滴の安定性がより向上する傾向がある。
【0068】
O/W/O型エマルションに含まれる液滴の平均粒子径は、レーザー回折散乱法の測定方法でナノ粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-7500」(商品名))を用いて測定し、個数基準で求める数値である。
【0069】
O/W/O型エマルションは、水中油型エマルションの液滴と外油相との間に(メタ)アクリレート系高分子化合物を含む層(以下、層Lとも記す。)を含むことが好ましい。O/W/O型エマルションに含まれる液滴のうち直径が50μm以上の液滴の中には、この(メタ)アクリレート系高分子化合物を含む層Lの厚さが0.01~20μmである液滴が含まれることが好ましく、この層Lの厚さが0.1~10μmである液滴が含まれることがより好ましく、この層Lの厚さが1~10μmである液滴が含まれることがさらに好ましく、この層Lの厚さが5~10μmである液滴が一層好ましい。層Lが形成されることで、内包している水中油型エマルションがO/W/O型エマルションの外へ抜けることを抑制することができる。さらに、層Lの厚さが上記範囲内であると、内包している水中油型エマルションがO/W/O型エマルションの外へ抜けることをより十分に抑制することができる。層Lの存在によって、好ましくは層Lの厚さが上記範囲内であることで、系の安定性がより高まる傾向がある。
【0070】
この(メタ)アクリレート系高分子化合物を含む層Lの厚さは、O/W/O型エマルションに含まれる液滴について、層Lを含む最外殻の円相当直径と、層Lを除くO/W/O型エマルションの液滴の円相当直径との差分を1/2して求める数値である。この層Lの厚さは、例えば、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製「VHX-6000」(商品名))により測定することができる。
【0071】
O/W/O型エマルションの全量に対し水中油型エマルションの含有量は、特に限定されないが、0.1~90質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましく、3~25質量%がさらに好ましい。含有量が上記範囲内にあると、エマルション化がより安定に進みやすく、O/W/O型エマルションの作製がより容易になる傾向がある。
【0072】
O/W/O型エマルションの全量に対しアクリレート系界面活性剤の含有量は、水中油型エマルションの100質量部に対し、0.1~90質量部が好ましく、1~50質量部がより好ましく、3~10質量部がさらに好ましい。含有量が上記範囲内にあると、エマルション化がより安定に進みやすくなる。また、有機ボレート塩を含有するエマルション化に関与する界面活性剤がより適正な量になる。この場合、有機ボレート塩を含むO/W/O型エマルションの収率が向上する傾向がある利点もある。
【0073】
次に、O/W/O型エマルションに水溶性重合開始剤を添加し(メタ)アクリレート系高分子化合物を重合させ、水中油型エマルションの液滴が(メタ)アクリル樹脂によって被覆されたカプセル化樹脂粒子前駆体を得る工程について説明する。
【0074】
水溶性重合開始剤を用いることで、O/W/O型エマルションの水相と外油相の界面において、(メタ)アクリレート系高分子化合物が重合され、水中油型エマルションの液滴が(メタ)アクリル樹脂によって被覆されたカプセル化樹脂粒子前駆体を得ることができる。
【0075】
得られたカプセル化樹脂粒子前駆体は、有機ボレート塩を含む内油相が、水相中に分散された液滴粒子が、(メタ)アクリル樹脂によって被覆された状態である。また、カプセル化樹脂粒子前駆体の表面において(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリレート系高分子化合物由来であるため疎水部及び浸水部を備えることから、外油相中での分散安定性も備えることができる。
【0076】
水溶性重合開始剤は、水に対し溶解性を示すものであればよい。例えば、水溶性重合開始剤は、O/W/O型エマルションに含まれる外油相の有機溶剤と対比して、水相の水への溶解性が高いものであることが好ましい。これによって、水中油型エマルションの液滴内に水溶性重合開始剤が含まれ、当該液滴表面の(メタ)アクリレート系高分子化合物の重合をより促進することができる。このような重合によれば、水中油型エマルションの液滴由来の有機ボレート塩を含む中心部と、中心部の周囲を被覆される(メタ)アクリル樹脂の表層部とが形成されやすくなる。このような重合を経て得られる潜在性触媒は、保存中はカプセル化樹脂粒子からの有機ボレート塩の放出がより抑制され、外部刺激によってカプセル化樹脂粒子からの有機ボレート塩の放出が促進され触媒活性の即応性をより高めることができる。
【0077】
水溶性重合開始剤は、熱重合開始剤が好ましく、熱ラジカル重合開始剤がより好ましく、反応性に優れることからアゾ重合開始剤がさらに好ましい。
【0078】
水溶性重合開始剤は、例えば、2,2’-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン(VA-061(商品名))、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]4水和物(VA-057(商品名))、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](VA-086(商品名))、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061(商品名))、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(VA-50(商品名))、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044(商品名))、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(VA-501(商品名))等が挙げられる(いずれも富士フイルム和光純薬株式会社)。
【0079】
水溶性重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリレート系高分子化合物の全量に対し、0.1~90質量%が好ましく、0.5~50質量%がより好ましく、1~5質量%がさらに好ましい。水溶性重合開始剤の含有量が上記範囲内にあると、ラジカルの発生量がより適正化し得る。また、(メタ)アクリレート系高分子化合物の重合がより進みやすくなり、樹脂膜を形成しやすくなる傾向にある。また、停止反応がより起きにくくなり、この点においても樹脂膜を形成しやすくなる傾向にある。
【0080】
(メタ)アクリレート系高分子化合物の重合は、O/W/O型エマルションに水溶性重合開始剤を添加し、加熱して行うことが好ましい。加熱温度は、特に限定されず、30~80℃、40~70℃、又は50~60℃であってよい。加熱時間は、特に限定されず、反応系の規模によって適宜調節すればよいが、例えば1~10時間、又は2~5時間であってよい。
【0081】
次に、カプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分を除去しカプセル化樹脂粒子を得る工程について説明する。
【0082】
カプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分を除去する方法は特に限定されないが、例えば、次の方法がある。まず、外油相を、カプセル化樹脂粒子前駆体よりも細孔が小さいフィルターを用いてろ過し除去する。次いで、内油相及び水相は樹脂膜が破壊されない程度の温度で乾燥させ揮発させる。
【0083】
このようにしてカプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分が除去されカプセル化樹脂粒子を得ることができる。このカプセル化樹脂粒子は、上記説明した通り、有機ボレート塩及び(メタ)アクリル樹脂とを有する。
【0084】
揮発性成分の除去後のカプセル化樹脂粒子は、揮発性成分が完全に除去されたものに限定されない。揮発性成分の除去方法によっては、揮発性成分の除去後のカプセル化樹脂粒子に少量の揮発性成分が残存する可能性がある。
カプセル化樹脂粒子前駆体から揮発性成分を除去した後において、カプセル化樹脂粒子に含まれる揮発性成分の含有量は、カプセル化樹脂粒子の全量に対し10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよく、実質的に揮発性成分が含まれなくてもよい。
【0085】
潜在性触媒において、有機ボレート塩と(メタ)アクリル樹脂との合計量に対し、有機ボレート塩は0.1~90質量%が好ましく、0.5~50質量%が好ましく、1~30質量%がさらに好ましい。有機ボレート塩の含有量の下限値がこれらの範囲を満たす場合、潜在性触媒が配合される組成物において、潜在性触媒が適量で作用し、硬化性能をより改善することができる。有機ボレート塩の含有量の上限値がこれらの範囲を満たす場合、外部刺激によって有機ボレート塩が樹脂粒子から適度に放出されることから、外部刺激に対し触媒活性の即応性をより改善することができる。
【0086】
潜在性触媒は、O/W/O型エマルションを経由して作製されることから、その形状は球状又は球状に近い形状になる。潜在性触媒においてカプセル化樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法の測定方法でナノ粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-7500」(商品名))を用いて測定し、個数基準で、0.01~500μmが好ましく、0.1~100μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましい。
【0087】
一実施形態では、多孔質ガラスを用いてO/W/O型エマルションを作製し、このO/W/O型エマルションからカプセル化樹脂粒子を作製するという工程を経ることから、カプセル化樹脂粒子の粒子径を小さくすることができるという利点を有する。このような潜在性触媒は、反応性化合物を含む一液型の組成物へ混合する際に分散性を高くするために、カプセル化樹脂粒子の平均粒子径が100μm以下であることが特に好ましい。
【0088】
(潜在性触媒)
一実施形態の潜在性触媒は、(メタ)アクリル樹脂と、(メタ)アクリル樹脂に内包されるボレート塩とを含むカプセル化樹脂粒子を含み、カプセル化樹脂粒子は平均粒子径が100μm以下であるものである。このカプセル化樹脂粒子については、上記説明した通りであり、その製造方法も上記説明した通りである。
【0089】
カプセル化樹脂粒子の平均粒子径が100μm以下であることで、上記説明した通り反応性化合物を含む一液型の組成物へ混合する際に分散性がより改善されるという利点がある。カプセル化樹脂粒子の平均粒子径の好ましい数値範囲及びその理由は上記説明した通りである。
【0090】
(低温硬化性組成物)
一実施形態の低温硬化性組成物の製造方法は、上記した一実施形態による潜在性触媒の製造方法にしたがって潜在性触媒を製造し、得られた潜在性触媒と、熱可塑性樹脂と、重合性化合物と、硬化剤とを混合する工程を含むものである。また、他の実施形態による低温硬化性組成物は、上記した一実施形態による潜在性触媒と熱可塑性樹脂と重合性化合物と硬化剤とを含むものである。
【0091】
一実施形態による潜在性触媒を用いることで、有機ボレート塩が(メタ)アクリル樹脂によって被覆されることから、保存の間に有機ボレート塩が他の成分と接触しにくくなり、触媒活性の低下を防止することができる。そのため、この潜在性触媒を用いる低温硬化性組成物は、優れた保存安定性を示すことができる。この低温硬化性組成物は、保存後にも触媒活性の即応性に優れることから、例えば低温硬化性接着剤として用いることができる。
【0092】
熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0093】
重合性化合物としては、(メタ)アクリレート化合物、マレイミド化合物、リン酸エステル構造を有する化合物、芳香族ヒドロキシド化合物、ウレタンアクリレート化合物等が挙げられる。重合性化合物は、モノマー及びオリゴマーのいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
硬化剤としては、有機過酸化物及びアゾ化合物等の硬化剤等を用いることができる。具体的には、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-アミルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(3-メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキシトリメチルアジペート、t-アミルパーオキシノルマルオクトエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0095】
低温硬化性組成物において、潜在性触媒は、重合性化合物100質量部に対し0.1~50質量部が好ましく、0.5~25質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。重合性化合物100質量部に対し潜在性触媒が0.1質量部以上、特に1質量部以上であることで、触媒反応を促進し、硬化反応をより速めることができる。重合性化合物100質量部に対し潜在性触媒が50質量部以下、特に10質量部以下であることで、過剰な硬化反応を抑制し、硬化後の組成物の可塑性等をより改善することができる。
【0096】
低温硬化性組成物において、熱可塑性樹脂の含有量は、低温硬化性組成物の全量に対し10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、3~70質量%がさらに好ましい。熱可塑性樹脂の含有量は特に限定されないが、上記範囲内であると、低温硬化性組成物を付与する際の液だれを防ぎやすくなる利点も得られ、フィルム形状等の各種成形品を成形しやすくなる傾向がある。
【0097】
低温硬化性組成物において、硬化剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対し0.1~50質量部が好ましく、0.5~25質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。硬化剤の含有量は特に限定されないが、上記範囲内にあると、硬化反応が充分に進みやすくなる利点も得られ、フィルム形状等の各種成形品を形成しやすくなる傾向がある。
【0098】
低温硬化性組成物は、導電性粒子、安定化剤、接着助剤、充填剤、顔料、帯電防止剤等をさらに含んでよい。
導電性粒子は、導電性金属粒子、導電性炭素粒子等が挙げられ、金属材料又は炭素材料等の導電性物質をプラスチック粒子又はセラミック粒子の表面に被覆した導電性粒子であってよい。あるいは、表面が樹脂被覆された導電性金属粒子又は導電性炭素粒子であってよい。導電性粒子の平均粒子径は、動的光散乱方式の体積基準の平均粒子径で、1~20μmが好ましい。
【0099】
安定化剤はキノン誘導体、フェノール誘導体、アミノキシル誘導体、ヒンダードアミン誘導体等が挙げられる。
接着助剤はアルコキシシラン誘導体、シラザン誘導体等のカップリング剤、密着性向上剤、レベリング剤等が挙げられる。
充填剤は金属酸化物等の無機粒子及び樹脂粒子等の有機粒子のいずれであってもよい。
【0100】
低温硬化性組成物は、例えば、潜在性触媒、熱可塑性樹脂、重合性化合物、及び硬化剤を含む原料を一括又は分割して混合し、適宜撹拌して得ることができる。
【0101】
得られる低温硬化性組成物は、有機ボレート塩がカプセル化樹脂粒子に内包されていることから、保存の間の触媒反応の進行が抑制され、保存後においても触媒反応を良好に維持可能であるため、優れた保存安定性を備えることができる。
【0102】
低温硬化性組成物は、室温(25℃)で液状である場合はペースト状低温硬化性組成物として提供してもよい。また、低温硬化性組成物と溶剤とを組み合わせて室温(25℃)で液状として用いることも可能である。
【0103】
他の方法では、低温硬化性組成物は、フィルム状に成形して、フィルム状低温硬化性接着剤として提供してもよい。例えば、対向する被接着材の間にフィルム状低温硬化性接着剤を配置し、被接着材を介してフィルム状低温硬化性接着剤を加圧又は加熱することで、硬化反応が進み、対向する被接着材を固着することができる。フィルム状低温硬化性接着剤には潜在性触媒が含まれることから、接着のための加圧及び加熱によって、潜在性触媒の有機ボレート塩が(メタ)アクリル樹脂から放出される作用も得られ、硬化反応において触媒活性を促進することができ、良好な接着性を得ることができる。
【0104】
フィルム状低温硬化性接着剤は、適宜溶剤の添加によって準備したペースト状の低温硬化性組成物を剥離性支持体にフィルム状に塗工し、溶剤を除去することでフィルム状に形成することができる。フィルム状低温硬化性接着剤は、剥離性支持体から剥離した状態で提供されてもよく、剥離性支持体に貼付した状態で提供されてもよい。あるいは、一方の被接着材にフィルム状低温硬化性接着剤が予め貼付された物品として提供されてもよく、使用の際には、この物品に他方の被接着材を貼り合わせて用いられてよい。
【0105】
低温硬化性組成物は、加熱又は加圧によって硬化することができる。加熱温度は、50~150℃が好ましい。圧力は、0.1~10MPaが好ましい。加熱及び加圧を組み合わせてもよい。加熱、加圧、又はこれらを組み合わせた場合の時間は1~60秒であってよい。なお、これらの硬化条件は、被塗工基材の種類、大きさ、低温硬化性組成物の成分、形状等によって適宜調節すればよく、これの数値範囲に限定されない。
【0106】
低温硬化性組成物は、硬化のための加熱又は加圧が外部刺激になって潜在性触媒のカプセル化樹脂粒子から有機ボレート塩が放出され、触媒活性を発現することができる。また、低温硬化性組成物は、pH調節等の化学的処理によって外部刺激が付与され、触媒活性を発現した後に、加熱又は加圧されて硬化処理がなされてもよい。
【0107】
被接着材の材料としては、金属、セラミックス、プラスチック、紙、布等が挙げられる。低温硬化性組成物は低い接着温度で被接着材に接着可能であることから、耐熱性が低いプラスチックフィルム等に対しても用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムが挙げられる。
【実施例0108】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0109】
以下の説明において、MEKはメチルエチルケトンであり、N3Bはテトラn-ブチルアンモニウム=n-ブチル(1-トリナフチル)ボレート(カレンズ(登録商標)N3B、昭和電工株式会社)であり、IPAはイソプロピルアルコールであり、SPG膜はシリカ多孔質ガラス膜(「乳化コネクター」、エス・ピー・ジーテクノ株式会社)であり、ビームセット「AQ-19」(商品名)は荒川化学工業株式会社のウレタンアクリレート系高分子化合物である。以下の説明おいて、シリンジ1~4には、5mlルアーロックタイプ(ニプロ株式会社)を用いた。
【0110】
(実施例)
(1)以下の手順にしたがって水中油型エマルションを作製した。
1.水相(水3mL)をシリンジ1に充填する。
2.油相(MEK1mL)にN3B(0.06g)、IPA(0.1mL)を溶解・分散させ、シリンジ2に充填させる。
3.水相用のシリンジ1に平均細孔径5μmのSPG膜を装着する。シリンジ1とSPG膜の中にある空気をできる限り抜く。
4.SPG膜の反対側を油相用のシリンジ2に装着する。
5.水相用シリンジ1を押し込み、水相を油相用シリンジ2内に入れる。乳化が起き、溶液が白濁する。
6.油相用シリンジ2を押し込み、油相及び水相を水相用シリンジ1内に入れる。
7.上記5、6を繰り返す(30回)。
【0111】
(2)得られた水中油型エマルションを用いて、以下の手順にしたがってO/W/O型エマルションを作製した。
1.外油相(トルエン3mL)をシリンジ3に充填する。
2.分散相(水中油型エマルション1mL)、ウレタンアクリレート系高分子化合物(ビームセット「AQ-19」)0.3gを溶解・分散させ、シリンジ4に充填させる。
3.外油相用シリンジ3に平均細孔径20μmのSPG膜を装着する。シリンジ3とSPG膜の中にある空気をできる限り抜く。
4.SPG膜の反対側を分散相用シリンジ4に装着する。
5.外油相用シリンジ3を押し込み、外油相を分散相用シリンジ4内に入れる。乳化が起き、溶液が白濁する。
6.分散相用シリンジ4を押し込み、水相及び油相を油相用シリンジ3内に入れる。
7.上記5、6を繰り返す(30回)。
【0112】
(3)得られたO/W/O型エマルションを用いて、以下の手順にしたがってカプセル化樹脂粒子を作製した。
1.O/W/O型エマルションを2口フラスコに移し、スターラを入れる。
2.Nバブリングを5min実施し、水溶性重合開始剤(2,2’-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン:VA-061)を添加する。
3.60℃のウォーターバスにフラスコをつけて、3~4h撹拌する。
4.3~4h後ウォーターバスからフラスコを取り出す。
【0113】
上記工程において、SPG膜の平均細孔径は、水銀圧入式ポロシメーター(Micromeritics Inc.製「Pore Sizer 9320」(商品名))により細孔分布を測定し、細孔直径の平均値を算出して求めた。
【0114】
上記(1)で得られた水中油型エマルションの光学顕微鏡像を図2に示す。この図より、水相中にN3Bを含む油相が分散された水中油型エマルションが得られたことがわかる。
上記(2)で得られたO/W/O型エマルションの光学顕微鏡像を図3に示す。この図より、外油相中に液滴が分散されたO/W/O型エマルションが得られたことがわかる。O/W/O型エマルションには、20μm以上の直径を有する液滴が含まれる。この液滴は、内部に水中油型エマルションが存在し、外層にウレタンアクリレート系高分子化合物を含む層が存在することがわかる。
【0115】
上記(3)で得られたマイクロカプセル化樹脂粒子の光学顕微鏡像を図4に示す。この図より、N3Bが樹脂膜によって内包される状態が観察される。観察されるマイクロカプセル化樹脂粒子は、樹脂膜が部分的に破れていることも観察される。このようなマイクロカプセル化樹脂粒子は、樹脂膜からN3Bが露出しやすくなっており、外部刺激に誘引されてN3Bが露出し、触媒反応性が促進されると考えられる。
【0116】
上記(3)においてマイクロカプセル化樹脂粒子から完全に水相が除去されていない状態を光学顕微鏡を用いて観察し、図5に示す。この図より、水中油型エマルションが樹脂膜によって内包された状態で、樹脂膜が部分的に開口している箇所、網状の箇所、樹脂膜が薄く網状になっている箇所が観察された。これらの箇所の少なくとも1つから、樹脂膜によって内包された水中油型エマルションが露出していることが観察される。この状態でさらに乾燥が進み水相の水が除去されると、上記図4に示す通り、樹脂膜が部分的に破れているカプセル化樹脂粒子となると考えられる。
【0117】
図1図4に示されるスケールバーはそれぞれ100μmである。
【0118】
図3の状態で、O/W/O型エマルションに含まれる液滴の平均粒子径は、50μmである。この平均粒子径の測定方法は、レーザー回折散乱法の測定方法にしたがってナノ粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-7500」(商品名))を用いて測定し、個数基準の平均粒子径を求めた。
【0119】
図3の状態で、O/W/O型エマルションは、水中油型エマルションの液滴と外油相との間にウレタンアクリレート系高分子化合物を含む層を含み、O/W/O型エマルションに含まれる液滴のうち直径が50μm以上の液滴においてウレタンアクリレート系高分子化合物を含む層Lの厚さが10μmであるものを含んだ。
この層Lの厚さは、O/W/O型エマルションの液滴について、層Lを含む最外殻の円相当直径と、層Lを除くO/W/O型エマルションの液滴の円相当直径との差分を1/2にして求めた。
【0120】
図4の状態で、カプセル化樹脂粒子の平均粒子径は、70μmである。この平均粒子径は、レーザー回折散乱法の測定方法でナノ粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-7500」(商品名))を用いて測定し、個数基準で求めた。
【0121】
(参考例)
上記手順(1)においてN3Bを0.04gに変更した以外は同じ手順で水中油型エマルションを作製した。
上記した(2)において水中油型エマルションを4mL、IPAを1mL、トルエンを12mLとした以外は同じ手順でO/W/O型エマルションを作製した。
【0122】
参考例で得られた水中油型エマルションの光学顕微鏡像を図6に示す。この図より、水相中にN3Bを含む油相が分散された水中油型エマルションが得られたことがわかる。
参考例で得られたO/W/O型エマルションの光学顕微鏡像を図7に示す。この図より、外油相中に水中油型エマルションの液滴が分散されたO/W/O型エマルションが得られたことがわかる。O/W/O型エマルションには、20μm以上の直径を有する水中油型エマルションの液滴が含まれることがわかる。
これらの結果から、SPG膜を用いて膜乳化しO/W/O型エマルションを作製することで、水中油型エマルションの液滴が形成可能であることがわかる。
【0123】
図6及び図7に示されるスケールバーはそれぞれ100μmである。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本開示のいくつかの実施形態による製造方法にしたがって得られる潜在性触媒、及び他のいくつかの実施形態による潜在性触媒は、例えば、低温硬化性組成物、低温硬化性接着剤等に応用することができる。
【符号の説明】
【0125】
1:内油相、2:有機ボレート塩、3:水相、4:界面活性剤、5:水中油型エマルション、6:外油相、7:(メタ)アクリレート系高分子化合物、8:O/W/Oエマルション、9:液滴、10:カプセル化樹脂粒子前駆体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7