(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072139
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20240520BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20240520BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
G01N30/86 J
G01N30/04 P
G01N30/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182826
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 真人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】森川 悟
(72)【発明者】
【氏名】松下 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誠
(57)【要約】 (修正有)
【課題】未知試料の定量に分析種の標準試料を不要にする。
【解決手段】ユーザの操作の受付、および表示を行う操作表示部10と、制御部9とを備え、所定の測定対象物質を定量する液体クロマトグラフ装置100であって、操作表示部10は、測定対象物質、および測定対象物質とは異なる所定の標準物質の指定を受け付け、制御部9は、測定対象物質と標準物質の物質量比R
nに対する測定対象物質と標準物質との応答比R
rの比であるRMS係数、標準物質の物質量、および測定対象物質と標準物質の検出結果に基づく検出応答比に基づいて測定対象物質を定量することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの操作の受付、および表示を行う操作表示部と、制御部とを備え、所定の測定対象物質を定量する液体クロマトグラフ装置であって、
上記操作表示部は、測定対象物質、および上記測定対象物質とは異なる所定の標準物質の指定を受け付け、
上記制御部は、上記測定対象物質と上記標準物質の物質量比Rnに対する上記測定対象物質と上記標準物質との応答比Rrの比であるRMS係数、上記標準物質の物質量、および上記測定対象物質と上記標準物質の検出結果に基づく検出応答比に基づいて上記測定対象物質を定量することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1の液体クロマトグラフ装置であって、
さらに、上記測定対象物質と上記標準物質との組み合わせに応じた上記RMS係数を記憶する記憶部を備え、
上記操作表示部は、複数種類の物質の指定、および各物質が測定対象物質であるか、または標準物質であるかの指定を受け付けるとともに、
上記制御部は、上記指定に対応して上記記憶部に記憶されているRMS係数に基づいて上記測定対象物質を定量することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項3】
請求項1の液体クロマトグラフ装置であって、
上記RMS係数、上記標準物質の物質量、および上記測定対象物質と上記標準物質の検出応答比に基づいた定量の結果を、所定の濃度単位に変換して出力するための変換係数を記憶する記憶部を備え、
上記操作表示部は、上記濃度単位の指定を受け付け、前記定量の結果を指定された当該濃度単位に変換して出力する液体クロマトグラフ装置。
【請求項4】
請求項1の液体クロマトグラフ装置であって、
上記操作表示部が、上記測定対象物質および上記標準物質の物質量に関する値の入力を受け付け、
上記制御部が、上記物質量に関する値に基づいて、上記RMS係数を計算することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項5】
請求項4の液体クロマトグラフ装置であって、
計算した上記RMS係数と、当該RMS係数の算出に用いた上記測定対象物質および上記標準物質とを対応づけて記憶する記憶部を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項6】
請求項1の液体クロマトグラフ装置であって、
上記操作表示部が、上記標準物質と上記測定対象物質とを個別に測定するか、上記標準物質と上記測定対象物質とを一緒に測定するかを選択するユーザインターフェスを持つクロマトグラフ装置。
【請求項7】
請求項1の液体クロマトグラフ装置であって、
さらに、吸光光度、質量、または蛍光に応じた検出を行う検出器を具備し、
上記検出器は、上記検出に係る設定変数である波長、m/z、または励起・蛍光波長を測定対象物質と標準物質とで異ならせ得ることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項8】
請求項1の液体クロマトグラフ装置であって、
さらに、上記制御部が、RMS係数、標準物質の物質量、または検出応答比についての不確かさに基づいて、測定対象物質の定量値についての不確かさを計算することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項9】
請求項1の液体クロマトグラフ装置であって、
上記制御部は、与えられたRMS係数を所定の装置関数で補正した補正RMS係数を求め、上記補正RMS係数に基づいて測定対象物質を定量することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未知試料に含まれる測定対象を定量するクロマトグラフ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体クロマトグラフ装置等のクロマトグラフィの定量分析として、絶対検量線法と内標準法が知られている。例えば上記内標準法では、濃度が既知の測定対象物質と一定濃度の(内)標準物質とを含む試料を、測定対象物質の濃度を種々変えて測定し、測定対象物質の強度と内部標準の強度との強度比と、測定対象物質の濃度との関係を一次式で表した検量線を得て、検量線により未知試料を定量している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような検量線を作成するためには、その都度、対象とする分析種の標準試料が必要であった。この点に関しては、絶対検量線法でも同様である。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、分析種の標準試料を必ずしも必要とすることなく未知試料を定量可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、
本発明は、
ユーザの操作の受付、および表示を行う操作表示部と、制御部とを備え、所定の測定対象物質を定量する液体クロマトグラフ装置であって、
上記操作表示部は、測定対象物質、および上記測定対象物質とは異なる所定の標準物質の指定を受け付け、
上記制御部は、上記測定対象物質と上記標準物質の物質量比Rnに対する上記測定対象物質と上記標準物質との応答比Rrの比であるRMS係数、上記標準物質の物質量、および上記測定対象物質と上記標準物質の検出結果に基づく検出応答比に基づいて上記測定対象物質を定量することを特徴とする。
【0007】
これにより、RMS係数、上記標準物質の物質量、および上記測定対象物質と上記標準物質の検出結果に基づいて測定対象物質が定量されるので、分析種の標準試料を必要とすることなく未知試料を定量可能にすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、分析種の標準試料を必ずしも必要とすることなく未知試料を定量可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】液体クロマトグラフ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】測定対象物質および標準物質を指定する表示画面の例を示す図である。
【
図4】測定対象物質および標準物質を指定する表示画面の他の例を示す図である。
【
図5】測定対象物質および標準物質を指定する表示画面の他の例を示す図である。
【
図6】測定対象物質および標準物質を指定する表示画面の他の例を示す図である。
【
図7】測定対象物質および標準物質を指定する表示画面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
(液体クロマトグラフ装置の概略構成)
液体クロマトグラフ装置100は所定の測定物質対象を定量するものであり、
図1に示すように、全体を制御するデータ処理装置7、移動相(溶離液、または溶媒などとの混合溶液)1、移動相1を送液するポンプ2、試料を注入するオートサンプラ3、成分を分離するカラム4、カラム4を恒温にするカラムオーブン5、分離された成分を検出する検出器6、操作表示部10を備える。
【0012】
データ処理装置7は、分析を実行し分析結果を解析する制御部9(CPU等)、分析結果や、解析結果、後述する検量線情報や換算情報(RMS係数)を保存する記憶部8(ハードディスク等)を有するコンピュータから構成される。操作表示部10は、種々の操作入力等を受け付けるとともに、分析結果や解析結果等を表示する。
【0013】
検出器6は信号強度を検出する素子を複数持ち、時間に対する信号強度を複数波長において同時に取得可能な3次元検出器、または吸光光度検出器、蛍光検出器、質量検出器などである。
【0014】
試料は、オートサンプラ3のインジェクタ(図示せず)から注入され、ポンプ2から送液される移動相1とともにカラム4を通過し、試料中の種々の成分に分離される。
【0015】
成分に分離された試料は、検出器6で検出される。検出器6の信号はデータ処理装置7に送られてデータ処理が行われる。
【0016】
カラム4は、移動相1中に存在する試料の成分を分離する分離部として一般的に使用される装置である。カラム4としては、充填型カラムやモノリスカラム等がある。カラム4のカラム充填剤としては、吸着型、分配型、イオン交換型等の種々のタイプのものを使用することができる。カラム4を恒温に保ち、再現性よく試料の分離ができるように、カラム4は、カラムオーブン5内に設置されていることが望ましい。
【0017】
(定量方法)
液体クロマトグラフ装置100では、例えば以下の(表1)に示すように、一般的な絶対検量線法、および内標準法による定量が行われ得るのに加えて、下記(数1)に示すように、測定対象物質と標準物質の物質量比Rn(狭義の物質量比以外に、質量比、体積比、濃度比などもあり得る)に対する上記測定対象物質と上記標準物質との応答比Rrの比として定義されるRMS係数(RMS:Relative Molar Sensitivity)を用いた定量が行われ得るようになっている。
【0018】
【0019】
【0020】
ここで、添え字のanalは測定対象物質(analyte)を、refは標準物質(reference)を表す。また、測定対象物質analと標準物質refそれぞれの、Aは応答量としてのピーク面積やピーク高さを、nは物質量(例えばmol)を示す。(数1)に示す通り、例えば、物質量既知の測定対象物質と標準物質を含む試料溶液をHPLCに注入して、その結果得られるピーク面積をそれぞれの応答量として入力し、RMS係数が計算できる。
【0021】
(RMS係数を用いた外標準物質を使用する定量)
そこで、例えば(表1)に(a)で示す標準物質(外標準物質)としてのグリシンについて、毎朝1回などの測定によって応答量(Aref)と物質量(nref)とが得られたとすると、例えば測定対象物質としてのアラニン(RMS係数=1.74)、グルタミン酸(RMS係数=1.87)、アスパラギン酸(RMS係数=2.02)については、これらについての応答量(Aanal)が測定されれば、それぞれの物質量(nanal)を下記(数1)のように求めることができる。それゆえ、(表1)に(a)で示す外標準物質についての測定を行えば、(b)に示す測定対象物質についての測定を行うことなく、測定対象物質の定量を行うことができる。
【0022】
【0023】
(RMS係数を用いた内標準物質を使用する定量)
内標準物質を使用する場合には、(表1)に(e)で示すように、既知量の標準物質(内標準物質)を未知試料に含めて測定することにより、測定対象物質についての応答量(Aanal)とともに、標準物質についての応答量(Aref)が測定されれば、やはり、上記(数1)のように、測定対象物質についての物質量(nanal)を求めることができる。それゆえ、(表1)に(c)(d)に示すような日差変動の校正用の測定対象物質や標準物質についての測定を行うことなく、測定対象物質の定量を行うことができる。
【0024】
上記のように、RMS法とはRMS係数を利用する定量分析法である。既知のRMS係数を定数とみなすことができるため、(数1)に測定された応答比Rrを入力することにより、物質量比Rnが出力される。標準物質の物質量nrefは既知のため、測定対象物質の物質量nanalを求めることができる。RMS法は、便宜上の相対的な方法ではなく、物質量を基準とする確かな定量分析法として位置付けられる。
【0025】
定量値の物質量(mol)は分子量により質量(g)に換算できる。また、10μLなど試料注入量を体積で入力すれば、mol/Lやg/Lなどの濃度にも換算可能である。より詳しくは、例えば、記憶部8が、定量の結果を所定の濃度単位に変換するための変換係数を記憶し、操作表示部10が、濃度単位の指定を受け付け、定量の結果を指定された濃度単位に変換して出力し得るようにしてもよい。
【0026】
(物質量比の入力)
RMS係数を求めるためには、(数1)からわかる通り、測定対象物質と標準物質との物質量比を入力しなければならない。ここで、限定はされないが、正確な物質量比を測定するために定量1H-NMR(qNMR:定量Nuclear Magnetic Resonance)の利用が有効である。qNMRの利点は、純度や質量(重量)を知る必要がなく、試料溶液中の物質量、または物質量比が得られることである。qNMRのシグナル値(シグナル面積)をプロトン数で除することにより物質量(mol)が直接的に測定されるわけである。
【0027】
図2はこの入力画面を示す図である。この画面は、RMS法を利用する使用者のためのダイアログボックスである。
【0028】
qNMRを用いなくとも、測定対象物質analと標準物質refそれぞれの認証標準物質(CRM)等SIトレーサブルなレファレンスマテリアルが入手できれば、測定対象物質analと標準物質refのそれぞれについて物質量を数値で受け付けることもできる。制御部がそれらの比を物質量比として計算する。
【0029】
言い換えれば、操作表示部10に、測定対象物質および標準物質に関して、定量NMRに関する変数(qNMRシグナル値、プロトン数)、またはそれぞれの物質量の表示値の入力を受け付ける入力画面を表示し、入力された定量NMRに関する変数(またはそれぞれの物質量の表示値)に基づいて、測定対象物質および標準物質の物質量比を計算し、計算した物質量比に基づいてRMS係数を計算するようにしてもよい。
【0030】
なお、RMS係数を求める際、測定対象物質analと標準物質refの物質量がSIトレーサブルであること、すなわち不確かさを伴っていることが望ましい。不確かさへの対応については後述する。
【0031】
(応答比の取得)
RMS係数を求めるために、前述の通り、物質量比が入力された試料溶液を実際に注入して測定対象物質analと標準物質refのピーク面積をそれぞれHPLCにより実測して、応答比を計算することができる。注入回数n回のピーク面積平均値を採用することもできる。また、ピーク面積の標準偏差を、バラツキを示す不確かさとして入力可能である。
【0032】
(RMS係数の直接受付)
定量計算に利用する定数としてのRMS係数を、qNMRやHPLCによる実測を経ずに、所定の値を直接受付けることも可能である。この直接受付機能を利用する場合、不確かさを生ずる各種要因に関する視点から、定量計算結果の信頼性については予め利用者の一定の理解が必要である。
【0033】
なお、上述の実測や直接受付によって、測定対象物質、標準物質、RMS係数を対応づけて、これらの組を記憶するようにして、データベースの内容を更新するようにしてもよい。このデータベースは、記憶部8内に保持されてもよいし、データベースの全体またはその一部を、必要に応じてデータ処理装置7の外部からネットワーク通信などによって取得するようにしてもよい。
【0034】
(液体クロマトグラフ装置100の操作および表示例)
検量線の生成や測定対象物質の定量は、例えば
図3、
図4に示すような操作表示部10の表示および操作によって行われる。すなわち、同図の測定条件表示画面例における「成分名」の欄への入力やプルダウンメニューなどの選択によって物質が設定されるとともに、「計算方法」の欄によって、絶対検量線法、内標準法(標準添加法)や、RMS係数を用いる定量などが選択または入力される。また、「内標準」の欄により、各物質が標準物質とされるかまたは測定対象物質とされるのかが指定されることによって、測定対象物質や標準物質の指定、および定量方法が設定される。すなわち、RMS係数が用いられる場合には、
図3に示すように「外部」が選択されることによって、その物質は標準物質として検量線を作成するために参照されるが、内標準物質として試料内に添加されることはないことが示される。また、
図4に示すように「標準1」が選択されることによって、その物質は内標準物質として試料内に添加されることが示される。ここで、上記「内標準」の欄の名称は便宜上、内標準法が用いられる場合に内標準とされるかどうかを示す表示欄を兼用するもので、これに限らず、別途、標準物質(参照物質)とされるかどうかを指定する欄や画面などが設けられてもよい。
【0035】
また、例えば
図5に示すように、「RMS法 物質/係数一覧」ウインドウで、「目的物質名:フェニルアラニン、内標物質名:グリシン」など、測定対象物質と標準物質との組み合わせが別途設けられたデータベースに基づいて表示され、選択されることによって、測定条件表示画面の「成分名」列や「内標準」列の内容が自動で入力されるようにしてもよい。この場合、そのようなデータベースにRMS係数も保持されている場合には併せて自動入力されるようにしてもよい。また、前もって測定条件表示画面で1つ以上の測定対象物質等が入力されている場合には、「RMS法 物質/係数一覧」ウインドウで表示される標準物質がフィルタリングされるようにしてもよい。
【0036】
また、例えば
図6に示すように、複数の標準物質が設定され得るようにしてもよい。この場合には、RMS係数を用いて得られる濃度を平均したり、幅のある情報として得られるようにしたりして、定量結果の精度や信頼性を高めることができる。
【0037】
また、例えば
図7に示すように、RMS係数を用いる定量と絶対検量線法による定量などを測定対象物質ごとに混在して行わせ得るようにしてもよい。
【0038】
上記のように、測定対象物質、および標準物質の指定を受け付け、測定対象物質と標準物質の物質量比Rnに対する上記測定対象物質と上記標準物質との応答比Rrの比であるRMS係数、上記標準物質の物質量、および上記測定対象物質と上記標準物質の検出結果に基づく検出応答比に基づいて測定対象物質を定量することにより、分析種の標準試料を必要とすることなく、しかも、ユーザが対象分析種と参照物質の間の係数等について意識しなくとも操作可能にすることが容易にできる。
【0039】
(RMS法による日常的な定量分析)
日常的な定量分析では、RMS係数は付与された定数のように取扱う。未知試料の応答比RrをHPLC(High Performance Liquid Chromatography)により日々実測する。(数1)により、前述のRMS係数を用いて、まず物質量比Rnを計算で求める。未知試料に添加された内標準物質のピークにせよ、別の注入で測定される外標準物質のピークにせよ標準物質refの物質量nrefが既知なので、定量値nanalが得られるわけである。
【0040】
(λmax法)
紫外・可視吸光光度検出器を用いるHPLCにより応答比Rrを取得する時、標準物質refと測定対象物質analの検出波長は必ずしも同一波長である必要はない。例えば、吸光度の極大を示す吸収極大波長λmaxを標準物質refと測定対象物質analそれぞれに用いることが望ましい。吸収極大波長λmaxを利用する方法をλmax法と呼ぶ。(数1)に示す通り、RMS係数の中の応答比を、標準物質refと測定対象物質analそれぞれのλmaxに波長指定して得られるピーク面積に基づき計算する。また日々の定量分析時もそのλmaxに指定してそれぞれを測定するわけである。
【0041】
内標準物質を未知試料に添加する場合、紫外・可視吸光光度検出器は標準物質refピークと測定対象物質analピークが溶出する中間時刻で入射光の波長を機構的に切替えることにより、同一のクロマトグラム上にそれぞれのピークを表示し、各ピーク面積を測定して応答比を得ることができる。機構的な波長切替えではなく、白色の入射光線がフローセルを通過したあとに分光して、複数の検出素子により吸光度を測定する方式でもよい。
【0042】
ダイオードアレイ検出器(DAD)を使用すれば、3次元クロマトグラムか、または等高線図に標準物質refのピークと測定対象物質analのピークをそれぞれ表示できるのでλmax法による応答比を簡単に求められる。
【0043】
外標準法の場合は、標準物質と測定対象物質を含む試料を別々に注入できるため、各試料測定時に検出条件のみを切り替えて、それぞれのλmaxを指定することも容易にできる。
【0044】
同様に、質量、または蛍光に応じた検出を行う検出器においては、検出にかかる設定変数として、m/z、または励起・蛍光波長を測定対象物質と標準物質とで異ならせ得るようにしてもよい。
【0045】
(不確かさ(バラツキ)への対応)
前述の通り、SIトレーサブルなレファレンスマテリアルが入手できれば、物質量比Rnを求めるために、標準物質、測定対象物質それぞれの物質量(mol)を数値として受け付け可能である。レファレンスマテリアルには表示値のほかにバラツキを示す不確かさも付記されている。使用者に不確かさも入力してもらえれば、物質量比Rnの不確かさも計算できる。
【0046】
言い換えれば、例えば操作表示部10に表示する入力画面で不確かさの入力を受け付けるなどの方法により、RMS係数、標準物質の物質量、または検出応答比が不確かさを具備するようにし、制御部9がこの不確かさに基づいて、測定対象物質の定量値の不確かさを計算するようにしてもよい。
【0047】
ところで、制御部9は、標準物質、測定対象物質のピーク面積それぞれについてもバラツキとしての標準偏差も計算できる。従って、応答比Rrについてもバラツキが計算できる。さらに定量分析に供する定数としてのRMS係数についてもバラツキが計算可能である。
【0048】
日々の定量分析時に、バラツキを伴うRMS係数を用いるのであるから、濃度などの定量結果にもバラツキが表示可能である。本実施例の装置は、使用者の選択によって、定量結果にバラツキが出力できる。そのバラツキは一定の論理付けにより統合された不確かさとして利用できる。つまり、例えば、定量結果としての123.45mg/L濃度に±0.98mg/Lの不確かさを付記することができるHPLCシステムになる。
【0049】
qNMRを利用して物質量比Rnを求める場合、比で求めることに利点がある。つまり、物質量であれば、測定の様々な要因により標準物質、測定対象物質それぞれのシグナル面積に一定の偏差を生ずる。ここで物質量比を計算することにより、ある種の要因から生ずる標準物質、および測定対象物質への同様のファクターが相殺できる可能性がある。物質量比を計算することにより不確かさも低減できるわけである。
【0050】
同じことが応答比Rrにも言える。標準物質、測定対象物質それぞれの実測されたピーク面積には一定の偏差が生ずるが、応答比を計算することによりある種のファクターが相殺されて、応答比の不確かさは抑えられていることが期待される。RnとRr、すなわちこの同種のもの同士の比を計算することにより、日差の変動要因や、分析システム・装置や試薬、あるいは試験所、使用者から生ずる変動要因などのファクターを相殺できることがRMS法の利点である。
【0051】
(装置関数)
理想的にはRMS係数は測定対象物質と参照物質に固有の定数である。ちょうどモル吸光係数のような固有定数だと考えられている。しかし、現実にはRMS係数も不確かさのような広がりが付随する。一般には不確かさは誤差、かたより、ばらつき、総合精度などに近いパラメータだと概ね理解される。不確かさを生ずる要因のひとつに分析装置や分析システムの機差、個体差がある。例えば、現実のRMS係数は装置毎に少なからず異なっており、固有定数に装置個々の補正係数aを乗じて補正したいと考える使用者もいる。または例えば切片bを具備する線形1次式(y=ax+ b)のような装置関数を用いて補正することも可能である。すなわち、与えられたRMS係数を所定の装置関数で補正した補正RMS係数を求め、上記補正RMS係数に基づいて測定対象物質を定量することができる。具体的には使用者は分析装置毎に例えば補正係数をそれぞれ入力、設定し、当該補正係数を乗じるなどして修正したRMS係数を用いて定量分析することができる。装置関数を利用する場合も同様に修正(補正)されたRMS係数を用いて定量結果が出力される。なお、この装置関数を利用する方法は、CRMなどの標準物質、または定量NMRなどに起因するRMS係数のかたよりの補正にも利用可能である。
【0052】
(その他の事項)
上記RMS係数を用いた絶対検量線法における標準物質は、毎日や、適時(時々)、ピーク面積を外標準的に測定することになる。このような標準物質は種々の観点で選択できるが、例えばアミノ酸分析法などの場合には、アスパラギン酸など比較的早めに溶出する成分を標準物質にして、基準のピーク面積にすることにより、すなわち中間的な保持時間のフェニルアラニンなどの替わりにアスパラギン酸を使うことにより、クロマトグラムを例えば最終ピークのアルギニンやヒスチジンまで測定する必要がないので、これらが溶出しなくても、アスパラギン酸等のピーク面積が計測されれば、計測を早めに切り上げて、次のサイクルに移行でき、ピーク面積測定のためにワンサイクルまるまる分析時間を要しないようにできる。具体的には、例えばクロマトグラムを30分間まるまる測定しなくとも、5~10分間などで溶出するので、早めに次の注入に切り替えることができる。定量計算時は上記基準のピーク面積が各成分のRMS係数に乗じられる。なお、アスパラギン酸を基準にする一連のイソロイシンやロイシンのRMS係数は既に手元にあることが想定されている。
【符号の説明】
【0053】
1 移動相
2 ポンプ
3 オートサンプラ
4 カラム
5 カラムオーブン
6 検出器
7 データ処理装置
8 記憶部
9 制御部
10 操作表示部
100 液体クロマトグラフ装置