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特開2024-72447フッ化物イオン電池用の負極活物質、フッ化物イオン電池、及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072447
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池用の負極活物質、フッ化物イオン電池、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240521BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240521BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20240521BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/0562
H01M10/05
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183269
(22)【出願日】2022-11-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「電気自動車用革新型蓄電池開発/フッ化物電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮
(72)【発明者】
【氏名】幾原 雄一
(72)【発明者】
【氏名】川原 一晃
(72)【発明者】
【氏名】佐々野 駿
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AK01
5H029AL11
5H029AM11
5H029AM16
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB11
(57)【要約】
【課題】高容量且つ高サイクル特性を示すフッ化物イオン電池用の負極活物質を提供する。
【解決手段】La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、またはそれらの組合せから選択される希土類元素とAlとの金属間化合物を含む合金である、フッ化物イオン電池用の負極活物質。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、またはそれらの組合せから選択される希土類元素とAlとの金属間化合物を含む合金である、フッ化物イオン電池用の負極活物質。
【請求項2】
前記希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記希土類元素は、La、Ce、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記金属間化合物を含む合金中の前記希土類元素及び前記Alの割合は、原子比率で前記希土類元素:前記Al=3:1~1:3である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記金属間化合物は、RAl(式中、Rは前記希土類元素)で示される組成を有する、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記合金が、前記希土類元素のフッ化物のネットワークと、前記Alのネットワーク、前記Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークを含む、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項7】
希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、前記Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを含む合金である、フッ化物イオン電池用の負極活物質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の負極活物質を含むフッ化物イオン電池。
【請求項9】
希土類元素とAlとを溶解処理して、前記希土類元素と前記遷移金属との金属間化合物を含む合金を得ることを含む、フッ化物イオン電池用の負極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記金属間化合物を含む合金中の前記希土類元素及び前記Alの割合は、原子比率で前記希土類元素:前記Al=3:1~1:3である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記金属間化合物が、RAl(式中、Rは前記希土類元素)で示される組成を有する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記合金にフッ化処理を施して前記金属間化合物の少なくとも一部を分解して、前記希土類元素のフッ化物のネットワークと、前記遷移金属のネットワーク、前記遷移金属のフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを生成することを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記溶解処理は、真空溶解、アーク溶解、またはプラズマ溶解である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
負極集電体、請求項9~13のいずれか一項に記載の製造方法で得られる負極活物質を含む負極層、フッ素系電解質層、正極層、及び正極集電体を含む積層体を得ることを含む、フッ化物イオン電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物イオン電池用の負極活物質、フッ化物イオン電池、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物イオン電池は、現行のリチウムイオン電池に比べて理論上5倍以上の質量エネルギー密度を有するため、車載用等の大容量の次世代二次電池の有力な候補である(非特許文献1)。正極に純金属を使用し、負極に純金属のフッ化物を用いたフッ化物イオン電池について検討されている(非特許文献2)。また、複数の金属元素を組み合わせて合金とすることによって高い容量を示すフッ化物イオン電池の正極材料が提案されており(非特許文献3、非特許文献4)、正極活物質については近年の発展により、初回放電において400mAh/g程度の容量を達成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Nakano et al., Chem. Mater. (2021).
【非特許文献2】M. Anji Reddy et al., J. Mater. Chem. (2011).
【非特許文献3】T. Tojigamori et al., ACS Appl. Energy Mater. (2022).
【非特許文献4】K. Nakayama et al., J. Mater. Chem. A (2022).
【非特許文献5】C. Rongeat et al., J. Mater. Chem. A (2014).
【非特許文献6】M. Nowroozi et al., ACS Appl. Energy Mater. (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、フッ化物イオン電池の負極材料も提案されているが(非特許文献5、非特許文献6)、20~30mAh/g程度と正極に比べて低い容量に留まっている。
【0005】
したがって、フッ化物イオン電池を実用化する上で、高容量且つ高サイクル特性を示す負極活物質が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、またはそれらの組合せから選択される希土類元素とAlとの金属間化合物を含む合金である、フッ化物イオン電池用の負極活物質。
(2)前記希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、またはそれらの組み合わせである、上記(1)に記載の負極活物質。
(3)前記希土類元素は、La、Ce、またはそれらの組み合わせである、上記(1)に記載の負極活物質。
(4)前記金属間化合物を含む合金中の前記希土類元素及び前記Alの割合は、原子比率で前記希土類元素:前記Al=3:1~1:3である、上記(1)~(3)のいずれか
に記載の負極活物質。
(5)前記金属間化合物は、RAl(式中、Rは前記希土類元素)で示される組成を有する、上記(1)~(4)のいずれかに記載の負極活物質。
(6)前記合金が、前記希土類元素のフッ化物のネットワークと、前記Alのネットワーク、前記Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークを含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載の負極活物質。
(7)希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、前記Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを含む合金である、フッ化物イオン電池用の負極活物質。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の負極活物質を含むフッ化物イオン電池。
(9)希土類元素とAlとを溶解処理して、前記希土類元素と前記遷移金属との金属間化合物を含む合金を得ることを含む、フッ化物イオン電池用の負極活物質の製造方法。
(10)前記金属間化合物を含む合金中の前記希土類元素及び前記Alの割合は、原子比率で前記希土類元素:前記Al=3:1~1:3である、上記(9)に記載の製造方法。
(11)前記金属間化合物が、RAl(式中、Rは、前記希土類元素)で示される組成を有する、上記(9)または(10)に記載の製造方法。
(12)前記合金にフッ化処理を施して前記金属間化合物の少なくとも一部を分解して、前記希土類元素のフッ化物のネットワークと、前記遷移金属のネットワーク、前記遷移金属のフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを生成することを含む、上記(9)~(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13)前記溶解処理は、真空溶解、アーク溶解、またはプラズマ溶解である、上記(9)~(12)のいずれかに記載の製造方法。
(14)負極集電体、上記(9)~(13)のいずれかに記載の製造方法で得られる負極活物質を含む負極層、フッ素系電解質層、正極層、及び正極集電体を含む積層体を得ることを含む、フッ化物イオン電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高容量且つ高サイクル特性を示すフッ化物イオン電池用の負極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、La-Alの二元系状態図である。
図2図2は、本開示の負極活物質を負極に含む全固体フッ化物イオン電池の一例の模式図である。
図3図3は、実施例1で作製したフッ化物イオン二次電池の1~5回の充放電を行ったときの充放電曲線を表すグラフである。
図4図4は、実施例2で作製したフッ化物イオン二次電池の1~5回の充放電を行ったときの充放電曲線を表すグラフである。
図5図5は、実施例3で作製したフッ化物イオン二次電池の1~5回の充放電を行ったときの充放電曲線を表すグラフである。
図6図6は、実施例1で作製したフッ化物イオン二次電池を20回充放電させたときの充放電曲線を表すグラフである。
図7図7は、実施例1~3で作製したフッ化物イオン二次電池の1~20回のサイクル特性を表すグラフである。
図8図8は、実施例1で合成したLaAl合金の粉末X線回折パターンである。
図9図9は、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の粉末X線回折パターンである。
図10図10は、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の透過型電子顕微鏡(TEM)の明視野像及び電子回折パターンである。
図11図11は、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の1つの結晶粒から取得した環状暗視野(ADF)像である。
図12図12は、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の1つの結晶粒の試料内部から取得した環状明視野(ABF)像である。
図13図13は、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の1つの結晶粒の試料内部から取得した電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルである。
図14図14は、EELSスペクトルから得られたLaとAlの元素マッピングである。
図15図15は、実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池を20回充放電させたときの充放電曲線を表すグラフである。
図16図16は、実施例1及び実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池の1~20回のサイクル特性を比較したグラフである。
図17図17は、環状暗視野走査型透過電子顕微鏡(ADF-STEM)像、及び環状明視野走査型透過電子顕微鏡(ABF-STEM)像である。
図18図18は、実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池について1回目の放電を行った後の、負極合材中のLaAl合金の1つの結晶粒の試料内部から取得した電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルである。
図19図19は、ADF-STEM像と、同じ領域についてEELSスペクトルから得られたF、La、及びAlの元素マッピングである。
図20図20は、実施例4で作製したフッ化物イオン二次電池を1回充放電したときの充放電曲線を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、またはそれらの組合せから選択される希土類元素(以下、単に希土類元素ともいう)とAlとの金属間化合物を含む合金である、フッ化物イオン電池用の負極活物質を対象とする。
【0010】
本開示によれば、希土類元素とAlとの金属間化合物により、高容量(高エネルギー密度)及び優れたサイクル特性を有し低電位で動作するフッ化物イオン電池用負極活物質が得られる。本開示の負極活物質(以下、本負極活物質ともいう)を備えたフッ化物イオン電池は、高エネルギー密度と優れたサイクル特性を必要とするハイブリッド車や電気自動車等に好適に適用し得る。また、本負極活物質は溶解法のみで得られ、作製プロセスが容易である。
【0011】
本負極活物質における金属間化合物は、フッ化しやすい希土類元素(希土類金属)とフッ化しやすいAlとが原子レベルで規則的に配列した合金である。
【0012】
表1に、I. Mohammad et al., ACS Appl. Energy. Mater. (2019)、及びT. Yin et al., Int. J. Miner. Metall. Mater. (2021)の記載に基づくLa/LaFの酸化還元電位を基準とした金属元素の酸化還元電位を示す。負極活物質の材料に用いられ得る元素としては、フッ化物イオン電池の基準電極として一般的であるPb/PbFよりも酸化還元電位が低く且つ電解質の分解を避けるために0以上の酸化還元電位を有することが求められ、そのような条件に該当する元素として、Al、Zr、Ti、Cr、及びMnが挙げられる。
【0013】
【表1】
【0014】
Al、Zr、Ti、Cr、及びMnの中でも、Alは大きな理論容量を有する。表2に、Al、Zr、Ti、Cr、及びMnの理論容量を示す。
【0015】
【表2】
【0016】
本発明者らは、Alは、希土類元素と合金化が可能で、酸化還元電位が低く低電位動作が可能で、且つ理論容量が大きいので、フッ化物イオン電池の負極活物質用に希土類元素と組み合わせる金属として優れていることを見いだした。負極活物質の合金を構成する元素はフッ化しやすい必要があり、希土類元素とAlは両方ともフッ化しやすい。負極活物質が、上記金属間化合物を含む合金であることにより、従来よりも負極活物質の容量を大幅に向上することができ、且つ良好なサイクル特性を得ることができる。
【0017】
したがって、本負極活物質を備えたフッ化物イオン電池は、20サイクル後に好ましくは200mAh/g以上、より好ましくは240mAh/g以上、さらに好ましくは280mAh/g以上の充電容量を示す。本負極活物質を備えたフッ化物イオン電池はまた、20サイクル後に好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の容量維持率を示す。本負極活物質を備えたフッ化物イオン電池はまた、約-1.7V(vs.Pb/PbF)の低電位における安定動作が可能であり、2.5V級フッ化物イオン電池の実現が可能となる。
【0018】
Alはフッ化及び脱フッ化により容量の向上に寄与し、希土類元素はフッ化によりイオン伝導ネットワークを形成して活物質内部までフッ化物イオンを供給することで容量及びサイクル特性の向上に寄与すると考えられる。希土類元素はフッ化によりイオン伝導パスとして作用するフッ化物になる。
【0019】
希土類元素は、放射性元素であり扱いが難しいPmを除くLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、またはそれらの組合せである。本願において「それらの組合せ」とは、それらの一部または全部の任意の組合せを意味する。これらの希土類元素は、全てAlとの状態図が存在し、合金を形成することができる(K.A. Gschneidner and F.W. Calderwood, Bull. Alloy Phase Diagr. (1988), K.A. Gschneidner and F.W. Calderwood, Bull. Alloy Phase Diagr. (1989))。表3に、I. Mohammad et al., ACS Appl. Energy. Mater. (2019)、及び T. Yin et al., Int. J. Miner. Metall. Mater. (2021)の記載に基づく、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Dy、Ho、及びErの酸化還元電位を示す。表3に示すように、希土類元素は、Alと比較して酸化還元電位が優位に低く、フッ化しやすい元素であり、表3に示したもの以外の上記希土類元素も同様に低い酸化還元電位を有する。
【0020】
【表3】
【0021】
希土類元素は、好ましくは、La、Ce、Pr、Nd、またはそれらの組み合わせである。Ce、Pr及びNdとAlとは、LaとAlとがとり得る合金組成と同じ組成を有することができる点で好ましい。Pr及びNdとAlとは、さらにPrAl及びNdAlもとり得る。Laは、フッ化によりイオン伝導パスとして作用するLaFとなる。Ce、Pr、及びNdはそれぞれ、Laと同様にフッ化によりイオン伝導パスとして作用するCeF、PrF、及びNdFとなる。表1に示すように、La、Ce、Pr、及びNdは酸化還元電位がAlよりも低いので、Alより先にフッ化しイオン伝導パスとして作用する。また、La、Ce、Pr、及びNdはそれぞれ、Alと金属間化合物を形成することができ、LaF、CeF、PrF、及びNdFは互いに同等の酸化還元電位、イオン伝導度、及び格子定数を有し、実質的に同じ効果を奏することができる。
【0022】
希土類元素は、より好ましくはLa、Ce、またはそれらの組み合わせである。表1から分かるように、LaF及びCeFは特に酸化還元電位が低く、電気化学的により安定なイオン伝導パスとして作用することができる。
【0023】
金属間化合物及び合金には、希土類元素以外の元素が含まれてもよく、2種類以上の元素の組成比が若干変動したもの、原子配列が若干乱れたもの、不純物が若干含まれているものも当然に含まれる。希土類元素とAlとがある程度隣接して合金中に存在することにより、本発明の効果が得られるためである。
【0024】
希土類元素はイオン伝導ネットワークを形成するので主に利用率に寄与し、Alは主に容量に寄与する。そのため、希土類元素の割合がAlに対して多いと、Al量が少なくなるのでその分容量が小さくなる。希土類元素の割合がAlに対して少ないと、イオン伝導ネットワークの形成が不十分となり容量が急に低下しやすい。
【0025】
図1に、La-Alの二元系状態図を示す。図1に示すように、LaとAlは、原子比率でLa:Al=3:1、1:1、1:2、1:3、及び3:11の比率を有するLaAl、LaAl、LaAl、LaAl、及びLaAl11の合金を構成することができる。Alは理論容量が大きいので相対的にAl量が増えるほど容量が増加するが、相対的にLa量が不足するとイオン伝導ネットワークの形成が不十分になり利用率が低下し得る。したがって、LaとAlとの間に好ましい組成比が存在する。Ce、Pr、及びNdもLaと同様の比率の合金を構成することができる。希土類元素とAlとの金属間化合物を含む合金中の希土類元素及びAlの割合は原子比率で、好ましくは希土類元素:Al=3:1~1:3、より好ましくは1:1~1:3、さらに好ましくは1:2~1:3である。
【0026】
金属間化合物は、好ましくは、RAl(式中、Rは希土類元素)で示される組成を有する。RAlの組成を有する原子配列構造により、希土類元素とAlをより有効に利用することができ、負極活物質の容量をより向上することができる。
【0027】
好ましくは、前記合金は、希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを含む。Alのフッ化物はAlFであることができる。
【0028】
本開示の負極活物質を負極に含むフッ化物イオン電池の最初の放電(第1放電)初期において、負極活物質の金属間化合物が、希土類元素のフッ化物のナノ結晶とAlとのナノ結晶に分解される。これにより、第1放電初期に、負極活物質中の希土類元素がフッ化して希土類元素のフッ化物のナノスケールのイオン伝導ネットワーク及びAlのナノスケールのネットワークを形成することができる。負極活物質中に上記ナノスケールの微細組織が形成されることにより、活物質利用率が大きく向上する。
【0029】
ナノスケールのネットワークとは、ネットワークを構成する希土類元素のフッ化物、Al、またはAlのフッ化物の、ネットワークの長手方向に垂直方向のネットワークの幅が、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下のネットワークをいう。前記幅の下限値は、ネットワークがつながる限り特に限定されないが、例えば1nm以上、2nm以上、または3nm以上である。
【0030】
負極中において負極活物質はフッ素系電解質と接して存在し得る。第1放電初期では、負極活物質の粒子の表面側から希土類元素のフッ化反応が進む。このフッ化反応にともない、負極活物質の粒子の表面側から、放電前の原子配列を変化させながら、希土類元素のフッ化物のネットワーク及びAlのナノスケールのネットワークが形成される。
【0031】
第1放電初期では、負極活物質粒子の表面側においては、希土類元素のフッ化物のナノスケールのネットワーク及びAlのナノスケールのネットワークが存在し、負極活物質粒子の内部側においては、放電前の希土類元素及びAlの規則的な原子配列が存在し得る。すなわち、この過程で得られるナノスケールの微細組織は、希土類フッ化物のネットワーク及びAlの微細化という特徴を有する。この第1放電(フッ化)過程における微細組織の自発的な形成が、本開示の負極活物質の高い利用率の起源である。
【0032】
本負極活物質を負極に含むフッ化物イオン電池の放電をさらに進めると、ナノスケールのネットワークを形成するAlがフッ化して、Alのフッ化物のナノスケールのネットワークを形成することができる。
【0033】
放電初期から後期に放電を進めることにより、希土類元素のフッ化物のネットワーク及びAlのナノスケールのネットワークは負極活物質粒子の内部にさらに進展し、且つ表面側にすでに形成されていたナノスケールのネットワークを構成するAlはフッ化して、Alのフッ化物のナノスケールのネットワークが形成される。希土類元素のフッ化物のネットワークはフッ化物イオン伝導を示し、Alのネットワークは電子伝導を示す。
【0034】
放電後に充電を進めると、ナノスケールのネットワークを構成するAlのフッ化物は脱フッ素化して、再度、Alのナノスケールのネットワークが形成される。放電初期、放電後期、及び充電後期の間で、希土類元素はフッ化物を形成し、Alにはフッ化と脱フッ素化が起こるため、放電及び充電の状態に応じて、フッ化したAlと脱フッ素化したAlとが共存し得る。そのため、負極活物質は、希土類元素のフッ化物のネットワークに加えて、Alのネットワーク、Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークを含み得る。
【0035】
上記のように、本負極活物質においては、放電及び充電時に負極活物質粒子の内部に自発的に、希土類元素のフッ化物と、Al、Alのフッ化物、またはそれらの組み合わせとの微細組織が形成される。負極活物質粒子の内部に形成された希土類フッ化物のネットワーク及びAlの微細化により、フッ化物イオンが負極活物質粒子の内部まで拡散され、活物質利用率が向上する。活物質粒子の内部に進展したナノスケールのネットワークを構成するAlが放電時にフッ化し、充電時に脱フッ素化して、優れた活物質利用率を示すことができる。
【0036】
したがって、本負極活物質は、フッ化物イオン電池の負極を作製する際にコアシェル構造や数nm厚の薄膜といった微細組織を形成しておく必要がなく、数百nm以上の粒径でフッ化物イオン電池の負極に組み入れても利用率に優れた充放電が可能である。
【0037】
負極活物質がRAlの組成を含む合金である場合を例に説明すると、放電初期において、希土類元素R及びAlは、下記:
RAl+3F→RF+3Al+3e
の反応が起こり、RAlは、希土類元素のフッ化物RFとAlに分相する。
【0038】
次いで、放電後期までに、Alは、下記:
Al+3F→AlF+3e
の反応が起こり、Alがフッ化する。
【0039】
すなわち、放電の初期から後期までに、希土類元素R及びAlは、下記:
RAl+12F→RF+3AlF+12e
の反応が進み、希土類元素R及びAlは分相してそれぞれのフッ化反応がおきる。
【0040】
このように、放電初期には、希土類元素Rが最初にフッ化して、希土類元素Rのフッ化物のナノスケールのネットワーク及びAlのナノスケールのネットワークが形成され、放電をさらにすすめると、Alもフッ化して、Alのフッ化物のナノスケールのネットワークが形成される。
【0041】
次いで、充電の後期までに、Alは、下記:
AlF+3e→Al+3F
の反応が起こり、AlFがAlに戻る。放電後期に形成されたAlのフッ化物が脱フッ素化して、再度、Alのナノスケールのネットワークが形成される。さらに、放電及び充電を繰り返すと、希土類元素のフッ化物のナノスケールのネットワークと、Al、Alのフッ化物、またはそれらの組み合わせのナノスケールのネットワークとが、それぞれ活物質粒子のさらに内部まで進展する。
【0042】
本負極活物質は、放電及び充電を繰り返すと、最終的には、放電前の原子配列が少なくなるか実質的に消滅し、少なくなるか実質的に消滅した放電前の原子配列は、希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークに変わる。
【0043】
したがって、本開示はまた、希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、前記Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを含む合金である、フッ化物イオン電池用の負極活物質を対象とする。
【0044】
負極活物質は、好ましくは、希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、前記Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとからなる合金である。
【0045】
合金、並びに希土類元素のフッ化物のネットワーク、及びAlのネットワーク、Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークの構成は、上述の内容が適用される。
【0046】
本開示はまた、
(A)希土類元素と、Alとの金属間化合物を含む合金、及び
(B)希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、前記Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを含む合金、
のうちの少なくとも一つである、フッ化物イオン電池用の負極活物質を対象とする。
【0047】
負極合材を作製する前の本負極活物質は、比較的粗粒でもよく、体積平均粒径(以下、D50ともいう)は、好ましくは1~50μm、より好ましくは2~30μm、さらに好ましくは3~10μmであることができる。本負極活物質を用いて負極合材を作製する際、負極活物質、電解質、導電助材等を混合して解砕及び/または粉砕し得るため、負極合材中の本負極活物質の体積平均粒径(以下、D50ともいう)は、好ましくは10~0.05μm、より好ましくは5~0.1μm、さらに好ましくは1~0.5μmである。本負極活物質は、上記好ましい粒径で負極に組み入れても良好な充放電特性を示すが、より微細化して負極に組み入れても良好な充放電特性を示す。
【0048】
本負極活物質を備えたフッ化物イオン電池を得ることができる。本負極活物質が、良好なイオン伝導性及び電子伝導性を有するので、本負極活物質を備えたフッ化物イオン電池は、良好な特性を有する。フッ化物イオン電池は、好ましくは、フッ化物イオン二次電池である。フッ化物イオン電池は、負極集電体、負極層、フッ素系電解質層、正極層、及び正極集電体を備える。
【0049】
負極層は、本負極活物質を含む層である。負極層は、本負極活物質に加えて、他の負極活物質を含んでもよい。負極活物質層は、負極活物質に加えて他の成分を含んでもよく、例えば、導電助材、電解質、及びバインダーのうち少なくとも一つを含有してもよい。
【0050】
導電助材としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノファイバー、またはカーボンナノチューブが挙げられる。負極層中の導電助材の割合の下限は、例えば1重量%以上または5重量%以上でもよく、この範囲でより良好な電子伝導パスが形成され得る。負極層中の導電助材の割合の上限は、例えば20重量%以下または15重量%以下でもよく、この範囲にすることにより、負極活物質中の活物質の割合を確保することができ、より良好なエネルギー密度を得ることができる。
【0051】
バインダーとしては、化学的及び電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーが挙げられる。
【0052】
電解質としては、従来、フッ化物イオン電池に用いられている電解質であることができ、好ましくは、フッ素系電解質層に用いられる電解質を用いることができる。
【0053】
負極層における負極活物質の含有量は、例えば30重量%以上、50重量%以上、または70重量%以上である。負極層の厚さは、例えば、0.1μm~1000μm、1~100μm、または20~50μmであることができる。
【0054】
正極層は、正極活物質を含有する層である。正極活物質は特に限定されず、従来、フッ化物イオン電池に用いられている活物質でもよく、例えばPbF、CuF、BiF等であることができる。正極層は、正極活物質に加えて他の成分を含んでもよく、例えば、導電助材、電解質、及びバインダーのうち少なくとも一つを含有してもよい。
【0055】
正極層における正極活物質の含有量は、例えば30重量%以上、50重量%以上、または70重量%以上である。正極層の厚さは、例えば、0.1μm~1000μm、1~100μm、または20~40μmであることができる。
【0056】
フッ素系電解質層は、正極層と負極層との間に形成されるフッ素系電解質を含む層である。フッ素系電解質は、従来、フッ化物イオン電池に用いられている電解質であることができ、例えばLa0.9Ba0.12.9、Ce0.9La0.05Sr0.052.95、La0.9Sr0.12.9、Ba0.6La0.42.4等であることができる。フッ素系電解質層を構成する電解質は、固体電解質、液体電解質(電解液)、またはポリマー電解質でもよい。フッ素系電解質層の厚さは、例えば10~1000μm、50~500μm、または100~200μmであることができる。
【0057】
正極集電体及び負極集電体は、従来、フッ化物イオン電池に用いられている集電体であることができ、箔状、メッシュ状、または多孔質状であることができる。
【0058】
本開示はまた、希土類元素とAlとを溶解処理して、希土類元素とAlとの金属間化合物を含む合金を得ることを含む、フッ化物イオン電池用の負極活物質の製造方法(以下、本製造方法ともいう)を対象とする。
【0059】
本負極活物質は、希土類元素とAlとを組み合わせて溶解処理することにより作製することができる。希土類元素とAlとは混合して溶解処理することにより合金化され、溶解処理後の真空熱処理(溶体化処理)が不要である。本製造方法において、溶解処理後に真空熱処理を行ってもよいが、真空熱処理の時間は一般的に100~500時間と長時間であり、本負極活物質は溶解処理のみで作製可能である点でコスト面でも好ましい。
【0060】
希土類元素は、粒形状、塊形状等、任意の形状のものを用いることができる。希土類元素は、純度は高い方が好ましいが、ミッシュメタルでもよい。
【0061】
Alは、粒形状、塊形状等、任意の形状のものを用いることができる。Alは、純度は高い方が好ましいが、不純物を含んでもよい。
【0062】
溶解処理の温度は、好ましくは1500~2000℃である。溶解処理の時間は、好ましくは1~30分、より好ましくは3~15分、さらに好ましくは5~10分である。溶解処理の雰囲気は、真空または不活性ガス雰囲気であることができる。溶解処理は、好ましくは、真空溶解、アーク溶解、またはプラズマ溶解であり、組成の制御が容易である点でアーク溶解がより好ましい。
【0063】
好ましくは、前記合金にフッ化処理を施して金属間化合物の少なくとも一部を分解して、希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを生成する。合金にフッ化処理を施して金属間化合物の一部を分解することによって、合金中に、残った金属間化合物に加えて、希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを含むことができる。合金にフッ化処理を施して金属間化合物を全て分解することによって、金属間化合物は消滅し、合金中に、希土類元素のフッ化物のネットワークと、Alのネットワーク、Alのフッ化物のネットワーク、またはそれらの組み合わせのネットワークとを形成することができる。
【0064】
フッ化処理は、負極活物質をフッ素系電解質と隣接して配置して構成した電池を、放電、充電、若しくはそれらを繰り返すこと、または負極活物質を化学的にフッ化処理することを含む。
【0065】
負極活物質をフッ素系電解質と隣接して配置して構成した電池を放電することにより、フッ素系電解質からフッ化物イオンが供給され、フッ素系電解質と接する負極活物質の表面から内部に向けてフッ化処理を行うことができる。放電中に、金属間化合物が、希土類元素のフッ化物とAlとに分離し、さらに放電を進めるとAlがフッ化する。充電すると、フッ化したAlは脱フッ素化する。再度放電すると、希土類元素のフッ化物とAlへの分離が負極活物質の粒子内部にさらに進展し、さらに放電を進めるとAlがフッ化する。上記のように、放電、充電、またはそれらを繰り返すことによって、負極活物質をフッ化することができる。
【0066】
電池を構成せずに、負極活物質を化学的にフッ化処理することにより、負極活物質をフッ化してもよい。化学的なフッ化処理は、負極活物質をフッ化剤に浸漬することによって、行うことができる。フッ化剤は、例えば、ビス(2-メトキシエチル)アミノ硫黄トリフルオリド、ジエチルアミノ硫黄=トリフルオリド等であることができ、ビス(2-メトキシエチル)アミノ硫黄トリフルオリドをアセトニトリル溶液で希釈したものでもよい。
【0067】
本負極活物質は、フッ化物イオン電池用であるが、負極活物質単体として、負極合材として、負極層として、またはフッ化物イオン電池に組み込んで等、任意の形態で製造販売することが可能である。本負極活物質は、フッ化処理前のもの、またはフッ化処理したものを、販売することができる。本負極活物質は、電池に組み込んで、放電、充電、またはそれらを繰り返した後に、電池から取り出して、負極活物質、負極合材、負極層等の任意の形態で販売することができる。本負極活物質は、化学的にフッ化処理したものを販売することもできる。
【0068】
本開示はまた、負極集電体、上記製造方法で得られる負極活物質を含む負極層、フッ素系電解質層、正極活物質を含む正極層、及び正極集電体を含む積層体を得ることを含む、フッ化物イオン電池の製造方法を対象とする。
【0069】
負極集電体、負極層、フッ素系電解質層、正極層、及び正極集電体の構成は、上述の内容を適用することができる。負極集電体、負極層、フッ素系電解質層、正極層、及び正極集電体を含む積層体は、加圧成形等の任意の方法で作製することができる。例えば、負極層、フッ素系電解質層、及び正極層の積層体を、加圧成形等の任意の方法で作製し、次いで、集電体を配置することができる。積層体を加圧成形する場合、加圧成形の圧力は、10~600MPaであることができる。正極集電体及び負極集電体は、積層、塗布、蒸着等の任意の方法で形成することができる。
【実施例0070】
(実施例1)
(負極活物質の作製)
モル比でLa:Al=1:3となるように、9.477gの粒状La(純度99.99%、D50=8mm)と5.523gの粒状Al(純度99.99%、D50=5mm)を混合し、アーク溶解装置を用いて、Ar雰囲気中で1500℃、10分間、アーク溶解することにより15gのLaAlの金属間化合物の合金を調製した。
【0071】
(固体電解質の作製)
La(NO・6HO試薬、Ba(NO試薬(富士フィルム和光純薬製)、及びNHF試薬(Sigma-Aldrich製)を精製水に溶かし、0.9:0.1:2.9のモル比で混合した。得られた沈殿物をろ過し、アルゴン雰囲気下において800℃で4時間焼成することによりLa0.9Ba0.12.9を調製した。
【0072】
(負極合材の作製)
調製したLaAl合金及びLa0.9Ba0.12.9をそれぞれ負極活物質及びフッ素系固体電解質として用いた。負極活物質として0.12gのLaAl、フッ素系固体電解質として0.24gのLa0.9Ba0.12.9、及び導電助材として0.04gのアセチレンブラック(D50=48nm)を混合して、ZrOボールを用いたボールミルで100rpm、20時間の条件で粉砕及び混合を行って負極合材を準備した。負極合材中の負極活物質のD50は0.4μmであった。負極活物質のD50は走査型電子顕微鏡を用いて、15000倍の倍率で128μmの視野の像を取得し、30個の負極活物質の粒径を測定した平均値である。
【0073】
(正極合材の作製)
正極活物質として0.12gのPbF(高純度化学製、純度99.9%)、電解質として調製したフッ素系固体電解質である0.24gのLa0.9Ba0.12.9及び、及び導電助材として0.04gのアセチレンブラック(D50=48nm)を混合して、ボールミルを用いて100rpmで10時間メカニカルミリングして正極合材を準備した。
【0074】
(電池の作製)
電解質層に用いる電解質として、調製したフッ素系固体電解質であるLa0.9Ba0.12.9を用い、調整した負極合材0.01g、フッ素系固体電解質0.15g、及び正極合材0.05gを392MPaで加圧成形して、35μm厚の正極層(基準電極)、150μm厚のフッ素系固体電解質層、及び30μm厚の負極層を備え、直径が11mmのペレットを作製した。
【0075】
負極集電体として20μm厚のPt箔を準備し、準備した負極集電体を作製したペレットの負極層上に配置した。正極集電体として18μm厚のAl箔及び200μm厚のPb箔の積層体を準備し、準備した正極集電体をPb箔が正極層に接するようにして、作製したペレットの正極層上に配置して、直径が11mmのコインセル型の全固体フッ化物イオン電池を作製した。図2に、作製した負極集電体60、負極層30、フッ素系固体電解質層40、正極層50、及び正極集電体70を備える全固体フッ化物イオン電池の模式図を示す。
【0076】
(実施例2)
モル比でLa:Al=1:2となるように粒状La及び粒状Alを混合してアーク溶解装置でLaAlの金属間化合物の合金を作製したこと以外は、実施例1と同様に負極合材を作製してコインセル型のフッ化物イオン電池を作製した。
【0077】
(実施例3)
モル比でLa:Al=3:11となるように粒状La及び粒状Alを混合してアーク溶解装置でLaAl11の金属間化合物の合金を作製したこと以外は、実施例1と同様に負極合材を作製してコインセル型のフッ化物イオン電池を作製した。
【0078】
(実施例4)
モル比でLa:Al=1:1となるように粒状La及び粒状Alを混合してアーク溶解装置でLaAlの金属間化合物の合金を作製したこと以外は、実施例1と同様に負極合材を作製してコインセル型のフッ化物イオン電池を作製した。
【0079】
(充放電特性;1~5回のサイクル特性)
実施例1~3で作製したフッ化物イオン電池について、VMP-300マルチポテンショスタット(BioLogic社)を用いて、140℃、真空中で、及び0.02Cレートの条件で、ガルバノスタットモードによる充放電特性を評価した。
【0080】
図3~5に、実施例1~3で作製したフッ化物イオン二次電池の1~5回の充放電を行ったときの充放電曲線を表すグラフを示す。実施例1でLaAl合金を負極活物質として用いて作製したフッ化物イオン電池は、1回目の充電容量が177mAh/g及び5回目の充電容量が285mAh/gであり、1回目及び5回目の両方で良好な充電容量を示した。
【0081】
実施例2でLaAl合金を負極活物質として用いて作製したフッ化物イオン電池は、1回目の充電容量が242mAh/g及び5回目の充電容量が206mAh/gであり、1回目及び5回目の両方で良好な充電容量を示した。実施例3でLaAl11合金を負極活物質として用いて作製したフッ化物イオン電池は、1回目の充電容量が17mAh/g及び5回目の充電容量が40mAh/gであり、1回目及び5回目の両方で充電容量は比較的低かった。
【0082】
(充放電特性;1~20回のサイクル特性)
図6に、実施例1で作製したフッ化物イオン二次電池を20回充放電させたときの充放電曲線を表すグラフを示す。実施例1で作製したフッ化物イオン二次電池は、1~3回のサイクル数では徐々に容量が向上し、20サイクルまで容量が維持された。
【0083】
図7に、実施例1~3で作製したフッ化物イオン二次電池の1~20回のサイクル特性を表すグラフを示す。実施例1で作成した二次電池は1~20サイクルで高い容量を示し、20サイクル目で充電容量280mAh/gを示して高容量を有しており、94%の容量維持率を示して優れたサイクル特性を示した。容量維持率は、最も高い容量を基準として算出した。例えば、実施例1については、最も高い値を示した3サイクル時の容量を基準として算出した。実施例2で作成した二次電池も1~20サイクルで良好な容量を示し、且つ77%の容量維持率を示して優れたサイクル特性を示した。実施例3で作成した二次電池は、容量維持率は78%と良好であったが、1サイクル目から容量が比較的低かった。
【0084】
図20に、実施例4で作製したフッ化物イオン二次電池を1回充放電したときの充放電曲線を表すグラフを示す。実施例4でLaAl合金を負極活物質として用いて作製したフッ化物イオン電池は、1回目の充電容量が156mAh/gを示し、良好な充電容量を示した。
【0085】
(LaAl合金の粉末X線構造解析)
図8に、実施例1で合成した段階でのLaAl合金の粉末X線回折パターンを示す。指数表示をした回折ピークがLaAl合金の回折ピークであり、それ以外にLaAl11合金の不純物相の回折ピークが若干みられ、LaAl以外に若干のLaAl11を含む混相であった。
【0086】
(実施例5)
アーク溶解処理でLaAl合金(LaAl11合金の不純物相を含む混相)を得た後に、得られたLaAl合金に950℃で336時間の真空熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様に負極合材を作製してコインセル型のフッ化物イオン電池を作製した。
【0087】
(真空熱処理を施したLaAl合金の粉末X線構造解析)
図9に、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の粉末X線回折パターンを示す。LaAl11合金の不純物相の回折ピークはほぼ無くなり、実質的にLaAl合金の単相が得られていることが分かる。
【0088】
(真空熱処理を施したLaAl合金のTEM観察)
図10に、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の透過型電子顕微鏡(TEM)の明視野像及び電子回折パターンを示す。電子回折パターンから、LaAl合金の単相であることが分かる。
【0089】
(真空熱処理を施したLaAl合金の原子構造解析)
図11に、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の1つの結晶粒から取得した環状暗視野(ADF)像を示す。写真上部側の暗いコントラストの領域が試料表面であり、写真下部側が試料内部である。ADF像の明るい点がLaの原子であり、試料表面はアモルファス構造であるが、試料内部は原子レベルで均一なLaAlの結晶構造を有していた。
【0090】
図12に、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の1つの結晶粒の試料内部から取得した環状明視野(ABF)像を示す。ABF像からもLaAlの単相が得られていることが分かる。
【0091】
図13に、実施例5で真空熱処理を施したLaAl合金の1つの結晶粒の試料内部から取得した電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルを示す。EELSスペクトルから、表面が酸化しているため酸素のK端が検出されているが、実質的にLaとAlのみで構成されていることが分かる。
【0092】
図14に、EELSスペクトルから得られたLaとAlの元素マッピングを示す。原子レベルの解析でもLaAl合金の単相が実質的に得られていることが確認された。
【0093】
(充放電特性;1~20回のサイクル特性)
図15に、実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池を20回充放電させたときの充放電曲線を表すグラフを示す。実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池は、実施例1で作製したフッ化物イオン二次電池と同様に、1~3回のサイクル数では徐々に容量が向上し、20サイクルまで容量が維持された。すなわち、LaAl合金が混相の場合と単相の場合とで充放電特性は実質的に同じであることが確認された。また、酸化還元特性については、約-1.7V vs Pb/PbFで充放電が進行しており、LaAl合金は、低い電位で繰り返し充放電が可能であり、負極活物質として好適であることが確認された。
【0094】
図16に、実施例1及び実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池の1~20回のサイクル特性を比較したグラフを示す。実施例5で作成した二次電池は1~20サイクルで高い容量を示し、且つ83%の容量維持率を示して、実施例1で作製した二次電池と同様の優れたサイクル特性を示した。すなわち、LaAl合金が混相の場合と単相の場合とでサイクル特性も実質的に同じであることが確認された。
【0095】
(LaAl合金のフッ化メカニズム解析)
実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池について1回目の放電を行った後の、負極合材中のLaAl合金の透過型電子顕微鏡による観察を行った。図17に、環状暗視野走査型透過電子顕微鏡(ADF-STEM)像、及び環状明視野走査型透過電子顕微鏡(ABF-STEM)像を示す。図11(フッ化前)及び図12(フッ化前)と比べて図17(フッ化後)に示すADF像及びABF像は構造が大きく異なり、局所的にコントラストが異なる領域がみられた。図17の破線で囲んだ領域には、LaFまたはAlFの結晶方位の異なる格子縞がLaAl合金の結晶粒全域にわたって分布していることが分かった。また、結晶方位の異なる格子縞の領域は円相当径で10nm程度であり、フッ化によって10nm程度のナノ粒子化が進行したことが示唆された。
【0096】
(LaAl合金のフッ化後の化学分析)
図18に、実施例5で作製したフッ化物イオン二次電池について1回目の放電を行った後の、負極合材中のLaAl合金の1つの結晶粒の試料内部から取得した電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルを示す。LaとAlのピークだけでなくFのK端も検出され、フッ化が進行していることが分かる。
【0097】
図19に、ADF-STEM像と、同じ領域についてEELSスペクトルから得られたF、La、及びAlの元素マッピングを示す。Laの濃度が高い領域ではAlの濃度が薄く、反対にAlの濃度が高い領域ではLaの濃度が薄かった。したがって、フッ化によってLaAl合金のLaとAlとがナノ粒子レベルで分離し、LaFとAlFに分相していることが示唆された。また、前記分相によってLaFイオン伝導ネットワークが形成され、イオン伝導ネットワークを通じてフッ化物イオンが活物質内部まで供給され、容量の大きいAlがフッ化・脱フッ化することによって高い特性が発現したと考えられる。
【符号の説明】
【0098】
30 負極層
40 フッ素系電解質層
50 正極層
60 負極集電体
70 正極集電体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20