(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072448
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】流路デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/12 20060101AFI20240521BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
C12M1/12
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183271
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史和
(72)【発明者】
【氏名】清水 良介
(72)【発明者】
【氏名】山田 真澄
(72)【発明者】
【氏名】関 実
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジーウェン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC11
4B029DG08
4B029HA06
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD14
4B065BD18
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】薄膜を利用して、膜の破損を回避しつつ、比較的簡素な機構で細胞の分離が可能となる流路デバイスを提供する。
【解決手段】膜内に形成された複数の膜内空間と、少なくとも片面に設けられるとともに前記膜内空間と連通する複数の開口と、隣接する前記複数の膜内空間を膜内で互いに連通する連通孔とを有する多孔膜と、前記多孔膜の前記複数の開口が設けられている面に接するように配置される流路部材と、前記流路部材の、前記複数の開口が設けられている面に接する面に形成される、液体が流入する流入溝と、前記流路部材の、前記複数の開口が設けられている面に接する面に形成される、液体が流出する流出溝と、を有する流路デバイス。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜内に形成された複数の膜内空間と、少なくとも片面に設けられるとともに前記膜内空間と連通する複数の開口と、隣接する前記複数の膜内空間を膜内で互いに連通する連通孔とを有する多孔膜と、
前記多孔膜の前記複数の開口が設けられている面に接するように配置される流路部材と、
前記流路部材の、前記複数の開口が設けられている面に接する面に形成される、液体が流入する流入溝と、
前記流路部材の、前記複数の開口が設けられている面に接する面に形成される、液体が流出する流出溝と、
を有する流路デバイス。
【請求項2】
前記多孔膜が、前記流路部材と、表面が平滑な平板部材との間に挟まれている、請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項3】
前記複数の開口が、前記多孔膜の両面に設けられるともに、
前記多孔膜が、少なくとも前記流入溝が形成される流路部材と、少なくとも前記流出溝が形成される流路部材との二つの前記流路部材の間に挟まれている、請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項4】
前記流入溝と前記流出溝とは、前記流路部材において互いに離隔している、請求項2又は請求項3に記載の流路デバイス。
【請求項5】
前記流入溝と前記流出溝とは、それぞれ盲端に終わっている、請求項4に記載の流路デバイス。
【請求項6】
前記多孔膜の開口率が30%~70%である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の流路デバイス。
【請求項7】
前記多孔膜が結露法で製造した多孔膜である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞の分離回収に用いられる流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な細胞集団に含まれる特定の細胞を分離して選抜する技術は、診断医療、再生医療及び基礎生物学等において不可欠である。特に、血液に含まれる特定の細胞の分離及び選抜は、産業上においてもニーズが大きい。そのための手法として,フィルター構造を用いた分離手法が多数開発され、報告されてきた。
【0003】
たとえば、特許文献1には、不織布フィルターを用いた細胞分離装置の例が示されている。同文献では、繊維径1~5μmのフィルターを多数重ねたフィルターユニットを直列接続することによって、白血球に含まれる単核球の分離並びに顆粒球及び赤血球の除去が可能とされている。
【0004】
また、特許文献2には、シリコーン樹脂の一種であるPDMS製の、多孔性膜を組み込んだマイクロ流体デバイスが報告されている。同文献では、血液中にわずかに含まれる循環癌細胞(Circulating Tumor Cells:CTC)の分離選抜が行われた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biosens. Bioelectron., 2015, Vol.71, p.380-386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に代表されるような、薄膜を用いる分離手法では、一般的に流体抵抗の少ない薄膜が用いられる場合が多い。しかしながら、流れと垂直な方向に膜を設置する必要があるため、膜の破損及びファウリングによる流体抵抗の増加が問題になる。また、液体の漏洩を防ぐために、薄膜をハウジングに適切に統合する複雑な機構が必要となる。さらに、非特許文献1のようなマイクロ流路を用いたシステムにおいては、膜を精密に微細加工し、さらに流路と統合するための複雑なプロセスが必要となる。
【0008】
本開示は、薄膜を利用して、膜の破損を回避しつつ、比較的簡素な機構で細胞の分離が可能となる流路デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1態様に係る流路デバイスは、膜内に形成された複数の膜内空間と、少なくとも片面に設けられるとともに膜内空間と連通する複数の開口と、隣接する複数の膜内空間を膜内で互いに連通する連通孔とを有する多孔膜と、多孔膜の前記複数の開口が設けられている面に接するように配置される流路部材と、流路部材の、複数の開口が設けられている面に接する面に形成される、液体が流入する流入溝と、流路部材の、複数の開口が設けられている面に接する面に形成される、液体が流出する流出溝と、を有する。
【0010】
上記構成によれば、流入溝と流出溝とが、多孔膜の開口及び膜内空間を通じて連通することにより、膜の厚さ方向に沿った液体の流動を回避することができる。
【0011】
本開示の第2態様に係る流路デバイスは、第1態様に係る流路デバイスにおいて、多孔膜が、流路部材と、表面が平滑な平板部材との間に挟まれている。ここで、平板部材の表面が平滑であるとは、多孔膜で分離される対象の細胞が通過又は嵌入し得る孔又は溝が存在しない、との意義を有する。上記構成によれば、多孔膜が流路部材と平板部材との間に挟まれるという簡便な構造の流路デバイスを形成することが可能となる。
【0012】
本開示の第3態様に係る流路デバイスは、第1態様に係る流路デバイスにおいて、複数の開口が、多孔膜の両面に設けられるともに、多孔膜が、少なくとも流入溝が形成される流路部材と、少なくとも流出溝が形成される流路部材との二つの流路部材の間に挟まれている。上記構成によれば、多孔膜が二つの流路部材の間に挟まれるという簡便な構造の流路デバイスを形成することが可能となる。
【0013】
本開示の第4態様に係る流路デバイスは、第2態様又は第3態様に係る流路デバイスにおいて、流入溝と流出溝とは、流路部材において互いに離隔している。上記構成によれば、流入溝と流出溝とが直接流通せず、多孔膜を通してのみ流通するため、開口のサイズに応じて細胞の分離が可能となっている。
【0014】
本開示の第5態様に係る流路デバイスは、第4態様に係る流路デバイスにおいて、流入溝と流出溝とは、それぞれ盲端に終わっている。上記構成によれば、流入路から流入した液体は盲端に至るため、それ以上の液体の流動は多孔膜を介してのみ可能となる。
【0015】
本開示の第6態様に係る流路デバイスは、第1態様から第3態様までのいずれかに係る流路デバイスにおいて、多孔膜の開口率が30%~70%である。また、本開示の第7態様に係る流路デバイスは、第1態様から第3態様までのいずれかに係る流路デバイスにおいて、多孔膜が結露法で製造した多孔膜である。上記構成によれば、流入路と流出路との間の十分な液体流動が可能な多孔膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、薄膜を利用して、膜の破損を回避しつつ、比較的簡素な機構で細胞の分離が可能となる流路デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態の流路デバイスを模式的に示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態の流路デバイスの構成要素を模式的に示す斜視図である。
【
図3】流入溝及び流出溝並びに多孔膜の位置関係を模式的に示す平面図である。
【
図4】流入溝と流出溝との位置関係を模式的に拡大して示す平面図である。
【
図6】第1実施形態の多孔膜を模式的に示す平面図である。
【
図8】
図6におけるB-B断面にて多孔膜の別の例を模式的に示す。
【
図9】第1実施形態の流路デバイスによる細胞分別の概要を模式的に示す。
【
図10】第2実施形態の流路デバイスを模式的に示す断面図である。
【
図11】第3実施形態の流路デバイスを模式的に示す断面図である。
【
図12】第4実施形態の流路デバイスを模式的に示す断面図である。
【
図13】第5実施形態の流路デバイスを模式的に示す断面図である。
【
図14】実施例1の流路デバイスの単位構造を模式的に示す。
【
図15】実施例2の流路デバイスの単位構造を模式的に示す。
【
図16】実施例1の流路デバイスによる白血球の捕捉状況を写真で示す。
【
図17】実施例2の流路デバイスによる白血球の捕捉状況を写真で示す。
【
図18】実施例2の流路デバイスによる赤血球及び白血球の捕捉率をグラフで示す。
【
図19】実施例2の流路デバイスによる赤血球及び白血球の回収率をグラフで示す。
【
図20】実施例2の流路デバイスによる白血球の濃縮倍率をグラフで示す。
【
図21】実施例2の流路デバイスによる分離前(a)及び分離後(b)の細胞のライト染色像を写真で示す。
【
図22】実施例2の流路デバイスにおいて、多孔膜の開口サイズによるMCF-7細胞の捕捉に及ぼす影響をグラフで示す。
【
図23】実施例2の流路デバイスにおいて、多孔膜の開口サイズによるMCF-7細胞の相対濃縮率に及ぼす影響をグラフで示す。
【
図24】実施例2の流路デバイスにおいて、循環癌細胞の細胞種ごとの捕捉率を示すグラフである。
【
図25】実施例2の流路デバイスにおいて、循環癌細胞の細胞種ごとの回収率を示すグラフである。
【
図26】実施例2の流路デバイスで回収されたMCF-7細胞の培養結果を写真で示す。
【
図27】実施例2の流路デバイスにおいて、多孔膜の開口サイズごとに、印加圧力と流量との関係をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は本開示を例示するものであり、本開示の範囲を制限するものではない。また、各構成の説明を容易にするため、図中の各構成の寸法を適宜変更している。このため、図中の縮尺は実際とは異なっている。また、一部の図は各構成を簡略化した模式図としている。さらに、各図において共通して付されている符号は、各図の説明において特段の説明がなくとも、同一の構成を指し示している。なお、本明細書中において、「~」で数値範囲を表すときは、特段の註釈がない限り前後の数値は数値範囲に含まれる。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の流路デバイス10を模式的に示す斜視図である。また、
図2は、第1実施形態の流路デバイス10の構成要素を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、第1実施形態の流路デバイス10は、多孔膜30が、表面が平滑な平板部材40と、流路部材20との間に挟まれた構造を有する。流路部材20の片面には、厚さ方向に貫通する入口26と、この入口26に連通し、多段階に分岐して液体が流入する流入溝22が形成されている。また、流路部材20の片面には、厚さ方向に貫通する出口28と、この出口28に連通し、多段階に分岐して液体が流出する流出溝24も形成されている。平板部材40の表面に薄膜である多孔膜30が載置され、その上から、流入溝22及び流出溝24が多孔膜30に接するようにして、流路部材20が配置されて、
図1に示す流路デバイス10が構成される。平板部材40は、表面が平滑で堅牢な材質、好ましくはガラス板にて形成される。流路部材20は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)のような、疎水性の合成樹脂にて形成される。
【0020】
図3は、流入溝22及び流出溝24並びに多孔膜30の位置関係を模式的に示す平面図である。また、
図4は、流入溝22と流出溝24との位置関係を模式的に拡大して示す平面図である。入口26と連通する流入溝22は多段階に分岐し、その末端分岐は出口28の方向に向かって平行に延伸し、それぞれ盲端22Aに終わる。一方、出口28と連通する流出溝24もまた多段階に分岐し、その末端分岐は入口26の方向に向かって平行に延伸し、それぞれ盲端24Aに終わる。流出溝24の2本の末端分岐は、
図4に示すように、流入溝22の1本の末端分岐をU字状に囲んでいる。すなわち、流出溝24の末端分岐の数は、流入溝22の末端分岐の数の2倍である。また、
図4に示すように、流入溝22と流出溝24とは、流路部材20において互いに離隔し、直接流通していない。
【0021】
図5は、本実施形態の流路デバイス10の、
図4のA-A断面に沿った模式図である。なお、多孔膜30は、流路部材20及び平板部材40の厚さに比して無視できる程度の厚さであるが、
図5ではその多孔膜30の厚さを誇張して示している(後述の
図10~
図13も同様)。
図5に示すように、本実施形態の流路デバイス10では、平板部材40の上に多孔膜30が載置され、その上に、流入溝22及び流出溝24の形成される面を下にした流路部材20が載置されている。なお、平板部材40と流路部材20とは、図示しない接着手段又は固定手段により互いに固着されている。
【0022】
<多孔膜>
図6は、本実施形態の流路デバイス10に用いられる多孔膜30を模式的に示す平面図である。多孔膜30は、一例として疎水性の有機溶媒に溶解可能な疎水性ポリマーから成る。なお、疎水性の有機溶媒は、25℃の水に対する溶解度が10(g/100g水)以下の液体である。
【0023】
疎水性ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル(たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリ-3-ヒドロキシブチレート等)、ポリラクトン(たとえば、ポリカプロラクトン等)、ポリアミド又はポリイミド(たとえば、ナイロン、ポリアミド酸等)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(たとえば、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などのポリマーが挙げられる。また、疎水性の有機溶媒に溶解可能な任意のブロックコポリマーを用いることができる。本発明で用いることができるブロックコポリマーの具体例としては、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、スチレン-イソプレンブロックコポリマー等の芳香族炭化水素-脂肪族炭化水素ブロックコポリマー、スチレン-アクリル酸ブロックコポリマー、スチレン-アクリル酸ナトリウムブロックコポリマー、スチレン-ポリエチレングリコールブロックコポリマー、フルオレン-メタクリル酸メチルブロックコポリマー等の芳香族炭化水素-脂肪族極性化合物ブロックコポリマー、スチレン-ビニルピリジン等の芳香族炭化水素-芳香族極性化合物ブロックコポリマー等が挙げられる。
【0024】
これらのポリマーは、溶剤への溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマー、コポリマー、ポリマーブレンド又はポリマーアロイとしてよい。また、これらのポリマーは、1種単独で又は2種以上を混合して使用してよい。なお、多孔膜30の素材は疎水性ポリマーには限られず、細胞の接着性の観点等から種々の素材を選択することが可能である。
【0025】
図7は、
図6におけるB-B断面を示す模式図である。
図6及び
図7に示すように、多孔膜30には、厚さ方向に貫通する複数の膜内空間32が形成されており、多孔膜30の上面30A及び下面30Bの両面には膜内空間32の開口32Aがそれぞれ設けられている。また、
図6に示すように、開口32Aは平面視で円形である。開口32Aどうしは互いに離間して設けられており、隣り合う開口32Aの間には平坦部34が延在している。なお、開口32Aは円形には限られず、多角形や楕円形であってもよい。隣り合う開口32Aの間が平坦であるため、多孔膜30に、流入溝22及び流出溝24が接するように流路部材20を配置したとき、多孔膜30と、流路部材20において流入溝22及び流出溝24の形成されていない部分とが密着する。これにより、多孔膜30と流路部材20との隙間からの細胞等の漏出が抑制される。
【0026】
複数の開口32Aは、
図6に示すようにハニカム状に配置されている。ここで、ハニカム状の配置とは、任意の開口32A(膜の辺縁にある開口32Aを除く)の周囲に6個の開口32Aが等配され、その6個の開口32Aの中心が正六角形の頂点に位置し、その中心に位置する開口32Aの中心が当該正六角形の中心に相当するような配列をいう。なお、ここでいう「等配」とは、中心角60°で正確に配列されている必要は必ずしもなく、中心に位置する開口32Aに対して周囲の6個の開口32Aがほぼ等しい間隔で配列されていればよい。なお、「開口32Aの中心」とは、開口32Aの平面視における中心を意味する。
【0027】
図7に示すように、多孔膜30の膜内空間32は球体の上端及び下端を切り取った球台形状とされている。なお、ここでいう球体とは、真球であることを要さず、概ね球と認められる程度のゆがみは許容する。また、互いに隣接する膜内空間32どうしは、多孔膜30の内部において連通孔36によって連通した、横連通構造となっている。なお、横連通構造とは、隣接する膜内空間32が多孔膜30の内部で互いに連通する空間構造をいう。ここでいう「横」とは、多孔膜30の厚さ方向を縦とした場合、この縦の方向と直交する面方向をいう。多孔膜30では開口32Aがハニカム状に配列しているため、任意の膜内空間32は、その周囲に等配されている6個の膜内空間32の全てと連通している。
【0028】
なお、膜内空間32はバレル形状や円柱形状、又は多角柱形状等とされていてもよく、また、連通孔36は隣接する膜内空間32どうしを繋ぐ筒状の空隙とされていてもよい。
【0029】
また、
図8に示す別の例のように、多孔膜30の開口32Aは片面、たとえば多孔膜30の上面30Aにのみ(又は下面30Bにのみ)設けられることとしてもよい。
【0030】
たとえば、
図8に示す例の多孔膜30を用いる場合、開口32Aが形成されていない下面30Bを平板部材40と接するように多孔膜30を載置する。そして、流入溝22及び流出溝24の設けられている面を、多孔膜30の複数の開口32Aが設けられている面(すなわち上面30A)に接するように、流路部材20が平板部材40の上に載置されることで、
図1に示す流路デバイス10が構成される。なお、
図7に示す多孔膜30も同様に用いることもできるが、下面30Bの開口32Aからの液体の漏出の可能性を考慮すると、平板部材40を用いる場合は
図8に示すような、上面30Aにのみ複数の開口32Aが設けられる多孔膜30を用いることが望ましい。
【0031】
多孔膜30の開口率は、好ましくは30%~70%であり、より好ましくは40%~60%である。開口率を30%以上に設定すると、開口32Aより小さなサイズの小細胞が開口32Aを速やかに通過できる。開口率を70%以下に設定すると、多孔膜30に必要な強度が達成できる。ここで、「開口率」とは、多孔膜30の面積(開口32Aの面積と平坦部34の面積の合計)に対する開口32Aの面積の占める割合である。
【0032】
多孔膜30の空隙率は、好ましくは50%以上である。空隙率を50%以上に設定すると、小細胞が多孔膜30内を速やかに移動できる。空隙率が大きすぎると、多孔膜30の強度が不十分になる恐れがあるため、空隙率は95%以下が好ましい。ここで、「空隙率」とは、膜内空間32が存在しないと仮定したときの多孔膜30の体積に対する、膜内空間32の占める割合である。
【0033】
多孔膜30を製造する方法の例として、ナノプリント法、結露法、エッチング法、サンドブラスト工程、又はプレス成形工程が挙げられる。結露法とは、多孔膜30を構成する材料の表面に凝結を誘導し、水滴をモールドにして厚さ方向に貫通する膜内空間32を形成する方法である。他の方法と比べて結露法は、多孔膜30の空隙率及び開口率を増加させることができるので好ましい。結露法については、たとえば、特許第4945281号公報、特許第5422230号公報、特許第5405374号公報、及び特開2011-74140号公報に詳細に記載されている。
【0034】
<流路デバイスの機能>
図1に示すように構成された流路デバイス10は以下のように使用される。まず、入口26から、異なる径の粒子(たとえば、血球又は細胞)が含まれる液体(たとえば、希釈された血液又は細胞培養液)が注入されると、液体は流入溝22を分岐しつつ出口28の方向へ流動する。そして、液体は多孔膜30の開口32Aから膜内空間32に浸入し、面方向へ浸透しながら、別の位置の開口32Aから流出溝24に至る。液体は今度は流出溝24を合流しつつ出口28から外部へ排出される。すなわち、流入溝22と流出溝24とは、互いに直接連絡せず、多孔膜30の膜内空間32を介してのみ連絡している。
【0035】
図9は、第1実施形態の流路デバイス10による細胞分別の概要を模式的に示す。ここで、入口26から注入される液体に、開口32Aより大きなサイズの大細胞50(たとえば、白血球)と、開口32Aより小さなサイズの小細胞52(たとえば、赤血球)とが含まれている場合を考える。この場合、大細胞50は開口32Aを通過することができないか、又は通過しにくいので、その全部又は大部分は流入溝22に留まる。一方、小細胞52は開口を通過し、液体とともに別の位置の開口32Aから流出溝24に移動し、出口28から排出される。
【0036】
[第2実施形態]
第2実施形態の流路デバイス10は、
図10に示すように、多孔膜30が、流入溝22が形成される流路部材20と、流出溝24が形成されている流路部材20との二つの流路部材20の間に挟まれた構造を有している。この実施形態では、
図7に示すような、両面に開口32Aが設けられた多孔膜30が用いられる。また、流入溝22と流出溝24とは、第1実施形態と同様に、
図3及び
図4に示すように平面視で重なり合わない位置に形成される。この場合、入口26と出口28とは別個の流路デバイス10に設けられるが、多孔膜30による大細胞50と小細胞52との分別は第1実施形態と同様に実施可能である。
【0037】
[第3実施形態]
第3実施形態の流路デバイス10は、
図11に示すように、多孔膜30が、流入溝22が形成される流路部材20と、流入溝22及び流出溝24が形成されている流路部材20との二つの流路部材20の間に挟まれた構造を有している。この実施形態では、
図7に示すような、両面に開口32Aが設けられた多孔膜30が用いられる。また、流入溝22と流出溝24とは、第1実施形態と同様に、
図3及び
図4に示すように平面視で重なり合わない位置に形成される。この場合、2つの入口26から液体が流路デバイス10に注入されることになるが、多孔膜30による大細胞50と小細胞52との分別は第1実施形態と同様に実施可能である。
【0038】
[第4実施形態]
第4実施形態の流路デバイス10は、
図12に示すように、多孔膜30が、流入溝22及び流出溝24が形成される流路部材20と、流出溝24が形成されている流路部材20との二つの流路部材20の間に挟まれた構造を有している。この実施形態では、
図7に示すような、両面に開口32Aが設けられた多孔膜30が用いられる。また、流入溝22と流出溝24とは、第1実施形態と同様に、
図3及び
図4に示すように平面視で重なり合わない位置に形成される。この場合、2つの出口28から液体が流路デバイス10から排出されることになるが、多孔膜30による大細胞50と小細胞52との分別は第1実施形態と同様に実施可能である。
【0039】
[第5実施形態]
第5実施形態の流路デバイス10は、
図13に示すように、多孔膜30が、流入溝22及び流出溝24が形成される二つの流路部材20の間に挟まれた構造を有している。この実施形態では、
図7に示すような、両面に開口32Aが設けられた多孔膜30が用いられる。また、流入溝22と流出溝24とは、第1実施形態と同様に、
図3及び
図4に示すように平面視で重なり合わない位置に形成される。この場合、2つの入口26から液体が流路デバイス10に注入され、2つの出口から液体が流路デバイス10から排出されることになるが、多孔膜30による大細胞50と小細胞52との分別は第1実施形態と同様に実施可能である。
【0040】
なお、上述の各実施形態においては、流路部材20の片面には、前記した流入溝22及び流出溝24のうちのいずれか(第2実施形態、第3実施形態(上側の流路部材20)及び第4実施形態(下側の流路部材20))又は両方(第1実施形態、第3実施形態(下側の流路部材20)、第4実施形態(上側の流路部材)及び第5実施形態)が設けられているが、これ以外にも、別の流入溝22若しくは流出溝24、又は別の機能を有する溝が、流路部材20の同じ片面に設けられていてもよい。
【実施例0041】
(1)流路の構造比較
以下に示す実施例1及び実施例2の二通りの流路デバイス10を用いて、細胞の分離性能を比較した。分離した細胞は、白血球及び赤血球(白血球が大細胞50に、赤血球が小細胞52にそれぞれ相当する)である。赤血球の多くが流路デバイスから排出される一方、白血球の多くは流路デバイスに留まることで、白血球の相対濃度上昇が期待された。
【0042】
(1-1)流路デバイス
実施例1及び実施例2ともに、前記した第1実施形態に示す基本構造の流路デバイス10を用いた。実施例1の流路デバイス10では、
図14に模式的に示すように、流入溝22の末端分岐の幅を0.2mmとして、流出溝24の末端分岐の幅を0.1mmとした。そして、流路部材20には
図14に示す構造を16組設けた。一方、実施例2の流路デバイス10では、
図15に模式的に示すように、流入溝22及び流出溝24の末端武器の幅はいずれも0.1mmとした。そして、流路部材20には
図15に示す構造を32組設けた。
【0043】
実施例1及び実施例2ともに、
図8に示すような、片面にのみ開口32Aがある厚さ1.7μmのポリカーボネート製の多孔膜30を用い、開口32Aの直径は2μmとした。多孔膜30の開口率は46%で、空隙率は69%であった。ただし、多孔膜30のサイズは実施例1では9×16mmとし、実施例2では10×21mmとした。これにより、実施例1では流入溝22の盲端22A及び流出溝24の盲端24Aがそれぞれ
図14に示すように多孔膜30からはみ出ていたのに対し、実施例2では
図15に示すようにいずれも多孔膜30の範囲内に収まっていた。なお、多孔膜30は、結露法で製造した。
【0044】
(1-2)白血球の分離及び回収並びに解析
流路デバイス10に流す液体として、希釈したヒト血液を用いて、実施例1及び実施例2の流路デバイス10によるヒト血液からの白血球の分離及び回収を試みた。健常人から採取したヒト血液は、下記の緩衝液で50倍に希釈して用いた。緩衝液としては、0.02%(w/v)のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)、0.1%(w/v)のウシ血清アルブミン(BSA)及び2.5%(v/v)のThrough Path Plus 40×(マイクロ流路内細胞目詰まり防止用試薬:オンチップ・バイオテクノロジーズ)を添加したリン酸緩衝食塩水(PBS)を使用した。
【0045】
上記のとおり調製した希釈ヒト血液1mLを、100μL/minの流速で流路デバイス10の入口26から注入した。その後、上記の緩衝液3mLを、100μL/minの流速で流路デバイス10の出口28から注入して多孔膜30を洗浄した。そして、多孔膜30のうち流入溝22及び流出溝24と接触していた範囲を切り取って回収した。回収した多孔膜30をマイクロチューブに入れて、上記の緩衝液1mLを注入し、10~20回ほどピペッティングを行い細胞を分離させ、細胞数をカウントした。一方、洗浄後の多孔膜30を、Hoechst 33342(ナカライテスク)で染色して顕微鏡下で観察した。
【0046】
結果の解析は以下のとおりとした。まず、注入前の希釈ヒト血液の総赤血球数及び総白血球数を、血球計算盤を用いて計測された赤血球数及び白血球数(1mm3当たりの個数)に、注入する希釈ヒト血液量(mm3)を乗じて算出した。そして、出口28から回収した液体から同様に赤血球数及び白血球数を計測して、回収した液体の液量(mm3)を乗じて、流出赤血球数及び流出白血球数を算出した。そして、総赤血球数及び総白血球数から、それぞれ流出赤血球数及び流出白血球数を減じて、捕捉赤血球数及び捕捉白血球数を算出し、さらにそれぞれ総赤血球数及び総白血球数に対する割合(%)を捕捉率として算出した。加えて、ピペッティングで回収された液体から同様に赤血球数及び白血球数を計測して、回収された液体の液量(mm3)を乗じて、回収赤血球数及び回収白血球数を算出し、さらにそれぞれ総赤血球数及び総白血球数に対する割合(%)を回収率として算出した。さらに、白血球の相対濃度上昇率を、下記式(1)に従い算出した。
【0047】
相対濃度上昇率=(回収白血球数/回収赤血球数)/(総白血球数/総赤血球数)・・・(1)
【0048】
(1-3)結果
実施例1及び実施例2の流路デバイス10による白血球の捕捉状況を、それぞれ
図16及び
図17の写真に示す。いずれの写真においても、白く抜けて見える部分が白血球である。
図16(A)に示すように、実施例1の流路デバイス10では、多くの白血球は流入溝22のあった位置に捕捉されているもの、流入溝22の辺縁に集中し、中央部分で捕捉されている白血球は少なかった。また、
図16(B)に示すように、多孔膜30と流路部材20との隙間から漏出した白血球も観察された。一方、
図17(A)に示すように、実施例2の流路デバイス10では、流入溝22のあった位置に万遍なく白血球が捕捉されており、この状況は
図17(B)の拡大写真でより明瞭に認められた。また、実施例2の流路デバイス10では、多孔膜30と流路部材20との隙間からの白血球の漏出も改善されていたことが認められる。
【0049】
実施例1及び実施例2のそれぞれについて、算出した上述の白血球の捕捉率、回収率及び相対濃度上昇率を、下記表1に示す。なお、実施例1は4回の実験の平均値であり、実施例2は3回の実験の平均値である。
【0050】
【0051】
上記の結果から、実施例1及び実施例2で捕捉率はさほど変化はないものの、実施例2では回収率が上昇し、それに伴い相対濃度上昇率も約1.8倍の上昇を見たため、実施例2の流路デバイス10の方が優れていると結論された。
【0052】
(2)白血球の分離及び回収並びに解析
次に、実施例2の流路デバイス10を用いて、白血球の分離及び回収に対する流速の影響を検証した。なお、希釈ヒト血液の調製は前記(1-2)と同様に行った。また、白血球の分離及び回収並びに結果の解析については、希釈ヒト血液の注入の際の流速を50μL/min、100μL/min及び200μL/minとした以外は、前記(1-2)と同様に行った。
【0053】
その結果、赤血球及び白血球の捕捉率は
図18のグラフに、赤血球及び白血球の回収率は
図19のグラフに、白血球の濃縮倍率は
図20のグラフに、それぞれ示すとおりとなった。なお、いずれも4回の実験の平均値を棒グラフで示し、標準偏差をエラーバーで示している。
【0054】
まず、
図18に示すように、流速50μL/minの場合、白血球の捕捉率は約95%と高かったのに対し、赤血球の捕捉率も約30%であり、赤血球と白血球との分離が不完全であることが伺えた。それに対し、流速100μL/min及び200μL/minの場合、赤血球の捕捉率がいずれも10%を下回り分離が改善したことが伺える。しかし、流速200μL/minの場合は回収率が80%を下回るのに対し、流速100μL/minの場合は回収率が約95%であった。
【0055】
次に、
図19に示すように、白血球の回収率は流速50μL/minの場合が約70%と最も高かったものの、赤血球も10%近く回収されていた。これに対し、流速100μL/minの場合は、白血球の回収率は若干低下したものの、赤血球の回収率はほぼゼロであったことで、赤血球と白血球球との分離が良好であったことがここからも伺える。なお、流速200μL/minの場合は、赤血球の回収率はほぼゼロであったものの、白血球の回収率が約30%と低かったため、流速100μL/minの場合に比べ劣る結果と結論された。
【0056】
なお、回収された赤血球数に対する白血球の割合である濃縮倍率を表す
図20からも、流速100μL/minの場合が最も良好な結果で、赤血球と白血球との分離が最も良好に行われていたことが分かった。
【0057】
さらに、実施例2の流路デバイスによる分離前(a)及び分離後(b)の細胞のライト染色像の写真からも分かるように、分離前に比べ分離後は赤血球が著しく減少していた。
【0058】
(3)CTCの分離及び回収
次に、実施例2の流路デバイス10を用いて、血中のCTCの分離及び回収に対する開口32Aの径の影響を検証した。分離した細胞は、CTCと白血球(CTCが大細胞50に、白血球が小細胞52にそれぞれ相当する)である。白血球の多くが流路デバイスから排出される一方、CTCの多くは流路デバイスに留まることで、CTCの相対濃度上昇が期待された。
【0059】
流路デバイス10に流す液体として、前記の緩衝液で20倍に希釈したヒト血液に、CTCとして、MCF-7細胞(ヒト乳癌細胞)、A549細胞(ヒト肺癌細胞)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌細胞)又はHepG2細胞(ヒト肝癌細胞)のいずれかを、1mL当たり300個の割合で浮遊させたものを調製した。流路デバイス10に用いる多孔膜30は、片面にのみ開口32Aがあるポリ乳酸製であり、開口32Aのサイズは8μm(厚さ6μm)、12μm(厚さ10μm)及び15μm(厚さ12μm)の三通りとした。多孔膜30の開口率は、それぞれ、58%、58%及び63%、空隙率は、それぞれ、80%、85%及び89%であった。なお、多孔膜30は、結露法で製造した。
【0060】
そして、上記のとおり調製した希釈ヒト血液1mLを、500μL/minの流速で流路デバイス10の入口26から注入した。その後、上記の緩衝液3mLを、500μL/minの流速で流路デバイス10の出口28から注入して多孔膜30を洗浄した。細胞の回収については、前記(1-2)で述べたとおりに行った。
【0061】
結果の解析は以下のとおりとした。まず、総白血球数並びに白血球の捕捉率及び回収率については、前記(1-2)で述べたとおりに行った。CTCについては、流入溝22に残るCTCをVybrant DiI(Thermo Fisher Scientific)で赤色に染色し、これを流入溝22全体について蛍光顕微鏡で観察して、細胞数を実測した。これを導入細胞数で除することで、捕捉率を算出した。
【0062】
その結果、白血球及びCTC(MCF-7細胞)の捕捉率は、
図22に示すとおりであった。なお、いずれも4回又は5回の実験の平均値を棒グラフで示し、標準偏差をエラーバーで示している。この
図20に示すとおり、開口32Aの径が最も小さい8μmでは、白血球が70%以上捕捉され、CTCがほぼ100%捕捉されていた。そして、開口32Aが12μmの場合は、CTCの捕捉率が約95と若干低下したものの、白血球の捕捉率が約5%と著しい低下を示した。なお、開口32Aが15μmの場合は、CTCの捕捉率が40%を下回った。この結果、開口32Aが12μmの場合が、高いCTCの捕捉率で白血球との分離が良好に行われたことが分かった。
【0063】
また、捕捉率に基づくCTC(MCF-7細胞)の白血球に対する相対濃縮率を示す
図23に示すグラフからも、開口32Aが12μmの場合が、CTCの白血球に対する相対濃縮率が最も優れていたことが示されている。
【0064】
さらに、開口32Aが12μmの場合に、CTCとして、MCF-7細胞の他、A549細胞、HepG2細胞及びHeLa細胞を用いた場合の捕捉率及び回収率の結果を、それぞれ
図24及び
図25に示す。なお、いずれも4回又は5回の実験(HeLa細胞については8回の実験)の平均値を棒グラフで示し、標準偏差をエラーバーで示している。これらの図から、MCF-7細胞以外のCTCも同様に高い捕捉率及び回収率で、白血球に対し分離できることが可能であることが分かった。
【0065】
なお、回収されたMCF-7細胞の培養結果を撮影した
図27に示すように、細胞は生きた状態で回収することが可能であり、回収後も分離前と同様に培養することが可能であることが分かった。これにより、本開示の流路デバイス10を用いて血液から分離回収されたCTCは生物活性を保持しており、診断医療、再生医療及び基礎生物学等において十分に利用可能であることが推察された。
【0066】
ここで、実施例2の流路デバイスにおいて、多孔膜30の開口32Aのサイズを、2、5、8、12及び12μmとした場合のそれぞれについて、液体注入時の印加圧力(kPa)と流速(μL/min)との関係を計測した結果を、
図27に示す。これによると、開口32Aのサイズが大きくなるほど、流速が増加する傾向が見られた。しかし、流速の差は10%程度と余り大きくないため、実質的な影響はさほど大きくないことが推察された。
【0067】
以上より、開口32Aのサイズは、分離回収の対象となる細胞のサイズに応じて選択することが重要であり、それに伴う流速の増減はさほど考慮しなくても問題ないことが推察された。