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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072503
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】耐摩耗剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 133/44 20060101AFI20240521BHJP
   C10M 133/48 20060101ALI20240521BHJP
   C10M 137/08 20060101ALI20240521BHJP
   C10M 105/58 20060101ALI20240521BHJP
   C10M 105/72 20060101ALI20240521BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240521BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240521BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
C10M133/44
C10M133/48
C10M137/08
C10M105/58
C10M105/72
C10N30:06
C10N30:12
C10N40:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183350
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】阿賀野 静
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BE29A
4H104BE29C
4H104BE31A
4H104BE31C
4H104BH05C
4H104LA03
4H104LA06
4H104PA49
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性、及び防錆性の維持に優れる耐摩耗剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含有する、耐摩耗剤である。

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。RB1は、炭素数1~9のアルキル基を示す。RB2は、炭素数1~9のアルキル基を示す。RB3は、炭素数1~9のアルキル基を示す。RB4は、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を示す。Rは、炭素数1~3のアルキル基を示す。Yは、メチレン基又は酸素原子を示す。n1は、1又は2である。n1が1である場合、mは0~8の整数である。n1が2である場合、mは0~10の整数である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含有する、耐摩耗剤。
【化1】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
B1は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B2は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B3は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B4は、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を示す。
Rは、炭素数1~3のアルキル基を示す。
Yは、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1は、1又は2である。
n1が1である場合、mは0~8の整数である。n1が2である場合、mは0~10の整数である。]
【請求項2】
B1のアルキル基の炭素数と、RB2のアルキル基の炭素数との合計が、6以下である、請求項1に記載の耐摩耗剤。
【請求項3】
イオン液体とともに用いられる、請求項1又は2に記載の耐摩耗剤。
【請求項4】
前記イオン液体が、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含む、請求項3に記載の耐摩耗剤。
【化2】

[前記一般式(A1)中、各符号は以下を示す。
n2は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A11及びRA12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、及びシリル基から選択される1種以上の基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示す。]
【請求項5】
前記イオン液体が、下記一般式(A2)で表される化合物、及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、請求項3又は4に記載の耐摩耗剤。
【化3】

[前記一般式(A2)中、各符号は以下を示す。
n3は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【化4】

[前記一般式(A3)中、各符号は以下を示す。
n4は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示す。
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばピロリジニウム型のイオン液体は、一般的に宇宙用潤滑剤の基材として用いられるMAC油(トリス(2-オクチルドデシル)シクロペンタン等のシクロペンタン油)と比較して、低粘度でありながらも優れた低揮発性と熱安定性とを併せ持つ基材として知られている。そこで、低揮発性及び熱安定性の特徴を生かし、イオン液体は、長寿命の潤滑剤の基材として使用されることが特に望まれている。そして、潤滑剤に長い期間使用されるためには、耐摩耗性や防錆性に優れる必要がある。
しかしながら、イオン液体は、一般的に用いられる基材である鉱物油や合成油等と性質が大きく異なるため、使用できる添加剤の種類が限定されている。したがって、イオン液体を基材とする潤滑剤組成物では、配合される添加剤も複数の特性を有することが望ましい。
ここで、イオン液体に配合される添加剤として、陽イオンがイミダゾリウム構造を有する、イミダゾリウム型ホスフェート化合物が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-174050号公報
【特許文献2】特開2014-98053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、イミダゾリウム型ホスフェート化合物は、耐摩耗性に優れるものの、金属腐食性が高く、防錆性が著しく劣るというという問題があることが分かった。
また、特許文献1、特許文献2では、イミダゾリウム型ホスフェート化合物を含む潤滑剤組成物に対し、耐摩耗性、防錆性に対する評価が行われている。しかしながら、試験直後の錆の発生の有無のみを評価しており、長時間放置した後の防錆性については言及されていない。
一般に、錆は金属が長期間放置された後に金属の表面に発生するため、防錆性は効果が長時間維持されることが重要である。したがって、防錆性の評価は、試験直後だけでは不十分である。
【0005】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性、及び防錆性の維持に優れる耐摩耗剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討により、特定の耐摩耗剤が、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、下記[1]を提供する。
[1] 下記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含有する、耐摩耗剤。
【化1】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
B1は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B2は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B3は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B4は、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を示す。
Rは、炭素数1~3のアルキル基を示す。
Yは、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1は、1又は2である。
n1が1である場合、mは0~8の整数である。n1が2である場合、mは0~10の整数である。]
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐摩耗性、及び防錆性の維持に優れる耐摩耗剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載された数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0010】
[耐摩耗剤]
本実施形態の耐摩耗剤は、下記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含有する、耐摩耗剤である。
【化2】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
B1は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B2は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B3は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B4は、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を示す。
Rは、炭素数1~3のアルキル基を示す。
Yは、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1は、1又は2である。
n1が1である場合、mは0~8の整数である。n1が2である場合、mは0~10の整数である。]
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。
その結果、陽イオン部分がイオン液体と類似構造である、ピロリジニウム型ホスフェート化合物を含む耐摩耗剤とすることにより、長期間経過後の防錆性の低下を抑制することができることを見出した。また、陰イオン部分であるリン酸のアルキル基の炭素鎖長を最適化することにより、耐摩耗性に優れることを見出した。
これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
前記一般式(B1)中のRB1は、炭素数1~9のアルキル基を示し、炭素数1~8が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~4が更に好ましい。また、当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
B1が炭素数1~9のアルキル基であると、耐摩耗性、防錆性、及び熱安定性が良好となる。
【0013】
前記一般式(B1)中のRB2は、炭素数1~9のアルキル基を示し、炭素数1~8が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~4が更に好ましい。また、当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
B2が炭素数1~9のアルキル基であると、防錆性、熱安定性、及びイオン液体に対する溶解性が良好となる。また、RB2は、RB1と同一のアルキル基であってもよい。
前記一般式(B1)中のRB3は、炭素数1~9のアルキル基を示し、炭素数1~8が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~4が更に好ましい。また、当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
B3が炭素数1~9のアルキル基であると、防錆性、熱安定性、耐摩耗性、及びイオン液体に対する溶解性が良好となる。
B3のアルキル基の炭素数が10以上であると、耐摩耗性、及びイオン液体に対する溶解性が不十分となる。
前記一般式(B1)中のRB4は、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を示し、炭素数1~8が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~4が更に好ましい。RB4が水素原子又は炭素数1~9のアルキル基であると、耐摩耗性、及び熱安定性が良好となる。また、当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
B4のアルキル基の炭素数が10以上であると、耐摩耗性、及び熱安定性が不十分となる。
【0014】
前記一般式(B1)中のRB2、RB3、及びRB4は、同一のアルキル基であってもよいし、異なるアルキル基であってもよいが、合成の観点から、同一のアルキル基であることが好ましい。
【0015】
前記一般式(B1)中のRは、炭素数1~3のアルキル基を示し、炭素数1が好ましい。また、当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
前記一般式(B1)中のYは、メチレン基又は酸素原子を示し、メチレン基が好ましい。
【0016】
前記一般式(B1)中のn1は、1又は2であり、好ましくは1である。
前記一般式(B1)中のn1が1である場合、mは0~8の整数であり、好ましくは0である。n1が2である場合、mは0~10の整数であり、好ましくは0である。
【0017】
前記一般式(B1)において、RB1のアルキル基の炭素数と、RB2のアルキル基の炭素数との合計は、特に限定されないが、好ましくは6以下である。
B1のアルキル基の炭素数とRB2のアルキル基の炭素数との合計が6以下であると、耐摩耗性を向上させやすく、熱安定性にも優れる。
【0018】
前記一般式(B1)で表される化合物は、陽イオンと陰イオンを含む塩構造である。このことから、イオン液体への溶解性、及び低揮発性にも優れる。
【0019】
本実施形態の耐摩耗剤は、耐摩耗性だけでなく、防錆性の維持にも優れる。
本実施形態の耐摩耗剤において、錆とは「イオン液体と接触した金属において、腐食現象が進んだことの結果として発生した、生成物」を意味する。
本発明者らが検討を重ねたところ、金属表面におけるイオン液体と接触した部分(イオン液体と金属との境界面)に、錆が発生する傾向があることがわかった。
これは、イオン液体が陽イオン及び陰イオンを含むことから、イオン液体のイオン伝導性により、錆の発生が加速されているものと推察される。
そこで、本発明者らは、陽イオン部分がイオン液体と類似構造である、ピロリジニウム型ホスフェート化合物を含む耐摩耗剤とすることにより、長期間経過後の防錆性の低下が抑制されるものと推察している。
【0020】
本実施形態の耐摩耗剤は、錆の発生を抑制する防錆性を長時間維持することができる。
本実施形態の耐摩耗剤における防錆性は、「錆が発生しない」ことが望ましい状態と評価する。
【0021】
前記一般式(B1)で表される化合物は、例えば、アルキルピロリジンとトリアルキルホスフェートとをイオン化させることにより、前記一般式(B1)で表される化合物を合成して得ることができる。
なお、前記一般式(B1)中のRB2、RB3、及びRB4が同一のアルキル基である場合、当該アルキル基が陰イオンであるホスフェート内のトリエステルから転位することで、陽イオンであるピロリジニウムのアルキル基を生成することができるため、合成しやすい。
【0022】
本実施形態の耐摩耗剤は、前記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上のみからなるものであってもよいが、当該化合物以外の他の成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
本実施形態の耐摩耗剤中における前記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上の含有量としては、耐摩耗剤の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%、より一層好ましくは98質量%~100質量%である。
【0023】
(イオン液体)
本実施形態の耐摩耗剤は、イオン液体とともに用いられることが好ましい。
耐摩耗剤をイオン液体とともに用いることにより、例えば、イオン液体を基材とする潤滑剤組成物に用いることができる。
イオン液体は、陽イオン及び陰イオンから構成される液体状の化合物であって、金属分を含まない化合物を、種々採用することができる。
なお、前記一般式(B1)で表される化合物は、イオン液体に含まれない。
【0024】
イオン液体の陰イオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含むことが好ましい。
【0025】
イオン液体の陽イオンとしては、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含むことが好ましい。
【化3】

[前記一般式(A1)中、各符号は以下を示す。
n2は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A11及びRA12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、及びシリル基から選択される1種以上の基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示す。]
【0026】
上記一般式(A1)中のRA11及びRA12のアルキル基の炭素数は、イオン液体の低粘度化や熱安定性の向上の観点から、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
A11としては、メチル基が好ましい。また、RA12としては、n-ブチル基、メトキシエチル基が好ましい。
【0027】
上記一般式(A1)で表される陽イオンとしては、例えば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-ペンチル-1-メチルピロリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウム、1-ヘプチル-1メチルピロリジニウム、1-オクチル-1メチルピロリジニウム、1-ノニル-1-メチルピロリジニウム、1-デシル-1-メチルピロリジニウム、1-ウンデシル-1-メチルピロリジニウム、1-ドデシル-1-メチルピロリジニウム、1-メトキシメチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-シアノメチル-1-メチルピロリジニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-ペンチル-1-メチルピペリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピペリジニウム、1-ヘプチル-1-メチルピペリジニウム、1-オクチル-1-メチルピペリジニウム、1-ノニル-1-メチルピペリジニウム、1-デシル-1-メチルピペリジニウム、1-ウンデシル-1-メチルピペリジニウム、1-ドデシル-1-メチルピペリジニウム、1-メトキシメチル-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-シアノメチル-1-メチルピペリジニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルモルホリニウム、1-ペンチル-1-メチルモルホリニウム、1-ヘキシル-1-メチルモルホリニウム、1-ヘプチル-1-メチルモルホリニウム、1-オクチル-1-メチルモルホリニウム、1-ノニル-1-メチルモルホリニウム、1-デシル-1-メチルモルホリニウム、1-ウンデシル-1-メチルモルホリニウム、1-ドデシル-1-メチルモルホリニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルモルホリニウム、1-メトキシメチル-1-メチルモルホリニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルモルホリニウム、1-シアノメチル-1-メチルモルホリニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルモルホリニウム等が挙げられる。
これらの中でも、イオン液体の低粘度化や熱安定性を向上させる観点から、好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-ペンチル-1メチルピロリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルモルホリニウム、より好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、更に好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウムである。
【0028】
イオン液体としては、下記一般式(A2)で表される化合物、及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0029】
【化4】

[前記一般式(A2)中、各符号は以下を示す。
n3は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【0030】
【化5】

[前記一般式(A3)中、各符号は以下を示す。
n4は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示す。
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【0031】
前記一般式(A2)中、RA21の炭素数は、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。RA21の炭素数が2以上であると、側鎖が自由に可動することができ、また対称性が低くなるため、結晶化を抑制し、イオン液体としての機能を向上させることができる。RA21の炭素数が12以下であると、側鎖が大きくなりすぎず、化合物全体としてのイオン性が高いため、酸化劣化を抑制しやすい。
【0032】
前記一般式(A3)中、RA31の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。また、RA32の炭素数は、好ましくは1~2である。RA31の炭素数が1以上であると、側鎖が自由に可動することができ、また対称性が低くなるため、結晶化を抑制し、イオン液体としての機能を向上させることができる。RA31の炭素数が5以下である、又はRA32の炭素数が3以下であると、側鎖が大きくなりすぎず、化合物全体としてのイオン性が高いため、酸化劣化を抑制しやすい。
【0033】
イオン液体中の一般式(A2)で表される化合物の含有量としては、イオン液体の全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
また、イオン液体中の一般式(A3)で表される化合物の含有量としては、イオン液体の全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
なお、イオン液体としては、上記一般式(A2)で表される化合物から選択される1種以上を用いてもよく、上記一般式(A3)で表される化合物から選択される1種以上を用いてもよく、上記一般式(A2)で表される化合物から選択される1種以上と上記一般式(A3)で表される化合物から選択される1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0034】
前記潤滑剤組成物において、イオン液体の含有量は、特に限定されないが、本発明の効果の向上の観点等から、潤滑剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
なお、イオン液体の含有量の上限値は、イオン液体以外の成分の添加量に応じて適宜設定され、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは98.5質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは90質量%~100質量%、更になお好ましくは95質量%~100質量%である。
【0035】
前記潤滑剤組成物において、基材として上述したイオン液体以外の基材成分(例えば、酢酸エチルなどのイオン液体には該当しない基材成分)を含んでもよい。本発明の効果の向上の観点等から、上述したイオン液体の含有量は、基材の全量基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0036】
上記一般式(B1)で表される化合物の含有量Bと、イオン液体の含有量Aとの比(B/A)としては、質量比で、好ましくは0.0005以上0.15以下、より好ましくは0.001以上0.111以下、更に好ましくは0.003以上0.08以下である。(B/A)が0.0005以上であると、防錆性を十分なものとしやすい。(B/A)が0.15以下であると、上記一般式(B1)で表される化合物のイオン液体に対する溶解性を十分なものとしやすい。
【0037】
前記潤滑剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、本実施形態の耐摩耗剤以外のその他の成分を含有してもよい。
前記その他の成分としては、例えば、前記一般式(B1)で表される化合物の合成過程で生じた副生成物、前記一般式(B1)で表される化合物の合成過程において残存する未反応原料、希釈剤等が挙げられる。また、本実施形態の耐摩耗剤以外のその他の成分として、粘度指数向上剤などの添加剤や、増ちょう剤等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
<耐摩耗性>
前記一般式(B1)で表される化合物の耐摩耗性としては、実施例に記載の方法により評価した場合、摩耗幅が、好ましくは250μm以下、より好ましくは230μm以下、更に好ましくは200μm以下である。
【0039】
<防錆性の維持>
前記一般式(B1)で表される化合物の防錆性としては、後述する実施例に記載の方法により評価した場合、表面に赤褐色又は黒色状の変色(錆)が認められないことが好ましい。
【0040】
[耐摩耗剤の用途]
本実施形態の耐摩耗剤は、耐摩耗性だけでなく、防錆性の維持にも優れる。そのため、高い防錆性が要求される、潤滑剤組成物に配合することができる。
前記潤滑剤組成物としては、例えば、宇宙空間で用いる装置に搭載される機器、半導体、液晶や有機ELのフラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル等の製造装置等を潤滑する潤滑剤組成物が挙げられるが、他の用途にも適用し得る。
【0041】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[5]が提供される。
[1] 下記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含有する、耐摩耗剤。
【化6】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
B1は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B2は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B3は、炭素数1~9のアルキル基を示す。
B4は、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を示す。
Rは、炭素数1~3のアルキル基を示す。
Yは、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1は、1又は2である。
n1が1である場合、mは0~8の整数である。n1が2である場合、mは0~10の整数である。]
[2] RB1のアルキル基の炭素数と、RB2のアルキル基の炭素数との合計が、6以下である、前記[1]に記載の耐摩耗剤。
[3] イオン液体とともに用いられる、前記[1]又は[2]に記載の耐摩耗剤。
[4] 前記イオン液体が、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含む、前記[3]に記載の耐摩耗剤。
【化7】

[前記一般式(A1)中、各符号は以下を示す。
n2は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A11及びRA12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、及びシリル基から選択される1種以上の基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示す。]
[5] 前記イオン液体が、下記一般式(A2)で表される化合物、及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、前記[3]又は[4]に記載の耐摩耗剤。
【化8】

[前記一般式(A2)中、各符号は以下を示す。
n3は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【化9】

[前記一般式(A3)中、各符号は以下を示す。
n4は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示す。
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【実施例0042】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[製造例1~4、比較製造例1~2、比較化合物1、2、及び5]
製造例1~4、比較製造例1~2に示す方法により、化合物1~4、比較化合物3~4を合成した。また、比較化合物1、2、及び5を準備した。
【0044】
<製造例1:化合物1の合成>
まず、N-メチルピロリジン10g(117mmol)とトリエチルホスフェート13g(71mmol)とを窒素雰囲気下のシュレンク管に加え、80℃で40時間加熱した。次に、得られた生成物を、酢酸エチル20mLを用いて4回洗浄した。減圧乾燥により、得られたイオン液体層から含まれる酢酸エチルを除去し、化合物1を3.7g(14mmol)得た。生成物の確認は、H-NMR(DMSO溶媒)にて行った。
【0045】
化合物1の構造式を以下に示す。
【化10】

化合物1は、前記一般式(B1)中の各符号が以下を示す化合物である。
B1は、炭素数1のメチル基である。
B2、RB3、及びRB4は、炭素数2のエチル基である。
Yは、メチレン基である。
nは、1である。
mは、0である。
【0046】
<製造例2:化合物2の合成>
まず、N-メチルピロリジニウム10g(117mmol)とトリメチルホスフェート5g(36mmol)とを窒素雰囲気下のシュレンク管に加え、80℃で4時間加熱した。次に、得られた生成物を、酢酸エチル20mLを用いて4回洗浄した。減圧乾燥により、得られたイオン液体層から含まれる酢酸エチルを除去し、化合物2を6.1g(27mmol)得た。生成物の確認は、H-NMR(DMSO溶媒)にて行った。
【0047】
化合物2の構造式を以下に示す。
【化11】

化合物2は、前記一般式(B1)中の各符号が以下を示す化合物である。
B1、RB2、RB3、及びRB4は、炭素数1のメチル基である。
Yは、メチレン基である。
nは、1である。
mは、0である。
【0048】
<製造例3:化合物3の合成>
まず、N-ブチルピロリジニウム11g(86mmol)とトリエチルホスフェート10g(55mmol)とを窒素雰囲気下のシュレンク管に加え、150℃で20時間加熱した。次に、得られた生成物を、ジエチルエーテル20mLを用いて4回洗浄した。減圧乾燥により、得られたイオン液体層から含まれるジエチルエーテルを除去し、化合物3を14g(47mmol)得た。生成物の確認は、H-NMR(DMSO溶媒)にて行った。
【0049】
化合物3の構造式を以下に示す。
【化12】

化合物3は、前記一般式(B1)中の各符号が以下を示す化合物である。
B1は、炭素数4のn-ブチル基である。
B2、RB3、及びRB4は、炭素数2のエチル基である。
Yは、メチレン基である。
nは、1である。
mは、0である。
【0050】
<製造例4:化合物4の合成>
まず、N-ブチルピロリジニウム11g(86mmol)とトリメチルホスフェート7.7g(55mmol)とを窒素雰囲気下のシュレンク管に加え、120℃で4時間加熱した。次に、得られた生成物を、ジエチルエーテル20mLを用いて4回洗浄した。減圧乾燥により、得られたイオン液体層から含まれるジエチルエーテルを除去し、化合物4を11g(42mmol)得た。生成物の確認は、H-NMR(DMSO溶媒)にて行った。
【0051】
化合物4の構造式を以下に示す。
【化13】

化合物4は、前記一般式(B1)中の各符号が以下を示す化合物である。
B1は、炭素数4のn-ブチル基である。
B2、RB3、及びRB4は、炭素数1のメチル基である。
Yは、メチレン基である。
nは、1である。
mは、0である。
【0052】
<比較化合物1の準備>
比較化合物1として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムジブチルホスファート(東京化成工業株式会社製)を準備した。
【0053】
比較化合物1の構造式を以下に示す。
【化14】
【0054】
<比較化合物2の準備>
比較化合物2として、1,3-ジメチルイミダゾリウムジメチルリン酸塩(富士フイルム和光純薬株式会社製)を準備した。
【0055】
比較化合物2の構造式を以下に示す。
【化15】
【0056】
<比較製造例1:比較化合物3の合成>
まず、ジデシルホスフェートナトリウム塩2.0g(5.0mmol)、N,N-ブチルメチルピロリジニウムブロマイド1.1g(5.0mmol)、イオン交換水10mL、及びメタノール10mLをナスフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。ジクロロメタン20mLを加えた後、イオン交換水10mLで3回洗浄し、比較化合物3を0.21g(0.4mmol)を得た。
【0057】
比較化合物3の構造式を以下に示す。
【化16】
【0058】
<比較製造例2:比較化合物4の合成>
まず、テトラブチルホスホニウムヒドロキサイド40%水溶液5.0g(7.2mmol)とジブチルホスフェート1.5g(7.2mmol)とをナスフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。次に、エバポレータにて水分を除去し、比較化合物4を3.2g(6.8mmol)得た。
【0059】
比較化合物4の構造式を以下に示す。
【化17】
【0060】
<比較化合物5の準備>
比較化合物5として、ジ-tert-ブチルリン酸カリウム(東京化成工業株式会社製)を準備した。
【0061】
比較化合物5の構造式を以下に示す。
【化18】
【0062】
[実施例1~5、比較例1~6]
イオン液体として、N-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いた。
そして、表1に示すように、実施例1~5は耐摩耗剤としての化合物1~4を配合し、比較例1~6は耐摩耗剤としての比較化合物1~5を配合して、潤滑剤組成物を調製し、以下の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0063】
<耐摩耗性の評価>
バウデン式往復動摩擦試験機(株式会社オリエンテック製)を用い、下記の条件にて、調製した潤滑剤組成物を使用した際の上部ボールの摩耗幅を測定した。なお、摩耗幅が250μm以下であれば、耐摩耗性が良好と判断した。
・テストピース:上部ボール(SUJ2)、下部ディスク(SUJ2)
・速度:15mm/秒
・摺動幅:15mm
・荷重:20N
・温度:100℃
・摺動回数:3000回
【0064】
<防錆性の維持の評価>
容積10mLのサンプル瓶に、蒸留水5gと各潤滑剤組成物5gとを加えた。そこに容器内に短冊状(縦:51mm、横:13mm、厚さ:3.0mm)にカットしたSUS440C板を静置し室温にて14日間静置した。その後、前記SUS440C板の外観を観察し、防錆性について、以下のように判断した。
A:表面に赤褐色又は黒色状の変色(錆)が認められなかった。
B:表面に赤褐色又は黒色状の変色(錆)が認められた。
【0065】
【表1】
【0066】
表1より、以下のことがわかる。
耐摩耗剤としての化合物1~4を含有する実施例1~5は、摩耗幅が250μm以下であり、耐摩耗性に優れることがわかる。また、実施例1~5は、防錆性の維持にも優れる結果となった。
一方、耐摩耗剤としての比較化合物1~4を含有する比較例1~5は、耐摩耗性又は防錆性の維持の少なくとも何れか一方が劣る結果となった。具体的には、比較例4は、摩耗幅が250μmを大きく超え、耐摩耗性が非常に不十分となった。また、比較例1~3及び比較例5は、防錆性の維持が劣る結果となった。そして、比較例6は、比較化合物5がイオン液体に溶解しなかったため、耐摩耗性及び防錆性の維持を評価することができなかった。