(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072511
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】積層造形方法および積層造形装置
(51)【国際特許分類】
B22F 10/366 20210101AFI20240521BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20240521BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240521BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20240521BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240521BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240521BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240521BHJP
B22F 12/44 20210101ALI20240521BHJP
B22F 10/38 20210101ALN20240521BHJP
【FI】
B22F10/366
B23K26/34
B23K26/21 Z
B23K26/067
B33Y10/00
B33Y30/00
B22F10/28
B22F12/44
B22F10/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183363
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512209689
【氏名又は名称】SOLIZE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】西耒路 正彦
【テーマコード(参考)】
4E168
4K018
【Fターム(参考)】
4E168BA35
4E168BA81
4E168CB04
4E168CB13
4E168DA02
4E168DA32
4E168DA37
4E168DA42
4E168EA05
4E168EA07
4E168EA11
4E168EA15
4E168EA17
4K018AA03
4K018AA14
4K018AA33
4K018BA02
4K018BA08
4K018BA17
4K018BA20
(57)【要約】
【課題】例えば、溶融池におけるキーホールの発生を抑制し、ひいては当該キーホールの発生に起因した不都合な事象が生じるのを抑制することが可能となるような、改善された新規な積層造形方法および積層造形装置を得る。
【解決手段】積層造形方法は、例えば、表面が略平坦な金属の粉末の層を形成する第一工程と、第一工程で形成された表面にレーザ光のビームを照射しながら走査することにより粉末を部分的に溶融した後に固化する第二工程と、を交互に繰り返す積層造形方法であって、第二工程において、レーザ光をビームシェイパに通すことにより表面上に離散的に配置された複数のスポットを形成し、粉末の表面における走査方向と直交する方向におけるビームの幅は、100+150√2[μm]以下である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が略平坦な金属の粉末の層を形成する第一工程と、
前記第一工程で形成された前記表面にレーザ光のビームを照射しながら走査することにより前記粉末を部分的に溶融した後に固化する第二工程と、
を交互に繰り返す積層造形方法であって、
前記第二工程において、
前記レーザ光をビームシェイパに通すことにより前記表面上に離散的に配置された複数のスポットを形成し、
前記粉末の表面における走査方向と直交する方向における前記ビームの幅は、100+150√2[μm]以下である、積層造形方法。
【請求項2】
全ての前記スポットの形状は、略円形である、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
全ての前記スポットの直径は、20[μm]以上100[μm]以下である、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項4】
互いに隣接する前記スポットの中心間の距離は、150√2[μm]以下である、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項5】
互いに隣接する前記スポットの中心間の距離は、50√2[μm]以下である、請求項4に記載の積層造形方法。
【請求項6】
前記レーザ光のパワーは、150[W]以上450[W]以下である、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項7】
前記レーザ光のパワーは、200[W]以上300[W]以下である、請求項6に記載の積層造形方法。
【請求項8】
前記レーザ光の前記表面上での走査速度は、250[mm/sec]以上2250[mm/sec]以下である、請求項1または6に記載の積層造形方法。
【請求項9】
前記レーザ光の前記表面上での走査速度は、250[mm/sec]以上750[mm/sec]以下である、請求項8に記載の積層造形方法。
【請求項10】
前記複数のスポットは、第一パワーで照射される少なくとも一つの第一スポットと、前記ビームの中心から前記第一スポットより遠くに位置しそれぞれ第二パワーで照射される複数の第二スポットと、を含み、
前記第一スポットのそれぞれのパワーは、前記第二スポットのそれぞれのパワーより小さい、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項11】
前記第二スポットのそれぞれのパワーに対する、前記第一スポットのそれぞれのパワーは、0.5以下である、請求項10に記載の積層造形方法。
【請求項12】
前記第一スポットおよび前記第二スポットの合計数は、7以上である、請求項10または11に記載の積層造形方法。
【請求項13】
前記第一スポットおよび前記第二スポットの合計数は、9以上である、請求項12に記載の積層造形方法。
【請求項14】
前記ビームシェイパは、回折光学素子である、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項15】
表面が略平坦な金属の粉末の層を形成する第一工程と、前記第一工程で形成された前記表面にレーザ光のビームを照射しながら走査することにより前記粉末を部分的に溶融した後に固化する第二工程と、を交互に繰り返し行う積層造形装置であって、
レーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記粉末の表面に照射しながら走査する光学ヘッドと、
を備え、
前記光学ヘッドは、前記表面上に前記レーザ光の離散的に配置された複数のスポットが形成されるよう当該レーザ光を分岐するビームシェイパを有し、
前記粉末の表面における走査方向と直交する方向における前記ビームの幅は、100+150√2[μm]以下である、積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法および積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末の層にレーザ光を照射し、当該照射した部位を溶融して固化するパウダーベッド方式による積層造形方法および積層造形装置として、特許文献1に開示された方法および装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らの鋭意研究により、この種の積層造形方法および積層造形装置では、レーザ光の照射によって溶融池に過度に深いキーホールが形成されると、例えば、スパッタが周囲に飛散して不本意な形状に造形されたり、造形部位に凹凸が生じたり、溶融後の固化部分にボイドが残存して所要の剛性や強度を確保し難くなったり、厚さの造形精度が低下して所要の形状が得られ難くなったり、造形済みの下層がより大きく溶融するような無駄なエネルギが投入されてしまったり、といった問題が生じる虞があることが判明した。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、溶融池におけるキーホールの発生を抑制し、ひいては当該キーホールの発生に起因した不都合な事象が生じるのを抑制することが可能となるような、改善された新規な積層造形方法および積層造形装置を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層造形方法は、例えば、表面が略平坦な金属の粉末の層を形成する第一工程と、前記第一工程で形成された前記表面にレーザ光のビームを照射しながら走査することにより前記粉末を部分的に溶融した後に固化する第二工程と、を交互に繰り返す積層造形方法であって、前記第二工程において、前記レーザ光をビームシェイパに通すことにより前記表面上に離散的に配置された複数のスポットを形成し、前記粉末の表面における走査方向と直交する方向における前記ビームの幅は、100+150√2[μm]以下である。
【0007】
前記積層造形方法では、全ての前記スポットの形状は、略円形であってもよい。
【0008】
前記積層造形方法では、全ての前記スポットの直径は、20[μm]以上100[μm]以下であってもよい。
【0009】
前記積層造形方法では、互いに隣接する前記スポットの中心間の距離は、150√2[μm]以下であってもよい。
【0010】
前記積層造形方法では、互いに隣接する前記スポットの中心間の距離は、50√2[μm]以下であってもよい。
【0011】
前記積層造形方法では、前記レーザ光のパワーは、150[W]以上450[W]以下であってもよい。
【0012】
前記積層造形方法では、前記レーザ光のパワーは、200[W]以上300[W]以下であってもよい。
【0013】
前記積層造形方法では、前記レーザ光の前記表面上での走査速度は、250[mm/sec]以上2250[mm/sec]以下であってもよい。
【0014】
前記積層造形方法では、前記レーザ光の前記表面上での走査速度は、250[mm/sec]以上750[mm/sec]以下であってもよい。
【0015】
前記積層造形方法では、前記複数のスポットは、第一パワーで照射される少なくとも一つの第一スポットと、前記ビームの中心から前記第一スポットより遠くに位置しそれぞれ第二パワーで照射される複数の第二スポットと、を含み、前記第一スポットのそれぞれのパワーは、前記第二スポットのそれぞれのパワーより小さくてもよい。
【0016】
前記積層造形方法では、前記第二スポットのそれぞれのパワーに対する、前記第一スポットのそれぞれのパワーは、0.5以下であってもよい。
【0017】
前記積層造形方法では、前記第一スポットおよび前記第二スポットの合計数は、7以上であってもよい。
【0018】
前記積層造形方法では、前記第一スポットおよび前記第二スポットの合計数は、9以上であってもよい。
【0019】
前記積層造形方法では、前記ビームシェイパは、回折光学素子であってもよい。
【0020】
また、本発明の積層造形装置は、例えば、表面が略平坦な金属の粉末の層を形成する第一工程と、前記第一工程で形成された前記表面にレーザ光のビームを照射しながら走査することにより前記粉末を部分的に溶融した後に固化する第二工程と、を交互に繰り返し行う積層造形装置であって、レーザ装置と、前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記粉末の表面に照射しながら走査する光学ヘッドと、を備え、前記光学ヘッドは、前記表面上に前記レーザ光の離散的に配置された複数のスポットが形成されるよう当該レーザ光を分岐するビームシェイパを有し、前記粉末の表面における走査方向と直交する方向における前記ビームの幅は、100+150√2[μm]以下である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、例えば、改善された新規な積層造形方法および積層造形装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態の積層造形装置の例示的な概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態の積層造形装置に含まれるレーザ光照射装置の例示的な概略構成図である。
【
図3】
図3は、実施形態のレーザ光照射装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す例示的な説明図である。
【
図4】
図4は、
図1の積層造形装置の、造形ステージに造形物の原料となる金属粉を供給する工程での作動を示す説明図である。
【
図5】
図5は、
図1の積層造形装置の、造形物の1層分を造形する工程での作動を示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態の積層造形装置において金属粉の表面上に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図7】
図7は、実施形態の積層造形装置において金属粉の表面上に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0024】
各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表している。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。Z方向は、積層方向とも称されうる。また、各図において、X方向およびY方向は、水平方向であり、Z方向は、鉛直上方である。
【0025】
また、本明細書において、序数は、工程や、パワー、スポット等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0026】
図1は、実施形態の積層造形装置100の概略構成図である。積層造形装置100は、粉末床溶融結合方式のうちの一つであるレーザ溶融法によって金属粉Pを積層造形することにより、金属の造形物(積層造形物)を作る。
【0027】
金属粉Pは、造形物の原材料である。金属粉Pは、例えば、ステンレス鋼、銅や、銅合金のような銅系材料、アルミニウムや、アルミニウム合金のようなアルミニウム系材料のような金属材料で作られている。
【0028】
図1に示されるように、積層造形装置100は、材料バケット110と、造形ステージ120と、回収ボックス130と、コータ140と、レーザ光照射装置200と、を備えている。
【0029】
材料バケット110は、処理前の金属粉Pを収容する収容室111を形成している。材料バケット110は、収容室111内でZ方向およびZ方向の反対方向に移動可能なエレベータ112を備えている。エレベータ112は、金属粉Pを上方へ移動することができる。
【0030】
造形ステージ120は、金属粉Pが敷き詰められたパウダーベッドPbおよび造形物(不図示)を収容する収容室121を形成している。パウダーベッドPbの上端である表面Paにおいて、金属粉Pがレーザ光Lの照射によって選択的に溶融されるとともに硬化され、造形物の1層分、すなわち溶融凝固した金属体が造形される。
【0031】
造形ステージ120は、収容室121内でZ方向およびZ方向の反対方向に移動可能なエレベータ122を備えている。エレベータ122上には、サポートベース123が載置されている。サポートベース123は、パウダーベッドPbおよび造形物を支持している。サポートベース123のZ方向の頂面123aは、Z方向と交差して広がっている。エレベータ122は、サポートベース123とともにパウダーベッドPbおよび造形途中の造形物を、下方へ移動することができる。また、エレベータ122は、造形物の造形完了後、サポートベース123とともに当該造形物およびその周囲の金属粉Pを、上方へ移動することができる。
【0032】
回収ボックス130は、材料バケット110や造形ステージ120において余った金属粉Pを回収する収容室131を形成している。収容室131で回収された金属粉Pは、適宜、選別処理や浄化処理を経た後、材料バケット110の収容室111へ戻されてもよい。
【0033】
コータ140は、材料バケット110および造形ステージ120のZ方向の端面、すなわち上端に沿ってX方向に移動することにより、金属粉Pを当該X方向に移送することができる。コータ140は、例えば、Y方向に延びた下縁を有した、所謂へらである。コータ140は、X方向に移動することにより、収容室111および収容室121上で、金属粉Pを略水平に摺り切ることができる。
【0034】
図2は、レーザ光照射装置200の概略構成図である。
図2に示されるように、レーザ光照射装置200は、レーザ装置210と、光学ヘッド220と、光ファイバ230と、移動機構240と、コントローラ250と、を備えている。
【0035】
レーザ装置210は、光源としてレーザ発振器を備えており、一例としては、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ装置210が出力するレーザ光の波長は、例えば、800[nm]以上かつ1200[nm]以下であるが、これには限定されない。また、レーザ装置210は、連続発振レーザを、例えば、10[MHz]以下の周波数で断続的に出力することができる。
【0036】
光ファイバ230は、レーザ装置210と光学ヘッド220とを光学的に接続し、レーザ装置210から出力されたレーザ光を光学ヘッド220に導く。レーザ装置210が、シングルモードレーザ光を出力する場合、光ファイバ230は、シングルモードレーザ光を伝送するよう構成される。この場合、シングルモードレーザ光のM2ビーム品質は、1.2以下に設定される。また、レーザ装置210がマルチモードレーザ光を出力する場合、光ファイバ230はマルチモードレーザ光を伝送するよう、構成される。
【0037】
光学ヘッド220は、レーザ装置210から入力されたレーザ光をパウダーベッドPbの表面Paへ照射するための光学装置である。光学ヘッド220は、コリメートレンズ221と、集光レンズ222と、ミラー224と、DOE225(diffractive optical element、回折光学素子)と、ガルバノスキャナ226と、を有している。光学ヘッド220内において、レーザ光は、コリメートレンズ221、DOE225、ミラー224、ガルバノスキャナ226、および集光レンズ222を、この順に経由する。コリメートレンズ221、集光レンズ222、ミラー224、DOE225、およびガルバノスキャナ226は、光学部品とも称されうる。
【0038】
コリメートレンズ221は、入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0039】
図3は、DOE225の原理の概念を示す説明図である。
図3に示されるように、DOE225は、例えば、周期の異なる複数の回折格子225aが重ね合わせられた構成を備えている。DOE225は、平行光を、各回折格子225aの影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、レーザ光を複数のビームに分岐する。光学ヘッド220から、当該分岐された複数のビームを含むレーザ光LがパウダーベッドPbの表面Pa上に照射されることにより、当該表面Pa上には、各ビームに対応したスポットが形成される。すなわち、DOE225は、表面Pa上に形成されるスポットの数や、相対的な配置、各スポットの形状等のスペックを定めている。また、光学ヘッド220においてDOE225を交換することにより、表面Pa上に、種々のスペックのスポットを形成することができる。また、光学ヘッド220は、DOE225を光軸回りに回動可能に支持し、当該回動角度を変更可能に構成されてもよい。この場合、表面Pa上で、スポットのパターンを回転させることが可能となる。
【0040】
ミラー224(
図2参照)は、DOE225からの光をガルバノスキャナ226に向けて反射する。なお、ミラー224は、光学ヘッド220内の光学部品のレイアウトに応じて省略することができるし、他の二つの光学部品の間に設けられてもよい。
【0041】
ガルバノスキャナ226は、複数のミラー226a,226bを有しており、当該複数のミラー226a,226bの角度を制御することで、光学ヘッド220からのレーザ光Lの出射方向を切り替え、これにより、パウダーベッドPbの表面Pa上でレーザ光Lの照射位置を変更することができる。すなわち、ガルバノスキャナ226は、パウダーベッドPbの表面Pa上で、レーザ光Lのビームを走査することができる。ミラー226a,226bの角度は、それぞれ、例えばコントローラ250によって制御された不図示のモータによって変更される。
【0042】
集光レンズ222は、ガルバノスキャナ226から到来した平行光としてのレーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、パウダーベッドPbの表面Paへ照射する。集光レンズ222、すなわち光学ヘッド220からのレーザ光Lの照射方向は、略Z方向の反対方向である。光学ヘッド220は、例えば、スポットの直径が20[μm]以上かつ100[μm]以下となるようにレーザ光Lを集光することができる。
【0043】
また、本実施形態では、光学ヘッド220は、パウダーベッドPbとの相対位置を変更可能に構成されている。移動機構240は、光学ヘッド220を、Z方向と交差する方向、言い換えると表面Paに沿う方向に、移動することができる。また、不図示の搬送機構によって、パウダーベッドPbが、Z方向と交差する方向に搬送されてもよい。本実施形態では、表面Pa上でのレーザ光Lの走査は、ガルバノスキャナ226の作動、光学ヘッド220の移動、およびパウダーベッドPbの移動のうちの少なくとも一つによって、実現される。
【0044】
コントローラ250は、レーザ装置210、ガルバノスキャナ226、および移動機構240の作動を制御する。
【0045】
図4は、積層造形装置100の、造形ステージ120に金属粉Pを供給する工程S1での作動を示す説明図である。工程S1において、まず、材料バケット110のエレベータ112は上昇する。当該エレベータ112の上昇により、金属粉Pは、収容室111の開口端より上に盛り上がる。他方、造形ステージ120のエレベータ122は下降する。当該エレベータ122の下降により、収容室121の上端には、Z方向と交差して広がった薄い空間(不図示)が形成される。
【0046】
この状態で、コータ140は、
図1に示される位置P0から、
図4に示される位置P1および位置P2を経て、収容室131に臨む位置(不図示)まで、X方向に移動する。これにより、材料バケット110の収容室111上に盛り上がった金属粉Pの一部が、造形ステージ120の収容室121の上部に形成された薄い空間内に収容される。また、この際、コータ140によって上端が擦り切られることにより、パウダーベッドPbの略平坦な表面Paが形成される。さらに、コータ140は、造形ステージ120上で擦り切った余った金属粉Pを、収容室131内に移動する。工程S1は、第一工程の一例であり、材料供給工程とも称される。
【0047】
図5は、積層造形装置100の、造形物の一層を造形する工程S2での作動を示す説明図である。工程S2において、レーザ光照射装置200のレーザ光Lが表面Paへ照射される。金属粉Pは、レーザ光Lが照射された部位Piにおいて、すなわち部分的に溶融され、当該部位Piにおいて金属粉P同士が結合し、その後固化して、造形物(導体層)の一部となる。レーザ光Lのビームは、表面Pa上で走査され、これにより、造形物の1層分が得られる。造形物の1層分の厚さtは、工程S1におけるエレベータ122の下降したストロークによって定まる。厚さtは、例えば、20[μm]以上200[μm]以下であり、好適には、40[μm]である。工程S2は、第二工程の一例であり、造形工程とも称される。
【0048】
積層造形装置100は、
図4の工程S1と、
図5の工程S2とを繰り返すことにより、造形物を作る、すなわち積層造形することができる。
【0049】
発明者らは、工程S2において、DOE225を用いて表面Pa上にレーザ光Lの適宜な形状のビームを形成するとともに、レーザ装置210の出力パワーや、ビームの表面Pa上における走査速度を適切に設定することにより、レーザ光Lの照射によってパウダーベッドPbに形成される溶融池においてキーホールの発生を抑制し、ひいては当該キーホールの発生に起因した不都合な事象が生じるのを抑制できることを見出した。
【0050】
図6および
図7は、それぞれ、パウダーベッドPbの表面Pa上へのレーザ光LのビームB(B1,B2)の照射によって当該表面Pa上に形成される複数のスポットs1,s2のパターンを例示する平面図である。
図6および
図7の例ともに、ビームBには、それぞれ、離散的に配置された複数のスポットs1,s2が含まれている。スポットs1,s2は、それぞれ略円形である。
【0051】
スポットs1のパワーと、スポットs2のパワーとは、互いに異なっている。また、スポットs1は、スポットs2よりもビームBの中心C(重心)に近く、言い換えると、スポットs2は、スポットs1よりもビームBの中心Cから遠い。複数のスポットs2は、スポットs1の周りを取り囲むように配置されている。なお、スポットs1の数は、
図6の例のように1であってもよいし、
図7の例のように2以上であってもよい。また、
図6および
図7の例では、スポットs1,s2は、格子点状に配置されているが、これには限定されず、例えば、一つ以上のスポットs1の周囲に複数のスポットs2が環状にかつ離散的に配置されてもよい。スポットs1は、第一スポットの一例であり、スポットs2は、第二スポットの一例である。
【0052】
発明者らは、実験的な研究により、所要の条件を満たすとともにより高品質かつ高効率な造形を実行するという観点から、以下の(1)~(7)のような好適な条件を見出した。
【0053】
(1)スポットs1,s2のパワーの比
スポットs1のパワーが大きいほど、中心Cに近い位置でパワーのピークが生じ、溶融池のキーホールが深くなり、ひいては、スパッタやボイド(ブローホール)が生じ易くなることが判明した。このような観点から、スポットs1のそれぞれのパワーは、スポットs2のそれぞれのパワーより小さいのが好ましいことが判明した。実験的な研究から、スポットs2のパワーに対するスポットs1のパワーの比は、0.5以下であるのがより好ましいことが判明した。
【0054】
(2)スポットs1,s2の合計数
スポットs1,s2の合計数が少ないほど、パワーが局所的に大きくなり易く、スパッタやボイド(ブローホール)が生じ易くなることが判明した。このような観点から、スポットs1,s2の合計数は、7以上であるのが好ましく、9以上であるのがより好ましいことが判明した。
【0055】
(3)スポットs1,s2の大きさおよび間隔
スポットs1,s2の大きさが小さ過ぎたり、隣接するスポットs1,s2間の間隔が遠すぎたりすると、表面Pa上でパワーにむら、言い換えると場所によるばらつきが、大きくなる。この場合、離散的な複数のスポットs1,s2の形成による溶融池の安定化という効果が得られにくくなり、スパッタやボイド(ブローホール)が生じ易くなることが判明した。また、逆に、スポットs1,s2の大きさが大きすぎると、隣接するスポットs1,s2間で重なり合う領域が大きくなり、中心Cに近い位置でパワーのピークが生じてしまうことが判明した。このような観点から、スポットs1,s2の直径は、20[μm]以上100[μm]以下であるのが好ましいことが判明した。また、互いに隣接するスポットs1,s2の中心間の距離Isは、150√2[μm]以下であるのが好ましく、50√2[μm]以下であるのがより好ましいことが判明した。なお、スポットs1,s2の直径は、ピークパワーの1/e
2以上のパワーとなる領域(以下、有効領域と称する)の直径とする。
図6,7では、スポットs1の有効領域が実線で描かれ、スポットs2の有効領域が破線で描かれている。
【0056】
(4)ビームBの幅Wの最大値
ビームB(B1,B2)の走査において、表面PaにおけるビームBの幅W(W1,W2)は、走査方向SD(SD1,SD2)と直交する方向(以下、直交方向と称する)におけるビームBの幅であり、当該直交方向において最も離れた二つのスポットs2の有効領域の、当該直交方向において最も離れた端部間の幅である。ビームBの幅Wが、大きすぎるとパワー(密度)不足となり、所要の溶融状態が得られ難くなることが判明した。このような観点から、ビームBの幅Wの最大値は、100+150√2[μm]以下であるのが好ましいことが判明した。なお、
図6,7には、走査方向SDの典型例として走査方向SD1,SD2を示すとともに、当該走査方向SD1,SD2に対応した幅W1,W2を示しているが、走査方向は種々に(紙面上で中心Cからの径方向における任意の方向に)設定可能であり、これらの例には限定されない。なお、
図6,7の例では、いずれも走査方向SD1に対する直交方向おける幅W1が幅Wの最大値となり、走査方向SD2に対する直交方向おける幅W2が幅Wの最小値となる。また、走査方向SD1と走査方向SD2との角度差は、
図6の例では45°であり、
図7の例では26.6°であるが、これには限定されない。
【0057】
(5)走査方向SDに対する直交方向において最も離れた二つのスポットs2間の間隔I
ビームBの走査方向SDに対する直交方向において最も離れた二つのスポットs2間の間隔I(I1,I2)は、上述した(3)および(4)と同様の観点から、150[μm]以下であるのが好ましく、100[μm]以下であるのがより好ましいことが判明した。なお、
図6,7には、間隔Iとして、走査方向SD1,SD2に対応した間隔I1,I2を例示している。
【0058】
(6)ビームBのパワー
ビームB(B1,B2)のパワーが大きすぎると、キーホールが生じ易くなり、逆にパワーが小さすぎると、所要の造形形状が得られ難くなることが判明した。このような観点から、ビームB(レーザ光L)のパワー、言い換えると全スポットs1,s2の合計のパワーは、150[W]以上450[W]以下であるのが好ましく、200[W]以上300[W]以下であるのがより好ましいことが判明した。
【0059】
(7)ビームBの走査速度
ビームB(B1,B2)の表面Pa上での走査速度が低すぎると、キーホールが生じ易くなり、逆に走査速度が高すぎると、所要の造形形状が得られ難くなることが判明した。このような観点から、ビームB(レーザ光L)の表面Pa上での走査速度は、250[mm/sec]以上2250[mm/sec]以下であるのが好ましく、250[mm/sec]以上750[mm/sec]以下であるのがより好ましいことが判明した。
【0060】
以上説明したように、本実施形態のように、工程S2において、DOE125によって表面Pa上にレーザ光Lの離散的な複数のスポットs1,s2を形成し、当該スポットs1,s2を含むビームBを適切な条件で表面Pa上で照射しながら走査することにより、パウダーベッドPbに形成される溶融池においてキーホールの発生を抑制し、ひいては当該キーホールの発生に起因した不都合な事象が生じるのを抑制することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
100…積層造形装置
110…材料バケット
111…収容室
112…エレベータ
120…造形ステージ
121…収容室
122…エレベータ
123…サポートベース
123a…頂面
130…回収ボックス
131…収容室
140…コータ
200…レーザ光照射装置
210…レーザ装置
220…光学ヘッド
221…コリメートレンズ
222…集光レンズ
224…ミラー
225…DOE(ビームシェイパ)
225a…回折格子
226…ガルバノスキャナ
226a…ミラー
226b…ミラー
230…光ファイバ
240…移動機構
250…コントローラ
B…ビーム
C…中心
I…間隔
I1…間隔
I2…間隔
Is…距離
L…レーザ光
P…金属粉(粉末)
P0…位置
P1…位置
P2…位置
Pa…表面
Pb…パウダーベッド
Pi…部位
s1…スポット
s2…スポット
S1…工程(第一工程)
S2…工程(第二工程)
SD1,SD2…走査方向
t…厚さ
W,W1,W2…幅
X…方向
Y…方向
Z…方向