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特開2024-72539マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット、及び、マニホールド型噴射器の保守作業方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072539
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット、及び、マニホールド型噴射器の保守作業方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/08 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
B22F9/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183409
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 幸基
(72)【発明者】
【氏名】石川 進太郎
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA03
4K017BA05
4K017EB07
4K017FA14
4K017FA15
4K017FA17
(57)【要約】
【課題】アトマイズ装置等のマニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業等の保守作業の安全性を向上させること。
【解決手段】T字型マニホールド支持具1と、平板状の作業座31と作業座31を平行に支持する複数の脚部32を有する保守作業用作業台3と、を含んでなり、T字型マニホールド支持具1は、棒状の作業者用把持部11と、作業者用把持部11の軸方向中央部において作業者用把持部11に直交する態様で接合されている棒状のマニホールド支持部12と、を備え、マニホールド支持部12は、先端部分にマニホールド21の側面に形成されている雌螺子部231と螺合可能な雄螺子部121が形成されている、マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット10によって保守作業を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を分配するマニホールドの底面に複数の流体噴射ノズルが突出しているマニホールド型噴射器において、前記流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業に用いる、マニホールド型噴射器の保守作業用ユニットであって、
T字型マニホールド支持具と、
平板状の作業座と前記作業座を平行に支持する複数の脚部を有する保守作業用作業台と、を含んでなり、
前記T字型マニホールド支持具は、棒状の作業者用把持部と、前記作業者用把持部の軸方向中央部において前記作業者用把持部に直交する態様で接合されている棒状のマニホールド支持部と、を備え、
前記マニホールド支持部は、先端部分に前記マニホールドの側面に形成されている雌螺子部と螺合可能な雄螺子部が形成されている、
マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット。
【請求項2】
前記保守作業用作業台の前記作業座には前記流体噴射ノズルを収容することができる凹部又は開口部であるノズル収容部が設けられている、
請求項1に記載のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニット。
【請求項3】
前記作業座の幅が前記マニホールド型噴射器の幅よりも大きく、前記作業者用把持部の長さが前記作業座の幅よりも大きく、前記脚部の長さが前記作業者用把持部の長さの1/2よりも大きい、
請求項1又は2に記載のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットを用いて前記流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業を行う、マニホールド型噴射器の保守作業方法であって、
前記マニホールド型噴射器が設置されている工業装置から離脱させた該マニホールド型噴射器を、設置状態における上下方向を維持したまま移動させて、前記作業座に載置する手順と、
前記作業座に載置された前記マニホールド型噴射器の前記雌螺子部に前記T字型マニホールド支持具の雄螺子部を螺合させた後に、前記作業者用把持部の両端部を作業者が操作することによって、該マニホールド型噴射器を前記作業座において上下反転させる手順と、
を含んでなる、
マニホールド型噴射器の保守作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット、及び、マニホールド型噴射器の保守作業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る「マニホールド型噴射器」を用いた工業装置の一例として、「廃リチウムイオン電池」から銅、ニッケル、コバルト等の有価物を回収するプロセスにおいて、水アトマイズ加工(金属熔湯に高圧水を噴射して熔滴状に粉砕させ、粉砕されて飛散した熔滴を凝固させることによって金属粉体を製造する処理)を行うアトマイズ装置(特許文献1参照)を挙げることができる。
【0003】
上記のアトマイズ装置は、熔解炉(坩堝炉)から注湯された金属熔湯を出湯するタンディッシュと、タンディッシュから落下する金属熔湯に高圧流体(例えば、高圧水)を噴射する流体噴射ノズルと、流体噴射ノズルを上部に設け、流体噴射により熔滴を形成して金属粉体を生成させる場となるチャンバーと、を備えた装置であるが、多くの場合、流体噴射ノズルは、各ノズルに流体を分配するマニホールドを介してアトマイズ装置本体のチャンバーに取り付けられている。本明細書においては、このように、流体を分配するマニホールドの底面に複数の流体噴射ノズルが突出している形状からなる噴射器を、「マニホールド型噴射器」と総称するものとする。
【0004】
ここで、マニホールド型噴射器を用いた上記のアトマイズ装置においては、回収目的物とする金属粉体の粒径等に応じて高圧流体の噴射条件を最適化するために、流体噴射ノズルを適宜最適な種類のノズルに交換する交換作業が必須の保守作業として適宜行われる。アトマイズ装置は、通常、マニホールドから突出している複数の流体噴射ノズルの噴射口が鉛直下方に向けられた状態で設置されているので、上記の流体噴射ノズルの交換作業時には、流体噴射ノズルが取り付けられた状態のマニホールド、即ち、「マニホールド型噴射器」を、先ずは、設置状態と同様に流体噴射ノズルが下方を向いた状態のまま、アトマイズ装置本体から取り外して交換作業を行う場所に移動させ、続いて側面部、流体噴射ノズルの噴射口が上向きとなるようにマニホールド型噴射器を上下反転させてから、流体噴射ノズルの交換作業を行うという段取りを経る必要があった。
【0005】
上記のマニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの交換作業時等に、重量の嵩むマニホールドの上下を反転させる作業(以下、「上下反転作業」とも言う)が、多くの場合、人力により行われている。その理由として、例えば、短時間で作業を終えることができること、又、「上下反転作業」に適した設備がないことが挙げられる。しかしながら、マニホールドは、その内部に流体噴射ノズルに高圧流体を届けるための高圧流体の通路が形成されており、その通路を流通する高圧流体からの圧力に耐えるために堅牢な構造となっているため非常に重量が大きい。そのため、人力による「上下反転作業」においては、その作業中に落下させてしまうリスクがあり、これに起因するマニホールド型噴射器の破損や、作業者の被災を、より確実に防ぐことができる手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-39446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、アトマイズ装置等のマニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業等の保守作業の安全性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に詳細を説明するT字型マニホールド支持具と保守作業用作業台と、を含んでなるマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットによって、アトマイズ装置等のマニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの交換作業を安全に効率良く行えることに想到し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 流体を分配するマニホールドの底面に複数の流体噴射ノズルが突出しているマニホールド型噴射器において、前記流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業に用いる、マニホールド型噴射器の保守作業用ユニットであって、T字型マニホールド支持具と、平板状の作業座と前記作業座を平行に支持する複数の脚部を有する保守作業用作業台と、を含んでなり、前記T字型マニホールド支持具は、棒状の作業者用把持部と、前記作業者用把持部の軸方向中央部において前記作業者用把持部に直交する態様で接合されている棒状のマニホールド支持部と、を備え、前記マニホールド支持部は、先端部分に前記マニホールドの側面に形成されている雌螺子部と螺合可能な雄螺子部が形成されている、マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット。
【0010】
(1)のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットによれば、マニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの交換作業時における、人力によるマニホールドの上下反転作業が、より容易に且つより安全に行うことができるようになり、マニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの保守作業の安全性を向上させることができる。
【0011】
(2) 前記保守作業用作業台の前記作業座には前記流体噴射ノズルを収容することができる凹部又は開口部であるノズル収容部が設けられている、(1)に記載のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニット。
【0012】
(2)のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットによれば、マニホールドの底面に流体噴射ノズルが突出しているマニホールド型噴射器を、保守作業を行う場所に載置する際に、流体噴射ノズルがマニホールドの荷重によって破損してしまうリスクを確実に回避することができる。
【0013】
(3) 前記作業座の幅が前記マニホールド型噴射器の幅よりも大きく、前記作業者用把持部の長さが前記作業座の幅よりも大きく、前記脚部の長さが前記作業者用把持部の長さの1/2よりも大きい、(1)又は(2)に記載のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニット。
【0014】
(3)のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットによれば、作業者が、重量の嵩むマニホールドの上下を反転させる「上下反転作業」を自然な姿勢で行いやすくなり、例えば、腰痛等によって作業者が被災する危険性を減らすことができる。
【0015】
(4) (1)又は(2)に記載のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットを用いて前記流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業を行う、マニホールド型噴射器の保守作業方法であって、前記マニホールド型噴射器が設置されている工業装置から離脱させた該マニホールド型噴射器を、設置状態における上下方向を維持したまま移動させて、前記作業座に載置する手順と、前記作業座に載置された前記マニホールド型噴射器の前記雌螺子部に前記T字型マニホールド支持具の雄螺子部を螺合させた後に、前記作業者用把持部の両端部を作業者が操作することによって、該マニホールド型噴射器を前記作業座において上下反転させる手順と、を含んでなる、マニホールド型噴射器の保守作業方法。
【0016】
(4)のマニホールド型噴射器の保守作業方法によれば、マニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの交換作業時における、人力によるマニホールドの上下反転作業が、より容易に且つより安全に行うことができるようになり、マニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの交換作業の安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アトマイズ装置等のマニホールド型噴射器の流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業等の保守作業の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットを構成するT字型マニホールド支持具の正面図である。
図2】本発明に係るマニホールド型噴射器の斜視図である。
図3】本発明のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットを構成する保守作業用作業台の斜視図である。
図4】本発明のマニホールド型噴射器の保守作業方法において、マニホールド型噴射器が工業装置での設置状態における上下方向を維持したまま移動されて保守作業用作業台に載置されている状態を示す平面図である。
図5】本発明のマニホールド型噴射器の保守作業方法における図4の状態の側面図である。
図6】本発明のマニホールド型噴射器の保守作業方法の実施態様の説明に供する図面である。
図7】本発明のマニホールド型噴射器の保守作業方法の手順の流れを示す図面である。
図8】本発明のマニホールド型噴射器が用いられているアトマイズ装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニット、及び、それを用いて行うマニホールド型噴射器の保守作業方法の好ましい実施形態について説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<アトマイズ装置の概要>
以下においては、本発明の「マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット」、及び、それを用いて行う「マニホールド型噴射器の保守作業方法」の説明に先行して、本発明のマニホールド型噴射器を用いた工業装置の代表例であるアトマイズ装置について、その概要を説明する。アトマイズ装置は、金属熔湯に高圧水や高圧ガス等の流体を噴射して熔滴状に粉砕させ、粉砕されて飛散した熔滴を凝固させることによって金属粉体を製造する装置である。このアトマイズ装置は、一例として、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収するプロセスにおいて、銅(Cu)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)とを含む金属熔湯(合金熔湯)Mから、酸を用いた浸出処理(酸浸出)に供する合金粉体(銅ニッケルコバルト合金)を製造するために用いられている。
【0021】
図8は、本発明に係るマニホールド型噴射器2(図2参照)、即ち、流体を分配するマニホールドの底面に複数の流体噴射ノズルが突出している形状からなる噴射器である「マニホールド型噴射器」を用いて構成されているアトマイズ装置100の一例を示す図である。
【0022】
アトマイズ装置100は、熔解炉(坩堝炉)5から注湯された金属熔湯Mを出湯するタンディッシュ41と、タンディッシュ41から落下する金属熔湯Mに流体を噴射する流体噴射ノズル22と、流体噴射ノズル22を上部に設け、流体噴射により熔滴を形成して金属粉体を生成させる場となるチャンバー50と、を備える。流体噴射ノズル22は、マニホールド型噴射器2の底面に取り付けられている状態でチャンバー50の上部に設けられている。
【0023】
マニホールド型噴射器2を構成するマニホールド21は、略円柱形状の耐圧部211を有するブロック体であり、更に、耐圧部211の一端部に周設されるフランジ212を備えるものであることが好ましい(図2参照)。耐圧部211の中心には、軸方向に貫通する中心孔(図示せず)が開設されており、出湯ノズル41Nから供給される金属熔湯Mは、この中心孔の内側を流下する。
【0024】
マニホールド21の耐圧部211の内部には、流体噴射ノズル22における高圧水の取り込み口を終端とし、外部から供給される高圧水を各流体噴射ノズル22の取り込み口に分配する高圧水の供給通路(図示せず)が中心孔の周囲に設けられている。外部から供給される高圧水は、この供給通路を介して各流体噴射ノズル22に供給される。ここで、マニホールド21においては、上記の供給通路の終端とは反対側の始端は、耐圧部211の側面に開設される供給口であり、且つ、その供給口の内面には雌螺子部が設けられていることが一般的である。このようなマニホールド21においては、この雌螺子部に高圧水の供給管の雄螺子部を螺設することで、外部からの高圧水をマニホールドの内部に供給することが可能となっている。
【0025】
又、マニホールド21のフランジ212には、板厚方向に貫通する複数の貫通孔が縁部に開設されており、この貫通孔を挿通するボルトによってチャンバー50の上部(天井)に結合することで、マニホールド21に複数の流体噴射ノズル22が取り付けられてなるマニホールド型噴射器2が、流体噴射ノズル22の噴射口が下向きとなる姿勢で、チャンバー50の上部(天井)に取り付けられている。一方、上記ボルトによる結合状態を解除することによって、マニホールド21及び流体噴射ノズル22を含んで構成されているマニホールド型噴射器2を取り外して、アトマイズ装置100から離脱させることができる。
【0026】
マニホールド型噴射器2を構成する流体噴射ノズル22は、タンディッシュ41の出湯ノズル41Nから供給され自由落下する金属熔湯Mに対して流体である高圧水を噴射する。流体噴射ノズル22から噴射する高圧水の噴射条件は、製造しようとする金属粉体の粒径等に応じて適宜設定するようにする。尚、金属熔湯Mに噴射する流体は、高圧水には限られず、窒素やアルゴン等の不活性ガスや空気等のガスであってもよい。流体噴射ノズル22の構造や形状は、高圧水を所望とする噴射量で金属熔湯Mに噴射できるものであれば、特に限定されない。又、流体噴射ノズル22は、落下する金属熔湯Mを中心軸として、相対するように偶数個(例えば、2個、4個、6個)設けられることが好ましい。又、流体噴射ノズル22においては、製造される金属粉体の収量が最大となるように、金属熔湯Mに対して噴射される高圧水の角度(噴射角度)を調整することが好ましい。
【0027】
<マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット>
本発明のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニット10は、少なくとも、T字型マニホールド支持具1、及び、保守作業用作業台3を含んで構成されている。
【0028】
[T字型マニホールド支持具]
T字型マニホールド支持具1は、図1に示すように、棒状の作業者用把持部11と、作業者用把持部11の軸方向中央部において作業者用把持部11に直交する態様で接合されている棒状のマニホールド支持部12を有する。
【0029】
作業者用把持部11は、人力によるマニホールド型噴射器2の上下を反転させる「上下反転作業」等、重量の嵩むマニホールド型噴射器2を人力で動かす作業を行う際に、作業者(P1、P2)によって両端部が把持され、その状態で付加される動力をマニホールド支持部12に伝達する役割を果たす(図6参照)。
【0030】
作業者用把持部11は、例えば、先端部分に雄螺子部が形成されていて、その長さが等しく調節された2本の汎用の金属管(例えば、JIS規格の水道管)、及び、夫々の開口に雌螺子部が形成されたT字形状の継手を用いて作製することができる。T字形状の継手の向かい合う両端の雌螺子部の夫々に、上記金属管の雄螺子部を夫々を螺合することで、T字形状の継手が中央に配置された状態で、その継手の両端に金属管を結合することができる。これにより、後述のマニホールド支持部12を作業者用把持部11の軸方向の中央部に容易に、且つ、安定的に結合(接合)させることができる。尚、上記においては、汎用の金属管とT字形状の継手を用いてT字型マニホールド支持具1を構成する例について説明したが、T字型マニホールド支持具1の構成は、これに限られない。例えば、金属管とT字形状の継手に替えて、2本の金属棒を準備し、このうちの一方の金属棒の先端部分に雄螺子部を形成し、この金属棒の雄螺子部が形成された側とは反対側の端部を、他方の金属棒の軸方向の中央部に溶接によって接合することによってもT字型マニホールド支持具1を構成することもできる。
【0031】
ここで、上記金属管は十分な強度を有していればよく、特に限定されないが、断面円形の金属管であることが好ましい。これにより作業者による把持がより行いやすくなる。この場合、金属管の外径は作業者の手の大きさを考慮されていることが好ましい。更に、作業者用把持部11の長さは、後述の保守作業用作業台3の作業座31の幅よりも大きいことが好ましい。これにより、作業者が、自然な姿勢での「上下反転作業」を行いやすくなり、例えば、腰痛等によって作業者が被災する危険性を減らすことができる。
【0032】
一方、マニホールド支持部12は、作業者用把持部11に接合する側とは反対側の先端部分に、マニホールド型噴射器2に開設された雌螺子部231(例えば、上述した高圧水の供給口の雌螺子部231)に螺合可能な雄螺子部121を有している。この雄螺子部121を上記の雌螺子部231に螺合させて結合させた状態で各種の作業を行うようにすることで、作業者用把持部11から伝達される動力を、マニホールド支持部12を介して、安定的にマニホールド型噴射器2に伝達することができる。
【0033】
マニホールド支持部12は、例えば、上記金属管と同様に汎用の金属管を用いることができる。この場合、端部に形成される雄螺子部121の径が上記雌螺子部231の径に対応した金属管を選定するようにする。これにより、マニホールド型噴射器2にマニホールド支持部12を結合することが可能となる(図4、5参照。)。
【0034】
マニホールド支持部12を構成する金属管の選定は、より具体的には次のようにする。先ず、マニホールド21の耐圧部211の側面にマニホールド支持部12を結合するための専用の開口部である支持具挿入孔23を開孔し、その内部に雌螺子部231を開設した場合は、その雌螺子部231の径に対応する径の雄螺子部121を有する金属管を選定するようにすればよい。
【0035】
一方で、マニホールド21に専用の開口部である支持具挿入孔23及び雌螺子部231を開設しない場合には、マニホールド型噴射器2をチャンバーから取り外すときに、予め、マニホールドの高圧水の供給口から高圧水の供給管を取り外すため、例えば、この供給口にマニホールド支持部12を結合することを前提として、マニホールド支持部12の金属管を選定することもできる。即ち、この場合は、雄螺子部121の径が、高圧水の供給口に形成される雌螺子部の径に対応する金属管を選定すればよい。これにより、マニホールド支持部12をこの供給口に結合することが可能となり、マニホールド21の耐圧部211の側面に、マニホールド支持部12を結合するための専用の開口部である支持具挿入孔23及びその内部の雌螺子部231を開設する手間が不要になる。そして、これに加えて、支持具挿入孔23及び雌螺子部231を開設することに起因して耐圧性が悪化してしまう不都合も回避して、より安全にアトマイズ装置100を使用することができるようになる。
【0036】
又、上述の作業者用把持部11において、T字形状の継手を使用する場合は、作業者用把持部11に接合する側の先端部分にも雄螺子部を設けるようにする。これにより、残されたT字形状の継手の開口の雌螺子部231に雄螺子部121を螺合することが可能となり、マニホールド支持部12を作業者用把持部11の軸方向の中央部に結合(接合)することができる。
【0037】
又、マニホールド支持部12の長さは、後述の保守作業用作業台3上においてマニホールド型噴射器2の「上下反転作業」を行うときに、その「上下反転作業」の一連の手順において、作業者用把持部11の高さが概ね腰の高さを超えない高さとなる長さに設定することが好ましい。これにより、作業者への負荷の軽減が可能となり、例えば、腰痛等によって作業者が被災する危険性を減らすことができる。
【0038】
[保守作業用作業台]
保守作業用作業台3は、図3に示すように、マニホールド型噴射器2を載置するための平板状の作業座31、及び作業座31の四隅から下方に平行に伸びて作業座31を支持する脚部32を有する。作業座31の中央部には、流体噴射ノズル22の噴射口が下向きとなる姿勢で、マニホールド型噴射器2を作業座31の上面に載置したときに、流体噴射ノズル22をその内部に収容することができる凹部又は開口からなるノズル収容部311が開設されている。これにより、上記姿勢でマニホールド型噴射器2を作業座31の上面に載置した際に、作業座31に流体噴射ノズル22が接触することに起因して流体噴射ノズル22に自重が付加されてしまうことを回避することができる。
【0039】
ここで、ノズル収容部311は、マニホールド21の耐圧部211の下面(即ち、流体噴射ノズル22が取り付けられる側の面)に凸形状となる部分がある場合には、この凸形状となる部分を含めて収容、又は作業座31の下面側に挿通することを可能とする大きさに設定することが好ましい。これにより、より安定した姿勢でマニホールド型噴射器2を作業座31上に載置することが可能になる。
【0040】
又、作業座31の幅は、マニホールド型噴射器2の幅よりも1.5倍以上に大きく設定することが好ましい。これにより、「上下反転作業」の一連の手順において、マニホールド型噴射器2を立ち上げた状態で作業座31に一次的に載置するときに、載置に必要なスペースの確保が容易となり、「上下反転作業」の作業容易性が向上する。
【0041】
又、脚部32は作業者用把持部11の長さの1/2よりも大きいことが好ましい。これにより、自然な姿勢での「上下反転作業」が行いやすくなり、例えば、腰痛等によって作業者が被災する危険性を減らすことができる。
【0042】
<マニホールド型噴射器の保守作業方法>
本発明の「マニホールド型噴射器の保守作業方法」は、上記において説明した本発明の「マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット」を用いることによって、マニホールド型噴射器の保守作業(マニホールド型噴射器2の流体噴射ノズルの点検作業又は交換作業等)を安全に行うことができる方法である。
【0043】
上述のマニホールド型噴射器の保守作業用ユニットを用いて行なうマニホールド型噴射器の保守作業方法(例えば、流体噴射ノズルの交換)は、例えば、以下の手順を順に経ることによって実施することができる。以下においては、本発明の「マニホールド型噴射器の保守作業方法」について、アトマイズ装置100に用いられているマニホールド型噴射器2の流体噴射ノズル22の交換作業を行う場合における実施形態を詳細に説明する。
【0044】
図7は、マニホールド型噴射器2の流体噴射ノズルの交換作業の流れと、「マニホールド型噴射器の保守作業方法」を実施するための各手順におけるマニホールド型噴射器2の姿勢と、マニホールド型噴射器2と保守作業用作業台3の作業座31との位置関係等を図示したものである。
【0045】
[マニホールド型噴射器を作業座に載置する手順]
マニホールド型噴射器2を、マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット10を構成する保守作業用作業台3の作業座31に載置する手順(載置手順)を行うためには、先ず、高圧水供給管をマニホールド21の耐圧部211の側面に開設された高圧水の供給口から取り外すとともに、ボルトによる結合状態を解除することで、マニホールド型噴射器2をアトマイズ装置100のチャンバー50(マニホールド型噴射器2が設置されている工業装置)から離脱させる。この時点では、マニホールド型噴射器2は、流体噴射ノズル22の噴射口が下向きの姿勢である。
【0046】
次に、マニホールド型噴射器2の上記の上下方向(工業装置への設置状態における上下方向)の姿勢を維持したまま、マニホールド型噴射器2を保守作業用作業台3の作業座31上に載置する。マニホールド型噴霧器の上下反転をこの段階では行わないことにより、移動作業を安全に行うことができる。又、作業座31上へのマニホールド型噴射器2の載置は、流体噴射ノズル22を作業座31のノズル収容部311に収容させるようにして行う。そして、マニホールド型噴射器2が保守作業用作業台3の作業座31上に安定的に載置されている状態において、上記高圧水の供給口(或いは、支持具挿入孔23)の内部の雌螺子部231にT字型マニホールド支持具1のマニホールド支持部12の先端部分を螺合させることでT字型マニホールド支持具1をマニホールド型噴射器2に結合する(図7(1)参照)。
【0047】
[マニホールド型噴射器を作業座において上下反転させる手順]
次に、T字型マニホールド支持具1の作業者用把持部11の両端を2名の作業者の夫々の手で把持し、作業者用把持部11を持ち上げる操作を行う。すると、マニホールド型噴射器2は、耐圧部に周設されるフランジ212においてT字型マニホールド支持具1を結合した側とは反対側の縁部を支点とした、梃子の原理で持ち上げられて立位姿勢となる(図7(2)参照)。
【0048】
次に、上記姿勢を維持したまま、作業者用把持部11を更に持ち上げることにより、上記縁部を作業座31から僅かに離間させ、その離間状態を維持したまま、作業座31の対向する縁部領域近傍にマニホールド型噴射器2を水平移動させる(図7(3)参照)。
【0049】
次に、作業者用把持部11を下降させることにより、上記縁部を作業座31の上記対向する縁部領域に接地する。
【0050】
次に、作業者用把持部11を更に下降させることにより、マニホールド型噴射器2を、上記縁部を支点とした梃子の原理で下ろす。すると、マニホールド型噴射器2は、流体噴射ノズル22の噴射口が上向きの姿勢となる(図7(4)参照)。そして、この状態において、流体噴射ノズル22の交換を行う(図7(5)参照)。
【0051】
次に、T字型マニホールド支持具1の作業者用把持部11の両端を2名の作業者の夫々の手で把持し、作業者用把持部11を持ち上げる。すると、マニホールド型噴射器2は、耐圧部211に周設されるフランジ212においてT字型マニホールド支持具1を結合した側とは反対側の縁部を支点とした、梃子の原理で持ち上げられて立位姿勢となる(図7(6)参照)。
【0052】
次に、上記姿勢を維持したまま、作業者用把持部11を更に持ち上げることにより、上記縁部を作業座31から僅かに離間させ、その離間状態を維持したまま、作業座31の対向する縁部領域近傍にマニホールド型噴射器2を水平移動させる(図7(7)参照)。このとき、次の手順で作業者用把持部11を下降させることによりマニホールド型噴射器2を下ろしたときに、流体噴射ノズル22を作業座31のノズル収容部311内に収容可能となる位置にマニホールド型噴射器2の接地位置を合わせるようにする。
【0053】
次に、作業者用把持部11を更に下降させることにより、マニホールド型噴射器2を、上記縁部を支点とした梃子の原理で下ろす。すると、マニホールド型噴射器2は、流体噴射ノズル22の噴射口が下向きの姿勢となる(図7(8)参照)。この後に、マニホールド型噴射器2を、アトマイズ装置100のチャンバー50から離脱させたときとは、逆の手順によりチャンバー50内に装着する。
【0054】
以上の手順を経ることによって、流体噴射ノズル22の交換が完了する。
【符号の説明】
【0055】
1 T字型マニホールド支持具
11 作業者用把持部
12 マニホールド支持部
121 雄螺子部
2 マニホールド型噴射器
21 マニホールド
211 耐圧部
212 フランジ
22 流体噴射ノズル
23 支持具挿入孔
231 雌螺子部
3 保守作業用作業台
31 作業座
311 ノズル収容部
32 脚部
41 タンディッシュ
41a 開口部
41b 底部
41N 出湯ノズル
50 チャンバー
50e 排出口
60 回収配管
70 ガス排出構造
80 熔解炉(誘導炉)
10 マニホールド型噴射器の保守作業用ユニット
100 アトマイズ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8