(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072569
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】異常音検出装置
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
G01H3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183470
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】福江 晋
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA01
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064AB22
2G064CC29
2G064CC43
2G064CC46
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】オートエンコーダの学習データ量を抑制しつつ、異常音を精度良く検出できる異常音検出装置を提供する。
【解決手段】異常音検出装置は、水処理施設に設置された集音部により集音された正常音のうち、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯の音声の周波数毎の強度の時系列データを学習させ、入力された周波数毎の強度の時系列データの次元を削減したデータを入力データと同じ次元の時系列データに復元して出力するオートエンコーダを備え、異常音検出対象の音声データを周波数毎の強度の時系列データに周波数分解し、周波数分解し時系列データから、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯の音声の周波数毎の強度の時系列データを抽出し、抽出した時系列データをオートエンコーダに入力し、入力と出力とのとの差分に基づいて異常音か否か判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理施設に設置された集音部により集音された正常音のうち、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯の音声の周波数毎の強度の時系列データを学習させ、入力された周波数毎の強度の時系列データの次元を削減したデータを入力データと同じ次元の時系列データに復元して出力するオートエンコーダと、
前記集音部により集音された異常音検出対象の音声データを取り込むデータ収集部と、
前記データ収集部により取り込まれた音声データを周波数毎の強度の時系列データに周波数分解する周波数解析部と、
前記周波数解析部により周波数分解された時系列データから、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯の音声の周波数毎の強度の時系列データを抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された時系列データと、前記抽出部により抽出された時系列データを入力した結果として前記オートエンコーダにより出力された時系列データとの差分に基づいて、前記抽出部により抽出された時系列データに対応する音声が異常音か否か判定する判定部と、
を備える異常音検出装置。
【請求項2】
前記判定部により異常音と判定された音声を保存する記憶部と、
前記記憶部に保存された音声を再生する再生装置と、
をさらに備える、請求項1に記載の異常音検出装置。
【請求項3】
前記再生装置は、再生した音声が、未学習の正常音か、又は異常音であるかの選択を受け付け、
前記再生装置が未学習の正常音であるという選択を受け付けた場合、再生した音声に対応する周波数毎の強度の時系列データを前記オートエンコーダに学習させる、請求項2に記載の異常音検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置の稼働中の音を診断して異常音を検出し、配管や機器類の故障を早期発見する異常音検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オートエンコーダを利用した異常音検出が知られている。例えば、正常音の周波数パターンを学習したニューラルネットワークに評価対象音の周波数パターンを入力し、入力と出力との差分値、例えば周波数毎の平均二乗誤差値、を異常度として算出し、異常度が高いものが異常音と判別される。
【0003】
水処理システムは複数種類の水処理装置で構成されており、ポンプ音、水が流れる配管の音、弁の開閉音などが複合した音が生じている。さらに、水処理の状況に応じた音の複合パターンが現場毎に多数存在するため、水処理システムが正常な状態の音の種類も相当数存在する。
【0004】
そのため、上記従来の異音検出手法を水処理システムに適用する場合、オートエンコーダのニューラルネットワークに大量の正常音を学習させることになる。しかし、オートエンコーダのニューラルネットワークに大量の正常音を学習させると、学習時間が多大になると共に、学習の精度が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、オートエンコーダの学習データ量を抑制しつつ、異常音を精度良く検出できる異常音検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 水処理施設に設置された集音部により集音された正常音のうち、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯の音声の周波数毎の強度の時系列データを学習させ、入力された周波数毎の強度の時系列データの次元を削減したデータを入力データと同じ次元の時系列データに復元して出力するオートエンコーダと、
前記集音部により集音された異常音検出対象の音声データを取り込むデータ収集部と、
前記データ収集部により取り込まれた音声データを周波数毎の強度の時系列データに周波数分解する周波数解析部と、
前記周波数解析部により周波数分解された時系列データから、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯の音声の周波数毎の強度の時系列データを抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された時系列データと、前記抽出部により抽出された時系列データを入力した結果として前記オートエンコーダにより出力された時系列データとの差分に基づいて、前記抽出部により抽出された時系列データに対応する音声が異常音か否か判定する判定部と、
を備える異常音検出装置。
【0008】
[2] 前記判定部により異常音と判定された音声を保存する記憶部と、
前記記憶部に保存された音声を再生する再生装置と、
をさらに備える、[1]の異常音検出装置。
【0009】
[3] 前記再生装置は、再生した音声が、未学習の正常音か、又は異常音であるかの選択を受け付け、
前記再生装置が未学習の正常音であるという選択を受け付けた場合、再生した音声に対応する周波数毎の強度の時系列データを前記オートエンコーダに学習させる、[2]の異常音検出装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、学習させる正常音のデータ量を絞り込むことができるので、オートエンコーダの学習データ量を抑制しつつ、異常音を精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る異常音検出装置の概略構成図である。
【
図4】オートエンコーダの学習方法を説明するフローチャートである。
【
図5】異常音検出方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。本発明の実施形態に係る異常音検出装置は、水処理装置の稼働中の音を診断し、異常音を検出し、配管や機器類の故障を早期発見するためのものである。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る異常音検出装置は、演算装置1と、集音部2と、表示再生装置3とを備えている。
【0014】
集音部2は例えばマイクであり、異常音を検出したい場所に設置される。例えば、集音部2は、複数の水処理装置が稼働する水処理施設内に設置される。
【0015】
演算装置1は、集音部2が集音した音声が正常音であるか、又は異常音であるかを判定する。演算装置1は、異常音データを保存する。
【0016】
表示再生装置3は、異常音が検出された日時のリストを表示し、ユーザから日時の選択を受け付けると、選択された日時の異常音データを演算装置1から取得し、異常音を再生・出力する。表示再生装置3は、PC、タブレット端末等である。
【0017】
図2に示すように、演算装置1は、例えばCPU、通信部、記憶部M等を備えたコンピュータにより構成されている。記憶部Mは、例えばRAM、ROM、ハードディスク等を有する。記憶部Mに格納された異常音判定プログラムが実行されることで、データ収集部11、周波数解析部12、抽出部13及び判定部14等の機能が実現される。
【0018】
記憶部Mには、学習器41が記憶される。学習器41は、各ユニット(ニューロン)に関する重み及びバイアスなどの各パラメータ、並びに、入力データに対して処理を行うための処理実行プログラムである。記憶部Mに学習器41が記憶されるとは、学習器41に関する各種パラメータと処理実行プログラムが記憶部Mに記憶されることを意味する。
【0019】
学習器41はオートエンコーダ(Auto Encoder)に基づくものである。以下、学習器41をオートエンコーダ41とも記載する。オートエンコーダ41は、それぞれが複数のユニットを含む複数の層を含んで構成される。
図3に示すように、通常、最も入力側に位置する入力層、最も出力側に位置する出力層、及び、入力層と出力層の間に設けられる中間層(隠れ層)を含んで構成される。中間層は、入力データの次元を圧縮するエンコード部の中間層と、エンコード結果を復調して元のデータサイズにするデコード部の中間層を有する。
【0020】
オートエンコーダ41の学習方法を
図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0021】
データ収集部11が、集音部2により集音された音声を取り込む(ステップS1)。音声は例えばwav形式にデジタルデータ化されており、時系列に並んだ音の信号の一次元データである。サンプリングレートは特に限定されないが、例えば44.1kHzである。取り込む音声の長さは特に限定されないが、例えば、数十分~数時間の音声を取り込む。ここで集音部2が集音する音声は、水処理施設内で各水処理装置が正常に稼働している状態の音声(正常音)である。
【0022】
周波数解析部12が、取り込んだ音声データに対し、高速フーリエ変換等の処理を行い、周波数毎の強度の時系列データに分解する(ステップS2)。例えば、N秒毎に、N秒間の音声データを周波数分解する(Nは1~10程度)。
【0023】
抽出部13が、周波数分解した結果のデータを用いて、周波数毎に強度変化が大きい箇所(衝撃音)を探索する。例えば、N秒毎に得られる周波数分解データ(周波数×時系列に並んだ強度の2次元データ)内の全データについて、周波数毎の変化最大値を求めて(周波数分割数の強度最大値の一次元配列になる)、その中の最大値を衝撃音と判定する。あるいはまた、周波数毎の変化最大値を求めて、その中で所定値以上のものを衝撃音と判定する。抽出部13は、衝撃音と判定した時刻から0.1~0.5秒分の周波数毎の強度パターンデータ(衝撃音データ)を抽出し、記憶部Mに保存する(ステップS3)。
【0024】
学習処理部10は、記憶部Mに格納された衝撃音データを学習データとして用いて、オートエンコーダ41の学習処理を実行する。衝撃音データは、周波数毎の強度パターンデータであり、2次元配列(周波数×時系列で並んだ強度データ)になっているので、これをフラット化した(一次元に並び直した)ものを入力データとして扱う。学習時は、複数(10以上、100000程度になることもある)の入力データについて、入力と出力が同じ値になるよう、中間層の重みデータをバックプロパゲーションで調整することで、学習したデータを入力すると、同じデータが出力されるようなモデルになる。
【0025】
このように、本実施形態では、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯における周波数毎の強度の時系列データを学習データとして利用して、正常音学習済みのオートエンコーダ41を得る。
【0026】
次に、正常音学習済みのオートエンコーダ41を用いた異常音検出方法を、
図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0027】
データ収集部11が、集音部2により集音された音声を連続的に取り込む(ステップS11)。集音される音声は、水処理施設で生じている異常音検出対象の音声である。
【0028】
周波数解析部12が、取り込んだ音声データに対し、高速フーリエ変換等の処理を行い、周波数毎の強度の時系列データに分解する(ステップS12)。例えば、N秒毎に、N秒間の音声データを周波数分解する(Nは1~10程度)。
【0029】
抽出部13が、周波数分解した結果のデータを用いて、周波数毎に強度変化が大きい箇所(衝撃音)を探索し、衝撃音と判定した時刻から0.1~0.5秒分の周波数毎の強度パターンデータ(衝撃音データ)を抽出する(ステップS13)。
【0030】
判定部14が、正常音学習済みのオートエンコーダ41に対して、抽出された衝撃音データを入力データとして入力し、オートエンコーダ41の出力データを取得する(ステップS14)。判定部14は、オートエンコーダ41の入力データと出力データとの差分を異常度として算出する(ステップS15)。例えば、周波数毎の平均二乗誤差値が異常度として算出される。
【0031】
異常度が所定の閾値以上の場合(ステップS16_Yes)、判定部14は、判定対象の音声(衝撃音)を異常音と判定し、記憶部Mに異常音データとして発生日時と共に保存する(ステップS17)。
【0032】
異常度が所定の閾値未満の場合(ステップS16_No)、判定部14は、判定対象の音声を正常音と判定する。正常音と判定された音声(衝撃音)は記憶部Mには保存されない。
【0033】
判定処理を行ってから、1日~数週間後に、蓄積された異常音を表示再生装置3で確認できるようにする。例えば、記憶部Mに保存された異常音の発生日時がリスト化されて表示再生装置3に表示される。ユーザがリストから発生日時を選択すると、対応する異常音が再生される。ユーザは、再生された異常音を確認し、学習しきれなかった正常音か、又は異常音かを判断し、マウスやタッチパネルを操作して表示再生装置3に入力する。表示再生装置3は、ユーザによる選択結果(確認結果)を演算装置1に通知する。正常音であった場合、新たな正常音としてオートエンコーダ41に学習させることで、以後は異常音として判定・保存されなくなる。
【0034】
このように、本実施形態によれば、周波数毎の強度の変化量が大きい時間帯における周波数毎の強度の時系列データである衝撃音データを学習データとすることで、学習させる正常音のデータ量を絞り込むことができ、オートエンコーダ41の学習データ量を抑制しつつ、異常音を精度良く判定・検出できる。
【符号の説明】
【0035】
1 演算装置
2 集音部
3 表示再生装置