(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007259
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ガスセンサ、Ni含有SnO2ナノシートおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108638
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】李 春艶
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA26
2G046BA01
2G046BA09
2G046EA01
2G046EA04
2G046FB02
2G046FC01
2G046FE25
2G046FE39
(57)【要約】
【課題】ガス(特に低濃度のガス)に対する応答特性が良好なガスセンサを提供する。
【解決手段】基材と、前記基材の面上に設けられた第1電極および第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接続され、SnO
2ナノシートと当該SnO
2ナノシートに含有されるNiとを含むNi含有SnO
2ナノシートを有するガス感応層とを具備するガスセンサ。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の面上に設けられた第1電極および第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に接続され、SnO2ナノシートと当該SnO2ナノシートに含有されるNiとを含むNi含有SnO2ナノシートを有するガス感応層と
を具備するガスセンサ。
【請求項2】
前記SnO2ナノシートは、前記NiをNiOとして含有する
請求項1のガスセンサ。
【請求項3】
前記Ni含有SnO2ナノシートのX線回折測定において、
SnO2に由来するピークの積分強度を100としたときのNiOに由来するピークの積分強度が、0より大きく1以下である
請求項2のガスセンサ。
【請求項4】
前記Ni含有SnO2ナノシートにおける活性化エネルギーが、0.4eV以上0.9eV以下である
請求項1のガスセンサ。
【請求項5】
水素に対するセンサ応答(Ra/Rg)を基準にした際のアセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)の比率が、4.0以上15.0以下である
請求項1のガスセンサ。
【請求項6】
SnO2ナノシートと当該SnO2ナノシートに含有されるNiとを含むNi含有SnO2ナノシート。
【請求項7】
請求項6のNi含有SnO2ナノシートを製造する方法であって、
スズ化合物とNi化合物とアルカリ源化合物とを溶媒に添加することで、Niを含有するSnO2ナノシートを合成する工程
を含む製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が水である
請求項7の製造方法。
【請求項9】
前記スズ化合物が、フッ化スズである
請求項7の製造方法。
【請求項10】
前記Ni化合物が、NiCl2・6H2Oである
請求項7の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ源化合物が、尿素である
請求項7の製造方法。
【請求項12】
Snを100とした際にNiのモル比が1以上20以下になるように、前記スズ化合物と前記Ni化合物とを前記溶媒に添加する
請求項7の製造方法。
【請求項13】
Snを100とした際に前記アルカリ源化合物のモル比が1以上80以下になるように、前記スズ化合物と前記アルカリ源化合物とを前記溶媒に添加する
請求項7の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの検知に用いられるガスセンサ、当該ガスセンサに使用されるNi含有SnO2ナノシート、および、当該Ni含有SnO2ナノシートの製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物は、その性質について広く知られており、例えば、ガスセンサ等のセンサ、電池、電子デバイス、光学デバイスといった各種の機器に利用されている。これらの機器において、金属酸化物の微細構造、組成、結晶構造、表面積、結晶性および結晶面等については、機器の特性に大きく影響を与えることから、制御が求められている。
【0003】
ここで、金属酸化物として酸化スズの形態を制御した酸化スズナノシートが開発されている。例えば、特許文献1には、酸化スズナノシート片が集合して構成された酸化スズ含有ナノシートを用いたガスセンサが提案されている。特許文献1では、酸化スズ含有ナノシートの表面積を増加させることで、ガスセンサとしての感度を良好している。具体的には、特許文献1の酸化スズ含有ナノシートは、酸化スズからなる複数のナノシート片が集合してなる中央シート部と、中央シート部の少なくとも一部の両面に付着し、中央シート部の複数のナノシート片の集合密度よりも低い集合密度で、酸化スズからなる複数のナノシート片が集合してなる周辺部と有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のガスセンサにおいては、応答特性に改善の余地があった。具体的には、特許文献1のガスセンサでは、5~5000ppmの範囲における水素およびメタンに対してセンサ応答を示すものの、5ppm未満の水素およびメタンへのセンサ応答は示されていなかった。また、0.85ppmのノナナールに対してセンサ応答を示すものの、0.85ppm未満のノナナールへのセンサ応答は示されていなかった。さらに、アセトンや二酸化窒素などの他のガスに対するセンサ応答については言及がなかった。
【0006】
以上の通り、特に低濃度のガスに対しての応答特性が良好なガスセンサの実現が望まれている。以上の事情を考慮して、本発明では、ガス(特に低濃度のガス)に対する応答特性が良好なガスセンサ、当該ガスセンサに使用されるNi含有SnO2ナノシート、および、当該Ni含有SnO2ナノシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]基材と、前記基材の面上に設けられた第1電極および第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接続され、SnO2ナノシートと当該SnO2ナノシートに含有されるNiとを含むNi含有SnO2ナノシートを有するガス感応層とを具備するガスセンサ。
【0008】
[2]前記SnO2ナノシートは、前記NiをNiOとして含有する[1]のガスセンサ。
【0009】
[3]前記Ni含有SnO2ナノシートのX線回折測定において、SnO2に由来するピークの積分強度を100としたときのNiOに由来するピークの積分強度が、0より大きく1以下である[2]のガスセンサ。
【0010】
[4]前記Ni含有SnO2ナノシートにおける活性化エネルギーが、0.4eV以上0.9eV以下である[1]から[3]の何れかのガスセンサ。
【0011】
[5]水素に対するセンサ応答(Ra/Rg)を基準にした際のアセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)の比率が、4.0以上15.0以下である[1]から[4]の何れかのガスセンサ。
【0012】
[6]SnO2ナノシートと当該SnO2ナノシートに含有されるNiとを含むNi含有SnO2ナノシート。
【0013】
[7][6]のNi含有SnO2ナノシートを製造する方法であって、スズ化合物とNi化合物とアルカリ源化合物とを溶媒に添加することで、Niを含有するSnO2ナノシートを合成する工程を含む製造方法。
【0014】
[8]前記溶媒が水である[7]の製造方法。
【0015】
[9]前記スズ化合物が、フッ化スズである[7]または[8]の製造方法。
【0016】
[10]前記Ni化合物が、NiCl2・6H2Oである[7]から[9]の何れかの製造方法。
【0017】
[11]前記アルカリ源化合物が、尿素である[7]から[10]の何れかの製造方法。
【0018】
[12]Snを100とした際にNiのモル比が1以上20以下になるように、前記スズ化合物と前記Ni化合物とを前記溶媒に添加する[7]から[11]の何れかの製造方法。
【0019】
[13]Snを100とした際に前記アルカリ源化合物のモル比が1以上80以下になるように、前記スズ化合物と前記アルカリ源化合物とを前記溶媒に添加する[7]から[12]の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るガスセンサによれば、ガス(特に低濃度のガス)に対する応答特性が良好にすることができる。本発明に係るNi含有SnO2ナノシートによれば、例えばガスセンサに用いた場合には、当該ガスセンサの応答特性が良好にすることができる。本発明に係る製造方法によれば、ガスセンサにおけるガスに対する応答特性が良好にすることが可能なNi含有SnO2ナノシートを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1~4および比較例1について粉末X線回折測定により得られた回折パターンである。
【
図2】大気加熱後における実施例1~4および比較例1について粉末X線回折測定により得られた回折パターンである。
【
図3】実施例1~4および比較例1に係るガスセンサの表面における走査型電子顕微鏡像である。
【
図4】大気加熱後における実施例3に係るガスセンサの断面における透過型電子顕微鏡像である。
【
図5】実施例1~4および比較例1に係るガスセンサについて、40pptおよび500pptのアセトンに対するガスセンサのセンサ応答(Ra/Rg)を示すグラフである。比較例1および実施例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2~4におけるセンサ駆動温度は225℃である。
【
図6】実施例1~4および比較例1に係るガスセンサについて、40~500pptの範囲内の複数の濃度におけるアセトンに対するガスセンサのセンサ応答(Ra/Rg)を示すグラフである。比較例1および実施例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2~4におけるセンサ駆動温度は225℃である。
【
図7】実施例1~4および比較例1に係るガスセンサについて、40~500pptの範囲内の複数の濃度におけるアセトンに対するガスセンサのセンサ応答(Ra/Rg)を示す表である。比較例1および実施例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2~4におけるセンサ駆動温度は225℃である。
【
図8】実施例2,3および比較例1について、複数のガス(アセトン,エタノール,イソプレン,アセトアルデヒド,トルエン,パラキシレン,水素,アンモニア)に対するセンサ応答(Ra/Rg)を示すグラフである。比較例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2,3におけるセンサ駆動温度は225℃である。測定条件は、ガス濃度が500ppbであり、ガス流量が500sccmである。
【
図9】実施例1~4および比較例1に係るガスセンサについての空気中での抵抗値を示す表である。175℃、200℃、225℃、250℃、275℃および300℃におけるガス感応層の抵抗値(Ω)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るガスセンサは、所望のガスを検知するセンサ機器である。具体的には、ガスセンサは、絶縁性の基板と、電極対(第1電極および第2電極)と、ガス感応層とを具備する。
【0023】
電極対は、基板の表面に形成される。ガス感応層は、第1電極および第2電極にそれぞれ異なる位置で接続される。例えば、電極対の表面(基板とは反対側の表面)を覆うようにガス感応層が設けられる。すなわち、第1電極の表面および第2電極の表面と、基板のうち第1電極と第2電極との間の表面とにわたってガス感応層が設けられる。なお、基板は、公知の任意の材料(例えばシリコン材料,半導体材料,樹脂材料など)で形成される。同様に、第1電極および第2電極は、公知の任意の導電材料(例えばPt,Ir,Pd,Ag,Ni,W,Cu,Alなど)で形成される。
【0024】
本発明に係るガス感応層は、Ni含有SnO2ナノシートを含む層を有する。ガス感応層中のNi含有SnO2ナノシートの含有量は、特に限定されないが、例えば50質量%以上100質量%以下である。
【0025】
Ni含有SnO2ナノシートは、SnO2ナノシートと、当該SnO2ナノシートに含有されるNiとを含む。具体的には、Ni含有SnO2ナノシートは、SnO2ナノシートを主成分として、当該SnO2ナノシートにNiが含有された構造体である。SnO2ナノシートは、SnO2が2次元状に配列した層状の構造体である。
【0026】
Ni含有SnO2ナノシートの厚さは、例えば1nm以上10nm以下である。ガスセンサにおいては、対象ガス分子との反応点が多いこと、高い抵抗変化率が得られること、および、導電性を有することなどが重要であるため、Ni含有SnO2ナノシートの厚さは上記の範囲内が好ましい。同様に、ガスセンサの用途においては、Ni含有SnO2ナノシートの面内サイズ(シートの大きさ)は、例えば10nm以上500nm以下であることが好ましい。なお、ガス感応層におけるNi含有SnO2ナノシートを含む層においては、複数のNi含有SnO2ナノシートが集合体を形成する。
【0027】
SnO2ナノシートは、例えばNiをNiOとして含有する。NiOは、SnO2ナノシートに内包されている。ただし、NiはNiOとしてSnO2ナノシートに含有される構成以外に、金属NiやNiO以外の酸化ニッケル(Ni2O3)としてSnO2ナノシートに含有される場合もある。また、Niは、SnO2ナノシートの表面を覆うような状態でSnO2ナノシートに含有される場合や、SnO2にドープされる状態でSnO2ナノシートに含有される場合もある。
【0028】
Ni含有SnO2ナノシート中のNiの含有量(金属Ni単体としての含有量)は、例えば0質量%より大きく3質量%以下であり、好ましくは0質量%より大きく1質量%以下である。なお、実施例において詳述するが、透過型電子顕微鏡での観察におけるEDS法において、Niは観察できるものの定量できるほど多くない。定量限界を踏まえると、Niの含有量は多くても3質量%程度であると推察される。さらに、使用装置や測定環境等を考慮すると、より厳密には、Niの含有量は多くても1質量%程度であると推察される。以上の事情を考慮して、Ni含有SnO2ナノシート中のNiの含有量を上記の範囲内とした。なお、Ni含有SnO2ナノシート中のNiの含有量の下限は、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、最も好ましくは0.1質量%以上である。
【0029】
Ni含有SnO2ナノシートのX線回折測定で特定された回折パターンにおいて、SnO2に由来するピークとNiに由来するピークとが確認される。NiとしてNiOを含有する場合には、SnO2に由来するピークの積分強度を100としたときのNiOに由来するピークの積分強度(ピークの面積)は、例えば0より大きく10以下であり、好ましくは0より大きく3以下であり、より好ましくは0より大きく1以下であり、さらに好ましくは0.01以上0.85以下であり、最も好ましくは0.1以上0.85以下である。
【0030】
ここで言うSnO2に由来するピークとは、SnO2に由来する複数のピークが存在する場合には、最も強度が強いピークであり、回折角2θが26°~27°の範囲内に位置するピークである。Niに由来するピークとは、最も強度が強いピークであり、回折角2θが41°~44°の範囲内に位置するピークである。このNiに由来するピークは、回折角2θが42°~43.5°の範囲内に位置することがより多い。これはNiOの最強線であるが、例えば、PDFカード番号:03-065-2901に記載されるNiOの最強線は、43.1°に位置する。
【0031】
X線回折測定は、例えば、以下の条件において測定することができる。
線源:Cu・Kα
X線管電流:15mA
X線管電圧:40kV
走査範囲:2θ=2.0~80.0°
スキャンスピード:20.000°/分
スキャンステップ:0.02°
【0032】
以上の通り、Ni含有SnO2ナノシートにNiが含まれていることは、X線回折測定により確認することができる。なお、Niが含まれていることを確認する方法は、X線回折測定には限定されない。例えば、透過型電子顕微鏡におけるEDS法などの元素分析、透過型電子顕微鏡における電子線回折パターンの観察、透過型電子顕微鏡観察における電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy, EELS)、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法エックス線光電子分光法や蛍光X線分析法などを用いた元素分析、ラマン分光法や、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、蛍光分光法、または、XAFS(X線吸収微細構造)測定などを用いて、Ni含有SnO2ナノシートにNiが含まれていることを確認してもよい。
【0033】
Ni含有SnO2ナノシートにおける活性化エネルギーは、例えば0.4eVより大きく0.9eV以下である。
【0034】
活性化エネルギーは、以下の式(1)で示すアレニウスの式を用いて算定する。
σ=Aexp(-Ea/kBT) ・・・(1)
式(1)において、σは導電率であり、Aは頻度因子であり、Eaは活性化エネルギーであり、kBはボルツマン定数であり、Tは絶対温度である。
【0035】
式(1)の両辺において対数をとることで、変形した以下の式(2)を用いて特定したアレニウスプロット(縦軸:lnσ,横軸:1/T)から活性化エネルギーを算出する。なお、アレニウスプロットは、例えば所定の温度範囲(例えば175~300℃の範囲)内における複数の温度(例えば175℃,200℃,225℃,250℃,275℃,300℃)におけるガスセンサの抵抗値(Ω)を用いて特定する。
lnσ=(-Ea/kB)×(1/T)+lnA ・・・(2)
【0036】
本発明に係るガスセンサは、ガス感応層においてNiを含有しない酸化スズナノシートが使用される構成と比較して、応答特性(センサ応答(Ra/Rg))を良好にすることができる。Raは、空気中でのガスセンサの抵抗値であり、Rgは、検知対象となるガス中でのガスセンサの抵抗値である。なお、Raを測定する際の空気は、酸素20%と窒素80%の混合ガスを使用する。Ra/Rgは、空気から検知対象ガスに切り替えた際の電気抵抗値の変化率(抵抗変化率)を意味する。
【0037】
本発明に係るガスセンサにおいては、各種のガス(例えば可燃性ガス,還元性ガス,酸化性ガス,支燃性ガス)を検知可能である。具体的には、本発明のガスセンサは、例えば、アセトン、エタノール、イソプレン、アセトアルデヒド、トルエン、パラキシレン、水素、および、アンモニアガスの1種以上のガスを検知することができる。
【0038】
本発明のガスセンサは、低濃度(500ppt以下)のガスにおいても良好なセンサ応答(Ra/Rg)を示す。例えば、40pptのガスに対するセンサ応答(Ra/Rg)であっても1.25以上を示すことができる。したがって、例えば、疾患との関連性があると考えられている生体ガス(例えば呼気や皮膚ガス)中に含まれる低濃度のガス(例えばアセトン,エタノール,アセトアルデヒド,アンモニアなど)の検知にも有効である。
【0039】
さらには、本発明に係るガスセンサは、高いガス選択性を示す。例えば、水素に対するセンサ応答(Ra/Rg)を基準にした際のアセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)の比率は、例えば4.0以上15.0以下である。なお、ガスセンサの作動温度は、好ましくは100~400℃であり、より好ましくは200~300℃である。
【0040】
本発明は、以上に例示したガスセンサと、第1電極と第2電極との間に流れる電流に応じて、検出対象となるターゲットガスの存在(さらには濃度)を検知する検知部とを具備するセンサデバイスとしても観念できる。本発明に係るセンサデバイスによれば、高精度にガスを検知することができる。
【0041】
また、Ni含有SnO2ナノシートは、ガスセンサ以外に、分子センサ、溶液センサ、電池材料または人工光合成材料等の各種のデバイスに使用することができる。
【0042】
本発明に係るNi含有SnO2ナノシートを製造する製造方法は、以下の工程(以下「合成工程」という)を含む。合成工程は、スズ化合物とNi化合物とアルカリ源化合物(塩基)とを溶媒に添加することで、Ni含有SnO2ナノシートを合成する工程である。アルカリ源化合物の添加によりpHが増加することで、合成が促進されるという利点がある。ただし、アルカリ源化合物を添加することは必須ではない。
【0043】
具体的には、合成工程においては、スズ化合物とNi化合物とアルカリ源化合物とを溶媒に添加した後に、所定の温度(例えば0~100℃)において所定の時間(例えば10分~24時間程度)にわたり保持することでNi含有SnO2ナノシートを合成する。
【0044】
溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノールなどのアルコール、アセトン、ヘキサン、トルエンなどの有機溶媒、酢酸、ギ酸などの酸などを例示することができる。これらの中でも、溶媒は、水であることが好ましい。また、溶媒として、極性の高い「高極性溶媒(親水性)」も、極性の低い「低極性溶媒(疎水性)」も使用可能である。極性溶媒にはプロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒があるが、両方とも使用可能である。
【0045】
その他、溶媒としては、例えば、アセトアルデヒド、無水酢酸、アセトニトリル、アセトフェノン、アセチルアセトン、アリルアルコール、エタノールアミン、アニリン、ベンズアルデヒド、ベンゼン、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、1-ブタノール、2-ブタノール、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、tert-ブチルアルコール、ジブチルエーテル、二硫化炭素、クロロホルム、エピクロロヒドリン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、炭酸ジエチル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸エチル、2-クロロエタノール、エチレングリコール、1,2-ジメトキシエタン、2-ブトキシエタノール、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2-エトキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ギ酸エチル、2-エチルヘキサノール、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ホルムアミド、フルフリルアルコール、グリセリン、ヘプタン、1-ヘキサノール、リグロイン、2,6-ルチジン、2-メトキシエタノール、酢酸メチル、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、トリエタノールアミン、ニトロベンゼン、ニトロメタン、n-オクタン、1-オクタノール、2-オクタノール、ペンタン、1-ペンタノール、3-ペンタノール、酢酸n‐ペンチル、石油ベンジン、フェノール、1-プロパノール、酢酸ノルマルプロピル、プロピレングリコール、酸化プロピレン、プロピレンオキサイド、n-プロピルエーテル、ピリジン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、テトラヒドロフラン、テトラリン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、トリエチルアミン、トリフルオロ酢酸、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンが例示される。以上に例示した各種の溶媒を、2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
アルカリ源化合物(塩基)としては、加水分解してアルカリ成分を放出する化合物であれば特に限定されないが、例えば、尿素、エチレンジアミン、及び、ヘキサメチレンテトラミン(C6H12N4)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、アンモニア、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸カリウム、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジメチルヒドラジン、メチルヒドラジン、硫化カリウム、硫化ナトリウム、カ性アルカリ類、アルミン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、ソーダ石灰、ピロリジン、ヒドラジン、酸化カリウム、硫化水素ナトリウム、テトラエチレンペンタミン、1,3-ジメチルブチルアミン、1,2-ジメチルヒドラジン、N-エチルピペリジン、N-メチルピペリジン、ピペリジン、エタノールアミン、ピペラジン、アミノピリジン、水酸化ルビジウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、硫化アンモニウム、アミン類又はポリアミン類、ポリ硫化アンモニウム、ビニルピリジン、メタケイ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物などが例示される。以上に例示した各種のアルカリ源化合物を、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、アルカリ源化合物(塩基)は、尿素であることが好ましい。
【0047】
Sn化合物としては、特に限定されないが、例えば、フッ化スズ(SnF2)、塩化スズ(SnCl2)、塩化スズ(SnCl4)、硝酸スズ、スズ酸カリウム、スズ酸ナトリウム、ジフルオロホウ酸スズ、ピロリン酸スズ、硫化スズ(SnSまたはSnS2)、硫酸スズ(SnSO4)、二酸化スズ水和物、塩化スズ二水和物、塩化スズ五水和物等のスズ無機塩などが例示される。以上に例示した各種のSn化合物を、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、Sn化合物は、水と化学反応した際の生成物、反応速度、生成物の結晶化度、および、副生成物等の観点から、フッ化スズであることが好ましい。
【0048】
Ni化合物は、特に限定されないが、例えば、塩化ニッケル六水和物(NiCl2・6H2O)、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、水酸化ニッケル(II)、水酸化ニッケル0.75水和物、Ni(OH)2・0.75H2O(JCPDS No. 38-0715)、ニッケル、ふっ化ニッケル(II)、ふっ化ニッケル(II)四水和物、よう化ニッケル(II)、よう化ヘキサアンミンニッケル(II)、ほう化ニッケル、けい化ニッケル、塩化ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)六水和物、塩化ニッケル(II)水和物、塩化ニッケル(II)(ジメトキシエタン付加物)、塩化ヘキサアンミンニッケル(II)、塩化ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、塩化メタリルニッケルダイマー、硝酸ニッケル(II)六水和物、硝酸ニッケル(II)溶液、酢酸ニッケル(II)四水和物、ヒドロキシ酢酸ニッケル(II)、硫化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)水和物、硫酸ニッケル(II)六水和物、硫酸ニッケル(II)アンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル(II)四水和物、炭酸ニッケル(II)、炭酸ニッケル(II)(塩基性)水和物、臭化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)三水和物、臭化ニッケル(II)水和物、乳酸ニッケル(II)四水和物、ぎ酸ニッケル(II)二水和物、くえん酸ニッケル(II)水和物、しゅう酸ニッケル(II)二水和物、スルファミン酸ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル水和物、アミド硫酸ニッケル(II)水和物、シクロヘキサン酪酸ニッケル(II)、2-エチルヘキサン酸ニッケル(II)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)、ナフテン酸ニッケル(II)、アセチルアセトン酸ニッケル(II)、2,4-ペンタンジオン酸ニッケル(II)、シアン化ニッケル(II)四水和物、トリフルオロ酢酸ニッケル(II)四水和物、テトラフルオロほう酸ニッケル(II)六水和物、塩基性炭酸ニッケル(II)、過塩素酸ニッケル(II)六水和物、アセチルアセトナトニッケル(II)水和物、ヘキサフルオロニッケル(IV)酸カリウム、テトラシアノニッケル酸カリウム(II)水和物、酸化ニッケルタングステン、酸化ニッケルモリブデン、酸化鉄ニッケル、亜クロム酸ニッケル、ニッケルクロム、テルル化ニッケル、ランタンニッケル、LiNiPO4、ニッケルジメチルグリオキシム、ニッケル(II)フタロシアニン、ニッケル(II) アセチルアセトナート水和物、ニッケル(II)トリフルオロアセチルアセトナート二水和物、ニッケル(II)1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンクロリド、ニッケル2-メトキシエトキシド、よう化ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、ビス(1,2-ベンゼンジチオラト)ニッケル(III)酸テトラブチルホスホニウム、塩化ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケル(II)、ビス(N,N'-ジ-t-ブチルアセトアミドインアト)ニッケル(II)、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、別名ニッケロセン、ビス(トリフェニルホスフィン)ジカルボニルニッケル、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ニッケル、テトラシアノニッケル(II)酸カリウム一水和物、ジクロロ[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ニッケル(II)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジカルボニル、ビス(ジブチルジチオカルバミン酸)ニッケル(II)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ブロミド、meso-テトラフェニルポルフィンニッケル(II)、クロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、トリフルオロアセチルアセトナトニッケル, 二水和物、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンニッケルクロリド、ヘキサフルオロアセチルアセトナトニッケル(II)水和物、ジクロロ[ビス(1,3-ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル(II)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ニッケル(II)、ジクロロ[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II) などが例示される。以上に例示した各種のNi化合物を、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、Ni化合物は、Sn化合物やSnO2との反応性、反応生成物、反応速度、および、副生成物等の観点から、塩化ニッケル六水和物(NiCl2・6H2O)であることが好ましい。
【0049】
合成工程において、Snを100とした際にNiのモル比が、例えば1以上20以下Sn:Ni=100:1~20)、好ましくは2以上15以下、より好ましくは5以上14以下、さらに好ましくは8以上12以下になるように、スズ化合物とNi化合物とを溶媒に添加する。SnとNiとのモル比が上記の範囲内であることで、例えば40~500pptといった低濃度のガス(特にアセトン)に対して高いセンサ応答を示すガスセンサを作製することができる。
【0050】
また、合成工程において、Snを100とした際にアルカリ源化合物のモル比が、例えば1以上80以下(Sn:アルカリ源化合物=100:1~80)、好ましくは3以上70以下、より好ましくは5以上60以下、さらに好ましくは35以上55以下になるように、スズ化合物とアルカリ源化合物とを溶媒に添加する。Snとアルカリ源化合物とのモル比が上記の範囲内であることで、例えば40~500pptといった低濃度のガス(特にアセトン)に対して高いセンサ応答を示すガスセンサを作製することができる。
【0051】
本発明に係るNi含有SnO2ナノシートの製造方法によれば、圧力容器や高温装置などを用いることなく簡便な方法で、水溶液中での合成によってNi含有SnO2ナノシートを製造できるという利点がある。なお、合成工程後に、Ni含有SnO2ナノシートを所定の温度(例えば300℃程度)で所定の時間(例えば2時間程度)にわたり加熱する工程を含んでもよい。
【0052】
本発明においては、Ni含有SnO2ナノシートにおけるNiの含有量は、合成工程におけるNiの仕込み濃度に応じた量にはならず、何らかの原因により、仕込み濃度から想定される量よりもはるかに少なくなる。以上のことに関する詳細は、後述する実施例においても言及する。
【0053】
本発明に係るガスセンサは、第1電極および第2電極(電極対)を形成した基板の表面にガス感応層(Ni含有SnO2ナノシートを含む層)を形成することで製造される。例えば、Sn化合物とNi化合物とアルカリ源化合物とを添加した溶媒中に電極対が形成された基板を浸漬し、所定の温度(例えば0~100℃)において所定の時間(例えば10分~24時間程度)にわたり保持することによって、基板表面にNi含有SnO2ナノシートを含む層を形成する。その後、基板を所定の温度(例えば300℃程度)で所定の時間(例えば2時間程度)にわたり加熱する工程を含んでもよい。なお、電極対の形成方法には、公知の技術が任意に採用される。
【実施例0054】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0055】
[実施例1]
実施例1では、SnF2(粉末)を0.218gと、NiCl2・6H2O(粉末)0.0066gと、尿素(粉末)0.0084gとを蒸留水200mLに溶解して水溶液を、90℃において6時間にわたり保持することで、Ni含有SnO2ナノシートを合成した。実施例1における水溶液中では、Sn:Ni:尿素のモル比が100:2:10である。
【0056】
上記に示すNi含有SnO2ナノシートの合成において、調整した溶液を保持する際に基板を浸漬することによって、Ni含有SnO2ナノシートを含む層を、電極対を形成した基板の表面に形成し、ガスセンサを製造した。なお、基板には酸化アルミニウム(Al2O3)を用いて、電極対には白金を用いた。
【0057】
具体的には、Sn化合物およびNi化合物を添加した溶媒中に、電極対が形成された基板を浸漬し、90℃において6時間にわたり保持することによって、基板表面にNi含有SnO2ナノシートを含む層を形成した。実施例1に関しては、図面において「2%Ni-Sn」と表記する。
【0058】
[実施例2]
実施例2では、SnF2(粉末)0.218gと、NiCl2・6H2O(粉末)0.0165gと、尿素(粉末)0.021gとを蒸留水200mLに溶解した水溶液を、90℃において6時間にわたり保持することで、Ni含有SnO2ナノシートを合成した。実施例2における水溶液中では、Sn:Ni:尿素のモル比が100:5:25である。
【0059】
実施例1と同様の条件で、合成したNi含有SnO2ナノシートを含む層を電極対を形成した基板の表面に形成することで、ガスセンサを製造した。実施例2に関しては、図面において「5%Ni-Sn」と表記する。
【0060】
[実施例3]
実施例3では、SnF2(粉末)0.218gと、NiCl2・6H2O(粉末)0.033gと、尿素(粉末)0.042gとを蒸留水200mLに溶解した水溶液を、90℃において6時間にわたり保持することで、Ni含有SnO2ナノシートを合成した。実施例3における水溶液中では、Sn:Ni:尿素のモル比が100:10:50である。
【0061】
実施例1と同様の条件で、合成したNi含有SnO2ナノシートを含む層を電極対を形成した基板の表面に形成することで、ガスセンサを製造した。実施例3に関しては、図面において「10%Ni-Sn」と表記する。
【0062】
[実施例4]
実施例4では、SnF2(粉末)0.218gと、NiCl2・6H2O(粉末)0.0495gと、尿素(粉末)0.063gとを蒸留水200mLに溶解した水溶液を、90℃において6時間にわたり保持することで、Ni含有SnO2ナノシートを合成した。実施例4における水溶液中では、Sn:Ni:尿素のモル比が100:15:75である。
【0063】
実施例1と同様の条件で、合成したNi含有SnO2ナノシートを含む層を電極対を形成した基板の表面に形成することで、ガスセンサを製造した。実施例4に関しては、図面において「15%Ni-Sn」と表記する。
【0064】
[比較例1]
比較例1では、蒸留水200mLにSnF2(粉末)0.218gを溶解した水溶液を90℃において6時間にわたり保持することで、Niを含有しないSnO2ナノシートを合成した。
【0065】
実施例1と同様の条件で、SnO2ナノシートを含む層を電極対を形成した基板の表面に形成することで、ガスセンサを製造した。比較例1に関しては、図面において「SnO2」と表記する。
【0066】
なお、比較例1(「SnO2」)の合成条件では、水溶液の調整時にはpH=3.48であり、22分後にはpH=2.55であった。一方、実施例3(「10%Ni-Sn」)の合成条件では、水溶液の調整時にはpH=3.40であり、22分後にはpH=3.43であった。以上のことから、実施例3の合成条件において、pHの低下を抑制する効果が確認できた。以上の効果は、尿素(粉末)の添加によるものと考えられる。
【0067】
実施例1~4および比較例1について、以下の<1>~<5>の通りに評価を行った。<3>~<5>については、300℃において2時間にわたり大気加熱をした後のガスセンサに対する評価である。
【0068】
<1>粉末X線回折測定
図1は、実施例1~4で合成したNi含有SnO
2ナノシート(粉末試料)と、比較例1で合成したSnO
2ナノシート(粉末試料)とについて粉末X線回折測定により得られた回折パターンである。なお、以下の説明では、実施例1~4のNi含有SnO
2ナノシートと、比較例1のSnO
2ナノシートとを単に粉末試料と表記する場合がある。
【0069】
図1から把握される通り、実施例1~4および比較例1について、SnO
2に由来する明瞭な回折ピークが観測された。特に、26.6°付近にSnO
2に由来する最も強い回折ピークが観測された。
【0070】
実施例3(10%Ni-Sn)においては、NiOに由来する小さな回折ピークが42.5°付近に観測された。NiOに由来するピークか否かについては、粉末回折データベース(PDFカード番号:03-065-2901)を用いて判定した。以下の説明においても同様である。なお、Ni(OH)2・0.75H2Oに由来する回折ピークは、SnO2に由来する回折ピークとほぼ同じ位置に観測されるため、不明瞭であった。
【0071】
図2の(A)(B)は、大気加熱後(300℃,2時間)における実施例1~4および比較例1の粉末試料について粉末X線回折測定により得られた回折パターンである。なお、(B)は、(A)の拡大図である。
【0072】
「<4>センサ応答」で後述する通り、比較例1および実施例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2~4におけるセンサ駆動温度は225℃である。そのため、センサ駆動時には大気中にて加熱された状態となる。これらを踏まえて、粉末試料の加熱による影響を評価するため、300℃にて大気加熱した後の粉末試料について粉末X線回折測定により評価を行った。なお、大気加熱前のシート(
図1)における「SnO
2に由来する回折ピークの積分強度を100としたときのNiOに由来する回折ピークの積分強度」は、大気加熱後(
図2)と同じ程度であった。
【0073】
図2から把握される通り、
図1の場合と同様に、実施例1~4および比較例1について、SnO
2に由来する明瞭な回折ピークが観測された。特に、26.6°付近にSnO
2に由来する最も強い回折ピークが観測された。
【0074】
実施例3については、NiOに由来する最も強い回折ピークが42.5°付近に観測された。なお、42.5°付近の回折ピークは、粉末回折データベースにおけるNiO(PDFカード番号:03-065-2901)の(200)回折線に帰属する。また、SnO2に由来する最も強い回折ピークが26.6°付近に観測された。26.6°付近の回折ピークは、SnO2の(110)回折線に帰属する。
【0075】
42.5°付近に観測されたNiOに由来する回折ピークの積分強度と、26.6°付近に観測されたSnO2に由来する回折ピークの積分強度とを比較すると、SnO2に由来する回折ピークの積分強度を100としたときのNiOに由来する回折ピークの積分強度は、0.83であった。
【0076】
SnO2に由来する回折ピークの積分強度を100としたときのNiOに由来する回折ピークの積分強度を踏まえると、実施例3については、Ni含有SnO2ナノシート中のNiの含有量(金属Ni単体としての含有量)は、0質量%より大きく1質量%以下であり、具体的には0.85質量%程度と推察される。
【0077】
実施例1,2,4については、42.5°付近にはピークは明瞭には観測されなかった。以上のことを踏まえると、実施例1,2,4における、Ni含有SnO2ナノシート中のNiの含有量(金属Ni単体としての含有量)は、0質量%より大きく1質量%以下と推察される。なお、後述する「<4>センサ応答」および「<5>活性化エネルギー」の結果から、実施例3と同様に、実施例1,2,4についてもNiが0質量%より大きく1質量%以下の範囲内で含有されていることと考えられる。
【0078】
<2>走査型電子顕微鏡観察
図3は、実施例1~4および比較例1に係るガスセンサ(大気加熱後)の表面における走査型電子顕微鏡像である。なお、
図3の下段の像は、上段の像の拡大像である。
【0079】
図3の走査型電子顕微鏡像から、実施例1~4および比較例1のガスセンサについて、厚さが1~10nmであり、面内サイズが10~500nmのNi含有SnO
2ナノシート(比較例1はSnO
2ナノシート)の集合体確認できた。
【0080】
<3>透過型電子顕微鏡観察
図4は、実施例3に係るガスセンサ(大気加熱後)の断面における透過型電子顕微鏡像である。(a)は、HAADF-STEM(High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM)像であり、(b)はニッケルについての元素マッピング像であり、(c)は、酸素についての元素マッピング像であり、(d)はスズについての元素マッピング像である。
【0081】
図4から把握される通り、実施例3では、Ni含有SnO
2ナノシートで使用したSnO
2ナノシートの形状やサイズが観察された。また、SnO
2ナノシートの形状に沿って、スズ、酸素およびニッケルのコントラスト画像が観察された。特に、
図3の(b)からNiがSnO
2ナノシートの全体にわたり含有されている様子が確認された。
【0082】
なお、実施例1~4では、透過型電子顕微鏡での観察におけるEDS法(エネルギー分散型X線分光法)において、Niは観察できるが、定量できるほど多くなかった。以上のことから、Ni含有SnO2ナノシート中のNiの含有量は、定量限界を踏まえると、多くても3質量%程度であると推察される。さらに、Ni含有SnO2ナノシート中のNiの含有量は、使用装置や測定環境等を考慮すると、より厳密には、多くても1質量%程度であると推察される。以上の通り、Ni含有SnO2ナノシートにおけるNiの含有量は、Ni含有SnO2ナノシートの製造の際におけるNiの仕込み濃度に応じた量にはならず、何らかの原因により、仕込み濃度から想定される量よりもはるかに少なくなる。
【0083】
<4>センサ応答
図5は、実施例1~4および比較例1に係るガスセンサ(大気加熱後)におけるセンサ応答(Ra/Rg)を示すグラフである。なお、Raを測定する際の空気は、酸素20%と窒素80%の混合ガスを使用した。
【0084】
図5の(a)は、500pptのアセトンに対するガスセンサのセンサ応答であり、
図5の(b)は、40pptのアセトンに対するガスセンサのセンサ応答である。なお、比較例1および実施例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2~4におけるセンサ駆動温度は225℃である。
【0085】
500pptのアセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)については、比較例1では2.24であり、実施例1では5.67であり、実施例2では12.30であり、実施例3では21.11であり、実施例4では3.05であった。実施例1~4は、比較例1と比較して、高いセンサ応答を示した。実施例1~4の中でも実施例3(10%Ni-Sn)のセンサ応答は、最も高く、比較例1の約9.50倍であった。
【0086】
40pptのアセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)については、比較例1では1.10であり、実施例1では1.41であり、実施例2では1.72であり、実施例3では2.01であり、実施例4では1.25であった。500pptのアセトンの場合と同様に、実施例1~4は、比較例1と比較して、高いセンサ応答を示した。実施例1~4の中でも実施例3(10%Ni-Sn)のセンサ応答は、最も高く、比較例1の約1.83倍であった。
【0087】
図6は、実施例1~4および比較例1に係るガスセンサ(大気加熱後)について40~500pptの範囲内の複数の濃度(40ppt,60ppt,100ppt,200ppt,500ppt)におけるアセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)を示すグラフであり、
図7は、そのセンサ応答(Ra/Rg)の表である。なお、比較例1および実施例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2~4におけるセンサ駆動温度は225℃である。
【0088】
図6および
図7から把握される通り、実施例1~4は、何れの濃度においても、比較例1と比較して、高いセンサ応答を示した。そして、実施例1~4の中でも実施例3(10%Ni-Sn)のセンサ応答が、全ての濃度において最も高いことが確認できた。
【0089】
実施例3のセンサ応答の近似直線(y=0.0407x+1.16)から、実施例3のガスセンサの感度(近似曲線の傾き)が0.0407であることも確認された。実施例3のガスセンサの感度は、比較例1はもちろんのこと実施例1,2,4と比較しても高かった。すなわち、実施例3は、ガス濃度の変化に対してより大きなセンサ応答の変化を示すことを意味している。
【0090】
図8は、実施例2,3および比較例1について、複数のガス(アセトン,エタノール,イソプレン,アセトアルデヒド,トルエン,パラキシレン,水素,アンモニア)に対するセンサ応答(Ra/Rg)を示すグラフである。なお、比較例1のセンサ駆動温度は250℃であり、実施例2,3におけるセンサ駆動温度は225℃である。測定条件は、ガス濃度が500ppbであり、ガス流量が500sccmである。
【0091】
アセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では60.66であり、実施例2では20.79であり、比較例1は8.90であった。
【0092】
エタノールに対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では46.34であり、実施例2は10.15であり、比較例1では19.45であった。
【0093】
イソプレンに対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では42.01であり、実施例2は14.89であり、比較例1では3.65であった。
【0094】
アセトアルデヒドに対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では25.06であり、実施例2は8.69であり、比較例1では12.06であった。
【0095】
トルエンに対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では11.83であり、実施例2は6.60であり、比較例1では1.97であった。
【0096】
パラキシレンに対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では8.72であり、実施例2は9.17であり、比較例1では2.83であった。
【0097】
水素に対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では4.17であり、実施例2では5.04であり、比較例1では3.87であった。
【0098】
アンモニアに対するセンサ応答(Ra/Rg)は、実施例3では2.83であり、実施例2は1.55であり、実施例3では1.82であった。
【0099】
実施例2,3は、全てのガスに対して、比較例1よりもセンサ応答が高かった。具体的には、比較例1のセンサ応答に対する実施例2のセンサ応答の比率は、アセトン、エタノール、イソプレン、アセトアルデヒド、トルエン、パラキシレン、水素、アンモニアについて、それぞれ、2.34、0.52、4.08、0.72、3.35、3.24、1.30、0.85であった。比較例1のセンサ応答に対する実施例3のセンサ応答の比率は、アセトン、エタノール、イソプレン、アセトアルデヒド、トルエン、パラキシレン、水素、アンモニアについて、それぞれ、6.82、2.38、11.51、2.08、6.01、3.08、1.08、1.55であった。
【0100】
実施例2について、水素に対するセンサ応答を基準にすると、アセトン、イソプレン、エタノール、パラキシレン、セトアルデヒド、トルエンの順番でセンサ応答が高かったのに対して、アンモニアに対するセンサ応答は低かった。具体的には、アセトン、イソプレン、エタノール、パラキシレン、アセトアルデヒド、トルエンに対する応答は、水素に対するセンサ応答を基準にすると、それぞれ、4.13、2.95、2.01、1.82、1.72、1.31倍であった。それに対して、アンモニアに対するセンサ応答は、水素に対する応答を基準にすると、0.31倍であった。
【0101】
実施例3について、水素に対するセンサ応答を基準にすると、アセトン、エタノール、イソプレン、アセトアルデヒド、トルエン、パラキシレンに対するセンサ応答は高いのに対して、アンモニアに対するセンサ応答は低かった。具体的には、アセトン、エタノール、イソプレン、アセトアルデヒド、トルエン、パラキシレンへの応答は、水素に対するセンサ応答を基準にすると、それぞれ、14.55、11.11、10.07、6.01、2.84、2.09倍であった。それに対して、アンモニアに対するセンサ応答は、水素に対する応答を基準にすると、0.68倍であった。
【0102】
一方で、比較例1では、水素に対するセンサ応答を基準にすると、エタノール、アセトアルデヒド、アセトンの順番でセンサ応答はやや高かったのに対して、アンモニア、トルエン、パラキシレン、イソプレンの順番でセンサ応答は低かった。具体的には、エタノール、アセトアルデヒド、アセトンに対するセンサ応答は、水素に対する応答を基準にすると、それぞれ、5.03、3.12、2.30倍であった。それに対して、アンモニア、トルエン、パラキシレン、イソプレンに対する応答は、水素に対する応答を基準にすると、それぞれ、0.47、0.51、0.73、0.94倍であった。
【0103】
水素へのセンサ応答を基準にした際のアセトンへのセンサ応答の比率は、比較例1の2.30倍に対し、実施例3は14.55倍であり、比較例2は4.13倍であった。実施例2,3では、Niの効果により、4.13~14.55倍の高いアセトン/水素選択性を示した。
【0104】
水素へのセンサ応答を基準にした際のイソプレンへのセンサ応答の比率は、比較例1の0.94倍に対し、実施例3は10.07倍であり、実施例2は2.95倍であった。実施例2,3では、Niの効果により2.95~10.07倍の高いイソプレン/水素選択性を示した。
【0105】
水素へのセンサ応答を基準にした際のトルエンへのセンサ応答の比率は、比較例1の0.51倍に対し、実施例3は2.84倍であり、実施例2は1.31倍であった。実施例2,3では、Niの効果により1.31~2.84倍の高いトルエン/水素選択性を示した。
【0106】
水素へのセンサ応答を基準にした際のパラキシレンへのセンサ応答の比率は、比較例1の0.73倍に対し、実施例3は2.09倍であり、実施例2は1.82倍であった。実施例2,3では、Niの効果により1.82~2.09倍の高いパラキシレン/水素選択性を示した。
【0107】
<5>活性化エネルギー
実施例1~4および比較例1のガスセンサにおけるガス感応層の抵抗値を算出した。
図9に、実施例1~4および比較例1に係るガスセンサについての空気中での抵抗値(Ω)を示す。
図9に示される175℃、200℃、225℃、250℃、275℃および300℃におけるガス感応層の抵抗値(Ω)を用い、アレニウスプロットにて活性化エネルギーを算出した。
【0108】
算出した活性化エネルギーは、比較例1では0.269eVであり、実施例1では0.500eVであり、実施例2では0.799eVであり、実施例3では0.774eVであり、実施例4では0.804eVであった。実施例1~4の活性化エネルギーは、比較例1と比較して、高い値を示し、0.4eV以上0.9eV以下の範囲であることを特徴とすることが示された。
【0109】
以上の通り、Niが入っていない比較例1と比較して、Niを導入した実施例1~4は有意に活性化エネルギーが大きかった。これは、Niが電荷担体の伝導機構(導電機構)に影響を及ぼしていることを意味する。このような導電機構の変化がガスセンサとしての高性能化に寄与したと考えられる。
【0110】
なお、<4>センサ応答および<5>活性化エネルギーの結果からも、粉末X線回折測定においてNiOに由来する回折ピークが観測されなかった実施例1,2,4についてもNiが含有されていると言える。