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特開2024-72630光学フィルタおよびLiDARセンサ用カバー
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  • 特開-光学フィルタおよびLiDARセンサ用カバー 図1
  • 特開-光学フィルタおよびLiDARセンサ用カバー 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072630
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】光学フィルタおよびLiDARセンサ用カバー
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20240521BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240521BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240521BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
B32B7/023
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183582
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231475
【氏名又は名称】日本真空光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 要
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雅章
【テーマコード(参考)】
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA09
2H148FA16
2H148FA22
2H148FA24
2H148GA07
2H148GA18
2H148GA24
2H148GA36
2H148GA61
4F100AA17D
4F100AA20D
4F100AA21D
4F100AA22D
4F100AA24D
4F100AA27D
4F100AA28D
4F100AB11B
4F100AG00A
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100EH66B
4F100EH66C
4F100EH66D
4F100GB32
4F100JA12B
4F100JD10
4F100JG05B
4F100JG05C
4F100JN00
4F100JN02
4F100JN18C
4F100JN18D
4F100YY00
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】分光特性と外観上の意匠性と耐塩水腐食性に優れた光学フィルタを提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜と、前記誘電体多層膜上に積層された保護層とを備えた光学フィルタであって、前記誘電体多層膜は、アモルファスシリコンからなる層と、前記アモルファスシリコンからなる層とは屈折率が異なる層とを有し、前記保護層は、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、およびバナジウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を含む、光学フィルタ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜と、前記誘電体多層膜上に積層された保護層とを備えた光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、アモルファスシリコンからなる層と、前記アモルファスシリコンからなる層とは屈折率が異なる層とを有し、
前記保護層は、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、およびバナジウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を含む、光学フィルタ。
【請求項2】
前記保護層はシリカを含む、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記保護層は、酸化ニオブおよびシリカを含み、前記保護層の550nmにおける屈折率が1.49以上、かつ2.20以下である、請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記保護層において、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、およびバナジウムから選ばれる少なくとも1種の金属の原子数をM1とし、ケイ素の原子数をM2としたとき、比率(M1/(M1+M2))×100が、2.0%以上である、請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記保護層において、ニオブの原子数をM1Nbとし、ケイ素の原子数をM2としたとき、比率(M1Nb/(M1Nb+M2))×100が、4.0%以上かつ、45.0%以下である、請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記光学フィルタが、下記分光特性(i-1)~分光特性(i-4)をすべて満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-1)800nm~1600nmの波長領域における入射角5度での最小反射率R800-1600(5)MINが1.0%以下
(i-2)800nm~1600nmの波長領域における入射角60度での最小反射率R800-1600(60)MINが3.5%以下
(i-3)400nm~680nmの波長領域における入射角0度での平均透過率T400-680(0)AVEが5.0%以下
(i-4)D65光源下のもと、膜面の色味が、入射角0度~60度において、-10≦a≦+10、かつ、-10≦b≦+10
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたLiDARセンサ用カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視域の光を遮断し近赤外域の光を透過する光学フィルタ、および当該光学フィルタを備えたLiDARセンサ用カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
光検出測距(LiDAR)等の、近赤外レーザー光を対象物に照射して反射して戻る光を検知するセンサモジュールは、レーザー光源とセンサを保護するためのカバーを備えている。ここで、カバーには、センサの感度を高めるため、800nm以降の近赤外光を透過し外乱要因となる可視光を遮断する光学フィルタが用いられる。
【0003】
特許文献1には、透明基体と、高屈折率膜および低屈折率膜が積層された反射防止膜とを有し、近赤外光センサを有する車載表示装置のカバーに好適な反射防止膜付透明基体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6881172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
センサモジュールカバーとして用いうる光学フィルタには、近赤外光の透過性および可視光の遮蔽性といった分光特性に優れることと共に、外観上の意匠性を高めるために色味が黒色であることが、光の入射角度が高い場合であっても求められる。
さらに、センサモジュールカバーは、特に車載用の場合は海水や融雪剤等の外部環境に晒されることが想定され、カバーに用いられる光学フィルタには、上記分光特性に加えて、高い耐塩水腐食性が求められる。
本発明は、分光特性と外観上の意匠性と耐塩水腐食性に優れた光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜と、前記誘電体多層膜上に積層された保護層とを備えた光学フィルタであって、前記誘電体多層膜は、アモルファスシリコンからなる層と、前記アモルファスシリコンからなる層とは屈折率が異なる層とを有し、前記保護層は、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、およびバナジウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を含む、光学フィルタ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、近赤外光の透過性および可視光の遮蔽性に優れ、外観上の色味が黒色であり、耐塩水腐食性に優れた光学フィルタ、および当該光学フィルタを備えたLiDARセンサ用カバーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。特定の波長域における平均透過率は、該波長域の1nm毎の透過率の相加平均である。
なお、特に断らない限り、屈折率は、20℃における波長550nmの光に対する屈折率をいう。
分光特性は、分光光度計を用いて測定できる。または、光学薄膜計算ソフトによるシミュレーションにて算出できる。
分光特性に関し、入射角が特に表記されていない場合は0度(光学フィルタ主面に対し垂直方向)であることを意味する。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0010】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜と、前記誘電体多層膜上に積層された保護層とを備える。
【0011】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。図1は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す光学フィルタ1Aは、基材10の一方の主面側に誘電体多層膜S1を有し、誘電体多層膜S1上に保護層20を有する例である。なお、「基材の主面側に特定の層を有する」とは、基材の主面に接触して該層が備わる場合に限らず、基材と該層との間に、別の機能層が備わる場合も含む。
図2に示す光学フィルタ1Bは、基材10の一方の主面側に誘電体多層膜S1を有し、他方の主面側に誘電体多層膜S2を有し、誘電体多層膜S1上に保護層20を有する例である。
【0012】
<基材>
本フィルタにおける基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。また基材の材質としては近赤外光を透過する透明性材料であれば、有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。また、異なる複数の材料を複合して用いてもよい。
【0013】
透明性無機材料としては、ガラスや結晶材料が好ましい。
ガラスとしては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス等が挙げられる。
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0014】
結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0015】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
また基材の厚さは、誘電体多層膜成膜時の反り低減、光学フィルタ低背化、割れ抑制の観点から、0.1mm~5mmが好ましく、より好ましくは2mm~4mmである。
【0016】
<誘電体多層膜>
基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜は、少なくとも一方は波長選択性を有するように設計される。本発明においては、可視光を遮蔽し、かつ、近赤外光を透過する層(以下「可視光遮蔽層」とも記載する。)である。誘電体多層膜が基材の両面側に積層される場合、両方の誘電体多層膜が可視光遮蔽層であってもよいし、一方のみが近赤外光透過層であってもよい。また、一方が可視光遮蔽層である場合、他方の誘電体多層膜は、反射防止層等の他の目的を有する層として設計されてもよい。
【0017】
可視光を遮蔽し、かつ、近赤外光を透過する層である誘電体多層膜について説明する。
誘電体多層膜は、少なくとも一方は、アモルファスシリコンからなる層(以下「a-Si層」とも記載する。)と、アモルファスシリコンからなる層とは屈折率が異なる層(以下「他の誘電体層」とも記載する。)とを有する。屈折率の異なる薄膜を積層することで、光の干渉作用を利用して反射率を増減できる。
【0018】
アモルファスシリコンは可視光吸収能を有するため、誘電体多層膜がa-Si層を有することで、可視光の遮蔽性に優れた光学フィルタが得られる。また、可視光を吸収により遮蔽できれば、反射により遮蔽する必要がないため、可視光反射率が小さくなるように誘電体多層膜を設計することが可能となる。その結果、可視光の透過率も反射率も小さい、すなわち色味が黒色である光学フィルタが得られる。また、誘電体多層膜の積層数や各誘電体層の膜厚が小さくても可視光領域を十分に遮蔽できるため、光学フィルタ全体の薄型化が実現できる。
【0019】
アモルファスシリコンとしては、水素がドープされていないものが好ましく、電子スピン共鳴装置で測定できるスピン密度は好ましくは5.0E+10以上(個/(nm*cm))であり、600nmの消衰係数k600が、0.12以上がよい。
【0020】
アモルファスシリコンの550nmにおける屈折率は4.75である。他の誘電体層はこれと異なる屈折率を有する層であれば限定されない。
【0021】
他の誘電体層を構成する材料としては、例えばTa(屈折率2.15)、Nb(屈折率2.35)、TiO(屈折率2.45)、ZrO(屈折率2.12)、HfO(屈折率2.14)、SiO(屈折率2.01)、Al(屈折率1.61)、SiO(屈折率1.48)、SiO(屈折率1.72)、SiN(屈折率2.00)等が挙げられ、1種以上を用いることができる。これらの中でも、アモルファスシリコンとの屈折率差が大きいため、近赤外領域の反射率低減の観点、可視光領域の反射色の観点、生産性の観点から、少なくともSiOを含むことが好ましい。また、高い入射角度の光に対する近赤外領域の反射率増大の抑制効果が大きい良好な膜設計が可能となる観点と、光学定数の再現性の高さの観点から、NbおよびTaの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0022】
誘電体多層膜の総積層数は、可視光領域の反射率低減の観点、高入射角の光に対する近赤外光領域の反射率増大の抑制の観点、可視光領域の透過率低減の観点を考慮して設定でき、好ましくは25層~60層であり、より好ましくは28層~50層である。
【0023】
誘電体多層膜における、a-Si層の総積層数は、可視光領域の透過率低減の観点から、好ましくは7層~19層であり、より好ましくは9層~16層である。
【0024】
誘電体多層膜の膜厚は、可視光領域の反射率低減の観点、及び、可視光領域の透過率低減の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から、好ましくは1.2μm~5.0μmであり、より好ましくは1.8μm~2.9μmである。
【0025】
誘電体多層膜における、各a-Si層の膜厚は、好ましくは1nm~300nmである。可視光反射性抑制(可視光吸収性向上)の観点からは、吸収性のa-Si層の膜厚を増大させることが有利である。しかし、一般的に光吸収特性は連続的であるため、可視光だけでなく近赤外も含めた吸収能が全体的に向上してしまい、近赤外域透過性が低下するおそれがある。a-Si層の膜厚が上記範囲であれば、可視光の遮蔽性と、高入射角であっても近赤外光の高い透過性を両立できる。
【0026】
誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等が使用できる。
【0027】
誘電体多層膜を反射防止層として設計する場合も、可視光遮蔽層と同様に屈折率の異なる誘電体層を積層して得られる。なお、反射防止層は、誘電体多層膜以外に、中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造等から形成されてもよい。
【0028】
<保護層>
本フィルタにおいて保護層は、誘電体多層膜を外部環境から保護し、光学フィルタの耐久性を高めるために設けられる。
保護層は、光学フィルタの耐塩水腐食性を高めることができ、SiOよりも結合エネルギーの大きな金属酸化物が含まれることが望ましい。具体的には、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、バナジウム、ランタイノイド系元素、スカンジウム、イットリウム、亜鉛、アルミニウム、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を含む。耐塩水腐食性以外の耐久性、及び、コストも考慮すると、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、およびバナジウムの内少なくとも1種を含むことが好ましい。保護層がかかる金属酸化物を含むことで、特に、光学フィルタの耐塩水腐食性を高めることができる。また、上記金属酸化物であれば、光学フィルタの分光特性に影響しない程度に複層化や薄膜化しても十分な耐久性が得られる。なお、本発明における金属酸化物には、上記の2種以上の金属を含む複合金属酸化物も包含される。さらに、保護層は、金属の種類が異なる2種以上の金属酸化物を含んでもよい。
【0029】
保護層は、上記金属酸化物と共にシリカ(SiO)を含むことが好ましく、金属酸化物が酸化ニオブである場合に特に好ましい。
上記金属のうち、ニオブ以外の金属の酸化物は、耐塩水腐食性と共に耐アルカリ性にも優れる。ニオブを用いる場合は、酸化ニオブと共にSiO(シリカ)を含むことで、耐アルカリ性を高めることができる。
【0030】
保護層が、金属酸化物とシリカを含む場合、保護層の550nmにおける屈折率は好ましくは1.49以上、かつ好ましくは2.20以下である。保護層の屈折率が上記範囲であれば光学フィルタの分光特性が良好であり好ましい。保護層の屈折率は金属酸化物とシリカの割合を調整することで制御できる。
【0031】
保護層が、酸化ニオブとシリカを含む場合、保護層の550nmにおける屈折率は好ましくは1.49以上、かつ好ましくは2.20以下である。保護層の屈折率が上記範囲であれば光学フィルタの分光特性が良好であり好ましい。
【0032】
保護層が、金属酸化物とシリカを含む場合、保護層における金属の原子数をM1とし、ケイ素の原子数をM2としたときの比率(M1/(M1+M2))×100は、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは5.0%以上である。金属とケイ素の原子数比率が上記範囲であれば耐塩水腐食性と耐アルカリ性に優れ好ましい。
【0033】
保護層が、酸化ニオブとシリカを含む場合、保護層におけるニオブの原子数をM1Nbとし、ケイ素の原子数をM2としたときの比率(M1Nb/(M1Nb+M2))×100は、好ましくは4.0%以上かつ45.0%以下であり、より好ましくは8.0%以上かつ35.0%以下である。ニオブとケイ素の原子数比率が上記範囲であれば、保護層の屈折率が上記の好ましい範囲となり、また保護層の耐アルカリ性が十分であり好ましい。
【0034】
保護層の膜厚は、好ましくは5nm以上、より好ましくは20nm以上である。膜厚が上記範囲であれば、保護層の下層にある誘電体多層膜をカバレッジよく覆うことができ十分な耐久性が得られる。また保護層の膜厚は、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下であるが、光学特性には屈折率も影響するため、保護層の膜厚が50nm以下の薄い場合は保護層の屈折率は2.20以下が好ましく、保護層の膜厚が50nm以上の場合の保護層の屈折率は1.95以下が好ましい。上記範囲であれば、光学フィルタの分光特性が良好に維持される。
【0035】
保護層は単層であっても複層であっても、混合比を徐々に変化させた傾斜膜としてもよい。複層であっても保護層の総厚は上記好ましい範囲であることが好ましい。
【0036】
保護層の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等が使用できる。
保護層構成材料として2種以上の金属を用いる場合、または1種以上の金属およびケイ素を用いる場合は、材料となる金属およびケイ素を同時に用いて成膜できる。
【0037】
<分光特性>
上記の構成を有する本発明の一実施形態の光学フィルタは、下記分光特性(i-1)~分光特性(i-4)をすべて満たすことが好ましい。
(i-1)800nm~1600nmの波長領域における入射角5度での最小反射率R800-1600(5)MINが1.0%以下
(i-2)800nm~1600nmの波長領域における入射角60度での最小反射率R800-1600(60)MINが3.5%以下
(i-3)400nm~680nmの波長領域における入射角0度での平均透過率T400-680(0)AVEが5.0%以下
(i-4)D65光源下のもと、膜面の色味が、入射角0度~60度において、-10≦a≦+10、かつ、-10≦b≦+10
【0038】
分光特性(i-1)および(i-2)を満たすことで、高入射角であっても近赤外光領域の反射率が小さい光学フィルタが得られる。
分光特性(i-3)を満たすことで、可視光の遮蔽性に優れた光学フィルタが得られる。
分光特性(i-4)を満たすことで、入射角度の広範囲において色味が黒色の光学フィルタが得られる。
【0039】
本発明の一実施形態の光学フィルタは、さらに、下記分光特性(i-5)を満たすことが好ましい。
(i-5)800nm~1600nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T800-1600(0)MAXが90%以上
【0040】
本発明の一実施形態の光学フィルタは、さらに、下記分光特性(i-6)を満たすことが好ましい。
(i-6)D65光源下のもと、膜面の色味が、入射角0度~60度において、Δa×Δbが好ましくは0~100、より好ましくは0~40である。
Δa×Δbが小さいほど色味の変化が小さく好ましい。分光特性(i-6)を満たすことで、入射角度の広範囲において色味の変化が小さく黒色の光学フィルタが得られる。
【0041】
<LiDARセンサ用カバー>
本発明の一実施形態のLiDARセンサ用カバーは、上記本発明の一実施形態の光学フィルタを備える。これにより、感度、外観、および耐久性に優れたセンサが得られる。
本発明の一実施形態のLiDARセンサ用カバーをセンサモジュールに実装する際は、保護層が外側(センサと反対側)となるように配置することが好ましい。
【0042】
上記の通り、本明細書は下記の光学フィルタ等を開示する。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜と、前記誘電体多層膜上に積層された保護層とを備えた光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、アモルファスシリコンからなる層と、前記アモルファスシリコンからなる層とは屈折率が異なる層とを有し、
前記保護層は、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、およびバナジウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を含む、光学フィルタ。
〔2〕前記保護層はシリカを含む、〔1〕に記載の光学フィルタ。
〔3〕前記保護層は、酸化ニオブおよびシリカを含み、前記保護層の550nmにおける屈折率が1.49以上、かつ1.85以下である、〔2〕に記載の光学フィルタ。
〔4〕前記保護層において、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、タングステン、スズ、セリウム、クロム、ニッケル、およびバナジウムから選ばれる少なくとも1種の金属の原子数をM1とし、ケイ素の原子数をM2としたとき、比率(M1/(M1+M2))×100が、2.0%以上である、〔2〕または〔3〕に記載の光学フィルタ。
〔5〕前記保護層において、ニオブの原子数をM1Nbとし、ケイ素の原子数をM2としたとき、比率(M1Nb/(M1Nb+M2))×100が、4.0%以上かつ、45.0%以下である、〔2〕~〔4〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
〔6〕前記光学フィルタが、下記分光特性(i-1)~分光特性(i-4)をすべて満たす、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
(i-1)800nm~1600nmの波長領域における入射角5度での最小反射率R800-1600(5)MINが1.0%以下
(i-2)800nm~1600nmの波長領域における入射角60度での最小反射率R800-1600(60)MINが3.5%以下
(i-3)400nm~680nmの波長領域における入射角0度での平均透過率T400-680(0)AVEが5.0%以下
(i-4)D65光源下のもと、膜面の色味が、入射角0度~60度において、-10≦a≦+10、かつ、-10≦b≦+10
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の光学フィルタを備えたLiDARセンサ用カバー。
【実施例0043】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
分光特性は、光学薄膜計算ソフトによるシミュレーションにて算出した。
分光特性に関し、入射角が特に表記されていない場合は0度(光学フィルタ主面に対し垂直方向)での値である。
透明ガラス基板として厚さ2mmのアルミノシリケートガラス板を用いた。
保護層の屈折率は、分光光度計で得られた分光スペクトルを用いて算出した。
誘電体多層膜の材料としては、a-Si(水素ドープされていないアモルファスシリコン)(屈折率4.75)、SiO(屈折率1.48)、Nb(屈折率2.35)、Ta(屈折率2.15)を用いた。
【0044】
(例1-1~例1-17)
透明ガラス基板の一方の主面に、ArとOガスを用いたスパッタリング法により、Taを膜厚200nmとなるように成膜し、さらに、保護層の材料として表1に記載の材料M1のみ、または材料M1と材料M2の両方を用い、表1に示す比率となる組成比で膜厚200nmの酸化膜を保護層として形成した。なお、Ta膜は、目視で保護層を識別しやすくするために、下地膜として配置した。保護層である酸化膜の作製は、合金ターゲットやコスパッタリングにより作製した。
例1-17では材料M1を含めずSiO膜を表層とし、保護層を形成しなかった。
【0045】
<耐塩水腐食性試験>
5質量%NaCl水溶液10μLを、作製したサンプルの膜表面にマイクロピペットを用いて滴下し、65℃、95%の恒温恒湿槽内にて保管し、変色(腐食)するまでの時間を計測した。
10時間以上であれば耐塩水腐食性に優れるとした。
【0046】
<耐アルカリ性試験>
5質量%NaOH水溶液500mLを入れたビーカーを準備し、ヒーターでNaOH水溶液を30℃とした後、作製したサンプルをNaOH水溶液の中に浸漬し、40分間経った後にサンプルを取り出した。NaOH水溶液に浸漬させる前後のサンプルの分光スペクトルから、それぞれ膜厚を算出し、表1に記載の保護層や、例1-17のSiO膜の溶解速度を算出した。
0.5nm/min以下であれば耐アルカリ性に優れるとした。
【0047】
上記評価結果を下記表1に示す。
例1-1~例1-16は参考例であり、例1-17は比較参考例である。
【0048】
【表1】
【0049】
上記例1-1~1-16の結果より、Zr、TaまたはNbの酸化物を含む保護層を最表面に備えることで、耐塩水腐食性に優れた光学フィルタが得られることが分かる。また例1-1~1-4、例1-11~1-16の結果より、保護層がZrまたはTaの酸化物を含む場合は耐アルカリ性に優れた光学フィルタが得られることが分かる。例1-5~1-10の結果より、保護層がNb酸化物を含む場合はシリカをさらに含有し、原子数比率を調整することで耐アルカリ性に優れた光学フィルタが得られることが分かる。
一方、所定の組成を有する保護層を実質的に備えていない例1-17の光学フィルタは、耐塩水腐食性および耐アルカリ性が不十分であった。
表1においては、保護層の下地にTa膜を配置した評価結果となるが、a-Si膜とSiO膜とを積層した多層膜の上に、表1に記載の保護層を設けた構成においても、耐塩水腐食性と耐アルカリ性の傾向が同様であることを確認した。
【0050】
(例2-1)
透明ガラス基板の一方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Nbを積層して、総積層数13、総膜厚0.7μmの誘電体多層膜(S1)を形成した。透明ガラス基板の他方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Nbを積層して、総積層数17、総膜厚1.2μmの誘電体多層膜(S2)を形成した。
誘電体多層膜(S1)の表面に、コスパッタリング法により、SiとNbとを同時に蒸着し、SiとNbの酸化物を含む、表2に示す屈折率の保護層を形成した。
以上より、例2-1の光学フィルタを得た。
【0051】
(例2-2~例2-14)
SiとNbの比率を調整し保護層の屈折率が表2に示す値となるようにしたこと、および保護層の厚さを表2に示す値としたこと以外は、例2-1と同様の条件として、例2-2~例2-14の光学フィルタをそれぞれ製造した。
【0052】
分光特性を下記表2に示す。
なお例2-1~例2-14は実施例である。
【0053】
【表2】
【0054】
上記結果より、分光特性に優れた光学フィルタが得られた。さらに、aおよびbが-10~+10の範囲内にあることから外観上の意匠性に優れた光学フィルタが得られた。なお、例2-9、例2-13、例2-14は、入射角60°での800~1600nmにおける最小反射率が3.5%を超えたことから、保護層の膜厚が大きい場合は保護層の屈折率を高め過ぎないことが好ましいと言える。
【0055】
(例3-1)
透明ガラス基板の一方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Taを積層して、総積層数13、総膜厚0.8μmの誘電体多層膜(S1)を形成した。透明ガラス基板の他方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Taを積層して、総積層数16、総膜厚1.2μmの誘電体多層膜(S2)を形成した。
誘電体多層膜(S1)の表面に、コスパッタリング法により、SiとTaとを同時に蒸着し、SiとTaの酸化物を含む、表3に示す屈折率の保護層を形成した。
以上より、例3-1の光学フィルタを得た。
【0056】
(例3-2~例3-12)
SiとTaの比率を調整し保護層の屈折率が表3に示す値となるようにしたこと、および保護層の厚さを表3に示す値としたこと以外は、例3-1と同様の条件として、例3-2~例3-12の光学フィルタをそれぞれ製造した。
【0057】
分光特性を下記表3に示す。
なお例3-1~例3-12は実施例である。
【0058】
【表3】
【0059】
上記結果より、分光特性に優れた光学フィルタが得られた。さらに、aおよびbが-10~+10の範囲内にあることから外観上の意匠性に優れた光学フィルタが得られた。なお、例3-7、例3-8、例3-11、例3-12は、入射角60°での800~1600nmにおける最小反射率が3.5%を超えたことから、保護層の膜厚が大きい場合は保護層の屈折率を高め過ぎないことが好ましいと言える。
【0060】
(例4-1)
透明ガラス基板の一方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Taを積層して、総積層数32、総膜厚2.3μmの誘電体多層膜(S1)を形成した。透明ガラス基板の他方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Taを積層して、総積層数23、総膜厚2.1μmの誘電体多層膜(S2)を形成した。
誘電体多層膜(S1)の表面に、コスパッタリング法により、SiとTaとを同時に蒸着し、SiとTaの酸化物を含む、表4に示す屈折率の保護層を形成した。
以上より、例4-1の光学フィルタを得た。
【0061】
(例4-2~例4-10)
SiとTaの比率を調整し保護層の屈折率が表4に示す値となるようにしたこと、および保護層の厚さを表4に示す値としたこと以外は、例4-1と同様の条件として、例4-2~例4-10の光学フィルタをそれぞれ製造した。
【0062】
分光特性を下記表4に示す。
なお例4-1~例4-10は実施例である。
【0063】
【表4】
【0064】
上記結果より、分光特性に優れた光学フィルタが得られた。さらに、aおよびbが-10~+10の範囲内にあることから外観上の意匠性に優れた光学フィルタが得られた。
【0065】
(例5-1)
透明ガラス基板の一方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Nbを積層して、総積層数29、総膜厚1.6μmの誘電体多層膜(S1)を形成した。透明ガラス基板の他方の主面に、スパッタリング法により、a-Si、SiO、Nbを積層して、総積層数17、総膜厚2.2μmの誘電体多層膜(S2)を形成した。
誘電体多層膜(S1)の表面に、コスパッタリング法により、SiとNbとを同時に蒸着し、SiとNbの酸化物を含む、表5に示す屈折率の保護層を形成した。
以上より、例5-1の光学フィルタを得た。
【0066】
(例5-2~例5-15)
SiとNbの比率を調整し保護層の屈折率が表5に示す値となるようにしたこと、および保護層の厚さを表5に示す値としたこと以外は、例5-1と同様の条件として、例5-2~例5-15の光学フィルタをそれぞれ製造した。
【0067】
分光特性を下記表5に示す。
なお例5-1~例5-15は実施例である。
【0068】
【表5】
【0069】
上記結果より、分光特性に優れた光学フィルタが得られた。さらに、aおよびbが-10~+10の範囲内にあることから外観上の意匠性に優れた光学フィルタが得られた。なお、例5-10、例5-15は、Δa×Δbが大きいことから、保護層の膜厚が大きい場合は保護層の屈折率を高め過ぎないことが好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の光学フィルタは、近赤外光の透過性と可視光の遮蔽性に優れることから、近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等の情報取得装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0071】
1A,1B…光学フィルタ
10…基材
20…保護層
S1…誘電体多層膜
S2…誘電体多層膜
図1
図2