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特開2024-72648光ファイバ母材の製造システムおよび光ファイバ母材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072648
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造システムおよび光ファイバ母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20240521BHJP
   C03B 37/014 20060101ALI20240521BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20240521BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C03B37/012 Z
C03B37/014 Z
C03B37/018 A
C03B37/018 C
G05B11/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183606
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】敷島 真也
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐司
【テーマコード(参考)】
4G021
5H004
【Fターム(参考)】
4G021BA00
4G021CA12
4G021EA01
4G021EA03
5H004GA02
5H004GB01
5H004GB15
5H004HA01
5H004HA02
5H004HA03
5H004HA08
5H004HB01
5H004HB02
5H004HB03
5H004HB08
5H004JA01
5H004KD31
(57)【要約】
【課題】光ファイバ母材のロッド内における特性値のばらつきを低減すること。
【解決手段】本発明における光ファイバ母材の製造システムは、所定の製造条件によって製造された光ファイバ母材の長手方向のロッド位置毎に、前記ロッドの特性値を関連付けたデータベースを記憶する記憶部と、前記データベースに基づき、所望の目標特性値を得るための前記製造条件を前記ロッド位置毎に表す予測モデルを算出する算出部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の製造条件によって製造された光ファイバ母材の長手方向のロッド位置毎に、前記光ファイバ母材の特性値を関連付けたデータベースを記憶する記憶部と、
前記データベースに基づき、所望の目標特性値を得るための前記製造条件を前記ロッド位置毎に表す予測モデルを算出する算出部とを備える光ファイバ母材の製造システム。
【請求項2】
前記算出部は、前記製造条件から予測される前記特性値と、前記目標特性値との差分に基づき、前記予測モデルを算出する請求項1に記載の光ファイバ母材の製造システム。
【請求項3】
前記予測モデルは、前記製造条件を説明変数とし前記特性値を目的変数とする回帰式で表されることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造システム。
【請求項4】
前記予測モデルは、前記回帰式の回帰係数が予め定められた範囲内となるように算出される請求項3に記載の光ファイバ母材の製造システム。
【請求項5】
前記予測モデルは、前記予測モデルにおける隣接する前記ロッド位置の前記製造条件の差が予め定められた範囲内となるように算出される請求項1に記載の光ファイバ母材の製造システム。
【請求項6】
前記予測モデルは、前記特性値、前記ロッド位置を入力し、前記製造条件を出力する学習モデルであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造システム。
【請求項7】
前記製造条件を表示する表示部をさらに備える請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造システム。
【請求項8】
前記予測モデルは1種類の前記製造条件により構成される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造システム。
【請求項9】
記憶部によって、所定の製造条件によって製造された光ファイバ母材の長手方向のロッド位置毎に、前記光ファイバ母材の特性値を関連付けたデータベースを記憶するステップと、
算出部によって、前記データベースに基づき、所望の目標特性値を得るための前記製造条件を前記ロッド位置毎に表す予測モデルを算出するステップとを備える光ファイバ母材の製造方法。
【請求項10】
ターゲットロッドにガラス微粒子を吹き付けてスートを形成する第1のステップと、
前記スートを加熱し、ガラス化されたコアロッドを形成する第2のステップと、
前記コアロッドを検査する第3のステップとをさらに備え、
前記算出部は、前記3のステップの前に、前記第1のステップまたは前記第2のステップにおける前記予測モデルを算出する請求項9に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の光ファイバ母材の製造方法によって製造した前記光ファイバ母材を線引し、光ファイバ裸線を生成する第4のステップと、
前記光ファイバ裸線の周囲に樹脂を被覆させる第5のステップとを備える光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造システムおよび光ファイバ母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の特性値を予測し、予測結果に基づいて製造条件の最適化を行う技術が知られている。特許文献1に記載の製造システムは、製品の製造ロット毎に製造プロセスの各工程の製造条件を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-90947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の製造システムを光ファイバ母材の製造プロセスに適用する場合、光ファイバ母材毎に製造条件が算出される。しかし、光ファイバ母材のロッドの位置によって適切な製造条件が異なり得る。このため、ロッド内において特性値がばらつくことがある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、光ファイバ母材のロッド内における特性値のばらつきを低減することを目的とする。
【0006】
本発明の一観点によれば、所定の製造条件によって製造された光ファイバ母材の長手方向のロッド位置毎に、前記ロッドの特性値を関連付けたデータベースを記憶する記憶部と、前記データベースに基づき、所望の目標特性値を得るための前記製造条件を前記ロッド位置毎に表す予測モデルを算出する算出部とを備える光ファイバ母材の製造システムが提供される。
【0007】
また、本発明の他の一観点によれば、記憶部によって、所定の製造条件によって製造された光ファイバ母材の長手方向のロッド位置毎に、前記光ファイバ母材の特性値を関連付けたデータベースを記憶するステップと、算出部によって、前記データベースに基づき、所望の目標特性値を得るための前記製造条件を前記ロッド位置毎に表す予測モデルを算出するステップとを備える光ファイバ母材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光ファイバ母材のロッド内における特性値のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る製造システムのシステム構成図である。
図2】第1実施形態に係るVAD装置の図である。
図3】第1実施形態に係るガラス化装置の図である。
図4】第1実施形態に係る制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5】第1実施形態に係るデータベースの構成例を示す図である。
図6】第1実施形態に係る製造方法の概略を表すフローチャートである。
図7】第1実施形態に係る製造システムのフローチャートである。
図8】第1実施形態に係る予測モデルの一例である。
図9】第1実施形態に係る予測モデルの一例である。
図10】第1実施形態に係る予測モデルの一例である。
図11】第1実施形態に係る予測モデルの変形例である。
図12】第2実施形態に係る製造システムの学習モデルの概念図である。
図13】第2実施形態に係る製造システムのフローチャートである。
図14】第2実施形態に係る製造システムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。各図面を通じて共通する機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略または簡略化することがある。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る製造システムのシステム構成図である。製造システムは、VAD装置1、ガラス化装置2、検査装置3、OVD装置4、制御装置5およびネットワーク6を備える。
【0012】
VAD装置1は、VAD(Vaper-phase Axial Deposition)法を用いてガラス微粒子を堆積させ、多孔質体(スート)を形成する。ガラス化装置2は、スートを加熱およびガラス化させ、コアロッドを形成する。
【0013】
検査装置3は、プリフォームアナライザであり得る。検査装置3はコアロッドの長手方向の位置毎の特性値を取得し、コアロッドを検査する。特性値は、MFD(Mode-iField Diameter)、カットオフ波長、コアの外径とクラッドの外径との比(コア/クラッド外径比)を含み得る。
【0014】
OVD装置4は、OVD(Outside Vaper Deposition)法を用いてロッドにクラッドのためのガラス微粒子を堆積させる。ガラス微粒子が堆積されたコアロッドを加熱することによって光ファイバ母材が形成される。光ファイバ母材は、不図示の線引き装置によって線引きされ、光ファイバ裸線となる。また、光ファイバ裸線の周囲に樹脂を被覆させることによって、光ファイバ裸線から光ファイバ素線が得られる。
【0015】
制御装置5は、ネットワーク6を介してVAD装置1、ガラス化装置2、検査装置3、OVD装置4と通信可能に接続される。制御装置5は、VAD装置1、ガラス化装置2、検査装置3、OVD装置4を制御する。図示されていないが、製造システムは、コアロッドを加熱して延伸する延伸装置、光ファイバ母材の線引き装置、光ファイバ裸線の周囲に被覆層を形成する被覆装置などを含み得る。
【0016】
図2は、本実施形態に係るVAD装置1の図である。VAD装置1は、筐体11、排気機構12、回転機構13、駆動機構14、バーナー15、制御部16を備える。VAD装置1は、ターゲットロッド100にスート101を堆積させる。
【0017】
筐体11は、側壁および2つの底壁を備える箱状をなしている。筐体11は、頑丈な金属から構成され得るが、筐体11の材料は特定の材料に限定されない。筐体11の側壁には、排気機構12が設けられている。排気機構12は、不図示のポンプおよび弁を有し、バーナー15の燃焼により生じるガスを筐体11の外部に排気する。
【0018】
筐体11内には、ターゲットロッド100が収容されている。ターゲットロッド100は、例えば石英ガラスにより構成される。ターゲットロッド100の一端は、回転機構13に接続される。回転機構13は、チャック、モータなどを備え、ターゲットロッド100を把持しながら回転させる。駆動機構14は、モータなどを含み得る。駆動機構14は、回転機構13を昇降させることにより、ターゲットロッド100を上下(長手方向)に移動可能である。また、駆動機構14はターゲットロッド100の長手方向の移動量を測定する変位計を備え得る。
【0019】
バーナー15は、筐体11内に設けられ、ターゲットロッド100に対向するように設けられる。バーナー15は、多重管バーナーであり得る。バーナー15の数は図2の例に限定されず、任意の数に選択され得る。また、バーナー15は、複数のバーナー15を一体とするバーナーアレイの形態をとってもよい。
【0020】
バーナー15は、火炎形成用ガスを供給するノズルおよび原料ガスを供給するノズルを備える。火炎形成用ガスは、水素等の燃焼性ガス、酸素等の助燃性ガス等を含み得る。原料ガスは、四塩化ケイ素、四塩化ゲルマニウムを含み得る。四塩化ケイ素はガラスの原料として用いられる。また、四塩化ゲルマニウムは、ガラスの屈折率を高めるためのドーパント源として用いられる。バーナー15は、水素および酸素の燃焼によって酸水素火炎を噴出する。酸水素火炎に原料ガスが供給されることによって、原料ガスが火炎加水分解し、ガラス微粒子が生成する。生成されたガラス微粒子は、ターゲットロッド100に吹き付けられる。ターゲットロッド100は、筐体11の内部において昇降および回転しながら、ターゲットロッド100の周囲にバーナー15によってガラス微粒子が吹き付けられる。これにより、ターゲットロッド100の周囲に多孔質ガラスからなるスート101が形成される。
【0021】
バーナー15に供給される火炎形成用ガスおよび原料ガスの組成を変更することによって、スート101内に屈折率の異なる複数の領域を形成することができる。例えば、スート101の形成過程において、まず、バーナー15は、四塩化ゲルマニウムを含む原料ガスを酸水素火炎に供給する。原料ガスから生成されるガラス微粒子は高い屈折率を有し、ターゲットロッド100に堆積する。その後、バーナー15は、四塩化ゲルマニウムを含まない原料ガスを酸水素火炎に供給する。原料ガスから生成されるガラス微粒子は低い屈折率を有し、ターゲットロッド100に堆積する。このようにして得られるスート101は、高い屈折率を有するコア部と、コア部の周囲に低い屈折率を有するクラッド部とを備える。
【0022】
制御部16は、予め定められた製造条件に従い、排気機構12、回転機構13、駆動機構14およびバーナー15を制御する。VAD装置1の製造条件は、排気機構12の排気圧力および排気風量、回転機構13のターゲットロッド100の回転速度、駆動機構14のターゲットロッド100の長手方向の移動速度、バーナー15の四塩化ケイ素流量、四塩化ゲルマニウム流量、酸素流量および水素流量、ターゲットロッド100の表面温度であり得る。また、制御部16はターゲットロッド100の長手方向の位置毎に製造条件を変更可能である。なお、ターゲットロッド100の隣接する位置間の製造条件の変更は、隣接する位置間を複数の領域に分割し、領域ごとに階段状に製造条件を変更させることによって実行され得る。
【0023】
図3は、本実施形態に係るガラス化装置2の図である。ガラス化装置2は、炉心管21、給気機構22、排気機構23、回転機構24、駆動機構25、ヒータ26および制御部27を備える。ガラス化装置2によって、スート101がガラス化し、コアロッド102が得られる。
【0024】
炉心管21は、天井部、側部および底部を有する円筒状をなしている。炉心管21は、石英ガラス等で構成され得る。給気機構22は、炉心管21の側部の下方に設けられ、不図示のポンプおよび弁を備える。給気機構22は、炉心管21に雰囲気ガスを供給する。雰囲気ガスは、塩素、塩化チオニル等の脱水ガス、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを含み得る。排気機構23は、炉心管21の側部の上方に設けられ、不図示のポンプおよび弁を備える。排気機構23は、炉心管21に充填された雰囲気ガスを炉心管21の外部に排気する。
【0025】
炉心管21には、スート101が収容されている。スート101の一端は、回転機構24に接続される。回転機構24は、回転機構13と同様に構成され得る。回転機構24は、スート101の端部を把持しながら回転させる。駆動機構25は、駆動機構14と同様に構成され得る。駆動機構25は、スート101を昇降させ、スート101の長手方向の移動を可能としている。
【0026】
炉心管21の周囲には、ヒータ26が設けられる。ヒータ26は、テープヒータ、リボンヒータ、ラバーヒータ、オーブンヒータ、セラミックヒータ、ハロゲンヒータなどの任意の熱源であり得る。スート101は、炉心管21の内部において回転および昇降しながらヒータ26によって加熱される。ヒータ26の加熱温度は約1400℃であり得る。これにより、スート101の多孔質ガラスがガラス化し、コアロッド102が得られる。
【0027】
制御部27は、予め定められた製造条件に従い、給気機構22、排気機構23、回転機構24、駆動機構25、ヒータ26の動作を制御可能である。ガラス化装置2における製造条件は、給気機構22および排気機構23の雰囲気ガス流量および雰囲気ガス圧力、回転機構24のスート101の回転速度、駆動機構25のスート101の移動速度、ヒータ26の加熱温度を制御可能である。また、制御部27はスート101の長手方向の位置毎に製造条件を変更可能である。なお、スート101の隣接する位置間の製造条件の変更は、隣接する位置間を複数の領域に分割し、領域ごとに階段状に製造条件を変更させることによって実行され得る。
【0028】
図4は、制御装置5のハードウェア構成を示すブロック図である。制御装置5は、CPU(算出部)51、RAM52、ROM53および記憶装置(記憶部)54を備える。また、制御装置5は、通信I/F55、入出力装置56、表示装置57を備える。なお、制御装置5の各部は、バス、配線、駆動装置等を介して相互に接続される。
【0029】
図4では、制御装置5を構成する各部が一体の装置として図示されているが、これらの機能の一部は外付け装置により提供されるものであってもよい。例えば、記憶装置54、入出力装置56、表示装置57は、CPU51等とは別の外付け装置であってもよい。
【0030】
CPU51は、ROM53、記憶装置54等に記憶されたプログラムに従って所定の演算を行うとともに、制御装置5の各部を制御する機能をも有するプロセッサである。CPU51は、ROM53、記憶装置54等に記憶されたプログラムをRAM52にロードして実行する。RAM52は、揮発性記憶媒体から構成され、CPU51の動作に必要な一時的なメモリ領域を提供する。ROM53は、不揮発性記憶媒体から構成され、CPU51の動作プログラム等の必要な情報を記憶する。記憶装置54はフラッシュメモリ、ハードディスクなどの不揮発性記憶媒体から構成され、ロッド位置毎の製造条件および特性値を含むデータベースを格納する。
【0031】
通信I/F55は、無線通信または有線通信の通信インターフェースであり、他の装置との通信を行うためのモジュールである。
【0032】
入出力装置56は、ユーザが制御装置5を操作するために用いられるユーザインターフェース、警告音などを発するスピーカなどを含む。入出力装置56は、例えばキーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル、ペンタブレット、ボタン等であり得る。
【0033】
表示装置57は、例えば液晶ディスプレイ、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等の表示部であって、情報の表示、操作入力用のGUI(Graphical User Interface)の表示等に用いられる。入出力装置56および表示装置57は、タッチパネルとして一体に形成されていてもよい。
【0034】
なお、図4に示されているハードウェア構成は例示であり、これら以外の装置が追加されていてもよく、一部の装置が設けられていなくてもよい。また、一部の装置が同様の機能を有する別の装置に置換されていてもよい。更に、本実施形態の一部の機能がネットワークを介して他の装置により提供されてもよく、本実施形態の機能が複数の装置に分散されて実現されるものであってもよい。例えば、記憶装置54は、制御装置5とネットワークを介して接続されたクラウドサーバに設けられてもよい。
【0035】
図5は、本実施形態に係るデータベースの構成例を示す図である。データベースは制御装置5の記憶装置54に格納され得る。データベースは、過去に製造されたロッドのロッド位置毎の特性値および製造条件を含む。ここで、ロッド位置は、ターゲットロッド100、スート101、コアロッド102のそれぞれにおいて、長手方向の位置を表すものとする。ロッド位置は長手方向に等間隔に割り当てられ、例えば1本のロッドにおいて6個のロッド位置が割り当てられ得る。特性値および製造条件は、ロッド位置毎にデータベースに格納される。さらに、データベースは、過去に製造された複数のロッドのそれぞれについて、ロッド位置毎の特性値および製造条件を含んでいる。例えば、データベースは、直近に製造された1ロット前のロッドからNロット前のロッドまでのN本のロッドについて、ロッド位置毎の特性値および製造条件を含み得る。このように、本実施形態においては、特性値および製造条件は、データベースにおいてロッド毎およびロッド位置毎に関連付けられる。特性値は、例えば検査装置3によって取得され、MFD、カットオフ波長、コアおよびクラッドの外径比などを含み得る。
【0036】
製造条件は、VAD装置1の製造条件およびガラス化装置2のそれぞれの製造条件を含む。上述したように、VAD装置1の製造条件は、制御部17からネットワーク6を介して制御装置5に送信される。VAD装置1の製造条件は、排気機構12の排気圧力および排気風量、回転機構13のターゲットロッド100の回転速度、駆動機構14のターゲットロッド100の長手方向の移動速度、バーナー15の四塩化ケイ素流量、四塩化ゲルマニウム流量、酸素流量および水素流量、ターゲットロッド100の表面温度を含み得る。図5において、データベースに格納されるVAD装置1の製造条件の数は例えば65であり、65個の製造条件のそれぞれはロッド位置毎に取得され得る。ガラス化装置2の製造条件は、制御部27からネットワーク6を介して制御装置5のデータベースに格納される。上述したように、ガラス化装置2の製造条件は、給気機構22および排気機構23の雰囲気ガス流量および雰囲気ガス圧力、回転機構24のスート101の回転速度、駆動機構25のスート101の移動速度、ヒータ26の加熱温度、昇温速度、スート101のガラス化温度、ガラス化時間を含み得る。図5において、データベースに格納されるガラス化装置2の製造条件の数は例えば32であり、32個の製造条件のそれぞれはロッド位置毎に取得され得る。なお、データベースは、ロッド位置によらずに一定の製造条件を含んでも良い。この場合においても、製造条件はロッド毎に異なり得る。
【0037】
図6は、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法の概略を表すフローチャートである。まず、ターゲットロッド100は、VAD装置1に設置される。VAD装置1はターゲットロッド100にガラス微粒子を吹き付け、ターゲットロッド100の周囲にスート101を堆積させる(ステップS11)。このとき、VAD装置1はロッド位置毎の製造条件を制御装置5に送信する。例えば、VAD装置1は、バーナー15に対向するロッド位置を計測し、当該ロッド位置に吹き付けられる四塩化ケイ素流量を製造条件として出力し得る。
【0038】
次に、ガラス化装置2はスート101を加熱およびガラス化させ、コアロッド102を形成する(ステップS12)。ガラス化装置2は、ロッド位置毎の製造条件を制御装置5に送信する。例えば、ガラス化装置2はロッド位置毎の温度、移動速度などを製造条件として出力し得る。
【0039】
続いて、検査装置3は、コアロッド102のロッド位置毎の特性値を取得し、制御装置5に送信する。上述したように、特性値はMFD、コアおよびクラッドの屈折率、コア/クラッド外径比などを含み得る。検査装置3は測定した特性値を制御装置5に送信する。
【0040】
OVD装置4は、コアロッド102を延伸し、延伸されたコアロッド102にOVDによりクラッド用の多孔質体を形成し、コアロッドをガラス化する(ステップS13)。以上により、光ファイバ母材が製造される。OVD装置4も同様にロッド位置毎の製造条件を制御装置5に送信し得る。
【0041】
制御装置5は、VAD装置1、ガラス化装置2から受信したロッド位置毎の製造条件、検査装置3から受信したロッド位置毎の特性値をデータベースに格納する。これにより、1本のロッドにおけるロッド位置毎の製造条件および特性値がデータベースに追加され、データベースが更新される(ステップS14)。また、表示装置57はデータベースを表示し、オペレータ(製造システムの管理者)はデータベースを確認することが可能である。
【0042】
続いて、オペレータは、次のロッドの製造の要否を判断する(ステップS15)。次のロッドの製造を要しない場合(ステップS15でNO)、製造工程が終了する。次のロッドの製造がなされる場合(ステップS15でYES)、ステップS11~S15の製造工程が繰り返される。
【0043】
図7は、本実施形態における製造システムのフローチャートであって、予測モデルの算出処理を表す。図7のフローチャートは、図6におけるVAD(ステップS11)、ガラス化(ステップS12)、OVD(ステップS13)のそれぞれの工程の直後または途中において実行され得る。
【0044】
制御装置5は、VAD装置1、ガラス化装置2、OVD装置4のそれぞれから現在の製造条件を受信する(ステップS180)。例えば、制御装置5は、VAD装置1から、ロッド位置毎の四塩化ケイ素流量を製造条件として受信する。受信された製造条件は表示装置57に表示され得る。
【0045】
オペレータは、コアロッド102の所望の目標特性値を決定し、制御装置5に入力する(ステップS181)。例えば、オペレータは所望のMFDを目標特性値として制御装置5にする。続いて、オペレータは、表示装置57に表示されたデータベースの中から、過去に製造されたロッドを指定し、制御装置5は指定されたロッドに関する製造条件および特性値を抽出する(ステップS182)。ロッドの指定は、製造期間の指定によってなされても良く、ロッド位置の指定を含んでもよい。
【0046】
制御装置5は、ステップS182において抽出された製造条件および特性値に基づき、目標特性値と、目標特性値を実現するための製造条件とを含む予測モデルを作成する(ステップS183)。図8(a)、図8(b)は、本実施形態に係る予測モデルの一例である。ここでは、横軸は、指定された複数本のロッドの特定のロッド位置における四塩化ケイ素流量を表し、縦軸はMFDを表している。四塩化ケイ素流量(現在の製造条件x1、変更後の製造条件x2)を説明変数とし、MFD(予測される特性値y1、目標特性値y2)を目的変数とした場合、以下の回帰式が成り立つ。
a=(y2-y1)/(x2-x1) ・・・式(1)
【0047】
式(1)において、傾きaは回帰係数であり、図8(a)、図8(b)における実線の傾きとして表される。制御装置5は、共分散、偏微分などの既知の方法を用いて、傾きaを求めることができる。製造条件x1は例えば現在の四塩化ケイ素流量であり、特性値y1は、製造条件x1に製造されるコアロッド102のMFDの予測値である。特性値y1は、回帰式において製造条件x1に対応する特性値から導き出され得る。すなわち、制御装置5は、検査装置3などにより実際に特性値を検査することなく、現在の製造条件x1によって製造されるコアロッド102の特性値y1を予測することができる。目標特性値y2はステップS181において入力されたMFDの目標特性値である。制御装置5は、現在の製造条件x1、データベースから予測される特性値y1、目標特性値y2、傾きaを式(1)に代入し、目標特性値y2を実現するための製造条件x2を算出する。すなわち、所望のMFDを実現するための四塩化ケイ素流量が算出される。このようにして算出された予測モデルは、回帰式、図8(a)、図8(b)のグラフとともに表示装置57に表示され得る。
【0048】
続いて、制御装置5は、予測モデルにおける回帰式の傾きが所定の範囲内であるか否かを判定する(ステップS184)。回帰式の傾きは、制御条件および特性値の種類に応じて所定の範囲内となることが予め判明していることがある。従って、回帰式の傾きが所定の範囲でない場合(ステップS184でNO)、制御装置5は、算出された予測モデルは適切でないと判断し得る。この場合、制御装置5はステップS182の処理に戻り、新たな予測モデルを算出するためのデータをデータベースから抽出することができる。回帰式の傾きが所定の範囲である場合(ステップS184でYES)、制御装置5は、算出された予測モデルが適切であると判定する。
【0049】
ステップS184の予測モデルの判定処理の例を図9(a)~図9(c)に示す。四塩化ケイ素流量が増加するに従い、コアロッド102のMFDが増加する傾向があり、回帰式の傾きは0.20から0.80の範囲内であることが予め判明しているとする。図9(a)において、回帰式の傾きは0.69であり、所定の範囲内にあるため、予測モデルは適切であると判断され得る。また、図9(b)において、回帰式の傾きは0.30であるため、同様に予測モデルは適切であると判断され得る。一方、図9(c)において、回帰式の傾きは-0.11であり、所定の範囲から外れている。このため、予測モデルは適切でないと判断され得る。このように、回帰式の傾きに基づき予測モデルの妥当性を判定することにより、予測精度を向上させることができる。実験結果によれば、予測精度を20.1%改善することができた。
【0050】
続いて、制御装置5は、予測モデルにおける製造条件が所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS185)。ステップS185の予測モデルの判定処理の例を図10(a)、図10(b)に示す。ここで、点A、点B、点Cは、隣接する3つのロッド位置における四塩化ケイ素流量(製造条件)を表す。図10(b)に示されるように、点Bにおける製造条件と点Cにおける製造条件との差Δdが所定の閾値Thを超えて変化している。同一のロッド内において、製造条件が大きく変化する場合、実際に得られる特性値がばらついてしまう可能性がある。従って、隣接するロッド位置の製造条件の差が所定範囲から外れる場合(ステップS185でNO)、制御装置5は予測モデルにおける製造条件は適切でないと判断し得る。制御装置5は、目標特性値を実現する制御条件に最も近い値を有するロッド位置の制御条件を固定し、他のロッド位置の制御条件の差が所定範囲内となるようにすることが望ましい。一方、図10(a)に示されるように、点Aにおける製造条件と点Bにおける製造条件との差が所定の閾値Th以下であり、点Bにおける製造条件と点Cにおける製造条件との差が所定の閾値Th以下である場合(ステップS185でYES)、制御装置5は、算出された予測モデルが適切であると判定し、予測モデルの算出処理を終了する。実験結果によれば、ステップS185の処理により、光ファイバ母材内のMFDのばらつきを28.7%改善することができた。なお、図10(a)、図10(b)においては四塩化ケイ素流量を製造条件としてMFDの目標特性値を予測する例を示したが、四塩化ゲルマニウム流量、排気機構12の排気量等を製造条件としてMFDの目標特性値を予測しても良い。
【0051】
制御装置5は算出された予測モデルをVAD装置1に送信し、VAD装置1は予測モデルの製造条件に従い新たなロッドを製造する。また、制御装置5は、VAD装置1のみならず、ガラス化装置2、OVD装置4のための予測モデルを算出し、ガラス化装置2、OVD装置4のそれぞれ予測モデルを送信してもよい。
【0052】
以上述べたように、本実施形態によれば、製造条件および特性値をロッド位置に関連付けたデータベースを用いることにより、光ファイバ母材のロッド内における特性値のばらつきを低減することが可能となる。また、データベースから算出された予測モデルが予め定められた条件を充足するか否かを判断することにより、制御条件を高精度に予測することが可能できる。
【0053】
さらに、本実施形態においては、制御装置5は、実際に特性値を検査することなく、データベースを用いて現在の製造条件による特性値を予測し、さらに目標特性値を実現するための製造条件を算出している。このため、検査装置3によって特性値を用いて製造条件を変更する場合と比べて、製造条件を変更するまでのタイムラグを短縮することが可能となる。一般に、ファイバ母材の特性値の検査は、ガラス化工程の後に行われることが多く、VAD工程による特性値を評価するまでに数日を要することもある。このため、従来、VAD工程における製造条件を変更するまでのタイムラグが長くなり、生産性が低下していた。本実施形態によれば、予め作成された予測モデルに基づき特性値を予測し、製造条件をVAD工程にフィードバックすることにより、生産性を大幅に向上させることが可能となる。
【0054】
図11は、本実施形態における予測モデルの変形例を表している。ロッド位置は、ロッド位置の一点(ポイント)に限定されず、ロッドの領域を示しても良い。すなわち、ロッドは複数の領域に分割され、1つの領域内の制御条件および特性値のそれぞれの平均値または中央値がロッド位置に関連付けられてもよい。図11において、横軸はロッドの長手方向における位置を表し、縦軸はVAD装置1の四塩化ケイ素流量を表す。点線は、ロッドのポイントごとの四塩化ケイ素流量を表し、実線は領域毎の四塩化ケイ素流量を表す。図11に示されるように、領域毎の四塩化ケイ素流量の変動はポイント毎の四塩化ケイ素流量の変動よりも小さい。このため、予測モデルにおける異常値を回避することが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態における製造条件の算出処理は、説明変数を1種類の変数に限定して行われても良い。例えば、VAD工程における炎加水分解反応は多くの製造条件に複雑に関連しているため、炎加水分解反応の制御は困難を伴う。このような場合に、1種類の製造条件に着目して予測モデルを生成することにより、製造プロセスの制御が簡易となり、さらには予測精度を高めることも可能となる。
【0056】
[第2実施形態]
続いて、本実施形態における製造システムについて説明する。本実施形態における製造システムは、あらかじめ機械学習により生成された予測モデルを作成し、製造条件を算出する点において第1実施形態と異なっている。以下、第1実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0057】
本実施形態における制御装置5は、いわゆるAI(Artificial Intelligence)を用いて、製造条件を算出することが可能である。図12は本実施形態に係る製造システムの学習モデルの概念図である。学習モデルは、制御装置5の記憶装置54において構築され得る。学習モデルは、入力層91、中間層92、出力層93を含むニューラルネットワークから構成される。入力層91のニューロン951、中間層92のニューロン952、出力層93のニューロン953はシナプス96によってそれぞれ結合されている。入力層91のニューロン951にはロッド位置毎の複数の特性値が入力され、出力層93のニューロン953からはロッド位置毎の複数の製造条件が出力される。例えば、学習モデルは、ロッド位置毎の製造条件および特性値の相関関係をニューラルネットワークとして含み得る。なお、図12の学習モデルは複数の特性値に関連付けられているが、特性値毎に異なる学習モデルが生成されてもよい。
【0058】
図13は、本実施形態に係る製造システムのフローチャートであって、学習モデルの生成処理を表す。本実施形態における機械学習は教師データを用いた教師あり学習であり、検査装置3によって取得されるロッド位置毎の特性値およびVAD装置1、ガラス化装置2およびOVD装置4によって取得される製造条件は教師データとして用いられる。まず、制御装置5は、入力層91のニューロンにロッド位置毎の特性値を入力する(ステップS21)。出力層93のニューロンからはロッド位置毎の製造条件が出力される(ステップS22)。
【0059】
制御装置5は、出力層93のニューロンから出力された製造条件と、教師データの製造条件との差分を算出する(ステップS23)。差分が大きい場合(ステップS24においてNO)、制御装置5は差分を学習モデルにフィードバックし、差分が小さくなるようにシナプス96の重み付け係数を変更する(ステップS25)。差分が十分に小さい場合(ステップS24においてYES)、制御装置5は学習モデルを更新し(ステップS26)、機械学習を終了する。更新された学習モデルは、制御装置5のデータベースに格納される。このように、差分が十分に小さくなるまで上述の機械学習を繰り返すことにより、学習モデルを生成することができる。
【0060】
図14は、本実施形態における製造システムのフローチャートであって、予測モデルの算出処理を表す。
【0061】
まず、制御装置5は、VAD装置1、ガラス化装置2、OVD装置4のそれぞれから現在の製造条件を受信する(ステップS1800)。制御装置5は、検査装置3の検査結果に基づき、コアロッド102の特性値から目標特性値を決定する(ステップS1801)。続いて、学習モデルが特性値毎に生成されている場合、制御装置5は、複数の学習モデルの中から目標特性値に関連づけられた学習モデルを選択する(ステップS1802)。なお、図12に示されるように、1つの学習モデルが複数の特性に関連付けられている場合、学習モデルの選択は不要である。その後、制御装置5は、学習モデルに基づき、所望の特性値を得るための製造条件をロッドの位置毎に算出する(ステップS1803)。
【0062】
以上に述べたように本実施形態によれば、製造条件および特性値をロッド位置に関連付けた学習モデルを用いることにより、光ファイバ母材のロッド内における特性値のばらつきを低減することが可能となる。
【0063】
なお、上述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 VAD装置
2 ガラス化装置
3 検査装置
4 OVD装置
5 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14