(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072805
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】レーザ加工装置およびレーザ加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20240521BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20240521BHJP
B23K 26/062 20140101ALI20240521BHJP
G01N 21/84 20060101ALI20240521BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20240521BHJP
G01N 21/958 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/36
B23K26/062
B23K26/00 Q
G01N21/84 E
G01N21/88 J
G01N21/88 H
G01N21/958
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193163
(22)【出願日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2022183428
(32)【優先日】2022-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022183429
(32)【優先日】2022-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム/ICTデータ活用型アクティブ制御レーザー加工技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】小川 博嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 英知
(72)【発明者】
【氏名】田中 真人
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 達則
(72)【発明者】
【氏名】丸 征那
(72)【発明者】
【氏名】黒田 隆之助
【テーマコード(参考)】
2G051
4E168
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB02
2G051AC04
2G051BA10
2G051BC01
2G051CA04
2G051CB01
4E168AD18
4E168CA06
4E168CA07
4E168CB22
4E168DA02
4E168DA27
4E168DA32
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168DA60
4E168EA04
4E168JA14
4E168JA15
4E168JA17
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】レーザ加工中に加工異常をリアルタイムで検出する。
【解決手段】
短パルスレーザによるレーザ加工品の製造方法において、加工対象物にレーザ加工用の第1レーザ光を照射し、加工痕を形成する第1照射工程と、加工対象物における加工痕を含む加工領域に所定の遅延時間をおいて円偏光または楕円偏光とした第2レーザ光を照射する第2照射工程と、第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有する。このとき、遅延時間は、取得工程では、第1レーザ光の照射により生じ、加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得工程にて取得するよう定められる。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短パルスレーザによるレーザ加工品の製造方法であって、
加工対象物にレーザ加工用の第1レーザ光を照射し、加工痕を形成する第1照射工程と、
前記加工対象物における前記加工痕を含む加工領域に所定の遅延時間をおいて円偏光または楕円偏光とした第2レーザ光を照射する第2照射工程と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有し、
前記遅延時間は、前記第1レーザ光の照射により生じ前記加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む前記画像を前記取得工程にて取得するよう定められることを特徴とするレーザ加工品の製造方法。
【請求項2】
前記画像における前記圧力波の分布形状から前記加工痕からのマイクロクラックを検出する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工品の製造方法。
【請求項3】
前記画像における前記圧力波の強度分布の変化から加工中のアブレーション量の変化を検出する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工品の製造方法。
【請求項4】
前記画像は、前記第2レーザ光の照射領域の軸方位像および位相差像の少なくとも1つを含む複屈折像であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載のレーザ加工品の製造方法。
【請求項5】
短パルスレーザによるレーザ加工品を製造するレーザ加工装置であって、
加工対象物に照射され加工痕を形成するレーザ加工用の第1レーザ光、および前記加工痕を含む加工領域に円偏光または楕円偏光として照射されるモニタリング用の第2レーザ光を出力するレーザ照射部と、
前記第2レーザ光が前記第1レーザ光に対して所定の遅延時間をおいて照射されるように、前記第2レーザ光の照射を調整する遅延時間調整部と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して、前記第1レーザ光の照射により生じ、前記加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得する撮像部と、を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記P波または前記S波が前記第2レーザ光の照射領域内を伝搬する時間内で調整するように構成されることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記画像における前記圧力波の分布形状から前記加工痕からのマイクロクラックを検出する加工異常検出部を含むことを特徴とする請求項6記載のレーザ加工品の製造方法。
【請求項8】
前記画像における前記圧力波の強度分布の変化から加工中のアブレーション量の変化を検出する加工異常検出部を含むことを特徴とする請求項6記載のレーザ加工品の製造方法。
【請求項9】
前記画像は、前記第2レーザ光の照射領域の軸方位像および位相差像の少なくとも1つを含む複屈折像であることを特徴とする請求項5乃至8のうちの1つに記載のレーザ加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置およびレーザ加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学デバイスの製造においては、例えばガラスやサファイアなどの透明性材料にレーザ加工を施すことがある。このレーザ加工としては、ロングパルスレーザに代わりショートパルスレーザを用いた方法が検討されている。ショートパルスレーザによれば、ロングパルスレーザと比較して高いピーク出力のレーザ光を短時間に集中して得ることができ、材料の熱的損傷を抑制できるためである。
【0003】
レーザ加工においては材料にクラック等の欠陥が生じることがあり、その欠陥が光学デバイスの性能や製品寿命を損ねることがある。そのため、レーザ加工に伴うクラックを検出する方法が提案されている(例えば特許文献1など)。特許文献1には、対象物に対して透過波長の光を照射し、その散乱光の強度変化から欠陥を検出する方法が開示されている。
【0004】
また、レーザ加工の際には、クラック等の発生による形状異常だけでなく、レーザ加工で切削された量(アブレーション量)に異常が生じることがある。例えば、材料の表面に異物が付着し加工領域が汚染されている場合、加工痕を所望の深さまで掘削できないことがある。また例えば、材料が傾いて配置された場合、レーザ光の焦点位置がずれ、加工痕を所望の深さまで掘削できないことがある。また、レーザ光の出力強度がばらつくことでも、加工痕が所望の深さに掘削できないことがある。このため、レーザ光によりライン加工を行うときに、形状やアブレーション量が加工方向で一様でなく、形状異常やアブレーション異常などが生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等の検討によると、レーザ加工後に得られた光学デバイスには、上述した検出方法ではクラックとして検出されない微小なクラック(マイクロクラック)が存在することが見出された。マイクロクラックとは、レーザ加工の加工痕の周囲に延在して形成され、クラックの起点となり、いずれ大きなクラックを形成するような極微小なクラックのことである。このマイクロクラックは、大きなクラックのように亀裂が開いた状態ではなく、見かけ上、閉じた状態で存在する。この点、上述した検出方法では、レーザ加工後であって、既に進展したクラックを検出することはできるものの、亀裂が閉じた状態のマイクロクラックは高感度で検出できないことがある。
【0007】
更に、特許文献1の検出方法では、レーザ加工後にクラックを検出できるものの、レーザ加工中にリアルタイムで加工痕の形状やアブレーション等の加工異常を検出することはできない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、レーザ加工の際にマイクロクラックを高感度で検出することができる技術、および、レーザ加工中に加工異常をリアルタイムで検出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
加工対象物に照射され加工痕を形成するレーザ加工用の第1レーザ光、および前記加工痕を含む加工領域に照射されるモニタリング用の第2レーザ光を出力するレーザ照射部と、
前記第2レーザ光が前記第1レーザ光に対して所定の遅延時間をおいて照射されるように、前記第2レーザ光の照射を調整する遅延時間調整部と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する撮像部と、を備え、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記第1レーザ光の照射により前記加工対象物に生じる圧力波が前記第2レーザ光の照射領域内を伝搬する時間内で調整するように構成される、
レーザ加工装置である。
【0010】
本発明の他の態様は、
加工対象物にレーザ加工用の第1レーザ光を照射し、加工痕を形成する第1照射工程と、
前記加工対象物における前記加工痕を含む加工領域に所定の遅延時間をおいて第2レーザ光を照射する第2照射工程と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有し、
前記第2照射工程では、前記第2レーザ光の照射を、前記第1レーザ光の照射により前記加工対象物に生じる圧力波が前記第2レーザ光の照射領域内にある時間内で調整する、
レーザ加工品の製造方法である。
【0011】
本発明の一態様は、
加工対象物に照射され加工痕を形成するレーザ加工用の第1レーザ光、および前記加工痕を含む加工領域に照射されるモニタリング用の第2レーザ光を出力するレーザ照射部と、
前記第2レーザ光が前記第1レーザ光に対して所定の遅延時間をおいて照射されるように、前記第2レーザ光の照射を調整する遅延時間調整部と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して、前記第1レーザ光の照射により生じ、前記加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得する撮像部と、を備える、
レーザ加工装置。
【0012】
本発明の他の態様は、
加工対象物にレーザ加工用の第1レーザ光を照射し、加工痕を形成する第1照射工程と、
前記加工対象物における前記加工痕を含む加工領域に所定の遅延時間をおいて第2レーザ光を照射する第2照射工程と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有し、
前記取得工程では、前記第1レーザ光の照射により生じ、前記加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得する、
レーザ加工品の製造方法
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レーザ加工の際にマイクロクラックを高感度で検出することができる。また、レーザ加工中に加工異常をリアルタイムで検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるレーザ加工装置の概略を説明するための図である。
【
図2】サンプルA1について加工領域を遅延時間3nsで動的観察したときの吸収像である。
【
図3】サンプルA1について加工領域を静的観察したときの吸収像である。
【
図4】サンプルA2について加工領域を遅延時間100nsで動的観察したときの吸収像である。
【
図5】サンプルA2について加工領域を静的観察したときの吸収像である。
【
図6】サンプルA3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの吸収像である。
【
図7】サンプルA3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの軸方位像である。
【
図8】サンプルA3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像である。
【
図9】サンプルA4について加工領域を加工対象物の側面から動的観察したときの軸方位像である。
【
図10】サンプルB1について照射位置Aを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像である。
【
図11】サンプルB1について照射位置Aを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの軸方位像である。
【
図12】サンプルB1について照射位置Aを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの吸収像である。
【
図13】サンプルB1について照射位置Bを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像である。
【
図14】サンプルB1について照射位置Bを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの軸方位像である。
【
図15】サンプルB1について照射位置Bを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの吸収像である。
【
図16】サンプルB2について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像である。
【
図17】サンプルB2について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの軸方位像である。
【
図18】サンプルB2について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの吸収像である。
【
図19】サンプルB3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの軸方位像である。
【
図20】サンプルB3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像である。
【
図21】サンプルB3について加工領域を加工後に静的観察したときの軸方位像である。
【
図22】サンプルB3について加工領域を加工後に静的観察したときの位相差像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述したように従来のクラック検出方法では、微小であって亀裂が閉じた状態のマイクロクラックを高感度で検出できないことがある。更に、レーザ加工中にリアルタイムで加工異常を検出できないことがあった。本発明者等は、このような検出を可能とする方法について検討を行い、ポンププローブ法に着目した。
【0016】
ポンププローブ法とは、材料に対してポンプ光およびプローブ光を照射し、ポンプ光で物質に変化を起こし、ポンプ光から所定の遅延時間をおいて照射されるプローブ光でその変化を測定する方法である。本発明者等は、レーザ加工にポンププローブ法を採用し、ポンプ光として加工用レーザを、プローブ光としてモニタリング用レーザを照射し検討を行った。その結果、遅延時間によっては、加工用レーザ光により生じる圧力波をモニタリングすることができ、この圧力波を利用することでマイクロクラックを精度よく検出できることを見出した。更に、加工用レーザ光により、P波およびS波を含む圧力波を生じさせ、このP波やS波をモニタリング用レーザ光により捕捉することで、加工異常を検出できることを見出した。
【0017】
圧力波は、加工用レーザを材料に照射したときに発生するものであって、照射箇所を中心として材料の表面や内部を伝搬するものである。この圧力波によれば、加工用レーザの加工痕の周囲にマイクロクラックが存在するときに、マイクロクラックが材料の他の箇所とは異なるものとして強調表示されて観察できることが分かった。圧力波は伝搬して広がるものの、マイクロクラックの発生個所では、圧力波の応力が集中し、所定時間、残留する。この応力の集中および残留により、マイクロクラックの発生個所において材料の原子配列などが局所的に変化し、それにともない密度や屈折率などが変化する。この応力が残留しているときに観察を行うことで、マイクロクラックを、材料が本来有する密度や屈折率とは異なる箇所として区別することができる。
【0018】
また、加工用レーザ光の照射により生じる圧力波を捕捉する観点から、圧力波がモニタリング用レーザ光の照射領域内にある間にモニタリング用レーザ光を照射するように遅延時間を調整するとよいことを見出した。遅延時間を過度に短くすると、応力がマイクロクラックに集中する前にモニタリング用レーザ光を照射することになり、マイクロクラックを強調表示して観察することができなくなる。一方、遅延時間を過度に長くすると、応力が緩和した後にモニタリング用レーザ光を照射することになり、マイクロクラックを強調表示して観察することができなくなる。
【0019】
従来のようにレーザ加工後にマイクロクラックを検出する場合、静的に検出を行うことになるため、レーザ加工で生じる圧力波の応力集中を捕捉することはできない。これに対して、レーザ加工中にポンププローブ法を行う場合、動的に検出を行うことになるため、圧力波の応力集中を捕捉し、マイクロクラックの検出が可能となる。なお、本明細書において、動的な検出とは、レーザ加工と同時にマイクロクラックの検出を並行して行うことであり、静的な検出とは、レーザ加工後に得られるレーザ加工品についてマイクロクラックの検出を行うことを示す。
【0020】
更に、圧力波としては、伝搬速度の比較的速いP波(縦波)や伝搬速度の比較的遅いS波(横波)等が生じる。本発明者等の検討によると、圧力波を捕捉して撮像し、P波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得したとき、クラックの発生による形状異常やアブレーション量の異常が画像上に反映されることを見出した。例えば画像上にP波またはS波の分布形状や強度分布を表示したときに、クラックの発生やアブレーション量の変動により分布形状や強度分布が変化する。この分布形状や強度分布の変化をモニタリングすることで、加工異常をリアルタイムで検出することが可能となる。
【0021】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。
【0022】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかるレーザ加工装置およびレーザ加工品の製造方法について図を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかるレーザ加工装置の概略を説明するための図である。
【0023】
[レーザ加工装置]
本実施形態のレーザ加工装置1は、
図1に示すように、加工対象物40に対してレーザ加工を施すものであり、少なくともレーザ照射部10と遅延時間調整部20と撮像部50と観測部60を備えて構成される。
【0024】
(レーザ照射部)
レーザ照射部10は、レーザ加工用の第1レーザ光L1およびモニタリング用の第2レーザ光L2を出力するものである。本実施形態では、レーザ照射部10は、主レーザ光L0を出力する光源11と、主レーザ光L0を分岐する分岐部12とを備え、光源11からの主レーザ光L0を分岐部12で分岐し、分岐される一方を、ポンプ光であるレーザ加工用の第1レーザ光L1として、分岐されるもう一方を、プローブ光であるモニタリング用の第2レーザ光L2として、それぞれ出力するように構成される。
【0025】
光源11としては、主レーザ光L0を出力できるものであれば特に限定されない。主レーザ光L0としては、加工対象物40に応じて適宜選択することができ、例えば一定の繰り返し周期で出力されるパルスレーザを使用することができる。パルスレーザとしては、例えばナノ秒パルスレーザやフェムト秒パルスレーザ、ピコ秒パルスレーザなどの短パルスレーザを用いることができる。
【0026】
分岐部12としては、主レーザ光L0を2つに分岐できるものであれば特に限定されず、例えば偏光板やビームスプリッターなどを用いることができる。
【0027】
第1レーザ光L1は、ポンプ光であって、加工用レーザとして加工対象物40に照射される。第1レーザ光L1の照射径は、レーザ加工条件によって適宜変更するとよい。第1レーザ光L1の波長は特に限定されない。また、第1レーザ光L1の強度は、加工対象物40をレーザ加工できれば特に限定されない。第1レーザ光L1としては、例えばナノ秒パルスレーザやフェムト秒パルスレーザ、ピコ秒パルスレーザなどの短パルスレーザを用いることができる。レーザ加工による熱的損傷を抑制する観点からはパルス幅を短くするとよく、ナノ秒パルスレーザが好ましく、フェムト秒パルスレーザがより好ましい。
【0028】
第2レーザ光L2は、プローブ光であって、モニタリング用レーザとして加工対象物40に照射される。第2レーザ光L2としては、例えばナノ秒パルスレーザやフェムト秒パルスレーザ、ピコ秒パルスレーザなどの短パルスレーザを用いることができる。
【0029】
第2レーザ光L2の照射径は、第1レーザ光L1により形成される加工痕を含む加工領域を観察する視野の広さに対応し、所望の観察視野に応じて適宜変更することができる。加工領域を観察する観点から、第2レーザ光L2の照射径は、第1レーザ光L1よりも大きく、加工痕の径よりも大きいことが好ましい。より好ましくは、第2レーザ光L2の照射径は、加工痕の径と検出対象とするマイクロクラックの長さとの合計以上の径とするとよい。一方、照射径が大きくなるにしたがい強度が低くなる傾向があることから、撮像部50の感度に応じて、加工領域を識別可能な画像を取得できる強度となる範囲で、照射径の上限を適宜設定するとよい。このような照射径とすることで、圧力波を捕捉し、マイクロクラックを強調表示させた状態でより確実に撮像することができる。具体的には、第2レーザ光L2の照射径は10μm以上200μm以下とするとよい。なお、マイクロクラックの長さとは、検出対象とするマイクロクラックの長さであって、予め設定されるものである。この長さは例えば10μm以下で適宜設定するとよい。また、加工異常検出にあっては、このような照射径とすることで、P波やS波を捕捉し、画像上により確実に表示させることができるが、具体的には、第2レーザ光L2の照射径は10μm以上1mm以下とするとよい。
【0030】
第2レーザ光L2の強度は、撮像部50の感度に応じて適宜変更することができ、例えば、撮像部50にて加工領域を識別可能な画像を撮像できる強度以上であればよい。一方、第2レーザ光L2の照射による切削を抑制する観点からは、加工対象物40を損傷させないような強度以下であればよい。
【0031】
第2レーザ光L2のパルス幅は、撮像した画像においてマイクロクラックを強調表示できれば特に限定されない。マイクロクラックが強調表示された状態を画像上により確実に反映させる観点からは、パルス幅は短いほど好ましい。パルス幅が長くなると、時間の経過にともないマイクロクラックでの応力が緩和し、応力がマイクロクラックへ集中していない状態も画像上に反映されるおそれがあり、画像上でマイクロクラックを強調表示させにくいことがあるためである。一方、パルス幅の下限値は、加工領域を識別可能な画像を撮像できれば特に限定されない。つまり、パルス幅は、識別可能な画像を取得できる時間以上、応力がマイクロクラックへ残留する時間以下、とすることが好ましい。具体的には、第2レーザ光L2のパルス幅は遅延時間の10倍以下であることが好ましい。このようなパルス幅によれば、撮像部50で得られる画像上で、マイクロクラックをより確実に強調表示させることができ、検出精度をより向上させることができる。検出精度の向上の観点から、パルス幅は遅延時間の1倍以下であることがより好ましく、0.1倍以下であることがさらに好ましい。
【0032】
また、加工異常検出にあっては、第2レーザ光L2のパルス幅は、撮像した画像にP波やS波を表示できれば特に限定されない。P波やS波を画像上により確実に反映させる観点からは、パルス幅は短いほど好ましい。パルス幅が長くなると、伝搬するP波やS波を明瞭に表示できず、その形状分布の変化を把握しにくくなるおそれがあるためである。一方、パルス幅の下限値は、加工領域を識別可能な画像を撮像できれば特に限定されない。具体的には、第2レーザ光L2のパルス幅は遅延時間の10倍以下であることが好ましい。このようなパルス幅によれば、撮像部50で得られる画像上で、P波やS波を分布形状の変化を把握しやすい状態で撮像することができ、加工異常の検出精度をより向上させることができる。より好ましくは、パルス幅は遅延時間の1倍以下、0.1倍以下であるとよい。
【0033】
第2レーザ光L2の波長は、後述の撮像部50で観測できれば特に限定されず、撮像部50の感度に応じて適宜変更するとよい。
【0034】
なお、第1レーザ光L1や第2レーザ光L2の照射径は、例えば加工対象物40のレーザ光の上流側に凸レンズ、凹レンズ、対物レンズ等を配置し調整するとよい。対物レンズによれば、照射径の調整とともに、第1レーザ光L1や第2レーザ光L2の平行度などを調整することができる。
【0035】
また、第1レーザ光L1や第2レーザ光L2の波長は、それぞれの光軸上に例えばBBO結晶などの波長変換素子を配置し、それぞれに適した範囲に調整するとよい。また、第1レーザ光L1や第2レーザ光L2の強度は、それぞれの光軸上に例えば位相子や偏光子、フィルタなどを配置し、それぞれに適した範囲に調整するとよい。
【0036】
また、第2レーザ光L2の偏光方向は特に限定されないが、撮像部50が偏光カメラである場合は円偏光または楕円偏光であることが好ましい。偏光方向を円偏光に近づけるほど、後述の複屈折像を取得したときに位相差などの違いをより高感度に測定することができる。第2レーザ光L2の偏光方向を円偏光とするには、例えば、分岐部12と加工対象物40との間に偏光子や位相板などを配置するとよい。
【0037】
(遅延時間調整部)
遅延時間調整部20は、分岐部12で分岐される第2レーザ光L2の光軸上に配置される。遅延時間調整部20は、第2レーザ光L2が第1レーザ光L1の照射時間よりも所定の遅延時間をおいて加工対象物40に照射されるように、第2レーザ光L2の光路長を変更可能に構成される。遅延時間とは、第1レーザ光L1を照射した後に第2レーザ光L2を照射するまでの照射時間差を示す。言い換えると、第1レーザ光L1の照射により圧力波が生じてから第2レーザ光L2を照射するまでの時間差を示す。遅延時間調整部20は、光路長を変更すること等により遅延時間を調整できれば特に限定されず、例えばミラーや光ファイバを備えて構成される。
【0038】
本実施形態では、遅延時間調整部20は、第2レーザ光L2の照射を、第1レーザ光L1の照射により生じる圧力波が第2レーザ光L2の照射領域内を伝搬する時間内に調整するように、第2レーザ光L2の光路長を変更可能に構成される。圧力波は、第1レーザ光L1の照射から時間が経過するごとに伝搬し、広がることになる。このとき、圧力波が第2レーザ光L2の照射領域内を伝搬している間に第2レーザ光L2を照射し撮像することで、圧力波の影響を画像上に反映させることができる。例えば加工痕の周囲にマイクロクラックが生成したときには、画像上でマイクロクラックを強調表示することができる。
【0039】
また、加工異常検出にあっては、遅延時間調整部20は、後述の撮像部50でP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得するために、第2レーザ光L2の光路長を変更し、第2レーザ光L2の照射を調整するように構成される。圧力波は、第1レーザ光L1の照射から時間が経過するごとに伝搬し、広がることになる。圧力波のうちP波は、S波に比較して伝搬速度が速く、S波よりも早く伝搬する。本実施形態では、画像上にP波およびS波の少なくとも1つが表示されるように、遅延時間を調整したうえで第2レーザ光L2の照射を行う。これにより、加工痕の周囲にP波やS波が残留している時間内に第2レーザ光L2を照射することができる。この結果、第2レーザ光L2の照射領域を撮像したときに、画像上でP波やS波を表示させることができる。
【0040】
遅延時間調整部20は、マイクロクラックをより高い精度で検出する観点から、以下に示すように遅延時間を調整するとよい。
【0041】
例えば遅延時間調整部20は、圧力波の応力がマイクロクラックに残留している間に第2レーザ光L2を照射するように遅延時間を調整することが好ましい。マイクロクラックに応力が集中して残留した状態をより確実に撮像することができ、マイクロクラックをより確実に強調表示することができるためである。
【0042】
また例えば、遅延時間調整部20は、圧力波の半径がマイクロクラックの長さの0.1倍以上100倍以下の大きさとなる間に第2レーザ光L2を照射するように遅延時間を調整することが好ましい。上記比率は0.5倍以上50倍以下であることがより好ましく、1.0倍以上10倍以下であることがさらに好ましい。時間の経過とともに圧力波は伝搬し、その半径は大きくなるため、半径の大きさは第1レーザ光L1の照射から経過した時間に対応するものである。半径が上記比率を満たす時間内に第2レーザ光L2を照射するように遅延時間を調整することで、生成したマイクロクラックに圧力波の応力が集中し残留した状態をより確実に撮像することができる。
【0043】
また例えば、遅延時間調整部20は、圧力波が加工痕の外縁から1μm以上50μm以下の距離を伝搬する時間内に第2レーザ光L2を照射するように遅延時間を調整することが好ましい。上記距離は、1μm以上30μm以下であることがより好ましく、1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。圧力波の半径が上記範囲を満たす時間内に第2レーザ光L2の照射を調整することで、圧力波の応力がマイクロクラックに集中し残留した状態をより確実に撮像することができる。
【0044】
遅延時間は、加工対象物40の材質や検出対象とするマイクロクラックの長さによって適宜変更することができる。加工対象物40の材質によって圧力波の伝搬速度が変動し、また応力がマイクロクラックに残留する時間(応力が集中してから緩和するまでの時間)が変動するためである。また、検出対象とする長さに応じて遅延時間を調整するとよい。例えば、検出対象とするマイクロクラックの長さを長く設定する場合であれば、その分、遅延時間を長く調整するとよく、その長さを短く設定する場合であれば、遅延時間を短く調整するとよい。
【0045】
また、加工異常検出にあっては、遅延時間調整部20は、画像上にP波やS波をより確実に反映させる観点から、以下に示すように遅延時間を調整するとよい。
【0046】
遅延時間調整部20は、P波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得できるように第2レーザ光L2の遅延時間を変更し照射を調整できれば特に限定されない。好ましくは、P波やS波を含む圧力波が第2レーザ光の照射領域内を伝搬する時間内に第2レーザ光L2を照射するように、遅延時間を調整可能に構成されるとよい。これにより、画像上でP波やS波をより確実に表示させることができ、P波やS波に基づき、加工異常をより精度よく検出することができる。
【0047】
より好ましくは、遅延時間調整部20は、P波またはS波が加工痕の外縁から5μm以上1mm以下の距離を伝搬する時間内に第2レーザ光L2を照射するように遅延時間を調整することが好ましい。P波またはS波の半径が上記範囲を満たす時間内に第2レーザ光L2の照射を調整することで、P波又はS波を画像上により確実に表示させることができる。
【0048】
(合波部)
合波部30は、加工対象物40の上流側に配置され、第1レーザ光L1と所定の遅延時間を有する第2レーザ光L2とを同軸に合波するものである。同軸とした第1レーザ光L1および第2レーザ光L2は加工対象物40へと照射される。合波部30としては、例えば、合波ミラー、二色ミラーなどを用いることができる。
【0049】
(撮像部)
撮像部50は、第2レーザ光L2の照射領域を撮像し、加工領域を含む画像を取得するものである。また、画像を解析して加工異常を検出する画像解析装置である加工異常検出部を含んでいてもよい。本実施形態では、加工対象物40の第2レーザ光L2の照射側とは反対の面側に撮像部50を配置する。ここでは、撮像部50により、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2を検出し、その強度分布を示す画像(吸収像)を取得することができる。吸収像は、加工対象物40での光吸収に応じた明暗が強度の違いとして表示された画像である。また、加工異常検出にあっては、第2レーザ光L2を所定の遅延時間で照射しつつ、撮像部50により第2レーザ光L2の照射領域を撮像することにより、照射領域を伝搬するP波およびS波の少なくとも1つが表示された画像を取得することができる。なお、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2の波長が異なる場合、光学フィルタ等を用いて第2レーザ光L2のみを撮像するとよい。
【0050】
上述したように、加工痕の周囲にマイクロクラックが生じたときに、圧力波の応力がマイクロクラックへ集中し残留していると、マイクロクラックの周辺部の屈折率などの物性値が加工対象物40の本来の物性値から変化する。このとき撮像される画像においては、屈折率などの違いが強度の違いとして表示され、マイクロクラックが加工対象物40のその他の部分とは異なる強度のものとして強調表示される。
【0051】
撮像部50としては、偏光カメラや高速度カメラ、CCDなど公知のものを用いることができる。
【0052】
撮像部50で取得する画像としては、マイクロクラックを強調表示できる画像であれば、吸収像に限定されず、例えば複屈折像等でもよい。
【0053】
一方、加工異常検出にあっては、画像は、S波やP波の分布形状および強度分布の少なくとも1つを表示するものであり、P波およびS波の形状分布や強度分布をより明確に表示させる観点からは、複屈折像であることが好ましい。
【0054】
具体的には、画像において、第1レーザ光L
1の照射により生じるP波およびS波の分布形状は円形状となる。例えば、後述する
図10等に示すように、伝搬速度が速いP波は、比較的大きな半径を有し、伝搬速度の遅いS波は、比較的小さな半径を有する。このP波やS波の分布形状は、クラックの発生による形状異常が存在しない場合は円形状となるが、クラックが発生し形状異常が生じた場合は、その影響により円形から乱れ変化する。つまり、画像においてP波やS波の分布形状の変化から形状異常を検出することができる。
【0055】
また画像において、P波やS波は、所定の強度分布を有し、加工対象物40の表面とは異なる強度を有するものとして表示される。この強度分布では、レーザ加工によるアブレーション量の違いが強度の違いとして反映される。例えば、強度分布において、アブレーション量が少ないと強度が低く、アブレーション量が多いと強度が高く表示される。つまり、強度分布の変化から、レーザ加工によるアブレーション量の変化を検出することができる。
【0056】
複屈折像とは、複屈折イメージングにより、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2の各偏光方位(例えば0°、45°、90°、135°)における強度画像に対して、既知の式を用いた演算を行うことで取得される複屈折の像である。複屈折とは、直交する二つの軸に対して屈折率がそれぞれ異なることを意味し、屈折率の差(位相差(リタデーション))と軸の方位(軸方位)の2つで表されるベクトル量である。複屈折像には、軸方位の分布を示す軸方位像、位相差の分布を示す位相差像が含まれる。軸方位像は、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2について、方位の違いが視認可能な態様で、例えば色の違いで表示された画像である。位相差像は、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2について、位相差の違い(大きさ)が視認可能な態様(例えば色の違い)で表示された画像である。
【0057】
位相差像や軸方位像においては、吸収像と同様に、加工痕の周囲に生じたマイクロクラックは、その他の箇所とは異なる強度を有するものとして強調表示される。
【0058】
複屈折像は、例えば通常のカメラを用いて撮像する場合であれば、加工対象物40とカメラとの間に直線偏光子を挿入し、その角度を変えながら強度画像を撮像することで取得するとよい。偏光カメラを用いる場合であれば、直線偏光子が不要となり、かつ一度に各偏光方位の強度画像を撮像することができる。複屈折像を一度にかつ容易に取得する観点からは、撮像部50として偏光カメラを用いることが好ましい。
【0059】
一方、加工異常検出にあっては、画像において、P波やS波のそれぞれで形状分布や強度分布の変化を捕捉することができるが、アブレーション量異常の検出とともに、クラックによる形状異常をより精度よく検出する観点からは、S波を用いることが好ましい。S波によれば、横波であるため、縦波であるP波と比較して加工対象物40の表面における物理的な変化(クラックの発生)の影響を大きく受ける。そのため、クラックの発生による形状分布の変化を把握しやすく、クラックをより高い精度で検出することができる。一方、形状異常の検出とともに、アブレーション量の異常をより精度よく検出する観点からは、P波を用いることが好ましい。P波によれば、S波と比較して、アブレーション量の違いを強度の違いとしてより反映させやすい。そのため、アブレーション量の変動による強度分布の変化を把握しやすく、アブレーション異常をより高い精度で検出することができる。
【0060】
撮像部50としては、P波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得できれば特に限定されず、公知の撮像装置を用いることができる。例えば、偏光カメラや高速度カメラ、CCDなど公知のものを用いることができる。複屈折像を一度にかつ容易に取得する観点からは、撮像部50として偏光カメラを用いることが好ましい。上記同様、通常のカメラを使用して複屈折像を取得する場合、加工対象物40とカメラとの間に直線偏光子を挿入し、その角度を変えながら強度画像を撮像する必要がある。この点、偏光カメラによれば、直線偏光子が不要となり、かつ一度に各偏光方位の強度画像を撮像できるため、複屈折像を容易に取得することができる。
【0061】
(観測部)
観測部60は、撮像部50にて取得した画像をモニタリングするものである。ここでは、画像において強調表示されるマイクロクラックの有無を確認するとよい。観測部60としては、マイクロクラックの有無をモニタリングできるものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。また、加工異常検出にあっては、画像に表示されるP波やS波について、例えば形状分布や強度分布の変化を確認するとよい。観測部60としては、P波やS波をモニタリングできるものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0062】
[レーザ加工品の製造方法1]
続いて、上述したレーザ加工装置1を用いてレーザ加工品を製造する第1の方法について説明する。ここでは、ライン加工を一例として説明する。
【0063】
(準備工程)
まず、レーザ加工を行う加工対象物40を準備し、上述したレーザ加工装置1へ導入する。
【0064】
加工対象物40としては、特に限定されないが、結晶性または非晶性を有する透明性材料を用いることができる。このような透明性材料としては、例えばガラス、セラミクスおよび樹脂の少なくとも1つを含むものを用いることができる。
【0065】
(第1照射工程)
続いて、レーザ加工装置1において、レーザ照射部10から出力した第1レーザ光L1を加工対象物40に対して照射する。これにより加工痕を形成し、レーザ加工を行う。
【0066】
(第2照射工程)
続いて、レーザ照射部10から遅延時間調整部20を介して出力した第2レーザ光L2を、第1レーザ光L1に対して所定の遅延時間をおいて、加工痕を含む加工領域に対して照射する。このとき、第2レーザ光L2の照射を、第1レーザ光L1の照射により生じる圧力波が第2レーザ光L2の照射領域内を伝搬する時間内に調整するように、第2レーザ光L2の光路長を変更し、遅延時間を調整する。
【0067】
遅延時間は、加工対象物40の材質、検出対象のクラック長さに応じて適宜設定するとよい。例えば、加工対象物40の材質によって圧力波の伝搬速度が変化するため、材質に応じた伝搬速度から、圧力波が第2レーザ光L2の照射径の範囲内を伝搬する時間を算出する。この算出した時間内で、検出対象とするマイクロクラックの長さに応じて、遅延時間を調整して設定するとよい。
【0068】
遅延時間は、好ましくは、加工痕の周囲にマイクロクラックが存在するときに、圧力波の応力がマイクロクラックに残留している時間内に第2レーザ光L2を照射するように調整するとよい。また好ましくは、圧力波がマイクロクラックの長さの0.1倍以上100倍以下の半径まで伝搬する時間に第2レーザ光L2を照射するように調整するとよい。また好ましくは、圧力波が加工痕から1μm以上50μm以下の距離を伝搬する時間に第2レーザ光L2を照射するように調整するとよい。
【0069】
(撮像工程)
続いて、撮像部50にて、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2を検出し、その強度分布を示す画像を取得する。
【0070】
画像には加工痕を含む加工領域が表示される。また加工痕の周囲にマイクロクラックが発生した場合、圧力波の応力がマイクロクラックに集中し残留した状態を撮像できるため、画像においてマイクロクラックが他の箇所とは異なる強度を有するものとして強調表示されることになる。
【0071】
(観測工程)
撮像部50にて取得した画像、例えば吸収像を観測部60によりモニタリングし、強調表示されるマイクロクラックの有無を確認する。マイクロクラックが確認された場合、第1レーザ光L1の照射を停止する、もしくは照射条件を変更するとよい。
【0072】
(繰り返し工程)
続いて、上述した第1照射工程、第2照射工程、撮像工程および観測工程を、位置を固定したレーザ照射部10に対して加工対象物40を移動させ、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射位置を変更させつつ、連続的または継続的に行う。もしくは、位置を固定した加工対象物40に対してレーザ照射部10から出力した各レーザ光を移動させ、各レーザ光の照射位置を変更させつつ、連続的または継続的に行う。これにより、マイクロクラックの発生をリアルタイムにモニタリングしながら、加工対象物40の表面にレーザ加工を施して所定のパターンを形成する。
【0073】
以上により、加工対象物40にレーザ加工を施したレーザ加工品を作製する。
【0074】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0075】
(a)本実施形態によれば、加工対象物40に対して第1レーザ光L1を照射してレーザ加工を行うとともに、その加工領域に対して、所定の遅延時間をおいて第2レーザ光L2を照射し、加工領域をモニタリングしている。このとき第2レーザ光L2の照射を、第1レーザ光L1の照射により加工対象物40に生じる圧力波が第2レーザ光L2の照射領域内を伝搬する時間内に設定している。そのため、加工領域を撮像したときに、画像上に圧力波の影響を表示させることができる。具体的には、加工痕の周囲にマイクロクラックが生じた場合、画像においてマイクロクラックはその他の箇所とは屈折率などが異なり強度の異なる箇所として強調表示される。この結果、取得した画像に基づき、加工領域で生じたマイクロクラックを精度よく検出することができる。このように、レーザ加工の際に、圧力波による応力の過渡現象を動的にリアルタイムで観測することで、閉じた状態であって検出しにくいマイクロクラックを可視化して直接的に検出することができる。
【0076】
(b)遅延時間調整部20は、第2レーザ光L2の照射を、圧力波がマイクロクラックの長さの0.1倍以上100倍以下の半径まで伝搬する間に調整することが好ましい。時間の経過とともに伝搬し拡径する圧力波の半径が上記範囲内であるタイミングで第2レーザ光L2を照射することにより、応力がマイクロクラックへ集中し残留している状態を撮像することができる。これにより、マイクロクラックを強調表示した状態でより確実に撮像することができる。
【0077】
(c)遅延時間調整部20は、第2レーザ光L2の照射を、圧力波が加工痕から1μm以上50μm以下の距離を伝搬する時間内に調整することが好ましい。圧力波の伝搬速度は、加工対象物40を構成する材質や第1レーザ光L1の強度によって異なるが、伝搬により拡径する圧力波の半径が上記範囲内となる間に第2レーザ光L2を照射することで、マイクロクラックを強調表示した状態でより確実に撮像することができる。
【0078】
(d)撮像部50で取得する画像が、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2の強度分布を示す吸収像であることが好ましい。このような吸収像によれば、加工対象物40がガラスやサファイアなどの透明性材料から形成される場合でも、マイクロクラックを検出することができる。また、高速度カメラやCCDなどを用いて容易に取得することができる。
【0079】
(e)撮像部50で取得する画像が、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2の複屈折像であることが好ましい。複屈折像として、例えば位相差の分布を示す位相差像によれば、マイクロクラックを、異なる位相差を有する箇所として強調表示することができる。また例えば軸方位の分布を示す軸方位像によれば、マイクロクラックを、異なる軸方位を有する箇所として強調表示することができる。
【0080】
(f)撮像部50が偏光カメラであることが好ましい。偏光カメラによれば、第2レーザ光L2の照射領域を撮像したときに、透過した第2レーザ光L2の吸収像だけでなく、複屈折イメージングにより複屈折像を取得することができる。
【0081】
(g)レーザ照射部10は、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を加工対象物40に対して同軸で照射するように構成されることが好ましい。同軸照射によれば、加工対象物40の表面を伝搬する圧力波を捕捉しやすく、加工対象物40の表面に生じるマイクロクラックをより精度よく検出することができる。
【0082】
(h)第2レーザ光L2の照射径は第1レーザ光L1よりも大きいことが好ましい。これにより、第1レーザ光L1による加工領域を含むより広い領域を観測することができる。
【0083】
(i)マイクロクラックは、例えば長さが10μm以下と微小なサイズを有し、かつ閉じた状態であって、光学顕微鏡では観察できないクラックである。本実施形態によれば、このようなマイクロクラックであっても、画像上で強調表示させて高い精度で検出することができる。
【0084】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0085】
上述の実施形態では、レーザ照射部10が第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を分岐して出力する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2をそれぞれ出力するレーザ照射部を別々に配置してもよい。
【0086】
また上述の実施形態では、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を同軸で照射する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を照射角度が異なるように異軸で照射してもよい。例えば、第1レーザ光L1を加工対象物40の表面に対して垂直に面外方向から照射する一方で、第2レーザ光L2を加工対象物40の表面に対して平行に面内方向から照射してもよい。このとき得られる吸収像によれば、第1レーザ光L1の照射により生じる圧力波が加工対象物40の厚さ方向へ伝搬することを捕捉することができる。この吸収像に基づき、上記と同様にマイクロクラックを精度よく検出することができる。
【0087】
上述の実施形態では、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2を撮像部50で撮像する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、加工対象物40で反射した第2レーザ光L2を検出するように撮像部50を配置してもよい。この場合、画像として、加工対象物40で反射した第2レーザ光L2の強度分布を示す反射像を取得することができる。もしくは、撮像部50として偏光カメラを用いて各偏光方位におけるイメージングを行い、その結果に対して適切な式で演算を行うことにより、加工対象物40で反射した第2レーザ光L2の複屈折と類似の情報を有する偏光度変化に関する像を取得することができる。これらの画像によれば、加工対象物40として透明性材料だけに限定されず、非透光性材料についてもマイクロクラックの検出を行うことができる。
【0088】
上述の実施形態では、加工対象物40に対してライン加工を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば穴あき加工を行ってもよい。この場合でも、上記と同様にレーザ加工とともにマイクロクラックの検出を行うことができる。
【0089】
また上述の実施形態では、レーザ加工用の第1レーザ光により生じる圧力波を利用してマイクロクラックを検出する場合について説明したが、圧力波を生じさせる手段はレーザ光に限定されない。例えば、加工対象物40に対して機械的な衝撃を付与し、圧力波を生じさせてもよい。このとき衝撃を付与した箇所を含む領域にプローブ光を照射し撮像することで、圧力波の影響が反映された画像を取得することができる。この場合、レーザ加工と同時にマイクロクラックを動的にモニタリングする必要がなく、レーザ加工後のレーザ加工品についてマイクロクラックを静的にモニタリングすることができる。
【0090】
[レーザ加工品の製造方法2]
同様に、上述したレーザ加工装置1を用いてレーザ加工品を製造する第2の方法について説明する。ここでも、ライン加工を一例として説明する。
【0091】
(準備工程~第1照射工程)
製造方法1と同様に行う。
【0092】
(第2照射工程)
続いて、レーザ照射部10から遅延時間調整部20を介して出力した第2レーザ光L2を、第1レーザ光L1に対して所定の遅延時間をおいて、加工痕を含む加工領域に対して照射する。このとき、第2レーザ光L2の照射を、第1レーザ光L1の照射により生じるP波やS波を画像上に撮像できるように、第2レーザ光L2の光路長を変更し、遅延時間を調整する。
【0093】
遅延時間は、例えば加工対象物40の材質に応じて適宜設定するとよい。加工対象物40の材質からP波やS波の伝搬速度を推定するとともに、このP波やS波が第2レーザ光L2の照射径の範囲内を伝搬する時間を算出する。この算出した時間内に第2レーザ光L2を照射できるように、遅延時間を設定する。
【0094】
遅延時間は、好ましくは、P波やS波が第2レーザ光L2の照射領域内を伝搬する時間内に第2レーザ光L2を照射するように調整するとよい。また好ましくは、P波またはS波が加工痕から5μm以上1mm以下の距離を伝搬する時間に第2レーザ光L2を照射するように調整するとよい。
【0095】
(撮像工程)
続いて、撮像部50にて、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2を検出し、画像を取得する。
【0096】
画像には加工痕を含む加工領域が表示され、加工領域を伝搬するP波やS波が表示される。P波やS波の分布形状は、クラックの発生等の形状異常による影響を受けて変化する。例えばクラックが発生した場合、P波やS波の分布形状が円形状から乱れた状態を撮像できるため、画像に基づきクラックを検出することができる。またP波やS波の強度分布は、レーザ加工のアブレーション量に応じた強度となり、アブレーション量が変動することで、異なる強度で表示される。
【0097】
(観測工程)
撮像部50にて取得した画像を観測部60によりモニタリングし、P波やS波の分布形状や強度分布の変化から、形状異常やアブレーション異常などの加工異常の有無を確認する。加工異常が確認された場合、第1レーザ光L1の照射を停止する、もしくは照射条件を変更するとよい。
【0098】
(繰り返し工程)
続いて、上述した第1照射工程、第2照射工程、撮像工程および観測工程を、位置を固定したレーザ照射部10に対して加工対象物40を移動させ、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射位置を変更させつつ、連続的または継続的に行う。もしくは、位置を固定した加工対象物40に対してレーザ照射部10を移動させ、各レーザ光の照射位置を変更させつつ、連続的または継続的に行う。これにより、加工異常の発生をリアルタイムにモニタリングしながら、加工対象物40の表面にレーザ加工を施して所定のパターンを形成する。
【0099】
本実施形態では、第1レーザ光L1の照射位置を移動させ、それぞれの照射位置で得られる複数の画像を比較して、各画像におけるP波やS波の形状分布や強度分布の変化から加工異常を検出してもよい。
【0100】
以上により、加工対象物40にレーザ加工を施したレーザ加工品を作製する。
【0101】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0102】
(a)本実施形態によれば、加工対象物40に対して第1レーザ光L1を照射してレーザ加工を行うとともに、その加工領域に対して、所定の遅延時間をおいて第2レーザ光L2を照射し、加工領域を撮像している。このとき、第1レーザ光L1の照射により生じ、加工対象物40を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得している。画像では、クラックの発生による形状異常が存在しない場合は、P波やS波の分布形状が円形状に表示される一方、形状異常が発生した場合は、その分布形状が円形状から乱れて変化する。そして、この画像に基づきP波やS波の分布形状が円形であるかどうかをモニタリングすることで、加工領域に生じた形状異常を検出することができる。一方、画像では、加工領域が汚染される、加工対象物40が傾斜して配置される、もしくは第1レーザ光L1の出力強度がばらつく等により、レーザ加工のアブレーション量に異常が生じた場合、P波やS波の強度分布において強度が変動する。この強度の変化の有無をモニタリングすることで、加工領域におけるアブレーション異常を検出することができる。このように、レーザ加工の際に、伝搬するP波やS波を動的に観測することで、クラックの発生による形状異常やレーザ光の出力強度の変動によるアブレーション異常などの加工異常をリアルタイムで検出することができる。
【0103】
(b)遅延時間調整部20は、第2レーザ光L2の照射を、P波またはS波が第2レーザ光L2の照射領域内を伝搬する時間内で調整することが好ましい。これにより、撮像の際に、画像上にP波またはS波をより確実に表示させることができ、加工異常を精度よく検出することができる。
【0104】
(c)撮像部50で取得する画像が、S波の分布形状および強度分布の少なくとも1つを表示することが好ましい。S波によれば、強度分布の変化からアブレーション異常を検出できるとともに、P波と比較して、クラックの発生による形状異常を分布形状の乱れにより反映させやすいため、形状異常をより精度よく検出することができる。
【0105】
(d)撮像部50で取得する画像が、P波の分布形状および強度分布の少なくとも1つを表示することが好ましい。P波によれば、分布形状の変化からクラックの発生等の形状異常を検出できるとともに、S波と比較して、アブレーション量の違いを強度の違いとしてより明確に反映させやすいため、アブレーション異常をより精度よく検出することができる。
【0106】
(e)撮像部50で取得する画像が、第2レーザ光L2の軸方位像および位相差像の少なくとも1つを含む複屈折像であることが好ましい。複屈折像によれば、軸方位像や位相差像において、P波やS波について分布形状をより把握しやすい状態で撮像できるとともに、強度分布を表示することができ、複屈折の方位の違いや位相差の違いを強度の違いとして表示することができる。これにより、マイクロクラックの検出精度をより向上させることができる。
【0107】
(f)遅延時間調整部20は、第2レーザ光L2の照射を、P波またはS波が加工痕から5μm以上1mm以下まで伝搬する時間内で調整することが好ましい。P波またはS波の半径が上記範囲を満たす時間内に第2レーザ光L2の照射を調整することで、P波又はS波を画像上により確実に表示させることができる。
【0108】
(g)撮像部50が偏光カメラであることが好ましい。偏光カメラによれば、撮像部50の装置構成を簡略化しながらも、複屈折像を容易に取得することができる。
【0109】
(h)レーザ照射部10は、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を加工対象物40に対して同軸で照射するように構成されることが好ましい。同軸照射によれば、加工対象物40の表面を伝搬するP波やS波を捕捉しやすく、加工対象物40の表面での加工異常をより精度よく検出することができる。
【0110】
(h)第2レーザ光L2の照射径は第1レーザ光L1よりも大きいことが好ましい。これにより、第1レーザ光L1による加工領域を含むより広い領域を観測することができる。
【0111】
(i)本実施形態によれば、クラックでも、光学顕微鏡では観察できないマイクロクラックを検出することができる。マイクロクラックとは、レーザ加工の加工痕の周囲に延在して形成され、クラックの起点となり、いずれ大きなクラックを形成するような極微小なクラックのことである。このマイクロクラックは、大きなクラックのように亀裂が開いた状態ではなく、見かけ上、閉じた状態で存在するため、光学顕微鏡では観察しにくい。本実施形態では、クラックなどの形状異常がP波やS波の形状分布に反映されるので、極微小であったり、閉じた状態であったりするマイクロクラックでも形状異常として検出することができる。なお、マイクロクラックの長さは特に限定されないが、例えば10μm以下である。
【0112】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0113】
上述の実施形態では、レーザ照射部10が第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を分岐して出力する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2をそれぞれ出力するレーザ照射部を別々に配置してもよい。
【0114】
また上述の実施形態では、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を同軸で照射する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を照射角度が異なるように異軸で照射してもよい。例えば、第1レーザ光L1を加工対象物40の表面に対して垂直に面外方向から照射する一方で、第2レーザ光L2を加工対象物40の表面に対して平行に面内方向から照射してもよい。このとき得られる複屈折像によれば、第1レーザ光L1の照射により生じるP波やS波が加工対象物40の厚さ方向へ伝搬することを捕捉することができる。この画像に基づき、上記と同様に加工異常を精度よく検出することができる。
【0115】
上述の実施形態では、加工対象物40を透過した第2レーザ光L2を撮像部50で撮像する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、加工対象物40で反射した第2レーザ光L2を検出するように撮像部50を配置してもよい。この場合、例えば撮像部50として偏光カメラを用いて各偏光方位におけるイメージングを行い、その結果に対して適切な式で演算を行うことにより、加工対象物40で反射した第2レーザ光L2の複屈折と類似の情報を有する偏光度変化に関する像を取得することができる。これらの画像によれば、加工対象物40として透明性材料だけに限定されず、非透光性材料についても加工異常の検出を行うことができる。
【0116】
上述の実施形態では、加工対象物40に対してライン加工を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば穴あき加工を行ってもよい。この場合でも、上記と同様にレーザ加工とともに加工異常の検出を行うことができる。
【0117】
また、上述の実施形態では、加工異常として形状異常やアブレーション異常を検出する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、レーザ加工にともなう、あらゆる異常を検出することができる。例えば、第1レーザ光L1の照射にともなう熱による異常も検出することができる。熱による異常としては、例えば、加工対象物40において応力が生じ、歪みが形成されること、溶融により加工痕の形状が変動すること等が挙げられる。これらの異常であっても、P波およびS波の少なくとも1つを含む画像を取得することにより、その発生をリアルタイムでモニタリングすることができる。
【0118】
また上述の実施形態では、レーザ加工用の第1レーザ光L1により生じる圧力波(P波やS波)を利用して加工異常を検出する場合について説明したが、圧力波を生じさせる手段はレーザ光に限定されない。例えば、加工対象物40に対して機械的な衝撃を付与し、圧力波を生じさせてもよい。このとき衝撃を付与した箇所を含む領域にプローブ光を照射し撮像することで、圧力波の影響が反映された画像を取得することができる。この場合、レーザ加工と同時に加工異常を動的にモニタリングする必要がなく、レーザ加工後のレーザ加工品についてマイクロクラックを静的にモニタリングすることができる。
【実施例0119】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0120】
(サンプルA1)
サンプルA1では、
図1に示すレーザ加工装置を用いて、加工対象物のレーザ加工を行った。
【0121】
加工対象物としては、工業ガラス(Eagle XG(登録商標))を用いた。
【0122】
レーザ加工装置において、チタンサファイアレーザを出力する光源を使用し、基本波として、波長800nm、パルス幅70fsのパルスレーザを出力した。このパルスレーザを分岐部で第1レーザ光(ポンプ光)および第2レーザ光(プローブ光)に分岐した。第1レーザ光の照射径は直径3μm、第2レーザ光の照射径は直径100μmとなるように、加工対象物の上流および下流のそれぞれに対物レンズを配置した。また第2レーザ光は、遅延時間調整部を介することで第1レーザ光に対して遅延時間が3ナノ秒(3ns)となるように照射した。遅延時間は、加工対象物の材質がガラスであり、検出対象とするマイクロクラックの長さを10μm以下として、圧力波が第2レーザ光の照射領域内を伝搬する間に第2レーザ光を照射できるような時間から遅延時間を3nsに調整した。また、第2レーザ光の偏光方向を円偏光とした。また撮像部として偏光カメラを使用した。
【0123】
本実施例では、上述のレーザ加工装置に加工対象物を導入し、加工対象物に対してレーザ照射による穴あき加工を行った。この際、第1レーザ光によるレーザ加工とともに、第2レーザ光によりマイクロクラックを動的にモニタリングした。その結果、
図2に示す吸収像を取得した。また比較のため、穴あき加工後に十分に時間が経過した後に、
図2と同様の加工領域を静的にモニタリングした。その結果、
図3に示す吸収像を取得した。
図2は、サンプルA1について加工領域を遅延時間3nsで動的観察したときの吸収像である。
図3は、サンプルA1について加工領域を静的観察したときの吸収像である。
【0124】
図2に示すように、加工痕の周囲に発生したマイクロクラックがその他の箇所と強度が異なるものとして強調表示されていることが確認された。これは、第2レーザ光の遅延時間を3nsとすることで、第1レーザ光の照射により生じる圧力波が第2レーザ光の照射領域内にあるタイミングで第2レーザ光を照射でき、圧力波の応力がマイクロクラックに集中し残留していた状態を撮像できたためである。また、加工痕の周囲に円形状の圧力波を捕捉していることが確認された。
図2中、マイクロクラックの最大長さは8μm、圧力波の半径は18μmであって、検出対象のマイクロクラックの長さの2.3倍であることが確認された。
【0125】
これに対して、
図3では、
図2と同様の加工領域を撮像したにもかかわらず、マイクロクラックが強調表示されていないことが確認された。これは、加工後に十分に時間が経過した場合、圧力波の応力がマイクロクラックへ集中しても、時間の経過とともに応力が緩和してしまうためである。
【0126】
(サンプルA2)
サンプルA2では、遅延時間を3nsから100nsに変更した以外は、サンプルA1と同様にレーザ加工とともにマイクロクラックのモニタリングを行った。このとき得られた吸収像を
図4に示す。また比較のため、穴あき加工後に十分に時間が経過した後に、
図4と同様の加工領域を静的にモニタリングした。このとき得られた吸収像を
図5に示す。
【0127】
図4では、マイクロクラックへの応力の残留がなく、マイクロクラックが強調表示されないことが確認された。サンプルA2では、遅延時間を100nsとして過度に長くしたことにより、第2レーザ光の照射領域内に圧力波がある間に第2レーザ光を照射できなかった。この結果、第1レーザ光の照射により生じる圧力波の応力がマイクロクラックへ集中したものの、第2レーザ光の照射時には、応力が緩和したものと考えられる。
【0128】
(サンプルA3)
サンプルA3では、穴あき加工の代わりにライン加工を行った以外はサンプルA1と同様の条件でレーザ加工を行った。また、第2レーザ光の遅延時間を5nsとした以外はサンプルA1と同様の条件で動的にモニタリングを行った。第2レーザ光の照射領域の撮像の際、偏光カメラを用いて複屈折イメージングを行うことにより、
図6~
図8に示すように、吸収像とともに、軸方位像および位相差像を含む複屈折像を取得した。
図6は、サンプルA3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの吸収像である。
図7は、サンプルA3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの軸方位像である。
図8は、サンプルA3について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像である。
【0129】
図6に示すように、吸収像において、加工痕の周囲に生じたマイクロクラックが強調表示されることが確認された。また
図7に示すように、軸方位像において、マイクロクラックが加工対象物とは異なる軸方位を有する箇所として強調表示されることが確認された。また同様に、
図8に示すように、位相差像において、マイクロクラックが加工対象物とは異なる位相差を有する箇所として強調表示されることが確認された。
【0130】
(サンプルA4)
サンプルA4では、第1レーザ光を加工対象物の表面に対して垂直に、第2レーザ光を加工対象物の表面に平行に照射し、異軸で照射するとともに、第2レーザ光の遅延時間を26nsとした以外はサンプルA1と同様にレーザ加工を行った。偏光カメラの撮像により、
図9に示す軸方位像を取得した。
図9は、サンプルA4について加工領域を加工対象物の側面から動的観察したときの軸方位像である。
【0131】
図9によれば、第1レーザ光の照射により生じる圧力波が加工対象物中を伝搬することを捕捉できることが確認された。
【0132】
以上説明したように、レーザ加工の際に、レーザ加工用の第1レーザ光の照射後に、それにともなって生じる圧力波を、モニタリング用の第2レーザ光を照射して撮像することにより、得られる画像においてマイクロクラックを強調表示することができ、マイクロクラックを精度よく検出することができる。
【0133】
(サンプルB1)
サンプルB1では、
図1に示すレーザ加工装置を用いて、加工対象物のレーザ加工を行った。
【0134】
加工対象物としては、工業ガラス(Eagle XG(登録商標))を用いた。
【0135】
レーザ加工装置において、チタンサファイアレーザを出力する光源を使用し、基本波として、波長800nm、パルス幅70fsのパルスレーザを出力した。このパルスレーザを分岐部で第1レーザ光(ポンプ光)および第2レーザ光(プローブ光)に分岐した。第1レーザ光の照射径は直径3μm、第2レーザ光の照射径は直径100μmとなるように、加工対象物の上流および下流のそれぞれに対物レンズを配置した。また第2レーザ光は、遅延時間調整部を介することで第1レーザ光に対して遅延時間が5ナノ秒(5ns)となるように照射した。また第2レーザ光の偏光方向を円偏光とした。遅延時間は、加工対象物がガラスであり、この加工対象物を伝搬するP波やS波を捕捉できるような時間内で5nsに設定した。また撮像部として偏光カメラを使用した。
【0136】
本実施例では、上述のレーザ加工装置に加工対象物を導入し、加工対象物に対してレーザ照射によるライン加工を行った。この際、第1レーザ光によるレーザ加工とともに、第2レーザ光により加工異常の有無を動的にモニタリングした。第2レーザ光の照射領域の撮像の際、偏光カメラを用いて複屈折イメージングを行うことにより、複屈折像を取得した。また、複屈折像とともに、加工対象物を透過する第2レーザ光を検出した吸収像も取得した。本実施例では、ライン加工の過程で、第1レーザ光の照射位置を変更したときに、それぞれの照射位置で第2レーザ光を照射し撮像することにより、複数の画像を取得した。
【0137】
具体的には、ある照射位置Aで取得された位相差像、軸方位像および吸収像として
図10~12を、別の照射位置Bで取得された位相差像、軸方位像および吸収像として
図13~15をそれぞれ取得した。
図10は、サンプル1について照射位置Aを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像であり、
図11は、そのときの軸方位像、
図12は、そのときの吸収像である。
図13は、サンプル1について照射位置Bを含む加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像であり、
図14は、そのときの軸方位像、
図15は、そのときの吸収像である。
【0138】
図10、
図11、
図13、
図14に示すように、複屈折像のうち位相差像や軸方位像上で第1レーザ光の照射により生じ、加工対象物の表面を伝搬するP波やS波を表示できることが確認された。
図2、
図3によれば、P波やS波の分布形状が円形状から乱れ変化していることが確認された。このときの吸収像である
図12によれば、加工痕の先端箇所にマイクロクラックが発生していることが確認された。つまり、ある照射位置Aで形状異常が生じていることが確認された。一方、
図13、
図14によれば、P波やS波の分布形状が円形であり、形状変化が確認されなかった。このときの吸収像である
図15によれば、
図12のように加工痕の先端箇所でマイクロクラックは確認されなかった。つまり、別の照射位置Bでは形状異常が確認されなかった。以上のことから、P波やS波の分布形状が円形から乱れ変化することが、マイクロクラックの発生に起因するものであることが確認された。つまり、P波やS波の分布形状の変化からマイクロクラックの発生を検出できる。
【0139】
特に、
図11や
図14の軸方位像と比較して、
図10や
図13の位相差像によれば、P波やS波の形状分布の変化をより把握しやすく、マイクロクラックを検出しやすいことが確認された。また圧力波でもS波はP波と比較してマイクロクラックにより形状分布が変化しやすく、マイクロクラックをより検出しやすいことが確認された。
【0140】
また、
図10において、P波やS波の強度分布、特にP波の強度分布からアブレーション量の変動を把握することができた。具体的には、P波の強度分布において、第1レーザ光の照射位置の移動方向に向かって±45°の範囲内がその他の箇所に比べて強度が高いことが確認された。このことから、ライン加工中にP波の強度分布の変化を観測することで、アブレーション量の変化をモニタリングできることが確認できた。このように、第1レーザ光の照射位置を移動させたときに、P波の強度が著しく変化する等をモニタリングしたときに、アブレーション異常を検知することができる。
【0141】
(サンプルB2)
サンプルB2では、サンプルB1と同様の条件でライン加工を行い、加工領域を撮像することで、
図16~
図18に示す加工領域の位相差像、軸方位像および吸収像を取得した。
図16は、サンプル2について加工領域を遅延時間5nsで動的観察したときの位相差像であり、
図17は、そのときの軸方位像、
図18は、そのときの吸収像である。
【0142】
図16および
図17に示すように、P波およびS波の分布形状において、特にS波の分布形状が円形から乱れ、形状異常が生じていることが確認された。また、P波およびS波の強度分布において、局所的に強度が高く、アブレーション異常が生じていることが確認された。これらの加工異常の要因について検討したところ、加工対象物がわずかに傾いて配置されているためであることが分かった。加工対象物が傾いて配置されることで、第1レーザ光の焦点位置が正位置からずれ、アブレーション量が変動したものと推測される。またアブレーション異常にともないマイクロクラックが発生し、形状異常も生じたものと推測される。
【0143】
(サンプルB3)
サンプルB3では、遅延時間を変更し、加工領域を加工中に動的に観察した場合と、加工領域を加工後に静的に観察した場合と比較した。
【0144】
具体的には、まず、サンプル1においてライン加工の代わりに穴あき加工を行った以外は、サンプル1と同様の条件で遅延時間を5nsに調整し、加工領域を撮像した。これにより複屈折像を取得し、加工異常の有無を動的に観察した。このとき取得した複屈折像として、軸方位像を
図19に、位相差像を
図20にそれぞれ示す。
【0145】
次に、同じ加工領域について、穴あき加工後、所定の時間をおいて撮像した。これにより、複屈折像を取得し、加工異常の有無を静的に観察した。このとき取得した複屈折像として、軸方位像を
図21に、位相差像を
図22にそれぞれ示す。
【0146】
図19および
図20によれば、所定の遅延時間で第2レーザ光を照射し撮像することで、位相差像や軸方位像上に、第2レーザ光の照射領域内を伝搬する圧力波(P波やS波)を反映できることが確認された。一方、
図21および
図22によれば、レーザ加工後に時間をおいてから撮像したため、取得した位相差像や軸方位像上でP波やS波を捕捉できないことが確認された。しかも、
図19や
図20をモニタリングすることで、P波やS波の分布形状や強度分布の変化から、加工異常を検出することができた。これに対して、
図21および
図22によれば、圧力波が表示されていないため、
図19や
図20で検出できた加工異常を検出できないことが確認された。
【0147】
以上説明したように、レーザ加工の際に、レーザ加工用の第1レーザ光の照射後に、それにともなって生じるP波やS波を、モニタリング用の第2レーザ光を照射して撮像することで画像上に表示し、このP波やS波に基づきレーザ加工中の加工異常をリアルタイムでモニタリングすることができる。
【0148】
<付記>
本発明の好ましい形態を付記する。
【0149】
(付記A1)
加工対象物に照射され加工痕を形成するレーザ加工用の第1レーザ光、および前記加工痕を含む加工領域に照射されるモニタリング用の第2レーザ光を出力するレーザ照射部と、
前記第2レーザ光が前記第1レーザ光に対して所定の遅延時間をおいて照射されるように、前記第2レーザ光の照射を調整する遅延時間調整部と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する撮像部と、を備え、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記第1レーザ光の照射により前記加工対象物に生じる圧力波が前記第2レーザ光の照射領域内を伝搬する時間内で調整するように構成される、
レーザ加工装置。
【0150】
(付記A2)
付記A1において、好ましくは、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記加工痕の周囲にマイクロクラックが存在するときに、前記圧力波の応力が前記マイクロクラックに残留している時間内で調整するように構成される。
【0151】
(付記A3)
付記A2において、好ましくは、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記圧力波が前記マイクロクラックの長さの0.1倍以上100倍以下の半径まで伝搬する時間内で調整するように構成される。
【0152】
(付記A4)
付記A1~A3のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記圧力波が前記加工痕から1μm以上50μm以下の距離を伝搬する時間内で調整するように構成される。
【0153】
(付記A5)
付記A1~A4のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記画像が、前記加工対象物を透過した前記第2レーザ光の強度分布を示す吸収像である。
【0154】
(付記6)
付記A1~A4のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記画像が、前記加工対象物で反射した前記第2レーザ光の強度分布を示す反射像である。
【0155】
(付記A7)
付記A1~A4のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記画像が、前記加工対象物を透過、または前記加工対象物で反射した前記第2レーザ光の複屈折像である。
【0156】
(付記A8)
付記A1~A7のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記レーザ照射部は、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記加工対象物に対して同軸で照射するように構成される。
【0157】
(付記A9)
付記A1~A7のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記レーザ照射部は、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記加工対象物に対して異軸で照射するように構成される。
【0158】
(付記A10)
付記A1~A9のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記撮像部は偏光カメラである。
【0159】
(付記A11)
付記A1~A10のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記第2レーザ光の照射径が第1レーザ光よりも大きい。
【0160】
(付記A12)
付記A1~A11のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記第2レーザ光の照射径が10μm以上200μm以下である。
【0161】
(付記A13)
付記A1~A12のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記第2レーザ光がパルス光であり、パルス幅が前記遅延時間の10倍以下である。
【0162】
(付記A14)
付記A1~A13のいずれか1つにおいて、好ましくは、
第2レーザ光の強度は、前記撮像部により前記照射領域を撮像できるような強度以上、前記加工対象物を損傷させないような強度以下である。
【0163】
(付記A15)
付記A1~A14のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記加工対象物は、非晶性または結晶性を有する材料から形成される。
【0164】
(付記A16)
加工対象物にレーザ加工用の第1レーザ光を照射し、加工痕を形成する第1照射工程と
前記加工対象物における前記加工痕を含む加工領域に所定の遅延時間をおいて第2レーザ光を照射する第2照射工程と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有し、
前記第2照射工程では、前記第2レーザ光の照射を、前記第1レーザ光の照射により前記加工対象物に生じる圧力波が前記第2レーザ光の照射領域内にある時間内で調整する、
レーザ加工品の製造方法。
【0165】
(付記A17)
加工対象物に衝撃を付与し、前記加工対象物に圧力波を伝搬させる衝撃付与工程と、
前記衝撃の付与後、所定の遅延時間をおいて、前記加工対象物において衝撃を付与した箇所を含む領域にプローブ光を照射する照射工程と、
前記プローブ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有し、
前記照射工程では、前記プローブ光の照射を、前記圧力波が前記プローブ光の照射領域内にある時間内で調整する
マイクロクラックの検出方法。
【0166】
(付記B1)
加工対象物に照射され加工痕を形成するレーザ加工用の第1レーザ光、および前記加工痕を含む加工領域に照射されるモニタリング用の第2レーザ光を出力するレーザ照射部と、
前記第2レーザ光が前記第1レーザ光に対して所定の遅延時間をおいて照射されるように、前記第2レーザ光の照射を調整する遅延時間調整部と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して、前記第1レーザ光の照射により生じ、前記加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得する撮像部と、を備える、
レーザ加工装置。
【0167】
(付記B2)
付記1において、好ましくは、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記P波または前記S波が前記第2レーザ光の照射領域内を伝搬する時間内で調整するように構成される。
【0168】
(付記B3)
付記B1またはB2において、好ましくは、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記P波または前記S波が前記加工痕から5μm以上1mm以下まで伝搬する時間内で調整するように構成される。
【0169】
(付記B4)
付記B1~B3のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記画像が前記S波の分布形状および強度分布の少なくとも1つを示す。
【0170】
(付記B5)
付記B1~B4のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記画像が前記P波の分布形状および強度分布の少なくとも1つを示す。
【0171】
(付記B6)
付記B1~B5のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記画像が、前記第2レーザ光の照射領域の軸方位像および位相差像の少なくとも1つを含む複屈折像である。
【0172】
(付記B7)
付記B1~B6のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記レーザ照射部は、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記加工対象物に対して同軸で照射するように構成される
【0173】
(付記B8)
付記B1~B6のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記レーザ照射部は、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記加工対象物に対して異軸で照射するように構成される。
【0174】
(付記B9)
付記B1~B8のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記撮像部は偏光カメラである。
【0175】
(付記B10)
付記B1~B9のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記第2レーザ光の照射径が第1レーザ光よりも大きい。
【0176】
(付記B11)
付記B1~B10のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記第2レーザ光の照射径が10μm以上1mm以下である。
【0177】
(付記B12)
付記B1~B11のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記第2レーザ光がパルス光であり、パルス幅が前記遅延時間の10倍以下である。
【0178】
(付記B13)
付記B1~B12のいずれか1つにおいて、好ましくは、
第2レーザ光の強度は、前記撮像部により前記照射領域を撮像できるような強度以上、前記加工対象物を損傷させないような強度以下である。
【0179】
(付記B14)
付記B1~B13のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記加工対象物は、非晶性または結晶性を有する材料から形成される。
【0180】
(付記B15)
加工対象物に照射され加工痕を形成するレーザ加工用の第1レーザ光、および前記加工痕を含む加工領域に照射されるモニタリング用の第2レーザ光を出力するレーザ照射部と、
前記第2レーザ光が前記第1レーザ光に対して所定の遅延時間をおいて照射されるように、前記第2レーザ光の照射を調整する遅延時間調整部と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する撮像部と、を備え、
前記遅延時間調整部は、前記第2レーザ光の照射を、前記第1レーザ光の照射により前記加工対象物に生じる圧力波が前記第2レーザ光の照射領域内を伝搬する時間内で行うよう調整し、
前記撮像部は、前記画像として、前記第2レーザ光の軸方位像および位相差像の少なくとも1つを含む複屈折像を取得するように構成される、
レーザ加工装置。
【0181】
(付記B16)
加工対象物にレーザ加工用の第1レーザ光を照射し、加工痕を形成する第1照射工程と、
前記加工対象物における前記加工痕を含む加工領域に所定の遅延時間をおいて第2レーザ光を照射する第2照射工程と、
前記第2レーザ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有し、
前記取得工程では、前記第1レーザ光の照射により生じ、前記加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得する、
レーザ加工品の製造方法。
【0182】
(付記B17)
加工対象物に衝撃を付与し、前記加工対象物に圧力波としてP波およびS波を伝搬させる衝撃付与工程と、
前記衝撃の付与後、所定の遅延時間をおいて、前記加工対象物において衝撃を付与した箇所を含む領域にプローブ光を照射する照射工程と、
前記プローブ光の照射領域を撮像して画像を取得する取得工程と、を有し、
前記取得工程では、前記衝撃付与により生じ、前記加工対象物を伝搬する圧力波のうちP波およびS波のいずれか1つを含む画像を取得する、
マイクロクラックの検出方法。