(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073154
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型及びその製造方法、並びに、連続鋳造棒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20240522BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20240522BHJP
B22D 11/059 20060101ALI20240522BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
B22D11/059 120Z
B22D11/059 110A
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
C22F1/00 631Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184221
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳文
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004NA02
(57)【要約】
【課題】鋳造時の鋳型の温度上昇を受けても強度低下が抑制され、長寿命な連続鋳造用鋳型を提供することである。
【解決手段】本発明の連続鋳造用鋳型100は、一端が溶湯の注入口12であり、他端が鋳塊の鋳出口13である筒型の鋳型本体100Aを有する連続鋳造用鋳型であり、鋳型本体100Aは、Si:0.15質量%以上、0.4質量%以下、 Fe:0.05質量%以上、0.30質量%以下、Mn:0.3質量%以上、1.0質量%以下、Mg:4.0質量%以上、5.0%質量%以下、Cr:0.05質量%以上、0.25質量%以下、Ti:0.01質量%以上、0.05質量%以下、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が溶湯の注入口であり、他端が鋳塊の鋳出口である筒型の鋳型本体を有する連続鋳造用鋳型であって、
前記鋳型本体は、Si:0.15質量%以上、0.4質量%以下、 Fe:0.05質量%以上、0.30質量%以下、Mn:0.3質量%以上、1.0質量%以下、Mg:4.0質量%以上、5.0%質量%以下、Cr:0.05質量%以上、0.25質量%以下、Ti:0.01質量%以上、0.05質量%以下、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる、連続鋳造用鋳型。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、Bを0.001質量%以上、0.03質量%以下、含有する、請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、200℃における引張強度が130MPa以上を有する、請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。
【請求項4】
前記鋳型本体の内周面に配置するカーボンリングを備える、請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法であって、
溶湯形成工程、鋳造工程、均質化熱処理工程及び鍛造工程を行った後に、500℃以上、550℃以下の温度で溶体化処理工程を実施し、その後、水焼き入れ処理工程を実施する、連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法であって、
溶湯形成工程、鋳造工程、均質化熱処理工程及び切断工程を行った後に、前記切断工程で切断した切断品に対して500℃以上、550℃以下の温度で溶体化処理工程、切削加工工程を実施する、連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の連続鋳造用鋳型を用いて連続鋳造棒を製造する、連続鋳造棒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用鋳型及びその製造方法、並びに、連続鋳造棒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、最近の輸送機器においては、その軽量化の要求から、アルミニウム合金部品の採用が多くなっている。このようなアルミニウム合金部品は、アルミニウム合金棒材を所定の長さに切断して鍛造用素材とし、その鍛造用素材を鍛造によって部品に成形することで得られる。そして、アルミニウム合金棒材は、例えば縦型連続鋳造や水平連続鋳造によって作製された素材に塑性加工や熱処理を施すことによって製造されている。
【0003】
この連続鋳造では一般に、次のような過程を経て金属溶湯から円柱状、角柱状あるいは中空柱状の長尺鋳塊を製造する。すなわち、金属溶湯を溜める溶湯受部に入った溶湯は、耐火物製の溶湯通路を通った後、ほぼ水平に設置された中空筒状の鋳型の中空部に入り、ここで強制冷却されて溶湯本体の外表面に凝固殻が形成される。さらに鋳型から引き出された鋳塊に水などの冷却剤が直接放射され、鋳塊内部まで金属の凝固が進行しつつ棒状の鋳塊が連続的に引き出される。
【0004】
図1は従来の縦型連続鋳造装置、
図2は従来の横型(水平)連続鋳造装置の概略構成を示している。連続鋳造装置に用いられる鋳型の素材として、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属があげられる。また、その金属にセラミックや黒鉛を挿入した鋳型が用いられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-170009号公報
【特許文献2】特許第4648968号公報
【特許文献3】特開2002-301547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、鋳型の金属部の素材としてアルミニウムを使用する場合、素材自体が非常に柔らかいため、ハンドリングにおける傷の発生、鋳造前後の熱歪みによる変形が生じる。アルミニウム合金について、現在最も流通している6061が一般的に鋳型に使用される。6061は熱処理型合金であり、鋳造時に用いる鋳型の温度は200℃程度まで上昇するために6061のような6000系合金では組織内の晶出物が異常成長を起こし、強度が低下、その結果、変形や割れが発生してしまう。また、母材の柔らかさに対し、陽極酸化処理を行い鋳型に用いることもある。陽極酸化処理を実施する場合、母材のコストに加えて追加コストが発生する。
【0007】
本発明は、上記の技術的課題を鑑み、鋳造時の鋳型の温度上昇を受けても強度低下が抑制され、長寿命な連続鋳造用鋳型及びその製造方法、並びに、連続鋳造棒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
本発明の態様1に係る連続鋳造用鋳型は、一端が溶湯の注入口であり、他端が鋳塊の鋳出口である筒型の鋳型本体を有する連続鋳造用鋳型であって、前記鋳型本体は、Si:0.15質量%以上、0.4質量%以下、 Fe:0.05質量%以上、0.30質量%以下、Mn:0.3質量%以上、1.0質量%以下、Mg:4.0質量%以上、5.0%質量%以下、Cr:0.05質量%以上、0.25質量%以下、Ti:0.01質量%以上、0.05質量%以下、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0010】
本発明の態様2に係る連続鋳造用鋳型は、態様1の連続鋳造用鋳型において、前記アルミニウム合金は、Bを0.001質量%以上、0.03質量%以下、含有する。
【0011】
本発明の態様3に係る連続鋳造用鋳型は、態様1又は態様2のいずれかの連続鋳造用鋳型において、前記アルミニウム合金は、200℃における引張強度が130MPa以上を有する。
【0012】
本発明の態様4に係る連続鋳造用鋳型は、態様1~態様3のいずれか一つの連続鋳造用鋳型において、前記鋳型本体の内周面に配置するカーボンリングを備える。
【0013】
本発明の態様5に係る連続鋳造用鋳型の製造方法は、態様1~態様4のいずれか一つの連続鋳造用鋳型の製造方法であって、溶湯形成工程、鋳造工程、均質化熱処理工程及び鍛造工程を行った後に、500℃以上、550℃以下の温度で溶体化処理工程を実施し、その後、水焼き入れ処理工程を実施する。
【0014】
本発明の態様6に係る連続鋳造用鋳型の製造方法は、態様1~態様4のいずれか一つの連続鋳造用鋳型の製造方法であって、溶湯形成工程、鋳造工程、均質化熱処理工程及び切断工程を行った後に、前記切断工程で切断した切断品に対して500℃以上、550℃以下の温度で溶体化処理工程、切削加工工程を実施する。
【0015】
本発明の態様7に係る連続鋳造棒の製造方法は、態様1~態様4のいずれか一つの連続鋳造用鋳型を用いて連続鋳造棒を製造する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の連続鋳造用鋳型によれば、鋳造時の鋳型の温度上昇を受けても強度低下が抑制され、長寿命な連続鋳造用鋳型を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る連続鋳造用鋳型の断面模式図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る連続鋳造用鋳型の断面模式図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施形態に係る連続鋳造用鋳型を備えた水平連続鋳造装置の断面模式図である。
【
図4】本発明のさらに他の実施形態に係る連続鋳造用鋳型を備えた水平連続鋳造装置の断面模式図である。
【
図5】実施例1のアルミニウム合金組成の連続鋳造用鋳型の伸び率の経時変化を示すグラフである。
【
図6】実施例1と比較例(6061)について温度と引張強度の関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。理解を容易にするために誇張して描いている場合がある。
【0019】
[連続鋳造用鋳型]
図1に、本発明の一実施形態に係る連続鋳造用鋳型の断面模式図を示す。
図2に、本発明の他の実施形態に係る連続鋳造用鋳型の断面模式図を示す。同様な部材については同じ符号をつけて説明を省略する場合がある。
【0020】
図1に示す連続鋳造用鋳型100は、一端が溶湯の注入口12であり、他端が鋳塊の鋳出口13である筒型の鋳型本体100Aを有する連続鋳造用鋳型であり、鋳型本体100Aは、Si:0.15質量%以上、0.4質量%以下、 Fe:0.05質量%以上、0.30質量%以下、Mn:0.3質量%以上、1.0質量%以下、Mg:4.0質量%以上、5.0%質量%以下、Cr:0.05質量%以上、0.25質量%以下、Ti:0.01質量%以上、0.05質量%以下、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0021】
鋳型本体100Aを構成するアルミニウム合金は、Bを0.001質量%以上、0.03質量%以下、含有してもよい。
【0022】
連続鋳造用鋳型100は、断面円形の成形孔11の両端が開口する筒型であり、筒型の鋳型本体100Aからなる。成形孔11の一端は溶湯Mの注入口12であり、他端は鋳塊Sの鋳出口13である。
鋳型本体100Aは内部に冷却水Cを流通させるキャビティ21を有し、上部にキャビテイィへ21への入口22が設けられ、鋳出口13を囲んで噴出口23が設けられている。入口22から導入された冷却水Cは、キャビティ21内を流通して成形孔11内の溶湯Mを、鋳型本体100Aを介し一次冷却して凝固させ、噴出口23から噴出して鋳出されてくる鋳塊Sに吹き付けられて鋳塊Sを二次冷却する。
【0023】
図2に示す連続鋳造用鋳型200は、一端が溶湯の注入口であり、他端が鋳塊の鋳出口である筒型の鋳型本体200A以外に、鋳型本体200Aの内周面200Aaに配置するカーボンリング200Bを備える点が、鋳型本体100Aの内周面100Aaにカーボンリングを備えない
図1に示す連続鋳造用鋳型100と異なる。鋳型本体200Aを構成するアルミニウム合金の組成は鋳型本体100Aを構成するアルミニウム合金と同じであり、鋳型本体200Aを構成するアルミニウム合金は、Bを0.001質量%以上、0.03質量%以下、含有してもよい。
【0024】
金属製鋳型では、鋳型の内周面と溶湯の外表面との焼き付きを防止するために、鋳型と溶湯との接触部にエアー、アルゴン、酸素等の気体や鋳造用潤滑油を供給する。気体及び鋳造用潤滑油の供給方式としては、筒状の金属製鋳型の内周面に設置されたグラファイト(黒鉛)に例示されるカーボン材料からなるリング(グラファイトリング(カーボンリング))に気体や潤滑油を透過させて供給するのが一般的である。ポーラス性のカーボンリングを用いることによって、鋳肌の表面性状を改善することができる。
【0025】
連続鋳造用鋳型200は、断面円形の成形孔11の両端が開口する筒型であり、筒型の鋳型本体200Aと、鋳型本体200Aの成形孔11に内嵌めされた筒型のカーボンリング200Bとにより構成されている。成形孔11の一端は溶湯Mの注入口12であり、他端は鋳塊Sの鋳出口13である。
【0026】
鋳型本体200Aは内部に冷却水Cを流通させるキャビティ21を有し、上部にキャビテイィへ21への入口22が設けられ、前記鋳出口13を囲んで噴出口23が設けられている。入口22から導入された冷却水Cは、キャビティ21内を流通して成形孔11内の溶湯Mを鋳型本体200Aおよび成形孔11に内嵌めされた筒型のカーボンリング200Bを介し一次冷却して凝固させ、噴出口23から噴出して鋳出されてくる鋳塊Sに吹き付けられて鋳塊Sを二次冷却する。また、鋳型本体200Aの内周面200Aaの鋳出口13側の一部を除く領域に、カーボンリング200Bの厚み相当の凹部26が形成されている。
【0027】
カーボンリング200Bは、熱伝導度が60W/(m・K)~139W/(m・K)のカーボン製とすることができる。また、カーボンリング200Bの内周面200Baの表面粗さはJIS B0601 2001で規定された最大高さRzで1μm~25μmに調整し、平滑性の高い内周面200Baとすることができる。カーボンリング200Bは鋳型本体200Aの凹部26に焼き嵌めにより嵌合され、カーボンリング200Bの内周面200Baと鋳型本体200Aの内周面200Aaの下方部とが連続する曲面を形成し、この曲面が連続鋳造用鋳型200の成形孔11の壁面11aを構成している。
【0028】
図3に、本発明のさらに他の実施形態に係る連続鋳造用鋳型を備えた横型(水平)連続鋳造装置の断面模式図を示す。
【0029】
図3に示す横型連続鋳造装置1000は、側壁に出湯口10Aを有する溶湯受部10と、断面円形の注湯通路20Aを有する注湯用ノズル20と、断面円形の成形孔41を有する筒状の鋳型本体300Aを有する連続鋳造用鋳型とを備える。
図3に示す連続鋳造用鋳型300は、一端が溶湯の注入口12であり、他端が鋳塊の鋳出口13である筒型の鋳型本体300Aを有する連続鋳造用鋳型である。
鋳型本体300Aを構成するアルミニウム合金の組成は鋳型本体100Aや鋳型本体200Aを構成するアルミニウム合金と同じであり、鋳型本体300Aを構成するアルミニウム合金は、Bを0.001質量%以上、0.03質量%以下、含有してもよい。
【0030】
溶湯受部10、注湯用ノズル20及び鋳型本体300Aは、出湯口10A、注湯通路20A、成形孔41が連通し、かつ連通した孔の中心軸がほぼ水平になるように配置されている。そして、溶湯受部10内の溶湯Mは、注湯用ノズル20の注湯通路20Aを通って鋳型本体300Aの成形孔41に導入され、冷却を受けて凝固する。凝固した鋳塊Sは図外の引出装置によって連続的に鋳型本体300Aから引き抜かれる。
【0031】
鋳型本体300Aは、内部にキャビティ42を有し、このキャビティ42に図外の供給管から導入される冷却水Cを流通させることにより、鋳型本体300Aを冷却して成形孔41内の鋳塊Sを一次冷却するとともに、出口側に設けられた開口部から冷却水Cを噴出させて出口から鋳出されてくる鋳塊Sに放射し、鋳塊Sを二次冷却するものとなされている。また、成形孔41の入口側にはこの成形孔41に開口する潤滑油供給管43が設けられている。
【0032】
注湯用ノズル20は、中心に注湯通路20Aが穿設され、多孔質の耐火物からなる筒状の本体部を備える。
【0033】
図4に、本発明のさらに他の実施形態に係る連続鋳造用鋳型を備えた横型(水平)連続鋳造装置の断面模式図を示す。
【0034】
図4に示す横型連続鋳造装置2000は、側壁に出湯口10Aを有する溶湯受部10と、断面円形の注湯通路20Aを有する注湯用ノズル20と、断面円形の成形孔41を有する筒状の鋳型本体400Aを有する連続鋳造用鋳型とを備える。
図3に示す連続鋳造用鋳型400は、一端が溶湯の注入口12であり、他端が鋳塊の鋳出口13である筒型の鋳型本体400Aを有する連続鋳造用鋳型である。
鋳型本体400Aを構成するアルミニウム合金の組成は鋳型本体300Aを構成するアルミニウム合金と同じであり、鋳型本体400Aを構成するアルミニウム合金は、Bを0.001質量%以上、0.03質量%以下、含有してもよい。
【0035】
図4に示す連続鋳造用鋳型400は、一端が溶湯の注入口であり、他端が鋳塊の鋳出口である筒型の鋳型本体400A以外に、鋳型本体400Aの内周面400Aaに配置するカーボンリング400Bを備える点が、鋳型本体300Aの内周面300Aaにカーボンリングを備えない
図3に示す連続鋳造用鋳型300と異なる。鋳型本体200Aを構成するアルミニウム合金の組成は鋳型本体100Aを構成するアルミニウム合金と同じであり、鋳型本体200Aを構成するアルミニウム合金は、Bを0.001質量%以上、0.03質量%以下、含有してもよい。
【0036】
連続鋳造用鋳型400は、断面円形の成形孔41の両端が開口する筒型であり、筒型の鋳型本体400Aと、鋳型本体400Aの成形孔41に内嵌めされた筒型のカーボンリング400Bとにより構成されている。成形孔41の一端は溶湯Mの注入口12であり、他端は鋳塊Sの鋳出口13である。
【0037】
鋳型本体400Aは内部に冷却水Cを流通させるキャビティ42を有し、鋳出口13を囲んで噴出口44が設けられている。入口(不図示)から導入された冷却水Cは、キャビティ42内を流通して成形孔41内の溶湯Mを鋳型本体400Aおよび成形孔41に内嵌めされた筒型のカーボンリング400Bを介し一次冷却して凝固させ、噴出口44から噴出して鋳出されてくる鋳塊Sに吹き付けられて鋳塊Sを二次冷却する。また、鋳型本体400Aの内周面400Aaの鋳出口13側の一部を除く領域に、カーボンリング400Bの厚み相当の凹部が形成されている。
【0038】
(アルミニウム合金)
上述したような本実施形態に係る連続鋳造用鋳型の鋳型本体に用いられる素材であるアルミニウム合金はAl-Mg系合金(5000系)に分類されるものである。
アルミニウム合金としては、200℃における引張強度が130MPa以上を有するものを用いることが好ましい。
鋳造時に鋳型の表面温度は200℃以上に達する。母材にその温度域における引張強度が低いものを用いると鋳造時の凝固に伴う鋳塊との接触にて傷が発生し数トン鋳造した時点で鋳型を廃棄する必要がある。200℃での引張強度が130MPa以上あることで縦型連続鋳造、横型連続鋳造等の各プロセスにおいて長寿命を維持できる。
【0039】
(Mg:4.0質量%以上、5.0質量%以下)
Mgは、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。アルミニウム母相へMgが固溶する、あるいは、β相などの化合物(β-Mg2Al3)として析出することで、アルミニウム合金の強化に寄与する。Mg量が少ないと強化寄与が不十分、過剰だとβ相の過剰成長を招き、耐食性に悪影響を及ぼす。Mg範囲を上記の範囲とすることで、強度と耐食性を両立した素材が得られる。
【0040】
(Si:0.1質量%以上、0.4質量%以下)
Siは、Mgと同様にアルミニウム合金の常温における機械的特性と共に耐食性を向上させる作用を有する。但し、アルミニウム合金にSiを過剰に添加すると、粗大な初晶Si粒が晶出することにより、アルミニウム合金の引張強さが低下するおそれがある。Siの含有率が上記の範囲内にあることによって、強度と耐食性を両立した素材が得られる。
【0041】
(Fe:0.05質量%以上、0.3質量%以下)
Feは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Fe-Si、Al-Mn-Cr-Fe-Si、Al-Fe-Si、Al-Cu-Fe、Al-Mn-Feなどの金属間化合物を含む微細な晶出物として晶出することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用がある。Feの含有率が上記の範囲内にあることによって、機械的特性を向上させることができる。
【0042】
(Mn:0.3質量%以上、1.0質量%以下)
Mnは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Fe-SiやAl-Mn-Cr-Fe-Siなどの金属間化合物を含む微細な粒状の晶出物を形成することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。
【0043】
(Cr:0.05質量%以上、0.3質量%以下)
Crは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Cr-Fe-SiやAl-Fe-Crなどの金属間化合物を含む微細な粒状の晶出物を形成することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。Crの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金の常温における機械的特性を向上させることができる。
【0044】
(Ti:0.01質量%以上、0.05質量%以下)
Tiは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化し、展伸加工性を向上させる作用を有する。Ti含有率が0.01質量%未満の場合、結晶粒の微細化効果が十分に得られないおそれがある。一方、Ti含有率が0.05質量%を超えると、粗大な晶出物を形成し、鋳型加工時の加工性が低下するおそれがある。また、アルミニウム合金にTiを含む粗大な晶出物が多量に混入すると靭性が低下する場合がある。したがって、Tiの含有率は0.01質量%以上、0.05質量%以下とする。Tiの含有率は、好ましくは0.015質量%以上、0.030質量%以下である。
【0045】
(B:0.001質量%以上、0.03質量%以下)
Bは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化し、加工性を向上させる作用を有する。
上述したTiと共にBをアルミニウム合金に添加することによって、結晶粒の微細化効果が向上する。Bの含有率が0.001質量%未満では、結晶粒の微細化効果が十分に得られないおそれがある。一方、Bの含有率が0.03質量%を超えると、粗大な晶出物を形成し、介在物として鋳型に混入するおそれがある。Bを含む粗大な晶出物が多量に混入すると靭性が低下する場合がある。したがって、Bの含有率は0.001質量%以上、0.03質量%とする。
【0046】
[連続鋳造用鋳型の製造方法]
本発明の実施形態に係る連続鋳造用鋳型の製造方法は、溶湯形成工程、鋳造工程、均質化熱処理工程及び鍛造工程を行った後に、500℃以上、550℃以下の温度で溶体化処理工程を実施し、その後、水焼き入れ処理工程を実施する。
本発明の他の実施形態に係る連続鋳造用鋳型の製造方法では、溶湯形成工程、鋳造工程、均質化熱処理工程及び切断工程を行った後に、前記切断工程で切断した切断品に対して500℃以上、550℃以下の温度で溶体化処理工程、切削加工工程を実施する。
以下では、連続鋳造用鋳型の鋳型本体(アルミニウム合金からなる部分)の製造方法について説明する。
【0047】
(溶湯形成工程)
溶湯形成工程は、原料を溶解して組成を調整したアルミニウム合金溶湯を得る工程である。アルミニウム合金溶湯の組成は、連続鋳造用鋳型の組成と同じである。アルミニウム合金溶湯は、アルミニウム合金を加熱して溶融させることによって得ることができる。前記アルミニウム合金において、不可避的に混入する可能性のある不純物元素が製品特性に影響を及ぼさない範囲で含まれていても構わない。例えば典型元素でいえばZnなど、遷移元素でいえばZrなどが挙げられる。
【0048】
(鋳造工程)
鋳造工程では、アルミニウム合金の溶湯(液相)を冷却して固体(固相)に凝固させて、鋳型用の鋳造品を得る。鋳造工程は、縦型連続鋳造法、横型(水平)連続鋳造法のほか、垂直連続鋳造法など公知の連続鋳造法を用いればよく、特に限定されるものではない。また、最終製品の信頼性向上のために、溶湯に対して脱ガス処理やフィルター処理を適宜行ってもよい。
【0049】
(均質化熱処理工程)
均質化熱処理工程は、鋳造工程で得られた鋳型用の鋳造品に対して均質化熱処理を行うことによって、凝固によって生じたミクロ偏析の均質化、過飽和固溶元素の析出および準安定相の平衡相への変化を行う工程である。
本実施形態では、鋳造工程で得られた鋳型用の鋳造品を370℃以上560℃以下の温度で、4時間から10時間の間保持する均質化熱処理を行う。この温度範囲で均質化熱処理を施すことにより、鋳型用の鋳造品の均質化と溶質原子が十分に固溶するので、その後の溶体化処理および人工時効処理によって十分な母材強度が得られるものとなる。
【0050】
(鍛造工程)
鍛造工程は、均質化熱処理工程後の鋳型用の鋳造品を所定のサイズに成形して鍛造用素材を得て、得られた鍛造用素材を所定の温度に加熱し、その後プレス機で圧力をかけて鍛造加工する工程である。
本実施形態では、鍛造用素材を、450℃以上560℃以下の温度に加熱し、その後鍛造加工を開始して鋳型用の鍛造品を得ることが好ましい。鍛造加工の開始温度が450℃未満になると変形抵抗が高くなって十分な加工ができなくなるおそれがあり、一方、鍛造加工の開始温度が560℃を超えると鍛造割れや共晶融解等の欠陥が発生し易くなるおそれがある。
【0051】
(切断工程)
本発明に係る連続鋳造用鋳型を、鍛造工程にて製造する方法以外に、均質化処理工程を施した素材を切断し、その切断品に溶体化処理を施し、これを切削加工にて鋳型を製造してもよい。
【0052】
(溶体化処理工程)
溶体化処理工程は、鍛造工程で得られた鋳型用の鍛造品を加熱して溶体化させることにより、鋳造品に導入された歪みを緩和し、溶質元素の固溶を行う工程である。
本実施形態では、鍛造品を500℃以上、550℃以下の処理温度で0.3時間から3時間以内保持することにより溶体化処理を行うことが好ましい。
【0053】
(水焼き入れ処理工程)
水焼き入れ処理工程は、溶体化処理工程によって得られた固溶状態の鋳型用の鍛造品を急速に冷却せしめて、過飽和固溶体を形成する工程である。
上記溶体化処理後、5~60秒以内に上記鋳型用の鍛造品の全ての表面が焼き入れ水に接触するように焼入れ水槽に投入することで急冷し、過飽和固溶体を形成させる。焼き入れ水に保持する時間は5分~40分であることが好ましい。水中において5分を超えて保持することにより、鋳型用の鍛造品全体を冷却し、均一な過飽和固溶体を形成させることができる。
【0054】
Al-Mg系合金は熱処理を施さない状態で長期間保管すると伸びが低下する現象が起こるが、500℃以上、550℃以下の温度での上記溶体化処理工程及び上記水焼き入れ処理工程によって、長期保管しても経時変化が生じない状態で維持できる。
【0055】
(人工時効処理工程)
人工時効処理工程を備えることが好ましい。
上記焼入れ処理工程を経た鋳型用の鍛造品に対する人工時効処理としては、170~190℃の温度で4.5~6.5時間の保持を行うものとする。
【0056】
以上の工程を経て、本実施形態に係る連続鋳造用鋳型の鋳型本体(アルミニウム合金からなる部分)を製造できる。
カーボンリングを備えた連続鋳造用鋳型を製造する場合には、カーボンリングを焼き嵌めにより嵌合するために、鋳型本体の内周面の鋳出口側の一部を除く領域に、カーボンリングの厚み相当の凹部を形成する。
【0057】
[連続鋳造棒の製造方法]
本実施形態に係る連続鋳造棒の製造方法は、上述したような本発明の連続鋳造用鋳型を用いて連続鋳造棒を製造することができる。
【実施例0058】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1~3、比較例1~10)
上述した方法にて、表1に示すアルミニウム合金組成からなる連続鋳造用鋳型を作製した(実施例1~3、比較例1~10)。これら実施例及び比較例の連続鋳造用鋳型を用いて水平連続鋳造を行い、その後のそれぞれの連続鋳造用鋳型の変形や寿命を調べた。
【0060】
具体的には、6061合金製の鋳造径φ50mmの鋳造棒を以下の条件で鋳造し、その後の各連続鋳造用鋳型の変形や寿命を調べた。;
溶湯温度:700℃
鋳造速度:400mm/min
冷却水温:20℃
冷却水量:40L/min
【0061】
〔評価1〕
(1)鋳型の変形
1t鋳造後の鋳型内面の最大径と最小径の差を測定し、その径差が0.2mm未満のものをOK(合格)とし、0.2以上のものをNG(不合格)と判定した。径の測定にはノギスを使用した。
(2)鋳型の寿命
また、鋳造重量(連続使用)に対する鋳型内面のクラック発生状況を確認した。1t鋳造後、5t鋳造後、10t鋳造後に鋳型内面を確認し、10t鋳造時点で目視でクラックの有無を確認し、クラック発生がないものをOK(合格)とした。なお、1t、5t及び10tはモールド1個当たりの溶湯量である。
【0062】
【0063】
表1において、各元素の含有量の数値の単位は〔質量%〕であり、内径差の数値の単位は〔mm〕である。
【0064】
実施例1~3の連続鋳造用鋳型は、そのアルミニウム合金組成がSi:0.15質量%以上、0.4質量%以下、 Fe:0.05質量%以上、0.30質量%以下、Mn:0.3質量%以上、1.0質量%以下、Mg:4.0質量%以上、5.0%質量%以下、Cr:0.05質量%以上、0.25質量%以下、Ti:0.01質量%以上、0.05質量%以下、残部がAl及び不可避不純物からなるものである。
これに対して、比較例1、2の連続鋳造用鋳型のアルミニウム合金組成はSiの含有量が上記範囲外、比較例3、4の連続鋳造用鋳型のアルミニウム合金組成はMnの含有量が上記範囲外、比較例5、6の連続鋳造用鋳型のアルミニウム合金組成はMgの含有量が上記範囲外、比較例7、8の連続鋳造用鋳型のアルミニウム合金組成はCrの含有量が上記範囲外、比較例9、10の連続鋳造用鋳型のアルミニウム合金組成はFeの含有量が上記範囲外である。
【0065】
実施例1~3の連続鋳造用鋳型では、1t鋳造後の内径差はいずれも0.2mm未満であり、変形が小さいことがわかる。
これに対して、比較例1、3、5、7及び9は各元素の含有量が上記範囲の下限より低い場合であるが、これらの場合はいずれも、1t鋳造後の内径差が規定の値0.2mmを超えており、変形が大きいことがわかる。
【0066】
実施例1~3の連続鋳造用鋳型では、10t鋳造後も鋳型内面にクラックは発生していない。
これに対して、Si含有量が上記範囲の上限を超えている比較例2では5t鋳造後で鋳型内面にクラックが発生し、Mn含有量が上記範囲の下限、上限をそれぞれ超えている比較例3,4では10t鋳造後で鋳型内面にクラックが発生し、Mg含有量が上記範囲の上限を超えている比較例6では1t鋳造後で鋳型内面にクラックが発生し、Cr含有量が上記範囲の上限を超えている比較例8では5t鋳造後で鋳型内面にクラックが発生し、Fe含有量が上記範囲の上限を超えている比較例10では5t鋳造後で鋳型内面にクラックが発生した。
【0067】
〔評価2:伸び率の経時変化〕
図5に、表1の実施例1のアルミニウム合金組成の連続鋳造用鋳型について、溶体化処理及び水焼き入れ処理の有無による伸び率〔%〕の経時変化を調べた結果を示す。伸び率〔%〕は、鋳型製造時(0ヶ月)、製造1ヶ月後、製造2か月後で測定した。
溶体化処理及び水焼き入れ処理の有のものは実施例1の連続鋳造用鋳型そのものである。一方、溶体化処理及び水焼き入れ処理の無のものは溶体化処理及び水焼き入れ処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして作製した連続鋳造用鋳型である。
【0068】
伸び率〔%〕は以下のようにして得た。
得られた連続鋳造用鋳型の一部を切り出して、JIS 4号試験片を作製し、JIS Z2241-2011年の規定に準拠して、試験片について常温(25℃)の測定環境下で引張試験を行い、引張試験片の引張試験前の標点間距離を「L0」とし、引張試験による破断後(破断直前時)の標点間距離を「L」としたとき、
伸び率(%)={(L-L0)/L0}×100
上記計算式で求められる値を伸び率(%)とした。
【0069】
図5のグラフから、溶体化処理及び水焼き入れ処理を行った実施例1の連続鋳造用鋳型は、溶体化処理及び水焼き入れ処理を行なわなかった連続鋳造用鋳型に比べて、製造1ヶ月後から2か月後で伸び率の低下が抑制されていることがわかる。
【0070】
〔評価3:200℃での引張強度、鋳造終了後の傷発生〕
得られた連続鋳造用鋳型の一部を切り出して、JIS 4号試験片を作製し、JIS Z2241-2011年の規定に準拠して、試験片を200℃に100時間保持した後に150℃の測定環境下で引張試験を行うことによって、200℃での引張強度(MPa)を測定した。比較例として、アルミニウム合金組成6061の連続鋳造用鋳型についても200℃での引張強度を測定した。それらの結果を表2に示す。
また、これらの連続鋳造用鋳型を用いて、上述した鋳造径φ50mmの鋳造棒を鋳造した後の内周面の傷の発生の有無を目視にて評価した結果も表2に示す。
【0071】
【0072】
実施例1の連続鋳造用鋳型は、比較例(6061)の連続鋳造用鋳型に比べて1.5倍の200℃での引張強度が得られた。また、比較例(6061)の連続鋳造用鋳型は鋳造棒を鋳造後の傷が発生していたのに対して、実施例1の連続鋳造用鋳型は鋳造棒を鋳造後の傷も発生していなかった。
【0073】
図6に、実施例1と比較例(6061)について、温度と引張強度の関係のグラフを示す。
図6から、実施例1の連続鋳造用鋳型は比較例(6061)の連続鋳造用鋳型に比べて、温度上昇に対する引張強度の低下が緩やかになっていることがわかる。