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特開2024-73283有機態窒素化合物をアンモニウムイオンへ変換する細菌を含む活性汚泥
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  • 特開-有機態窒素化合物をアンモニウムイオンへ変換する細菌を含む活性汚泥 図1
  • 特開-有機態窒素化合物をアンモニウムイオンへ変換する細菌を含む活性汚泥 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073283
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】有機態窒素化合物をアンモニウムイオンへ変換する細菌を含む活性汚泥
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240522BHJP
   C12P 3/00 20060101ALI20240522BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240522BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240522BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 D
C12P3/00 Z
C12Q1/04
C02F3/34 Z
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184396
(22)【出願日】2022-11-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」委託研究(JPNP18016)、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 智
(72)【発明者】
【氏名】堀 知行
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4D040
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR50
4B063QR75
4B063QR90
4B063QS36
4B063QX01
4B064AA01
4B064CA02
4B064CC30
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AC14
4B065AC20
4B065CA02
4B065CA55
4D040DD03
4D040DD14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生物学的手段により、有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する技術を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌A、特定の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌B、特定の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌C、特定の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、特定の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、特定の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F、及び、特定の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上の細菌を含有する、有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌A、配列番号2で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌B、配列番号3で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌C、配列番号4で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、配列番号6で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F、及び配列番号7で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上の細菌を含有する、有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥。
【請求項2】
有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌であって、配列番号4で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、又は配列番号6で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F。
【請求項3】
有機態窒素化合物を含有する組成物に、請求項1記載の活性汚泥を作用させることを特徴とする、アンモニウムイオンの製造方法。
【請求項4】
有機態窒素化合物を含有する組成物が、有機態窒素化合物を含有する廃水である請求項3記載のアンモニウムイオンの製造方法。
【請求項5】
有機態窒素化合物を含有する廃水を溶存酸素濃度0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)の条件で生物学的廃水処理を行う工程、当該廃水処理継続期間中に流入廃水と処理水の化学分析モニタリングを行う工程、アンモニウムイオンへの変換が発生する前後の時点を決定する工程、及びアンモニウムイオンへの変換時点で存在量が有意に増加した微生物を同定する工程を含むことを特徴とする、有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する微生物の同定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機態窒素化合物をアンモニウムイオンへ変換する細菌を含む活性汚泥及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、その多くが酸化鉄を触媒として、窒素と水素を200気圧以上、450℃以上の条件で反応させる方法で製造されている。アンモニアの用途としては、硫安に代表される肥料及び窒素含有化合物の基礎原料が挙げられる。しかし、近年、大気汚染物質NOxの除去、水素のキャリア、発電用燃料、石炭火力発電に石炭と混合して使用することによるCO削減用燃料などへの応用が期待されている。
【0003】
一方、廃水中の有機態窒素の他の物質への変換技術としては、アンモニア態窒素及び有機態窒素を含む廃水を活性汚泥により処理して亜硝酸又は亜硝酸態窒素へ変換し、窒素ガスにまで還元する方法(特許文献1)、アンモニア性窒素含有有機性汚水を、生物学的及び化学的方法の併用により窒素を除去する方法(特許文献2)、及びアンモニア・亜硝酸含有廃水を汚泥微生物により最終的に窒素へと変換する方法(特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6535125号公報
【特許文献2】特開平9-75987号公報
【特許文献3】特開2001-170684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のようにアンモニア又はアンモニウムイオンを、CO排出を伴わない手段で製造することが強く求められているところ、廃水中などの有機態窒素化合物を生物学的手段により直接アンモニウムイオンに変換する技術は報告されていなかった。
従って、本発明の課題は、生物学的手段により、有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、廃水中の有機物の分解と有機態窒素化合物のアンモニウムイオンへの変換を同時成立させるような廃水処理を行うことにより、廃水中の有機態窒素化合物をアンモニウムイオンへと変換する活性汚泥に含まれる細菌の馴養・活性化を促進させることができ、当該細菌を同定できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
[1]配列番号1で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌A、配列番号2で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌B、配列番号3で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌C、配列番号4で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、配列番号6で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F、及び配列番号7で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上の細菌を含有する、有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥。
[2]有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌であって、配列番号4で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、又は配列番号6で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F。
[3]有機態窒素化合物を含有する組成物に、[1]記載の活性汚泥を作用させることを特徴とする、アンモニウムイオンの製造方法。
[4]有機態窒素化合物を含有する組成物が、有機態窒素化合物を含有する廃水である[3]記載のアンモニウムイオンの製造方法。
[5]有機態窒素化合物を含有する廃水を溶存酸素濃度0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)の条件で生物学的廃水処理を行う工程、当該廃水処理継続期間中に流入廃水と処理水の化学分析モニタリングを行う工程、アンモニウムイオンへの変換が発生する前後の時点を決定する工程、及びアンモニウムイオンへの変換時点で存在量が有意に増加した微生物を同定する工程を含むことを特徴とする、有機態化合物をアンモニウムイオンに変換する微生物の同定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の活性汚泥を用いれば、CO排出を抑制した生物学的手段により、種々の有機態窒素化合物を含有する組成物から、アンモニウムイオンを製造することができる。特に、有機態窒素化合物を含有する廃水からアンモニウムイオンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】連続処理開始後22日目及び32日目における、流入廃水及び処理水中の全有機炭素濃度、全窒素濃度及びアンモニウムイオン濃度(NH )を示す。
図2】同定された各細菌の連続処理22日目及び32日目における相対存在量を示す(細菌A:5822、細菌B:8997、細菌C:12136、細菌D:2993、細菌E:5209、細菌F:7728、細菌G:20270)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温cv(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0011】
[活性汚泥]
本発明の一実施形態は、有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌の1種又は2種以上を含有する、有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥である。
当該有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌としては、配列番号1で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌A、配列番号2で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌B、配列番号3で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌C、配列番号4で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、配列番号6で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F、及び配列番号7で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0012】
活性汚泥とは、一般的に、下水、排水などに連続通気撹拌して、それらの含有有機物に対する資化能の高い種々の好気性細菌を増殖させて得られる泥状の物質をいう。活性汚泥は、微生物群集を含み、細菌に加えて糸状菌、原生動物が混在していてもよい。本明細書中、活性汚泥に含まれる微生物群集を「汚泥微生物群集」とも称する。
【0013】
後述する実施例に記載のように、本発明者は、有機態窒素化合物を含有する廃水を溶存酸素濃度0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)の条件で生物学的廃水処理を行う工程、当該廃水処理継続期間中に流入廃水と処理水の化学分析モニタリングを行う工程、アンモニウムイオンへの変換が発生する前後の時点を決定する工程、及びアンモニウムイオンへの変換時点で存在量が有意に増加した微生物を同定する工程を行うことにより、有機態化合物をアンモニウムイオンに変換する微生物の同定に成功した。
本発明の活性汚泥は、前記の有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌を1種又は2種以上含有するものであり、有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥として有用である。
【0014】
有機態窒素とは、有機成分に含まれる窒素をいう。従って、有機態窒素化合物には、主に蛋白質、アミノ酸が含まれる。
また、アンモニウムイオン(NH )は、有機態窒素とは区別され、アンモニア態窒素に分類されている。
【0015】
本発明の活性汚泥に使用される細菌としては、配列番号1で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するComamonas granuliに属する細菌A、配列番号2で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するLuteimonas terraeに属する細菌B、配列番号3で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するEpilithonimonas arachidiradicisに属する細菌C、配列番号4で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するPhyllobacterium myrsinacearumに属する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するPhyllobacterium myrsinacearumに属する細菌E、配列番号6で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するTerrimonas rubraに属する細菌F、及び配列番号7で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するEdaphocla aurantiacusに属する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0016】
本発明において、塩基配列との同一性とは、特に記載した場合を除き、いずれの塩基配列においても、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致したヌクレオチドの個数の百分率を意味する。すなわち、同一性(%)=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出でき、市販されているアルゴリズムを用いて計算することができる。また、このようなアルゴリズムは、Altschul et al.,J.Mol.Biol.215(1990)403-410に記載されるNBLAST及びXBLASTプログラム中に組込まれている。より詳細には、塩基配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えばBLASTN、ClustalWなど)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメータは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0017】
配列番号1~7の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌を表1に示す。下記表1において、「相同性(%)」は、配列番号1~7の塩基配列について、NCBI(The National Center for Biotechnology Infomation)の塩基配列データベースのBLASTプログラムを用いて決定した。
【0018】
【表1】
【0019】
配列番号1、2及び3で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌A、細菌B及び細菌Cは、それぞれComamonas granuliに属する細菌、Luteimonas terraeに属する細菌、Epilithonimonas arachidiradicisに属する細菌であると考えられる。
また、配列番号7で示される塩基配列を含む6S rRNA遺伝子を有する細菌Gは、Edaphocla aurantiacusに属する細菌であると考えられる。
【0020】
配列番号4、5及び6で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌D、細菌E及び細菌Fは、データベース上で最も近縁な微生物種に対して、配列相同性がそれぞれ79.3%、81.6%、95.7%である。16S rRNA遺伝子の塩基配列を用いた解析では、既知種と相同性97%以上を示す場合、同種であると定義できる。つまり、これらの有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌は、既知の微生物種とは種が異なる微生物であると考えられる。
従って、本発明の別の一態様は、有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌であって、配列番号4で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、又は配列番号6で示される塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌Fである。
【0021】
本発明の有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥に用いられる細菌としては、配列番号1で示される塩基配列との同一性が98%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌A、配列番号2で示される塩基配列との同一性が98%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌B、配列番号3で示される塩基配列との同一性が98%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌C、配列番号4で示される塩基配列との同一性が98%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が98%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、配列番号6で示される塩基配列との同一性が98%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F、及び配列番号7で示される塩基配列との同一性が98%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
本発明の有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥に用いられる細菌としては、配列番号1で示される塩基配列との同一性が99%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌A、配列番号2で示される塩基配列との同一性が99%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌B、配列番号3で示される塩基配列との同一性が99%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌C、配列番号4で示される塩基配列との同一性が99%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列との同一性が99%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌E、配列番号6で示される塩基配列との同一性が99%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌F、及び配列番号7で示される塩基配列との同一性が99%以上である16S rRNA遺伝子を有する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上がさらに好ましい。
本発明の有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥に用いられる細菌としては、配列番号1で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌A、配列番号2で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌B、配列番号3で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌C、配列番号4で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌D、配列番号5で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌E、配列番号6で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌F、及び配列番号7で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌Gから選ばれる1種又は2種以上がよりさらに好ましい。
【0022】
なお、上記有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌は、試料中の存在量が極めて少ないため、これらを単離することは、技術的理由により困難である。そのため、寄託機関に寄託を行っていない。しかし、本出願人は、本発明に係る有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する細菌を含む活性汚泥試料について、日本国特許法施行規則第27条の3各号に該当する場合、各法令の順守を条件に、第三者に分譲することを保証する。
【0023】
本発明の活性汚泥は、有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換用活性汚泥であり、前記細菌から選ばれる1種又は2種以上を含む。後記実施例に示すように、これらの細菌は、いずれも単独で有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換能力を有するので、これらの細菌の1種又は2種以上を含む活性汚泥であれば、有機態窒素化合物からアンモニウムイオンへの変換をすることができる。
また、本発明の活性汚泥には、前記の細菌以外に他の細菌、糸状菌、原生動物などを含んでいてもよい。
【0024】
[アンモニウムイオンの製造方法]
本発明の別の一態様は、有機態窒素化合物を含有する組成物に、前記の活性汚泥を作用させることを特徴とする、アンモニウムイオンの製造方法である。
前述のように、有機態窒素とは、有機成分に含まれる窒素をいう。従って、有機態窒素化合物には、主に蛋白質、アミノ酸、窒素含有複素環化合物などの1級、2級若しくは3級アミノ基又はイミノ基含有有機化合物が含まれる。
このような有機態窒素化合物を含有する組成物としては、有機態窒素化合物を含む廃水が好ましく、蛋白質、アミノ酸、窒素含有複素環化合物などの1級、2級若しくは3級アミノ基又はイミノ基含有有機化合物を含む廃水がより好ましい。また、アンモニウムイオンや尿素が含まれていても良い。
【0025】
有機態窒素化合物を含有する組成物に、前記の活性汚泥を作用させる手段としては、例えば、前記の活性汚泥を収容した曝気槽に有機態窒素化合物を含有する組成物を加える手段、又は有機態窒素化合物を含有する組成物が入った容器に前記活性汚泥を加える手段が挙げられる。
活性汚泥を収容した曝気槽に有機態窒素化合物を含有する組成物を加える場合、活性汚泥の濃度は、アンモニウムイオンへの変換能の観点から、汚泥浮遊物質(Mixed Liquor Suspended Solids)濃度として3000~8000mg/Lが好ましい。この曝気槽の運転及び管理条件としては、溶存酸素量0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)、pH5.93~7.23、温度19.6℃~24.7℃の条件が好ましい。
【0026】
[有機態化合物をアンモニウムイオンに変換する微生物の同定方法]
本発明の別の一態様は、(1)有機態窒素化合物を含有する廃水を溶存酸素濃度0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)の条件で生物学的廃水処理を行う工程、(2)当該廃水処理継続期間中に流入廃水と処理水の化学分析モニタリングを行う工程、(3)アンモニウムイオンへの変換が発生する前後の時点を決定する工程、及び(4)アンモニウムイオンへの変換時点で存在量が有意に増加した微生物を同定する工程、を含むことを特徴とする、有機態化合物をアンモニウムイオンに変換する微生物の同定方法である。
【0027】
有機態窒素化合物を含有する廃水としては、蛋白質、アミノ酸、窒素含有複素環化合物などの1級、2級若しくは3級アミノ基又はイミノ基含有有機化合物を含む廃水が好ましい。また、アンモニウムイオンや尿素が含まれていても良い。
【0028】
(1)有機態窒素化合物を含有する廃水を溶存酸素濃度0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)の条件で生物学的廃水処理を行う工程
この工程では、有機物分解と廃水中の窒素化合物のNH 変換を同時成立させるような廃水処理法を実施する。すなわち、有機物分解に必要な酸素は供給するが、硝化反応(NH からNO への好気的な酸化)は抑制するために、微好気性の条件(低曝気量)で廃水処理、具体的には有機態窒素化合物を含有する廃水を溶存酸素濃度0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)の条件で生物学的廃水処理を行う。
ここで溶存酸素濃度は、例えばポータブル溶存酸素計(山形東亜DKK株式会社)により測定することができる。
具体的には、有機態窒素化合物及び有機物を含有する廃水に、被検活性汚泥試料を接触させ、低曝気量の空気を吹込むことにより有機物分解を誘引し、溶存酸素濃度を0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)に低下させる。この時pH5.93~7.23、温度19.6℃~24.7℃の条件で、連続的に廃水を流入させ微生物の馴養を行う。
【0029】
(2)廃水処理継続期間中に流入廃水と処理水の化学分析モニタリングを行う工程
廃水処理継続期間中に、流入廃水と処理水の、全窒素濃度及びアンモニウムイオン濃度を測定する。全窒素濃度の測定は、例えば燃焼酸化-化学発光法を原理とした全窒素測定装置(株式会社島津製作所)により行うことができる。アンモニウムイオン濃度は、例えば、イオンクロマトグラフィー(東亜ディーケーケー株式会社)やキャピラリー電気泳動装置(アジレントテクノロジー株式会社)により測定を行うことができる。
【0030】
(3)アンモニウムイオンへの変換が発生する前後の時点を決定する工程
前記の化学分析モニタリングにより、アンモニウムイオンへの変換が発生する前後の時点を決定する。例えば、流入廃水中のアンモニウムイオン濃度よりも処理水中のアンモニウムイオン濃度が1.2倍以上になった時点をアンモニウムイオンへの変換が発生した時点と決定することができる。
【0031】
(4)アンモニウムイオンへの変換時点で存在量が有意に増加した微生物を同定する工程
この工程は、活性汚泥試料から核酸を回収し、回収した核酸に存在する標的遺伝子の塩基配列を次世代シークエンサーにより解析することにより行うことができる。
活性汚泥試料から核酸を回収する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。回収する核酸としては、DNA及びRNAのいずれであってもよい。DNAを回収する方法としては、例えば、ビーズ(ガラスビーズ、ジルコニアとシリカの混合ビーズなど)による物理的破砕方法、超音波処理による破砕方法、フレンチプレスによる破砕方法、液体窒素で凍結した試料を乳鉢と乳棒とで破砕する方法などを用いて、微生物細胞を破壊し、その後、従来公知の方法(フェノール・クロロホルム抽出など)を用いて、タンパク質を除去し、RNaseを用いてRNAを消化し、DNAを回収することが挙げられる。
【0032】
標的遺伝子としては、大規模な系統解析に適するとの観点から、好ましくは16S rRNA遺伝子V4領域である。
次世代シークエンサーとは、サンガー法を利用した蛍光キャピラリーシークエンサーである「第1世代シークエンサー」と対比させて用いられている用語であり、DNAポリメラーゼ又はDNAリガーゼによる逐次的DNA合成法を用いて、数千万から数億のDNA断片に対して数十~数千bpのリード長の断片を網羅的に解析することによって超並列的に塩基配列を決定するための装置を意味する。次世代シークエンサーでは、ジデオキシヌクレオチドを用いてDNAポリメラーゼの伸長を止めるサンガー法を用いた第1世代シークエンサーと異なるシーケンシング原理が用いられている。このような原理として、合成シーケンシング法、パイロシーケンシング法、リガーゼ反応シーケンシング法などが挙げられる。これまでに、多くの企業や研究機関などから、多様な次世代シークエンサーが提供されており、例えば、HiSeq2500(イルミナ株式会社)、MiSeq(イルミナ株式会社)、5500xl SOLiD(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、Ion Proton(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、Ion PGM(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、GS FLX+(ロシュ・ダイアグノスティックス社) などが挙げられる。
次世代シークエンサーによる解析方法としては、付属説明書に従って実施することができる。これにより、数万から数十万の微生物種(OTU)を同定、及び各微生物種の相対存在量(%)を解析できる。
【実施例0033】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1
(1)有機態窒素化合物を含有する廃水として実発酵産業廃水(全有機炭素濃度:1200ml/L、全窒素濃度:800mg/L、アンモニウムイオン濃度:400mg/L、pH1.5)を用いた。被検活性汚泥として都市下水処理場の活性汚泥を用いた。具体的には、前記被検活性汚泥を含む曝気槽に、前記発酵産業廃水を流入させて、活性酸素濃度0.06~3.81mg/L(平均1.21mg/L)、pH5.93~7.23、温度19.6℃~24.7℃の条件で連続的に廃水処理を行った。
【0035】
(2)化学分析
廃水の連続処理期間を通して経時的に、流入液及び処理水中の全有機炭素、全窒素濃度及びアンモニウムイオン濃度を測定した。
全窒素濃度は、全窒素測定ユニットTNM-L(株式会社島津製作所)により測定した。アンモニウムイオン濃度は、キャピラリー電気泳動システム Agilent 7100 CE(アジレントテクノロジー株式会社)により測定した。全有機炭素は、全有機体炭素計TOC-L(株式会社島津製作所)により測定した。
【0036】
(3)微生物学的解析
連続処理開始後22日及び32日の活性汚泥試料について、試料を遠心分離し、遠心沈殿物を得た。前記遠心沈殿物に対して、ジルコニアとシリカの混合ビーズ(Zirconia/Silica Beads; 平均粒子径0.1mm)を加え、シェイクマスターオート(株式会社バイオメディカルサイエンス製)を用いて固相中の微生物細胞を破砕した後、フェノールとクロロホルムとを用いた精製ステップを経ることで共存するタンパク質を除去した。その後、RNaseA(ベックマン社製)の処理を行うことでRNAを消化し、DNAを精製した。
この精製DNAを鋳型に用い、16S rRNA遺伝子V4領域(約300塩基対)を標的として、Q5 High-Fidelity DNA Polymerase・Q5 DNAポリメラーゼ(NEB社)による遺伝子増幅反応(Polymerase chain reaction[PCR])を行った。得られたPCR産物をAMPure XP キット(ベックマン・コールター社製)及びWizard(登録商標)SV gel and PCR clean-upキット(プロメガ社製)を用いて精製し、その濃度をQuant-iT PicoGreen dsDNA 試薬・キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)と蛍光定量装置Nanodrop 3300(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)とにより測定した。
【0037】
最適量の精製産物をMiSeq Reagent キット300サイクルと次世代シークエンサーMiSeq(イルミナ株式会社製)を用いた大規模塩基配列解析に供した。各試料から遺伝子断片を数万リード解読し、ソフトウエアmothur(ver 1.31.2)を用いて、非特異的配列を除去し、ソフトウエアQIIME(ver 1.6.0)を用いて、微生物系統解析を行い、微生物種(OTU:Operational taxonomic unit)の同定と相対存在量(%)の解析を行った。
【0038】
(4)結果
連続処理開始後22日目及び32日目における、流入廃水及び処理水中の全有機炭素濃度、全窒素濃度及びアンモニウムイオン濃度(NH )を図1に示す。
図1より、前記実発酵産業廃水を対象に、微好気性の条件(低曝気量)で生物学的廃水処理を開始し、22日目には流入廃水と処理水に含まれるアンモニウムイオン濃度がほぼ同一だった。その後、処理水に含まれるアンモニウムイオン濃度は流入廃水よりも高濃度となり、廃水に含まれる有機態窒素がアンモニウムイオンへと変換されたことが示された。
数万種レベルでの微生物群集構造の解析の結果、活性汚泥は数千種類の微生物で構成され、期間を通し変動していた。
運転22日目と有機態窒素がアンモニウムイオンへと変換された32日を比較し、32日の方で有意に2倍以上存在量が増加し、存在量が1.4%以上を示した微生物をアンモニウムイオンへの変換微生物として7種同定した(前記の表1)。同定された各細菌の連続処理運転22日目及び32日目における相対存在量を図2に示す。
【0039】
表1より、配列番号1、2及び3で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌A、細菌B及び細菌Cは、それぞれComamonas granuliに属する細菌、Luteimonas terraeに属する細菌、Epilithonimonas arachidiradicisに属する細菌であると考えられた。
また、配列番号7で示される塩基配列を含む6S rRNA遺伝子を有する細菌Gは、Edaphocla aurantiacusに属する細菌であると考えられた。
【0040】
配列番号4、5及び6で示される塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌D、細菌E及びF細菌は、データベース上で最も近縁な微生物種に対して、配列相同性がそれぞれ79.3%、81.6%、95.7%である。16S rRNA遺伝子の塩基配列を用いた解析では、既知種と相同性97%以上を示す場合、同種であると定義できる。つまり、これらの有機態窒素化合物をアンモニウムイオンに変換する能力を有する細菌は、既知の微生物種とは種が異なる微生物であると考えられた。
【0041】
その微生物の廃水処理期間中の動態を解析した結果、微生物それぞれの特性は異なるが、運転22日以降の増殖が確認され、これらの微生物の働きにより、効率的なアンモニウムイオン変換が達成されたことが示された。
図1
図2
【配列表】
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