(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007339
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】多環芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240110BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20240110BHJP
H10K 50/11 20230101ALI20240110BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20240110BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240110BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
C07F5/02 A CSP
C09K11/06 660
C09K11/06 690
H10K50/11
H10K50/12
H10K59/10
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090692
(22)【出願日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2022107633
(32)【優先日】2022-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(71)【出願人】
【識別番号】521180485
【氏名又は名称】エスケーマテリアルズジェイエヌシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】畠山 琢次
(72)【発明者】
【氏名】川角 亮介
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC04
3K107CC21
3K107DD59
3K107DD68
3K107DD69
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB90
4H048VA22
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】有機電界発光素子等の有機デバイス用材料として有用な新規化合物を提供する。
【解決手段】式(1)で表される多環芳香族化合物;
A環、B環、およびC環は、置換または無置換のアリール環またはヘテロアリール環であり、A環、B環、およびC環からなる群より選択される少なくとも1つは、式(D1)で表される基を置換基として含み、X
1およびX
2は>Oであり、D環およびE環は、置換または無置換のアリール環またはヘテロアリール環であり、Yは>N-Ar、>O、または>Sであり、Zは-C(-R
Z)=または-N=であり、R
Zは水素または置換基であり、隣接する2つのR
Zは互いに結合して環を形成していてもよく、Arはアリールまたはヘテロアリールであり、式(1)における少なくとも1つの水素は重水素で置き換えられていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される多環芳香族化合物;
【化1】
式(1)中、
A環、B環、およびC環はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
ただし、A環、B環、およびC環からなる群より選択される少なくとも1つは、少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するアリール環または少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するヘテロアリール環であり、
X
1およびX
2はそれぞれ独立して、>N-R
NX、>O、>C(-R
CX)
2、>Si(-R
IX)
2、>S、または>Seであり、R
NXは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、R
CXおよびR
IXはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、2つのR
CXは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのR
IXは互いに結合して環を形成していてもよく、R
NX、R
CXおよびR
IXは連結基または単結合によりA環および/もしくはB環、またはA環および/もしくはC環と結合していてもよく、
式(D1)中、
D環およびE環はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
Yは>N-Ar、>O、>C(-R
CY)
2、>Si(-R
IY)
2、>S、または>Seであり、Arは置換もしくは無置換のアリールまたは置換もしくは無置換のヘテロアリールであり、R
CYおよびR
IYはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、2つのR
CYは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのR
IYは互いに結合して環を形成していてもよく、
Zは-C(-R
Z)=または-N=であり、
R
Zは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、隣接する2つのR
Zは互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環を形成していてもよく、
式(1)における少なくとも1つの水素は重水素で置き換えられていてもよい。
【請求項2】
X1およびX2がいずれも>Oである、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【請求項3】
Yが>N-Arである、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【請求項4】
Arが式(Ar-a)、式(Ar-b)、式(Ar-c)、または式(Ar-d)で表される基である、請求項3に記載の多環芳香族化合物。
【化2】
式(Ar-a)中、Z
aはそれぞれ独立して、-C(-R
Za)=または-N=であり、R
Zaは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、少なくとも1つのR
Zaは-N=であり、
式(Ar-b)中、R
bは水素または置換基であり、少なくとも1つのR
bはシアノ、置換もしくは無置換のカルバゾリル、置換もしくは無置換のトリアリールシリル、またはジフェニルホスホリルであり、
式(Ar-c)中、いずれか1つのZ
cは結合手を有する炭素であり、その他のZ
cはそれぞれ独立して、-C(-R
Zc)=または-N=であり、R
Zcは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、L
cは>O、>N-R
NC、>C(-R
CC)
2、>Si(-R
IC)
2、>Sまたは>Seであり、R
NC、R
CC、R
ICはそれぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、R
NCはいずれかのZ
cと単結合で結合していてもよく、2つのR
CCは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのR
ICは互いに結合して環を形成していてもよく、
式(Ar-d)中、いずれか1つのZ
dは結合手を有する炭素であり、その他のZ
dはそれぞれ独立して、-C(-R
Zd)=または-N=であり、R
Zdは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、L
dは>O、>N-R
ND、>Sまたは>Seであり、R
NDは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルである。
【請求項5】
式(D1)中、
D環およびE環がそれぞれ独立して無置換のベンゼン環、無置換のジベンゾフラン環、無置換のジベンゾチオフェン環、無置換のジベンゾセレノフェン環、または無置換のN-フェニルカルバゾール環であり、
Zが-C(-RZ)=であり、RZが水素であるか、2つのRZが互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに無置換のアリール環または無置換のヘテロアリール環を形成している、請求項4に記載の多環芳香族化合物。
【請求項6】
X1およびX2がいずれも>Oである請求項5に記載の多環芳香族化合物。
【請求項7】
B環およびC環のいずれか1つ以上が置換もしくは無置換のジベンゾフラン環、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェン環、置換もしくは無置換のジベンゾセレノフェン環または置換もしくは無置換のカルバゾール環である、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【請求項8】
B環およびC環のいずれか1つ以上が置換もしくは無置換のジベンゾフラン環、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェン環、置換もしくは無置換のジベンゾセレノフェン環または置換もしくは無置換のカルバゾール環である、請求項6に記載の多環芳香族化合物。
【請求項9】
下記いずれかの式で表される、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【化3】
【請求項10】
下記いずれかの式で表される、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【化4】
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の多環芳香族化合物を含有する、有機デバイス用材料。
【請求項12】
陽極および陰極からなる一対の電極と該一対の電極間に配置される有機層とを有し、前記有機層が請求項1~10のいずれか一項に記載の多環芳香族化合物を含有する、有機電界発光素子。
【請求項13】
前記有機層が発光層である、請求項12に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記発光層に前記多環芳香族化合物をアシスティングドーパントとして含み、さらにエミッティングドーパントおよびホストを含む、請求項13に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記発光層に前記多環芳香族化合物をホストとして含み、さらにアシスティングドーパントおよびエミッティングドーパントを含む、請求項13に記載の有機電界発光素子。
【請求項16】
請求項12に記載の有機電界発光素子を備えた表示装置または照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環芳香族化合物に関する。本発明はまた、上記多環芳香族化合物を用いた有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタおよび有機薄膜太陽電池などの有機デバイス、並びに、表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界発光する発光素子を用いた表示装置は、省電力化や薄型化が可能なことから、種々研究され、さらに、有機材料から成る有機電界発光素子は、軽量化や大型化が容易なことから活発に検討されてきた。特に、光の三原色の1つである青色や緑色などの発光特性を有する有機材料の開発、および正孔、電子などの電荷輸送能(半導体や超電導体となる可能性を有する)を備えた有機材料の開発については、高分子化合物、低分子化合物を問わずこれまで活発に研究されてきた。
【0003】
有機EL素子は、陽極および陰極からなる一対の電極と、当該一対の電極間に配置され、有機化合物を含む一層または複数の層とからなる構造を有する。有機化合物を含む層には、発光層や、正孔、電子などの電荷を輸送または注入する電荷輸送/注入層などがあるが、これらの層に適当な種々の有機材料が開発されている。
【0004】
発光層用の発光材料としては、現在、蛍光材料、燐光材料、熱活性型遅延蛍光(TADF)材料の3種類が利用されている。例えば、蛍光材料ではアザボリン誘導体を改良した材料などが報告されており(特許文献1)、燐光材料では多座配位子を有する貴金属錯体などが開発されている(特許文献2)。熱活性型遅延蛍光(TADF)材料ではカルバゾニトリル化合物などが開発されている(非特許文献1)。
【0005】
いずれの材料を用いた素子も、効率の低下につながる発光層または周辺層からのエネルギーの漏れを防ぐため高い最低励起一重項エネルギー準位または最低励起三重項エネルギー準位を持つ材料が発光層の隣接層またはホストに用いられる。特許文献3には、少なくとも2つのドナー部位と少なくとも2つのアクセプター部位を有する化合物を発光層のホストに用いて良好なデバイス性能が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/102118号
【特許文献2】特開2014-239225号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0144512号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature Vol.492 13 December 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、有機EL素子に用いられる材料としては種々の材料が開発されているが、有機EL素子用材料の選択肢を増やすために、従来とは異なる化合物からなる材料の開発が望まれている。特に、有機EL素子等の有機デバイスの性能をさらに向上させることができる材料や、製造プロセスを改善させる材料が求められている。
本発明は有機EL素子等の有機デバイス用材料として有用な新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討し、特許文献1に記載の化合物と同様にホウ素を含有する多環芳香族化合物において、特定の部分構造を導入することにより有機EL素子等の有機デバイスの製造プロセスを改善させることができることを見出した。そしてこの知見に基づき、さらに検討を重ねて、本発明を完成させた。すなわち本発明は、以下のような多環芳香族化合物、さらには以下のような多環芳香族化合物を含む有機デバイス用材料等を提供する。
【0010】
<1> 下記式(1)で表される多環芳香族化合物;
【化1】
【0011】
式(1)中、
A環、B環、およびC環はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
ただし、A環、B環、およびC環からなる群より選択される少なくとも1つは、少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するアリール環または少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するヘテロアリール環であり、
X1およびX2はそれぞれ独立して、>N-RNX、>O、>C(-RCX)2、>Si(-RIX)2、>S、または>Seであり、RNXは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、RCXおよびRIXはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、2つのRCXは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのRIXは互いに結合して環を形成していてもよく、RNX、RCXおよびRIXは連結基または単結合によりA環および/もしくはB環、またはA環および/もしくはC環と結合していてもよく、
式(D1)中、
D環およびE環はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
Yは>N-Ar、>O、>C(-RCY)2、>Si(-RIY)2、>S、または>Seであり、Arは置換もしくは無置換のアリールまたは置換もしくは無置換のヘテロアリールであり、RCYおよびRIYはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、2つのRCYは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのRIYは互いに結合して環を形成していてもよく、
Zは-C(-RZ)=または-N=であり、
RZは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、隣接する2つのRZは互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環を形成していてもよく、
式(1)における少なくとも1つの水素は重水素で置き換えられていてもよい。
<2> X1およびX2がいずれも>Oである、<1>に記載の多環芳香族化合物。
<3> Yが>N-Arである、<1>または<2>に記載の多環芳香族化合物。
【0012】
<4> Arが式(Ar-a)、式(Ar-b)、式(Ar-c)、または式(Ar-d)で表される基である、<3>に記載の多環芳香族化合物。
【化2】
【0013】
式(Ar-a)中、Zaはそれぞれ独立して、-C(-RZa)=または-N=であり、RZaは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、少なくとも1つのRZaは-N=であり、
式(Ar-b)中、Rbは水素または置換基であり、少なくとも1つのRbはシアノ、置換もしくは無置換のカルバゾリル、置換もしくは無置換のトリアリールシリル、またはジフェニルホスホリルであり、
式(Ar-c)中、いずれか1つのZcは結合手を有する炭素であり、その他のZcはそれぞれ独立して、-C(-RZc)=または-N=であり、RZcは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、Lcは>O、>N-RNC、>C(-RCC)2、>Si(-RIC)2、>Sまたは>Seであり、RNC、RCC、RICはそれぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、RNCはいずれかのZcと単結合で結合していてもよく、2つのRCCは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのRICは互いに結合して環を形成していてもよく、
式(Ar-d)中、いずれか1つのZdは結合手を有する炭素であり、その他のZdはそれぞれ独立して、-C(-RZd)=または-N=であり、RZdは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、Ldは>O、>N-RND、>Sまたは>Seであり、RNDは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルである。
【0014】
<5> 式(D1)中、
D環およびE環がそれぞれ独立して無置換のベンゼン環、無置換のジベンゾフラン環、無置換のジベンゾチオフェン環、無置換のジベンゾセレノフェン環、または無置換のN-フェニルカルバゾール環であり、
Zが-C(-RZ)=であり、RZが水素であるか、2つのRZが互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに無置換のアリール環または無置換のヘテロアリール環を形成している、<1>~<4>のいずれかに記載の多環芳香族化合物。
<6> B環およびC環のいずれか1つ以上が置換もしくは無置換のジベンゾフラン環、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェン環、置換もしくは無置換のジベンゾセレノフェン環または置換もしくは無置換のカルバゾール環である、<1>~<5>のいずれかに記載の多環芳香族化合物。
【0015】
<7> 下記いずれかの式で表される、<1>に記載の多環芳香族化合物。
【化3】
【0016】
<8> 下記いずれかの式で表される、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【化4】
【0017】
<9> <1>~<8>のいずれかに記載の多環芳香族化合物を含有する、有機デバイス用材料。
<10> 陽極および陰極からなる一対の電極と該一対の電極間に配置される有機層とを有し、前記有機層が<1>~<8>のいずれかに記載の多環芳香族化合物を含有する、有機電界発光素子。
<11> 前記有機層が発光層である、<10>に記載の有機電界発光素子。
<12> 前記発光層に前記多環芳香族化合物をアシスティングドーパントとして含み、さらにエミッティングドーパントおよびホストを含む、<11>に記載の有機電界発光素子。
<13> 前記発光層に前記多環芳香族化合物をホストとして含み、さらにアシスティングドーパントおよびエミッティングドーパントを含む、<11>に記載の有機電界発光素子。
<14> <10>~<13>のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えた表示装置または照明装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、有機電界発光素子等の有機デバイス用材料として有用な新規多環芳香族化合物が提供される。本発明の多環芳香族化合物は有機電界発光素子等の有機デバイスの製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】有機電界発光素子の一例を示す概略断面図である。
【
図2】一般的な蛍光ドーパントを用いたTAF素子のホスト、アシスティングドーパントおよびエミッティングドーパントのエネルギー関係を示すエネルギー準位図である。
【
図3】本発明の一態様の有機電界発光素子における、ホスト、アシスティングドーパントおよびエミッティングドーパントのエネルギー関係の一例を示すエネルギー準位図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書において構造式の説明における「水素」は「水素原子(H)」を意味する。同様に「炭素原子(C)」を「炭素」ということがある。
本明細書において、「隣接する基」というときは、構造式中で隣接する2つの原子(共有結合で直接結合する2つの原子)にそれぞれ結合している2つの基を意味する。
【0021】
本明細書において「Me」はメチル、「Et」はエチル、「nBu」はn-ブチル(ノルマルブチル)、「tBu」はt-ブチル(ターシャリーブチル)、「iBu」はイソブチル、「secBu」はセカンダリーブチル、「nPr」はn-プロピル(ノルマルプロピル)、「iPr」はイソプロピル、「tAm」はt-アミル、「2EH」は2-エチルヘキシル、「tOct」はt-オクチル、「Ph」はフェニル、「Mes」はメシチル(2,4,6-トリメチルフェニル)、「Ad」は1-アダマンチル、「Tf」はトリフルオロメタンスルホニル、「TMS」はトリメチルシリル、「D」は重水素を表す。
本明細書において、有機電界発光素子を有機EL素子ということがある。
【0022】
本明細書において化学構造や置換基を炭素数で表すことがあるが、化学構造に置換基が置換した場合や、置換基にさらに置換基が置換した場合などにおける炭素数は、化学構造や置換基それぞれの炭素数を意味し、化学構造と置換基の合計の炭素数や、置換基と置換基の合計の炭素数を意味するものではない。例えば、「炭素数Xの置換基Aで置換された炭素数Yの置換基B」とは、「炭素数Yの置換基B」に「炭素数Xの置換基A」が置換することを意味し、炭素数Yは置換基Aおよび置換基Bの合計の炭素数ではない。また例えば、「置換基Aで置換された炭素数Yの置換基B」とは、「炭素数Yの置換基B」に「(炭素数限定がない)置換基A」が置換することを意味し、炭素数Yは置換基Aおよび置換基Bの合計の炭素数ではない。
【0023】
<環および置換基の説明>
まず、本明細書において使用する環および置換基の詳細について以下で説明する。
本明細書における「アリール環」としては、例えば、炭素数6~30のアリール環があげられ、炭素数6~16のアリール環が好ましく、炭素数6~12のアリール環がより好ましく、炭素数6~10のアリール環が特に好ましい。
【0024】
具体的な「アリール環」としては、単環系であるベンゼン環、二環系であるビフェニル環、縮合二環系であるナフタレン環、インデン環、三環系であるテルフェニル環(m-テルフェニル、o-テルフェニル、p-テルフェニル)、縮合三環系である、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、アントラセン環、縮合四環系であるトリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、クリセン環、縮合五環系であるペリレン環、ペンタセン環などがあげられる。また、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、インデン環には、それぞれフルオレン環、ベンゾフルオレン環、シクロペンタン環などがスピロ結合した構造も含まれる。なお、フルオレン環、ベンゾフルオレン環およびインデン環には、その構造中のメチレンの2つの水素のうちの2つがそれぞれ後述の第1の置換基としてのメチルなどのアルキルに置き換わって、ジメチルフルオレン環、ジメチルベンゾフルオレン環、ジメチルインデン環などとなっているものも含まれる。
【0025】
本明細書における「ヘテロアリール環」としては、例えば、炭素数2~30のヘテロアリール環があげられ、炭素数2~25のヘテロアリール環が好ましく、炭素数2~20のヘテロアリール環がより好ましく、炭素数2~15のヘテロアリール環がさらに好ましく、炭素数2~10のヘテロアリール環が特に好ましい。また、「ヘテロアリール環」としては、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄、窒素、セレン、リン、テルルから選ばれるヘテロ原子を1ないし5個含有する複素環などがあげられる。
【0026】
具体的な「ヘテロアリール環」としては、例えば、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環(フラザン環など)、チアジアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、フェナザシリン環、インドリジン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、チアントレン環、インドロカルバゾール環、ベンゾインドロカルバゾール環、ジベンゾインドロカルバゾール環、ナフトベンゾフラン環、ジオキシン環、ジヒドロアクリジン環、キサンテン環、チオキサンテン環、ジベンゾジオキシン環、ジオキサボラナフトアントラセン環(5,9-ジオキサ-13b-ボラ-13bH-ナフト[3,2,1-de]アントラセン環など)、ベンゾセレノフェン環、ジベンゾセレノフェン環、アザカルバゾール環、アザジベンゾチオフェン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾセレノフェン環、アザトリフェニレン環、イミダゾイミダゾール環、インドロインドール環、ベンゾフロカルバゾール環、ベンゾチエノカルバゾール環、インデノカルバゾール環およびセレノフェノカルバゾール環、スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]環、スピロビ[シラフルオレン]環などがあげられる。また、ジヒドロアクリジン環、キサンテン環、チオキサンテン環は、その構造中のメチレンの2つの水素のうちの2つがそれぞれ後述の第1の置換基としてのメチルなどのアルキルに置き換わって、ジメチルジヒドロアクリジン環、ジメチルキサンテン環、ジメチルチオキサンテン環などとなっているものも好ましい。また二環系であるビピリジン環、フェニルピリジン環、ピリジルフェニル環、三環系であるテルピリジル環、ビスピリジルフェニル環、ピリジルビフェニル環も「ヘテロアリール環」としてあげられる。また、「ヘテロアリール環」にはピラン環も含まれるものとする。
【0027】
本明細書において、置換基は、さらなる置換基で置換されていることがある。例えば、特定の置換基に関して、「置換もしくは無置換の」と説明がされることがある。これはその特定の置換基が少なくとも1つのさらなる置換基で置換されているか、または置換されていないことを意味する。同様の意味で「置換されていてもよい」ということもある。本明細書において、このときの上記特定の置換基を「第1の置換基」、上記のさらなる置換基を「第2の置換基」ということがある。
【0028】
本明細書において、置換基群Zαは、置換基群Zの置換基および後述の式(A30)で表される置換基からなる。
【0029】
本明細書において、置換基群Zは、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアリール、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいヘテロアリール、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいジアリールアミノ(2つのアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいジヘテロアリールアミノ(2つのヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアリールヘテロアリールアミノ(アリールとヘテロアリールとは互いに連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいジアリールボリル(2つのアリールは単結合または連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアルキル、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいシクロアルキル、
アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアルコキシ、
アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、およびハロゲンからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアリールオキシ、
置換シリル、シアノ、ならびにハロゲンからなる。
置換基群Zの各基における第2置換基であるアリールは、さらにアリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、またはハロゲンで置換されていてもよい、同様に、第2置換基であるヘテロアリールはアリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、シアノ、またはハロゲンで置換されていてもよい。
【0030】
本明細書において、「置換基」という場合、特に別途の説明がないときは、置換基群Zから選択されるいずれかの基であればよい。例えば、「置換もしくは無置換の」とされる基が置換されているとき、当該基は置換基群Zから選択される少なくとも1つの基で置換されていればよい。
【0031】
本明細書において、「アリール」は、例えば炭素数6~30のアリールであり、好ましくは、炭素数6~20のアリール、炭素数6~16のアリール、炭素数6~12のアリール、または炭素数6~10のアリールなどである。
【0032】
具体的な「アリール」は、上述した「アリール環」から1つの水素を除いた1価の基があげられる。例えば、単環系であるフェニル、二環系であるビフェニリル(2-ビフェニリル、3-ビフェニリル、もしくは4-ビフェニリル)、縮合二環系であるナフチル(1-ナフチルもしくは2-ナフチル)、三環系であるテルフェニリル(m-テルフェニル-2'-イル、m-テルフェニル-4'-イル、m-テルフェニル-5'-イル、o-テルフェニル-3'-イル、o-テルフェニル-4'-イル、p-テルフェニル-2'-イル、m-テルフェニル-2-イル、m-テルフェニル-3-イル、m-テルフェニル-4-イル、o-テルフェニル-2-イル、o-テルフェニル-3-イル、o-テルフェニル-4-イル、p-テルフェニル-2-イル、p-テルフェニル-3-イル、もしくはp-テルフェニル-4-イル)、縮合三環系である、アセナフチレン-(1-、3-、4-、もしくは5-)イル、フルオレン-(1-、2-、3-、4-、もしくは9-)イル、フェナレン-(1-もしくは2-)イル、フェナントレン-(1-、2-、3-、4-、もしくは9-)イル、もしくはアントラセン-(1-、2-、もしくは9-)イル、四環系であるクアテルフェニリル(5'-フェニル-m-テルフェニル-2-イル、5'-フェニル-m-テルフェニル-3-イル、5'-フェニル-m-テルフェニル-4-イル、もしくはm-クアテルフェニル)、縮合四環系である、トリフェニレン-(1-もしくは2-)イル、ピレン-(1-、2-、もしくは4-)イル、もしくはナフタセン-(1-、2-、もしくは5-)イル、または、縮合五環系である、ペリレン-(1-、2-、もしくは3-)イル、もしくはペンタセン-(1-、2-、5-、もしくは6-)イルなどである。その他、スピロフルオレンの1価の基などがあげられる。
【0033】
なお、第2置換基としてのアリールには、当該アリールが、フェニルなどのアリール(具体例は上述した基)、メチルなどのアルキル(具体例は後述する基)、およびシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキル(具体例は後述する基)からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換された構造も含まれる。
その一例としては、第2置換基としてのフルオレニルの9位が、フェニルなどのアリール、メチルなどのアルキル、またはシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキルで置換された基があげられる。
【0034】
「アリーレン」は、例えば炭素数6~30のアリーレンであり、好ましくは、炭素数6~20のアリーレン、炭素数6~16のアリーレン、炭素数6~12のアリーレン、または炭素数6~10のアリーレンなどである。
具体的な「アリーレン」は、例えば、上述した「アリール」(1価の基)から1つの水素を除いた2価の基があげられる。
【0035】
「ヘテロアリール」は、例えば炭素数2~30のヘテロアリールであり、好ましくは、炭素数2~25のヘテロアリール、炭素数2~20のヘテロアリール、炭素数2~15のヘテロアリール、または炭素数2~10のヘテロアリールなどである。「ヘテロアリール」は、環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄、および窒素等から選ばれるヘテロ原子を、1個以上、好ましくは1~5個含有する。
【0036】
具体的な「ヘテロアリール」としては、上述した「ヘテロアリール環」から1つの水素を除いた1価の基があげられる。例えば、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、トリアジニル、インドリル、イソインドリル、1H-インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1H-ベンゾトリアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フェナントロリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェナザシリニル、インドリジニル、フラニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、ナフトベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、イソベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、ナフトベンゾチエニル、ベンゾホスホールオキシド環の1価の基、ジベンゾホスホールオキシド環の1価の基、フラザニル、チアントレニル、インドロカルバゾリル、ベンゾインドロカルバゾリル、ジベンゾインドロカルバゾリル、イミダゾリニル、またはオキサゾリニルなどである。その他、スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]の1価の基、スピロビ[シラフルオレン]の1価の基、ベンゾセレノフェンの1価の基があげられる。
【0037】
なお、第2置換基としてのヘテロアリールには、当該ヘテロアリールが、フェニルなどのアリール(具体例は上述した基)、メチルなどのアルキル(具体例は後述する基)およびシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキル(具体例は後述する基)からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換された構造も含まれる。
その一例としては、第2置換基としてのカルバゾリルの9位が、フェニルなどのアリール、メチルなどのアルキル、またはシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキルで置換された基があげられる。また、ピリジル、ピリミジニル、トリアジニル、カルバゾリルなどの含窒素ヘテロアリールがさらにフェニルまたはビフェニリルなどで置換された基も第2置換基としてのヘテロアリールに含まれる。
【0038】
「ヘテロアリーレン」は、例えば炭素数2~30のヘテロアリーレンであり、好ましくは、炭素数2~25のヘテロアリーレン、炭素数2~20のヘテロアリーレン、炭素数2~15のヘテロアリーレン、または炭素数2~10のヘテロアリーレンなどである。また、「ヘテロアリーレン」は、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄、および窒素から選ばれるヘテロ原子を1~5個含有する複素環などの二価の基である。
具体的な「ヘテロアリーレン」は、例えば、上述した「ヘテロアリール」(1価の基)から1つの水素を除いた2価の基があげられる。
【0039】
「ジアリールアミノ」は、2つのアリールが置換したアミノであり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。
「ジヘテロアリールアミノ」は、2つのヘテロアリールが置換したアミノ基であり、このヘテロアリールの詳細については上述した「ヘテロアリール」の説明を引用できる。
「アリールヘテロアリールアミノ」は、アリールおよびヘテロアリールが置換したアミノ基であり、このアリールおよびヘテロアリールの詳細については上述した「アリール」および「ヘテロアリール」の説明を引用できる。
【0040】
第1の置換基としてのジアリールアミノにおける2つのアリールは互いに連結基を介して結合していてもよく、第1の置換基としてのジヘテロアリールアミノにおける2つのヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよく、第1の置換基としてのアリールヘテロアリールアミノのアリールとヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい。ここで、「連結基を介して結合」という記載は、下記に示すように例えばジフェニルアミノの2つのフェニルが連結基で結合を形成することを表す。またこの説明はアリールやヘテロアリールで形成された、ジヘテロアリールアミノおよびアリールヘテロアリールアミノについても適用される。
【0041】
【0042】
連結基としては具体的には、>O、>N-RX、>C(-RX)2、-C(-RX)=C(-RX)-、>Si(-RX)2、>S、>CO、>CS、>SO、>SO2、および>Seがあげられる。RXはそれぞれ独立してアルキル、シクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり、これらはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールで置換されていてもよい。また、>C(-RX)2、-C(-RX)=C(-RX)-、>Si(-RX)2それぞれにおける2つのRXは、単結合または連結基XYを介して互いに結合して環を形成してもよい。XYとしては>O、>N-RY、>C(-RY)2、>Si(-RY)2、>S、>CO、>CS、>SO、>SO2、および>Seがあげられ、RYはそれぞれ独立してアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、これらはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールで置換されていてもよい。ただし、XYが>C(-RY)2および>Si(-RY)2の場合には、2つのRYは結合してさらに環を形成することはない。さらに連結基としては、アルケニレンもあげられる。該アルケニレンの任意の水素はそれぞれ独立してR2Xで置換されていてもよく、R2Xはそれぞれ独立してアルキル、シクロアルキル、置換シリル、アリールおよびヘテロアリールであり、これらはアルキル、シクロアルキル、置換シリル、アリールで置換されていてもよい。-C(-RX)=C(-RX)-における2つのRXは、互いに結合してそれらが結合するC=Cとともにアリール(ベンゼン環など)またはヘテロアリール環を形成していてもよい。すなわち、-C(-RX)=C(-RX)-は、アリーレン(1,2-フェニレンなど)またはヘテロアリーレンとなっていてもよい。
【0043】
なお、本明細書で単に「ジアリールアミノ」、「ジヘテロアリールアミノ」、または「アリールヘテロアリールアミノ」と記載されている場合は、特に断りがない限りは、それぞれ「ジアリールアミノの2つのアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい」、「前記ジヘテロアリールアミノの2つのヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい」および「前記アリールヘテロアリールアミノのアリールとヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい」という説明が加わっているものであるとする。
【0044】
「ジアリールボリル」は、2つのアリールが置換したボリルであり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。また、この2つのアリールは、単結合または連結基(例えば、-CH=CH-、-CR=CR-、-C≡C-、>N-R、>O、>S、>CO、>C(-R)2、>Si(-R)2、または>Se)を介して結合していてもよい。ここで、前記-CR=CR-のR、>N-RのR、>C(-R)2のR、および>Si(-R)のRは、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アルコキシ、またはアリールオキシであり、当該Rにおける少なくとも1つの水素は、さらにアリール、ヘテロアリール、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはシクロアルキルで置換されていてもよい。また、隣接する2つのR同士が結合して環を形成し、シクロアルキレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンを形成していてもよい。ここで列挙した置換基の詳細については、上述した「アリール」、「アリーレン」、「ヘテロアリール」、「ヘテロアリーレン」、および「ジアリールアミノ」の説明、ならびに、後述する「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」、「シクロアルキル」、「シクロアルキレン」、「アルコキシ」、および「アリールオキシ」の説明を引用できる。また、本明細書で単に「ジアリールボリル」と記載されている場合は、特に断りがない限りは、「ジアリールボリルの2つのアリールは互いに単結合または連結基を介して結合していてもよい」という説明が加わっているものであるとする。
【0045】
「アルキル」は、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば炭素数1~24の直鎖アルキルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルキルであり、好ましくは、炭素数1~18のアルキル(炭素数3~18の分岐鎖アルキル)、炭素数1~12のアルキル(炭素数3~12の分岐鎖アルキル)、炭素数1~6のアルキル(炭素数3~6の分岐鎖アルキル)、炭素数1~5のアルキル(炭素数3~5の分岐鎖アルキル)、炭素数1~4のアルキル(炭素数3~4の分岐鎖アルキル)などである。
【0046】
具体的な「アルキル」は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、1-エチル-1-メチルプロピル、1,1-ジエチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,1,2,2-テトラメチルプロピル、1-エチル-1,2,2-トリメチルプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、2-エチルブチル、1,1-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,1-ジエチルブチル、1-エチル-1-メチルブチル、1-プロピル-1-メチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、1-エチル-1,3-ジメチルブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル(t-アミル)、1-メチルペンチル、2-プロピルペンチル、1,1-ジメチルペンチル、1-エチル-1-メチルペンチル、1-プロピル-1-メチルペンチル、1-ブチル-1-メチルペンチル、1,1,4-トリメチルペンチル、n-ヘキシル、1-メチルヘキシル、2-エチルヘキシル、1,1-ジメチルヘキシル、1-エチル-1-メチルヘキシル、1,1,5-トリメチルヘキシル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-ヘプチル、1-メチルヘプチル、1-ヘキシルヘプチル、1,1-ジメチルヘプチル、2,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチル-4-ヘプチル、n-オクチル、t-オクチル(1,1,3,3-テトラメチルブチル)、1,1-ジメチルオクチル、n-ノニル、n-デシル、1-メチルデシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、またはn-エイコシルなどである。
【0047】
「アルキレン」は、「アルキル」のいずれかの水素を除いて得られる2価の基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレンである。
【0048】
「アルケニル」については、上述した「アルキル」の説明を参考にすることができ、「アルキル」の構造中のC-C単結合をC=C二重結合に置換した基であり、1つだけでなく2つ以上の単結合が二重結合に置換された基(アルカジエン-イルやアルカトリエン-イルとも呼ばれる)も含める。
【0049】
「アルケニレン」は「アルケニル」のいずれかの水素を除いて得られる2価の基であり、例えばビニレンがあげられる。
【0050】
「アルキニル」については、上述した「アルキル」の説明を参考にすることができ、「アルキル」の構造中のC-C単結合をC≡C三重結合に置換した基であり、1つだけでなく2つ以上の単結合が三重結合に置換された基(アルカジイン-イルやアルカトリイン-イルとも呼ばれる)も含める。
【0051】
「シクロアルキル」は、例えば炭素数3~24のシクロアルキルであり、好ましくは、炭素数3~20のシクロアルキル、炭素数3~16のシクロアルキル、炭素数3~14のシクロアルキル、炭素数3~12のシクロアルキル、炭素数5~10のシクロアルキル、炭素数5~8のシクロアルキル、炭素数5~6のシクロアルキル、または炭素数5のシクロアルキルなどである。
【0052】
具体的な「シクロアルキル」は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、もしくはこれらの炭素数1~5や炭素数1~4のアルキル(特にメチル)置換体、ビシクロ[1.1.0]ブチル、ビシクロ[1.1.1]ペンチル、ビシクロ[2.1.0]ペンチル、ビシクロ[2.1.1]ヘキシル、ビシクロ[3.1.0]ヘキシル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル(ノルボルニル)、ビシクロ[2.2.2]オクチル、アダマンチル、ジアマンチル、デカヒドロナフタレニル、またはデカヒドロアズレニルなどである。
【0053】
「シクロアルキレン」は、例えば炭素数3~24のシクロアルキレンであり、好ましくは、炭素数3~20のシクロアルキレン、炭素数3~16のシクロアルキレン、炭素数3~14のシクロアルキレン、炭素数3~12のシクロアルキレン、炭素数5~10のシクロアルキレン、炭素数5~8のシクロアルキレン、炭素数5~6のシクロアルキレン、または炭素数5のシクロアルキレンなどである。
具体的な「シクロアルキレン」は、例えば、上述した「シクロアルキル」(1価の基)から1つの水素を除いて二価の基にした構造があげられる。
【0054】
「シクロアルケニル」は、上述した「シクロアルキル」における少なくとも1組の2つの炭素の間の単結合が二重結合となった構造を有する基(例えば、-CH2-CH2-が-CH=CH-に置き換わった基)であって、アリールに該当しない基があげられる。具体的には、1-シクロヘキセニル、1-シクロペンテニル等があげられる。
【0055】
「アルコキシ」は、「Alk-O-(Alkはアルキル)」で表される基であり、このアルキルの詳細については上述した「アルキル」の説明を引用できる。
【0056】
「アリールオキシ」は、「Ar-O-(Arはアリール)」で表される基であり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。
【0057】
「置換シリル」は、例えば、アリール、アルキル、およびシクロアルキルの少なくとも1つで置換されたシリルであり、好ましくは、トリアリールシリル、トリアルキルシリル、トリシクロアルキルシリル、ジアルキルシクロアルキルシリル、またはアルキルジシクロアルキルシリルである。
【0058】
「トリアリールシリル」は、3つのアリールで置換されたシリル基であり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。
具体的な「トリアリールシリル」は、例えば、トリフェニルシリル、ジフェニルモノナフチルシリル、モノフェニルジナフチルシリル、またはトリナフチルシリルなどである。
【0059】
「トリアルキルシリル」は、3つのアルキルで置換されたシリル基であり、このアルキルの詳細については上述した「アルキル」の説明を引用できる。
具体的な「トリアルキルシリル」は、例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリn-プロピルシリル、トリイソプロピルシリル、トリn-ブチルシリル、トリイソブチルシリル、トリs-ブチルシリル、トリt-ブチルシリル、エチルジメチルシリル、n-プロピルジメチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、n-ブチルジメチルシリル、イソブチルジメチルシリル、s-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、メチルジエチルシリル、n-プロピルジエチルシリル、イソプロピルジエチルシリル、n-ブチルジエチルシリル、s-ブチルジエチルシリル、t-ブチルジエチルシリル、メチルジn-プロピルシリル、エチルジn-プロピルシリル、n-ブチルジn-プロピルシリル、s-ブチルジn-プロピルシリル、t-ブチルジn-プロピルシリル、メチルジイソプロピルシリル、エチルジイソプロピルシリル、n-ブチルジイソプロピルシリル、s-ブチルジイソプロピルシリル、またはt-ブチルジイソプロピルシリルなどである。
【0060】
「トリシクロアルキルシリル」は、3つのシクロアルキルで置換されたシリル基であり、このシクロアルキルの詳細については上述した「シクロアルキル」の説明を引用できる。
具体的な「トリシクロアルキルシリル」は、例えば、トリシクロペンチルシリルまたはトリシクロヘキシルシリルなどである。
【0061】
「ジアルキルシクロアルキルシリル」は、2つのアルキルおよび1つのシクロアルキルで置換されたシリル基であり、このアルキルおよびシクロアルキルの詳細については上述した「アルキル」および「シクロアルキル」の説明を引用できる。
【0062】
「アルキルジシクロアルキルシリル」は、1つのアルキルおよび2つのシクロアルキルで置換されたシリル基であり、このアルキルおよびシクロアルキルの詳細については上述した「アルキル」および「シクロアルキル」の説明を引用できる。
【0063】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、好ましくはフッ素、塩素、または臭素、より好ましくはフッ素または塩素であり、フッ素がさらに好ましい。
【0064】
式(A30)で表される置換基は以下の構造を有する。
【化6】
【0065】
式(A30)中、
Akは水素、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアルケニル、置換もしくは無置換のシクロアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルケニルであり、当該アルキル、シクロアルキルおよびシクロアルケニルにおける少なくとも1つの-CH2-は-O-または-S-で置き換えられていてもよく、
RAkは、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、RAkは連結基または単結合によりAkと結合していてもよく、*は結合位置である。
【0066】
式(A30)中、Akが上記の置換基であることによりN上の非共有電子対と共役しないため、非共有電子対を結合先のπ電子と共役させることができ、同位置にアリール等がある場合と比べてより大きな波長変更が可能である。また、多重共鳴効果への影響についても同様であり、熱活性型遅延蛍光(TADF)性のより大きな改善が可能である。
【0067】
RAkはアルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいヘテロアリール、アルキルまたはシクロアルキルであることが好ましく、アルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリール、アルキルまたはシクロアルキルであることがより好ましく、アルキルで置換されていてもよいアリールであることがさらに好ましく、メチルで置換されていてもよいフェニルであることが特に好ましい。
【0068】
式(A30)中、Akは炭素数1~6のアルキルまたは炭素数3~14のシクロアルキルであることが好ましく、炭素数1~4のアルキルまたは炭素数3~8のシクロアルキルであることが好ましく、炭素数1~4のアルキルであることがより好ましく、メチルであることがさらに好ましい。
【0069】
RAkとAkとは同じであっても異なっていてもよく、異なっていることが好ましい。
【0070】
RAkは連結基または単結合によりAkと結合していてもよい。このときの連結基としては>O、>Sまたは>Si(-R)2などがあげられる。>Si(-R)2のRは、水素、炭素数6~12のアリール、炭素数1~6のアルキルまたは炭素数3~14のシクロアルキルである。RAkが連結基または単結合によりAkと結合した構造の例としては以下があげられる。
【0071】
【0072】
<同一の原子に結合する2つの基が互いに結合する場合>
本明細書において同一の原子に結合する2つの基について互いに結合して環を形成していてもよいという場合、単結合または連結基(これらをまとめて結合基ともいう)により結合していればよく、連結基としては、-CH2-CH2-、-CHR-CHR-、-CR2-CR2-、-CH=CH-、-CR=CR-、-C≡C-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-C(=O)-、-Si(-R)2-、-C(=S)-、-P(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)2-、または-Se-があげられ、例えば以下の構造があげられる。なお、前記-CHR-CHR-のR、-CR2-CR2-のR、-CR=CR-のR、-N(-R)-のR、-C(-R)2-のR、および-Si(-R)2-のRは、それぞれ独立して、水素、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいヘテロアリール、シクロアルキルで置換されていてもよいアルキル、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいアルケニル、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいアルキニル、またはアルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいシクロアルキルである。また、隣接する2つのR同士が結合して環を形成し、シクロアルキレン、アリーレン、またはヘテロアリーレンを形成していてもよい。
【0073】
【0074】
結合基としては、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-Si(-R)2-、および-Se-が好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、および-C(-R)2-がより好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、および-S-がさらに好ましく、単結合が最も好ましい。
【0075】
結合基により2つのRが結合する位置は、結合可能な位置であれば特に限定されないが、最も隣接する位置で結合することが好ましく、例えば2つの基がフェニルである場合、フェニルにおける「C」や「Si」の結合位置(1位)を基準としてオルト(2位)の位置同士で結合することが好ましい(上記構造式を参照)。
【0076】
1.多環芳香族化合物
<化合物の全体構造の説明>
本発明者らは、芳香環をホウ素、窒素、酸素、硫黄などのヘテロ元素で連結した多環芳香族化合物が、大きなHOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)を有することをすでに見出している。これは、ヘテロ元素を含む6員環は芳香族性が低く、共役系の拡張に伴うHOMO-LUMOギャップの減少が抑制されたことが原因である。また、ヘテロ元素の種類および連結方法に応じてHOMO-LUMOギャップを任意に変更できることを見出した。これは、ヘテロ元素の空軌道またはローンペアの空間的広がりおよびエネルギーに応じてHOMO、LUMOのエネルギーを任意に動かせることが原因となっていると考えられる。
【0077】
式(1)で表される構造を有する化合物は、上記の従来の多環芳香族化合物の構造にドナー性の置換基を導入した構造を有することで、ΔES1T1が小さくなって熱活性型遅延蛍光を示す。ただし、本発明は特にこれらの原理に限定されるわけではない。
【0078】
本発明の多環芳香族化合物は、式(1)で表される構造を有する。
【化9】
【0079】
式(1)中、
A環、B環、およびC環はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
ただし、A環、B環、およびC環からなる群より選択される少なくとも1つは、少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するアリール環または少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するヘテロアリール環である。X1およびX2は>Oなどの連結基である。各構造中の記号の詳細は後述する。
【0080】
本発明の好ましい一態様において、式(D1)におけるYはN-Arであり、このとき、式(1)で表される多環芳香族化合物は式(D1)で表される構造の主骨格部分(Arを除いた部分)がドナー、A環、B環、およびC環中のアリール環またはヘテロアリール環とX1およびX2とで構成される部分構造がアクセプターとなるD-A型TADF化合物である。
本明細書中においてドナーとは、分子中でHOMOが局在する電子供与性の置換基または電子供与性の部分構造のことを意味し、アクセプターとは、分子中でLUMOが局在する電子受容性の置換基または電子受容性の部分構造のことを意味することとする。
【0081】
上記態様においてさらに好ましくは、式(1)で表される多環芳香族化合物においてArはアクセプターであり、式(1)で表される多環芳香族化合物は少なくとも1つのドナーと少なくとも2つのアクセプターを有する化合物である。このとき、A環、B環、およびC環中のアリール環またはヘテロアリール環とX1およびX2とで構成される部分構造へ置換基等としてドナーまたはアクセプターを有していない場合、式(1)で表される多環芳香族化合物は1つのドナーと2つのアクセプターを有する化合物である。
【0082】
ドナー構造およびアクセプター構造は、例えば、Advanced Functional Materials 2020, 2008332などを参考にすることができる。より具体的には、ドナー構造は、トリアリールアミン構造およびカルバゾール構造があげられ、アクセプター構造は、トリアジン構造、ピリミジン構造およびピリジン構造があげられる。
【0083】
式(1)で表される化合物はA環、B環、およびC環中のアリール環またはヘテロアリール環とX1およびX2とで構成される部分構造を適宜選択することにより、発光波長および最低励起三重項エネルギー準位(ET1)を調整することができる。また、式(D1)中のYを>O、>S、またはN-Arとすることでも、発光波長および最低励起三重項エネルギー準位(ET1)および高次励起三重項エネルギー準位(ETn)を調節することができる。特に、式(D1)中のYがN-Arである化合物については、Arを調整することにより発光波長、キャリア輸送性、アモルファス安定性を調整することができる。アモルファス安定性が高くなるように調整することにより、化合物の蒸着により有機EL素子の有機層を形成する際に熱運動による結晶化が生じにくくなり、均質な層を得ることができる。また、式(D1)中のYが>Sまたは>Seである化合物については、重原子効果によってTADFをより加速することができる。式(1)で表される化合物は上記の部分構造の選択により、高いET1を実現することが可能であり、りん光材料や熱活性型遅延蛍光(TADF)材料を用いた有機EL素子のホスト材料として使用することができる。また、アシスティングドーパントとして好ましく用いることができる。
【0084】
<化合物中の環構造の説明>
式(1)において円内の「A」、「B」、「C」は各円で示される環構造を示す符号である。式(1)で表される構造は、A環、B環、およびC環である少なくとも3つの芳香族環をホウ素、および酸素、硫黄、または窒素などのヘテロ元素で連結してさらに環構造が形成された構造を有する。形成されている環構造は少なくとも5つの環から構成される縮合環構造である。
【0085】
A環、B環、およびC環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、A環、B環、およびC環からなる群より選択される少なくとも1つは、少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するアリール環または少なくとも式(D1)で表される基を置換基として有するヘテロアリール環である。
【0086】
A環は、その構造中のアリール環またはヘテロアリール環の環上で連続する3つの元素(好ましくは炭素)に結合手を有する3価の基を形成している。この3つの結合手でそれぞれX1、X2、およびBに結合する。X1および/またはX2がRNXなどにおいてA環に追加で結合することによって、A環は4価または5価の基になっていてもよい。A環中で上記の3つの結合手を有する元素を環構成元素とする環は5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。この環はさらに他の環と縮合していてもよい。6員環の例としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環などがあげられる。6員環がさらに他の環と縮合している例としては、ナフタレン環、キノリン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、カルバゾール環などがあげられる。5員環の例としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環などがあげられる。5員環がさらに他の環と縮合している例としては、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環などがあげられる。
A環中のアリール環またはヘテロアリール環としてはベンゼン環が好ましい。
【0087】
B環、C環はいずれも、その構造中のアリール環またはヘテロアリール環の環上で互いに隣接する2つの炭素に結合手を有する2価の基を形成している。B環は上記の2つの結合手でXおよびYに結合し、C環は上記の2つの結合手でX1またはX2とBとに結合している。X1がRNXなどにおいてB環に追加で結合してB環が3価の基になっていてもよく、X2がRNXなどにおいてC環に追加で結合し、C環が3価の基になっていてもよい。B環、C環中で上記の2つの結合手を有する元素を環構成元素とする環は5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。この環はさらに他の環と縮合していてもよい。6員環の例としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環などがあげられる。6員環がさらに他の環と縮合している例としては、ナフタレン環、キノリン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環、ベンゾセレノフェン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ジベンゾセレノフェン環、9,9’-スピロビフルオレン環、9,9’-スピロビ[9H-9-シラフルオレン]環、インドロ[3,2,1-jk]カルバゾール環などがあげられる。5員環の例としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、セレノフェン環などがあげられる。5員環がさらに他の環と縮合している例としては、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環、ベンゾセレノフェン環などがあげられる。
B環、C環中のアリール環またはヘテロアリール環としては、それぞれ独立して、ベンゼン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾセレノフェン環、またはカルバゾール環が好ましく、ベンゼン環またはジベンゾフラン環がより好ましい。
【0088】
式(1)で表される化合物のA環、B環、およびC環における置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環において、「置換もしくは無置換の(置換または無置換の)」というときの置換基としては、式(D1)で表される基のほか、置換基群Zαからなる群より選択される少なくとも1つの置換基があげられる。
A環、B環、およびC環におけるアリール環またはヘテロアリール環への式(D1)で表される基以外の置換基としては、置換または無置換のアリールや置換または無置換のヘテロアリールが好ましい。アリールはフェニル、ビフェニリル、テルフェニリルが好ましく、フェニルがより好ましい。ヘテロアリールはカルバゾリル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチエニル、ピリジル、ピリミジニル、トリアジニルが好ましく、カルバゾリルがより好ましい。置換基は更に無置換のアリールや無置換のヘテロアリールで置換されていてもよく、このときの置換基はフェニル、カルバゾリルが好ましい。A環、B環、およびC環における置換位置はホウ素のメタ位、パラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。合成と昇華性の観点からは、式(D1)で表される基以外の置換基を有していないことも好ましい。
【0089】
【0090】
本発明の多環芳香族化合物は、その構造中に少なくとも1つの式(D1)で表される基を、A環、B環、またはC環におけるアリール環またはヘテロアリール環の置換基として含む。式(D1)における波線は結合位置を示す。式(D1)において、円内の「D」、「E」は各円で示される環構造を示す符号である。
式(D1)においてD環およびE環は、それぞれその構造中のアリール環またはヘテロアリール環の環上で互いに隣接する2つの元素(好ましくは炭素)に結合手を有する2価の基を形成し、2つの結合手で窒素およびZに隣接する炭素に結合している。
【0091】
D環およびE環における置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環において、「置換もしくは無置換の(置換または無置換の)」というときの置換基としては、置換基群Zαより選択される少なくとも1つの置換基があげられる。上記の2つの結合手を有する元素を環構成元素とする環は5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。この環はさらに他の環と縮合していてもよい。6員環の例としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環などがあげられる。6員環がさらに他の環と縮合している例としては、ナフタレン環、キノリン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環、ベンゾセレノフェン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ジベンゾセレノフェン環などがあげられる。5員環の例としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、セレノフェン環などがあげられる。5員環がさらに他の環と縮合している例としては、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環、ベンゾセレノフェン環などがあげられる。
【0092】
D環およびE環としてはそれぞれ独立して、置換もしくは無置換のベンゼン環、置換もしくは無置換のジベンゾフラン環、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェン環、置換もしくは無置換のジベンゾセレノフェン環、または置換もしくは無置換のN-フェニルカルバゾール環であることが好ましく、無置換のベンゼン環、無置換のジベンゾフラン環、無置換のジベンゾチオフェン環、無置換のジベンゾセレノフェン環、または無置換のN-フェニルカルバゾール環であることがより好ましく、無置換のベンゼン環であることがさらに好ましい。D環およびE環の少なくともいずれか一方は置換もしくは無置換のベンゼン環であることが好ましく、無置換のベンゼン環であることがより好ましい。D環およびE環はいずれも、無置換のベンゼン環であることが好ましい。
【0093】
式(D1)において、Zは-C(-RZ)=または-N=である。
RZは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、隣接する2つのRZは互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環を形成してもよい。隣接する2つのRZが互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに形成されるアリール環またはヘテロアリール環としては、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾセレノフェン環、またはN-フェニルインドール環が好ましい。いずれも-C(-RZ)=における炭素(2つ)が5員環の構成元素となるように環が形成されていることが好ましい。RZが置換基であるときの置換基または上記のように形成された環の置換基としては、置換基群Zαより選択される少なくとも1つの置換基があげられ、フェニル等の無置換のアリール、カルバゾリル等の無置換のヘテロアリールが好ましい。
RZはいずれも水素であるか、または隣接する2つのRZが互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに無置換のベンゾフラン環、無置換のベンゾチオフェン環、または無置換のN-フェニルインドール環を形成していることが好ましい。
【0094】
式(D1)において、Yは>N-Ar、>O、>C(-RCY)2、>Si(-RIY)2、>S、または>Seである。
【0095】
Arは置換もしくは無置換のアリールまたは置換もしくは無置換のヘテロアリールである。式(D1)において、Yが>N-ArであるときのArを変更することにより、式(1)で表される化合物の発光波長、キャリア輸送性、およびアモルファス安定性を調整することができる。Arは置換アリールまたは置換もしくは無置換のヘテロアリール環であることが好ましい。特にArはアクセプター性の基であることが好ましい。具体的には、式(Ar-a)、式(Ar-b)、式(Ar-c)、もしくは式(Ar-d)で表される基または5,9-ジオキサ-13b-ボラ-13bH-ナフト[3,2,1-de]アントラセン環の1価の基等があげられる
【0096】
【0097】
式(Ar-a)、式(Ar-b)、式(Ar-c)、式(Ar-d)で表される基はそれぞれ式(Ar-a)、式(Ar-b)、式(Ar-c)、もしくは式(Ar-d)における波線の位置で他の部分構造に結合する基である。
【0098】
式(Ar-a)中、Zaはそれぞれ独立して、-C(-RZa)=または-N=であり、RZaは、それぞれ独立して、水素または置換基であり、少なくとも1つのRZaは-N=である。例えば、式(Ar-a)で表される基は置換もしくは無置換のピリジル、置換もしくは無置換のピラジニル、置換もしくは無置換のピリミジニル、置換もしくは無置換のピリダジニル、置換もしくは無置換のトリアジニル(特に2,4,6-トリアジニル)があげられる。
RZaが置換基であるときの置換基としては、フェニル、ビフェニリル、テルフェニリルなどのアリール、カルバゾリル、トリアリールシリル、アダマンチルなどのシクロアルキルがあげられ、フェニル、カルバゾリルまたはトリフェニルシリルが好ましい。
式(Ar-a)で表される基の特に好ましい例としては3,5-ビフェニル-2,4,6-トリアジニルがあげられる。
【0099】
式(Ar-b)中、Rbは水素または置換基であり、少なくとも1つのRbはシアノ、置換もしくは無置換のカルバゾリル、置換もしくは無置換のトリアリールシリル、置換もしくは無置換のジフェニルホスホリルまたは無置換のシクロアルキルである。シアノ、置換もしくは無置換のカルバゾリル、置換もしくは無置換のトリアリールシリル、またはジフェニルホスホリルであるRb以外のRbは水素であることが好ましい。少なくとも1つのRbはシアノ、置換もしくは無置換のカルバゾリル、置換もしくは無置換のトリアリールシリルであることが好ましい。
式(Ar-b)で表される基の特に好ましい例としては3,5-ジシアノフェニル、3-トリフェニルシリルフェニルがあげられる。
【0100】
式(Ar-c)中、いずれか1つのZcは結合手を有する炭素であり、その他のZcはそれぞれ独立して、-C(-RZc)=または-N=であり、RZcは、それぞれ独立して、水素または置換基である。RZcが置換基であるときの置換基としては、フェニル、ビフェニリル、テルフェニリルなどのアリール、カルバゾリル、トリアリールシリル、アダマンチルなどのシクロアルキルがあげられ、フェニル、ビフェニリルなどのアリール、カルバゾリル、またはトリフェニルシリルが好ましい。Lcは>O、>N-RNC、>C(-RCC)2、>Si(-RIC)2、>Sまたは>Seであり、RNC、RCC、RICはそれぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルである。RNCはいずれかのZcと単結合で結合していてもよい。このような結合により、例えば、式(Ar-c)がインドロ[3,2,1-jk]カルバゾールの一価の基となっていてもよい)。2つのRCCは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのRICは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0101】
RNCは置換または無置換のフェニルであることが好ましく、無置換のフェニルであることがより好ましい。2つのRCCはいずれも置換または無置換のフェニルであり、互いに単結合または>Oを介して結合して環を形成していることが好ましい。2つのRICはいずれも置換または無置換のフェニルであり、互いに単結合を介して結合して環を形成していることが好ましい。Lcは>O、>Sまたは>Seであることが好ましく、>Oまたは>Sであることがより好ましく、>Oであることがさらに好ましい。
【0102】
式(Ar-c)で表される基の特に好ましい例としては4-ベンゾフラニルがあげられる。
【0103】
式(Ar-d)中、いずれか1つのZdは結合手を有する炭素であり、その他のZdはそれぞれ独立して、-C(-RZd)=または-N=であり、RZdは、それぞれ独立して、水素または置換基である。RZdが置換基であるときの置換基としては、フェニル、ビフェニリルなどのアリール、またはカルバゾリルが好ましい。Ldは>O、>N-RND、>Sまたは>Seであり、RNDは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルである。RNDは置換または無置換のフェニルであることが好ましく、無置換のフェニルであることがより好ましい。Ldは>Oまたは>Sまたは>Seであることが好ましく、>Oまたは>Sであることがより好ましく、>Oであることがさらに好ましい。
【0104】
式(D1)において、Yが>C(-RCY)2であるときのRCYは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、2つのRCYは互いに結合して環を形成していてもよい。RCYとしては置換基を有していてもよいアリールまたは置換基を有していてもよいアルキルが好ましく、フェニルまたはメチルがより好ましく、フェニルがさらに好ましい。式(D1)において、Yが>Si(-RIY)2であるときのRIYは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、2つのRIYは互いに結合して環を形成していてもよい。RCYとしては置換基を有していてもよいアリールまたは置換基を有していてもよいアルキルが好ましく、フェニルまたはメチルがより好ましく、フェニルがさらに好ましい。
【0105】
Yは>N-Ar、>O、または>Sであることが好ましく、>N-Arであることがより好ましい。
式(D1)で表される基の好ましい例としては、式(D2)で表される基をあげることができる。
【化12】
【0106】
式(D2)中、ArおよびZは式(D1)中のArおよびZとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同一である。
【0107】
式(1)における式(D1)で表される基の数は1~3個であることが好ましく、1~2個であることがより好ましく、1個であることがさらに好ましい。
【0108】
式(D1)で表される基の置換位置は特に限定されないが、少なくともA環におけるアリール環またはヘテロアリール環に置換していることが好ましい。アリール環がベンゼン環であるとき、式(D1)で表される基はホウ素(B)のパラ位に置換していることが好ましい。
【0109】
<X1、X2の説明>
X1およびX2はそれぞれ独立して>N-RNX、>O、>C(-RCX)2、>Si(-RIX)2、>S、または>Seであり、RNXは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、RCXおよびRIXはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、2つのRCXは互いに結合して環を形成していてもよく、2つのRIXは互いに結合して環を形成していてもよく、RNX、RCXおよびRIXは連結基または単結合によりA環および/またはB環、あるいはA環および/またはC環と結合していてもよい。
【0110】
RNXは置換または無置換のアリールまたは置換または無置換のヘテロアリールが好ましく、置換または無置換のフェニルがより好ましく、無置換のフェニルがさらに好ましい。RCXは置換または無置換のアリールまたは置換または無置換のヘテロアリールが好ましく、置換または無置換のフェニルがより好ましい。RIXは置換または無置換のアリールまたは置換または無置換のヘテロアリールが好ましく、置換または無置換のフェニルがより好ましい。
【0111】
有機EL素子の発光層におけるホストまたはアシスティングドーパントとして用いられる式(1)で表される多環芳香族化合物においては、X1およびX2はそれぞれ独立して、>O、>S、または>Seであることが好ましく、>Oまたは>Sであることがより好ましい。X1およびX2は少なくとも1つが>Oであることが好ましく、いずれも>Oであることがより好ましい。
【0112】
<X1、X2と環との結合による環構造の変化の説明>
X1およびX2中のRNX、RCXおよびRIXはそれぞれ自身を含むX1またはX2が結合する1つまたは2つの環と単結合または連結基により結合していてもよい。具体的には、式(1)において、X1中のRNX、RCXおよびRIXは、単結合または連結基により、A環またはB環の少なくとも一方と結合していてもよく、X2中のRNX、RCXおよびRIXは、単結合または連結基により、A環またはC環の少なくとも一方と結合していてもよい。
【0113】
RNX、RCXおよびRIXがそれぞれ環と結合する場合の連結基としては、-CH2-CH2-、-CHR-CHR-、-CR2-CR2-、-CH=CH-、-CR=CR-、-C≡C-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-C(=O)-、-Si(-R)2-、または-Se-などがあげられる。これらのうち、-CH=CH-、-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、および-C(-R)2-が好ましく、-CH=CH-、-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、および-S-がより好ましく、-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、および-S-がさらに好ましい。前記「-CHR-CHR-」のR、「-CR2-CR2-」のR、「-CR=CR-」のR、「-N(-R)-」のR、「-C(-R)2-」のR、および「-Si(-R)2-」のRは、それぞれ独立して、水素、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよいヘテロアリール、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよいアルキル、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよいアルケニル、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよいアルキニル、またはアルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよいシクロアルキルである。また、同一の元素に結合する2つのR同士が結合して環を形成していてもよい。さらに、隣接する2つのR同士が結合して、シクロアルキレン環、アリーレン環、およびヘテロアリーレン環を形成していてもよい。これらの環もまた、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよい。
【0114】
>N-RNX中のRNXがA環、B環、C環中のアリール環としてのベンゼン環と結合して形成される縮合環としては、例えば、カルバゾール環(フェニルであるRNXが単結合で結合)、フェノキサジン環(フェニルであるRNXが-O-で結合)、フェノチアジン環(フェニルであるRNXが-S-で結合)、またはアクリドン環(フェニルであるRNXが-C(=O)-で結合)があげられる。
【0115】
<式(1-a)、式(1-b)、式(1-c)>
式(1)で表される構造の例としては、以下の式(1-a)、式(1-b)および式(1-c)からなる群より選択されるいずれかの式で表される構造をあげることができる。
【化13】
【0116】
式(1-a)、式(1-b)および式(1-c)中、X1、X2は、式(1)における、X1、X2とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同一である。
X3およびX4はそれぞれ独立して>O、>N-R、>S、または>Seであり、前記>N-RのRは水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルである。前記>N-RのRは置換または無置換のアリールまたは置換または無置換のヘテロアリールが好ましく、置換または無置換のフェニルがより好ましく、無置換のフェニルがさらに好ましい。X3およびX4はそれぞれ独立して>O、>S、または>Seであることが好ましく、>Oまたは>Sであることがより好ましく、>Oであることがさらに好ましい。式(1-c)において、X3およびX4は少なくとも1つが>Oであることが好ましく、いずれも>Oであることがより好ましい。
【0117】
式(1-a)、式(1-b)および式(1-c)各式における少なくとも1つのZ1は式(D1)(好ましくは式(D2))で表される部分構造と結合している炭素である。その他のZ1は、それぞれ独立して、-C(-RZ1)=または-N=である。RZ1は、それぞれ独立して、水素または置換基であり、RZ1が置換基であるときの置換基が置換基群Zαから選択されるいずれかの置換基である。RZが置換基であるときの置換基は、置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリールが好ましく、無置換のフェニルおよび無置換のカルバゾリルがより好ましい。
【0118】
式(1-a)、式(1-b)および式(1-c)において、式(D1)(好ましくは式(D2))で表される部分構造と結合している炭素であるZ1以外のZ1はいずれも-C(-RZ1)=であることが好ましい。各式におけるRZ1はいずれも水素であるか、または隣接する2つのRZ1が互いに結合してそれらが結合する2つの炭素とともに無置換のベンゾフラン環、無置換のベンゾチオフェン環、または無置換のN-フェニルインドール環を形成していることが好ましい。各環においてRZ1はいずれも水素であるか、いずれか1つが置換基であり他が水素であることが好ましく、いずれも水素であることがより好ましい。
【0119】
<重水素による置き換え>
式(1)で表される構造中の水素は、その全てまたは一部が重水素であってもよい。式(1-a)、式(1-b)、または式(1-c)で表される構造も同様であり、この後の説明は式(1-a)、式(1-b)、または式(1-c)で表される多環芳香族化合物にも同様に当てはまる。
【0120】
例えば、式(1)で表される化合物においては、A環、B環、C環、D環およびE環におけるアリール環またはヘテロアリール環、A環、B環、C環、D環、およびE環中の置換基における水素が重水素で置き換えられうるが、これらの中でもアリールやヘテロアリールにおける全てまたは一部の水素が重水素で置き換えられた態様があげられる。また耐久性の観点から、式(1)で表される化合物中の水素は、その全てまたは一部が重水素化されていることも好ましい。
【0121】
<多環芳香族化合物の具体例>
本発明の多環芳香族化合物の例として、下記構造式のいずれかで表される化合物があげられる。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
<多環芳香族化合物の製造方法>
式(1)で表される多環芳香族化合物は、D環(d環)およびE環(e環)を含む縮合環のN-H体に、Ar基と残りの部分構造(ホウ素を中心に含む縮合環構造部分)を順次連結することで合成できる。連結する反応ではバックワルド・ハートウィッグ反応や、ゴールドバーグ反応といった一般的反応が利用できる。第1反応では文献(Adv. Sci. 2017, 4, 1600502)に記載の反応が利用できる。ホウ素を中心に含む縮合環構造は、国際公開第2018-212169号に準じて合成できる。スキーム(1)に記載の>N-Arが>O、>C(-R)2、>Si(-R)2、>S、または>Seになった化合物についても、スキーム(1)の第2工程と同様のカップリング反応で導入できる。
【0135】
【0136】
使用する原料を適宜選択することで、所望の多環芳香族化合物を合成することができる。
【0137】
以上の反応で用いられる溶媒の具体例は、トルエン、キシレン、THF(テトラヒドロフラン)、ジオキサン、シクロヘキシルメチルエーテル、DME(ジメチルエーテル)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、ターシャリーブチルアルコールや水などである。
【0138】
なお、上記スキーム(1)で使用する触媒としては、塩化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、ジクロロビス[ジ-t-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ]パラジウム(II)(Pd-132)、銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(II)などがあげられる。
【0139】
なお、上記スキーム(1)で使用する添加剤(触媒の配位子)としては、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル、トリ(o-トリル)ホスフィン、1,1’-フェロセンジイル-ビス(ジフェニルホスフィン),1,1′-フェロセンビス(ジフェニルホスフィン)、2-ジシクロへキシルホスフィノ-2′,6′-ジイソプロポキシビフェニル、2-tert-ブチルホスフィノ-2′,6′-ジイソプロポキシビフェニル、(R)-1-[(SP)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチルホスフィン、AmPhos、BINAP、DMEDA、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン、フェナントロリンなどがあげられる。
【0140】
なお、上記スキーム(1)で使用するブレンステッド塩基としては、炭酸カリウム、炭酸セシウム、リン酸カリウム、ナトリウムターシャリーブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、カリウムターシャリーブトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、水酸化カリウム、リチウムアミド、LDA、LiHMDS、ナトリウムアミド、水素化カリウム、水素化ナトリウム、水素化リチウムなどがあげられる。
【0141】
また、本発明の多環芳香族化合物には、少なくとも一部の水素原子が重水素で置換されているものも含まれるが、このような化合物などは所望の箇所が重水素化された原料を用いることで、上記と同様に合成することができる。
【0142】
2.有機デバイス
本発明の多環芳香族化合物は、有機デバイス用材料として用いることができる。有機デバイスとしては、例えば、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などがあげられる。本発明の多環芳香族化合物は、有機電界発光素子における、いずれか1つ以上の有機層を形成する材料として用いられることが好ましい。
【0143】
2-1.有機電界発光素子
2-1-1.有機電界発光素子の構造
図1は、有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
図1に示された有機EL素子100は、基板101と、基板101上に設けられた陽極102と、陽極102の上に設けられた正孔注入層103と、正孔注入層103の上に設けられた正孔輸送層104と、正孔輸送層104の上に設けられた発光層105と、発光層105の上に設けられた電子輸送層106と、電子輸送層106の上に設けられた電子注入層107と、電子注入層107の上に設けられた陰極108とを有する。
【0144】
なお、有機EL素子100は、作製順序を逆にして、例えば、基板101と、基板101上に設けられた陰極108と、陰極108の上に設けられた電子注入層107と、電子注入層107の上に設けられた電子輸送層106と、電子輸送層106の上に設けられた発光層105と、発光層105の上に設けられた正孔輸送層104と、正孔輸送層104の上に設けられた正孔注入層103と、正孔注入層103の上に設けられた陽極102とを有する構成としてもよい。
【0145】
上記各層すべてがなくてはならないわけではなく、最小構成単位を陽極102と発光層105と陰極108とからなる構成として、正孔注入層103、正孔輸送層104、電子輸送層106、電子注入層107は任意に設けられる層である。また、上記各層は、それぞれ単一層からなってもよいし、複数層からなってもよい。
【0146】
有機EL素子を構成する層の態様としては、上述する「基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」の構成態様の他に、「基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/発光層/電子注入層/陰極」の構成態様であってもよい。
【0147】
有機EL素子はさらに電子阻止層(電子ブロッキング層)および正孔阻止層(正孔ブロッキング層)から選択されるいずれかまたは双方を有していてもよい。電子阻止層は発光層より浅いLUMOおよび発光層または正孔輸送層と近いHOMOとを有し、発光層と正孔輸送層の間に配置される。電子が発光層内に留まり正孔輸送層へ漏れ出ないために、正孔輸送層の劣化による短寿命化と再結合効率低下による効率の低下を防ぐことができる。正孔阻止層は発光層より深いHOMOおよび発光層または正孔輸送層と近いLUMOとを有し、発光層と電子輸送層の間に配置される。正孔が発光層内に留まり電子輸送層へ漏れ出ないために、電子輸送層の劣化による短寿命化と再結合効率低下による効率の低下を防ぐことができる。正孔注入・輸送層が電子阻止層を兼ねていてもよい。電子注入・輸送層が正孔阻止層を兼ねていてもよい。
【0148】
有機EL素子はさらに高T1層を有していてもよい。高T1層は、発光層に用いられるホスト化合物、アシスティングドーパント化合物またはエミッティングドーパント化合物より高いT1を有し、発光層と正孔輸送層の間および/または発光層と電子阻止層の間に配置される。T1エネルギーの値は素子の発光機構により異なるが、ホストに用いられる化合物より高いT1を有する。発光層の周囲に高T1層を有することで、三重項エネルギーを閉じ込め、通常蛍光分子では発光につながらない三重項エネルギーを一重項エネルギーへと変換し、高い効率を得ることができる。正孔注入・輸送層または電子阻止層が高T1層を兼ねていてもよい。電子注入・輸送層または正孔阻止層が高T1層を兼ねていてもよい。
【0149】
本発明の多環芳香族化合物は、発光層形成用材料または電子輸送層形成用材料として用いることが好ましく、発光層形成用材料として用いることがより好ましい。
【0150】
2-1-2.有機電界発光素子における基板
基板101は、有機EL素子100の支持体であり、通常、石英、ガラス、金属、プラスチックなどが用いられる。基板101は、目的に応じて板状、フィルム状、またはシート状に形成され、例えば、ガラス板、金属板、金属箔、プラスチックフィルム、プラスチックシートなどが用いられる。なかでも、ガラス板、および、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂製の板が好ましい。ガラス基板であれば、ソーダライムガラスや無アルカリガラスなどが用いられ、また、厚みも機械的強度を保つのに十分な厚みがあればよい。また、基板101には、ガスバリア性を高めるために、少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜などのガスバリア膜を設けてもよく、特にガスバリア性が低い合成樹脂製の板、フィルムまたはシートを基板101として用いる場合にはガスバリア膜を設けるのが好ましい。
【0151】
2-1-3.有機電界発光素子における陽極
陽極102は、発光層105へ正孔を注入する役割を果たす。なお、陽極102と発光層105との間に正孔注入層103および正孔輸送層104の少なくとも1つの層が設けられている場合には、これらを介して発光層105へ正孔を注入することになる。
【0152】
陽極102を形成する材料としては、無機化合物および有機化合物があげられる。無機化合物としては、例えば、金属(アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、クロムなど)、金属酸化物(インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウム-スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)など)、ハロゲン化金属(ヨウ化銅など)、硫化銅、カーボンブラック、ITOガラスやネサガラスなどがあげられる。有機化合物としては、例えば、ポリ(3-メチルチオフェン)などのポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどがあげられる。その他、有機EL素子の陽極として用いられている物質の中から適宜選択して用いることができる。
【0153】
2-1-4.有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層
正孔注入層103は、陽極102から移動してくる正孔を、効率よく発光層105内または正孔輸送層104内に注入する役割を果たす。正孔輸送層104は、陽極102から注入された正孔または陽極102から正孔注入層103を介して注入された正孔を、効率よく発光層105に輸送する役割を果たす。正孔注入層103および正孔輸送層104は、それぞれ、正孔注入・輸送材料の一種または二種以上を積層または混合により形成される。また、正孔注入・輸送材料に塩化鉄(III)のような無機塩を添加して層を形成してもよい。
【0154】
正孔注入・輸送性物質としては電界を与えられた電極間において正極からの正孔を効率よく注入・輸送することが必要で、正孔注入効率が高く、注入された正孔を効率よく輸送することが望ましい。そのためにはイオン化ポテンシャルが小さく、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが好ましい。
【0155】
正孔注入層103および正孔輸送層104を形成する材料としては、光導電材料において、正孔の電荷輸送材料として従来から慣用されている化合物、p型半導体、有機EL素子の正孔注入層および正孔輸送層に使用されている公知の化合物の中から任意の化合物を選択して用いることができる。それらの具体例は、カルバゾール誘導体(N-フェニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾールなど)、ビス(N-アリールカルバゾール)またはビス(N-アルキルカルバゾール)などのビスカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体(芳香族第3級アミノを主鎖または側鎖に持つポリマー、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ(3-メチルフェニル)-4,4'-ジアミノビフェニル、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジナフチル-4,4'-ジアミノビフェニル、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ(3-メチルフェニル)-4,4'-ジフェニル-1,1'-ジアミン、N,N'-ジナフチル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジフェニル-1,1'-ジアミン、N4,N4'-ジフェニル-N4,N4'-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-[1,1'-ビフェニル]-4,4'-ジアミン、N4,N4,N4',N4'-テトラ[1,1'-ビフェニル]-4-イル)-[1,1'-ビフェニル]-4,4'-ジアミン、4,4',4"-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミンなどのトリフェニルアミン誘導体、スターバーストアミン誘導体など)、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体(無金属、銅フタロシアニンなど)、ピラゾリン誘導体、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体やチオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、キノキサリン誘導体(例えば、1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリルなど)、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、ポリシランなどである。ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが好ましいが、発光素子の作製に必要な薄膜を形成し、陽極から正孔が注入できて、さらに正孔を輸送できる化合物であれば特に限定されない。
【0156】
また、有機半導体の導電性は、そのドーピングにより、強い影響を受けることも知られている。このような有機半導体マトリックス物質は、電子供与性の良好な化合物、または、電子受容性の良好な化合物から構成されている。電子供与物質のドーピングのために、テトラシアノキノンジメタン(TCNQ)または2,3,5,6-テトラフルオロテトラシアノ-1,4-ベンゾキノンジメタン(F4TCNQ)などの強い電子受容体が知られている(例えば、文献「M.Pfeiffer,A.Beyer,T.Fritz,K.Leo,Appl.Phys.Lett.,73(22),3202-3204(1998)」および文献「J.Blochwitz,M.Pfeiffer,T.Fritz,K.Leo,Appl.Phys.Lett.,73(6),729-731(1998)」を参照)。これらは、電子供与型ベース物質(正孔輸送物質)における電子移動プロセスによって、いわゆる正孔を生成する。正孔の数および移動度によって、ベース物質の伝導性が、かなり大きく変化する。正孔輸送特性を有するマトリックス物質としては、例えばベンジジン誘導体(TPDなど)またはスターバーストアミン誘導体(TDATAなど)、または、特定の金属フタロシアニン(特に、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)など)が知られている(特開2005-167175号公報)。
【0157】
上述した正孔注入層用材料および正孔輸送層用材料は、これらに反応性置換基が置換した反応性化合物をモノマーとして高分子化させた高分子化合物、もしくはその高分子架橋体、または、主鎖型高分子と前記反応性化合物とを反応させたペンダント型高分子化合物、もしくはそのペンダント型高分子架橋体としても、正孔層用材料に用いることができる。
【0158】
2-1-5.有機電界発光素子における発光層
発光層105は、電界を与えられた電極間において、陽極102から注入された正孔と、陰極108から注入された電子とを再結合させることにより発光する層である。発光層105を形成する材料としては、正孔と電子との再結合によって励起されて発光する化合物(発光性化合物)であればよく、安定な薄膜形状を形成することができ、かつ、固体状態で強い発光(蛍光)効率を示す化合物であることが好ましい。
【0159】
発光層は単一層でも複数層からなってもどちらでもよく、それぞれ発光層用材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成される。ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれであってもよい。ドーピング方法としては、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。
【0160】
ホスト材料の使用量はホスト材料の種類によって異なり、そのホスト材料の特性に合わせて決めればよい。ホスト材料の使用量の目安は、好ましくは発光層用材料全質量の50~99.999質量%であり、より好ましくは80~99.95質量%であり、さらに好ましくは90~99.9質量%である。ホスト材料が、正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料との組み合わせである場合は、ホスト材料の使用量は正孔輸送性ホスト材料の使用量と電子輸送性ホスト材料の使用量とを合わせた質量である。正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料との使用量の比は質量比で1:9~9:1であればよく、4:6~6:4であることが好ましく、略1:1であることがより好ましい。
【0161】
ドーパント材料の使用量はドーパント材料の種類によって異なり、そのドーパント材料の特性に合わせて決めればよい。ドーパントの使用量の目安は、好ましくは発光層用材料全質量の0.001~50質量%であり、より好ましくは0.05~20質量%であり、さらに好ましくは0.1~10質量%である。上記の範囲であれば、例えば、濃度消光現象を防止できるという点で好ましい。
【0162】
ドーパント材料としては、エミッティングドーパントとアシスティングドーパントとを用いてもよい。アシスティングドーパント材料としては熱活性型遅延蛍光材料を好ましく用いることができる。アシスティングドーパント材料を用いた有機電界発光素子においては、エミッティングドーパント材料の使用量は低濃度である方が濃度消光現象を防止できるという点で好ましい。アシスティングドーパント材料の使用量が高濃度である方が熱活性型遅延蛍光機構の効率の点からは好ましい。さらには、熱活性型遅延蛍光アシスティングドーパント材料を用いた有機電界発光素子においては、アシスティングドーパント材料の熱活性型遅延蛍光機構の効率の点からは、アシスティングドーパント材料の使用量に比べてエミッティングドーパント材料の使用量が低濃度である方が好ましい。
【0163】
アシスティングドーパント材料が使用される場合における、ホスト材料、アシスティングドーパント材料およびエミッティングドーパント材料の使用量の目安は、それぞれ、発光層用材料全質量に対し40~99質量%、59~1質量%および20~0.001質量%であり、好ましくは、それぞれ、60~95質量%、39~5質量%および10~0.01質量%であり、より好ましくは、70~90質量%、29~10質量%および5~0.05質量%である。
【0164】
式(1)で表される本発明の多環芳香族化合物は、発光層を形成する材料として用いられることがより好ましく、ホストまたはドーパントとして用いられることがより好ましく、ホストまたはアシスティングドーパントとして用いられることがより好ましく、アシスティングドーパントとして用いられることがさらに好ましい。
【0165】
<熱活性型遅延蛍光体>
式(1)で表される多環芳香族化合物は「熱活性型遅延蛍光(TADF)体」として、発光層を形成する材料に用いることができる。
「熱活性型遅延蛍光体」とは、熱エネルギーを吸収して最低励起三重項状態から最低励起一重項状態への逆項間交差を起こし、その最低励起一重項状態から放射失活して遅延蛍光を放射しうる化合物のことを意味する。ただし、「熱活性型遅延蛍光」とは、最低励起三重項状態から最低励起一重項状態への励起過程で高次三重項を経るものも含む。「熱活性型遅延蛍光」については、例えば、Durham大学 Monkmanらによる論文(NATURE COMMUNICATIONS,7:13680,DOI: 10.1038/ncomms13680)、産業技術総合研究所 細貝らによる論文(Hosokai et al., Sci. Adv. 2017;3: e1603282)、京都大学 佐藤らによる論文(Scientific Reports,7:4820, DOI:10.1038/s41598-017-05007-7)、同じく京都大学 佐藤らによる学会発表(日本化学会第98春季年会、発表番号:2I4-15、DABNAを発光分子として用いた有機電界発光における高効率発光の機構、京都大学大学院工学研究科)、Buiらによるレビュー(DOI:10.3762/bjoc.14.18)、Duanらによるレビュー(DOI:10.1063/1.5143501)、Dingらによるレビュー(DOI:10.1088/1674-4926/42/5/050201)およびXieらによるレビュー(DOI: 10.1002/adom.202002204)などが参照できる。
【0166】
「熱活性型遅延蛍光体」では、最低励起一重項状態と最低励起三重項状態とのエネルギー差を小さくすることで、通常は遷移確率が低い最低励起三重項状態から最低励起一重項状態への逆項間交差移動を高効率で生じさせ、一重項からの発光(熱活性型遅延蛍光、TADF)が発現する。通常の蛍光発光では電流励起により生じた75%の三重項励起子は熱失活経路を通るため蛍光として取りだすことはできない。一方、TADFでは全ての励起子を蛍光発光に利用することができ、高効率な有機EL素子が実現できる。
【0167】
本明細書では、対象化合物を含むサンプルについて、300Kで蛍光寿命を測定したとき、遅い蛍光成分が観測されたことをもって該対象化合物が「熱活性型遅延蛍光体」であると判定することとする。ここで、遅い蛍光成分とは、蛍光寿命が0.1μsec以上であるもののことを言う。蛍光寿命の測定は、例えば蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社製、C11367-01)を用いて行うことができる。
【0168】
<アシスティングドーパント(熱活性型遅延蛍光体またはりん光材料)>
発光層は、エミッティングドーパントおよびホスト材料とともにアシスティングドーパントを含んでいることも好ましい。アシスティングドーパントとしては熱活性型遅延蛍光体またはりん光材料が好ましい。
本態様において、本発明の多環芳香族化合物は、ホストまたはアシスティングドーパントとして用いられることが好ましい。
【0169】
本態様において、「ホスト化合物」としては、蛍光スペクトルのピーク短波長側の肩より求められる最低励起一重項エネルギー準位が、アシスティングドーパントとしての熱活性型遅延蛍光体、および、エミッティングドーパントよりも高い化合物を用いればよい。
本態様において、ホスト化合物としては、公知のものを用いることができ、例えばカルバゾール環およびフラン環の少なくとも一方を有する化合物をあげることができ、中でも、フラニルおよびカルバゾリルの少なくとも一方と、アリーレンおよびヘテロアリーレンの少なくとも一方とが結合した化合物を用いることが好ましい。具体例として、式(H1)、(H2)および(H3)のいずれかで表される化合物、特にmCPやmCBP、化合物HH-1-115およびEH-1-99などがあげられる。また、ホスト化合物にTADF活性な化合物を用いてもよい。本態様においては、ホストとして正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料との組み合わせを用いることも好ましい。
【0170】
ホスト化合物の燐光スペクトルのピーク短波長側の肩より求められる最低励起三重項エネルギー準位E(1,T,Sh)は、発光層内でのTADFの発生を阻害せず促進させる観点から、発光層内において最も高い最低励起三重項エネルギー準位を有するエミッティングドーパントまたはアシスティングドーパントの最低励起三重項エネルギー準位E(2,T,Sh)、E(3,T,Sh)に比べて高いことが好ましく、具体的には、ホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位E(1,T,Sh)はE(2,T,Sh)、E(3,T,Sh)に比べて、0.01eV以上高いことが好ましく、0.03eV以上高いことがより好ましく、0.1eV以上高いことがさらに好ましい。また、ホスト化合物にTADF活性な化合物を用いてもよい。
【0171】
また、TAF素子における発光層のアシスティングドーパントとして用いる化合物としては、その発光スペクトルがエミッティングドーパントの吸収ピークと少なくとも一部重なる化合物を選択することが好ましい。
【0172】
[アシスティングドーパント(熱活性型遅延蛍光体)]
本発明の多環芳香族化合物は、エミッティングドーパントの発光をアシストするアシスティングドーパントとして、特にTAF素子アシスティングドーパントとして、特に好ましく用いることができる。本明細書では、「TAF素子」(TADF Assisting Fluorescence素子)は熱活性型遅延蛍光体をアシスティングドーパントとして用いる有機電界発光素子を意味する。
【0173】
TAF素子で用いる熱活性型遅延蛍光体(TADF化合物)は、ドナーと呼ばれる電子供与性の置換基とアクセプターと呼ばれる電子受容性の置換基を用いて分子内のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)を局在化させて、効率的な逆項間交差(reverse intersystem crossing)が起きるようにデザインされた、ドナー-アクセプター型熱活性型遅延蛍光体(D-A型TADF化合物)であることが好ましい。本発明の好ましい態様にかかる式(1)で表される多環芳香族化合物は、式(D1)で表される構造における主骨格(Arを除いた部分)がドナーおよびA環、B環、およびC環を含む少なくとも5環からなる縮合環構造部分(ジオキサボラナフトアントラセン構造等)がアクセプターとして機能するD-A型TADF化合物である。
【0174】
一般的に、ドナーやアクセプターを用いた熱活性型遅延蛍光体は、構造に起因してスピン軌道結合(SOC: Spin Orbit Coupling)が大きく、かつ、HOMOとLUMOの交換相互作用が小さくΔES1T1が小さいために、非常に速い逆項間交差速度が得られる。一方、ドナーやアクセプターを用いた熱活性型遅延蛍光体は、励起状態での構造緩和が大きくなり(ある分子においては、基底状態と励起状態では安定構造が異なるため、外部刺激により基底状態から励起状態への変換が起きると、その後、励起状態における安定構造へと構造が変化する)、幅広な発光スペクトルを与えるため、発光材料として使うと色純度を低下させる可能性がある。
【0175】
しかし、エミッティングドーパントとともに、TADF化合物をアシスティングドーパントとして使用することにより、高い色純度を与えることができる。式(1)で表される多環芳香族化合物はこのときのTADF化合物として好ましく用いることができる。エミッティングドーパントはTADF化合物の発光スペクトルがエミッティングドーパントの吸収スペクトルと少なくとも一部重なるように選択すればよい。TADF化合物とエミッティングドーパントとはいずれも同じ層に含まれていてもよく、隣接する層に含まれていてもよい。
【0176】
図2に一般的な蛍光ドーパントをエミッティングドーパント(ED)に用いたTAF素子の発光層のエネルギー準位図を示す。図中、ホストの基底状態のエネルギー準位をE(1,G)、ホストの蛍光スペクトルの短波長側の肩より求められる最低励起一重項エネルギー準位をE(1,S,Sh)、ホストのリン光スペクトルの短波長側の肩より求められる最低励起三重項エネルギー準位をE(1,T,Sh)、アシスティングドーパントの基底状態のエネルギー準位をE(2,G)、アシスティングドーパントの蛍光スペクトルの短波長側の肩より求められる最低励起一重項エネルギー準位をE(2,S,Sh)、アシスティングドーパントのリン光スペクトルの短波長側の肩より求められる最低励起三重項エネルギー準位をE(2,T,Sh)、エミッティングドーパントの基底状態のエネルギー準位をE(3,G)、エミッティングドーパントの蛍光スペクトルの短波長側の肩より求められる最低励起一重項エネルギー準位をE(3,S,Sh)、エミッティングドーパントのリン光スペクトルの短波長側の肩より求められる最低励起三重項エネルギー準位をE(3,T,Sh)、正孔をh+、電子をe-、蛍光共鳴エネルギー移動をFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)とする。TAF素子において、一般的な蛍光ドーパントをエミッティングドーパント(ED)として用いた場合、アシスティングドーパントでアップコンバージョンされたエネルギーはエミッティングドーパントの最低励起一重項エネルギー準位E(3,S,Sh)に移り発光する。しかし、アシスティングドーパント上の一部の励起子が最低励起三重項エネルギー準位E(2,T,Sh)からエミッティングドーパントの最低励起三重項エネルギー準位E(3,T,Sh)に移動したり、エミッティングドーパント上で最低励起一重項エネルギー準位E(3,S,Sh)から最低励起三重項エネルギー準位E(3,T,Sh)への項間交差が起こり、引き続いて基底状態E(3,G)へ熱的に失活する。この経路により一部のエネルギーは発光に利用されず、エネルギーの無駄が生じる。
【0177】
これに対して、TADF化合物、特に本発明の好ましい態様の多環芳香族化合物をアシスティングドーパントとして用いる態様の有機電界発光素子では、アシスティングドーパントからエミッティングドーパントに移動したエネルギーを効率よく発光に利用することができ、これにより高い発光効率を実現することができる。これは、以下の発光メカニズムによるものと推測される。
【0178】
本態様の有機電界発光素子における好ましいエネルギー関係を
図3に示す。本態様の有機電界発光素子においては、エミッティングドーパントとしての、ホウ素原子を有する化合物が高い最低励起三重項エネルギー準位E(3,T,Sh)を有する。そのため、アシスティングドーパントでアップコンバージョンされた最低励起一重項エネルギーが、例え、エミッティングドーパントで最低励起三重項エネルギー準位E(3,T,Sh)へ項間交差した場合にも、エミッティングドーパント上でアップコンバージョンされるか、アシスティングドーパント(熱活性型遅延蛍光体)上の最低励起三重項エネルギー準位E(2,T,Sh)へ回収される。したがって、生成した励起エネルギーを無駄なく発光に使用することができる。また、アップコンバージョンおよび発光の機能をそれぞれが得意な2種の分子に分けることで、高いエネルギーの滞留時間が減少し、化合物への負担が減少すると予想される。
【0179】
[アシスティングドーパント(りん光材料)]
発光層においては、ドーパントとしてりん光材料を用いてもよい。特に本発明の多環芳香族化合物をホストとする発光層において、りん光材料を好ましくはエミッティングドーパントまたはアシスティングドーパントとして、より好ましくはアシスティングドーパントとして使用することができる。本明細書において、りん光材料をアシスティングドーパントとして用いる有機電界発光素子をりん光アシスト素子:りん光増感蛍光(phosphor-sensitized fluorescent)素子、PSF素子ということがある。
【0180】
りん光材料は金属原子による分子内スピン-軌道相互作用(重原子効果)を利用し、励起三重項状態からの発光を得る。このようなりん光材料としては、例えば、発光性金属錯体を用いることができる。発光性金属錯体としては、例えば下記式(B-1)および下記式(B-2)で表される化合物があげられる。
【0181】
【0182】
式(B-1)において、Mは、Ir、Pt、Au、Eu、Ru、Re、AgおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは1~3の整数であり、「X-Y」はそれぞれ独立して二座の配位子である。
式(B-2)において、Mは、Pt、ReおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種であり、「W-X-Y-Z」は四座の配位子である。
式(B-1)において、効率と寿命の観点から、MはIrが好ましく、nは3が好ましい。
式(B-2)において、効率と寿命の観点からMはPtが好ましい。
式(B-1)における配位子(X-Y)は、以下からなる群から選択された少なくとも1つの配位子を有する。式(B-2)における配位子(W-X-Y-Z)は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの配位子を一部として有する。
【0183】
【0184】
式中、
---において中心金属Mと結合し、
Yは、それぞれ独立して、BRe、NRe、PRe、O、S、Se、C=O、S=O、SO2、CReRf、SiReRf、またはGeReRfであり
環における芳香族炭素C-Hは、それぞれ独立して、Nに置換されてもよく、
ReおよびRfは、任意に縮合または結合して環を形成してもよく、
Ra、Rb、Rc、およびRdは、それぞれ独立して、無置換または1~置換可能な最大数まで置換してもよく、
Ra、Rb、Rc、Rd、Re、およびRfが、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン化物、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、または、これらの組み合わせであり、
ただし、Ra、Rb、Rc、およびRdにおける任意の2つの隣接する置換基が縮合または結合して環を形成するか、または多座リガンドを形成してもよい。
【0185】
式(B-1)で表される化合物としては、例えば、Ir(ppy)3、Ir(ppy)2(acac)、Ir(mppy)3、Ir(PPy)2(m-bppy)、BtpIr(acac)、Ir(btp)2(acac)、Ir(2-phq)3、Hex-Ir(phq)3、Ir(fbi)2(acac)、fac-Tris(2-(3-p-xylyl)phenyl)pyridine iridium(III)、Eu(dbm)3(Phen)、Ir(piq)3、Ir(piq)2(acac)、Ir(Fliq)2(acac)、Ir(Flq)2(acac)、Ru(dtb-bpy)3・2(PF6)、Ir(2-phq)3、Ir(BT)2(acac)、Ir(DMP)3、Ir(Mphq)3IR(phq)2tpy、fac-Ir(ppy)2Pc、Ir(dp)PQ2、Ir(Dpm)(Piq)2、Hex-Ir(piq)2(acac)、Hex-Ir(piq)3、Ir(dmpq)3、Ir(dmpq)2(acac)、FPQIrpicなどがあげられる。
【0186】
式(B-1)で表される化合物としては、他には、例えば以下の化合物があげられる。
【化29】
【0187】
【0188】
【0189】
また、特開2006-089398号公報、特開2006-080419号公報、特開2005-298483号公報、特開2005-097263号公報、および特開2004-111379号公報、米国特許出願公開第2019/0051845号明細書などに記載されたイリジウム錯体、または、Advanced Materials, 26: 7116-7121、NPG Asia Materials 13, 53 (2021)、Applied Physics Letters, 117, 253301 (2020)、Light-Emitting Diode - An Outlook On the Empirical Features and Its Recent Technological Advancements, Chapter 5に記載された白金錯体を用いてもよい。
【0190】
<ドーパント材料(エミッティングドーパント)>
ドーパント材料としては、既知の化合物を用いることができ、所望の発光色に応じて様々な材料の中から選択することができる。具体的には、例えば、フェナントレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、ペンタセン、ペリレン、ナフトピレン、ジベンゾピレン、ルブレンおよびクリセンなどの縮合環誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン誘導体、チオフェン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体(特開平1-245087号公報)、ビススチリルアリーレン誘導体(特開平2-247278号公報)、ジアザインダセン誘導体、フラン誘導体、ベンゾフラン誘導体、フェニルイソベンゾフラン、ジメシチルイソベンゾフラン、ジ(2-メチルフェニル)イソベンゾフラン、ジ(2-トリフルオロメチルフェニル)イソベンゾフラン、フェニルイソベンゾフランなどのイソベンゾフラン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、7-ジアルキルアミノクマリン誘導体、7-ピペリジノクマリン誘導体、7-ヒドロキシクマリン誘導体、7-メトキシクマリン誘導体、7-アセトキシクマリン誘導体、3-ベンゾチアゾリルクマリン誘導体、3-ベンゾイミダゾリルクマリン誘導体、3-ベンゾオキサゾリルクマリン誘導体などのクマリン誘導体、ジシアノメチレンピラン誘導体、ジシアノメチレンチオピラン誘導体、ポリメチン誘導体、シアニン誘導体、オキソベンゾアントラセン誘導体、キサンテン誘導体、ローダミン誘導体、フルオレセイン誘導体、ピリリウム誘導体、カルボスチリル誘導体、アクリジン誘導体、オキサジン誘導体、フェニレンオキサイド誘導体、キナクリドン誘導体、キナゾリン誘導体、ピロロピリジン誘導体、フロピリジン誘導体、1,2,5-チアジアゾロピレン誘導体、ピロメテン誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、スクアリリウム誘導体、ビオラントロン誘導体、フェナジン誘導体、アクリドン誘導体、デアザフラビン誘導体、フルオレン誘導体およびベンゾフルオレン誘導体などがあげられる。
【0191】
ドーパント材料としては、国際公開第2015/102118号、国際公開第2020/162600号、特開2021-077890号公報の段落0097~0269等に記載のホウ素を含む多環芳香族化合物を用いることも好ましい。特にこれらの多環芳香族化合物をエミッティングドーパントとして用いるとともに、本発明の多環芳香族化合物をアシスティングドーパントとして用いることが好ましい。
【0192】
ドーパント材料として使用されるホウ素を含む多環芳香族化合物の好ましい例として、下記式(12)、式(13)または式(14)で表される化合物をあげることができる。
【化32】
【0193】
A環、B環、C環およびD環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
YはB(ホウ素)であり、
X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>S、または>Seであり、前記>N-RのRは、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリールまたは置換もしくは無置換のアルキルであり、また、前記>N-RのRは連結基または単結合により前記A環、B環、C環および/またはD環と結合していてもよく、
R1およびR2は、それぞれ独立して、水素、シアノ、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリール、またはジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)であり、
Z1およびZ2は、それぞれ独立して、置換基群Zより選択されるいずれかの置換基であり、Z1は連結基または単結合で前記A環と結合してもよく、Z2は連結基または単結合で前記C環と結合してもよく、そして、
式(12)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置き換えられていてもよい。
【0194】
式(12)のA環、B環、C環およびD環における、アリール環またはヘテロアリール環が置換されているときの置換基およびZ1、Z2としては置換基群Zαより選択される置換基があげられる。好ましい置換基については後述の記載を参照できる。
【0195】
式(12)におけるX1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>Sまたは>Seであり、前記>N-RのRは、それぞれ独立して、炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリール、炭素数3~12のシクロアルキルまたは炭素数1~6のアルキルである。
式(12)で表される化合物においては、高いTADF性の観点から、Z1およびZ2が置換基を有してもよいジフェニルアミノまたは置換基を有してもよいN-カルバゾリルであることが好ましく、置換基を有してもよいジフェニルアミノであることがより好ましい。置換基を有してもよいジフェニルアミノとしては、無置換のジフェニルアミノまたは少なくとも一つの炭素数1~4のアルキルを有するジフェニルアミノであることが好ましく、無置換のジフェニルアミノまたはNに対してm位またはo位に少なくとも一つメチルを有するジフェニルアミノがより好ましい。合成の容易さおよび発光波長の観点から、A環、B環、C環およびD環におけるアリール環またはヘテロアリール環はZ1およびZ2以外は置換基を有していないか、炭素数1~6のアルキルのみをその他の置換基として有していることが好ましく、Z1およびZ2以外は置換基を有していないことがより好ましい。
式(12)で表される化合物の例を以下に示す。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
式(13)および式(14)中、
A11環、A21環、A31環、B11環、B21環、C11環、およびC31環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
Y11、Y21、Y31はB(ホウ素)であり、
X11、X12、X21、X22、X31、およびX32は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>Sまたは>Seであり、前記>N-RのRは、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリールまたは置換もしくは無置換のアルキルであり、また、前記>N-RのRは連結基または単結合によりA11環、A21環、A31環、B11環、B21環、C11環、および/またはC31環と結合していてもよく、
式(13)および式(14)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置き換えられていてもよい。
【0201】
式(13)および式(14)のA11環、A21環、A31環、B11環、B21環、C11環、およびC31環における、アリール環またはヘテロアリール環が置換されているときの置換基およびZ1、Z2としては、置換基群Zαより選択される置換基があげられる。好ましい置換基については後述の記載を参照できる。
【0202】
式(13)および式(14)におけるX11、X12、X21、X22、X31、およびX32は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>Sまたは>Seであり、前記>N-RのRは、それぞれ独立して、炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリール、炭素数3~12のシクロアルキルまたは炭素数1~6のアルキルである。
【0203】
式(13)または式(14)で表される化合物の例を以下に示す。
【化37】
【0204】
【0205】
<好ましい置換基>
ドーパントとして用いられる化合物においては、「アルキル」を含む置換基として、下記式(tR)で表されるターシャリ-アルキルは、特に好ましいものの1つである。このような嵩高い置換基により分子間距離が増加するため発光量子収率(PLQY)が向上するからである。また、式(tR)で表されるターシャリ-アルキルが第2の置換基として他の置換基に置換している置換基も好ましい。具体的には、(tR)で表されるターシャリ-アルキルで置換されたジアリールアミノ、(tR)で表されるターシャリ-アルキルで置換されたカルバゾリル(好ましくは、N-カルバゾリル)または(tR)で表されるターシャリ-アルキルで置換されたベンゾカルバゾリル(好ましくは、N-ベンゾカルバゾリル)があげられる。ジアリールアミノ、カルバゾリルおよびベンゾカルバゾリルへの式(tR)の基の置換形態としては、これらの基におけるアリール環またはベンゼン環の一部または全ての水素が式(tR)の基で置き換えられた例があげられる。
【0206】
【0207】
式(tR)中、Ra、Rb、およびRcはそれぞれ独立して炭素数1~24のアルキルであり、前記アルキルにおける任意の-CH2-は-O-で置換されていてもよく、式(tR)で表される基は*を結合位置とする。
【0208】
Ra、RbおよびRcの「炭素数1~24のアルキル」としては、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数1~24の直鎖アルキルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルキル、炭素数1~18のアルキル(炭素数3~18の分岐鎖アルキル)、炭素数1~12のアルキル(炭素数3~12の分岐鎖アルキル)、炭素数1~6のアルキル(炭素数3~6の分岐鎖アルキル)、炭素数1~4のアルキル(炭素数3~4の分岐鎖アルキル)があげられる。
【0209】
式(tR)におけるRa、Rb、およびRcの炭素数の合計は炭素数3~20が好ましく、炭素数3~10が特に好ましい。
【0210】
Ra、Rb、およびRcの具体的なアルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、n-オクチル、t-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチル-4-ヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-デシル、n-ウンデシル、1-メチルデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、1-ヘキシルヘプチル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-エイコシルなどがあげられる。
【0211】
式(tR)で表される基としては、例えばt-ブチル、t-アミル、1-エチル-1-メチルプロピル、1,1-ジエチルプロピル、1,1-ジメチルブチル、1-エチル-1-メチルブチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、1,1,4-トリメチルペンチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,1-ジメチルオクチル、1,1-ジメチルペンチル、1,1-ジメチルヘプチル、1,1,5-トリメチルヘキシル、1-エチル-1-メチルヘキシル、1-エチル-1,3-ジメチルブチル、1,1,2,2-テトラメチルプロピル、1-ブチル-1-メチルペンチル、1,1-ジエチルブチル、1-エチル-1-メチルペンチル、1,1,3-トリメチルブチル、1-プロピル-1-メチルペンチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1-エチル-1,2,2-トリメチルプロピル、1-プロピル-1-メチルブチル、1,1-ジメチルヘキシルなどがあげられる。これらのうち、t-ブチルおよびt-アミルが好ましい。
【0212】
置換基としては式(A30)で表される置換基も好ましい。
【0213】
ドーパント(アシスティングドーパントまたはエミッティングドーパント)として用いられる化合物が有する置換基の構造の立体障害性、電子供与性および電子求引性によって、発光波長を調整することができる。好ましくは以下の構造式で表される基であり、より好ましくは、メチル、t-ブチル、t-アミル、t-オクチル、ネオペンチル、アダマンチル、フェニル、o-トリル、p-トリル、2,4-キシリル、2,5-キシリル、2,6-キシリル、2,4,6-メシチル、ジフェニルアミノ、ジ-p-トリルアミノ、ビス(p-(t-ブチル)フェニル)アミノ、カルバゾリル、3,6-ジメチルカルバゾリル、3,6-ジ-t-ブチルカルバゾリルおよびフェノキシであり、さらに好ましくは、メチル、t-ブチル、t-アミル、t-オクチル、ネオペンチル、アダマンチル、フェニル、o-トリル、2,6-キシリル、2,4,6-メシチル、ジフェニルアミノ、ジ-p-トリルアミノ、ビス(p-(t-ブチル)フェニル)アミノ、カルバゾリル、3,6-ジメチルカルバゾリルおよび3,6-ジ-t-ブチルカルバゾリルである。合成の容易さの観点からは、立体障害が大きい方が選択的な合成のために好ましく、具体的には、t-ブチル、t-アミル、t-オクチル、アダマンチル、o-トリル、p-トリル、2,4-キシリル、2,5-キシリル、2,6-キシリル、2,4,6-メシチル、ジ-p-トリルアミノ、ビス(p-(t-ブチル)フェニル)アミノ、3,6-ジメチルカルバゾリルおよび3,6-ジ-t-ブチルカルバゾリルが好ましい。
【0214】
下記構造式において、*は結合位置を表す。
【化40】
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
【0225】
【0226】
【0227】
【0228】
ドーパントとして用いられる多環芳香族化合物は、上述の式(tR)で表されるターシャリ-アルキル(t-ブチルあるいはt-アミルなど)、ネオペンチルまたはアダマンチルを少なくとも1つ含む構造であることが好ましく、式(tR)で表されるターシャリ-アルキル(t-ブチルあるいはt-アミルなど)を含むことが好ましい。このような嵩高い置換基により分子間距離が増加するため発光量子収率(PLQY)が向上するからである。また、置換基としては、ジアリールアミノも好ましい。さらに、式(tR)の基で置換されたジアリールアミノ、式(tR)の基で置換されたカルバゾリル(好ましくは、N-カルバゾリル)または式(tR)の基で置換されたベンゾカルバゾリル(好ましくは、N-ベンゾカルバゾリル)も好ましい。ジアリールアミノ、カルバゾリルおよびベンゾカルバゾリルへの式(tR)の基の置換形態としては、これらの基におけるアリール環またはベンゼン環の一部または全ての水素が式(tR)の基で置換された例があげられる。
【0229】
ドーパントとして用いられる多環芳香族化合物の縮合環中のアリール環またはヘテロアリール環の置換基は以下の式(A20)で表される置換基であってもよい。
【化54】
【0230】
式(A20)で表される置換基は、2つの*でアリール環またはヘテロアリール環の環上で隣接する2つの原子にそれぞれ結合し、
式(A20)中、Lは>N-R、>O、>Si(-R)2または>Sであり、前記>N-RのRは、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、前記>Si(-R)2のRは、水素、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいアルキルまたは置換されていてもよいシクロアルキルであり、また連結基によって互いに結合していてもよく、また、前記>N-Rおよび前記>Si(-R)2のRの少なくとも1つは連結基または単結合により前記A環、B環、RXCおよびRAからなる群より選択される少なくとも1つと結合していてもよく、
rは1~4の整数であり、
RAはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、任意のRAは他の任意のRAと連結基または単結合により互いに結合していてもよい。
【0231】
上記の置換基の例としては以下のいずれかで表される置換基があげられる。
【化55】
【0232】
各式中、*で、A環、B環、C環、D環、およびE環中のいずれかのアリール環またはヘテロアリール環の環上で連続(隣接)する2つまたは3つの原子にそれぞれ結合していればよい。
【0233】
<シクロアルカン縮合>
ドーパントとして用いられる多環芳香族化合物におけるアリール環およびヘテロアリール環からなる群より選択される少なくとも1つは、少なくとも1つのシクロアルカンで縮合されていてもよい。
【0234】
シクロアルカンとしては、炭素数3~24のシクロアルカンであればよい。このときのシクロアルカンにおける少なくとも1つの水素は、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリール、炭素数1~24のアルキルまたは炭素数3~24のシクロアルキルで置換されていてもよく、当該シクロアルカンにおける少なくとも1つの-CH2-は-O-で置き換えられていてもよい。
【0235】
シクロアルカンは、炭素数3~20のシクロアルカンであって、当該シクロアルカンにおける少なくとも1つの水素が、炭素数6~16のアリール、炭素数2~22のヘテロアリール、炭素数1~12のアルキルまたは炭素数3~16のシクロアルキルで置換されていてもよいシクロアルカンであることが好ましい。
【0236】
「シクロアルカン」としては、炭素数3~24のシクロアルカン、炭素数3~20のシクロアルカン、炭素数3~16のシクロアルカン、炭素数3~14のシクロアルカン、炭素数5~10のシクロアルカン、炭素数5~8のシクロアルカン、炭素数5~6のシクロアルカン、炭素数5のシクロアルカンなどがあげられる。
【0237】
具体的なシクロアルカンとしては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、ノルボルナン(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)、ビシクロ[1.1.0]ブタン、ビシクロ[1.1.1]ペンタン、ビシクロ[2.1.0]ペンタン、ビシクロ[2.1.1]ヘキサン、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、アダマンタン、ジアマンタン、デカヒドロナフタレンおよびデカヒドロアズレン、ならびに、これらの炭素数1~5のアルキル(特にメチル)置換体、ハロゲン(特にフッ素)置換体および重水素置換体などがあげられる。
【0238】
上記の例の中でも、例えば下記構造式に示すような、シクロアルカンのα位の炭素(アリール環またはヘテロアリール環に縮合するシクロアルキルにおいて、縮合部位の炭素に隣接する位置の炭素)に少なくとも1つの置換基を有する構造が好ましく、α位の炭素に2つの置換基を有する構造がより好ましく、2つのα位の炭素がいずれも2つの置換基を有する(合計4つの置換基を有する)構造がさらに好ましい。この置換基としては、炭素数1~5のアルキル(特にメチル)、ハロゲン(特にフッ素)および重水素などがあげられる。特に、アリール環またはヘテロアリール環において隣接する炭素原子に下記式(B)で表される部分構造が結合した構造となっていることが好ましい。
【0239】
【0240】
1つのアリール環またはヘテロアリール環に縮合するシクロアルカンの数は、1~3個が好ましく、1個または2個がより好ましく、1個がさらに好ましい。例えば1つのベンゼン環(フェニル)に1個または複数のシクロアルカンが縮合した例を以下に示す。*は結合位置を示し、その位置はベンゼン環を構成しかつシクロアルカンを構成していない炭素のいずれであってもよい。式(Cy-1-4)および式(Cy-2-4)のように縮合したシクロアルカン同士が縮合してもよい。縮合される環(基)がベンゼン環(フェニル)以外の他のアリール環またはヘテロアリール環の場合であっても、縮合するシクロアルカンがシクロペンタンまたはシクロヘキサン以外の他のシクロアルカンの場合であっても、同様である。
【0241】
【0242】
シクロアルカンにおける少なくとも1つの-CH2-は-O-で置換されていてもよい。例えば1つのベンゼン環(フェニル)に縮合したシクロアルカンにおける1個または複数の-CH2-が-O-で置換された例を以下に示す。縮合される環(基)がベンゼン環(フェニル)以外の他のアリール環またはヘテロアリール環の場合であっても、縮合するシクロアルカンがシクロペンタンまたはシクロヘキサン以外の他のシクロアルカンの場合であっても、同様である。
【0243】
【0244】
シクロアルカンは少なくとも1つの置換基で置換されていてもよく、この置換基としては、置換基群Zから選択されるいずれかの置換基をあげることができる。これらの置換基の中でも、アルキル(例えば炭素数1~6のアルキル)、シクロアルキル(例えば炭素数3~14のシクロアルキル)が好ましい。また、いずれかの水素がハロゲン(例えばフッ素)または重水素で置き換えられていることも好ましい。また、シクロアルキルが置換する場合はスピロ構造を形成する置換形態でもよく、例えば1つのベンゼン環(フェニル)に縮合したシクロアルカンにスピロ構造が形成された例を以下に示す。各構造式における*は、ベンゼン環である場合には化合物の骨格構造に含まれるベンゼン環であることを意味し、フェニルである場合には化合物の骨格構造に置換する結合手を意味する。
【0245】
【0246】
なお、ドーパントとして使用する多環芳香族化合物にシクロアルカン構造を導入することによっては、融点や昇華温度のさらなる低下が期待できる。このことは、高い純度が要求される有機EL素子などの有機デバイス用の材料の精製法としてほぼ不可欠な昇華精製において、比較的低温で精製することができるため材料の熱分解などが避けられることを意味する。またこれは、有機EL素子などの有機デバイスを作製するのに有力な手段である真空蒸着プロセスについても同様であり、比較的低温でプロセスを実施できるため、材料の熱分解を避けることができ、結果として高性能な有機デバイスを得ることができる。また、シクロアルカン構造の導入により有機溶媒への溶解性が向上するため、塗布プロセスを利用した素子作製にも適用することが可能となる。ただし、本発明は特にこれらの原理に限定されるわけではない。
【0247】
<ホスト材料>
ホスト材料としては、以前から発光体として知られていたアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、フルオレン誘導体、ベンゾフルオレン誘導体、N-フェニルカルバゾール誘導体、カルバゾニトリル誘導体などがあげられる。ホスト材料としては、下記式(H1)、式(H2)または式(H3)のいずれかで表される化合物を用いることもできる。
【0248】
[式(H1)、(H2)または(H3)のいずれかで表される化合物]
ホスト材料としては、例えば、下記式(H1)、(H2)または(H3)のいずれかで表される化合物を用いることもできる。
【化60】
【0249】
式(H1)、(H2)および(H3)中、L1は、単結合、または少なくともアリーレンもしくはヘテロアリーレンを含む二価の基である。具体的には、L1は単結合であるか、または炭素数6~24のアリーレン、炭素数2~24のヘテロアリーレン、炭素数6~24のヘテロアリーレンアリーレンもしくは炭素数6~24のアリーレンヘテロアリーレンアリーレン、またはこれらのいずれか2つを-O-、-S-、-CH2-、-Si(-Arx)2-(Arxはアリール)、またはシクロアルキレンで連結して形成される二価の基であればよい。L1中のアリーレンとしては、炭素数6~16のアリーレンが好ましく、炭素数6~12のアリーレンがより好ましく、炭素数6~10のアリーレンが特に好ましく、具体的には、ベンゼン環、ビフェニル環、テルフェニル環およびフルオレン環などの二価の基があげられる。L1中のヘテロアリーレンとしては、炭素数2~24のヘテロアリーレンが好ましく、炭素数2~20のヘテロアリーレンがより好ましく、炭素数2~15のヘテロアリーレンがさらに好ましく、炭素数2~10のヘテロアリーレンが特に好ましく、具体的には、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環(フラザン環等)、チアジアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、インドリジン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、およびチアントレン環などの二価の基があげられる。上記各式で表される化合物における少なくとも1つの水素は、置換基群Zから選択される少なくとも1つの基または重水素で置換されていてもよく、例えば炭素数1~6のアルキル、シアノ、ハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。
【0250】
好ましい具体例としては、以下に列挙したいずれかの構造式で表される化合物があげられる。なお、以下に列挙した構造式においては、少なくとも1つの水素が、ハロゲン、シアノ、炭素数1~4のアルキル(例えばメチルやt-ブチル)、フェニルまたはナフチルなどで置換されていてもよい。
【0251】
【0252】
【0253】
【0254】
【0255】
ホスト材料の最低励起三重項エネルギー準位(ET1)は、発光層内でのTADFの発生を阻害せず促進させる観点から、発光層内において最も高いET1を有するドーパントまたはアシスティングドーパントのET1に比べて高いことが好ましく、具体的には、ホスト材料のET1は、上記のドーパントまたはアシスティングドーパントのET1に比べて0.01eV以上高いことが好ましく、0.03eV以上高いことがより好ましく、0.1eV以上高いことがさらに好ましい。また、ホスト材料のET1は2.70eV以上が好ましく、2.73eV以上がより好ましく、2.80eV以上が更に好ましい。
ホスト材料にTADF活性な化合物を用いてもよい。本発明の多環芳香族化合物は、りん光材料や熱活性型遅延蛍光(TADF)材料を用いた有機EL素子のホスト材料として使用することができる
【0256】
ホスト材料は、一種類であっても、複数の組み合わせであってもよい。複数の組み合わせである場合、正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料との組み合わせであることが好ましい。
【0257】
正孔輸送性ホスト材料(HH)および電子輸送性ホスト材料(EH)は、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)およびLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)について、以下の関係を満たす。
正孔輸送性ホスト材料(HH)のHOMOは電子輸送性ホスト材料(EH)のHOMOより浅く、かつ電子輸送性ホスト材料(EH)のLUMOは正孔輸送性ホスト材料(HH)のLUMOより深い。
また、エミッティングドーパントのHOMOが正孔輸送性ホスト材料(HH)のHOMOより浅いか、または、エミッティングドーパントのLUMOが電子輸送性ホスト材料(EH)のLUMOより深いことが好ましい。
【0258】
また、正孔輸送性ホスト材料(HH)および電子輸送性ホスト材料(EH)の最低励起三重項エネルギー準位(ET1)は、発光層内でのTADFの発生を阻害せず促進させる観点から、発光層内において最も高いET1を有するエミッティングドーパントまたはアシスティングドーパントのET1に比べて高いことが好ましく、具体的には、ホスト材料のET1は、上記のエミッティングドーパントまたはアシスティングドーパントのET1に比べて0.01eV以上高いことが好ましく、0.03eV以上高いことがより好ましく、0.1eV以上高いことがさらに好ましい。また、ホスト材料のET1は2.47eV以上が好ましく、2.49eV以上がより好ましく、2.56eV以上が更に好ましい。
【0259】
なお、発光層に隣接する正孔輸送層に正孔輸送性ホスト材料を用い、かつこの発光層に隣接する電子輸送層に電子輸送性ホスト材料を用いることも好ましい。発光層から隣接層へのキャリア漏れ・エネルギー漏れが起こりにくくなり、高い効率の有機EL素子が得られるからである。発光層中のホスト材料(正孔輸送性ホスト材料)と正孔輸送層材料とは同じであっても異なっていてもよい。また、発光層中のホスト材料(電子輸送性ホスト材料)と電子輸送層の材料とは同じであっても異なっていてもよい。
【0260】
[正孔輸送性ホスト材料(HH)]
好ましい正孔輸送性ホスト材料(HH)の例としては、式(HH-1)で表されるか、または式(HH-1)で表される部分構造を有し、アリール環およびヘテロアリール環からなる群より選択される少なくとも3つの環を含む構造を有する化合物をあげることができる。この化合物は、イミン構造(-N=C-;ヘテロアリール環の部分構造を含む)、ホウ素(>B-)、およびシアノ(CN)のいずれも含まないことが好ましい。
【0261】
【0262】
式(HH-1)において、
Qは、>O、>S、または、>N-AHであり、
式(HH-1)における2つのフェニルそれぞれにおけるQの結合する炭素原子の隣の1つの炭素原子は、互いに、Lで結合していてもよく、
Lは、単結合、>O、>S、または>C(-AH)2であり、
AHは、水素、アリール、またはヘテロアリールであり、>C(-AH)2における2つのAHは互いに結合していてもよい。
【0263】
正孔輸送性ホスト材料が式(HH-1)で表される構造を部分構造として含むとき、この部分構造を1つ含むものであってもよいが2つ以上含むことも好ましい。2つ以上含む場合、その2つ以上の部分構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。2つ以上の部分構造は互いに単結合で結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環を共有するようにして結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環同士が縮合するようにして結合していてもよい。部分構造はさらに、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、またはアリールオキシから選択される置換基を有していてもよい。
【0264】
上記の式(HH-1)で表されるか、または式(HH-1)で表される部分構造を有する化合物は、アリール環およびヘテロアリール環からなる群より選択される少なくとも3つの環を含む構造を有する。含まれる環の数は6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。また、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。環の数は単環としての数を意味し、縮合環については、縮合環を構成する単環を数えた数とする。
【0265】
正孔輸送性ホスト材料は、トリアリールアミン構造、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、およびフェノキサジンもしくはフェノチアジンを含む縮合多環からなる群より選択される1つ以上の部分構造を含む化合物であることが好ましい。正孔輸送性ホスト材料はこのような部分構造を1つ含むものであってもよいが2つ以上含むことも好ましい。2つ以上含む場合、その2つ以上の部分構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0266】
正孔輸送性ホスト材料の具体例としては、以下の化合物をあげることができる。
【化66】
【0267】
【0268】
【0269】
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
【0274】
【0275】
【0276】
【0277】
【0278】
【0279】
上記のうち、HH-1-1、HH-1-2、HH-1-4~HH-1-12、HH-1-17、HH-1-18、HH-1-20~HH-1-24、HH-1-82、HH-1-84~HH-1-89、HH-1-91、HH-1-92、HH-1-106~HH-1-108、およびHH-1-109~HH-1-115が好ましい。
【0280】
[電子輸送性ホスト材料(EH)]
本発明の多環芳香族化合物は、電子輸送性ホスト材料(EH)として好ましく用いることができる。
電子輸送性ホスト材料(EH)の他の例としては、式(EH-1A)~(EH-1D)で表されるか、または式(EH-1A)~(EH-1D)で表される部分構造を有し、アリール環およびヘテロアリール環からなる群より選択される少なくとも3つの環を含む構造を有する化合物をあげることができる。
【0281】
【0282】
式(EH-1A)~(EH-1D)において、
Arは、N=Cを環を構成する部分構造として含むヘテロアリール環であり、
Zは、単結合、-O-、-S-、または-N(-AE)-であり、
Zの結合する炭素原子の隣の炭素原子とZの結合するAEとは、互いにLで結合していてもよく、
Lは、単結合、>O、>Sまたは>C(-AE)2であり、
AEは、アリール、ヘテロアリール、またはトリアリールシリルであり、>C(-AE)2における2つのAEは互いに結合していてもよく、
XはC,PまたはSであり、
XがCのとき、n=2、m=1であり、
XがPのとき、n=3、m=1であり、
XがSのとき、n=2、m=1~2である。
【0283】
上記の式(EH-1A)~(EH-1D)で表されるか、または式(EH-1A)~(EH-1D)で表される部分構造を有する化合物はアリール環およびヘテロアリール環からなる群より選択される少なくとも3つの環を含む構造を有する。含まれる環の数は4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましい。また、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。環の数は単環としての数を意味し、縮合環については、縮合環を構成する単環を数えた数とする。
【0284】
電子輸送性ホスト材料が式(EH-1A)~(EH-1D)で表される構造を部分構造として含むとき、この部分構造を1つ含むものであってもよいが2つ以上含むことも好ましい。2つ以上含む場合、その2つ以上の部分構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。2つ以上の部分構造は互いに単結合で結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環を共有するようにして結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環同士が縮合するようにして結合していてもよい。部分構造はさらに、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、またはアリールオキシから選択される置換基を有していてもよい。
【0285】
電子輸送性ホスト材料の具体例としては、以下の化合物をあげることができる。
【化80】
【0286】
【0287】
【0288】
【0289】
【0290】
【0291】
【0292】
【0293】
【0294】
電子輸送性ホスト材料(式(EH-1)で表される部分構造を有する化合物)の別の好ましい例として、下記式(EH-1b)で表される多環芳香族化合物、または下記式(EH-1b)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体をあげることができる。
【化89】
【0295】
式(EH-1b)において、
R1、R2、R3、R4およびR5(以降、「R1等」ともいう)は、それぞれ独立して、水素または置換基である。この置換基は置換基群Zより選択される置換基であればよい。
式(EH-1b)において、X1およびX2は、それぞれ独立して、>N-R(アミン性窒素)、>O、>C(-R)2、>Sまたは>Seであり、X1およびX2が共に>C(-R)2になることはなく、
前記>N-Rおよび>C(-R)2におけるRは、それぞれ独立して、水素または置換基群Zより選択される置換基であり、さらに、アリール、ヘテロアリール、アルキルまたはシクロアルキル(以上、第2置換基)で置換されていてもよく、前記>N-Rおよび>C(-R)2のRはそれぞれ独立して連結基または単結合により前記a環、b環およびc環の少なくとも1つの環と結合していてもよい。
Y1、Y2、Y3、Y4、Y5およびY6(以降、「Y1等」ともいう)は、それぞれ独立して、=C(-R)-または=N-(ピリジン性窒素)であり、少なくとも1つは=N-(ピリジン性窒素)であり、
前記=C(-R)-におけるRは、それぞれ独立して、水素または置換基群Zより選択される置換基である。
前記R1、R2、R3、R4およびR5、ならびに、前記Y1~Y6としての=C(-R)-のRのうちの隣接する基同士が結合してa環、b環およびc環の少なくとも1つの環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、ジアリールボリル(2つのアリールは単結合または連結基を介して結合していてもよい)、アルキル、シクロアルキル、アルコキシまたはアリールオキシ(以上、第1置換基)で置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はさらにアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはシクロアルキル(以上、第2置換基)で置換されていてもよい。
式(EH-1b)で表される化合物および構造における少なくとも1つの水素は、シアノ、ハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。
【0296】
式(EH-1b)において、R1、R2、R3、R4およびR5はいずれも水素であるか、または、R3およびR4がいずれも水素であり、かつR1、R2およびR5からなる群より選択されるいずれか1つ以上が水素以外の置換基であり、その他が水素であることが好ましい。置換基としては、アルキル、アルキルもしくはヘテロアリールで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはアリールで置換されていてもよいヘテロアリール、またはアルキルもしくはアリールで置換されていてもよいジアリールアミノが好ましい。このとき、アルキルとしては、炭素数1~6のアルキル(メチル、t-ブチルなど)が好ましく、アリールとしてはフェニルまたはビフェニルが好ましく、ヘテロアリールとしては、トリアジニル、カルバゾリル(2-カルバゾリル、3-カルバゾリル、9-カルバゾリルなど)、ピリミジニル、ピリジニル、ジベンゾフラニルまたはジベンゾチエニルが好ましい。具体例としては、フェニル、ビフェニル、ジフェニルトリアジニル、カルバゾリルトリアジニル、モノフェニルピリミジニル、ジフェニルピリミジニル、カルバゾリルトリアジニル、ピリジニル、ジベンゾフラニルおよびジベンゾチエニルがあげられる。
【0297】
Y1等は、それぞれ独立して、=C(-R)-または=N-であり、少なくとも1つは=N-である。Y1~Y6のいずれが=N-であってもよい。好ましくは、Y1およびY6が=N-(a環がピリミジン環)、Y1またはY6が=N-(a環がピリジン環)、Y2およびY5が=N-(b環およびc環がピリジン環)、Y3およびY4が=N-(b環およびc環がピリジン環)、Y2~Y5が=N-(b環およびc環がピリミジン環)、Y1、Y3、Y4およびY6が=N-(a環がピリミジン環、b環およびc環がピリジン環)、Y1、Y2、Y5およびY6が=N-(a環がピリミジン環、b環およびc環がピリジン環)、Y1~Y6が=N-(a環、b環およびc環がピリミジン環)、Y2またはY5が=N-(b環またはc環がピリジン環)である。
【0298】
また、以上の=N-の配置関係に加えて、X
1およびX
2が>Oであることが好ましく、下記式のいずれかで表される部分構造を含む多環芳香族化合物が好ましい。
【化90】
【0299】
特に、式(EH-1b-N1)で表される部分構造を含む多環芳香族化合物は、Nがない構造と比べ、高いES1、高いET1、小さいΔES1T1を有する。
式(EH-1b)で表される多環芳香族化合物の具体例を以下に示す。
【0300】
【0301】
【0302】
【0303】
【0304】
【0305】
【0306】
上記のうち、EH-1-1~EH-1-4、EH-1-10、EH-1-21~EH-1-25、EH-1-32、EH-1-33、EH-1-51~EH-1-59、EH-1-61、EH-1-66、EH-1-68、EH-1-71、EH-1-72、EH-1-90、EH-1-94~EH-1-99、EH-1-100、EH-1-101、EH-1-104,EH-1-115、EH-1-117、EH-1-120、EH-1-122、EH-1-123、EH-1-127~EH-1-130が好ましい。
【0307】
[正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせ]
正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせは、正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料およびドーパント材料のHOMO、LUMOおよび最低励起三重項エネルギー準位(ET1)によって選択される。
HOMOおよびLUMOに関しては、正孔輸送性ホスト材料のHOMO(HH)が電子輸送性ホスト材料のHOMO(EH)より浅く、電子輸送性ホスト材料のLUMO(EH)が正孔輸送性ホスト材料のLUMO(HH)より深い組み合わせを選び、より具体的には、HOMO(HH)がHOMO(EH)より0.10eV以上浅く、LUMO(HH)がHOMO(EH)より0.10eV以上深い組み合わせが好ましく、HOMO(HH)がHOMO(EH)より0.20eV以上浅く、LUMO(HH)がHOMO(EH)より0.20eV以上深い組み合わせがより好ましく、HOMO(HH)がHOMO(EH)より0.25eV以上浅く、LUMO(HH)がHOMO(EH)より0.25eV以上深い組み合わせがさらに好ましい。
【0308】
正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料はエキサイプレックス(exciplex)と呼ばれる会合体を形成する組み合わせであってもよい。エキサイプレックスは、比較的深いLUMO準位をもつ材料と、浅いHOMO準位をもつ材料間との間で形成しやすいことが一般に知られている。正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の相互作用、具体的にはエキサイプレックスを形成しているか否かは、正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料のみからなる単層膜を発光層の形成条件と同様にして形成して発光スペクトル(蛍光、りん光スペクトル)を測定し、得られた発光スペクトルを、正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料それぞれが単独で示す発光スペクトルとを比較することで判断できる。正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料を含む混合膜のスペクトルが、正孔輸送性ホスト材料の膜のスペクトル、および電子輸送性ホスト材料の膜のスペクトルのいずれとも異なる発光波長を示すことにより判断することができる。具体的には、スペクトルのピーク波長が10nm以上異なっていることを指標にすればよい。
【0309】
エキサイプレックスを形成しない正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせの具体例としては以下の組み合わせをあげることができる。前記のHOMO、LUMOおよびET1の物性値を満たすために、正孔輸送性ホスト材料においては、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、トリアリールアミン、インドロカルバゾールおよびベンゾオキサジノフェノキサジンを部分構造として有する化合物が好ましく、カルバゾール、ジベンゾフランおよびジベンゾチオフェンを部分構造として有する化合物がより好ましく、カルバゾールを部分構造として有する化合物がさらに好ましい。同様に、電子輸送性ホスト材料においては、ピリジン、トリアジン、ホスフィンオキシド、ベンゾフロピリジンおよびジベンゾオキサシリンを部分構造として有する化合物が好ましく、トリアジン、ホスフィンオキシド、ベンゾフロピリジンおよびジベンゾオキサシリンを部分構造として有する化合物がより好ましく、トリアジンを有する化合物がさらに好ましい。
【0310】
より具体的には、正孔輸送性ホスト材料は、HH-1-1、HH-1-2、HH-1-4~HH-1-12、HH-1-17、HH-1-18、HH-1-20~HH-1-24、HH-1-82、HH-1-84~HH-1-89、HH-1-91、HH-1-92およびHH-1-106~HH-1-108からなる群より選択されることが好ましく、電子輸送性ホスト材料は、EH-1-1~EH-1-4、EH-1-10、EH-1-21~EH-1-25、EH-1-32、EH-1-33、EH-1-51~EH-1-59、EH-1-61、EH-1-71、EH-1-72、EH-1-90、EH-1-100、EH-1-101、EH-1-104、EH-1-117、EH-1-120、EH-1-122、EH-1-123、およびEH-1-127~EH-1-130からなる群より選択されることが好ましい。組み合わせとして好ましい例としては、化合物HH-1-1および化合物EH-1-22、化合物HH-1-1および化合物EH-1-23、化合物HH-1-1および化合物EH-1-24、化合物HH-1-2および化合物EH-1-22、化合物HH-1-2および化合物EH-1-23、化合物HH-1-2および化合物EH-1-24、または化合物HH-1-1および化合物EH-1-128があげられる。
【0311】
エキサイプレックスを形成する正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせの具体例としては以下の組み合わせをあげることができる。前記、HOMO、LUMOおよびET1の物性値を満たすために、正孔輸送性ホスト材料においては、カルバゾール、トリアリールアミン、インドロカルバゾールおよびベンゾオキサジノフェノキサジンを部分構造として有する化合物が好ましく、トリアリールアミン、インドロカルバゾールおよびベンゾオキサジノフェノキサジンを部分構造として有する化合物がより好ましく、トリアリールアミンを部分構造として有する化合物がさらに好ましい。同様に、電子輸送性ホスト材料においては、ピリジン、トリアジン、ホスフィンオキシドおよびベンゾフロピリジンを部分構造として有する化合物が好ましく、トリアジン、ホスフィンオキシド、ベンゾフロピリジンおよびジベンゾオキサシリンを部分構造として有する化合物がより好ましく、ホスフィンオキシドおよびトリアジンを有する化合物がさらに好ましい。
【0312】
より具体的には、正孔輸送性ホスト材料は、HH-1-1、HH-1-2、HH-1-11、HH-1-12、HH-1-17、HH-1-18、HH-1-23およびHH-1-24、HH-1-115からなる群より選択されることが好ましく、電子輸送性ホスト材料は、EH-1-1~EH-1-4、EH-1-21~EH-1-25、EH-1-51~EH-1-57、EH-1-59、EH-1-66、EH-1-68、EH-1-90、EH-1-94、EH-1-99、EH-1-100、EH-1-101、EH-1-104、EH-1-117、EH-1-120、EH-1-122、EH-1-123、およびEH-1-127~EH-1-130からなる群より選択されることが好ましい。組み合わせとして好ましい例としては、化合物HH-1-1および化合物EH-1-21、化合物HH-1-2および化合物EH-1-21、化合物HH-1-12および化合物EH-1-94、化合物HH-1-12および化合物EH-1-117、化合物HH-1-1および化合物EH-1-130、化合物HH-1-33および化合物EH-1-117、化合物HH-1-48および化合物EH-1-117、化合物HH-1-49および化合物EH-1-117、または化合物HH-1-115および化合物EH-1-99があげられる。
【0313】
その他、具体的な正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料との組み合わせについては、Organic Electronics 66(2019)227-24、Advanced.Functional Materals 25(2015)361-366.、Advanced Materials 26(2014)4730-4734.、ACS Applied Materials and Interfaces 8(2016)32984-32991.、ACS Applied Materals and Interfaces 2016,8,9806-9810、ACS Applied Materials and Interfaces 2016,8,32984-32991、Journal of Materials Chemisty C,2018,6,8784-8792、Angewante Chemie International Edition.2018,57,12380-12384、Advanced Functional Materials,24,2014,3970,Advanced Materials,26,2014,5684,および、Synthetic Metals,201,2015,49、Nature Photonics,16,212-218(2022)などの記載を参照することができる。
【0314】
2-1-6.有機電界発光素子における電子注入層、電子輸送層
電子注入層107は、陰極108から移動してくる電子を、効率よく発光層105内または電子輸送層106内に注入する役割を果たす。電子輸送層106は、陰極108から注入された電子または陰極108から電子注入層107を介して注入された電子を、効率よく発光層105に輸送する役割を果たす。電子輸送層106および電子注入層107は、それぞれ、電子輸送・注入材料の一種または二種以上を積層、混合するか、電子輸送・注入材料と高分子結着剤の混合物により形成される。
【0315】
電子注入・輸送層とは、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送することをつかさどる層であり、電子注入効率が高く、注入された電子を効率よく輸送することが望ましい。そのためには電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが好ましい。しかしながら、正孔と電子の輸送バランスを考えた場合に、陽極からの正孔が再結合せずに陰極側へ流れるのを効率よく阻止できる役割を主に果たす場合には、電子輸送能力がそれ程高くなくても、発光効率を向上させる効果は電子輸送能力が高い材料と同等に有する。したがって、本実施形態における電子注入・輸送層は、正孔の移動を効率よく阻止できる層の機能も含まれてもよい。
【0316】
電子輸送層106または電子注入層107を形成する材料(電子輸送材料)としては、光導電材料において電子伝達化合物として従来から慣用されている化合物、有機EL素子の電子注入層および電子輸送層に使用されている公知の化合物の中から任意に選択して用いることができる。
【0317】
電子輸送層または電子注入層に用いられる材料としては、炭素、水素、酸素、硫黄、ケイ素およびリンの中から選ばれる一種以上の原子で構成される芳香族環または複素芳香族環からなる化合物、ピロール誘導体およびその縮合環誘導体および電子受容性窒素を有する金属錯体の中から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。具体的には、ナフタレン、アントラセンなどの縮合環系芳香族環誘導体、4,4'-ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香族環誘導体、ペリノン誘導体、クマリン誘導体、ナフタルイミド誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、アリールニトリル誘導体およびインドール誘導体などがあげられる。電子受容性窒素を有する金属錯体としては、例えば、ヒドロキシフェニルオキサゾール錯体などのヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体およびベンゾキノリン金属錯体などがあげられる。これらの材料は単独でも用いられるが、異なる材料と混合して使用しても構わない。
【0318】
また、他の電子伝達化合物の具体例として、ピリジン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントロリン誘導体、ペリノン誘導体、クマリン誘導体、ナフタルイミド誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体(1,3-ビス[(4-t-ブチルフェニル)1,3,4-オキサジアゾリル]フェニレンなど)、チオフェン誘導体、トリアゾール誘導体(N-ナフチル-2,5-ジフェニル-1,3,4-トリアゾールなど)、チアジアゾール誘導体、オキシン誘導体の金属錯体、キノリノール系金属錯体、キノキサリン誘導体、キノキサリン誘導体のポリマー、ベンザゾール類化合物、ガリウム錯体、ピラゾール誘導体、パーフルオロ化フェニレン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体(2,2'-ビス(ベンゾ[h]キノリン-2-イル)-9,9'-スピロビフルオレンなど)、イミダゾピリジン誘導体、ボラン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体(トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼンなど)、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、テルピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、テルピリジン誘導体(1,3-ビス(2,2’:6’,2”-テルピリジン-4'-イル)ベンゼンなど)、ナフチリジン誘導体(ビス(1-ナフチル)-4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)フェニルホスフィンオキサイドなど)、アルダジン誘導体、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ビススチリル誘導体などがあげられる。
【0319】
また、電子受容性窒素を有する金属錯体を用いることもでき、例えば、キノリノール系金属錯体やヒドロキシフェニルオキサゾール錯体などのヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体およびベンゾキノリン金属錯体などがあげられる。
【0320】
上述した材料は単独でも用いられるが、異なる材料と混合して使用しても構わない。
【0321】
上述した材料の中でも、ボラン誘導体、ピリジン誘導体、フルオランテン誘導体、BO系誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾフルオレン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ピリミジン誘導体、アリールニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、およびキノリノール系金属錯体が好ましい。
【0322】
<還元性物質>
電子輸送層または電子注入層には、さらに、電子輸送層または電子注入層を形成する材料を還元できる物質を含んでいてもよい。この還元性物質は、一定の還元性を有する物質であれば、様々な物質が用いられ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを好適に使用することができる。
【0323】
好ましい還元性物質としては、Na(仕事関数2.36eV)、K(同2.28eV)、Rb(同2.16eV)またはCs(同1.95eV)などのアルカリ金属や、Ca(同2.9eV)、Sr(同2.0~2.5eV)またはBa(同2.52eV)などのアルカリ土類金属があげられ、仕事関数が2.9eV以下の物質が特に好ましい。これらのうち、より好ましい還元性物質は、K、RbまたはCsのアルカリ金属であり、さらに好ましくはRbまたはCsであり、最も好ましいのはCsである。これらのアルカリ金属は、特に還元能力が高く、電子輸送層または電子注入層を形成する材料への比較的少量の添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。また、仕事関数が2.9eV以下の還元性物質として、これら2種以上のアルカリ金属の組み合わせも好ましく、特に、Csを含んだ組み合わせ、例えば、CsとNa、CsとK、CsとRb、またはCsとNaとKとの組み合わせが好ましい。Csを含むことにより、還元能力を効率的に発揮することができ、電子輸送層または電子注入層を形成する材料への添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。
【0324】
2-1-7.有機電界発光素子における陰極
陰極108は、電子注入層107および電子輸送層106を介して、発光層105に電子を注入する役割を果たす。
【0325】
陰極108を形成する材料としては、電子を有機層に効率よく注入できる物質であれば特に限定されないが、陽極102を形成する材料と同様の材料を用いることができる。なかでも、スズ、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金、鉄、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムおよびマグネシウムなどの金属またはそれらの合金(マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、フッ化リチウム/アルミニウムなどのアルミニウム-リチウム合金など)などが好ましい。電子注入効率をあげて素子特性を向上させるためには、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウムまたはこれら低仕事関数金属を含む合金が有効である。しかしながら、これらの低仕事関数金属は一般に大気中で不安定であることが多い。この点を改善するために、例えば、有機層に微量のリチウム、セシウムやマグネシウムをドーピングして、安定性の高い電極を使用する方法が知られている。その他のドーパントとしては、フッ化リチウム、フッ化セシウム、酸化リチウムおよび酸化セシウムのような無機塩も使用することができる。ただし、これらに限定されない。
【0326】
さらに、電極保護のために白金、金、銀、銅、鉄、スズ、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、またはこれら金属を用いた合金、そしてシリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などを積層することが、好ましい例としてあげられる。これらの電極の作製法も、抵抗加熱、電子ビーム蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングおよびコーティングなど、導通を取ることができれば特に制限されない。
【0327】
2-1-8.有機電界発光素子の作製方法
有機EL素子を構成する各層は、各層を構成すべき材料を蒸着法、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、印刷法、スピンコート法またはキャスト法、コーティング法などの方法で薄膜とすることにより、形成することができる。このようにして形成された各層の膜厚については特に限定はなく、材料の性質に応じて適宜設定することができるが、通常2nm~5000nmの範囲である。膜厚は通常、水晶発振式膜厚測定装置などで測定できる。蒸着法を用いて薄膜化する場合、その蒸着条件は、材料の種類、膜の目的とする結晶構造および会合構造などにより異なる。蒸着条件は一般的に、ボート加熱温度+50~+400℃、真空度10-6~10-3Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-150~+300℃、膜厚2nm~5μmの範囲で適宜設定することが好ましい。
【0328】
このようにして得られた有機EL素子に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として印加すればよく、電圧2~40V程度を印加すると、透明または半透明の電極側(陽極または陰極、および両方)より発光が観測できる。また、この有機EL素子は、パルス電流や交流電流を印加した場合にも発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0329】
次に、有機EL素子を作製する方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/ホスト材料とドーパント材料からなる発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0330】
<蒸着法>
適当な基板上に、陽極材料の薄膜を蒸着法などにより形成させて陽極を作製した後、この陽極上に正孔注入層および正孔輸送層の薄膜を形成させる。この上にホスト材料とドーパント材料を共蒸着し薄膜を形成させて発光層とし、この発光層の上に電子輸送層、電子注入層を形成させ、さらに陰極用物質からなる薄膜を蒸着法などにより形成させて陰極とすることにより、目的の有機EL素子が得られる。なお、上述の有機EL素子の作製においては、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
【0331】
<湿式成膜法>
湿式成膜法は、有機EL素子の各有機層を形成し得る低分子化合物を液状の有機層形成用組成物として準備し、これを用いることによって実施される。この低分子化合物を溶解する適当な有機溶媒がない場合には、当該低分子化合物に反応性置換基を置換させた反応性化合物として溶解性機能を有する他のモノマーや主鎖型高分子と共に高分子化させた高分子化合物などから有機層形成用組成物を準備してもよい。
【0332】
湿式成膜法は、一般的には、基板に有機層形成用組成物を塗布する塗布工程および塗布された有機層形成用組成物から溶媒を取り除く乾燥工程を経ることで塗膜を形成する。上記高分子化合物が架橋性置換基を有する場合(これを架橋性高分子化合物ともいう)には、この乾燥工程によりさらに架橋して高分子架橋体が形成される。塗布工程の違いにより、スピンコーターを用いる方法をスピンコート法、スリットコーターを用いる方法をスリットコート法、版を用いる方法をグラビア、オフセット、リバースオフセット、フレキソ印刷法、インクジェットプリンタを用いる方法をインクジェット法、霧状に吹付ける方法をスプレー法と呼ぶ。乾燥工程には、風乾、加熱、減圧乾燥などの方法がある。乾燥工程は1回のみ行なってもよく、異なる方法や条件を用いて複数回行なってもよい。また、例えば、減圧下での焼成のように、異なる方法を併用してもよい。
【0333】
湿式成膜法とは溶液を用いた成膜法であり、例えば、一部の印刷法(インクジェット法)、スピンコート法またはキャスト法、コーティング法などである。湿式成膜法は真空蒸着法と異なり高価な真空蒸着装置を用いる必要が無く、大気圧下で成膜することができる。加えて、湿式成膜法は大面積化や連続生産が可能であり、製造コストの低減につながる。
【0334】
一方で、真空蒸着法と比較した場合には、湿式成膜法は積層化が難しい場合がある。湿式成膜法を用いて積層膜を作製する場合、上層の組成物による下層の溶解を防ぐ必要があり、溶解性を制御した組成物、下層の架橋および直交溶媒(Orthogonal solvent、互いに溶解し合わない溶媒)などが駆使される。しかしながら、それらの技術を用いても、全ての膜の塗布に湿式成膜法を用いるのは難しい場合がある。
【0335】
そこで、一般的には、幾つかの層だけを湿式成膜法を用い、残りを真空蒸着法で有機EL素子を作製するという方法が採用される。
【0336】
例えば、湿式成膜法を一部適用し有機EL素子を作製する手順を以下に示す。
(手順1)陽極の真空蒸着法による成膜
(手順2)正孔注入層用材料を含む正孔注入層形成用組成物の湿式成膜法による成膜
(手順3)正孔輸送層用材料を含む正孔輸送層形成用組成物の湿式成膜法による成膜
(手順4)ホスト材料とドーパント材料を含む発光層形成用組成物の湿式成膜法による成膜
(手順5)電子輸送層の真空蒸着法による成膜
(手順6)電子注入層の真空蒸着法による成膜
(手順7)陰極の真空蒸着法による成膜
この手順を経ることで、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/ホスト材料とドーパント材料からなる発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子が得られる。
もちろん、電子輸送層および電子注入層についても、それぞれ電子輸送層用材料および電子注入層用材料を含む層形成用組成物を用いて湿式成膜法により成膜してもよい。その際、下層の発光層の溶解を防ぐ手段、または上記手順とは逆に陰極側から成膜する手段を用いることが好ましい。
【0337】
<その他の成膜法>
有機層形成用組成物の成膜化には、レーザー加熱描画法(LITI)を用いることができる。LITIとは基材に付着させた化合物をレーザーで加熱蒸着する方法で、基材へ塗布される材料に有機層形成用組成物を用いることができる。
【0338】
<任意の工程>
成膜の各工程の前後に、適切な処理工程、洗浄工程および乾燥工程を適宜入れてもよい。処理工程としては、例えば、露光処理、プラズマ表面処理、超音波処理、オゾン処理、適切な溶媒を用いた洗浄処理および加熱処理等があげられる。さらには、バンクを作製する一連の工程もあげられる。
【0339】
バンクの作製にはフォトリソグラフィ技術を用いることができる。フォトリソグラフィの利用可能なバンク材としては、ポジ型レジスト材料およびネガ型レジスト材料を用いることができる。また、インクジェット法、グラビアオフセット印刷、リバースオフセット印刷、スクリーン印刷などのパターン可能な印刷法も用いることができる。その際には永久レジスト材料を用いることもできる。
【0340】
<湿式成膜法に使用される有機層形成用組成物>
有機層形成用組成物は、有機EL素子の各有機層を形成し得る低分子化合物、または当該低分子化合物を高分子化させた高分子化合物を有機溶媒に溶解させて得られる。例えば、発光層形成用組成物は、第1成分として少なくとも1種のドーパント材料である多環芳香族化合物(またはその高分子化合物)と、第2成分として少なくとも1種のホスト材料と、第3成分として少なくとも1種の有機溶媒とを含有する。第1成分は、該組成物から得られる発光層のドーパント成分として機能し、第2成分は発光層のホスト成分として機能する。第3成分は、組成物中の第1成分と第2成分を溶解する溶媒として機能し、塗布時には第3成分自身の制御された蒸発速度により平滑で均一な表面形状を与える。
【0341】
<有機溶媒>
有機層形成用組成物は少なくとも一種の有機溶媒を含む。成膜時に有機溶媒の蒸発速度を制御することで、成膜性および塗膜の欠陥の有無、表面粗さ、平滑性を制御および改善することができる。また、インクジェット法を用いた成膜時は、インクジェットヘッドのピンホールでのメニスカス安定性を制御し、吐出性を制御・改善することができる。加えて、膜の乾燥速度および誘導体分子の配向を制御することで、該有機層形成用組成物より得られる有機層を有する有機EL素子の電気特性、発光特性、効率、および寿命を改善することができる。
【0342】
有機溶媒は、成膜後に、真空、減圧、加熱などの乾燥工程により塗膜より取り除かれる。加熱を行う場合、塗布成膜性改善の観点からは、溶質の少なくとも1種のガラス転移温度(Tg)+30℃以下で行うことが好ましい。また、残留溶媒の削減の観点からは、溶質の少なくとも1種のガラス転移点(Tg)-30℃以上で加熱することが好ましい。加熱温度が有機溶媒の沸点より低くても膜が薄いために、有機溶媒は十分に取り除かれる。また、異なる温度で複数回乾燥を行ってもよく、複数の乾燥方法を併用してもよい。
【0343】
(2)有機溶媒の具体例
有機層形成用組成物に用いられる有機溶媒としては、アルキルベンゼン系溶媒、フェニルエーテル系溶媒、アルキルエーテル系溶媒、環状ケトン系溶媒、脂肪族ケトン系溶媒、単環性ケトン系溶媒、ジエステル骨格を有する溶媒および含フッ素系溶媒などがあげられるが、それだけに限定されない。また、溶媒は単一で用いてもよく、混合してもよい。
【0344】
<任意成分>
有機層形成用組成物は、その性質を損なわない範囲で、任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、バインダーおよび界面活性剤等があげられる。
【0345】
<有機層形成用組成物の組成および物性>
有機層形成用組成物における各成分の含有量は、有機層形成用組成物中の各成分の良好な溶解性、保存安定性および成膜性、ならびに、該有機層形成用組成物から得られる塗膜の良質な膜質、また、インクジェット法を用いた場合の良好な吐出性、該組成物を用いて作製された有機層を有する有機EL素子の、良好な電気特性、発光特性、効率、寿命の観点を考慮して決定される。
【0346】
有機層形成用組成物は、上述した成分を、公知の方法で撹拌、混合、加熱、冷却、溶解、分散等を適宜選択して行うことによって製造できる。また、調製後に、ろ過、脱ガス(デガスとも言う)、イオン交換処理および不活性ガス置換・封入処理等を適宜選択して行ってもよい。
【0347】
2-1-9.有機電界発光素子の応用例
本発明は、有機EL素子を備えた表示装置または有機EL素子を備えた照明装置などにも応用することができる。
有機EL素子を備えた表示装置または照明装置は、本実施形態にかかる有機EL素子と公知の駆動装置とを接続するなど公知の方法によって製造することができ、直流駆動、パルス駆動、交流駆動など公知の駆動方法を適宜用いて駆動することができる。
【0348】
表示装置としては、例えば、カラーフラットパネルディスプレイなどのパネルディスプレイ、フレキシブルカラー有機電界発光(EL)ディスプレイなどのフレキシブルディスプレイなどがあげられる(例えば、特開平10-335066号公報、特開2003-321546号公報、特開2004-281086号公報など参照)。また、ディスプレイの表示方式としては、例えば、マトリクスおよびセグメント方式などがあげられる。なお、マトリクス表示とセグメント表示は同じパネルの中に共存していてもよい。
【0349】
マトリクスでは、表示のための画素が格子状やモザイク状など二次元的に配置されており、画素の集合で文字や画像を表示する。画素の形状やサイズは用途によって決まる。例えば、パソコン、モニター、テレビの画像および文字表示には、通常一辺が300μm以下の四角形の画素が用いられ、また、表示パネルのような大型ディスプレイの場合は、一辺がmmオーダーの画素を用いることになる。モノクロ表示の場合は、同じ色の画素を配列すればよいが、カラー表示の場合には、赤、緑、青の画素を並べて表示させる。この場合、典型的にはデルタタイプとストライプタイプがある。そして、このマトリクスの駆動方法としては、線順次駆動方法やアクティブマトリックスのどちらでもよい。線順次駆動の方が構造が簡単であるという利点があるが、動作特性を考慮した場合、アクティブマトリックスの方が優れる場合があるので、これも用途によって使い分けることが必要である。
【0350】
セグメント方式(タイプ)では、予め決められた情報を表示するようにパターンを形成し、決められた領域を発光させることになる。例えば、デジタル時計や温度計における時刻や温度表示、オーディオ機器や電磁調理器などの動作状態表示および自動車のパネル表示などがあげられる。
【0351】
照明装置としては、例えば、室内照明などの照明装置、液晶表示装置のバックライトなどがあげられる(例えば、特開2003-257621号公報、特開2003-277741号公報、特開2004-119211号公報など参照)。バックライトは、主に自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などに使用される。特に、液晶表示装置、中でも薄型化が課題となっているパソコン用途のバックライトとしては、従来方式が蛍光灯や導光板からなっているため薄型化が困難であることを考えると、本実施形態に係る発光素子を用いたバックライトは薄型で軽量が特徴になる。
【0352】
2-2.その他の有機デバイス
本発明に係る多環芳香族化合物は、上述した有機電界発光素子の他に、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などの作製に用いることができる。
【0353】
有機電界効果トランジスタは、電圧入力によって発生させた電界により電流を制御するトランジスタのことであり、ソース電極とドレイン電極の他にゲート電極が設けられている。ゲート電極に電圧を印加すると電界が生じ、ソース電極とドレイン電極間を流れる電子(あるいはホール)の流れを任意にせき止めて電流を制御することができるトランジスタである。電界効果トランジスタは、単なるトランジスタ(バイポーラトランジスタ)に比べて小型化が容易であり、集積回路などを構成する素子としてよく用いられている。
【0354】
有機電界効果トランジスタの構造は、通常、本発明に係る多環芳香族化合物を用いて形成される有機半導体活性層に接してソース電極およびドレイン電極が設けられており、さらに有機半導体活性層に接した絶縁層(誘電体層)を挟んでゲート電極が設けられていればよい。その素子構造としては、例えば以下の構造があげられる。
(1)基板/ゲート電極/絶縁体層/ソース電極・ドレイン電極/有機半導体活性層
(2)基板/ゲート電極/絶縁体層/有機半導体活性層/ソース電極・ドレイン電極
(3)基板/有機半導体活性層/ソース電極・ドレイン電極/絶縁体層/ゲート電極
(4)基板/ソース電極・ドレイン電極/有機半導体活性層/絶縁体層/ゲート電極
このように構成された有機電界効果トランジスタは、アクティブマトリックス駆動方式の液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの画素駆動スイッチング素子などとして適用できる。
【0355】
有機薄膜太陽電池は、ガラスなどの透明基板上にITOなどの陽極、ホール輸送層、光電変換層、電子輸送層、陰極が積層された構造を有する。光電変換層は陽極側にp型半導体層を有し、陰極側にn型半導体層を有している。本発明に係る多環芳香族化合物は、その物性に応じて、ホール輸送層、p型半導体層、n型半導体層、電子輸送層の材料として用いることが可能である。本発明に係る多環芳香族化合物は、有機薄膜太陽電池においてホール輸送材料や電子輸送材料として機能しうる。有機薄膜太陽電池は、上記の他にホールブロック層、電子ブロック層、電子注入層、ホール注入層、平滑化層などを適宜備えていてもよい。有機薄膜太陽電池には、有機薄膜太陽電池に用いられる既知の材料を適宜選択して組み合わせて用いることができる。
【0356】
3.波長変換材料
現在、色変換方式によるマルチカラー化技術を、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、照明などへ応用することが盛んに検討されている。色変換とは、発光体からの発光をより長波長の光へと波長変換することであり、例えば、紫外光や青色光を緑色光や赤色発光へと変換することを表す。この色変換機能を有する波長変換材料をフィルム化し、例えば青色光源と組み合わせることにより、青色光源から、青、緑、赤色の3原色を取り出すこと、すなわち白色光を取り出すことが可能となる。このような青色光源と色変換機能を有する波長変換フィルムを組み合わせた白色光源を光源ユニットとし、液晶駆動部分と、カラーフィルターと組み合わせることで、フルカラーディスプレイの作製が可能になる。また、液晶駆動部分が無ければ、そのまま白色光源として用いることができ、例えばLED照明などの白色光源として応用できる。また、青色有機EL素子を光源として、青色光を緑色光および赤色光に変換する波長変換フィルムと組み合わせて用いることでメタルマスクを用いないフルカラー有機ELディスプレイの作製が可能になる。さらに、青色マイクロLEDを光源として、青色光を緑色光および赤色光に変換する波長変換フィルムと組み合わせて用いることで低コストのフルカラーマイクロLEDディスプレイの作製が可能になる。
【0357】
本発明の多環芳香族化合物は、この波長変換材料として使用することができる。本発明の多環芳香族化合物を含む波長変換材料を用いて、紫外光やより短波長の青色光を生成する光源や発光素子からの光を、表示装置(有機EL素子を利用した表示装置や液晶表示装置)での利用に適した色純度の高い青色光や緑色光に変換することができる。変換される色の調整は、本発明の多環芳香族化合物の置換基、後述の波長変換用組成物で用いるバインダー樹脂等を適宜選択することにより行うことができる。波長変換材料は本発明の多環芳香族化合物を含む波長変換用組成物として調製することができる。また、この波長変換用組成物を用いて波長変換フィルムを形成してもよい。
【0358】
波長変換用組成物は、本発明の多環芳香族化合物のほか、バインダー樹脂、その他の添加剤、および溶媒を含んでいてもよい。バインダー樹脂としては、例えば国際公開第2016/190283号の段落0173~0176に記載のものを用いることができる。その他の添加剤としては、国際公開第2016/190283号の段落0177~0181に記載の化合物を用いることができる。溶媒としては、上記の発光層形成用組成物に含まれる溶媒の記載を参照することができる。
【0359】
波長変換フィルムは波長変換用組成物の硬化により形成される波長変換層を含む。波長変換用組成物からの波長変換層の作製方法としては公知のフィルム形成方法を参照することができる。波長変換フィルムは本発明の多環芳香族化合物を含む組成物から形成される波長変換層のみからなっていてもよく、他の波長変換層(例えば、青色光を緑色光や赤色光に変換する波長変換層、青色光や緑色光を赤色光に変換する波長変換層)を含んでいてもよい。さらに波長変換フィルムは基材層や、色変換層の酸素、水分、または熱による劣化を防ぐためのバリア層を含んでいてもよい。
【実施例0360】
以下,実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが,本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において、「MALDI-TOF-MS」は「マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法」を意味する。
【0361】
合成例(1):
化合物(1-1)の合成
【化97】
【0362】
窒素雰囲気下、化合物(A-1)(3.0g)、化合物(D-1)(5.9g)、tert-ブトキシナトリウム(2.9g)、Pd-132(0.35g)およびキシレン(100ml)を反応器に入れて5時間加熱還流した。反応混合物を室温まで冷却したのち、水層をトルエンで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製して、化合物(1-1)(5.7g)を得た。
MALDI-TOF-MS(M+)=755.25
【0363】
合成例(2):
化合物(1-2)の合成
【化98】
【0364】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=845.26
【0365】
合成例(3):
化合物(1-3)の合成
【化99】
【0366】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=935.27
【0367】
合成例(4):
化合物(1-4)の合成
【化100】
【0368】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=650.50
【0369】
合成例(5):
化合物(1-5)の合成
【化101】
【0370】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=690.21
【0371】
合成例(6):
化合物(1-6)の合成
【化102】
【0372】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=858.29
【0373】
合成例(7):
化合物(1-7)の合成
【化103】
【0374】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=525.15
【0375】
合成例(8):
化合物(1-8)の合成
【化104】
【0376】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=541.13
【0377】
合成例(9):
化合物(1-9)の合成
【化105】
【0378】
合成例(1)と同様の方法で合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=525.15
【0379】
合成例(10):
化合物(1-10)の合成
【化106】
【0380】
合成例(1)と同様の方法で合成した。なお、化合物(A-4)は国際公開第2019/009052号に記載の方法にしたがって合成した。
MALDI-TOF-MS(M+)=541.13
【0381】
以下の比較化合物を合成例(1)と同様の方法で合成した。
【化107】
【0382】
原料の化合物を適宜変更することにより、上述した合成例に準じた方法で、本発明の他の化合物を合成することができる。
【0383】
<化合物の基礎物性の評価>
合成した各化合物および4CzBN(比較例)の基礎物性の評価を以下の手順で行なった。結果を表1に示す。
【0384】
PMMA分散膜の準備
マトリックス材料としての市販のPMMA(ポリメチルメタクリレート)と評価対象の化合物(1質量%)とをトルエン中で溶解させた後、スピンコーティング法により石英製の透明支持基板(10mm×10mm)上に薄膜を形成してPMMA分散膜を作製した。
【0385】
吸収特性と発光特性の評価
サンプルの吸収スペクトルの測定は、紫外可視近赤外分光光度計((株)島津製作所、UV-2600)を用いて行った。また、サンプルの蛍光スペクトルまたは燐光スペクトルの測定は、分光蛍光光度計(日立ハイテク(株)製、F-7000)を用いて行った。
【0386】
蛍光スペクトルの測定では、PMMA分散膜を室温で適切な励起波長(波長280nm)で励起しフォトルミネッセンスを測定した。燐光スペクトルの測定に対しては、付属の冷却ユニットを使用して、PMMA分散膜を液体窒素に浸した状態(温度77K)で測定した。燐光スペクトルを観測するため、光学チョッパを使用して励起光照射から測定開始までの遅れ時間を調整した。
【0387】
最低励起一重項エネルギー準位E(S,Sh)、最低励起三重項エネルギー準位E(T,Sh)の測定
PMMA分散膜について、77Kで、吸収スペクトルの蛍光ピークが重ならない程度に長波長側のピークを励起光に蛍光スペクトルを観測し、その蛍光スペクトルのピーク短波長側の肩より最低励起一重項エネルギー準位E(S,Sh)を求める。
また、PMMA分散膜に、77Kで、吸収スペクトルの蛍光ピークが重ならない程度に長波長側のピークをnm励起光に燐光スペクトルを観測し、その燐光スペクトルのピーク短波長側の肩より最低励起三重項エネルギー準位E(T,Sh)を求める。
ΔES1T1については、最低励起一重項エネルギー準位E(S,Sh)から最低励起三重項エネルギー準位E(T,Sh)を減ずることで算出した。
【0388】
蛍光寿命(遅延蛍光、Tau(delay))の評価
PMMA分散膜を用い、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス(株)製、C11367-01)を用いて300Kで蛍光寿命を測定した。具体的には、励起波長280nmで測定される極大発光波長において蛍光寿命の早い発光成分と遅い発光成分を観測した。蛍光を発光する一般的な有機EL材料の室温における蛍光寿命測定では、熱による3重項成分の失活により、燐光に由来する3重項成分が関与する遅い発光成分が観測されることはほとんどない。評価対象の化合物において遅い発光成分が観測された場合は、励起寿命の長い3重項エネルギーが熱活性化により1重項エネルギーに移動して遅延蛍光として観測されたことを示すことになる。
【0389】
【0390】
<有機EL素子の評価>
次に、有機EL素子の作製と評価について記載する。
【0391】
有機EL素子の作製
合成例で製造した多環芳香族化合物を用いて、以下の有機EL素子を製造した。
【0392】
<実施例1-1~6、比較例1-1~2、実施例2-1~6、比較例2-1~2>
[比較例1-1]
スパッタリングにより200nmの厚さに製膜したITOを120nmまで研磨した、26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置(昭和真空(株)製)の基板ホルダーに固定し、HAT-CN、HTL-1,TcTa、o-CBP、ETL-1、new-DABNAおよびET7をそれぞれ入れたモリブデン製蒸着用ボート、LiFおよびアルミニウムをそれぞれ入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0393】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10-4Paまで減圧し、まず、HAT-CNを加熱して膜厚5nmになるように蒸着して正孔注入層を形成した。次に、HTL-1を加熱して膜厚90nmになるように蒸着して正孔輸送層1を形成し、さらにTcTaを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して正孔輸送層2を形成した。次に、oCBPとnew-DABNAを同時に加熱して膜厚20nmになるように蒸着して発光層を形成した。oCBPとnew-DABNAの質量比がおよそ99対1になるように蒸着速度を調節した。次に、ETL-1を加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子輸送層1を形成し、さらにET7を加熱して膜厚10nmになるように蒸着して電子輸送層2を形成した。各層の蒸着速度は0.01~1nm/秒であった。その後、LiFを加熱して膜厚1nmになるように0.01~0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着し、次いで、アルミニウムを加熱して膜厚100nmになるように蒸着して陰極を形成し、有機EL素子を得た。このとき、アルミニウムの蒸着速度は1~10nm/秒になるように調節した。
【0394】
[実施例1-1~6、実施例2-1~6、比較例1-2および比較例2-1~2]
比較例1-1の材料を表1に記載の材料に変更する以外は比較例1-1と同様の手順で実施例1-1~6、実施例2-1~6、比較例1-2および比較例2-1~2の有機EL素子を得た。
なお、表2において、「ホスト1」は正孔輸送性ホスト材料に該当し、「ホスト2」は電子輸送性ホスト材料に該当する。
【0395】
【0396】
上記各素子の製造に用いた化合物の化学構造を以下に示す。
【0397】
【0398】
<実施例3-1-1~実施例3-1-10、比較例3-1-1~比較例3-1-2:TAF構成>
ITO(50nm)/HAT-CN(10nm)/HT-1(60nm)/SiCzCz(5nm)/SiCzCz:表4に記載の各化合物:TADF-1:new-DABNA(60:26:13:1)(35nm)/mSiTrz(5nm)/mSiTrz:Liq(1:1)(30nm)/LiF(1nm)/Al(100nm)
発光層以外はTADF構成と同様に作製した。発光層では、SiCzCzと表2に記載の各化合物と(TADF-1)とnew-DABNAを同時に加熱して膜厚35nmになるように蒸着した。SiCzCzと表2に記載の各化合物と(TADF-1)とnew-DABNAの質量比がおよそ60対26対13対1になるように蒸着速度を調節した。
【0399】
<実施例4-1-1~実施例4-1-10、比較例4-1-1~比較例4-1-2:PSF構成>
ITO(50nm)/HAT-CN(10nm)/HT-1(60nm)/SiCzCz(5nm)/SiCzCz:表4に記載の各化合物:PtON7:new-DABNA(60:26:13:1)(35nm)/mSiTrz(5nm)/mSiTrz:Liq(1:1)(30nm)/LiF(1nm)/Al(100nm)
上記TAF構成の(TADF-1)をPtON7に置き換え、同様に素子を作製した。
【0400】
上記各素子の製造に用いた化合物の化学構造を以下に示す。
【化109】
【0401】
評価項目および評価方法
評価項目としては、駆動電圧(V)、発光波長(nm)、CIE色度(x,y)、外部量子効率(%)、発光スペクトルの最大波長(nm)および半値幅(nm)等がある。これらの評価項目は、例えば1000cd/m2発光時の値を用いることができる。
【0402】
発光素子の量子効率には、内部量子効率と外部量子効率とがあるが、内部量子効率は、発光素子の発光層に電子(または正孔)として注入される外部エネルギーが純粋に光子に変換される割合を示している。一方、外部量子効率は、この光子が発光素子の外部にまで放出された量に基づいて算出され、発光層において発生した光子は、その一部が発光素子の内部で吸収されたりあるいは反射され続けたりして、発光素子の外部に放出されないため、外部量子効率は内部量子効率よりも低くなる。
【0403】
分光放射輝度(発光スペクトル)と外部量子効率の測定方法は次の通りである。アドバンテスト社製電圧/電流発生器R6144を用いて、素子の輝度が1000cd/m2になる電圧を印加して素子を発光させる。TOPCON社製分光放射輝度計SR-3ARを用いて、発光面に対して垂直方向から可視光領域の分光放射輝度を測定する。発光面が完全拡散面であると仮定して、測定した各波長成分の分光放射輝度の値を波長エネルギーで割ってπを掛けた数値が各波長におけるフォトン数である。次いで、観測した全波長領域でフォトン数を積算し、素子から放出された全フォトン数とする。印加電流値を素電荷で割った数値を素子へ注入したキャリア数として、素子から放出された全フォトン数を素子へ注入したキャリア数で割った数値が外部量子効率である。また、発光スペクトルの半値幅は、極大発光波長を中心として、その強度が50%になる上下の波長間の幅として求められる。
【0404】
有機EL素子の評価
実施例1-1~6、実施例2-1~6、比較例1-1~2および比較例2-1~2、実施例3-1-1~実施例3-1-10、比較例3-1-1~比較例3-1-2、実施例4-1-1~実施例4-1-10、比較例4-1-1~比較例4-1-2の有機EL素子について、ITO電極を陽極、LiF/アルミニウム電極を陰極として直流電圧を印加し、輝度1000cd/m2における、外部量子効率(EQE)およびLT80(初期輝度1000cd/m2における電流密度で連続駆動させたときの800cd/m2になるまでの時間)を測定した。
各素子の評価結果を表3および4に示す。
【0405】
【0406】
【0407】
比較例との比較から、式(1)で表される構造を有する多環芳香族化合物を用いた有機EL素子では高効率、かつ、長寿命となることがわかる。