(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007364
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにそれを用いた二次電池用正極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240110BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240110BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097504
(22)【出願日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022105831
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022122790
(32)【優先日】2022-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】宮下 義智
(72)【発明者】
【氏名】河井 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】村山 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】石川 主弥
(72)【発明者】
【氏名】森本 譲太
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB12
5H050FA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA26
5H050GA27
5H050GA28
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】電池抵抗が改良される電池を構成可能な二次電池用の正極活物質材料の製造方法を提供する。
【解決手段】
層状構造を有し、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合粉体を準備することと、前記リチウム遷移金属複合粉体と、コバルト原料とを接触させてコバルト付着複合酸化物を得ることと、前記コバルト付着複合酸化物を、600℃を超えて800℃未満の温度で第1熱処理して第1熱処理物を得ることと、前記第1熱処理物と、ニオブ原料とを接触させてニオブ付着複合酸化物を得ることと、前記ニオブ付着複合酸化物を、300℃を超えて500℃未満の温度で第2熱処理して第2熱処理物を得ることと、を含む二次電池用正極活物質の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合粉体を準備することと、
前記リチウム遷移金属複合粉体と、コバルト原料とを接触させてコバルト付着複合酸化物を得ることと、
前記コバルト付着複合酸化物を、600℃を超えて800℃未満の温度で第1熱処理して第1熱処理物を得ることと、
前記第1熱処理物と、ニオブ原料とを接触させてニオブ付着複合酸化物を得ることと、
前記ニオブ付着複合酸化物を、300℃を超えて500℃未満の温度で第2熱処理して第2熱処理物を得ることと、を含む二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合粉体は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下である請求項1に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合粉体は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上1未満である請求項2に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記コバルト付着複合酸化物を得ることにおいて、前記リチウム遷移金属複合粉体と前記コバルト原料を乾式で混合することを含む請求項3に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記コバルト付着複合酸化物を得ることにおいて、前記コバルト原料に含まれるコバルト原子の総モル量が、前記リチウム遷移金属複合粉体に含まれるリチウム以外の金属原子の総モル量に対して1モル%以上20モル%以下である請求項4に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記コバルト原料は、酸化コバルトである請求項5に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記第1熱処理の温度が650℃以上750℃以下である請求項6に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記ニオブ付着複合酸化物を得ることにおいて、前記ニオブ原料に含まれるニオブ原子の総モル量が、前記第1熱処理物に含まれるリチウム以外の金属原子総モル量に対して、0.1モル%以上5モル%以下である請求項7に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記第2熱処理の温度が350℃以上450℃以下である請求項8に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記ニオブ付着複合酸化物は、前記第1熱処理物と前記ニオブ原料を含む溶液を接触させて得ることを含む請求項9に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記ニオブ原料は、ニオブ酸であることを含む請求項10に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記リチウム遷移金属複合粉体は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上0.8未満である請求項1に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記リチウム遷移金属複合粉体は、表面溶出分析によって求められる表面組成について、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル数の比が0.15以上0.5以下である請求項12に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記リチウム遷移金属複合粉体は、下式で表される組成を有する請求項1から13のいずれか1項に記載の製造方法。
LipNixCoyM1
zM2
wO2
(0.95≦p≦1.5、0.5≦x<1、0≦y<0.5、0≦z<0.5、0≦w≦0.1、x+y+z+w≦1、M1はAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2はB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
【請求項15】
層状構造を有し、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.5以上1未満であり、
リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル数の比が0.01以上0.5未満である組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、その粒子表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む二次粒子表面を有しており、
前記二次粒子表面からの深さが60nm付近である領域を第1領域、前記二次粒子表面から10nm付近の領域を第2領域としたときに、第1領域よりも第2領域の方が高いコバルト濃度を有する二次電池用正極活物質。
【請求項16】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上1未満である請求項15に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項17】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であることを含む請求項15に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項18】
前記第1領域及び第2領域におけるリチウム以外の金属原子の総モル数に対するコバルト原子のモル数の比の差を、前記第1領域及び第2領域の表面からの深さの差で除した差の絶対値が0.001(nm-1)以上0.08(nm-1)以下である請求項15に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項19】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上0.8未満であり、
前記二次粒子表面は、SEMEDX測定によって求められるニオブについてのSED標準偏差が5.0以下である請求項15に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項20】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下式(1)で表される組成を有する請求項15から19のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質。
(1)LipNixCoyM1
zM2
wO2
(0.95≦p≦1.5、0.5≦x<1、0.01≦y<0.5、0≦z<0.5、0<w≦0.1、x+y+z+w≦1、M1はAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2はB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
【請求項21】
請求項20に記載の二次電池用正極活物質を含む正極活物質層を備える二次電池用正極。
【請求項22】
請求項21に記載の二次電池用正極と、負極と、電解質とを備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにそれを用いた二次電池用正極及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はエネルギー密度とサイクル特性に優れた二次電池であり、その中でも昨今は、電解質に従来の有機溶媒の代わりに固体を用いた全固体電池の開発がなされており、従来よりも高い安全性の達成が期待されている。特に固体電解質に硫黄が含まれる硫化物系固体電荷質では高い導電率が達成されている一方で、正極層と硫化物系固体電解質の副反応や、正極活物質と固体電解質との界面での高抵抗層の形成といった課題が存在している。
【0003】
特許文献1には、ニオブ酸リチウムによって正極活物質の表面を被覆して、硫化物固体電解質と正極活物質との接触界面に高抵抗層が形成されることを抑制し、更に硫化物固体電解質と正極活物質との副反応を防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ニッケル含有率が高いリチウム遷移金属複合酸化物においては、ニオブ酸リチウム等のニオブ化合物により表面を被覆しても、未だ電池抵抗が高いといった課題が存在し、更なる出力特性の向上が求められている。本発明の一態様は、電池抵抗が軽減され二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにそれを用いた二次電池用正極及び二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対する、ニッケルのモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対する、コバルトのモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合粉体を準備することと、前記リチウム遷移金属複合粉体と、コバルト原料とを接触させてコバルト付着複合酸化物を得ることと、前記コバルト付着複合酸化物を、600℃を超えて800℃未満の温度で第1熱処理して第1熱処理物を得ることと、前記第1熱処理物と、ニオブ原料とを接触させてニオブ付着複合酸化物を得ることと、前記ニオブ付着複合酸化物を、300℃を超えて500℃未満の温度で第2熱処理して第2熱処理物を得ることと、を含む、二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0007】
第二態様は、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対する、ニッケルのモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対する、コバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満である組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、その粒子表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む二次粒子表面を有しており、前記二次粒子表面からの深さが60nm付近である領域を第1領域、前記二次粒子表面から10nm付近の領域を第2領域としたときに、第1領域よりも第2領域の方が高いコバルト濃度を有する、二次電池用正極活物質である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、電池抵抗が軽減される二次電池用正極活物質およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1の正極活物質に係るSEM-EDXの線分析結果
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本開示の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本開示の技術思想を具体化するための、二次電池用正極活物質およびその製造方法を例示するものであって、本開示は、以下に示す二次電池用正極活物質およびその製造方法に限定されない。
【0011】
二次電池用正極活物質の製造方法
二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」ともいう)の製造方法は、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対する、ニッケルのモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対する、コバルトのモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合粉体を準備することと、前記リチウム遷移金属複合粉体と、コバルト原料とを接触させてコバルト付着複合酸化物を得ることと、前記コバルト付着複合酸化物を、600℃を超えて800℃未満の温度で第1熱処理して第1熱処理物を得ることと、前記第1熱処理物と、ニオブ原料とを接触させてニオブ付着複合酸化物を得ることと、前記ニオブ付着複合酸化物を、300℃を超えて500℃未満の温度で第2熱処理して第2熱処理物を得ることと、を含む。本製造方法により得られる正極活物質においては、高いニッケル比率を有するリチウム遷移金属複合粉体の二次粒子表面付近のコバルト濃度が高くなることで正極活物質内のリチウムイオン伝導性が向上する。さらに正極活物質の二次粒子表面にニオブ化合物による被覆部を設けることで、固体電解質と正極間での高抵抗層の形成が抑制される。そのため、これを含んで構成される全固体二次電池では、高い出力特性を達成することができると考えられる。
【0012】
準備工程
準備工程では、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であって、リチウム以外の金属の総モル数に対する、ニッケルのモル数の比が0.5以上1未満であり、コバルトのモル数の比が0以上0.5未満である組成を有するリチウム遷移金属複合粉体を準備する。リチウム遷移金属複合粉体は、少なくともリチウムとニッケルとを含み、コバルト、マンガン及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合粉体は、市販品から適宜選択してもよく、所望の組成及び構造を有するリチウム遷移金属複合粉体を製造して準備してもよい。
【0013】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、0.5以上1未満である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、好ましくは0.6以上であり、より好ましくは0.7以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、好ましくは0.95以下であり、より好ましくは0.92以下であり、特に好ましくは0.9以下である。ニッケルのモル比が上述した範囲であると、得られる正極活物質を用いた二次電池における出力特性改善の効果がより顕著に現れる傾向がみられる。
【0014】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、0以上である。出力特性の点から、リチウム遷移金属複合粉体におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.03以上である。また、リチウム遷移金属複合粉体におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0.5以下であり、充放電容量の点から好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.12以下である。上述の範囲であると、コストを抑えつつ出力特性を向上させることができる。
【0015】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体は、マンガン及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素M1を更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合粉体が金属元素M1を含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するM1のモル数の比は、例えば0より大きくてよく、安全性の点から、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.05以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するM1のモル数の比は例えば0.5以下であり、充放電容量の点から好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.3以下である。
【0016】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体は、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、スズ、バリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリウム、タンタル、タングステン及びビスマスからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素M2を更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合粉体が金属元素M2を含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するM2のモル数の比は、例えば0より大きくてよく、好ましくは0.0005以上、特に好ましくは0.001以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するM2のモル数の比は例えば0.1以下であり、好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下である。
【0017】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば0.95以上であり、好ましくは1以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は例えば1.5以下であり、好ましくは1.3以下である。
【0018】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体の組成は、例えば下式(1)で表される組成であってよい。
LipNixCoyM1
zM2
wO2 (1)
(0.95≦p≦1.5、0.5≦x<1、0≦y<0.5、0≦z<0.5、0≦w≦0.1、x+y+z+w≦1、M1はAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2はB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
【0019】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体は、20個を越える複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されていてもよいが、10個以下の一次粒子で構成される二次粒子からなる粒子、いわゆる単粒子の形態で構成されていることが好ましい。単粒子形態であるリチウム遷移金属複合粉体は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の、電子顕微鏡(SEM)観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが1以上4以下であってよい。
【0020】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体において、D50/DSEMが1に近づくほど、リチウム遷移金属複合粉体に含まれる二次粒子を構成する一次粒子の数が少ないことを示し、D50/DSEMが1の場合、ほとんど単一粒子のみから構成されることを示す。D50/DSEMは、耐久性の観点から、1以上4以下が好ましく、出力密度の観点から、3.5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、特に2以下が好ましい。D50/DSEMが1に近い値であるほど、第1領域よりも第2領域の方が高いコバルト濃度を有する場合の出力特性改善の効果がより顕著になることが期待できる。本明細書では、D50/DSEMが1と異なる値であっても1であっても、独立して存在する粒子は二次粒子とする。
【0021】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体においては、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、例えば0.1μm以上であり、耐久性の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは例えば20μm以下であり、出力密度及び極板充填性の観点から10μm以下がより好ましく、8μm以下が更に好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0022】
電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される一次粒子の球換算径の平均値である。平均粒径DSEMは具体的には以下のようにして求められる。
〈1〉走査型電子顕微鏡を用い、粒子の輪郭が確認できる二次粒子が10個以上20個以下となるような倍率に設定する。このとき、粒径がD10の半分未満である二次粒子については個数に含めないものとする。
〈2〉上記の倍率で観測された、粒径がD10の半分以上であり、輪郭が確認できるすべての二次粒子について、それぞれの二次粒子を構成する一次粒子に対して画像処理ソフトウエアを用いて、一次粒子の輪郭をトレースすることで各一次粒子の輪郭長を求める。輪郭長から球換算径を算出する。
〈3〉球換算径を算出した一次粒子の個数が100個を超えるまで上記〈1〉、〈2〉を繰り返し、〈1〉、〈2〉を繰り返すことで得られた一次粒子の球換算径の算術平均値として、平均粒径DSEMが求められる。
【0023】
また準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体の50%粒径D50は、例えば1μm以上30μm以下である。ハンドリング性の観点から1.5μm以上が好ましく、2.5μm以上がより好ましい。また出力密度の観点から10μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましい。
【0024】
50%粒径D50は、レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて、湿式条件で測定される体積基準の累積粒度分布において、小径側からの累積50%に対応する粒径として求められる。同様に、後述する90%粒径D90及び10%粒径D10は、それぞれ小径側からの累積90%及び累積10%に対応する粒径として求められる。
【0025】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体の体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の10%粒径D10に対する比は、粒度分布の広がりを示し、値が小さいほど粒子の粒径がそろっていることを示す。D90/D10は、例えば4以下であってよく、出力密度の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。D90/D10は、例えば1.2以上であってよい。D90/D10の値が小さいほど粒径がそろっており、それによりニオブ化合物による被覆がより均一になることが期待できる。
【0026】
準備工程にて準備されるD50/DSEMが1以上4以下であるリチウム遷移金属複合粉体については、例えば、特開2017-188443号公報(米国公開特許2017-0288221)、特開2017-188444号公報(米国公開特許2017-0288222)、特開2017-188445号公報(米国公開特許2017-0288223)等を参照することができる。
【0027】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体は組成にニッケルを含む。リチウム遷移金属複合酸化物は、全固体二次電池における初期効率の観点から、X線回折法により求められるニッケル元素のディスオーダーが4.0%以下であることが好ましく、2.0%以下がより好ましい。ここで、ニッケル元素のディスオーダーとは、本来のサイトを占有すべき遷移金属イオン(ニッケルイオン)の化学的配列無秩序(chemical disorder)を意味する。層状構造のリチウム遷移金属遷移金属複合酸化物においては、Wyckoff記号で表記した場合に3bで表されるサイト(3bサイト、以下同様)を占有すべきアルカリ金属イオンと3aサイトを占有すべき遷移金属イオンの入れ替わりが代表的である。ニッケル元素のディスオーダーが小さいほど、初期効率が向上する傾向があり、好ましい。
【0028】
リチウム遷移金属遷移金属複合酸化物におけるニッケル元素のディスオーダーは、X線回折法により求めることができる。リチウム遷移金属遷移金属複合酸化物について、CuKα線によりX線回折スペクトルを測定する。組成モデルを(Li1-dNid)(NixCoyMnz)O2(x+y+z=1)とし、得られたX線回折スペクトルに基づいて、リートベルト解析により構造最適化を行う。構造最適化の結果として算出されるdの百分率をニッケル元素のディスオーダーの値とする。
【0029】
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合粉体は、具体的には以下のようにして調製することができる。リチウム遷移金属複合粉体の調製方法は、例えば、前駆体を準備する前駆体準備工程と、前駆体とリチウム化合物とからリチウム遷移金属複合酸化物を合成する合成工程とを含んでいてよい。
【0030】
前駆体準備工程では、ニッケルを含む複合酸化物(以下、単に複合酸化物ともいう)を含む前駆体を準備する。前駆体は、市販品から適宜選択して準備してもよく、常法により所望の構成を有する複合酸化物を調製して準備してもよい。所望の組成を有する複合酸化物を得る方法としては、原料化合物(水酸化物、炭酸化合物等)を目的組成に合わせて混合し熱処理によって複合酸化物に分解する方法、溶媒に可溶な原料化合物を溶媒に溶解し、温度調整、pH調整、錯化剤投入等で目的の組成を有する沈殿物を得て、それら沈殿物の熱処理によって複合酸化物を得る共沈法などを挙げることができる。以下、複合酸化物の製造方法の一例について説明する。
【0031】
共沈法により複合酸化物を得る方法には、所望の構成比で金属イオンを含む混合溶液のpH等を調整して種晶を得る種生成工程と、生成した種晶を成長させて所望の特性を有する複合水酸化物を得る晶析工程と、得られる複合水酸化物を熱処理して複合酸化物を得る工程とを含むことができる。このような複合酸化物を得る方法の詳細については、例えば、特開2003-292322号公報、特開2011-116580号公報(米国公開特許2012-270107)等を参照することができる。
【0032】
種生成工程では、所望の構成比でニッケルイオンを含む混合溶液のpHを、例えば11から13に調整することで種晶を含む液媒体を調製する。種晶は例えば、ニッケルを所望の比率で含む水酸化物を含むことができる。混合溶液は、ニッケル塩を所望の割合で水に溶解することで調製できる。ニッケル塩としては例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等を挙げることができる。混合溶液は、ニッケル塩に加えて、必要に応じて他の金属塩を所望の構成比で含んでいてもよい。種生成工程における温度は例えば40℃から80℃とすることができる。種生成工程における雰囲気は、低酸化性雰囲気とすることができ、例えば酸素濃度を10体積%以下に維持することができる。
【0033】
晶析工程では、生成した種晶を成長させて所望の特性を有するニッケルを含む沈殿物を得る。種晶の成長は例えば、種晶を含む液媒体に、そのpHを例えば7から12.5、好ましくは7.5から12に維持しつつ、ニッケルイオンと必要に応じて他の金属イオンとを含む混合溶液を添加することで行うことができる。混合溶液の添加時間は例えば1時間から24時間であり、好ましくは3時間から18時間である。晶析工程における温度は例えば40℃から80℃とすることができる。晶析工程における雰囲気は種生成工程と同様である。種生成工程及び晶析工程におけるpHの調整は、硫酸水溶液、硝酸水溶液等の酸性水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などを用いて行うことができる。
【0034】
複合酸化物を得る工程では、晶析工程で得られる複合水酸化物を含む沈殿物を、熱処理することにより複合酸化物を得る。複合酸化物を得る工程における熱処理は例えば500℃以下の温度で複合水酸化物を加熱して行うことができ、好ましくは450℃以下で加熱することができる。また熱処理の温度は例えば100℃以上であり、好ましくは200℃以上である、熱処理の時間は例えば0.5時間から48時間とすることができ、好ましくは5時間から24時間である。熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉、ロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
【0035】
得られる複合酸化物は、ニッケルに加えてコバルトを含んでいてもよい。複合酸化物が、他の金属を含む場合、種生成工程及び晶析工程において、混合溶液に所望の構成で他の金属イオンを含有させればよい。これにより、沈殿物にニッケル及びコバルトと他の金属を含有せしめ、沈殿物を熱処理することで所望の組成を有する複合酸化物を得ることができる。
【0036】
得られる複合酸化物は、ニッケルに加えて他の金属元素M1を含んでいてもよい。他の金属元素M1としては、Mn、Al等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、少なくともMnを含むことがより好ましい。複合酸化物が、他の金属を含む場合、種生成工程及び晶析工程における混合溶液に、所望の構成で他の金属イオンを含有させればよい。これにより、沈殿物にニッケル及び他の金属を含有せしめ、沈殿物を熱処理することで所望の組成を有する複合酸化物を得ることができる。
【0037】
複合酸化物の平均粒径は、例えば2μm以上20μm以下であり、好ましくは3μm以上10μm以下である。複合酸化物の平均粒径は、体積平均粒径であり、レーザー散乱法によって得られる体積基準の粒度分布における小粒径側からの体積積算値が50%となる値である。
【0038】
合成工程では、複合酸化物とリチウム化合物とを混合して得られるリチウムを含む混合物を熱処理して熱処理物を得る。得られる熱処理物は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
【0039】
複合酸化物と混合するリチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウム等を挙げることができる。混合に用いるリチウム化合物の粒径は、体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径として、例えば0.1μm以上100μm以下であり、2μm以上20μm以下が好ましい。
【0040】
混合物における複合酸化物を構成する金属元素の総モル数に対するリチウムの総モル数の比は例えば、0.95以上1.5以下である。複合酸化物とリチウム化合物との混合は、例えば、高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
【0041】
混合物は、リチウム、ニッケル、コバルト、以外の他の金属元素M1あるいはM2をさらに含んでいてもよい。他の金属元素M1としてはマンガン及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素が好ましい。M2としては、B、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W、Bi等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。混合物が、他の金属を含む場合、他の金属の単体又は金属化合物を複合酸化物及びリチウム化合物と共に混合することで、混合物を得ることができる。他の金属を含む金属化合物としては、酸化物、水酸化物、塩化物、窒化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蓚酸塩等を挙げることができる。
【0042】
混合物が、他の金属を含む場合、複合酸化物を構成する金属の総モル数と他の金属の総モル数との比は、例えば1:0.001から1:0.3であり、1:0.01から1:0.15が好ましい。
【0043】
混合物の熱処理温度は、例えば550℃以上1100℃以下であるが、600℃以上1080℃以下が好ましく、700℃以上1080℃以下がより好ましい。混合物の熱処理は、単一の温度で行ってもよいが、高電圧時における放電容量の点から複数の温度で行うことが好ましい。複数の温度で熱処理する場合、例えば、第1温度を所定時間で保持した後、さらに昇温し、第2温度を所定時間で保持することが望ましく、更に第2温度よりも低い第3温度で熱処理して熱処理物を得てもよい。
【0044】
また第1温度又は第2温度での熱処理後、降温する途中の第3温度で所定時間熱処理することで、前述したニッケル元素のディスオーダー値を小さくする効果が得られる傾向がある。
【0045】
第1温度は、例えば300℃以上600℃以下であり、好ましくは350℃以上550℃以下である。また第2温度は、例えば800℃以上1100℃以下であり、好ましくは850℃以上1050℃以下である。また、第3温度は、例えば600℃以上850℃以下であり、好ましくは700℃以上800℃以下である。
【0046】
単一の温度で熱処理する場合の熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下であり、5時間以上15時間以下が好ましい。また、複数の温度で熱処理する場合、第1温度での熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。第2温度での熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。それぞれの温度での熱処理の時間は同じであっても、異なっていてもよく、連続して行ってもよく、それぞれ独立して行ってもよい。
【0047】
熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉、ロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
【0048】
熱処理物には、必要に応じて分散処理が行われる。強い剪断力や衝撃を伴う粉砕処理ではなく、分散処理によって焼結した一次粒子の解離を行うことで粒度分布が狭く、粒度の揃ったリチウム遷移金属複合酸化物粒子が得られる。分散処理は乾式で行っても、湿式で行ってもよく、乾式で行うことが好ましい。分散処理は、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。分散処理の条件は、例えば分散処理後のリチウム遷移金属複合粉体のD50/DSEMが所望の範囲、例えば1以上4以下となるように設定することができる。
【0049】
例えば分散処理をボールミルで行う場合、樹脂メディアを用いることができる。樹脂メディアの材質としては、例えばウレタン樹脂やナイロン樹脂等を挙げることができる。一般的にボールミルのメディアの材質としては、アルミナ、ジルコニア等が用いられ、これらのメディアによって粒子が粉砕される。これに対して樹脂メディアを用いることで、粒子が粉砕されることなく、焼結した一次粒子の解離が行われる。樹脂メディアの大きさは、例えばφ5mmから30mmとすることができる。また胴体(シェル)としては、例えばウレタン樹脂、ナイロン樹脂等を用いることができる。分散処理の時間は、例えば3分間から60分間であり、10分間から30分間が好ましい。ボールミルによる分散処理の条件としては、所望のD50/DSEMが達成できるように、メディア量、回転もしくは振幅速度、分散時間、メディア比重等を調整すればよい。
【0050】
例えば分散処理をジェットミルで行う場合、一次粒子が粉砕されずに、所望のD50/DSEMが達成できるように、供給圧、粉砕圧等を調整すればよい。供給圧は、例えば0.1MPaから0.6MPaとすることができ、粉砕圧は、例えば0.1MPaから0.6MPaとすることができる。
【0051】
第1付着工程
第1付着工程では、準備したリチウム遷移金属複合粉体とコバルト原料とを接触させて、リチウム遷移金属複合粉体の表面にコバルト原料が付着したコバルト付着複合酸化物を得る。リチウム遷移金属複合粉体とコバルト原料との接触は、乾式で行っても、湿式で行ってもよい。
【0052】
第1付着工程を乾式で行う場合、リチウム遷移金属複合粉体とコバルト原料とを混合して、これらの接触を行うことができる。コバルト原料としては、例えば、水酸化コバルト、酸化コバルト、炭酸コバルト等を挙げることができる。第1付着工程を乾式で行う場合、湿式に比べて工程数が少なくなることに加え、リチウム遷移金属複合粉体に含まれるリチウム量の減少を抑制できるといった利点が期待できる。
【0053】
混合を行う方法としては、例えば高速せん断ミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。
【0054】
第1付着工程を湿式で行う場合、リチウム遷移金属複合粉体を、コバルト原料を含む液媒体と接触させることでリチウム遷移金属複合粉体とコバルト原料との接触を行うことができる。このとき必要に応じて液媒体を撹拌してもよい。コバルト原料を含む液媒体は、コバルト原料の溶液であっても、コバルト原料の分散液であってもよい。また、コバルト原料の溶液にリチウム遷移金属複合粉体を懸濁させ、pH調整、温度調整等によって溶液中にコバルト原料を析出させ、リチウム遷移金属複合粉体の表面にコバルト原料を付着させてもよい。
【0055】
第1付着工程を湿式で行う場合、コバルト原料との接触に用いられる溶液に含まれるコバルト原料としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト等を挙げることができる。コバルト原料との接触に用いられる分散液に含まれるコバルト原料としては、例えば水酸化コバルト、酸化コバルト、炭酸コバルト等を挙げることができる。液媒体は、例えば水を含んでいればよく、水に加えてアルコール等の水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。液媒体におけるコバルト原料の濃度は、例えば1質量%以上8.5質量%以下とすることができる。
【0056】
リチウム遷移金属複合粉体に接触させる、コバルト原料に含まれるコバルト原子の総モル数は、リチウム遷移金属複合粉体に含まれるリチウム以外の金属原子の総モル数に対して、例えば、0.5モル%以上15モル%以下であり、好ましくは1モル%以上10モル%以下である。
【0057】
リチウム遷移金属複合粉体とコバルト原料の接触温度は、例えば40℃以上80℃以下であり、好ましくは40℃以上60℃以下とすることができる。また、接触温度は、例えば20℃以上80℃以下であってもよい。接触時間は、例えば30分以上180分以下であり、好ましくは30分以上60分以下である。
【0058】
コバルト原料を含む液媒体と接触させた後に、必要に応じて、コバルト付着複合酸化物に対して濾別、水洗、乾燥等の処理を行ってもよい。また、付着するコバルト原料の種類等に応じて、予備的な熱処理を行ってもよい。予備的な熱処理を行う場合、その温度は、例えば100℃以上350℃以下であり、好ましくは120℃以上320℃以下である。また処理時間は、例えば5時間以上20時間以下であり、好ましくは8時間以上15時間以下である。また、予備的な熱処理の雰囲気は、例えば、酸素を含む雰囲気であり、大気雰囲気であってよい。
【0059】
第1熱処理工程
第1熱処理工程では、第1付着工程で得られるコバルト付着複合酸化物を、600℃を超えて800℃未満の所定の温度で熱処理して熱処理物を得る。熱処理温度によって所望のコバルト濃度勾配を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得る事ができ、これを用いて構成される全固体二次電池において、優れた出力特性を達成することができる。
【0060】
製造方法は、第1熱処理工程の前に、コバルト付着複合酸化物とリチウム化合物とを混合して混合物を得る混合工程を含んでいてよい。
【0061】
コバルト付着複合酸化物と混合するリチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム等を挙げることができる。リチウム化合物の添加量は、付着工程で付着させたコバルト量に対してリチウムとコバルトのモル比(Li:Co)が、例えば0.95から1.50:1、好ましくは1.00から1.30:1となるように混合する。混合は、例えば高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
【0062】
コバルト付着複合酸化物の第1熱処理の温度は、例えば600℃を超えて800℃未満である。第1熱処理温度は、好ましくは650℃以上、より好ましくは675℃以上、である。また第1熱処理温度は、好ましくは750℃以下、より好ましくは725℃以下である。第1熱処理の時間は、例えば1時間以上20時間以下であり、好ましくは3時間以上10時間以下である。熱処理の雰囲気は、酸素を含むことが好ましい。熱処理の雰囲気が酸素を含むことで、例えば残留リチウム量を抑制し、粒子間の焼結をより効果的に抑制することができる。熱処理の雰囲気が酸素を含む場合、その含有率は15体積%以上が好ましく、30体積%以上がより好ましく、80体積%以上が更に好ましい。
【0063】
第1熱処理後の第1熱処理物は、必要に応じて、解砕、粉砕、分級操作、整粒操作等の処理を行ってもよい。
【0064】
第1熱処理物の表面組成においては、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比(以下、単に「コバルト比」ともいう)が大きい方が大きい方が後述する第2付着工程後のニオブの付着が均一になりやすい傾向にある。第1熱処理物の表面組成におけるコバルト比は10mol%以上であってよく、好ましくは15mol%以上、更に好ましくは25mol%以上であってよい。またコバルト比は40mol%以下が好ましい。40mol%を超える場合は放電容量が低下する場合がある。
【0065】
第1熱処理物の表面組成は、第1熱処理物を短時間酸性溶媒中で撹拌して、その溶出液に対して高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)を用いることで求めることができる。詳細な条件については後述するが、この手法を本明細書中では表面溶出分析とする。
【0066】
以上のようにして得られる第1熱処理物は、コバルト濃度勾配を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
【0067】
第2付着工程
第2付着工程では、前記第1熱処理物と、ニオブ原料とを接触させてニオブ付着複合酸化物を得る。第1熱処理物とニオブ原料との接触は、乾式で行っても、湿式で行ってもよい。
【0068】
乾式で行う場合、第1熱処理物とニオブ原料とを混合して、これらの接触を行うことができる。ニオブ原料としては、例えば、酸化ニオブ等を挙げることができる。
【0069】
混合を行う方法としては、例えば高速せん断ミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。
【0070】
湿式で行う場合、第1熱処理物を、ニオブ原料を含む液媒体と接触させることができる。このとき必要に応じて液媒体を撹拌してもよい。ニオブ原料を含む液媒体は、ニオブ原料の溶液であっても、ニオブ原料の分散液であってもよい。また、ニオブ原料の溶液に第1熱処理物を懸濁させ、pH調整、温度調整等によって溶液中にニオブ原料を析出させ、第1熱処理物の表面にニオブ原料を付着させてもよく、転動流動層乾燥機を用いて第1熱処理物の表面にニオブ原料を付着させてもよい。
【0071】
溶液に含まれるニオブ原料としては、ニオブ酸、ペンタエトキシニオブ、塩化ニオブ等を挙げることができる。分散液に含まれるニオブ原料としては、例えばニオブ酸、ペンタエトキシニオブ、塩化ニオブ等を挙げることができる。液媒体は、例えば水を含んでいればよく、水に加えてアルコール、過酸化水素水、アンモニア水等を含んでいてもよい。液媒体におけるニオブ原料の濃度は、例えば0.5質量%以上3質量%以下とすることができる。
【0072】
第1熱処理物に接触させるニオブ原料に含まれるニオブ原子の総モル数は、第1熱処理物に含まれるリチウム以外の金属原子の総モル数に対して、例えば、0.1モル%以上5モル%以下であり、好ましくは0.5モル%以上3モル%以下である。
【0073】
第1熱処理物とニオブ原料の接触温度は、例えば20℃以上200℃以下であり、好ましくは40℃以上150℃以下とすることができる。接触時間は、例えば30分以上180分以下であり、好ましくは30分以上120分以下である。
【0074】
ニオブ原料を含む液媒体と接触させた後に、必要に応じて、ニオブ付着複合酸化物に対して濾別、水洗、乾燥等の処理を行ってもよい。
【0075】
第2熱処理工程
第2熱処理工程では、第2付着工程で得られるニオブ付着複合酸化物を、300℃を超えて500℃未満の所定の温度で熱処理して第2熱処理物を得る。
【0076】
第2熱処理に供されるニオブ付着複合酸化物は、リチウム化合物との混合物であってもよい。すなわち、製造方法は、熱処理工程の前に、ニオブ付着複合酸化物とリチウム化合物とを混合して混合物を得る混合工程を含んでいてよい。
【0077】
コバルト付着複合酸化物と混合するリチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム等を挙げることができる。リチウム化合物の添加量は、付着工程で付着させたニオブ量に対してリチウムとニオブのモル比(Li:Nb)が、例えば0.95から1.50:1、好ましくは1.00から1.30:1となるように混合する。混合は、例えば高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
【0078】
ニオブ付着複合酸化物の第2熱処理の温度は、例えば300℃を超えて500℃未満である。第2熱処理温度は、好ましくは320℃以上、より好ましくは340℃以上である。また第2熱処理温度は、好ましくは450℃以下、より好ましくは400℃以下である。第2熱処理の時間は、例えば1時間以上20時間以下であり、好ましくは3時間以上10時間以下である。第2熱処理の雰囲気は、例えば酸素を含む雰囲気であり、大気雰囲気であってよい。
【0079】
第2熱処理後の熱処理物は、必要に応じて、解砕、粉砕、分級操作、整粒操作等の処理を行ってもよい。
【0080】
以上のようにして得られる第2熱処理物は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、コバルト濃度勾配を有し、その粒子表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む二次粒子表面を有する。すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物においては、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、二次粒子表面からの深さが60nm近傍である第1領域において0以上であり、二次粒子表面からの深さが10nm近傍である第2領域において0.15以上となっている。第1領域は二次粒子表面からの深さが、例えば50nmから70nmとすることができ、第2領域は二次粒子表面からの深さが、例えば5nmから15nmとすることができる。
【0081】
二次電池用正極活物質
二次電池用正極活物質は、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対する、ニッケルのモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対する、コバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満である組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、その粒子表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む二次粒子表面を有し、前記二次粒子表面からの深さが60nm付近である領域を第1領域、前記被覆部表面から10nm付近の領域を第2領域としたときに、第1領域よりも第2領域の方が高いコバルト濃度を有する。
【0082】
組成におけるニッケルのモル数の比が特定の範囲にある第1領域及び第2領域を有し、第2領域におけるコバルト濃度が第1領域におけるコバルト濃度よりも高く、ニオブ化合物を含む二次粒子表面を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含んでなる正極活物質は、これを含んで構成される全固体二次電池において、高い充放電容量と優れた出力特性を達成することができる。これは例えば、組成におけるニッケルのモル数の比を大きくすることで充放電容量が高くなる反面、リチウムイオン伝導性が低下してしまうことを、第2領域において高いコバルト濃度を有することで軽減しているためと考えられる。さらに二次粒子表面にニオブ化合物を有することで固体電解質との間に高抵抗層が形成されるのを防ぐことができる。
【0083】
ニオブ化合物に含まれるニオブ原子のモル量の比は、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属原子の総モル数に対して0.1モル%以上であってよい。固体電解質との副反応を抑えるという観点から0.5モル%以上、より好ましくは0.8モル%以上含まれていてよい。ニオブ化合物に含まれるニオブ原子のモル量の比はリチウム遷移金属複合酸化物の総モル数に対して5モル%以下であってよく、抵抗および容量の観点から4モル%以下、より好ましくは3モル%以下含まれていてよい。
【0084】
ニオブ化合物としては、ニオブ酸リチウム等が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子表面が、ニオブ酸リチウム等のニオブ化合物で被覆されることにより、リチウム遷移金属複合酸化物と硫化物固体電解質との界面での高抵抗層の形成を防ぐ効果が得られ、出力の向上が期待される。さらにリチウム遷移金属複合酸化物と硫化物固体電解質との副反応を抑えることで正極の劣化を抑え、サイクル特性の向上等も見込める。
【0085】
ニオブ化合物の厚さは、例えば30nm以下であってよく、抵抗および容量の観点から20nm以下であることが好ましい。
【0086】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、既述の製造方法におけるニオブ原料を付着させる前のリチウム遷移金属複合酸化物の組成に付着させたニオブ原料を加味した組成と考えることができる。
【0087】
正極活物質を構成するリチウム遷移金属複合酸化物では、第2領域においてコバルトが偏在して、その濃度が高くなっている。第2領域におけるコバルトの存在形態は明確ではないが、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物の第2領域にコバルトが固溶している形態、コバルト酸リチウム等のコバルト化合物が第2領域に存在する形態等が考えられる。これにより、かかる正極活物質を用いて電池を構成する場合に出力特性を向上させることができる。この理由は定かではないが、一例として以下の様に推察できる。コバルトの存在形態の一様態として、第2領域においてコバルト酸リチウムとして存在する場合に、コバルト酸リチウムのリチウムイオン伝導性は、ニッケル比率の高い第1領域やニオブ化合物による被覆部よりも高いため、正極活物質全体としてのリチウムイオンの拡散が行われやすくなり出力特性が改善することが考えられる。
【0088】
コバルトが二次粒子の第2領域に偏在することによる出力特性の向上効果は、一次粒子が多数凝集して構成され、D50/DSEMが4より大きい、いわゆる凝集粒子の場合に比べて、D50/DSEMが4以下である単粒子の場合においてより効果的に奏される。これは例えば以下のように考えられる。凝集粒子では三次元的な粒界ネットワークが形成されるため、粒界伝導によって出力特性が向上すると考えられる。一方、単粒子では、粒界伝導を十分に利用することが難しいところ、粒子の第2領域に偏在するコバルトによるリチウム伝導性の向上がより効果的に奏されるため出力特性がより向上すると考えることができる。
【0089】
リチウム遷移金属複合酸化物は、20個を越える複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されていてもよいが、10個以下の一次粒子で構成される二次粒子からなる粒子、いわゆる単粒子の形態で構成されていることが好ましい。単粒子形態であるリチウム遷移金属複合粉体は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の、電子顕微鏡(SEM)観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが1以上4以下であってよい。
【0090】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の、D50/DSEMが、例えば1以上4以下であり、出力密度の観点から、3.5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、特に2以下が好ましい。D50/DSEMが1に近い値であるほど、第1領域よりも第2領域の方が高いコバルト濃度を有する場合の出力特性改善の効果がより顕著になることが期待できる。電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEM及び50%粒径D50の測定方法ついては既述の通りである。
【0091】
リチウム遷移金属複合酸化物においては、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、耐久性の観点から、例えば0.1μm以上20μm以下である。電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、出力密度及び極板充填性の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下が更に好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0092】
リチウム遷移金属複合酸化物の50%粒径D50は、例えば1μm以上30μm以下であり、1.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、また出力密度の観点から10μm以下が好ましく、5.5μm以下がより好ましい。
【0093】
リチウム遷移金属複合酸化物のD90/D10は、例えば4以下であってよく、出力密度の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。D90/D10は、例えば1.2以上である。
【0094】
リチウム遷移金属複合酸化物では、二次粒子表面からの深さが60nm近傍である第1領域におけるリチウム以外の金属の総モル数に対する、ニッケルのモル数の比(以下、単に「ニッケル比」ともいう)が、例えば0.5以上であり、好ましくは0.7以上である。第1領域のニッケル比は、例えば1以下であり、好ましくは0.95以下である。また、二次粒子表面からの深さが10nm近傍である第2領域におけるニッケル比は、例えば0.8以下であり、好ましくは0.6以下である。さらに、第2領域のニッケル比を第1領域のニッケル比で除した値は、例えば1未満であり、好ましくは0.9以下または0.8以下である。また、第2領域のニッケル比を第1領域のニッケル比で除した値は、例えば0.3以上であり、好ましくは0.4以上または0.5以上である。第1領域及び第2領域のニッケル比が前記の範囲であると、第2領域がCo濃度勾配を有する場合に、出力向上の効果がより顕著にみられる。
【0095】
さらにリチウム遷移金属複合酸化物では、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比(以下、単に「コバルト比」ともいう)が、第1領域よりも第2領域において大きくなっている。第1領域のコバルト比は、例えば0以上であり、好ましくは0.02以上である。第1領域のコバルト比は、例えば0.5以下であり、好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.2以下であり、更に好ましくは0.1以下であり、特に好ましくは0.05以下である。また、第2領域のコバルト比は、例えば0.1以上であり、好ましくは0.2以上である。第2領域のコバルト比は、例えば0.5以下である。第1領域のコバルト比と第2領域のコバルト比の合計で第2領域のコバルト比を除した値は、例えば1より大きくてよく、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。
【0096】
第1領域及び第2領域におけるニッケル比及びコバルト比は、リチウム遷移金属複合酸化物の断面において、SEM-EDXを用いて線分析を行うことで算出することができる。
【0097】
リチウム遷移金属複合酸化物では、二次粒子表面から二次粒子内部にかけてコバルト比が連続的または不連続的に減少していてよい。第1領域及び第2領域におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比の差を、第1領域及び第2領域の表面からの深さの差で除した値の絶対値であるコバルトの濃度傾斜は、例えば、0.0002(nm-1)以上でよく、好ましくは0.001以上であり、より好ましくは0.002以上である。第1領域及び第2領域の表面からの深さの差で除した値の絶対値であるコバルトの濃度傾斜は例えば0.2(nm-1)以下でよく、好ましくは0.08(nm-1)以下であり、より好ましくは0.04(nm-1)以下である。具体的に、コバルトの濃度傾斜は、第2領域におけるコバルト比から第1領域におけるコバルト比を差し引いた値を、第1領域の表面からの深さから第2領域の表面からの深さを差し引いた値で除して求められる。
【0098】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、既述の製造方法におけるコバルト原料を付着させる前のリチウム遷移金属複合酸化物の組成に付着させたコバルト原料を加味した組成と考えることができる。
【0099】
リチウム遷移金属複合酸化物の表面組成におけるニオブ化合物の均一性については、SEMEDXのデータを分析することで、SED標準偏差という指標を用いて評価できる。具体的な測定方法については後述するが、SED標準偏差の値が低いほど、リチウム遷移金属複合酸化物の表面におけるニオブ化合物がより均一に分布するため好ましい。ニオブ化合物が均一に分布すると、ニオブ化合物による被覆が過不足なく行われるため、露出部分の固体電解質との副反応や、過剰被覆部分における伝導度の低下などを防ぐ効果が期待できる。SED標準偏差は6以下であってよく、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下であってよい。
【0100】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば0.5以上1未満である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、好ましくは0.6以上であり、より好ましくは0.7以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、好ましくは0.95以下であり、より好ましくは0.92以下であり、特に好ましくは0.9以下である。ニッケルのモル比が上述した範囲であると、全固体二次電池において、高電圧時の充放電容量とサイクル特性の両立を達成することができる。上記ニッケルのモル数の比は、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析装置により正極活物質の金属組成比を分析することにより求められる。
【0101】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0以上であり、出力特性の点から、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.03以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は例えば0.5以下であり、充放電容量の点から好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.2以下である。
【0102】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、マンガン及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素M1を更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物が金属元素M1を含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するM1のモル数の比は、例えば0より大きくてよく、安全性の点から、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.05以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するM1のモル数の比は例えば0.5以下であり、充放電容量の点から好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.3以下である。
【0103】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、スズ、バリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリウム、タンタル、タングステン、ビスマス等からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素M2を更に含む。リチウム以外の金属の総モル数に対するM2のモル数の比は、例えば0より大きくてよく、好ましくは0.005以上、特に好ましくは0.01以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するM2のモル数の比は例えば0.1以下であり、好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.03以下である。
【0104】
M2はニオブを含んでおり、リチウム遷移複合酸化物におけるリチウム以外の金属の総モル数におけるニオブのモル数の比は、出力特性の観点から0.005以上が好ましく、初期容量の観点から0.03以下が好ましい。
【0105】
M2がジルコニウムを含む場合、リチウム遷移複合酸化物におけるリチウム以外の金属の総モル数におけるジルコニウムのモル数の比は、出力特性の観点から0.001以上0.01以下であってよく、0.002以上0.005以下であってよい。
【0106】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば0.95以上1.5以下であり、好ましくは1以上1.3以下である。
【0107】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物を組成として表すと、例えば下式で表される組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
LipNixCoyM1
zM2
wO2
0.95≦p≦1.5、0.5≦x<1、0.01≦y<0.5、0≦z<0.5、0<w≦0.1、x+y+z+w≦1、M1はAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2はB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0108】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物は、二次電池における初期効率の観点から、X線回折法により求められるニッケル元素のディスオーダーが4.0%以下であることが好ましく、2.0%以下がより好ましい。ニッケル元素のディスオーダーについては既述の通りである。
【0109】
正極活物質のタップ密度は、1.7g/cm3以上であると体積エネルギー密度が十分高くなるので好ましい。より好ましいのは2.0g/cm3以上である。上限は正極活物質が粉体として取り得る値であれば特に存在しない。現実的には2.5g/cm3程度が上限と言える。
【0110】
正極活物質の比表面積は、例えば、0.2m2/g以上3.0m2/g以下であり、好ましくは0.3m2/g以上2.0m2/g以下である。比表面積が前記の範囲であると、正極活物質と電解質との接触面積が増えることで出力が向上しやすい。正極活物質の比表面積はBET法により測定される。
【0111】
正極活物質の体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の10%粒径D10に対する比は、粒度分布の広がりを示し、値が小さいほど粒子の粒径がそろっていることを示す。D90/D10は、例えば4以下であってよく、出力密度の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。D90/D10は、例えば1.2以上であってよい。
【0112】
正極活物質のD50/DSEMは、耐久性の観点から、1以上4以下が好ましく、出力密度の観点から、3.5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、特に2以下が好ましい。
【0113】
(固体電解質)
正極層は固体電解質を含有することが好ましい。正極活物質に固体電解質を混合して得られる正極層は、より高いイオン伝導度を示す傾向にある。固体電解質としては例えば、硫化物系、酸化物系、ハロゲン系等の固体電解質が報告されている。
【0114】
硫化物固体電解質の結晶構造としては、例えば、Thio-LISICON型結晶構造、LGPS型結晶構造、アルジロダイト型結晶構造などが挙げられる。
【0115】
正極層における固体電解質の割合は、例えば1重量%以上であり50重量%以下であってよい。また、5重量%以上40重量%以下であってよく、10重量%以上30重量%以下であってよい。
【0116】
(全固体二次電池用正極)
全固体二次電池用正極は、集電体と、集電体上に配置され、前記製造方法で製造される全固体二次電池用正極活物質を含む正極活物質層とを備え、これに係る電極を備える全固体二次電池は、高い出力特性を達成することができる。
【0117】
集電体の材質としては例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。正極活物質層は、上記の正極活物質、導電材、結着剤等を溶媒と共に混合して得られる正極合剤を集電体上に塗布し、乾燥処理、加圧処理等を行うことで形成することができる。導電材としては例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等が挙げられる。結着剤としては例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等が挙げられる。
【0118】
(全固体二次電池)
全固体二次電池は、上記固体系電解質二次電池用正極を備える。全固体二次電池は、全固体二次電池用正極に加えて、負極、固体電解質等を備えて構成される。全固体二次電池二次電池における、負極、固体電解質等については例えば、WO2018/038037、特開2022-25903号公報、特開2018-125214号公報(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等に記載された、全固体二次電池用のためのものを適宜用いることができる。
【0119】
本開示にかかる発明は、例えば以下の態様を包含してよい。
[1]層状構造を有し、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合粉体を準備することと、前記リチウム遷移金属複合粉体と、コバルト原料とを接触させてコバルト付着複合酸化物を得ることと、前記コバルト付着複合酸化物を、600℃を超えて800℃未満の温度で第1熱処理して第1熱処理物を得ることと、前記第1熱処理物と、ニオブ原料とを接触させてニオブ付着複合酸化物を得ることと、前記ニオブ付着複合酸化物を、300℃を超えて500℃未満の温度で第2熱処理して第2熱処理物を得ることと、を含む二次電池用正極活物質の製造方法。
【0120】
[2]前記リチウム遷移金属複合粉体は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下である[1]に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0121】
[3]前記リチウム遷移金属複合粉体は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上1未満である[1]又は[2]に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0122】
[4]前記コバルト付着複合酸化物を得ることにおいて、前記リチウム遷移金属複合粉体と前記コバルト原料を乾式で混合することを含む[1]から[3]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0123】
[5]前記コバルト付着複合酸化物を得ることにおいて、前記コバルト原料に含まれるコバルト原子の総モル量が、前記リチウム遷移金属複合粉体に含まれるリチウム以外の金属原子の総モル量に対して1モル%以上20モル%以下である[1]から[4]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0124】
[6]前記コバルト原料は、酸化コバルトである[1]から[5]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0125】
[7]前記第1熱処理の温度が650℃以上750℃以下である[1]から[6]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0126】
[8]前記ニオブ付着複合酸化物を得ることにおいて、前記ニオブ原料に含まれるニオブ原子の総モル量が、前記第1熱処理物に含まれるリチウム以外の金属原子総モル量に対して、0.1モル%以上5モル%以下である[1]から[7]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0127】
[9]前記第2熱処理の温度が350℃以上450℃以下である[1]から[8]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0128】
[10]前記ニオブ付着複合酸化物は、前記第1熱処理物と前記ニオブ原料を含む溶液を接触させて得ることを含む[1]から[9]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0129】
[11]前記ニオブ原料は、ニオブ酸であることを含む[1]から[10]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0130】
[12]前記リチウム遷移金属複合粉体は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上0.8未満である[1]から[11]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0131】
[13]前記リチウム遷移金属複合粉体は、表面溶出分析によって求められる表面組成について、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル数の比が0.15以上0.5以下である[1]から[11]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【0132】
[14]前記リチウム遷移金属複合粉体は、下式で表される組成を有する[1]から[13]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
LipNixCoyM1
zM2
wO2
(0.95≦p≦1.5、0.5≦x<1、0≦y<0.5、0≦z<0.5、0≦w≦0.1、x+y+z+w≦1、M1はAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2はB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
【0133】
[15]層状構造を有し、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.5以上1未満であり、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル数の比が0.01以上0.5未満である組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、その粒子表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む二次粒子表面を有しており、前記二次粒子表面からの深さが60nm付近である領域を第1領域、前記二次粒子表面から10nm付近の領域を第2領域としたときに、第1領域よりも第2領域の方が高いコバルト濃度を有する二次電池用正極活物質。
【0134】
[16]前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上1未満である[15]に記載の二次電池用正極活物質。
【0135】
[17]前記リチウム遷移金属複合酸化物は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であることを含む[15]又は[16]に記載の二次電池用正極活物質。
【0136】
[18]前記第1領域及び第2領域におけるリチウム以外の金属原子の総モル数に対するコバルト原子のモル数の比の差を、前記第1領域及び第2領域の表面からの深さの差で除した差の絶対値が0.001(nm-1)以上0.08(nm-1)以下である[15]から[17]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質。
【0137】
[19]前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル数の比が0.6以上0.8未満であり、
前記二次粒子表面は、SEMEDX測定によって求められるニオブについてのSED標準偏差が5.0以下である[15]から[18]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質。
【0138】
[20]前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下式(1)で表される組成を有する[15]から[19]のいずれかに記載の二次電池用正極活物質。
(1)LipNixCoyM1
zM2
wO2
(0.95≦p≦1.5、0.5≦x<1、0.01≦y<0.5、0≦z<0.5、0<w≦0.1、x+y+z+w≦1、M1はAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2はB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
【0139】
[21][20]に記載の二次電池用正極活物質を含む正極活物質層を備える二次電池用正極。
【0140】
[22][21]に記載の二次電池用正極と、負極と、電解質とを備える二次電池。
【実施例0141】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0142】
(参考例1)
組成式:Li1.05Ni0.887Co0.03Mn0.07Al0.01Zr0.003O2で表される組成を有するリチウム遷移金属複合粉体を公知の方法により準備した。Li以外の金属元素の組成比を表1に示す。
【0143】
(実施例1)
(第1付着工程及び第1熱処理工程)
上記参考例1で準備したリチウム遷移金属複合粉体1000gと酸化コバルト(Co3O4)17.6gを乾式ミキサーで5分間混合した。用いた酸化コバルトに含まれるコバルト原子のモル数は、リチウム遷移金属複合粉体に含まれるリチウム以外の金属原子の総モル数に対して2.0%であった。その後酸素雰囲気下、705℃で6時間熱処理をすることで組成式Li1.03Ni0.866Co0.051Mn0.07Al0.01Zr0.003O2で表される組成を有する第1熱処理物を得た。
【0144】
(第2付着工程及び第2熱処理工程)
溶媒としての水にニオブ酸(Nb
2O
5・H
2O)、アンモニア(NH
3)、過酸化水素(H
2O
2)を溶解させニオブ水溶液を得た。このニオブ水溶液中のニオブの濃度は0.11mol/L、アンモニアの濃度は0.44mol/L、過酸化水素の濃度は2.4mol/Lであった。転動流動層乾燥機に上記で得られたコバルト付着複合酸化物1000gを仕込み、風量:0.7m
3/hr、設定温度:140℃で流動させ、9g/minの流速で上記ニオブ水溶液の噴霧液を100分間噴霧した。その後、風量:0.7m
3/min、設定温度:140℃で10分流動化させて乾燥させた後、得られた複合酸化物を大気雰囲気下、350℃で5時間、熱処理を行い、組成式:Li
1.02Ni
0.856Co
0.051Mn
0.07Al
0.01Zr
0.003Nb
0.01O
2で表される組成を有する実施例1に係る正極活物質を得た。Li以外の金属元素の組成比を表1に示す。なお組成式のCoは、第2領域のCoも含むものとする。得られた正極活物質のSEM画像について
図1に示す。
【0145】
(比較例1)
付着工程1及び熱処理工程1を行わない以外は実施例1と同様にして正極活物質及び電池を作成した。Li以外の金属元素の仕込みの組成比を表1に示す。
【0146】
【0147】
実施例2
準備するリチウム遷移金属複合粉体がLi1.02Ni0.708Co0.081Mn0.202Al0.005Zr0.003O2で表されることと、第1熱処理工程の温度が660℃であること以外は実施例1と同様にして、組成式Li1.03Ni0.688Co0.0981Mn0.196Al0.005Zr0.003Nb0.01O2で表される、実施例2に係る正極活物質を得た。
【0148】
実施例3
第1熱処理工程の温度が700℃であること以外は実施例2と同様にして、組成式Li1.03Ni0.688Co0.0981Mn0.196Al0.005Zr0.003Nb0.01O2で表される、実施例3に係る正極活物質を得た。
【0149】
実施例4
第1熱処理工程の温度が740℃であること以外は実施例2と同様にして、組成式Li1.03Ni0.688Co0.0981Mn0.196Al0.005Zr0.003Nb0.01O2で表される、実施例4に係る正極活物質を得た。
【0150】
実施例5
準備するリチウム遷移金属複合粉体がLi1.02Ni0.723Co0.063Mn0.202Al0.005Zr0.003O2で表されることと、第1付着工程で用いる酸化コバルトの量が35.6gであること以外は実施例3と同様にして、組成式Li1.03Ni0.688Co0.0981Mn0.196Al0.005Zr0.003Nb0.01O2で表される、実施例5に係る正極活物質を得た。
【0151】
実施例6
第1熱処理工程の温度が740℃であること以外は実施例5と同様にして、組成式Li1.03Ni0.688Co0.0981Mn0.196Al0.005Zr0.003Nb0.01O2で表される、実施例6に係る正極活物質を得た。
【0152】
実施例7
準備するリチウム遷移金属複合粉体がLi1.00Ni0.739Co0.047Mn0.212Al0.005Zr0.003O2で表されることと、第1付着工程で用いる酸化コバルトの量が54.6gであること以外は実施例6と同様にして、組成式Li1.01Ni0.688Co0.0981Mn0.196Al0.005Zr0.003Nb0.01O2で表される、実施例5に係る正極活物質を得た。
【0153】
比較例2
準備するリチウム遷移金属複合粉体がLi1.08Ni0.700Co0.10Mn0.20Al0.005Zr0.003O2で表されること以外は比較例1と同様にして、組成式Li1.00Ni0.739Co0.047Mn0.212Al0.005Zr0.003O2で表される、比較例2に係る正極活物質を得た。
【0154】
参考例2
組成式Li1.08Ni0.700Co0.10Mn0.20Al0.005Zr0.003O2の正極活物質を準備した。Coコート及びNbコートは行わなかった。
【0155】
実施例2から実施例7及び比較例2について、リチウム比、Coコート量、Nbコート量を表2に示す。
【0156】
【0157】
(SED標準偏差の評価)
実施例2、実施例3、実施例4、実施例6、実施例7及び比較例2で得られた各正極活物質に対して、FlatQuad(Bruker社製)を用いたSEM-EDX測定を行った。測定電圧は5kVとし、50μm厚のAl箔を1000倍の倍率で定性分析した際にカウント数の最大値が1850±100cpsとなる電流値/z座標に設定した。マッピング測定時の解像度は640×480pixcelsとした。1画面に入る粒子数が1000~3000個となる倍率で、計測時間を8192μsec/pixelsの条件でマッピング測定を行った。測定後、EDX測定の生データ(Nb,O)をCSV形式にテキスト化した。まず酸素のマッピング結果を用いて粒界分離を行った。ヒストグラムに見える2つの山の間の最小値を閾値として2値化後、ウォーターシェッド法で重なりを分離した。得られた画像で粒子解析を実行し、各粒子の輪郭データを取得した。酸素のマッピング像から得られた輪郭データを用いてNbのマッピング像について各粒子についての粒子解析を行い、各粒子の面積(ピクセル)と平均GRAYレベルを取得した。得られた結果を横軸に平均グレイレベル、縦軸にピクセル数となるヒストグラムを作成した。グレイレベルの分割は、ステップ幅は分布が20分割内に収まる程度とした。ヒストグラムから平均値と標準偏差を求め、平均値を膜厚平均、標準偏差を粒子間の偏りとして、これをNbの均一性についての評価指数SED標準偏差とした。実施例1及び比較例1についてのマッピング前のSEM画像を
図1及び
図2に、Nbのマッピング像についてのSEM画像を
図3及び
図4に、SED標準偏差の算出結果を表3に示す。
【0158】
表面組成分析
実施例2、実施例3、実施例4、実施例6、実施例7及び比較例2で準備したリチウム遷移金属複合粉体について下記の手順で表面組成を求めた。
(1)ポリビーカーにリチウム遷移金属複合粉体を0.20g精秤した。
(2)クエン酸およびクエン酸三ナトリウムからなり、pHが5.8であり、20℃に保った緩衝溶液10mLを前記ポリビーカー加えた。
(3)前記緩衝溶液の温度を20℃に保ちつつスターラーで4分間撹拌することで、前記リチウム遷移金属複合粉体の表面の金属が溶出した溶出液を得た。
(4)前記溶出液を、シリンジフィルターを装着したプラスチックシリンジを用いてろ過することでろ液を得た。
(5)前記ろ液1mLに対して、6MのHClを0.5mL加えた後に純水で50mLに希釈して希釈液を得た。
(6)前記希釈液についてICP測定を行うことで前記リチウム遷移金属複合粉体の表面組成を求めた。
なお、コバルト比(Co/Me)は、リチウム以外の金属成分の合計のモル数に対するコバルトのモル比とし、ニッケル比(Ni/Me)は、リチウム以外の金属成分の合計モル数に対するニッケルのモル比とし、マンガン比(Mn/Me)は、リチウム以外の金属成分の合計のモル数に対するマンガンのモル比とした。結果を表3に示す。
【0159】
【0160】
リチウム遷移金属複合粉体の表面組成において、Co/Meが高い方がSED標準偏差が低い、つまりニオブ化合物による被覆の均一性が高い結果となった。これはCoコートによりリチウム遷移金属複合粉体の表面の余剰リチウムによるアルカリ成分が減少し、Nb化合物のアルカリ成分による凝集が抑えられたためと考えられる。
【0161】
(固体電解質)
平均粒径が10μmであり、Li5.4PS4.4Cl1.6の組成を持つアルジロダイト型の硫化物を固体電解質として使用した。
【0162】
実施例1及び比較例1で得られた正極活物質70質量部、固体電解質27質量部および気層法炭素繊維であるVGCF(登録商標)3質量部を混合して、正極合材を得た。
【0163】
(評価用電池の組み立て)
内径11mmの円筒状外型に外径11mmの円柱状下型を、外型下部から挿入した。下型の上端は外型の中間に位置に固定した。この状態で外型の上部から下型の上端に固体電解質100mgを投入した。投入後、外形11mmの円柱状上型を外型の上部から挿入した。挿入後、上型の上方から50MPaの圧力をかけて、固体電解質を成形して固体電解質層とした。成形後、上型を外型の上部から引き抜き、外型の上部から固体電解質層の上部に正極合材20mgを投入した。投入後、再度上型を挿入し、今度は600MPaの圧力をかけて正極合材を成形して正極活物質層とした。成形後、上型を固定し、下型の固定を解除して外型の下部から引き抜き、下型の下部から固体電解質層の下部に負極活物質であるLiAl合金を投入した。投入後、再度下型を挿入し、下型の下方から50MPaの圧力をかけて負極活物質を成形して負極活物質層とした。圧力をかけた状態で下型を固定し、上型に正極端子、下型に負極端子を取り付け、評価用の全固体二次電池を得た。
【0164】
(DSEM測定)
以下の手順に従って実施例1、比較例1,参考例1及び参考例2に係る正極活物質についてのDSEMを求めた。
〈1〉走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ、SU8230)を用い、粒子の輪郭が確認できる二次粒子が10個以上20個以下となるような倍率に設定した。具体的には、加速電圧を1.5kV、倍率を4000倍とした。このとき、粒径がD10の半分未満である二次粒子については個数に含めなかった。
〈2〉上記の倍率で映った、粒径がD10の半分以上であるすべての二次粒子について、それぞれを構成する一次粒子に対して画像処理ソフトウエア(ImageJ)を用いて、一次粒子の輪郭をトレースすることで輪郭長を求める。輪郭長から球換算径を算出した。
〈3〉粒径を算出した一次粒子の個数が100個を超えるまで上記〈1〉、〈2〉を繰り返し、得られた球換算径の算術平均値として、平均粒径DSEMが求めた。また、DSEMに対するD50の比も求めた結果を表4に示す。
【0165】
【0166】
それぞれの正極活物質について、BET比表面積測定装置(マウンテック社製:Macsorb)を用い、窒素ガスを用いたガス吸着法(1点法)でBET比表面積を測定した。結果を表5に示す。
【0167】
(粒径評価)
各正極活物質について、以下のようにして物性値を測定した。レーザー回折式粒径分布測定装置((株)島津製作所製SALD-3100)を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定し、小径側からの累積50%に対応する粒径としてD50を、同様に累積10%に対応する粒径としてD10を、累積90%に対応する粒径としてD90を求め、得られた値からD90/D10を求めた。結果を表5に示す。
【0168】
(タップ密度)
タップ密度の測定には、タッピング式粉体減少度測定器TPM-3P(筒井理化学器械)を用いた。測定容器にはとしての20mLメスシリンダーに各正極活物質を20g入れて、震盪回数を150回に設定し、震盪後の体積密度をタップ密度として求めた。結果を表5に示す。
【0169】
(ニッケルディスオーダー、結晶性の測定)
実施例1、比較例1および参考例で得られたそれぞれの正極活物質についてCuKα線によりX線回折スペクトル(管電流200mA、管電圧45kV)を測定した。また、結晶性は、測定したX線回折スペクトルより得られる格子面(104)面起因のピーク位置と積分幅をシェラー式に代入して算出した。リチウム遷移金属複合酸化物におけるニッケル元素のディスオーダーは、組成モデルを(Li1-dNid)(NixCoyMnz)O2(x+y+z=1)とし、得られたX線回折スペクトルに基づいて、リートベルト解析による構造最適化を行うことで求めた。構造最適化の結果として算出される上記組成モデルのdの百分率をニッケル元素のディスオーダーの値とした。得られた結果を表5に示す。
【0170】
(Nb含有量の測定)
実施例1及び比較例1で得られた正極活物質について、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES;PerkinElmer社製)を用いてNbの含有量を測定した。求められた正極活物質中のNbの質量含有率を表5に示す。
【0171】
(正極活物質の未反応リチウムの測定)
実施例1、比較例1及び参考例で得られた正極活物質に対する未反応リチウムの測定は以下の様に行った。まず、正極活物質それぞれ10g採取し、蓋付容器に入れ、純水50mLを加え、蓋をして60分撹拌した。静置後、上澄み液をろ過した。前記ろ液に対して、0.025mol/Lの硫酸標準溶液で滴定を行い、pHが8付近の変曲点を第1終点とし、pH=4付近の変曲点を第2終点とした。第1終点と第2終点の滴定値からWarder法の原理に基づきLiOH量及びLi2CO3量を算出した。得られた結果を表5に示す。
【0172】
【0173】
実施例1は比較例1及び参考例に比べるとLiOH量及びLi2CO3量が少なくなっている。これは酸化コバルトが粒子表面の余剰リチウムと反応したことにより消費されたためと考えられる。
【0174】
(SEM-EDX線分析)
実施例1で得られた正極活物質をそれぞれエポキシ樹脂に分散させ固化した後、クロスセクションポリッシャ(日本電子製)を用いて、正極活物質の二次粒子の断面出しを行って測定サンプルを作製した。断面出しを行った測定サンプルについて、走査型電子顕微鏡(SEM)/エネルギー分散型X線分析(EDX)装置(日立ハイテクノロジーズ社製;加速電圧3kV)にて線分析を行って表面領域及び内部領域の組成分析を行った。表面領域におけるSEM画像を
図1に、ライン分析による組成分析の結果を
図2に、分析結果から求められるCoの濃度勾配についての結果を表6にそれぞれ示す。
【0175】
【0176】
(インピーダンス測定)
評価用の全固体二次電池を充電して、充電率(SOC)50%の状態に設定した。25℃で交流電源に接続し、交流インピーダンス法による抵抗測定を行った。交流電源の周波数は1MHzから0.1Hzまで対数的に変化させた。等価回路を仮定し、最小二乗法によるフィッティングにより1000Hz以上5000Hz以下の周波数範囲に現れる円弧の直径を正極活物質由来の抵抗(正極/電解質界面のインピーダンスにおける抵抗成分)とした。結果を表7に示す。
【0177】
(充放電評価)
作製した評価用電池について、充放電試験装置(TOSCAT-3100、東洋システム株式会社製)を用いて、2.2Vから4.0Vの条件にて充放電を行った。放電電流は0.1C容量を取り出すときの電流値を流し、設定電圧に達した後はその電圧を一定に保つように電流を流し、電流値が0.02C相当になった時点で充放電を終了とした。得られた充電容量、放電容量及び充放電効率を表7に示す。
【0178】
【0179】
表7の結果より、比較例1に比べて実施例1はインピーダンスが低くなっていた。これは実施例1に係る正極活物質は第2領域を有することでCo濃度勾配を有しており、これにより抵抗が改善されたと考えられる。充電容量、放電容量及び充放電効率において実施例1が比較例1を上回っており、これは抵抗が下がったことで過電圧が下がったことに起因すると考えられる。