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  • 特開-熱交換器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073720
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28D 19/02 20060101AFI20240523BHJP
   F28D 7/16 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
F28D19/02
F28D7/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184578
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】500561931
【氏名又は名称】JFEプロジェクトワン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】本間 陽子
(72)【発明者】
【氏名】小山 斎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】山地 敬之
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA37
3L103CC35
3L103DD08
3L103DD42
(57)【要約】
【課題】熱交換効率が高く、安価なシェル&チューブ型の熱交換器を得る。
【解決手段】
この熱交換器はシェル&チューブ型であり、大径の略円筒形状の外形を有するシェルと、その内部において複数設けられるチューブ20とを具備する。このチューブ20の内部に、球形のチューブ内粒子40が複数設けられている。チューブ内粒子40の粒径(直径)は、チューブ20の内径(直径)の1/2よりも大きく設定される。このため、チューブ20がチューブ内粒子40で閉塞されることはなく、チューブ20内部の空隙率を50%以上とすることができる。チューブ内粒子40を構成する材料としては、チューブ20を構成する材料よりも高い熱伝導率をもつ材料、チューブ20を構成する材料よりも高い比熱をもつ材料が好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が空洞化されたシェルと、前記シェルの内部に設置されたチューブとを具備し、前記シェル内における前記チューブの周囲に熱媒体が流され、前記チューブの内部にはプロセス流体が流され、前記熱媒体と前記プロセス流体との間で熱交換が行われる熱交換器であって、
前記チューブの内部において、前記チューブを構成する材料と比べて熱伝導率又は比熱が同等以上である材料で構成された複数のチューブ内粒子が、前記チューブ内をプロセス流体が流れ熱交換が行われるように、前記チューブ内に導入されたことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記プロセス流体の流れ方向と垂直の前記チューブの内部の断面形状は円形とされ、前記チューブ内粒子の等体積球相当径が前記チューブの内径の1/2よりも大きくされたことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
複数の前記チューブ内粒子は、前記チューブの延伸方向に沿って積層された構成を具備することを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記チューブ内粒子はアルミナ、ステンレス鋼、真鍮、鉄のいずれかで構成されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記チューブにおける前記プロセス流体の入口側、出口側のそれぞれに、前記プロセス流体は通過させ前記チューブ内粒子の通過を抑制するメッシュ又はデミスターが設けられたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記プロセス流体は、前記チューブの内径よりも大きな等体積球相当径をもつ複数のヘッダ内粒子が分散されたヘッダの内部を介して前記チューブに供給されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェル&チューブ型の熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器として、シェル(胴体)内に多数のチューブ(伝熱管)を設け、シェル、チューブの各々に熱媒又は冷媒を流すシェル&チューブ型のものは、伝熱面積を大きくとれること、様々な用途に適用可能であること等から、広く用いられている。このため、シェル&チューブ型の熱交換器における伝熱効率を高める技術が提案されている。
【0003】
このためには、伝熱面積が大きくなるような構造とすることが有効であり、例えば、シェル径を大きくすること、チューブの総長を長くすること等が有効である。しかしながら、シェル径を大きくした場合には、シェル内やチューブ内の熱媒体の流速が遅くなるため、これにより必ずしも伝熱効率は高くならない。また、シェル径を大きくした場合には熱交換器全体が大型化するため、適用が困難な場合もある。チューブの総長を長くする場合にも、これによって熱交換器全体の重量が増加するため、適用が困難な場合がある。
【0004】
また、シェルやチューブの構成を変えずに、熱交換器の入口における熱媒と冷媒の温度差を大きくすることによって、熱交換効率を高めることもできる。しかしながら、例えば熱媒の温度を高める場合には、シェルやチューブとして、これに耐えうる材料のものを用いることが必須となる。これによって、高価な材料を用いることが必要となり熱交換器が高価となる、あるいはこの材料の熱伝導率によっては、必ずしも熱交換効率を高めることができない場合もある。
【0005】
また、チューブ内外の構造を工夫することによって、伝熱効率を高める技術も提案されている。例えば、特許文献1には、チューブの外側に放熱用のフィンを設けた構造が記載されている。また、特許文献2、3には、チューブの内部に屈曲した構造を設けた構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】昭62-22992号公報
【特許文献2】公開実用新案昭和56-99292号
【特許文献3】公開実用新案昭和56-158786号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載の技術においては、小さな内径あるいは外径のチューブの構造を複雑にする必要があった。このため、チューブを製造するための製造コストが高くなり、熱交換器全体が高価となった。
【0008】
このため、熱交換効率が高く、安価なシェル&チューブ型の熱交換器が望まれた。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の熱交換器は、内部が空洞化されたシェルと、前記シェルの内部に設置されたチューブとを具備し、前記シェル内における前記チューブの周囲に熱媒体が流され、前記チューブの内部にはプロセス流体が流され、前記熱媒体と前記プロセス流体との間で熱交換が行われる熱交換器であって、前記チューブの内部において、前記チューブを構成する材料と比べて熱伝導率又は比熱が同等以上である材料で構成された複数のチューブ内粒子が、前記チューブ内をプロセス流体が流れ熱交換が行われるように、前記チューブ内に導入されたことを特徴とする。
本発明において、前記プロセス流体の流れ方向と垂直の前記チューブの内部の断面形状は円形とされ、前記チューブ内粒子の等体積球相当径が前記チューブの内径の1/2よりも大きくされたことを特徴とする。
本発明において、複数の前記チューブ内粒子は、前記チューブの延伸方向に沿って積層された構成を具備することを特徴とする。
本発明において、前記チューブ内粒子はアルミナ、ステンレス鋼、真鍮、鉄のいずれかで構成されたことを特徴とする。
本発明は、前記チューブにおける前記プロセス流体の入口側、出口側のそれぞれに、前記プロセス流体は通過させ前記チューブ内粒子の通過を抑制するメッシュ又はデミスターが設けられたことを特徴とする。
本発明において、前記プロセス流体は、前記チューブの内径よりも大きな等体積球相当径をもつ複数のヘッダ内粒子が分散されたヘッダの内部を介して前記チューブに供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように構成されているので、熱交換効率が高く、安価なシェル&チューブ型の熱交換器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る熱交換器の構造を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る熱交換器における、チューブ内の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る熱交換器について説明する。図1は、この熱交換器1の断面構造を模式的に示す図である。この熱交換器1はシェル&チューブ型であり、大径の略円筒形状の外形を有するシェル(胴体)10と、その内部において複数(図中では3本)設けられるチューブ(伝熱管)20とを具備する。シェル10、チューブ20の内部には、共に流体である熱媒体、プロセス流体がそれぞれ流され、これらの間で熱交換が行われる。また、シェル10の上下には、それぞれヘッダ31、32が設けられる。なお、ここではチューブ20は3本のみ設けられているが、実際にはより多くのチューブ20が設けられることによって、熱媒、冷媒のうちの一方とされたシェル10内の熱媒体と、熱媒、冷媒のうちの他方とされたチューブ20内のプロセス流体との間の伝熱面積が大きく設定される。また、図においてはチューブ20は上下方向で直線的に延伸しているが、適宜屈曲した形状とされていてもよく、上下方向における流れの向きが反転するように複数個所で屈曲してもよい。プロセス流体の流れる方向(図1、2における上下方向)に垂直なチューブ20の内部の形状は円形とされる。
【0014】
シェル10の内部には、上側の第1導入口10Aから熱媒体が供給され、熱媒体は、シェル10内でチューブ20の周囲を下向きに流れた後に、下側の第1排出口10Bから排出される。一方、各チューブ20には、下側のヘッダ32における第2導入口32Aからその内部を介してプロセス流体が供給され、プロセス流体は、各チューブ20を上側に向けて流れた後に、上側のヘッダ31の内部を介して第2排出口31Aから排出される。このため、図1において、熱媒体はシェル10内を上側から下側に、プロセス流体は各チューブ20内を下側から上側に向けて流れる。この際に、熱媒体とプロセス流体との間で熱交換が行われる。
【0015】
以上の構造、動作については、従来より知られるシェル&チューブ型の熱交換器と同様である。以下に、この熱交換器1の特徴となる部分について説明する。図2は、図1における一つのチューブ20及びその内部の構造を拡大した図である。このチューブ20の内部に、球形のチューブ内粒子40が複数設けられている。チューブ内粒子40の粒径(直径)は、チューブ20の内径(直径)の1/2よりも大きく設定される。このため、図示されるようにチューブ20内でチューブ内粒子40はチューブ20の延伸方向(上下方向)に沿って積層され、チューブ20がチューブ内粒子40で閉塞されることはない。このように、この熱交換器1においては、チューブ20内に多数のチューブ内粒子40が設けられた状態でプロセス流体100がチューブ20内を流れることが要求される。このため、チューブ20内におけるチューブ内粒子40以外の部分の体積率である空隙率を一定以上の値とすることが好ましい。一方、この空隙率が100%に近い場合には後述するチューブ内粒子40による効果が小さくなる。このため、この空隙率は、例えば50%~70%の範囲、より好ましくは55%~65%の範囲である。この状態でプロセス流体100がチューブ20内を流れることができる。チューブ内粒子40を構成する材料は、例えばアルミナ(セラミックス)とされる。なお、後述するように、チューブ内粒子40は厳密に球形である必要はない。
【0016】
また、図2において、チューブ20におけるプロセス流体100の入口側(下側)、出口側(上側)のそれぞれには、プロセス流体100を透過させるがチューブ内粒子40は透過させない大きさの開口を有するメッシュ51、52がそれぞれ設置される。このため、プロセス流体100をチューブ20内で流す際に、チューブ内粒子40がチューブ20外に漏れることが抑制される。この構造によって、プロセス流体100がチューブ20内を流れるに際してはチューブ内粒子40の動きは無視できる程度であり、プロセス流体100はチューブ内粒子40の表面に沿い、全体としては下側から上側に流れる。
【0017】
また、図1において、チューブ20には、下側のヘッダ32の内部を介してプロセス流体が供給される。この際、ヘッダ32の内部において、複数のヘッダ内粒子50が分散されている。このヘッダ内粒子50の平均粒径はチューブ20の内径よりも大きくされるため、ヘッダ内粒子50がチューブ20内に侵入することは抑制される。ヘッダ内粒子50としては、チューブ内粒子40と粒径のみが異なるものを用いることができる。複数のヘッダ内粒子50は、その下側において、プロセス流体を透過させるがヘッダ内粒子50は透過させない大きさの開口を有するメッシュ61で支持される。更に、メッシュ61の下側には、プロセス流体中の異物がチューブ20側に流れることを抑制するフィルターとして機能するメッシュ状のデミスター62が設けられている。ただし、デミスター62としては、このようにプロセス流体を透過させるがヘッダ内粒子50は透過させない構成のものを適宜用いることができ、メッシュ状以外の構造のものを用いてもよい。
【0018】
この熱交換器1における熱交換効率(総括伝熱係数)は、チューブ20内にチューブ内粒子40を設けない従来の熱交換器よりも高くなる。以下にこの点について説明する。
【0019】
シェル10を流れる熱媒体が高温側であり、チューブ20を流れるプロセス流体側が低温側である場合、熱媒体の熱がチューブ20の外壁を介してチューブ20内部のプロセス流体に伝わることによって、プロセス流体は、加熱されてからチューブ20(熱交換器1)外に排出される。チューブ20の外壁は、例えばSUS(SUS304)で構成されるが、従来の熱交換器においては、熱媒体からプロセス流体との間の伝熱は、チューブ20の外壁のみを介して行われる。
【0020】
これに対して、上記の熱交換器1では、熱媒体からプロセス流体との間の伝熱は、チューブ内粒子40を介しても行われる。このため、チューブ内粒子40を構成する材料としては、チューブ20を構成する材料よりも高い熱伝導率をもつ材料が好ましい。また、チューブ内粒子を単なる熱伝導経路としてではなく、熱媒体により加熱された後にプロセス流体を加熱するための熱源と考えることもできる。この観点からは、チューブ内粒子40に蓄熱性をもたせるために、チューブ内粒子40を構成する材料としては、チューブ20を構成する材料よりも高い比熱をもつ材料が好ましい。更に、少なくともチューブ20を構成する材料と比べて、同等以上の耐熱性をもつことが好ましく、かつ、熱交換器1の軽量化の観点から、軽いことが好ましい。
【0021】
チューブ20を構成する材料は、その形態から、鋼材等が好ましく用いられ、例えばSUS304が好ましく用いられる。この場合、チューブ内粒子40を構成する材料としては、アルミナ(セラミックス)が特に好ましく用いられる。SUS304と、アルミナにおける上記の特性値を比較した結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
この結果より、アルミナは上記の要求を全て満たし、球状のもの(アルミナボール)の入手も容易であるため、特に好ましく用いることができる。しかしながら、例えばチューブ内粒子40をチューブ20と同じ材料(SUS304)で構成してもよい。この場合には、チューブ20を同一としつつ実質的に熱媒体(熱源)とプロセス流体との間の接触面積を大きくすることによって、伝熱効率を高めることができる。ただし、より安価、軽量であり粒径が定められたものを得ることが特に容易であるため、アルミナボールが特に好ましい。
【0024】
あるいは、熱伝導率、比熱のうちの少なくとも一方がチューブ20を構成する材料よりも高い材料を用いることが好ましい。この際、アルミナと同様に粒径が一定の範囲とされた球状の形態として得ることが容易である材料としては、例えば(ステンレス、真鍮、鉄)等を用いることができる。
【0025】
一方、ヘッダ32内のヘッダ内粒子50は、このような熱媒体とプロセス流体との間の熱伝導とは直接の関係はない。ただし、チューブ20に導入される前のプロセス流体を分散させて流れを均一化させるために、ヘッダ内粒子50は有効である。
【0026】
実際に上記の熱交換器1を製造し、チューブ内にチューブ内粒子を設けない従来の熱交換器と、その特性を比較した結果について説明する。ここで、図1の構成において、シェル10の内径は4インチ、チューブ20の内径は6mm(厚さ2mm)で、共にSUS304製とされた。チューブ内粒子40は、チューブの内径の1/2以上である、粒径(直径)が1/8インチの球状のアルミナ(アルミナボール)とされ、メッシュ51、52、61はそれぞれ40メッシュの金属ワイヤーメッシュとされた。この状態でのチューブ内粒子40の総表面積は、チューブ20の表面積と同等となった。すなわち、伝熱のために用いられる総表面積はチューブ内粒子40を用いない場合と比べて2倍程度となる。また、前記の空隙率は61%であった。
【0027】
デミスター62としては、H-Style Wound-Typeのものが用いられた。ヘッダ内粒子50は、チューブの内径よりも大きな、粒径が3/4インチのアルミナボールとされた。シェル10内に流す熱媒体としてはHTS(Heat Transfer Salt)が用いられ、チューブ20内に流すプロセス流体としては純水が用いられた。ただし、熱媒体としては、同様に熱伝導に寄与する流体となる他の溶融塩、サーモオイル等の熱媒油、スチーム等の蒸気、冷却水等を含む、全ての流体を用いることができ、プロセス流体としても、同様に、各種の液体、ガス体及びその混合体の全ての流動性流体を用いることができる。すなわち、熱媒体、プロセス流体としては、従来のシェル&チューブ型の熱交換器において用いられるものを適宜用いることができる。
【0028】
ここで、実施例とはこのチューブ内粒子40がチューブ20内に導入された場合であり、従来例とはチューブ内粒子40が導入されないこと以外は実施例と同様の構成とした場合である。実施例と従来例で得られた特性について、表2に示す。ここで、入口側において、熱媒体(シェル10側)が高温、プロセス流体(チューブ20側)が常温とされた。必要伝熱面積とは、プロセス流体を所定の温度とするのに必要となる伝熱面積であり、総括伝熱係数に反比例する。
【0029】
【表2】
【0030】
この結果より、実施例の方が、チューブ出口側の温度をより高く、シェル出口側の温度をより低くすることができ、より高い熱交換効率を得ることができることが確認でき、実施例では、従来例と比べて総括伝熱係数は1.4倍(必要伝熱面積は1/1.4)程度となった。なお、ここで、チューブ20内のプロセス流体の流速は0.00143m/secとなり、プロセス流体のこの速度における流れは層流(渦等が発生しない状態)とみなせる。すなわち、プロセス流体のチューブ内における流れが層流である場合には、このようにチューブ内粒子40を用いて熱交換効率を高めることができる。この際、実施例においてはチューブ内粒子40の存在によって従来例と比べて圧力損失が生じるが、この圧力損失は、チューブ内粒子を設けない従来の場合と比べて無視できる程度であった。
【0031】
上記の実施例は、実質的に、従来例となる熱交換器におけるチューブ20内にチューブ内粒子40を導入することのみによって実現でき、シェル10、チューブ20等自身の構造は従来例と変わるところがなく、例えばチューブ20としては市販のSUSチューブをそのまま用いることができる。このため、この熱交換器1を容易に得ることができる。更に、例えば上記のチューブ内粒子40として用いられるアルミナボールは安価である。このため、安価でこの熱交換器1を得ることができる。
【0032】
また、本実施の形態に係る熱交換器1と従来の熱交換器ではチューブ20内部の構造のみが異なり、熱交換器全体の形態は同一であり、熱交換器の設置に要する面積も変わらない。あるいは、従来の熱交換器と同等の熱交換特性が、本実施の形態に係る熱交換器1では、全体をより小型化して得られる。あるいは、本実施の形態に係る熱交換器1では、熱交換効率を向上させることによってシェル10やチューブ20の最大温度を低下させることができるため、これらを構成する材料として、耐熱性の低いものを用いることができ、これによって更に熱交換器を安価とすることができる。例えば、最大温度が高い場合には前記のようなSUSよりもより耐熱性の高い材料が必要となる場合があるが、最大温度を550℃以下とした場合には、前記のように安価なSUSを用いることができる。
【0033】
また、本実施の形態に係る熱交換器1ではチューブ内粒子40の分だけ従来の熱交換器と比べて重量が増加するが、表1で示されたように、例えばアルミナの比重はSUSと比べて大幅に小さく、熱交換器全体の重量に占めるチューブ内粒子40の重量の割合は非常に小さい。このため、これによる熱交換器の重量の増大も僅かであり、上記の実施例における重量の増加は、従来例に対して3%であった。
【0034】
上記の実施例は、図1に示された構造のシェル&チューブ型とされた。しかしながら、上記の結果より、シェルやチューブの形態によらず、他の形態のシェル&チューブ型の熱交換器においても、同様にチューブ内粒子を用いることによって高い熱交換効率を得ることができることは明らかである。
【0035】
また、上記の例では、チューブ内粒子40は球形であるものとされたが、同様に、チューブ内においてプロセス流体が流れることができる空隙が形成されるように収容することができる形状の粒子を用いることができる。この場合、多面体(矩形体、正12面体等)、円柱形、楕円体形状等、粒子としてとりうる形態のものを適宜用いることができる。この際、より安価に製造できる形態のものを適宜選択することができる。ヘッダ内粒子についても同様である。
【0036】
前記の例では、チューブ内粒子40が球形であったことに対応し、チューブ内粒子40の直径は、チューブの内径の1/2以上であることが好ましいとされたが、このようにチューブ内粒子が厳密に球形でない場合においても、上記と同様の構成を実現することができることは明らかである。この場合、このチューブ内粒子と同一体積の球形粒子の直径として、等体積球相当径を定義することができ、更に、粒子の数が多い場合にはその平均値を平均粒径に対応した等体積球相当径として、前記のチューブ内粒子の直径の代わりに用いることができる。すなわち、この場合には、この等体積球相当径がチューブの内径の1/2以上であることが好ましい。ヘッダ内粒子についても同様であり、前記のように、ヘッダ内粒子50の平均粒径はチューブ20の内径よりも大きく設定されることが好ましいが、このようにヘッダ内粒子が球形でない場合には、この平均粒径の代わりに、上記と同様の等体積球相当径がチューブ20の内径よりも大きく設定されることが好ましい。
【0037】
チューブの内面の断面形状についても同様であり、上記の例ではこれが円形状とされたが、多角形、楕円形状等、多数のチューブ内粒子を内部に収容した状態で第2熱媒体を流すことができる形状であれば、この形状は任意である。この場合、前記のチューブの内径の代わりに、チューブの内面の断面形状の等面積円相当径(チューブ内面の断面形状と同一面積の円の直径)を用いることができる。このため、材料に応じて、より安価に製造できる形状のチューブを用いることができる。シェルの形状は、チューブ内粒子とは無関係に、一般的にシェル&チューブ型の熱交換器として使用できるものであれば、任意である。
【0038】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0039】
1 熱交換器
10 シェル(胴体)
10A 第1導入口
10B 第1排出口
20 チューブ(伝熱管)
31、32 ヘッダ
31A 第2排出口
32A 第2導入口
40 チューブ内粒子
50 ヘッダ内粒子
51、52、61 メッシュ
62 デミスター
100 プロセス流体
図1
図2