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  • 特開-レボグルコサンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007373
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】レボグルコサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 3/10 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C07H3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098562
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022105433
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「熱化学反応制御によるバイオマスからの高機能素材合成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河本 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】レシ ピタ ロカ ギンティン
(72)【発明者】
【氏名】松尾 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】野村 高志
(72)【発明者】
【氏名】丸一 泰子
(72)【発明者】
【氏名】南 英治
(72)【発明者】
【氏名】小林 一人
(72)【発明者】
【氏名】三木 晃子
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA06
4C057AA19
4C057BB07
(57)【要約】
【課題】パルプを原料としてレボグルコサンを簡便かつ高収率、高純度で工業的に製造する方法を提供する。
【解決手段】(1)構成糖としてのグルコースの含有量が80質量%以上であり、かつクラーソンリグニンの含有量が1質量%以下であるパルプを二価金属塩水溶液で浸漬処理する工程、
(2)前記浸漬処理後のパルプを加熱して熱分解させ、気体状のレボグルコサンを生成すると共に、チャーを生成せず又はフィルム状のチャーを生成し、かつ一酸化炭素を生成せず又は生成してもその生成量が前記パルプの絶乾質量100質量部当たり5質量部以下となる加熱処理を行う工程、及び
(3)前記気体状のレボグルコサンをその沸点以下の温度まで冷却して回収する回収工程
を含むレボグルコサンの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)構成糖としてのグルコースの含有量が80質量%以上であり、かつクラーソンリグニンの含有量が1質量%以下であるパルプを二価金属塩水溶液で浸漬処理する工程、
(2)前記浸漬処理後のパルプを加熱して熱分解させ、気体状のレボグルコサンを生成すると共に、チャーを生成せず又はフィルム状のチャーを生成し、かつ一酸化炭素を生成せず又は生成してもその生成量が前記パルプの絶乾質量100質量部当たり5質量部以下となる加熱処理を行う工程、及び
(3)前記気体状のレボグルコサンをその沸点以下の温度まで冷却して回収する回収工程
を含むレボグルコサンの製造方法。
【請求項2】
前記パルプにおける構成糖としてのキシロースの含有量が5~20質量%である請求項1に記載のレボグルコサンの製造方法。
【請求項3】
前記パルプにおける構成糖としてのグルコースの含有量が95質量%以下である請求項1又は2に記載のレボグルコサンの製造方法。
【請求項4】
前記二価金属塩が、マグネシウム塩である請求項1又は2に記載のレボグルコサンの製造方法。
【請求項5】
前記浸漬処理前のパルプが脱塩処理されていない請求項1又は2に記載のレボグルコサンの製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理が、赤外線を照射して加熱するものである請求項1又は2に記載のレボグルコサンの製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理におけるパルプを加熱する時間が長くとも60秒間である請求項1又は2に記載のレボグルコサンの製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理におけるパルプ自体の温度(品温)が400~450℃になっている請求項1又は2に記載のレボグルコサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レボグルコサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材や綿花等の植物を起源とするセルロース系バイオマスは、地球上で最も豊富かつアクセスしやすいバイオマス資源であり、非可食性故に人類の歴史上、主に燃料、建築材料、衣類等の繊維、紙又は半化学合成高分子のベースポリマーとして使用されてきた。近年、セルロース系バイオマスは、石油や天然ガス等の化石資源に代わる再生資源として有用な化学物質への変換に利用することにより、地球温暖化の原因とされる大気中の二酸化炭素増加抑制に貢献することが期待されるが、現段階では十分解明・開発されていない状況である。
【0003】
セルロースは、β-グルコースが直鎖状に重合した天然高分子であり、これを変換して得られる糖類及びその無水物である糖無水物は、医薬品の合成原料等に利用可能である有用な化学物質である。もし、これらの化学物質が非可食性セルロース系バイオマスから経済的かつ合理性をもって変換可能であれば、これらの化学物質を得るために用いられている、本来食料として用いることが可能な穀物等の可食性資源の代替とすることができるだけでなく、現在も増加を続ける人類への食糧供給の観点から、その意義は非常に大きい。
【0004】
従来、前記変換技術の1つであるセルロース系バイオマスの糖化として、酸加水分解法、超・亜臨界水法及び熱分解法が知られている。ここで、酸加水分解法及び超・亜臨界水法には、廃酸処理や厳しい反応条件、糖水溶液の高濃度化が困難である点等、実用化における種々の課題が存在する。
【0005】
一方、熱分解法は、熱分解により生じたレボグルコサン等の糖無水物を再利用可能な固体酸触媒で加水分解して糖を得る手法であって、廃酸処理が不要であり、ドライ条件で行われる場合には、糖溶液の高濃度化が容易といった利点を有する。この利点を生かして、高濃度の糖溶液が好まれる発酵原料として利用することができる。
【0006】
しかし、熱分解法は、熱分解反応によりフルフラール類等の種々の揮発性生成物及び炭化物が副生することに加え、生成した糖無水物が、気相中では更に分解して一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、エチレン等のより小さな分子になるフラグメンテーションにより、液相中では重合により、二次分解を起こすことが原因となり、糖無水物を高収率で得ることが困難である。しかも、副生するアルデヒド類やフルフラール類等は、発酵阻害物質であることから、その後の発酵工程にも影響を与える。
【0007】
この課題に対処すべく、セルロース系バイオマスの熱分解による糖無水物の製造方法として、例えば、酸洗により無機物を除去したセルロース含有材料を、減圧下又は窒素フロー下、管状炉中で300~500℃の温度に加熱するレボグルコサン(1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース)の製造方法(J. Appl. Polym. Sci. (1979), 23, pp. 3525-3539(非特許文献1))が報告されている。また、酸洗により無機物を除去し、イオン交換により金属イオンを導入した木材及び新聞紙を、減圧下、窒素を通気しながら20~60分間300~350℃の温度に加熱するレボグルコサンの製造方法(J. Anal. Appl. Pyrolysis, (1991), 21, pp. 133-146(非特許文献2))も報告されている。非特許文献2では、レボグルコサン収率向上のメカニズムとして、金属イオンがリグニンによるレボグルコサン生成阻害を減少させているという仮説を提唱している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Appl. Polym. Sci. (1979), 23, pp. 3525-3539
【非特許文献2】J. Anal. Appl. Pyrolysis, (1991), 21, pp. 133-146
【非特許文献3】J. Anal. Appl. Pyrolysis, (2018), 136, pp. 215-221
【非特許文献4】J. Anal. Appl. Pyrolysis, (2014), 109, pp. 185-195
【非特許文献5】ChemSusChem, (2015), 8, pp. 2240-2249
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1において生成物として回収されたタール中のレボグルコサンの濃度は、30~68質量%であり、非特許文献2では、レボグルコサンの収率が最高であった二価の鉄イオンを導入した条件において、レボグルコサンを含むタールの収率が50質量%(原料基準)、レボグルコサンの収率が15.8質量%(原料基準)であることから、タール中のレボグルコサン濃度は31.6質量%であり、更に、当該条件によって得られたレボグルコサンを発酵原料として使用する場合、発酵阻害物質であるアルデヒド類やフルフラール類等を除くための精製操作が必須となることから、回収された生成物中のレボグルコサンの濃度について改善が求められる。
【0010】
更に、セルロースを原料とするレボグルコサンの精製前収率は、非特許文献2においては最大32質量%(原料中のセルロース基準)に留まっており、精製後の収率は更に低下することも考慮すると、更なる収率の改善が求められる。
【0011】
加えて、非特許文献1では、ろ紙や微結晶セルロース、コットンリンターといった高純度で高価なセルロースを原料に用いているため、レボグルコサン製造の工業化には課題がある。
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、パルプを原料としてレボグルコサンを簡便かつ高収率、高純度で工業的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、構成糖としてのグルコースの含有量が80質量%以上であり、かつクラーソンリグニンの含有量が1質量%以下であるパルプを用い、前記パルプを二価金属塩水溶液で浸漬処理した後に熱分解させることにより、レボグルコサンが簡便かつ高収率、高純度で得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記のレボグルコサンの製造方法を提供する。
[1](1)構成糖としてのグルコースの含有量が80質量%以上であり、かつクラーソンリグニンの含有量が1質量%以下であるパルプを二価金属塩水溶液で浸漬処理する工程、
(2)前記浸漬処理後のパルプを加熱して熱分解させ、気体状のレボグルコサンを生成すると共に、チャーを生成せず又はフィルム状のチャーを生成し、かつ一酸化炭素を生成せず又は生成してもその生成量が前記パルプの絶乾質量100質量部当たり5質量部以下となる加熱処理を行う工程、及び
(3)前記気体状のレボグルコサンをその沸点以下の温度まで冷却して回収する回収工程
を含むレボグルコサンの製造方法。
[2]前記パルプにおける構成糖としてのキシロースの含有量が5~20質量%である[1]に記載のレボグルコサンの製造方法。
[3]前記パルプにおける構成糖としてのグルコースの含有量が95質量%以下である[1]又は[2]に記載のレボグルコサンの製造方法。
[4]前記二価金属塩が、マグネシウム塩である[1]~[3]のいずれかに記載のレボグルコサンの製造方法。
[5]前記浸漬処理前のパルプが脱塩処理されていない[1]~[4]のいずれかに記載のレボグルコサンの製造方法。
[6]前記加熱処理が、赤外線を照射して加熱するものである[1]~[5]のいずれかに記載のレボグルコサンの製造方法。
[7]前記加熱処理におけるパルプを加熱する時間が長くとも60秒間である[1]~[6]のいずれかに記載のレボグルコサンの製造方法。
[8]前記加熱処理におけるパルプ自体の温度(品温)が400~450℃になっている[1]~[7]のいずれかに記載のレボグルコサンの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、パルプを二価金属塩水溶液で浸漬処理した後に熱分解させることにより、パルプからレボグルコサンを高収率かつ高純度で工業的に製造することができる。また、原料として、構成糖中のグルコース含有量が80~95質量%の、比較的純度が低く安価なパルプを使用することもできる。加えて、加熱処理は特殊な装置を必要とせず、例えば常圧下、60秒間以下という短時間で熱分解を完了することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】浸漬処理後の漂白パルプ-3の加熱処理による品温測定結果(昇温チャート図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のレボグルコサンの製造方法は、(1)構成糖としてのグルコースの含有量が80質量%以上であり、かつクラーソンリグニンの含有量が1質量%以下であるパルプを二価金属塩水溶液で浸漬処理する工程(浸漬工程)、(2)前記浸漬処理済みのパルプを加熱して熱分解させ、気体状のレボグルコサン(1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース)を生成すると共に、チャー(炭化した固体残渣)を生成せず又はフィルム状のチャーを生成し、かつ一酸化炭素を生成せず又は生成してもその生成量が前記パルプの絶乾質量100質量部当たり5質量部以下となる加熱処理を行う工程(加熱工程)、及び(3)前記気体状のレボグルコサンをその沸点以下の温度まで冷却して回収する回収工程を含むものである。
【0018】
[工程(1):浸漬工程]
浸漬工程は、構成糖としてのグルコースの含有量が80質量%以上であり、かつクラーソンリグニンの含有量が1質量%以下であるパルプを二価金属塩水溶液に浸漬してパルプ中の官能基(カルボキシ基)に二価金属塩由来の二価金属イオンを配位結合させる処理(浸漬処理)を行う工程である。なお、一般的にパルプは、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含みうるものであり、ここでいうクラーソンリグニンは、後述するように2段階の硫酸処理によりパルプからセルロース及びヘミセルロースを除去して残渣として得られる酸不溶性リグニンのことである。
【0019】
本発明者らは一価金属イオンに比べ二価金属イオンがパルプ中のカルボキシ基に配位結合しやすいことを見出した。したがって浸漬処理前のパルプが一価金属イオンを含有していたとしても、一価金属イオンを除去する脱塩処理を行うことなく浸漬処理を実施することができる。ただし必要に応じて、浸漬工程前に、パルプを希塩酸等の酸性水溶液に浸漬し、イオン交換水等で洗浄する脱塩処理を行ってパルプに含まれるナトリウム等の一価金属イオンを除去しておいてもよい。
【0020】
前記パルプは、構成糖としてのグルコースの含有量が80質量%以上であり、かつクラーソンリグニンの含有量が1質量%以下のものであれば特に制限されないが、クラーソンリグニンの含有量が低いものという観点から、化学パルプが好ましい。パルプの原料についても特に制限はなく、木材、非木材のいずれでもよいが、針葉樹、広葉樹等が挙げられる。レボグルコサンを高収率かつ高純度で得るためにパルプ中のカルボキシ基の量が多い方がよいという観点から、広葉樹が好ましい。一般的に広葉樹は針葉樹に比べキシランの含有量が高く、キシランは他のヘミセルロース成分に比べカルボキシ基を多く含む。パルプの蒸解法についても特に制限はないが、クラフト法、サルファイト法等が挙げられる。レボグルコセノン副生の要因となるスルホン酸を含まない観点から、クラフト法が好ましい。なお、パルプは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
構成糖中のグルコースの含有量は、80質量%以上、好ましくは81質量%以上、より好ましくは83質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは93質量%以下、最も好ましくは90質量%以下である。
【0022】
グルコース以外の構成糖は、特に制限はなく、例えば、キシロース、マンノース、ガラクトース、アラビノース等が挙げられる。レボグルコサンを高収率かつ高純度で得るためにはパルプ中のカルボキシ基の量が多い方がよいという観点から、構成糖としてのキシロースの含有量が5~20質量%であることが好ましい。キシロースから成るキシランは一般的に他のヘミセルロース成分よりもカルボキシ基を多く含むからである。更に、構成糖としてのマンノースの含有量が0~3質量%であることがより好ましい。
【0023】
(構成糖(グルコース、キシロース及びマンノース)及びクラーソンリグニンの定量)
測定対象のパルプについて酸加水分解処理を施した後、イオンクロマトグラフィーによりパルプの構成糖を定量する。一方、クラーソンリグニンは酸加水分解処理残渣の量から定量する。例えば以下の条件で行うとよい。
所定量のパルプを72質量%硫酸(液温25℃)に2時間浸漬した後、水を加えて硫酸の濃度が3質量%となるように希釈し、121℃にて30分加熱する。次いで、処理物をろ過して酸加水分解液と残渣に分離した後、酸加水分解液を中和し、以下の条件にてイオンクロマトグラフィーによりパルプの構成糖を定量する。
・装置:Prominenceイオン分析システム LC-20ADsp(島津製作所製)
・カラム:CarboPacTM PA1(4×250mm,Thermo Scientific,Waltham,MA,USA)
・検出器:DECADE Elite(Antec Scientific)
・移動相:0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:35℃
一方、残渣は105℃の恒温槽内で乾燥し、その恒量をクラーソンリグニンとして定量する。
【0024】
クラーソンリグニンの含有量は、1質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下である。クラーソンリグニン含有量を1質量%以下とすることにより、当該パルプからレボグルコサンを高収率かつ高純度で工業的に製造することができる。クラーソンリグニンが残存していると、生成物にグアイアコール類等のクラーソンリグニンの熱分解物が混入し、生成物中のレボグルコサンの純度が低下するおそれがある。
クラーソンリグニンの含有量が1質量%以下のパルプとしては、化学パルプに漂白処理を行った漂白パルプが挙げられる。この場合、化学パルプに漂白処理を行った漂白パルプ中のクラーソンリグニンの含有量は通常1質量%以下となっている。
【0025】
前記パルプの形態は、特に限定されず、シート状、粉末状、繊維状、粒状等のいずれであってもよい。粉砕や解繊操作を必要としないという観点から、シート状が好ましい。
【0026】
レボグルコサンを高収率かつ高純度で得るためにパルプ中のカルボキシ基の量が多いことが好ましいという観点から、パルプの飽和金属量は、5~100μmol/gであることが好ましく、10~50μmol/gであることがより好ましい。
【0027】
(パルプの飽和金属量)
金属イオンと塩を形成するパルプ中の官能基はカルボキシ基であることと、ナトリウムイオンはカルボキシ基と1対1の比で塩を形成することから、パルプ中のカルボキシ基の量は、一価金属塩水溶液を用いた浸漬処理後のパルプに含まれる金属イオンの合計量(以下、パルプの飽和金属量)と等しいと推定することができる。そこで、ここでいうパルプの飽和金属量は、本工程の浸漬処理前のパルプを所定濃度の酢酸ナトリウム水溶液又は酢酸カリウム水溶液の一価金属塩水溶液(液温25℃)に所定時間(例えば18時間)浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、乾燥させ、常温(20℃)に戻して気乾とすることにより得られたパルプに含まれるナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンの合計量をいう。
【0028】
前記二価金属塩水溶液を構成する二価金属塩としては、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム等のマグネシウム塩;酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等のカルシウム塩;酢酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン等のマンガン(II)塩;硫酸鉄、硝酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄等の鉄(II)塩;酢酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト等のコバルト(II)塩;酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル等のニッケル(II)塩;硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、臭化銅等の銅(II)塩等が挙げられる。レボグルコサンを高収率かつ高純度で得る観点から、マグネシウム塩又はカルシウム塩が好ましく、マグネシウム塩がより好ましい。また、酢酸マグネシウム又は酢酸カルシウムが更に好ましく、酢酸マグネシウムが最も好ましい。なお、二価金属塩は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
前記二価金属塩水溶液の濃度は、パルプ中のカルボキシ基に二価金属イオンを配位結合させることができる十分な濃度であればよく、例えば0.01~1mol/Lであればよい。
【0030】
パルプを二価金属塩水溶液に浸漬する方法は、パルプ中のカルボキシ基に二価金属イオンを配位結合させることができる方法であれば特に制限されず、パルプを二価金属塩水溶液に浸漬してもよく、パルプを水に浸漬した後で二価金属塩を加えてもよい。
【0031】
浸漬処理における浸漬温度(二価金属塩水溶液の液温)は、パルプ中のカルボキシ基に二価金属イオンを配位結合させることができれば特に制限はなく、例えば5~100℃であり、好ましくは10~70℃、より好ましくは15~40℃である。
【0032】
浸漬処理における浸漬時間は、パルプ中のカルボキシ基に二価金属イオンを配位結合させることができる十分な時間であればよく、例えば1時間以上であり、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上である。浸漬時間の上限に特に制限はないが、例えば50時間以下であり、好ましくは24時間以下である。浸漬時間が1時間未満では、パルプ中のカルボキシ基に二価金属イオンを十分に配位結合させることができないおそれがある。
【0033】
浸漬処理後、パルプ中のカルボキシ基に配位結合していない二価金属イオンを除去する観点から、必要に応じてイオン交換水等で洗浄し、乾燥することができる。
【0034】
パルプ中のカルボキシ基の量に対する前記二価金属塩水溶液中の二価金属塩の量の上限に特に制限はないが、3倍量未満では、パルプ中のカルボキシ基に二価金属イオンを十分に配位結合させることができず、本発明の効果が得られないおそれがある。
【0035】
レボグルコサンを高収率かつ高純度で得る観点から、浸漬処理後のパルプに含まれる二価金属イオンの量は、5~100μmol/gであることが好ましく、7~50μmol/gであることがより好ましい。
【0036】
浸漬処理後のパルプに含まれる一価金属イオンの量は、5μmol/g以下であることが好ましく、2μmol/g以下であることがより好ましい。加熱処理において一価金属イオンはキシランのフラグメンテーションを引き起こすことから(J. Anal. Appl. Pyrolysis, (2018), 136, pp. 215-221(非特許文献3))、一価金属イオンの量が5μmol/gを超える場合、キシランのフラグメンテーションが起こり、昇温過程でのパルプの熱に対する安定性が低下するおそれがある。加えて、一価金属イオンは加熱処理において生じたレボグルコサンを分解するおそれがある。
【0037】
[工程(2):加熱工程]
加熱工程は、前記浸漬処理済みのパルプを加熱して熱分解させ、気体状のレボグルコサンを生成すると共に、チャーを生成せず又はフィルム状のチャーを生成し、かつ一酸化炭素を生成せず又は生成してもその生成量が前記パルプの絶乾質量100質量部当たり5質量部以下となる加熱処理を行う工程である。
【0038】
前記加熱処理におけるパルプ自体の温度(品温)が400~500℃になっていることが好ましく、400~450℃になっていることがより好ましい。
ここで、加熱工程において、加熱されるパルプの温度(品温)は、チャー(炭化した固体残渣)の生成の有無及び生成される場合のその形態、及びガスの組成(詳しくは、一酸化炭素の生成の有無、及び生成される場合のその生成量等)から推定することができる。パルプの品温が400℃未満の場合、チャーは元のパルプの形態を保持するが、パルプの品温が400℃以上の場合、チャーを生成しないか、生成しても加熱下で液状化した後にフィルム状のチャーとなる(J. Anal. Appl. Pyrolysis, (2014), 109, pp. 185-195(非特許文献4))。また、パルプの品温が500℃を超えると、熱分解して生成されるレボグルコサンが更にフラグメンテーションを起こして主に一酸化炭素が生成され(ChemSusChem, (2015), 8, pp. 2240-2249(非特許文献5))、このときの一酸化炭素の生成量は、パルプ絶乾質量100質量部当たり5質量部を超えるようになる。
【0039】
したがって、前記浸漬処理済みのパルプを加熱処理した際、チャーを生成せず又はフィルム状のチャーを生成し、かつ一酸化炭素を生成せず又は生成してもその生成量が前記パルプの絶乾質量100質量部当たり5質量部以下となる場合、このときのパルプの品温は400~500℃であると推定される。
一酸化炭素の生成量は、パルプ絶乾質量100質量部当たり3質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましく、0質量部が特に好ましい。
【0040】
加熱後のパルプの品温が400℃未満と推定される場合、加熱が不十分となり、パルプの一部分が熱分解されなかったり、熱分解反応の選択性が低下して副生成物が増加したり、生成したレボグルコサンが液化して重合したりすることがある。同様に、加熱処理におけるパルプの品温が400℃に達するまでの昇温過程でも、選択性の低い熱分解反応が起こり、副生成物が生成することから、昇温過程でのパルプの熱に対する安定性が高いことが好ましい。一方、加熱後のパルプの品温が500℃を超えると推定される場合、生成したレボグルコサンがフラグメンテーションを起こし、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、エチレン等のより小さな分子へと分解することがある。なお、パルプの温度は、熱電対、赤外線放射温度計等の既知の方法により直接測定することもできる。
【0041】
前記浸漬処理済みのパルプは、一般的に入手可能な化学パルプ、すなわち一価金属イオンを含有するパルプに比べ、昇温過程でのパルプの熱に対する安定性が高く、昇温過程における選択性の低い熱分解反応による副生成物の生成が抑制されることが本発明者らによって確認された。加えて、熱重量測定(TG)における重量減少温度領域が、前記浸漬処理済みのパルプは一価金属イオンを含有するパルプに比べ約50℃低くなることが本発明者らによって確認された。このことは、二価金属のルイス酸触媒作用により一価金属イオンを含有するパルプに比べ低温での熱分解が促進されたためであると考えられる。なお、一般的に入手可能な化学パルプのうち、蒸解において一価金属イオンを含む薬品を用いるパルプ(例えばクラフトパルプ)は一価金属イオンを含有する。
【0042】
すなわち、本発明によれば、加熱処理の前処理である、前記二価金属塩水溶液への浸漬処理により、400~450℃での加熱工程において、昇温過程における選択性の低い熱分解反応及び500℃以上での一酸化炭素の生成を抑えつつ、パルプの熱分解を促進できるため、レボグルコサンを高収率、高純度で得ることが可能となる。
【0043】
加熱工程における昇温速度は、パルプの熱分解反応の選択性が低下して副生成物が増加したり、生成したレボグルコサンが液化して重合したりすることを防ぐ観点から、好ましくは10℃/秒以上、より好ましくは30℃/秒以上、更に好ましくは50℃/秒以上である。なお、昇温速度の上限は特に制限されないが、取り扱い上の観点から、5,000℃/秒以下である。
【0044】
加熱工程において、上記パルプを加熱する時間(すなわち、パルプの品温が400~500℃、好ましくは400~450℃であると推定される温度に到達してからの加熱保持時間)は、目的生成物製造効率の観点及び低温、過熱域での反応による二次分解に起因する収率低下抑制の観点から、好ましくは長くても60秒間であるが、より好ましくは30秒間以下であり、更に好ましくは15秒間以下、特に好ましくは10秒間以下である。
【0045】
加熱工程において、加熱方法は特に制限されないが、例えば、赤外線やマイクロ波を照射して間接的に加熱する方法、流動層等で高温の気体、例えば、空気や窒素に接触させて加熱する方法、撹拌槽等で加熱したジャケット壁や撹拌機パドルに直接接触させて加熱する方法、又はこれらの方法の組み合わせが挙げられる。周囲の雰囲気が加熱されないため、生成した気体状のレボグルコサンを急冷することができ、レボグルコサンの二次分解が抑制される観点から、赤外線を照射して間接的に加熱する方法が好ましい。
【0046】
なお、加熱工程は、原料のパルプを加熱装置に一定量供給し、加熱処理して生成物を回収するバッチプロセスでも、原料のパルプを連続的に加熱装置に供給し、生成物を連続的に回収する連続プロセスでもよい。
【0047】
更に、加熱処理する加熱装置内雰囲気は大気圧に限定されるものではなく、最適プロセス設計の観点から、不活性ガス雰囲気や、更にその減圧又は加圧でも可能である。
【0048】
加熱工程により得られるレボグルコサンは、通常気体状である。
【0049】
[工程(3):回収工程]
回収工程は、加熱工程により得られた気体状のレボグルコサンをその沸点(385℃)以下の温度まで冷却して回収する工程である。生成したレボグルコサンは、約400℃以下で二次分解を起こすため、安定的に存在する100℃以下まで急冷することにより、レボグルコサンの二次分解を抑制し、目的物であるレボグルコサン収率を向上させることができる。
【0050】
気体状のレボグルコサンをその沸点以下の温度まで冷却することができれば、回収方法は特に制限されないが、例えば、気体状のレボグルコサンを含む高温気流に低温の空気や窒素を急速混合させて冷却することによりエアロゾル状にして回収する方法、スクラバー等の低温液体に接触、溶解させて回収する方法、低温固体に接触させ液体又は固体状にして回収する方法等が挙げられる。
【0051】
冷却する温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
【0052】
以上のように、本発明のレボグルコサンの製造方法によれば、加熱処理の前処理としてはパルプを二価金属塩水溶液に浸漬し、これを熱分解させるだけで、パルプからレボグルコサンを高収率かつ高純度で工業的に製造することができる。このことは、原料として、構成糖中のグルコース含有量が80~95質量%の、比較的純度が低く安価なパルプを使用しても可能である。また、加熱処理は特殊な装置を必要とせず、例えば常圧下、60秒間以下という短時間で熱分解を完了することができる。
【実施例0053】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。下記実施例等で行った定量方法を以下に示す。
【0054】
[構成糖(グルコース、キシロース及びマンノース)及びクラーソンリグニンの定量]
パルプ等の試料0.1gを72質量%硫酸1.5mLに常温(25℃)で2時間浸漬した後、水56mLを加えて硫酸の濃度が3質量%となるように希釈し、121℃にて30分加熱した。次いで、処理物を濾過して酸加水分解液と残渣に分離した後、酸加水分解液をDionex OnGuard II Aカートリッジ(Thermo Scientific社製)に通液して中和し、以下の条件にてイオンクロマトグラフィーによりパルプの構成糖を定量した。
・装置:Prominenceイオン分析システム LC-20ADsp(島津製作所製)
・カラム:CarboPacTM PA1(4×250mm,Thermo Scientific,Waltham,MA,USA)
・検出器:DECADE Elite(Antec Scientific)
・移動相:0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:35℃
一方、残渣は105℃の恒温槽内で乾燥し、その恒量をクラーソンリグニンとして定量した。
【0055】
[金属イオン及びパルプの飽和金属量の定量]
浸漬処理後のパルプに含まれる金属イオン(金属量)は、浸漬工程後のパルプ1gを灰化した後、ICP発光分析(島津製作所製、装置名:ICPS-8100CL)により定量した。
パルプの飽和金属量は、パルプ(縦4cm、横1cm、厚さ0.2mm、質量1g)を一価金属塩水溶液として0.05mol/Lの酢酸ナトリウム水溶液又は酢酸カリウム水溶液(液温25℃)100mLに18時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、吸引ろ過し、オーブン(105℃、24時間)によって乾燥させ、常温(20℃)に戻して気乾とすることにより得られたパルプに含まれるナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンの合計量を求め、一価金属塩水溶液として0.05mol/Lの酢酸ナトリウム水溶液を用いた場合と、0.05mol/Lの酢酸カリウム水溶液を用いた場合の合計量の平均をパルプの飽和金属量とした。
【0056】
実施例1~4、比較例1~4に用いたパルプ等の試料の明細(構成糖、クラーソンリグニンの割合及びパルプの飽和金属量)を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
なお、スギ木粉は、スギを粉砕して木粉化した後、脱脂したものである。
また、ホロセルロースは以下のようにして調製した。
脱脂スギ木粉2.5gを300mL容三角フラスコに入れ、0.2M酢酸緩衝液(pH3.5)を加えた後に、亜塩素酸ナトリウム1gと酢酸0.2mLを加え、75℃でゆるやかに攪拌しながら1時間加熱処理を行った。この反応溶液に、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム1gと酢酸0.2mLを加えて1時間加熱する処理を、3回繰り返すことでスギのホロセルロースを得た。このホロセルロースを蒸留水500mLとアセトン50mLで順次洗浄し、風乾した後に105℃のオーブンで乾燥したものを試料とした。
【0059】
[実施例1~4、比較例1~4におけるレボグルコサンの定量]
実施例1~4、比較例1~4におけるレボグルコサンは、以下の条件にて1H-NMRにより定量した。
・試料溶媒:オキシム化試薬(NH2OH・HCl)5mgと重水一滴を添加した重ジメチルスルホキシド0.7mL
・内部標準物質:マレイン酸0.46mg
・装置:核磁気共鳴装置、BRUKER社製、Avance III 400
【0060】
[一酸化炭素、メタン及び水素の定量]
加熱工程において生成したガス(一酸化炭素、メタン及び水素)は、以下の条件にてガスクロマトグラフィーにより定量した。
・装置:Varian社製、CP-4900 Micro GC
・カラム:CP-Molsieve 5Å(長さ10m、内径0.32mm、膜厚0.12μm、Agilent Technologies製)
・検出器:熱伝導度検出器(μTCD)
・キャリアガス:アルゴン、15mL/min
・カラム温度:100℃
【0061】
[二酸化炭素及びエチレンの定量]
加熱工程において生成したガス(二酸化炭素及びエチレン)は、以下の条件にてガスクロマトグラフィーにより定量した。
・装置:Varian社製、CP-4900 Micro GC
・カラム:CP-PoraPLOT Q(長さ10m、内径0.32mm、膜厚0.10μm、Agilent Technologies製)
・検出器:熱伝導度検出器(μTCD)
・キャリアガス:ヘリウム、15mL/min
・カラム温度:80℃
【0062】
なお、一酸化炭素、メタン、水素、二酸化炭素及びエチレンの生成量を足した値をガスの総量とした。
【0063】
[実施例1]
漂白パルプ-1(縦4cm、横1cm、厚さ0.2mm、質量1g、構成糖中のグルコース含有量87.7質量%)を0.05mol/Lの酢酸マグネシウム水溶液(液温25℃)100mLに18時間浸漬した(浸漬工程)。その後、イオン交換水で洗浄し、吸引ろ過し、オーブン(105℃、24時間)によって乾燥させ、20℃に戻して気乾とすることにより、浸漬処理後のパルプを作製した。
次に、赤外線炉(アドバンス理工(株)製、赤外線ゴールドイメージ炉、RHL-E45N、ランプ電圧100V、電力4.0kW、加熱長140mm、管内径52mm)を用い、赤外線炉の反応管内を窒素で通気しながら浸漬処理後のパルプ30mgを加熱した(加熱工程)。赤外線炉の出力電力は1kW、加熱時間は20秒間、窒素の線速は2.4m/分とした。赤外線炉の反応管出口には、メタノール30mLを含むガスバッグ(テドラーバッグ、容量5L)を設置した。
なお、加熱工程終了後の赤外線炉内にはフィルム状のチャーが生成されており、一酸化炭素が検出されなかったことから、加熱工程は400~500℃にて行われたと考えられる。また、20秒間の加熱時間によりフィルム状のチャーが生成されていることから、少なくとも昇温速度は、50℃/秒以上であったと考えられる。
加熱により生じた気体状の生成物は、窒素フローにより冷却されてエアロゾル状となり、ガスバッグに捕集された(回収工程)。30分間静置した後、ガスバッグに標準物質としてネオンガス5mLを加え、ガスクロマトグラフィーによりガスの同定と定量を行った。
その後、生成物が溶解したメタノールを回収し、ガスバッグ内壁に凝集した生成物は、メタノール200mLに溶解して回収した。回収したメタノール溶液のうち10mLについて、エバポレーターを用いてメタノールを除去して溶媒抽出成分を得た。
得られた溶媒抽出成分を重ジメチルスルホキシド0.7mLに溶解し、1H-NMRによりレボグルコサンであることを確認した。また、その収率を求めたところ、グルコース100質量部に対し、51.1質量部であった。
【0064】
[実施例2]
構成糖中のグルコース含有量83.8質量%の漂白パルプ-2を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、レボグルコサンを得た。得られたレボグルコサンは、グルコース100質量部に対し、53.8質量部であった。また、加熱工程終了後の赤外線炉内には、フィルム状のチャーが生成された。
【0065】
[実施例3]
二価金属塩水溶液として0.05mol/Lの酢酸カルシウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、レボグルコサンを得た。得られたレボグルコサンは、グルコース100質量部に対し、42.4質量部であった。また、加熱工程終了後の赤外線炉内には、フィルム状のチャーが生成された。
【0066】
[実施例4]
構成糖中のグルコース含有量99.6質量%の漂白パルプ-3を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、レボグルコサンを得た。得られたレボグルコサンは、グルコース100質量部に対し、46.6質量部であった。また、加熱工程終了後の赤外線炉内には、フィルム状のチャーが生成された。
【0067】
[比較例1]
実施例1において、二価金属塩水溶液に代えて一価金属塩水溶液として0.05mol/Lの酢酸ナトリウム水溶液を用い、それ以外は、実施例1と同様の操作を行い、レボグルコサンを得た。得られたレボグルコサンは、グルコース100質量部に対し、7.3質量部であった。また、加熱工程終了後の赤外線炉内には、フィルム状のチャーが生成された。
【0068】
[比較例2]
浸漬工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行い、レボグルコサンを得た。得られたレボグルコサンは、グルコース100質量部に対し、19.1質量部であった。また、加熱工程終了後の赤外線炉内には、フィルム状のチャーが生成された。
【0069】
[比較例3]
構成糖中のグルコース含有量46.6質量%のスギ木粉を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、レボグルコサンを得た。得られたレボグルコサンは、グルコース100質量部に対し、6.7質量部であった。また、加熱工程終了後の赤外線炉内には、フィルム状のチャーが生成された。
【0070】
[比較例4]
構成糖中のグルコース含有量71.9質量%のホロセルロースを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、レボグルコサンを得た。得られたレボグルコサンは、グルコース100質量部に対し、12.4質量部であった。また、加熱工程終了後の赤外線炉内には、フィルム状のチャーが生成された。
【0071】
実施例1~4、比較例1~4の結果をまとめて表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1~4、比較例2の結果から、加熱工程の前に浸漬処理を行うことにより、パルプ(セルロース)からレボグルコサンを簡便に、高収率かつ高純度(溶媒抽出成分中のレボグルコサン濃度)で得ることができた。また、実施例1~4では、パルプ中のカルボキシ基に二価金属イオンが配位結合した浸漬処理後のパルプを用いた結果、フィルム状のチャーを生成し、かつ一酸化炭素を生成しなかったことに加え、前述のとおり熱重量測定(TG)における重量減少温度領域が、浸漬処理済みのパルプは一価金属イオンを含有するパルプに比べ約50℃低くなることが本発明者らによって確認されたことから、後述する浸漬処理後のパルプの加熱処理による品温測定結果と考え合わせると、加熱工程において400~450℃において熱分解したと推定され、その結果、昇温過程における選択性の低い熱分解反応及び500℃以上での一酸化炭素の生成を抑えつつ、パルプの熱分解を促進できたと考えられる。
【0074】
[浸漬処理後のパルプの加熱処理による品温測定]
非特許文献4に記載の加熱・測温方法及び評価方法と同様の方法により、酢酸マグネシウムを用いた浸漬処理後の漂白パルプ-3を窒素雰囲気の高周波加熱炉で50秒間加熱し、熱電対で漂白パルプ-3の品温を測定した。その結果を図1に示す。
図1の昇温チャートにおいて、昇温開始10秒から25秒で品温は約100℃から約650℃に昇温した。この昇温過程の中で400~450℃の温度領域で品温の昇温速度がわずかに低下したことから、熱分解に伴う吸熱があったことが確認された。すなわち、400~450℃でパルプの熱分解が起こっていることがわかる。なお、生成したチャーの表面は加熱下で液状化してフィルム状となっていた。
図1