(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073767
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】多孔質体、多孔質体を含む成形体、多孔質体の製造方法、及び多孔質成形体用組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 9/12 20060101AFI20240523BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20240523BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C08J9/12 CEP
C08B37/00 C
C08L1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184652
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阿多 誠介
(72)【発明者】
【氏名】芝上 基成
(72)【発明者】
【氏名】小野 巧
(72)【発明者】
【氏名】陶 究
【テーマコード(参考)】
4C090
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090AA10
4C090BA23
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB35
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB94
4C090BC07
4C090BD25
4C090CA20
4C090CA24
4C090DA31
4C090DA32
4F074AA01
4F074BA32
4F074BA86
4F074CA23
4F074DA02
4F074DA32
4F074DA33
4F074DA35
4J002AB022
(57)【要約】
【課題】 β-1,3-グルカン誘導体を含む多孔質体、多孔質体を含む成形体、多孔質体の製造方法、及び多孔質成形体用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含む、多孔質体とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含む、多孔質体。
【請求項2】
β-1,3-グルカン誘導体が、一般式(I):
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有する、請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
式(I)において、-C(=O)R2が-C(=O)R3又は-C(=O)R4であり、R3及びR4は、それぞれ独立して脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、R3及びR4は炭素原子数が異なり、-C(=O)R3及び-C(=O)R4で表される基がそれぞれ1つ以上含まれる、請求項2に記載の多孔質体。
【請求項4】
R3及びR4は、それぞれ独立して炭素原子数が1~6の脂肪族又は芳香族炭化水素基である、請求項3に記載の多孔質体。
【請求項5】
-C(=O)R3及び-C(=O)R4が、それぞれ独立してアセチル基及びプロピオニル基である、請求項3に記載の多孔質体。
【請求項6】
グルコース単位1つあたりの-C(=O)R3(炭素原子数がより低いアセチル基)の置換度が、1.50未満であり、グルコース単位1つあたりの-C(=O)R4(炭素原子数がより高いアセチル基)の置換度が、1.50以上である、請求項3に記載の多孔質体。
【請求項7】
30%以上60%以下の空隙率を有する、請求項2に記載の多孔質体。
【請求項8】
0.01~0.20μm3の平均空孔体積を有する、請求項2に記載の多孔質体。
【請求項9】
発泡体である、請求項1に記載の多孔質体。
【請求項10】
請求項1に記載の多孔質体を含む成形体。
【請求項11】
超臨界CO
2を用いて、一般式(I)
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有するβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む、請求項2に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項12】
超臨界CO
2を用いて、一般式(I)
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有するβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む方法によって製造される、多孔質体。
【請求項13】
一般式(I)
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有するβ-1,3-グルカン誘導体を含む、多孔質成形体用β-1,3-グルカン誘導体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体、多孔質体を含む成形体、多孔質体の製造方法、及び多孔質成形体用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の小さい樹脂としてバイオプラスチックが注目を集めている。バイオプラスチックは、植物や微生物などの生物資源を原料とする合成樹脂であり、代表的には、植物に含まれる多糖類であるセルロースを原料とする樹脂が知られている。
【0003】
セルロースは熱可塑性を有さない。よって、セルロース由来のバイオプラスチックを材料とする発泡体としては、セルロースナノファイバーをフィラーとして用い、ポリプロピレンを超臨界CO2で発泡させた成形品等が開発されている(例えば、特許文献1)が、セルロース由来のバイオベース材料比率が低いこと、複合材料であることに起因してリサイクルが困難であること等の課題があった。
【0004】
セルロースに基本構造が似ている多糖類として、パラミロンに代表されるβ-1,3-グルカンがある。β-1,3-グルカンは、β-1,3結合によりグルコースが連結されている点で、β-1,4結合によりグルコースが連結されているセルロースと、グルコースの結合様式が類似する。また、熱流動性がないことも共通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、β-1,3-グルカン誘導体を含む多孔質体、多孔質体を含む成形体、多孔質体の製造方法、及び多孔質成形体用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体が発泡により多孔質体を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含む、多孔質体。
[2] β-1,3-グルカン誘導体が、一般式(I):
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有する、[1]に記載の多孔質体。
[3] 式(I)において、-C(=O)R
2が-C(=O)R
3又は-C(=O)R
4であり、R
3及びR
4は、それぞれ独立して脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、R
3及びR
4は炭素原子数が異なり、-C(=O)R
3及び-C(=O)R
4で表される基がそれぞれ1つ以上含まれる、[2]に記載の多孔質体。
[4] R
3及びR
4は、それぞれ独立して炭素原子数が1~6の脂肪族又は芳香族炭化水素基である、[2]又は[3]に記載の多孔質体。
[5] -C(=O)R
3及び-C(=O)R
4が、それぞれ独立してアセチル基及びプロピオニル基である、[3]又は[4]に記載の多孔質体。
[6] グルコース単位1つあたりの-C(=O)R
3(炭素原子数がより低いアセチル基)の置換度が、1.50未満であり、グルコース単位1つあたりの-C(=O)R
4(炭素原子数がより高いアセチル基)の置換度が、1.50以上である、[3]~[5]のいずれかに記載の多孔質体。
[7] 30%以上60%以下の空隙率を有する、[2]~[6]のいずれかに記載の多孔質体。
[8] 0.01~0.20μm
3の平均空孔体積を有する、[2]~[7]のいずれかに記載の多孔質体。
[9] 発泡体である、[1]~[8]のいずれかに記載の多孔質体。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の多孔質体を含む成形体。
[11] 超臨界CO
2を用いて、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む、[1]に記載の多孔質体の製造方法。
[12] 超臨界CO
2を用いて、一般式(I)
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有するβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む、[2]~[10]のいずれかに記載の多孔質体の製造方法。
[13] 超臨界CO
2を用いて、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む方法によって製造される、多孔質体。
[14] 超臨界CO
2を用いて、一般式(I)
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有するβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む方法によって製造される、多孔質体。
[15] 少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含む、多孔質成形体用β-1,3-グルカン誘導体組成物。
[16] 一般式(I)
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有するβ-1,3-グルカン誘導体を含む、多孔質成形体用β-1,3-グルカン誘導体組成物。
[17] 少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物の、多孔質成形体としての使用。
[18] 一般式(I)
[式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表し、R
1の少なくとも1つは-C(=O)R
2である]
で表される構造を有するβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物の、多孔質成形体としての使用。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、β-1,3-グルカン誘導体を含む多孔質体、多孔質体を含む成形体、多孔質体の製造方法、及び多孔質成形体用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の発泡体のSEM写真である。A、B、C、Dはそれぞれ同じ試料を異なる倍率(30倍(スケールバー:1mm)、300倍(スケールバー:100μm)、10,000倍(スケールバー:5μm)、50,000倍(スケールバー:1μm))で観察した画像を示す。
【
図2】実施例2の発泡体のSEM写真である。A、B、C、Dはそれぞれ同じ試料を異なる倍率(30倍(スケールバー:1mm)、300倍(スケールバー:100μm)、10,000倍(スケールバー:5μm)、50,000倍(スケールバー:1μm))で観察した画像を示す。
【
図3】実施例3の発泡体のSEM写真である。A、B、C、Dはそれぞれ同じ試料を異なる倍率(30倍(スケールバー:1mm)、300倍(スケールバー:100μm)、10,000倍(スケールバー:5μm)、50,000倍(スケールバー:1μm))で観察した画像を示す。
【
図4】比較例1の発泡体のSEM写真である。A、B、C、Dはそれぞれ同じ試料を異なる倍率(30倍(スケールバー:1mm)、2,000倍(スケールバー:20μm)、10,000倍(スケールバー:5μm)、50,000倍(スケールバー:1μm))で観察した画像を示す。
【
図5】比較例2の発泡体のSEM写真である。A、B、C、Dはそれぞれ同じ試料を異なる倍率(30倍(スケールバー:1mm)、2,000倍(スケールバー:20μm)、10,000倍(スケールバー:5μm)、50,000倍(スケールバー:1μm))で観察した画像を示す。
【
図6】比較例3の発泡体のSEM写真である。A、B、C、Dはそれぞれ同じ試料を異なる倍率(30倍(スケールバー:1mm)、2,000倍(スケールバー:20μm)、10,000倍(スケールバー:5μm)、60,000倍(スケールバー:500nm))で観察した画像を示す。
【
図7】比較例4の発泡体のSEM写真である。A、B、C、Dはそれぞれ同じ試料を異なる倍率(30倍(スケールバー:1mm)、2,000倍(スケールバー:20μm)、10,000倍(スケールバー:5μm)、50,000倍(スケールバー:1μm))で観察した画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
本開示において数値範囲についての「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0012】
==第1実施形態(多孔質体)==
本実施形態に係る多孔質体は、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含む、多孔質体である。
【0013】
(β-1,3-グルカン誘導体)
「β-1,3-グルカン」は、グルコースがβ-1,3結合で連結された構造を有する多糖を意味している。すなわち、β-1,3-グルカンは、グルコースの1位と別のグルコースの3位とがβ-1,3-グルコシド結合を形成している構造を有している。β-1,3-グルカンは、主に藻類や菌類などにより生産される。
【0014】
β-1,3-グルカンとしては、例えば、ラミナラン(laminaran:β-1,3結合とβ-1,6結合を含む直鎖状の多糖)、シゾフィラン(schizophyllan:β-1,3結合とβ-1,6結合を含む枝分かれ状の多糖)、パキマン(pachyman:主鎖がβ-1,3結合からなる多糖であり1分子に3~6個の側鎖を持つ)、レンチナン(lentinan:主鎖がβ-1,3結合からなる多糖であり主鎖のグルコース5個につき2つの側鎖グルコースを持つ)、カードラン(curdlan:ほぼ直鎖状ではあるが、約200のグルコース単位に1つの側鎖を持つ多糖)、パラミロン(paramylon:側鎖グルコースを持たない直鎖状の多糖)等が挙げられる。
パラミロンは、微細藻類の一種であるユーグレナ(ミドリムシ)が合成及び蓄積するエネルギー貯蔵物質であり、ユーグレナの細胞内に卵形のマイクロサイズの粒子(パラミロン粒子)として存在している。
【0015】
本実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体は、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換された、β-1,3-グルカン誘導体である。
【0016】
β-1,3-グルカン誘導体は、側鎖を有していても、有していなくてもよい。
β-1,3-グルカン誘導体は、グルコースがβ-1,3結合で連結された構造の他にグルコースがβ-1,6結合で連結された構造を含んでいてもよい。β-1,3-グルカン誘導体は、β-1,3-グルコシド結合によって連結された主鎖に、β-1,6-グルコシド結合によって形成される分岐鎖が結合した構造を有していてもよい。なお、β-1,3-グルカン誘導体分子中に存在する分岐鎖の数は、β-1,3-グルカン誘導体を酵素分解後、得られた分解物の吸収スペクトルを測定することによって決定することができる(大阪大学大学院 技術部報告書、第16巻、p.99(2008))。
【0017】
β-1,3-グルカン誘導体はアシル基を有することによって、発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は、所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。
【0018】
一実施形態において、アシル基は、-C(=O)R2で表され、R2は炭化水素基を表す。炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0019】
一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体は、以下の一般式(I)
で表される構造を有することが好ましい。
【0020】
一般式(I)中、R1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R2であり、R2は脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表す。少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのR1が-C(=O)R2である。
【0021】
一般式(I)の構造を有する無置換のβ-1,3-グルカンとしては、パラミロン、カードラン等が挙げられる。
パラミロンは、グルコースが通常約1500~2000個のグルコース単位がβ-1,3結合しているβ-1,3-グルカンであり、カードランは、その2倍程度の長さのβ-1,3-グルカンである。よって、β-1,3-グルカンがパラミロンである場合、式(I)におけるnは約1500~2000であり、カードランである場合、nは約4000である。
【0022】
一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体は、パラミロン(一般式(I)中、R1が全てHである)において、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのR1が-C(=O)R2で置換されたパラミロン誘導体を含むことが好ましい。すなわち、一実施形態において、一般式(I)中、nは、1以上の整数であり、60~3000であることが好ましく、500~2800であることが好ましく、700~2500であることがより好ましく、800~2200であることがさらに好ましく、1000~2000であることがさらに好ましい。
【0023】
(アシル基(-C(=O)R2))
-C(=O)R2におけるR2の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~8であることがさらに好ましく、1~6であることがさらに好ましく、1~3であることがさらに好ましく、1~2であることがさらに好ましい。R2の芳香族炭化水素基は、炭素原子数が6~20であることが好ましく、6~10であることがより好ましく、6~8であることがさらに好ましい。
R2の脂肪族炭化水素基の炭素原子数が1~20、又はR2の芳香族炭化水素基の炭素原子数が6~20であることで、β-1,3-グルカン誘導体は発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。また、R2の脂肪族炭化水素基の炭素原子数が1~20、又はR2の芳香族炭化水素基の炭素原子数が6~20であることで、β-1,3-グルカン誘導体を含む成形体が多孔質体として十分な強度を維持し易くなる。
【0024】
脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状構造を有していてもよい。脂肪族炭化水素基の炭素原子数が2以上の場合、炭素-炭素単結合のみからなる飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)であっても、二重結合又は三重結合を1又は2以上含む不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基又はアルキニル基)であってもよい。脂肪族炭化水素基は、アシル化の容易さ、並びにβ-1,3-グルカン誘導体が発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる等の観点から、アルキル基が好ましく、直鎖状又は分岐状のアルキル基がより好ましく、直鎖状のアルキル基がさらに好ましい。
【0025】
直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-エチルヘキシル基、1-エチルヘプチル基、1-エチルオクチル基、1-エチルノニル基、1-プロピルペンチル基、1-プロピルヘキシル基、1-プロピルヘプチル基、1-プロピルオクチル基、1-ブチルペンチル基、1-ブチルヘキシル基、1-ブチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-エチルヘプチル基、2-エチルオクチル基、2-エチルノニル基、2-プロピルペンチル基、2-プロピルヘキシル基、2-プロピルヘプチル基、2-プロピルオクチル基等が挙げられる。
R2が、これらから選択される1以上の直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0026】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0027】
R2は、メチル基、エチル基、及びプロピル基から選択される1以上が好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。R2がメチル基、エチル基、又はプロピル基であることで、β-1,3-グルカン誘導体は発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。また、R2がメチル基、エチル基、又はプロピル基であることで、β-1,3-グルカン誘導体を含む成形体が多孔質体として十分な強度を維持し易くなり、かつ/又はアシル化効率が高くなり易い。
【0028】
β-1,3-グルカン誘導体に含まれる-C(=O)R2は、1種であっても、又は2種以上であってもよい。
2種以上である場合は、炭素原子数及び/又は骨格構造が異なる2種以上であってよい。一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体に含まれる-C(=O)R2は炭素原子数が異なる2種以上の直鎖状、分岐状、又は環状脂肪族炭化水素基を含み得る。
【0029】
β-1,3-グルカン誘導体が2種以上の-C(=O)R2を有する場合、β-1,3-グルカン誘導体の分子中に2種以上の異なる-C(=O)R2を有していればよい。例えば、β-1,3-グルカン誘導体は、β-1,3-グルカンが1種の-C(=O)R2を有するグルコース単位と、2種以上の-C(=O)R2を有するグルコース単位とを含んでいてもよい。
【0030】
β-1,3-グルカン誘導体が発泡により多孔質体を形成し易くなる、及び/又は得られた多孔質体が所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる観点から、β-1,3-グルカンに含まれるアシル基は、2種以上であることが好ましく、2種であることがより好ましい。
【0031】
一実施形態において、-C(=O)R2が-C(=O)R3又は-C(=O)R4であり、R3及びR4は、それぞれ独立して脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R3及びR4は炭素原子数が異なることが好ましい。
一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体に、-C(=O)R3及び-C(=O)R4で表される基がそれぞれ1つ以上含まれることが好ましい。
【0032】
R3及びR4の炭素原子数が異なること、及び/又はβ-1,3-グルカン誘導体に-C(=O)R3及び-C(=O)R4で表される基がそれぞれ1つ以上含まれることによって、β-1,3-グルカン誘導体は発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。
【0033】
R3及びR4の炭素原子数、及び脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基の種類は限定されず、その例及び好ましい例は、R2の説明で列挙したものが挙げられるが、R3及びR4の炭素原子数の差は、1~5であることが好ましい。R3及びR4の炭素原子数の差が1以上の場合、鎖長の異なる2種のアシル基が3つの水酸基にランダムに導入されたβ-1,3-グルカン誘導体とすることができる。5以下の場合、炭素原子数に大きな違いがないので、合成時にβ-1,3-グルカンの3つの水酸基への導入効率に大差はなく、2種のアシル基が、位置を選ばずよりランダムに導入されたβ-1,3-グルカン誘導体とすることができる。
【0034】
R3及びR4は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
すなわち、-C(=O)R3及び-C(=O)R4のいずれか一方がアセチル基であり、もう一方がプロピオニル基であることがより好ましい。例えば、-C(=O)R3及び-C(=O)R4がそれぞれアセチル基及びプロピオニル基であってもよい。
β-1,3-グルカン誘導体がアセチル基及びプロピオニル基を有することにより、β-1,3-グルカン誘導体は発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。
【0035】
β-1,3-グルカン誘導体のグルコース単位において、アシル基により置換されたヒドロキシ基の位置は、特に限定されない。「β-1,3-グルカン誘導体の製造方法」の項に記載の方法によれば、グルコース単位の6位、4位、又は2位のうちの1又は2以上のいずれのヒドロキシ基に対しても、アシル基を導入することができる。
β-1,3-グルカン誘導体において、1のグルコース単位が-C(=O)R3及び-C(=O)R4の両方を有していても、又は-C(=O)R3及び-C(=O)R4が別々のグルコース単位に含まれていてもよい。
【0036】
-C(=O)R2が-C(=O)R3又は-C(=O)R4であり、すなわち、β-1,3-グルカン誘導体が2種のアシル基を有する場合も、β-1,3-グルカン誘導体のグルコース単位において、アシル基により置換されたヒドロキシ基の位置は、特に限定されない。
【0037】
一実施形態において、多孔質体は、一般式(I)で表されるβ-1,3-グルカン誘導体を有し、一般式(I)中、-C(=O)R3及び-C(=O)R4表される基がそれぞれ1つ以上含まれ、R3及びR4は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基であることが好ましい。
一実施形態において、多孔質体は、一般式(I)で表されるβ-1,3-グルカン誘導体を有し、一般式(I)中、アセチル基及びプロピオニル基がそれぞれ1つ以上含まれることがより好ましい。
【0038】
(置換度)
一実施形態において、-C(=O)R3及び-C(=O)R4が、それぞれ独立して脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R3及びR4は炭素原子数が異なり、R3がより低炭素原子数かつR4がより高炭素原子数の場合、-C(=O)R4(炭素原子数がより高いアセチル基)の置換度が-C(=O)R3(炭素原子数がより低いアセチル基)の置換度と比較して高いことが好ましい。
-C(=O)R4(炭素原子数がより高いアセチル基)の置換度が-C(=O)R3(炭素原子数がより低いアセチル基)の置換度と比較して高い場合、β-1,3-グルカン誘導体は発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。
【0039】
一実施形態において、-C(=O)R3(炭素原子数がより低いアセチル基)の置換度が、1.50未満であることが好ましく、0.30以上1.50未満であることがより好ましく、0.40以上1.50未満であることがさらに好ましく、0.40~1.10であることがさらに好ましい。-C(=O)R4(炭素原子数がより高いアセチル基)の置換度が、1.50以上であることが好ましく、1.50~2.70であることがより好ましく、1.50~2.70であることがさらに好ましく、1.50~2.60であることがさらに好ましく、1.90~2.60であることがさらに好ましい。
【0040】
一実施形態において、-C(=O)R3及び-C(=O)R4が、それぞれ独立してアセチル基及びプロピオニル基である場合、-C(=O)R3(アセチル基)の置換度が、1.50未満であることが好ましく、0.30以上1.50未満であることがより好ましく、0.40以上1.50未満であることがさらに好ましく、0.40~1.10であることがさらに好ましい。-C(=O)R3(アセチル基)の置換度が、0.40~1.10である場合、0.46であっても、0.47であっても、0.72であっても、1.03であってもよく、これらのいずれかを組み合わせた範囲であってもよい。すなわち、-C(=O)R3(アセチル基)の置換度は、例えば、0.46~1.03であっても、0.47~1.03であっても、0.72~1.03であっても、0.46~0.72であっても、0.47~0.72であってもよい。
【0041】
一実施形態において、-C(=O)R3及び-C(=O)R4が、それぞれ独立してアセチル基及びプロピオニル基である場合、-C(=O)R4(プロピオニル基)の置換度が、1.50以上であることが好ましく、1.50~2.70であることがより好ましく、1.50~2.70であることがさらに好ましく、1.50~2.60であることがさらに好ましく、1.90~2.60であることがさらに好ましい。-C(=O)R4(プロピオニル基)の置換度が、1.50~2.60である場合、1.96であっても、2.24であっても、2.53であっても、2.54であってもよく、これらのいずれかを組み合わせた範囲であってもよい。すなわち、-C(=O)R4(プロピオニル基)の置換度は、例えば、1.96~2.54であっても、1.96~2.53であっても、1.96~2.24であっても、2.24~2.54であっても、2.24~2.53であってもよい。
【0042】
グルコース単位1つあたりの-C(=O)R3(炭素原子数がより低いアセチル基)の置換度が、1.50以下である、及び/又はグルコース単位1つあたりの-C(=O)R4(炭素原子数がより高いアセチル基)の置換度が、1.50以上であることにより、β-1,3-グルカン誘導体は発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。
【0043】
一実施形態において、β-1,3-グルカンのグルコース単位あたりのアシル基(-C(=O)R2)の数(以下、「置換度」ともいう。)の上限は合計3.00である。
β-1,3-グルカンの置換度(アシル基の置換度の合計)は、0.80以上であり1.50以上であることがより好ましく、2.00以上であることがさらに好ましく2.50以上であることがさらに好ましく、2.90以上であることがさらに好ましい。アシル基の置換度の合計が2.90以上である場合、2.93であっても、2.96であっても、2.97であっても、2.99であっても、3.00であってもよい。
【0044】
一実施形態において、-C(=O)R3(炭素原子数がより低いアセチル基)の置換度及び-C(=O)R4(炭素原子数がより高いアセチル基)の置換度の両方が、それぞれ0.4以上であることがより好ましい。-C(=O)R3の置換度及び-C(=O)R4の置換度がそれぞれ0.4以上である場合、β-1,3-グルカン誘導体は発泡により多孔質体を形成し易くなり、かつ/又は得られた多孔質体は所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有し易くなる。
【0045】
「置換度」は、β-1,3-グルカン誘導体のグルコース単位1つあたりの置換基の数であり、1H-NMRにおいて、アシル基のメチル基由来の積分値とグルコース由来の水素原子の積分値の合計との比から決定した値である。
【0046】
置換度の調整方法は、アシル化反応における温度及び/又は時間を調整することやアシル化剤の仕込み量を調整すること等により行うことができる。例えば、置換度を高めるにはアシル化剤を多くするか、反応温度を高くする、あるいは反応時間を長くすればよく、置換度を低めるにはアシル化剤を少なくするか、反応温度を低くする、あるいは反応時間を短くすればよい。
【0047】
一実施形態において、多孔質体は、一般式(I)で表されるβ-1,3-グルカン誘導体を有し、一般式(I)中、-C(=O)R3(炭素原子数がより低いアセチル基)及び-C(=O)R4(炭素原子数がより高いアセチル基)で表される基がそれぞれ1つ以上含まれ、R3及びR4は、それぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基であり、-C(=O)R3の置換度が、1.50未満であり、-C(=O)R4の置換度が、1.50以上であることが好ましい。
一実施形態において、多孔質体は、一般式(I)で表されるβ-1,3-グルカン誘導体を有し、一般式(I)中、アセチル基及びプロピオニル基がそれぞれ1つ以上含まれ、アセチル基の置換度が1.50未満であり、プロピオニル基の置換度が、1.50以上であることがより好ましい。
【0048】
β-1,3-グルカンの重量平均分子量は、特に限定されず、1.0×104~5.0×106であることが好ましく、より好ましくは1.0×105~1.0×106であり、さらに好ましくは1.0×105~8.0×105であり、さらに好ましくは1.0×105~5.0×105であり、さらに好ましくは、4.1×105~4.6×105である。
重量平均分子量は、SEC-MALS(Size Exclusion Chromatography- Multi Angle Light Scattering:サイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱)による絶対分子量測定法で決定することができる。
【0049】
(β-1,3-グルカン誘導体の製造方法)
β-1,3-グルカン誘導体は、当業者に周知の方法、又は以下に示す方法等を用いて製造することができる。
例えば、β-1,3-グルカンを構成するグルコース中の水酸基の一部又は全部を脂肪酸又は芳香族カルボン酸でアシル化する方法(国際公開第2014/077340号)や、β-1,3-グルカンを、互いにアルキル鎖の炭素原子数が異なるカルボン酸及び酸無水物を含有するアシル化剤を用いて、非フッ素系溶媒中でアシル化させる方法(特開第2017-193667号)等により、β-1,3-グルカン誘導体を製造することができる。
製造には、上記「β-1,3-グルカン誘導体」の項で説明した、無置換のβ-1,3-グルカン(例えば、ラミナラン、シゾフィラン、パキマン、レンチナン、カードラン、パラミロン等)を用いることができる。
β-1,3-グルカンがパラミロンである場合、パラミロンは生物由来の精製パラミロンであっても、合成パラミロン(再生パラミロンを包含する)であってもよいが、調製しやすさの点からは、精製パラミロンであることが好ましく、植物由来の精製パラミロンであることがより好ましい。
β-1,3-グルカンの単離精製が容易であることから、植物由来のパラミロンは、細胞内でβ-1,3-グルカンを合成する微細藻類から分離したβ-1,3-グルカンを原料として用いることが好ましい。微細藻類としては、ユーグレナ(ユーグレナ植物門に属する微細藻類)が好ましい。ユーグレナは、培養が容易であり、成長サイクルも早いことに加えて、光合成産物としてパラミロン粒子を細胞内に大量に蓄積する。パラミロン等のβ-1,3-グルカンの微細藻類からの分離は、常法により行うことができる。
【0050】
例えば、上記の、互いにアルキル鎖の炭素原子数が異なるカルボン酸及び酸無水物を含有するアシル化剤を用いて、非フッ素系溶媒中でアシル化させる方法の場合、アシル化剤は、カルボン酸と酸無水物との反応物を含有するアシル化剤を用いることができる。このとき、カルボン酸のアルキル鎖の炭素原子数と酸無水物のアルキル鎖の炭素原子数とが異なる。なお、「アルキル鎖の炭素原子数」とは、エステル結合を切断した場合の炭素原子数である。例えば、カルボン酸として酢酸、酸無水物としてプロピオン酸無水物を用いることができる。β-1,3-グルカンを、このようなアシル化剤を用いて非フッ素系溶媒中でアシル化させることができる。例えば、パラミロンを非フッ素系溶媒中に溶解させた溶液中で、塩基の存在下で反応させて、パラミロン誘導体を得ることができる。
【0051】
(多孔質体)
多孔質体は、「β-1,3-グルカン誘導体」の項に記載の1種のβ-1,3-グルカン誘導体を含んでいても、2種以上のβ-1,3-グルカン誘導体を含んでいてもよい。
また、多孔質体は、1種又は2種以上のβ-1,3-グルカン誘導体のみを含んでいてもよいが、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、他種のβ-1,3-グルカン、他種のβ-1,3-グルカン誘導体(第1実施形態に記載のβ-1,3-グルカン誘導体とは異なる)、樹脂、フィラー、酸化防止剤、離形剤、着色剤、分散剤、難燃助剤、難燃剤等の樹脂組成物に一般に添加される各種添加剤が挙げられる。
【0052】
多孔質体にβ-1,3-グルカン誘導体の複数の分子が含まれる場合、多孔質体に「β-1,3-グルカン誘導体」の項で説明したβ-1,3-グルカン誘導体のいずれの組み合わせを含んでもよく、例えば、それらのβ-1,3-グルカン誘導体の分子量(一般式(I)におけるn)が異なってもよく、β-1,3-グルカン誘導体を構成するグルコース単位の組み合わせが異なってもよく、β-1,3-グルカン誘導体の1又は2以上のアシル基の種類が異なってもよく、1又は2以上のアシル基のグルコース単位における置換位置が異なってもよく、β-1,3-グルカンにおける1又は2以上のアシル基のそれぞれの置換度又は置換度の合計が異なってもよい。
【0053】
本実施形態に係る「多孔質体」は、β-1,3-グルカン誘導体を含む、2以上の孔を有する構造体である。多孔質体の孔は、β-1,3-グルカン誘導体に対して任意の人為的方法によって、孔が形成され、かつ/又は押し広げられることによって形成される。
孔の形状は限定されず、円形状、細長い円形状、まゆ形状、多角形状において角が丸みを帯びている形状等を含み得る。孔は、隣接する孔同士が独立していても、隣接する孔同士がつながって連続していても、又は独立した孔と連続した孔とが混在していてもよい。
本明細書において、孔は、多孔質体を貫通する形状のものも、多孔質体を貫通しない窪み形状のものも包含する。
【0054】
一実施形態において、多孔質体は、β-1,3-グルカン誘導体のマトリックス中に微小な孔が点在した構造を有していてもよい。孔の平均径は、各独立孔における最も離れた2点の距離(最大直径)の平均値として約100μm以下であってもよい。孔の平均径は、下記「平均空孔体積」の項に記載のようにSEM画像をIMAGE-Jを用いて二値化することにより、多孔質体表面の孔以外の部分と孔の部分とを検出し、SEM画像の少なくとも1領域内の複数の独立孔における最も離れた2点の距離を測定し、それらの平均値を算出することで得た値とする。なお、独立孔とは、複数の孔がそれぞれ独立して配置されている構造であり、複数の孔が互いに連通した構造(連続孔)を包含しない。
【0055】
多孔質体におけるβ-1,3-グルカン誘導体の含有量は、β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物が任意の人為的方法によって多孔質体を形成し得る範囲で限定されない。
【0056】
一実施形態において、多孔質体は発泡体である。発泡体において、孔は発泡により形成された孔である。
一実施形態において、多孔質体は、β-1,3-グルカン誘導体、又はβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物に対して超臨界流体を人為的に作用させ、発泡させることで作製される発泡体である。その具体的な方法は下記「多孔質体の製造方法」の項に記載するとおりである。
【0057】
(空隙率)
多孔質体の空隙率は、特に限定されないが、5~90%であることが好ましく、10~80%であることがより好ましく、20~70%であることがさらに好ましく、30~60%であることがさらに好ましい。30~60%である場合、例えば、30~50%であっても、35~50%であっても、37~45%であっても、43~45%であっても、37~43%であってもよく、37%であっても、43%であっても、45%であってもよい。
【0058】
多孔質体は、その空隙率が、1つの多孔質体全体に渡って必ずしも均一でない多孔質体も包含する。すなわち、1つの多孔質体内に、孔を有さない領域を含むもの、孔の密度が互いになる複数の領域を含むもの、孔径(孔径の平均値、孔径の中央値も包含する)が互いに異なる複数の領域を含むものも包含する。
【0059】
ここで、空隙率は、多孔質体の1試料につき1片をアルキメデス法により測定した数値とする。
アルキメデス法では、多孔質体を水中に浸漬して空孔内部の空気(気泡)を抜いた後、その水中重量(WAq)を測定する。多孔質体を水中から取りだして水分を拭き取り、多孔質体に水分が残っていないことを確認の上、飽水重量(Wa+w)を測定する。多孔質体を乾燥後多孔質体の乾燥重量(WAir)を測定する。空隙率(P)は以下の式で算出することができる。
P(%)=(Wa+w-WAir)/(Wa+w-WAq)×100
【0060】
少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体、又は該β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物を発泡させることにより、空隙率が5~90%である多孔質体を製造することができる。
【0061】
(平均空孔体積)
多孔質体の平均空孔体積は、特に限定されないが、0.001μm3以上であることが好ましく、0.01~0.20μm3であることがより好ましく、0.015~0.15μm3であることがさらに好ましく、0.02~0.10μm3であることがさらに好ましい。0.02~0.10μm3である場合、例えば、0.025~0.09μm3であっても、0.026~0.086μm3であっても、0.05~0.086μm3であっても、0.026~0.05μm3であってもよく、0.026μm3であっても、0.05μm3であっても、0.086μm3であってもよい。
多孔質体空孔体積の平均空孔体積±標準偏差としては、例えば、0.026μm3±0.02であっても、0.05μm3±0.05であっても、0.086μm3±0.20であってもよい。
【0062】
多孔質体は、その空孔体積が、1つの多孔質体全体に渡って必ずしも均一でない多孔質体も包含する。すなわち、1つの多孔質体内に、空孔体積の大きな孔又は小さな孔が偏った領域を含むもの、平均空孔体積が互いに異なる複数の領域を含むものも包含する。
【0063】
ここで、空孔体積は、多孔質体の表面に観察できる各独立孔の体積の平均値(平均空孔体積)として特定することができる。
当該方法では、多孔質体の1試料を断割して5~6片を得て、各片について断割面において「走査型電子顕微鏡(SEM)による多孔質体の観察」に記載のとおりSEM観察を行い、約15μm×約10μmの領域のSEM画像を撮影する。SEM画像をIMAGE-J(https://imagej.nih.gov/ij/index.html)を用いて二値化することにより、多孔質体の断面の約15μm×約10μmの領域内における孔以外の部分と、孔の部分とを検出し、各独立孔について二次元面内における平均直径を測定することができる。独立孔とは、複数の孔がそれぞれ独立して配置されている構造である。本方法では、複数の孔が互いに連通した構造(連続孔)は測定対象としない。多孔質体の1試料毎に分布する各独立孔の体積は、各独立孔の平均直径から球の体積の公式に基づく推定により求めることができる。算出された各独立孔の体積を平均することにより平均空孔体積を求め、空孔体積の標準偏差を算出する。
【0064】
少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体、又は該β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物を発泡させることにより、平均空孔体積が0.01~0.20μm3である多孔質体を製造することができる。
【0065】
多孔質体の空隙率が5~90%、平均空孔体積が0.01~0.20μm3であることにより、多孔質体を含む成形体が、下記「成形体」の項に記載の用途のために好適な断熱効果、緩衝効果、吸着効果、分離効果等を有し易くなる。
【0066】
一実施形態において、多孔質体は、30~60%の空隙率を有し、0.01~0.20μm3の平均空孔体積を有することが好ましい。
【0067】
一実施形態において、多孔質体は、一般式(I)で表されるβ-1,3-グルカン誘導体を有し、一般式(I)中、-C(=O)R3及び-C(=O)R4表される基がそれぞれ1つ以上含まれ、R3及びR4は、それぞれ独立して脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R3及びR4は炭素原子数が異なり、R3がより低炭素原子数かつR4がより高炭素原子数の場合、-C(=O)R3の置換度が、1.50未満であり、-C(=O)R4の置換度が、1.50以上であり、30~60%の空隙率を有し、0.01~0.20μm3の平均空孔体積を有することが好ましい。
一実施形態において、多孔質体は、一般式(I)で表されるβ-1,3-グルカン誘導体を有し、一般式(I)中、アセチル基及びプロピオニル基がそれぞれ1つ以上含まれ、-C(=O)R3(アセチル基)の置換度が、1.50未満であり、-C(=O)R4(プロピオニル基)の置換度が、1.50以上であり、30~60%の空隙率を有し、0.01~0.20μm3の平均空孔体積を有することがより好ましい。
【0068】
(超臨界CO2を用いて製造される多孔質体)
一実施形態において、多孔質体は、超臨界流体を用いて、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む製造方法によって製造される、多孔質体である。
【0069】
ここで、上記製造方法は、第3実施形態に記載の多孔質体の製造方法であり、その例及び好ましい例は第3実施形態に記載のとおりである。また、β-1,3-グルカン誘導体の例及び好ましい例は第1実施形態に記載のとおりである。
【0070】
==第2実施形態(成形体)==
本実施形態に係る成形体は、第1実施形態で説明した、いずれか1の多孔質体を含む。
【0071】
成形体は、第1実施形態に記載の1種のβ-1,3-グルカン誘導体を含んでいても、2種以上のβ-1,3-グルカン誘導体を含んでいてもよい。
また、成形体は、1種又は2種以上のβ-1,3-グルカン誘導体のみを含んでいてもよいが、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、他種のβ-1,3-グルカン、他種のβ-1,3-グルカン誘導体(第1実施形態に記載のβ-1,3-グルカン誘導体とは異なる)、樹脂、フィラー、酸化防止剤、離形剤、着色剤、分散剤、難燃助剤、難燃剤等の樹脂組成物に一般に添加される各種添加剤が挙げられる。
【0072】
第1実施形態に記載の多孔質体は、所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有することによって、断熱効果、緩衝効果、吸着効果、分離効果等が所望される種々の用途のための成形体として、又はそのような成形体に含まれる材料として好ましく使用することができる。
成形体の例として、自動車内外装品、より具体的には、車両の床面とカーペットとの間に配置され衝突時などに乗員の足への衝撃を緩和するためのティビアパット、車両用ラゲッジボックス、車両用シート芯材等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
==第3実施形態(製造方法)==
(多孔質体の製造方法)
本実施形態に係る多孔質体の製造方法は、超臨界流体を用いて、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む、第1実施形態に記載の多孔質体の製造方法である。
【0074】
β-1,3-グルカン誘導体組成物は、1種又は2種以上のβ-1,3-グルカン誘導体のみを含んでいてもよいが、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、他種のβ-1,3-グルカン、他種のβ-1,3-グルカン誘導体(第1実施形態に記載のβ-1,3-グルカン誘導体とは異なる)、樹脂、フィラー、酸化防止剤、離形剤、着色剤、分散剤、難燃助剤、難燃剤等の樹脂組成物に一般に添加される各種添加剤が挙げられる。
【0075】
β-1,3-グルカン誘導体の例及び好ましい例は、第1実施形態の「β-1,3-グルカン誘導体」に記載されるとおりである。
すなわち、一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体は、以下の一般式(I)
で表される構造を有する。
一般式(I)中、R
1は、それぞれ独立してH又は-C(=O)R
2であり、R
2は脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、nは1以上の整数を表す。少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのR
1が-C(=O)R
2である。
【0076】
本実施形態に係る多孔質体の製造方法における工程は、超臨界流体を用いて、β-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む範囲で限定されない。
超臨界流体は、当該分野で周知のものから当業者が適宜選択できる。例えば、超臨界流体として、二酸化炭素、及び/又は窒素を用いることができる。
超臨界流体によって臨界温度及び臨界圧力等が異なるため、用いるβ-1,3-グルカン誘導体組成物に適した超臨界流体を用いればよいが、第1実施形態の「β-1,3-グルカン誘導体」に記載のβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させ、所望の空隙率及び/又は平均空孔体積を有する多孔質体を得る観点から、一実施形態において、超臨界二酸化炭素(超臨界CO2)を用いることが好ましい。
【0077】
一実施形態において、多孔質体の製造方法は、超臨界CO2を用いて、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含む、β-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程を含む、第1実施形態に記載の多孔質体の製造方法である。
【0078】
ここで、一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程は、β-1,3-グルカン誘導体組成物と超臨界流体とを混合する工程(2相混合工程)、超臨界流体をβ-1,3-グルカン誘導体組成物に溶解させる工程(単一相形成工程)、及び急激な圧力変化により気液相を分離させる工程(発泡体形成工程)を含んでいてもよい。
すなわち、β-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程は、β-1,3-グルカン誘導体組成物とCO2とを混合する工程(2相混合工程)、CO2をβ-1,3-グルカン誘導体組成物に溶解させる工程(単一相形成工程)、及び急激な圧力変化により気液相を分離させる工程(発泡体形成工程)を含んでいてもよい。
【0079】
一実施形態において、2相混合工程は、β-1,3-グルカン誘導体組成物を真空乾燥する工程と、真空乾燥させたβ-1,3-グルカン誘導体組成物に超臨界流体を接触させる工程とを含んでいてもよい。
すなわち、2相混合工程は、β-1,3-グルカン誘導体組成物を真空乾燥する工程と、真空乾燥させたβ-1,3-グルカン誘導体組成物にCO2を接触させる工程とを含んでいてもよい。
【0080】
一実施形態において、単一相形成工程は、β-1,3-グルカン誘導体組成物及び超臨界流体に対し加圧する工程と、β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物と超臨界流体との混合物を取得する工程とを含んでいてもよい。
すなわち、単一相形成工程は、β-1,3-グルカン誘導体組成物及びCO2に対し加圧する工程と、β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物とCO2との混合物を取得する工程とを含んでいてもよい。
【0081】
一実施形態において、発泡体形成工程は、混合物に対し減圧して、β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物の内部に気泡を発生させる工程を含んでいてもよい。
【0082】
一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体組成物及びCO2に対し加圧する工程は、50℃~100℃の雰囲気で行うことが好ましく、70℃~90℃の雰囲気で行うことがより好ましく、80℃の雰囲気で行うことがさらに好ましい。また、加圧は、20~50MPa以上で行うことが好ましく、30~50MPa以上で行うことがより好ましく、40MPa以上で行うことがさらに好ましい。
一実施形態において、発泡体形成工程における混合物に対する減圧は、加圧工程に対する減圧であれば制限されないが、30MPa/s以上で減圧することが好ましく、40MPa/s以上で減圧することがより好ましく、50MPa/s以上で減圧することがさらに好ましい。
【0083】
各工程は、超臨界流体を用いた発泡技術分野において周知の方法で行うことができる。一実施形態において、各工程は、超臨界CO2を用いた発泡技術分野において周知の方法で行うことができる。
【0084】
より具体的には、一実施形態において、β-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させる工程において、β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物を真空乾燥した後、乾燥試料を圧力容器内に導入することができる。圧力容器は、例えば、直径10mm以上、長さ210mm以上の大きさであってもよい。その後、例えば、圧力容器内の雰囲気の温度を80℃で設定し、CO2を導入して40MPa以上に加圧することができる。この状態で12時間以上放置して、β-1,3-グルカン誘導体組成物内部にCO2に溶解させることができる。続いて、圧力容器を50MPa/s以上で急減圧し、β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物内部に気泡を発生させ、発泡体を形成することができる。
【0085】
==第4実施形態(多孔質成形体用組成物)==
本実施形態に係る多孔質成形体用β-1,3-グルカン誘導体組成物は、第1実施形態に記載のβ-1,3-グルカン誘導体を含む。
【0086】
β-1,3-グルカン誘導体組成物は、第1実施形態に記載の1種のβ-1,3-グルカン誘導体を含んでいても、2種以上のβ-1,3-グルカン誘導体を含んでいてもよい。
また、β-1,3-グルカン誘導体組成物は、1種又は2種以上のβ-1,3-グルカン誘導体のみを含んでいてもよいが、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、他種のβ-1,3-グルカン、他種のβ-1,3-グルカン誘導体(第1実施形態に記載のβ-1,3-グルカン誘導体とは異なる)、樹脂、フィラー、酸化防止剤、離形剤、着色剤、分散剤、難燃助剤、難燃剤等の樹脂組成物に一般に添加される各種添加剤が挙げられる。
【0087】
β-1,3-グルカン誘導体組成物は、第1実施形態に記載の1又は2以上のβ-1,3-グルカン誘導体を含むことから、多孔質体を成形するために使用することができる。
一実施形態において、多孔質体は、発泡体である。発泡体において、孔は発泡により形成された孔である。その作製方法は、第3実施形態に記載されるとおりである。
【0088】
β-1,3-グルカン誘導体、多孔質体についての例及び好ましい例は第1実施形態に記載されるとおりである。
【実施例0089】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0090】
[パラミロンアセテートプロピオネートの合成]
パラミロン(3.00g,18.39mmol)、塩化リチウム(LiCl,2.367g,55.84mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、150mL)の混合物を窒素雰囲気下、90℃で1.5時間、攪拌しながら加熱した。得られた均一溶液に、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP,428mg,3.50mmol)を一括添加した。次いで、この溶液に、窒素雰囲気下90℃で1.5時間加熱した酢酸(3.302g,54.99mmol)及びプロピオン酸無水物(14.462g,111.12mmol)の混合物を滴下した。混合物滴下後、徐々に加熱して108℃まで温度させながら4時間攪拌した後、反応混合物中に、メタノール150mLを添加し、次いで、混合物を水300mLに滴下して白色沈殿物を得た。この沈殿物を、吸引濾過で分離した後、フィルター上で、水100mLで洗浄した。この白色固体をメタノール350mL中で攪拌し、吸引濾過して分離した。この精製工程を3回繰り返した。得られた固体を、クロロホルム150mLに溶解した均一溶液を、メタノール500mL中に滴下して、細い繊維状の沈殿物を得た。この沈殿物をメタノール150mL中で攪拌した。吸引濾過後、空気中で一晩風乾させ、引き続き70℃で7時間真空乾燥して、反応生成物であるβ-1,3-グルカン誘導体(パラミロンアセテートプロピオネート)を白色固体として得た。
【0091】
1H-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルによって、反応生成物を同定した。なお、1H-NMRスペクトルは、BRUKER社製、核磁気共鳴装置AVANCE500spectrometerで測定した。FT-IRスペクトルは、日本分光株式会社製ZnSeプリズム ATR Pro400-Sを備えた、日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-480STで測定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを以下に述べる方法で求めた。
【0092】
・1H-NMRスペクトル(CDCl3):δ4.87(brs),4.30(brs)4.02(brs),3.72(brs),3.60(brs),2.40-1.99(m),1.61(s),1.18-1.09(s)
・FT-IR(cm-1):945,1737,1386,1389,1365,1155,1051,871,806
【0093】
上記の方法で、パラミロンアセテートプロピオネートを複数回合成した。
【0094】
(合成例1:XXXXII-24-A)
・白色固体:4.483g,13.97mmol,収率75.9%
・DSace:0.72、DSpro:2.24
【0095】
(合成例2:XXXXII-55-A)
・白色固体:25.891g,81.59mmol,収率88.7%
・DSace:1.03、DSpro:1.96
【0096】
(合成例3:XXXXII-70-A)
・白色固体:25.268g,77.54mol,収率84.3%
・DSace:0.47、DSpro:2.54
【0097】
(合成例4:XXXXII-60A)
・白色固体:25.655g,65.33mmol,収率70.7%
・DSace:2.52、DSpro:0.41
【0098】
(合成例5:XXXXII-61-A)
・白色固体:25.665g,59.63mmol,収率64.8%
・DSace:2.52、DSpro:0.45
【0099】
(合成例6:XXXXII-66-A)
・白色固体:24.872g,70.24mmol,収率76.3%
・DSace:2.32、DSpro:0.65
【0100】
[パラミロンアセテートの合成]
パラミロン(10.0g、61.675mmol)、塩化リチウム(LiCl,7.848g,185.16mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、500mL)の混合物を窒素雰囲気下、120℃で0.5時間、攪拌しながら加熱した。得られた均一溶液に、DMAc(1000mL)、無水酢酸(240mL、2.54mol)、ピリジン(168mL、2.09mol)を一括添加した。次いで、この溶液を、窒素雰囲気下70℃で6.5時間攪拌した。途中、反応の進行を確認するため合計390mLの反応溶液を抜き取り、残り全量を室温まで温度を下げたのちに終夜攪拌した。反応液にジクロロメタン800mL、水800mLとメタノール1600mLを加えて沈殿を得た。沈殿物を取り出し、終夜風乾した。続いて減圧加熱乾燥(6時間、90℃)し目的物を得た。
【0101】
「パラミロンアセテートプロピオネートの合成」と同様の方法で、パラミロンアセテートのアセチル基の置換度DSaceを求めた。
【0102】
上記の方法で、パラミロンアセテートを合成した。
【0103】
(合成例7:パラミロンアセテート(GTX-111-10A))
・白色固体:11.183g,38.830mmol,収率63.0%
・DSace:3.0
【0104】
[多孔質体の作製]
(実施例1)
合成例1で得られたパラミロンアセテートプロピオネートを用いて、以下のように多孔質体を作製した。
【0105】
合成例1で得られたパラミロンアセテートプロピオネートを真空乾燥した後、直径10mm以上、長さ210mm以上の圧力容器内に導入した。圧力容器内の雰囲気の温度を80℃で設定し、CO2を導入して40MPa以上に加圧した。この状態で12時間以上放置して、β-1,3-グルカン誘導体組成物内部にCO2に溶解させた。続いて、圧力容器を50MPa/s以上で急減圧し、β-1,3-グルカン誘導体を含む組成物内部に気泡を発生させ、発泡体を形成した。
【0106】
(実施例2~3)
合成例2~3で得られたパラミロンアセテートプロピオネートを用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質体を作製した。
【0107】
(比較例1~4)
合成例4~6で得られたパラミロンアセテートプロピオネート、合成例7で得られたパラミロンアセテートを用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質体を作製した。
【0108】
[多孔質体の分析]
(目視での観察)
実施例1~3及び比較例1~4の試料において、発泡処理後に目視で試料の白化及び割れの発生が認められた。
【0109】
(走査型電子顕微鏡(SEM)による多孔質体の観察)
発泡により得られた多孔質体を液体窒素中で凍結させた。走査型電子顕微鏡に適した、数mm以内の片になるよう多孔質体を液体窒素中で断割した後、減圧乾燥した。
得られた試料を、カーボン導電性両面テープを用いて顕微鏡の金属製ステージに固定した。
高真空下、加速電圧を2.5kVで、走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6060、JEOL)を用いてSEM観察を行った。
【0110】
図1~3に、それぞれ、実施例1~3の発泡体のSEM写真を示した。
図1~3のA、B、C、Dの倍率はそれぞれ30倍、300倍、10,000倍、50,000倍である。
図4~7に、それぞれ比較例1~4の発泡体のSEM写真を示した。
図4~5、7のA、B、C、Dの倍率はそれぞれ30倍、2,000倍、10,000倍、50,000倍である。
図6のA、B、C、Dの倍率はそれぞれ30倍、2,000倍、10,000倍、60,000倍である。
実施例1~3及び比較例1~4の全ての試料において、目視で認められたとおり、SEMによる観察においても割れの発生が認められた。
実施例1~3の試料は、孔を有する多孔質体を形成していた。これらの多孔質体は超臨界CO
2を用いた発泡により形成された発泡体であった。
一方、比較例1~4の試料では、実施例1~3と比較して孔の形成が十分でなかった。具体的には、比較例1~4の試料では実施例1~3と比較して空隙が顕著に少なく、各孔の空孔体積が顕著に小さかった。
【0111】
[空隙率及び平均空孔体積]
空隙率はアルキメデス法により測定した。
具体的には、実施例1~3、比較例1~4の多孔質体をそれぞれ水中に浸漬して空孔内部の空気(気泡)を抜いた後、その水中重量(WAq)を測定した。多孔質体を水中から取りだして水分を拭き取り、多孔質体に水分が残っていないことを確認の上、飽水重量(Wa+w)を測定した。多孔質体を乾燥後多孔質体の乾燥重量(WAir)を測定した。
空隙率(P)は以下の式で算出した。なお、飽水重量は0である。
P(%)=(Wa+w-WAir)/(Wa+w-WAq)×100
なお、実施例1~3、比較例1~4において、飽水重量(Wa+w)は0であった。
【0112】
空孔体積は、多孔質体の表面に観察できる各独立孔の体積の平均値(平均空孔体積)として特定した。
具体的には、多孔質体の1試料を断割して5~6片を得た。各片について断割面において「走査型電子顕微鏡(SEM)による多孔質体の観察」に記載のとおりSEM観察を行い、約15μm×約10μmの領域のSEM画像を撮影した。SEM画像をIMAGE-J(https://imagej.nih.gov/ij/index.html)を用いて二値化することにより、多孔質体の断面の約15μm×約10μmの領域内における孔以外の部分と、孔の部分とを検出し、各独立孔について二次元面内における平均直径を得た。なお、独立孔とは、複数の孔がそれぞれ独立して配置されている構造である。複数の孔が互いに連通した構造(連続孔)は測定対象としなかった。多孔質体の1試料毎に分布する各独立孔の体積を、各独立孔の平均直径から球の体積の公式に基づく推定により求めた。算出された各独立孔の体積を平均することにより平均空孔体積を求めた。また、空孔体積の標準偏差を求めた。
【0113】
実施例1~3の多孔質体の空隙率及び平均空孔体積は以下のとおりであった。
実施例1 空隙率:37%、平均空孔体積±標準偏差:0.05μm3±0.05
実施例2 空隙率:43%、平均空孔体積±標準偏差:0.026μm3±0.02
実施例3 空隙率:45%、平均空孔体積±標準偏差:0.086μm3±0.20
【0114】
比較例1~4の多孔質体の平均空孔体積は以下のとおりであった。
比較例1 平均空孔体積±標準偏差:1.0E-4μm3±1.11E-4
比較例2 平均空孔体積±標準偏差:1.85E-4μm3±4.06E-4
比較例3 データなし(算出不可)
比較例4 平均空孔体積±標準偏差:9.89E-4μm3±9.32E-4
【0115】
実施例1~3では、超臨界CO2を用いた発泡により、比較例1~4と比較して、空隙が多く、平均空孔体積の大きな多孔質体が形成された。
【0116】
上記のとおり、少なくとも1つのグルコース単位中の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子がアシル基で置換されたβ-1,3-グルカン誘導体を含むβ-1,3-グルカン誘導体組成物を発泡させることで、多孔質体が得られた。