(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007421
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】デュアルモデルベースの温度コントローラ
(51)【国際特許分類】
G05D 23/19 20060101AFI20240110BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240110BHJP
H01L 21/324 20060101ALN20240110BHJP
H01L 21/31 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
G05D23/19 J
G05B11/36 K
H01L21/324 T
H01L21/31 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104450
(22)【出願日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】63/367,384
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519237203
【氏名又は名称】エーエスエム・アイピー・ホールディング・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リウ・ジェンデュオ
(72)【発明者】
【氏名】テオドルス・ジー・エム・オーステルレークン
【テーマコード(参考)】
5F045
5H004
5H323
【Fターム(参考)】
5F045DP19
5F045DQ05
5F045EK06
5F045EK22
5F045GB05
5F045GB17
5H004GB01
5H004HA01
5H004HB01
5H004KB01
5H004KB39
5H004KC27
5H323AA01
5H323AA05
5H323CA08
5H323CB02
5H323DA01
5H323FF01
5H323GG01
5H323KK05
5H323NN03
(57)【要約】
【課題】デュアルモデルベースの温度コントローラを提供する。
【解決手段】プロセスチャンバを有する熱反応器のための温度制御システムおよび方法であって、制御システムは、第一のモデルベース予測コントローラ(MBPC)を備える第一の制御ループと、第二のMBPCを備える第二の制御ループを備え、第一および第二のMBPCには、熱反応器の挙動を表す予測モデルが備わっている。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスチャンバを有する熱反応器のための温度制御システムであって、前記制御システムが、
- 第一のモデルベース予測コントローラ(MBPC)を備える第一の制御ループであって、前記第一のMBPCの入力としてスパイク温度センサ信号を使用し、熱反応器の加熱要素への電力を制御する出力信号を提供し、前記スパイク温度センサが前記加熱要素に近接して位置し、かつ前記プロセスチャンバから間隔を置き、
前記第一のMBPCに、前記熱反応器の挙動を表す第一の予測モデルが備わり、前記第一のMBPCが、前記第一の予測モデルを使用して、予測対象期間全体についての計算に基づいて出力値を計算するように構成され、前記出力値が電力出力信号を制御する、第一の制御ループと、
- 第二のMBPCを備える第二の制御ループであって、パドル温度センサ信号および任意選択でスパイク温度センサ信号を前記第二のMBPCの入力として使用し、前記第一の制御ループ内で前記第一のMBPC用の入力として使用されるスパイク温度制御設定点を出力として提供し、前記パドル温度センサが前記加熱要素から間隔を置き、かつ前記プロセスチャンバ内または前記プロセスチャンバに近接して位置し、前記スパイク温度センサが前記加熱要素に近接して位置し、かつ前記プロセスチャンバから間隔を置き、
前記第二のMBPCに、前記熱反応器の前記挙動を表す第二の予測モデルが備わり、前記第二のMBPCが、前記第二の予測モデルを使用して、予測対象期間全体についての計算に基づいて出力値を計算するように構成される、第二の制御ループと、を備える、温度制御システム。
【請求項2】
前記第一および/または第二のMBPCに、前記熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっている、請求項1に記載の温度制御システム。
【請求項3】
同一の前記汎用線形動的モデルが、前記第一および前記第二のMBPCに対して提供されている、請求項2に記載の温度制御システム。
【請求項4】
前記第一のMBPCモデルと前記第二のMBPCモデルについての定常状態ゲイン係数が異なる、請求項3に記載の温度制御システム。
【請求項5】
モデル不一致補正係数が、モデル予測計算および出力最適化計算に追加される、請求項2に記載の温度制御システム。
【請求項6】
前記第一および/または第二のMBPCが、一定の温度制御設定点に近づくと、指定されたランプ速度を自動的に減少させる軌道プランナーを備える、請求項1に記載の温度制御システム。
【請求項7】
制御システムであって、
- プラントを、前記プラントのプロセスチャンバ内の加熱要素への電力を制御する出力信号で制御するための第一のモデルベース予測コントローラ(MBPC)を備える第一の制御ループであって、前記第一のMBPCが、前記加熱要素に近接して位置し、かつ前記プロセスチャンバから間隔を置いている少なくとも一つのスパイク温度センサからセンサデータを受信するように構成され、前記出力信号が、予測対象期間全体についての前記第一のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づく、第一の制御ループと、
- 第二のMBPCを備える第二の制御ループであって、前記第二のMBPCが、前記第一のMBPCに制御設定点を提供するように構成され、前記制御設定点が、予測対象期間全体についての前記第二のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づき、前記第二のMBPCが、
(1)前記プロセスチャンバ内または前記プロセスチャンバに近接して位置し、かつ前記加熱要素から間隔を置いた少なくとも一つのパドル温度センサから、および任意選択で、
(2)前記加熱要素に近接して位置し、かつ前記プロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからのセンサデータを受信するようにさらに構成されている、第二の制御ループと、を備える制御システム。
【請求項8】
前記第一および/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっている、請求項7に記載の制御システム。
【請求項9】
同一の前記汎用線形動的モデルが、前記第一および前記第二のMBPCに対して提供されている、請求項8に記載の制御システム。
【請求項10】
前記第一のMBPCモデルと前記第二のMBPCモデルについての定常状態ゲイン係数が異なる、請求項9に記載の制御システム。
【請求項11】
モデル不一致補正係数が、モデル予測計算および出力最適化計算に追加される、請求項8に記載の制御システム。
【請求項12】
プロセスチャンバを有するプラントを制御するための方法であって、
- 第一の制御ループから前記プラントに制御入力を提供することであって、前記第一の制御ループが、加熱要素に近接して位置し、かつ前記プロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからセンサデータを受信するように構成された第一のMBPCを備え、前記制御入力が、予測対象期間全体についての前記第一のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づく、提供することと、
- 前記第一の制御ループに制御設定点を提供することであって、前記制御設定点が、
(1)前記プロセスチャンバ内または前記プロセスチャンバに近接して位置し、かつ前記加熱要素から間隔を置いた少なくとも一つのパドル温度センサから、および任意選択で、
(2)前記加熱要素に近接して位置し、かつ前記プロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからのセンサデータを受信するように構成された第二のMBPCを備える第二の制御ループによって計算され、
前記第二のMBPCが、前記プラント用の制御プロセスシーケンスを受信するようにさらに構成され、前記第二のMBPCが、予測対象期間全体についての前記第二のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づいて、前記制御設定点を計算するように構成される、提供することと、を含む、方法。
【請求項13】
前記第一および/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
同一の前記汎用線形動的モデルが、前記第一のMBPCおよび前記第二のMBPCに対して提供され、前記第一のMBPCモデルおよび前記第二のMBPCモデルについての定常状態ゲイン係数が異なる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
モデル不一致補正係数が、モデル予測計算および出力最適化計算に追加される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、本明細書に開示される本発明は、例えば、半導体基材の処理のための熱反応器など、プラントを制御するためのネスト状制御ループを有するカスケードモデルベースの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体処理では、ウエハサイズは増大し続け、集積回路の特徴サイズは減少し続ける。ウエハサイズのさらなる増大および特徴サイズのさらなる減少には、熱プロセス制御における改善が必要である。ウエハが処理される温度は、拡散、堆積、および他の熱プロセスに一次的影響を及ぼす。バッチ炉は、そのバッチサイズが大きいこと、それに対応して処理済みウエハ当たりのコストが低いことから、熱処理にとって引き続き重要な役割を果たす。バッチ熱処理の標的は、高い機器利用率と大きなウエハバッチサイズを維持しながら、改善された温度制御を達成することである。質の高い温度制御の要件には、ランプ中の温度均一性が良好なランプ速度、温度オーバーシュートがほとんどまたは全くない高速温度安定性、より小さな定常状態温度誤差帯、コントローラパラメータ調整のためのより短いダウンタイムなどが含まれる。
【0003】
従来のシングルループの比例-積分-微分(PID)コントローラでは、必要な温度制御性能を達成できない。また、カスケードまたはネスト状制御ループを有するPIDコントローラは、改善された温度制御を提供する試みに使用されている。しかしながら、これらの方法および他の手法には、半導体製造プロセスの最適ではない温度制御につながる、複雑さおよび計算要件に関連する実用面での欠点がある。
【0004】
したがって、改善された温度制御を提供し、半導体製造プロセスの全体的な改善をもたらす、システムおよび方法に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に記載の方法およびシステムは、典型的な制御マイクロプロセッサ上に実装され得る、計算効率の高いデュアルカスケードMBPC制御システムを提供することによって、これらのおよび他の問題を解決する。
【0006】
本開示の態様は、プロセスチャンバを有する熱反応器のための温度制御システムに関し、制御システムは、
- 第一のモデルベース予測コントローラ(MBPC)を備える第一の制御ループであって、第一のMBPCの入力としてスパイク温度センサ信号を使用し、熱反応器の加熱要素への電力を制御する出力信号を提供し、スパイク温度センサが加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置き、
第一のMBPCに、熱反応器の挙動を表す第一の予測モデルが備わり、第一のMBPCが、第一の予測モデルを使用して、予測対象期間全体についての計算に基づいて出力値を計算するように構成され、前記出力値が電力出力信号を制御する、第一の制御ループと、
- 第二のMBPCを備える第二の制御ループであって、パドル温度センサ信号およびスパイク温度センサ信号を第二のMBPCの入力として使用し、第一の制御ループ内で第一のMBPCの入力として使用されるスパイク温度制御設定点を出力として提供し、パドル温度センサが加熱要素から間隔を置き、かつプロセスチャンバ内またはプロセスチャンバに近接して位置し、スパイク温度センサが加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置き、
第二のMBPCに、熱反応器の挙動を表す第二の予測モデルが備わり、第二のMBPCが、第二の予測モデルを使用して、予測対象期間全体についての計算に基づいて出力値を計算するように構成される、第二の制御ループと、を備える。
【0007】
一実施形態では、本明細書に開示される温度制御システムは、第一および/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっていることを条件とする。特に、同一の汎用線形動的モデルが、第一のMBPCおよび第二のMBPCに対して提供される。より具体的には、第一のMBPCと第二のMBPCに対して同一の汎用線形動的モデルが提供されるが、第一のMBPCモデルと第二のMBPCモデルの定常状態ゲイン係数は異なる。
【0008】
一実施形態では、モデル不一致補正係数がモデル予測計算および出力最適化計算に追加される、温度制御システムが本明細書に開示される。
【0009】
一実施形態では、本明細書に開示される温度制御システムは、第一のMBPCおよび/または第二のMBPCが、一定の温度制御設定点に近づくと、指定されたランプ速度を自動的に減少させる軌道プランナーを備えることを条件とする。
【0010】
本開示の別の態様は、
- プラントを、前記プラントのプロセスチャンバ内の加熱要素への電力を制御する出力信号で制御するための第一のモデルベース予測コントローラ(MBPC)を備える第一の制御ループであって、前記第一のMBPCが、加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いている少なくとも一つのスパイク温度センサからセンサデータを受信するように構成され、前記出力信号が、予測対象期間全体についての前記第一のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づく、第一の制御ループと、
- 第二のMBPCを備える第二の制御ループであって、前記第二のMBPCが、前記第一のMBPCに制御設定点を提供するように構成され、前記制御設定点が、予測対象期間全体についての前記第二のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づき、前記第二のMBPCが、
(1)プロセスチャンバ内またはプロセスチャンバに近接して位置し、かつ加熱要素から間隔を置いた少なくとも一つのパドル温度センサから、および、
(2)加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからのセンサデータを受信するようにさらに構成されている、第二の制御ループと、を備える制御システムに関連する。
【0011】
一実施形態では、本明細書に開示される制御システムは、第一のMBPCおよび/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっていることを条件とする。特に、同一の汎用線形動的モデルが、第一のMBPCおよび第二のMBPCに対して提供される。より具体的には、第一のMBPCと第二のMBPCに対して同一の汎用線形動的モデルが提供されるが、第一のMBPCモデルと第二のMBPCモデルの定常状態ゲイン係数は異なる。
【0012】
一実施形態では、モデル不一致補正係数がモデル予測計算および出力最適化計算に追加される、制御システムが本明細書に開示される。
【0013】
本開示の別の態様は、プロセスチャンバを有するプラントを制御するための方法に関し、方法は、
- 第一の制御ループから前記プラントに制御入力を提供することであって、前記第一の制御ループが、加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからセンサデータを受信するように構成された第一のMBPCを備え、前記制御入力が、予測対象期間全体についての前記第一のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づく、提供することと、
- 前記第一の制御ループに制御設定点を提供することであって、前記制御設定点が、
(1)プロセスチャンバ内またはプロセスチャンバに近接して位置し、かつ加熱要素から間隔を置いた少なくとも一つのパドル温度センサから、および、
(2)加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからのセンサデータを受信するように構成された第二のMBPCを備える第二の制御ループによって計算され、
前記第二のMBPCが、前記プラント用の制御プロセスシーケンスを受信するようにさらに構成され、前記第二のMBPCが、予測対象期間全体についての前記第二のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づいて、前記制御設定点を計算するように構成される、提供することと、を含む。
【0014】
一実施形態では、本明細書に開示される方法は、第一のMBPCおよび/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっていることを条件とする。特に、同一の汎用線形動的モデルが、第一のMBPCおよび第二のMBPCで採用される。より具体的には、第一のMBPCと第二のMBPCで同一の汎用線形動的モデルが採用されるが、第一のMBPCモデルと第二のMBPCモデルに使用される定常状態ゲイン係数は異なる。
【0015】
一実施形態では、モデル不一致補正係数がモデル予測計算および出力最適化計算に追加される、方法が本明細書に開示される。
【0016】
以下の図の説明は、本教示、それらの適用または使用を限定することを意図していない、本質的に単に例示的な本開示の特定の実施形態に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1a】
図1aは、デュアルカスケードMBPC制御構成を有する垂直熱反応器を示す。
【
図1b】
図1bは、デュアルカスケードMBPC制御構成を有する垂直熱反応器を示す。
【
図2】
図2は、MBPC制御ループの全体的な構造を示す。
【
図3】
図3は、デュアルカスケードMBPC制御構成で使用される第二のMBPCコントローラ構造を示す。
【
図4】
図4は、デュアルカスケードMBPC制御構成で使用される第一のMBPCコントローラ構造を示す。
【0018】
図面全体を通して、対応する参照番号は、以下の部品および特徴を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の詳細な説明では、本開示の基礎となる技術は、その異なる態様によって説明される。本開示の態様は、概して本明細書に記載され、図に示されるように、多種多様な異なる構成で配置、置換、結合、および設計されることができ、それらすべては明確に意図され、本開示の一部をなすことが容易に理解されよう。本説明は、技術的な概念をより容易に理解するために読者を助けることを意図しているが、本開示の範囲を限定することは意図しておらず、これは特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0020】
本明細書全体を通して、「一実施形態(one embodiment)」または「実施形態(an embodiment)」への言及は、実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、または特性が、本開示の少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通した様々な場所での「一実施形態では」または「実施形態では」という句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すのではない。
【0021】
本明細書で使用される場合、本明細書で使用される場合の「備えること(comprising)」、「備える(comprises)」、および「からなる(comprised of)」という用語は、「含むこと(including)」、「含む(includes)」、または「含むこと(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加的な、列挙されていない部材、要素または方法工程を除外しない。列挙された部材、要素、または方法工程を指す場合、「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」、および「からなる(comprised of)」という用語は、前述の列挙された部材、要素、または方法工程「からなる(consist of)」実施形態も含む。単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈による別途明確な指示がない限り、単数形および複数形の参照対象の両方を含む。
【0022】
本明細書で使用される場合、例えば「左」、「右」、「前」、「後」、「上」、「下」、「上に」、「下に」などの相対的な用語は、説明目的で使用され、必ずしも永久的な相対的位置を記述するためではない。そのような用語は、適切な状況下で互換性があり、本明細書に記述される実施形態は、文脈によって明らかにそうでないことが示されない限り、本明細書に図示または記述されたもの以外の向きで動作することができることが、理解されるべきである。
【0023】
本明細書に記載される物体が互いに「隣接」していることは、記載される物体間の機能的関係を反映する。すなわち、この用語は、記載される物体が、その句が使用される文脈に適切な場合に、指定された機能を実施するように隣接している必要があることを示し、これは直接的(すなわち、物理的)または間接的(すなわち、すぐそばまたは近くでの)接触でありうる。
【0024】
本明細書に記載される物体が互いに「接続され」または「結合され」ていることは、記載される物体間の機能的関係を反映する。すなわち、この用語は、記載される物体が、その用語が使用される文脈に適切な場合に、指定された機能を実施するように接続されている必要があることを示し、これは電気的または非電気的(すなわち、物理的)な様式での直接的または間接的な接続でありうる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語は、アクション、特徴、特性、状態、構造、品目、または結果の完全なまたはほぼ完全な範囲または程度を指す。例えば、「実質的に」囲まれた物体は、物体が完全に囲まれているか、またはほぼ完全に囲まれていることを意味することになる。絶対的な完全性からの逸脱の正確な許容可能な程度は、一部の事例では、特定の状況に依存しうる。しかしながら、一般的には、完全さに近いことで、絶対的かつ全面的な完全さが得られた場合と同じ全体的な結果を有するようになる。「実質的に」の使用は、アクション、特徴、特性、状態、構造、品目、または結果の完全またはほぼ完全な欠如を指すために、否定的な含意で使用される場合、同様に適用可能である。
【0026】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の文脈に応じて、所与の値が、その値または端点を「わずかに上回る」または「わずかに下回る」可能性があることを規定することによって、数値または範囲端点に柔軟性を提供するために使用される。別段の記載がない限り、特定の数または数値範囲に従った「約」という用語の使用はまた、「約」という用語なしのそのような数値用語または範囲を裏付けるものと理解されるべきである。例えば、「約30」の詳述は、30をわずかに上回る値およびわずかに下回る値を裏付けるものとしてだけでなく、実際の数値30も同様に裏付けるものとして解釈されるべきである。
【0027】
端点による数値範囲の詳述は、それぞれの範囲内に包含されるすべての数および分数だけでなく、詳述された端点を含む。さらに、本明細書および特許請求の範囲における第一、第二、第三などの用語は、指定のない限り、類似要素間を区別するために使用され、必ずしも順序または時系列を記述するために使用されない。そのように使用される用語は、適切な状況下で互換性があり、本明細書に記載される開示の実施形態は、本明細書に記載または図示される以外の順序で動作できることが、理解されるべきである。
【0028】
本明細書における言及は、性能を「改善」(例えば、文脈に応じて、結果を増加または減少)する、装置、構造、システム、または方法に対してなされてもよい。別段の記載がない限り、こうした「改善」は、先行技術における装置、構造、システム、または方法との比較に基づいて得られる利益の測定基準であることが、理解されるべきである。さらに、性能の改善の程度は、開示された実施形態間で変動があり得、性能の改善の量、程度、または実現における均等性または一貫性は、普遍的に適用可能であると想定されるべきではないことが、理解されるべきである。
【0029】
さらに、本開示の実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、および電子部品またはモジュールを含んでもよく、これは、考察の目的で、コンポーネントの大部分がハードウェアにのみ実装されているかのように図示および説明されてもよい。しかしながら、当業者であれば、この詳細な説明を読むことにより、少なくとも一つの実施形態において、本開示の電子ベースの態様が、マイクロプロセッサおよび/または特定用途向け集積回路などの一つ以上の処理装置によって実行可能なソフトウェア(例えば、非一時的コンピュータ可読媒体上に格納された命令)内に実装されうることを認識するであろう。そのため、複数のハードウェアおよびソフトウェアベースの装置、ならびに複数の異なる構造構成要素を利用して、本開示の技術を実装し得ることに留意すべきである。例えば、本明細書に記述される「サーバー」および「コンピューティング装置」は、一つ以上の処理装置、一つ以上のコンピュータ可読媒体モジュール、一つ以上の入出力インターフェース、および構成要素を接続する様々な接続を含むことができる。
【0030】
本開示の技術の様々な態様の概要を本明細書で以下に示し、その後、特定の実施形態についてより詳細に説明する。この概要は、より迅速に技術概念を理解する上で読者を助けることを意図しているものの、その最も重要なまたは不可欠な特徴を特定することも、特許請求の範囲によってのみ限定される本開示の範囲を限定することも意図していない。特定の実施形態を説明する際に、添付図面を参照するが、これは、単に記載される実施形態の理解を助けるためにのみ提供される。
【0031】
本明細書に記載される方法およびシステムは、典型的な制御マイクロプロセッサ上に実装されることができる、計算的に効率の高いデュアルカスケードMBPC(モデルベース予測コントローラ)制御システムを提供する。
【0032】
一実施形態では、本明細書に開示されるデュアルカスケードMBPC制御システムは、内側制御ループ内に第一のMBPCコントローラ、および外側制御ループ内に第二のMBPCコントローラを有するネスト状制御ループを有する、カスケード型システムである。特定の実施形態では、第二のMBPCコントローラは、メイン制御ループまたは外側制御ループとして機能し、第一のMBPCコントローラは、スレーブ制御ループまたは内側制御ループとして使用される。
【0033】
一実施形態では、デュアルカスケードMBPCを使用して、熱プロセス反応器を制御することができ、ここで第二のMBPCコントローラは、計画されたパドル制御設定点軌道と、パドルおよびスパイクTCに関連する予測モデルとの両方に従って、所望のスパイク制御設定点を生成する。熱プロセス反応器では、第一のMBPCコントローラは、スパイク制御設定点の変化に素早く従うローカルシステムとして機能することによって、必要なスパイク制御設定点に到達するために、ヒーターの電力アクチュエータを制御するために使用される。
【0034】
第一のMBPC制御ループに対する調整パラメータは、第二のMBPC制御ループと比較的弱く結合される。第一のMBPC制御ループのサンプリング時間ts1は、第二のMBPC制御ループのサンプリング時間ts2と比較して、より短いことが好ましい。一実施形態では、ts1はおよそ1秒程度であり、ts2はおよそ4秒程度である。
【0035】
他の既存の温度制御システムと比較して、本明細書に開示される制御スキームにおけるモデルオーダーおよび予測対象期間は、劇的に減少させることができる一方で、モデルは実際のシステムの挙動をなおも適切に記述および予測する。
【0036】
したがって、本開示の態様は、プロセスチャンバを有する熱反応器のための温度制御システムに関し、制御システムは、
- 第一のMBPCを備える第一の制御ループであって、第一のMBPCの入力としてスパイク温度センサ信号を使用し、熱反応器の加熱要素への電力を制御する出力信号を提供し、スパイク温度センサが加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置き、
第一のMBPCに、熱反応器の挙動を表す第一の予測モデルが備わり、第一のMBPCが、第一の予測モデルを使用して、予測対象期間全体についての計算に基づいて出力値を計算するように構成され、前記出力値が電力出力信号を制御する、第一の制御ループと、
- 第二のMBPCを備える第二の制御ループであって、パドル温度センサ信号および任意選択でスパイク温度センサ信号を第二のMBPCの入力として使用し、第一の制御ループ内で第一のMBPCの入力として使用されるスパイク温度制御設定点を出力として提供し、パドル温度センサが加熱要素から間隔を置き、かつプロセスチャンバ内またはプロセスチャンバに近接して位置し、任意選択のスパイク温度センサが加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置き、
第二のMBPCに、熱反応器の挙動を表す第二の予測モデルが備わり、第二のMBPCが、第二の予測モデルを使用して、予測対象期間全体についての計算に基づいて出力値を計算するように構成される、第二の制御ループと、を備える。
【0037】
最新の制御技術とシステム識別の進歩に伴い、例えばモデルベース予測コントローラ(MBPC)など、より高度な制御システムが開発されてきたが、これらのより高度な制御方法はしばしば計算的に複雑であり、典型的にオンライン処理中の行列反転を必要とする。しかしながら、本明細書に開示されるデュアルカスケードMBPC制御システムは、効率的で迅速な処理を可能にする。
【0038】
第二のMBPCは、パドル制御設定点Pdset、実際のパドル温度Pd、および任意選択で実際のスパイク温度Spを入力として受信し、スパイク制御設定点Spsetを出力として計算する。第二のMBPCは、熱反応器の挙動を表す予測モデルを使用して、目的関数を最小化することによって予測制御信号を計算して、オンライン最適化制御を提供する。第一のMBPCは、第二のMBPCからのスパイク制御設定点Spsetと、実際のスパイク温度Spとを入力として受信し、出力として電力出力信号Pwを計算し、これは、熱反応器の加熱要素を制御するための電力を供給する電力アクチュエータに提供される。第一のMBPCは、熱反応器の挙動を表す予測モデルを使用して、目的関数を最小化することによって予測制御信号を計算して、オンライン最適化制御を提供する。モデルは単純化されているため、制約を考慮した場合でも、第一のMBPCおよび第二のMBPCは、比較的より少ない量の計算リソースを必要とする。
【0039】
「コントローラ」は、処理システムの様々な構成要素に結合されて、それらの動作が制御されてもよい。コントローラは一般に、中央処理装置(CPU)、メモリ、およびCPUのサポート回路を備える。コントローラは、処理システムを直接的に、または特定のプロセスチャンバおよび/またはサポートシステム構成要素に関連付けられたコンピュータ(またはコントローラ)を介して制御してもよい。コントローラは、様々なチャンバおよびサブプロセッサを制御するための産業環境で使用できる任意の形態の汎用コンピュータプロセッサの一つであってもよい。CPUのメモリ、またはコンピュータ可読媒体は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、フロッピーディスク、ハードディスク、フラッシュ、またはローカルかリモートかを問わない、他の任意の形態のデジタルストレージなど、容易に利用可能なメモリのうちの一つ以上であってもよい。サポート回路は、従来的な様式でプロセッサをサポートするためにCPUに結合される。これらの回路には、キャッシュ、電源、クロック回路、入出力回路およびサブシステムなどが含まれる。本明細書に記載される発明の方法は、本明細書に記載される様式で処理システムの動作を制御するために、実行され得るか、または呼び出され得るソフトウェアルーチンとして、メモリに格納されてもよい。ソフトウェアルーチンはまた、CPUによって制御されるハードウェアから遠隔に位置する第二のCPU(図示せず)によって格納および/または実行されてもよい。
【0040】
本明細書に開示されるデュアルカスケードMBPC制御構成700を有する垂直熱反応器システムを、
図1aに示す。垂直熱反応器は、プロセス領域を限定するプロセスチャンバ110を含む。プロセスチャンバは、ALD、CVD、またはこれに類するもの用に構成されてもよく、好ましくは、石英または炭化ケイ素製の長いプロセスチャンバである。支持および熱分離のために台座151上に配置されたウエハボート150内に収容されたウエハ152のバッチが、プロセスチャンバ110に挿入される。プロセスチャンバ110は、プロセスガス用の入口111および出口を含む。プロセスチャンバは、複数のゾーン加熱コイル(ゾーン1、ゾーン2、ゾーン3、ゾーン4およびゾーン5)、好ましくは電気加熱コイルを有する加熱要素120によって囲まれる。各ゾーンは、一つ以上の温度センサーを有する。
図1aでは、各ゾーンは、スパイク熱電対(TC)130および「プロファイル」またはパドル熱電対(TC)140を有する。スパイクTCは、スパイク温度に対応するスパイクTC信号を生成する。パドルTCは、パドル温度に対応するパドルTC信号を生成する。スパイクTC130は、加熱要素の比較的近くのプロセスチャンバ110の外側に位置し、パドルTCは、ウエハの比較的近くのチャンバ110の内側に位置する。抵抗加熱要素120を使用して温度を制御する垂直反応器システムは、加熱要素が熱を発生させることのみができ、吸収することができないため、本質的に非線形システムである。さらに、加熱要素120、プロセスチャンバ110、およびウエハバッチ152の物理的質量が大きいこと、これに対応して熱質量または熱容量が高いことから、垂直熱反応器は、長い時定数または遅延時間を示す。これは、ゾーン1~5にある加熱コイルのうち一つ以上の電力入力を増加させた後、より高い温度で新しい定常状態が達成されるまでに、比較的長い時間がかかることを意味する。反応器温度が制御設定点よりも高い場合、冷却は、コントローラではなく、反応器の設計およびその温度に依存するある速度で起こる。オーバーシュートの場合、特に、自然冷却速度がより低い、より低い温度では、システムが制御設定点まで再び冷却されるまでに、比較的長い時間がかかる。反応器の応答時間の遅れのため、本明細書に開示される改善されたデュアルカスケードMBPC制御システムは、反応器温度のより効率的かつ安全な制御を可能にする。
【0041】
図1aに示す垂直熱反応器は、デュアルカスケード制御システムによって制御される。パドル制御設定点Pd
set、実際のパドル温度Pd、および実際のスパイク温度Spは、第二のMBPCコントローラ720に提供され、これは、スパイク制御設定点Sp
setを生成する。第一のMBPCコントローラ740は、スパイクエラー信号および実際のスパイク温度Spを使用して、加熱要素120を制御する電力を提供するために、電力アクチュエータ750に提供される電力出力信号を生成する。
【0042】
図1bに示す垂直熱反応器システムの構成は、第一のMBPCと第二のMBPCとの間に加算器730が存在することを除いて、
図1aの構成と同一であり、この加算器は、インバータ732を介して加算器730に提供される、スパイク制御設定点Sp
setおよび実際のスパイク温度Spを使用してスパイクTCエラー信号を計算する。加算器730は、スパイク制御設定点Sp
setから実際のスパイク温度Spを減算することによって、スパイクエラー信号Esを計算する。スパイクエラー信号Esはその後、スパイク制御設定点Sp
setの代わりに、第一のMBPCの入力として提供される。加算器730は、熱電対の測定ハードウェア障害を検出するためのフェイルセーフとして、
図1bの構成に追加される。
【0043】
典型的な熱プロセスは、ウエハが熱反応器に装填される、待機温度で開始される。装填後、熱反応器は、酸化、アニーリング、ドライブ、またはCVDのために所望のプロセス温度まで加熱される。このプロセスを実施した後、熱反応器は再び待機温度まで冷却され、ウエハが取り出される。待機温度、ランプアップ/ダウン速度、およびプロセス温度が合理的な範囲で設定される場合、一般的に知られているコントローラを使用することにより、プロセス中に許容可能な温度制御性能を達成することができる。しかしながら、プロセスの性能を最適化するために、特に、熱プロセスがより複雑になるとき、および/またはコントローラパラメータの改善された調整を必要とするとき、一般的に知られているシステムは、有用なウエハ処理に使用できない、大きな期間のオフライン計算時間を必要とし、プロセスを、効率がより低いものにし、したがって、より費用がかかるようにする。本明細書に開示される温度制御システムは、制御を、反応器のダウンタイムを必要とせずに、より安定して、速く、かつ効果的にする。本明細書に開示される改善されたデュアルカスケードMBPC制御システムは、熱反応器に適用される温度の計算が迅速かつ高い信頼性でなされるように、簡略化された汎用線形動的モデルを使用することによって、熱反応器のリアルタイム制御を提供する。
【0044】
その名称が示すように、MBPCは、熱反応器の挙動を表す予測モデルに基づく。一実施形態では、本明細書に開示される温度制御システムは、第一および/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっていることを条件とする。特に、同一の汎用線形動的モデルが、第一のMBPCおよび第二のMBPCに対して提供される。より具体的には、第一のMBPCと第二のMBPCに対して同一の汎用線形動的モデルが提供されるが、第一のMBPCモデルと第二のMBPCモデルの定常状態ゲイン係数は異なる。
【0045】
一実施形態では、方程式(1a)~方程式(3a)による汎用線形動的モデルは、第二のMBPC制御ループに使用される。第二のMBPCで使用される汎用線形動的モデルのモデル方程式は、以下の通りである。
【数1】
式中、Pd(t)はパドル温度出力であり、
Sp(t)はスパイク温度入力であり、
kは以下の定常状態ゲインであり:
【数2】
τは以下の時定数であり:
【数3】
式中、ρは密度であり、
c
pは比熱であり、
Vは本体体積であり、
Hは熱伝達であり、
A
Sは表面積である。
【0046】
一実施形態では、方程式(1b)~方程式(3b)による汎用線形動的モデルは、第一のMBPC制御ループに使用される。第一のMBPCで使用される汎用線形動的モデルのモデル方程式は、以下の通りである。
【数4】
式中、Sp(t)はスパイク温度出力であり、
Pw(t)は電力入力であり、
kは以下の定常状態ゲインであり:
【数5】
τは以下の時定数であり:
【数6】
式中、ρは密度であり、
c
pは比熱であり、
Vは本体体積であり、
Hは熱伝達であり、
A
Sは表面積である。
【0047】
一実施形態では、モデル不一致補正係数がモデル予測計算および出力最適化計算に追加される、温度制御システムが本明細書に開示される。
【0048】
一実施形態では、本明細書に開示される温度制御システムは、第一のMBPCおよび/または第二のMBPCが、一定の温度制御設定点に近づくと、指定されたランプ速度を自動的に減少させる軌道プランナーを備えることを条件とする。軌道プランナーは、第一および/または第二のMBPC制御ループに追加されて、温度制御設定点基準軌道を生成する。所望のランプ速度および温度範囲に基づいて、軌道プランナーは、温度範囲を、高速ランプおよび低減ランプの2つのサブ範囲に分割する。高速ランプのサブ範囲では、プランナーは、温度制御設定点基準軌道を生成して、MBPCが所望のランプ速度を達成できるようにする。低減ランプのサブ範囲では、プランナーは、温度ランプスピードを制御して所望の制御設定点に到達するように、少なくとも一つの直感的な調整パラメータを提供する。温度安定化の時間およびオーバーシュートも制御される。これにより、異なるプロセスからの変動する温度制御要件を満たすための柔軟な方法が提供される。
【0049】
一実施形態では、静的モデルに基づく静的リミッタは、第一および/または第二のMBPCループに埋め込まれる。リミッタは、MBPCが、様々な制御ケース(正常、より速い/より遅いランプ、ボートイン/アウト、異なる負荷またはガス流など)の下で、内側制御ループに対して正しい制御設定点を生成することを助ける。
【0050】
図2では、MBPC制御ループの全体的な構造を示す。これは、MBPCアルゴリズムがどのように汎用線形動的モデルを適応させるかを示し、ここで、
Rは必要な変数であり、本事例では、必要な温度であり、
R(1...N)は、N個のサンプリングについての将来の設定値であり、
Xは、制御された変数であり、本事例では、測定された温度であり、
Y(1...N)は、N個のサンプリングについての予測される将来の温度であり、
E(1...N)は、R(1...N)とY(1...N)の間のエラーであり、
U(1)は、操作された変数であり、本事例では、MBPC2についてのSp
setおよびMBPC1についてのPw
outであり、
Kuは、モード予測計算を補正するためのパラメータであり、
Ksは、予測出力を補正するためのパラメータである。
【0051】
第一および第二のMBPC制御ループは、汎用線形動的モデルを適合させる。将来の予測プロセス出力は、動的モデルおよび過去の制御入力に基づいて再帰的に計算される。Kuパラメータは、制御アクションを調整できるように、モデル計算を補正するために追加される。最適な制御アクションは、将来の設定点と予測される出力との間の差異を最小化することによって計算される。Ksパラメータは、最適な制御性能を得ることができるように、予測出力を補正するために追加される。
【0052】
一実施形態では、第一および/または第二のMBPC制御アルゴリズムは、直感的な調整パラメータ(例えば、Ku、Ks)を制御則、軌道プランナーおよびリミッタに組み込む。直感的な調整パラメータを使用して、動的制御性能と静的制御性能の両方を向上させることができる。MBPC制御構造および固定時間の予測対象期間は、ウエハ処理中のオンライン行列反転の必要性を回避する。その結果、オンラインコンピューティングのオーバーヘッドが大幅に削減される。このように、デュアルカスケードMBPC制御システムアルゴリズムは、半導体処理業界で実際に典型的に使用されるマイクロプロセッサ上に実装することができる。
【0053】
一実施形態では、ソフトウェア検出器および制御論理は、TC測定ハードウェア障害を検出するために含まれる。TCサンプリング障害が現れると、検出器および制御論理は、動的モデルコンピューティングに基づく関連するソフト温度センサをオンにする。したがって、TCサンプリング障害が発生した場合、ソフトセンサを使用して、実際のTCを制御システム入力に置き換える。これにより、反応器の動作が停止するのを防ぎ、一つ以上の温度測定ハードウェア障害の検出によるバッチプロセス全体の損失を低減する。
【0054】
特定の実施形態によれば、第二のMBPCの内部構造は、
図3に示す構造に対応する。第二のMBPC1200は、MBPCアルゴリズムモジュール1230、軌道計画モジュール1220、およびMBPC静的モデルリミッタ1250を含む。MBPCアルゴリズムモジュール1230は、方程式(1a)~方程式(3a)による汎用線形動的モデルに基づいて実際のモデリングを行うモデリングモジュール1231、およびオプティマイザモジュール1232を含む。MBPCコントローラ1200への入力は、パドル制御設定点温度Pd
set、実際のパドル温度Pd、および任意選択で実際のスパイク温度Spである。パドル制御設定点温度は、軌道計画モジュール1220に提供される。実際のパドル温度Pdおよび任意選択の実際のスパイク温度Spは、過去の入力および出力を保存するためのメモリ1210に提供される。メモリ1210は、MBPCアルゴリズムモジュール1230への入力を提供する。軌道計画モジュール1220は、予測対象期間全体に分布するNパドル制御設定点Pd
set(1...N)を生成する。ここで、Pd
set(1)は、現在の時間に対する制御設定点であり、Pd
set(N)は、最も将来の予測制御設定点である。これらの制御設定点Pd
set(1...N)は、ライン1221を介して加算器1222の第一の入力に提供される。さらに、MBPC制御アルゴリズムモジュール1230によって出力として提供されるモデル化されたパドル値~Pd
fr(1...N)は、ライン1233を介して加算器1222の第二の入力に提供される。加算器1222は、ライン1223を介してMBPCアルゴリズムモジュール1230のオプティマイザモジュール1232に提供されるエラー信号Ep(1...N)を計算する。オプティマイザモジュール1232は、制約1236を使用して、方程式(4a)によって表されるコスト関数1235を最小化することによって、モデル出力を最適化する。モデル化された予測パドル制御設定点温度~Pd
fr(1...N)と、軌道プランナー1220からの実際のパドル制御設定点温度Pd
set(1...N)との間の最小二乗誤差は、予測対象期間全体にわたって最小化される。予測パドル制御設定点温度は、予測値が実際の値に近づくように、外乱モデル(方程式(4a)の最後の項)を使用することによって最適化される。スパイク補正値ΔSpは、方程式(10a)に従って計算される。モデル化された値~Pd
fr(1...N)は、ライン1234を介してメモリ1210に提供される。スパイク補正値ΔSpは、方程式(11a)に従ってモデル化されたスパイク制御設定点Sp
set(1)を計算するために、MBPCアルゴリズムからスパイク出力計算モジュール1212に提供される。モデル化されたスパイク制御設定点Sp
set(1)は、ライン1211を介して出力リミッタ1250に提供され、ここで出力は方程式(12a)に従って限定され、それによってSp
setを計算する。アルゴリズムについては、以下でさらに詳細に説明する。
【0055】
特定の実施形態によれば、第一のMBPCの内部構造は、
図4に示す構造に対応する。第一のMBPC1300は、MBPCアルゴリズムモジュール1330、軌道計画モジュール1320、およびMBPC静的モデルリミッタ1350を含む。MBPCアルゴリズムモジュール1330は、方程式(1b)~方程式(3b)による汎用線形動的モデルに基づいて実際のモデリングを行うモデリングモジュール1331、およびオプティマイザモジュール1332を含む。MBPCコントローラ1300への入力は、スパイク温度制御設定点Sp
setおよび実際のスパイク温度Spである。スパイク温度制御設定点Sp
setは、軌道計画モジュール1320に提供される。実際のスパイク温度Spは、過去の入力および出力を保存するためのメモリ1310に提供される。メモリ1310は、MBPCアルゴリズムモジュール1330への入力を提供する。軌道計画モジュール1320は、予測対象期間全体に分布するNスパイク温度制御設定点Sp
set(1...N)を生成する。ここで、Sp
set(1)は、現在の時点の制御設定点であり、Sp
set(N)は、最も将来の予測制御設定点である。これらの制御設定点Sp
set(1...N)は、ライン1321を介して加算器1322の第一の入力に提供される。さらに、MBPC制御アルゴリズムモジュール1330によって出力として提供されるモデル化されたスパイク値~Sp
fr(1...N)は、ライン1333を介して加算器1322の第二の入力に提供される。加算器1322は、ライン1323を介してMBPCアルゴリズムモジュール1330のオプティマイザモジュール1332に提供されるエラー信号Es(1...N)を計算する。オプティマイザモジュール1332は、制約1336を使用して、方程式(4b)によって表されるコスト関数1335を最小化することによって、モデル出力を最適化する。モデル化された予測スパイク制御設定点温度~Sp
fr(1...N)と、軌道プランナー1320からの実際のスパイク制御設定点温度Sp
set(1...N)との間の最小二乗誤差は、予測対象期間全体にわたって最小化される。予測スパイク制御設定点温度は、予測値が実際の値に近づくように、外乱モデル(方程式(4b)の最後の項)を使用することによって最適化される。電力補正値ΔPwは、方程式(10b)に従って計算される。モデル化された値~Sp
fr(1...N)は、ライン1334を介してメモリ1310に提供される。電力補正値ΔPwは、方程式(11b)に従ってモデル化された電力制御設定点Pw
out(1)を計算するために、MBPCアルゴリズムから電力出力計算モジュール1312に提供される。モデル化された電力制御設定点Pw
out(1)は、ライン1311を介して出力リミッタ1350に提供され、ここで出力は方程式(12b)に従って限定される。アルゴリズムについては、以下でさらに詳細に説明する。
【0056】
方程式(1a)~方程式(3a)による汎用線形動的モデルに基づいて、予測制御アルゴリズムは、以下のように定義される、コスト関数Jを最小化することによって、MBPC2に対する制御戦略のSp
set(t)を計算する。
【数7】
式中、NおよびNuは、予測対象期間であり、kuおよびksは、重みパラメータであり、Pd
set(t+k)は、軌道プランナーによって生成されるk番目のパドル制御設定点である。さらに、
【数8】
は、時間tでのk番目のモデルの予測出力であり、これは、以下のように、二つの別個の寄与の組み合わせの結果とみなすことができる。
【数9】
式中、
【数10】
は、自由応答であり、
【数11】
は、強制応答である。そのうち、
【数12】
は以下のように計算できる。
【数13】
式中、
【数14】
は、外乱モデルの出力であり、以下が成り立つ。
【数15】
【0057】
次に、
【数16】
は、以下のように計算することができる。
【数17】
式中、g
iは、以下のように求めることができる。
【数18】
【0058】
行列表記を使用し、かつΔSpに関してJを最小化することにより、以下の簡略化された式を使用して、スパイク設定点を計算できる。
【数19】
【数20】
【0059】
一実施形態では、MBPCは、「後退する対象期間」制御原理を使用し、ここで、以下のように、MBPC出力を計算するには第一の要素
【数21】
のみが必要とされる。
【数22】
【0060】
次のサンプリング瞬間(t+1)では、手順全体が繰り返される。
【0061】
特定の実施形態では、MBPCは、概念的困難が生じる場合に、依然として適切に機能するリミッタをさらに含む。これらの困難に対処するために、静的モデルに基づくリミッタがMBPC制御ループに追加される。リミッタは以下のように定義される。
【数23】
式中、ΔTは、モデル出力不一致の補償のための調整可能な温度定数であり、kuは、制御則の方程式(10a)でも使用される調整パラメータである(kuを調整することで、温度均一性を改善できる)。
【0062】
方程式(1b)~方程式(3b)による汎用線形動的モデルに基づいて、予測制御アルゴリズムは、上記と同じ原理を使用して、ただし以下の適合された方程式を使用して、MBPC1に対する電力出力Pw
out(t)を計算する。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
【0063】
本開示の別の態様は、
- プラントを、前記プラントのプロセスチャンバ内の加熱要素への電力を制御する出力信号で制御するための第一のモデルベース予測コントローラ(MBPC)を備える第一の制御ループであって、前記第一のMBPCが、加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いている少なくとも一つのスパイク温度センサからセンサデータを受信するように構成され、前記出力信号が、予測対象期間全体についての前記第一のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づく、第一の制御ループと、
- 第二のMBPCを備える第二の制御ループであって、前記第二のMBPCが、前記第一のMBPCに制御設定点を提供するように構成され、前記制御設定点が、予測対象期間全体についての前記第二のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づき、前記第二のMBPCが、
(1)プロセスチャンバ内またはプロセスチャンバに近接して位置し、かつ加熱要素から間隔を置いた少なくとも一つのパドル温度センサから、および任意選択で、
(2)加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからのセンサデータを受信するようにさらに構成されている、第二の制御ループと、を備える制御システムに関連する。
【0064】
一実施形態では、本明細書に開示される制御システムは、第一のMBPCおよび/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっていることを条件とする。特に、同一の汎用線形動的モデルが、第一のMBPCおよび第二のMBPCに対して提供される。より具体的には、第一のMBPCと第二のMBPCに対して同一の汎用線形動的モデルが提供されるが、第一のMBPCモデルと第二のMBPCモデルの定常状態ゲイン係数は異なる。
【0065】
一実施形態では、モデル不一致補正係数がモデル予測計算および出力最適化計算に追加される、制御システムが本明細書に開示される。
【0066】
本開示の別の態様は、プロセスチャンバを有するプラントを制御するための方法に関し、方法は、
- 第一の制御ループから前記プラントに制御入力を提供することであって、前記第一の制御ループが、加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからセンサデータを受信するように構成された第一のMBPCを備え、前記制御入力が、予測対象期間全体についての前記第一のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づく、提供することと、
- 前記第一の制御ループに制御設定点を提供することであって、前記制御設定点が、
(1)プロセスチャンバ内またはプロセスチャンバに近接して位置し、かつ加熱要素から間隔を置いた少なくとも一つのパドル温度センサから、および任意選択で、
(2)加熱要素に近接して位置し、かつプロセスチャンバから間隔を置いた少なくとも一つのスパイク温度センサからのセンサデータを受信するように構成された第二のMBPCを備える第二の制御ループによって計算され、
前記第二のMBPCが、前記プラント用の制御プロセスシーケンスを受信するようにさらに構成され、前記第二のMBPCが、予測対象期間全体についての前記第二のMBPCでの計算に少なくとも部分的に基づいて、前記制御設定点を計算するように構成される、提供することと、を含む。
【0067】
一実施形態では、本明細書に開示される方法は、第一のMBPCおよび/または第二のMBPCに、熱反応器の熱応答を特徴付ける一つ以上の汎用線形動的モデルが備わっていることを条件とする。特に、同一の汎用線形動的モデルが、第一のMBPCおよび第二のMBPCで採用される。より具体的には、第一のMBPCと第二のMBPCで同一の汎用線形動的モデルが採用されるが、第一のMBPCモデルと第二のMBPCモデルに使用される定常状態ゲイン係数は異なる。
【0068】
一実施形態では、モデル不一致補正係数がモデル予測計算および出力最適化計算に追加される、方法が本明細書に開示される。
【外国語明細書】