(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074357
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】プロトン伝導セラミックセル
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20240524BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240524BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20240524BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240524BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240524BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20240524BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240524BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20240524BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/12 101
H01M8/1246
H01M4/86 T
H01B1/06 A
H01B1/08
C25B11/052
C25B11/091
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185453
(22)【出願日】2022-11-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/超高効率プロトン伝導セラミック燃料電池デバイスの研究開発(WP2 高効率・高出力密度セルの開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 孝之介
(72)【発明者】
【氏名】島田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】水谷 安伸
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐貴
【テーマコード(参考)】
4K011
5G301
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA18
5G301CA02
5G301CA15
5G301CA26
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE12
5H018EE13
5H018HH05
5H018HH06
5H126AA02
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG13
5H126JJ05
(57)【要約】
【解決課題】高耐久性と高出力密度を両立することができるプロトン伝導セラミックセル用空気極及びそれを用いたプロトン伝導セラミックセルを提供すること。
【解決手段】少なくとも電解質と、空気極と、燃料極と、を有し、該空気極が、下記一般式(1):A1
x1(Fe
α1Co
β1B1
(1-α1-β1))
y1O
3+z1(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と、下記一般式(2):A2
x2(Ce
α2B2
(1-α2))
y2O
3+z2(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)と、からなるプロトン伝導セラミックセル用空気極であり、該電解質が、下記一般式(3):Ba
x3(Zr
α3Ce
β3B3
(1-α3-β3))
y3O
3+z3(3)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(2)からなること、を特徴とするプロトン伝導セラミックセル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電解質と、空気極と、燃料極と、を有し、
該空気極が、下記一般式(1):
A1x1(Feα1Coβ1B1(1-α1-β1))y1O3+z1 (1)
(式(1)中、A1は、Ca、Sr、Ba、La、Pr、Sm及びGdのうちの少なくとも1種であり、B1は、Cr、Mn、Ni及びCuのうちの少なくとも1種であり、x1は、0.80~1.20、α1は、0.90~1.00、β1は、0.00~0.10、y1は、0.80~1.20、z1は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と、下記一般式(2):
A2x2(Ceα2B2(1-α2))y2O3+z2 (2)
(式(2)中、A2は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、B2は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、x2は、0.80~1.20、α2は、0.10~1.00、y2は、0.80~1.20、z2は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)と、からなるプロトン伝導セラミックセル用空気極であり、
該電解質が、下記一般式(3):
Bax3(Zrα3Ceβ3B3(1-α3-β3))y3O3+z3 (3)
(式(3)中、B3は、Sc、Ga、Y、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfの少なくとも1種であり、x3は、0.80~1.20、α3は、0.10~0.90、β3は、0.00~0.10、y3は、0.80~1.20、z3は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(2)からなること、
を特徴とするプロトン伝導セラミックセル。
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と前記一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料の質量比が、40:60~80:20であることを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導セラミックセル。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料が、下記式(1a):
La0.50~0.80Ca0.20~0.50Fe0.90~1.00O2.20~3.80 (1a)
で表されるペロブスカイト型の電子伝導性酸化物材料であり、
前記一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料が、下記式(2a):
BaCe0.10~1.00Zr0.00~0.90Y0.00~0.90Yb0.00~0.90O2.20~3.80 (2a)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料であること、
を特徴とする請求項1記載のプロトン伝導セラミックセル。
【請求項4】
前記空気極の電気伝導率が1~2000S/cm2であることを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導セラミックセル。
【請求項5】
前記燃料極層が、少なくとも下記一般式(4):
A4x4Oz4 (4)
(式(4)中、A4は、Ti、Mn、Fe、Co、Ni及びCuのうちの少なくとも1種であり、z4は、0.50~3.00である。)
で表される燃料極用電子伝導性酸化物材料からなるか、又は少なくとも上記一般式(4)で表される燃料極用電子伝導性酸化物材料と、プロトン伝導性酸化物材料と、からなることを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導セラミックセル。
【請求項6】
前記電解質と前記空気極との間に、中間層を有することを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導セラミックセル。
【請求項7】
前記中間層が、少なくとも下記一般式(5):
A5x5B5y5O3+z5 (5)
(式(5)中、A5は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、B5は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Ce、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfの少なくとも1種であり、x5は、0.80~1.20、y5は、0.80~1.20、z5は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(3)からなることを特徴とする請求項6記載のプロトン伝導セラミックセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導セラミックセルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学反応用の固体酸化物形セルは、高効率エネルギー変換を可能とするデバイスとして、セラミックメーカー、エネルギー産業、自動車産業等で、実用化に向けた研究開発が進められている。例えば、燃料電池システム、電気分解システム、水素コンプレッサー等の装置に適用される。
【0003】
固体酸化物形セルを用いたデバイスの代表例として、固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セル等が挙げられる。固体酸化物形セルは、酸化物を主な材料とする緻密体の電解質を、空気極と燃料極の2つの多孔質体の電極で挟み込んで構成される。この固体酸化物形セルは、構成材料により幅広い作動温度領域を選択でき、400~1000℃で使用される。
【0004】
電極の材料は、触媒活性を有する電子伝導性の酸化物や金属が用いられる(以下、「電子伝導性材料」という)。電子伝導性材料は、単体で用いられる場合もあるが、電極内の反応場の拡大のために、電解質と同じ材料又は電解質と同じイオン(「イオン」は、酸化物イオンやプロトンを含む伝導キャリアとなる全てのイオンの総称)を伝導するイオン伝導性材料が、電子伝導性材料と混合して用いられることもある。一般的には、電子伝導性材料とイオン伝導性材料が混合されることで、電極の反応抵抗が低減される。なお、反応抵抗は、電極単位面積あたりの反応場の広さ(又は反応活性点の量)と反応場あたりの活性に依存する。
【0005】
電子伝導性材料とイオン伝導性材料の混合について、少なくとも1つ以上の材料の平均粒径が1μm以下である場合の混合を複合と呼び、複合化することにより電極の反応抵抗低減の効果が顕著に得られる。
【0006】
そして、従来、電極は多孔質体であることにより、電極内の反応場に、電気化学反応に必要なガスを供給し、また電気化学反応により生成したガスを除去(ガスの供給や除去を、以下、「ガス拡散」という)できるように、電極の気孔率を高くして、ガス拡散に伴い生じる電極内のガス拡散抵抗を低くすることが行われてきた。例えば、ガス拡散抵抗を十分に低減させるためには、電極の気孔率を少なくとも30体積%を超えるようにすること、更には、気孔率を40体積%程度とすることが多く行われていた。
【0007】
上記の電極の反応抵抗とガス拡散抵抗を合せた抵抗を、電極抵抗と呼ぶ。
【0008】
固体酸化物形セルの空気極用の電子伝導性材料としては、ペロブスカイト型の酸化物材料、例えば、(LaBa)MnO3、(LaBa)FeO3、(LaBa)CoO3、(LaBa)(CoFe)O3等がある。上記電子伝導性材料のLaは他のランタノイド(Pr、Sm、Gd)と置換又は一部置換が可能であり、Baは他のアルカリ土類金属(Ca、Sr)と置換又は一部置換が可能である。
【0009】
固体酸化物形セルの燃料極用の電子伝導性材料としては、金属系材料(Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等)が使用される。金属系材料は、水素、一酸化炭素、炭化水素、及びバイオ燃料等のガスにより還元されたものも含む。例えば、製造時の材料としてNiO(酸化物)が用いられている場合、固体酸化物形セルが構築され、上記ガスにより動作される際には、NiOはNi(金属)に還元される。
【0010】
固体酸化物形セルには、電荷担体となるイオンが主に酸化物イオンとプロトンのものがある。そして、固体酸化物形セルのうち、電荷担体となるイオンが主にプロトンとなるものが、プロトン伝導セラミックセルである。プロトン伝導セラミックセルでは、プロトンを伝導する材料はプロトン伝導性電解質と呼ばれる。プロトン伝導性電解質としてはペロブスカイト型酸化物材料等が、代表例として挙げられる。
【0011】
プロトン伝導セラミックセルは、酸化物イオン伝導セラミックセルに比べ、燃料電池に用いた際に燃料極に水蒸気が生成しないことから、燃料利用率を高くでき、電気分解セルとして用いた際には燃料極側に水素を吐出するために水素濃度を高くできることから、エネルギー変換効率が高くなるという利点を有する。また、プロトン伝導の活性化エネルギーが低いことから、酸化物イオン伝導セラミックセルよりも低い作動温度で使用可能という利点を有する。
【0012】
これまでのプロトン伝導セラミックセルに関する研究開発としては、例えば、特許文献1には、固体酸化物形セル用電極であって、電子伝導性材料及びイオン伝導性材料を含有し、電子伝導性材料とイオン伝導性材料の質量比が75:25~25:75であり、電子伝導性材料とイオン伝導性材料の各材料における一次粒子の平均粒子径が1nm~1μmであり、電極の膜厚が0.5μm~50μmであり、電極の気孔率が1~30体積%であることを特徴とする固体酸化物形セル用電極が開示されている。また、特許文献2には、金属と、プロトン伝導性を有する第1電解質とを含む複合材料から構成される電極と、プロトン伝導性を有する第2電解質から構成される電解質層と、を備え、前記電極と前記電解質層とが積層された膜電極接合体であって、前記電極は、前記金属が占める体積比率が57%以上であり、前記第1電解質および前記第2電解質は、BaaZr1-xMxO3、BaaCe1-xMxO3、およびBaaZr1-x-yCexMyO3(MはLa、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、In、Luからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、0<x<1、0<y<1、0.95≦a≦1.05)のうちのいずれか1つの組成式で表される膜電極接合体が開示されている。
【0013】
プロトン伝導セラミックセルにおいては、電解質用のプロトン伝導性酸化物材料として、ペロブスカイト型の複合酸化物が挙げられるが、それらのうち、AサイトにBaを含み、BサイトにCeを含まないか、あるいは、含んだとしても非常にCe含有量が低いペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料には、二酸化炭素に対して化学的に安定ということが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2020/004333号公報
【特許文献2】特開2020-068195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
プロトン伝導セラミックセルの性能向上のための1つの要求として、プロトン伝導セラミックセル用空気極に、出力密度が高いことが求められる。そして、これまでの研究では、プロトン伝導セラミックセル用空気極において、出力密度を高めるために、空気極材料として、Bサイト元素としてCoを主として含む電子伝導性酸化物材料を用いることが行なわれてきた。
【0016】
しかしながら、Coは高価な元素であるため、Coを用いることによりプロトン伝導セラミックセルのコストが増加するという問題があった。さらに、プロトン伝導セラミックセルの電解質材料として、AサイトにBaを含み、BサイトにCeを含まないか、あるいは、含んだとしても非常にCe含有量が低いペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料を電解質として用い、プロトン伝導セラミックセルの空気極材料として、Bサイト元素としてCoを主として含む電子伝導性酸化物材料を用いた場合、プロトン伝導セラミックセルの発電を続けると、Coが空気極から電解質に拡散してしまい、発電時間の経過と共に、Coの拡散量が増えていき、Coの拡散量が多くなったところで、電解質から空気極が剥離するとの問題があった。つまり、AサイトにBaを含み、BサイトにCeを含まないか、あるいは、含んだとしても非常にCe含有量が低いプロトン伝導性酸化物材料を電解質として用い、Bサイト元素としてCoを主として含む電子伝導性酸化物材料を用いる空気極には、セルの耐久性が低いという問題があった。
【0017】
一方で、電子伝導性酸化物材料中のCoの含有量を少なくすると、空気極抵抗が高くなってしまい、出力密度が低下してしまう。そのため、AサイトにBaを含み、BサイトにCeを含まないか、あるいは、含んだとしても非常にCe含有量が低いプロトン伝導性酸化物材料を電解質として用い、Bサイト元素としてCoを主として含む電子伝導性酸化物材料を用いる空気極には、耐久性を高めることと空気極抵抗を下げることに、トレードオフの関係があり、高耐久性と高出力密度を両立することが困難であるとの問題があった。
【0018】
従って、本発明は、高耐久性と高出力密度を両立することができるプロトン伝導セラミックセル用空気極及びそれを用いたプロトン伝導セラミックセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、AサイトにBaを含み、BサイトにCeを含まないか、あるいは、含んだとしても非常にCe含有量が低いプロトン伝導性酸化物材料を電解質として用いるプロトン伝導セラミックセルにおいては、プロトン伝導セラミックセル用空気極に用いる電子伝導性酸化物材料として、BサイトにFeを含有するペロブスカイト型の酸化物材料を用い、これに組み合わせるプロトン伝導性酸化物材料として、BサイトにCeを含有するペロブスカイト型の酸化物材料を用いることにより、電子伝導性酸化物材料中のCoの含有量を少なくしても、あるいは、Coを含有させなくても、出力密度を高くすることができること、そのため、空気極用の電子伝導性酸化物材料中のCo含有量を非常に少なくすることができるので、空気極から電解質へのCoの拡散に起因する空気極の剥離が生じ難くでき、セルの耐久性を高めることができることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0020】
すなわち、本発明(1)は、少なくとも電解質と、空気極と、燃料極と、を有し、
該空気極が、下記一般式(1):
A1x1(Feα1Coβ1B1(1-α1-β1))y1O3+z1 (1)
(式(1)中、A1は、Ca、Sr、Ba、La、Pr、Sm及びGdのうちの少なくとも1種であり、B1は、Cr、Mn、Ni及びCuのうちの少なくとも1種であり、x1は、0.80~1.20、α1は、0.90~1.00、β1は、0.00~0.10、y1は、0.80~1.20、z1は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と、下記一般式(2):
A2x2(Ceα2B2(1-α2))y2O3+z2 (2)
(式(2)中、A2は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、B2は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、x2は、0.80~1.20、α2は、0.10~1.00、y2は、0.80~1.20、z2は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)と、からなるプロトン伝導セラミックセル用空気極であり、
該電解質が、下記一般式(3):
Bax3(Zrα3Ceβ3B3(1-α3-β3))y3O3+z3 (3)
(式(3)中、B3は、Sc、Ga、Y、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfの少なくとも1種であり、x3は、0.80~1.20、α3は、0.10~0.90、β3は、0.00~0.10、y3は、0.80~1.20、z3は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(2)からなること、
を特徴とするプロトン伝導セラミックセルを提供するものである。
【0021】
また、本発明(2)は、前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と前記一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料の質量比が、40:60~80:20であることを特徴とする(1)のプロトン伝導セラミックセルを提供するものである。
【0022】
また、本発明(3)は、前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料が、下記式(1a):
La0.50~0.80Ca0.20~0.50Fe0.90~1.00O2.20~3.80 (1a)
で表されるペロブスカイト型の電子伝導性酸化物材料であり、
前記一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料が、下記式(2a):
BaCe0.10~1.00Zr0.00~0.90Y0.00~0.90Yb0.00~0.90O2.20~3.80 (2a)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料であること、
を特徴とする(1)のプロトン伝導セラミックセルを提供するものである。
【0023】
また、本発明(4)は、前記空気極の電気伝導率が1~2000S/cm2であることを特徴とする(1)のプロトン伝導セラミックセルを提供するものである。
【0024】
また、本発明(5)は、前記燃料極層が、少なくとも下記一般式(4):
A4x4Oz4 (4)
(式(4)中、A4は、Ti、Mn、Fe、Co、Ni及びCuのうちの少なくとも1種であり、z4は、0.50~3.00である。)
で表される燃料極用電子伝導性酸化物材料からなるか、又は少なくとも上記一般式(4)で表される燃料極用電子伝導性酸化物材料と、プロトン伝導性酸化物材料と、からなることを特徴とする(1)のプロトン伝導セラミックセルを提供するものである。
【0025】
また、本発明(6)は、前記電解質と前記空気極との間に、中間層を有することを特徴とする(1)のプロトン伝導セラミックセルを提供するものである。
【0026】
また、本発明(7)は、前記中間層が、少なくとも下記一般式(5):
A5x5B5y5O3+z5 (5)
(式(5)中、A5は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、B5は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Ce、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfの少なくとも1種であり、x5は、0.80~1.20、y5は、0.80~1.20、z5は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(3)からなることを特徴とする(6)のプロトン伝導セラミックセルを提供するものである。
【0027】
なお、本明細書において、数値範囲を「~」を用いて示す時、その両端の数値を含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高耐久性と高出力密度を両立することができるプロトン伝導セラミックセル用空気極及びそれを用いたプロトン伝導セラミックセルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明のプロトン伝導セラミックセルに係る空気極の形態例の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のプロトン伝導セラミックセルは、
少なくとも電解質と、空気極と、燃料極と、を有し、
該空気極が、下記一般式(1):
A1x1(Feα1Coβ1B1(1-α1-β1))y1O3+z1 (1)
(式(1)中、A1は、Ca、Sr、Ba、La、Pr、Sm及びGdのうちの少なくとも1種であり、B1は、Cr、Mn、Ni及びCuのうちの少なくとも1種であり、x1は、0.80~1.20、α1は、0.90~1.00、β1は、0.00~0.10、y1は、0.80~1.20、z1は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と、下記一般式(2):
A2x2(Ceα2B2(1-α2))y2O3+z2 (2)
(式(2)中、A2は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、B2は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、x2は、0.80~1.20、α2は、0.10~1.00、y2は、0.80~1.20、z2は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)と、からなるプロトン伝導セラミックセル用空気極であり、
該電解質が、下記一般式(3):
Bax3(Zrα3Ceβ3B3(1-α3-β3))y3O3+z3 (3)
(式(3)中、B3は、Sc、Ga、Y、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfの少なくとも1種であり、x3は、0.80~1.20、α3は、0.10~0.90、β3は、0.00~0.10、y3は、0.80~1.20、z3は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(2)からなること、
を特徴とするプロトン伝導セラミックセルである。
【0031】
本発明のプロトン伝導セラミックセルは、少なくともプロトン伝導セラミックセル用電解質と、プロトン伝導セラミックセル用空気極と、プロトン伝導セラミックセル用燃料極と、を有する。また、本発明のプロトン伝導セラミックセルは、プロトン伝導セラミック用電解質とプロトン伝導セラミックセル用空気極との間に、中間層を有していてもよい。また、本発明のプロトン伝導セラミックセルは、プロトン伝導セラミック用電解質とプロトン伝導セラミックセル用燃料極との間に、中間層を有していてもよい。
【0032】
プロトン伝導セラミックセル用空気極について説明する。
図1は、プロトン伝導セラミックセル用空気極の形態例の模式的な断面図である。
図1中、プロトン伝導セラミックセル用空気極1は、電解質2上に形成されている。プロトン伝導セラミックセル用空気極1は、少なくとも、空気極用電子伝導性酸化物材料3及びとプロトン伝導性酸化物材料(1)4で形成されており、空気極用電子伝導性酸化物材料1と該プロトン伝導性酸化物材料(1)4の質量比は、例えば、40:60~80:20程度である。このプロトン伝導セラミックセル用空気極1は気孔を有しており、その気孔率は10.0~80.0体積%程度である。また、プロトン伝導セラミックセル用空気極1の膜厚は100μm程度以下である。
【0033】
図1に示すように、プロトン伝導セラミックセル用空気極1は、プロトン伝導性酸化物材料(2)で形成されている電解質2上に形成される。電解質2は、ガスクロスリークを防止するために緻密体層を有する。電解質2全体が緻密体であっても良い。電解質2の緻密体層の相対密度は、90~100体積%程度である。また、電解質2の緻密体層の厚さは、0.1μm~1mm程度である。ガスクリスリークを防止しつつ、電解質2を薄くするためには、電解質2全体が緻密体であることが望ましい。
【0034】
プロトン伝導セラミックセル用空気極は、プロトン伝導セラミックセル用の空気極であり、
下記一般式(1):
A1x1(Feα1Coβ1B1(1-α1-β1))y1O3+z1 (1)
(式(1)中、A1は、Ca、Sr、Ba、La、Pr、Sm及びGdのうちの少なくとも1種であり、B1は、Cr、Mn、Ni及びCuのうちの少なくとも1種であり、x1は、0.80~1.20、α1は、0.90~1.00、β1は、0.00~0.10、y1は、0.80~1.20、z1は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と、
下記一般式(2):
A2x2(Ceα2B2(1-α2))y2O3+z2 (2)
(式(2)中、A2は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、B2は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、x2は、0.80~1.20、α2は、0.10~1.00、y2は、0.80~1.20、z2は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)と、
からなるプロトン伝導セラミックセル用空気極である。
【0035】
プロトン伝導セラミックセル用空気極は、プロトン伝導性酸化物材料で形成されている電解質、好ましくは後述する少なくともプロトン伝導性酸化物材料(2)で形成されている電解質を用いるプロトン伝導セラミックセル用の空気極である。
【0036】
プロトン伝導セラミックセル用空気極は、少なくとも一般式(1)で表されるペロブスカイト型の電子伝導性酸化物材料と一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)とで形成されている複合材料である。本発明のプロトン伝導セラミックセル用空気極では、一般式(1)で表されるペロブスカイト型の電子伝導性酸化物材料と一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)が焼結することにより、空気極が形成されている。
【0037】
プロトン伝導セラミックセル用の空気極は、電子伝導性酸化物材料として、下記一般式(1):
A1x1(Feα1Coβ1B1(1-α1-β1))y1O3+z1 (1)
で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料を含有する。
【0038】
一般式(1)中、A1は、Ca、Sr、Ba、La、Pr、Sm及びGdのうちの少なくとも1種であり、好ましくはCa、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、より好ましくはLa及びCaのうちの少なくとも1種である。
B1は、Cr、Mn、Ni及びCuのうちの少なくとも1種である。
x1は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
α1は、0.90~1.00、好ましくは0.95~1.00、より好ましくは0.98~1.00である。
β1は、0.00~0.10、好ましくは0.00~0.05、より好ましくは0.00~0.02である。
y1は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
z1は、-0.80~+0.80、好ましくは-0.40~+0.40、より好ましくは-0.20~+0.20である。
つまり、一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料は、必須元素としてBサイトにFeを含有し、BサイトのCo含有量が上記所定量以下に制限されているペロブスカイト型酸化物である。
なお、A1が2種以上の元素の場合、x1の値は、それら2種以上の元素の合計の値である。B1が2種以上の元素の場合、1-α1-β1の値は、それら2種以上の元素の合計の値であり、y1の値は、FeとCoとそれら2種以上の元素の合計の値である。
【0039】
一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料としては、下記式(1a):
La0.50~0.80Ca0.20~0.50Fe0.90~1.00O2.20~3.80 (1a)
で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料、
下記式(1b):
La0.90~1.00Ba0.00~0.10Fe0.90~1.00Co0.00~0.10O2.20~3.80 (1b)
で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料が好ましく、一般式(1a)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料がより好ましい。
【0040】
プロトン伝導セラミックセル用空気極に用いられる一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料は、一般式(1)を満たすものであれば、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0041】
プロトン伝導セラミックセル用の空気極は、プロトン伝導性酸化物材料として、下記一般式(2):
A2x2(Ceα2B2(1-α2))y2O3+z2 (2)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)を含有する。
【0042】
一般式(2)中、A2は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、好ましくはBaである。
B2は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、好ましくはZr、Y及びYbのうちの少なくとも1種である。
x2は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
α2は、0.10~1.00、好ましくは0.20~0.90、より好ましくは0.40~0.70である。
y2は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
z2は、-0.80~+0.80、好ましくは-0.40~+0.40、より好ましくは-0.20~+0.20である。
つまり、一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料は、必須元素としてBサイトにCeを含有するペロブスカイト型酸化物である。
なお、A2が2種以上の元素の場合、x2の値は、それら2種以上の元素の合計の値である。B1が2種以上の元素の場合、1-α2の値は、それら2種以上の元素の合計の値であり、y2の値は、Ceとそれら2種以上の元素の合計の値である。
【0043】
一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料としては、下記式(2a):
BaCe0.10~1.00Zr0.00~0.90Y0.00~0.90Yb0.00~0.90O2.20~3.80 (2a)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料が好ましい。
【0044】
プロトン伝導セラミックセル用空気極に用いられる一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(1)は、一般式(2)を満たすものであれば、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0045】
プロトン伝導セラミックセル用空気極において、一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料の質量比(一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料:一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料)は、好ましくは40:60~80:20、より好ましくは50:50~70:30、より好ましくは55:45~65:35である。一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物材料と一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料の質量比が上記範囲にあることにより、出力密度がより高くなる。
【0046】
プロトン伝導セラミックセル用空気極の膜厚は、100μm以下である。空気極の膜厚が上記範囲内にあることにより、電極抵抗の一部であるガス拡散抵抗が小さくなるため、電極抵抗が低くなり電流密度が高くなる。なお、空気極膜厚の下限値は、ガス拡散抵抗を小さくするためには単純に薄ければ薄いほどよいが、触媒となる電極材料が不足し反応抵抗を増加させないための空気極膜厚としては、最低0.1μmの膜厚が必要になる。
【0047】
プロトン伝導セラミックセル用空気極の気孔率は、10.0~80.0体積%以下、好ましくは30.0~60.0体積%、特に好ましくは40.0~50.0体積%である。空気極の気孔率が上記範囲に内にあることにより、電解質との接触面積や空気極内の反応場が拡大するため、電極抵抗が低くなり電流密度が高くなる。なお、空気極の膜厚が7.0μm以下である場合、電極抵抗は電極反応抵抗が支配的であるため、ガス拡散抵抗に係る気孔率は低ければ低いほど良い。
【0048】
プロトン伝導セラミックセル用空気極の伝導率は、好ましくは1~2000S/cm2、より好ましくは10~2000S/cm2、より好ましくは100~2000S/cm2である。
【0049】
プロトン伝導セラミックセル用空気極の製造方法としては、特に制限されず、例えば、一般式(1)で表されるペロブスカイト型の空気極用電子伝導性酸化物粉末と、一般式(2)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物粉末とを、所定の質量比で所定量混合し、分散させた空気極形成用スラリーを調製し、次いで、スクリーン印刷等により、空気極形成用スラリーを、空気極の形成対象に塗布して、空気極形成用スラリー塗膜を形成させ、次いで、乾燥後、焼成温度、例えば、900~1100℃で焼成して焼結させることにより、空気極を製造する。
【0050】
プロトン伝導セラミックセル用電解質は、下記一般式(3):
Bax3(Zrα3Ceβ3B3(1-α3-β3))y3O3+z3 (3)
(式(3)中、B3は、Sc、Ga、Y、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfの少なくとも1種であり、x3は、0.80~1.20、α3は、0.10~0.90、β3は、0.00~0.10、y3は、0.80~1.20、z3は、-0.80~+0.80である。)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(2)からなる。
【0051】
一般式(3)中、B3は、Sc、Ga、Y、In、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、好ましくはY,及びYbのうちの少なくとも1種であり、より好ましくはYbである。
x3は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
α3は、0.10~0.90、好ましくは0.50~0.90、より好ましくは0.75~0.85である。
β3は、0.00~0.10、好ましくは0.00~0.05、より好ましくは0.00~0.02である。
y3は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
z3は、-0.80~+0.80、好ましくは-0.40~+0.40、より好ましくは-0.20~+0.20である。
なお、B3が2種以上の元素の場合、1-α3-β3の値は、それら2種以上の元素の合計の値であり、y3の値は、ZrとCeとそれら2種以上の元素の合計の値である。
【0052】
一般式(3)で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料としては、下記式(3a):
BaZr0.10~0.90Yb0.00~0.90O2.20~3.80 (3a)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料好ましい。
【0053】
プロトン伝導性酸化物材料(2)としては、バリウムジルコネート、バリウムストロンチウムジルコネート、バリウムストロンチウムセレート、バリウムストロンチウムジルコネートセレート等が挙げられる。
【0054】
プロトン伝導セラミックセル用電解質に用いられるプロトン伝導性酸化物材料(2)は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0055】
電解質は、一般的にはガスリークを防止するために緻密体である。電解質の相対密度は、90~100体積%であり、97~100体積%がより好ましく、98~100体積%が特に好ましい。電解質の気孔率が上記範囲にあることにより、ガスクロスリーク防止機能を高くすることができる。また、電解質の厚さは、好ましくは0.5~30.0μm、より好ましくは1.0~15.0μm、特に好ましくは1.5~10.0μmである。電解質の厚みが上記範囲にあることにより、ガスクロスリーク防止機能を維持しつつ、電解質の緻密体層の抵抗を低減することができる。ガスクリスリークを防止しつつ、電解質を薄くするためには、電解質全体が緻密体であることが望ましい。
【0056】
電解質としては、プロトン伝導性酸化物材料(2)を含有し、且つ、Me(Meは、Ti、Mn、Fe、Co、Ni及びCuのうちの少なくとも1種)を含む第一の部分と、第一の部分とMeの含有量が異なる第二の部分とを有する電解質(A)が挙げられる。Meの含有量が少ない第一の部分は、電子リークが生じない、又は極めて小さい部分となり、電子リーク防止層として機能し、電子リークを抑制できる。また、Meの含有量が多い第二の部分は、作製時の焼成工程においてMeの焼結促進効果により緻密度が高くなっているため、ガスクロスリークを生じない、又は極めて小さい部分となり、ガスクロスリーク防止層として機能し、ガスクロスリークを抑制できる。
【0057】
電解質(A)としては、Meを0.0質量%以上2.0質量%未満の範囲で含有する第一層と、第一層に積層され、Meを2.0質量~20.0質量%の範囲で含有する第二層と、を有する電解質(A1)が挙げられる。電解質(A1)において、Meの含有量が少ない第一層は、電子リークが生じない、又は極めて小さい層となり、電子リーク防止層として機能し、電子リークを抑制できる。また、Meの含有量が多い第二層は、作製時の焼成工程においてMeの焼結促進効果により緻密度が高くなっているため、ガスクロスリークを生じない、又は極めて小さい層となり、ガスクロスリーク防止層として機能し、ガスクロスリークを抑制できる。
【0058】
電解質(A1)は、少なくとも粉末状のプロトン伝導性酸化物材料(2)及び所定量のMeを分散させた第一層形成用スラリーを調製し、次いで、スクリーン印刷等により、第一層形成用スラリーを、第一層の形成対象に塗布して、第一層形成用スラリー塗膜を形成させ、次いで、乾燥後、焼成温度、例えば、1200~1600℃で焼成して焼結させて、第一層を形成させ、次いで、少なくとも粉末状のプロトン伝導性酸化物材料(2)及び所定量のMeを分散させた第二層形成用スラリーを調製し、次いで、スクリーン印刷等により、第二層形成用スラリーを、第一層上に塗布して、第二層形成用スラリー塗膜を形成させ、次いで、乾燥後、焼成温度、例えば、1000~1400℃で焼成して焼結させて、第二層を形成させることにより、形成される。
【0059】
電解質(A)としては、単一の電解質層内において、Meの含有量の濃淡が膜厚方向にグラデーションを有する電解質(A2)が挙げられる。電解質(A2)では、単一の電解質層内において、相対的にMeの含有量が少ない部分が第一の部分であり、相対的にMeの含有量が多い部分が第二の部分である。
【0060】
電解質(A2)は、少なくとも粉末状のプロトン伝導性酸化物材料(2)を分散させた電解質形成用スラリーを調製し、次いで、スクリーン印刷等により、電解質形成用スラリーを、Meを含有する酸化物で形成されている燃料極に塗布して、電解質形成用スラリー塗膜を形成させ、次いで、乾燥後、焼成温度、例えば、1200~1600℃で焼成して焼結させると共に、燃料極のMe元素を電解質に拡散させることにより、形成される。
【0061】
プロトン伝導セラミックセル用燃料極は、少なくとも燃料極用電子伝導性酸化物材料からなる。燃料極用電子伝導性酸化物材料としては、下記一般式(4):
A4x4Oz4 (4)
(式(4)中、A4は、Ti、Mn、Fe、Co、Ni及びCuのうちの少なくとも1種であり、z4は、0.50~3.00である。)
で表される燃料極用電子伝導性酸化物材料であれば、特に制限されない。燃料極用電子伝導性酸化物材料としては、例えば、TiO2、MnO2、Fe2O3、CoO、NiO、CuOが挙げられる。
【0062】
プロトン伝導セラミックセル用燃料極としては、燃料極用電子伝導性酸化物材料で形成されているもの、燃料極用電子伝導性酸化物材料とプロトン伝導性酸化物材料とで形成されているものが挙げられる。燃料極の形成に用いられるプロトン伝導性酸化物材料は、特に制限されないが、例えば、プロトン伝導性酸化物材料(2)が挙げられる。
【0063】
プロトン伝導セラミックセル用燃料極に用いられるペロブスカイト型の燃料極用電子伝導性酸化物材料は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。本発明のプロトン伝導セラミックセル用の燃料極にプロトン伝導性酸化物材料が用いられる場合、プロトン伝導性酸化物材料は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0064】
プロトン伝導セラミックセル用燃料極において、燃料極用電子伝導性酸化物材料とプロトン伝導性酸化物材料の質量比(燃料極用電子伝導性酸化物材料:プロトン伝導性酸化物材料)は、好ましくは100:0~20:80、より好ましくは80:20~30:70、より好ましくは60:40~40:60である。
【0065】
本発明のプロトン伝導セラミックセルは、電解質と空気極との間に、中間層が形成されていてもよく、また、電解質と燃料極との間に、中間層が形成されていてもよい。
【0066】
本発明のプロトン伝導セラミックセルに係る中間層は、プロトン伝導性酸化物材料(3)を含有する。
【0067】
プロトン伝導性酸化物材料(3)は、空気極で酸化又は還元されるイオンを伝導する性質を持つプロトン伝導性の酸化物であれば、特に制限されない。プロトン伝導性酸化物材料(3)としては、下記一般式(5):
A5x5B5y5O3+z5 (5)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(3)が挙げられる。
【0068】
一般式(5)中、A5は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、好ましくはBaである。
B5は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Ce、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、好ましくはY、Zr、Ce及びYbのうちの少なくとも1種である。
x5は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
y5は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
z5は、-0.80~+0.80、好ましくは-0.40~+0.40、より好ましくは-0.20~+0.20である。
なお、A5が2種以上の元素の場合、x5の値は、それら2種以上の元素の合計の値である。B5が2種以上の元素の場合、y5の値は、2種以上の元素の合計の値である。
【0069】
プロトン伝導性酸化物材料(3)としては、バリウムジルコネート、バリウムセレート、バリウムジルコネートセレート、バリウムストロンチウムジルコネート、バリウムストロンチウムセレート、バリウムストロンチウムジルコネートセレート等が挙げられる。
【0070】
本発明のプロトン伝導セラミックセル用の中間層に用いられるプロトン伝導性酸化物材料は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0071】
中間層は、プロトン伝導性酸化物材料(3)を含有するが、中間層の機能に応じて、プロトン伝導性酸化物材料(3)以外に電子伝導性材料、酸化物イオン伝導性材料等を含有することができる。
【0072】
本発明のプロトン伝導セラミックセルは、プロトン伝導セラミックセル用空気極と、電解質との間に、下記一般式(5a):
A6x6B6y6O3+z6 (5a)
で表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性酸化物材料(3a)からなる中間層を有することにより、電流密度が高くなる。
【0073】
一般式(5a)中、A6は、Ca、Sr、Ba及びLaのうちの少なくとも1種であり、好ましくはBaである。
B6は、Sc、Ga、Y、Zr、In、Ce、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びHfのうちの少なくとも1種であり、好ましくはY、Zr、Ce及びYbのうちの少なくとも1種である。
x6は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
y6は、0.80~1.20、好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05である。
z6は、-0.80~+0.80、好ましくは-0.40~+0.40、より好ましくは-0.20~+0.20である。
【0074】
中間層は、種々の目的で設けられる。中間層としては、例えば、ガスリーク防止ための中間層、電子リークを抑制するための中間層、空気極の反応抵抗を低減させるための中間層、界面の密着強度を改善するための中間層等が挙げられる。
【0075】
中間層は、緻密体、多孔質体のいずれでもよいが、中間層の抵抗を小さくするために相対密度が高いことが望ましい。具体的には、中間層の相対密度は、40~100体積%が好ましく、55~100体積%がより好ましく、70~100体積%が特に好ましい。
【0076】
電解質、燃料極又は中間層は、少なくとも粉末状の電解質用材料、粉末状の燃料極用材料又は粉末状の中間層用材料を分散させたスラリーを調製し、次いで、該スラリーを、形成対象に塗布して、スラリー塗膜を形成させ、次いで、乾燥後、焼成温度、例えば、700~1400℃で焼成して焼結させることにより形成される。
【0077】
プロトン伝導セラミックセルは、支持体上に形成されていてもよい。支持体は、多孔質体であることが、良好なガス拡散性を実現できる点で好ましい。多孔体である支持体の気孔率は、例えば、10~60体積%である。多孔質支持体の形状は、平板形状又はチューブ形状などが採用できるが、特に限定されない。支持体の材料としては、アルミナ若しくはジルコニア等の酸化物、又は耐熱性金属が挙げられる。
【0078】
本発明のプロトン伝導セラミックセルの形態例としては、以下の形態例が挙げられる。
(i)燃料極/電解質/空気極の順に積層されているプロトン伝導セラミックセル。
(ii)燃料極/中間層/電解質/空気極の順に積層されているプロトン伝導セラミックセル。
(iii)燃料極/電解質/中間層/空気極の順に積層されているプロトン伝導セラミックセル。
(iv)燃料極/中間層/電解質/中間層/空気極の順に積層されているプロトン伝導セラミックセル。
また、本発明のプロトン伝導セラミックセルの形態例としては、上記(i)~(iv)が、支持体上に形成されている形態例が挙げられる。
【0079】
本発明のプロトン伝導セラミックセルは、電極(空気極又は燃料極)上に、該電極より高い気孔率を有する多孔質層を有していてもよい。多孔質層の気孔率は、電極より高く、好ましくは25.0~55.0体積%である。多孔質層の材料として、空気極用の電子伝導性材料としては、ペロブスカイト型の酸化物材料、例えば、(LaBa)MnO3、(LaBa)FeO3、(LaBa)CoO3、(LaBa)(CoFe)O3等がある。上記電子伝導性材料のLaは他のランタノイド(Pr、Sm、Gd)と置換又は一部置換が可能であり、Baは他のアルカリ土類金属(Ca、Sr)と置換又は一部置換が可能である。また、多孔質層の材料として、燃料極用の電子伝導性材料としては、金属系材料(Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等)が使用される。金属系材料は、水素、一酸化炭素、炭化水素、及びバイオ燃料等のガスにより還元されたものも含む。例えば、製造時の材料としてNiO(酸化物)が用いられている場合、固体酸化物形セルが構築され、上記ガスにより動作される際には、NiOはNi(金属)に還元される。本発明のプロトン伝導セラミックセルが多孔質層を有する形態例としては、上記(i)~(iv)のうちのいずれかのプロトン伝導セラミックセルの電極上に、該電極より高い気孔率を有する多孔質層を有する形態例が挙げられる。
【実施例0080】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明を制限するものではない。
【0081】
以下の手順に従って、電子伝導性酸化物材料、そして電子伝導性酸化物材料とプロトン伝導性酸化物材料の質量比が異なる空気極を作製した。
【0082】
(1)La0.65Ca0.35FeO3(LCaF)の合成
La2O3(純度99.99%)、CaCO3(純度99.9%)、Fe(NO3)・9H2O(純度99.9%)を出発物質として、上記組成比となる量を用い、Pechini法により前駆体を合成し、900℃にて5時間のか焼を行った。
(2)BaZr0.10Ce0.70Y0.10Yb0.10O3(BZCYYb)
DOWAエレクロトニクス製
(3)La0.60Sr0.40Co0.20Fe0.80O3(LSCF)
日下レアメタル製
(4)BaZr0.80Yb0.20O3(BZYb)
日下レアメタル製
(5)La0.60Sr0.40FeO3(LSF)
日下レアメタル製
【0083】
(実施例1~4、比較例1~5)
<燃料極の作製>
NiOと、BaZr0.8Yb0.2O3と、カーボンを6:4:1の質量比で混合し、トルエン系溶媒、バインダー、可塑剤、分散剤を加えて、48時間ボールミル混合をすることで燃料極用スラリーを得た。該燃料極用スラリーをテープキャストすることで燃料極用グリーンシートを得た。該燃料極用グリーンシートを膜厚が約0.9mmになるように積層し、燃料極用グリーンシートの膜厚を調整した。
<電解質の作製>
BaZr0.8Yb0.2O3に、トルエン系溶媒、バインダー、可塑剤、分散剤を加えて、48時間ボールミル混合をすることで電解質用スラリーを得た。該電解質用スラリーをテープキャストすることで電解質用グリーンシートを得た。燃料極用グリーンシートを積層した上に、電解質用グリーンシートを載せ、ホットプレスを行った。その後、1470℃で2時間共焼結することで、電解質と燃料極の一体成形体を得た。得られた電解質は、高温共焼結により緻密化していた。
<空気極の作製>
表1又は表2に示す酸化物粉体材料を、表1又は表2に示す質量比で混合し、エチルセルロース、可塑剤、分散剤、α-テレピネオールを加えて、混練器にて、室温で4分30秒混練することで空気極用スラリーを得た。得られた空気極用スラリーを、スクリーン印刷法にて前記電解質と燃料極の一体成形体の電解質表面にφ6mm径となるように塗布した。150℃で1分乾燥させ、電極材料前駆体塗膜を得た。その後に、1100℃で1時間焼成することで空気極を得た。こうして、プロトン伝導セラミックセルを得た。
【0084】
(実施例5)
電解質層と空気極との間に、以下に示す方法で中間層を形成させたこと以外は、実施例1と同様に行い、プロトン伝導セラミックセルを得た。
<中間層の作製>
BaZr0.10Ce0.70Y0.10Yb0.10O3(DOWAエレクロトニクス製)に、トルエン系溶媒、バインダー、可塑剤、分散剤を加えて、48時間ボールミル混合をすることで中間層用スラリーを得た。該中間層用スラリーを1000rpmでスピンコートすることで、前記電解質と燃料極の一体成形体の電解質表面に塗布した。その後、1300℃で1時間焼結することで、電解質と燃料極と中間層の一体成形体を得た。
【0085】
<プロトン伝導セラミックセルの性能評価>
(OCV、最大出力密度、Rohm、Rp)
プロトン伝導セラミックセルについて、電気化学測定システム(ポテンショスタット/ガルバノスタット、VSP、バイオロジック社製)により、25℃で加湿した水素を燃料極へ、25℃で加湿した空気を空気極へ供給し、600℃における電流-電圧特性測定、電気化学インピーダンス測定を行った。電流-電圧特性測定の結果から、開回路電圧(OCV)と最大出力密度を求めた。また、電気化学インピーダンス測定から得られたコールコールプロットを用いて、高周波切片からオーミック抵抗(Rohm)および高周波切片と低周波切片との差から電極抵抗(Rp)を求めた。
【0086】
(耐久試験)
測定した電流-電圧特性から、0.85Vにおける電流密度を求め、求めた電流密度において100時間の定電流密度運転を実施し、定電流密度運転時の電圧変化の測定を行った。100時間経過後の電圧をV100(V)とすると、100時間経過後の電圧低下率を(0.85-V100)/0.85で求めた。
【0087】
【0088】
本発明を用いれば、電極抵抗が低く電流密度が高く、且つ、耐久性が高いプロトン伝導セラミックセル用空気極及びプロトン伝導セラミックセルを製造することができる。