(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074469
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】電解メッキ装置及び電解メッキ方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/12 20060101AFI20240524BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20240524BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20240524BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20240524BHJP
C25D 21/10 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C25D17/12 K
C25D17/12 C
C25D21/00 K
C25D7/00 G
C25D5/10
C25D21/10 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185630
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆介
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA09
4K024AA11
4K024AB01
4K024AB02
4K024BB09
4K024CB06
4K024CB07
4K024CB08
4K024CB11
4K024CB21
(57)【要約】
【課題】メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる、電解メッキ装置および電解メッキ方法を提供すること。
【解決手段】電解メッキ装置1は、メッキ対象物2を保持するカソード治具3と、メッキ対象物2の被メッキ部21に対向配置されるアノード部材4と、を有する。アノード部材4は、メッキ対象物2とアノード部材4との対向方向に開口する多数の開口部41を備えたメッシュ構造を有する。アノード部材4は、カソード治具3に固定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ対象物を保持するカソード治具と、
上記メッキ対象物の被メッキ部に対向配置されるアノード部材と、を有し、
上記アノード部材は、上記メッキ対象物と上記アノード部材との対向方向に開口する多数の開口部を備えたメッシュ構造を有し、
上記アノード部材は、上記カソード治具に固定されている、電解メッキ装置。
【請求項2】
上記アノード部材は、不溶性陽極部材からなる、請求項1に記載の電解メッキ装置。
【請求項3】
上記アノード部材は、上記メッキ対象物との間隔を変更できるように、上記カソード治具に固定されている、請求項1又は2に記載の電解メッキ装置。
【請求項4】
上記メッキ対象物と上記アノード部材との対向方向における、上記アノード部材の背面側から、メッキ液が上記アノード部材の多数の上記開口部を通過する液流を形成する循環器を有する、請求項1又は2に記載の電解メッキ装置。
【請求項5】
上記アノード部材と上記メッキ対象物との間隔は、10cm以下である、請求項1又は2に記載の電解メッキ装置。
【請求項6】
上記アノード部材と上記メッキ対象物との間隔は、5cm以下である、請求項1又は2に記載の電解メッキ装置。
【請求項7】
上記メッキ対象物の上記被メッキ部は、磁性体と該磁性体の周囲に巻回されたコイル部とを有する磁気センサ素子における上記コイル部である、請求項1又は2に記載の電解メッキ装置。
【請求項8】
カソード治具に保持させたメッキ対象物と、該メッキ対象物の被メッキ部に対向配置されるアノード部材とを、メッキ液に浸漬して、上記メッキ対象物と上記アノード部材との間に電圧をかけることにより、上記メッキ対象物にメッキを析出させる、電解メッキ方法であって、
上記アノード部材は、上記メッキ対象物と上記アノード部材との対向方向に開口する多数の開口部を備えたメッシュ構造を有し、
上記アノード部材は、上記カソード治具に固定されている、電解メッキ方法。
【請求項9】
上記アノード部材は、不溶性陽極部材からなる、請求項8に記載の電解メッキ方法。
【請求項10】
上記アノード部材は、上記メッキ対象物との間隔を変更できるように、上記カソード治具に固定されている、請求項8又は9に記載の電解メッキ方法。
【請求項11】
上記メッキ対象物と上記アノード部材との対向方向における、上記アノード部材の背面側から、メッキ液が上記アノード部材の多数の上記開口部を通過する液流を形成しつつ、上記メッキ対象物と上記アノード部材との間に電圧をかける、請求項8又は9に記載の電解メッキ方法。
【請求項12】
上記アノード部材と上記メッキ対象物との間隔は、10cm以下である、請求項8又は9に記載の電解メッキ方法。
【請求項13】
上記アノード部材と上記メッキ対象物との間隔は、5cm以下である、請求項8又は9に記載の電解メッキ方法。
【請求項14】
上記メッキ対象物の上記被メッキ部は、磁性体と該磁性体の周囲に巻回されたコイル部とを有する磁気センサ素子における上記コイル部である、請求項8又は9に記載の電解メッキ方法。
【請求項15】
互いに異なる複数種類のメッキ液を貯留した複数のメッキ槽を用意し、上記アノード部材が一体化された上記カソード治具に取り付けられた上記メッキ対象物を、複数の上記メッキ槽に順次浸漬すると共にメッキ析出させることにより、上記メッキ対象物の上記被メッキ部に、異なる種類の金属を順次メッキする、請求項9に記載の電解メッキ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解メッキ装置及び電解メッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体ウエハにおける所定箇所に導体層を形成する方法として、電解メッキ方法がある(例えば、特許文献1参照)。電解メッキは、メッキ液中にアノード部材とメッキ対象物とを浸漬して、両者間に電圧を印加することで、メッキ対象物に金属を析出させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、メッキ対象物におけるメッキ厚みが均一になるように電解メッキを行うことは、容易ではない。メッキ厚みの均一性を向上させる手法は、従来種々提案されているが、メッキ対象物によっては、更なるメッキ厚みの均一性が求められる場合がある。
【0005】
一般に、アノードとカソード(メッキ対象物)との間の間隔(以下において、適宜「電極間距離」という。)を小さくすることで、被メッキ部における電流密度分布のばらつきが抑制され、メッキ厚みのばらつきが抑制されやすくなることは、知られている。しかしながら、電極間距離を小さくすると、電極間におけるメッキ液の液回りが低下する。これにより、メッキ表面の焼け、異常析出といった問題が生じやすくなると共に、場合によっては、却ってメッキ厚みのばらつきが大きくなることもある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる、電解メッキ装置および電解メッキ方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、メッキ対象物を保持するカソード治具と、
上記メッキ対象物の被メッキ部に対向配置されるアノード部材と、を有し、
上記アノード部材は、上記メッキ対象物と上記アノード部材との対向方向に開口する多数の開口部を備えたメッシュ構造を有し、
上記アノード部材は、上記カソード治具に固定されている、電解メッキ装置にある。
【0008】
本発明の他の態様は、カソード治具に保持させたメッキ対象物と、該メッキ対象物の被メッキ部に対向配置されるアノード部材とを、メッキ液に浸漬して、上記メッキ対象物と上記アノード部材との間に電圧をかけることにより、上記メッキ対象物にメッキを析出させる、電解メッキ方法であって、
上記アノード部材は、上記メッキ対象物と上記アノード部材との対向方向に開口する多数の開口部を備えたメッシュ構造を有し、
上記アノード部材は、上記カソード治具に固定されている、電解メッキ方法にある。
【発明の効果】
【0009】
上記電解メッキ装置においては、上記アノード部材が、上記メッシュ構造を有する。これにより、アノード部材とメッキ対象物との間の距離(以下において、適宜「電極間距離」という。)を小さくしても、被メッキ部におけるメッキ液の液回りが阻害されないようにすることができる。それゆえ、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる。また、上記アノード部材が、上記カソード治具に固定されているため、電極間距離を容易に小さくすることができる。そのため、上記電解メッキ装置を用いることで、メッキ厚みのばらつきを低減しやすい。
【0010】
そして、上記電解メッキ方法によれば、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる。
【0011】
以上のごとく、本発明によれば、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる、電解メッキ装置および電解メッキ方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1における、電解メッキ装置の説明図。
【
図2】実施形態1における、互いに固定されたカソード治具とアノード部材の斜視図。
【
図3】実施形態1における、メッキ対象物を保持したカソード治具の斜視図。
【
図4】実施形態1における、アノード部材の一部の正面図。
【
図5】実施形態1における、他の開口パターンのアノード部材の一部の正面図。
【
図6】実施形態1における、更に他の開口パターンのアノード部材の一部の正面図。
【
図7】実施形態1における、カソード治具とアノード部材との固定構造の断面図。
【
図8】実施形態1における、メッキ対象物とアノード部材との位置関係を示す正面図。
【
図9】実施形態1における、メッキ対象物の平面図。
【
図10】実施形態1における、磁気センサ素子の平面図。
【
図11】実施形態2における、電解メッキ装置の説明図。
【
図12】実施形態3における、電解メッキ装置の説明図。
【
図13】実施形態4における、連続メッキラインの説明図。
【
図14】実施形態5における、電解メッキ装置の説明図。
【
図15】実施形態5における、遮蔽板とメッキ対象物の正面図。
【
図17】実験例1における、比較形態の電解メッキ装置によるメッキ厚みの測定結果を示す線図。
【
図18】実験例1における、実施形態2の電解メッキ装置によるメッキ厚みの測定結果を示す線図。
【
図19】実験例1における、(a)メッキ焼けの状態を示すメッキ表面の写真、(b)正常なメッキ表面の写真。
【
図20】実験例2における、電極間距離とメッキ厚みばらつきとの関係の測定結果を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記電解メッキ装置において、上記メッキ対象物の被メッキ部と上記アノード部材との対向方向は、略水平方向であるものとすることができる。この場合には、比較的、メッキ対象物の種々の形状に対応しやすい。
【0014】
上記アノード部材は、不溶性陽極部材からなるものとすることができる。この場合には、アノード部材をカソード治具に固定したままの状態で、当該メッキ装置によるメッキ処理以外の処理(例えば、異種金属のメッキ等)を行うことができる。それゆえ、生産性を向上させやすい。また、アノード部材の厚みを小さくしやすい。それゆえ、アノード部材をメッキ液がより通過しやすく、被メッキ部への液回りを、より向上させることができる。
【0015】
また、上記アノード部材は、上記メッキ対象物との間隔を変更できるように、上記カソード治具に固定されているものとすることができる。この場合には、メッキ対象物の種類等によって、電極間距離を容易に調整することができる。そのため、より適切な電極間距離にてメッキを行うことができる。
【0016】
また、上記メッキ対象物と上記アノード部材との対向方向における、上記アノード部材の背面側から、メッキ液が上記アノード部材の多数の上記開口部を通過する液流を形成する循環器を有するものとすることができる。この場合には、被メッキ部におけるメッキ液の液回りを一層向上させることができる。
【0017】
また、上記アノード部材と上記メッキ対象物との間隔は、10cm以下であるものとすることができる。この場合には、特に、メッキ厚みのばらつきを低減することができる。より好ましくは、電極間距離Dは、10cm未満とすることができる。
【0018】
また、上記アノード部材と上記メッキ対象物との間隔は、5cm以下であるものとすることができる。この場合には、更に、メッキ厚みのばらつきを低減することができる。
【0019】
また、上記メッキ対象物の上記被メッキ部は、磁性体と該磁性体の周囲に巻回されたコイル部とを有する磁気センサ素子における上記コイル部であるものとすることができる。この場合には、コイル部の厚みばらつきを低減することができるため、安定したセンサ特性を有する磁気センサ素子を得ることができる。
【0020】
また、上記電解メッキ方法において、互いに異なる複数種類のメッキ液を貯留した複数のメッキ槽を用意し、上記アノード部材が一体化された上記カソード治具に取り付けられた上記メッキ対象物を、複数の上記メッキ槽に順次浸漬すると共にメッキ析出させることにより、上記メッキ対象物の上記被メッキ部に、異なる種類の金属を順次メッキするものとすることができる。この場合には、メッキ対象物への複数種類の金属メッキを、高い生産性にて行うことができる。
【0021】
(実施形態1)
電解メッキ装置及び電解メッキ方法の実施形態につき、図を参照して説明する。
本形態の電解メッキ装置1は、
図1~
図3に示すごとく、メッキ対象物2を保持するカソード治具3と、メッキ対象物2の被メッキ部21に対向配置されるアノード部材4と、を有する。
【0022】
図2、
図4に示すごとく、アノード部材4は、メッキ対象物2とアノード部材4との対向方向に開口する多数の開口部41を備えたメッシュ構造を有する。アノード部材4は、カソード治具3に固定されている。
図2、
図4においては、アノード部材4のメッシュ構造として、格子状、すなわち、開口部41の各辺が、水平方向又は垂直方向を向くような形状となっているが、メッシュ構造はこれに限定されず、他の形状とすることができる。例えば、
図5に示すように、開口部41が菱形、すなわち開口部41の各辺が垂直方向に対して傾斜した形状とすることもできる。或いは、例えば、
図6に示すように、円形の開口部41が多数形成されたメッシュ構造とすることもできる。
【0023】
本形態の電解メッキ方法においては、
図1に示すごとく、カソード治具3に保持させたメッキ対象物2と、メッキ対象物2の被メッキ部21に対向配置されるアノード部材4とを、メッキ液PSに浸漬する。この状態において、メッキ対象物2とアノード部材4との間に電圧をかけることにより、メッキ対象物2にメッキを析出させる。
【0024】
図1に示すごとく、電解メッキ装置1において、メッキ対象物2の被メッキ部21とアノード部材4との対向方向は、略水平方向である。電解メッキ装置1は、メッキ液PSを貯留するメッキ槽13を有する。そして、このメッキ槽13に対して、上方から、カソード治具3に保持させたメッキ対象物2と、カソード治具3に固定されたアノード部材4を、出し入れするよう構成されている。
【0025】
本形態において、メッキ対象物2は、半導体ウエハである。一枚のカソード治具3に、4枚のメッキ対象物2が、略同一平面上に並べて配置される。より具体的には、
図3に示すごとく、略矩形状のメッキ対象物2が、縦2列、横2列となる状態にて、4枚配置されている。メッキ対象物2の一部に、被メッキ部21が形成されている。この被メッキ部21は、カソード治具3の一部を介して、直流電源11の負極に電気的に接続されている。
【0026】
図1に示すごとく、アノード部材4は、直流電源11の正極に電気的に接続されている。アノード部材4は、不溶性陽極部材からなる。不溶性陽極部材であるアノード部材4は、メッキ液PSに溶解し難い材料からなる。アノード部材4として、例えば、チタン(Ti)からなるメッシュ状の母材の表面に、白金(Pt)がコーティングされた部材を用いることができる。また、アノード部材4は、厚みが例えば、1~5mm程度である。本形態において、アノード部材4は、
図4に示すごとく、金属シートに多数の開口部41が形成された構成となっている。アノード部材4における開口部41の開口率は、例えば、50~90%程度とすることができる。ここで、開口率は、アノード部材4の法線方向(すなわちメッキ対象物2とアノード部材4との対向方向)から見たときにおける、開口部41を含めたアノード部材4の総面積に対する、開口部41の総面積の割合をいうものとする。
【0027】
アノード部材4は、メッキ対象物2における被メッキ部21に対して、電気的に絶縁された状態にて、カソード治具3に固定されている。例えば、
図2に示すごとく、略長方形状のカソード治具3の四隅付近から立設した4本のボス12に、アノード部材4が固定された構成とすることができる。各ボス12は、例えば、
図7に示すごとく、カソード治具3から立設したボルト121と、ボルト121を挿通する筒状のスペーサ122と、ボルト121に螺号するナット123とを有する。そして、スペーサ122をカソード治具3とアノード部材4との間に介在させ、ナット123をアノード部材4の背面側からボルト121に螺号する。
【0028】
これにより、カソード治具3とアノード部材4との間の間隔を所定の距離に保ちつつ、カソード治具3とアノード部材4とを対向させた状態にて、互いに固定することができる。これにより、メッキ対象物2とアノード部材4との間の距離、すなわち電極間距離Dを、所定の値に保つことができる。なお、カソード治具3とアノード部材4との固定構造は、特に限定されることはなく、種々の固定構造を採用し得る。
【0029】
また、アノード部材4は、メッキ対象物2との間隔を変更できるように、カソード治具3に固定されている。例えば、長さの異なる複数種類のスペーサ122を用意しておき、これらを適宜入れ替えることにより、電極間距離Dを容易に変更することができるよう構成されている。なお、本形態において、電極間距離Dは、10cm以下とすることができる。より好ましくは、電極間距離Dは、10cm未満とすることができる。更に好ましくは、電極間距離Dを、5cm以下とすることができる。
【0030】
図8に示すように、メッキ対象物2とアノード部材4との対向方向から見たとき、アノード部材4の外周輪郭42は、カソード治具3に保持された複数のメッキ対象物2における被メッキ部21のすべてを囲むように配置されている。また、対向方向から見たとき、アノード部材4の外周輪郭42は、カソード治具3に保持された複数のメッキ対象物2のすべてを囲むように配置されている。ただし、被メッキ部21の一部がアノード部材4の外周輪郭42からはみ出す状態とすることもできる。
【0031】
本形態において、メッキ対象物2は、半導体ウエハである。半導体ウエハ上に、多数の導体パターンをメッキにて形成することで、多数の磁気センサ素子5(
図9、
図10参照)を得る。すなわち、
図9に示すごとく、複数の磁気センサ素子5をメッキ対象物2(半導体ウエハ)上に同時に形成する。その後、メッキ対象物2をダイシングによって個々の磁気センサ素子5に分割する。この場合、メッキ対象物2の被メッキ部21は、磁気センサ素子5におけるコイル部51等である。
【0032】
磁気センサ素子5は、
図10に示すごとく、磁性体52と該磁性体52の周囲に巻回されたコイル部51とを有するものである。かかる磁気センサ素子5としては、例えば、MIセンサ素子(マグネトインピーダンスセンサ素子)がある。本形態においては、このMIセンサ素子におけるコイル部51が、被メッキ部21の少なくとも一つである。より具体的には、本形態において、被メッキ部21は、コイル部51と、コイル部51に接続された第1リード部53と、第1リード部53に接続された第1パッド部54と、磁性体52に接続された第2リード部55と、第2リード部55に接続された第2パッド部56と、を含む。
【0033】
特にコイル部51は、電気抵抗が磁気センサ素子5の磁気特性に影響を与えることとなるため、厚みばらつきを低減することが重要となる。コイル部51を形成するにあたっては、メッキ対象物2(半導体ウエハ)上に、磁性体52(例えば、アモルファスワイヤ)を配置する前と後とに分けて、それぞれ下側コイル部511と、上側コイル部512とを形成する。すなわち、半導体ウエハ上に、下側コイル部511を形成し、その後、絶縁層を介して磁性体52を下側コイル部511の上面に配置する。さらに、その後、磁性体52の上面側から、絶縁層を介して上側コイル部512を形成する。これらの下側コイル部511の形成及び上側コイル部512の形成において、上述の電解メッキ方法を用いる。また、これらのコイル部51の形成と共に、第1リード部53、第1パッド部54、第2リード部55、第2パッド部56も、電解メッキにて形成される。
【0034】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
上記電解メッキ装置1においては、アノード部材4が、メッシュ構造を有する。これにより、電極間距離Dを小さくしても、被メッキ部21におけるメッキ液の液回りが阻害されないようにすることができる。それゆえ、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる。また、アノード部材4が、カソード治具3に固定されているため、電極間距離Dを容易に小さくすることができる。そのため、電解メッキ装置1を用いることで、メッキ厚みのばらつきを低減しやすい。
【0035】
また、メッキ対象物2の被メッキ部21とアノード部材4との対向方向は、略水平方向である。この場合には、比較的、メッキ対象物2の種々の形状に対応しやすく、また、処理効率を高めることができる。その一方で、例えば、上記対向方向が鉛直方向である場合に比べて、一般的に、メッキ厚みのばらつきが大きくなりやすいという課題がある。しかし、上述のように、アノード部材4をメッシュ構造にするとともに、アノード部材4をカソード治具3に固定することで、アノード部材4をメッキ対象物2に近づけることが可能となる。これにより、被メッキ部21におけるメッキ厚みのばらつきを充分に低減することができる。つまり、上記対向方向を略水平方向としつつ、メッキ厚みのばらつきを充分に低減することができる。
【0036】
また、アノード部材4は、不溶性陽極部材からなる。これにより、アノード部材4をカソード治具3に固定したままの状態で、当該メッキ装置によるメッキ処理以外の処理(例えば、他のメッキ等)を行うことができる。それゆえ、生産性を向上させやすい。また、アノード部材4の厚みを小さくしやすい。それゆえ、アノード部材4をメッキ液がより通過しやすく、被メッキ部21への液回りを、より向上させることができる。
【0037】
また、アノード部材4は、メッキ対象物2との間隔を変更できるように、カソード治具3に固定されている。これにより、メッキ対象物2の種類等によって、アノード部材4とメッキ対象物2との間隔(電極間距離D)を容易に調整することができる。そのため、より適切な電極間距離Dにてメッキを行うことができる。
【0038】
また、メッキ対象物2の被メッキ部21は、磁気センサ素子5におけるコイル部51である。この場合には、コイル部51の厚みばらつきを低減することができるため、安定したセンサ特性を有する磁気センサ素子5を得ることができる。
【0039】
以上のごとく、本形態によれば、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる、電解メッキ装置および電解メッキ方法を提供することができる。
【0040】
(実施形態2)
本形態は、
図11に示すごとく、メッキ槽13内のメッキ液PSの液流を形成する循環器14を備えた電解メッキ装置1の形態である。
循環器14は、メッキ対象物2とアノード部材4との対向方向における、アノード部材4の背面側から、メッキ液PSがアノード部材4の多数の開口部41を通過する液流を形成する。
【0041】
循環器14は、循環ポンプ141と、該循環器14に接続された吸引配管142及び吐出配管143とを有する。循環ポンプ141は、メッキ槽13の外部に配置されている。吸引配管142における吸引口142aは、メッキ槽13内におけるカソード治具3の背面側(アノード部材4と対向する側と反対側)に配置されている。また、吐出配管143の吐出口143aは、メッキ槽13内におけるアノード部材4の背面側(メッキ対象物2と対向する側と反対側)に配置されている。本形態において、吐出口143aは、複数設けられている。
【0042】
循環器14は、循環ポンプ141を作動させることにより、吸引配管142からメッキ液PSを吸引するとともに、吐出配管143からメッキ液PSを吐出する。これにより、メッキ槽13内において、吐出口143aから、アノード部材4の背面側へ向かってメッキ液PSが吐出される。これにより、メッキ液PSの液流として、アノード部材4の多数の開口部41を通過して、被メッキ部21へ向かう液流が形成される。これにより、アノード部材4に対向配置されたメッキ対象物2の被メッキ部21の液回りが確保される。
【0043】
その他は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0044】
本形態においては、被メッキ部21におけるメッキ液PSの液回りを一層向上させることができる。それゆえ、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ、一層良好なメッキ状態にてメッキを行うことができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0045】
(実施形態3)
本形態は、
図12に示すごとく、カソード治具3の両面に、メッキ対象物2を配置して電解メッキを行うよう構成した、電解メッキ装置1の形態である。
すなわち、カソード治具3が、両面において、メッキ対象物2を保持できるよう構成してある。そして、カソード治具3の両面のそれぞれに対向するように、2つのアノード部材4がカソード治具3に固定されている。
【0046】
また、循環器14が、それぞれのアノード部材4の背面側からメッキ対象物2へ向かう液流を形成するように、配設されている。
その他は、実施形態2と同様である。
【0047】
本形態の場合には、一度にメッキ処理できるメッキ対象物2の量を多くすることができる。それゆえ、より生産性に優れた電解メッキ装置及び電解メッキ方法を提供することができる。
その他、実施形態2と同様の作用効果を有する。
【0048】
(実施形態4)
本形態は、
図13に示すごとく、互いに異なる複数種類のメッキ液をそれぞれ貯留した複数のメッキ槽を備えた連続メッキライン6を用いて、メッキ対象物に複数種類のメッキを施す方法の形態である。
【0049】
例えば、上述した磁気センサ素子5のコイル部51等には、銅と、ニッケルと、金のメッキとを、順次施す。これらのメッキは、
図13に示すように、複数のメッキ槽61~64を備えた連続メッキライン6を用いて行う。各メッキ槽における電解メッキは、例えば、上記実施形態1に示した電解メッキ装置1と同様の電解メッキ装置を用いて行うことができる。
【0050】
連続メッキライン6は、Cuメッキ槽61と、Ni-Pメッキ槽62と、ストライクAuメッキ槽63と、Auメッキ槽64とを有する。また、各メッキ槽の前後には、適宜、水洗槽651、652、653、654が配置されている。
【0051】
Cuメッキ槽61には、例えば、硫酸銅メッキ液が貯留されている。なお、硫酸銅メッキ液には、適宜添加剤が添加されている。Ni-Pメッキ槽62には、例えば、高リンタイプの硫酸ニッケルメッキ液が貯留されている。ストライクAuメッキ槽63には、例えば、ノンシアンタイプの亜硫酸金メッキ液が貯留されている。Auメッキ槽64には、例えば、ノンシアンタイプの亜硫酸金メッキ液が貯留されている。
【0052】
そして、アノード部材4が固定されたカソード治具3(これを、以下において、適宜「一体治具34」という。)にメッキ対象物2を保持させた状態にて、連続メッキライン6にて順次メッキ処理を行う。すなわち、メッキ対象物2を保持した一体治具34を、Cuメッキ槽61、水洗槽651、Ni-Pメッキ槽62、水洗槽652、ストライクAuメッキ槽63、水洗槽653、Auメッキ槽64、水洗槽654に、この順序にて所定時間ずつ浸漬して、連続的にメッキ処理を行う。この間、一体治具34に対して、メッキ対象物2を着脱する必要はないし、アノード部材4を取り換える必要もない。
【0053】
本形態の場合は、上述のようにアノード部材4を取り換えることなく、複数の異種金属のメッキを連続的に行うことができる。それゆえ、生産性を飛躍的に向上させることができる。また、アノード部材4が不溶性陽極部材からなるため、カソード治具3にアノード部材4を固定したままの状態であっても、上述のような連続メッキ処理が可能となる。
【0054】
その他は実施形態1と同様であり、実施形態1と同様の作用効果を有する。なお、本形態においても、各メッキ槽に、実施形態2に示した、循環器14を設けることもできる。また、本形態においても、カソード治具3の両面にメッキ対象物2を保持させて、メッキを行うこともできる。
【0055】
(実施形態5)
本形態は、
図14、
図15に示すごとく、メッキ対象物2とアノード部材4との間に、遮蔽板15を配置した形態である。
遮蔽板15は、
図15に示すごとく、一部に開口窓151が形成されている。すなわち、対向方向から見て、遮蔽板15が、メッキ対象物2の一部に重なる部分と、重ならない部分とが存在する。
【0056】
そして、メッキ対象物2における被メッキ部21の中で比較的メッキ厚みが厚くなりやすい箇所に、遮蔽板15が重なるように、遮蔽板15を配置する。被メッキ部21の中で比較的メッキ厚みが薄くなりやすい箇所に、開口窓151が配置されるように、遮蔽板15を配置する。
【0057】
遮蔽板15は、例えば、カソード治具3に対してアノード部材4を固定するためのボス12に固定することで、カソード治具3に固定することができる。
なお、遮蔽板15に設ける開口窓151は、被メッキ部21へのメッキ液PSの液回りを阻害しすぎない程度に、充分な大きさとなるように設ける。
その他は、実施形態1と同様である。
【0058】
本形態においては、被メッキ部21の中で、対向方向から見て遮蔽板15が重なる部位への電流密度の集中を抑制することができる。これにより、比較的メッキ厚みが厚くなりやすい箇所のメッキ厚みを抑制することができる。それゆえ、メッキ厚みのばらつきを抑制することができる。すなわち、遮蔽板15を利用することで、実施形態1に示したメッキ厚みの抑制効果と共に、遮蔽板15によるメッキ厚みのばらつきの抑制効果を、相乗的に得ることができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0059】
(実験例1)
本例は、
図16~
図19に示すごとく、実施形態2の電解メッキ装置1による作用効果を確認した例である。
すなわち、下記の比較形態の電解メッキ装置と、実施形態2の電解メッキ装置1とのそれぞれを用いて、メッキ対象物2の被メッキ部21に銅メッキを形成し、この銅メッキのメッキ厚みのばらつきを評価した。比較形態の電解メッキ装置は、アノード部材として、含リン銅からなる可溶性陽極部材を用いた。また、比較形態の電解メッキ装置においては、特にカソード治具3にアノード部材を固定していない。
【0060】
いずれの電解メッキ装置においても、メッキ液としては、硫酸銅メッキ液を用い、添加剤(CU-BRITE RF(JCU社製))を添加した。また、電極間距離Dは1cmとした。また、循環器14によるメッキ液の循環を行いつつ、メッキ処理を行った。
そして、メッキ厚みの狙い値を、5.0μmに設定し、電流密度1.0A/dm2にて、銅(Cu)の電解メッキを行った。
【0061】
そして、
図16に示すメッキ対象物2(半導体ウエハ)における9箇所(円にて囲んだ数字1~9の箇所)において、銅のメッキ厚みを測定した。比較形態の電解メッキ装置と実施形態2の電解メッキ装置1とのそれぞれにおいて、測定対象のメッキ対象物2の数は、各7個とした。すなわち、比較形態と実施形態2とのそれぞれにおいて、測定箇所の総数は、各63箇所とした。メッキ厚みの測定には、接触式段差計(小坂研究所製 ET4000A)を用いた。これらの測定結果を、
図17、
図18のヒストグラムに示す。
図17のヒストグラムが、比較形態の電解メッキ装置による結果を示し、
図18のヒストグラムが、実施形態2の電解メッキ装置1による結果を示す。
【0062】
図17に示すように、比較形態の電解メッキ装置による場合は、メッキ厚みに比較的ばらつきがある。また、これらのデータにつき、標準偏差σを算出したところ、σ=0.62μmであった。
これに対して、
図18に示すように、実施形態2の電解メッキ装置1による場合は、メッキ厚みのばらつきが抑制されている。また、標準偏差σについても、σ=0.23μmと小さい。
【0063】
また、比較形態の電解メッキ装置による電解メッキを行った試料の中には、
図19(a)に示すように、メッキの焼け、異常析出がみられるものもあった。これに対して、実施形態2の電解メッキ装置1による電解メッキを行った試料には、いずれも、メッキの焼け、異常析出は見られなかった。なお、メッキの焼け、異常析出のない正常なメッキ表面の写真を、
図19(b)に示す。
【0064】
以上の結果から、実施形態2の電解メッキ装置1によると、メッキ厚みのばらつきを低減しつつ良好なメッキ状態にてメッキを行うことができることがわかる。
【0065】
(実験例2)
本例は、
図20に示すごとく、電極間距離Dによるメッキ厚みのばらつきの変化を確認した例である。
本例においては、実施形態2の電解メッキ装置1を用いた。そして、電極間距離Dを、1~15cmの間で変化させ、メッキ厚みを測定した。
【0066】
メッキ条件は、基本的に、実施例1と同様である。ただし、メッキ液に添加した添加剤は、トップルチナFRV(奥野製薬工業社製)である。
【0067】
各水準につき、4つのメッキ対象物2におけるそれぞれ9箇所の測定箇所のメッキ厚みを測定するとともに、各メッキ対象物2における9つの測定値の標準偏差σを、それぞれ算出した。その結果を、
図20に示す。
【0068】
同図から分かるように、電極間距離Dを小さくすることにより、メッキ厚みのばらつきを低減できている。そして、電極間距離Dを10cm以下とすることにより、σ<0.4μmに収まっている。さらに、電極間距離Dを5cm以下とすることにより、σ<0.2μmに収まっている。
【0069】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 電解メッキ装置
2 メッキ対象物
21 被メッキ部
3 カソード治具
4 アノード部材
41 開口部