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特開2024-74540吸着ユニット及びそれを備えた吸着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074540
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】吸着ユニット及びそれを備えた吸着装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
B25J15/08 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185769
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】池本 周平
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707DS01
3C707FS01
3C707FT08
3C707FU01
3C707KS30
3C707KX08
(57)【要約】
【課題】歪みセンサや近接センサを用いることなく、吸着パッドによる対象物の吸着状態を検知可能な吸着ユニット及びそれを備えた吸着装置を提供する。
【解決手段】対象物を負圧によって第1面11で吸着する吸着パッド13を具備する吸着ユニット10において、外部から与えられる電圧を吸着パッド13の第1面11の反対側の第2面12に印加する入力端子14~17と、吸着パッド13が吸着した対象物から力を受けて、吸着パッド13の第2面12への接触状態が変わる計測端子18~25とを備え、吸着パッド13は少なくとも第2面12側が導電性を有する弾性体からなり、計測端子18~25と通電状態の吸着パッド13との間の接触抵抗は、吸着パッド13の対象物の吸着状態に応じて変化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を負圧によって第1面で吸着する吸着パッドを具備する吸着ユニットにおいて、
外部から与えられる電圧を前記吸着パッドの前記第1面の反対側の第2面に印加する入力端子と、
前記吸着パッドが吸着した前記対象物から力を受けて、該吸着パッドの前記第2面への接触状態が変わる計測端子とを備え、
前記吸着パッドは少なくとも前記第2面側が導電性を有する弾性体からなり、
前記計測端子と通電状態の前記吸着パッドとの間の接触抵抗は、前記吸着パッドの前記対象物の吸着状態に応じて変化することを特徴とする吸着ユニット。
【請求項2】
請求項1記載の吸着ユニットにおいて、前記対象物を非吸着の前記吸着パッドの前記第2面と前記計測端子との間に隙間を設けるスペーサを、更に備えることを特徴とする吸着ユニット。
【請求項3】
請求項1記載の吸着ユニットにおいて、前記入力端子は、前記吸着パッドによる前記対象物の吸着により該吸着パッドの前記第2面に接触することを特徴とする吸着ユニット。
【請求項4】
請求項3記載の吸着ユニットにおいて、前記対象物を非吸着の前記吸着パッドの前記第2面と前記計測端子との間、及び、該対象物を非吸着の該吸着パッドの該第2面と前記入力端子との間にそれぞれ、隙間を設けるスペーサを、更に備えることを特徴とする吸着ユニット。
【請求項5】
請求項1記載の吸着ユニットにおいて、前記吸着パッドの前記第2面側には開口部が形成され、前記吸着パッドは、前記開口部より幅広の先端に向けて拡幅となった固定部材が該先端から前記開口部に嵌入されて前記計測端子に対し位置決めされることを特徴とする吸着ユニット。
【請求項6】
対象物を負圧によって第1面で吸着する吸着パッドを具備する吸着ユニットを有して、前記吸着パッドによる前記対象物の吸着状態を検知する吸着装置において、
前記吸着ユニットに電圧を与える印加手段と、
前記吸着ユニットから出力される電気信号を取得して該電気信号の大きさを基に前記吸着パッドによる前記対象物の吸着状態を検知する吸着状態検出手段とを具備し、
前記吸着ユニットは、前記印加手段から与えられる電圧を前記吸着パッドの前記第1面の反対側の第2面に印加する入力端子、及び、前記吸着パッドが吸着した前記対象物から力を受けて該吸着パッドの前記第2面への接触状態が変わる計測端子を備え、前記吸着パッドの少なくとも前記第2面側が導電性を有する弾性体からなり、前記計測端子と通電状態の前記吸着パッドとの間の接触抵抗が前記吸着パッドの前記対象物の吸着状態に応じて変化し、
前記吸着状態検出手段が取得する前記電気信号の大きさは、前記計測端子の電圧値に対応することを特徴とする吸着装置。
【請求項7】
請求項6記載の吸着装置において、前記吸着ユニットは、前記対象物を非吸着の前記吸着パッドの前記第2面と前記計測端子との間に隙間を設けるスペーサを、更に備えることを特徴とする吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着パッドによって対象物を吸着する吸着ユニットとそれを備えた吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くのモバイルマニピュレータには、負圧により生じる吸着力で対象物を吸着する吸着パッドが採用されている。この種のモバイルマニピュレータは、吸着パッドで様々な重さや形状の吸着対象物(以下、単に「対象物」と言う)を吸着できるように、余裕を持った大きさの吸着力を発生させる。そのため、過大な電気エネルギーを消費することとなる。
【0003】
この点、引用文献1には、対象物の吸着によって変形する吸着パッドに、吸着パッドの変形を検出する歪みセンサや近接センサ等のセンサを取り付け、吸着パッドの変形度合いから対象物の吸着状態を検知する吸着装置が開示されている。この吸着装置を採用すれば、例えば、吸着パッドで吸着している対象物が落下しそうになっているか否かを検知して吸着力の大きさを調整でき、電気エネルギーの消費を抑えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-185636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1の吸着装置は、吸着パッドの変形の検出に歪みセンサや近接センサを用いることから、吸着パッドの変形の検出精度を上げるために多くのセンサが必要になるという問題や、センサに不具合が生じた際にセンサの取り替え作業に時間が生じるという問題が招来する。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、歪みセンサや近接センサを用いることなく、吸着パッドによる対象物の吸着状態を検知可能な吸着ユニット及びそれを備えた吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る吸着ユニットは、対象物を負圧によって第1面で吸着する吸着パッドを具備する吸着ユニットにおいて、外部から与えられる電圧を前記吸着パッドの前記第1面の反対側の第2面に印加する入力端子と、前記吸着パッドが吸着した前記対象物から力を受けて、該吸着パッドの前記第2面への接触状態が変わる計測端子とを備え、前記吸着パッドは少なくとも前記第2面側が導電性を有する弾性体からなり、前記計測端子と通電状態の前記吸着パッドとの間の接触抵抗は、前記吸着パッドの前記対象物の吸着状態に応じて変化する。
【0007】
前記目的に沿う第2の発明に係る吸着装置は、対象物を負圧によって第1面で吸着する吸着パッドを具備する吸着ユニットを有して、前記吸着パッドによる前記対象物の吸着状態を検知する吸着装置において、前記吸着ユニットに電圧を与える印加手段と、前記吸着ユニットから出力される電気信号を取得して該電気信号の大きさを基に前記吸着パッドによる前記対象物の吸着状態を検知する吸着状態検出手段とを具備し、前記吸着ユニットは、前記印加手段から与えられる電圧を前記吸着パッドの前記第1面の反対側の第2面に印加する入力端子、及び、前記吸着パッドが吸着した前記対象物から力を受けて該吸着パッドの前記第2面への接触状態が変わる計測端子を備え、前記吸着パッドの少なくとも前記第2面側が導電性を有する弾性体からなり、前記計測端子と通電状態の前記吸着パッドとの間の接触抵抗が前記吸着パッドの前記対象物の吸着状態に応じて変化し、前記吸着状態検出手段が取得する前記電気信号の大きさは、前記計測端子の電圧値に対応する。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明に係る吸着ユニットは、外部から与えられる電圧を吸着パッドの第1面の反対側の第2面に印加する入力端子と、吸着パッドが吸着した対象物から力を受けて、吸着パッドの第2面への接触状態が変わる計測端子とを備え、吸着パッドの第2面側が導電性を有する弾性体からなり、計測端子と通電状態の吸着パッドとの間の接触抵抗が、吸着パッドの対象物の吸着状態に応じて変化するので、計測端子と吸着パッド間の接触抵抗を基に吸着パッドによる対象物の吸着状態の検知を可能とする。よって、第1の発明に係る吸着ユニットによれば、歪みセンサや近接センサを用いることなく、吸着パッドによる対象物の吸着状態を検知可能である。
【0009】
また、第2の発明に係る吸着装置は、第1の発明に係る吸着ユニットに加えて、吸着ユニットに電圧を与える印加手段と、吸着ユニットから出力される電気信号を取得して電気信号の大きさを基に吸着パッドによる対象物の吸着状態を検知する吸着状態検出手段とを具備するので、歪みセンサや近接センサを用いることなく、吸着パッドによる対象物の吸着状態を検知可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る吸着ユニットの分解図である。
図2】(A)、(B)はそれぞれ、同吸着ユニットの斜視図及び側面図である。
図3】(A)、(B)はそれぞれ、吸着パッドの固定前の状態を示す説明図及び吸着パッドを固定した様子を示す説明図である。
図4】スペーサ及び固定部材に対する入力端子及び計測端子の配置を示す説明図である。
図5】(A)は入力端子及び計測端子の接続を示す説明図であり、(B)は入力端子と計測端子間の電気的な関係を示す説明図である。
図6】箱を吸着する実験の計測結果を示すグラフである。
図7】吸着した箱に力を加える実験の計測結果を示すグラフである。
図8】吸着した箱に力を加える実験の計測結果を示すグラフである。
図9】吸着パッドを手で押す実験の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1図2(A)、(B)、図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る吸着ユニット10は、対象物Wを負圧によって面11(第1面の一例)で吸着する吸着パッド13を具備するユニットであって、外部から与えられる電圧を吸着パッド13の面11の反対側の面12(第2面の一例)に印加する複数の入力端子14、15、16、17と、吸着パッド13が吸着した対象物Wから力を受けて、吸着パッド13の面12への接触状態が変わる複数の計測端子18、19、20、21、22、23、24、25を備えている。以下、詳細に説明する。
【0012】
吸着パッド13は、図1図2(A)、(B)に示すように、円柱に軸心に沿った貫通孔26を形成した形状であり、一方の面に該当する面11が露出し、他方の面に該当する面12が円筒状のカバー体27内に納まった状態となっている。貫通孔26は断面円形である。カバー体27は円筒体を縦方向に2分割した2つの樹脂片28、29を組み合わせて形成されている。以下、吸着パッド13は面11、12がそれぞれ前側及び後側に配されているものとして説明する。
吸着パッド13は、例えば、カーボンや金属粉からなる導電材料を練り込んだポリエチレンフォームによって形成可能な弾性体であり、導電性を有している。
【0013】
カバー体27内には、図1図3(A)、(B)に示すように、吸着パッド13の面12に前側が接触したスペーサ30、スペーサ30の後側に接触した円盤状の基板31、及び、基板31の後側に基板31に平行して配された円盤状の基板32が収容されている。カバー体27(樹脂片28、29)は、カバー体27の内側にスペーサ30及び基板31、32がそれぞれ固定されるように設計されている。
【0014】
スペーサ30は、図1図4に示すように、大リング33、大リング33の内側に同心円状に配された小リング34、大リング33と小リング34を連結する複数の直線部35、及び、小リング34と小リング34の中央に配された固定部材36を連結する複数の直線部37を有している。複数の直線部35は、図4に示すように、周方向に等ピッチで設けられ、それぞれ半径方向に沿っている。複数の直線部37も周方向に等ピッチで設けられ、それぞれ半径方向に沿っている。
【0015】
本実施の形態において、直線部35は8つ(計測端子18、19、20、21、22、23、24、25と同数)あって、直線部37は4つ(入力端子14、15、16、17と同数)ある。固定部材36は、複数の直線部37に固定された後側端部からスペーサ30の前方に突出した前側端部(先端)に向けて拡径(拡幅の一例)となった中空の円錐台の底面(前側端面)を取り除き上面(後側端面)の中央に貫通孔38を形成した形状である。
本実施の形態では、スペーサ30、基板31、32及び固定部材36が全て絶縁性を有している。
【0016】
吸着パッド13は、図3(B)に示すように、固定部材36のスペーサ30から前方に突出した領域が貫通孔26に嵌入されて固定部材36に取り付けられる。本実施の形態では、貫通孔26において固定部材36が嵌入される領域が、固定部材36が先端から嵌入される開口部に該当する。
固定部材36の前側端部(先端)の半径は貫通孔26の半径より大きく(幅広)、吸着パッド13は貫通孔26(開口部)が固定部材36によって広げられた状態で固定部材36に強固に取り付けられている。これにより、吸着パッド13は計測端子18、19、20、21、22、23、24、25に対し位置決めされる。
【0017】
基板31は、図1図4に示すように、中央に貫通孔40が形成され、基板31には、半球状の入力端子14、15、16、17及び同じく半球状の計測端子18、19、20、21、22、23、24、25がそれぞれ基板31の前方に突出するように取り付けられている。本実施の形態では、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の各大きさは実質的に等しい。入力端子14、15、16、17は貫通孔40の周囲に周方向に間隔を空けて(本実施の形態では等ピッチで)配置され、計測端子18、19、20、21、22、23、24、25は、基板31の入力端子14、15、16、17が配された領域の外側に周方向に間隔を空けて(本実施の形態では等ピッチで)配置されている。
【0018】
スペーサ30及び基板31が接触してそれぞれカバー体27に固定された状態で、入力端子14、15、16、17はそれぞれ、図4に示すように、固定部材36、小リング34及び2本の直線部37に囲まれ、計測端子18、19、20、21、22、23、24、25はそれぞれ、小リング34、大リング33及び2本の直線部35に囲まれる。スペーサ30(つまり、大リング33、小リング34、8つの直線部35及び4つの直線部37それぞれ)の厚みは、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の基板31からの突出長より大きい(厚い)。
【0019】
そのため、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25は、吸着パッド13が対象物Wを吸着していない状態で、スペーサ30によって吸着パッド13に非接触な状態となる。よって、スペーサ30は、対象物Wを非吸着の吸着パッド13の面12と計測端子18、19、20、21、22、23、24、25との間、及び、同吸着パッド13の面12と入力端子14、15、16、17との間に隙間を設けることとなる。
【0020】
入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25はそれぞれ間隔を空けて配置されていればよく、上述した配置である必要はない。基板31には、入力端子14、15、16、17に電気的に接続された図示しないコネクタ及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25に電気的に接続された図示しないコネクタが取り付けられている。
【0021】
基板32には、図1に示すように、中央に貫通孔41が形成され、貫通孔41を中心に貫通孔41の左右にはそれぞれ、基板31に取り付けられた2つのコネクタにそれぞれ連結されたコネクタ42、43が固定されている。更に、基板32には、図1図5(A)に示すように、基板31に取り付けられたコネクタ及びコネクタ43を介して計測端子18、19、20、21、22、23、24、25に電気的に接続されたAD変換器44が取り付けられている。
【0022】
コネクタ42には、図5(A)に示すように、入力端子14、15、16、17(即ち、吸着ユニット10)に対し電圧(本実施の形態では直流電圧)を与える印加手段45が接続されている。印加手段45から与えられた電圧はコネクタ42及び基板31に取り付けられたコネクタを経由して入力端子14、15、16、17に印加される。入力端子14、15、16、17は印加手段45に対して並列に接続されていることから、入力端子14、15、16、17にはそれぞれ同じ大きさの電圧が印加される。
【0023】
また、カバー体27の内側には、図1に示すように、基板32の後側に、真空ポンプにチューブ等を介して接続された、ナット46を具備する吸引部47が設けられている。ナット46には、図1図3(A)、(B)に示すように、頭部が固定部材36内に収められた貫通孔付螺子48の雄螺子部が嵌め合わされている。貫通孔付螺子48の雄螺子部は固定部材36の貫通孔38、基板31の貫通孔40及び基板32の貫通孔41を挿通した状態でナット46に装着されている。
【0024】
真空ポンプの作動によって、吸着パッド13の貫通孔26に外部の空気が吸い込まれ、その空気は、貫通孔付螺子48の軸心に沿って形成された貫通孔49を通って、吸引部47に送られる。吸着パッド13の貫通孔26に空気が吸い込まれることによって、貫通孔26内は負圧となり、吸着パッド13は対象物Wを吸着可能となる。対象物Wは、図2(B)に示すように、吸着パッド13の面11に接触した状態で吸着パッド13の面11に吸着されて、吸着パッド13に後ろ向きの力(吸着パッド13の面11を計測端子18、19、20、21、22、23、24、25に近付ける向きの力)を作用させる。
【0025】
吸着パッド13は対象物Wから力を受けて面12のスペーサ30に非接触の領域が基板31に接近し、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の全て又は一部に接触する。従って、入力端子14、15、16、17は吸着パッド13による対象物Wの吸着により吸着パッド13の面12に接触する。本実施の形態において、真空ポンプが作動時は、通常、印加手段45から入力端子14、15、16、17に所定の大きさの電圧が印加された状態となる。
【0026】
そのため、入力端子14、15、16、17に通電されている電流は吸着パッド13に接触している入力端子14、15、16、17から吸着パッド13を経由して吸着パッド13に接触している計測端子18、19、20、21、22、23、24、25に通電される。なお、吸着パッド13に入力端子14、15、16、17がいずれも接触していない場合、入力端子14、15、16、17から吸着パッド13に電流が通電されないのは言うまでもない。
【0027】
入力端子14及び計測端子18が吸着パッド13に接触している場合、図5(B)に示すように、入力端子14と吸着パッド13の接触によって接触抵抗R1が生じ、計測端子18と吸着パッド13の接触によって接触抵抗R2が生じ、接触抵抗R1と接触抵抗R2の間に吸着パッド13自体の抵抗Rsが生じ、直列に接続された接触抵抗R1、抵抗Rs及び接触抵抗R2が通電された状態となる。
【0028】
基板31には、直列接続された接触抵抗R1、抵抗Rs及び接触抵抗R2とバランスを取るための計測用の抵抗50が設けられ、AD変換器44には計測端子18、19、20、21、22、23、24、25それぞれからAD変換器44を経由して吸着ユニット10の外部に出力される電気信号を取得する吸着状態検出手段51が接続されている。吸着状態検出手段51は、例えばマイクロコンピュータによって構成することができる。
【0029】
ここで、接触抵抗は、接触する2つの物体の接触面積が大きくなるのに伴い大きくなり、2つの物体が接触する力が大きくなるのに伴い大きくなる。従って、接触抵抗R1は入力端子14と吸着パッド13の接触状態が変わることによって大きさが変化し、接触抵抗R2は計測端子18と吸着パッド13の接触状態が変わることによって大きさが変化する。入力端子14と吸着パッド13の接触状態は吸着パッド13の対象物Wの吸着状態によって変化することから、接触抵抗R1は吸着パッド13の対象物Wの吸着状態に応じて変化する。
【0030】
計測端子18と吸着パッド13の接触状態も吸着パッド13の対象物Wの吸着状態によって変化することから、接触抵抗R2(即ち、計測端子18と通電状態の吸着パッド13の面12間の接触抵抗)も吸着パッド13の対象物Wの吸着状態に応じて変化する。
また、入力端子14及び計測端子18に接触して吸着パッド13が変形等することにより抵抗Rsの大きさも変化するが、抵抗Rsの大きさの変化率は接触抵抗R1、R2それぞれの大きさの変化率に比べて極めて小さい。
【0031】
更に、計測端子18から入力端子14までの距離は計測端子18から入力端子15、16までの各距離より短く、計測端子18の吸着パッド13への接触状態と入力端子14の吸着パッド13への接触状態とは類似する傾向がある。例えば、計測端子18が吸着パッド13に接触している際に、入力端子14が吸着パッド13に接触していないという現象は、入力端子15、16が吸着パッド13に接触していないという現象よりも生じづらい。
【0032】
そして、計測端子18及び入力端子14の電気的な接続に影響を与える吸着パッド13の抵抗Rsは、計測端子18及び入力端子15(又は入力端子16)の電気的な接続に影響を与える吸着パッド13の抵抗Rsに比べて小さい。
従って、計測端子18における電圧値の変化を基に、吸着パッド13において計測端子18に対応する領域の対象物Wの吸着状態を検知できる。
【0033】
吸着パッド13に対する入力端子14及び計測端子18の上述した電気的な関係は、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の別の組み合わせ(例えば、入力端子15及び計測端子21の組み合わせ)に対しても同様である。
吸着状態検出手段51は、計測端子18、19、20、21、22、23、24、25それぞれから出力される電気信号(吸着ユニット10から出力される電気信号)をAD変換器44経由で取得し、各電気信号(計測端子18、19、20、21、22、23、24、25それぞれの電圧)の大きさを基に、吸着パッド13において計測端子18、19、20、21、22、23、24、25に対応する各領域に作用している力の大きさを導出することや、吸着パッド13全体による対象物Wの吸着状態を検知することを行う。
【0034】
吸着状態検出手段51が検知する吸着パッド13による対象物Wの吸着状態とは、例えば、対象物Wを安定的に吸着している状態、対象物Wを吸着する力が吸着パッド13の面11において一部が大きくその他の部分が小さくなっている状態、対象物Wを吸着する力が弱過ぎる状態、及び、対象物Wを吸着する力が強過ぎる状態を意味する。
【0035】
本実施の形態では、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25それぞれから吸着パッド13までの距離(スペーサ30の各部の厚み)、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の配置、並びに、吸着パッド13の形状及び弾力特性が、以下の条件1、2、3を満たすように調整されている。
【0036】
条件1:吸着パッド13が対象物Wを吸着していない状態で、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の全てが吸着パッド13に非接触となる。
条件2:吸着パッド13が対象物Wを吸着した状態で、原則、入力端子14、15、16、17の全てが吸着パッド13の面12に接触する。
【0037】
条件3:吸着パッド13が対象物Wを吸着した状態で、原則、計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の一部又は全部が、吸着パッド13の面12に接触する。
条件4:吸着パッド13が対象物Wの吸着を終えた時点で、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の全てが即座に吸着パッド13に非接触となる。
【0038】
本実施の形態では、吸着パッド13が対象物Wを吸着していない状態で、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25それぞれから吸着パッド13までの距離が0.2mm~3.0mmとなるように設計されている。
なお、吸着パッド13が対象物Wを吸着していない状態でも、入力端子14、15、16、17及び計測端子18、19、20、21、22、23、24、25が吸着パッド13に接触するように設計することも可能である(この場合、スペーサ30を削除することができる)が、その場合、吸着パッド13による対象物Wの吸着状態を検出する精度が小さくなったり、吸着パッド13による対象物Wの吸着状態の検出が不安定となったりすることに注意する必要がある。
【0039】
なお、本発明の一実施の形態に係る吸着装置52(図5(A)参照)は、吸着ユニット10を有して、吸着パッド13による対象物Wの吸着状態を検知する吸着装置であって、印加手段45と吸着状態検出手段51とを具備し、吸着状態検出手段51が取得する電気信号の大きさは、計測端子18、19、20、21、22、23、24、25の電圧値に対応している。
【実施例0040】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
実験では、上述した吸着ユニット10と基本的に同じ構成を有する吸着ユニット(即ち、4つ入力端子及び8つの計測端子を有する吸着ユニット)を使用し、各入力端子には5Vの直流電圧を印加した。
まず、台上に置かれた箱(対象物)の上面を吸着パッドで吸着し、8つの計測端子の電圧値を計測した。計測結果を図6に示す。なお、図6に示す計測結果おいて、1から8までの数字は8つの計測端子に対応し、8つの計測端子が取り付けられた基板を正面視して、8つの計測端子に対し反時計回りに1から8までの数字を付与したものである。これは、後述する図7図8図9にそれぞれ示す計測結果についても同じである。
【0041】
図6に示す計測結果おいて、”prior to adsorbing”は吸着パッドが箱を未吸着(吸着する前)であった状態を意味し、”adsorbing”は吸着パッドが箱を吸着した状態を意味する。
図6に示す計測結果より、吸着パッドが箱を未吸着の状態でゼロであった8つの計測端子の電圧値は、吸着パッドが箱を吸着して上昇することが確認できた。
【0042】
次に、上面が吸着パッドに吸着された箱を吸着ユニットと共に持ち上げて箱が台に接触しない状態とし、箱の上面の一部(吸着パッドに密着している箱の上面の領域の外側の領域の一部)に指で下向きの力を加えて(このとき、箱は吸着パッドに吸着された状態であった)、力を加える前後の各計測端子の電圧値を計測する実験を行った。実験は、指で力を加える箇所を変えて2回行った。それぞれの計測結果を図7図8に示す。なお、図7図8において、”adsorbing”は箱に力を加えていなかった状態を意味し、”disturbing”は箱に力を加えていた状態を意味する。
【0043】
図7図8に示す計測結果より、箱に力を加えていなかった状態と箱に力を加えていた状態とで8つの計測端子の電圧値が変わること、並びに、力を加える箇所が異なると8つの計測端子の電圧値の傾向が相違することが確認できた。
【0044】
最後に、箱を吸着していない吸着パッドの第1面を指で押して各計測端子の電圧値を計測する実験を指で押さえる箇所を変えて4回行った。
計測結果を図9に示す。図9において、Aは1及び2の計測端子に対応する箇所を指で押した時間帯を表し、Bは3及び4の計測端子に対応する箇所を指で押した時間帯を表し、Cは5及び6の計測端子に対応する箇所を指で押した時間帯を表し、Dは7及び8の計測端子に対応する箇所を指で押した時間帯を表している。
図9に示す計測結果より、吸着パッドの力を加えられた箇所に対応する計測端子の電圧が上昇することが確認できた。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、吸着パッドは第2面側(第2面(即ち計測端子が接触する面)から第1面に向けて厚みのある領域)が導電性を有する弾性体であればよく、第2面側を除く部位が絶縁性を有する素材で形成されていてもよいし、同部位が非弾性体からなってもよい。
【0046】
入力端子は吸着パッドの第2面に電圧を印加できればよく、吸着パッドの第2面に直接接触する必要はない。例えば、入力端子を円柱状の吸着パッドの側面に固定し導電線経由で吸着パッドの第2面に電圧を印加するように設計することができる。吸着パッド全体が導電性を有する場合、入力端子を同吸着パッドの側面に固定することで、入力端子は電圧を吸着パッドの第2面に印加可能となる。
【0047】
また、入力端子及び計測端子はそれぞれ1つずつであってもよい。但し、計測端子が1つの場合、計測端子が複数の場合に比べて吸着パッドによる対象物の吸着状態の検出精度が低くなる。
入力端子及び計測端子は半球状である必要はなく、例えば、球状、円錐台状、円柱状、円筒状、角柱状であってもよい。なお、入力端子及び計測端子が半球状、球状、円錐状の場合、入力端子及び計測端子が円柱状、円筒状、角柱状の場合に比べて、吸着パッドが吸着した対象物から受ける力の大きさの変化に応じて、吸着パッドと入力端子との間の接触面積及び吸着パッドと計測端子との間の接触面積がそれぞれ大きく変化して、吸着パッドと入力端子との間の接触抵抗及び吸着パッドと計測端子との間の接触抵抗の増減が顕著となることから、結果として、吸着パッドによる対象物の吸着状態の検出精度が高くなる。
【0048】
吸着パッドの形状は円柱状に限定されず、角柱状等であってもよい。但し、計測端子及び吸着パッドはそれぞれ、計測端子と吸着パッドの第2面の間の接触抵抗が吸着パッドの対象物の吸着状態に応じて変化する形状であることを要する。
吸着パッドの固定は前記実施の形態で採用した固定部材36以外の形状(例えば、円筒状)の固定部材を用いてもよいし、スペーサに連結されていない固定部材を用いてもよい。固定部材を用いず、接着剤等を用いて吸着パッドを固定することもできる。
【0049】
また、吸着パッドに、空気を吸い込む貫通孔とは別に、固定部材を嵌入する貫通孔を形成することもできる。吸着パッドに空気を吸い込む貫通孔で固定部材を嵌入しないものを形成する場合、固定部材を嵌入する底部がある穴を吸着パッドに形成するようにしてもよい(この場合、当該穴が固定部材が先端から嵌入される開口部となる)。吸着パッドに複数の空気を吸い込む貫通孔を形成することもできる。
【符号の説明】
【0050】
10:吸着ユニット、11、12:面、13:吸着パッド、14、15、16、17:入力端子、18、19、20、21、22、23、24、25:計測端子、26:貫通孔、27:カバー体、28、29:樹脂片、30:スペーサ、31、32:基板、33:大リング、34:小リング、35:直線部、36:固定部材、37:直線部、38、40、41:貫通孔、42、43:コネクタ、44:AD変換器、45:印加手段、46:ナット、47:吸引部、48:貫通孔付螺子、49:貫通孔、50:抵抗、51:吸着状態検出手段、52:吸着装置、W:対象物
図1
図2
図3
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図6
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図9