(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074604
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】硫化水素ガスの除害設備
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240524BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240524BHJP
B01D 53/52 20060101ALI20240524BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240524BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/44 101B
B01D53/52 210
B01D53/78 ZAB
B01D53/14 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185880
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝輝
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4K001
【Fターム(参考)】
4D002AA03
4D002AC07
4D002BA02
4D002CA01
4D002DA02
4D002DA12
4D002EA02
4D002EA06
4D002EA07
4D002FA10
4D002GA02
4D002GA03
4D002GB04
4D002GB20
4D020AA04
4D020BA01
4D020BA08
4D020BB03
4D020CB25
4D020CC01
4D020CC21
4D020DA01
4D020DA02
4D020DB04
4D020DB20
4K001AA19
4K001BA02
4K001BA19
4K001DB03
4K001DB23
4K001DB24
4K001GB09
4K001GB11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】計装機器等の異常により圧力調整弁が正常に作動しない場合であっても、設備の破損を防止することができる硫化水素ガスの除害設備を提供する。
【解決手段】硫化水素ガスを除害する設備であって、除害塔、硫化水素ガス導入配管12、窒素ガス導入配管13、無害化されたガス排気用配管14、圧力伝送器15、窒素ガス導入配管13に設けられた加圧弁16及び/又は排気用配管14に設けられた圧力調整弁の開閉度を制御する制御部とを備え、さらにシールポット式の圧力調整装置20、第2の除害塔が接続され、通常稼働時には、圧力計が測定する圧力に基づいて、制御部が窒素ガス導入配管13の加圧弁及び/又は排気用配管14の圧力調整弁の開閉度を制御することで、除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持し、制御部に異常が生じた場合、圧力調整装置20により、除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化反応を生じさせる反応設備から回収した硫化水素ガスを除害する設備であって、
当該設備は、少なくとも、
硫化水素ガスを除害する除害塔と、
前記除害塔に前記硫化水素ガスを導入する硫化水素ガス導入配管と、
前記除害塔に窒素ガスを導入する窒素ガス導入配管と、
前記除害塔により無害化されたガスを排出する排気用配管と、
前記硫化水素ガス導入配管に設けられた圧力伝送器と、
前記圧力伝送器からの信号に基づいて、前記窒素ガス導入配管に設けられた加圧弁及び/又は前記排気用配管に設けられた圧力調整弁の開閉度を制御する制御部と
を備えるとともに、さらに、
前記除害塔にはシールポット式の圧力調整装置が設置され、
前記圧力調整装置には第2の除害塔が接続され、
通常稼働時には、前記圧力伝送器が測定する圧力に基づいて、前記制御部が前記窒素ガス導入配管に設けられた加圧弁及び/又は前記排気用配管に設けられた圧力調整弁の開閉度を制御することで、前記除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持し、
前記制御部による制御に異常が生じた場合には、前記シールポット式の圧力調整装置により、前記除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持することを特徴とする、
硫化水素ガスの除害設備。
【請求項2】
前記硫化水素ガス導入配管には、3台以上の圧力伝送器が設けられていることを特徴とする、
請求項1に記載の硫化水素ガスの除害設備。
【請求項3】
前記制御部は、前記3台以上の前記圧力伝送器の圧力計間の差圧を監視し、いずれかの前記差圧が所定の圧力差以上の場合、警報を出すことを特徴とする、
請求項2に記載の硫化水素ガスの除害設備。
【請求項4】
前記3台以上の圧力伝送器において、少なくとも2つの圧力伝送器による計測値が実際に設定した圧力以上に増加した場合は、前記制御部は、前記圧力調整弁を全開とすることで前記除害塔の内圧の上昇を防止するシーケンスを作動させ、前記計測値が設定した圧力以下に減少した場合は前記窒素ガス導入配管に設けられた前記加圧弁を開にすることで前記除害塔の内圧の減少を防止するシーケンスを作動させることを特徴とする、
請求項3に記載の硫化水素ガスの除害設備。
【請求項5】
前記シールポット式の圧力調整装置は、過度に加圧された場合は前記第2の除害塔に硫化水素ガスを送ることで圧力を逃がし、過度に減圧された場合は大気と接続されることで圧力を保つ構造を有することを特徴とする、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の硫化水素ガスの除害設備。
【請求項6】
前記硫化水素ガスは、ニッケル酸化鉱石を高圧硫酸浸出した後のニッケルを含む硫酸水溶液の中和終液を硫化反応始液とし、該硫化反応始液に硫化水素ガスを添加することで金属硫化物を生成させる工程で発生したガスであることを特徴とする、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の硫化水素ガスの除害設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬におけるプロセスから排出される排ガスに含まれる硫化水素ガスの除害設備に関し、計装機器等の異常により圧力調整弁が正常に作動しない場合であっても、除害塔内の加圧や減圧を解消して、設備の破損を防止することができる硫化水素ガスの除害設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching)法がある。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50質量%程度まで向上させたニッケルコバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
【0003】
高圧酸浸出法は、鉱石のスラリーに硫酸を添加し、220~280℃の温度条件で撹拌処理して、浸出スラリーを形成する浸出工程、浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣を得る固液分離工程、浸出液の酸化を抑制しながら炭酸カルシウムを添加し、3価の鉄を含む中和澱物スラリーとニッケル回収用母液を形成する中和工程、母液に硫化水素ガスを添加することにより亜鉛及び銅を含む混合硫化物を形成し、該混合硫化物を分離する脱亜鉛工程、及び、脱亜鉛終液にさらに硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物と貧液を形成する硫化工程、などを有する。
【0004】
前記脱亜鉛工程、及び、前記硫化工程では、硫化水素ガスを用いるため、発生した排ガスを回収し、除害塔と呼ばせる設備において、排ガス中に含まれる硫化水素(H2S)ガスを苛性ソーダ(NaOH)に吸収させることで排ガスを無害化させる排ガス処理工程が必要となる。
【0005】
前記排ガス処理工程における除害塔では高圧に保持している硫化工程の反応容器からの排ガスを無害化しており、除害塔には高圧のガスが流入する。除害塔に高圧のガスが流入することで除害塔の内部圧力が急激に変動すると、除害塔の除害能力を超えて大気中に有害ガスを放出する可能性や除害塔本体の設備破損に繋がる可能性がある。そこで除害塔内の急激な圧力変動を抑制するために、除害塔内の排ガスを循環させ、その流量を調整することで除害塔内の圧力を保っている。
【0006】
一方で除害塔にはFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)等に代表される樹脂製品が使用されており、耐圧は数kPa程度と低い。耐圧の低い樹脂製品を材質とする除害塔が圧力によって破損した場合、高濃度の硫化水素ガスが大気中に放出され重大な環境事故に繋がる恐れがある。このような背景から、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法における前記排ガス処理工程において、安価で建設でき、かつ環境設備として安全に連続運転を可能とする除害塔の圧力変動による破損防止を目的とした設備が求められている。
【0007】
例えば、特許文献1には、硫化反応を生じさせる反応設備から回収した硫化水素ガスを除害する設備であって、前記反応設備は、第1の反応設備と、第2の反応設備と、からなり、硫化水素ガスを除害する除害塔と、第2の反応設備から回収した硫化水素ガスを除害する予備除害塔と、前記予備除害塔と前記除害塔とを接続して、該予備除害塔での処理後のガスを該除害塔に導入する第1の導入配管と、前記除害塔で無害化したガスを排出する排気配管と、を備え、前記第1の導入配管には、圧力伝送器が設けられ、前記排気配管には、排気弁が設けられており、前記圧力伝送器が測定する前記予備除害塔の出口圧力に基づき、前記排気配管に設けられた前記排気弁の制御によって、前記除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持する硫化水素ガスの除害設備が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の除害設備では、電気的シーケンスが正常に作動したが、例えば計装機器の異常等によって圧力調整弁が正常に作動しなかった場合、除害塔の圧力管理は正常に運用されず結果として除害塔の破損に繋がる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-23912号公報
【特許文献2】特開2001-166833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、計装機器等の異常により圧力調整弁が正常に作動しない場合であっても、除害塔内の加圧や減圧を解消して、設備の破損を防止することができる硫化水素ガスの除害設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、硫化反応を生じさせる反応設備から回収した硫化水素ガスを除害する設備であって、当該設備は、少なくとも、硫化水素ガスを除害する除害塔と、除害塔に硫化水素ガスを導入する硫化水素ガス導入配管と、除害塔に窒素ガスを導入する窒素ガス導入配管と、除害塔により無害化されたガスを排出する排気用配管と、硫化水素ガス導入配管に設けられた圧力伝送器と、圧力伝送器からの信号に基づいて、窒素ガス導入配管に設けられた加圧弁及び/又は排気用配管に設けられた圧力調整弁の開閉度を制御する制御部とを備えるとともに、さらに、除害塔にはシールポット式の圧力調整装置が設置され、圧力調整装置には第2の除害塔が接続され、通常稼働時には、圧力伝送器が測定する圧力に基づいて、制御部が窒素ガス導入配管に設けられた加圧弁及び/又は排気用配管に設けられた圧力調整弁の開閉度を制御することで、除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持し、制御部による制御に異常が生じた場合には、シールポット式の圧力調整装置により、除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様によれば、圧力伝送器及び圧力調整弁による除害塔の内部圧力の制御に故障が生じた場合であっても、シールポット式の圧力調整装置により、除害塔の内部圧力を所定の範囲に維持することができるため、異常時にも除害塔内の加圧や減圧を解消して、設備の破損を防止することができる。
【0013】
このとき、本発明の一態様は、硫化水素ガス導入配管には、3台以上の圧力伝送器が設けられているとしてもよい。
【0014】
圧力伝送器を3台以上設けることにより、圧力伝送器による計測値の信頼性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の一態様では、制御部は、3台以上の前記圧力伝送器の圧力計間の差圧を監視し、いずれかの差圧が所定の圧力差以上の場合、警報を出すとしてもよい。
【0016】
このように設定することで、計器の異常を早期に発見することが可能となる。
【0017】
また、本発明の一態様では、3台以上の圧力伝送器において、少なくとも2つの圧力伝送器による計測値が実際に設定した圧力以上に増加した場合は、制御部は、圧力調整弁を全開とすることで除害塔の内圧の上昇を防止するシーケンスを作動させ、計測値が設定した圧力以下に減少した場合は窒素ガス導入配管に設けられた加圧弁を開にすることで除害塔の内圧の減少を防止するシーケンスを作動させるとしてもよい。
【0018】
このようにすることで、除害塔内の加圧や減圧が生じた際に、除害塔内の圧力が正常となるように制御することができる。
【0019】
また、本発明の一態様では、シールポット式の圧力調整装置は、過度に加圧された場合は第2の除害塔に硫化水素ガスを送ることで圧力を逃がし、過度に減圧された場合は大気と接続されることで圧力を保つ構造を有するとしてもよい。
【0020】
このようにすることで、制御部による圧力調整弁の制御に異常が生じた際であっても、シールポット式の圧力調整装置により、除害塔内の圧力が正常となるように制御することができる。
【0021】
また、本発明の一態様では、硫化水素ガスは、ニッケル酸化鉱石を高圧硫酸浸出した後のニッケルを含む硫酸水溶液の中和終液を硫化反応始液とし、該硫化反応始液に硫化水素ガスを添加することで金属硫化物を生成させる工程で発生したガスであるとしてもよい。
【0022】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬における脱亜鉛工程や硫化工程で発生する硫化水素ガスの除害設備として好適である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、計装機器等の異常により圧力調整弁が正常に作動しない場合であっても、除害塔内の加圧や減圧を解消して、設備の破損を防止することができる。また、圧力を一定にする必要のある除害塔の塔内圧力変動に対して、塔内圧力の異常を早期に発見するシステムを構築し、除害塔の内部圧力を制御する計器に不具合があった場合でも電気的、機械的対策によって、除害塔本体の破損を防止し、硫化水素ガスを含む有害ガスを大気に放出するリスクを軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法のプロセスを示す工程図である。
【
図2】本発明の一実施形態に関する硫化水素ガスの除害設備の構成を説明するための概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備における除害塔加圧時の電気的シーケンスを示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備における除害塔減圧時の電気的シーケンスを示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備において、圧力調整弁が正常に作動しない場合の機械的制御を示す概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備におけるシールポット式の圧力調整装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る硫化水素ガスの除害設備について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.硫化水素ガスの除害設備
【0026】
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
先ず、硫化水素ガスの除害設備のより具体的な説明に先立ち、本発明に係る硫化水素ガスの除害設備が適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について簡単に説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。
【0027】
スラリー調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を用いて、数種類のニッケル酸化鉱石を所定のNi品位、不純物品位となるように混合し、それらを水と混合してスラリー化し、篩にかけて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを使用する。
【0028】
浸出工程S2では、スラリー調製工程S1で得られたニッケル酸化鉱石のスラリーに対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を混合等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば耐熱耐圧容器(オートクレーブ)を用いて、220~280℃の高い温度条件下で3~5MPa程度に加圧することによって鉱石からニッケル、コバルト等を浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
【0029】
浸出工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれていて、そのpHは非常に低い。
【0030】
このことから、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを高めて所定の範囲に調整する。pHの調整方法としては、例えば石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲のpHに調整する。
【0031】
固液分離工程S4では、予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0032】
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。浸出液のpHは、石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することで調整される。
【0033】
脱亜鉛工程S6では、中和工程S5から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。脱亜鉛工程S6では、微加圧された反応槽にて粗硫酸ニッケル溶液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで含まれる亜鉛を硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成する。
【0034】
その後、硫化工程S7では、脱亜鉛工程S6後のニッケル回収用母液である脱亜鉛終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。
【0035】
最終中和工程S8は、上述した固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0036】
<2.硫化水素ガスの除害設備>
これまで、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のフローを一通り説明してきたが、本発明の一実施形態は、主に、上述の脱亜鉛工程S6や硫化工程S7において発生した硫化水素ガスを除害するための設備である。次に、本発明に係る硫化水素ガスの除害設備の構成について説明する。
【0037】
図2は、本発明の一実施形態に関する硫化水素ガスの除害設備の構成を説明するための概略図である。本発明の一態様は、硫化反応を生じさせる反応設備から回収した硫化水素ガスを除害する設備10であって、当該設備10は、少なくとも、硫化水素ガスを除害する除害塔11と、除害塔11に硫化水素ガスを導入する硫化水素ガス導入配管12と、除害塔11に窒素ガスを導入する窒素ガス導入配管13と、除害塔11により無害化されたガスを排出する排気用配管14と、硫化水素ガス導入配管12に設けられた圧力伝送器15と、圧力伝送器15からの信号に基づいて、窒素ガス導入配管13に設けられた加圧弁16及び/又は排気用配管14に設けられた圧力調整弁17の開閉度を制御する制御部18とを備えるとともに、さらに、除害塔11にはシールポット式の圧力調整装置20が設置され、圧力調整装置20には第2の除害塔21が接続され、通常稼働時には、圧力伝送器15が測定する圧力に基づいて、制御部18が窒素ガス導入配管13に設けられた加圧弁16及び/又は排気用配管14に設けられた圧力調整弁17の開閉度を制御することで、除害塔11の内部圧力を所定の範囲に維持し、制御部18による制御に異常が生じた場合には、シールポット式の圧力調整装置20により、除害塔11の内部圧力を所定の範囲に維持することを特徴とする。
【0038】
上述した脱亜鉛工程S6や硫化工程S7における硫化処理では、主に硫化水素ガス(H2S)を硫化剤として用い、硫化反応によって硫化物を生成させるための必要理論当量よりも多い量(過剰量)の硫化水素ガスを、硫化反応始液(ニッケルを含む硫酸酸性溶液(反応始液))に添加する。
【0039】
このため、脱亜鉛工程S6や硫化工程S7における硫化処理では、硫化反応に関与しなかった未反応のガスが反応槽内に残存するようになる。脱亜鉛工程S6や硫化工程S7では、添加した硫化水素ガスのうちの未反応のガスを硫化水素ガス導入配管12を介して除害ファン22等により除害塔11へと送って回収し、除害塔11では一例として回収した硫化水素ガス(H2S)に水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を接触させて水硫化ナトリウム(NaHS)溶液を生成させることで除害化する。なお、得られた水硫化ナトリウム溶液は、硫化剤として再度硫化水素ガスと共に各反応槽の硫酸酸性溶液に添加することができる。このことにより、硫酸酸性溶液中のニッケルを、硫化物としてより一層高い回収率で回収できるとともに硫化水素ガスの利用効率を向上させることができる。
【0040】
除害塔11は、硫化水素ガスを無害化できるものであれば特に限定されないが、例えばスクラバー等、アルカリ水溶液と排ガスの接触が効果的に行われる形式のものが用いられる。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける除害塔11には高圧の硫化水素ガスを含む排ガスが流入するため、除害塔内の圧力が急激に変動する可能性が高く、除害塔11では排ガスを循環させることで塔内圧力を一定に保っている。一例として、このような除害塔11は、排ガス循環流量が24000Nm3/hr、トータル排ガス流量は最大31262Nm3/hrとして設計されている。
【0041】
硫化水素ガス導入配管12は、上述したように、脱亜鉛工程S6及び/又は硫化工程S7で発生した硫化水素ガスを除害塔11に導入する配管である。硫化水素ガス導入配管12には、圧力伝送器15が設けられている。圧力伝送器15は、硫化水素ガス導入配管12の内部圧力を測定し、測定された圧力を電流信号に変換して伝送する機器である。圧力伝送器15で測定された圧力は電流信号として制御部18へと送られる。
【0042】
なお、
図2においては、脱亜鉛工程S6及び/又は硫化工程S7からの硫化水素ガスが1本の硫化水素ガス導入配管12を通って除害塔11へと送られるように表しているが、硫化水素ガスが発生する工程ごとに別の配管(2本以上の硫化水素ガス導入配管)を通って送られるようにしてもよい。この場合、それぞれの配管ごとに圧力伝送器15が設けられるようにしてもよい。
【0043】
また、硫化工程S7での硫化処理は、脱亜鉛工程S6での硫化処理よりも多くの硫化水素ガスを使用して反応を生じさせており、回収される余剰の硫化水素ガスの量も多くなる。したがって、そのような硫化工程S7での処理が行われる硫化反応設備から回収した硫化水素ガスを、まず予備除害塔(図示せず)にて処理し、その後、予備除害塔での処理後のガスを除害塔11に導入するようにしてもよい。このようにすると除害塔11での処理負荷を低減できる、除害処理が不十分となることを防ぐことができる。
【0044】
窒素ガス導入配管13は、除害塔11に対して窒素(N2)ガスを導入する。窒素ガス導入配管13には、加圧弁16が設けられている。加圧弁16は、窒素ガス導入配管13を介した除害塔11への窒素ガスの供給量を制御する弁であり、開状態とすることによって窒素ガスが除害塔11に供給されるようになり、除害塔11の内部圧力を高めることができる。
【0045】
排気用配管14は、除害塔11における除害反応により無害化したガスを排出する配管である。排気用配管14には、その配管を介したガスの排出量を制御する圧力調整弁17が設けられている。排気用配管14は、例えばフィルター装置23等の装置(大気放出前装置)と接続されており、無害化されたガスをフィルター装置23へと排出する。なお、フィルター装置23では、排気用配管14を介して導入されたガスを、大気中にガスを放出する前にフィルター等に通過させ、その後、より安全な形態で大気に放出する。
【0046】
制御部18は、圧力伝送器15から圧力値に関する電流信号を受信し、受信した圧力値に応じて適宜、警報を発したり、加圧弁16及び圧力調整弁17の開閉制御(0~100%開度)を行う。制御部18は、受信した圧力値に応じた処理が予め設定(プログラミング)されていてもよいし、数値(圧力値)を表示するようにして、作業者(管理者)からの操作命令を受け付けるようにしてもよい。
【0047】
本発明の一態様では、硫化水素ガス導入配管12には、3台以上の圧力伝送器15が設けられていることが好ましい。
図2では、硫化水素ガス導入配管12に3台の圧力伝送器15A,15B,15Cが設けられている例を示す。後述するように、圧力伝送器15を3台以上設けることにより、圧力伝送器15による計測値の信頼性を向上させることができる。
【0048】
本発明に係る硫化水素ガスの除害設備10は、さらに、除害塔11にはシールポット式の圧力調整装置20が設置され、圧力調整装置20には第2の除害塔21が接続されている。このようにすることで、計装機器等の異常により圧力調整弁17が正常に作動しない場合であっても、シールポット式の圧力調整装置20から第2の除害塔21へと硫化水素ガスを送ることでき、機械的制御によって除害塔11内の加圧や減圧を解消して、設備の破損を防止することができる。第2の除害塔21は、例えば、環境集煙ガスの除害を行っている除害塔を利用することができ、この場合、第2の除害塔21は、通常時も稼動している。
【0049】
次に、本発明に係る硫化水素ガスの除害設備10における内圧異常発生時の制御の一例について説明する。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬における除害塔では、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)等に代表される樹脂材を使用しており、設計耐圧は正圧側では1.2kPa(短時間のみであれば3.5kPaまで可能)、負圧側では-0.35kPa程度である。除害塔は通常0.5kPa程度で管理しているが、除害塔が上記した耐圧を超えて過度に加圧もしくは減圧された場合、除害塔の破損に繋がり無害化されていない硫化水素ガスを含んだ排ガスが大気に放出され、重大な環境トラブルに繋がる可能性が高い。このため除害塔の内部圧力を調整するため塔内圧力を監視し、圧力によって除害塔出口の圧力調整弁の開度を調整している。このように、除害塔の内部圧力管理が環境保全の観点から重要であることが分かる。本発明では除害塔の内部圧力管理の正確性、信頼性の向上及び、計器等の異常が発生した場合においても除害塔破損による重大な環境トラブルを回避するための下記1-3の対策を採用していることを特徴とする。
【0050】
(対策1)
除害塔の内部圧力によって圧力調整弁17の開度を調整するシーケンスに対して、除害塔の内部圧力を監視する圧力計(圧力伝送器15)を一例として3つ設置し、除害塔の内部圧力を監視すると共に、それぞれの圧力計の差圧、つまり圧力計1と2、2と3、3と1の差圧も同時に監視する。制御部18において、それぞれの圧力計(圧力伝送器15A,15B,15C)が正しい値を示しているか管理し、塔内圧力管理の正確性、信頼性を向上させている。また、いずれかの圧力計に異常がある場合は上記差圧が広がるため、それぞれ正圧、負圧共に設定した差圧以上になった場合には、制御部18は、警報を例えば分散制御システム(DCS:Distributed Control System)に発報するシステムとし、計器の異常を早期に発見出来る形態としている。制御部18においては、塔内圧力による圧力調整弁17の開度調整シーケンスにおいて参照する圧力計は選択出来るようにしており、仮に選択している圧力計が上記差圧によって異常と判明した場合は制御に使用する圧力計の参照先を変更可能とする。
【0051】
(対策2)
硫化水素ガスの除害設備10において実際に異常が発生し、除害塔の内部圧力が過度に加圧、減圧された場合には脱亜鉛工程S6及び硫化工程S7を停止させ、除害塔緊急停止シーケンスが作動する仕組みになっている。この時、除害塔11の圧力計15の異常による誤検知もしくは動作不良の可能性があるため、上記3つ設置した圧力計15A,15B,15Cの内、2つの圧力計において異常を検知した場合において緊急除害塔停止シーケンスが作動する仕組みとする。
【0052】
図3は、本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備における除害塔加圧時の電気的シーケンスを示す概略図であり、
図4は、本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備における除害塔減圧時の電気的シーケンスを示す概略図である。除害塔11加圧時、一具体例として、3つ圧力伝送器15A,15B,15Cの内、2つの圧力計において圧力が設定した値(2.0kPa)まで上昇した場合、制御部18は、除害塔11へのinputを全て停止し、
図3に示すように除害塔出口に設置している圧力調整弁17の開度を全開とし、除害塔内の圧力を下げる。一方で、除害塔11減圧時、一具体例として、3つ圧力伝送器15A,15B,15Cの内、2つの圧力計において圧力が設定した値まで減少した場合、制御部18は、
図4に示すように加圧弁16(窒素挿入弁)を開とし、窒素(N
2)を除害塔11に挿入して除害塔の圧力を保つ。
【0053】
(対策3)
上記対策1、対策2の電気的シーケンスが正常に作動したが、例えば計装機器の異常等によって圧力調整弁17が正常に作動しなかった場合、除害塔11の圧力管理は正常に運用されず結果として除害塔11の破損に繋がる可能性が高い。
図5は、本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備において、圧力調整弁が正常に作動しない場合の機械的制御を示す概略図である。本発明では、このような状況において除害塔11の破損を防止するため
図5に示すように除害塔11にシールポット式の圧力調整装置20を接続し、除害塔11を過度な加圧、減圧から機械的に防護する仕組みとした。シールポットの水封破壊圧力はそれぞれ設計耐圧を考慮して正圧側、負圧側共に設定する。
【0054】
図6は、本発明の一実施形態に係る硫化水素ガスの除害設備におけるシールポット式の圧力調整装置の一例を示す概略図である。シールポット式の圧力調整装置20は、一例として、液体のヘッド(液頭)を利用して圧力を調整するシールポットでガスの流入量が多くなっても液とガスを分離して排出することができる構造となっている。このような、シールポットは、例えば特許文献2に記載されている。
【0055】
図6に示すシールポット式の圧力調整装置20では、大気連通管26の端部からシール水による液面Aまでの高さh1に相当する圧力以下に減圧された場合には、大気連通管26を通って空気が内部に侵入し、減圧を解消する。また、圧力調整管27の端部からシール水による液面Bまでの高さh2に相当する圧力以上に加圧された場合には、内部のガスが第2の除害塔21へと送られ、加圧を解消する。このように、シールポット式の圧力調整装置20では、主に機械的設計により内部の圧力の調整を行うため、上述した電気的シーケンスが正常に稼働しない状況が生じたとしても、外部に有害ガスが放出されることなく、硫化水素ガスの除害設備10の圧力を調整することができる。
【0056】
以上、本発明に係る硫化水素ガスの除害設備によれば、上述した電気的シーケンス及び機械的設備保護によって2重に耐圧性の低い樹脂材を使用した除害塔の破損防止を可能とすることで、計装機器等の異常により圧力調整弁が正常に作動しない場合であっても、除害塔内の加圧や減圧を解消して、設備の破損を防止することができる。
【実施例0057】
以下、本発明について、いくつかの実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(圧力計の異常対応)
排ガス循環流量は24000Nm
3/hr、トータル排ガス流量は最大31262Nm
3/hr、塔内圧を0.5kPaとなるように
図2に示す圧力調整弁にて調整している除害塔において、制御に圧力計1~3(圧力伝送器)の3台を使用している際、圧力計1と圧力計2、圧力計1と圧力計3の差圧が大きくなり、0.2kPa以上となったためDCS(制御部)にて警報が発報した。値を確認すると、圧力計2及び3に対して圧力計1のみ値が増加しており、また圧力計1と2、1と3の差圧が大きくなっていることから圧力計1に異常があると判断し、制御に使用する計器を圧力計1から圧力計2に変更した。圧力計1は本来よりも高めに値が出ていたため、圧力調整弁の弁開度は必要以上に大きかったが、差圧監視によって早期に異常が発見できたため、除害塔の内部圧力が設定以上に低下することを防止できた。
【0059】
(圧力計の異常対応)
排ガス循環流量は24000Nm
3/hr、トータル排ガス流量は最大31262Nm
3/hr、塔内圧を0.5kPaとなるように
図2に示す圧力調整弁にて調整している除害塔において、内圧を監視している3つの圧力計(圧力伝送器)の内、圧力計2において計測する圧力の値が急に上昇し、設定圧力2.0kPa以上を検知した。他の2つの圧力計1,3の圧力は通常の0.5kPa程度を示していたため、3つの圧力計の内2つの圧力計が設定以上の圧力を検知した際のインターロックは作動しなかった。圧力計2の検査を実施したところ、圧力計2に異常が発見された。以上から3つの内2つの圧力計の値が設定以上となった場合にのみインターロックが作動するシーケンスとすることで計器の異常による誤作動を回避することができた。
【0060】
(圧力変動による除害塔破損防止の機械的方法)
排ガス循環流量は24000Nm
3/hr、トータル排ガス流量は最大31262Nm
3/hr、塔内圧を0.5kPaとなるように
図2に示す圧力調整弁にて調整している除害塔において、除害塔の内部圧力が2つ以上の圧力計によって設定圧力である2.0kPa以上を検知したため、インターロックが作動し圧力調整弁を全開する信号が出された。しかし、弁側の異常が同時に発生し弁が100%まで開かず、除害塔の内部圧力が低下することなく上昇し続けた。除害塔の内部圧力が設計耐圧を考慮して設定した正圧側の水封破壊圧力に到達したため、設置していたシールポットが正圧側に水封破壊され除害塔の圧を第2の除害塔に逃がしたため、長時間耐圧設計以上の圧力とはならず、除害塔の破損は免れた。尚、シールポットは環集用の第2の除害塔に接続しているため除害塔内の硫化水素を含むガスは大気に放出することなく処理可能である。
【0061】
なお、上記のように本発明の一実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0062】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、硫化水素ガスの除害設備の構成も本発明の一実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
10 除害設備、11 除害塔、12 硫化水素ガス導入配管、13 窒素ガス導入配管、14 排気用配管、15(15A,15B,15C) 圧力伝送器、16 加圧弁、17 圧力調整弁、18 制御部、20 圧力調整装置、21 第2の除害塔、22 除害ファン、23 フィルター装置、26 大気連通管、27 圧力調整管