(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074635
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】発光構造体、発光素子、表示装置、および発光構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/02 20060101AFI20240524BHJP
H05B 33/20 20060101ALI20240524BHJP
H05B 33/18 20060101ALI20240524BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/56 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/66 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/62 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/73 20060101ALI20240524BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240524BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240524BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20240524BHJP
H10K 50/115 20230101ALI20240524BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240524BHJP
H10K 59/35 20230101ALI20240524BHJP
H10K 71/00 20230101ALI20240524BHJP
【FI】
C09K11/02 Z
H05B33/20 ZNM
H05B33/18
H05B33/10
C09K11/88
C09K11/56
C09K11/66
C09K11/64
C09K11/62
C09K11/70
C09K11/73
C09K11/08 A
C09K11/08 J
G09F9/30 365
H05B33/14 Z
H10K50/115
H10K59/10
H10K59/35
H10K71/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185925
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】北野 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】岩田 昇
(72)【発明者】
【氏名】立間 徹
(72)【発明者】
【氏名】イ スンヒョク
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰彦
【テーマコード(参考)】
3K107
4H001
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA05
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC21
3K107CC45
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3K107GG06
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4H001CA02
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4H001XA49
4H001XA82
5C094AA10
5C094AA31
5C094BA03
5C094BA27
5C094CA19
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5C094FB01
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5C094FB04
5C094GB10
5C094JA01
5C094JA08
5C094JA11
5C094JA20
(57)【要約】
【課題】量子ドット発光素子の外部量子効率または信頼性を改善する。
【解決手段】無機媒質部(MX)は、第1量子ドット(QD1)および第2量子ドット(QD2)の間(領域KA)に位置し、カルコゲン元素および第1元素から構成されているカルコゲナイド(10)と、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のうちの少なくとも1つを含む第2元素(12)と、ハロゲン元素(14)と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1量子ドットおよび第2量子ドットと、
前記第1量子ドットおよび前記第2量子ドットの間に位置する無機媒質部であり、カルコゲン元素および第1元素から構成されたカルコゲナイドと、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のうちの少なくとも1つを含む第2元素と、ハロゲン元素と、を含む無機媒質部と、を含む発光構造体。
【請求項2】
上記カルコゲン元素は、硫黄、セレンおよびテルルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項3】
上記第1元素は、金属元素およびシリコンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項4】
上記無機媒質部は、断面における上記第2元素の密度が、1×1014cm-2以下である部分を有する、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項5】
上記無機媒質部は、断面における上記第2元素の密度が、1×1011cm-2以下である部分を有する、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項6】
上記無機媒質部は、断面における上記ハロゲン元素の密度が、1×1014cm-2以下である部分を有する、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項7】
上記無機媒質部は、断面における上記ハロゲン元素の密度が、1×1011cm-2以下である部分を有する、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項8】
上記無機媒質部は、断面における上記ハロゲン元素の密度が、上記断面における上記第2元素の密度よりも大きい部分を有する、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項9】
上記無機媒質部が炭素をさらに含む、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項10】
当該発光構造体における上記炭素のモル比率が、10%以下である、請求項9に記載の発光構造体。
【請求項11】
上記無機媒質部が酸素をさらに含む、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項12】
前記第2元素は、カリウムを含む、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項13】
前記ハロゲン元素は、塩素を含む、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項14】
前記第2元素の少なくとも一部と、前記ハロゲン元素の少なくとも一部とはそれぞれ、前記第1量子ドットの表面から1〔nm〕以内に位置する、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項15】
前記第1量子ドットは、
カドミウム、亜鉛および鉛から成る群から選択された元素と、硫黄、セレンおよびテルルから成る群から選択された元素と、の組合せ、または、
インジウム、ガリウムおよびアルミニウムから成る群から選択された元素と、リン、窒素およびヒ素から成る群から選択された元素と、の組合せ、または、
銅および銀から成る群から選択された元素と、インジウム、ガリウムおよびアルミニウムから成る群から選択された元素と、硫黄、セレンおよびテルルから成る群から選択された元素と、の組合せを含む、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項16】
前記第1量子ドットは、発光ピークを360〔nm〕~830〔nm〕に有する、請求項1に記載の発光構造体。
【請求項17】
陽極および陰極と、
前記陽極および前記陰極の間に設けられた、請求項1~16の何れか1項に記載の発光構造体を備える発光素子。
【請求項18】
赤色画素、緑色画素および青色画素を備え、
前記赤色画素、前記緑色画素および前記青色画素の少なくとも1つが請求項17に記載の発光素子を含む表示装置。
【請求項19】
複数の量子ドットおよび有機リガンドを含む塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に、前記有機リガンドが溶解可能な溶媒を供給する工程と、
前記塗膜に、カルコゲン元素を含む第1液を供給する工程と、
前記塗膜に、前記カルコゲン元素とカルコゲナイドを構成する第1元素を含む第2液を供給する工程と、を含む発光構造体の製造方法。
【請求項20】
前記第1液は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のうちの少なくとも1つを含む第2元素を含む、請求項19に記載の発光構造体の製造方法。
【請求項21】
前記第2液は、ハロゲン元素を含む、請求項19に記載の発光構造体の製造方法。
【請求項22】
前記第1液を供給する工程と、前記第2液を供給する工程とを交互に行う、請求項19~21の何れか1項に記載の発光構造体の製造方法。
【請求項23】
前記塗膜に供給するときの前記第1液および前記第2液の温度は-126℃~389℃である、請求項19~21の何れか1項に記載の発光構造体の製造方法。
【請求項24】
前記第1液は、前記カルコゲン元素を1×10―7mol/L~20mol/Lの濃度で含む、請求項19~21の何れか1項に記載の発光構造体の製造方法。
【請求項25】
前記第2液は、前記第1元素を1×10―7mol/L~20mol/Lの濃度で含む、請求項19~21の何れか1項に記載の発光構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光構造体、発光素子、表示装置、および発光構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子ドットを含む発光素子であるQLED(Quantum dot Light Emitting Diode:量子ドット発光ダイオード)およびQLEDを備えた表示装置は、低消費電力化、薄型化及び高画質化などを実現できる点から、高い注目を浴びている。このような理由から、QLEDに備えられた量子ドットを含む発光層の形成方法についても活発に研究が行われている。例えば、特許文献1には、正孔輸送層に接する第1面と電子輸送層に接する第2面とが互いに異なる有機リガンド分布を有する量子ドット発光層を備えることにより、QLEDを低電圧化することについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のQLEDの量子ドット発光層におけるリガンドのそれぞれは、有機リガンドである。有機リガンドと量子ドットとの結合は配位結合などの弱い結合であるため、溶媒や他周辺材料との接触、加熱や通電などによって容易に遊離(離脱)する。したがって、リガンドの役割である欠陥保護効果が低下し、QLEDの発光特性(外部量子効率(EQE))または信頼性(素子寿命)が低下する。また、リガンドによる量子ドット表面の物理的遮蔽がなくなることにより、酸素や水分などが量子ドット自体に接触しやすくなり、量子ドット自体の変質などが発生する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る発光構造体は、第1量子ドットおよび第2量子ドットと、前記第1量子ドットおよび前記第2量子ドットの間に位置する無機媒質部であり、カルコゲン元素および第1元素から構成されているカルコゲナイドと、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のうちの少なくとも1つを含む第2元素と、ハロゲン元素と、を含む無機媒質部と、を含む構成である。
【0006】
上記態様において第一元素とは、金属元素およびシリコンのうちの少なくとも1つを含む元素であってよい。
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る発光構造体の製造方法は、複数の量子ドットおよび有機リガンドを含む塗膜を形成する工程と、前記塗膜に、前記有機リガンドが溶解可能な溶媒を供給する工程と、前記塗膜に、カルコゲン元素を含む第1液を供給する工程と、前記塗膜に、前記カルコゲン元素とカルコゲナイドを構成する第1元素を含む第2液を供給する工程と、を含む方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、有機リガンドを含む場合と比較して発光素子の外部量子効率または信頼性を改善する発光構造体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る発光構造体の一例を示す断面図である。
【
図2】新IUPAC方式に基づく長周期型の周期表を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る発光構造体の一例を示す断面図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る発光構造体の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る発光構造体の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る発光構造体の製造方法の一変形例を示すフロー図である。
【
図7】本開示の実施例2および実施例3における、カルコゲナイド10の成長プロセスにおける周期に対するPLQYの関係を示すグラフを示す図である。
【
図8】本開示の実施例4に係る無機媒質部の組成比を示す図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る発光素子の一例を示す断面図である。
【
図10】定電流試験における比較例1に係る発光素子の時間経過に対する発光輝度および駆動電圧を示すグラフを示す図である。
【
図11】定電流試験における比較例2に係る発光素子の時間経過に対する発光輝度および駆動電圧を示すグラフを示す図である。
【
図12】比較例2に係る発光素子の耐用寿命の推定値を示す図である。
【
図13】定電流試験における本開示の実施例5に係る発光素子の時間経過に対する発光輝度および駆動電圧を示すグラフを示す図である。
【
図14】本開示の実施例5に係る発光素子の耐用寿命の推定値を示す図である。
【
図15】本開示の一実施形態に係る表示装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図16】本開示の一実施形態に係る表示装置の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
図1は、本開示の一実施形態に係る発光構造体の一例を示す概略の断面図である。
図1に示すように、発光構造体1は、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2と、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2の間に少なくとも位置する無機媒質部MXとを含む。無機媒質部MXは、カルコゲン元素および第1元素から構成されているカルコゲナイド10と、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のうちの少なくとも1つを含む第2元素12と、ハロゲン元素14と、を含む。
【0011】
「カルコゲナイド」は、16族元素(酸素、硫黄、セレン、テルル)を含む化合物およびその混晶を示す総称である。本開示において、ローマ数字を用いた元素の族番号の表記は、旧IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry、国際純正・応用化学連合)方式または旧CAS(Chemical Abstracts Service)方式に基づく表記であり、アラビア数字を用いた元素の族番号の表記は、新IUPAC方式に基づく表記である。
【0012】
発光構造体1は、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2を含む複数の量子ドットQDを含んでよい。第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2は、発光構造体1における複数の量子ドットQDのうちの任意の隣接する2つの量子ドットであってよい。すなわち、第1、第2として番号で分けているのは単なる説明の便宜上の理由であって、2つの量子ドットについて例えば別の材料を用いているなどの区別を必要とする意図ではなく、1つの発光構造体1に含まれる量子ドットであればよい。無機媒質部MXは、複数の量子ドットQDを保持してよく、基材、母材、充填材、あるいはマトリクス材と呼ばれてもよい。第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2の間は、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2の外周に外接する2直線(共通外接線)と、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2の対向する外周とに囲まれる領域KAである。第1量子ドットQD1が第2量子ドットQD2に近づいていても、領域KAは存在し得る。無機媒質部MXは、領域KAの少なくとも一部に位置すればよく、領域KAの全部を充たしていてもよい。
【0013】
複数の量子ドットQDの間に無機媒質部MXが充填されているとは、このように隣り合う2つの量子ドットQDの間の領域KAが無機媒質部MXで充たされていることを意味し、それが分かれば足る。少なくとも隣り合う2つの量子ドットQDの間の領域KAにおいて、無機媒質部MXによる所望の効果を奏するものなので、必ずしも一定の範囲の全ての(2つ超の)量子ドットQDの間に無機媒質部MXは充填されていることが分かることまで必要としない。
【0014】
発光構造体1の外縁(上面および下面)は無機媒質部MXで覆っていてもよい。また、発光構造体1の外縁から無機媒質部MXの部分があり、量子ドット群が外縁から離れて位置するように構成されていてもよい。発光構造体1の外縁は無機媒質部MXのみで形成されておらず、量子ドット群の一部が無機媒質部MXから露出していてもよい。無機媒質部MXは、発光構造体1において、量子ドット群を除く部分のことを示していてもよい。
【0015】
無機媒質部MXは、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2を内包してもよい。無機媒質部MXは、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2を含む複数の量子ドットQDを内包してもよい。無機媒質部MXは、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2の間に形成された空間KAを部分的にまたは完全に充填するように形成されていてもよい。発光構造体1内に空隙があってもよい。発光構造体1は、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2を含む複数の量子ドットQDを有し、無機媒質部MXは、複数の量子ドットQD以外の領域を部分的または完全に充たしていてもよい。第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2は、無機媒質部MXに、間隔を置いて埋設されてよい。
【0016】
無機媒質部MXは、発光構造体1の層厚方向と直交する面方向に沿う1000nm2以上の面積を有する連続膜を含んでいてもよい。無機媒質部MXは、第2元素12およびハロゲン元素14を含むカルコゲナイド10の連続膜を含んでよい。連続膜とは、1つの平面において、連続膜を構成する材料以外の材料で分断されない膜を意味する。連続膜は、無機媒質部MXを構成する材料の化学結合によって途切れることなく連結した一体の膜状のものであってもよい。
【0017】
無機媒質部MXは、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2を含む量子ドット群のシェルと同じ材料であってもよい。その場合、隣り合うコア同士の平均距離(コア間距離)は3nm以上であるとよく、5nm以上であってもよい。又は、上記隣り合うコア同士の平均距離は平均コア径の0.5倍以上であるとよい。コア間距離は、コアが20個含まれる空間における隣り合う20個のコア間の距離を平均したものである。コア間距離は、シェル同士が接触した場合の距離よりも広く保つとよい。平均コア径は、コアが20個含まれる空間における断面観察において20個のコアのコア径を平均したものである。コア径は断面観察においてコア面積と同じ面積の円の直径とすることができる。
【0018】
無機媒質部MXの構造は、特に断らない限りまたは矛盾しない限り、発光構造体1の断面観察において、100nm程度の幅で観察し、前述の構成であることが分かればよく、発光構造体1全てにおいて前述の構成が観察される必要はない。無機媒質部MXは、主材料(例えば、無機半導体等の無機物)とは異なる物質を、例えば添加剤として含有していてもよい。発光構造体1の部分の観察結果を、発光構造体1の全体に適用してよい。
【0019】
本開示の構成によれば、量子ドットQDは無機媒質部MXによって保護され、量子ドットQDの表面欠陥を無機媒質部MX(特に、第2元素12およびハロゲン元素14)が不活性化する。有機リガンドは、分子量が大きく、また、水分等の異物によって劣化しやいために、酸化分解または電気化学反応の要因である分子構造の不完全性を生じ易い。量子ドットとの結合に寄与する有機リガンド末端における電子密度は、低く、量子ドットと有機リガンド末端との結合が弱い。このため、有機リガンドによっては量子ドットの表面欠陥が十分に不活性化されない場合がある。量子ドットの表面欠陥が生じた場合、熱、通電による電気化学反応、および外部から拡散するO,OH等による酸化の影響によって、量子ドットのフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)が経時的に悪化し、信頼性が低下する。通常、酸素および水を含む大気が外部に存在するため、侵入してきた酸素および水によって、有機リガンドおよび有機リガンドに保護されている量子ドットは劣化が進行しやすい。一方、無機材料は有機材料よりも安定性が高く、無機材料と量子ドットとの結合は強い。また、無機材料の連続膜は、酸素および水を通し難い。したがって、有機リガンドで保護された量子ドットと比較して、本開示に係る量子ドットQDは劣化し難い。また、本開示に係る発光構造体1は、量子ドットのPLQYの経時的な低下量が少なく、信頼性が高く、大気(大気中の水および酸素)に対する耐性が高く、耐用寿命が長い。
【0020】
本開示の構成によれば、発光構造体1に電圧または電流を印加すると、量子ドットQDのそれぞれに、直接的にまたは無機媒質部MXを介してキャリアが注入される。例えば、量子ドットを絶縁体である二酸化ケイ素(SiO2)で覆った(コーティングした)発光構造体と比較して、特に無機媒質部MXが非絶縁性のカルコゲナイド10を含む場合には、絶縁性の材料を含む材料を介した量子ドットQDへのキャリア注入よりも、無機媒質部MXを介した量子ドットQDへのキャリア注入の効率は向上する。
【0021】
本実施形態1に係る第1量子ドットQD1は、励起子を効率良く閉じ込めるために、コア20およびシェル22から成るコアシェル型である。シェル22は、コア20の表面の少なくとも一部に形成されてよく、コア20の全体を覆ってもよい。シェル22と無機媒質部MXとが同一材料からなり、シェル22と無機媒質部MXとが区別できない場合には、シェル22を無機媒質部MXの一部と見做してよい。換言すると、区別できない場合、製造時に第1量子ドットQD1としてコアシェル型の量子ドットを用いたとしても、後述の実施形態2のように、第1量子ドットQD1をコア20のみからなるシェルレス型と見做してよい。本開示において、「同一材料」およびそれに類する用語は、構成元素および組成比が同一である材料を意味する。
【0022】
なお、本開示において、「量子ドット」とは、最大幅が100nm以下のドットを意味する。量子ドットの形状は、上記最大幅を満たす範囲であればよく、特に制約されず、球状の立体形状(円状の断面形状)に限定されるものではない。量子ドットの形状は例えば、多角形状の断面形状、棒状の立体形状、枝状の立体形状、表面に凹凸を有す立体形状でもよく、または、それらの組合せでもよい。
【0023】
量子ドットは、典型的には半導体から成るとよい。半導体とは、一定のバンドギャップを有するとよい。半導体とは、光を発することができる材料であればよく、また、少なくとも下述する材料を含むとよい。半導体は、赤色、緑色及び青色の光をそれぞれ発することができるとよい。半導体は、例えば、II-VI族化合物、III-V族化合物、カルコゲナイド及びペロブスカイト化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。なお、II-VI族化合物とはII族元素とVI族元素を含む化合物を意味し、III-V族化合物はIII族元素とV族元素を含む化合物を意味する。また、II族元素とは2族元素および12族元素を含み、III族元素とは3族元素および13族元素を含み、V族元素は5族元素および15族元素を含み、VI族元素は6族元素および16族元素を含み得る。組成比は、化学両論的組成(ストイキオメトリ)から異なってよい。
【0024】
II-VI族化合物は、例えば、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、及びHgTeからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0025】
III-V族化合物は、例えば、GaAs、GaP、InN、InAs、InP、及びInSbからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0026】
カルコゲナイドは、例えば、CdS又はCdSeを含む。カルコゲナイドが、これらの混晶を含んでもよい。ペロブスカイト化合物は、例えば、一般式CsPbX3で表される組成を有する。構成元素Xは、例えば、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0027】
なお、第1量子ドットQD1および第2量子ドットQD2は、上記量子ドットの規定のいずれかに該当すればよい。
【0028】
表示装置などの市販製品は、環境負荷の低減のためにCdフリーであってもよい。この場合、コア20には、インジウムリン(InP)またはペロブスカイトが用いられる場合がある。また、シェル22は、コア20に励起子を閉じ込めるため、コア20の材料よりもバンドギャップが大きい材料が望ましく、硫化亜鉛(ZnS)がシェル22に一般的に用いられる傾向にある。格子整合の観点から、シェル22が硫化亜鉛を含む場合、無機媒質部MXもカルコゲナイド10として硫化亜鉛を含むことが望ましい。硫化亜鉛はII-VI族化合物であり、II-VI族化合物の合成では、VI族欠損が生じやすく、II族欠損が生じることがある。これら欠損は、非発光再結合を促進し、発光構造体が含む量子ドットのPLQYを低減する。
【0029】
ハロゲン元素14が電子を1個獲得すると、その電子配置が閉殻構造となる。ハロゲン元素14は電気陰性度が高く、電子吸引能が大きい。このため、不対電子が存在するVI族欠損にハロゲン元素14が強く結合する。結合したとき、1個の不対電子が残るが、不対電子の濃度が小さく、不対電子による電荷の影響などは無視可能な程度に小さい。
【0030】
アルカリ金属元素が電子を1個放出すると、その電子配置が閉殻構造となる。アルカリ土類金属元素が電子を2個放出すると、その電子配置が閉殻構造となる。遷移金属元素が電子を1個または2個放出すると、その最外殻が空となる。アルカリ金属元素、アルカリ土類金属および遷移金属はイオン化エネルギーが大きく、電子供与能が大きい。このため、II族欠損に第2元素12が強く結合する。結合したとき、1個の不対電子が残ることがあるが、不対電子の濃度が小さく、不対電子による電荷の影響などは無視可能な程度に小さい。
【0031】
本開示の構成によれば、無機媒質部MXがカルコゲナイド10と、第2元素12と、ハロゲン元素14を含む。このため、VI族欠損をハロゲン元素14で不活性化でき、II族欠損を第2元素12で不活性化できる。II-VI族化合物に限らず、他の化合物についても、電気求引性元素の欠損をハロゲン元素14で不活性化でき、電子供与性元素の欠損を第2元素12で不活性化できる。したがって、無機媒質部が第2元素およびハロゲン元素の少なくとも一方を含まない発光構造体と比較して、本開示に係る発光構造体1は、発光再結合確率が高く、PLQYが高い。
【0032】
以降、説明の簡単化のために、シェル22およびカルコゲナイド10がそれぞれII-VI族化合物を含む場合について説明するが、シェル22およびカルコゲナイド10がそれぞれ他の化合物を含む場合も本開示の範囲に含まれることを理解されたい。
【0033】
従来の有機リガンドは、VI族欠損に優先的に結合し、II族欠損に結合できない。また、有機リガンドは大きな分子であるため、VI族欠損と有機リガンドとの結合が弱い。対して、ハロゲン元素14とVI族欠損との結合、および第2元素12とII族欠損との結合は、元素と元素欠損との相互作用によるため強く、熱、電気化学反応、および酸化の影響にたいして強い耐性を有する。
【0034】
量子ドットQDの表面欠陥を不活性化するために、第2元素12の少なくとも一部と、ハロゲン元素14の少なくとも一部とは、量子ドットQDおよび無機媒質部MXの間の境界およびその近傍に位置することが好ましい。具体的には、第2元素12の少なくとも一部と、ハロゲン元素14の少なくとも一部とは、第1量子ドットQDの表面から1〔nm〕以内に位置することが好ましい。無機媒質部MXの内部欠陥を不活性化するために、境界近傍以外にも、第2元素12およびハロゲン元素14が分布していることが好ましい。
【0035】
図2は、新IUPAC方式に基づく長周期型の周期表を示す図である。
図2中の「*」はランタノイドを示し、「**」はアクチノイドを示す。本開示においては、
図2に示すように、非金属元素、金属元素、アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属元素を分類する。
図2に示すように、遷移金属元素が12族元素を含まないことに留意されたい。
【0036】
カルコゲン元素16は、硫黄、セレンおよびテルルのうちの少なくとも1つを含んでよい。第1元素は、金属元素およびシリコンのうちの少なくとも1つを含んでよい。
【0037】
無機媒質部MXが余剰な第2元素12を大量に含むことは望ましくない。余剰のアルカリ金属は、II-VI族化合物のn型ドーパントとして機能し、真性半導体から成るコア20で励起した電子が、無機媒質部MXへ移動し易いように、無機媒質部MXのバンド構造を変え、その結果、発光構造体1が含む量子ドットのPLQYが低減する。余剰なアルカリ土類金属または遷移金属は、無機媒質部MXのバンドギャップを小さくし、励起した電子および/または正孔が量子ドットQDから無機媒質部MXに移動し易くなり、その結果、発光構造体1が含む量子ドットのPLQYが低減する。したがって、無機媒質部MXにおける第2元素12の密度は、無機媒質部MXにおけるII族欠損の密度に対応する最低限の密度でよい。
【0038】
無機媒質MXにおける欠陥密度は導電率と相関し、量子ドットへ注入されないリーク電流を生じさせ、発光効率を低下させる要因となる。したがって、欠陥密度が低いほど発光構造体1の効率は向上する。発光構造体1の効率向上の観点から、無機媒質部MXは、断面におけるII族欠損の密度が1×1014cm-2以下である部分を有すると好ましい。また、無機媒質部MXにおける欠陥密度は、発光構造体1の信頼性と相関し、発光構造体1を含む発光素子の発光輝度が初期値の50%になるまでの寿命時間は、無機媒質部MXにおける欠陥密度に対して反比例の関係にある。したがって、無機媒質部MXにおける欠陥密度が低いほど発光構造体1の信頼性は向上する。発光構造体1の信頼性の向上の観点から、II族欠損の密度が1×1011cm-2以下である部分を有すると好ましい。このため、無機媒質部MXは、断面における第2元素12の密度が1×1014cm-2以下である部分を有すると好ましく、1×1011cm-2以下である部分を有すると、より好ましい。
【0039】
無機媒質部MXが余剰なハロゲン元素14を大量に含むことは望ましくない。余剰のハロゲン元素14は、発光構造体1中に僅かな水などが残留した場合に当該水と反応して酸を作り、量子ドットQDのエッチングによって、PLQYの低下を招く。例えば、塩素は水と反応して塩酸(HCl)を作る。したがって、無機媒質部MXにおけるハロゲン元素14の密度は、無機媒質部MXにおけるVI族欠損の密度に対応する最低限の密度でよい。
【0040】
II族欠損の密度について上述したのと同様の理由で、発光構造体1の効率向上の観点から、無機媒質部MXは、断面におけるVI族欠損の密度が1×1014cm-2以下である部分を有すると好ましい。また、発光構造体1の信頼性の向上の観点から、VI族欠損の密度が1×1011cm-2以下である部分を有すると、好ましい。このため、無機媒質部MXは、断面におけるハロゲン元素14の密度が1×1014cm-2以下である部分を有すると好ましく、1×1011cm-2以下である部分を有すると、より好ましい。
【0041】
なお、無機媒質部MXの断面における1cm2あたりの元素の密度(cm-2)は、当該断面の1cm2未満の面積における元素の個数を確認して、1cm2あたりの元素の個数に変換することにより算出してもよい。例えば、無機媒質部MXの断面における1cm2あたりの元素の密度(cm-2)は、当該断面の1000nm2における元素の個数から算出してもよい。
【0042】
II-VI族化合物において一般的に、II族欠損の密度よりも、VI族欠損の密度が大きい。このため、無機媒質部MXにおけるハロゲン元素14の密度が、無機媒質部MXにおける第2元素12の密度よりも大きいことが好ましい。換言すれば、無機媒質部MXは、断面におけるハロゲン元素14の密度が、同断面における第2元素12の密度よりも大きい部分を有してもよい。
【0043】
無機媒質部MXは、炭素をさらに含んでよい。例えば、量子ドットQDへのキャリア注入に寄与しない電流を低減することを目的として、無機媒質部MXに絶縁性の有機材料などの絶縁材料IMを添加することがある。一方で、量子ドットQDの表面を無機媒質部MXで被覆するために、量子ドットQDに配位可能な有機リガンドを取り除くことが望ましい。また、絶縁材料IMが、シェルのように量子ドットQDを完全に覆った(あるいは囲った)場合、量子ドットQDへのキャリア注入が困難になる。そのため、絶縁材料IMの量は、絶縁材料IMが量子ドットQDの周りを完全に充たすことがない程度の量が好ましい。発光構造体1における炭素のモル比率は、10%以下が好ましい。
【0044】
無機媒質部MXは、酸素をさらに含んでよい。ここにおける酸素は、第1元素とカルコゲナイド10を構成するカルコゲン元素16とは別であることを理解されたい。例えば、量子ドットQDへのキャリア注入に寄与しない電流を低減することを目的として、無機媒質部MXに二酸化ケイ素(SiO2)などの絶縁材料IMを添加することがある。絶縁材料IMの量は、絶縁材料IMが量子ドットQDの周りを完全に充たすことがない程度の量が好ましい。
【0045】
第2元素12が、II-VI族化合物のII族欠損にどの程度結合し易いかは、第2元素12のイオン半径および内殻遮蔽に依存する。第2元素12のイオン半径が小さい程、第2元素12がII-VI族化合物内を移動し易く、第2元素12がII族欠損に収まるときの立体的な障害が小さいため、第2元素12はII族欠損に結合しやすくなる。また、第2元素12の内核遮蔽が弱いほど、量子ドットQDへの電荷注入を阻害せず望ましい。
【0046】
単位(オングスローム)を省略してイオン半径はそれぞれ、亜鉛イオン(Zn2+)が0.60、リチウムイオン(Li+)が0.59、ナトリウムイオン(Na+)が0.99、およびカリウムイオン(K+)が1.38である。アルカリ金属のイオン半径には大差があり、イオン半径のみから判断すれば、アルカリ金属元素で最上位周期に属するリチウムが、亜鉛欠損に結合し易い。一方で、リチウムは第2周期に属するため、内殻遮蔽が弱く、亜鉛欠損に結合したリチウムの周囲に電荷密度の大きな揺らぎが生じ、量子ドットQDへの電荷注入が阻害される場合がある。また、電荷密度の揺らぎによって、量子ドットQDまたは無機媒質部MXに電子が過剰に蓄積された場合、発光構造体1のPLQYおよび信頼性が低下する。したがって、シェル22またはカルコゲナイド10が亜鉛(Zn)を含み、第2元素がアルカリ金属元素を含む場合、キャリア注入効率および信頼性も考慮に入れると、第2元素12は、亜鉛と同周期に属するカリウム(K)を含むことが望ましい。
【0047】
アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のイオン半径にも、属する周期によって大差がある。シェル22またはカルコゲナイド10が亜鉛(Zn)を含み、第2元素がアルカリ金属土類金属元素を含む場合、第2元素12は、亜鉛と同周期に属するカルシウム(Ca)を含むことが望ましい。シェル22またはカルコゲナイド10が亜鉛(Zn)を含み、第2元素が遷移金属元素を含む場合、第2元素12は、亜鉛と同周期に属する遷移金属元素の何れか1つ以上を含むことが望ましい。
【0048】
ハロゲン元素14が、II-VI族化合物のVI族欠損にどの程度結合し易いかは、ハロゲン元素14のイオン半径および内殻遮蔽に依存する。ハロゲン元素14のイオン半径が小さい程、ハロゲン元素14がII-VI族化合物内を移動し易く、ハロゲン元素14がVI族欠損に収まるときの立体的な障害が小さいため、ハロゲン元素14はVI族欠損に結合しやすくなる。
【0049】
単位(オングスローム)を省略してイオン半径はそれぞれ、硫化物イオン(S2-)が1.84、フッ化物イオン(F-)が1.28、塩化物イオン(Cl-)が1.81、臭化物イオン(Br-)が1.96、およびヨウ化物イオン(I-)が2.20である。ハロゲンのイオン半径には大差ないため、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素がほぼ同様に、硫黄欠損に結合できる。硫黄欠損には、硫黄と同周期に属する塩素および、硫黄よりも1周期だけ上位周期に属するフッ素が結合し易い。フッ素は第2周期に属するため、内殻遮蔽が弱く、硫黄欠損に結合したフッ素の周囲に電荷密度の大きな揺らぎが生じ、量子ドットQDへの電荷注入が阻害される場合がある。また、電荷密度の揺らぎによって、量子ドットQDまたは無機媒質部MXに正孔が過剰に蓄積された場合、発光構造体1のPLQYおよび信頼性が低下する。したがって、シェル22またはカルコゲナイド10が硫黄(S)を含む場合、キャリア注入効率および信頼性も考慮に入れると、ハロゲン元素14は、硫黄と同周期に属する塩素を含むことが望ましい。
【0050】
第1量子ドットQD1のコア20は、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)および鉛(Pb)から成る群から選択された元素と、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)から成る群から選択された元素と、の組合せを含んでよい。または、第1量子ドットQD1のコア20は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)から成る群から選択された元素と、リン(P)、窒素(N)およびヒ素(As)から成る群から選択された元素と、の組合せ、を含んでよい。または、第1量子ドットQD1のコア20は、銅(Cu)および銀(Ag)から成る群から選択された元素と、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)から成る群から選択された元素と、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)から成る群から選択された元素と、の組合せを含んでよい。
【0051】
第1量子ドットQD1は、発光ピークを可視光領域に有してよく、発光ピークを360〔nm〕~830〔nm〕に有することが好ましい。第1量子ドットQD1以外の量子ドットQDも、発光ピークを可視光領域に有してよく、発光ピークを360〔nm〕~830〔nm〕に有することが好ましい。
【0052】
〔実施形態2〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0053】
図3は、本開示の一実施形態に係る発光構造体の一例を示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態2に係る第1量子ドットQD1は、コア20のみからなるシェルレス型である。
【0054】
前述したように、量子ドットQDの表面欠陥を不活性化するために、第2元素12の少なくとも一部と、ハロゲン元素14の少なくとも一部とは、量子ドットQDおよび無機媒質部MXの間の境界およびその近傍に位置することが好ましい。シェル22を無機媒質部MXの一部と見做し、量子ドットQDをコア20のみからなるシェルレス型と見做した場合を考慮すると、シェル22の厚さは通常10〔nm〕以下であるため、第2元素12の少なくとも一部と、ハロゲン元素14の少なくとも一部とは、第1量子ドットQDの表面から10〔nm〕以内に位置することが好ましい。
【0055】
〔実施形態3〕
図4は、本開示の一実施形態に係る発光構造体の製造方法の一例を示すフロー図である。
図5は、本開示の一実施形態に係る発光構造体の製造方法の一例を示す断面図である。
図4および
図5に示すように、本実施形態3に係る製造方法F1において、まず、複数の量子ドットQDおよび量子ドットQDに配位可能な有機リガンドORを含む塗膜PFを形成する(ステップS10)。量子ドットQDは、任意の方法で合成されてよく、従来技術で合成されてよい。量子ドットQD、有機リガンドORおよび溶媒M1を含む分散液を作製し、基板SBの上(あるいは基板SBの上に形成された1つまたは複数の層の上)に当該分散液を塗布することによって、塗膜PFを形成してよい。真空乾燥および/または加熱により溶媒M1を除去することによって、塗膜PFを固化してよい。塗布方法は、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法など任意の方法を用いてよい。
【0056】
続いて、塗膜PFに、有機リガンドORが溶解可能な第1溶媒S1を供給する(ステップS20)。塗膜PFに第1溶媒S1を塗布および除去することによって、塗膜PF中の有機リガンドORの一部が第1溶媒S1に溶解し、一緒に除去される。
【0057】
続いて、塗膜PFに、カルコゲン元素16を含む第1液L1を供給する(ステップS30)。第1液L1を塗膜PFにスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法など任意の方法で塗布してよい。第1液L1は、カルコゲン元素16を、カルコゲン元素16を含む化合物の形で、含んでよい。例えば、第1液L1は、硫黄(S)を、硫化カリウム(K2S)または硫化ナトリウム(Na2S)の形で含んでよい。第1液L1から塗膜PFにカルコゲン元素16が吸着される。
【0058】
第1液L1は、カルコゲン元素16(または、カルコゲン元素16を含む化合物)が溶解可能な溶媒M2を含んでよい。第1液L1におけるカルコゲン元素16の濃度は、量子ドットQD1個当たり、カルコゲン元素16を1個以上供給できる濃度が好ましく、溶解度以下が好ましい。例えば、第1液L1は、カルコゲン元素16を1×10―7mol/L~20mol/Lの濃度で含んでよい。第1液L1の温度は、溶媒M2が液体である温度、すなわち、溶媒M2の融点以上沸点以下であってよい。アルコール類のうち、プロパノールの融点は-126℃であり、テトラデカノールの沸点は389℃である。溶媒M2にアルコール類を用いる場合、塗膜PFに供給するときの第1液L1の温度は、-126℃~389℃でであってよい。
【0059】
第1液L1の塗布後、溶媒M2は真空乾燥および/または加熱により除去されてよい。第1液L1はさらに、第2元素12を含んでよく、含む場合、第2元素12が溶媒M2に溶解可能であり、第1液L1から塗膜PFに第2元素12が吸着される。
【0060】
表1は、硫化カリウムおよび硫化ナトリウム以外のカルコゲン元素16を含む化合物の例を示す。表中の「EtOH」はエタノール(CH3CH2OH)を示す。カルコゲン元素16を含む化合物は、第2元素12を含んでよく、含まなくてもよい。カルコゲン元素16を含む化合物として、1つの化合物を用いてよく、複数の化合物を混合して用いてよい。
【0061】
【表1】
続いて、塗膜PFに、有機リガンドORが溶解可能な第2溶媒S2を供給する(ステップS40)。塗膜PFに第2溶媒S2を塗布および除去することによって、塗膜PF中の有機リガンドORの一部が、第2溶媒S2に溶解し、一緒に除去される。余剰なカルコゲン元素16を除去する目的で、カルコゲン元素16も第2溶媒S2に溶解可能であることが望ましい。ここで、余剰なカルコゲン元素16は、塗膜PFに吸着されず、遊離しているカルコゲン元素16である。第1液L1が第2元素12を含む場合、余剰な第2元素12を除去する目的で、第2元素12も第2溶媒S2に溶解可能であることが望ましい。余剰な第2元素12は、塗膜PFに吸着されず、遊離している第2元素12である。
【0062】
続いて、塗膜PFに、カルコゲン元素とカルコゲナイド10を構成する第1元素18を含む第2液L2を供給する(ステップS50)。第2液L2を塗膜PFにスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法など任意の方法で塗布してよい。第2液L2は、第1元素18を、第1元素18を含む化合物の形で、含んでよい。例えば、第2液L2は、亜鉛(Zn)を、塩化亜鉛(ZnCl2)の形で含んでよい。第2液L2から塗膜PFに第1元素18が吸着される。
【0063】
第2液L2は、第1元素18(または第1元素18を含む化合物)が溶解可能な溶媒M3を含んでよい。第2液L2における第1元素18の濃度は、量子ドットQD1個当たり、第1元素18を1個以上供給できる濃度が好ましく、溶解度以下が好ましい。例えば、第2液L2は、第1元素18を1×10―7mol/L~20mol/Lの濃度で含んでよい。第2液L2の温度は、溶媒M3が液体である温度、すなわち、溶媒M3の融点以上沸点以下であってよい。溶媒M3にアルコール類を用いる場合、塗膜PFに供給するときの第2液L2の温度は、-126℃~389℃でであってよい。
【0064】
第2液L2の塗布後、溶媒M3は真空乾燥および/または加熱により除去されてよい。第2液L2はさらに、ハロゲン元素14を含んでよく、含む場合、ハロゲン元素14が溶媒M3に溶解可能であり、第2液L2から塗膜PFにハロゲン元素14が吸着される。
【0065】
表2は、塩化亜鉛以外の第1元素18を含む化合物の例を示す。表中の「EtOH」はエタノールを示す。第1元素18を含む化合物は、ハロゲン元素14を含んでよく、含まなくてもよい。第1元素18を含む化合物として、1つの化合物を用いてよく、複数の化合物を混合して用いてよい。
【0066】
【表2】
続いて、塗膜PFに、有機リガンドORが溶解可能な第3溶媒S3を供給する(ステップS60)。塗膜PFに第3溶媒S3を塗布および除去することによって、塗膜PF中の有機リガンドORの一部が、第3溶媒S3に溶解し、一緒に除去される。余剰な第1元素18を除去する目的で、第1元素18も第3溶媒S3に溶解可能であることが望ましい。ここで、余剰なカルコゲン元素16は、塗膜PFに吸着されず、遊離している第1元素18である。第2液L2がハロゲン元素14を含む場合、余剰なハロゲン元素14を除去する目的で、ハロゲン元素14も第3溶媒S3に溶解可能であることが望ましい。余剰なハロゲン元素14は、塗膜PFに吸着されず、遊離しているハロゲン元素14である。
【0067】
溶媒M1、M2、M3、第1溶媒S1、第2溶媒S2および第3溶媒S3は、互いに同じであっても、異なってもよい。これらの溶媒として、水などの極性溶媒を用いてよく、エタノールなどの両極性溶媒を用いてもよいが、有機リガンドORに対して溶解度が高い溶媒が望ましい。ステップS30で供給したカルコゲン元素16と、ステップS50で供給した第1元素18とが、互いに反応し、カルコゲナイド10が形成される。カルコゲナイド10の形成を促進するために、塗膜PFの加熱および露光などを適宜行ってもよい。
【0068】
以上のように、カルコゲナイド10の成長と同時に、有機リガンドORの除去を行うことができる。
【0069】
(変形例1)
図6は、本開示の一実施形態に係る発光構造体の製造方法の一変形例を示すフロー図である。
図6に示すように、本変形例2に係る製造方法F2において、ステップS10およびステップS20に続いて、ステップS50、ステップS60、ステップS30、およびステップS40をこの順に行ってよい。
【0070】
(変形例2)
図4および
図6に破線で示すように、ステップS30とステップS50とを交互に繰り返し行ってよい。繰り返すことによって、カルコゲナイド10がさらに形成される。ステップS30の実行回数は、ステップS50の実行回数よりも多くても少なくてもよく、同じであってもよい。
【0071】
(変形例3)
ステップS30と同一工程で、ステップS20、ステップS40およびステップS60の1つ以上を行ってよい。例えば、第1液L1のカルコゲン元素16(またはカルコゲン元素16を含む化合物)の濃度が低い場合、第1液L1と共に塗膜PFから余剰のカルコゲン元素16を除去できる。例えば、有機リガンドORが第1液L1に溶解可能な場合、第1液L1と共に塗膜PF中の有機リガンドORの一部を除去できる。例えば、第1元素18(または第1元素18を含む化合物)が第1液L1に溶解可能な場合、第1液L1と共に塗膜PF中の余剰な第1元素18を除去できる。
【0072】
(変形例4)
ステップS50と同一工程で、ステップS20、ステップS40およびステップS60の1つ以上を行ってよい。例えば、第2液L2の第1元素18(または第1元素18を含む化合物)の濃度が低い場合、第2液L2と共に塗膜PFから余剰の第1元素18を除去できる。例えば、有機リガンドORが第2液L2に溶解可能な場合、第2液L2と共に塗膜PF中の有機リガンドORの一部を除去できる。例えば、カルコゲン元素16(またはカルコゲン元素16を含む化合物)が第2液L2に溶解可能な場合、第2液L2と共に塗膜PF中の余剰なカルコゲン元素16を除去できる。
【0073】
(実施例1)
本開示の実施例1に係る発光構造体1を基板SB上に、ステップS10およびステップS20に続いて、ステップS30、ステップS40、ステップS50およびステップS60を繰り返すことによって、形成した。溶媒M1、M2、M3、第1溶媒S1、第2溶媒S2および第3溶媒S3は、エタノールであった。第1液L1は、硫化カリウムを含み、第2液L2は、塩化亜鉛を含んだ。無機媒質部MXは、硫化亜鉛(ZnS)と、カリウムと、塩素とを含んだ。量子ドットQDは、赤色発光する量子ドットであり、インジウムリン(InP)から成るコアと、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化亜鉛(ZnS)から成るシェルとを有した。
【0074】
ステップS20終了時に、塗膜PFの断面のSTEM-EDX(Scanning transmission electron microscope - energy dispersive X-ray spectrometer)像およびのBF(Bright field)像を撮影した。また、ステップS30~ステップS60の繰り返し終了時に、発光構造体1のSTEM-EDXおよびのBF像を撮影した。
【0075】
BF像では、塗膜PFの量子ドットQDの間が、無機媒質部MXが含む硫化亜鉛によって埋められていることが確認された。EDX像では、セレン(Se)に対応する信号が検出された部分の周囲から、亜鉛および硫黄に対応する信号が検出された。上記EDX像において、セレンに対応する信号は発光構造体1の量子ドットQDに起因する信号であり、亜鉛および硫黄に対応する信号は無機媒質部MXに起因する信号であると考えられる。したがって、発光構造体1では、量子ドットQD間に無機媒質部MXが形成され、量子ドットQDの表面が無機媒質部MXで保護されていることが、上記BF像および上記EDX像から確認された。
【0076】
(実施例2)
本開示の実施例2に係る発光構造体1を基板SB上に、ステップS10およびステップS20に続いて、ステップS50、ステップS60、ステップS30およびステップS40をこの順で繰り返すことによって、形成した。溶媒M1、M2、M3、第1溶媒S1、第2溶媒S2および第3溶媒S3は、エタノールであった。第1液L1は、硫化カリウムを含み、第2液L2は、塩化亜鉛を含んだ。無機媒質部MXは、硫化亜鉛(ZnS)と、カリウムと、塩素とを含んだ。量子ドットQDは、セレン化亜鉛(ZnSe)から成るコアと、硫化亜鉛(ZnS)から成るシェルとを有した。
【0077】
カルコゲナイド10の成長プロセスにおいて、ステップS50を奇数周期とし、ステップS30を偶数周期として、成長プロセスを26周期行った。カルコゲナイド10の成長プロセスを行う前と、周期を行う毎とに塗膜PFまたは発光構造体1が含む量子ドットのPLQYを測定した。
【0078】
(実施例3)
本開示の実施例2に係る発光構造体1を基板SB上に、第1液L1が硫化ナトリウムを含んだ点を除いて、前述の実施例2に係る発光構造体1と同様に形成した。無機媒質部MXは、硫化亜鉛と、ナトリウムと、塩素とを含んだ。カルコゲナイド10の成長プロセスを15周期行い、カルコゲナイド10の成長プロセスを行う前と、周期を行う毎とに形成された塗膜PFまたは発光構造体1が含む量子ドットのPLQYを測定した。
【0079】
図7は、本開示の実施例2および実施例3における、カルコゲナイドの成長プロセスのおける周期に対するPLQYの関係を示すグラフを示す図である。
図7の横軸は、カルコゲナイド10の成長プロセスにおける周期を示し、縦軸は、周期が0回の時のPLQYを100%としたPLQYの相対値を示す。
図7において、実施例2の結果を黒塗りドットで示し、結果を実線で結び、傾向を破線矢印で示す。
図7において、実施例3の結果を白塗りドットで示し、結果を一点鎖線で結び、傾向を二点鎖線矢印で示す。
【0080】
図7に示すように、実施例2において、硫化カリウムを含む第2液L2の塗布によってPLQYが低下した。これは、カリウムの過剰供給によって、無機媒質部MXがn型にドープされ、量子ドットQDへの電子閉じ込め効果が低下したためと、考えられる。一方、塩化亜鉛を含む第1液L1の塗布によって、PLQYが回復した。これは、硫化亜鉛において、硫黄欠損密度が亜鉛欠損密度よりも大きいため、第1液L1から供給された塩素が硫黄欠損を不活性化し、PLQYを回復させたと考えられる。したがって、ハロゲン濃度がアルカリ金属濃度よりも大きくなるように、ハロゲンおよびアルカリ金属の添加を行うことが望ましいと考えられる。
【0081】
また、実施例3において、第1液L1を塗布しても、PLQYが一部回復するのみであり、カルコゲナイド10の成長プロセスにおける周期の繰り返しにより最終的に、量子ドットが非発光となった。これは、ナトリウムが硫化亜鉛に過剰量ドープされたためと考えられる。以上より、無機媒質部MXが硫化亜鉛を含み、無機媒質部MXへの過剰量のドープを防止しない場合、ナトリウムよりもカリウムが第2元素12に好適であると考えられる。
【0082】
(実施例4)
本開示の実施例4に係る無機媒質部MXを基板SB上に、ステップS30、ステップS40、ステップS50およびステップS60を繰り返すことによって、作製した。この作成プロセスは、第2液L2の塗布(ステップS50)で完了した。溶媒M1、M2、M3、第1溶媒S1、第2溶媒S2および第3溶媒S3は、エタノールであった。第1液L1は、硫化カリウムを含み、第2液L2は、塩化亜鉛を含んだ。基板SBは、二酸化ケイ素を含むガラス基板であった。
【0083】
実施例4に係る無機媒質部MXをスパッタして、元素を検出した。最初(スパッタ時間にして、0~1秒)に炭素が比較的多量に検出された。続く特定の深さ(スパッタ時間にして、1~5秒)に亜鉛と硫黄とが多量に検出され、カリウムおよび塩素が少量検出された。より深く(スパッタ時間にして、5~10秒)で、ケイ素と酸素とが多量に検出された。
【0084】
図8は、本開示の実施例4に係る無機媒質部の組成比を示す図である。表面汚染と基板SBとの影響を除くために、スパッタ時間が1~3秒の間の検出結果から、無機媒質部MXの平均的な組成比を算出し、この組成比を
図8に示した。組成比はモル比〔At%〕である。
図8に示すように、無機媒質部MXにおいて、塩素がカリウムよりも多く、ハロゲン元素濃度がアルカリ金属濃度を上回った。炭素の組成比は0.6%と微量であった。また、亜鉛が硫黄よりも少し多く、硫黄と亜鉛との比率は、S/Zn=0.92であった。
【0085】
また、実施例4に係る無機媒質部MXを焼成して、焼成した無機媒質部MXをスパッタして、元素を検出した。焼成した無機媒質部MXの組成比は、焼成しない無機媒質部MXの組成比と同一であった。
【0086】
〔実施形態4〕
図9は、本開示の一実施形態に係る発光素子の一例を示す断面図である。
図9に示すように、本実施形態4に係る発光素子30は、互いに対向する陽極32および陰極34と、陽極32および陰極34に設けられた発光構造体1とを備える。発光素子30は、陽極32および発光構造体1の間に設けられた正孔輸送層36と、34陰極および発光構造体1の間に設けられた電子輸送層38と、をさらに備えてよい。
【0087】
本実施形態4に係る発光構造体1は、前述の実施形態1,2の何れかに係る発光構造体1であっても、前述の実施形態1,2の何れかに係る発光構造体1に変更または改良を行った発光構造体であってもよい。本実施形態4に係る発光構造体1は、前述の実施形態3に係る製造方法によって製造されても、前述の実施形態3に係る製造方法に変更または改良を行った製造方法によって製造されても、別の製造方法によって製造されてもよい。
【0088】
(比較例1)
比較例1に係る発光素子を、次のように形成した。まず、基板上に、陽極、正孔注入層、および正孔輸送層を形成した。正孔輸送層の上に、量子ドットおよび有機リガンドを含む塗膜を形成し、当該塗膜をそのまま比較例1に係る発光構造体とした。そして、発光構造体の上に、電子輸送層および陰極を形成した。
【0089】
比較例1に係る量子ドットは、赤色発光する量子ドットであり、インジウムリン(InP)から成るコアと、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化亜鉛(ZnS)から成るシェルとを有した。後述の比較例2および実施例2に係る量子ドットは、比較例1に係る量子ドットと同一材料かつ同一サイズであった。また、比較例2および実施例2に係る陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、および陰極は、比較例1と同一材料かつ同一厚さであった。
【0090】
(比較例2)
比較例2に係る発光素子を、発光構造体を除いて、前述の比較例1に係る発光素子と同様に形成した。比較例2に係る発光構造体を、次のように形成した。まず、正孔輸送層の上に、量子ドットおよび有機リガンドを含む塗膜を形成した。そして、当該塗膜にエタノールを供給し、当該塗膜に塩化亜鉛を含むエタノール溶液を塗布し、このエタノールの供給およびエタノール溶液の塗布を繰返すことによって、塗膜から有機リガンドORを除去し、量子ドットQDに塩素を配位させた。量子ドットおよび塩素を含む塗膜を、比較例2に係る発光構造体とした。
【0091】
(実施例5)
実施例5に係る発光素子30を、発光構造体1を除いて、前述の比較例1に係る発光素子と同様に形成した。実施例5に係る発光構造体1を、正孔輸送層の上に、前述の実施形態3に係る製造方法によって、ステップS20およびステップS40に続いて、ステップS30、ステップS40、ステップS50およびステップS60を繰り返すことによって、形成した。溶媒M1、M2、M3、第1溶媒S1、第2溶媒S2および第3溶媒S3は、エタノールであった。第1液L1は、硫化カリウムを含み、第2液L2は、塩化亜鉛および塩化マグネシウムを含んだ。無機媒質部MXは、硫化亜鉛マグネシウム(ZnMgS)と、カリウムと、塩素とを含んだ。
【0092】
図10、
図11および
図13はそれぞれ、定電流(25mA/cm
2)試験における比較例1、比較例2および本開示の実施例5に係る発光素子の時間経過に対する発光輝度および駆動電圧を示すグラフを示す図である。各図の横軸は、発光開始時からの時間を示し、左側縦軸は、発光開始時の発光輝度を100%とした相対輝度を示し、右側縦軸は、発光素子の駆動電圧を示す。各図において、輝度と時間との関係を実線で示し、電圧と時間との関係を一点鎖線で示す。
【0093】
比較例1に係る発光素子は、60時間以上70時間未満が経過した時点で急激に輝度が低下したため、試験を終了した。
【0094】
比較例2に係る発光素子は、発光輝度の初期値が390.1〔cd/m
2〕であり、150時間が経過した時点で試験を終了した。試験終了時点においても比較例2に係る発光素子は発光し続けていた。比較例2に係る輝度と時間との関係について、80時間から150時間までの測定値に、適用結果が片対数グラフで直線を描くように、最小二乗法によるフィッティング関数を適用した。適用結果を、
図11に破線で示した。なお、
図11において、60時間以上70時間未満の時点で記録された駆動電圧の急激な降下および復帰は、当該試験の中断および再開によって記録されたものである。このため、上述した駆動電圧の急激な降下および復帰は、比較例2に係る発光素子の実際の物性を表すものではない点に注意されたい。
【0095】
実施例5に係る発光素子30は、発光輝度の初期値は909.5〔cd/m
2〕であり、157時間が経過した時点で試験を終了した。試験終了時点においても実施例5に係る発光素子は発光し続けていた。実施例5に係る輝度と時間との関係について、137時間から157時間までの測定値に、適用結果が片対数グラフで直線を描くように、最小二乗法によるフィッティング関数を適用した。適用結果を、
図13に破線で示した。
【0096】
図12および
図14はそれぞれ、比較例2および実施例5に係る発光素子の耐用寿命の推定値を示す図である。「LT95」は、発光素子の発光輝度が初期値の95%になるまでの寿命時間(Lifetime)の推定値を示し、「LT50」は、発光素子の発光輝度が初期値の50%になるまでの寿命時間の推定値を示す。一般的に、あるナノLEDにおいて、発光輝度の初期値がL
0(P)のときに発光輝度が初期値のx〔%〕になるまでの寿命時間LT(x,P)と、発光輝度の初期値がL
0(Q)のときに発光輝度が初期値のx〔%〕になるまでの寿命時間LT(x,Q)とに関し、L
0(P)、L
0(Q)、およびxに関わらず、下記の関係式が成立することが知られている。下記関係式は、「信頼性算出式」と呼ばれている。
【0097】
LT(x、P)×{L0(P)}n=LT(x、Q)×{L0(Q)}n=定数
nは、ナノLEDに依存する係数であり、比較例1,2に係る発光素子および実施例2に係る発光素子30について、n=1.8であることを、別途確認した。
【0098】
図12および
図14に示すように、前述のフィッティング関数の適用結果および上記関係式から、発光輝度の初期値が390.1〔cd/m
2〕または909.5〔cd/m
2〕であった(すなわち、定電流試験を継続した)場合、発光輝度の初期値が100〔cd/m
2〕であった場合、発光輝度の初期値が1000〔cd/m
2〕であった場合のそれぞれについて、LT95およびLT50を推定した。
【0099】
図10~
図14が示すように、比較例1よりも比較例2および実施例5で、発光素子が輝度を維持する時間が長かった。これは、量子ドットとの結合が強いと期待される無機材料(ハロゲン、硫化亜鉛マグネシウム)による被覆によって、発光構造体が通電による電気化学反応に対する耐性(以降、「通電耐性」)を向上したためと考えられる。さらに、比較例2によりも実施例5で、通電耐性が高かった。これは、硫化亜鉛マグネシウムが量子ドットQDを被覆したことにより、通電時に発光構造体1の表面近傍に形成される欠陥が不活性化され、量子ドットQDのPLQYの低下が低減されたためと考えられる。
【0100】
〔実施形態5〕
図15は、本開示の一実施形態に係る表示装置の構成の一例を示す模式図である。
図15に示すように、表示装置40は、赤色画素PR、緑色画素PGおよび青色画素PBを含む表示部DAと、赤色画素PR、緑色画素PGおよび青色画素PBを駆動する、第1ドライバX1および第2ドライバX2と、第1ドライバX1および第2ドライバX2を制御する表示制御部DCとを備える。赤色画素PR、緑色画素PGおよび青色画素PBはそれぞれ、発光素子30と、発光素子30に接続する画素回路PCとを含む。画素回路PCが、走査信号線GL、データ信号線DLおよび発光制御線ELに接続されてもよい。走査信号線GLおよび発光制御線ELが第1ドライバX1に接続され、データ信号線DLが第2ドライバX2に接続されてもよい。発光素子30は、前述の実施形態4に係る発光素子30であっても、前述の実施形態4に係る発光素子30に変更または改良を行った発光素子であってもよい。
【0101】
図16は、本開示の一実施形態に係る表示装置の構成の一例を示す断面図である。表示装置40は、基板43と、発光素子層45と、封止層46とを含んでよい。基板43は、支持基板41および画素回路層42を含む画素回路基板であってよい。支持基板41にはガラス基板、樹脂基板等を用いることができる。支持基板41が可撓性であってもよい。画素回路層42は、例えばマトリクス配置された複数の画素回路PCを含む。画素回路PCは、階調信号が書き込まれる画素容量と、階調信号に応じて発光素子30の電流値を制御するトランジスタと、走査信号線GLおよびデータ信号線DLに接続するトランジスタと、発光制御線ELに接続するトランジスタとを含んでよい。
【0102】
図16に示すように、発光素子層45は、基板43側から順に、陽極32、陽極32のエッジを覆うエッジカバー膜44、正孔輸送層36、発光構造体1、電子輸送層38、および陰極34を含んでよい。発光素子層45は、赤色光を発する発光構造体1(1R)を含む発光素子30(30R)と、緑色光を発する発光構造体1(1G)を含む発光素子30(30G)と、青色光を発する発光構造体1(1B)を含む発光素子30(30B)とを備えてもよい。陰極34は、光取り出し側に位置してよい。封止層46は、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜等の無機絶縁膜を含み、異物(水、酸素等)が発光素子層45に侵入することを防ぐ。
【0103】
なお、表示装置40は、何れも発光構造体1を含む複数の発光素子30を備えているが、本実施形態においてはこれに限られない。本実施形態においては、表示装置40が備える複数の発光素子のうちの少なくとも一つが、前述した何れかの実施形態に記載された発光構造体1を含む発光素子30であればよい。換言すれば、表示装置40は、発光構造体1を含む発光素子30の他に、従来公知の種々の発光素子を備えていてもよい。
【0104】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る発光構造体(1)は、第1量子ドット(QD1)および第2量子ドット(QD2)と、前記第1量子ドット(QD1)および前記第2量子ドット(QD2)の間に位置する無機媒質部(MX)であり、カルコゲン元素(16)および第1元素(18)から構成されたカルコゲナイド(10)と、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のうちの少なくとも1つを含む第2元素(12)と、ハロゲン元素(14)と、を含む無機媒質部(MX)と、を含む構成である。
【0105】
本開示の態様2に係る発光構造体(1)は、上記カルコゲン元素(16)は、硫黄、セレンおよびテルルのうちの少なくとも1つを含む、態様1に係る構成であってよい。
【0106】
本開示の態様3に係る発光構造体(1)は、上記第1元素(18)は、金属元素およびシリコンのうちの少なくとも1つを含む、態様1または2に係る構成であってよい。
【0107】
本開示の態様4に係る発光構造体(1)は、上記無機媒質部(MX)は、断面における上記第2元素(12)の密度が、1×1014cm-2以下である部分を有する、態様1~3の何れかに係る構成であってよい。
【0108】
本開示の態様5に係る発光構造体(1)は、上記無機媒質部(MX)は、断面における上記第2元素(12)の密度が、1×1011cm-2以下である部分を有する、態様1~4の何れかに係る構成であってよい。
【0109】
本開示の態様6に係る発光構造体(1)は、上記無機媒質部(MX)は、断面における上記ハロゲン元素(14)の密度が、1×1014cm-2以下である部分を有する、態様1~5の何れかに係る構成であってよい。
【0110】
本開示の態様7に係る発光構造体(1)は、上記無機媒質部(MX)は、断面における上記ハロゲン元素(14)の密度が、1×1011cm-2以下である部分を有する、態様1~6の何れかに係る構成であってよい。
【0111】
本開示の態様8に係る発光構造体(1)は、上記無機媒質部(MX)は、断面における上記ハロゲン元素(14)の密度が、上記断面における上記第2元素(12)の密度よりも大きい部分を有する、態様1~7の何れかに係る構成であってよい。
【0112】
本開示の態様9に係る発光構造体(1)は、上記無機媒質部(MX)が炭素をさらに含む、態様1~8の何れかに係る構成であってよい。
【0113】
本開示の態様10に係る発光構造体(1)は、当該発光構造体(1)における上記炭素のモル比率が、10%以下である、態様9に係る構成であってよい。
【0114】
本開示の態様11に係る発光構造体(1)は、上記無機媒質部(MX)が酸素をさらに含む、態様1~10の何れかに係る構成であってよい。
【0115】
本開示の態様12に係る発光構造体(1)は、前記第2元素(12)は、カリウムを含む、態様1~11の何れかに係る構成であってよい。
【0116】
本開示の態様13に係る発光構造体(1)は、前記ハロゲン元素(14)は、塩素を含む、態様1~12の何れかに係る構成であってよい。
【0117】
本開示の態様14に係る発光構造体(1)は、前記第2元素(12)の少なくとも一部と、前記ハロゲン元素(14)の少なくとも一部とはそれぞれ、前記第1量子ドット(QD1)の表面から1〔nm〕以内に位置する、態様1~13の何れかに係る構成であってよい。
【0118】
本開示の態様15に係る発光構造体(1)は、前記第1量子ドット(QD1)は、カドミウム、亜鉛および鉛から成る群から選択された元素と、硫黄、セレンおよびテルルから成る群から選択された元素と、の組合せ、または、インジウム、ガリウムおよびアルミニウムから成る群から選択された元素と、リン、窒素およびヒ素から成る群から選択された元素と、の組合せ、または、銅および銀から成る群から選択された元素と、インジウム、ガリウムおよびアルミニウムから成る群から選択された元素と、硫黄、セレンおよびテルルから成る群から選択された元素と、の組合せを含む、態様1~14の何れかに係る構成であってよい。
【0119】
本開示の態様16に係る発光構造体(1)は、前記第1量子ドット(QD1)は、発光ピークを360〔nm〕~830〔nm〕に有する、態様1~15の何れかに係る構成であってよい。
【0120】
本開示の態様17に係る発光素子(30)は、陽極(32)および陰極(34)と、前記陽極(32)および前記陰極(34)の間に設けられた、態様1~16の何れかに係る発光構造体(1)を備える構成であってよい。
【0121】
本開示の態様18に係る表示装置(40)は、赤色画素(PR)、緑色画素(PG)および青色画素(PB)を備え、前記赤色画素(PR)、前記緑色画素(PG)および前記青色画素(PB)の少なくとも1つが態様17に係る発光素子(30)を含む構成であってよい。
【0122】
本開示の態様19に係る発光構造体(1)の製造方法は、複数の量子ドットおよび有機リガンド(OR)を含む塗膜(PF)を形成する工程と、前記塗膜(PF)に、前記有機リガンド(OR)が溶解可能な溶媒を供給する工程と、前記塗膜(PF)に、カルコゲン元素(16)を含む第1液(L1)を供給する工程と、前記塗膜(PF)に、前記カルコゲン元素(16)とカルコゲナイド(10)を構成する第1元素(18)を含む第2液(L2)を供給する工程と、を含む方法である。
【0123】
本開示の態様20に係る発光構造体(1)の製造方法は、前記第1液(L1)は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および遷移金属元素のうちの少なくとも1つを含む第2元素(12)を含む、態様19に係る方法であってよい。
【0124】
本開示の態様21に係る発光構造体(1)の製造方法は、前記第2液(L2)は、ハロゲン元素(14)を含む、態様19または20に係る方法であってよい。
【0125】
本開示の態様22に係る発光構造体(1)の製造方法は、前記第1液(L1)を供給する工程と、前記第2液(L2)を供給する工程とを交互に行う、態様19~21の何れかに係る方法であってよい。
【0126】
本開示の様態23に係る発光構造体(1)の製造方法は、前記塗膜に供給するときの前記第1液(L1)および前記第2液(L2)の温度は-126℃~389℃である、様態19~22の何れかに係る方法であってよい。
【0127】
本開示の様態24に係る発光構造体(1)の製造方法は、前記第1液(L1)は、前記カルコゲン元素(16)を1×10―7mol/L~20mol/Lの濃度で含む、様態19~23の何れかに係る方法であってよい。
【0128】
本開示の様態25に係る発光構造体(1)の製造方法は、前記第2液(L2)は、前記第1元素(18)を1×10―7mol/L~20mol/Lの濃度で含む、様態19~24の何れかに係る方法であってよい。
【0129】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 発光構造体
10 カルコゲナイド
12 第2元素
14 ハロゲン元素
16 カルコゲン元素
18 第1元素
30 発光素子
32 陽極
34 陰極
36 正孔輸送層
38 電子輸送層
40 表示装置
F1 製造方法
L1 第1液
L2 第2液
MX 無機媒質部
OR 有機リガンド
PF 塗膜
PB 青色画素
PG 緑色画素
PR 赤色画素
QD1 第1量子ドット
QD2 第2量子ドット
S1 第1溶媒(溶媒)
S2 第2溶媒(溶媒)
S3 第3溶媒(溶媒)