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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074703
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】溶媒及び含フッ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07B 61/00 20060101AFI20240524BHJP
   C07C 67/287 20060101ALI20240524BHJP
   C07C 69/708 20060101ALI20240524BHJP
   C07B 39/00 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
C07B61/00 B
C07C67/287
C07C69/708 A
C07B39/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186033
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 誠人
(72)【発明者】
【氏名】川上 貴史
(72)【発明者】
【氏名】青山 元志
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB80
4H006AC30
4H006BB16
4H006BM10
4H006BM71
4H006BR10
4H006KA30
(57)【要約】
【課題】環境負荷が小さく、原料化合物の溶解性に優れ、目的化合物の収率を向上できる、溶媒及び該溶媒を使用した含フッ素化合物の製造方法の提供。
【解決手段】ハロゲン化有機化合物を含有する、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物のフッ素化に用いる溶媒であって、上記ハロゲン化有機化合物が、カルボニル基を少なくとも1つ有する、溶媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化有機化合物を含有し、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物のフッ素化に用いる溶媒であって、
前記ハロゲン化有機化合物が、カルボニル基を少なくとも1つ有する、溶媒。
【請求項2】
前記ハロゲン化有機化合物が、下記式(1)又は式(2)で表される、請求項1に記載の溶媒。
【化1】

【化2】

式(1)中、
及びRは、それぞれ独立して、1価のハロゲン化炭化水素基を表し、
は、それぞれ独立して、単結合又は2価のハロゲン化炭化水素基を表し、
Eは、カルボニル基を表し、
mは、0~9の整数を表し、
式(2)中、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は1価のハロゲン化炭化水素基を表し、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、1価のハロゲン化炭化水素基又は2つのR及びRが結合する炭素原子により構成されるカルボニル基を表し、
nは、1~6の整数を表す。
【請求項3】
前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つmが1又は2である、請求項2に記載の溶媒。
【請求項4】
前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つR及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基が、それぞれ独立して、炭素数1~10のフルオロアルキル基である、請求項2又は3に記載の溶媒。
【請求項5】
前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つR及びRのうち少なくとも1つの1価のハロゲン化炭化水素基が、分岐鎖炭化水素基である、請求項2又は3に記載の溶媒。
【請求項6】
前記分岐鎖炭化水素基が、前記カルボニル基に対してα位又はβ位に分岐を有する、請求項5に記載の溶媒。
【請求項7】
前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つR及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基が、それぞれ独立して、ペルフルオロアルキル基である、請求項2又は3に記載の溶媒。
【請求項8】
溶媒の総質量に対する前記ハロゲン化有機化合物の含有率が、50質量%以上である、請求項1又は2に記載の溶媒。
【請求項9】
前記フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物がエステル化合物である、請求項1又は2に記載の溶媒。
【請求項10】
フッ素ガスを導入した請求項1又は2に記載の溶媒において、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物をフッ素化する工程を含む、含フッ素化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶媒及び含フッ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物には溶剤等として産業上有用な化合物が多く存在し、従来から様々な製造方法が開発されてきた。フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する化合物(以下、「原料化合物」とも記す。)のフッ素化の方法の1つとして、フッ素ガスを用いて液相中でフッ素化反応を行う方法が知られている。
【0003】
液相中のフッ素化において使用される溶媒(「フッ素化溶媒」とも記す。)としては、CClFCClF等のクロロフルオロカーボン(以下、「CFC」とも記す。)等が使用されていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/56694号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CFCは、化学的に極めて安定であることから、気化後の対流圏内での寿命が長く、拡散して成層圏にまで達する。そのため、成層圏に到達したCFCが紫外線により分解され、塩素ラジカルを発生してオゾン層が破壊される問題がある。
本発明者らによれば、特許文献1に記載のフッ素化溶媒の中には、原料化合物の溶解性に改善の余地がある化合物が存在する。
【0006】
かかる事情に鑑み、本開示は、環境負荷が小さく、原料化合物の溶解性に優れ、目的化合物の収率を向上できる、溶媒及び該溶媒を使用した含フッ素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の態様を含む。
<1> ハロゲン化有機化合物を含有し、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物のフッ素化に用いる溶媒であって、
前記ハロゲン化有機化合物が、カルボニル基を少なくとも1つ有する、溶媒。
<2> 前記ハロゲン化有機化合物が、下記式(1)又は式(2)で表される、前記<1>に記載の溶媒。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
式(1)中、
及びRは、それぞれ独立して、1価のハロゲン化炭化水素基を表し、
は、それぞれ独立して、単結合又は2価のハロゲン化炭化水素基を表し、
Eは、カルボニル基を表し、
mは、0~9の整数を表し、
式(2)中、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は1価のハロゲン化炭化水素基を表し、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、1価のハロゲン化炭化水素基又は2つのR及びRが結合する炭素原子により構成されるカルボニル基を表し、
nは、1~6の整数を表す。
<3> 前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つmが1又は2である、前記<2>に記載の溶媒。
<4> 前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つR及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基が、それぞれ独立して、炭素数1~10のフルオロアルキル基である、前記<2>又は<3>に記載の溶媒。
<5> 前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つR及びRのうち少なくとも1つの1価のハロゲン化炭化水素基が、分岐鎖炭化水素基である、前記<2>~<4>のいずれか1つに記載の溶媒。
<6> 前記分岐鎖炭化水素基が、前記カルボニル基に対してα位又はβ位に分岐を有する、前記<5>に記載の溶媒。
<7> 前記ハロゲン化有機化合物が、前記式(1)で表され、且つR及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基が、それぞれ独立して、ペルフルオロアルキル基である、前記<2>~<6>のいずれか1つに記載の溶媒。
<8> 溶媒の総質量に対する前記ハロゲン化有機化合物の含有率が、50質量%以上である、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の溶媒。
<9> 前記フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物がエステル化合物である、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の溶媒。
<10> フッ素ガスを導入した前記<1>~<9>のいずれか1つに記載の溶媒において、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物をフッ素化する工程を含む、含フッ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、環境負荷が小さく、原料化合物の溶解性に優れ、目的化合物の収率を向上できる、溶媒及び該溶媒を使用した含フッ素化合物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示の実施形態を制限するものではない。
【0013】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において、「有機基」とは、炭素原子を必須とする基をいう。
本開示において、「炭化水素基」は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれの基でもよく、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のいずれでもよい。
本開示において、「部分ハロゲン化」とは、化合物のハロゲン化可能な部位のうち一部のみがハロゲン化していることを意味する。
【0014】
[溶媒]
本開示の溶媒(以下、「本溶媒」とも記す。)は、ハロゲン化有機化合物を含有し、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物(原料化合物)のフッ素化に用いる溶媒であって、上記ハロゲン化有機化合物(以下、「特定ハロゲン化有機化合物」とも記す。)が、カルボニル基を少なくとも1つ有する
【0015】
本発明者らは、本溶媒は、環境負荷が小さく、原料化合物の溶解性に優れるとともに、目的化合物の収率を向上できることを見出した。上記効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
本溶媒に含有される特定ハロゲン化有機化合物は、大気中での分解性が比較的高いことから、オゾン層破壊係数(ODP)及び地球温暖化係数(GWP)が低いため、本溶媒は、環境負荷が小さいと推測される。
また、特定ハロゲン化有機化合物は、カルボニル基を少なくとも1つ有しており、これにより、分極率を向上できるため、本溶媒に対する原料化合物の溶解性が向上すると推測される。
また、本溶媒に対する原料化合物の溶解性が向上されることにより、フッ素化反応中における徐熱効率が向上するため、目的化合物の収率が向上すると推測される。
【0016】
本溶媒は、特定ハロゲン化有機化合物を1種又は2種以上含有してもよい。
本溶媒は、特定ハロゲン化有機化合物以外の成分を含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0017】
本溶媒は、全体として、原料化合物の溶解度が高いことが好ましく、25℃において原料化合物を5質量%以上溶解可能であることが好ましく、8質量%以上溶解可能であることがより好ましく、10質量%以上溶解可能であることが更に好ましい。
【0018】
本溶媒の沸点(特定ハロゲン化有機化合物のみ含有する場合は当該化合物の沸点、混合溶媒の場合は各化合物の沸点)は、それぞれ0~300℃が好ましく、25~250℃がより好ましく、30~200℃が更に好ましく、40~180℃が特に好ましく、50~100℃が最も好ましい。沸点が前記下限値以上であると、フッ素化反応において発熱による揮発を抑制することが可能となり反応後の回収が容易となる。また、前記上限値以下であると、フッ素化反応後、除去が容易となる。
なお、本開示において「常圧」とは760mmHgである。また、特に断りのない限り本明細書における「沸点」は、常圧における沸点である。
【0019】
目的化合物の収率に優れる観点から、本溶媒の25℃における粘度は、全体として、0.1~1.5mPa・sが好ましく、0.3~1.3mPa・sがより好ましく、0.5~1.1mPa・sが更に好ましい。本溶媒の粘度はレオメーター(例えば、装置名ディジタル粘度計DVM-E2型、(株)トキメック)により測定できる。
【0020】
(特定ハロゲン化有機化合物)
原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、特定ハロゲン化有機化合物は、フルオロ化合物が好ましく、ペルフルオロ化合物がより好ましい。本開示において、「ペルフルオロ化合物」とは、フルオロ化可能な原子又は結合を有しない化合物を意味し、「フルオロ化合物」は、ペルフルオロ化合物及びフルオロ化可能な原子又は結合を有する化合物を包含する。
【0021】
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、特定ハロゲン化有機化合物は、下記式(1)又は式(2)で表されることが好ましく、下記式(2)で表されることがより好ましい。
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
式(1)中、
及びRは、それぞれ独立して、1価のハロゲン化炭化水素基を表し、
は、それぞれ独立して、単結合又は2価のハロゲン化炭化水素基を表し、
Eは、カルボニル基を表し、
mは、0~9の整数を表し、0~6の整数が好ましく、0~3がより好ましく、0又は1が更に好ましい。
式(2)中、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は1価のハロゲン化炭化水素基を表し、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、1価のハロゲン化炭化水素基又は2つのR及びRが結合する炭素原子により構成されるカルボニル基を表し、
nは、1~6の整数を表し、2~4の整数が好ましい。
【0025】
以下、式(1)における符号を順に説明する。
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、式(1)中、R及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基の炭素数は1~10が好ましく、1~5がより好ましい。式(1)中、R及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基は、フルオロアルキル基又はクロロアルキル基が好ましく、フルオロアルキル基がより好ましく、ペルフルオロアルキル基が更に好ましい。式(1)中、R及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1~10のフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~5のペルフルオロアルキル基が特に好ましい。
本開示において、「ペルフルオロアルキル基」とは、フルオロ化可能な原子又は結合を有しないアルキル基を意味し、「フルオロアルキル基」は、ペルフルオロアルキル基及びフルオロ化可能な原子又は結合を有するアルキル基を包含する。
【0026】
式(1)中、R及びRで表される1価のハロゲン化炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、環状のいずれの炭化水素基であってもよい。
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、式(1)中、R及びRのうち少なくとも1つの1価のハロゲン化炭化水素基が、分岐鎖炭化水素基であることが好ましく、R及びRの1価のハロゲン化炭化水素基が、すべて分岐鎖炭化水素基であることが好ましい。
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、分岐鎖炭化水素基は、式(1)化合物が有するカルボニル基に対してα位又はβ位に分岐を有することが好ましく、α位に分岐を有することがより好ましい。
【0027】
式(1)中、R及びRの具体例としては、以下が挙げられる。
直鎖又は分岐鎖の1価のハロゲン化炭化水素基としては、CF-、CFCF-、CFCFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-、(CFCF-、(CFCFCF-、CFCF(CF)CF-、CFCFCF(CF)CF-、(CFC-、(CFCF(CF)CF-、(CFCFCF-、(CFCF)(CFC-等が挙げられる。
環状の1価のハロゲン化炭化水素基としては、CFCFCF-、CFCFCFCF-、CFCF(CF)CFCF-、CFCFCFCFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-、CF(CF)CFCFCF-、CFCFCFCFCF-等が挙げられる。
【0028】
式(1)で表される特定ハロゲン化有機化合物の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0029】
【化5】

【0030】
【化6】


【0031】
【化7】

【0032】
【化8】
【0033】
【化9】

【0034】
以下、式(2)における符号を順に説明する。
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、フッ素原子又は1価のフルオロアルキル基が好ましい。
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、上記1価のフルオロアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
上記1価のフルオロアルキル基は、直鎖、分岐鎖、環状のいずれの炭化水素基であってもよい。
上記1価のフルオロアルキル基は、ペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
環境負荷を小さく観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、式(2)中、nは、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0035】
式(2)中、R及びRの具体例としては、以下が挙げられる。
F、CF-、CFCF-、CFCFCF-等が挙げられる。
2つのR及びRは、これらの結合する炭素原子と共にカルボニル基(C=O)を構成してもよい。
【0036】
環境負荷を小さくする観点から、特定ハロゲン化有機化合物の融点は、-200~100℃が好ましく、-180~50℃がより好ましく、-150~0℃が更に好ましい。
本開示において、融点は、示差走査熱量計(例えば、DSC204F1(Netsch社製)に準ずる装置)を用い、特定ハロゲン化有機化合物を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、特定ハロゲン化有機化合物の融解ピークの最大値に対応する温度(℃)である。
【0037】
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、特定ハロゲン化有機化合物の分子量は、100~10,000が好ましく、150~5,000がより好ましく、200~1,000が更に好ましい。
分子量に分布がある場合、前記分子量は、重量平均分子量(Mw)を表す。Mwはテト
ラヒドロフラン(THF)を溶離液として用いるゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)
測定により、ポリスチレン換算として測定される。
【0038】
式(2)で表される特定ハロゲン化有機化合物の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0039】
【化10】

【0040】
【化11】
【0041】
特定ハロゲン化有機化合物は、従来公知の方法を利用することにより合成できる。
例えば、Inorg. Chem. 1993, 32, 5079-5083に記載の方法を参照することにより、合成してもよい。
【0042】
環境負荷を小さくする観点、及び原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点から、本溶媒の総質量に対する特定ハロゲン化有機化合物の含有率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0043】
(特定ハロゲン化有機化合物以外の成分)
本溶媒は、特定ハロゲン化有機化合物以外の成分(以下、「副成分」とも記す。)を含有してもよい。
副成分としては、カルボニル基を有しないハロゲン化有機化合物が挙げられ、クロロフルオロカーボン、ペルフルオロエーテル、クロロフルオロポリエーテル、ペルフルオロアルキルアミン、不活性流体等が挙げられる。
【0044】
原料化合物の溶解性、及び目的化合物の収率に優れる観点からは、本溶媒の総質量に対する副成分の含有率は、50質量%以下又は含有しないことが好ましく、30質量%以下又は含有しないことがより好ましく、20質量%以下又は含有しないことが更に好ましく、10質量%以下又は含有しないことが特に好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0045】
(原料化合物)
液相フッ素化の原料化合物として、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物を用いる。原料化合物は、市販で入手可能なものでも合成したものでもよい。
フッ素化可能な原子としては、炭素原子に結合する水素原子、炭素原子に結合する塩素原子、炭素原子に結合する臭素原子、及び炭素原子に結合するヨウ素原子が挙げられる。
フッ素化可能な結合としては、炭素-炭素不飽和二重結合及び炭素-炭素不飽和三重結合が挙げられる。
原料化合物中のフッ素化可能な原子又は結合の個数は1個以上であればよい。溶解性に優れる観点からは、フッ素化可能な原子の個数は1~1,000個が好ましく、1~500個がより好ましい。フッ素化物の純度を高くできる観点からは、フッ素化可能な結合の個数は1~30個が好ましく、1~20個がより好ましい。
【0046】
原料化合物の炭素数は、目的化合物に応じて選択すればよく、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。
【0047】
一態様において、目的化合物の収率を向上する観点から、原料化合物はハロゲン原子を有することが好ましく、フッ素原子及び塩素原子からなる群より選択される少なくとも1つを有することがより好ましく、フッ素原子を有することがさらに好ましい。溶媒への溶解性及び目的化合物の収率を向上させる観点からは、原料化合物中のフッ素含量(すなわち、分子中のフッ素原子の割合)は、30質量%以上が好ましく、30~84質量%がより好ましく、30~76質量%がさらに好ましい。
【0048】
原料化合物としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル化合物、エステル化合物、アミド化合物、チオエーテル化合物、チオエステル化合物等が挙げられる。これらの化合物は部分ハロゲン化されていてもよく、ハロゲン化されていなくてもよい。原料化合物はこれらの化合物の炭素骨格にフッ素化反応により変化しないへテロ原子又はヘテロ原子団を含む化合物であってもよい。以下、便宜上、原料化合物においてエステル結合とエーテル結合を両方有する化合物はエステル化合物に分類するものとする。
【0049】
原料化合物である脂肪族炭化水素の炭素数は、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。脂肪族炭化水素は飽和でも不飽和でもよく、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。脂肪族炭化水素はハロゲン原子以外の置換基を有しても有しなくてもよく、有しないことが好ましい。
【0050】
原料化合物である芳香族炭化水素の炭素数は、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。芳香族炭化水素はハロゲン原子以外の置換基を有しても有しなくてもよい。置換基としては、炭素数1~100の脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
【0051】
原料化合物であるアミド化合物の炭素数は、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。アミド化合物はアミド基を1つ又は複数有する化合物である。アミド化合物はポリアミド化合物であってもよい。
【0052】
原料化合物であるチオエーテル化合物の炭素数は、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。チオエーテル化合物はチオエーテル結合を1つ又は複数有する化合物である。チオエーテル化合物はポリチオエーテル化合物であってもよい。
【0053】
原料化合物であるチオエステル化合物の炭素数は、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。チオエステル化合物はチオエステル結合を1つ又は複数有する化合物である。チオエステル化合物はポリチオエステル化合物であってもよい。
【0054】
原料化合物であるエステル化合物の炭素数は、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。エステル化合物はエステル結合を1つ又は複数有する化合物である。エステル化合物はポリエステル化合物であってもよい。エステル化合物は、モノエステル化合物又はジエステル化合物が好ましい。
【0055】
エステル化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物等が挙げられる。
A1-O-(C=O)-RB1 …(1)
B2-(C=O)-O-RA2-O-(C=O)-RB3 …(2)
【0056】
式(1)及び(2)中、
A1、RB1、RB2、及びRB3はそれぞれ独立に、1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基であり、
A2は、2価飽和炭化水素基、ハロゲノ2価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素)基である。
【0057】
本開示において、「1価飽和炭化水素基」は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、及びシクロアルキル基のいずれであってもよい。「2価飽和炭化水素基」は、直鎖状アルキレン基、分岐鎖状アルキレン基、及びシクロアルキレン基のいずれであってもよい。直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、直鎖状アルキレン基、及び分岐鎖状アルキレン基には、脂環構造が含まれていてもよい。
【0058】
本開示において、「ハロゲノ」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子により、基中に存在する水素原子の1個以上が置換されたことを意味する。基中には、水素原子が存在していてもよく、存在しなくてもよい。
【0059】
本開示において、「ハロゲノ1価飽和炭化水素基」とは、ハロゲン原子により、1価飽和炭化水素基中に存在する水素原子の1個以上が置換された基を意味する。「ハロゲノ2価飽和炭化水素基」とは、ハロゲン原子により、2価飽和炭化水素基中に存在する水素原子の1個以上が置換された基を意味する。
【0060】
本開示において、「ヘテロ原子」とは、炭素原子及び水素原子以外の原子を意味し、例えば、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子が挙げられる。
【0061】
本開示において、「ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基」とは、1価飽和炭化水素基中に、2価のヘテロ原子、又はヘテロ原子を含む2価の基が含まれている基を意味する。「ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素基」とは、2価飽和炭化水素基中に、2価のヘテロ原子、又はヘテロ原子を含む2価の基が含まれている基を意味する。2価のヘテロ原子としては、例えば、-O-及び-S-が挙げられる。また、ヘテロ原子を含む2価の基としては、例えば、-NH-、-C(=O)-、及び-SO-が挙げられる。
【0062】
本開示において、「ハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基」とは、上記ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基中の水素原子の1個以上がハロゲン原子に置換された基を意味する。「ハロゲノ(ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素)基」とは、上記ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素基中の水素原子の1個以上がハロゲン原子に置換された基を意味する。
【0063】
式(1)において、RA1及びRB1の少なくとも一方が水素原子を含むことが好ましい。また、式(2)において、RA2、RB2、及びRB3からなる群より選択される少なくとも一つが水素原子を含むことが好ましい。
【0064】
〔RA1
式(1)中、RA1は、1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基である。
【0065】
A1で表される1価飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0066】
A1で表されるハロゲノ1価飽和炭化水素基としては、ハロゲノアルキル基が好ましい。ハロゲノ1価飽和炭化水素基に含まれるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0067】
A1で表されるヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基は、エーテル性酸素原子(すなわち、-O-)を含む1価飽和炭化水素基が好ましく、エーテル性酸素原子を含むアルキル基がより好ましい。
【0068】
A1で表されるハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基としては、ハロゲノ(ヘテロ原子含有アルキル基)が好ましい。ハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基に含まれるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。ハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基は、エーテル性酸素原子を含むハロゲノ1価飽和炭化水素基が好ましく、エーテル性酸素原子を含むハロゲノアルキル基がより好ましい。
【0069】
A1の炭素数は、溶媒への溶解性に優れる点から、1~200が好ましく、3~100がより好ましい。
【0070】
中でも、溶媒中への溶解性に優れる観点から、RA1は、下記式(A1)で表されることが好ましい。つまり、RA1は、エーテル結合をさらに有することが好ましく、ポリエーテル鎖及びフルオロポリエーテル鎖からなる群より選択される少なくとも一つを含むことがより好ましい。
11O-(R12O)m1-R13- …(A1)
【0071】
式(A1)中、R11は、フッ素原子を有していてもよいアルキル基であり、R12はそれぞれ独立に、炭素数1~6のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基であり、R13は、炭素数1~6のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基であり、m1は0~500の整数である。
【0072】
式(A1)中、R11としては、例えば、アルキル基及びフルオロアルキル基が挙げられる。
【0073】
11の炭素数は、溶媒への溶解性に優れる点から、1~100が好ましく、1~50がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~6が特に好ましい。
【0074】
11で表されるアルキル基は、直鎖状アルキル基であってもよく、分岐鎖状アルキル基であってもよく、環構造を有するアルキル基であってもよい。
【0075】
11で表されるフルオロアルキル基は、直鎖状フルオロアルキル基であってもよく、分岐鎖状フルオロアルキル基であってもよく、環構造を有するフルオロアルキル基であってもよい。
【0076】
中でも、R11は、アルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがより好ましく、炭素数1~6の直鎖状アルキル基であることがさらに好ましい。
【0077】
式(A1)中、-(R12O)m1-は、下記式(A2)で表されることが好ましい。
-[(Rf1O)k1(Rf2O)k2(Rf3O)k3(Rf4O)k4(Rf5O)k5(Rf6O)k6]- …(A2)
ただし、
f1は、炭素数1のフルオロアルキレン基であり、
f2は、炭素数2のフルオロアルキレン基であり、
f3は、炭素数3のフルオロアルキレン基であり、
f4は、炭素数4のフルオロアルキレン基であり、
f5は、炭素数5のフルオロアルキレン基であり、
f6は、炭素数6のフルオロアルキレン基である。
k1、k2、k3、k4、k5、及びk6は、それぞれ独立に0又は1以上の整数を表し、k1+k2+k3+k4+k5+k6は0~500の整数である。
【0078】
溶媒中への溶解性に優れる観点から、k1+k2+k3+k4+k5+k6は、1~500の整数が好ましく、1~300の整数がより好ましく、5~200の整数がさらに好ましく、10~150の整数が特に好ましい。
【0079】
なお、式(A2)における(Rf1O)~(Rf6O)の結合順序は任意である。式(A2)のk1~k6は、それぞれ、(Rf1O)~(Rf6O)の個数を表すものであり、配置を表すものではない。例えば、(Rf5O)k5は、(Rf5O)の数がk5個であることを表し、(Rf5O)k5のブロック配置構造を表すものではない。同様に、(Rf1O)~(Rf6O)の記載順は、それぞれの単位の結合順序を表すものではない。
【0080】
f3~Rf6において、フルオロアルキレン基は、直鎖状フルオロアルキレン基であってもよく、分岐鎖状フルオロアルキレン基であってもよく、環構造を有するフルオロアルキレン基であってもよい。
【0081】
f1の具体例としては、-CF-及び-CHF-が挙げられる。
【0082】
f2の具体例としては、-CFCF-、-CFCHF-、-CHFCF-、-CHFCHF-、-CHCF-、及び-CHCHF-が挙げられる。
【0083】
f3の具体例としては、-CFCFCF-、-CFCHFCF-、-CFCHCF-、-CHFCFCF-、-CHFCHFCF-、-CHFCHFCHF-、-CHFCHCF-、-CHCFCF-、-CHCHFCF-、-CHCHCF-、-CHCFCHF-、-CHCHFCHF-、-CHCHCHF-、-CF(CF)-CF-、-CF(CHF)-CF-、-CF(CHF)-CF-、-CF(CH)-CF-、-CF(CF)-CHF-、-CF(CHF)-CHF-、-CF(CHF)-CHF-、-CF(CH)-CHF-、-CF(CF)-CH-、-CF(CHF)-CH-、-CF(CHF)-CH-、-CF(CH)-CH-、-CH(CF)-CF-、-CH
(CHF)-CF-、-CH(CHF)-CF-、-CH(CH)-CF-、-CH(CF)-CHF-、-CH(CHF)-CHF-、-CH(CHF)-CHF-、-CH(CH)-CHF-、-CH(CF)-CH-、-CH(CHF)-CH-、及び-CH(CHF)-CH-が挙げられる。
【0084】
f4の具体例としては、-CFCFCFCF-、-CFCFCFCHF-、-CFCFCFCH-、-CFCHFCFCF-、-CHFCHFCFCF-、-CHCHFCFCF-、-CFCHCFCF-、-CHFCHCFCF-、-CHCHCFCF-、-CHFCFCHFCF-、-CHCFCHFCF-、-CFCHFCHFCF-、-CHFCHFCHFCF-、-CHCHFCHFCF-、-CFCHCHFCF-、-CHFCHCHFCF-、-CHCHCHFCF-、-CFCHCHCF-、-CHFCHCHCF-、-CHCHCHCF-、-CHFCHCHCHF-、-CHCHCHCHF-、及び-cycloC-が挙げられる。
【0085】
f5の具体例としては、-CFCFCFCFCF-、-CHFCFCFCFCF-、-CHCHFCFCFCF-、-CFCHFCFCFCF-、-CHFCHFCFCFCF-、-CFCHCFCFCF-、-CHFCHCFCFCF-、-CHCHCFCFCF-、-CFCFCHFCFCF-、-CHFCFCHFCFCF-、-CHCFCHFCFCF-、-CHCFCFCFCH-、及び-cycloC-が挙げられる。
【0086】
f6の具体例としては、-CFCFCFCFCFCF-、-CFCFCHFCHFCFCF-、-CHFCFCFCFCFCF-、-CHFCHFCHFCHFCHFCHF-、-CHFCFCFCFCFCH-、-CHCFCFCFCFCH-、及び-cycloC10-が挙げられる。
ここで、-cycloC-は、ペルフルオロシクロブタンジイル基を意味し、その具体例としては、ペルフルオロシクロブタン-1,2-ジイル基が挙げられる。-cycloC-は、ペルフルオロシクロペンタンジイル基を意味し、その具体例としては、ペルフルオロシクロペンタン-1,3-ジイル基が挙げられる。-cycloC10-は、ペルフルオロシクロヘキサンジイル基を意味し、その具体例としては、ペルフルオロシクロヘキサン-1,4-ジイル基が挙げられる。
【0087】
中でも、-(R12O)m1-は、下記式(F1)~(F3)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、式(F2)で表される構造を含むことがより好ましい。
-(Rf1O)k1-(Rf2O)k2- …(F1)
-(Rf2O)k2-(Rf4O)k4- …(F2)
-(Rf3O)k3- …(F3)
ただし、式(F1)~式(F3)の各符号は、上記式(A2)と同様である。
【0088】
式(F1)及び式(F2)において、(Rf1O)と(Rf2O)、(Rf2O)と(Rf4O)の結合順序は各々任意である。例えば(Rf1O)と(Rf2O)が交互に配置されてもよく、(Rf1O)と(Rf2O)が各々ブロックに配置されてもよく、またランダムであってもよい。式(F2)においても同様である。
式(F1)において、k1は1~30が好ましく、1~20がより好ましい。またk2は1~30が好ましく、1~20がより好ましい。
式(F2)において、k2は1~30が好ましく、1~20がより好ましい。またk4は1~30が好ましく、1~20がより好ましい。
式(F3)において、k3は1~30が好ましく、1~20がより好ましい。
【0089】
式(A1)中、R13としては、上記、Rf1~Rf6と同様のものが挙げられる。
【0090】
中でも、R13は、炭素数1~4のフルオロアルキレン基が好ましい。
【0091】
A1の具体例として、例えば、以下の構造が挙げられる。*は、-O-との結合部位を表し、n1は0~60の整数、n2は0~500の整数を表す。n1としては例えば13が挙げられ、n2としては例えば7が挙げられる。
【0092】
【化12】
【0093】
〔RB1
式(1)中、RB1は、1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基である。
【0094】
B1で表される1価飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0095】
B1で表されるハロゲノ1価飽和炭化水素基としては、ハロゲノアルキル基が好ましい。ハロゲノ1価飽和炭化水素基に含まれるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。
【0096】
B1で表されるヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基は、エーテル性酸素原子(すなわち、-O-)を含む1価飽和炭化水素基が好ましく、エーテル性酸素原子を含むアルキル基がより好ましい。つまり、RB1は、エーテル結合をさらに有することが好ましい。
【0097】
B1で表されるハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基としては、ハロゲノ(ヘテロ原子含有アルキル基)が好ましい。ハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基に含まれるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。ハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基は、エーテル性酸素原子を含むハロゲノ1価飽和炭化水素基が好ましく、エーテル性酸素原子を含むハロゲノアルキル基がより好ましい。
【0098】
B1の炭素数は、溶媒への溶解性に優れる点から、1~100が好ましく、2~50がより好ましく、3~20がさらに好ましい。
【0099】
B1は、溶媒への溶解性に優れる点から、少なくとも1つのフッ素原子を含むことが好ましく、水素原子を含まないことが好ましい。
【0100】
中でも、溶媒への溶解性に優れる観点から、RB1は、下記式(B1)で表されることが好ましい。
21O-(R22O)m2-R23- …(B1)
【0101】
式(B1)中、R21は、フッ素原子を有していてもよいアルキル基であり、R22はそれぞれ独立に、炭素数1~6のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基であり、R23は、炭素数1~6のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基であり、m2は0~20の整数である。
【0102】
式(B1)中、R21としては、例えば、アルキル基及びフルオロアルキル基が挙げられる。
【0103】
21の炭素数は、溶媒への溶解性に優れる点から、1~50が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましい。
【0104】
21で表されるアルキル基は、直鎖状アルキル基であってもよく、分岐鎖状アルキル基であってもよく、環構造を有するアルキル基であってもよい。
21で表されるフルオロアルキル基は、直鎖状フルオロアルキル基であってもよく、分岐鎖状フルオロアルキル基であってもよく、環構造を有するフルオロアルキル基であってもよい。
【0105】
中でも、R21は、フルオロアルキル基が好ましく、直鎖状フルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~6の直鎖状フルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~6の直鎖状ペルフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0106】
式(B1)中、-(R22O)m2-は、上記式(A2)で表されることが好ましい。
【0107】
式(B1)中、m2は0~15が好ましく、0~10がより好ましく、0~4がさらに好ましく、0~2が特に好ましい。
【0108】
式(B1)中、R23としては、上記、Rf1~Rf6と同様のものが挙げられる。
【0109】
中でも、R23は、炭素数1~3のフルオロアルキレン基が好ましく、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基がより好ましい。
【0110】
B1の具体例として、例えば、以下の構造が挙げられる。*は、-O-(C=O)-との結合部位を表す。
【0111】
【化13】
【0112】
〔RA2
式(2)中、RA2は、2価飽和炭化水素基、ハロゲノ2価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素)基である。
【0113】
A2で表される2価飽和炭化水素基、ハロゲノ2価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有2価飽和炭化水素)基としては、式(1)中のRA1で表される1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基から水素原子又はハロゲン原子を1つ除いた基が挙げられる。
【0114】
A2の炭素数は、溶媒への溶解性に優れる点から、1~200が好ましく、3~100がより好ましい。
【0115】
中でも、溶媒への溶解性に優れる観点から、RA2は、下記式(A5)で表されることが好ましい。つまり、RA2は、エーテル結合をさらに有することが好ましく、ポリエーテル鎖及びフルオロポリエーテル鎖からなる群より選択される少なくとも一つを含むことがより好ましい。
-R31O-(R32O)m5-R33- …(A5)
【0116】
式(A5)中、R31及びR33は、それぞれ独立に、炭素数1~6のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基であり、R32はそれぞれ独立に、炭素数1~6のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基であり、m5は0~500の整数である。
【0117】
式(A5)中、R31及びR33としては、それぞれ独立に、式(A1)中のR13と同様のものが挙げられる。
式(A5)中、-(R32O)m5-としては、式(A1)中の-(R12O)m1-と同様のものが挙げられる。
【0118】
A2の具体例として、例えば、以下の構造が挙げられる。*は、-O-との結合部位を表し、n2は0~500の整数を表す。
【0119】
【化14】
【0120】
〔RB2及びRB3
式(2)中、RB2及びRB3は、それぞれ独立に、1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基である。
【0121】
B2又はRB3で表される1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基としては、式(1)中のRB1で表される1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基と同様の基が挙げられる。
【0122】
エステル化合物の例としては、下記化合物T1等も挙げられる。
【0123】
【化15】
【0124】
原料化合物であるエーテル化合物の炭素数は、4以上が好ましく、一態様において、4~1,000がより好ましく、4~500がさらに好ましく、4~100が特に好ましく、4~50が極めて好ましく、4~20がよりさらに好ましい。エーテル化合物はエーテル結合を1つ又は複数有する化合物である。エーテル化合物はポリエーテル化合物であってもよい。
【0125】
一態様において、エーテル化合物は下記構造を有する。
-O-R
【0126】
式中、
及びRはそれぞれ独立に、1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基である。ただし、R及びRの少なくとも一方はフッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する。
【0127】
1価飽和炭化水素基、ハロゲノ1価飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基、又はハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基の詳細は、それぞれ原料化合物であるエステル化合物である式(1)で表される化合物の項で説明されたそれぞれの詳細と同様である。
【0128】
及びRで表される1価飽和炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0129】
及びRで表されるハロゲノ1価飽和炭化水素基としては、それぞれ独立に、ハロゲノアルキル基が好ましい。ハロゲノ1価飽和炭化水素基に含まれるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0130】
及びRで表されるヘテロ原子含有1価飽和炭化水素基としては、それぞれ独立に、エーテル性酸素原子(すなわち、-O-)を含む1価飽和炭化水素基が好ましく、エーテル性酸素原子を含むアルキル基がより好ましい。
【0131】
及びRで表されるハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基としては、それぞれ独立に、ハロゲノ(ヘテロ原子含有アルキル)基が好ましい。ハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基に含まれるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。ハロゲノ(ヘテロ原子含有1価飽和炭化水素)基は、エーテル性酸素原子を含むハロゲノ1価飽和炭化水素基が好ましく、エーテル性酸素原子を含むハロゲノアルキル基がより好ましい。
【0132】
及びRの炭素数は、溶媒への溶解性に優れる観点から、それぞれ独立に、1~1,000が好ましく、1~500がより好ましく、1~300がさらに好ましい。
【0133】
液体中に含有される原料化合物の含有率は、粘度の観点から、液体全体に対し、10~100質量%が好ましく、15~70質量%がより好ましく、20~50質量%が更に好ましい。
【0134】
原料化合物の具体例としては、例えば、国際公開第2000/056694号、及び国際公開第2002/004397号に挙げられる下記化合物も挙げられる。式中、Cyはシクロヘキシル基、Phはフェニル基を表し、d、e、f、k、rは1以上の整数を表す。
【0135】
CFCFCOOCHCHCH
CFCFCOOCHCH(OCHCHCH)CH
CFCFCOOCHCH(OCHCHCHClCHCl)CH
CFCFCOO(CHOCHClCHCl
CFCFCOO(CHOCHClCHCl、
CF(CFCFCFO)CFCOO(CHOCHClCHCl、
CF(CFCFCFO)CFCOO(CHOCHClCHCl、
CF(CFClCFClCFCFO)CFCOOCHCH(OCHCHCHClCHCl)CH
CFClCFClOCFCFCFCOO(CHOCHClCHCl、
CClFCOOCHCHCl、
CBrFCOOCHCHBr、
CFBrCFOCF(CF)COOCHCH(OCHCHBr)CH
CFClCFClCFCF(CF)OCF(CF)COOCHCH[OCH(CH)CHClCHCl]CH
CHClCHClCHCOOCHCFCFClCFCl、
CF(CHCHCHO)CFCOOCHCF(OCFCFCF)CF
CF(CHCHCHO)CFCOOCHCF(OCHCHCH)CF
【0136】
CF(CFCFCFO)CFCOOCHCH(OCHCHCH)CH
CF(CFCFCFO)CFCOOCHCH(OCHCHCHClCHCl)CH
CF(CFCFCFO)CFCOOCHCH(OCHCy)CH
CF(CFCFCFO)CFCOOCHCH(OCHPh)CH
CF(CFCFCFO)CFCOOCHCH(O(CHCH)CH
CF(CFCFCFO)CFCOO(CHOCHPh、
CF(CFCFCFO)CFCOO(CHOCHCH=CH
CFCFCOOCHCHCHClCHCl、
CFClCFClCFCOOCHCHCHClCHCl、
CFClCFCFClCOOCHCHCHClCHCl、
【0137】
【化16】
【0138】
CFCFCOO(CHOCOCFCF
CFCFCOO[CHCH(CH)O](CHOCOCFCF
CFCFCOO(CHCHO)(CHOCOCFCF
CFCFCOO(CHO(CHOCOCFCF
CFCFCFOCF(CF)COOCHCH(CH)O(CHOCOCF(CF)OCFCFCF
CFCFCOO(CHO(CHOCH(CH)CHOCOCFCF
【0139】
CFO(CFCFHOCFCFCFCHO)CFCFHOCFCFCFCHOCOCF(CF)OCFCFCF
CHClCHClCHOCFCHFCl、
CFCFCFOCF(CF)COOCHCHCHCHOCOCF(CF)OCFCFCF
CHCHOCHCHOCHCHOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF
(CFCFCOOCHCHCHCHCHOCOCF(CF
CHCHCHCHOCOCF(CF)OCFCFCF
【0140】
原料化合物としては、Journal of Fluorine Chemistry Volume 174, June 2015, Pages 120-131、Marie Pierre Krafft,Jean G. Riess,Perfluorocubane‐a tiny electron guzzler, Science, 377, 6607, (709-709), (2022).等にフッ素化反応の基質として記載される化合物も挙げられる。
【0141】
目的化合物の収率を向上させる観点から、原料化合物の沸点は、0℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。沸点の上限は、特に限定されるものではないが、300℃以下とすることができる。本開示において、「沸点」は、常圧(760mmHg)における沸点である。
【0142】
原料化合物の分子量は特に制限されず、目的化合物の種類に応じて選択できる。原料化合物の分子量は100~20,000が好ましく、150~10,000がより好ましく、200~5,000が更に好ましい。分子量が前記下限値以上であると、液相フッ素化において気相中での分解反応が抑制されやすい。分子量が前記上限値以下であると、目的化合物の精製が行いやすい。
分子量に分布がある場合、前記分子量は、数平均分子量(Mn)を表す。
上記原料化合物のMnは、H-NMR及び19F-NMRによって特定された分子構造から算出される値である。
【0143】
(目的化合物)
目的化合物である含フッ素化合物は、原料化合物のフッ素化可能な原子又は結合のすべてがフッ素化された化合物である。液相フッ素化では、原料化合物の炭素骨格に対応する構造を有する含フッ素化合物が生成する。ただし、原料化合物中に炭素-炭素不飽和結合がある場合には、当該不飽和結合の1個以上にフッ素原子が付加して結合状態が変化していてもよい。
【0144】
目的化合物としては、原料化合物の項で例示した化合物のフッ素化物が挙げられる。したがって、目的化合物としては、フッ素化した、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル化合物、エステル化合物、チオエーテル化合物、スルホンアミド化合物、ウレア化合物、チオウレア化合物、ウレタン化合物、カーボネート化合物、アミン化合物、アミド化合物等が挙げられる。目的化合物はこれらの化合物の炭素骨格にフッ素化反応により変化しないヘテロ原子又はヘテロ原子団を含む化合物であってもよい。
なかでも有用な目的化合物の具体例としては、ペルフルオロアルカン、ペルフルオロエーテル化合物、ペルフルオロポリエーテル化合物、クロロフルオロカーボン、クロロフルオロエーテル化合物(CFE-419等)、クロロフルオロポリエーテル化合物、ペルフルオロスルホン酸フルオリド等が挙げられる。
【0145】
「目的化合物」は、必ずしも最終的な目的物であることを意味するものではない。目的化合物である含フッ素化合物は、そのまま、又は他の化合物に化学変換されることにより有用に用いうる。
【0146】
[含フッ素化合物の製造方法]
本開示の含フッ素化合物の製造方法(以下、「本製造方法」とも記す。)は、フッ素ガスを導入した上記した本溶媒において、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物(原料化合物)をフッ素化する工程(以下、「フッ素化工程」とも記す。)を含む。
本溶媒、原料化合物については、上記したためここでは記載を省略する。また、本製造方法により得られる含フッ素化合物(目的化合物)についても上記したためここでは記載を省略する。
【0147】
フッ素化工程は、バッチ方式により行っても、連続方式により行ってもよく、連続方式が好ましい。フッ素化方法としては、以下に説明するフッ素化法1及び2が挙げられる。
【0148】
フッ素化法1:反応器に、原料化合物と本溶媒とを仕込み、攪拌を開始する。所定の反応温度と反応圧力下で、フッ素ガスを、連続的に供給しながら反応させる。
フッ素化法2:反応器に本溶媒を仕込み、攪拌を開始する。所定の反応温度と反応圧力下で、原料化合物とフッ素ガスとを所定のモル比で連続的かつ同時期に供給する。
【0149】
フッ素化法2において原料化合物を供給する際には、原料化合物を本溶媒で希釈せずに、そのまま供給してもよい。原料化合物を本溶媒で希釈する場合には、原料化合物に対する溶媒の量を1質量倍以上とすることが好ましく、2質量倍以上とすることがより好ましい。
【0150】
フッ素ガスは、窒素ガス等の不活性ガスで希釈した混合ガスを使用してもよい。混合ガス中のフッ素ガスの濃度は、転化率が優れる観点からは、10体積%以上が好ましく、15体積%以上がより好ましく、20体積%以上が更に好ましい。原料化合物の分解を抑制する観点からは、前記濃度は60体積%以下が好ましく、50体積%以下がより好ましく、40体積%以下が更に好ましい。
【0151】
液相フッ素化に用いるフッ素の量は、転化率が優れる観点からは、原料化合物中の水素原子に対して、フッ素の量が過剰当量となる量であることが好ましく、1.5倍当量(すなわち1.5倍モル)以上となる量であることがより好ましい。フッ素の量は、液相フッ素化の最初から最後まで過剰当量が保たれるようにすることが好ましい。
【0152】
液相フッ素化の反応温度は、-60℃以上かつ原料化合物の沸点以下が好ましく、反応収率、選択率、及び工業的実施のしやすさの観点からは、-50℃~+100℃がより好ましく、-20℃~+50℃が更に好ましい。
液相フッ素化の反応圧力は特に限定されず、反応収率、選択率、工業的な実施のしやすさの観点からは、0~2MPaが好ましい。
【0153】
液相フッ素化における反応時間(すなわち、原料化合物の反応場通過時間)は、200時間以下が好ましく、190時間以下がより好ましく、170時間以下がさらに好ましく、150時間以下が特に好ましく、100時間以下が極めて好ましい。前記反応時間は、0.3時間以上が好ましく、0.6時間以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。
【0154】
本溶媒の使用量は、原料化合物に対して、1質量倍以上が好ましく、5質量倍以上がより好ましく、10質量倍以上が更に好ましい。本溶媒の量は、原料化合物に対して100質量倍以下でもよく、70質量倍以下でもよく、50質量倍以下でもよい。
【0155】
液相フッ素化を効率的に進行させるために、C-H結合を有する化合物、又は炭素-炭素二重結合を有する化合物を助剤として添加してもよい。
助剤であるC-H結合を有する化合物としては、芳香族炭化水素が好ましく、ベンゼン、トルエン等がより好ましい。C-H結合を有する化合物の添加量は、原料化合物の水素原子に対して0.1~10モル%が好ましく、0.1~5モル%がより好ましい。
助剤である炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、CFCF=CF、CF=CF-CF=CFが挙げられる。
炭素-炭素二重結合を有する化合物の添加量は、原料化合物中の水素原子に対して0.1~100モル%が好ましく、0.1~50モル%がより好ましい。
【0156】
例えば、バッチ方式反応においては、液相フッ素化後期に助剤を反応系中に添加してもよい。助剤は、反応系中にフッ素が存在する状態で添加することが好ましい。助剤を加えた場合には、反応系を加圧することが好ましい。加圧時の圧力としては、0.01~5MPaが好ましい。
【0157】
原料エステル化の液相フッ素化において、水素原子をフッ素原子に置換する反応がおきた場合には、HFが副生する。HFを捕捉するために、反応系中にHFの捕捉剤を共存させるか、反応器ガス出口でHF捕捉剤と出口ガスとを接触させることが好ましい。HF捕捉剤としては、例えばNaFが好ましい。
【0158】
液相フッ素化で得た含フッ素化合物を含む粗生成物は、そのまま次の工程に用いてもよく、精製して高純度のものにしてもよい。精製方法としては、粗生成物をそのまま常圧又は減圧下に蒸留する方法等が挙げられる。
【実施例0159】
次に本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。本開示において、例1~7は実施例であり、例8は比較例である。
【0160】
[実施例で使用の化合物]
(特定ハロゲン化有機化合物)
A:(CFCFCOCF(CF
B:(CFCFCOCFCF
C:CFCFCFCOCFCFCF
D:CFCOC(CF
E:CFCOCFCF
F:CFCOCFCFCOCF
(ハロゲン化有機化合物)
G:(CFCFCFCF
【0161】
(例1)
5.0gの原料化合物1を50gの特定ハロゲン化有機化合物Aに溶解し、原料化合物溶液を得た。
原料化合物1:(CFCFCOOCHCHCHCHCHOCOCF(CF
500mLのニッケル製オートクレーブに、300gのハロゲン化有機化合物Aを加えて攪拌し、0℃に冷却した。
オートクレーブ内を窒素ガスで置換した後、窒素ガスで20体積%に希釈したフッ素ガス(以下「20体積%フッ素ガス」と記す。)で再度置換し、20体積%フッ素ガスと同時に原料化合物溶液をゆっくりと一定の速度を保って連添した。
【0162】
特定ハロゲン化有機化合物Aにベンゼンを添加し、ベンゼンの濃度が0.2質量%である溶液Aを得た。
オートクレーブ内へ20体積%フッ素ガスを吹き込みながら溶液Aを数回に分けて注入した。
その後、窒素ガスにてオートクレーブ内を置換した後、反応溶液を抜き出した。
得られた反応溶液をエバポレータで濃縮し、生成物を19F-NMR(376.2MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)で定量したところ含フッ素化合物Aの回収量は6.1g(収率90%)であった。
含フッ素化合物A:(CFCFCOOCFCFCFCFCFOCOCF(CF)
【0163】
(例2~8)
特定ハロゲン化有機化合物Aを、表1に記載の特定ハロゲン化有機化合物B~F又はハロゲン化有機化合物Gに変更するか、原料化合物1を、表1に記載の原料化合物2に変更するかした以外は例1と同様にして、含フッ素化合物Aを得た。含フッ素化合物Aの回収量と収率は表1に示す。
原料化合物2:CHCHCHCHOCOCF(CF)OCFCFCF
【0164】
<溶解性>
例1~8においては、フッ素化とは別に、溶解性の評価を行った。具体的には、バイアル瓶に、原料化合物と、ハロゲン化有機化合物又は特定ハロゲン化有機化合物と、を原料化合物が5、10、15質量%になるように入れ、撹拌した。バイアル瓶は25℃に保温した。バイアル瓶にレーザを照射し、粒子が分散しているか否かを目視で確認し、下記評価基準に従い溶解性を評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:原料化合物が10質量%以上でも粒子の分散が確認されない
B:原料化合物が10質量%未満だと粒子の分散が確認されない
C:原料化合物が10質量%未満であっても粒子の分散が確認される
【0165】
【表1】

【0166】
表1に示されるように、特定ハロゲン化有機化合物を含有する溶媒を使用すると、原料化合物の溶解性に優れることを確認した。また、フッ素化の収率に優れることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本開示の溶媒は、フッ素化可能な原子又は結合を少なくとも1つ有する有機化合物のフッ素化において、環境負荷が小さく原料化合物の溶解性に優れ、目的化合物の収量を向上できる。得られた含フッ素化合物は、種々の官能基(例えば、水酸基、エチレン性不飽和基、エポキシ基、カルボキシ基等)を有する含フッ素化合物に誘導できる。また、得られた含フッ素化合物及び当該含フッ素化合物から誘導できる含フッ素化合物は、表面処理剤、乳化剤、ゴム、界面活性剤、溶媒、熱媒体、医薬品、農薬、潤滑油、これらの中間体等に利用可能である。