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  • 特開-アスファルトの組成調整方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075003
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】アスファルトの組成調整方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 95/00 20060101AFI20240527BHJP
   E01C 19/10 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C08L95/00
E01C19/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186079
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(71)【出願人】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】牧田 寛子
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 玄樹
(72)【発明者】
【氏名】新堀 詩織
(72)【発明者】
【氏名】上地 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】福本 勝司
【テーマコード(参考)】
2D052
4J002
【Fターム(参考)】
2D052AA03
2D052AB01
2D052BA09
2D052BA23
4J002AG001
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】微生物を利用することによってアスファルトの組成を調整することが可能な、アスファルトの組成調整方法を提供する。
【解決手段】アスファルトに一種の微生物、又は、二種以上の微生物を混合して添加するとともに、該アスファルトを栄養源として増殖する前記微生物の分解作用、又は、前記微生物から生成される酵素の働きにより、該アスファルトを軟化させることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルトに一種の微生物、又は、二種以上の微生物を混合して添加するとともに、該アスファルトを栄養源として増殖する前記微生物の分解作用、又は、前記微生物から生成される酵素の働きにより、該アスファルトを軟化させる
ことを特徴とするアスファルトの組成調整方法。
【請求項2】
前記アスファルトは、舗設後の供用にともなう劣化によって硬化した劣化アスファルトであり、前記微生物によって、劣化により増加した前記アスファルトの高分子成分を低分子化する
請求項1に記載のアスファルトの組成調整方法。
【請求項3】
劣化により増加した前記アスファルトの高分子成分を低分子化することによって、前記アスファルトの針入度を20以上とする
請求項1又は2に記載のアスファルトの組成調整方法。
【請求項4】
前記微生物は、該微生物の培養液、又は、該微生物がフリーズドライされて前記アスファルトに添加される
請求項1又は2に記載のアスファルトの組成調整方法。
【請求項5】
前記微生物は、該微生物の培養液、又は、該微生物がフリーズドライされて前記アスファルトに添加される
請求項3に記載のアスファルトの組成調整方法。
【請求項6】
前記微生物は、該微生物の培養液、又は、フリーズドライされた該微生物を封入したカプセルによって前記アスファルトに添加される
請求項1又は2に記載のアスファルトの組成調整方法。
【請求項7】
前記微生物は、該微生物の培養液、又は、フリーズドライされた該微生物を封入したカプセルによって前記アスファルトに添加される
請求項3に記載のアスファルトの組成調整方法。
【請求項8】
前記微生物は、「コマモナス科」及び「シュードモナス属」、「アシネトバクター属」、「アルカニボラックス属」、「バシラス属」、「リシニバチルス属」、「ノカルディア属」、「カンジダ属」、「エンテロバクター属」、「マイコバクテリウム属」、「アルスロバクター属」、「フザリウム属」のうちの少なくともいずれかである
請求項1又は2に記載のアスファルトの組成調整方法。
【請求項9】
前記微生物は、「コマモナス科」及び「シュードモナス属」、「アシネトバクター属」、「アルカニボラックス属」、「バシラス属」、「リシニバチルス属」、「ノカルディア属」、「カンジダ属」、「エンテロバクター属」、「マイコバクテリウム属」、「アルスロバクター属」、「フザリウム属」のうちの少なくともいずれかである
請求項3に記載のアスファルトの組成調整方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用することによってアスファルトの組成を調整することが可能な、アスファルトの組成調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国の舗装に用いられているアスファルト混合物の8割弱は、リサイクル品で占められている。アスファルトは、熱や紫外線等で成分中の芳香族分が失われ、硬く脆くなって劣化する。そこでこのような劣化アスファルトを舗装材として再使用する際には、石油潤滑油他の再生用添加剤を加えることで、粘度低下や弾力性アップを図ってリサイクルしている(例えば、特許文献1がある)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-129514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記再生用添加剤は、劣化したアスファルトを抜本的に再生するものではないため、再生利用が可能な回数には限界が存在する。近年、撤去して回収した舗装材が繰り返しリサイクルされることによって、再生用添加剤による再生限界(回収アスファルトの針入度20[1/10mm]以上又は圧裂係数1.70[MPa/mm]以下)を割り込んでしまい、舗装材として使用できない割合が増加しており、その対応策が強く求められている。
【0005】
また、供用中のアスファルト舗装にあっては、供用中の劣化の進行にともなって、アスファルトが剥離したり、舗装面にクラックが生じる。従来、このような場合は舗装を剥ぎ取って新たなアスファルト混合物を使用して舗装することが行われていた。
【0006】
そこで本願発明は、上記した問題に鑑み、微生物を利用することによってアスファルトの組成を調整することが可能な、アスファルトの組成調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アスファルトに一種の微生物、又は、二種以上の微生物を混合して添加するとともに、該アスファルトを栄養源として増殖する前記微生物の分解作用、又は、前記微生物から生成される酵素の働きにより、該アスファルトを軟化させることを特徴とするアスファルトの組成調整方法である。
【0008】
本発明の構成によれば、微生物を利用することによって、アスファルトの組成を調整し、アスファルトにおいて所望の機能を得ることが可能となり、再資源化のさらなる促進と、舗装の長寿命化に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アスファルトの組成を示す表である。
図2】本実施形態における、微生物の特定方法の一例を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の「アスファルトの組成調整方法」について説明する。
【0011】
アスファルト混合物は、舗設後の供用にともなってアスファルトが劣化し、硬さの指標である針入度が低下してしまう。すなわち、アスファルトが劣化すると柔軟性が低下して、舗装にひび割れが発生しやすくなり破損につながる。
【0012】
例えば、撤去された舗装材から新たな舗装材への再生に際して、劣化が著しく進行してアスファルトの針入度が20未満になってしまっている再生骨材を、従来の再生用添加剤の添加によって再生しても、早期に、舗装にひび割れが発生する割合が高いことが知られている。このようなことから、社団法人日本道路協会発行の「舗装再生便覧(平成22年版)」では、再生骨材における旧アスファルトの針入度が20以上であることを再生使用の条件とし、公共事業の仕様としてもこの条件が適用されている。
【0013】
アスファルトは主に炭化水素から構成される多種の化学物質の集合体である。そして、類似する性質ごと(溶解する溶媒ごと)に、図1に示されるように、飽和分、芳香族分、レジン分、アスファルテンの4グループに分けて分析することができる。一概にはいえないが、アスファルトが劣化すると、レジン分やアスファルテンなど、分子量の多い成分の組成割合が増えてアスファルトは固くなる。逆に、飽和分、芳香族分の組成割合が増えた場合、アスファルトは軟化する。
【0014】
そこで本発明では、劣化したアスファルトに対し、微生物を利用することでアスファルトを軟化させてその機能を回復させるなど、アスファルトの組成を調整すべく、まず図2に示されるような方法で、アスファルトの組成調整に有効な微生物の特定を行っている。
【0015】
(微生物の特定方法)
図1には、本実施形態における微生物の特定方法の一例がフローで示されており、例えば、アスファルトに棲みついて、その組成を変化・調整し得る微生物を特定して取得している。すなわち、図示されるように、アスファルトやアスファルテンを好んで栄養源とするような微生物を単離する(ステップS101)。そして、単離した微生物と、室内で作製した室内劣化アスファルトを培地で振とう培養し(ステップS102)、室内劣化アスファルトを回収する(ステップS103)。
【0016】
続いて、回収した室内劣化アスファルトを、TLC-FID法によって分析し(ステップS104)、レジン分やアスファルテンの組成割合を減らすことのできる微生物を探索する(ステップS105)。
【0017】
なお、上記した方法においては、単離する微生物の決定に際し、アスファルトやアスファルテンを好んで栄養源とするような微生物を対象に単離しているが、特定の機能と関連がある遺伝子配列(機能遺伝子)を解析して、単離する微生物を決定してもよい。
【0018】
また、単離した微生物に対してバイオサーファクタント試験を実施し、アスファルトの組成を調整可能な微生物を絞りこむ方法を採用することも可能である。すなわち、上記バイオサーファクタント試験は、微生物がバイオサーファクタント(界面活性剤)を生産しているかを確認する試験であり、石油分解菌などの微生物はバイオサーファクタントを作り出し、難水溶性物質を水層に分散することで効率的に石油を分解できることが報告されている。そこで、当該試験によってアスファルトをどのように分解・資化しているかを評価することで、レジン分やアスファルテンの組成割合を減らすことのできる微生物を探索することが可能となる。
【0019】
(微生物について)
以下に示す各微生物が、アスファルトのレジン分やアスファルテンの組成割合を減らす効果を有する微生物として特定(報告)されている。
【0020】
「コマモナス科」及び「シュードモナス属」の微生物は、複数箇所のアスファルトプラントで採取した再生骨材中に含まれていた微生物であり、試験によってレジン分やアスファルテンを分解することが確認されたものである。
【0021】
加えて、フェノール類とn-ヘキサデカンを分解可能な「アシネトバクター属」、分岐鎖アルカンを分解可能な「アルカニボラックス属」、レジンに含まれる窒素化合物であるピリジンなどの芳香族化合物を分解可能なバチルス・セレウス、バチルス・プロテオリュティクス、バチルス・シュードミコイデスを含む「バシラス属」、ジフェニルエーテル系化合物を分解可能なリシニバチルス・マクロイド、リシニバチルス・キシラニリティカスを含む「リシニバチルス属」、レジンに含まれる窒素化合物であるピリジンを分解可能な「ノカルディア属」、レジンやアスファルテンを分解する菌である「カンジダ・ボイディニーGB01株」を含む「カンジダ属」、アスファルテンを分解する菌である「エンテロバクター・クロアカエ」を含む「エンテロバクター属」、フェナントレン、ピレンなどの芳香族を分解する菌を含む「マイコバクテリウム属」、ベンゾピレンを分解する菌である「アルスロバクター・オキシダンス」を含む「アルスロバクター属」、多環芳香族炭化水素(PAH)フェナントレン(PHE)ピレン(PYR)を分解する菌である「フザリウム・ソラニー」を含む「フザリウム属」等が、アスファルトにおけるレジン分やアスファルテンの組成割合を減らすなど、当該アスファルトの組成を調整することが可能な微生物となる。
【0022】
すなわち、上記した微生物は、アスファルト中のレジン分やアスファルテン分を分解し、飽和分や芳香族分などの低分子量の成分に変化させることが可能である。より具体的には、例えば劣化が著しく進行してアスファルトの針入度が20未満になってしまっている再生骨材を、微生物の作用によって針入度20以上に回復させることが可能となり、再生合材として使用することが可能となる。
【0023】
なお、上記した微生物は必ずしも単体で使用することに限定されるものではなく、複数種類の微生物を混合してアスファルトに添加することも可能である。また、上記した微生物の活動を促進させるために、他の添加剤を組み合わせてアスファルトに添加することも可能である。このような操作により、より効率的・効果的にアスファルトの組成を調整することが可能となる。
【0024】
続いて、微生物を利用するアスファルトの組成調整方法について、各実施形態を以下に説明する。
【0025】
(実施形態1)
実施形態1は、再生骨材の性状を向上させることを目的とするものであり、例えば、アスファルト合材プラントのストックヤードにおいて、貯蔵中の再生骨材に、微生物の培養液、又は、フリーズドライされた微生物を添加するものである。
【0026】
すなわち、破砕したアスファルトコンクリート発生材に対し、再生合材の製造前に、微生物の培養液、又は、フリーズドライされた微生物を添加する。具体的には、微生物の培養液を使用する場合、破砕したアスファルトコンクリート発生材を運搬するベルトコンベヤ上で微生物の培養液を滴下することが可能である。またこれに限らず、アスファルト再生骨材のストックヤードにおいて微生物の培養液をスプレイヤ等で散布することも可能である。
【0027】
一方、フリーズドライされた微生物を使用する場合、破砕したアスファルトコンクリート発生材を運搬するベルトコンベヤ上でフリーズドライされた微生物の粉末を散布し、散水する。またこれに限らず、アスファルト再生骨材のストックヤードにおいてフリーズドライされた微生物の粉末を散布し、散水することも可能である。いずれも散水されることによって微生物が活性化することとなる。
【0028】
(実施形態2)
実施形態2は、供用中のアスファルト舗装をリフレッシュさせることを目的とするものであり、例えば、供用中の道路表面に微生物の培養液をスプレイヤ等で散布することが可能である。これにより、微生物が活性化してアスファルトを軟化させ、舗装に生じたひび割れや剥離の発生抑止及びその修復を行うことが可能となり、舗装の延命及び長寿命化を図ることが可能となる。
【0029】
(実施形態3)
実施形態3は、アスファルト舗装の劣化を抑制することを目的とするものであり、フリーズドライされた微生物、又は、微生物の培養液を封入したカプセルを製造し、例えば、アスファルト合材プラントにおけるアスファルト混合物の製造時に上記カプセルを混ぜて出荷することが可能である。
【0030】
上記カプセルが混入されて舗設されたアスファルト舗装は、供用後の経年変化によってひび割れや剥離が生じる。そこに交通荷重を受けることで上記カプセルが割れて、フリーズドライされた微生物、又は、微生物の培養液がアスファルトに添加されることになる。これにより、微生物が活性化してアスファルトを軟化させ、ひび割れや剥離を修復することが可能となり、舗装の延命及び長寿命化を図ることが可能となる。
【0031】
なお、微生物や酵素は高温(70℃以上)となると失活してしまうものが多い。したがって、加熱アスファルト合材で上記カプセルを使用する場合は、セラミック素材の他、必要な断熱性能を有するものとする必要がある。
【0032】
以上、本発明の実施形態について図面にもとづいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施例に記載された具体的な方法等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
図1
図2