(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075020
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/00 20060101AFI20240527BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20240527BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C08F6/00
C08F216/06
C08F210/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186121
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折部 健太
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】森原 靖
(72)【発明者】
【氏名】榊山 智文
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭敬
(72)【発明者】
【氏名】山崎 義和
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA02Q
4J100AD02P
4J100AG04R
4J100CA04
4J100DA09
4J100GC25
4J100HA09
(57)【要約】
【課題】乾燥時間の短縮及びEVOHの色相悪化の抑制を両立した、EVOHの製造方法の提供。
【解決手段】含水エチレン-ビニルアルコール共重合体を、-96.3kPaG以上-0.3kPaG以下の減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する乾燥工程を含む、エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水エチレン-ビニルアルコール共重合体を、-96.3kPaG以上-0.3kPaG以下の減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する乾燥工程を含む、エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程におけるエチレン-ビニルアルコール共重合体の樹脂温度が50℃以上160℃以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化し、エチレン-ビニルアルコール共重合体を得るケン化工程をさらに有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ケン化工程により得られるエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む溶液又はペーストから、含水エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットを得るペレット化工程をさらに有し、ペレット化工程と同時又はペレット化工程後に、前記乾燥工程を有する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
含水エチレン-ビニルアルコール共重合体を、-96.3kPaG以上-0.3kPaG以下の減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する、含水エチレン-ビニルアルコール共重合体の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変性エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、酸素バリア性、耐油性、非帯電性、機械強度等に優れた材料であり、フィルム、シート、容器などに成形されて広く用いられている。EVOHの製造方法としては、エチレンと酢酸ビニルなどのビニルエステルを重合して得られたエチレン-ビニルエステル共重合体をケン化触媒の存在下にアルコールを含む有機溶媒中でケン化する方法が一般的である。
【0003】
ケン化して得られたEVOHのアルコール溶液の後処理方法としては、例えば、EVOHのアルコール溶液を水又は水/メタノール溶液等の凝固液中にストランド状に押し出した後、該ストランドを切断してペレットとした後に乾燥してEVOHペレットを製造する方法が広く用いられている(特許文献1)。
【0004】
含水EVOHペレットの乾燥方法としては、熱風乾燥が一般的に用いられ、流動乾燥及び静置乾燥等を適宜組み合わせて乾燥する方法が広く用いられている(特許文献2)。また、特許文献3ではマイクロ波で乾燥することで、EVOHの白化抑制やボイド発生を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-216725号公報
【特許文献2】国際公開第2019/039458号
【特許文献3】特開平11-291245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の含水EVOHの乾燥方法では、乾燥後のEVOHペレットの含水率を0.3質量%以下まで下げるのに必要な乾燥時間を短くして生産効率を上昇させるために、乾燥温度を上昇させたり、マイクロ波の照射強度を強くしたりすると、EVOHが着色してしまう傾向にあることが分かった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、乾燥時間の短縮及びEVOHの色相悪化の抑制を両立した、EVOHの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば上記目的は
[1]含水エチレン-ビニルアルコール共重合体を、-96.3kPaG以上-0.3kPaG以下の減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する乾燥工程を含む、エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法;
[2]前記乾燥工程におけるエチレン-ビニルアルコール共重合体の樹脂温度が50℃以上160℃以下である、[1]の製造方法;
[3]エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化し、エチレン-ビニルアルコール共重合体を得るケン化工程をさらに有する、[1]または[2]の製造方法;
[4]前記ケン化工程により得られるエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む溶液又はペーストから、含水エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットを得るペレット化工程をさらに有し、ペレット化工程と同時又はペレット化工程後に、前記乾燥工程を有する、[3]の製造方法;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、乾燥時間の短縮及びEVOHの色相悪化の抑制を両立した製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、含水EVOHを、-96.3kPaG以上-0.3kPaG以下の減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する乾燥工程を含む、EVOHの製造方法である。当該方法では、熱風乾燥やマイクロ波乾燥と比べて乾燥時間を短縮できるとともに、色相の悪化が抑制されたEVOHが得られるため、品質を向上させ、かつ、生産効率を向上させることができる極めて有用な製造方法であるといえる。特に、単純に減圧下で乾燥したのみのEVOHやマイクロ波を照射して乾燥したのみのEVOHでは、色相の悪化の抑制は殆ど見られないのに対して、これらの手法を組み合わせた際に顕著に色相の悪化が抑制できる点は特筆すべき点である。なお、本明細書においてkPaGとはゲージ圧を意味し、1気圧下におけるゲージ圧は0kPaGである。
【0011】
本明細書では、本発明の製造方法における乾燥工程に供される含水EVOHを、本発明で用いられる含水EVOHと称する場合があり、乾燥工程後のEVOHを乾燥後のEVOHと称する場合がある。
【0012】
本発明で用いられる含水EVOHは、EVOH及び水を含むペレットであることが好ましい。前記含水EVOHの含水率は、5質量%以上60質量%以下であることがペレット形状への加工性の観点から好ましい。含水EVOHの含水率は、含水EVOHを製造する際の条件で適宜調整できる。また、乾燥後のEVOHの含水率は、通常0.3質量%以下である。なお、乾燥後のEVOHの含水率が0.1質量%~0.3質量%である場合、その含水率とする時に必要な乾燥時間に大きな差はないものである。
【0013】
本発明で用いられる含水EVOHを構成するEVOH(以下、「本発明で用いられるEVOH」または「前記EVOH」と表現する場合がある)は、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体をけん化して得られる。前記EVOH中のエチレン含有量は20~60モル%が好ましい。前記エチレン含有量はより好適には23モル%以上、さらに好適には25モル%以上であり、特に好適には30モル%以上である。前記エチレン含有量は、より好適には50モル%以下、さらに好適には45モル%以下、特に好適には40モル%以下である。なお、EVOHのエチレン含有量、けん化度はけん化工程終了時と、後述するその後の工程の終了時とで実質的な変化はなく、通常、全ての工程を終了してから測定される。
【0014】
以下に前記EVOHの製造方法を具体的に説明する。前述の通り、前記EVOHは通常、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化して得られる。エチレンとビニルエステルとの共重合は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また連続式、回分式のいずれであってもよく、溶液重合の場合の重合条件は次の通りである。
【0015】
用いられる溶媒としては、エチレン-ビニルエステル共重合体およびEVOHの溶解性の点、取り扱い性の点、効率的にアルコールを水に置き換えることができる点等から、沸点が100℃以下のアルコールが好ましい。沸点はより好適には80℃以下であり、さらに好適には70℃以下である。
【0016】
沸点が100℃以下のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコールなどが例示されるが、特にメタノールが好ましい。
【0017】
重合に用いられる開始剤としては、例えば、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(2-シクロプロピルプロピオニトリル)などのアゾニトリル系開始剤およびイソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物系開始剤などを用いることができる。
【0018】
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルが挙げられ、酢酸ビニルが好適である。また、EVOHは共重合成分としてビニルシラン化合物0.0002~0.2モル%を含有することができる。ここで、ビニルシラン系化合物としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシランが挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0019】
重合条件は以下の通りであることが好ましい。
(1)温度;好ましくは20~90℃、より好ましくは40℃~780℃。
(2)時間(連続式の場合は平均滞留時間);好ましくは2~15時間、より好ましくは3~11時間。
(3)重合率;仕込みビニルエステルに対して、好ましくは10~90%、より好ましくは30~80%。
(4)重合後の溶液中の樹脂分;好ましくは5~85質量%、より好ましくは20~70質量%。
【0020】
なお、エチレンとビニルエステル以外にこれらと共重合し得る単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、ヘキセン、α-オクテン、α-ドデセンなどのα-オレフィン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸、その無水物、塩、モノまたはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのオレフィンスルホン酸またはその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどを少量共存させて重合することも可能である。前記EVOH中のエチレン、ビニルエステル及びビニルアルコール以外の他の単量体単位の含有量は、20モル%以下が好ましく、10モル%以下、5モル%以下、3モル%以下、1モル%以下、0.1モル%以下が好ましい場合がある。前記EVOH中に前記他の単量体単位が含まれていなくてもよい。
【0021】
所定の時間重合し、所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応ビニルエステルを追い出す。未反応ビニルエステルを追い出す方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部からエチレンを除去した重合溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部より有機溶剤、好適には沸点100℃以下のアルコール、最適にはメタノールの蒸気を吹き込み、塔頂部より該有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応ビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
【0022】
未反応ビニルエステルを除去した前記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、該共重合体中のビニルエステル成分をケン化する。ケン化方法は連続式、回分式いずれも可能である。アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。また、ケン化に用いる溶媒としては、メタノールが好ましい。例えば、ケン化条件は次の通りである。
(1)溶液中のエチレン-ビニルエステル共重合体の濃度;10~50質量%
(2)反応温度;30~150℃(3)触媒使用量;0.005~0.6当量(ビニルエステル成分当り)
(4)時間(連続式の場合、平均滞留時間);10分~6時間
【0023】
一般に、連続式でケン化する場合には、ケン化により生成する酢酸メチルをより効率的に除去できるので、回分式の場合に比べて少ない触媒量で高いケン化度の樹脂が得られる。また、連続式の場合にはケン化により生成するEVOHの析出を防ぐため、より高い温度でケン化する必要がある。したがって、連続式では下記の範囲の反応温度及び触媒量とすることが好ましい。
反応温度;70~150℃。
触媒使用量;0.005~0.1当量(ビニルエステル成分当り)。
【0024】
得られるEVOHのケン化度は目的により異なるが、好ましくはビニルエステル成分の80モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、特に好ましくは99モル%以上である。ケン化度は条件によって任意に調整できる。
【0025】
前述のように、特に溶融安定性に優れたロングラン性の良好なEVOHペレットを製造する場合には、EVOHのケン化度が99.7モル%以上であることが好ましく、99.8モル%以上であることがより好ましく、99.9モル%以上であることがさらに好ましく、99.95モル%以上であることが特に好ましいが、このようなEVOHを得るためにはケン化条件をさらに以下のように調整することが好ましい。
【0026】
ケン化度99.9モル%以上の高いケン化度のEVOHを得る方法としては、連続式が好ましい。連続式で高いケン化度を得る方法としては、例えば、ケン化反応塔の複数箇所から触媒を添加する方法、触媒使用量を多くする方法、ケン化反応塔の下部から吹き込むメタノールの量を多くする方法などが挙げられる。また、回分式でケン化度99.9モル%以上の高いケン化度のEVOHを得る方法としては、例えば、触媒を複数回に分けて添加する方法、触媒使用量を多くする方法、ケン化反応槽にメタノール蒸気あるいは窒素ガスを吹き込む量を多くする方法などが挙げられる。
【0027】
ケン化工程により、EVOHを含む溶液またはペーストが得られる。ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去してもよい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まないイオン交換水等で洗浄する際、EVOHに酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の触媒残渣を一部残存させてもよい。
【0028】
こうして得られたEVOH溶液又はペーストは、通常EVOH100質量部に対して沸点が100℃以下のアルコールを50質量部以上含有する。アルコールの含有量は好適には70質量部以上であり、より好適には80質量部以上である。またアルコールの含有量は好適には1000質量部以下であり、より好適には500質量部以下である。アルコールの含有量をこの範囲とすることで、EVOH溶液の流動性が確保されるとともに、効率のよい樹脂製造が可能である。アルコールは好適にはメタノールである。
【0029】
次に、得られたEVOH溶液又はペーストを含水ペレット化する。含水ペレット化の方法としては、特に限定されず、EVOH溶液又はペーストを冷却凝固させてカットする方法、EVOH溶液又はペーストを押出機で溶融混練してから吐出してカットする方法などが挙げられる。そのほかに、塔式容器中で、溶媒と水の混合蒸気を容器の下部から供給し、EVOH溶液を、前記混合蒸気の供給位置より上方の位置から供給することにより、供給EVOH溶液中に存在する溶媒の一部を、水と置換し、高濃度のEVOH溶液とした後に押出機で溶融混錬してから吐出してカットする方法等も挙げられる。EVOHのカット方法としては、EVOHをストランド状に押出してからペレタイザーでカットする方法、ダイスから吐出したEVOHをホットカット方式やアンダーウォーターカット方式などでカットする方法などが具体的な例として挙げられる。
【0030】
ケン化反応後に得られる含水EVOHペレットは、ケン化触媒残渣であるアルカリ金属塩を含んでいてもよいが、その含有量が多量である場合は、着色などの品質問題が生じるため、ケン化触媒残渣を洗浄除去する工程を行ってもよい。洗浄方法は特に限定されないが、水または酢酸などの酸の水溶液中に浸漬して洗浄する方法や、押出機内に水または酸の水溶液等を供給し洗浄する方法等が例示される。このとき、水又は水溶液中に浸漬する洗浄方法においては、回分式処理容器または連続式処理容器のいずれも使用可能である。中でも、塔式容器内で連続的にペレットを供給して処理する方法が、生産性の観点から好適である。洗浄温度は、通常10~80℃の範囲が採用される。洗浄効率向上の観点からは洗浄温度は高い方が好ましいが、あまり温度が高すぎると含水ペレット同士の融着が発生するため好ましくない。洗浄温度の下限値は好適には20℃以上である。また、洗浄温度の上限値は好適には70℃以下である。
【0031】
洗浄後の含水EVOHペレット中のアルカリ金属塩の含有量は、金属換算で5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましく、0.05質量%以下がよりさらに好ましく、0.03質量%以下が特に好ましい。
【0032】
得られた含水EVOHペレットは、脱水工程等を経て含水率を調整してもよい。脱水方法は特に限定されないが、例えば、遠心脱水等が挙げられる。
【0033】
得られた含水EVOHペレットに対して、必要に応じて、化学処理を行っても構わない。当該処理は、前記含水EVOHペレットを任意の添加剤を含む水溶液に含侵させる方法、押出機中で含水EVOHと添加剤とを溶融混練する方法等が挙げられる。当該添加剤としては、カルボン酸、ホウ素化合物、リン酸化合物、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0034】
上記で得られた含水EVOHペレットを、本発明で用いられる含水EVOHとして乾燥工程に供することもできるし、含水EVOHをペレット化する際に本発明の製造方法における乾燥工程に供してもよい、すなわち、乾燥工程中でペレット化してもよい。本発明の製造方法における乾燥工程は、-96.3kPaG以上-0.3kPaG以下の減圧下でマイクロ波を照射して含水EVOHを乾燥する工程である。乾燥工程における減圧度は、-96.3kPaG以上-15kPaG以下が好ましく、-96.3kPaG以上-30kPaG以下がより好ましく、-96.3kPaG以上-45kPaG以下がさらに好ましい。乾燥工程における減圧の方法は特に限定されず公知の方法を用いることができるが、例えば、真空ポンプやスチームエジェクターや水流アスピレーターを用いることができ、減圧能力の観点から真空ポンプが好ましい。真空ポンプの方式は特に限定されず公知の方式を用いることができるが、オイル式ポンプやダイヤフラムポンプを用いることができ、オイルの逆流を防ぐ観点からダイヤフラムポンプが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法における乾燥工程で照射されるマイクロ波は、例えば、商用周波数が2.45GHzで、かかるマイクロ波の出力は0~2000Wのマイクロ波発生装置を用いればよく、0~1000Wの出力が好ましく、0~600Wの出力がより好ましく、0~300Wがさらに好ましい。マイクロ波を照射する際の出力の最大値が小さい方が乾燥後のEVOHの劣化を抑制できる傾向にあるが、最大値を小さくしすぎると乾燥効率が低下する。したがって、マイクロ波照射時の出力の最大値は100W以上が好ましい。かかるマイクロ波の照射時間は、樹脂温度が50℃以上で160℃以下となる時間での照射が好ましい。樹脂温度が50℃未満では、照射の効果が期待できず、逆に150℃を超えるとEVOHが加熱されすぎて融着や劣化を起こす恐れがある。
【0036】
乾燥工程におけるEVOHの温度は50℃以上160℃以下であることが乾燥効率の観点から好ましい。EVOHの温度は80℃以上150℃以下がより好ましく、100℃以上140℃以下がさらに好ましい。乾燥工程におけるEVOHの温度は、マイクロ波を0~1000Wの強度範囲で断続的に照射することで調整できる。
【0037】
得られたEVOHのメルトフローレート(MFR)(190℃、荷重2160g)は、好ましくは0.5~100g/10分であり、より好ましくは1~50g/10分、さらに好ましくは1.5~20g/10分である。MFRが0.5g/10分以上であると、成形性が良好となる傾向となり、MFRが100g/10分以下であると、得られる成形品の機械的特性が良好となる傾向となる。前記MFRは後述する実施例に記載された方法により測定される。
【0038】
得られたEVOHは、溶融成形によりフィルム、シート、容器、パイプ、繊維など、各種の成形体に成形される。
【実施例0039】
以下に実施例、および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
[評価方法]
(1)EVOHの含水率
実施例及び比較例で用いる含水EVOHペレット及び実施例及び比較例で得られた乾燥EVOHペレットをそれぞれ2.00g秤量し、日東精工アナリテック株式会社製の水分測定装置CA-310にて、JIS K 0068:2001に記載の方法に従い、220℃の加熱条件にて含水率を測定した。
【0041】
(2)溶融成形後の黄色度(YI)
実施例及び比較例で得られた乾燥EVOHペレットをそれぞれ8.9g秤量し、炉内温度を220℃に設定したメルトインデクサー(立山化学工業株式会社製 L227-E300)に充填し、ピストンで圧縮後、2010gの錘を載せ、6分間保持した後、メルトインデクサー下部からアルミホイルを敷いたステンレスプレート上に樹脂をすべて吐出し、厚みが3mmとなるようにもう一枚のステンレスプレートで挟み押さえつけた。放冷後、測色計(Hunter社製 LAB Scan XE)を用いてYIを測定した。樹脂温度110℃、エチレン単位含有量27モル%である表1の条件においては、溶融成形後のYIが22以下であれば、乾燥速度とYIとのバランスが取れていると判断した。また、樹脂温度130℃、エチレン単位含有量27モル%である表2の条件においては、溶融成形後のYIが30以下であれば、乾燥速度とYIとのバランスが取れていると判断した。また、樹脂温度130℃、エチレン単位含有量32モル%である表3の条件においては、溶融成形後のYIが10以下であれば、乾燥速度とYIとのバランスが取れていると判断した。
【0042】
(3)乾燥速度の算出
実施例及び比較例で得られた乾燥前後の含水率の差及び乾燥時間から乾燥速度を算出した。
【0043】
(4)MFR
実施例及び比較例で得られた乾燥EVOHペレットについて、JIS K7210:2014に記載の方法に従ってMFRを測定した。具体的には、メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダーに充填し、特定の温度で溶融した後、溶融した樹脂組成物に対して、質量2,160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけた。シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間当たりに押出される樹脂組成物量(g/10分)を測定した。エチレン単位含有量27モル%である実施例1、2および比較例1~5では溶融温度を210℃にして測定し、エチレン単位含有量32モル%である実施例3、4及び比較例6では溶融温度を190℃にして測定した。
【0044】
[実施例1]
マグネチックスターラー、ガス導入口及び圧力調整口を有する150mLの乾燥装置に、エチレン単位含有量27モル%、けん化度99.9%の含水EVOHペレット(含水率11.27質量%)40gを導入した。導入された含水EVOHペレットを500rpmの撹拌下、乾燥装置内の圧力-94.6kPaG、ガス導入口からの空気(スイープガス)流入量を400mL/分の条件下で、マイクロ波照射装置μReactor EX(四国計測工業株式会社製)を用いてマイクロ波を照射することで乾燥を行い、乾燥EVOHペレットを得た。マイクロ波の照射は、EVOHペレットの温度が110℃となるように出力を0~300Wの範囲で調整しながら16.5時間乾燥を行った。得られた乾燥EVOHペレットについて、上記評価方法(1)~(4)の方法に従って、含水率、溶融成形後のYI、乾燥速度及びMFRを評価した。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
乾燥装置中の圧力及び、乾燥時間が表1に記載の通りとなるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で乾燥EVOHを作製し評価した。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
実施例1で用いたエチレン単位含有量27モル%の含水EVOHペレット(含水率11.27質量%)40gを500mlのビーカーに入れて、110℃の熱風乾燥機中に24時間静置して乾燥EVOHペレットを得た。得られた乾燥EVOHペレットについて、上記評価方法(1)~(4)の方法に従って、含水率、溶融成形後のYI、乾燥速度及びMFRを評価した。結果を表1に示す。なお、熱風乾燥では空気が循環されるため、スイープガスとして空気の導入を行っていないので、表中の空気流量では「-」と表記した。
【0047】
[比較例3]
乾燥機中の圧力及び乾燥時間を表1に記載の通りとなるように変更した以外は、比較例1と同様の方法で乾燥EVOHペレットを作製し評価した。結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
実施例1と比較例1との対比から、減圧条件下でマイクロ波乾燥を行うと溶融成形後のYIが良好となり、乾燥速度が速まることがわかる。一方、比較例1と比較例2との対比から常圧下ではマイクロ波加熱の方が、乾燥速度が速まるものの溶融成形後のYIの差が小さくマイクロ波加熱によるメリットがさほど大きくないことが分かる。また、比較例2と比較例3との対比から減圧乾燥の方が、乾燥速度が速まるものの溶融成形後のYIの差が小さく減圧乾燥のみによるメリットがさほど大きくないことが分かる。
【0050】
[実施例2]
樹脂温度が130℃となるようにマイクロ波の照射条件を調整し、乾燥時間を7.5時間とした以外は、実施例1と同様の方法で、乾燥EVOHペレットを作製し評価した。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例4]
乾燥機内の圧力及び乾燥時間を表2に記載の通り変更した以外は、実施例2と同様の方法で乾燥EVOHペレットを作製し評価した。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例5]
樹脂温度及び乾燥時間を表2に記載の通り変更した以外は、比較例2に記載の方法と同様の方法で乾燥EVOHペレットを作製し評価した。結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
実施例2と比較例4との対比から、減圧条件下でマイクロ波乾燥を行うと溶融成形後のYIが良好となり、乾燥速度が速まることがわかる。また、実施例2と比較例5との対比から一般的に行われる常圧熱風乾燥よりも減圧マイクロ波乾燥の方が、溶融成形後のYIが顕著に優れ、乾燥速度も速いことがわかる。
【0055】
[実施例3、4、比較例6]
含水EVOHペレットとして、エチレン単位含有量32モル%、ケン化度99.9モル%の含水EVOHペレット(含水率12.47質量%)を用い、乾燥前後の含水率及び乾燥条件を表3の記載の通りとなるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で乾燥EVOHペレットを作製し評価した。結果を表3に示す。
【0056】