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特開2024-75124窒素酸化物からアンモニアを合成する触媒
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  • 特開-窒素酸化物からアンモニアを合成する触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075124
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】窒素酸化物からアンモニアを合成する触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/652 20060101AFI20240527BHJP
   C01C 1/02 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B01J23/652 M
C01C1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186332
(22)【出願日】2022-11-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」委託研究、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】難波 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】チャドハリー チャンダン サブハッシュ
(72)【発明者】
【氏名】眞中 雄一
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB82
4G169DA05
(57)【要約】
【課題】一酸化炭素を用いることなく、比較的低温でも窒素酸化物からアンモニアが効率よく合成できる触媒を提供する。
【解決手段】触媒は、窒素酸化物と水素からアンモニアを合成するための触媒であって、酸化チタンと、酸化チタンに担持された白金およびタングステンを有する。酸化チタン、白金、およびタングステンの質量の和に対するタングステンの質量は、1%~40%であることが好ましく、1%~5%であることがより好ましい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物と水素からアンモニアを合成するための触媒であって、酸化チタンと、前記酸化チタンに担持された白金およびタングステンを有する触媒。
【請求項2】
請求項1において、
前記酸化チタン、前記白金、および前記タングステンの質量の和に対する前記タングステンの質量が1%~40%である触媒。
【請求項3】
請求項1において、
前記酸化チタン、前記白金、および前記タングステンの質量の和に対する前記タングステンの質量が1%~5%である触媒。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの触媒の存在下で、窒素酸化物と水素を反応させてアンモニアを合成するアンモニアの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
150℃~300℃で窒素酸化物と水素を反応させるアンモニアの製造方法。
【請求項6】
請求項4において、
前記窒素酸化物が一酸化窒素であるアンモニアの製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記窒素酸化物が一酸化窒素であるアンモニアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、タグステンを含む触媒を用いて、窒素酸化物と水素からアンモニアを合成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)からアンモニア(NH)を合成するための触媒として、酸化チタン(TiO)に白金(Pt)を担持したものが知られている(非特許文献1)。非特許文献1では、このPt/TiO触媒を用い、一酸化炭素(CO)と水(HO)で一酸化窒素を還元してアンモニア(NH)を合成している(下記化学反応式)。
2NO+5CO+3HO→2NH+5CO
【0003】
しかしながら、Pt/TiO触媒は、反応温度が低くなると、一酸化炭素がPtに強く吸着して、このアンモニア合成反応を阻害する。このため、Pt/TiO触媒は、150℃~300℃程度の比較的低温でのNH生成の選択率が低かった。比較的低温でのNH合成の収率の低下を抑えるために、および有毒物質をできるだけ使わないために、一酸化炭素を用いずに窒素酸化物からアンモニアが合成できる触媒の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Catal. Sci. Technol., 2019, 9, p.2898-2905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願は、このような事情に鑑みてなされたものであり、一酸化炭素を用いることなく、比較的低温でも窒素酸化物からアンモニアが効率よく合成できる触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の触媒は、窒素酸化物と水素からアンモニアを合成するための触媒であって、酸化チタンと、酸化チタンに担持された白金およびタングステンを有する。本願のアンモニアの製造方法は、本願の触媒の存在下で、窒素酸化物と水素を反応させてアンモニアを合成する。
【発明の効果】
【0007】
本願の触媒を用いれば、一酸化炭素を用いることなく、比較的低温で窒素酸化物からアンモニアが効率よく合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1~実施例5および比較例の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOの変換率の関係を示すグラフ。
図2】実施例1~実施例5および比較例の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNHの収率の関係を示すグラフ。
図3】実施例1~実施例5および比較例の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNHの選択率の関係を示すグラフ。
図4】実施例1~実施例5および比較例のそれぞれの触媒を用いたときの反応温度200℃におけるNHの収率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の触媒とアンモニアの製造方法について、実施形態と実施例に基づいて説明する。なお、本願で「~」を用いて2つの数値の間の範囲を表わす場合、これら2つの数値もこの範囲に含まれる。また、重複説明は適宜省略する。本願の実施形態の触媒は、窒素酸化物と水素からアンモニアを合成するための触媒である。窒素酸化物(NO)としては、NO、NO、NO、N(NO1.5)、N(NO)、N(NO2.5)などが挙げられる。窒素酸化物と水素(H)からアンモニアを合成するときの化学反応は下記で表される。
2NO+(2x+3)H→2NH+2xH
【0010】
本実施形態の触媒は、担体である酸化チタン(TiO)と、この酸化チタンに担持された白金およびタングステンを備えている。酸化チタンとしては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、非晶型酸化チタン、およびこれらの複合体が挙げられる。なお、窒素酸化物からアンモニアを合成するのを妨げなければ、酸化チタンに不可避的な不純物などが含まれていてもよい。
【0011】
本実施形態の触媒は、無機化合物担体に金属を担持させる通常の方法によって製造できる。例えば、白金溶液とタングステン溶液を混合し、この混合溶液中に酸化チタンを加えて静置した後、水分を蒸発させ、焼成した後に水素還元することによって本実施形態の触媒が得られる。窒素酸化物からアンモニアを合成するのを妨げなければ、本実施形態の触媒に、酸化チタン、白金、およびタングステン以外の物質が含まれていてもよい。また、アンモニアの収率が高いので、タングステン含有量、すなわち、酸化チタン、白金、およびタングステンの質量の和に対するタングステンの質量(タングステンの質量/(酸化チタンの質量+白金の質量+タングステンの質量))は、1%~40%であることが好ましく、1%~5%であることがより好ましい。
【0012】
本願の実施形態のアンモニアの製造方法は、本実施形態の触媒の存在下で、窒素酸化物と水素を反応させてアンモニアを合成する。すなわち、窒素酸化物と水素を含む原料ガスが、本実施形態の触媒を通過することによって、アンモニアを含む反応後ガスとして得られる。窒素酸化物の還元反応が進行するように、また合成されたアンモニアが酸化されないように、原料ガスには、酸素(O)をほとんど含まないこと、例えば原料ガスの酸素濃度が0.5質量%以下であることが好ましい。また、効率よくアンモニアが合成できるので、窒素酸化物と水素を反応させるときの温度は、150℃~300℃であることが好ましい。
【実施例0013】
実施例1:1%Pt/1%W/TiO触媒の調製
一般的なゾル-ゲル法でTiOを調製した。ヘキサクロリド白金(IV)酸(富士フイルム和光純薬株式会社、試薬特級)をイオン交換水に溶解して1%Pt水溶液を得た。0.3gの(NH10(H1242)(富士フイルム和光純薬株式会社、85+%)と1.3gの1%Pt水溶液を100mLのイオン交換水に溶解して混合水溶液を得た。この混合水溶液を超音波バスに20分間かけて完全に均一にした。この混合水溶液に、調製した2gのTiOを加えてスラリーを得た。ロータリーエバポレーターを用いて、このスラリーを40℃で乾燥させて固形分を得た。
【0014】
空気中でこの固形分を500℃で4時間焼成した後、90vol%窒素と10vol%水素の混合気流下、400℃で1時間還元して1%Pt/1%W/TiO触媒(Ptの質量/(Ptの質量+Wの質量+TiOの質量)とWの質量/(Ptの質量+Wの質量+TiOの質量)がともに1%であり、PtとWがTiOに担持されている触媒。以下同様)を得た。なお、「1%Pt/1%W/TiO触媒」を、単に「1Pt/1W/TiO」と記載することがある。他の実施例および比較例の触媒についても同様である。
【0015】
実施例2:1%Pt/5%W/TiO触媒の調製
0.152gの(NH10(H1242)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして1Pt/5W/TiOを得た。
【0016】
実施例3:1%Pt/10%W/TiO触媒の調製
0.32gの(NH10(H1242)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして1Pt/10W/TiOを得た。
【0017】
実施例4:1%Pt/20%W/TiO触媒の調製
0.71gの(NH10(H1242)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして1Pt/20W/TiOを得た。
【0018】
実施例5:1%Pt/40%W/TiO触媒の調製
1.9gの(NH10(H1242)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして1Pt/40W/TiOを得た。
【0019】
比較例:1%Pt/TiO触媒の調製
(NH10(H1242)を用いなかった点を除いて、実施例1と同様にして1Pt/TiOを得た。
【0020】
触媒活性評価
実施例1~実施例5および比較例の触媒について、一酸化窒素と水素からアンモニアを生成する活性をそれぞれ評価した。原料ガスとして、NO1000ppm、H3000ppm、およびアルゴンから構成される混合ガスを用いた。一酸化窒素と水素を反応させてアンモニアを合成するときの化学反応は下記の化学反応式で表される。
2NO+5H→2NH+2H
【0021】
内径10mm×長さ180mmの部分と内径8mm×長さ180mmの部分が連結された長さ360mmの石英製反応管の反応管内の中央部に、石英ガラスウールで上下に挟んだ触媒0.15gを設置した。両端の開口が上下になるようにこの反応管を設置し、上の開口から反応管内に原料ガスを毎分250mLで供給し、原料ガスを触媒に接触させた。なお、反応管内の温度を500℃に維持し、原料ガスの供給開始から30分間経過後の接触後ガス、すなわち反応後ガスを下の開口から採取し分析した。分析は多重反射ガスセルを備えたフーリエ変換赤外分光計(ThermoFischer、Nicolet is50)とガスクロマトグラフ(Agilent、490 MicroGC)によって行った。また、同様にして、反応管内の温度を500℃から降下させ、温度降下中の任意の温度のときの反応後ガスを分析した。
【0022】
NOとNHの濃度は、赤外分光計にて計測された1934cm-1と1122cm-1での面積値からそれぞれ算出した。また、NOの変換率、NHの収率(NOのNHへの変換率)、およびNHの選択率は、以下の計算式によってそれぞれ算出した。
NOの変換率(%)=(原料ガス中のNO濃度-反応後ガス中のNO濃度)/原料ガス中のNO濃度×100
NHの収率(%)=反応後ガス中のNH濃度/原料ガス中のNO濃度×100
NHの選択率(%)=反応後ガス中のNH濃度/(反応後ガス中のNH濃度+反応後ガス中のN濃度+反応後ガス中のNO濃度)×100
【0023】
図1は、実施例1~実施例5および比較例の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOの変換率の関係を示している。図1に示すように、比較的低温である100℃付近からNOが消費された。図2は、実施例1~実施例5および比較例の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNHの収率の関係を示している。図2に示すように、比較的低温である100℃付近からNHが合成された。
【0024】
図3は、実施例1~実施例5および比較例の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNHの選択率の関係を示している。図3に示すように、NHが合成されるほぼ全温度領域で高い反応選択性を示した。図4は、実施例1~実施例5および比較例のそれぞれの触媒を用いたときの反応温度200℃におけるNHの収率を示している。図4に示すように、実施例の触媒を用いたとき、反応温度200℃の比較的低温でも、NHの収率が高かった。特に実施例1と実施例2の触媒を用いたとき、すなわち、タングステン含有量が1質量%~5質量%の触媒を用いたとき、NHの収率が極めて高かった。
図1
図2
図3
図4