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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075129
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】組成物及び吸水材
(51)【国際特許分類】
   C08L 35/00 20060101AFI20240527BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C08L35/00
C08L29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186338
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 吉延
(72)【発明者】
【氏名】梶川 正浩
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB091
4J002BB141
4J002BB171
4J002BE022
4J002BH021
4J002GA00
4J002GB00
4J002GB01
4J002GC00
4J002GJ02
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】吸水率、吸水速度及び膨潤状態での経時安定性に優れる吸水材として、吸水が必要とされる各種分野で好適に用いられる組成物を提供すること。
【解決手段】オレフィン単位、及び、マレイン酸又は無水マレイン酸単位を含む共重合体と、けん化度が70モル%以下であるポリビニルアルコールと、を含有し、ポリビニルアルコールの含有量が、共重合体100質量部に対して7~25質量部である、ことを特徴とする組成物を用いる。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン単位、及び、マレイン酸又は無水マレイン酸単位を含む共重合体と、
けん化度が70モル%以下であるポリビニルアルコールと、を含有し、
前記ポリビニルアルコールの含有量が、前記共重合体100質量部に対して7~25質量部である、組成物。
【請求項2】
前記けん化度が20モル%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
吸水材として用いられる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物を含む、吸水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び吸水材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自重の数十~数百倍もの水を吸収する高吸水性樹脂を用いた吸水材が提案されている。このような吸水材について、衛生用品分野では生理用ナプキンや使い捨ておむつ、農園芸分野では保水材等、土木、建築分野では汚泥の凝固材、結露防止材、止水材等として、広範囲な分野に用途開発が進められている。高吸水性樹脂の具体例としては、澱粉-アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、澱粉-アクリル酸グラフト重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体の加水分解物、ポリアクリル酸塩架橋体、カルボキシメチル化セルロース、オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0003】
吸水材には、多量の水を速く吸収する能力が求められると共に、水を吸収して膨潤した状態を安定に保持できる能力も求められる。これに対し、例えば特許文献1には、吸水性樹脂の粉末に、不活性な無機質粉末の存在下で水と架橋剤を添加して、架橋反応と水の留去を行なうに際し、水と架橋剤とともにポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩を添加することを特徴とすることを特徴とする吸水性樹脂組成物の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-241322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、吸水率、吸水速度及び膨潤状態での経時安定性に優れる吸水材として好適に用いられる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、吸水性樹脂としてオレフィン-(無水)マレイン酸共重合体を用いた場合、ポリビニルアルコールを併用し、かつ、そのポリビニルアルコールのけん化度及び含有量を所定の範囲にすることにより、優れた吸水率、吸水速度及び膨潤状態での経時安定性が得られることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の側面を含む。
[1] オレフィン単位、及び、マレイン酸又は無水マレイン酸単位を含む共重合体と、けん化度が70モル%以下であるポリビニルアルコールと、を含有し、ポリビニルアルコールの含有量が、共重合体100質量部に対して7~25質量部である、組成物。
[2] けん化度が20モル%以上である、[1]に記載の組成物。
[3] 吸水材として用いられる、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の組成物を含む、吸水材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吸水率、吸水速度及び膨潤状態での経時安定性に優れる吸水材として好適に用いられる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態は、オレフィン単位、及び、マレイン酸又は無水マレイン酸単位(以下「(無水)マレイン酸単位」ともいう)を含む共重合体(以下「オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体」ともいう)と、ポリビニルアルコールと、を含有する組成物である。
【0010】
オレフィン単位におけるオレフィンの炭素数は、例えば、2以上、3以上、又は4以上であってよく、6以下、5以下、又は4以下であってよく、4であってもよい。オレフィンは、直鎖状であっても分岐状であってもよい。オレフィンは、好ましくは炭素数4のオレフィン(ブチレン)であり、より好ましくは炭素数4の分岐状オレフィン(イソブチレン)である。
【0011】
オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体における(無水)マレイン酸単位に対するオレフィン単位の質量比(オレフィン単位/(無水)マレイン酸単位)は、2/8以上、3/7以上、又は4/6以上であってよく、8/2以下、7/3以下、又は6/4以下であってよい。
【0012】
オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体の重量平均分子量は、10000以上、30000以上、又は50000以上であってよく、500000以下、300000以下、又は100000以下であってよい。
【0013】
オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体の含有量は、組成物の不揮発分全量を基準として、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよく、93質量%以下であってもよい。
【0014】
ポリビニルアルコールは、70モル%以下のけん化度を有する。このようなポリビニルアルコールをオレフィン-(無水)マレイン酸共重合体と併用することにより、吸水率、吸水速度及び膨潤状態での経時安定性に優れる吸水材として好適な組成物が得られる。ポリビニルアルコールのけん化度は、吸水率が更に優れる観点から、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは39モル%以上、特に好ましくは46モル%以上であり、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは55モル%以下、特に好ましくは53モル%以下である。
【0015】
本明細書において、ポリビニルアルコールのけん化度は、以下の方法で測定されたけん化度を意味する。
ポリビニルアルコール約1gを精密に量り、三角フラスコに入れ、エタノール40mlを加え、必要に応じ加熱して、ポリビニルアルコールを溶解する。エタノール性水酸化カリウム試薬20mlを精秤し加え、還流冷却器を付けて水浴中で30分間、時々フラスコを振りながら加熱する。冷却後、フェノールフタレイン試薬を数滴加え、直ちに適量の0.5mol/L塩酸で中和滴定を行う(本試験)。また、本試験とは別に、ポリビニルアルコールを用いない以外は、本試験と同様の手順で中和滴定を行う(空試験)。本試験及び空試験における中和滴定の結果から、次式によりけん化度を求める。
けん化度=(a-b)×28.05/ポリビニルアルコールの採取量(g)
a:空試験における0.5mol/L塩酸の消費量(ml)
b:本試験における0.5mol/L塩酸の消費量(ml)
【0016】
ポリビニルアルコールの含有量は、吸水率、吸水速度及び膨潤状態での経時安定性に優れる吸水材として好適な組成物が得られる観点から、オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体100質量部に対して、7~25質量部である。ポリビニルアルコールの含有量の下限値は、吸水率及び吸水速度が更に優れる観点から、好ましくは、8質量部、9質量部、又は10質量部であってもよく、より好ましくは、12質量部、14質量部、16質量部、又は18質量部であってもよい。ポリビニルアルコールの含有量の上限値は、24質量部、23質量部、又は22質量部であってもよい。
【0017】
ポリビニルアルコールの含有量は、組成物の不揮発分全量を基準として、7質量%以上、8質量%以上、又は9質量%以上であってよく、20質量%以下、18質量%以下、又は17質量%以下であってよい。
【0018】
組成物は、オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体及びポリビニルアルコールに加えて、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分としては、シリカ等の無機化合物、増粘剤、消泡剤などが挙げられる。
【0019】
組成物は、一実施形態において、水溶液の状態であってよい。この場合、組成物(水溶液)は、例えば、オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体と、ポリビニルアルコールと、塩基性化合物と、水とを含有してよい。この組成物(水溶液)は、例えば、オレフィン-(無水)マレイン酸共重合体の一部又は全部を塩基性化合物水溶液で中和した後、ポリビニルアルコールを更に加えることにより得られる。
【0020】
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア;トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ピリジン、モルホリン、モノエタノールアミン等の有機アミン;Na、K、Li、Ca等を含む金属塩基化合物などが挙げられる。
【0021】
組成物は、他の一実施形態において、膜状(フィルム状)であってよい。この場合、膜状(フィルム状)の組成物は、例えば、上述した水溶液を所望の厚みの容器に注いだ後、乾燥させて当該水溶液から水を揮発させることにより得られる。
【0022】
組成物は、他の一実施形態において、粉末状であってよい。この場合、粉末状の組成物は、例えば、乾燥炉や熱板等で、溶剤成分を含む組成物から溶剤成分を除いて板状になった組成物を、グラインダーにより粉砕することにより得られる。
【0023】
以上説明した組成物は、吸水材として好適に用いられる。言い換えれば、本発明の他の一実施形態は、上述した組成物を含む吸水材である。吸水材は、吸水が必要とされる各種分野で好適に使用される。吸水材は、例えば、生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の衛生用品に用いられてよく、農園芸用の保水材として用いられてもよく、土木建築用の汚泥の凝固材、結露防止材、止水材等として用いられてもよい。
【実施例0024】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0025】
[実施例1]
イソブチレン-無水マレイン酸共重合体((株)クラレ製「イソバン06」、重量平均分子量:80000~90000)を、不揮発分が約25質量%となるようにアンモニア水に溶解させ、共重合体溶液を調製した。
【0026】
得られた共重合体溶液と、けん化度が39~46モル%であるポリビニルアルコール(以下「PVA1」ともいう。)の水溶液(三菱ケミカル(株)製「ゴーセネックス LW-100」)とを、PVA1(不揮発分)の含有量がイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(不揮発分)100質量部に対して10質量部となるように混合することにより組成物を得た。
【0027】
[実施例2]
PVA1(不揮発分)の含有量をイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(不揮発分)100質量部に対して20質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0028】
[実施例3]
PVA1に代えて、けん化度が46~53モル%であるポリビニルアルコール(三菱ケミカル(株)製「ゴーセネックス LW-200」、以下「PVA2」ともいう。)を用いた以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0029】
[実施例4]
PVA2(不揮発分)の含有量をイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(不揮発分)100質量部に対して20質量部に変更した以外は、実施例3と同様にして組成物を得た。
【0030】
[比較例1]
PVA1を用いなかった以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0031】
[比較例2]
PVA1(不揮発分)の含有量をイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(不揮発分)100質量部に対して5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0032】
[比較例3]
PVA1(不揮発分)の含有量をイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(不揮発分)100質量部に対して30質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0033】
[比較例4]
PVA1に代えて、けん化度が80モル%であるポリビニルアルコール((株)クラレ製「クラレポバール 35-80」、以下「PVA3」ともいう。)を用いた以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0034】
[比較例5]
PVA3(不揮発分)の含有量をイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(不揮発分)100質量部に対して20質量部に変更した以外は、比較例4と同様にして組成物を得た。
【0035】
[比較例6]
PVA1に代えて、けん化度が89モル%であるポリビニルアルコール(三菱ケミカル(株)「ニチゴーGポリマー AYB8041W」、以下「PVA4」ともいう。)を用いた以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0036】
[比較例7]
PVA4(不揮発分)の含有量をイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(不揮発分)100質量部に対して20質量部に変更した以外は、比較例6と同様にして組成物を得た。
【0037】
得られた実施例及び比較例の各組成物を用いて、以下の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0038】
(吸水率の評価)
組成物に、共重合体溶液と同量のイオン交換水を加えて、よく攪拌混合した後、100mm角、高さ30mmのシリコーンケースに注ぎ込む。通気性がありゴミの混入を防止するための紙等の素材でシリコーンケースに蓋をして、72時間、常温で乾燥する。続いて、ボックス型の乾燥機を用いて、80℃で1時間乾燥した後、150℃で10分間の熱処理を行い、評価用皮膜を得た。得られた皮膜を10mm×20mm程度の試験片に切り出し、真鍮製の金網に試験片を挟み込んで樹脂サンプルを作製し、この樹脂サンプルの重量(試験前重量)を測定した。この樹脂サンプルを容量70mlのガラス瓶に入れ、イオン交換水でガラス瓶の中を満たして、蓋を閉めた。水に浸漬されたサンプルを60℃のオーブンで72時間加熱後、常温まで冷却した。次いで、水からサンプルを取り出し、余分な水分を除いてから、重量(試験後重量)を測定して、吸水率(=試験後重量/試験前重量×100(%))を算出した。
【0039】
(吸水速度の評価)
上記の樹脂サンプル1.5gとイオン交換水67gとを精秤し、容量70mlのガラス瓶に樹脂サンプルを入れた。続いて、イオン交換水を投入し、投入してから、樹脂サンプルがイオン交換水を吸収してゲル状になるまでの時間を測定した。表1中、「<1min」及び「<2min」は、それぞれ、樹脂サンプルが1分以内及び2分以内にゲル状になったことを意味する。
【0040】
(膨潤状態での経時安定性の評価)
上記の吸水速度の評価を実施した後(吸水後)の樹脂サンプルについて、回転粘度計ローター番号4、回転数30の条件で、約25℃の雰囲気下での粘度を測定した。また、上記の粘度測定後、樹脂サンプルを約25℃の環境下に一週間保管し、保管後の樹脂サンプルについて、上記と同様に粘度を測定した。結果を表1に示す。実施例1~4では、保管前後での粘度変化が小さく、経時安定性に優れていることが分かった。
なお、表1中、「ゲル無」は樹脂が水に溶解しゲルが無い状態であったことを意味し、「低膨潤」は水中にゲルが形成されていたが樹脂に吸収されない水が多く残っている状態であったことを意味し、いずれの場合も粘度測定は行わなかった。
【0041】
【表1】