(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075199
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ワニス組成物及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 4/00 20060101AFI20240527BHJP
C09D 11/10 20140101ALI20240527BHJP
【FI】
C09D4/00
C09D11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186464
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 章照
(72)【発明者】
【氏名】澤田 幸子
【テーマコード(参考)】
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4J038FA111
4J038JB18
4J038KA03
4J038MA09
4J038NA01
4J038NA04
4J038NA09
4J038NA12
4J038PA17
4J038PC08
4J039AD09
4J039EA43
4J039FA02
(57)【要約】
【課題】印刷層との密着性が高く、塗工後の印刷物の耐擦過性及び耐水性にも優れ、かつ、保存安定性が良好なワニス組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーと、カルボキシレート基と反応可能な官能基を有する架橋剤を含有する、ワニス組成物。印刷基体上に、少なくとも印刷層と保護層とを順次有する印刷物であって、前記印刷層が、カルボキシレート基を有する樹脂を含有し、前記保護層が、このワニス組成物を含有する、印刷物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーと、カルボキシレート基と反応可能な官能基を有する架橋剤を含有する、ワニス組成物。
【請求項2】
前記架橋剤がカルボジイミド化合物である、請求項1に記載のワニス組成物。
【請求項3】
前記紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーが、(メタ)アクリレート系モノマー及び/又はオリゴマーである、請求項1又は2に記載のワニス組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、親水性構造を有する、請求項1又は2に記載のワニス組成物。
【請求項5】
前記架橋剤の含有量が1質量%以上50質量%以下である、請求項1又は2に記載のワニス組成物。
【請求項6】
前記紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーの合計質量に対する前記架橋剤の含有量が1質量%以上30質量%以下である、請求項1又は2に記載のワニス組成物。
【請求項7】
印刷基体上に、少なくとも印刷層と保護層とを順次有する印刷物であって、
前記印刷層が、カルボキシレート基を有する樹脂を含有し、
前記保護層が、請求項1又は2に記載のワニス組成物を含有する、印刷物。
【請求項8】
前記印刷基体と前記印刷層の間に接着層を有する、請求項7に記載の印刷物。
【請求項9】
前記接着層が、カルボキシレート基を有する樹脂又はポリエチレンイミン樹脂を含有する、請求項8に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワニス組成物及びそれによって作製された印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
写真、ラベル、パッケージ等の印刷物の保護、美粧化を目的として保護層(オーバーコート層)を形成するために用いられる紫外線硬化型のワニスは、ラミネートフィルム加工よりも安価で生産性が高いため、幅広く使用されている(特許文献1,2)。一方、バリアブル、少数ロット印刷に適した電子写真方式、あるいはインクジェット方式に代表されるデジタル印刷は、従来のアナログ印刷方式では難しかった小ロット、オンデマンド、短納期を中心とした市場領域での使用が広がっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-17787号公報
【特許文献2】特開平8―234664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、それらのデジタル印刷方式においては、使用されるインク、トナーのバインダー樹脂の種類が限られるために、折角紫外線硬化型のワニスで保護層(オーバーコート層)を形成しても、印刷領域では印刷層(インク層)と、非印刷領域では接着層(プライマー層)との密着性に劣ることが多く、普及の障害になってきた。ここで言う密着性とは、下記のようなケースも含む。一つは、インク層上に衝突や擦過等の機械的負荷がかかり、オーバーコート層がインク層から剥離し、露出したインク層が更に機械的負荷により摩耗するような場合である。二つ目は、浸水等により水が浸透するような条件下で、接着層(プライマー層)が溶解し、印刷基体から剥離して、結果としてインク層がオーバーコート層ごと基体から剥離するような場合である。これら2つの場合、前者ではオーバーコート層とインク層の密着性が弱いことが機械的ダメージのきっかけとなり、後者ではオーバーコート層と基体との密着性が、接着層(プライマー層)の溶解により弱まることが原因である。
このような密着性を改良すべく、ワニスに添加剤を添加する検討も行われてきたが、密着性改良効果が限定的であった。加えて、一般に、紫外線硬化型のワニスは高価であるため、密着性を改良しようとして添加剤を加えても、液寿命が短くなったり、追加加熱が必要になる等、生産コストが増加してしまい、実用化が困難であった。
【0005】
本発明は、上述の従来技術に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、印刷層との密着性が高く、塗工後の印刷物の耐擦過性及び耐水性にも優れ、かつ、液保存安定性が良好なワニス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、少なくとも紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーと、カルボキシレート基と反応可能な官能基を有する架橋剤を併用することで、印刷層との密着性が高く、塗工後の印刷物の耐擦過性及び耐水性にも優れ、かつ、液保存安定性が良好なワニス組成物が得られることを見出し、以下の本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記の<1>~<7>に存する。
【0008】
<1> 少なくとも紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーと、カルボキシレート基と反応可能な官能基を有する架橋剤を含有する、ワニス組成物。
【0009】
<2> 前記架橋剤がカルボジイミド化合物である、<1>に記載のワニス組成物。
【0010】
<3> 前記紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーが、(メタ)アクリレート系モノマー及び/又はオリゴマーである、<1>又は<2>に記載のワニス組成物。
【0011】
<4> 前記架橋剤が、親水性構造を有する、<1>~<3>のいずれかに記載のワニス組成物。
【0012】
<5> 前記架橋剤の含有量が1質量%以上50質量%以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のワニス組成物。
【0013】
<6> 前記紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーの合計質量に対する前記架橋剤の含有量が1質量%以上30質量%以下である、<1>~<5>のいずれかに記載のワニス組成物。
【0014】
<7> 印刷基体上に、少なくとも印刷層と保護層とを順次有する印刷物であって、
前記印刷層が、カルボキシレート基を有する樹脂を含有し、
前記保護層が、<1>~<6>のいずれかに記載のワニス組成物を含有する、印刷物。
【0015】
<8> 前記印刷基体と前記印刷層の間に接着層を有する、<7>に記載の印刷物。
【0016】
<9> 前記接着層が、カルボキシレート基を有する樹脂又はポリエチレンイミン樹脂を含有する、<8>に記載の印刷物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、印刷層との密着性が高く、塗工後の印刷物の耐擦過性及び耐水性にも優れ、かつ、液保存安定性が良好なワニス組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施形態の代表例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変形して実施することができる。
以下の記載において特に明示が無い場合は、諸物性の測定や操作の工程は、常温、常圧の条件下を基準とする。
【0019】
<ワニス組成物>
本発明のワニス組成物は、少なくとも紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーと、カルボキシレート基と反応可能な官能基を有する架橋剤を含有する。本発明のワニス組成物は、印刷物の保護、美粧化を目的として、印刷物上に塗布又は印刷されるコーティング剤として用いることができる。言い換えれば、本発明のワニス組成物を印刷物上に塗布又は印刷することにより、保護層(オーバーコート層)を形成することができる。すなわち、本発明のワニス組成物は、オーバープリントワニス組成物として用いることができる。また、本発明のワニス組成物は、印刷物表面全体に塗布又は印刷されてもよく、部分的に塗布又は印刷されてもよい。
【0020】
本発明のワニス組成物は、さらに、光重合開始剤を含有してもよい。
光重合開始剤を含有する場合、前記光重合開始剤と前記架橋剤の質量比(光重合開始剤:架橋剤)は、50:50~99:1が好ましく、70:30~98:2がより好ましく、85:15~97:3がさらに好ましい。前記質量比の範囲内であると、光硬化性が低下することなく、オーバーコート層とインク層や接着層との密着性、耐水性が良好となる。
【0021】
[紫外線硬化型モノマー、オリゴマー]
本発明において、「モノマー」とは、重合体の構成単位となり得る単量体を意味し、「オリゴマー」とは、質量平均分子量が1000以上10000以下の重合体を意味する。
本発明のワニス組成物は、紫外線硬化型モノマーと紫外線硬化型オリゴマーのどちらか一方のみを含有してもよく、両方を含有してもよい。紫外線硬化型モノマーと紫外線硬化型オリゴマーの両方を含有する場合、紫外線硬化型オリゴマーにおけるモノマー単位の構造と紫外線硬化型モノマーの構造はそれぞれ異なっていても良く、同じでもよい。
【0022】
(紫外線硬化型モノマー)
本発明のワニス組成物に用いる紫外線硬化型モノマーは、単官能のモノマーであっても多官能のモノマーであってもよく、多官能のモノマーが好ましい。多官能のモノマーを用いる場合、低エネルギーで紫外線硬化させるという点で、3官能以上のモノマーであることが好ましい。ただし、3官能以上のモノマーを用いる場合であっても、用途に応じて印刷基材への接着性、皮膜の柔軟性等の必要物性を得るために、適宜単官能、2官能のモノマーを併用してもよい。
【0023】
本発明のワニス組成物に用いる紫外線硬化型モノマーとしては、(メタ)アクリレート系モノマー、すなわち、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート等を用いることができる。その中でも、重合効率の観点から、多官能(メタ)アクリレートが好ましい。多官能(メタ)アクリレートの中でも、皮膜の柔軟性の観点から、2官能あるいは3官能(メタ)アクリレートがより好ましい。
また、本発明のワニス組成物に用いる紫外線硬化性モノマーは、直鎖型でも分岐型でもよく、分岐型であることが好ましい。
【0024】
前述の通り、紫外線硬化型モノマーとしては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートを用いることができる。
【0025】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシー3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールが1モルに対して4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAが1モルに対して2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート;グリセリンが1モルに対して3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンが1モルに対して3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAが1モルに対して4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
(紫外線硬化型オリゴマー)
本発明のワニス組成物に用いる紫外線硬化型オリゴマーとは、単官能のオリゴマーであっても多官能のオリゴマーであってもよく、多官能のオリゴマーが好ましい。多官能のオリゴマーを用いる場合、2官能オリゴマー、3官能オリゴマー、4官能オリゴマー、5官能以上のオリゴマー等を用いることができる。その中でも、皮膜の耐久性の観点から、2官能オリゴマー、3官能オリゴマー、4官能オリゴマーが好ましく、2官能オリゴマー、3官能オリゴマーがより好ましく、2官能オリゴマーがさらに好ましい。また、2官能オリゴマーの中でも、分子構造の両端に重合性官能基を有するものが好ましい。前記重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基等を挙げることができるが、その中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましく、アクリロイル基がより好ましい。
【0028】
紫外線硬化型オリゴマーとしては、(メタ)アクリレート系オリゴマーを用いることができる。(メタ)アクリレート系オリゴマーとしては、例えば、アミン変性アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリオレフィン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリスチレン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0029】
紫外線硬化型オリゴマーのモノマー単位は、単官能モノマー、多官能モノマーのどちらであってもよいが、重合効率の観点から、多官能モノマーであることが好ましい。
紫外線硬化型オリゴマーのモノマー単位が多官能モノマーである場合、硬化性や強度の向上に大きく寄与することから、2官能以上4官能以下のモノマーであることが好ましい。
【0030】
本発明のワニス組成物中の紫外線硬化型モノマーの含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。一方、80質量%以下が好ましい。
本発明のワニス組成物中の紫外線硬化型オリゴマーの含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。一方、30質量%以下が好ましい。
紫外線硬化型モノマー及び紫外線硬化型オリゴマーの両方を含有する場合、本発明のワニス組成物中の紫外線硬化型モノマー及び紫外線硬化型オリゴマーの合計含有量は、60質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0031】
本発明のワニス組成物に紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーを含有させるにあたっては、ワニス組成物に、紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーから構成されるUVニスを含有させてもよい。前記UVニスの市販品としては、UV VECTAコートニス PC-3KW-2(T&K TOKA社製)等を用いることができる。
本発明のワニス組成物中の前記UVニスの含有量は、ワニス組成物の全質量に対して80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。一方、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。
【0032】
[架橋剤]
本発明のワニス組成物は、カルボキシレート基と反応可能な官能基を有する架橋剤を含有する。カルボキシレート基と反応可能な官能基を有することにより、前記架橋剤はインク層成分及び/又は接着層成分と反応することができ、インク層や接着層との密着性が良好となる。
【0033】
前記架橋剤の例としては、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、オキサゾリン化化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。中でも、低温反応性の観点からはアジリジン化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物が好ましく、加えて混合後の液寿命の観点からはエポキシ化合物、カルボジイミド化合物がより好ましく、低毒性の観点からは、カルボジイミド化合物が最も好ましい。
カルボジイミド化合物としては、印刷層のバインダー樹脂が有するカルボキシレート基を十分に架橋し、所望の性能を得る観点から、カルボジイミド基を1分子あたり2個以上有することが好ましい。
【0034】
紫外線硬化型モノマー/オリゴマー等と混合後の液安定性の観点から、前記架橋剤は、親水性構造を有することが好ましく、特に、立体的にかさ高い親水性構造を有することが好ましい。立体障害となるかさ高い構造を有することで、紫外線硬化型モノマー/オリゴマー、および他の添加剤との接触機会を低減させ、液中での反応を抑制することができる。立体的にかさ高い親水性構造としては、アルコキシ基又はフェノキシ基で末端封鎖されたポリアルキレンオキサイド由来の構造、ジアルキルアミノアルコール由来の構造、ヒドロキシカルボン酸アルキルエステル由来の構造、ジアルキルアミノアルキルアミン由来の構造、アルキルスルホン酸塩由来の構造等が挙げられる。
【0035】
前記カルボジイミド化合物は、例えば、有機ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応により、イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を合成した後、親水性の高い有機化合物と、イソシアネート末端を反応させることで得ることができる。
前記親水性の高い有機化合物としては、アルコキシ基又はフェノキシ基で末端封鎖されたポリアルキレンオキサイド、ジアルキルアミノアルコール、ヒドロキシカルボン酸アルキルエステル、ジアルキルアミノアルキルアミン、アルキルスルホン酸塩等が挙げられる。この中でも、水中での安定なミセル形成により、カルボジイミド基を空間的にポリウレタン樹脂から隔離する観点から、アルコキシ基又はフェノキシ基で末端封鎖されたポリアルキレンオキサイドが好ましい。
【0036】
前記カルボジイミド化合物は、ジイソシアネート化合物を二分子以上重合することで得られるポリカルボジイミドであることが好ましい。また、脂肪族(脂環族を含む)系あるいは芳香族系カルボジイミド化合物が好ましく、脂肪族(脂環族を含む)系カルボジイミド化合物がより好ましい。前記カルボジイミド化合物の重合度は、2以上であることが好ましい。一方、100以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
脂肪族(脂環族を含む)系カルボジイミド化合物の重合単位としては、4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジイソホロンメタンカルボジイミド、シクロヘキシルカルボジイミド、イソプロピルカルボジイミド、メチルカルボジイミド、イソブチルカルボジイミド、オクチルカルボジイミド、t-ブチルカルボジイミド等が挙げられる。この中でも、低毒性、液安定性の観点から、立体的にかさ高い構造を使用することが効果的であり、4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジイソホロンメタンカルボジイミド、シクロヘキシルカルボジイミドが好ましく、4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドがより好ましい。
芳香族系カルボジイミド化合物の重合単位としては、フェニルカルボジイミド、β-ナフチルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド等が挙げられる。この中でも、低毒性、液安定性の観点から、テトラメチルキシリレンカルボジイミドが好ましい。
【0037】
これらのカルボジイミド化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
カルボジイミド化合物を2種以上混合して用いる場合、カルボジイミド基当量が異なるカルボジイミド化合物を2種以上混合させて、反応性と液安定性のバランスを取ることが好ましい。
【0038】
カルボジイミド化合物1分子中のカルボジイミド基(N=C=N基)量の指標として、カルボジイミド基当量を次のように定義する。
(カルボジイミド基当量)=(カルボジイミド基1モルあたりのカルボジイミド化合物の構造単位の化学式量)(単位:mol-1)
前記カルボジイミド基当量が小さいものほど、1分子中に含有されるカルボジイミド基の量が多く、逆にカルボジイミド基当量が大きいものほど、1分子中に含有されるカルボジイミド基の量が少ないことを意味する。
前記カルボジイミド化合物の好ましいカルボジイミド基当量は、好ましくは300mol-1以上、より好ましくは400mol-1以上、更に好ましくは500mol-1以上である。一方、好ましくは800mol-1以下、より好ましくは700mol-1以下である。カルボジイミド基当量が前記下限値以上であると液安定性が向上し、カルボジイミド基当量が前記上限値以下であると架橋性が向上する。
【0039】
本発明のワニス組成物中の前記架橋剤の含有量としては、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。一方、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。前記含有量が前記下限値以上であると、十分に架橋され密着性や耐久性が向上し、前記含有量が前記上限値以下であると液安定性が向上する。
【0040】
本発明のワニス組成物において、前記紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーの合計質量に対する前記架橋剤の含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。一方、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
また、前述のように、本発明のワニス組成物に紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーから構成されるUVニスを含有させる場合、本発明のワニス組成物における前記UVニスの含有量に対する前記架橋剤の好ましい含有量は、前記紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーの合計質量に対する前記架橋剤の好ましい含有量(質量%)と同様である。
【0041】
[光重合開始剤]
光重合開始剤としては、紫外線照射により連鎖てい伝体(ラジカルまたはカチオン)を発生することができる化合物を用いることができる。具体的には、ベンゾインエーテル、α-アシロキシムエステル、ベンジルケタール、アセトフェノン誘導体、アシルフォスフィンオキサイド、α-ジカルボニル、芳香族ケトン、チオキサントン、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ベンゾイントシレート等を例示することができる。
本発明のワニス組成物中の光重合開始剤の含有量は、ワニス組成物中に十分な連鎖てい伝体を供給する観点から、ワニス組成物の総質量中、1~20質量%の範囲が望ましい。
なお、前記の光重合開始剤の種類に応じて、公知の光増感剤を適宜併用することができる。
【0042】
[界面活性剤]
本発明のワニス組成物は、被塗工面に均一に塗工させることを補助し、かつ当該ワニス組成物が被塗工面内へ必要に応じて浸透することを促進するために、界面活性剤をさらに含有してもよい。界面活性剤を含有すると、塗工ムラ等の塗工不良を抑制することもできる。
【0043】
界面活性剤として具体的には、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を使用することができる。塗布液安定性の観点から、その中でもノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0044】
好ましいノニオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビット脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、POEアセチレングリコール類、テトラPOE・テトラPOPエチレンジアミン縮合物類、POEヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体、POEミツロウ誘導体、POEラノリン誘導体、アルカノールアミド等を挙げることができる。
【0045】
これらノニオン性界面活性剤はそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0046】
上記のうち、ワニス組成物の良好な安定性の観点から、POEアセチレングリコール類、テトラPOE・テトラPOPエチレンジアミン縮合物類がより好適に使用することができ、特に、POEアセチレングリコール類が最も好適に使用することができる。
POEアセチレングリコール類の市販品としては、サーフィノール(登録商標、日信化学工業社)等を挙げることができる。テトラPOE・テトラPOPエチレンジアミン縮合物類の市販品としては、プルロニック(登録商標、BASF社)、テトロニック(登録商標、BASF社)等を挙げることができる。
なお、上記例示において、「POE」とは「ポリオキシエチレン」の略であり、「POP」とは「ポリオキシプロピレン」の略である。
【0047】
界面活性剤の数平均分子量は、400以上3000以下であることが好ましい。前記数平均分子量が400以上、あるいは3000以下であると、良好な塗工性、浸透性を得ることができる。
【0048】
[その他の添加剤]
本発明のワニス組成物は、必要に応じて公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、防カビ剤、光沢化剤(グロス化剤)、艶消し剤(マット化剤)、反応性アミン等の添加剤を含有してもよい。
【0049】
<ワニス組成物の製造方法>
本発明のワニス組成物の製造方法は限定されるものではない。具体的には、下記の方法が挙げられる。
紫外線硬化型モノマー及び/又はオリゴマー、及び、必要に応じて用いられる光重合開始剤、光増感剤、その他の添加剤を任意の順序で遮光下で混合し、40~50℃程度の液温で攪拌することによって液粘度を適度に下げ、均一に混合し、そこに架橋剤を、40~50℃程度に加温して適度の液粘度を低下させてから添加して、均一になるよう遮光下で攪拌し、室温まで冷却することによってワニス組成物を製造することができる。なお、前記架橋剤は、あらかじめ界面活性剤と混合されていてもよい。攪拌混合に際しては、攪拌速度には特に制約はなく、攪拌時間は通常5分間以上、好ましくは10分間以上である。
【0050】
<ワニス組成物の塗工方法>
本発明のワニス組成物は、あらかじめ基体表面に印刷層(印刷面)が形成された印字箇所、あるいは印刷層(印刷面)が形成されていない非印字箇所上に塗工し、紫外線露光によって架橋、硬化することによってオーバーコート層を形成することができる。
【0051】
ワニス組成物の塗工方法には、特に制約は無いが、ワイヤーバーコート法、ダイコート法、スロットダイコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、ゴムロールコート法、アニロックスロールコート法、スクリーンコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
本発明のワニス組成物の塗工量は、塗工される印刷層の層厚、美粧性、必要な耐久性の程度にもよるため一概には規定できないが、硬化性と、塗工面の均一性の観点から、通常0.1g/m2以上20g/m2以下、好ましくは1g/m2以上10g/m2以下である。
【0052】
ワニス組成物を塗工した印刷層付き基体は、次いで紫外線照射することによりワニス組成物を硬化して、オーバーコート層を形成する。
紫外線照射に際して用いる紫外線照射用のランプには、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、無電極ランプ、LED-UVランプ等紫外線を発生する任意のランプが使用できる。また、照射雰囲気は、大気中、不活性ガス中、ドライエアー中などの任意の雰囲気で行うことができる。紫外線の照射量は通常5~400mJ/cm2である。硬化は、オーバーコート層を指で触って、変形や付着がない程度まで行うことが好ましい。
【0053】
ワニス組成物中の架橋剤の反応は、加熱により促進される。上記の紫外線照射と同時、あるいは照射直後に、送風加熱、赤外線加熱、ハロゲンランプやキセノンフラッシュランプ等による露光加熱、IH加熱等により加熱することができる。前記露光加熱は、前記紫外線照射と併用することも可能である。加熱を行う際の温度は、生産性、製造コスト、基体の選択制の観点から80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、40℃以下~加熱無しであることが最も好ましい。加熱により、基体に使用される材料の収縮、曲がり等の変形が起きる可能性が有り、加熱工程が追加されることにより、生産性が低下し、生産コストが上昇する。
上記の、紫外線照射と同時、あるいは照射直後の加熱工程に加えて、更にオーブン等で低温で長時間加温(エージング)を実施してもよい。その際の温度としては、硬化性を終結させる観点から、通常35℃以上、好ましくは40℃以上であり、一方、基体の収縮、変形、印刷層を重ねた場合の固着(ブロッキング)防止の観点から、通常60℃以下、好ましくは55℃以下である。加温(エージング)時間としては、12時間以上、72時間以内が好ましい。
【0054】
[基体(印刷基体)]
塗工あるいは印刷が施される基体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、スチール、マグネシウム等の金属基体や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマーといった可撓性基体が使用され、更にはガラスや紙、天然素材等でもよい。可撓性基体の場合、延伸体や多孔体、発泡体等であってもよい。また、ポリエチレンコート紙等、樹脂でコーティングされた紙を用いることもできる。このような基体上の印刷部には、一般的には0.1μm~10μmの印刷層が形成される。また、基体と印刷層の間に、密着性を高める目的から接着層(プライマー層)を設けてもよい。
【0055】
[印刷層及び接着層(プライマー層)]
前記印刷層、接着層(プライマー層)に制限は無いが、少なくとも一方には、カルボキシレート基を有する樹脂が使用されていることが好ましい。当該樹脂の例としては、エチレン/アクリル酸共重合物、エチレン/メタクリル酸共重合物、ポリエチレンあるいはポリプロピレンの無水マレイン酸変性物、ポリエステル、スチレン/アクリル酸共重合物、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。中でも、反応性の高さから、酸価の高いエチレン/アクリル酸共重合物、エチレン/メタクリル酸共重合物が好適である。
【0056】
本発明では、基体上に接着層(プライマー層)を形成し、その上に印刷層を形成することが好ましい。基体上に接着層(プライマー層)を形成する方法としては、フレキソ、スクリーン、スプレー、ローラー、刷毛等による塗装が挙げられる。印刷層を形成する方法としては、オフセット、グラビア、フレキソ、スクリーン印刷のようなアナログ印刷、及び、電子写真、インクジェットのようなデジタル印刷が挙げられる。その中でも、デジタル印刷が好ましい。
【0057】
[印刷物]
前述のように、印刷基体上に印刷層を形成し、さらに、本発明のワニス組成物を塗工、硬化してオーバーコート層を形成することで、印刷物を得ることができる。
【0058】
前記印刷物において、前記印刷層は、カルボキシレート基を有する樹脂を含有することが好ましい。
また、前記印刷基体と前記印刷層の間には、接着層(プライマー層)を有することが好ましい。前記接着層は、カルボキシレート基を有する樹脂又はポリエチレンイミン樹脂を含有することが好ましい。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではなく任意に変形して実施することができる。
【0060】
[実施例1]
<ワニス組成物1の製造>
アクリレートモノマー混合物、ジアクリル酸ヘキサメチレン、アクリル酸オリゴマー、光重合開始剤等から構成される無溶媒UVニス(商品名:UV VECTAコートニス PC-3KW-2,T&K TOKA社製)94.9gを40℃に加温攪拌し、そこに予め40℃に加温した無溶媒カルボジイミド化合物(商品名:カルボジライト V-02B、日清紡ケミカル社製)5gと、下記式(1)に示すアセチレングリコール系の界面活性剤(商品名:サーフィノール465,日信化学工業社製)0.1gを添加して、40℃で30分間攪拌することで、ワニス組成物1を100g得た。製造直後の液粘度は、25℃で637mPa・sであり、室温で5ヶ月保管後の液粘度は、632mPa・sであった。
【0061】
【0062】
[実施例2]
<ワニス組成物2の製造>
無溶媒UVニス(商品名:UV VECTAコートニス PC-3KW-2,T&K TOKA社製)を89.9g、無溶媒カルボジイミド化合物(商品名:カルボジライト V-02B、日清紡ケミカル社製)を10g使用した以外は、実施例1と同様にしてワニス組成物2を100g製造した。製造直後の液粘度は、25℃で757mPa・sで、室温で5ヶ月保管後の液粘度は、772mPa・sであった。
【0063】
[実施例3]
<ワニス組成物3の製造>
無溶媒UVニス(商品名:UV VECTAコートニス PC-3KW-2,T&K TOKA社製)を79.9g、無溶媒カルボジイミド化合物(商品名:カルボジライト V-02B、日清紡ケミカル社製)を20g使用した以外は、実施例1と同様にしてワニス組成物3を100g製造した。製造直後の液粘度は、25℃で986mPa・sで、室温で5ヶ月保管後は液が二層に分離していたが、再攪拌によって液粘度が25℃で1200mPa・sの液となり、使用可能であった。
【0064】
[実施例4]
<ワニス組成物4の製造>
無溶媒カルボジイミド化合物(商品名:カルボジライト V-02B、日清紡ケミカル社製)5gに代えて、エポキシ化合物であるアルキルジグリシジルエーテル
YED216D(三菱ケミカル株式会社製、分子中のエポキシ基の数:2個)を5g使用した以外は、実施例1と同様にしてワニス組成物4を100g製造した。製造直後の液粘度は、25℃で460mPa・sで、室温で5ヶ月保管後は液が二層に分離していたが、再攪拌によって液粘度が25℃で800mPa・sの液となり、使用可能であった。
【0065】
[比較例1]
<比較ワニス組成物1の製造>
無溶媒UVニス(商品名:UV VECTAコートニス PC-3KW-2,T&K TOKA社製)を99.9g使用し、無溶媒カルボジイミド化合物(商品名:カルボジライト V-02B、日清紡ケミカル社製)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして比較ワニス組成物1を100g製造した。製造直後の液粘度は、25℃で440mPa・sで、室温で5ヶ月保管後の液粘度は、461mPa・sであった。
【0066】
[ワニス組成物によるオーバーコート層の形成、及び、印刷サンプルの作製]
ポリエチレンテレフタレート基体上に、ポリウレタンディスパージョンを主成分とする水系塗工液を、乾燥後の塗工量が約0.2g/m2となるように全面塗工した後、乾燥し、接着層を形成した。さらにその上にポリ(エチレン/メタクリル酸)樹脂を含有するインクでデジタル印刷し(印刷厚さ:約1~5μm)、印刷層を形成した。その上に実施例1~4のワニス組成物及び比較例1の比較ワニス組成物をそれぞれ、硬化後の塗工量が約6g/m2の塗工量になるようにワイヤーバーコート法により全面塗工した。その後、ベルトコンベア式のUV照射装置を用いて、高圧水銀灯と同等のスペクトルを有するランプによって、照射強度500mW/cm2、コンベア速度7m/分にてUV硬化処理を行い、オーバーコート層を形成し、印刷サンプルを得た。
【0067】
[密着性試験]
印刷サンプルの表面にマスキングテープ(スリーエム社製、製品名:スコッチ(登録商標)メンディングテープ810)を用いて、ASTM D3330に準拠してテープ剥離試験を実施し、下記の基準で評価した。「+」以上を「合格」とした。結果を表1に示す。
++ :テープ剥離試験で、剥離が観測されなかった。
+ :テープ剥離試験で、一部に剥離が観測されたが、実用上問題ない。
- :テープ剥離試験で、剥離が観測され、実用上問題がある。
【0068】
[耐擦過性試験]
印刷サンプルについて、Finat擦過性試験により、プローブのサンプル表面への押し込み強度を3Nとして、表面の傷の付き易さを評価した。評価は、下記の基準に基づいて実施した。「+」以上を「合格」とした。結果を表1に示す。
++ : オーバーコート層表面に傷が入らず、インク層も剥がれていない
+ : オーバーコート層表面に傷は入るが、インク層は剥がれていない
- : オーバーコート層とインク層の両方が剥がれる
【0069】
[耐水性試験]
印刷サンプルを水に2時間浸漬した後に、表面を軽く拭いてからマスキングテープ(スリーエム社製、製品名:スコッチ(登録商標)メンディングテープ810)を用いて、ASTM D3330に準拠してテープ剥離試験を実施し、耐水性を下記基準で評価した。「+」以上を「合格」とした。結果を表1に示す。
++ :テープ剥離試験で、剥離が観測されなかった。
+ :テープ剥離試験で、一部に剥離が観測されたが、実用上問題ない。
- :テープ剥離試験で、剥離が観測され、実用上問題がある。
【0070】
[液保存安定性]
実施例1~4のワニス組成物及び比較例1の比較ワニス組成物について、製造直後の液粘度と室温で5ヶ月保管後の液粘度の差が100mPa・s以下である場合を「良好」、100mPa・sより大きく500mPa・s以下の場合を「使いこなし可能」、500mPa・sを超える場合を「不良」として、液保存安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1に示した実施例1~4から、本発明のワニス組成物は密着性、耐擦過性、耐水性が良好で、かつ、液の保存安定性は使用可能なレベルであった。反面、カルボキシレート基と反応可能な官能基を有する架橋剤を使用しない比較例1では密着性及び耐水性に劣ることが分かった。
本発明のワニス組成物は、高い密着性、耐擦過性、耐水性が要求される塗装物、印刷物、包装材等の製造、加工に利用される。具体的には、標識、広告、ポスター、サイネージ、メニュー表等の塗装物/印刷物、ラベル、パウチ、袋等の食品及び工業用包装材、電子製品、車両や航空機、建築材、装飾品、スマートフォン等の装飾用フィルム等の用途に好適に利用される。