(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075222
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】電子聴診器
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
A61B7/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186499
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹本 香菜子
(57)【要約】
【課題】電子聴診器のチェストピースを持つ手の震えにより発生するノイズを抑圧しながら所望の生体音信号を出力することができる電子聴診器を提供する。
【解決手段】電子聴診器は、チェストピース1の内部に、被聴診者の生体音を取得して生体音信号に変換して出力する生体音センサ2を備え、さらに、チェストピース1にはチェストピース1の振動を検出して振動信号を出力する振動センサ3と、生体音信号から振動信号を減算して生体音出力信号を出力する信号処理装置4とが備えられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェストピースの内部に、被聴診者の生体音を取得して生体音信号に変換して出力する生体音センサを備えている電子聴診器であって、
前記チェストピースは、
前記チェストピースの振動を検出して振動信号を出力する振動センサと、
前記生体音信号から前記振動信号を減算して生体音出力信号を出力する信号処理装置と
をさらに備える
電子聴診器。
【請求項2】
前記信号処理装置は、
前記振動信号から推定ノイズ信号を生成する適応フィルタを備え、
前記生体音信号から前記振動信号を減算する代わりに、前記生体音信号から前記推定ノイズ信号を減算して前記生体音出力信号を出力する、
請求項1記載の電子聴診器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子聴診器に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、電子聴診器は、生体音センサにより生体音を生体音信号に変換し、増幅やノイズ除去等の信号処理を施し、イヤーピース等に出力する構成とされている。生体音信号からノイズを除去する方法としては、例えば特許文献1に開示されている電子聴診器のように、生体音信号からノイズが含まれる周波数帯域の信号を除去する方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体音信号に含まれるノイズの一つとして、電子聴診器のチェストピースを持つ手の震えにより発生するノイズが知られている。
図3および4は、手の震えにより発生する電子聴診器の出力信号の説明図である。
図3は、聴診者が振動や音が発生しない対象物にチェストピースを手に持った状態で接触させて得られる電子聴診器の出力信号の一例であり、出力信号の振幅を拡大した例である。
図4は、
図3に示す出力信号について、所定の一定時間の出力信号をフーリエ変換した結果を示している。
図4に示すように、10Hzをピークとする信号が出力されていることがわかる。またこのような手の震えにより発生する出力信号は、個人差や年齢差によって異なり、さらに同一聴診者であっても疲労やストレス、緊張状態などによって変化し、ピークとなる信号の周波数が異なることが知られている。
【0005】
図5および6は、心音を含む電子聴診器の出力信号の説明図である。
図5は、
図3で説明した電子聴診器を用い、同じ聴診者により被聴診者の心音を取得した場合の出力信号の一例であり、出力信号の振幅を拡大した例である。所定の一定間隔で現われる振幅の大きい信号が心音により発生する出力信号であり、
図3で説明した手の震えにより発生する出力信号は心音に比べて振幅の小さい出力信号となっている。
図6は、
図5に示す出力信号について、所定の一定時間の出力信号をフーリエ変換した結果を示している。
【0006】
図6に示すように、心音により発生する30Hz近傍の出力信号(生体音信号となる)を確認することができる。また手の震えにより発生する10Hz近傍の出力信号(ノイズを含む信号)も確認することができる。このように聴診のために必要な生体音信号と、ノイズを含む信号とが存在する場合、特許文献1の電子聴診器のように出力信号のうち、20Hzに達しないノイズを含む周波数帯域の信号を出力しない構成とすることで、ノイズを除去することが可能となる。しかしながら、手の震えにより発生する出力信号の周波数が変動して20Hzを超えるノイズが発生すると、ノイズを除去することができなくなってしまう場合がある。
【0007】
そこで本発明は、電子聴診器のチェストピースを持つ手の震えにより発生するノイズを抑圧しながら所望の生体音信号を出力することができる電子聴診器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子聴診器は、チェストピースの内部に、被聴診者の生体音を取得して生体音信号に変換して出力する生体音センサを備えている電子聴診器であって、前記チェストピースは、前記チェストピースの振動を検出して振動信号を出力する振動センサと、前記生体音信号から前記振動信号を減算して生体音出力信号を出力する信号処理装置とをさらに備える構成とされている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子聴診器によれば、生体音センサから出力される生体音信号から、振動センサから出力される振動信号を減算する構成とすることで、チェストピースの振動により発生するノイズを抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である電子聴診器(実施形態1)の説明図である。
【
図2】本発明の別の実施形態である電子聴診器(実施形態2)の説明図である。
【
図3】手の震えにより発生する電子聴診器の出力信号の説明図である。
【
図4】
図3に示す出力信号について、所定の一定時間の出力信号をフーリエ変換した結果の説明図である。
【
図5】心音を含む電子聴診器の出力信号の説明図である。
【
図6】
図5に示す出力信号について、所定の一定時間の出力信号をフーリエ変換した結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電子聴診器について、図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に説明する部材、材料等は、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0012】
本発明の電子聴診器は、チェストピースの内部に生体音センサを備え、さらにチェストピースにチェストピースの振動を検出する振動センサと、信号処理装置とを備える構成とされている。信号処理装置は、生体音センサから出力される生体音信号と、振動センサから出力される振動信号を入力し、生体音信号から振動信号を減算する構成とされている。また生体音信号から適応フィルタによって生成される推定ノイズ信号を減算する構成とされている。このように構成することで、手の震えにより発生するノイズ信号を抑圧した生体音出力信号を得ることができる。その結果、生体音信号からノイズのみを除去することができ、ノイズのない生体音信号による聴診が可能となる。
【0013】
(実施形態1)
図1は、本発明の電子聴診器の実施形態1の説明図であり、チェストピースの構成を説明する図である。本実施形態の電子聴診器は、被聴診者の体表面に接触するチェストピース1の内部に、被聴診者の生体音を取得して生体音信号に変換して出力する生体音センサ2と、チェストピース1の振動を検出して振動信号を出力する振動センサ3と、生体音信号と振動信号を入力して生体音信号から生体音出力信号を出力する信号処理装置4とを備える構成とされている。
【0014】
本実施形態のチェストピース1は、一般的な電子聴診器に備えられているベル型やメンブレン型のチェストピースで構成することができる。チェストピース1は、聴診者に把持されることで被聴診者の体表面に接触した状態が保たれる構成とされている。
【0015】
チェストピース1が被聴診者の体表面に接触すると、被聴診者の心音や呼吸音等の生体音が取得される。例えば、生体音センサ2として容量型MEMSトランスデューサで構成されるマイクロフォンを使用すると、心音や呼吸音等の生体音が電気信号に変換されて生体音信号として出力される。
【0016】
このように生体音を取得する際、聴診者はチェストピース1を把持しているため、聴診者の手が触れているチェストピース1からは、
図3および4で説明したように手の震えにより発生する信号も出力される。そこで本実施形態の電子聴診器は、チェストピース1にその振動を検出する振動センサ3が備えられる構成とされている。例えば、振動センサ3として一般的に入手可能なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造の振動センサを使用することができる。振動センサ3は、チェストピース1の手の震えにより発生する振動のみを検出し、心音や呼吸音等の生体音や周囲の環境雑音等により発生する振動の影響を受けないように、心音や呼吸音等の生体音による振動が伝搬しないチェストピース1の内部に配置するのが好ましい。
【0017】
信号処理装置4は、加算器41とローパスフィルタ42(LPF)を含む構成とされている。生体音センサ2から出力される生体音信号と、振動センサ3から出力される振動信号は、それぞれ信号処理装置4の加算器41に入力される。この加算器41により、生体音信号から振動信号が減算される。ここで、生体音信号に含まれるノイズの信号レベルと、振動信号の信号レベルとを調整して減算される。ノイズの信号レベルと振動信号の信号レベルの調整は、例えば、生体音信号と振動信号のそれぞれの周波数スペクトラムを比較し、生体音信号の周波数スペクトラムのうち、振動信号の周波数スペクトラムと一致する周波数帯域の生体音信号の信号レベルが、減算により小さくなるように、生体音信号の信号レベルと振動信号の振動レベルのいずれか、または両方を調整すればよい。
【0018】
加算器41の出力信号は、一般的な電子聴診器同様、ローパスフィルタ42を通過させることで聴診対象とする生体音信号以外の周波数帯域の信号を遮断し、聴診対象とする生体音信号を生体音出力信号として出力される。この生体音出力信号は、図示しないイヤーチップ等に出力され、聴診者が生体音を聞くことが可能となる。生体音出力信号は図示しない解析装置に出力する構成とすることもできる。
【0019】
(実施形態2)
次に、本発明の電子聴診器の実施形態2について説明する。
図2は、本発明の電子聴診器の実施形態2の説明図であり、チェストピースの構成を説明する図である。本実施形態の電子聴診器は、上記実施形態1で説明した電子聴診器と比較して信号処理装置の構成が相違している。
【0020】
本実施形態のチェストピース1Aも、一般的な電子聴診器に備えられているベル型やメンブレン型のチェストピースで構成することができる。チェストピース1Aも、聴診者に把持されることで被聴診者の体表面に接触した状態が保たれる構成とされている。
【0021】
チェストピース1Aが被聴診者の体表面に接触すると、被聴診者の心音や呼吸音等の生体音が取得される。例えば、生体音センサ2として容量型MEMSトランスデューサで構成されるマイクロフォンを使用すると、心音や呼吸音等の生体音が電気信号に変換されて生体音信号として出力される。この生体音信号には、聴診者の手の震えにより発生する信号も含まれて出力される。
【0022】
そこで、本実施形態の電子聴診器も、チェストピース1Aにその振動を検出する振動センサ3が備えられる構成とされている。例えば、振動センサ3として一般的に入手可能なMEMS構造の振動センサを使用することができる。振動センサ3は、チェストピース1Aの手の震えにより発生する振動のみを検出し、心音や呼吸音等の生体音や周囲の環境雑音等により発生する振動の影響を受けないように、心音や呼吸音等の生体音による振動が伝搬しないチェストピース1Aの内部に配置するのが好ましい。
【0023】
信号処理装置4Aは、上記実施形態1で説明した加算器41とローパスフィルタ42(LPF)に加え、適応フィルタ43を含む構成とされている。生体音センサ2から出力される生体音信号は、信号処理装置4Aの加算器41に入力される。一方振動センサ3から出される振動信号は、信号処理装置4Aの適応フィルタ43に入力される。
【0024】
適応フィルタ43は、入力する振動信号に応じてフィルタ係数を変更することができる構成とされている。例えば、聴診者毎にチェストピース1Aを持つ手の震えが異なり、この手の震えにより発生する振動信号の周波数は、聴診者毎にばらつき、常に一定とは限らない。そこで本実施形態の適応フィルタ43は、入力する振動信号に応じてフィルタ係数を変更するように構成されている。一例として、入力する振動信号をフーリエ変換した場合の最も信号レベルの高い周波数の振動信号を最も大きく抑圧し、その近傍の周波数帯域の振動信号は所定の割合でノイズを抑圧することができる推定ノイズ信号を生成して出力することが可能となる。したがって、適応フィルタ43を用いると、振動センサ3の信号の周波数成分に合わせてフィルタの特性が変動可能であるため、振動周波数の揺らぎや変動、ずれに対しても有効なフィルタ特性が得られて好ましい。
【0025】
生体音信号と推定ノイズ信号は、加算器41に入力する。この加算器41により、生体音信号から推定ノイズ信号が減算される。
【0026】
加算器41の出力信号は、上記実施形態1同様、ローパスフィルタ42を通過させることで聴診対象とする生体音信号以外の周波数帯域の信号を遮断し、聴診対象とする生体音信号を生体音出力信号として出力される。この生体音出力信号は、図示しないイヤーチップ等に出力され、聴診者が生体音を聞くことが可能となる。また、生体音出力信号を図示しない解析装置に出力する構成としてもよい。
【0027】
以上、本発明の電子聴診器の実施形態1および2において、チェストピースを持つ手の震えにより発生するノイズを抑圧する場合について説明したが、電子聴診器を使用する際の周囲の環境雑音等を除去する構成が付加される場合には、信号処理装置4および4Aにおいて環境雑音等を除去する信号処理を行えばよい。
【0028】
(まとめ)
(1)本発明の電子聴診器の一実施形態は、チェストピースの内部に、被聴診者の生体音を取得して生体音信号に変換して出力する生体音センサを備えている電子聴診器であって、前記チェストピースは、前記チェストピースの振動を検出して振動信号を出力する振動センサと、前記生体音信号から前記振動信号を減算して生体音出力信号を出力する信号処理装置とをさらに備える構成とすることができる。
【0029】
本実施形態の電子聴診器によれば、生体音センサから出力される生体音信号から、振動センサから出力される振動信号を減算する構成とすることで、チェストピースの振動により発生するノイズを抑圧することができる。
【0030】
(2)本発明の電子聴診器の別の実施形態は、上記(1)の電子聴診器において、前記信号処理装置は、前記振動信号から推定ノイズ信号を生成する適応フィルタを備え、前記生体音信号から前記振動信号を減算する代わりに、前記生体音信号から前記推定ノイズ信号を減算して前記生体音出力信号を出力する構成とすることができる。
【0031】
上記(2)の実施形態の電子聴診器によれば、適応フィルタにより振動信号から推定ノイズ信号を生成する構成とし、生体音センサから出力される生体音信号から、推定ノイズ信号を減算する構成とすることで、チェストピースの振動により発生するノイズを抑圧することができる。
【符号の説明】
【0032】
1、1A チェストピース
2 生体音センサ
3 振動センサ
4、4A 信号処理装置
41 加算器
42 ローパスフィルタ
43 適応フィルタ