(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075281
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ポリエステル系重合体、及びポリエステル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/06 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
C08G63/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186620
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直正
(72)【発明者】
【氏名】井澤 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】河井 潤也
(72)【発明者】
【氏名】池田 悠太
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AB01
4J029AB04
4J029AD01
4J029AD06
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE06
4J029EA01
4J029EA02
4J029EA05
4J029JA091
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC361
4J029JC371
4J029JF021
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF181
4J029JF221
4J029JF321
4J029JF361
4J029JF471
4J029JF541
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れ、従来のポリエステル系重合体に比べて、優れた海洋生分解性を有するポリエステル系重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造単位(1)及び下記一般式(2)で表される構造単位(2)を、構造単位(1)/構造単位(2)のモル比率が4以上2000以下の範囲内で含む、ポリエステル系重合体。
-[O-X
1-C(=O)]- (1)
-[O-X
2-C(=O)]- (2)
(式(1)中、-X
1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。式(2)中、-X
2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50の2価の炭化水素基を表す。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位(1)及び下記一般式(2)で表される構造単位(2)を、構造単位(1)/構造単位(2)のモル比率が4以上2000以下の範囲内で含む、ポリエステル系重合体。
-[O-X1-C(=O)]- (1)
-[O-X2-C(=O)]- (2)
(式(1)中、-X1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。式(2)中、-X2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50の2価の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
質量平均分子量(Mw)が20,000以上300,000以下である、請求項1に記載のポリエステル系重合体。
【請求項3】
前記構造単位(2)において、-X2-が、1~5個のメチン基を含む、請求項1に記載のポリエステル系重合体。
【請求項4】
前記構造単位(2)において、-X2-に含まれる前記分岐構造は、置換基を有してもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載のポリエステル系重合体。
【請求項5】
前記構造単位(2)において、-X2-が、下記一般式(2-1)で表される構造単位(2-1)及び下記一般式(2-2)で表される構造単位(2-2)を、構造単位(2-1)/構造単位(2-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含み、
前記構造単位(2)における構造単位(2-1)及び構造単位(2-2)の合計構造単位数が、2~50の範囲内である、請求項1に記載のポリエステル系重合体。
-(CH2)- (2-1)
-(CHR)- (2-2)
(式(2-2)中、Rは、酸素原子を含んでもよい炭素数1~10のアルキル基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【請求項6】
前記構造単位(2)が、下記一般式(2-3)で表される化合物に由来する構造単位(2-3)である、請求項5に記載のポリエステル系重合体。
HO-X2’-C(=O)-OH (2-3)
(式(2-3)中、
-X2’-は下記一般式(2-3-1)で表される構造単位(2-3-1)及び下記一般式(2-3-2)で表される構造単位(2-3-2)を、構造単位(2-3-1)/構造単位(2-3-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含み、
該化合物1分子中における構造単位(2-3-1)及び構造単位(2-3-2)の合計構造単位数が2~50の範囲内である。)
-(CH2)- (2-3-1)
-(CHR)- (2-3-2)
(式(2-2)中、Rは、酸素原子を含んでもよい炭素数1~10のアルキル基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【請求項7】
前記構造単位(1)が、下記一般式(1-1)で表される構造単位(1-1)を含む、請求項1に記載のポリエステル系重合体。
-[O-(CH2)a-C(=O)]- (1-1)
(式(1-1)中、aは1~50の整数を表す。)
【請求項8】
前記構造単位(1-1)が、下記一般式(1-2)で表される化合物に由来する構造単位である、[7]に記載のポリエステル系重合体。
HO-(CH2)a-C(=O)-OH (1-2)
(式(1-2)中、aは1~50の整数を表す。)
【請求項9】
下記一般式(1-4)で表される化合物及び下記一般式(2-4)で表される化合物を含む組成物を、触媒存在下、温度170~250℃の範囲内で縮重合反応させることを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリエステル系重合体の製造方法。
HO-X1-C(=O)-OH (1-4)
HO-X2-C(=O)-OH (2-4)
(式(1-4)中、-X1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。式(2-4)中、-X2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50の2価の炭化水素基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系重合体、及びポリエステル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、靭性や耐熱性、耐薬品性、力学物性に優れていることから、食品包材、医療用包材、農薬、試薬ボトルなど包装材や容器、電子部品包材など、様々な日常生活品の包装材料や、各種成形品、繊維製品などに使用されている。
【0003】
一方で、近年、自然環境保護に対する社会的な要求が高まりつつあり、使用済みプラスチック用品の廃棄に起因する環境汚染、特に使用済みプラスチック用品の海洋廃棄によって引き起こされるマイクロプラスチックによる海洋生物への影響から、海中での生分解性(以下、「海洋生分解性」という。)に優れる樹脂が要求されており、ポリエステル樹脂においても、海洋生分解性を有する材料が要求されている。
【0004】
優れた海洋生分解性を有するポリエステル樹脂から形成される樹脂製品は、使用後にホームコンポストとして処理することが可能となるだけでなく、更には、海洋に廃棄された場合でも海中で生分解することにより、マイクロプラスチックによる海洋生物への悪影響をなくすことが可能となる。
【0005】
ポリエステル系重合体として、例えば特許文献1には、分岐構造を有するヒドロキシカルボン酸を重縮合してなる、分岐構造を有するヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含むポリエステル系重合体が開示されている。また、特許文献2及び3には、α,ω-ヒドロキシ脂肪酸由来の構造単位を含む、分岐構造を有さないポリエステル系重合体が開示されている。特許文献4には、ジオールとジカルボン酸からなるポリカーボネート系重合体やポリエステル系重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0047580号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0051780号明細書
【特許文献3】特開平8-295726号公報
【特許文献4】国際公開第2021/224303号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたポリエステル系重合体は、熱変形温度等の耐熱性が十分とはいえなかった。さらに、特許文献1に具体的に開示されているポリエステル系重合体は、分岐構造を有するヒドロキシカルボン酸由来の構造単位からなるポリエステル系重合体のみであり、海中における生分解性や耐熱性を向上させることについて、何ら教示されていない。
また、特許文献2や特許文献3に記載されたポリエステル系重合体は、海中における生分解性が十分とはいえなかった。さらに、特許文献2や特許文献3に具体的に開示されているポリエステル系重合体は、分岐構造を有さないヒドロキシカルボン酸由来の構造単位からなるポリエステル系重合体のみであり、海中における生分解性を向上させることについて、何ら教示されていない。
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れ、従来のポリエステル系重合体に比べて、優れた海洋生分解性を有するポリエステル系重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、分岐構造を有し且つヒドロキシカルボン酸に由来する特定構造を、特定の含有割合で含有するポリエステル系重合体により、上記課題を解決することができることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] 下記一般式(1)で表される構造単位(1)及び下記一般式(2)で表される構造単位(2)を、構造単位(1)/構造単位(2)のモル比率が4以上2000以下の範囲内で含む、ポリエステル系重合体。
-[O-X1-C(=O)]- (1)
-[O-X2-C(=O)]- (2)
(式(1)中、-X1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。式(2)中、-X2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50の2価の炭化水素基を表す。)
【0012】
[2] 質量平均分子量(Mw)が20,000以上300,000以下である、[1]に記載のポリエステル系重合体。
【0013】
[3] 前記構造単位(2)において、-X2-が、1~5個のメチン基を含む、[1]又は[2]に記載のポリエステル系重合体。
【0014】
[4] 前記構造単位(2)において、-X2-に含まれる前記分岐構造は、置換基を有してもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル系重合体。
【0015】
[5] 前記構造単位(2)において、-X2-が、下記一般式(2-1)で表される構造単位(2-1)及び下記一般式(2-2)で表される構造単位(2-2)を、構造単位(2-1)/構造単位(2-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含み、
前記構造単位(2)における構造単位(2-1)及び構造単位(2-2)の合計構造単位数が、2~50の範囲内である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル系重合体。
-(CH2)- (2-1)
-(CHR)- (2-2)
(式(2-2)中、Rは、酸素原子を含んでもよい炭素数1~10のアルキル基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【0016】
[6] 前記構造単位(2)が、下記一般式(2-3)で表される化合物に由来する構造単位(2-3)である、[5]に記載のポリエステル系重合体。
HO-X2’-C(=O)-OH (2-3)
(式(2-3)中、
-X2’-は下記一般式(2-3-1)で表される構造単位(2-3-1)及び下記一般式(2-3-2)で表される構造単位(2-3-2)を、構造単位(2-3-1)/構造単位(2-3-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含み、
該化合物1分子中における構造単位(2-3-1)及び構造単位(2-3-2)の合計構造単位数が2~50の範囲内である。)
-(CH2)- (2-3-1)
-(CHR)- (2-3-2)
(式(2-2)中、Rは、酸素原子を含んでもよい炭素数1~10のアルキル基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【0017】
[7] 前記構造単位(1)が、下記一般式(1-1)で表される構造単位(1-1)を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル系重合体。
-[O-(CH2)a-C(=O)]- (1-1)
(式(1-1)中、aは1~50の整数を表す。)
【0018】
[8] 前記構造単位(1-1)が、下記一般式(1-2)で表される化合物に由来する構造単位である、[7]に記載のポリエステル系重合体。
HO-(CH2)a-C(=O)-OH (1-2)
(式(1-2)中、aは1~50の整数を表す。)
【0019】
[9] 下記一般式(1-4)で表される化合物及び下記一般式(2-4)で表される化合物を含む組成物を、触媒存在下、温度170~250℃の範囲内で縮重合反応させることを含む、[1]~[8]のいずれかに記載のポリエステル系重合体の製造方法。
HO-X1-C(=O)-OH (1-4)
HO-X2-C(=O)-OH (2-4)
(式(1-4)中、-X1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。式(2-4)中、-X2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50の2価の炭化水素基を表す。nは1~20の整数を表す。)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた海洋生分解性及び優れた耐熱性を有するポリエステル系重合体を提供することができる。
本発明のポリエステル系重合体は、海洋生分解性に優れるので、該重合体を形成してなるプラスチック製品においては、使用済みプラスチック製品の廃棄に起因する環境汚染、特に使用済みプラスチック製品の海洋廃棄によって引き起こされるマイクロプラスチックによる海洋生物への影響を低減できることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体の、海洋生分解性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0023】
なお、特に断らない限り、本明細書において、「構造単位」とは、本発明のポリエステル系重合体の製造に用いる原料化合物が重合することにより形成された、前記原料化合物に由来する単位であって、得られた重合体において任意の連結基に挟まれた部分構造を示す。重合体の末端部分で一方が連結基であり、もう一方が重合反応性基である部分構造も含む。構造単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、得られた重合体を処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
本明細書において、「繰り返し単位」とは、「構造単位」と同義である。
【0024】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、特に断りのない限り、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0025】
本明細書において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
また、本明細書において、炭化水素基の炭素数は、該炭化水素基が置換基を有する場合、当該置換基の炭素数も含めた合計の炭素数を意味する。
【0026】
<ポリエステル系重合体>
本発明のポリエステル系重合体は、下記一般式(1)で表される構造単位(1)及び下記一般式(2)で表される構造単位(2)を、構造単位(1)/構造単位(2)のモル比率が4以上2000以下の範囲内で含む、ポリエステル系重合体である。
-[O-X1-C(=O)]- (1)
-[O-X2-C(=O)]- (2)
(式(1)中、-X1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50、好ましくは炭素数7~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。式(2)中、-X2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50、好ましくは炭素数7~50の2価の炭化水素基を表す。)
【0027】
本発明のポリエステル系重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、該ポリエステル系重合体に機械的特性や耐薬品性等を付与することを目的として、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)以外の、その他の構造単位(3)を含むことができる。
前記その他の構造単位(3)は、特に限定されるものではなく、例えば、α,ω-ヒドロキシカルボン酸、α-ヒドロキシカルボン酸等の脂肪族オキシカルボンの、エステルやラクトン類、ラクチド、あるいはオキシカルボン酸重合体等の誘導体により形成される、鎖状又は環状の構造単位であって、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)以外の構造単位が挙げられる。
【0028】
本発明のポリエステル系重合体がその他の構造単位(3)を含有する場合、その他の構造単位(3)の含有割合は、ポリエステル系重合体の物性を損なわなければ、特に限定されるものではないが、ポリエステル系重合体の耐熱性及び海洋分解性を良好に維持する観点から、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、通常は20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量以下、さらに好ましくは2質量%以下とすることができる。勿論、その他の構造単位(3)を含まないこともできる。
【0029】
本発明のポリエステル系重合体において、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)の配列の仕方は、特に限定されるものではなく、ポリエステル系重合体の海洋生分解性及び耐熱性を低下させない配列であればよい。
本発明のポリエステル系重合体の具体的な態様としては、以下の態様が挙げられる。
・2以上の連続した構造単位(1)の連鎖構造間に、構造単位(2)1単位が、不規則に配列された共重合体(ランダム共重合体。構造単位(2)は連鎖構造を形成せず、1単位で存在する。)。
・2以上の連続した構造単位(2)の連鎖構造が、2以上の連続した構造単位(1)の連鎖構造間に不規則に配列された共重合体(ランダム共重合体。2以上の構造単位(2)の連鎖構造を含む。)。
・若干長い構造単位(2)の連鎖構造が、比較的長い構造単位(1)の連鎖構造間に不規則に配列された共重合体(マルチブロック共重合体)。
(なお、ここで、若干長い構造単位(2)の連鎖構造とは、構造単位(2)が2~10個程度連続した連鎖構造であり、比較的長い構造単位(1)の連鎖構造とは、構造単位(1)が2~1,000個程度連続した連鎖構造である。)
・構造単位(1)1単位と構造単位(2)1単位とが、交互に配列した共重合体(交互共重合体)
なお、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)は、それぞれ独立に、1種の化合物に由来する構造単位であってもよいし、或いは又、2種以上の化合物に由来する構造単位であってもよい。
【0030】
また、前記構造単位(1)中の-X1-、前記構造単位(2)中の-X2-が置換基を有する場合、当該置換基としては、本発明の目的である海洋生分解性と耐熱性に優れたポリエステル系重合体を実現し得る限りにおいて特に制限はないが、例えばエーテル基やアミノ基等が挙げられる。
【0031】
本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)の合計含有割合の下限は、ポリエステル系重合体の物性を損なわなければ、特に限定されるものではないが、ポリエステル系重合体の耐熱性及び海洋分解性を優れたものにできる観点から、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、85質量%以上が好ましく、87質量以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。一方、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)の合計含有割合の上限は、特に限定されるものではなく、該ポリエステル系重合体の総質量に対して、100質量%であってもよいし、或いは又、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量以下、さらに好ましくは96質量%以下とすることもできる。
上記の上限下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)の合計含有割合は、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、85質量%以上100質量%以下が好ましく、87質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0032】
さらに、本発明のポリエステル系重合体において、前記構造単位(1)/前記構造単位(2)のモル比率の下限は、ポリエステル系重合体の生分解性が良好となり且つ耐熱性を良好に維持する観点から、4(=80/20)以上である。前記構造単位(1)/前記構造単位(2)のモル比率は、85/15以上が好ましく、87/13以上がより好ましく、90/10以上がさらに好ましい。一方、前記構造単位(1)/前記構造単位(2)のモル比率の上限は、該ポリエステル系重合体の海洋生分解性を良好に維持する観点から、2000(≒99.95/0.05)以下である。前記構造単位(1)/前記構造単位(2)のモル比率は、99.9/0.1以下が好ましく、99.5/0.5以下がより好ましく、99.2/0.8以下がさらに好ましい。
上記の上限下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、本発明のポリエステル系重合体において、前記構造単位(1)/前記構造単位(2)のモル比率は、4以上2000以下であり、85/15以上99.9/0.1以下が好ましく、87/13以上99.5/0.5以下がより好ましく、90/10以上99.2/0.8以下がさらに好ましい。
【0033】
なお、本発明のポリエステル系重合体における各構造単位の含有割合は、後述の実施例に記載のとおり、NMRによる組成分析により求めることができる。
【0034】
また、本発明のポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)の下限は、該ポリエステル系重合体の耐熱性が良好となる観点から、好ましくは20,000以上であり、22,000以上がより好ましく、24,000以上がさらに好ましく、28,000以上が特に好ましい。一方、前記質量平均分子量(Mw)の上限は、該ポリエステル系重合体の海洋生分解性を良好に維持する観点から、好ましくは300,000以下であり、270,000以下がより好ましく、250,000以下がさらに好ましく、230,000以下が特に好ましい。
上記の上限下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、本発明のポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは20,000以上300,000以下であり、22,000以上270,000以下がより好ましく、24,000以上250,000以下がさらに好ましく、28,000以上230,000以下が特に好ましい。
【0035】
また、本発明のポリエステル系重合体の分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、小さすぎると、ポリエステル系重合体の成形加工性が低下するおそれがあり、大きすぎると、含有される低分子量成分によりポリエステル系重合体の機械的特性や耐熱性が低下するおそれがあることから、Mw/Mnは、1.7~20が好ましく、1.8~15がより好ましく、1.9~10がさらに好ましい。
なお、Mw、Mw/Mnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、測定条件は後述の実施例に記載のとおりである。
【0036】
本発明のポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)は、ポリエステル系重合体の重合方法や重合条件、ポリエステル系重合体の原料の種類や配合割合、重合触媒の種類やその添加量等、公知の条件を適宜最適化することにより、任意に制御できる。
【0037】
<構造単位(1)>
構造単位(1)は、本発明のポリエステル系重合体を構成する構造単位であり、下記一般式(1)で表される。
-[O-X1-C(=O)]- (1)
(式(1)中、-X1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50、好ましくは炭素数7~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。)
本発明のポリエステル系重合体は、前記構造単位(1)を含むことにより、耐熱性を優れたものにできる。
【0038】
本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(1)の含有割合の下限は、ポリエステル系重合体の物性を損なわなければ、特に限定されるものではないが、ポリエステル系重合体の耐熱性及びべたつき性を優れたものにできる観点から、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、84質量%以上が好ましく、86質量以上がより好ましく、89質量%以上がさらに好ましい。一方、前記構造単位(1)の含有割合の上限は、特に限定されるものではなく、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、99.9質量%以下が好ましく、99.4質量%以下がより好ましく、99.1質量%以下がさらに好ましい。
上記の上限下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(1)の含有割合は、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、84質量%以上99.9質量%以下が好ましく、86質量%以上99.4質量%以下がより好ましく、89質量%以上99.1質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
<構造単位(1-1)>
本発明のポリエステル系重合体において、前記構造単位(1)は、下記一般式(1-1)で表される構造単位(1-1)を含むことができる。
-[O-(CH2)a-C(=O)]- (1-1)
(式(1-1)中、aは1~50、好ましくは7~50の整数を表す。)
【0040】
本発明のポリエステル系重合体は、前記構造単位(1)が、上記一般式(1-1)で表される構造単位(1-1)を含むことにより、得られたポリエステル系重合体の耐熱性をより優れたものにできる。
【0041】
前記構造単位(1-1)において、前記一般式(1-1)におけるメチレン基の繰り返し数を示すaの値が小さすぎると、得られたポリエステル系重合体の耐熱性が低下する傾向があり、aの値が大きすぎると、ポリエステル系重合体の重合時に、反応性が低下する傾向がある。
このため、前記aの値は、1~50の整数であり、5~50が好ましく、7~50がより好ましく、9~39がさらに好ましく、11~33が特に好ましい。
【0042】
<一般式(1-2)で表される化合物>
前記構造単位(1-1)を、下記一般式(1-2)で表される化合物(以下、「化合物(1-2)」という。)に由来する構造単位とすることで、得られたポリエステル系重合体の耐熱性をより優れたものにできる。
下記一般式(1-2)で表される化合物(1-2)は、一般式(1-2)の「a」の値(以下、「主鎖メチレン数」という。)が、1~50の範囲内にある、α,ω-ヒドロキシカルボン酸である。
即ち、化合物(1-2)に由来する構造単位により、本発明のポリエステル系重合体における前記構造単位(1-1)を形成することができる。
HO-(CH2)a-C(=O)-OH (1-2)
(式(1-2)中、aは1~50、好ましくは7~50の整数を表す。)
【0043】
前記化合物(1-2)において、主鎖メチレン数が小さくなりすぎると、得られたポリエステル系重合体は融点が低下し、耐熱性が低下する傾向がある。一方、主鎖メチレン数が大きくなりすぎると、ポリエステル系重合体を重合する際に重縮合反応が進行しにくくなり得られたポリエステル系重合体の分子量が低下し、機械的強度が低下する傾向がある。このため、主鎖メチレン数は1~50の整数であり、5~50が好ましく、7~50がより好ましく、9~39がさらに好ましく、11~33が特に好ましい。
【0044】
本発明のポリエステル系重合体において、前記化合物(1-2)は、特に限定されるものではないが、例えば、6-ヒドロキシヘキサン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸、8-ヒドロキシオクタン酸、9-ヒドロキシノナン酸、10-ヒドロキシデカン酸、11-ヒドロキシウンデカン酸、12-ヒドロキシドデカン酸、13-ヒドロキシトリデカン酸、14-ヒドロキシテトラデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、17-ヒドロキシヘプタデカン酸、18-ヒドロキシオクタデカン酸、19-ヒドロキシノナデカン酸、20-ヒドロキシエイコサン酸、21-ヒドロキシヘンエイコサン酸、22-ヒドロキシドコサン酸、23-ヒドロキシトリコサン酸、24-ヒドロキシテトラコサン酸、25-ヒドロキシペンタコサン酸、26-ヒドロキシヘキサコサン酸、27-ヒドロキシヘプタコサン酸、28-ヒドロキシオクタコサン酸、29-ヒドロキシノナコサン酸、30-ヒドロキシトリアコンタン酸、31-ヒドロキシウントリアコンタン酸、32-ヒドロキシドトリアコンタン酸、33-ヒドロキシトリトリアコンタン酸、34-ヒドロキシテトラトリアコンタン酸、35-ヒドロキシペンタトリアコンタン酸、36-ヒドロキシヘキサトリアコンタン酸、37-ヒドロキシヘプタトリアコンタン酸、38-ヒドロキシオクタトリアコンタン酸、39-ヒドロキシノナトリアコンタン酸、40-ヒドロキシテトラコンタン酸、41-ヒドロキシウンテトラコンタン酸、42-ヒドロキシドテトラコンタン酸、43-ヒドロキシトリテトラコンタン酸、44-ヒドロキシテトラテトラコンタン酸、45-ヒドロキシペンタテトラコンタン酸、46-ヒドロキシヘキサテトラコンタン酸、47-ヒドロキシヘプタテトラコンタン酸、48-ヒドロキシオクタテトラコンタン酸、49-ヒドロキシノナテトラコンタン酸、50-ヒドロキシペンタコンタン酸、51-ヒドロキシヘンペンタコンタン酸が挙げられる。これらの化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
<構造単位(2)>
構造単位(2)は、本発明のポリエステル系重合体を構成する構造単位であり、下記一般式(2)で表される。
-[O-X2-C(=O)]- (2)
(式(2)中、-X2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50、好ましくは炭素数7~50の2価の炭化水素基を表す。)
【0046】
本発明のポリエステル系重合体は、前記構造単位(2)を含むことにより、海洋生分解性を優れたものにできる。
【0047】
さらに、前記構造単位(2)において、-X2-が、1~5個のメチン基を含むことにより、得られたポリエステル系重合体の海洋生分解性がより良好となる。-X2-中のメチン基の数は、耐熱性の点から、特に1~3個であることが好ましい。
【0048】
さらに、前記構造単位(2)において、-X2-に含まれる前記分岐構造は、置換基を有してもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基とすることができる。
前記分岐構造が、置換基を有してもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であることで、得られたポリエステル系重合体の海洋生分解性と耐熱性がより良好となる。
【0049】
本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(2)の含有割合の下限は、ポリエステル系重合体の物性を損なわなければ、特に限定されるものではないが、ポリエステル系重合体の海洋性分解性を優れたものにできる観点から、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.6質量以上がより好ましく、0.9質量%以上がさらに好ましい。一方、前記構造単位(2)の含有割合の上限は、特に限定されるものではなく、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、16質量%以下が好ましく、14質量%以下がより好ましく、11質量%以下がさらに好ましい。
上記の上限下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(2)の含有割合は、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、0.1質量%以上16質量%以下が好ましく、0.6質量%以上14質量%以下がより好ましく、0.9質量%以上11質量%以下がさらに好ましい。
【0050】
<構造単位(2-1)及び構造単位(2-2)>
さらに、前記構造単位(2)において、-X2-が、下記一般式(2-1)で表される構造単位(2-1)及び下記一般式(2-2)で表される構造単位(2-2)を、構造単位(2-1)/構造単位(2-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含むことが、得られたポリエステル系重合体の海洋生分解性と耐熱性がより良好となる観点から好ましい。
-(CH2)- (2-1)
-(CHR)- (2-2)
(式(2-2)中、Rは、酸素原子を含んでもよい炭素数1~10のアルキル基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【0051】
構造単位(2)において、構造単位(2-1)が少なすぎると耐熱性が低下する傾向があり、多すぎると反応性に乏しい傾向がある。また、構造単位(2-2)が多すぎると耐熱性が低下する傾向がある。このため、前記構造単位(2)は、構造単位(2-1)及び構造単位(2-2)を、構造単位(2-1)/構造単位(2-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含むことは好ましい。前記モル比率は、4/1以上40/1以下が好ましく、5/1以上30/1以下がより好ましく、6/1以上20/1以下がさらに好ましい。
【0052】
さらに、前記構造単位(2)において、カルボニル基とアルコキシ基とが近すぎると反応性が低下し、得られたポリエステル系重合体の分子量が低くなる傾向がある。このため、カルボニル基とアルコキシ基との間に単位構造式(2-1)と単位構造式(2-2)の個数の合計の下限は、2以上が好ましく、3個以上がより好ましく、4個以上がより好ましい。
【0053】
前記構造単位(2-2)のRは、酸素原子を含んでもよい炭素数1~10のアルキル基であるが、Rのアルキル鎖長が短すぎると得られたポリエステル系重合体の耐衝撃性が低下する傾向があり、長すぎるとポリエステル系重合体の重合が困難になる傾向がある。前記Rは、炭素数2~8のアルキル基が好ましく、炭素数2~7のアルキル基がより好ましく、炭素数3~7のアルキル基がさらに好ましい。
【0054】
前記Rのアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基が挙げられる。また、酸素原子を含むアルキル基としては、メトキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、メトキシブチル基、メトキシペンチル基、メトキシヘキシル基、メトキシヘプチル基、メトキシオクチル基、メトキシノニル基などのエーテル系含酸素脂肪族炭化水素基や、アセトキシエチル基、アセトキシプロピル基、アセトキシブチル基、アセトキシヘキシル基、アセトキシヘプチル基、アセトキシオクチル基などのエステル系含酸素脂肪族炭化水素基が挙げられる。これらのアルキル基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
<構造単位(2-3)>
さらに、前記構造単位(2)は、下記一般式(2-3)で表される化合物(以下、「化合物(2-3)」という。)に由来する構造単位(2-3)であることが、得られたポリエステル系重合体の海洋生分解性と耐熱性がより良好となる観点から好ましい。
HO-X2’-C(=O)-OH (2-3)
(式(2-3)中、
-X2’-は、下記一般式(2-3-1)で表される構造単位(2-3-1)及び下記一般式(2-3-2)で表される構造単位(2-3-2)を、構造単位(2-3-1)/構造単位(2-3-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含み、
該化合物(2-3)1分子中における構造単位(2-3-1)及び構造単位(2-3-2)の合計構造単位数が2~50、好ましくは3~50の範囲内である。)
-(CH2)- (2-3-1)
-(CHR)- (2-3-2)
(式(2-3-2)中、Rは、酸素原子を含んでもよい炭素数1~10のアルキル基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【0056】
前記構造単位(2)において、前記構造単位(2-3-1)が少なすぎると、得られたポリエステル系重合体の耐熱性が低下する傾向があり、多すぎると反応性に乏しい傾向がある。また、前記構造単位(2)において、構造単位(2-3-2)が多すぎると得られたポリエステル系重合体の耐熱性が低下する傾向がある。
このため、前記構造単位(2)は、前記構造単位(2-3-1)及び前記構造単位(2-3-2)を、構造単位(2-3-1)/構造単位(2-3-2)のモル比率が1以上49以下の範囲内で含むことが好ましい。前記モル比率は、4/1以上40/1以下が好ましく、5/1以上30/1以下がより好ましく、6/1以上20/1以下がさらに好ましい。
【0057】
さらに、前記構造単位(2)において、カルボニル基とアルコキシ基とが近すぎると反応性が低下し、得られたポリエステル系重合体の分子量が低くなる可能性がある。このため、カルボニル基とアルコキシ基との間に存在する構造単位(2-3-1)と構造単位(2-3-2)の個数の合計は、2個以上であることが好ましく、3個以上がより好ましく、4個以上がさらに好ましい。
【0058】
本発明のポリエステル系重合体において、前記化合物(2-3)は、特に限定されるものではないが、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチルペンタン酸、3-ヒドロキシ-2-メチルペンタン酸、4-ヒドロキシ-2-メチルペンタン酸、5-ヒドロキシ-2-メチルペンタン酸、2-ヒドロキシ-3-メチルペンタン酸、3-ヒドロキシ-3-メチルペンタン酸、5-ヒドロキシ-3-メチルペンタン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタン酸、3-ヒドロキシ-4-メチルペンタン酸、2-(ヒドロキシメチル)ペンタン酸、4-ヒドロキシヘキサン酸、5-ヒドロキシヘキサン酸、2-エチル-2-ヒドロキシメチルヘキサン酸、7-ヒドロキシ-2-メチルヘプタン酸、2-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、7-ヒドロキシオクタン酸、8-ヒドロキシ-2-プロピルオクタン酸、2-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシノナン酸、8-ヒドロキシノナン酸、9-ヒドロキシ-3-メチルノナン酸、2-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシデカン酸、4-ヒドロキシデカン酸、5-ヒドロキシデカン酸、6-ヒドロキシデカン酸、8-ヒドロキシデカン酸、9-ヒドロキシデカン酸、10-ヒドロキシ-2-プロピルデカン酸、11-ヒドロキシ-4-メチルウンデカン酸、3-ヒドロキシ-2-メチルドデカン酸、12-ヒドロキシ-3-メチルドデカン酸、3-ヒドロキシ-10-メチルドデカン酸、3-ヒドロキシ-11-メチルドデカン酸、12-ヒドロキシ-4-ブチルドデカン酸、2-ヒドロキシトリデカン酸、3-ヒドロキシトリデカン酸、13-ヒドロキシ-2-メチルトリデカン酸、2-ヒドロキシテトラデカン酸、3-ヒドロキシテトラデカン酸、6-ヒドロキシテトラデカン酸、10-ヒドロキシテトラデカン酸、11-ヒドロキシテトラデカン酸、12-ヒドロキシテトラデカン酸、13-ヒドロキシテトラデカン酸、14-ヒドロキシ-4-メチルテトラデカン酸、3-ヒドロキシペンタデカン酸、15-ヒドロキシ-5-メチルペンタデカン酸、16-ヒドロキシ-2-メチルヘキサデカン酸、2-ヒドロキシヘプタデカン酸、3-ヒドロキシヘプタデカン酸、5-ヒドロキシヘプタデカン酸、6-ヒドロキシヘプタデカン酸、8-ヒドロキシヘプタデカン酸、10-ヒドロキシヘプタデカン酸、12-ヒドロキシヘプタデカン酸、13-ヒドロキシヘプタデカン酸、2-ヒドロキシオクタデカン酸、3-ヒドロキシオクタデカン酸、9-ヒドロキシオクタデカン酸、10-ヒドロキシオクタデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、18-ヒドロキシ-2-メチルオクタデカン酸、18-ヒドロキシ-5-メチルオクタデカン酸、19-ヒドロキシ-3-メチルノナデカン酸、20-ヒドロキシ-2-メチルエイコサン酸、2-ヒドロキシヘンイコサン酸、3-ヒドロキシヘンイコサン酸、21-ヒドロキシ-6-メチルヘンイコサン酸、3-ヒドロキシ-20-メチルヘンイコサン酸、2-ヒドロキシドコサン酸、3-ヒドロキシドコサン酸、13-ヒドロキシドコサン酸、14-ヒドロキシドコサン酸、22-ヒドロキシ-3-メチルドコサン酸、3-ヒドロキシ-20-メチルドコサン酸、2-ヒドロキシトリコサン酸、3-ヒドロキシトリコサン酸、23-ヒドロキシ-6-プロピルトリコサン酸、2-ヒドロキシテトラコサン酸、24-ヒドロキシ-2-メチルテトラコサン酸、25-ヒドロキシ-3-メチルペンタコサン酸、25-ヒドロキシ-2-プロピルペンタコサン酸、26-ヒドロキシ-6-メチルヘキサコサン酸、27-ヒドロキシ-3-メチルヘプタコサン酸、29-ヒドロキシ-9-メチルノナコサン酸が挙げられる。これらの化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
<ポリエステル系重合体の製造方法>
本発明のポリエステル系重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを挙げることができる。バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができる。
【0060】
エステル交換反応に用いるエステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiの酸化物、酢酸塩等が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Ge、Alの酸化物、酢酸塩等の化合物や、有機スルホン酸化合物が挙げられる。本発明のポリエステル系重合体を用いた製膜後のフィルムが食品に直接接触することがある場合には、フィルムはSb化合物や、有機スルホン酸化合物を含有しないことが好ましく、重縮合触媒としてTiやGe化合物を使用してポリエステルを重合することが好ましい。重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒドやテトラヒドロフラン等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合することが好ましい。
【0061】
本発明のポリエステル系重合体の重合においては、必要に応じ、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。熱安定剤としては、例えばリン系化合物等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系の化合物等が挙げられる。
【0062】
本発明のポリエステル系重合体の製造方法の一実施形態として、下記一般式(1-4)で表される化合物(以下、「化合物(1-4)」という。)及び下記一般式(2-4)で表される化合物(以下、「化合物(2-4)」という。)を、触媒存在下、温度170~250℃の範囲内で重縮合反応させ、前記化合物(1-4)に由来する構造単位、即ち前述した構造単位(1)と、前記化合物(2-4)に由来する構造単位、即ち前述した構造単位(2)とを含むポリエステル系重合体を得る方法が挙げられる。
HO-X1-C(=O)-OH (1-4)
HO-X2-C(=O)-OH (2-4)
(式(1-4)中、-X1-は、置換基を有していてもよい、炭素数1~50、好ましくは炭素数7~50の直鎖の2価の炭化水素基を表す。式(2-4)中、-X2-は、分岐構造を有する、置換基を有してもよい、炭素数2~50、好ましくは7~50の2価の炭化水素基を表す。)
【0063】
前記化合物(1-4)としては、化合物(1-2)として例示した前述の化合物(16-ヒドロキシヘキサデカン酸等)を用いることができる。
【0064】
前記化合物(2-4)としては、化合物(2-3)として例示した前述の化合物(12-ヒドロキシステアリン酸等)を用いることができる。
【0065】
本発明のポリエステル系重合体の製造方法において、重縮合反応の方法は、特に限定されないが、常圧、不活性ガス下で昇温し1段目の初期重合を行なったのち、減圧し更に2段目の重合を行なう方法を用いることができる。
また、前記1段目と2段目の重合反応を行なった後、固相重合等を行なうことにより、更に高分子量のポリエステル系重合体を得ることができる。
【0066】
1段目の初期重合の条件は、特に限定されないが、室温から0.5~10℃/分の速度で昇温し、170~250℃に達した時点で温度を一定に保ち、更に30分間~24時間反応させるのが望ましい。減圧し更に行なう2段目の重合の条件は、特に限定されないが、初期重合で昇温した温度を保持して、圧力条件10mmHg以下、好ましくは3mmHg以下で重合させるのが望ましい。
【0067】
エステル交換触媒及び重縮合触媒の添加時間は特に限定されず、化合物(1-4)、(2-4)と共に仕込んでもよいし、初期重合終了後の減圧状態時に投入してもよいが、化合物(1-4)、(2-4)が水溶液の場合は、減圧による濃縮が終了した後に投入するのが望ましい。
【0068】
本発明のポリエステル系重合体には、その用途に応じて、該重合体の所望の性能を損なわない程度に、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、金属石鹸、塩酸吸収剤等の安定剤、造核剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤等の公知の添加剤を配合してもよい。
【実施例0069】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[原材料]
以下の実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
16HD:16-ヒドロキシヘキサデカン酸(東京化成工業株式会社製)
12HS:12-ヒドロキシステアリン酸(東京化成工業株式会社製)
Ti(OiPr)4:チタン酸テトライソプロピル(東京化成工業株式会社製)
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン(東京化成工業株式会社製)
【0071】
[評価方法]
<ポリエステル系重合体の海洋生分解性試験>
実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体を、粒子径(ふるい分け法)が250μm以下となるように粉砕して、粉砕樹脂を得た。粉砕樹脂の生分解度を、ISO14851に準拠し、以下の手順に従って測定した。
510mLの褐色瓶に、ポリエステル系重合体の試料30mgを入れ、ISO14851に準拠した方法で調製した標準試験培養液と海水の混合液100mLを加えた。褐色瓶に圧力センサー(WTW社製、機種名:OxiTop(登録商標)-C型)を取り付け、25℃の高温環境下、試験溶液をスターラーで攪拌し、BOD測定に基づいて生分解度(%)を算出し、その経時変化を調べた。
【0072】
<ポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)・数平均分子量(Mn)>
実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC測定)を用いて、以下の手順で質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めた。
ポリエステル系重合体の試料(約20mg)を、高温GPC用サンプル前処理装置(ポリマーラボラトリー社製、機種名:PL-SP 260VS)用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo-ジクロロベンゼン溶液(BHT濃度 0.5g/L)を、ポリエステル系重合体の濃度が0.1質量%になるように加えた。
次いで、前記試料を含むバイアル瓶を、前記高温GPC用サンプル前処理装置に設置し、135℃に加熱してポリエステル系重合体を溶解させた後、グラスフィルターを用いて濾過することにより、GPC測定用試料を得た。なお、いずれの場合も、グラスフィルターに、捕捉されたポリエステル系重合体は観察されなかった。
次に、RI検出器を備えた高温GPC装置(東ソー社製、機種名:HLC-8321GPC/HT、カラム:東ソー社製TSKgel GMH-HT(30cm×4本))を用いて、試料注入量約300μL、カラム温度135℃、測定溶媒(移動相)としてo-ジクロロベンゼン、流量1.0mL/minの測定条件でGPC測定を行った。
ポリエステル系重合体の分子量は、市販の単分散ポリスチレンを標準試料として、エチレン系重合体の粘度式から作成した、保持時間と分子量に関する校正曲線に基づいて算出した。なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E-4、α=0.70を使用し、エチレン系重合体に対しては、K=4.77E-4、α=0.70を使用した。
【0073】
<ポリエステル系重合体の融点(Tm)・結晶化温度(Tc)>
実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体について、示差走査型熱量測定装置(DSC)(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、機種名:TA7000 DSC7020 AS-3D)を用いて、以下の手順で融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)を測定した。
ポリエステル系重合体約1mgをサンプル容器に入れ、窒素ガス雰囲気下、30℃で3分間保持した。次いで、30℃から210℃まで昇温速度10℃/分で昇温して、210℃で5分間保持した。次いで、210℃から-10℃まで冷却速度10℃/分で冷却して、-10℃で5分間保持した。その後、-10℃から210℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、この時の融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)(単位:℃)を求めた。
【0074】
<ポリエステル系重合体の組成分析>
13C-NMR測定装置(Bruker社製、機種名:AVANCE500MHz)を用いて、以下の手順で実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体の組成分析を実施した。
ポリエステル系重合体30mgを、ODCB(オルトジクロロベンゼン)-d4(0.6mL)中に溶解させ、これをNMR測定試料とした。得られたNMR測定試料について、13C-NMR測定装置を用いて、測定温度130℃、pp:zgig(インバースゲートデカップリング13C)、積算回数ns:3000回、D1:14.8秒の条件で13C-NMR測定を行った。
【0075】
[実施例1]
16HD(13.77g、50.55mmol)及び12HS(0.40g、1.33mmol)の混合物に、窒素雰囲気下で、Ti(O-iPr)
4のブタノール液(10mg/mL)0.63mL(Ti(O-iPr)
4換算で6.3mg(0.022mmol))を添加し、攪拌しながら前記混合物の温度を200℃まで昇温した。
前記混合物の温度を200℃に維持しながら2時間攪拌した後、さらに減圧条件下(0.39Torr)で、220℃に加熱しながら4時間加熱攪拌した。
次いで、加熱攪拌後の混合物を、該混合物の温度が室温となるまで冷却した。次いで、冷却後の前記混合物を攪拌しながら、トルエン(100mL)を添加し、得られた溶液をアセトン(500mL)に注ぎ、懸濁液を得た。
得られた懸濁液を濾過し、得られた濾過物を温度25℃で12時間乾燥して、白色粉末状のポリエステル系重合体を得た(12.75g)。
得られたポリエステル系重合体を評価したところ、Mw51000,Mn18000,Tm91℃、Tc77℃であった。
また、
13C-NMR測定により算出した、ポリエステル系重合体中の12-ヒドロキシステアリン酸に由来する構造単位の含有割合は、該ポリエステル系重合体を構成する構造単位の総モル数を100mol%として、2.2mol%(ポリエステル系重合体100%に対して2.5質量%)であった。よって、16HDに由来する構造単位の含有割合は、97.8mol%(ポリエステル系重合体100%に対して97.5質量%)と算出される。
このポリエステル系重合体の海洋生分解性試験の結果を
図1に示した。
【0076】
[比較例1]
実施例1における16HD及び12HSの代わりに、16HD(15.88g,58.29mmol)のみを用いた以外は、実施例1と同様の条件で操作を行い、白色粉末状のポリエステル系重合体を得た(15.33g)。
得られたポリエステル系重合体を評価したところ、Mw68000,Mn36000,Tm94℃,Tc79℃であった。
このポリエステル系重合体の海洋生分解性試験の結果を
図1に示した。
【0077】
図1より明らかなように、実施例1のポリエステル系重合体は、海洋生分解性に優れていた。さらに、該ポリエステル系重合体は、十分な分子量(Mw,Mn)を有していると共に、融点及び結晶化温度も高いことから、実用上十分なレベルの熱特性、機械的特性を有していることがわかる。
一方、比較例1のポリエステル系重合体は、分岐構造を有さないため、ほぼ同じ条件で製造した実施例1で得られたポリエステル系重合体と比較すると、海洋生分解性に劣っていた。
本発明のポリエステル系重合体は、繰り返し構造単位中に直鎖構造と分岐構造とを適度なモル比率で含有することから、海洋生分解性及び耐熱性に優れる上に、ポリエステル系重合体本来の特徴である良好な靭性、耐薬品性、力学物性と相まって、例えば、食品包材、医療用包材、農薬、試薬ボトルなど包装材や容器、電子部品包材など、様々な日常生活品の包装材料や、各種成形品、繊維製品などの用途に用いて、使用済みプラスチック製品の廃棄に起因する環境汚染、特に使用済みプラスチック製品の海洋廃棄によって引き起こされるマイクロプラスチックによる海洋生物への影響を低減できることが期待される。