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特開2024-75282ポリエステル系重合体、及びポリエステル系重合体の製造方法
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  • 特開-ポリエステル系重合体、及びポリエステル系重合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075282
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ポリエステル系重合体、及びポリエステル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/06 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
C08G63/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186621
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直正
(72)【発明者】
【氏名】井澤 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】河井 潤也
(72)【発明者】
【氏名】池田 悠太
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AB01
4J029AB04
4J029AD01
4J029AD06
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE06
4J029EA01
4J029EA02
4J029EA05
4J029JA091
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC361
4J029JC371
4J029JF021
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF181
4J029JF221
4J029JF321
4J029JF361
4J029JF471
4J029JF541
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】
【課題】従来のポリエステル系重合体に比べて、機械的特性及び耐熱性に優れたポリエステル系重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造単位(1)を含み、質量平均分子量(Mw)が10,000以上300,000以下である、ポリエステル系重合体。
-[O-X-C(=O)]- (1)
(式(1)中、Xは、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基を表す。前記Xが、分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。nは1~100の範囲内の整数を表す。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位(1)を含み、質量平均分子量(Mw)が10,000以上300,000以下である、ポリエステル系重合体。
-[O-X-C(=O)]- (1)
(式(1)中、Xは、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基を表す。前記Xが、分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。nは1~100の範囲内の整数を表す。)
【請求項2】
前記構造単位(1)の含有割合が、前記ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、90質量%以上である、請求項1に記載のポリエステル系重合体。
【請求項3】
前記構造単位(1)が、下記一般式(1-1)で表される構造単位(1-1)を含む、請求項1に記載のポリエステル系重合体。
-[O-(CH-C(=O)]- (1-1)
(式(1-1)中、aは28~50の整数を表す。mは1~100の範囲内の整数を表す。)
【請求項4】
前記構造単位(1-1)が、下記一般式(1-2)で表される化合物に由来する構造単位である、請求項3に記載のポリエステル系重合体。
HO-(CH-C(=O)-OH (1-2)
(式(1-2)中、aは28~50の整数を表す。)
【請求項5】
下記一般式(1-3)で表される化合物を、触媒存在下、温度170~250℃の範囲内で重縮合反応させ、前記化合物に由来する構造単位(1)を含むポリエステル系重合体を得ることを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエステル系重合体の製造方法。
HO-X-C(=O)-OH (1-3)
(式(1-3)中、Xは、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基を表す。前記Xが、分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系重合体、及びポリエステル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品は、食品、飲料、医薬・医療品、化学品、化粧品、トイレタリー、工業用品に至るまで、様々な用途に使用されている。一方で、近年、プラスチックの廃棄や海洋汚染が世界的な社会問題となっている。そのため、従来廃棄されていたプラスチック製品や包装資材を新たな資源として捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させるサーキュラーエコノミーが重要な関心事となっている。
【0003】
プラスチック成形品に用いられる原料樹脂として、ポリエステル樹脂は、靭性や耐熱性、耐薬品性、力学物性に優れていることから、食品包材、医療用包材、農薬、試薬ボトル等の包装材や容器、電子部品包材等、様々な日常生活品の包装材料や、各種成形品、繊維製品等に使用されている。
【0004】
一方で、近年、自然環境保護に対する社会的な要求が高まりつつあり、使用済みプラスチック用品の廃棄に起因する環境汚染、特に使用済みプラスチック用品の海洋廃棄によって引き起こされるマイクロプラスチックによる海洋生物への影響から、海中での生分解性(以下、「海洋生分解性」という。)に優れる樹脂が要求されている。
プラスチック原料樹脂の中でも、ポリエステル樹脂は、主鎖中にエステル基を含むことから、他のプラスチック原料樹脂と比較して、生分解性、特に海洋生分解性に優れることから、サーキュラーエコノミーに対応可能な材料として注目されている。
【0005】
ポリエステル系重合体を用いた成形品は、従来から透明容器や蓋等の包装材等に多用されており、その機械的特性に優れることは勿論、近年は、電子レンジの普及に伴い、透明容器や包装材等を電子レンジで加熱しも変形し難いことが要望されている。即ち、耐熱性と機械的特性に優れたポリエステル系重合体が強く要望されている。
【0006】
ポリエステル系重合体として、例えば特許文献1及び2には、α,ω-ヒドロキシ脂肪酸由来の構造単位を含むポリエステル系重合体が開示されている。また、特許文献3には、ジオールとジカルボン酸からなるポリカーボネート系重合体やポリエステル系重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0051780号明細書
【特許文献2】特開平8-295726号公報
【特許文献3】国際公開第2021/224303号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に記載されたポリエステル系重合体は、例えば、医療用材料、農薬組成物、生分解プラスチック等の工業部材への利用を想定した技術であり、耐熱性と機械的特性のバランスが十分とはいえず、特に耐熱性が不十分であった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、従来のポリエステル系重合体に比べて、機械的特性及び耐熱性に優れたポリエステル系重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、ポリエステル系重合体を形成する、ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の鎖長を特定の範囲内とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0012】
[1] 下記一般式(1)で表される構造単位(1)を含み、質量平均分子量(Mw)が10,000以上300,000以下である、ポリエステル系重合体。
-[O-X-C(=O)]- (1)
(式(1)中、Xは、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基を表す。前記Xが、分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。nは1~100の範囲内の整数を表す。)
【0013】
[2] 前記構造単位(1)の含有割合が、前記ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、90質量%以上である、[1]に記載のポリエステル系重合体。
【0014】
[3] 前記構造単位(1)が、下記一般式(1-1)で表される構造単位(1-1)を含む、[1]又は[2]に記載のポリエステル系重合体。
-[O-(CH-C(=O)]- (1-1)
(式(1-1)中、aは28~50の整数を表す。mは1~100の範囲内の整数を表す。)
【0015】
[4] 前記構造単位(1-1)が、下記一般式(1-2)で表される化合物に由来する構造単位である、[3]に記載のポリエステル系重合体。
HO-(CH-C(=O)-OH (1-2)
(式(1-2)中、aは28~50の整数を表す。)
【0016】
[5] 下記一般式(1-3)で表される化合物を、触媒存在下、温度170~250℃の範囲内で重縮合反応させ、前記化合物に由来する構造単位(1)を含むポリエステル系重合体を得ることを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル系重合体の製造方法。
HO-X-C(=O)-OH (1-3)
(式(1-3)中、Xは、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基を表す。前記Xが、分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機械的特性及び耐熱性に優れたポリエステル系重合体を提供することができる。
さらに、本発明のポリエステル系重合体は、主鎖中にエステル基を含むことから、生分解性、特に海洋生分解性にも優れ、該重合体を形成してなるプラスチック製品においては、使用済みプラスチック製品の廃棄に起因する環境汚染、特に使用済みプラスチック製品の海洋廃棄によって引き起こされるマイクロプラスチックによる海洋生物への影響を低減できることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体の機械的特性(引張伸度-引張強度)の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0020】
なお、特に断らない限り、本明細書において、「構造単位」とは、ポリエステル系重合体の製造に用いる原料化合物が重合することにより形成された、前記原料化合物に由来する単位であって、得られた重合体において任意の連結基に挟まれた部分構造を示す。重合体の末端部分で一方が連結基であり、もう一方が重合反応性基である部分構造も含む。構造単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、得られた重合体を処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
本明細書において、「繰り返し単位」とは、「構造単位」と同義である。
【0021】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、特に断りのない限り、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0022】
本明細書において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
【0023】
<ポリエステル系重合体>
本発明のポリエステル系重合体は、下記一般式(1)で表される構造単位(1)を含み、質量平均分子量(Mw)が10,000以上300,000以下である、ポリエステル系重合体である。
-[O-X-C(=O)]- (1)
(式(1)中、Xは、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基を表す。前記Xが、分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。nは1~100の範囲内の整数を表す。)
【0024】
本発明のポリエステル系重合体は、構造単位(1)を含むことにより、機械的特性及び耐熱性を優れたものにできる。
【0025】
本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(1)の含有割合の下限は、ポリエステル系重合体の物性を損なわなければ、特に限定されるものではないが、ポリエステル系重合体の機械的特性及び耐熱性を優れたものにできる観点から、該ポリエステル系重合体の総質量100%に対して、90質量%以上が好ましく、95質量以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。一方、前記構造単位(1)の含有割合の上限は、特に限定されるものではなく、100質量%であってもよい。
【0026】
また、本発明のポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)の下限は、該ポリエステル系重合体の機械的特性が良好となる観点から、10,000以上であり、13,000以上が好ましく、16,000以上がより好ましく、20,000以上がさらに好ましい。一方、前記質量平均分子量(Mw)の上限は、該ポリエステル系重合体の成形加工性が良好となる観点から、300,000以下であり、280,000以下が好ましく、250,000以下がより好ましく、220,000以下がさらに好ましい。
上記の上限下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、本発明のポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)は、10,000以上300,000以下であり、13,000以上280,000以下が好ましく、16,000以上250,000以下がより好ましく、20,000以上220,000以下がさらに好ましい。
【0027】
また、本発明のポリエステル系重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)の下限は、小さすぎると、ポリエステル系重合体の成形加工性が低下するおそれがあり、大きすぎると、含有される低分子量成分によりポリエステル系重合体の機械的特性や耐熱性が低下するおそれがあることから、Mw/Mnは、1.7~20が好ましく、1.8~15がより好ましく、1.9~10がさらに好ましい。
なお、Mw、Mw/Mnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、測定条件は後述の実施例に記載のとおりである。
【0028】
本発明のポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)は、ポリエステル系重合体の重合方法や重合条件、ポリエステル系重合体の原料の種類や配合割合、重合触媒の種類やその添加量等、公知の条件を適宜最適化することにより、任意に制御できる。
【0029】
<構造単位(1)>
構造単位(1)は、本発明のポリエステル系重合体を構成する構造単位であり、前記一般式(1)で表される。
【0030】
前記一般式(1)において、Xは、得られたポリエステル系重合体の柔軟性や成形加工性が良好となる観点から、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基である。即ち、炭素数が28~50の直鎖の2価の炭化水素基、あるいは主鎖の炭素数が28~50の分岐の2価の炭化水素基である。得られたポリエステル系重合体の柔軟性や成形加工性の観点から、Xの主鎖の炭素数は、好ましくは28~47、より好ましくは29~45である。
【0031】
前記Xが分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。なお、ここで、Xが分岐鎖として炭素数1~10のアルキル基を有する分岐炭化水素基である場合、当該分岐鎖の炭素数は上記炭素数28~50の炭化水素基の炭素数には含まれない。前記Xが、このような分岐構造を含むことにより、得られたポリエステル系重合体の柔軟性や成形加工性が良好となる。
ただし、前記分岐鎖の炭素数が大きすぎると、ポリエステル系重合体を重合する際に重縮合反応が進行しにくくなり、得られたポリエステル系重合体の分子量が低下し、機械的特性が低下する傾向があることから、前記分岐鎖は、炭素数2~10のアルキル基が好ましく、炭素数4~8のアルキル基がより好ましい。
また、前記分岐鎖の形態は、特に限定されるものではないが、得られたポリエステル系重合体の耐熱性の観点から、直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0032】
前記分岐鎖として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基が挙げられる。これらの中でも、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基がより好ましく、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基がより好ましい。
【0033】
<構造単位(1-1)>
本発明のポリエステル系重合体において、前記構造単位(1)は、下記一般式(1-1)で表される構造単位(1-1)を含むことができる。
-[O-(CH-C(=O)]- (1-1)
(式(1-1)中、aは28~50の整数を表す。mは1~100の範囲内の整数を表す。)
【0034】
本発明のポリエステル系重合体は、前記構造単位(1)が、前記構造単位(1-1)を含むことにより、ポリエステル系重合体の機械的特性及び耐熱性をより優れたものにできる。
【0035】
本発明のポリエステル系重合体中における、前記構造単位(1-1)の含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、ポリエステル系重合体の機械的特性及び耐熱性をより優れたものにできる観点から、前記構造単位(1)の総質量100%に対して、85質量%以上が好ましく、87質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。一方、前記構造単位(1-1)の含有割合の上限は、特に限定されるものではなく、前記構造単位(1)の総質量100%に対して、100質量%であってもよい。ポリエステル系重合体の耐熱性及び力学特性を良好に維持できる観点から、前記構造単位(1-1)の含有割合は多いほど好ましく、100質量%であってもよい。
上記の上限下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、本発明のポリエステル系重合体において、前記構造単位(1)中の前記構造単位(1-1)の含有割合は、該構造単位(1)の総質量100%に対して、85質量%以上100質量%以下が好ましく、87質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0036】
<一般式(1-2)で表される化合物>
本発明のポリエステル系重合体中において、前記構造単位(1-1)は、特に限定されるものではないが、下記一般式(1-2)で表される化合物(以下、「化合物(1-2)」という。)に由来する構造単位を用いることができる。
HO-(CH-C(=O)-OH (1-2)
(式(1-2)中、aは28~50の整数を表す。)
【0037】
本発明のポリエステル系重合体は、前記構造単位(1-1)として、化合物(1-2)に由来する構造単位を含むことで、ポリエステル系重合体の機械的特性及び耐熱性をさらに優れたものにできる。
【0038】
化合物(1-2)は、一般式(1-2)の「a」の値(以下、「主鎖メチレン数」という。)が、28以上50以下の範囲内にあるα,ω-ヒドロキシカルボン酸であり、化合物(1-2)に由来する構造単位により、本発明のポリエステル系重合体における前記構造単位(1-1)を形成することができる。
【0039】
前記化合物(1-2)において、主鎖メチレン数が小さすぎると、得られたポリエステル系重合体は融点が低下し、耐熱性が低下する傾向があり、一方、主鎖メチレン数が大きすぎると、ポリエステル系重合体を重合する際に重縮合反応が進行しにくくなり、得られたポリエステル系重合体の分子量が低下し、機械的特性が低下する傾向があるため、主鎖メチレン数aは28~50であり、28~47が好ましく、29~45がより好ましい。
【0040】
本発明のポリエステル系重合体において、前記化合物(1-2)は、特に限定されるものではないが、例えば、29-ヒドロキシノナコサン酸、30-ヒドロキシトリアコンタン酸、31-ヒドロキシウントリアコンタン酸、32-ヒドロキシドトリアコンタン酸、33-ヒドロキシトリトリアコンタン酸、34-ヒドロキシテトラトリアコンタン酸、35-ヒドロキシペンタトリアコンタン酸、36-ヒドロキシヘキサトリアコンタン酸、37-ヒドロキシヘプタトリアコンタン酸、38-ヒドロキシオクタトリアコンタン酸、39-ヒドロキシノナトリアコンタン酸、40-ヒドロキシテトラコンタン酸、41-ヒドロキシウンテトラコンタン酸、42-ヒドロキシドテトラコンタン酸、43-ヒドロキシトリテトラコンタン酸、44-ヒドロキシテトラテトラコンタン酸、45-ヒドロキシペンタテトラコンタン酸、46-ヒドロキシヘキサテトラコンタン酸、47-ヒドロキシヘプタテトラコンタン酸、48-ヒドロキシオクタテトラコンタン酸、49-ヒドロキシノナテトラコンタン酸、50-ヒドロキシペンタコンタン酸、51-ヒドロキシヘンペンタコンタン酸が挙げられる。これらの化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
さらに、前記化合物(1-2)は、前記一般式(1-2)中の任意のメチレン基が、炭素数1~10のアルキル基からなる分岐鎖を有していてもよい。前記化合物(1-2)が、このような前記分岐構造を含むことにより、得られたポリエステル系重合体の柔軟性や成形加工性が良好となる。なお、この場合、化合物(1-2)のメチレン主鎖の炭素数(即ち主鎖メチレン数aの数)に分岐鎖の炭素数は含まれない。
前記分岐鎖の炭素数が多すぎると、ポリエステル系重合体を重合する際に重縮合反応が進行しにくくなり、得られたポリエステル系重合体の分子量が低下し、機械的特性が低下する傾向があることから、前記分岐鎖は、炭素数2~10のアルキル基が好ましく、炭素数4~8のアルキル基がより好ましい。
また、前記分岐鎖の形態は、特に限定されるものではないが、得られたポリエステル系重合体の耐熱性の観点から、直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0042】
前記分岐鎖として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基が挙げられる。これらの中でも、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基がより好ましく、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基がより好ましい。
【0043】
<ポリエステル系重合体の製造方法>
本発明のポリエステル系重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを挙げることができる。バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができる。
【0044】
エステル交換反応に用いるエステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiの酸化物、酢酸塩等が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Ge、Alの酸化物、酢酸塩等の化合物や、有機スルホン酸化合物が挙げられる。本発明のポリエステル系重合体を用いた製膜後のフィルムが食品に直接接触することがある場合には、フィルムはSb化合物や、有機スルホン酸化合物を含有しないことが好ましく、重縮合触媒としてTiやGe化合物を使用してポリエステルを重合することが好ましい。重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒドやテトラヒドロフラン等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合することが好ましい。
【0045】
本発明のポリエステル系重合体の重合においては、必要に応じ、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。熱安定剤としては、例えばリン系化合物等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系の化合物等が挙げられる。
【0046】
本発明のポリエステル系重合体の製造方法の一実施形態として、下記一般式(1-3)で表される化合物(以下、「化合物(1-3)」という。)を、触媒存在下、温度170~250℃の範囲内で重縮合反応させ、前記化合物(1-3)に由来する構造単位、即ち前述した構造単位(1)を含むポリエステル系重合体を得る方法が挙げられる。
HO-X-C(=O)-OH (1-3)
(式(1-3)中、は、Xは、主鎖の炭素数が28~50の直鎖又は分岐の2価の炭化水素基を表す。前記Xが、分岐の炭化水素基の場合、該分岐鎖は、炭素数1~10のアルキル基からなる。)
【0047】
前記化合物(1-3)としては、化合物(1-2)として例示した前述の化合物を用いることができる。
【0048】
本発明のポリエステル系重合体の製造方法において、重縮合反応の方法は、特に限定されないが、常圧、不活性ガス下で昇温し1段目の初期重合を行なったのち、減圧し更に2段目の重合を行なう方法を用いることができる。
また、前記1段目と2段目の重合反応を行なった後、固相重合等を行なうことにより、更に高分子量のポリエステル系重合体を得ることができる。
【0049】
1段目の初期重合の条件は、特に限定されないが、室温から0.5~10℃/分の速度で昇温し、170~250℃に達した時点で温度を一定に保ち、更に30分間~24時間反応させるのが望ましい。減圧し更に行なう2段目の重合の条件は、特に限定されないが、初期重合で昇温した温度を保持して、圧力条件10mmHg以下、好ましくは3mmHg以下で重合させるのが望ましい。
【0050】
エステル交換触媒及び重縮合触媒の添加時期は特に限定されず、化合物(1-3)と共に仕込んでもよいし、初期重合終了後の減圧状態時に投入してもよいが、化合物(1-3)が水溶液の場合は、減圧による濃縮が終了した後に投入するのが望ましい
【0051】
本発明のポリエステル系重合体には、その用途に応じて、該重合体の所望の性能を損なわない程度に、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、金属石鹸、塩酸吸収剤等の安定剤、造核剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤等の公知の添加剤を配合してもよい。
【実施例0052】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[原材料]
以下の実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
32HTA:32-ヒドロキシドトリアコンタン酸(Org.Lett.,vol17,p5456-5459(2015)に基づいて合成した。)
16HD:16-ヒドロキシヘキサデカン酸(東京化成工業株式会社製)
Ti(OBu):テトラブチルオルトチタネート(商品名、東京化成工業株式会社製)
Ti(OiPr):テトライソプロピルオルトチタネート(商品名、東京化成工業株式会社製)
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン(東京化成工業株式会社製)
【0054】
[評価方法]
<ポリエステル系重合体の質量平均分子量(Mw)・数平均分子量(Mn)>
実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC測定)を用いて、以下の手順で質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めた。
ポリエステル系重合体の試料(約20mg)を、高温GPC用サンプル前処理装置(ポリマーラボラトリー社製、機種名:PL-SP 260VS)用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo-ジクロロベンゼン溶液(BHT濃度0.5g/L)を、ポリエステル系重合体の濃度が0.1質量%になるように加えた。
次いで、前記試料を含むバイアル瓶を、前記高温GPC用サンプル前処理装置に設置し、135℃に加熱してポリエステル系重合体を溶解させた後、グラスフィルターを用いて濾過することにより、GPC測定用試料を得た。なお、いずれの場合も、グラスフィルターに、捕捉されたポリエステル系重合体は観察されなかった。
次に、RI検出器を備えた高温GPC装置(東ソー社製、機種名:HLC-8321GPC/HT、カラム:東ソー社製TSKgel GMH-HT(30cm×4本))を用いて、試料注入量約300μL、カラム温度135℃、測定溶媒(移動相)としてo-ジクロロベンゼン、流量1.0mL/minの測定条件でGPC測定を行った。
ポリエステル系重合体の分子量は、市販の単分散ポリスチレンを標準試料として、エチレン系重合体の粘度式から作成した、保持時間と分子量に関する校正曲線に基づいて算出した。なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E-4、α=0.70を使用し、エチレン系重合体に対しては、K=4.77E-4、α=0.70を使用した。
【0055】
<ポリエステル系重合体の融点(Tm)・結晶化温度(Tc)>
実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体について、示差走査型熱量測定装置(DSC)(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、機種名:TA7000 DSC7020 AS-3D)を用いて、以下の手順で融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)を測定した。
ポリエステル系重合体約1mgをサンプル容器に入れ、窒素ガス雰囲気下、30℃で3分間保持した。次いで、30℃から210℃まで昇温速度10℃/分で昇温して、210℃で5分間保持した。次いで、210℃から-10℃まで冷却速度10℃/分で冷却して、-10℃で5分間保持した。その後、-10℃から210℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、この時の融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)(単位:℃)を求めた。
【0056】
<機械的特性>
ポリエステル系重合体の機械的特性の指標として、下記の手順で、引張弾性率および引張強度、並びに、破断点伸度及び破断強度を測定した。
(試験片の作成)
実施例及び比較例で得られたポリエステル系重合体の熱プレスシートを作製し、8号ダンベル型に打ち抜いて試験片を作製した。
具体的には、縦150mm×横150mmのPTFEテープ(ニチアス株式会社製、商品名:ナフロンテープ(登録商標)BTOMBO No.9001、厚さ0.05mm)の上に、表面離型処理された金枠(SUS304、外径110mm、内径70mm、厚み0.2mm)を置き、この金枠の内側に各ポリエステル系重合体を1.6g量り採り、その上に更に縦150mm×横150mmのPTFEテープを載せた。
鉄板(160mm×160mm、厚み3mm)2枚の間に、このPTFFテープで挟まれた各ポリエステル系重合体を挟持させた状態で、熱プレス機(株式会社井元製作所製、機種名:IMC-180C型)を用いて熱プレスし、続けて冷却プレス機(株式会社井元製作所製、機種名:IMC-181B型)を用いて冷却プレスして、70mm×70mm×厚み0.2mmの熱プレスシートを得た。熱プレス温度は180℃、熱プレス時間は予熱2分間、プレス2分間とした。また、冷却プレス温度は20℃、冷却プレス時間は2分間とした。このプレスシートを8号ダンベル型に打ち抜いて試験片を作製した。
(引張試験)
引張試験機(オリエンテック社製、機種名:STB-1225L)を用いて、温度23℃、標線間距離10mm、引張速度50mm/minの条件で試験片の引張伸度に対する引張弾性率および引張強度、並びに破断点伸度を測定した。引張強度については、引張試験で得られた引張伸度-引張強度のグラフを図1に掲載した。
【0057】
[実施例1]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に32HTA(15g,30.2mmol)およびTi(OBu)(0.003mmol)を投入して反応溶液を調製した。反応容器内を窒素雰囲気に置換した後、室温(25℃)から160℃まで加熱昇温した後、該反応溶液の温度を160℃に維持しながら、30分間攪拌した。
次いで、反応溶液の温度が160℃から230℃になるまで昇温速度約1℃/分で撹拌しながら昇温した後、該溶液の温度を230℃に維持しながら1時間攪拌した。
次いで、反応溶液に、Ti(OBu)(0.015mmol)を添加した後、該反応溶液の温度を230℃に30分間維持し、30分かけて250℃まで昇温している間に、反応系内の圧力を大気圧から1.3hPaまで約90分かけて徐々に減圧した。減圧し始めてから4時間加熱攪拌した後、該反応溶液の温度を室温放冷した。
反応容器内から、得られた重合物8gをかき出した後、反応容器に残っていた重合物にトルエン(100mL)を添加し、得られたトルエン溶液をアセトン(500mL)に投入して、懸濁液を得た。次いで、得られた懸濁液を濾過し、回収した濾過物を室温で一昼夜乾燥して、白色粉末状のポリエステル系重合体を得(4.0g)、合計12gのポリエステル系重合体を得た。
得られたポリエステル系重合体を評価したところ、Mw28,000,Mn9,900、耐熱性はTm112℃、Tc101℃であった。また、機械的特性は、引張弾性率537MPa、破断点伸度12%GLであった。また、図1に示されるように、破断時の引張強度(破断強度)は21.5MPaであった。
得られたプレスシート試験片は、機械的特性、耐熱性が良好であり、かつ、べたつきもなかった。
【0058】
[比較例1]
反応容器に16HD(15.89g,58.33mmol)を投入し、反応容器内を窒素雰囲気に置換した後、Ti(OiPr)のブタノール溶液(10mg/mL)0.63mL(Ti(OiPr)換算で6.3mg(0.022mmol))を添加した。この反応溶液を、溶液温度が室温(25℃)から200℃になるまで加熱昇温した後、該反応溶液の温度を200℃に維持しながら2時間攪拌した。
次いで、反応容器内の圧力を大気圧から0.39Torrまで徐々に減圧した後、該反応溶液の温度を200℃から220℃まで加熱昇温し、該溶液の温度を220℃に維持しながら4時間加熱攪拌した。加熱攪拌後の反応溶液を、該反応溶液の温度が100℃になるまで放冷し、そこにトルエン(100mL)を添加し、得られた溶液をアセトン(500mL)に注いで、懸濁液を得た。
懸濁液を濾過し、回収した濾過物を室温で一昼夜乾燥して、白色粉末状のポリエステル系重合体を得た(14.41g)。
得られたポリエステル系重合体を評価したところ、Mw18000,Mn7600、耐熱性はTm93℃,Tc81℃であった。また、機械的特性は引張弾性率404MPa、破断点伸度1.3%GLであった。また、図1に示されるように、破断時の引張強度(破断強度)は4.9MPaであった。
ポリエステル系重合体のプレスシートサンプルは、機械的特性、耐熱性ともに、実施例1で得られたものと比較して不良であった。
【0059】
実施例1のポリエステル系重合体は、機械的特性及び耐熱性に優れていた。特に、図1に示されるように、実施例1のポリエステル系重合体は、比較例1のポリエステル系重合体より、高い引張強度を示した。さらに、該ポリエステル系重合体は、十分な分子量(Mw,Mn)を有していることから、実用上十分なレベルの耐熱性及び機械的特性を有していることがわかる。
一方、比較例1のポリエステル系重合体は、前記一般式(1)で表される構造単位(1)を有していないため、実施例1で得られたポリエステル系重合体と比較すると、機械的特性及び耐熱性に劣っていた。
また、実施例1に用いられたポリエステル系重合体は、主鎖中にエステル基を含むことから、生分解性、特に海洋生分解性に優れ、該重合体を形成してなるプラスチック製品においては、使用済みプラスチック製品の廃棄に起因する環境汚染、特に使用済みプラスチック製品の海洋廃棄によって引き起こされるマイクロプラスチックによる海洋生物への影響を低減できることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリエステル系重合体は、該重合体の主鎖中に長いメチレン鎖を有する構造単位(1)を含むことにより、機械的特性及び耐熱性に優れており、ポリエステル系重合体本来の特徴である良好な塗装性、印刷性、帯電防止性、無機フィラー分散性、他樹脂との接着性、他樹脂との相溶化能等と相まって、例えば、フィルム、シート、接着性樹脂、バインダー、相溶化剤、ワックス等の用途に使用可能である。
図1