(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075292
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】処理基板の製造方法、基板の処理方法、パターン形成方法及び洗浄液
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240527BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240527BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20240527BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/316 X
H01L21/318 B
C23C16/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186637
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】猪股 航也
(72)【発明者】
【氏名】田中 大地
(72)【発明者】
【氏名】田島 和哉
【テーマコード(参考)】
4K030
5F058
5F157
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA14
4K030BA43
4K030BB14
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA03
4K030DA05
4K030HA01
4K030JA01
4K030JA10
4K030JA11
4K030LA15
5F058BC02
5F058BC03
5F058BC08
5F058BC09
5F058BE10
5F058BF37
5F157AA22
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5F157BB01
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5F157BC03
5F157BC04
5F157BF22
5F157BF32
5F157BF33
(57)【要約】
【課題】表面改質剤に曝露した基板を洗浄することにより、余剰な表面改質剤を除去でき、表面改質剤が面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得ることができる処理基板の製造方法、基板の処理方法、パターン形成方法及び洗浄液を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも一部の領域が改質した表面を有する処理基板の製造方法であって、基板10に対して結合性を有する化合物(A)20を含有する表面改質剤に、基板10の表面を曝露する工程と、曝露の後の基板10を、洗浄液により洗浄して、化合物(A)20が基板10の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板100を得る工程と、を含む製造方法を採用する。化合物(A)20のハンセン溶解度パラメータと、洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)
2≦128の関係となる洗浄液を選択して用いることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の領域が改質した表面を有する処理基板の製造方法であって、
基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程と、
前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)が前記基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得る工程と、
を含み、
前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を選択して用いる、処理基板の製造方法。
【請求項2】
前記化合物(A)が、アルキルチオール化合物である、請求項1に記載の処理基板の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄液が、炭素数6以上のアルカン、炭素数6以上のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、炭素数4以上のアルコール、炭素数8以上のエーテル及び炭素数3以上のケトンからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤を含有する、請求項2に記載の処理基板の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄液中の前記有機溶剤の含有量は、前記洗浄液の総質量に対して70質量%以上である、請求項3に記載の処理基板の製造方法。
【請求項5】
基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程と、
前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)を前記基板の面方向及び高さ方向に制御しつつ成膜する工程と、
を含み、
前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を選択して用いる、基板の処理方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された処理基板の、前記表面改質剤が成膜していない領域の表面に、蒸着法を使用した薄膜形成により原子層を形成する工程を含む、パターン形成方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の処理基板の製造方法、又は請求項5に記載の基板の処理方法に用いられる洗浄液であって、
デカン、テトラデカン、シクロヘキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、イソブタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ジブチエーテル、アセトン、シクロペンタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤を含有する、洗浄液。
【請求項8】
前記洗浄液中の前記有機溶剤の含有量は、前記洗浄液の総質量に対して70質量%以上である、請求項7に記載の洗浄液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理基板の製造方法、基板の処理方法、パターン形成方法及び洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化、微細化の傾向が高まり、マスクとなる有機パターンやエッチング処理により作製された無機パターンの微細化が進んでおり、原子層レベルの膜厚制御が求められている。
基板上に原子層レベルで薄膜を形成する方法として、原子層成長法(ALD(Atomic Layer Deposition)法;以下単に「ALD法」ともいう。)が知られている。ALD法は、一般的なCVD(Chemical Vapor Deposition)法と比較して高い段差被覆性(ステップカバレッジ)と膜厚制御性とを併せ持つことが知られている。
【0003】
ALD法は、形成しようとする膜を構成する元素を主成分とする2種類のガスを基板上に交互に供給し、基板上に原子層単位で薄膜を形成することを複数回繰り返して所望の厚さの膜を形成する薄膜形成技術である。
ALD法では、原料ガスを供給している間に1層あるいは数層の原料ガスの成分だけが基板表面に吸着され、余分な原料ガスは成長に寄与しない、成長の自己制御機能(セルフリミット機能)を利用する。
例えば、基板上にAl2O3膜を形成する場合、TMA(TriMethyl Aluminum)からなる原料ガス及びOを含む酸化ガスが用いられる。また、基板上に窒化膜を形成する場合、酸化ガスの代わりに窒化ガスが用いられる。
【0004】
近年、ALD法を利用して基板表面に領域選択的に製膜する方法が試みられてきている。例えば、表面改質剤を用いて、基板の一部領域を撥水化処理した後に、未処理領域に対してALD法による原子層の成膜を行う。製膜方法において、ALD法を利用することにより、パターニングの原子層レベルの膜厚制御、ステップカバレッジ及び微細化が期待される。
基板表面の領域選択的製膜法では、一般的に、基板表面を領域選択的に撥水化することで、撥水化された基板表面における製膜を阻害する。例えば、導電体表面と絶縁体表面とが混在する基板表面において、絶縁体表面に選択的に製膜する場合、導電体表面を選択的に撥水化することが求められる。
例えば、特許文献1には、2以上の領域を含む表面であって、2以上の前記領域のうちの隣接する領域に関して、互いに材質が異なる表面にオクタデシルホスホン酸の自己組織化単層膜を形成することにより、異なる材質の領域間のコントラストが良好となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板表面を、表面改質剤を用いて領域選択的に撥水化する際、余剰な表面改質剤が表面改質層に堆積すると、改質層が均一に製膜できず、パターン欠陥の原因となる。
また、特許文献1の方法においては、表面改質剤の曝露後にイソプロピルアルコール(IPA)による洗浄を行うことが開示されているが、余剰な表面改質剤に対する除去性が乏しく、改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、少なくとも一部の領域が改質した表面を有する処理基板の製造方法であって、表面改質剤に曝露した基板を洗浄することにより、余剰な表面改質剤を除去でき、表面改質剤が面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得ることができる処理基板の製造方法、この製造方法に利用可能な基板の処理方法、パターン形成方法及び洗浄液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の第1の態様は、少なくとも一部の領域が改質した表面を有する処理基板の製造方法であって、基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程と、前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)が前記基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得る工程と、を含み、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を選択して用いる、処理基板の製造方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程と、前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)を前記基板の面方向及び高さ方向に制御しつつ成膜する工程と、を含み、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を選択して用いる、基板の処理方法である。
【0010】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様に係る処理基板の製造方法により製造された処理基板の、前記表面改質剤が成膜していない領域の表面に、蒸着法を使用した薄膜形成により原子層を形成する工程を含む、パターン形成方法である。
【0011】
本発明の第4の態様は、前記第1の態様に係る処理基板の製造方法、又は前記第2の態様に係る基板の処理方法に用いられる洗浄液であって、デカン、テトラデカン、シクロヘキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、イソブタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ジブチエーテル、アセトン、シクロペンタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤を含有する、洗浄液である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも一部の領域が改質した表面を有する処理基板の製造方法であって、表面改質剤に曝露した基板を洗浄することにより、余剰な表面改質剤を除去でき、表面改質剤が面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得ることができる処理基板の製造方法、この製造方法に利用可能な基板の処理方法、パターン形成方法及び洗浄液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】表面改質剤に、基板の表面を曝露した後(曝露工程後)の状態を示す模式図である。
【
図2】曝露工程後の基板を、洗浄液により洗浄する前後の状態を示す模式図である。
【
図3A】曝露工程直後における基板表面の原子間力顕微鏡(AFM)観察像(観察範囲1μm×1μm)である。
【
図3B】実施例11で製造された処理基板表面のAFM観察像(観察範囲1μm×1μm)である。
【
図3C】比較例1で製造された処理基板表面のAFM観察像(観察範囲1μm×1μm)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
(処理基板の製造方法)
本発明の第1の態様に係る処理基板の製造方法は、少なくとも一部の領域が改質した表面を有する処理基板の製造方法である。
かかる処理基板の製造方法は、基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程(以下「曝露工程」ともいう。)と、前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)が前記基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得る工程(以下「洗浄工程」ともいう。)と、を含む。
かかる処理基板の製造方法においては、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を選択して用いる。
【0016】
図1は、表面改質剤に、基板の表面を曝露した後(曝露工程後)の状態を示す模式図である。
基板10は、領域Aと領域Bとを備えている。
表面改質剤は、基板10の領域Bに対して結合性を有する化合物(A)20を含有する。
図1では、基板10上に、基板10の領域B全面を被覆する表面改質剤層224が形成されている。表面改質剤層224は、基板10の領域B面に化合物(A)20が直接に結合している単層部22と、単層部22上に化合物(A)20が堆積した余剰部24とからなる。
余剰部24は、基板10の領域A上に突き出ている。このような状態であると、基板10の領域A上に、原子層を形成しようとする際、成膜が阻害されて、一部に欠陥dを生じたC層(破線による囲み)が形成してしまう。
【0017】
図2は、曝露工程後の基板を、洗浄液により洗浄する前後の状態を示す模式図である。
洗浄後の処理基板100は、基板10上に、基板10の領域B全面を被覆する表面改質剤層220が形成されている。洗浄液により余剰部24が洗浄除去されて、表面改質剤層220は、基板10の領域B面に化合物(A)20が直接に結合している単層部22のみからなる。すなわち、化合物(A)20が基板10の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板100が得られている。
【0018】
「化合物(A)が基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した」とは、基板における特定領域の面に、化合物(A)分子が配列して、その特定領域の全面を被覆し、かつ、その特定領域に隣り合う領域上を覆うことなく一定の厚さの膜が形成されていることをいう。
図2において、処理基板100では、基板10における領域Bの面に、化合物(A)分子が配列して、領域Bの全面を被覆し、かつ、領域Bに隣り合う領域A上を覆うことなく一定の厚さLの膜(表面改質剤層220、単層部22)が形成されている。
このような状態であれば、基板10の領域A上に、原子層を形成しようとする際、成膜が阻害されることなく、所望の原子層を容易に形成することができる。
【0019】
前記第1の態様に係る処理基板の製造方法によれば、
図2に示したような処理基板100を製造することができる。
以下、かかる処理基板の製造方法の一実施形態について説明する。
【0020】
<曝露工程>
本実施形態における曝露工程では、基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する。
【0021】
≪基板について≫
本実施形態における処理対象となる基板としては、半導体デバイス作製のために使用される基板が例示される。例えば、ケイ素(Si)基板、窒化ケイ素(SiN)基板、シリコン酸化膜(Ox)基板、タングステン(W)基板、コバルト(Co)基板、窒化チタン(TiN)基板、窒化タンタル(TaN)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、シリコンゲルマニウム(SiGe)基板、アルミニウム(Al)基板、ニッケル(Ni)基板、ルテニウム(Ru)基板、銅(Cu)基板等が挙げられる。
「基板の表面」とは、基板自体の表面のほか、基板上に設けられた無機パターンもしくは有機パターンの表面、又はパターン化されていない無機層もしくは有機層の表面が挙げられる。
【0022】
基板上に設けられた無機パターンとしては、フォトレジスト法により、基板に存在する無機層の表面にエッチングマスクを作製し、その後、エッチング処理することにより形成されたパターンが例示される。無機層としては、基板自体の他、基板を構成する元素の酸化膜、基板の表面に形成したSiN、SiOx、W、Co、TiN、TaN、Ge、SiGe、Al、Al2O3、Ni、Ru、Cu等の無機物の膜ないし層等が例示される。
このような膜や層としては、特に限定されないが、半導体デバイスの作製過程において形成される無機物の膜や層等が例示される。
【0023】
基板上に設けられた有機パターンとしては、フォトレジスト等を用いてフォトリソグラフィ一法により基板上に形成された樹脂パターン等が例示される。このような有機パターンは、例えば、基板上に、フォトレジストの膜である有機層を形成し、この有機層に対してフォトマスクを通して露光し、現像することによって形成することができる。有機層としては、基板自体の表面の他、基板の表面に設けられた積層膜の表面等に設けられた有機層であってもよい。このような有機層としては、特に限定されないが、半導体デバイスの作製過程において、エッチングマスクを形成するために設けられた有機物の膜を例示することができる。
【0024】
本実施形態の処理基板の製造方法において、基板の被処理表面は、1つの領域を含んでいてもよいし、2以上の領域を含んでいてもよい。前記被処理表面が2以上の領域を含む場合、2以上の前記領域のうち少なくとも1つの領域は基板表面を含み、2以上の前記領域のうちの近接する領域は互いに材質が異なってもよい。
図1で、基板10は、領域Aと領域Bとを備えている。表面改質剤に、基板10の被処理表面を曝露することにより、基板10の領域B表面に、化合物(A)20を選択的に吸着させる。これにより、基板10の領域Aと領域Bとの間で、領域表面に対する水の接触角を互いに異ならせることができる。
【0025】
≪表面改質剤について≫
本実施形態において、表面改質剤は、基板に対して結合性を有する化合物(A)(以下「(A)成分」ともいう)を含有する。
図1では、基板10の領域Bに対して結合性を有する化合物(A)20を含有する表面改質剤が用いられている。
【0026】
(A)成分は、選択する基板に対して結合性を有する(A)成分であれば特に限定されないが、例えば、銅(Cu)又はコバルト(Co)基板を用いる場合はチオール基を有する(A)成分が好ましく;タングステン(W)、銅(Cu)、コバルト(Co)、Al2O3、TiN基板を用いる場合はホスホン酸基を有する(A)成分が好ましく;TiN基板を用いる場合はアミノ基を有する(A)成分が好ましく;コバルト(Co)基板を用いる場合はカルボン酸基を有する(A)成分が好ましく;SiO2基板を用いる場合はクロロシラン基、又はアルコキシシラン基を有する(A)成分が好ましい。
銅(Cu)又はコバルト(Co)基板を用いる場合の(A)成分としては、アルキルチオール化合物が好ましい。アルキルチオール化合物の中でも、特に直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキルチオールが好ましく、炭素原子数1~45のアルキルチオールが好ましく、炭素原子数5~30のアルキルチオールがより好ましく、炭素原子数10~25のアルキルチオールがより好ましい。
【0027】
直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキルチオールの具体例としては、オクタデカンチオール、ヘキサンデカンチオール、テトラデカンチオール、ドデカンチオール、デカンチオールが挙げられ、オクタデカンチオールが好ましい。
【0028】
表面改質剤は、(A)成分に加えて、(A)成分以外の成分を含有してもよい。
表面改質剤に占める(A)成分の含有量は、表面改質剤の総質量に対して、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0029】
[曝露工程の操作]
本実施形態における曝露工程では、上述の表面改質剤に、基板10の表面を曝露する。
(A)成分を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する方法は、特に限定されず、例えば浸漬法、又はスピンコート法、ロールコート法及びドクターブレード法などの塗布法等の手段によって、溶剤を含んでいてもよい表面改質剤(典型的には液状の表面改質剤)に、基板の表面を曝露する方法が挙げられる。
【0030】
曝露温度としては、例えば10℃以上90℃以下であり、好ましくは20℃以上80℃以下であり、より好ましくは20℃以上30℃以下である。
曝露時間としては、基板表面における材質が異なる領域間における選択的な表面改質の観点から、20秒間以上が好ましく、30秒間以上がより好ましく、45秒間以上が更に好ましい。上記曝露時間の上限としては特に制限はないが、例えば2時間以下であり、典型的には1時間以下であり、5分間以下が好ましく、2分間以下が更に好ましく、1分間以下が特に好ましい。
【0031】
表面改質剤に曝露した後の基板においては、基板表面の各領域の材質に応じて領域選択的に、表面改質剤に含まれる(A)成分が吸着している。
図1では、基板10の領域B全面に化合物(A)20が吸着し、単層部22と、単層部22上に化合物(A)20が堆積した余剰部24とからなる表面改質剤層224が形成している。余剰部24は、基板10の領域A上に突き出ている。
【0032】
表面改質剤に曝露した後の基板表面の水に対する接触角は、例えば、50°以上140°以下とすることができる。
基板表面の材質、表面改質剤に含まれる(A)成分の種類及び使用量、並びに曝露条件等を制御することにより、(A)成分が吸着する領域の基板表面における水に対する接触角は、50°以上とすることができる。本実施形態では、(A)成分が吸着する領域の基板表面における水に対する接触角は、60°以上が好ましく、70°以上がより好ましく、90°以上が更に好ましい。(A)成分が吸着する領域の基板表面における水に対する接触角の上限値としては特に制限はないが、例えば140°以下であり、典型的には130°以下である。
前記の水に対する接触角は、例えば、接触角測定装置を用い、基板表面に純水液滴を滴下して、所定時間経過後に測定される。
【0033】
<洗浄工程>
本実施形態における洗浄工程では、前記曝露工程後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記(A)成分が前記基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得る。
【0034】
≪洗浄液について≫
洗浄工程では、前記(A)成分のハンセン溶解度パラメータと、ハンセン溶解度パラメータ間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる洗浄液を選択して用いる。
(Ra)2は、余剰な表面改質剤の除去性能の観点から、(Ra)2≦126が好ましい。(Ra)2の下限は、余剰な表面改質剤の除去性能の観点から、0≦(Ra)2であることが好ましい。
【0035】
(A)成分のハンセン溶解度パラメータと、洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raは、三次元座標で表される、(A)成分のハンセン溶解度パラメータ(δdA、δpA、δhA)と、洗浄液のハンセン溶解度パラメータ(δdS、δpS、δhS)とを用いて、下記の数式(1)により算出される。
【0036】
(Ra)2=(δdS-δdA)2+(δpS-δpA)2+(δhS-δhA)2・・・(1)
[ただし、δdS及びδdAは分散項であり、δpS及びδpAは極性項であり、δhS及びδhAは水素結合項である。]
【0037】
ハンセン溶解度パラメータは、例えば、Charles M.Hansenによる「Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook」,CRC Press(2007)及びAllan F.M.Barton(1999)編集の「The CRC Handbook and Solubility Parameters and Cohesion Parameters,」(1999)において、Charles Hansenにより説明されている溶解度パラメータ及び凝集特性に基づいた、所定のパラメータから算出できる。
【0038】
ハンセン溶解度パラメータは、数値定数として理論的に計算され、溶剤材料が特定の溶質を溶解させる能力を予測するのに有用なツールである。
ハンセン溶解度パラメータは、実験的に及び理論的に誘導された下記3つのハンセン溶解度パラメータ(即ち、δd、δp及びδh)を組み合わせることにより、材料の全体的な強度及び選択性の尺度とすることができる。
ハンセン溶解度パラメータの単位は、MPa0.5又は(J/cc)0.5で付与される。
δd:分子間の分散力に由来するエネルギー(分散項)
δp:分子間の極性力に由来するエネルギー(極性項)
δh:分子間の水素結合力に由来するエネルギー(水素結合項)
【0039】
(A)成分、洗浄液の各ハンセン溶解度パラメータは、「Molecular Modeling Pro」ソフトウェア,version 5.1.9(ChemSW,Fairfield CA,www.chemsw.com)、Dynacomp SoftwareからのHansen Solubility、HSPiP等のソフトウェアにより計算することができる。
【0040】
本実施形態において、洗浄液としては、有機溶剤を含有するものを用いることができる。ここでの有機溶剤は、一種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
洗浄液が2種以上の有機溶剤を含有する場合、この洗浄液のハンセン溶解度パラメータ(δdS,δpS,δhS)は、各有機溶剤の混合体積比から算出することができる。
例えば、後述の有機溶剤(S1)と有機溶剤(S2)とを併用する場合、各成分の混合体積比a:b(S1:S2=a:b)としたとき、下記式(1)~(3)により、洗浄液のハンセン溶解度パラメータを算出することができる。
【0041】
δdS=(a*δdS1+b*δdS2)/(a+b) (1)
δpS=(a*δpS1+b*δpS2)/(a+b) (2)
δhS=(a*δhS1+b*δhS2)/(a+b) (3)
【0042】
洗浄液としては、極性溶剤及び炭化水素系溶剤からなる群より選択される有機溶剤(S1)(以下「(S1)成分」ともいう)を含有するものを好適に用いることができる。
(S1)成分における極性溶剤としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤等が挙げられる。
【0043】
ケトン系溶剤としては、炭素数3以上が好ましく、例えば、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、アセトン、2-ヘプタノン(メチルアミルケトン)、4-ヘプタノン、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、イオノン、ジアセトニルアルコール、アセチルカービノール、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、イソホロン、プロピレンカーボネートが挙げられ、アセトン、シクロペンタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノンが好ましい。
【0044】
エステル系溶剤としては、炭素数6以上が好ましく、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテートが挙げられ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0045】
アルコール系溶剤としては、炭素数4以上が好ましく、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール(メチルイソブチルカルビノール;MIBC)、n-ヘキシルアルコール、n-ヘプチルアルコール、n-オクチルアルコール、n-デカノール等のアルコールや、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶剤や、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、メトキシメチルブタノール等のグリコールエーテル系溶剤等を挙げられ、イソブタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-メトキシ-2-プロパノールが好ましい。
【0046】
エーテル系溶剤としては、炭素数8以上が好ましく、例えば、上記グリコールエーテル系溶剤の他に、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル等が挙げられ、ジブチルエーテルが好ましい。
【0047】
炭化水素系溶剤としては、例えば、炭素数6以上のアルカンが好ましく、直鎖状又は環状のアルカンがより好ましく、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、ウンデカン等の直鎖状アルカン、又は、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンシクロデカン等の環状アルカンが挙げられ、デカン、テトラデカン、シクロヘキサンが好ましく、デカン、テトラデカンがより好ましい。
【0048】
上記の中でも、洗浄液としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤及び炭化水素系溶剤からなる群より選択される有機溶剤を含有するものがより好ましく、炭素数6以上のアルカン、炭素数6以上のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、炭素数4以上のアルコール、炭素数8以上のエーテル及び炭素数3以上のケトンからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤を含有するものがさらに好ましい。
【0049】
洗浄液は、(S1)成分以外の有機溶剤(S2)(以下「(S2)成分」ともいう)を含有してもよい。(S2)成分は特に限定されず、(S1)成分と混和性のある有機溶剤を用いることができる。
洗浄液中の前記(S1)成分の含有量は、前記洗浄液の総質量に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0050】
[洗浄工程の操作]
本実施形態における洗浄工程では、前記曝露工程後の基板を、洗浄液により洗浄する。
前記曝露工程後の基板を、洗浄液により洗浄する方法は、特に限定されず、具体的には、洗浄槽に洗浄液を満たして浸漬させるディップ式、ノズルから基板上に洗浄液を流しながら基板を高速回転させるスピン式、基板に液を噴霧して洗浄するスプレー式の方法などが挙げられる。この様な洗浄を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の基板を同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1枚の基板をホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置などがある。
【0051】
洗浄の際における温度条件としては、例えば10℃以上90℃以下であり、好ましくは20℃以上80℃以下であり、より好ましくは20℃以上30℃以下である。
洗浄時間としては、余剰な表面改質剤の除去性能の観点から、20秒間以上が好ましく、30秒間以上がより好ましく、45秒間以上が更に好ましい。上記洗浄時間の上限としては特に制限はないが、例えば5分間以下であり、典型的には2分間以下であり、1分間以下が好ましい。
【0052】
本実施形態の洗浄工程においては、洗浄液により洗浄した後、前記(A)成分が前記基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板が得られる。
図2で、洗浄後の処理基板100は、基板10上に、基板10の領域B全面を被覆する単層部22のみからなる表面改質剤層220が形成している。洗浄前に単層部22上に堆積して基板10の領域A上に突き出ていた余剰部24は、洗浄液により洗浄除去されている。
【0053】
以上説明した処理基板の製造方法の一実施形態においては、基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程と、前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)が前記基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得る工程と、を含むことで、少なくとも一部の領域が改質した表面を有する処理基板を製造することができる。
かかる本実施形態の製造方法によれば、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を用いて、前記化合物(A)に曝露した基板を洗浄するため、前記化合物(A)が前記基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜した処理基板を得ることができる。
このようにして得られた処理基板では、前記化合物(A)が成膜していない基板の特定領域上に、原子層を形成しようとする際、成膜が阻害されることなく、所望の原子層を容易に形成することができる。
【0054】
本実施形態の製造方法により製造された処理基板において、化合物(A)が基板の面方向及び高さ方向に制御されて成膜したことは、以下のようにして確認できる。
【0055】
化合物(A)が基板の面方向に制御されて成膜したことについては、基板の処理面における「水の接触角」を測定することにより確認できる。ここでいう「水の接触角」は、例えば、接触角測定装置を用い、基板表面に純水液滴を滴下して、所定時間経過後に測定される。
基板の処理面における「水の接触角」が、表面改質剤に基板面を曝露した後と、洗浄液による洗浄後と、の間でほとんど変化していなければ、化合物(A)が基板の面方向に制御されて成膜していると判断できる。
本実施形態の製造方法により製造された処理基板において、基板の処理面における「水の接触角」は、例えば50°以上140°以下が保たれており、好ましくは60°以上130°以下、より好ましくは70°以上130°以下、さらに好ましくは90°以上130°以下が保たれている。
【0056】
化合物(A)が基板の高さ方向に制御されて成膜したことについては、基板面から一定の高さを超えて存在する化合物(A)の存在割合(残存率)を測定することにより確認できる。ここでいう「化合物(A)の存在割合(残存率)」は、例えば、処理基板に対して、その上空から原子間力顕微鏡(AFM)観察を行い、基板上に形成された化合物(A)分子が配列した単層の厚さを超えた、基板面からの高さに存在する(すなわち、単層上に堆積する)化合物(A)分子を検出して、化合物(A)分子が単層表面を覆う面積率で示される。
基板の処理面における「化合物(A)の存在割合(残存率)」が、低い値であるほど、洗浄液による化合物(A)の洗浄除去性が高く、化合物(A)が基板の高さ方向に制御されて成膜していると判断できる。
本実施形態の製造方法により製造された処理基板において、基板の処理面における「化合物(A)の残存率」は、例えば、洗浄液として従来汎用のイソプロパノール(IPA)を用いた場合に比べて低くなる。例えば、基板として銅基板、化合物(A)としてオクタデカンチオール(ODT)を用いた場合、基板の処理面における「化合物(A)の残存率」は、8.2%未満であり、好ましくは7.5%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5以下である。
【0057】
<その他実施形態について>
上述した実施形態の処理基板の製造方法では、曝露工程と洗浄工程とを含む場合について説明したが、本発明の第1の態様に係る処理基板の製造方法は、これに限定されず、曝露工程及び洗浄工程以外のその他工程を、必要に応じてさらに含んでいてもよい。その他工程としては、前処理工程、表面処理工程、リンス工程、乾燥工程が挙げられる。
【0058】
前処理工程について:
前処理工程では、基板表面の前処理を行う。基板表面の前処理は、基板表面に水酸基を付与し得る処理が好ましい。前処理方法としては、例えば、オゾン処理、後述の前処理用酸化剤による処理等が挙げられる。前処理用酸化剤は、基板表面への表面改質剤の吸着性向上の観点から、過酸化水素及び過ハロゲン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
前処理の処理温度は特に限定されないが、典型的には10~35℃であり、15~30℃が好ましく、20~25℃がより好ましい。前処理の処理温度が上記の好ましい範囲内であると、基板表面上の自然酸化膜を除去しやすく、基板表面に水酸基を付与しやすい。
前処理の処理時間は特に限定されないが、典型的には10秒~10分間であり、20秒~5分間が好ましく、30秒~3分間がより好ましい。前処理の処理時間が上記の好ましい範囲内であると、基板表面上の自然酸化膜を除去しやすく、基板表面に水酸基を付与しやすい。
【0059】
表面処理工程について:
表面処理工程では、公知の方法を使用することにより、上記曝露工程前の基板表面を、希釈フッ化水素酸で処理する。上記曝露工程前に、表面処理工程をさらに設けることで、基板表面に付着している有機物由来の残渣を除去することができ、基板の面方向への前記表面改質剤の成膜性を向上させることができる。
【0060】
リンス工程について:
曝露工程の後、曝露後の基板に対し、必要に応じて洗浄(例えば、水、イオン交換水、活性剤リンス等による洗浄)を行ってもよい。
例えば、無機パターン又は有機パターンを備える基板表面の、必要に応じて行う前記洗浄には、無機パターン又は有機パターンの洗浄処理に従来使用されてきた洗浄液をそのまま採用することができる。無機パターンの洗浄処理用の洗浄液については、SPM(硫酸・過酸化水素水)、APM(アンモニア・過酸化水素水)等が挙げられ、有機パターンの洗浄処理用の洗浄液については、水、活性剤リンス等が挙げられる。
【0061】
乾燥工程について:
乾燥工程では、基板を乾燥させる。本態様に係る処理基板の製造方法では、前記曝露工程又は前記洗浄工程の後に乾燥工程をさらに設けてもよい。乾燥工程を設けることにより、基板に残留する洗浄液を効率よく除去することができる。
基板の乾燥方法は、特に限定されず、スピン乾燥、加熱乾燥、温風乾燥、真空乾燥等の公知の方法を用いることができる。例えば、不活性ガス(窒素ガスなど)ブロー下でのスピン乾燥が好適に例示される。
また、曝露後に行った乾燥後の基板に対し、必要に応じて、100℃以上300℃以下の加熱処理を追加で行ってもよい。
【0062】
本態様に係る処理基板の製造方法においては、例えば、2種の表面改質剤を用いてもよい。2種の表面改質剤を用いる場合の実施形態においては、領域Aと領域Bとを備えた基板を用いる場合、第1の表面改質剤に、基板の領域Aを曝露することで、領域Aを表面改質した後、本発明の関係を満たす適切な洗浄液で、曝露後の基板を洗浄する。その後、同様の手順で、第2の表面改質剤に、前記洗浄後の基板の領域Bを曝露することで、領域Bを表面改質した後、本発明の関係を満たす適切な洗浄液で、2回目曝露後の基板を洗浄する。このように、2種以上の表面改質剤を用いる場合も、曝露工程と洗浄工程とを繰り返すことで、基板の各領域を異なる表面改質剤によって改質させた処理基板を得ることができる。
【0063】
上述した実施形態の処理基板の製造方法においては、表面改質剤に、基板10の被処理表面を曝露することにより、基板10の領域B表面に、化合物(A)20を選択的に吸着させている。これにより、基板10の領域Aと領域Bとの間で、領域表面に対する水の接触角を互いに異ならせることができる。
本態様に係る処理基板の製造方法に使用できる基板について、基板における2以上の領域間で、他方の領域よりも水の接触角が高くなる(好ましくは、表面自由エネルギーが小さくなる)傾向にある領域としては、導電体で構成される領域が挙げられる。
【0064】
導電体は、導電性を有する材料であれば、特に限定されない。導電体としては、金属原子を含む材料が挙げられる。導電体としては、例えば、金属(例えば、金属元素の単体)、合金、金属化合物(例えば、窒化物等)が挙げられる。導電体が金属である場合、導電体表面は、金属表面となる。導電体が合金である場合、導電体表面は、合金表面となる。導電体が金属化合物である場合、導電体表面は、導電性金属化合物表面となる。
金属表面が含む金属としては、例えば、タングステン(W)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)及び銅(Cu)からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでも、タングステン、ルテニウム、銅及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、タングステン及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することがより好ましい。基板表面を有する領域は、これら金属を含む基板で構成される領域であってもよい。
【0065】
導電体表面は、酸化剤により前処理されていてもよい。導電体表面を前処理する酸化剤(以下「前処理用酸化剤」という。)としては、導電体表面に存在する自然酸化膜を除去し、導電体表面に水酸基を付与し得るものが挙げられる。前処理用酸化剤としては、例えば、過酸化水素等の過酸化物、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸、硝酸や次亜塩素酸等のオキソ酸等が挙げられる。なかでも、前処理用酸化剤としては、化合物(A)の吸着性の観点から、過酸化水素及び過ハロゲン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。過酸化水素及び過ハロゲン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種は、SiO2、Al2O3等の無機物の表面が導電体表面と併存している場合、該無機物へダメージを与えずに導電体表面を処理する観点からも好ましい。
前処理用酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
導電体表面は、オゾン処理されていてもよいし、あるいは、オゾン処理後に前処理用酸化剤により処理されていてもよい。
前処理用酸化剤による前処理及びオゾン処理の少なくとも一方で処理された導電体表面は、水酸基で修飾されている。
【0066】
本実施形態の処理基板の製造方法に用いられる基板は、互いに材質が異なる2以上の領域を含む表面を有し、前記2以上の領域のうち少なくとも1つの領域が、導電体表面を有する基板であってもよい。
少なくとも1つの領域が導電体表面を有する基板の場合、2以上の領域が導電体表面を有してもよい。導電体表面を有する領域が2以上存在する基板の場合、それらの領域は、互いに同じ導電体を含んでもよく、異なる導電体を含んでもよい。
【0067】
前記2以上の領域間において、他方の領域よりも水の接触角が小さくなる(好ましくは、表面自由エネルギーが高くなる)傾向にある領域としては、導電体表面を有さない領域(例えば、絶縁体からなる領域(以下「絶縁体領域」という。)が挙げられる。基板の被処理表面は、絶縁体領域を1つ含んでもよく、2以上含んでもよい。絶縁体領域が2以上存在する場合、それらの領域は、互いに同じ材質で構成されてもよく、異なる材質で構成されてもよい。
基板の被処理表面は、導電体表面を有する領域と、絶縁体領域とを、それぞれ1つ以上含むことが好ましい。
【0068】
絶縁体領域を構成する絶縁体は、絶縁性の化合物から構成される。絶縁性の化合物としては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ケイ素(SiOx(1≦x≦2))、フッ素含有酸化ケイ素(SiOF)、炭素含有酸化ケイ素(SiOC)等の酸化物;窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)等の窒化物;炭化ケイ素(SiC)等の炭化物;炭窒化ケイ素(SiCN)等の炭窒化物;酸窒化ケイ素(SiON)等の酸窒化物;酸炭窒化ケイ素(SiOCN)等の酸炭窒化物;ポリイミド、ポリエステル、プラスチック樹脂等の絶縁性樹脂等が挙げられる。
【0069】
基板の被処理表面は、導電体表面を含有する2以上の領域を含んでもよく、2以上の前記領域のうちの近接する領域に関して、互いに材質が異なってもよい。
【0070】
被処理表面が2つの領域を含む場合、該被処理表面は、導電体表面を含有する第1の領域と、第1の領域とは材質が異なり、第1の領域に隣接する第2の領域(例えば絶縁体領域)とを含んでもよい。この場合、「近接する領域」とは、第1の領域及び第2の領域となる。
第1の領域及び第2の領域は、それぞれ複数の領域に分割されていてもよいし、分割されていなくてもよい。
【0071】
被処理表面が3つ以上の領域を含む場合、該被処理表面は、導電体表面を含有する第1の領域と、第1の領域とは材質が異なり、第1の領域に隣接する第2の領域(例えば絶縁体領域)と、第2の領域とは材質が異なり、第2の領域に隣接する第3の領域とを含んでもよい。この場合、「近接する領域」とは、第1の領域及び第2の領域(すなわち隣接する領域)であってもよいし、第1の領域及び第3の領域(すなわち先隣の領域)であってもよい。
第1の領域と第3の領域とで材質が相違しない場合(すなわち、第1の領域及び第3の領域がいずれも導電体表面を含有する場合)、「近接する領域」は、第1の領域及び第2の領域、又は第2の領域及び第3の領域(すなわち隣接する領域)となる。
第1の領域、第2の領域及び第3の領域は、それぞれ複数の領域に分割されていてもよいし、分割されていなくてもよい。
被処理表面が第4以上の領域を含む場合についても同様の考え方が適用し得る。
材質が相違する領域数の上限値としては、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はないが、例えば、7以下又は6以下であり、典型的には5以下である。
【0072】
(基板の処理方法)
本発明の第2の態様に係る基板の処理方法は、基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程(曝露工程)と、前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)を前記基板の面方向及び高さ方向に制御しつつ成膜する工程(洗浄工程)と、を含む方法である。
かかる基板の処理方法においては、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を選択して用いる。
かかる基板の処理方法における曝露工程及び洗浄工程については、上述した(処理基板の製造方法)の一実施形態における<曝露工程>及び<洗浄工程>についての説明と同様である。
【0073】
本態様に係る基板の処理方法によれば、基板に対して結合性を有する化合物(A)を含有する表面改質剤に、前記基板の表面を曝露する工程と、前記曝露の後の基板を、洗浄液により洗浄して、前記化合物(A)を前記基板の面方向及び高さ方向に制御しつつ成膜する工程と、を含むことにより、目的の基板表面を改質させることができる。
加えて、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となる前記洗浄液を選択して用いることで、余剰な化合物(A)の洗浄除去性が高められて、均一な厚さの改質層の形成が可能になる。
【0074】
(パターン形成方法)
本発明の第3の態様に係るパターン形成方法は、前記第1の態様に係る製造方法により製造された処理基板の、前記表面改質剤が成膜していない領域の表面に、蒸着法を使用した薄膜形成により原子層を形成する工程を含む方法である。
【0075】
<蒸着法を使用した薄膜形成により原子層を形成する工程>
本工程では、上述した実施形態の処理基板の製造方法により製造された処理基板の、前記表面改質剤が成膜していない領域の表面に、蒸着法を使用した薄膜形成により原子層を形成する。例えば
図2において、洗浄後の処理基板100における領域A面に、蒸着法を使用した薄膜形成により原子層を形成する。
蒸着法は、薄膜の原料を含むガスを用いる方法であり、気相中での化学反応を利用して薄膜形成する方法が好ましく用いられる。
【0076】
蒸着法としては、例えば、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)法、パルスレーザー堆積(PLD:Pulse Laser Deposition)法、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、イオンプレーティング(Ion Plating)法等が挙げられる。これらの中で、ALD法又はCVD法が好ましく、ALD法がより好ましい。
【0077】
CVD法としては、例えば熱CVD、プラズマCVD、光CVD、減圧CVD、レーザCVD、有機金属CVD(MOCVD)等が挙げられる。
ALD法としては、例えば熱ALD法、プラズマALD法等が挙げられる。
【0078】
形成される原子層(Y)としては、例えば金属層、金属酸化物層、金属窒化物層、非金属酸化物層、非金属窒化物層、金属非金属酸化物層、金属非金属窒化物層等が挙げられる。
【0079】
[ALD法による原子層の形成について]
本実施形態における蒸着法としては、ALD法が好ましい。
表面改質剤が成膜した領域の基板表面は、表面改質剤が成膜していない領域の表面よりも撥水性が選択的に向上する。その結果、上記2以上の領域間において、上記膜を形成する材料の堆積量を、基板表面の領域選択的に相違させることができる。前記撥水性の選択的向上は、領域の表面に対する水の接触角を測定することにより確認することができる。
具体的には、前記2以上の領域間のうち、基板表面を有する領域では、ALD法による原子層形成材料の吸着(好ましくは化学吸着)が難しくなる。その結果、前記2以上の領域間において、原子層形成材料の堆積量に差が生じる。すなわち、ALD法による原子層形成材料の堆積量が領域選択的に異なることになる。具体的には、基板表面を有する領域における原子層形成材料の堆積量が、絶縁体領域における堆積量よりも低下する。
前記原子層形成材料の化学吸着としては、前処理により基板表面に付与された水酸基との化学吸着等が挙げられる。
【0080】
前記2以上の領域間において、他方の領域よりも水の接触角が大きくなる(好ましくは、表面自由エネルギーが小さくなる)傾向にある領域としては、W、Co、Al、Ni、Ru及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を含む領域が挙げられる。基板表面を有する領域は、これらを含む領域であってもよい。
前記2以上の領域間において、他方の領域よりも水の接触角が小さくなる(好ましくは、表面自由エネルギーが高くなる)傾向にある領域としては、Si、Al2O3、SiN、SiOx、Ge、SiGe、TEOS、Low-k材料及びILDからなる群より選択される少なくとも1種を含む領域が挙げられる。絶縁体領域は、前記絶縁性化合物の他、これらを含む材質で構成される領域であってもよい。
【0081】
ALD法による原子層形成方法としては特に制限はないが、少なくとも2つの気相反応物質(以下単に「前駆体ガス」という。)を用いた吸着(好ましくは化学吸着)による薄膜形成方法であることが好ましい。
具体的には、下記工程(a)及び工程(b)を含み、所望の膜厚が得られるまで下記工程(a)及び工程(b)を少なくとも1回(1サイクル)繰り返す方法等が挙げられる。
工程(a)表面改質された基板を、第1前駆体ガスのパルスに曝露する工程、及び
工程(b)前記工程(a)の後、基板を第2前駆体ガスのパルスに曝露する工程。
【0082】
前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、プラズマ処理工程、第1前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス、第2前駆体ガス等により除去ないし排気(パージ)する工程等を含んでいてもいなくてもよい。
前記工程(b)の後、プラズマ処理工程、第2前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス等により除去ないしパージする工程等を含んでいてもいなくてもよい。
キャリアガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが挙げられる。
【0083】
サイクル毎の各パルス及び形成される各層は、自己制御的であることが好ましく、形成される各層が単原子層であることがより好ましい。
前記単原子層の膜厚としては、例えば、5nm以下とすることができ、好ましくは3nm以下とすることができ、より好ましくは1nm以下とすることができ、更に好ましくは0.5nm以下とすることができる。
【0084】
第1前駆体ガスとしては、有機金属、金属ハロゲン化物、金属酸化ハロゲン化物等が挙げられ、具体的には、タンタルペンタエトキシド、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン、ぺンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン、コッパーヘキサフルオロアセチルアセトネートビニルトリメチルシラン、Zn(C2H5)2、Zn(CH3)2、TMA(トリメチルアルミニウム)、TaCl5、WF6、WOCl4、CuCl、ZrCl4、AlCl3、Al(CH3)3、TiCl4、SiCl4、HfCl4等が挙げられる。
【0085】
第2前駆体ガスとしては、第1前駆体を分解させることができる前駆体ガス、又は第1前駆体の配位子を除去できる前駆体ガスが挙げられ、具体的には、H2O、H2O2、O2、O3、NH3、H2S、H2Se、PH3、AsH3、C2H4、又はSi2H6等が挙げられる。
【0086】
工程(a)における曝露温度としては、特に制限はないが、例えば、100℃以上800℃以下であり、好ましくは150℃以上650℃以下であり、より好ましくは180℃以上500℃以下であり、更に好ましくは200℃以上375℃以下である。
工程(b)における曝露温度としては特に制限はないが、工程(a)における曝露温度と実質的に等しいか又はそれ以上の温度が挙げられる。
ALD法により形成される膜としては特に制限はないが、純元素を含む膜(例えば、Si、Cu、Ta、W)、酸化物を含む膜(例えば、SiO2、GeO2、HfO2、ZrO2、Ta2O5、TiO2、Al2O3、ZnO、SnO2、Sb2O5、B2O3、In2O3、WO3)、窒化物を含む膜(例えば、Si3N4、TiN、AlN、BN、GaN、NbN)、炭化物を含む膜(例えば、SiC)、硫化物を含む膜(例えば、CdS、ZnS、MnS、WS2、PbS)、セレン化物を含む膜(例えば、CdSe、ZnSe)、リン化物を含む膜(GaP、InP)、砒化物を含む膜(例えば、GaAs、InAs)又はそれらの混合物等が挙げられる。
【0087】
本実施形態の方法では、前記第1の態様に係る製造方法により製造された、表面改質剤を用いて表面改質された処理基板に対し、ALD法により原子層を形成する。表面改質された処理基板では、基板表面を有する領域の撥水性が選択的に向上している。そのため、基板表面を有する領域では、ALD法による原子層形成材料の堆積が阻害される。その結果、基板表面を有する領域では、絶縁体領域と比較して、ALD法による原子層形成材料の堆積量が少なくなる。これにより、絶縁体領域に対し、領域選択的に、ALD法による製膜を行うことができる。
【0088】
本実施形態のパターン形成方法によれば、前記第1の態様に係る製造方法により製造された処理基板の、前記表面改質剤が成膜していない領域の表面に、蒸着法を使用した薄膜形成により原子層を形成することができる。そのため、本実施形態のパターン形成方法は、選択的な原子層形成に好適に適用することができる。
【0089】
(洗浄液)
本発明の第4の態様に係る洗浄液は、前記第1の態様、又は第2の態様に係る方法に用いられる洗浄液である。かかる洗浄液については、上述した(処理基板の製造方法)の一実施形態における≪洗浄液について≫の説明と同様である。
【0090】
本実施形態の洗浄液は、有機溶剤(S1)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
有機溶剤(S1)としては、デカン、テトラデカン、シクロヘキサン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、イソブタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ジブチエーテル、アセトン、シクロペンタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン及び1-メトキシ-2-プロパノールが好ましい。
【0091】
洗浄液における(S1)成分の含有量としては、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、前記洗浄液のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係を満たす限り特に限定されないが、洗浄液の全質量に対して50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0092】
本実施形態の洗浄液は、(S1)成分以外の有機溶剤(S2)(以下「(S2)成分」ともいう)を含んでいてもよい。(S2)成分は特に限定されず、(S1)成分と混和性のある有機溶剤を用いることができる。
【0093】
洗浄液は、有機溶剤に加えて、任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、水及び不純物等が挙げられる。
【0094】
本実施形態の洗浄液は、水を含んでいてもよい。水は、不可避的に混入する微量成分を含んでもよい。水としては、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などの浄化処理を施された水が好ましく、半導体製造に一般的に使用される超純水を用いることが好ましい。
洗浄液が水を含む場合、水の含有量は、洗浄液の全質量に対して0.01~25質量%が好ましく、0.03~20質量%がより好ましく、0.05~15質量%が更に好ましい。
本実施形態の洗浄液は、水を含まないものであってもよい。
【0095】
本実施形態の洗浄液には、例えば、Fe原子、Cr原子、Ni原子、Zn原子、Ca原子、又はPb原子等の金属原子を含む金属不純物が含まれていてもよい。
本実施形態の洗浄液における前記金属原子の合計含有量は、洗浄液の全質量に対して、好ましくは100質量ppt以下である。金属原子の合計含有量の下限値は、低いほど好ましいが、例えば0.001質量ppt以上が挙げられる。金属原子の合計含有量は、例えば、0.001質量ppt以上100質量ppt以下が挙げられる。
金属原子の合計含有量を前記好ましい範囲の上限値以下とすることで、余剰な表面改質剤の除去性能が向上する。金属原子の合計含有量を前記好ましい範囲の下限値以上とすることで、金属原子が系中に遊離して存在しにくくなり、洗浄処理対象物全体の製造歩留まりに悪影響を与えにくくなると考えられる。
金属不純物の含有量は、例えば、フィルタリング等の精製処理により調整することができる。フィルタリング等の精製処理は、洗浄液を調製する前に、原料の一部又は全部に対して行ってもよく、洗浄液の調製後に行ってもよい。
【0096】
本実施形態の洗浄液には、例えば、有機物由来の不純物(有機不純物)が含まれていてもよい。本実施形態の洗浄液における前記有機不純物の合計含有量は、好ましくは、5000質量ppm以下である。有機不純物の含有量の下限は、低いほど好ましいが、例えば0.1質量ppm以上が挙げられる。有機不純物の合計含有量としては、例えば、0.1質量ppm以上5000質量ppm以下が挙げられる。
【0097】
本実施形態の洗浄液には、例えば、光散乱式液中粒子計数器によって計数されるようなサイズの被計数体が含まれていてもよい。被計数体のサイズは、例えば、0.04μm以上である。本実施形態の洗浄液における被計数体の数は、例えば、洗浄液1mLあたり1,000個以下であり、下限値は例えば1個以上である。洗浄液中の被計数体の数が前記範囲内であることにより、余剰な表面改質剤の除去性能が向上すると考えられる。
【0098】
本実施形態の洗浄液の保存方法は、特に限定されず、保存容器も従来公知のものを使用できる。洗浄液の安定性が確保されるように、容器に保存する際の容器内の空隙率、空隙部分を充填するガス種は適宜設定すればよい。例えば、保存容器内の空隙率としては、0.01~30体積%程度が挙げられる。
【0099】
本実施形態の洗浄液によれば、前記第1の態様、又は第2の態様に係る方法において、前記化合物(A)のハンセン溶解度パラメータと、ハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係を満たすものを選択して用いるため、表面改質剤に曝露した後の余剰に堆積した(A)成分を、高い洗浄除去率で除去することができる。
【実施例0100】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0101】
本実施例で使用した基板、表面改質剤、洗浄液について以下に示した。
【0102】
(基板の前処理)
基板としては、8インチシリコン基板上に、厚さ200nmの銅膜を有するブランケット基板を、2cm×2cmに切断して作製したクーポンを使用した。使用する基板には、すべて、希釈フッ化水素酸で処理した基板を用いた。
具体的には、各基板を、濃度25ppmのHF水溶液に25℃で1分間浸漬させて前処理を行った。なお、後述の方法により測定される、前処理後の基板表面の水の接触角は30.0°であった。
上記前処理後、各基板を、脱イオン水で1分間洗浄した。水洗後の各基板を窒素気流により乾燥させた。
【0103】
(表面改質剤の調製)
表面改質剤として、オクタデカンチオール(ODT)100質量%を用いた。
【0104】
(洗浄液の調製)
洗浄液として、下記有機溶剤(S1)100質量%を用いた。また、基準の洗浄液をイソプロパノール100質量%とした。
(S1)-1:アセトン
(S1)-2:プロピレングリコールモノメチルエーテル
(S1)-3:デカン
(S1)-4:テトラデカン
(S1)-5:シクロヘキサン
(S1)-6:1-オクタノール
(S1)-7:イソブタノール
(S1)-8:2-エチル-1-ヘキサノール
(S1)-9:ジブチルエーテル
(S1)-10:2,6-ジメチル-4-ヘプタノン
(S1)-11:シクロペンタノン
(S1)-12:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
有機溶剤(S1)には、ODTのハンセン溶解度パラメータと、有機溶剤(S1)のハンセン溶解度パラメータとの間の距離Raが、(Ra)2≦128の関係となるものを選択し、洗浄液とした。
【0105】
[(Ra)2の算出方法]
(Ra)2について、例えば(S1)-1を用いた場合、表1に記載の各パラメータ値を用いて算出した。
【0106】
【0107】
(Ra)2=(δdS-δdA)2+(δpS-δpA)2+(δhS-δhA)2・・・(1)
[ただし、δdS及びδdAは分散項であり、δpS及びδpAは極性項であり、δhS及びδhAは水素結合項である。]
【0108】
上記の数式(1)より、以下のようにして、(S1)-1を用いた場合の(Ra)2を算出した。
(Ra)2
=(15.7-16.4)2+(9.1-2.3)2+(6.5-2.6)2
=61.9
(S1)-2から(S1)-12、及びイソプロパノールを用いた場合のそれぞれの(Ra)2についても同様にして算出した。各パラメータ値及び(Ra)2を表2に示した。
【0109】
【0110】
<処理基板の製造方法>
(実施例1~12、比較例1)
表面改質剤ODTに、前記基板の表面を曝露する曝露工程と、曝露工程後の基板を洗浄液で洗浄する洗浄工程と、を含む各例の製造方法により、処理基板を得た。具体的には以下のようにして行った。
【0111】
曝露工程:
上記(基板の前処理)における乾燥後の基板を、表面改質剤ODTに25℃で1分間浸漬させて、基板の表面改質を行った。
なお、後述の方法により測定される、曝露工程後の基板表面の水の接触角は104.5°であった。
【0112】
洗浄工程:
曝露工程後の基板を、上記の各洗浄液に25℃で1分間浸漬させて洗浄処理を行った。洗浄処理後の基板を、イオン交換蒸留水により25℃で1分間洗浄した後、窒素気流により乾燥させて、表面改質された処理基板を製造した。
【0113】
<評価>
各例の製造方法で製造された処理基板に対して、以下に示す方法により、ODT残存率、水の接触角をそれぞれ測定した。
【0114】
[ODT残存率]
実施例1~12及び比較例1で製造された処理基板についてODT残存率を測定した。
ODT残存率は、各例で製造された処理基板に対して、その上空から原子間力顕微鏡(AFM)観察を行い、基板上に形成された表面改質剤ODT分子が配列した単層の厚さを超えた、基板面からの高さに存在する(すなわち、単層上に堆積する)表面改質剤ODT分子を検出して、その表面改質剤ODT分子が単層表面を覆う面積率から、ODT残存率を算出した。その結果を表3に示した。
なお、表3に示すODT残存率(%)は、処理基板面における任意の3地点でAFM観察をそれぞれ行い、各地点の観察範囲でODT残存率を算出し、それらの平均をとった値である。
ODT残存率は、AFM観察像(観察範囲1μm×1μm)の全体面積に対して、余剰部24が占める面積の割合(%)を算出することにより求めた。
基板上に形成された表面改質剤ODT分子が配列した単層の厚さLを2nmに設定した。
【0115】
図3Aは、曝露工程直後における基板表面のAFM観察像(観察範囲1μm×1μm)である。
図3Bは、実施例11で製造された処理基板表面のAFM観察像(観察範囲1μm×1μm)である。
図3Cは、比較例1で製造された処理基板表面のAFM観察像(観察範囲1μm×1μm)である。
図3Aが示すAFM観察像において、符号100Aは処理基板である。符号22Aは、基板面に表面改質剤ODTが直接に結合している単層部である。符号24Aは、単層部22A上に表面改質剤ODTが堆積した余剰部である。
図3Bが示すAFM観察像において、符号100Bは処理基板である。符号22Bは、基板面に表面改質剤ODTが直接に結合している単層部である。符号24Bは、単層部22B上に表面改質剤ODTが堆積した余剰部である。
図3Cが示すAFM観察像において、符号100Cは処理基板である。符号22Cは、基板面に表面改質剤ODTが直接に結合している単層部である。符号24Cは、単層部22C上に表面改質剤ODTが堆積した余剰部である。
【0116】
【0117】
表3に示す結果から、実施例1~12の製造方法で用いられた洗浄液は、比較例1の製造方法で用いられた基準の洗浄液に比べて、ODT残存率が低いこと、すなわち、余剰なODTの洗浄除去性が高いことが分かる。
特に、実施例3~5の製造方法では、ODT残存率が特に低く、余剰なODTの洗浄除去性が著しく向上していることが分かる。
【0118】
[水の接触角]
実施例1~12及び比較例1で製造された処理基板について水の接触角を測定した。
水の接触角は、Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用い、表面改質された基板の表面に純水液滴(2.0μL)を滴下して、滴下2秒経過後における、水の接触角として測定した。その結果を表4に示す。
【0119】
【0120】
表4に示す結果から、実施例1~12の製造方法では、洗浄工程後の乾燥させた処理基板における、水の接触角は102.7~109.9°であり、曝露工程後の基板表面の水の接触角104.5°と同程度であることが確認された。
このことから、洗浄処理の前後で、基板表面にODT層が一定の厚さで維持されていることが明らかなため、表4に示す結果は、余剰なODTのみが効率良く除去されていることを示唆している。