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特開2024-75295レーザーマーク付きシリコンウェーハ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075295
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】レーザーマーク付きシリコンウェーハ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240527BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240527BHJP
   B23K 26/384 20140101ALI20240527BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240527BHJP
【FI】
H01L21/02 A
H01L21/304 621
B23K26/384
B23K26/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186656
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平川 瑶一朗
(72)【発明者】
【氏名】中島 祐樹
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AA02
4E168DA02
4E168DA23
4E168DA24
4E168JA12
5F057AA01
5F057BA12
5F057BB03
5F057CA02
5F057CA11
5F057CA18
5F057CA36
5F057DA02
5F057DA05
5F057DA11
5F057DA15
5F057DA22
5F057DA29
5F057EB24
(57)【要約】
【課題】100μm程度の深いレーザーマークを形成する場合でも、均一なドット穴となるレーザーマーク付きシリコンウェーハ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】結晶面方位が(100)のシリコンウェーハ1であり、表面粗さが0.15~0.60nmの表面に、複数のドット穴4で構成される識別マーク5を有し、前記ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2の比が1~1.10であり、前記開口部42の<100>方向の長さL1が80μm~110μmであり、前記ドット穴4の断面の深さDが80μm~110μmであり、前記ドット穴4の底面43が(100)面の平面である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶面方位が(100)のシリコンウェーハであり、表面粗さが0.15~0.60nmの表面に、複数のドット穴で構成される識別マークを有するシリコンウェーハにおいて、
前記ドット穴のウェーハ表面における開口部の、<100>方向の長さと<110>方向の長さの比が1~1.10であり、前記開口部の<100>方向の長さが80μm~110μmであり、
前記ドット穴の断面の深さが80μm~110μmであり、
前記ドット穴の底面が(100)面の平面であるレーザーマーク付きシリコンウェーハ。
【請求項2】
前記ドット穴の<110>方向の断面における、側面と前記ウェーハ表面との成す角度が63~73度である請求項1に記載のレーザーマーク付きシリコンウェーハ。
【請求項3】
前記ドット穴の<100>方向の断面における、側面と前記ウェーハ表面との成す角度が56~70度である請求項1又は2に記載のレーザーマーク付きシリコンウェーハ。
【請求項4】
前記開口部の隆起高さは、前記ウェーハ表面より25nm未満である請求項1又は2に記載のレーザーマーク付きシリコンウェーハ。
【請求項5】
前記開口部の隆起高さは、前記ウェーハ表面より30nm以上である請求項1又は2に記載のレーザーマーク付きシリコンウェーハ。
【請求項6】
結晶面方位が(100)のシリコンウェーハのウェーハ表面にレーザー光を照射し、深さ80μm~110μmの複数の止まり穴を形成したのち、
前記シリコンウェーハを、濃度が40wt%以上の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、前記ウェーハ表面と前記止まり穴を厚さ5~15μmだけエッチングし、
その後、前記ウェーハ表面を研磨するレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記ウェーハ表面にレーザー光を照射する場合、
第1のビーム径にてレーザー光を照射したのち、第1のビーム径よりも小さい第2のビーム径にてレーザー光を照射するか、又は
前記第2のビーム径にてレーザー光を照射したのち、前記第1のビーム径にてレーザー光を照射する請求項6に記載のレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記ウェーハ表面にレーザー光を照射する場合、単一のビーム径にてレーザー光を照射する請求項6に記載のレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーク付きシリコンウェーハ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの裏面などの外周部には、ウェーハの管理又は識別のために、レーザー光の照射による識別マークを印字することがある。レーザー光により印字されたマーク(以下、レーザーマークとも言う。)は、複数のドット穴(凹部)の集合からなる文字や記号で構成され、目視又はカメラ等により識別可能な大きさとされている。
【0003】
この種のレーザーマークとして、フォトレジストなどの残渣を除去するのに適した形状とされたドット穴からなるマークであって、基板に止まり穴を形成する各マーク要素と、上部側壁角度を有する上部側壁部分と下部側壁角度を有する下部側壁部分とを有する側壁を有し、上部側壁角度βは下部側壁角度δよりも小さく、深さDは約12μm以下であるものが知られている(特許文献1の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国公開第2008/0135981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、レーザーマークを構成するドット穴の形状に関し、シリコン結晶のエッチング異方性については言及されていないので、上記の角度βやδは全ての方向に対して同じ角度であることが前提となっている。そのため、ドット穴の上部の形状は円形とされているが、これを実現するには、結晶方位依存性のない酸エッチングが必要になる。しかしながら、酸エッチングによるレーザーマークの形成手法では、100μm程度の深いレーザーマークを形成する場合、エッチング速度が速いためドット穴が不均一になりやすいという問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、100μm程度の深いレーザーマークを形成する場合でも、均一なドット穴となるレーザーマーク付きシリコンウェーハ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、結晶面方位が(100)のシリコンウェーハであり、表面粗さが0.15~0.60nmの表面に、複数のドット穴で構成される識別マークを有するシリコンウェーハにおいて、
前記ドット穴のウェーハ表面における開口部の、<100>方向の長さと<110>方向の長さの比が1~1.10であり、前記開口部の<100>方向の長さが80μm~110μmであり、
前記ドット穴の断面の深さが80μm~110μmであり、
前記ドット穴の底面が(100)面の平面であるレーザーマーク付きシリコンウェーハによって上記課題を解決する。
【0008】
上記発明において、前記ドット穴の<110>方向の断面における、側面と前記ウェーハ表面との成す角度が63~73度であることがより好ましい。
【0009】
上記発明において、前記ドット穴の<100>方向の断面における、側面と前記ウェーハ表面との成す角度が56~70度であることがより好ましい。
【0010】
上記発明において、前記ドット穴のウェーハ表面における開口部の隆起高さは、前記ウェーハ表面より25nm未満とすることができる。
【0011】
上記発明において、前記ドット穴のウェーハ表面における開口部の隆起高さは、前記ウェーハ表面より30nm以上とすることもできる。
【0012】
また本発明は、結晶面方位が(100)のシリコンウェーハのウェーハ表面にレーザー光を照射し、深さ80μm~110μmの止まり穴を形成したのち、
前記シリコンウェーハを、濃度が40wt%以上の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、前記ウェーハ表面と前記止まり穴を厚さ5~15μmだけエッチングし、
その後、前記ウェーハ表面を研磨するレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法によっても上記課題を解決する。
【0013】
上記発明において、前記ウェーハ表面にレーザー光を照射する場合、第1のビーム径にてレーザー光を照射したのち、第1のビーム径よりも小さい第2のビーム径にてレーザー光を照射するか、又は前記第2のビーム径にてレーザー光を照射したのち、前記第1のビーム径にてレーザー光を照射することができる。
【0014】
上記発明において、前記ウェーハ表面にレーザー光を照射する場合、単一のビーム径にてレーザー光を照射してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シリコン結晶の異方性エッチングを利用して複数のドット穴から構成される識別マークを形成するので、100μm程度の深いレーザーマークを形成する場合でも、均一なドット穴となるレーザーマーク付きシリコンウェーハを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るレーザーマーク付きシリコンウェーハの一実施の形態を示す正面図である。
図2】本発明に係るレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法の一実施の形態を示すフローチャートである。
図3A図2のレーザー照射工程の一例を示すウェーハの正面図及びIIIA-IIIA線に沿う断面図である。
図3B図2のレーザー照射工程の他例を示すウェーハの正面図及びIIIB-IIIB線に沿う断面図である。
図4図2のアルカリエッチング工程を終了したウェーハを示す正面図である。
図5図4のV-V線に沿う断面図である。
図6図4のVI-VI線に沿う断面図である。
図7図2の研磨工程を終了したウェーハを示す断面図である。
図8】シリコン単結晶の結晶構造を示す図である。
図9】結晶面方位が(100)のシリコンウェーハに形成したドット穴を異方性エッチングした場合の<110>方向に沿う断面図である。
図10】結晶面方位が(100)のシリコンウェーハに形成したドット穴を異方性エッチングした場合の<100>方向に沿う断面図である。
図11】実施例及び比較例のドット穴を正面視で観察した二値化写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明に係るレーザーマーク付きシリコンウェーハの一実施の形態を示す正面図である。図1に示すシリコンウェーハ1においては、半導体デバイスの製造工程などにおいてシリコンウェーハ1の向きを合わせるため、V字状の切り欠きからなるノッチ2が、シリコンウェーハ1の外周の一部に設けられている。また、図示するシリコンウェーハ1には、ウェーハの個体を識別するため、ノッチ2の近傍にレーザーマーク印字部3が設けられている。本例のレーザーマーク印字部3の大きさは、特に限定されないが、たとえば2mm×20mm程度、また1.6mm×16mm程度の大きさとされる。
【0018】
レーザーマーク印字部3には、図中に拡大して示すとおり、レーザー光の照射によりショットした複数のドット穴4が形成され、これらドット穴4の複数個の集合として、文字やバーコード等からなる識別マークの印字となる。レーザーマーク印字部3に印字された文字やバーコード等は、半導体デバイスの製造工程などの各工程において読み取られ、シリコンウェーハ1の品質等を識別するために利用される。本明細書において、レーザー光の1ショットで形成される凹部からなる止まり穴をドット穴4と称し、複数のドット穴4で構成される、文字やバーコードなどを識別マーク5(又はレーザーマーク)と称し、レーザーマーク印字部3が設けられたシリコンウェーハ1を、本発明に係るレーザーマーク付きシリコンウェーハと称する。
【0019】
図2は、本発明に係るレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法の一実施の形態を示すフローチャートである。本実施形態のレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法は、単結晶インゴットから円板状のウェーハを切り出すスライス工程(ステップS1)と、切り出された円板状のウェーハの厚みをそろえる平坦化工程(ステップS2)と、厚みをそろえたウェーハの表面のレーザーマーク印字部3にレーザー光を照射し、複数のドット穴4の原形41を形成するレーザー照射工程(ステップS3)と、少なくともドット穴4の原形41が形成されたレーザーマーク印字部3を含むウェーハ表面を、アルカリエッチャントを用いてエッチング処理し、ドット穴4の原形41をドット穴4にエッチング処理するアルカリエッチング工程(ステップS4)と、エッチング処理後のウェーハ表面を、砥粒を含む研磨液により研磨する研磨工程(ステップS5)と、を含む。
【0020】
本実施形態のステップS1のスライス工程は、研削液を供給しながらワイヤソーを結晶性インゴットに接触させて切断するか、又は円周刃を用いて結晶性インゴットを切断することにより、円板状のウェーハを切り出す工程である。なお、本実施形態のシリコンウェーハは、結晶面方位が(100)のシリコン単結晶ウェーハを用いる。
【0021】
本実施形態のステップS2の平坦化工程は、スライス工程で切り出されたウェーハ表面にラッピングを施すことによって、ウェーハの平坦度を向上させるとともに、ウェーハの厚さを最終的な厚さに近づけるための工程である。ラッピングを施す場合、たとえば#1000~1500の範囲の遊離砥粒を用いてラッピングすることができる。また、ラッピングに代えて、平面研削盤又は両面同時平面研削盤を用いた研削工程により、ウェーハの高精度な平坦化を行い、ウェーハの厚さのバラツキやうねりを小さくしてもよい。ラッピングはウェーハの両面に施しても、片面にのみ施してもよいが、ウェーハの両面をラッピングした方が平坦度の点でより好ましい。
【0022】
本実施形態のステップS3のレーザー照射工程は、レーザー光源から出力したレーザー光をシリコンウェーハ1のレーザーマーク印字部3に複数回、間欠的にショット照射し、複数のドット穴4の原形41を形成する。ここで形成されるドット穴4の原形41は、底面と側面と開口部とを有する、いわゆる止まり穴である。なお、ドット穴4の原形41とは、レーザー光を照射することにより形成される止まり穴そのものをいい、ステップS4のアルカリエッチング工程の処理を施す前の状態をいう。これら複数のドット穴4が文字、図形、記号などのパターンを構成し、最終的に識別マーク5となる。なお、識別マーク5が形成されるのは、シリコンウェーハ1のおもて面でも裏面でもよいが、表面粗さが0.15~0.60nmのウェーハの裏面であることがより好ましい。なお、ここでいう表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて10μm×10μmの範囲を測定した場合の二乗平均平方根粗さRqをいう。
【0023】
本工程で用いられるレーザー光は、特に限定されず、赤外線レーザー、COレーザー、YLFレーザー、Nd:YAGレーザーなどを用いることができる。本実施形態のドット穴4の深さDは、80μm~110μmであるため、レーザー照射工程で形成するドット穴4の原形41の深さは、次のアルカリエッチング工程における取り代(5μm~15μm)だけ浅い寸法である。たとえば、最終的なドット穴4の深さDの目標値が100μm、次のアルカリエッチング工程における取り代が5~15μmである場合、レーザー照射工程で形成するドット穴4の原形41の深さは、85~95μmである。なお、レーザー光の照射により形成されるドット穴4の原形41の深さは、レーザー光の出力には依存せず、レーザー光のショット数(又は照射時間)に相関するので、1回のショットで所望の深さが得られない場合は、複数回のショットを行う。
【0024】
図3Aは、図2のステップS4のレーザー照射工程の一例を示す処理後のシリコンウェーハ1の正面図(上図)と、IIIA-IIIA線に沿う断面図(下図)である。この例では、単一のビーム径のレーザー光のみでドット穴4の原形41を形成する。本例のレーザー光のビーム径は、特に限定されないが、最終的なドット穴4の開口部42の<100>方向の長さが80μm~110μmであり、<100>方向の長さと<110>方向の長さの比が1~1.10であるため、次のアルカリエッチング工程における取り代(5μm~15μm)だけ小さい寸法である。たとえば、最終的なドット穴4の開口部42の<100>方向の長さの目標値が100μm、開口部42の<110>方向の長さの目標値が100μm、次のアルカリエッチング工程における取り代が5~15μmである場合、レーザー光のビーム径は、凡そ85~95μmとすればよい。
【0025】
図3Bは、図2のステップS4のレーザー照射工程の他例を示す処理後のシリコンウェーハ1の正面図(上図)と、IIIB-IIIB線に沿う断面図(下図)である。この例では、異なるビーム径のレーザー光を用いてドット穴4の原形41を形成する。たとえば、最初に、ビーム径が相対的に大きい第1のビーム径にてレーザー光を照射し、ドット穴4の第1の原形411を形成したのち、ビーム径が相対的に小さい第2のビーム径にてレーザー光を照射し、ドット穴4の第2の原形412を形成する。またはこれに代えて、最初に、ビーム径が相対的に小さい第2のビーム径にてレーザー光を照射し、ドット穴4の第2の原形412を形成したのち、ビーム径が相対的に大きい第1のビーム径にてレーザー光を照射し、ドット穴4の第1の原形411を形成してもよい。このように、ドット穴4の原形41に、第1の原形411のような傾斜の小さい側面を形成しておくことで、研磨工程の処理を終了したときにドット穴4の開口部42の隆起高さhが高くなるのを抑制することができる。これについては後述する。なお、レーザー光のビーム径は、レーザー光の出力や電流値で制御することができ、レーザー光の出力を大きくすることによりビーム径を大きくすることができる。
【0026】
図2に戻り、本実施形態のステップS4のアルカリエッチング工程は、複数のドット穴4の原形41が形成されたシリコンウェーハ1を、濃度が40wt%以上の高濃度の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、ウェーハ表面11とドット穴4の原形41とを、異方性エッチング処理する工程である。ここでのエッチングの取り代は特に限定されないが、厚さ5~15μm程度とすることがより好ましい。エッチング取り代の厚さをこの範囲に限定することで、開口部42の形状を所定の形状に制御することができる。
【0027】
本実施形態の最終的なドット穴4は、図4に示すように、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2の比が1~1.10であり、開口部42の<100>方向の長さL1が80μm~110μmであり、ドット穴4の断面の深さDが80μm~110μmであり、ドット穴4の底面43が(100)面の平面である。
【0028】
図8は、結晶面方位が(100)のシリコン単結晶ウェーハの結晶構造を示す図、図9は、結晶面方位が(100)のシリコンウェーハ1に止まり穴を形成し、これを異方性エッチングした場合の<110>方向に沿う断面図、図10は、同じく<100>方向に沿う断面図である。図9図10に示すように、結晶面方位が(100)のシリコンウェーハ1に止まり穴(ドット穴4)を形成し、高濃度のアルカリエッチャントにより異方性エッチングを施すと、止まり穴(ドット穴4)の底面43が(100)面になる。また、<110>方向に沿う断面図においては、図9に示すように、底面43の両側面44が(111)面又は(122)面となり、これに(311)面が連なる。一方、<100>方向に沿う断面図においては、図10に示すように、底面43の両側面45が(110)面又は(120)面となる。
【0029】
また、図9に示すように、<110>方向に沿う断面において、側面44に(111)面が現れた場合、(100)面の底面43と(111)面の側面44が成す角度αは54度、側面に(122)面が現れた場合、(100)面の底面43と(122)面の側面44が成す角度αは70度である。なお、(100)面の底面43と(311)面の側面44が成す角度は25度である。また、図10に示すように、<100>方向に沿う断面において、側面45に(110)面が現れた場合、(100)面の底面43と(110)面の側面45が成す角度βは45度、側面に(120)面が現れた場合、(100)面の底面43と(120)面の側面45が成す角度βは64度である。
【0030】
このように、結晶面方位が(100)面のシリコンウェーハ1に止まり穴(ドット穴4)を形成し、高濃度アルカリエッチャントを用いて異方性エッチングすると、エッチング速度が相対的に遅い結晶面が現れることになり、酸エッチングに比べてバラツキの少ない形状を有するドット穴4を得ることができる。
【0031】
そのため、本実施形態のアルカリエッチング工程(ステップS4)では、ドット穴4が図9図10に示す各結晶面に沿うようにエッチングを施す。ただし、本実施形態のドット穴4は、図9図10に示すような完全な結晶面からなるドット穴4である必要はなく、これらの各結晶面の一部が現れるように適宜の取り代にてエッチング処理を施せばよい。
【0032】
図4は、図2のステップS4のアルカリエッチング工程を終了したウェーハを示す正面図、図5は、図4のV-V線に沿う断面図、図6は、図4のVI-VI線に沿う断面図である。なお、図5は、結晶面方位が(100)面であるシリコンウェーハ1の<110>方向に沿う断面図でもあり、図6は、同じく<100>方向に沿う断面図でもある。本実施形態の最終的なドット穴4は、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2の比が1~1.10である。<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2の比が1.10より大きいと、すなわちL1が長すぎると、ドット穴の開口部42で(111)面又は(311)面などに挟まれた(110)面が狭くなるので、膜厚の変化が急峻になり、応力が発生して膜剥がれが生じ易い。
【0033】
本実施形態の最終的なドット穴4は、図5に示すドット穴4の<110>方向の断面における、側面44とウェーハ表面11(又は底面43)との成す角度αが63~73度であることが好ましい。アルカリエッチングで実現できる範囲において急角度にすることで、デバイス工程で、識別マーク5がある面を研削してドット穴が浅くなったとしても、開口部42の形状を維持することができ、視認性を維持した上で膜剥がれを防止できる。
【0034】
また、本実施形態の最終的なドット穴4は、図6に示すドット穴4の<100>方向の断面における、側面45とウェーハ表面11(又は底面43)との成す角度βが56~70度であることが好ましい。アルカリエッチングで実現できる範囲において急角度にすることで、デバイス工程で、識別マーク5がある面を研削してドット穴が浅くなったとしても、開口部42の形状を維持することができ、視認性を維持した上で膜剥がれを防止できる。
【0035】
図2に戻り、本実施形態のステップS5の研磨工程は、エッチング処理後のシリコンウェーハ1の両面を、砥粒を含む研磨液により研磨する工程である。これにより、シリコンウェーハ1の表面が鏡面研磨される。研磨スラリーとしては、研磨砥粒としてコロイダルシリカを含むアルカリ性のスラリーを用いることができる。そして、この研磨工程は、キャリアにシリコンウェーハ1を嵌め込み、ウェーハを、研磨布を貼りつけた上定盤および下定盤で挟み、上下定盤とウェーハとの間に、例えばコロイダルシリカ等のスラリーを流し込み、上下定盤およびキャリアを互いに反対方向に回転させて、シリコンウェーハ1の両面に対して鏡面研磨処理を施すことにより行うことができる。これにより、ウェーハ表面の凹凸を低減して平坦度の高いウェーハを得ることができる。
【0036】
なお、研磨工程の後、シリコンウェーハの少なくとも片面を片面ずつ仕上げ研磨する片面仕上げ研磨する。この仕上げ研磨においては、片面のみの研磨および両面の研磨の両者を含む。両面を研磨する場合には、一方の表面の研磨を行った後他方の表面の研磨を行う。この研磨により、識別マーク5のある面の粗さが所定の範囲となる。なお、識別マーク5をウェーハ1の裏面とし、おもて面のみ仕上げ研磨した場合には、識別マーク5のある裏面よりも、おもて面のほうが粗さが低減された面となる。
【0037】
図7は、図2の研磨工程を終了したシリコンウェーハ1を示す断面図である。本実施形態のシリコンウェーハ1において、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の隆起高さhは、ウェーハ表面11より25nm未満であることがより好ましい。図2のステップS3のレーザー照射工程のレーザー照射により、ドット穴4の開口部42の周縁は環状に隆起する。この開口部42の隆起はステップS4のアルカリエッチング工程にて除去されるが、ステップS5の研磨工程において再現することが知見されている。
【0038】
たとえば、本願出願人の先願特許出願(特開2020-68231号公報)には、研磨処理中にドット穴の周縁にて作用する砥粒が不足しているとの推測のもと、研磨パッドとシリコンウェーハとの間に研磨スラリーを供給してシリコンウェーハの表面を研磨すると、研磨スラリーに含まれる砥粒がドット穴に落下してドット穴の周縁での砥粒が不足し、その結果、ドット穴の周縁での研磨量が他の部分の研磨量に比べて減少して、ドット穴の周縁に隆起部が形成されたとの報告がされている。
【0039】
そのため、本実施形態のシリコンウェーハ1において、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の隆起高さhは、ウェーハ表面11より25nm未満にするために、ドット穴4の周縁での砥粒が不足しないように、ドット穴4の原形41を図3Bに示すように、第1の原形411のような傾斜の小さい側面を形成しておくことが好ましい。これにより、ステップS5の研磨工程の際に、ドット穴4の周縁での砥粒が第1の原形411の部分で留まることができ、これにより砥粒の不足を解消することができる。これにより、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の隆起高さhを、ウェーハ表面11より25nm未満とすることができ、レーザーマーク印字部3の平坦度を高めることができる。
【0040】
これに対し、本実施形態のシリコンウェーハ1において、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の隆起高さhは、ウェーハ表面11より30nm以上としてもよい。図7に示すように、ドット穴4の開口部42の周縁に隆起を残しておくことで、ドット穴4に溜まったエッチャントが流れ出るのを抑制できる。これにより、エッチング槽からシリコンウェーハ1を取り出す際に、ドット穴4に溜まったエッチャントによりドット穴4の周辺が不均一にエッチングされるのを抑制することができる。なお、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の隆起高さhは、ウェーハ表面11より30nm以上とするには、たとえばドット穴4の周縁での砥粒が不足するように、ドット穴4の原形41を図3Aに示すように傾斜の大きい側面とすればよい。
【0041】
以上のとおり、本実施形態のレーザーマーク付きシリコンウェーハによれば、結晶面方位が(100)のシリコンウェーハ1に、断面の深さが80μm~110μmのドット穴4からなる識別マーク5を形成する場合でも、酸エッチングに比べてバラツキの少ないドット穴4となる。
【0042】
これに加え、本実施形態のレーザーマーク付きシリコンウェーハによれば、ドット穴4のウェーハ表面11における開口部42の、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2の比を1~1.10、開口部42の<100>方向の長さL1を80μm~110μmとしたので、ドット穴4の開口部42の形状が、結晶方位に依存した形状ではあるが滑らかに連続する。これにより、開口部42の角部への応力集中が抑制され、その結果、その後のデバイス工程などにおいて研削などの処理をしても、膜剥がれの発生が抑制される。また、応力集中が抑制されるので、その後のデバイス工程などにおいて熱処理をしても、スリップの発生を抑制することができる。さらに、ドット穴4が80μm~110μmと深いので、その後のデバイス工程などにおいて研削などの処理をしても、視認性・識別性が確保される。
【0043】
また、本実施形態のレーザーマーク付きシリコンウェーハの製造方法によれば、結晶面方位が(100)のシリコンウェーハ1に、断面の深さが80μm~110μmのドット穴4からなる識別マーク5を形成するにあたり、結晶面方位が(100)のシリコンウェーハ1のウェーハ表面11にレーザー光を照射し、深さ80μm~110μmの複数の止まり穴(ドット穴4の原形41)を形成したのち、シリコンウェーハ1を、濃度が40wt%以上の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、ウェーハ表面11と止まり穴(ドット穴4の原形41)を厚さ5~15μmだけエッチングし、その後、ウェーハ表面11を研磨するので、ドット穴4の開口部42の形状が、結晶方位に依存した形状ではあるが滑らかに連続する特定形状の識別マーク5を造り込むことができる。
【0044】
また、本実施形態のレーザーマーク付きシリコンウェーハによれば、図5に示すドット穴4の<110>方向の断面における、側面44とウェーハ表面11(又は底面43)との成す角度αが63~73度、図6に示すドット穴4の<100>方向の断面における、側面45とウェーハ表面11(又は底面43)との成す角度βが56~70度であり、ドット穴4の断面形状が直角に近い特定の角度になっているので、デバイス工程などにおいてレーザーマーク印字部3を研削又は研磨した場合でも、良好な視認性・識別性が確保される。
【実施例0045】
《実施例1》
結晶面方位が(100)のシリコンウェーハの外周部に、レーザー光を照射してドット穴4の原形41を形成したのち、シリコンウェーハを、濃度が40wt%以上の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、ウェーハ表面11とドット穴4を厚さ10μmエッチングすることで、深さDを100.4μm、<100>方向の長さL1が95.8μm、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2との比(L1/L2)が1.04のドット穴4を有するレーザーマーク付きシリコンウェーハ1を作製した。このシリコンウェーハ1に1μmの窒化膜を形成したのち、1000℃の急速昇温熱処理を施し、ドット穴4の周囲における窒化膜の膜剥がれの状態を電子顕微鏡で観察した。その結果を条件とともに表1に示す。また、1つのドット穴4を正面視で観察した二値化写真を図11(A)に示す。
【0046】
《実施例2》
ドット穴4の深さDを87.9μm、<100>方向の長さL1を81.0μm、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2との比(L1/L2)を1.05としたこと以外は実施例1と同様の条件でレーザーマーク付きシリコンウェーハ1を作製し、膜剥がれの状態を観察した。その結果を条件とともに表1に示す。また、1つのドット穴4を正面視で観察した二値化写真を図11(B)に示す。
【0047】
《比較例1》
ドット穴4の深さDを89.2μm、<100>方向の長さL1を90.1μm、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2との比(L1/L2)を1.23としたこと以外は実施例1と同様の条件でレーザーマーク付きシリコンウェーハ1を作製し、膜剥がれの状態を観察した。その結果を条件とともに表1に示す。また、1つのドット穴4を正面視で観察した二値化写真を図11(C)に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
《考 察》
ドット穴4の深さDを80~110μmとした場合、ドット穴4の開口部42の、<100>方向の長さL1と<110>方向の長さL2の比(L1/L2)が、実施例1及び2のように1~1.10であると膜剥がれが観察されなかった。これに対し、L1/L2が、比較例1のように1.10を超えると膜剥がれが観察された。これは、図11(C)の正面視の写真に示されるように、比較例1に係るドット穴4の開口部42は、アルカリエッチングによる取り代が多く、略四角形となっている。その結果、(111)面に挟まれた角部の(110)面が狭いので、膜厚の変化が急峻になり、応力が発生し膜剥がれが発生し易いと推察される。図11(A)に示す実施例1及び図11(B)に示す実施例2に係るドット穴4の開口部42は、各頂点が円形の八角形になり、全体的に円形に近い形状となっている。その結果、膜厚の変化が小さく応力集中が生じ難い形状となる。
【符号の説明】
【0050】
1…シリコンウェーハ
11…ウェーハ表面
2…ノッチ
3…レーザーマーク印字部
4…ドット穴
41…ドット穴の原形
411…第1の原形
412…第2の原形
42…開口部
43…底面
44,45…側面
5…識別マーク
L1…<100>方向の長さ
L2…<110>方向の長さ
α…<110>方向に沿う断面における底面と側面との角度
β…<100>方向に沿う断面における底面と側面との角度
h…開口部の隆起高さ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11