(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075410
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】気圧変動により発生するノイズを抑制する液体クロマトグラフ用検出器
(51)【国際特許分類】
G01N 30/74 20060101AFI20240527BHJP
G01N 30/62 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G01N30/74 A
G01N30/62 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186846
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀賀 雅史
(57)【要約】
【課題】
本発明は、液体クロマトグラフ用検出器が設置されている環境の気圧が変動した際に、発生するノイズを抑制する検出器を提供するものである。
【解決手段】
検出セル、流体を前記検出セルに導入させるための導入配管、前記導入配管のうち一部を熱交換する導入側熱交換部を少なくとも備える液体クロマトグラフ用検出器であって、前記導入側熱交換部から前記検出セルまでの前記導入配管のうち、前記検出器の筐体の内部空間に露出している部分が充填手段で埋められていることを特徴とする液体クロマトグラフ用検出器。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出セル、流体を前記検出セルに導入させるための導入配管、前記導入配管のうち一部を熱交換する導入側熱交換部、および上記の構成要素を収容する筐体を少なくとも備える液体クロマトグラフ用検出器であって、
前記導入側熱交換部から前記検出セルまでの前記導入配管のうち、前記筐体の内部空間に配置されている部分が充填手段で埋められていることを特徴とする液体クロマトグラフ用検出器。
【請求項2】
前記液体クロマトグラフ用検出器が、示差屈折率検出器であることを特徴とする請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記流体が、有機溶剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の検出器。
【請求項4】
請求項1に記載の検出器であって、前記導入側熱交換部から前記検出セルまでの前記導入配管のうち、前記検出器の筐体の内部空間に配置されている部分が充填手段で埋められていることにより、検出器が設置してある環境の気圧が変動した際に検出器で発生するノイズを低減することを特徴とする液体クロマトグラフ用検出器。
【請求項5】
請求項2に記載の検出器であって、前記導入側熱交換部から前記検出セルまでの前記導入配管のうち、前記筐体の内部空間に配置されている部分が充填手段で埋められていることにより、検出器が設置してある環境の気圧が変動した際に検出器で発生するノイズを低減することを特徴とする液体クロマトグラフ用検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフにおける流体の性質および流体に含まれる成分を検出する検出器において、使用環境の気圧変動により発生するノイズを抑制する検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは、送液ポンプによって加圧送液された移動相中の流体場に試料を注入し、分析カラムで試料を分離した後、検出器において試料中の成分の定量や定性を行う方法である。移動相の種類や、試料の性状や、分離原理によって用いる検出器は異なり、分析の目的に合わせて用いる1、ないしは複数の検出器が選択される。
【0003】
検出器の流路部は、カラムからの溶出液を検出セルへ流入させる配管と、検出セルと、検出セルから溶出液を排出する配管などから構成される。液体のわずかな温度変動によって検出する際の液体の物理的パラメータが変動し、分析の精度や再現性が悪化することから、検出セルに流入する液体を熱交換器によって温調することや、検出器筐体を断熱材で覆うことや、検出器筐体を温調することなどの手段により、検出器外部の温度が変動した際に検出器の温度変動を少なくする手法が一般的に用いられる。
【0004】
液体クロマトグラフにおいて、移動相や試料を溶解する溶剤には有機溶剤が使用される場合がある。有機溶剤を使用する液体クロマトグラフを室内にて取り扱う場合は、日本国内であれば労働安全衛生法などの法律に準拠し、液体クロマトグラフの操作者の有機溶剤への暴露や、有機溶剤中毒を防止する目的で、圧力の作用を用いて有機溶剤の蒸気を屋外に排気する局所排気装置やドラフトブースを使用することが一般的である。局所排気装置やドラフトブースを使用することにより陰圧になっている部屋は、外部環境より気圧が低い状態となる。この際の部屋の気圧は、使用する局所排気装置や、ドラフトブースの性能や、部屋の構造にもよるが、10~150Pa程度、大気圧よりも低い状態となることが一般的である。
【0005】
局所排気装置やドラフトブースを使用している部屋の扉を一時的に開放すると、前記の部屋の気圧は大気圧へと急激に上昇する。その状態から部屋の扉を閉めた場合、再び気圧が低い状態へ戻るため、部屋の気圧は急激に下降する。この時、局所排気装置やドラフトブースを使用している部屋に設置されている検出器も同様の圧力の作用を受けるため、検出器内部空間の気相が検出器の外部の空気が流出入することによって断熱圧縮・断熱膨張が発生し検出器内部空間が温度変動することや、検出器の設置環境の気圧が変動することによって検出器内部空間が圧力変動し、それによって気体の状態方程式に従った圧力変動分の温度が変動することにより、検出セルに流入する流体の温度が変動し、検出器においてノイズとして信号検出されることがある。
【0006】
液体クロマトグラフのうち有機溶剤を使用する装置では、移動相が分析カラムによって加圧送液される際に、移動相が数~100MPa前後まで加圧されるため、機械的強度が高く、かつ有機溶剤に侵されにくいステンレスなどの金属材料を用いた配管が好適に使用されるが、金属材料は熱伝導率が高い場合が多く、結果として検出器の設置環境の気圧の変動した際に、配管中の流体の温度の変動は敏感になったり、大きくなったりする傾向があり、この温度の変動がクロマトグラム上にノイズを発生させる原因となる。このノイズはクロマトグラムの自動ピーク検出精度を悪化させたり、測定結果に差異を生じさせたりするため、低減することが望まれている(
図1参照)。
【0007】
特許文献1においては、検出セルに流入する液体を、配管の巻回部と、配管の巻回部を鋳造体に埋設することにより、配管の熱交換を促進し、温度安定性を確保する手法が公開されている。しかしながら、この手法は配管の巻回部から検出セルまでの配管は、検出器の設置環境の気圧が変動した際には、配管周囲の空間温度が変動することから、検出セルにおける流体の温度安定性の確保は不可能である。
【0008】
特許文献2は、上流側に断熱性の隔室入りUV検出器と、下流側に別の断熱性隔室入りRI検出器とを配した断熱性の筐体からなる液体クロマトグラフィー用検出装置であって、UV検出器の光源をオンオフ制御するとともに、UV検出器とRI検出器とを結ぶ流路中に熱交換器を備えることで、とくにRI検出器の恒温性を確保する技術を開示している。ただし、上記の熱交換器からRI検出器に至る流路には直接の断熱処理が施されていない。この技術は室温を制御するエアコンの動作等による温度変動には効果が期待されるものの、検出器の設置環境の気圧が変動した際に発生するノイズを抑制するためには不十分と推察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2022-119098号公報
【特許文献2】実用新案登録第3236505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、液体クロマトグラフ用検出器が設置されている環境の気圧が変動した際に、発生するノイズを抑制する検出器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、本発明を見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の様態を含む。
[1]少なくとも検出セルと、流体を前記検出セルに導入させるための導入配管と、前記導入配管のうち一部を熱交換することによって検出セルに導入する流体の温度を安定させるための導入側熱交換部、および上記の構成要素を収容する筐体を備える液体クロマトグラフ用検出器であって、導入側熱交換部から検出セルまでの前記導入配管のうち、検出器内部空間に露出している部分を充填手段で埋めることにより、前記導入配管を検出器内部空間に露出させないことを特徴とする液体クロマトグラフ用検出器。
[2]前記液体クロマトグラフ用検出器が、示差屈折率検出器であることを特徴とする[1]に記載の検出器。
[3]前記流体が、有機溶剤であることを特徴とする[1]または[2]に記載の検出器。
[4][1]に記載の検出器であって、前記導入側熱交換部から前記検出セルまでの前記導入配管のうち、前記検出器の筐体の内部空間に配置されている部分が充填手段で埋められていることにより、検出器が設置してある環境の気圧が変動した際に検出器で発生するノイズを低減することを特徴とする液体クロマトグラフ用検出器。
[5][2]に記載の検出器であって、前記導入側熱交換部から前記検出セルまでの前記導入配管のうち、前記検出器の筐体の内部空間に配置されている部分が充填手段で埋められていることにより、検出器が設置してある環境の気圧が変動した際に検出器で発生するノイズを低減することを特徴とする液体クロマトグラフ用検出器。
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の液体クロマトグラフ検出器は、少なくとも検出セルと、流体を検出セルに導入させるための導入配管と、前記導入配管のうち一部を熱交換することによって検出セルに導入する流体の温度を安定させるための導入側熱交換部、および上記の構成要素を収容する筐体を備える液体クロマトグラフ用検出器であって、導入側熱交換部から検出セルまでの前記導入配管のうち、検出器内部空間に露出している部分を充填手段で埋めることにより、前記導入配管を検出器内部空間に露出させないことで検出器内部空間の気相部と前記導入配管との熱移動、および熱伝達を防ぎ、前記液体クロマトグラフ用検出器を設置している環境の気圧が変動した際の検出器信号ノイズを低減することを特徴とする。
【0015】
検出器の種類としては、紫外可視吸光光度検出器、ダイオードアレイ検出器、蛍光検出器、示差屈折率検出器、光散乱検出器、電気伝導度検出器、赤外分光光度計を例示することができるが、少なくとも検出セルと、流体を検出セルに導入させるための導入配管と、前記導入配管のうち一部を熱交換することによって検出セルに導入する流体の温度を安定させるための導入側熱交換部、および上記の構成要素を収容する筐体を備える液体クロマトグラフ用検出器であればよく、検出器の種類に特に制限はない。
【0016】
検出器は、検出器が設置してある環境の温度変動による検出器信号のノイズやドリフトを軽減する目的で、検出器筐体の内部、あるいは外部、あるいはその両方に、筐体断熱手段、あるいは筐体温調手段、あるいはその両方を設けることにより、検出セルや、検出セルを配置するためのブロック部の温度変動を軽減する手法が一般的に用いられる。また、検出器の流路としては、少なくとも検出セルと、流体を検出セルに導入させるための導入配管を備えており、実施様態によっては流体を検出セルから排出するための排出配管や、導入配管の熱交換を促進することにより検出セルでの温度安定性を高めることで検出安定性を高める導入側熱交換部、排出配管の熱交換を促進することにより検出セルの背圧を安定させることで検出安定性を高める排出側熱交換部を設けることが一般的であるが、検出器の製造工程における組立や、加工や、配管接続のために、導入配管206を検出器内部空間211に一切露出させることなく、導入側熱交換部208と検出セル205を隣接させることは困難である(
図2参照)。
【0017】
流体を検出セルに導入させるための導入配管を検出器セルに接続する方法は、フィッティングやオシネやフェラルやコネクターなどの配管接続手段を用いる他、溶接、圧着、接着が例示できるが、接続方法に特に制限はない。配管接続手段を用いて配管を検出セルに接続している場合は、配管と配管接続手段を充填手段で埋めることが好適である。流体を検出セルに導入する配管の外径、内径、材質には特に制限はない。好適な材質としてステンレスなどの金属材料、PTFE、PEEK、PFAなどのプラスチック材料、溶融石英などの無機材料が例示できる。
【0018】
用いる充填手段は、検出器内部空間311から流体を検出セルに導入する配管への熱移動、および熱伝達を低減できればよい(
図3参照)。充填手段の形状や材質や設置方法や固定方法には特に制限がなく、形状としてはチューブ状、シート状、発泡材料、多孔質媒体例示でき、材質としてはグラスウールやロックウールなどの繊維系断熱材、羊毛などの天然素材、プラスチックなどのポリマー材料、ステンレスやアルミなどの金属材料、粘土が例示できるが、時間経過による変性が少ない材料や、粉塵の放出が少ない材料や、使用される有機溶剤が漏洩した場合でも変性やガス放出が少ない材料が好適である。充填手段を複数組み合わせて使用しても良く、例えば、流体を検出セルに導入する配管をシリコンチューブで覆い、更にシリコンチューブの外側をポリウレタンフォームで覆うことにより、流体を検出セルに導入する配管とシリコンチューブとの間にある空気層、シリコンチューブ、ポリウレタンフォームの3つの充填手段を併用することにより、検出器内部空間から流体を検出セルに導入する配管への熱移動、および熱伝達をより低減することが可能である。
【0019】
一般的には検出セルから流体を排出させるために排出配管を備える。排出配管も導入配管と同様に、検出器の製造工程における組立や、加工や、配管接続のために、排出配管を検出器内部空間に一切露出させることなく、排出側熱交換部と検出セルを隣接させることは困難であるが、液体クロマトグラフ用検出器が設置されている環境の気圧が変動した際に、排出配管内部の流体温度が変動しても、その流体が再び検出セルに流入することはなく、検出器が設置されている環境の気圧変動に起因する検出器ノイズは発生しないとも考えられるが、排出配管を導入配管と同様に充填手段で埋めることは、導入配管と排出配管は検出セル付近で近接した状態で取りまわすため、導入配管を充填手段で埋める際に、排出配管も同時に充填手段によって埋められてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、液体クロマトグラフ用検出器が設置されている環境の気圧が変動した際に発生するノイズを低減する手法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】クロマトグラム中にノイズが存在していない場合の正常なベースラインと、クロマトグラムにノイズが存在している場合の異常なベースラインを示す図である。
【
図3】本発明である検出器の構成要素を示す図である。
【
図4】実施例1にて用いた検出器の流路系を示す図である。
【
図5】実施例1にて用いた検出器の光学系と、検出セル周辺の流路系を示す図である。
【
図6】サイズ排除クロマトグラフィーにおける校正曲線を示す図である。
【
図7】実施例1にて条件1,2,3のクロマトグラムを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【実施例0023】
本発明の方法を、流路系を
図4に、光学系を
図5に示すブライス型ダブルパス、ダブルフロー方式の示差屈折率検出器を用いて、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography:以下、SECと称す)を実施し検証した。
【0024】
示差屈折率検出器は、試料の分子量分布を取得するためにSEC用の検出器として好適に用いられる。SECでは移動相として有機溶剤が使用されることがあるため、SECを実施する液体クロマトグラフには、有機溶剤に侵されないステンレス配管が好適に用いられ、かつ、SECは局所排気装置やドラフトブースの使用下で実施されることが多い。これらの事情のため、SECで用いる示差屈折率検出器は、設置環境の気圧が変動した際には熱伝導率が高いステンレス配管によって、検出器内部空間から移動相に温度変動が伝わりやすく、その結果、移動相の密度が変動することによりクロマトグラムにおいてノイズとして検出されやすい。
【0025】
また、SECは、既知の分子量の複数の標準試料を分析することにより取得した校正曲線を用いて、未知試料の分子量分布を算出する手法である。SECは理想的には溶出時間と分子量の対数が、一定の範囲内で直線関係を有する。未知試料の溶出時間から、前記校正曲線を用いて分子量の対数を取得し、そこからさらに分子量を得る。
図6に示すように校正曲線の横軸は溶出時間であることに対し、縦軸は分子量の対数であることから、溶出時間に僅かな変動が発生すると、結果として得られる分子量に大きな差異が生じる。つまりSECは、設置環境の気圧が変動した際などに発生するノイズによってクロマトグラムのピーク形状や、ピークの最大出力値における溶出時間であるピークトップ時間が変わることで、分子量分布の計算結果が変動しやすい。これらのことから、示差屈折率検出器を用いたSECは、本発明の検証として好適である。
【0026】
移動相容器401中の移動相は、脱気部402を通過し溶存ガスが取り除かれた状態で送液ポンプ403A、403Bによってカラムオーブン404に設置された注入バルブ405、分析カラム406、およびリファレンスカラム407に送れられたのち、示差屈折率検出器408に導入される。分析カラム406からの溶出液は示差屈折率検出器408のサンプル側温調部409Aを通過することで温調されたのち、検出器内部導入配管410Aを通りサンプル側セル411Aに導入され、検出器内部排出配管412Aを通りサンプル側温調部409Aを再び通過することで再度温調されたのちに検出器の筐体外に排出される。リファレンスカラム407からの溶出液は示差屈折率検出器408のリファレンス側温調部409Bを通過することで温調されたのち、検出器内部導入配管410Bを通りリファレンス側セル411Bに導入され、検出器内部排出配管412Bを通りリファレンス側温調部409Bを再び通過することで再度温調されたのちに検出器の筐体外に排出される。サンプル側温調部409A、およびリファレンス側温調部409Bはブロック部413を温調するための温調部414によって温調される。ブロック部413、および温調部414は検出器筐体断熱材415によって覆われる。検出器内部排出配管412A、および検出器内部排出配管412Bからの排液は排液集合部417に排出される。送液ポンプ403A、403B以降の配管にはステンレス材料(JIS規格SUS316)を使用した。
【0027】
図5において光源501より発せられた光は、サンプル側セルとリファレンス側セルが組み合わされた検出セル502を通過し、ミラー503で反射され再度検出セル502を通過した後、ゼロ点補正機構504を通過し示差屈折率検出部505にてサンプル側セル511A中の流体と、リファレンス側セル511B中の流体の屈折率差を検出する。
【0028】
この示差屈折率検出器を用いて、検出器内部導入配管410A、410Bを配管充填材416で埋めた場合(条件1)と、埋めていない場合(条件2)、それぞれについて、設置環境の気圧が変動した際のクロマトグラムと、設置環境の気圧が変動していないクロマトグラム(条件3)を比較した。設置環境の気圧を変動させる場合は、この示差屈折率検出器を有するSECシステム(東ソー株式会社製HLC-8420GPC)を大気圧から150Pa低い気圧となるドラフトブースに設置し、6.0分からと7.0分からのそれぞれ10秒ずつ、ドラフトブースを一時大気圧開放することで150Pa変動させた。
【0029】
移動相はキシダ化学株式会社製の高速液体クロマト用グレードのテトラヒドロフラン(THF)を、分析カラムとリファレンスカラムは東ソー株式会社製TSKgel GMHHR-M(内径7.8mm、長さ30cm)をそれぞれ1本ずつ用いた。送液ポンプ403A、403Bの設定流量はそれぞれ1.000mL/minと、0.250mL/minとした。試料は、東ソー株式会社製TSKgel標準ポリスチレン タイプF-1(重量平均分子量Mw:9490)を前記のTHFに濃度1g/Lとなるように溶解したものを用いた。試料注入量は10μLとした。配管充填材416として、厚さ1mmの無架橋高発泡ポリエチレンシートを用いた。
【0030】
条件1,2,3の測定結果のクロマトグラムを
図7a、b、cに示す。
図7aは条件1,2,3で取得したクロマトグラムを重ね描きした全体像である。横軸は試料注入からの時間であり、SECにおいては溶出時間と同等である。縦軸は検出器出力である。試料のピークは7分付近に溶出しており、検出器における出力の高さは約18.88mVである。
図7bは、
図7aのクロマトグラムの5.0~7.0分のベースラインを拡大した図である。条件2においては6.0付近に最大1.12mVのノイズが発生していることがわかる。
図7cは、
図7aのクロマトグラムの6.5~8.0分のピークを拡大した図である。条件1、3においては、試料の溶出時間は7.04分であり差異は生じなかったが、条件2においては、試料の溶出時間は7.02分であり、ノイズによってピークトップ時間が0.02分だけ早まっていた。条件1はノイズによる試料のピークトップ時間のずれが出現していないことがわかった。これにより、検出器内部導入配管410A、410Bを配管充填材416で覆うことにより、示差屈折率検出器が設置してある環境の気圧が変動した際に示差屈折率検出器において発生するノイズを低減し、その結果、SEC分析における試料のピークトップ時間のずれを防止し、ベースラインのノイズが低減できることが確認できた。