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特開2024-75418炉内反応の予測装置及び炉内反応の予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075418
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】炉内反応の予測装置及び炉内反応の予測方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/04 20060101AFI20240527BHJP
   F27B 7/42 20060101ALI20240527BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20240527BHJP
   C22B 23/00 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
C22B1/04
F27B7/42
F27D21/00 Z
C22B23/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186869
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 元彬
【テーマコード(参考)】
4K001
4K056
4K061
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA16
4K001DA12
4K001GA07
4K001GB11
4K056AA12
4K056AA16
4K056BA06
4K056BB01
4K056CA02
4K056CA07
4K056FA11
4K061AA08
4K061BA04
4K061CA23
4K061DA01
4K061EA07
4K061GA06
(57)【要約】
【課題】回転式熱処理炉に供給される粒子の滞留時間、及び粒子の燃焼ガスとの熱交換効率を高精度に予測することができる炉内反応の予測装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る炉内反応の予測装置は、回転式熱処理炉の一端側から供給した粒子を他端側に向かって移動させながら、粒子を他端側から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う炉内反応の予測装置であって、離散要素法を用いて、粒子の一端からの距離に対する単位時間当たりの移動速度を計算する移動速度計算部と、離散要素法を用いて、粒子の熱流束を計算する熱流束計算部と、移動速度に基づいて、粒子が回転式熱処理炉の他端に到達する時間を求め、粒子の滞留時間を算出する滞留時間算出部と、熱流束と滞留時間とから、粒子に与えられる熱エネルギーを計算して、粒子の燃焼ガスとの熱交換効率を算出する熱交換効率算出部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式熱処理炉の一端側から供給した粒子を他端側に向かって移動させながら、前記粒子を前記他端側から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う炉内反応の予測装置であって、
離散要素法を用いて、前記粒子の前記一端からの距離に対する単位時間当たりの移動速度を計算する移動速度計算部と、
前記離散要素法を用いて、前記粒子の熱流束を計算する熱流束計算部と、
前記移動速度に基づいて、前記粒子が前記回転式熱処理炉の前記他端に到達する時間を求め、前記粒子の滞留時間を算出する滞留時間算出部と、
前記熱流束と前記滞留時間とから、前記粒子に与えられる熱エネルギーを計算して、前記粒子の前記燃焼ガスとの熱交換効率を算出する熱交換効率算出部と、
を備える炉内反応の予測装置。
【請求項2】
前記単位時間が、5.0秒~15.0秒の範囲内の何れかの時間である請求項1に記載の炉内反応の予測装置。
【請求項3】
前記回転式熱処理炉が、軸心周りに回転可能な円筒状の回転ドラムと、前記回転ドラムの内壁に傾斜して設けられる傾斜リフタとを備えるものであり、
前記離散要素法を用いて、全ての前記粒子の前記熱流束を合算する熱流束合算部を備える請求項1又は2に記載の炉内反応の予測装置。
【請求項4】
回転式熱処理炉の一端側から供給した粒子を他端側に向かって移動させながら、前記粒子を前記他端側から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う炉内反応の予測方法であって、
離散要素法を用いて、前記粒子の前記一端からの距離に対する単位時間当たりの移動速度を計算する移動速度計算工程と、
前記離散要素法を用いて、前記粒子の熱流束を計算する熱流束計算工程と、
前記移動速度に基づいて、前記粒子が前記回転式熱処理炉の前記他端に到達する時間を求め、前記粒子の滞留時間を算出する滞留時間算出工程と、
前記熱流束と前記滞留時間とから、前記粒子に与えられる熱エネルギーを計算して、前記粒子の前記燃焼ガスとの熱交換効率を算出する熱交換効率算出工程と、
を含む炉内反応の予測方法。
【請求項5】
前記離散要素法を用いて、全ての前記粒子の前記熱流束を合算する熱流束合算工程を含む請求項4に記載の炉内反応の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内反応の予測装置及び炉内反応の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーキルン、ロータリードライヤ等の回転式熱処理炉は、大量の内容物に熱を加えて連続的に処理でき、単位時間当たりの生産性の高い操業を行うことができることから、様々な産業で使用されている。
【0003】
回転式熱処理炉は、炉本体内に熱風を通すことで、炉本体内に投下した粒子に熱風等の燃焼ガスと接触させて熱エネルギーを与え、粒子を乾燥させることができる。また、場合によっては、粒子を熱風等の燃焼ガスと反応させることで、所望の生成物を得ることができる。
【0004】
このような回転式熱処理炉として、例えば、ロータリーキルンの装入端から装入したニッケル酸化鉱の水分の一部を除去した乾燥鉱石を、バーナーで化石燃料の燃焼により生じる燃焼熱で焼成すると共に部分的な還元処理を施すロータリーキルンが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このロータリーキルンでは、乾燥機でニッケル酸化鉱に付着している一部の水分が除去された乾燥鉱石を原料とし、化石燃料の燃焼熱により乾燥鉱石の水分を完全に除去して焼成すると共に部分的な還元処理を施して焼成鉱石(焼鉱)を産出する。産出された焼成鉱石(焼鉱)は排出端から排出され、ローリーキルン内の排ガスは装入端から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5967616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ロータリーキルン内に供給された乾燥鉱石がロータリキルン内に留まる滞留時間、及び乾燥鉱石の燃焼ガスとの熱交換効率について検討されていない。
【0008】
回転式熱処理炉に投入される粒子の滞留時間、及び粒子の燃焼ガスとの熱交換効率を把握できなければ、回転式熱処理炉の設計及び運転の制御を適切に行うことができず、回転式熱処理炉の効率的な操業が図れない。
【0009】
本発明の一態様は、回転式熱処理炉に供給される粒子の滞留時間、及び粒子の燃焼ガスとの熱交換効率を高精度に予測することができる炉内反応の予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る炉内反応の予測装置の一態様は、回転式熱処理炉の一端側から供給した粒子を他端側に向かって移動させながら、前記粒子を前記他端側から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う炉内反応の予測装置であって、
離散要素法を用いて、前記粒子の前記一端からの距離に対する単位時間当たりの移動速度を計算する移動速度計算部と、
前記離散要素法を用いて、前記粒子の熱流束を計算する熱流束計算部と、
前記移動速度に基づいて、前記粒子が前記回転式熱処理炉の前記他端に到達する時間を求め、前記粒子の滞留時間を算出する滞留時間算出部と、
前記熱流束と前記滞留時間とから、前記粒子に与えられる熱エネルギーを計算して、前記粒子の前記燃焼ガスとの熱交換効率を算出する熱交換効率算出部と、
を備える。
【0011】
本発明に係る炉内反応の予測方法の一態様は、回転式熱処理炉の一端側から供給した粒子を他端側に向かって移動させながら、前記粒子を前記他端側から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う炉内反応の予測方法であって、
離散要素法を用いて、前記粒子の前記一端からの距離に対する単位時間当たりの移動速度を計算する移動速度計算工程と、
前記離散要素法を用いて、前記粒子の熱流束を計算する熱流束計算工程と、
前記移動速度に基づいて、前記粒子が前記回転式熱処理炉の前記他端に到達する時間を求め、前記粒子の滞留時間を算出する滞留時間算出工程と、
前記熱流束と前記滞留時間とから、前記粒子に与えられる熱エネルギーを計算して、前記粒子の前記燃焼ガスとの熱交換効率を算出する熱交換効率算出工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る炉内反応の予測装置の一態様は、回転式熱処理炉に供給される粒子の滞留時間、及び粒子の燃焼ガスとの熱交換効率を高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る炉内反応の予測装置が適用されるロータリーキルンの概略構成を示す図である。
図2】ロータリーキルンの軸方向視における断面図である。
図3】第1の実施形態に係る炉内反応の予測装置の機能を示すブロック図である。
図4】ロータリキルンの供給口からの距離に対する原料鉱石の移動速度を異なる時間でプロットした結果の一例を示す図である。
図5】ロータリーキルンの供給口からの距離に対する原料鉱石の1個当たりの熱流量の測定結果の一例を示す図である。
図6】短時間計算結果を定常状態とした場合に時間に対する粒子位置の変化の一例を示す図である。
図7】原料鉱石の滞留時間に対する原料鉱石の1個当たりの熱流量の測定結果の一例を示す図である。
図8】本実施形態に係る炉内反応の予測方法を説明するフローチャートである。
図9】炉内反応の計算装置のハードウェア構成図である。
図10】第2の実施形態に係る炉内反応の予測装置が適用されるロータリーキルンの概略構成の一部を示す図である。
図11】ロータリーキルンの軸方向視における断面図である。
図12】リフタの角度を説明する図である。
図13】粒子の安息角の測定方法の一例を示す図である。
図14】第2の実施形態に係る炉内反応の予測装置の機能を示すブロック図である。
図15】計算時間と、全粒子の熱流束の総和との関係を示す図である。
図16】第2の実施形態に係る炉内反応の予測方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0015】
[第1実施形態]
第1の実施形態に係る炉内反応の予測装置について説明するに当たり、本実施形態に係る炉内反応の予測装置が適用される回転式熱処理炉の構成について説明する。なお、本実施形態では、回転式熱処理炉がロータリーキルンである場合について説明するが、内容物を回転させながら熱処理できる熱処理炉であればよく、ロータリードライヤ等でもよい。
【0016】
<ロータリーキルン>
図1は、本実施形態に係る炉内反応の予測装置が適用されるロータリーキルンの概略構成を示し、図2は、ロータリーキルンの軸方向視における断面図である。なお、図2中のCLは、ロータリーキルンの回転軸を示す。図1及び図2に示すように、ロータリーキルン1は、軸心周りに回転可能な略円筒形状の回転ドラムであるキルン本体11と、キルン本体11の内壁に設けられたリフタ12Aを有し、粒子として原料鉱石Pを処理する。
【0017】
なお、本実施形態では、粒子が粒子状の原料鉱石Pである場合について説明するが、球状、楕円状等の形状を有し、回転式燃焼炉内を移動できるものであればよく、特に限定されない。
【0018】
キルン本体11は、円筒形状の中空構造物からなる窯であり、キルン本体11は、厚さ15mm~30mmの炭素鋼からなる。キルン本体11は、その内周側の壁面に、耐熱性を高めるための耐火物を備えることが好ましい。
【0019】
キルン本体11の大きさとしては、例えば、内径が4.5m~5.5m、長軸方向の長さ(全長)が100m~110mの大きさのものを用いることが好ましい。
【0020】
キルン本体11は、その一端側(図1中の左側)の開口端部11aが、キルン本体11の一端であるロータリーキルン装入端(以下、単に「装入端」ともいう。)14Aに挿入して閉じられると共に、他端側(図1中の右側)の開口端部11bが、キルン本体11の他端であるロータリーキルン排出端(以下、「排出端」ともいう。)14Bに挿入して閉じられている。キルン本体11は、装入端14Aから排出端14Bに向かってわずかに傾斜した状態で配設されており、軸回りに回転自在に支持されている。
【0021】
装入端14Aには、原料鉱石Pをキルン本体11内に導入する原料供給管15が貫設されている。排出端14Bには、開口端部11bを貫通してキルン本体11内に導入されるバーナー16が設けられる。
【0022】
リフタ12Aは、キルン本体11内に投入される原料鉱石Pを撹拌する機能を有する。リフタ12Aは、キルン本体11の内壁に等間隔で複数(図2では、4つ)設けられている。
【0023】
原料鉱石Pは、ニッケル酸化鉱石(酸化ニッケル鉱石)等を用いることができる。原料鉱石Pは、例えば、ニッケル酸化鉱石等をドライヤー(ロータリードライヤー)により予備乾燥して、付着水分の一部を除去した乾燥鉱石等を用いることができる。乾燥鉱石中の水分量としては、15質量%~25質量%である。
【0024】
原料鉱石Pであるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、鉄とニッケルを主成分とする合金であるフェロニッケルの製錬においては、ガーニエライト鉱等が好ましく用いられる。ガーニエライト鉱の代表的な組成としては、乾燥鉱石での換算で、Ni品位が2.1質量%~2.5質量%、Fe品位が11質量%~23質量%、MgO品位が20質量%~28質量%、SiO品位が29質量%~39質量%、CaO品位が0.5質量%未満であり、灼熱減量が10質量%~15質量%である。
【0025】
バーナー16は、微粉炭専焼バーナー又は微粉炭と重油の混焼バーナー等を用いることができる。バーナー16は、微粉炭又は微粉炭及び重油等を含む燃料を燃焼して、ロータリーキルン1内に燃焼熱を発生させる。
【0026】
原料鉱石Pは、装入端14Aに設けた原料供給管15からキルン本体11内に装入される。排出端14B側からは、排出端14Bに設置したバーナー16により微粉炭や重油等を燃焼させることにより発生した高温の燃焼ガスが、排出端14B側から装入端14A側に向けて、即ち原料鉱石Pの流れと反対の方向に吹き込まれる。
【0027】
キルン本体11内では、原料鉱石Pは、装入端14Aから装入され、キルン本体11が所定の速度で回転することで、装入端14Aから原料供給管15を通してキルン本体11内に装入された原料鉱石Pを一端側である開口端部11a側から他端側である排出端14Bに向かって搬送する。このとき、原料鉱石Pは、キルン本体11内を移動しながら、排出端14Bから装入端14A側に向かって流れる燃焼ガスと向流接触し、バーナー16で微粉炭や重油等の燃料を燃焼させることにより発生させた高温の燃焼ガスの燃焼熱及び火炎によって加熱される。そのため、原料鉱石Pは、キルン本体11の回転に連れてキルン本体11の装入端14Aから排出端14Bに向けて移動しながら、バーナー16で燃料が燃焼することで生じた燃焼ガスの燃焼熱及び火炎により加熱され、徐々に温度を上げて行く。
【0028】
キルン本体11内では、原料鉱石Pと燃焼ガスとの間で、原料鉱石Pに含まれる水分の蒸発と、バーナー燃料に含まれる灰分の飛散、落下等により、物質の移動が生じる。
【0029】
キルン本体11内の原料鉱石Pが排出端14Bに到達するまでに、原料鉱石Pは、その原料鉱石P中に含まれる水分がほぼ完全に除去されて焼成すると共に部分還元されて、焼鉱となる。焼鉱は、排出端14Bから排出される。
【0030】
焼鉱は、例えば、温度800℃~900℃、粒子径が10mm~100mm程度の大きさからなる。
【0031】
排出端14Bの排出口には、粒子径10mm~100mm程度の焼鉱と、ロータリーキルン1内に発生した焼結塊(粒子径100mm~500mm程度)とを分離するためのロストル(篩分装置)17が設けられている。ロストル17は、例えば、目開き100mm程度の鉄製の格子で構成されている。排出端14Bから排出された焼鉱は、ロストル17を通過した後、焼鉱排出用シュート18を通って、次工程に搬送される。
【0032】
<炉内反応の予測装置>
本実施形態に係る炉内反応の予測装置について説明する。図3は、本実施形態に係る炉内反応の予測装置の機能を示すブロック図である。図3に示すように、炉内反応の予測装置20Aは、入力部21、移動速度計算部22、熱流束計算部23、滞留時間算出部24、熱交換効率算出部25及び表示部26を備える。
【0033】
原料鉱石Pがロータリーキルン1内にどの程度滞留するか、また原料鉱石Pが燃焼ガスとどのように接触して熱交換するかを定量的に判断することがロータリーキルン1の設計及び制御に重要である。しかしながら、原料鉱石Pのロータリーキルン1内での滞留時間は、経験に基づいて推定するに留まる。また、ロータリーキルン1内での原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率については、ロータリーキルン1内での燃焼ガスの流れが複雑であるため、熱交換効率の計算は困難である。一方、離散要素法(DEM)を用いてロータリーキルン1内の原料鉱石Pの粒子挙動をシミュレーションする方法を用いれば、原料鉱石Pのロータリーキルン1内での滞留時間、原料鉱石Pが燃焼ガスによりどの程度の熱が与えられるか等を計算できる。しかし、この方法を用いた場合、現実的な計算時間では、せいぜい数十秒程度の粒子挙動のシミュレーション結果しか得られない。ロータリーキルン1内での原料鉱石Pの滞留時間は実際には数十分から数時間に及ぶため、ロータリーキルン1内の原料鉱石Pを構成する全ての粒子の滞留時間中の挙動をDEMを用いて計算する方法は、現実的ではなく、実用性に乏しいといえる。
【0034】
炉内反応の予測装置20Aは、ロータリーキルン1内の原料鉱石Pの滞留時間をDEMを用いて算出するに当たり、DEMを用いて所定の短時間で計算した移動速度の値を定常状態の代表値として原料鉱石Pの滞留時間を計算する。また、炉内反応の予測装置20Aは、原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率をDEMを用いて算出する。これにより、炉内反応の予測装置20Aは、原料鉱石Pの滞留時間及び熱交換効率を高精度に予測できる。
【0035】
入力部21は、ロータリーキルン1の長さ、直径、内径等のロータリーキルン1に関する情報と、原料鉱石Pの種類、粒径等の原料鉱石Pに関する情報を入力情報として移動速度計算部22に入力する。
【0036】
移動速度計算部22は、DEMを用いて、原料鉱石Pのロータリーキルン1の一端である装入端14Aの供給口(入口)からの距離に対する単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度を計算する。
【0037】
単位時間は、5.0秒~15.0秒の範囲内の何れかの時間であることが好ましい。単位時間がこの範囲内の任意の時間であれば、単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度は、大きく変動しない。また、単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度の計算時間及びコストの低減が図れる。
【0038】
ロータリーキルン1の供給口からの距離に対する原料鉱石Pの移動速度を異なる時間で測定した時の測定結果の一例を図4に示す。なお、図4では、原料鉱石Pのロータリーキルン1内への投入開始時間から、2.5秒、5.0秒、7.5秒、10.0秒、12.5秒、15.0秒の時のロータリーキルン1内の移動速度を示す。図4に示すように、原料鉱石Pのロータリーキルン1内への投入開始時間から5.0秒~15.0秒では、原料鉱石Pが移動していることが確認できる。また、原料鉱石Pをロータリーキルン1内に投入してからの各時間で、原料鉱石Pの移動速度は、ロータリーキルン1の供給口側及び排出口(出口)側で変動はあるものの、その他の殆どの部分では定常状態に近いといえる。よって、単位時間が5.0秒~15.0秒の任意の時間であれば、単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度を求められる。
【0039】
熱流束計算部23は、DEMを用いて、原料鉱石Pの熱流束(ヒートフラックス)を計算する。
【0040】
ロータリーキルン1の供給口からの距離に対する原料鉱石Pの1個当たりの熱流量の測定結果の一例を図5に示す。なお、図5では、回転速度が、0.27rad/秒、0.41rad/秒、0.81rad/秒の時の原料鉱石Pの1個当たりの熱流量を示す。図5に示すように、回転速度が大きくなるほど、原料鉱石Pの1個当たりの熱流量が大きくなることが確認できる。また、供給口からの距離が長くなるほど原料鉱石Pの1個当たりの熱流量は小さくなる傾向にある。測定された熱流量をキルン本体11内に設置されるセンサの表面積で除することで熱流束は求められる。熱流束計算部23では、図5に示すような、ロータリーキルン1の供給口からの距離と原料鉱石Pの1個当たりの熱流量との関係を考慮して、測定された熱流量から原料鉱石Pの熱流束が計算される。
【0041】
滞留時間算出部24は、移動速度計算部22により求められた原料鉱石Pの移動速度に基づいて、原料鉱石Pがロータリーキルン1の他端である排出端14Bの排出口に到達する時間を求め、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間を算出する。
【0042】
移動速度計算部22により求められた原料鉱石Pの移動速度が定常状態であるとした時のロータリーキルン1の供給口からの距離に対する原料鉱石Pの滞留時間を異なる回転速度で測定した時の測定結果の一例を図6に示す。なお、図6では、排出口の位置に到達した時間が、原料鉱石Pの滞留時間を意味する。図6に示すように、移動速度計算部22により求められた原料鉱石Pの移動速度が定常状態であると仮定することで、ロータリーキルン1が所定の長さ(例えば、40m)の時の原料鉱石Pの滞留時間を定量的に求めることができる。
【0043】
熱交換効率算出部25は、熱流束計算部23で求められた原料鉱石Pの熱流束と、滞留時間算出部24により求められた、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間とから、原料鉱石Pに与えられる熱エネルギーを計算する。そして、熱交換効率算出部25は、計算した熱エネルギーから、原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率を算出する。
【0044】
具体的には、熱流束計算部23で得られたロータリーキルン1内での熱流束分布をQとすると、1個当たりの原料鉱石Pがロータリーキルン1内を滞留中に与えられる熱エネルギーEは、移動速度計算部22により求められた原料鉱石Pのロータリーキルン1内における移動速度分布vを用いて、下記式(1)のように求められる。なお、下記式(1)中、startは、原料鉱石Pが投入される、装入端14Aの供給口の位置であり、endは、原料鉱石Pが排出される、排出端14Bの排出口の位置であり、residence timeは、ロータリーキルン1の供給口からの距離である。下記式(1)より、原料鉱石Pに与えられる熱エネルギーEが大きいほど熱交換効率が大きいことを意味する。
【0045】
【数1】
【0046】
原料鉱石Pの滞留時間に対する原料鉱石Pの1個当たりの熱流量の測定結果の一例を図7に示す。なお、図7では、回転速度が、0.27rad/秒、0.41rad/秒、0.81rad/秒の時の原料鉱石Pの1個当たりの熱流量を示す。図7に示すように、回転速度が大きくなるほど、原料鉱石Pの1個当たりの熱流量が大きくなることが確認できる。また、原料鉱石Pの滞留時間が長くなるほど原料鉱石Pの1個当たりの熱流量は小さくなる傾向にある。上述の通り、測定された熱流量をキルン本体11内に設置されるセンサの表面積で除することで熱流束が求められる。熱交換効率算出部25では、図7に示すような、原料鉱石Pの滞留時間と原料鉱石Pの1個当たりの熱流量との関係を考慮して、原料鉱石Pの熱流束と、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間とから、原料鉱石Pに与えられる熱エネルギーが計算される。
【0047】
表示部26は、滞留時間算出部24で出力された出力情報を表示する。即ち、表示部26は、原料鉱石Pの滞留時間に関する情報を表示する。
【0048】
<炉内反応の予測方法>
次に、本実施形態に係る炉内反応の予測装置を用いて、本実施形態に係る炉内反応の予測方法について説明する。本実施形態に係る炉内反応の予測方法は、図1に示すような構成を有するロータリーキルン1において、ロータリーキルン1の装入端14A側から供給した原料鉱石Pを排出端14B側に向かって移動させながら、原料鉱石Pを排出端14B側に設けられるバーナー16から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う時の、炉内反応を予測して、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間及び熱交換効率を予測する方法である。
【0049】
図8は、本実施形態に係る炉内反応の予測方法を説明するフローチャートである。図8に示すように、炉内反応の予測装置20Aは、入力部21により、ロータリーキルン1の長さ、直径、内径等のロータリーキルン1に関する情報と、原料鉱石Pの種類、粒径等の原料鉱石Pに関する情報を入力する(入力工程:ステップS11)。
【0050】
次に、炉内反応の予測装置20Aは、移動速度計算部22により、DEMを用いて、原料鉱石Pのロータリーキルン1の供給口からの距離に対する単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度を計算する(移動速度計算工程:ステップS12)。
【0051】
次に、炉内反応の予測装置20Aは、熱流束計算部23により、DEMを用いて、原料鉱石Pの熱流束を計算する(熱流束計算工程:ステップS13)。
【0052】
次に、炉内反応の予測装置20Aは、滞留時間算出部24により、移動速度計算工程(ステップS12)で求められた原料鉱石Pの移動速度に基づいて、原料鉱石Pがロータリーキルン1の排出端14Bの出口に到達する時間を求め、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間を算出する(滞留時間算出工程:ステップS14)。
【0053】
次に、炉内反応の予測装置20Aは、熱交換効率算出部25により、熱流束計算部23で求められた原料鉱石Pの熱流束と、滞留時間算出部24により求められた、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間とから、原料鉱石Pに与えられる熱エネルギーを計算し、その熱エネルギーから原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率を算出する(熱交換効率算出工程:ステップS15)。
【0054】
次に、炉内反応の予測装置20Aは、表示部26により、移動速度計算工程(ステップS12)で計算された原料鉱石Pの移動速度、熱流束計算工程(ステップS13)で計算された熱流束、滞留時間算出工程(ステップS14)で算出された、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間、及び熱交換効率算出工程(ステップS15)で算出された、原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率とを表示する(表示工程:ステップS16)。
【0055】
<炉内反応の計算装置のハードウェア構成>
次に、炉内反応の計算装置20Aのハードウェア構成の一例について説明する。図9は、炉内反応の計算装置20Aのハードウェア構成を示すブロック図である。図9に示すように、炉内反応の予測装置20Aは、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)201、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)202及びROM(Read Only Memory)203、入力デバイスである入力装置204、出力装置205、通信装置206並びにハードディスク等の補助記憶装置207等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス208で相互に接続されている。なお、出力装置205及び補助記憶装置207は、外部に設けられていてもよい。
【0056】
CPU201は、炉内反応の予測装置20Aの全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU201は、ROM203又は補助記憶装置207に格納された炉内反応の予測プログラム(以下、単に予測プログラムという。)を実行して、測定収録画面と解析画面の表示動作を制御する。
【0057】
RAM202は、CPU201のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0058】
ROM203は、基本入出力プログラム等を記憶する。予測プログラムはROM203に保存されてもよい。
【0059】
入力装置204は、キーボード、マウス、操作ボタン、タッチパネル等である。
【0060】
出力装置205は、モニタディスプレイ等である。出力装置205では、測定入力情報、予測結果等が表示され、入力装置204や通信装置206を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0061】
通信装置206は、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスであり、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとして機能する。
【0062】
補助記憶装置207は、SSD(Solid State Drive)、及びHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、例えば、予測プログラムや炉内反応の予測装置20Aの動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0063】
図2に示す炉内反応の予測装置20Aの各機能は、CPU201、RAM202等の主記憶装置又は補助記憶装置207に所定のコンピュータソフトウェア(予測プログラムを含む)を読み込ませ、RAM202、ROM203又は補助記憶装置207に格納された予測プログラム等をCPU201により実行する。これにより、RAM202、ROM203及び補助記憶装置207等におけるデータの読み出し及び書き込みを行うと共に、入力装置204、出力装置205及び通信装置206を動作させることで、炉内反応の予測装置20Aの各機能は、実現される。即ち、本実施形態に係る予測プログラムをコンピュータ上で実行させることで、炉内反応の予測装置20Aは、図3の、入力部21、移動速度計算部22、滞留時間算出部24及び表示部26として機能する。
【0064】
本実施形態に係る予測プログラムは、以下の構成のプログラムを用いることができる。
即ち、本実施形態に係る予測プログラムは、回転式熱処理炉の一端側から供給した粒子を他端側に向かって移動させながら、前記粒子を前記他端側から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う炉内反応の予測を少なくともコンピュータに実行させるプログラムであって、
離散要素法を用いて、前記粒子の前記一端からの距離に対する単位時間当たりの移動速度を計算する移動速度計算工程と、
前記移動速度計算部により求められた前記移動速度に基づいて、前記粒子が前記回転式熱処理炉の前記他端に到達する時間を求め、前記粒子の滞留時間を算出する滞留時間算出工程と、
前記移動速度計算部により求められる前記粒子の熱流束と、前記粒子の滞留時間とから、前記粒子に与えられる熱エネルギーを計算し、前記熱エネルギーから前記粒子の前記燃焼ガスとの熱交換効率を算出する熱交換効率算出工程と、
を少なくともコンピュータに実行させるプログラムを用いることができる。
【0065】
予測プログラムは、例えば、RAM202やROM203の主記憶装置又は補助記憶装置207等のコンピュータが備える記憶装置内に格納される。なお、予測プログラムは、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、コンピュータが備える通信装置206等により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、予測プログラムは、その一部又は全部が、CD-ROM、DVD-ROM、フラッシュメモリ等の携帯可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【0066】
以上の通り、本実施形態に係る炉内反応の予測装置20Aは、移動速度計算部22、熱流束計算部23、滞留時間算出部24及び熱交換効率算出部25を備える。炉内反応の予測装置20Aは、移動速度計算部22において、DEMを用いて計算した、単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度が定常状態であると仮定して、滞留時間算出部24において、原料鉱石Pの移動速度を定常状態の代表値として、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間を定量的に算出できる。また、炉内反応の予測装置20Aは、熱流束計算部23において、DEMを用いて計算した、原料鉱石Pの熱流束と、滞留時間算出部24において算出した滞留時間とを用いて、熱交換効率算出部25において、原料鉱石Pの熱交換効率を定量的に算出できる。よって、炉内反応の予測装置20Aは、ロータリーキルン1に供給される原料鉱石Pの滞留時間、及び原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率を高精度に予測することができる。
【0067】
したがって、炉内反応の予測装置20Aは、ロータリーキルン1の適切な設計及び制御の指針を示すことができるため、ロータリーキルン1のより効率的な操業を図るために用いることができる。
【0068】
なお、操業の条件としては、例えば、キルン本体11の回転速度、リフタ12Aの大きさ、形状及び数、原料鉱石P及び燃焼ガスの供給量等が挙げられる。
【0069】
一般に、DEMを用いて原料鉱石Pの挙動の様子を計算しても、10秒間程度の原料鉱石Pの挙動しか計算できない。ロータリーキルン1内に投入された原料鉱石Pは、ロータリーキルン1の全長(例えば、40m)に対して、一般に、数十cmしか出口側に移動しない。そのため、原料鉱石Pが出口から排出される際に、どの程度の滞留時間を要し、燃焼ガスと熱交換するか判断できない。
【0070】
炉内反応の予測装置20Aは、上記構成を備えることにより、原料鉱石Pの滞留時間及び原料鉱石Pの熱交換効率を高精度に予測できる。そのため、炉内反応の予測装置20Aを用いれば、これらの予測結果に基づいて、ロータリーキルン1の設計及び運転の制御を適切に行うことができるため、原料鉱石Pを効率的に処理することができるように、ロータリーキルン1を操業することができる。よって、炉内反応の予測装置20Aを用いれば、ロータリーキルン1の設計条件及び操業条件を変更した場合の原料鉱石Pの処理への影響についても定量的に把握することができるため、様々な設計条件及び操業条件において、原料鉱石Pを効率的に処理するためにロータリーキルン1を効率的に操業させることができる。
【0071】
炉内反応の予測装置20Aは、移動速度計算部22において原料鉱石Pの移動速度を計算する際の単位時間を、5.0秒~15.0秒の範囲内の何れかの時間に設定できる。これにより、炉内反応の予測装置20Aは、単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度を計算時間及びコストの負担を減らしつつ安定して計算できるため、滞留時間算出部24において、原料鉱石Pの滞留時間をより安定して高精度に算出できる。
【0072】
[第2実施形態]
第2の実施形態に係る炉内反応の予測装置について説明する。なお、本実施形態は、本実施形態に係る炉内反応の予測装置は、キルン本体11の内壁にリフタ12Aを傾斜させて設けたロータリーキルンに適用され、計算部において熱流束(ヒートフラックス)を計算するものである。
【0073】
<ロータリーキルン>
本実施形態に係る炉内反応の予測装置について説明するに当たり、本実施形態に係る炉内反応の予測装置が適用される回転式熱処理炉の構成について説明する。図10は、本実施形態に係る炉内反応の予測装置が適用されるロータリーキルンの概略構成の一部を示し、図11は、ロータリーキルンの軸方向視における断面図である。なお、図11中のCLは、ロータリーキルンの回転軸を示す。図10及び図11に示すように、ロータリーキルン1は、上記の第1の実施形態で説明したロータリーキルン1のキルン本体11の内壁に設けたリフタ12Aに代えて、キルン本体11の内壁に傾斜して設けた傾斜リフタ12Bを備えたものである。
【0074】
傾斜リフタ12Bは、原料鉱石Pを掻き上げることができると共に、壁面付近の内容物を動かさないようにすることで壁面の摩耗を抑制できる。
【0075】
傾斜リフタ12Bの傾斜角度は、図12に示すように、原料鉱石Pの安息角や付着力等に応じて変えることが望ましい。角度は、DEMや実験を用いた手法によって最適値を選択できる。傾斜リフタ12Bは、例えば、粒子の安息角に対して±10°となるように設けることができる。なお、粒子の安息角は、一般的な測定方法により測定することができ、例えば、図13に示すように、原料鉱石Pを水平面に静かに堆積させた場合に自然に形成された山の斜面(水平面の端点と山の頂点を結ぶ線)と水平面がなす角度を測ることにより測定することができる。
【0076】
<炉内反応の予測装置>
本実施形態に係る炉内反応の予測装置について説明する。図14は、本実施形態に係る炉内反応の予測装置の機能を示すブロック図である。図14に示すように、炉内反応の予測装置20Bは、図3に示す炉内反応の予測装置20Aに、熱流束合算部27を備えたものである。
【0077】
燃焼ガスの移動速度は原料鉱石Pの移動速度よりも速いため、燃焼ガスは一般的に原料鉱石Pと十分に熱交換する前にキルン本体11から排出されることが多い。より多くの熱エネルギーを原料鉱石Pに与えるためには、燃焼ガスの温度を上昇させるか、風速を上げる必要がある。しかし、エネルギー源の単位が上がり運転コストの上昇を招くと共に、風速を上げることによって原料鉱石Pが飛散し、ダストとなって燃焼ガスと共に系外に排出され、投入した原料鉱石Pの供給量に対して産出される焼鉱の収率を悪化させる可能性が高い。
【0078】
炉内反応の予測装置20Bは、原料鉱石Pの熱流束の合算値を求めることで、原料鉱石Pと燃焼ガスとの熱交換を促進するようにロータリーキルン1内に設ける傾斜リフタ12Bの最適な角度を予測できる。
【0079】
熱流束合算部27は、DEMを用いて、全ての原料鉱石Pの熱流束を合算する。
【0080】
図15は、計算時間と、全ての原料鉱石Pの熱流束の総和との関係を示す図である。なお、図15中、リフタ12Aは、キルン本体11の内壁の法線に平行となるように設けてキルン本体11を回転させた場合である(図2参照)。傾斜リフタ12Bは、キルン本体11の内壁に傾きが法線に対して30°となるように設けてキルン本体11を回転させた場合である(図12参照)。図15に示すように、リフタ12Aを設けたロータリーキルン1では、熱流束が約1.8×10W/m(1.8MW/m)であるのに対して、傾斜リフタ12Bを設けたロータリーキルン1では、熱流束が約2.2×10W/m(2.2MW/m)である。よって、ロータリーキルン1は、傾斜リフタ12Bを用いた場合の方がリフタ12Aを用いた場合よりも、熱流束を約20%程度増加させることができる。
【0081】
<炉内反応の予測方法>
次に、本実施形態に係る炉内反応の予測装置を用いて、本実施形態に係る炉内反応の予測方法について説明する。本実施形態に係る炉内反応の予測方法は、図8に示す、第1の炉内反応の予測方法において、全ての原料鉱石Pの熱流束の合算を更に行うものである。
【0082】
本実施形態に係る炉内反応の予測方法は、上記の第1の実施形態に係る炉内反応の予測方法と同様、図1に示すような構成を有するロータリーキルン1において、ロータリーキルン1の装入端14A側から供給した原料鉱石Pを排出端14B側に向かって移動させながら、原料鉱石Pを排出端14B側に設けられるバーナー16から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う時の、炉内反応を予測して、更に全ての原料鉱石Pの熱流束の合算値を予測する方法である。
【0083】
図16は、本実施形態に係る炉内反応の予測方法を説明するフローチャートである。図16に示すように、炉内反応の予測装置20Bは、入力部21により、ロータリーキルン1の長さ、直径、内径等のロータリーキルン1に関する情報と、原料鉱石Pの種類、粒径等の原料鉱石Pに関する情報を入力する(入力工程:ステップS21)。
【0084】
次に、炉内反応の予測装置20Bは、移動速度計算部22により、DEMを用いて、原料鉱石Pのロータリーキルン1の供給口からの距離に対する単位時間当たりの原料鉱石Pの移動速度を計算する(移動速度計算工程:ステップS22)。
【0085】
次に、炉内反応の予測装置20Bは、熱流束計算部23により、DEMを用いて、原料鉱石Pの熱流束(ヒートフラックス)を計算する(熱流束計算工程:ステップS23)。
【0086】
次に、炉内反応の予測装置20Bは、滞留時間算出部24により、移動速度計算工程(ステップS22)で求められた原料鉱石Pの移動速度に基づいて、原料鉱石Pがロータリーキルン1の排出端14Bの出口に到達する時間を求め、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間を算出する(滞留時間算出工程:ステップS24)。
【0087】
次に、炉内反応の予測装置20Bは、熱交換効率算出部25により、熱流束計算部23で求められた原料鉱石Pの熱流束と、滞留時間算出部24により求められた、原料鉱石Pのロータリーキルン1内における滞留時間とから、原料鉱石Pに与えられる熱エネルギーを計算し、その熱エネルギーから原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率を算出する(熱交換効率算出工程:ステップS25)。
【0088】
入力工程(ステップS21)、移動速度計算工程(ステップS22)、熱流束計算工程(ステップS23)、滞留時間算出工程(ステップS24)及び熱交換効率算出工程(ステップS25)は、上記の第1の実施形態に係る炉内反応の予測方法の入力工程(ステップS11)、移動速度計算工程(ステップS12)、熱流束計算工程(ステップS13)、算出工程(ステップS14)及び熱交換効率算出工程(ステップS15)と同様であるため、詳細は省略する。
【0089】
次に、炉内反応の予測装置20Bは、熱流束合算部27により、DEMを用いて、全ての原料鉱石Pの熱流束を合算する(熱流束合算工程:ステップS26)。
【0090】
次に、炉内反応の予測装置20Bは、表示部26により、熱流束計算工程(ステップS23)で計算された熱流束、滞留時間算出工程(ステップS24)で算出された滞留時間、熱交換効率算出工程(ステップS25)で算出された熱交換効率、及び熱流束合算工程(ステップS26)で算出された全ての原料鉱石Pの熱流束の合算値を表示する(表示工程:ステップS26)。
【0091】
<炉内反応の計算装置のハードウェア構成>
次に、炉内反応の計算装置のハードウェア構成の一例について説明する。炉内反応の予測装置20Aのハードウェア構成は、上記の図8に示す、炉内反応の計算装置のハードウェア構成図と同様のハードウェア構成を有することができる。よって、炉内反応の予測装置20Bのハードウェア構成の詳細は省略する。
【0092】
本実施形態に係る予測プログラムは、上記の第1の実施形態に係る炉内反応の予測プログラムにおいて、さらに、DEMを用いて、全ての原料鉱石Pの熱流束を計算する熱流束計算工程を少なくともコンピュータに実行させるプログラムを用いることができる。
【0093】
即ち、本実施形態に係る予測プログラムは、回転式熱処理炉の一端側から供給した粒子を他端側に向かって移動させながら、前記粒子を前記他端側から供給された燃焼ガスと接触させて、乾燥させると共に還元を行う炉内反応の予測を少なくともコンピュータに実行させるプログラムであって、
離散要素法を用いて、前記粒子の供給口からの距離に対する単位時間当たりの移動速度を計算する移動速度計算工程と、
前記移動速度計算工程により求められた前記移動速度に基づいて、前記粒子が前記回転式熱処理炉の出口に到達する時間を求め、前記粒子の滞留時間を算出する滞留時間算出工程と、
前記移動速度計算工程により求められる前記粒子の熱流束と、前記粒子の滞留時間とから、前記粒子に与えられる熱エネルギーを計算し、前記熱エネルギーから前記粒子の前記燃焼ガスとの熱交換効率を算出する熱交換効率算出工程と、
離散要素法を用いて、全ての前記粒子の熱流束を合算する熱流束合算工程と、
を少なくともコンピュータに実行させるプログラムを用いることができる。
【0094】
このように、本実施形態に係る炉内反応の予測装置20Bは、上記の第1の実施形態に係る炉内反応の予測装置において、熱流束合算部27をさらに備えることで、原料鉱石Pの熱流束の合算値を算出できる。原料鉱石Pの熱流束の大きさは、ロータリーキルン1内に設ける傾斜リフタ12Bによって生じる燃焼ガスの気流の変動に影響を受け易い。炉内反応の予測装置20Bを用いれば、熱流束の合算値に基づいて、ロータリーキルン1内に設ける傾斜リフタ12Bの角度を適切に調整できるため、原料鉱石Pと燃焼ガスとの熱交換を促進させることができる。よって、炉内反応の予測装置20Bを用いれば、原料鉱石Pの燃焼ガスとの熱交換効率を高めるように、ロータリーキルン1の設計及び運転の制御を適切に行うことができるため、ロータリーキルン1をより効率的に操業させることができる。
【0095】
また、炉内反応の予測装置20Bは、キルン本体11のメンテナンス性を高めることができるように、ロータリーキルン1内に設ける傾斜リフタ12Bの最適な角度を予測できる。原料鉱石Pの処理効率を高めるため、キルン本体11内にバケット状のリフタを設置する方法が考えられる。しかし、この場合、キルン本体11の構造が複雑になるため、原料鉱石Pがキルン本体11の内壁やバケットに対して高い付着性を有する場合には、原料鉱石Pがバケットの内部に付着してロータリーキルン1から排出され難くなる等、ロータリーキルン1のメンテナンスの回数が増える可能性がある。本実施形態では、炉内反応の予測装置20Bが熱流束合算部27を備えることで、傾斜リフタ12Bを原料鉱石Pが付着し難い状態となることも考慮しながら最適な角度で設置することができる。よって、炉内反応の予測装置20Bを用いれば、原料鉱石Pの熱交換効率を向上させると共に、キルン本体11のメンテナンス性を高めることができ、ロータリーキルン1をより効率的に操業することができる。
【0096】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1 ロータリーキルン
11 キルン本体(回転ドラム)
12B 傾斜リフタ
20A、20B 炉内反応の予測装置
22 移動速度計算部
23 熱流束計算部
24 滞留時間算出部
25 熱交換効率算出部
27 熱流束合算部
P 原料鉱石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16