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特開2024-75502シリコンエッチング液、基板の処理方法およびシリコンデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075502
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】シリコンエッチング液、基板の処理方法およびシリコンデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20240527BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H01L21/308 B
H01L21/306 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195607
(22)【出願日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2022186882
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】人見 達矢
(72)【発明者】
【氏名】清家 吉貴
(72)【発明者】
【氏名】野呂 幸佑
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA09
5F043BB01
5F043DD07
5F043DD10
(57)【要約】
【課題】 各種半導体デバイスを製造する際の表面加工、特にシリコン-ゲルマニウムを含む各種シリコン複合半導体デバイスにおいて、シリコン-ゲルマニウムに対するシリコンのエッチング選択性が高く、かつ処理温度下で経時的な安定性の高いエッチング液を提供することを目的とする。
【解決手段】
カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、pKaの全てが3.5以上13以下である化合物またはその塩、有機アルカリ、及び水を含むシリコンエッチング液によって課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機アルカリ、水、および
カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、pKaの全てが3.5以上13以下である化合物またはその塩を含むことを特徴とするシリコンエッチング液。
【請求項2】
前記化合物のHLB値が22.0以上25.5以下である、請求項1に記載のシリコンエッチング液。
【請求項3】
前記化合物がアミン部位を含まない化合物である、請求項1に記載のシリコンエッチング液。
【請求項4】
前記化合物が、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、イソプロパン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソへプタン酸、イソオクタン酸、2-シクロブチル酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリデカン二酸、メチルコハク酸、テトラメチルコハク酸、安息香酸、テレフタル酸、およびグルコン酸からなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載のシリコンエッチング液。
【請求項5】
有機アルカリが、水酸化第四級アンモニウムである、請求項1に記載のシリコンエッチング液。
【請求項6】
水酸化第四級アンモニウムが、炭素数8以下の水酸化第四級アンモニウムである、請求項5に記載のシリコンエッチング液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のシリコンエッチング液を用いて、シリコン-ゲルマニウム膜を含むシリコンウェハにおいてシリコン-ゲルマニウムに対してシリコンを選択的にエッチングする、または、シリコン-ゲルマニウム膜を含む基板において、シリコン-ゲルマニウムに対して、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜およびアモルファスシリコン膜から成る群から選択される少なくとも1種を選択的にエッチングする、シリコンウェハ又は基板の処理方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のシリコンエッチング液を用いて、シリコン-ゲルマニウム膜を含むシリコンウェハにおいてシリコン-ゲルマニウムに対してシリコンを選択的にエッチングする工程、または、シリコン-ゲルマニウム膜を含む基板において、シリコン-ゲルマニウム膜に対して、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜およびアモルファスシリコン膜から成る群から選択される少なくとも1種を選択的にエッチングする工程を含む、シリコンデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンエッチング液に関する。より詳しくは、半導体デバイスの製造に際して、シリコン(Si)をエッチングして微細加工をする際等に用いられるシリコンエッチング液(以下、エッチング液とも記載)に関する。特に、シリコン-ゲルマニウムはエッチングせず、シリコンを選択的にエッチングしたい際に有用なエッチング液に関する。また、本発明は該エッチング液を用いた基板処理方法に関する。なお、基板には、半導体ウェハ、またはシリコン基板などが含まれる。また、本発明は該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、シリコンエッチングが種々の工程に用いられている。シリコンエッチングは近年、Fin-FET(Fin Field-Effect Transistor)やGAA(Gate all around)と呼ばれる構造の作製に適用されており、メモリセルの積層化やロジックデバイスの3次元化には欠かせないものとなっている。ここで用いられるシリコンエッチング技術はデバイスの緻密化により、エッチング後のウェハ表面の平滑性、エッチング精度、他材料とのエッチング選択性等への要求が厳しくなっている。また、その他にシリコンウェハの薄膜化等のプロセスにも応用されている。このような各種半導体デバイスには用途に応じて高集積化、微細化、高感度化、高機能化が要求されており、これら要求を満足するために、半導体デバイスの製造において微細加工技術としてのシリコンエッチングが重要視されている。
【0003】
他方、シリコンエッチング液としては様々なものが提案され、また実際に使用されている。これらのうちでアルカリ性水溶液からなるものは、結晶性のシリコンに対してエッチングの結晶面異方性を示すことが広く知られている。
【0004】
このようなアルカリ性水溶液からなるシリコンエッチング液においては、アルカリ性化合物と水に加えて、各種特性を向上させ、あるいは新たな特性を発現させるために、種々の添加剤が加えられたものが提案されている。そのような添加剤の一つとして還元糖がある(例えば特許文献1参照)。これら技術においては、還元糖はシリコンのエッチング速度を向上させ、またアルミニウムやアルミニウム合金のエッチングを防ぐ防食剤として用いられている。還元糖は水溶液中では一部がアルデヒド構造を呈し、このアルデヒドが還元性を示すため溶存酸素の影響を抑制して、上記効果を発現するといわれている。
【0005】
また、特許文献2には、シリコンが溶解する際に発生する水素を捕捉する目的で、アルデヒドをアルカリ性のシリコンエッチング液に添加することも提案されている。特許文献3には、第4級アンモニウム塩、カルボン酸、過酸化水素、水および研磨材を含む研磨用組成物が開示されている。特許文献4には、第4級アンモニウム化合物、カルボン酸、過酸化水素および界面活性剤を含む半導体洗浄用組成物が開示されている。特許文献5には、砥粒、無機塩、酸基を有する研磨促進剤、およびpH調整剤としての酸もしくはアルカリを含む研磨用組成物が開示されている。
【0006】
他方、近年ではシリコン-ゲルマニウムを利用した各種シリコン複合半導体デバイス作製法も増加しており、前述のGAA構造によるナノワイヤの製造において利用されることがある。例えば、特定の基板をベースとしてシリコン層とシリコン-ゲルマニウム層をエピタキシャル成長により交互に積層した後、シリコン層だけを犠牲層としてエッチングを行うことで、シリコン-ゲルマニウム層をチャネル層として残すことができる。このとき、シリコン-ゲルマニウムやシリコン酸化膜、シリコン窒化膜を溶解させずにシリコンのみを均一に除去できるエッチングが重要視される。
【0007】
さらに、メモリ用途では3D NAND構造のようなメモリセルの多層化が進んでおり、このような構造の形成過程においてもシリコンのエッチングが利用されることもある。例えば、ポリシリコンとシリコン酸化膜を交互に積層し、層を貫通する孔を形成した後に、孔の側壁に露出したポリシリコンを均一にエッチングし溝を形成する。このときもまた、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜を溶解させずにシリコンのみを均一に除去できるエッチングが重要視される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-054363号公報
【特許文献2】特開平10-46369号公報
【特許文献3】特開2002-231666号公報
【特許文献4】特開2014-103349号公報
【特許文献5】特開2021-150515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、アルカリ性水溶液からなるシリコンエッチング液に還元糖を加えることは利点が多い。ところが本発明者らが検討したところ、還元糖を添加したアルカリ性シリコンエッチング液は保存中に急速にpHが低下して行き、そのためシリコンのエッチング速度も低下してしまうことが明らかになった。通常、シリコンエッチング液は処理温度下で繰り返し使用することが想定される。そのため、経時的にエッチング速度が変化してしまうと、厳密なエッチング深さ(厚み)を要求される半導体製造等の用途においては、多大な問題となる。また、特許文献3~5に記載の研磨用組成物あるいは洗浄用組成物は、シリコンエッチングに適用することは何ら意図されていない。
【0010】
そこで、本発明は、各種半導体デバイスを製造する際の表面加工、特にシリコン-ゲルマニウムを含む各種シリコン複合半導体デバイスにおいて、シリコン-ゲルマニウムに対するシリコンのエッチング選択性が高く、かつ処理温度下で経時的な安定性の高いエッチング液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行い、アルカリ条件下での還元糖の分解によりpHの低下が引き起こされるとともに、分解生成物がシリコン-ゲルマニウムのエッチングの抑制に寄与しているとの仮説を立てた。分解生成物に着目して検討を進めた結果、カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、すべての酸解離定数(以下、pKaと記載)が3.5以上13以下である化合物またはその塩が、シリコン-ゲルマニウムのエッチング抑制に寄与することが分かり、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の要旨を含む。
(1)有機アルカリ、水、および
カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、pKaの全てが3.5以上13以下である化合物またはその塩を含むことを特徴とするシリコンエッチング液。
(2)前記化合物のHLB値が22.0以上25.5以下である、(1)に記載のシリコンエッチング液。
(3)前記化合物がアミン部位を含まない化合物である、(1)に記載のシリコンエッチング液。
(4)前記化合物が、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、イソプロパン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソへプタン酸、イソオクタン酸、2-シクロブチル酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリデカン二酸、メチルコハク酸、テトラメチルコハク酸、安息香酸、テレフタル酸およびグルコン酸からなる群から選択される1種以上の化合物である、(1)に記載のシリコンエッチング液。
(5)有機アルカリが、水酸化第四級アンモニウムである、(1)に記載のシリコンエッチング液。
(6)水酸化第四級アンモニウムが、炭素数8以下の水酸化第四級アンモニウムである、(5)に記載のシリコンエッチング液。
(7)(1)~(6)のいずれか一項に記載のシリコンエッチング液を用いて、シリコン-ゲルマニウム膜を含むシリコンウェハにおいてシリコン-ゲルマニウムに対してシリコンを選択的にエッチングする、または、シリコン-ゲルマニウム膜を含む基板において、シリコン-ゲルマニウムに対して、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜およびアモルファスシリコン膜から成る群から選択される少なくとも1種を選択的にエッチングする、シリコンウェハ又は基板の処理方法。
(8)(1)~(6)のいずれか一項に記載のシリコンエッチング液を用いて、シリコン-ゲルマニウム膜を含むシリコンウェハにおいてシリコン-ゲルマニウムに対してシリコンを選択的にエッチングする工程、または、シリコン-ゲルマニウム膜を含む基板において、シリコン-ゲルマニウム膜に対して、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜およびアモルファスシリコン膜から成る群から選択される少なくとも1種を選択的にエッチングする工程を含む、シリコンデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエッチング液を用いることで、シリコン-ゲルマニウムに対するシリコンのエッチング選択性が高い処理ができる。また、還元糖等のアルデヒド化合物を添加したアルカリ性水溶液からなるエッチング液に比べて、本発明のエッチング液は連続使用時の経時的な安定性が良好である。従って、本発明のエッチング液を用いれば、高い生産性をもって半導体デバイス等の製造を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0015】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0016】
1.エッチング液
本発明のシリコンエッチング液(以下、「本発明のエッチング液」と記す)は、半導体チップの製造等に際してシリコン(結晶性シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン)のエッチングに用いるものである。シリコンのエッチングは酸条件で行うものと、アルカリ条件で行うものがあるが、本発明のエッチング液はアルカリ性水溶液であり、アルカリ条件でエッチングするためのものである。
【0017】
上記半導体チップの製造においては、エッチング液などの処理液が金属を含んでいると、それが被処理体(エッチング対象のシリコン面に限らない)に悪影響を与える場合が多い。
【0018】
そのため本発明のエッチング液は、金属を含んでいないことが必要である。より具体的には、少なくとも不純物レベルを超える濃度で含んでいないことは必須である。好ましくは、Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、Znの含有量がいずれも1ppmw以下であり、さらに好ましくは上記各金属の含有量がいずれも1ppbw以下である。なおここに列記した各金属は、半導体製造に用いる薬液において、品質に影響を与えると目されている金属である。
【0019】
さらに、上記金属の中で鉄、銅、マンガン、クロム、亜鉛から選択されるいずれか一つの金属が重量基準で0.01ppt以上1ppb以下であることが好ましく、0.01ppt以上0.5ppb以下であることがより好ましく、0.01ppt以上0.2ppb以下であることがさらに好ましく、0.01ppt以上0.1ppb以下であることが最も好ましい。本発明のエッチング液には金属としてイオン性メタルが含まれてもよく、非イオン性メタル(粒子性メタル)が含まれていてもよい。また、イオン性メタルと非イオン性メタルとの合計濃度は、上記の範囲である事が好ましい。
【0020】
本発明のエッチング液におけるアルカリ源は、有機アルカリである。
【0021】
当該有機アルカリとしては、水酸化オニウム等が挙げられる。水酸化オニウムとしては、水酸化第四級アンモニウム、各種アミン類等が挙げられる。このような有機アルカリは、各々の持つ公知の特徴に従い、シリコンエッチングの対象や目的に合わせて選択して用いればよい。中でも、水酸化第四級アンモニウム類及び第三級アミン類は、シリコンエッチング液の経時的な安定性がいっそう良好であるためより好ましく、特に水酸化第四級アンモニウム類はシリコンエッチング液の経時的な安定性が顕著であるため特に好ましい。
【0022】
当該水酸化第四級アンモニウムを具体的に例示すると、水酸化テトラメチルアンモニウムイオン、水酸化エチルトリメチルアンモニウム、水酸化プロピルトリメチルアンモニウム、水酸化ブチルトリメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム、水酸化ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、または水酸化メチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化フェニルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0023】
カチオンサイズが小さいほど、アルカリが拡散しやすくなること、或いは疎水性が低くシリコン表面への吸着によるエッチングの抑制がされにくいことから、エッチング速度が上がる傾向にあり、生産性の観点で、上記のなかでも総炭素数が8以下の有機アルカリ、特に水酸化第四級アンモニウムが好ましく、さらには総炭素数が7以下の有機アルカリ、特に水酸化第四級アンモニウムがより好ましく、中でも水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化エチルトリメチルアンモニウム、水酸化ブチルトリメチルアンモニウム、又は水酸化プロピルトリメチルアンモニウムが特に好ましい。
【0024】
また各種アミン類としては、第一級アミン類、第二級アミン類あるいは第三級アミン類が使用できるが、前記の通り第三級アミン類の方がエッチング液の劣化が生じにくいため好ましい。
【0025】
第一級アミンあるいは第二級アミンとしては例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、N,N,N-トリメチルジエチレントリアミン、N,N-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、4-アミノ-1-ブタノール、5-アミノ-1-ペンタノール、6-アミノ-1-ヘキサノール、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、アゼチジン、ピロリジン、ピぺリジン、ヘキサメチレンイミン、ペンタメチレンイミン、及びオクタメチレンイミンからなる群から選択される一種以上を用いることができる。
【0026】
また、第三級アミン類としては、具体的には、2-(ジメチルアミノ)エタノール、3-(ジメチルアミノ)-1-プロパノール、4-ジメチルアミノ-1-ブタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、トリエチルアミン、メチルピロリジン、メチルピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エンからなる群から選択される一種以上が挙げられる。より好適なものとして、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、4-アミノ-1-ブタノール、5-アミノ-1-ペンタノール、6-アミノ-1-ヘキサノール、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン、ピロリジン、ピぺリジン、ヘキサメチレンイミン、及びペンタメチレンイミンからなる群から選択される一種以上を挙げることができる。さらに好適なものとして、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、ピロリジン、及びピぺリジンからなる群から選択される一種以上を挙げることができる。
【0027】
本発明のエッチング液において、アルカリ源として用いる有機アルカリは、1種類を単独で使用してもよく、種類の異なるものを複数混合して使用してもよい。
【0028】
本発明のエッチング液には、上記有機アルカリに加え、アンモニアを含んでいてもよい。ただし、アンモニアをアルカリ源として用いた場合は遊離のアンモニアの形態で系外に揮発してしまう恐れなどがあるため、当該アルカリ源は有機アルカリのみであることが特に好ましい。
【0029】
シリコン及びシリコン-ゲルマニウムのエッチングは、いずれもアルカリ濃度が高い(そのためアルカリ性が高い)ほどエッチング速度が速くなる傾向にあるため、シリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性は、シリコンのエッチングが進行する範囲であればpHへの依存性は小さい。そのため、本発明のエッチング液のpHは、所望のシリコンエッチング速度或いはシリコン-ゲルマニウムエッチング速度となるように適宜調整すればよい。すなわち生産性を重視して高いエッチング速度でエッチングを行いたい場合にはエッチング液のpHが高くなるように調製すれば良いし、生産性よりもハンドリングを重視し微細加工等を行うために低いエッチング速度でエッチングを行いたい場合にはエッチング液のpHが低くなるように調整すればよい。生産性の観点から、本発明のエッチング液はpHが10.0以上、より好ましくはpHが11.0以上、特に好ましくはpH12.0以上である。他方、アルカリ性が強いほど漏洩などを生じた際の危険性が高く、また液性をアルカリ性とするために配合する成分は有害性が高い傾向にあり、さらには比較的高価でもある。このような観点から、pHは14.0以下であってよく、pH13.7以下でもよい。なおこのpHは、ガラス電極法により25℃で測定した値を指す。
【0030】
本発明のエッチング液の最大の特徴は、該溶液中に、カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、pKaの全てが3.5以上13以下である化合物またはその塩を含む点にある。カルボキシ基は-COOHであり、カルボキシ基を有する化合物はR-COOH、その塩はR-COOX(Xは、例えばアンモニウム、またはテトラメチルアンモニウム等)で表される。かかる化合物及びその塩はアルカリ溶液中では解離してR-COO-として存在していることが通常であるが、R-COO-の共役酸のpKaと溶液のpHにより決まる存在比率で、遊離状態(非解離状態)のR-COOHとしても存在する。以下では、「カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、pKaの全てが3.5以上13以下である化合物またはその塩」を単に「カルボキシ基含有化合物」と記載することがある。なお、カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、pKaの全てが3.5以上13以下である化合物またはその塩が解離した状態であるカルボキシラートアニオン(R-COO-)の共役酸のpKaは、カルボキシ基を少なくとも1つ有し、且つ、pKaの全てが3.5以上13以下である化合物のpKaと同義である。以下では、「カルボキシ基含有化合物が塩である場合の、前記塩が解離したカルボキシラートアニオンの共役酸のpKa」を単に「カルボキシ基含有化合物のpKa」と記載することがある。また、「pKaの全て」とは、カルボキシ基含有化合物のpKaが一つ(第一解離のみ)である場合も、「pKaの全て」と本発明では記載する。前記カルボキシ基含有化合物を含有することにより、含有しない場合に比べてシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度が、シリコンのエッチング速度に対して大きく低下し、シリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性が向上する。
【0031】
エッチング液に含まれるカルボキシ基含有化合物のpKaが13を超える場合、アルカリ性水溶液であるエッチング液中において溶解性が低くなる場合があるため、カルボキシ基含有化合物のpKaは、好ましくは3.5以上13以下、より好ましくは3.5以上11以下、さらに好ましくは3.5以上10以下、特に好ましくは3.5以上8以下である。
【0032】
一方で、カルボキシ基含有化合物のpKaのいずれかが3.5未満である場合、すなわち第二解離や第三解離のpKaが3.5以上13以下であっても、第一解離pKaが3.5未満である場合、シリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性の向上効果が減少してしまう。
【0033】
このようになる理由は詳らかではないが、以下のように推察している。すなわち、一般にアルカリ溶液中においてシリコン表面の表面電荷はマイナスにチャージしていることが知られており、シリコン-ゲルマニウム表面も同様であると考えられる。このため、アルカリ溶液中では、アニオンは静電反発によりシリコン-ゲルマニウム表面に近づきにくいものと考えられる。カルボキシ基含有化合物のpKaが3.5以上の場合、わずかに存在する非解離状態のカルボキシ基がシリコン-ゲルマニウム表面の水酸基へ吸着することにより、シリコン-ゲルマニウムのエッチングの抑制に寄与しているものと推察している。一方で、カルボキシ基含有化合物が、ひとつのカルボキシ基に加えて他の酸性基(カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、またはホスホン酸基)をさらに有し、且つ前記他の酸性基の解離による化合物のpKaが3.5未満である場合、ひとつのカルボキシ基が非解離状態であっても他の酸性基(カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、またはホスホン酸基)が解離状態(アニオン)である確率が極めて高くなる。このため、結果、静電反発によりシリコン-ゲルマニウム表面に近づきにくく、シリコン-ゲルマニウムのエッチングの抑制効果が小さくなるものと推察している。なお、他の酸性基としてカルボキシ基を有するカルボキシ基含有化合物とは、複数のカルボキシ基を有する化合物を意味する。カルボキシ基含有化合物のHLB値、すなわちシリコン-ゲルマニウム表面への吸着性の点で、カルボキシ基含有化合物が有するカルボキシ基の数は2以下であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0034】
本発明のエッチング液におけるカルボキシ基含有化合物の含有量は、好ましくは0.005mol/L以上1.5mol/L以下、さらに好ましくは0.05mol/L以上1.0mol/L以下である。なお前記化合物の濃度は、イオンクロマトグラフィーにより把握できる。
【0035】
カルボキシ基含有化合物としては、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、イソプロパン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソへプタン酸、イソオクタン酸、2-シクロブチル酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリデカン二酸、メチルコハク酸、テトラメチルコハク酸、安息香酸、テレフタル酸、グルコン酸およびこれらの塩等が挙げられる。
【0036】
これらの中でもHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance、以下HLBと記載)値が22.0~25.5である、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソへプタン酸、イソオクタン酸、イソノナン酸、2-シクロブチル酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸であることがより好ましく、芳香環を含まない、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソへプタン酸、イソオクタン酸、2-シクロブチル酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸およびこれらの塩であることが、シリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性を十分高めることができるためより好ましく、HLB値が23.0~25.0であるブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソへプタン酸、2-シクロブチル酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸およびこれらの塩がさらに好ましい。取り扱いやすさや入手の容易さ等の点でブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸およびこれらの塩が特に好ましい。
【0037】
尚、上記HLB値は、化合物の親水性と疎水性のバランスを示す値であり、後述するDavies法により算出した値を指す。前記HLB値は値が大きいほど化合物の親水性が高く、小さいほど疎水性が高いこと意味する。化合物のHLB値が低い場合、すなわち疎水性が高い場合、化合物の疎水部とシリコン表面との疎水性相互作用による化合物の吸着の影響が、カルボキシ基含有化合物のカルボキシ基のシリコン-ゲルマニウムへの吸着による影響よりも大きくなり、シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度だけでなくシリコンのエッチング速度も大きく低下する。一方、カルボキシ基含有化合物のHLB値が高い場合、すなわち親水性が高い場合、カルボキシ基含有化合物の液中での安定性が高くなるため、シリコン表面ばかりでなくシリコン-ゲルマニウム表面へのカルボキシ基含有化合物の吸着量も減少し、或いは吸着した状態での安定性が低くなり、シリコン-ゲルマニウムのエッチングを抑制する効果が低くなる。カルボキシ基含有化合物のHLB値が特定の範囲であることで、疎水部のシリコン表面への疎水性相互作用による吸着を抑えてシリコンのエッチング速度は維持しつつ、カルボキシ基の吸着によりシリコン-ゲルマニウムのエッチングを抑制できるため、シリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性を高めることができる。尚、上記カルボキシ基含有化合物がさらにアミン部位を有する場合、アミン部位による酸性基のpKaの減少効果により該酸性基のpKaが小さくなる傾向があるため、上述の理由により、カルボキシ基含有化合物がシリコン-ゲルマニウム表面へ吸着しにくくなる。このため、上記カルボキシ基含有化合物はアミン部位を含まないことが好ましい。
【0038】
本発明のエッチング液において、カルボキシ基含有化合物はイオンの形態で存在してもよい。すなわち、前記化合物としては、該化合物のカルボキシ基が非解離のカルボキシ基の形態であるものと、カルボキシラートアニオンの形態であるものの両方を含む。カルボキシラートアニオンの形態で存在する場合、カウンターカチオン(前記X+)としては非金属カチオンであることが好ましい。具体的には各種アンモニウムカチオンがより好ましく、なかでも第四級アンモニウムカチオンが特に好ましい。より具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウムカチオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、プロピルトリメチルアンモニウムカチオン、ブチルトリメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、フェニルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン等を使用することができる。
【0039】
本発明のエッチング液において、カルボキシ基含有化合物は、1種類を単独で含有してもよく、種類の異なるものを複数含有してもよい。
【0040】
本発明のエッチング液はアルカリ性の水溶液であり、エッチング液の組成の残部として水が必須成分である。水がないとエッチングが進まない。他の成分の種類や量にもよるが、一般的には、水の割合は30質量%以上100質量%未満が好ましく、50質量%以上100質量%未満であることがより好ましく、60質量%以上100質量%未満がさらに好ましく、75質量%以上100質量%未満が特に好ましい。また他の成分を必要量含有できる限り上限は特に定められないが、通常は99.5質量%以下でよく、99質量%以下であれば十分である。
【0041】
本発明のシリコンエッチング液には、アルカリ性水溶液からなるシリコンエッチング液に含まれる公知の成分がさらに含有されていてもよい。この場合、シリコンのエッチング速度を低下させるような成分或いはシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度を低下させるような成分であってもよい。これら他の成分を配合する場合であっても、本発明では上記のとおりカルボキシ基含有化合物を含有させることでシリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性を向上させることができる。よって当該その他の成分の配合によるシリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性の低下の影響を低減できる。ただし、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムを酸化し得る酸化性化合物は、シリコンのエッチング速度を低下させる効果とシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度を上昇させる効果両方の効果をもつためシリコン-ゲルマニウムのエッチングに対するシリコンのエッチングの選択性の低下への影響が大きく、カルボキシ基含有化合物を含有したとしても、前記選択性の低下の影響を低減しきれない場合がある。したがって、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムを酸化し得る酸化性化合物は含まれていない方がよい。
【0042】
含有されていてもよい成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコール等のグリコール類や、グリセリン等の複数の水酸基をもつ化合物、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールn-ブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエステル類、並びに、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテル等の複数のエーテル結合をもつエーテル類からなる群から選択される一種以上の水溶性ないしは水混和性有機溶媒、テトラメチルアンモニウムクロライド、エチルトリメチルアンモニウムアイオダイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、及びデシルトリメチルアンモニウムブロミドからなる群から選択される一種以上の第四級アンモニウムのハロゲン塩や第四級アンモニウムのBF4塩、ヒドロキノン、カテコール、t-ブチルカテコール、ピロガロール、没食子酸エステル、p-エトキシフェノール、及びo-メトキシフェノール等のフェノール系化合物等の腐食防止剤;各種界面活性剤;糖類等が挙げられる。
【0043】
他方、半導体チップの製造においてシリコンをエッチングする際には、二酸化ケイ素部分(面)や窒化ケイ素部分(面)はエッチング非対象物である場合が多い。従って、本発明のエッチング液には、アルカリ性条件下で二酸化ケイ素(SiO2)や窒化ケイ素(SiN)のエッチングを促進するような成分は含まれていないことが好ましい。このような成分の代表的なものとしてはフッ化物イオンがある。尚、塩化物イオンや臭化物イオン等の他のハロゲンイオンは含まれていてもよい。
【0044】
本発明のシリコンエッチング液は、配合される全ての成分が溶解している均一溶液であることが好ましい。さらに、エッチング時の汚染を防ぐという意味で200nm以上のパーティクルが100個/mL以下であることが好ましく、50個/mL以下であることがより好ましい。また、本発明のシリコンエッチング液は、当該シリコンエッチング液の製造上の都合などにより、水素及び酸素等の気体が含まれていてもよい。
【0045】
2.エッチング液の製造方法
本発明のエッチング液の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、有機アルカリ化合物と、カルボキシ基含有化合物またはその塩を所定の濃度となるように水と混合、均一になるように溶解させればよい。
【0046】
前記の通り本発明のエッチング液は、金属を、不純物レベルを超える濃度では含まないものであるから、アルカリ化合物としてNaOHやKOHなどの金属水酸化物を使うことは好ましくない。
【0047】
従って、本発明のエッチング液をアルカリ性とするために含まれるアルカリ化合物は有機アルカリであって、シリコンエッチング液の経時的な安定性の点で、水酸化第四級アンモニウム類が好ましい。なお、アンモニアは、上記のとおり追加成分として用いることもできるが、使用しないことが好ましい。
【0048】
有機アルカリは、金属不純物や不溶性の不純物が可能な限り少ないものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、濾過処理等により精製して使用できる。有機アルカリとして水酸化第4級アンモニウムを採用する場合、その種類によっては半導体製造用として極めて高純度なものが製造・販売されており、そのようなものを用いることが好ましい。なお半導体製造用の高純度水酸化第四級アンモニウムは水溶液などの溶液として販売されているのが一般的である。本発明のシリコンエッチング液の製造にあたっては、この溶液をそのまま水や他の配合成分と混合すればよい。
【0049】
なおエッチング液のpHを10.0以上にするのに必要な有機アルカリの量は、有機アルカリの種類や配合量、他の成分の種類や配合量にもよるが、概ね0.1mmol/L以上である。多い方が、アルカリ性が高くなり(つまりシリコンのエッチング速度が速くなり)、生産性を重視する場合には1mmol/L以上配合することが好ましく、10mmol/L以上がより好ましい。また配合量は1200mmol/L以下でよく、1000mmol/L以下でもよく、多くは800mmol/L以下でも十分な性能を得ることができる。
【0050】
カルボキシ基含有化合物が塩の場合、非金属塩が好ましい。具体的には各種アンモニウム塩がより好ましく、なかでも第四級アンモニウム塩が特に好ましい。より具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウム塩、エチルトリメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩等を使用することができる。
【0051】
水もまた不純物が少ない高純度のものを使用することが好ましい。不純物の多寡は電気抵抗率で評価でき、具体的には、電気抵抗率が0.1MΩ・cm以上であることが好ましく、15MΩ・cm以上の水がさらに好ましく、18MΩ・cm以上が特に好ましい。このような不純物の少ない水は、半導体製造用の超純水として容易に製造・入手できる。さらに超純水であれば、電気抵抗率に影響を与えない(寄与が少ない)不純物も著しく少なく、適性が高い。
【0052】
また前記したように、必要に応じて半導体製造用薬液の成分と知られている各種化合物を配合してもよいが、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムを酸化し得る酸化性化合物は、配合しない方が好ましい。
【0053】
また本発明のエッチング液には、テトラメチルアンモニウムクロライド、エチルトリメチルアンモニウムアイオダイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド等の第4級アンモニウムのハロゲン塩を配合してもよい。
【0054】
なお前記したように、本発明のエッチング液はフッ化物イオンを含まないことが好ましく、そのため半導体製造用薬液の成分と知られている化合物であっても、フッ化アンモニウム、テトラメチルアンモニウム・フルオリド等のフッ化物は配合しないことが好ましい。PF6塩、BF4塩等も同じである。
【0055】
本発明のエッチング液の製造においては、各成分を混合溶解させたのち、数nm~数十nmのフィルターを通し、パーティクルを除去することも好ましい。必要に応じ、フィルター通過処理は複数回行ってもよい。
【0056】
さらに高純度窒素ガス等の不活性ガスでのバブリングにより溶存酸素を減らすなど、その他、半導体製造用薬液の製造において、必要な物性を得るために行われる公知の種々の処理を施すことができる。
【0057】
混合と溶解(及び保存)にあたっては、半導体製造用薬液の内壁として公知である材料、具体的にはポリフルオロエチレンや高純度ポリプロピレンなど、エッチング液中に汚染物質が溶出し難い材料で形成ないしはコーティングなどされた容器や装置を用いることが好ましい。これら容器や装置は、予め洗浄しておくことも好適である。
【0058】
3.半導体デバイスの製造方法
本発明の半導体デバイスの製造方法は、上記シリコンエッチング液を、シリコンと接触させる工程を有する。
【0059】
本発明のエッチング液は、単結晶シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜及びアモルファスシリコン膜からなる群から選択される一種以上をエッチングする工程を含むシリコンデバイス等の半導体デバイスの製造におけるエッチング液として用いることが好適である。なお、シリコン単結晶膜は、エピタキシャル成長によって作られたものを含む。
【0060】
本発明の半導体デバイスの製造方法は、本発明のシリコンエッチング液を、シリコン基板と接触させる工程を有する以外は、半導体デバイスの製造方法として公知の方法を用いることができる。例えば、ウェハ作製工程、酸化膜形成工程、トランジスタ形成工程、配線形成工程、及びCMP工程から選択される1つ以上の工程等、半導体の製造方法に用いられる公知の工程を含んでもよい。また、本発明のシリコンエッチング液を、シリコン-ゲルマニウムと接触させる工程を含むことが好ましい。
【0061】
本発明のシリコンエッチング液をシリコン基板と接触させる方法は、シリコンエッチング液とシリコン基板が接触する限り特に限定されず、シリコン基板を水平姿勢に保持する基板保持工程と、当該基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面に本発明のエッチング液を供給する処理液供給工程とを含む方法や、複数の基板を直立姿勢で保持する基板保持工程と、処理槽に貯留された本発明のエッチング液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程とを含む方法等が挙げられる。
【0062】
本発明のシリコンエッチング液をシリコン-ゲルマニウムと接触させる工程を含む場合、本発明のシリコンエッチング液をシリコンと接触させる工程と、本発明のシリコンエッチング液をシリコン-ゲルマニウムと接触させる工程は、別々の工程であってもよいが、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムを含む対象に、同一工程で接触させることが、製造効率上の観点から好ましい。同一工程で接触させるとは、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムを含む対象に対して、シリコンエッチング液を同時に接触させるということである。例えば、酸化膜及び/又は窒化膜を絶縁膜として使用し、さらにシリコン膜及びシリコン-ゲルマニウム膜を交互に積層させた構造を設けたデバイス構造に対してシリコンエッチング液を接触させることで、該デバイス構造からシリコンのみを選択的に除去することができる。また、絶縁膜である酸化膜及び/又は窒化膜を残したまま、シリコン-ゲルマニウムを使用したGAA用のナノワイヤパターン構造や、3D NAND等のメモリ積層構造を作製することができる。
【0063】
4.シリコンウェハ又はシリコン膜を有する基板の処理方法
本発明に係るシリコンウェハ又はシリコン膜を有する基板の処理方法は、シリコンウェハ表面に対して、本発明のシリコンエッチング液を接触させるシリコンウェハの処理方法、又は、シリコン膜を有する基板の表面に対して、本発明のシリコンエッチング液を接触させるシリコン膜を有する基板の処理方法である。ここで、シリコン膜は、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜およびアモルファスシリコン膜から成る群から選択される少なくとも1種である。
【0064】
シリコンウェハ表面に対して、本発明のシリコンエッチング液を接触させるシリコンウェハの処理方法としては、シリコンウェハ、特にシリコン-ゲルマニウムを含む各種シリコン複合半導体デバイスをエッチングする際に、本発明のシリコンエッチング液を供給して、シリコン単結晶膜をエッチングする工程を含む方法が挙げられる。
【0065】
シリコン膜を有する基板の表面に対して、本発明のシリコンエッチング液を接触させるシリコン膜を有する基板の処理方法としては、シリコン膜を有する基板を水平姿勢に保持する基板保持工程と、当該基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面に本発明のエッチング液を供給する処理液供給工程とを含む方法が挙げられる。
【0066】
シリコン膜を有する基板の他の処理方法は、複数の基板を直立姿勢で保持する基板保持工程と、処理槽に貯留された本発明のエッチング液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程とを含む方法が挙げられる。
【0067】
5.エッチング処理
本発明のシリコンエッチング液は、シリコンウェハ、特にシリコン-ゲルマニウムを含む各種シリコン複合半導体デバイスをエッチングする際に、エッチング液を供給して、シリコン単結晶膜をエッチングする工程を含む半導体デバイスの製造に好適に用いることができる。
【0068】
本発明のシリコンエッチング液を用いたエッチングの際のシリコンエッチング液の温度は、所望のエッチング速度、エッチング後のシリコンの形状や表面状態、生産性等を考慮して20~95℃の範囲から適宜決定すればよいが、35~90℃の範囲とするのが好適である。
【0069】
本発明のシリコンエッチング液を用いたエッチングの際には、真空下又は減圧下での脱気又は不活性ガスによるバブリングを行いながらエッチングを行うことが好ましい。このような操作によりエッチング中の溶存酸素の上昇を抑え、あるいは低減できる。
【0070】
本発明のシリコンエッチング液を用いたエッチングに際しては、被エッチング物をエッチング液に浸漬する等して接触させるだけでも良いが、被エッチング物に一定の電位を印加する電気化学エッチング法を採用することもできる。
【0071】
本発明のエッチング処理の対象物としては、対象物中にエッチング処理の対象ではない非対象物であって残す必要があるシリコン-ゲルマニウム膜を含んだシリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコンが挙げられる。シリコン-ゲルマニウム膜のほかに、非対象物としてシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、各種金属膜等も含まれていてもよい。例えば、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムを交互に積層したものや、シリコン単結晶上にシリコン-ゲルマニウム膜やシリコン酸化膜、シリコン窒化膜や、さらにはその上にシリコン、又はポリシリコン及びシリコン-ゲルマニウムを成膜したもの、これらの膜を使ってパターン形成された構造体等が挙げられる。
【実施例0072】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例、比較例での実験方法/評価方法は以下の通りである。
【0074】
(エッチング液の調製方法)
有機アルカリ化合物として、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液(2.73mol/L)または水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)水溶液(1.54mol/L)を超純水で希釈して薬液が均一になるように混合した後、各種添加剤を入れて、表1に示す各実施例及び比較例に係る各エッチング液の組成となるように調製し、エッチング処理時の温度で所定の時間加熱した。この際、液中の溶存酸素を除去するため、最後の30分間は0.2L/min.の供給速度での窒素バブリングを行った。
【0075】
(エッチング液のpHの測定方法)
堀場製作所製卓上pHメータF-73、及び堀場製作所製強アルカリ試料用pH電極9632-10Dを用いて25℃の温度条件下で測定した。
【0076】
(カルボキシ基含有化合物のpKa)
下記の一般的な文献値を参照した。なお、それぞれ、pKa1は第一解離、pKa2は第二解離、pKa3は第三解離の酸解離定数を示す。
【0077】
参照文献1:Everett et al.[Proceedings of the Royal Society of London,Series A:Mathematical,Physical and Engineering Sciences,1952,vol.215,p.403,409]
参照文献2:Edwards,H.G.M.;Smith,D.N.[Journal of Molecular Structure,1990, vol.238,#1,p.27-41]
参照文献3:Sari,Hayati;Covington,Arthur K.[Journal of Chemical and Engineering Data,2005,vol.50,#5,p.1620-1623]
参照文献4:EP2708533A1
【0078】
(カルボキシ基含有化合物のHLB値)
下記式1により算出した(Davies法)。なお、用いた親水基の基数は、カルボキシ基のNa塩(-COO-Na+)が19.1、用いた疎水基の基数は、メチレン基(-CH2-)、メチル基(-CH3)、メチン基(=CH-)、が-0.475である。本例のエッチング液はアルカリ性であり、ほとんどすべてのカルボキシ基はイオン化していると考えられるため、Na塩としての値を代用した。

HLB値=7+親水基の基数の合算値+親油基の基数の合算値 (1)
【0079】
(シリコンエッチング速度、及びSiとSiGeとのエッチング選択比)
所定の液温に加熱したシリコンエッチング液100mLを用意し、そこへ2cm×1cmサイズのシリコン-ゲルマニウム(SiGe)基板上にシリコン(Si)をエピタキシャル成長させて得た基板(シリコン(100面)膜、グローバルネット株式会社製)を15秒浸漬した。エッチング中は1200rpmで液を攪拌するとともに、0.2L/minでの窒素バブリングを継続して行った。エッチング速度(R´100)は、各基板のエッチング前とエッチング後の膜厚を分光エリプソメーターで測定し、処理前後の膜厚差からシリコン膜のエッチング量を求め、エッチング時間で除することによりその温度でのシリコン(100面)膜のエッチング速度を求めた。
【0080】
同様にして、2cm×1cmサイズのシリコン基板上にシリコン-ゲルマニウムをエピタキシャル成長させた基板(シリコン-ゲルマニウム膜、グローバルネット株式会社製)を10分間浸漬することで、その温度でのエッチング速度(RSiGe)を算出した。
【0081】
これらの測定結果から、シリコン(100面)膜とシリコン-ゲルマニウム膜とのエッチング選択比(R´100/RSiGe)を求めた。
【0082】
なお用いた分光エリプソメーターでの膜厚変化の測定下限は0.01nmである。従って、上記方法で把握できるシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング速度は、0.001nm/minが下限値となる。
【0083】
<参考例>
0.26mol/LのTMAH水溶液を用いて、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度を評価した。結果を表1に示す。
【0084】
<実施例1>
TMAH濃度0.26mol/L、ヘキサン酸濃度0.09mol/Lの水溶液を用いて、該水溶液調製時の加熱時間が1時間の場合と24時間の場合のそれぞれの条件におけるシリコン及びシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度を評価した。なお、ヘキサン酸のpKaは4.84(参照文献1))であり、HLB値は23.7である。結果を表1に示す。この実験例では、シリコン(100面)膜とシリコン-ゲルマニウム膜とのエッチング選択比(R´100/RSiGe)が加熱時間1時間の場合で705、加熱時間が24時間の場合で911と、いずれの条件においても極めて優れていた。また、加熱時間1時間での該水溶液のpHが13.26、加熱時間24時間での該水溶液のpHが13.23であり、ほとんど変化していなかった。
【0085】
<実施例2~3>
ヘキサン酸に替え表1に示す各種添加剤を含むエッチング液を調製し、加熱時間1時間の条件で評価を行った。結果を合わせて表1に示す。
【0086】
<比較例1~4>
ヘキサン酸に替え表1に示す各種添加剤を含むエッチング液を調製し、加熱時間1時間の条件で評価を行った。結果を合わせて表1に示す。
【0087】
pKaが最も小さいエタンスルホン酸(pKa:-1.7(参照文献2))を添加した実験例である比較例4では未添加時(参考例)と比べて改善が見られない。また、複数のpKaをもつフタル酸(pKa1:3.1、pKa2:5.08(参照文献3))、リン酸(pKa1:2.12、pKa2:7.2、pKa3:12.36(参照文献4))、ヘキシルホスホン酸をそれぞれ添加した実験例である比較例1~3では未添加時と比較して改善は見られるものの、ヘキサン酸、ブタン酸、へプタン酸を添加した実施例1~4と比較すると改善効果は小さかった。
【0088】
<実施例4>
TMAHに替え、炭素数が16の有機アルカリであるTBAHを含むエッチング液を調製し、加熱時間1時間の条件で評価を行った。濃度と評価結果を合わせて表1に示す。本実験例では、TMAHをアルカリ化合物として用いた実施例1よりもシリコン及びシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度がともに低い。
【0089】
<比較例5>
ヘキサン酸に替え表1に示す添加剤を含むエッチング液を調製し、加熱時間1時間の場合と24時間の場合のそれぞれの条件で評価を行った。結果を合わせて表1に示す。この実験例で用いた添加剤のマルトースは還元性を有する二糖類である。加熱時間1時間の場合には、シリコン(100面)膜とシリコン-ゲルマニウム膜とのエッチング選択比(R´100/RSiGe)が優れた結果であったが、加熱時間24時間の場合には前記選択比が著しく悪化した。また、加熱時間1時間での該水溶液のpHが13.00、加熱時間24時間での該水溶液のpHが10.42であり、大きく低下した。
【0090】
【表1】