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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076224
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20240529BHJP
【FI】
B23K26/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187697
(22)【出願日】2022-11-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムCOI拠点「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの 令和3年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「先端レーザーイノベーション拠点「次世代アト秒レーザー光源と先端計測技術の開発」部門」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 薫
(72)【発明者】
【氏名】本山 央人
(72)【発明者】
【氏名】安齋 哲央
(72)【発明者】
【氏名】三村 秀和
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 純史
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD03
4E168DA02
4E168DA04
4E168DA06
4E168DA27
4E168DA43
4E168DA47
4E168EA11
4E168FD01
4E168JA12
4E168JA13
4E168JA14
(57)【要約】
【課題】ワークを微細加工することが可能な方法を提供する。
【解決手段】加工対象のワークWを準備し(S100)、前処理としてその表面に金属薄膜10を形成する(S110)。続いて、金属薄膜10が形成されたワークWに、金属薄膜10側からパルスレーザー光20を照射し(S120)、ワークWを加工する(S130)。そして後処理として、金属薄膜10を除去する(S140)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工方法であって、
前記ワークの表面に金属薄膜を形成するステップと、
前記金属薄膜に対してレーザー光を照射し、前記ワークを加工するステップと、
前記金属薄膜を除去するステップと、
を備えることを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記ワークは半導体材料であることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記ワークはSiを含むことを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項4】
前記金属薄膜の材料は、Au、Ag、Pd、それらの少なくともひとつを含む合金、からなる群から選択されるひとつを含むことを特徴とする請求項2に記載の加工方法。
【請求項5】
前記金属薄膜は、前記レーザー光に対して、10nmより短い侵入長を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項6】
前記金属薄膜は、200W/m・Kより大きい熱伝導率を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項7】
前記金属薄膜の厚さは、5~500nmであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項8】
前記レーザー光は、EUV(Extreme Ultraviolet)光であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項9】
前記レーザー光は、パルスレーザーの高次高調波であることを特徴とする請求項8に記載の加工方法。
【請求項10】
前記レーザー光の前記金属薄膜における集光スポット径は、1μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の加工方法。
【請求項11】
前記レーザー光は、Wolterミラーを用いて集光されることを特徴とする請求項10に記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザー加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料、特にシリコン表面への微細加工技術の需要が高まっている。従来、レーザー加工用光源として用いられている近赤外光は波長が1μm前後であり、回折限界による制限から、実用的な加工分解能は数マイクロメートルが限界であった。これに対して、極端紫外光の波長は30nm以下であり、その短波長性のために、約1μmから1μm以下の集光が可能であり、サブミクロン分解能レーザー加工に適した光源である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、シリコンのような難加工材料をサブミクロン分解能で加工するためには、X線自由電子レーザーのような高輝度光源が必要であったが、このような光源は、大型施設などでのみ利用可能であった。
【0004】
本開示は、このような状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、ワークを微細加工することが可能な方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のある態様は、ワークの加工方法に関する。加工方法は、ワークの表面に金属薄膜を形成するステップと、金属薄膜に対してレーザー光を照射し、ワークを加工するステップと、金属薄膜を除去するステップと、を備える。
【0006】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0007】
本開示のある態様によれば、ワークを微細加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る加工方法を説明する図である。
図2図1の加工方法を説明するフローチャートである。
図3】レーザー加工装置を示す図である。
図4】レーザー照射後のサンプル1の断面図である。
図5】レーザー照射後のサンプル2の断面図である。
図6】サンプル1~サンプル8の加工特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態の概要)
本開示のある態様は、ワークの加工方法に関する。加工方法は、ワークの表面に金属薄膜を形成するステップと、金属薄膜に対してレーザー光を照射し、ワークを加工するステップと、金属薄膜を除去するステップと、を備える。
【0010】
このレーザー光は、ワークに直接照射しても、ワークを加工することができないが、ワーク上に形成された金属薄膜に照射することで、ワークを加工することができる。
【0011】
一実施形態において、ワークはSiを含んでもよい。
【0012】
一実施形態において、金属薄膜の材料は、Au、Ag、Pd、それらの少なくともひとつを含む合金、からなる群から選択されるひとつを含んでもよい。これらの材料を用いることにより、Siのワークを、50nm以上の深さで加工することが可能となる。
【0013】
一実施形態において、金属薄膜は、レーザー光に対して、10nmより短い侵入長を有してもよい。短い侵入長により、金属薄膜の薄い領域においてレーザー光が吸収され、効率的に金属薄膜の温度を上昇させることができ、これにより、ワークを効率的に加工できていると考えられる。
【0014】
一実施形態において、金属薄膜は、200W/m・Kより大きい熱伝導率を有してもよい。大きな熱伝導率は、金属薄膜で生じた熱が効率的にワークに伝導することを意味し、したがって熱伝導率が大きいほど、加工が容易となると考えられる。
【0015】
一実施形態において、金属薄膜の厚さは、5~500nmであってもよい。
【0016】
一実施形態において、レーザー光は、EUV(Extreme Ultraviolet)光であってもよい。これにより、サブミクロンの集光が可能となり、サブミクロンの微細加工が可能となる。
【0017】
一実施形態において、レーザー光は、パルスレーザーの高次高調波であってもよい。
【0018】
一実施形態において、レーザー光の金属薄膜における集光スポット径は、1μm以下であってもよい。
【0019】
一実施形態において、レーザー光は、Wolterミラーを用いて集光されてもよい。
【0020】
(実施形態)
以下、本発明を好適な実施形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
図1は、実施形態に係る加工方法を説明する図である。
【0022】
はじめに、加工対象のワークWを準備し、洗浄する(S100)。ワークWは、Siなどの半導体基板が例示されるが、その限りでなく、Geなどのその他のIV族半導体であってよい。あるいは、ワークWは、GaAsやGaNなどのIII-V族化合物半導体であってもよいし、SiGeやSiCなどの化合物半導体であってもよい。あるいは、ワークWは、ガラスなどの絶縁材料であってもよい。
【0023】
前処理として、ワークWの加工対象となる表面に、金属薄膜10を形成する(S110)。金属薄膜10の形成には蒸着を用いることができる。金属薄膜10は、5~500nm程度の単一または複数の層で形成することができる。なお金属薄膜10は、メッキによって形成してもよい。
【0024】
続く処理S120において、金属薄膜10上にパルスレーザー光20を集光する。パルスレーザー光20の照射は、ワークWと集光位置の相対的な位置関係を固定して行ってもよく、この場合、ワークWに穴を掘ることができる。あるいはワークWと集光位置の相対的な位置関係を変化させながらレーザーを照射してもよく、その場合、ワークW上にパターンを描画することができる。
【0025】
パルスレーザー光20の波長は、加工寸法に応じて定めることができる。たとえばサブミクロン(1μm以下)の穴あけ加工を行う場合、波長は100nm以下を選ぶことができる。パルスレーザー光20のフルエンスは、ワークWの加工しきい値より低くてよい。
【0026】
レーザー照射の結果、金属薄膜10およびワークWに、開口30が形成される(S130)。
【0027】
続く後処理において、金属薄膜10が除去される(S140)。これにより開口30が形成されたワークWを得ることができる。
【0028】
以上が加工方法である。
【0029】
図2は、図1の加工方法を説明するフローチャートである。フローチャートの各ステップS100~140は、図1のそれらに対応している。
【0030】
続いて、上述の加工方法に利用可能なレーザー加工装置100を説明する。
【0031】
図3は、レーザー加工装置を示す図である。レーザー加工装置100は、レーザー光源110、集光レンズ120、希ガス130、シャッター140、金属薄膜フィルタ150、集光ミラー160を備える。レーザー光源110は、近赤外レーザーパルス発振装置であり、フェムト秒のパルス幅を有する近赤外パルス光200を生成する。レーザー光源110としてはチタンサファイアレーザーなどを用いることができる。
【0032】
集光レンズ120は、近赤外パルス光200を、希ガス130に集光する。希ガス130は高次高調波を発生する非線形媒質であり、本実施例ではArを用いた。希ガス130としては、Arのほか、He,Ne,KrやXeを用いることができる。
【0033】
金属薄膜フィルタ150は、希ガス130において発生した高次高調波のうち、加工に使用するEUVパルス光202を透過させ、近赤外領域の基本波およびその他の高調波を除去する。
【0034】
集光ミラー160は、EUVパルス光202を、金属薄膜が形成されたワークWに集光する。集光ミラー160としては、Wolterミラーを用いることができ、これによりEUVパルス光202は、ワークW上において、1μm以下のスポットに集光される。
【0035】
ワークWに入射するEUVパルス光202のパルス数は、シャッター140の開閉により制御することができる。なお、シャッター140の位置は、図3のそれに限定されず、別の場所に設けてもよい。
【0036】
以上がレーザー加工装置100の構成である。
【0037】
続いて、図3のレーザー加工装置100を用いて、いくつかのサンプルを加工した結果について説明する。
【0038】
実験では、ワークWとして、サブミクロンオーダの微細加工の需要が高いSiを採用した。またSi基板の上に形成する金属薄膜10の材料としては、以下のものを用いた。
サンプル1 Au
サンプル2 Ag
サンプル3 Pd
サンプル4 Pt
サンプル5 Cu
サンプル6 Ni
サンプル7 Cr
サンプル8 金属薄膜無し
【0039】
ワークに照射されるEUVパルス光の波長は、20~50nmであり、ショット数は1000である。
【0040】
図4は、レーザー照射後のサンプル1の断面図である。断面図の測定には、原子間力顕微鏡を用いた。サンプル1は、Siの上に、金属薄膜10として、厚さ100nmのAgを形成したものである。深さ方向yの-0.1μmが、AgとSiの界面である。SiのワークWの加工深さは、400nm(y=-0.5μm)にまで到達しており、また加工跡の直径は、深さ100nmの点で、0.5μm以下であり、サブミクロンの微細加工が実現できていることが示されている。
【0041】
図5は、レーザー照射後のサンプル2の断面図である。サンプル2は、Siの上に、金属薄膜10として、厚さ100nmのAuを形成したものである。深さ方向yの-0.1μmが、AuとSiの界面である。SiのワークWの加工深さは、-100nm(y=-0.2μm)にまで到達しており、また加工跡の直径は、深さ-100nmの点で、0.5μm程度であり、サブミクロンの微細加工が実現できていることが示されている。
【0042】
図4および図5のいずれの場合においても、金属薄膜層の厚み100nm以上の深さの加工深さが計測されており、半導体試料層(ワークW)まで加工が進行していることが示されている。なお、表面に前処理として金属層を形成させていない半導体試料の場合は極端紫外光パルスを照射しても、加工は進行しない。
【0043】
サンプルに照射されるEUVパルス光202のフルエンスは、130mJ/cm程度と見積もられる。一方、Siの加工しきい値は、270mJ/cm程度であるとされる。したがって、EUVパルス光202のフルエンスは、加工しきい値の半分、もしくはそれ以下であるにも関わらず、Siのワークが加工できている点に留意すべきである。
【0044】
図6は、サンプル1~サンプル8の加工特性を示す図である。Ag,Au,Pdについて、Si部分まで加工が進行したことが確認された。Ag,Auについては、図4図5について示した通りであり、それぞれ、Si部の400nm、100nmの深さまで加工が進行した。またPdについても、Si部の深さ50nmまで加工が進んでおり、Ag,Auに比べて加工深さは浅いが、Siを加工できていることが確認できた。なお、Ag,Auでは、穴の底部が尖っているのに対して、Pdでは、底部がフラットとなっていた。
【0045】
一方、Pt,Cu,Ni,CrおよびSi(金属薄膜なし)のサンプルについては、いずれもSi部への加工の進行は認められなかった。
【0046】
図6には、各材料の、エネルギー42eVのEUV光の光侵入長を示している。Au,Agに対する光子エネルギー42eVのEUV光の光侵入長はそれぞれ7nm、8nmであり、他の材料よりも短い。このことから、投入したパルスエネルギーは、金属薄膜10の入射面近傍で吸収され、局所的な温度上昇が起こりやすく、このことがSiへの加工を可能としていると考えられる。反対に、Pt,Cu,Ni,CrおよびSiは、光侵入長が10nmと長いため、金属薄膜10の温度を局所的に上昇させるには至らず、これが、Si部へ加工が進行していない理由と考えられる。
【0047】
また図6には、各材料の熱伝導率が示される。Si部の加工が認められたAu,Ag,Pdの熱伝導率を比較すると、それぞれ318,429,72(W/m・K)である。Au,Agの方が、Pdよりも加工深さが深いという結果から推察すると、シリコンの加工しきい値以下のフルエンスでのSi部の加工を行うためには、短い光侵入長と高い熱伝導率を有する材料が望ましいと考えられる。これは、熱伝導率が高い材料の方が、金属薄膜で発生した熱を効率的にシリコン部に伝えることができ、Siの温度を上昇させることができるためであると考えられる。
【0048】
以上の実験結果から以下の知見が得られる。
(1)金属薄膜10の材料は、光侵入長が10nm以下のものであることが好ましい。短い光侵入長は、金属薄膜10を局所的に加熱することに寄与しているものと考えられる。
【0049】
(2)金属薄膜10の熱伝導率は、200W/m・K以上、好ましくは300W/m・K以上であることが好ましい。これによりレーザー照射により発生した局所的な熱が、加工対象であるSi部に高効率で伝導することとなり、Siの加工をアシストしていると考えられる。
【0050】
本実施形態によれば、X線自由電子レーザーのような大型施設における高輝度光源を使用しなくても、テーブルトップ装置から得られる極端紫外光パルスを用いてサブミクロン分解能での半導体材料の微細加工が可能となる。
【0051】
また、テーブルトップ型の極端紫外レーザー光源による加工が可能となったことによって、微細加工コストの大幅な低下を実現し、微細加工による機能性を持つ素子開発が安価に実現することができる。
【0052】
また、加工に必要な前処理も簡便であることから、半導体材料の微細加工プロセスとして実装することへのハードルが低いといえる。世界のレーザー加工市場は年率10%前後で急成長しており、表面微細加工による機能性表面の創成や、半導体実装に不可欠なシリコン貫通ビアの微細化など、様々な応用技術開発への展開が考えられ、本発明の適用範囲は広い。
【0053】
実施形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0054】
W ワーク
10 金属薄膜
20 パルスレーザー光
30 開口
100 レーザー加工装置
110 レーザー光源
120 集光レンズ
130 希ガス
140 シャッター
150 金属薄膜フィルタ
160 集光ミラー
200 近赤外パルス光
202 EUVパルス光
図1
図2
図3
図4
図5
図6