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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076306
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】全固体電池の電極の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240529BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240529BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/0562
H02J7/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187831
(22)【出願日】2022-11-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年11月29日 https://sec.tobutoptours.co.jp/2021/denchi62/jp/online.html https://confit.atlas.jp/denchi62?lang=ja 〔刊行物等〕 公益社団法人電気化学会・電池技術委員会 第62回電池討論会、2021年12月2日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO先導プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
【テーマコード(参考)】
5G503
5H029
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA02
5G503CA12
5G503CB11
5G503CC02
5G503DA04
5G503DA07
5G503EA02
5G503EA05
5G503EA09
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
5H029CJ03
5H029CJ04
5H029CJ16
5H029HJ04
5H029HJ15
5H029HJ17
5H029HJ18
5H030AA10
5H030FF22
5H030FF31
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】全固体電池の正極及び負極の充放電容量を評価することができ、一般的な全固体電池について汎用的に利用することができる全固体電池の電極の評価方法を提供する。
【解決手段】充放電を行った全固体電池を固体電解質層で分割することで、正極20を含む正極片3a及び負極40を含む負極片を形成し、正極片3aの分割面、及び負極片の分割面のそれぞれに、固体電解質からなる粉体50、及び充放電容量の変化に対して電圧が一定である対極60をこの順で接合し、正極片3a、粉体50及び対極60からなる積層体4aを加圧することで正極ハーフセル5aを形成し、負極片、及び粉体50及び対極60からなる積層体を加圧することで負極ハーフセルを形成し、正極ハーフセル5aの正極20、及び負極ハーフセルの負極について電極容量を測定し、電極容量に基づいて全固体電池の劣化を評価する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、固体電解質層、及び負極を備える全固体電池の電極の評価方法であって、
充放電を行った全固体電池を前記固体電解質層で分割することで、前記正極を含む正極片、及び前記負極を含む負極片を形成し、
前記正極片の分割面、及び前記負極片の分割面のそれぞれに、固体電解質からなる粉体、及び充放電容量の変化に対して電圧が一定である対極をこの順で接合し、
前記正極片、及び前記対極からなる積層体を加圧することで正極ハーフセルを形成し、
前記負極片、及び前記対極からなる積層体を加圧することで負極ハーフセルを形成し、
前記正極ハーフセルの正極、及び前記負極ハーフセルの負極について電極容量を測定し、前記電極容量に基づいて前記全固体電池の劣化を評価する
ことを特徴とする全固体電池の電極の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池の電極の評価方法であって、
前記正極片の分割面、及び前記負極片の分割面のそれぞれに、固体電解質からなる粉体、及び前記対極をこの順で接合する
ことを特徴とする全固体電池の電極の評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の全固体電池の電極の評価方法であって、
前記全固体電池を切り出して前記正極片及び前記負極片を形成する
ことを特徴とする全固体電池の電極の評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載の全固体電池の電極の評価方法であって、
前記積層体を加圧する際の圧力は、前記全固体電池の製造時の圧力とする
ことを特徴とする全固体電池の電極の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の電極の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は充放電を繰り返すことで劣化する。そのため、全固体電池の劣化を把握することは重要である。従来、全固体電池の劣化を評価する方法が提案されている。
【0003】
非特許文献1には、固体電解質に参照電極を挿入した全固体電池を作製し、その全固体電池を劣化させ、その劣化具合を評価することが記載されている。このような全固体電池は、参照電極と正極又は負極との間で充放電性能を評価することができる。しかしながら、参照電極を必要とすることから、参照電極を有さない一般的な全固体電池に適用できるほど汎用性がある評価方法ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. Ikezawa, et al.,"Performance of Li4Ti5O12-based reference electrode for the electrochemical analysis of all-solid-state lithium-ion batteries", Electrochemistry Communications, Vol. 116, July 2020, 106743, https://doi.org/10.1016/j.elecom.2020.106743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、全固体電池の正極及び負極の充放電容量を評価することができ、一般的な全固体電池について汎用的に利用することができる全固体電池の電極の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、正極、固体電解質層、及び負極を備える全固体電池の電極の評価方法であって、充放電を行った全固体電池を前記固体電解質層で分割することで、前記正極を含む正極片、及び前記負極を含む負極片を形成し、前記正極片の分割面、及び前記負極片の分割面のそれぞれに、固体電解質からなる粉体、及び充放電容量の変化に対して電圧が一定である対極をこの順で接合し、前記正極片、及び前記対極からなる積層体を加圧することで正極ハーフセルを形成し、前記負極片、及び前記対極からなる積層体を加圧することで負極ハーフセルを形成し、前記正極ハーフセルの正極、及び前記負極ハーフセルの負極について電極容量を測定し、前記電極容量に基づいて前記全固体電池の劣化を評価することを特徴とする全固体電池の電極の評価方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、全固体電池の正極及び負極の充放電容量を評価することができ、一般的な全固体電池について汎用的に利用することができる全固体電池の電極の評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】全固体電池と充放電装置を示す図である。
図2】全固体電池から電池片を切り出す工程を示す図である。
図3】電池片を固体電解質層で分割して正極片及び負極片を作製する工程を示す図である。
図4】正極片及び負極片の分割面に、固体電解質からなる粉体、対極を接合する工程を示す図である。
図5】積層体を加圧して正極ハーフセルを形成する工程を示す図である。
図6】積層体を加圧して負極ハーフセルを形成する工程を示す図である。
図7】新品の全固体電池から作製した正極ハーフセルと、加圧を行わずに作製した新品の正極ハーフセルの充放電特性を示す図である。
図8】全固体電池の劣化を評価した例を示す図である。
図9】充放電特性の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の全固体電池の電極の評価方法について説明する。全固体電池の電極の評価方法は次の工程からなる。
工程1.全固体電池を劣化させる。
工程2.全固体電池から電池片を切り出す。
工程3.電池片から正極片、負極片を形成する。
工程4.正極片、及び負極片のそれぞれに固体電解質の粉体及び対極を接合する。
工程5.4の積層体を加圧して正極ハーフセル、負極ハーフセルを形成する。
工程6.正極ハーフセル、負極ハーフセルの評価を行う。
【0010】
[工程1]
図1に全固体電池と充放電装置を示す。全固体電池1は、正極、固体電解質層及び負極(何れも図示せず)がこの順で積層され、外装体10で被覆されている。正極には正極端子11、負極には負極端子12が接続されており、外装体10から露出している。正極、固体電解質層及び負極の材質は、特に限定はなく、公知のものを利用できる。
【0011】
充放電装置100は、定電流充電、低電圧充電、定電流放電を実行可能な装置であり、公知のものを利用できるので詳細な構成は省略する。なお、定電流充電とは充電レートを一定として充電を行う方法である(CC充電とも略記する)。定電圧充電とは例えば充電を始めて上限電圧に達したら電圧を一定とし、充電を行う方法である(CV充電とも略記する)。定電流放電とは放電レートを一定として放電を行う方法である。
【0012】
充放電を行う回数、CC若しくはCV、又はそれらの併用、充電レート、放電レート、温度など様々な条件を設定する。そして、充放電装置100により全固体電池1に充放電させて全固体電池を劣化させる。
【0013】
[工程2]
図2に示すように、全固体電池1の充電率をゼロとして外装体10を開封する。積層された正極20、固体電解質層30、負極40を備えた全固体電池1を切り出す。同図の例では、平面視で矩形状の全固体電池1を縦横三等分となるような点線に沿って切り出している。全固体電池1から切り出した一つを電池片2とする。なお、電池片2へ切り出す際の個数や形状に限定はない。また全固体電池1を切り出さずに全体を電池片2として次の工程に使用してもよい。
【0014】
[工程3]
次に、図3に示すように電池片2を固体電解質層30で分割する。分割により、正極20と固体電解質層30の一部(固体電解質層30aとも称する)からなる正極片3aと、負極40と固体電解質層30の一部(固体電解質層30bとも称する)からなる負極片3bとを形成する。ここでは、固体電解質層30が等分となるように分割した。
【0015】
電池片2の分割は、固体電解質層30を積層方向と平行な方向にカッター等で切断することで実現できるが、分割方法に特に限定はない。分割により現われた電池片2の面を分割面Sと称する。分割面Sを研磨することで電池片2に残った固体電解質層30を所望の厚さとしてもよい。
【0016】
なお、電池片2を固体電解質層30で分割するとは、正極20と固体電解質層30との界面や、負極40と固体電解質層30との界面で分割する場合も含む。つまり、正極片3a又は負極片3bの何れか一方には固体電解質層30が残らず、他方に固体電解質層30が残るような分割を行ってもよい。
【0017】
[工程4]
次に、図4に示すように、正極片3aの分割面Sに、固体電解質からなる粉体50、対極60をこの順で接合する。このようにして得られた正極片3a、粉体50、対極60を積層体4aと称する。同様に、負極片3bの分割面Sに、固体電解質からなる粉体50、対極60をこの順で接合する。このようにして得られた負極片3b、粉体50、対極60を積層体4bと称する。なお、正極片3a、負極片3b、粉体50、対極60の接合は、図5に示すスリーブ内で行ってもよい。
【0018】
粉体50は、粉状の固体電解質であり、バインダーを含んでいてもよい。粉体50として用いられる固体電解質は、全固体電池1の固体電解質層30に含まれる電解質と同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、積層体4aの粉体50と積層体4bに用いる粉体50は、同じ電解質であってもよいし、異なっていてもよい。粉体50の厚さについては特に限定はないが、例えば、0.1μm以上300μm以下とする。粉体50は均一な厚さとすることが好ましい。
【0019】
固体電解質層30は、固体電解質を含有する層であり、バインダーをさらに含有していてもよい。固体電解質としては、例えば無機固体電解質が挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質が挙げられる。
【0020】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、さらにハロゲン元素を含有していてもよい。
【0021】
酸化物固体電解質としては、例えば、Li元素、Y元素(Yは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo、W、Sの少なくとも一種である)、および、O元素を含有する固体電解質が挙げられる。
【0022】
窒化物固体電解質としては、例えばLiNが挙げられ、ハロゲン化物固体電解質としては、例えばLiCl、LiI、LiBrが挙げられる。
【0023】
固体電解質層に用いられるバインダーとしては、例えば、ブチレンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ化物系バインダーが挙げられる。
【0024】
本実施形態では、正極片3aを含む積層体4aは、粉体50としてLi10GeP212 (LGPS)の電解質を用い、負極片3bを含む積層体4bは、粉体としてLi728I(LPSI)の電解質を用いる。正極の積層体4aおよび負極の積層体4bに利用する粉体50はそれぞれ4V以上の高い電圧および1V以下の低い電圧でそれぞれ電気化学的に安定な固体電解質が望ましい。
【0025】
対極60は、充放電容量の変化に対して電圧が一定である電極である。電圧が一定であるとは厳密に一定である必要はなく、±10%の範囲で変化する場合も一定であるとみなす。このような対極60としては、Li-In合金を挙げることができる。また金属リチウムLiを使用することも可能とする。
【0026】
[工程5]
図5は、積層体4aを加圧して正極ハーフセルを形成する工程を示す図である。円筒状の絶縁材料から形成されたスリーブ70には、上部に正極部材71、底部に負極部材72が取り付けられている。
【0027】
正極部材71は、導電性を有する金属などの材料を棒状に形成したものである。正極部材71の先端部分は平坦に形成されており、スリーブ70の開口とほぼ同形状である。負極部材72は、導電性を有する金属などの材料をネジ状に形成したものであり、スリーブ70の底部開口に設けられた雌ネジに固定されている。
【0028】
負極部材72が固定されたスリーブ70の内部に積層体4aを配置する。積層体4aを形成してからそれをスリーブ70内に配置してもよいし、対極60、粉体50、正極片3aの順にスリーブ70の内部に投入し、スリーブ70内で積層体4aを形成してもよい。
【0029】
次に、正極部材71を積層体4aの正極20に当接させ、積層体4aに向けて加圧する。加圧は、特に図示しないが、正極部材71と負極部材72とを挟み込むクランプなどにより行うことができる。加圧の強さは、特に限定はないが、全固体電池1を作製する際に掛ける圧力と同程度でよい。具体的には1~5ton/cm^2程度の圧力であればよい。少なくとも次の工程で評価を行っている間は、クランプ等で掛けた圧力を維持する。
【0030】
このように積層体4aを加圧することで、正極ハーフセル5aを形成することができる。正極ハーフセル5aは、正極部材71に正極端子73が設けられており、負極部材72に負極端子74が設けられている。正極ハーフセル5aは、これらの端子を介して充放電することが可能となっている。また、図6に示すように、負極片3bを有する積層体4bについても同様にして負極ハーフセル5bを作製することができる。
【0031】
図7に、工程1の劣化を行わずに工程2-工程5を実施して作製した正極ハーフセル(試験例)、つまり新品の全固体電池から作製した正極ハーフセルと、通常の方法(後述)で作製した新品の正極ハーフセル(比較例)の充放電特性を比較した結果を示す。横軸は正極の電極容量であり、縦軸は電圧である。左上から右下にわたる線は充電時における電極容量と電圧の関係を示し、右上から左下にわたる線は放電時における電極容量と電圧の関係を示している。赤実線及び赤破線は試験例の正極ハーフセルの充放電特性を示し、黒実線は比較例の正極ハーフセルの充放電特性を示す。なお、配色については、物件提出書にて提出した図を参照されたい。
【0032】
比較例に係る正極ハーフセルは次のようにして作製した。一般的に用いられる電極材料、固体電解質層の材料の粉体をコールドプレスにより全固体電池を作製した。この全固体電池を固体電解質層で分割して、正極片を切り取り、当該正極片を対極に載せて正極ハーフセルとした。つまり、試験例の正極ハーフセル5aは、比較例の正極ハーフセルとは、固体電解質の粉体50を接合して加圧する点で相違している。
【0033】
同図に示すように、充電時において高い電極容量の範囲(約110-120mAhg-1)において両者に相違があるが、それ以外の範囲では概ね一致している。このことから、正極ハーフセル5aを作製するにあたって行う加圧は、正極にダメージを与えていないと考えられる。したがって、次工程における全固体電池1の評価は、正極ハーフセル5aを作製する際の加圧に影響されない評価であるといえる。
【0034】
[工程6]
次に、全固体電池1の劣化を、正極ハーフセル5aの正極20、負極ハーフセル5bの負極40の電極容量に基づいて評価する。換言すれば、繰り返しの充放電による全固体電池の電池容量の劣化に対して、正極の電極容量及び負極の電気容量がどの程度寄与しているかを実証する。
【0035】
具体的には、劣化していない新品の全固体電池について正極ハーフセル、及び負極ハーフセルを作製するとともに、劣化した全固体電池について正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製する。これらの正極ハーフセル及び負極ハーフセルについて電極容量を測定し、比較することで、正極と負極のそれぞれについて電極容量の低下がどの程度であるかを得ることができる。この結果に基づいて、全固体電池1の劣化に対して正極及び負極のそれぞれの劣化が寄与している程度を示すことができる。
【0036】
図8図9を用いて全固体電池の劣化を評価した例を説明する。図8(a)には、全固体電池の劣化前後における電池容量の変化を示している。電池番号(I)は、劣化していない新品の全固体電池である。電池番号(II)-(IV)は劣化させた全固体電池である。
【0037】
温度、充電方法、充電電流、放電方法、放電電流、サイクル数は充放電条件である。充電電流及び放電電流の「C/3」は、充放電の早さを表している。定電流で充放電(CC)する場合、全固体電池の電池容量を1時間で完全充電又は完全放電させる電流の大きさを1Cとする。C/3は、1Cの三分の一であるから、完全充電又は完全放電するまで3時間要することを表す。サイクル数は、一回の充放電を一サイクルとし、その回数を表している。
【0038】
図8(a)に示した充放電条件で電池番号(II)-(IV)の全固体電池を劣化させた(工程1)。電池の劣化試験の温度は、電池番号(II)では80℃、電池番号(III)と(IV)では60℃で行った。劣化前後の電池容量を25℃で測定した結果、電池番号(II)-(IV)のそれぞれの容量低下率(劣化前の電池容量/劣化後の電池容量)は、97%、58%、41%であった。
【0039】
次に、電池番号(I)-(IV)について、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した(工程2-工程5)。図8(b)に、それらの正極ハーフセルについて、正極残存容量、正極容量シフト率、正極電極容量(C/10)、正極電極容量(C/20)、正極電極容量比、正極失活率を測定・計算した結果を示す。図8(c)に、それらの負極ハーフセルについて、負極残存容量、負極容量シフト率、負極電極容量(C/10)、負極電極容量(C/20)、負極電極容量比、負極失活率を測定・計算した結果を示す。
【0040】
これらの測定結果に基づいて全固体電池の劣化を評価した(工程6)。電池番号(II)の全固体電池は、最も厳しい充放電条件で劣化させたものである。この電池番号(II)から作製された正極ハーフセルは、図8(b)に示すように正極失活率が100%となっている一方、電池番号(II)から作製された負極ハーフセルは、図8(c)に示すように負極失活率が1%となっている。つまり、全固体電池の劣化(容量低下率97%)は、正極の劣化に依るところが大きく(正極失活率が100%)、負極の劣化に依るところがほとんどない(負極失活率が1%)と評価できた。
【0041】
同様に、電池番号(III)から作製された正極ハーフセルは正極失活率が62%となっている一方、電池番号(III)から作製された負極ハーフセルは負極失活率が10%となっている。
【0042】
同様に、電池番号(IV)から作製された正極ハーフセルは正極失活率が71%となっている一方、電池番号(IV)から作製された負極ハーフセルは負極失活率が3%となっている。
【0043】
このように、電池番号(III)、(IV)についても、全固体電池の劣化は、正極の劣化に依るところが大きいと評価できた。
【0044】
図9に充放電特性の比較を示す。図9(a)の赤実線は電池番号(II)の正極ハーフセルの充放電特性であり、黒実線は電池番号(I)の正極ハーフセルの充電特性である。図9(b)の赤実線は電池番号(II)の負極ハーフセルの充放電特性であり、黒実線は電池番号(I)の負極ハーフセルの充電特性である。
【0045】
同図に示すように、正極に関しては、「C/10」「C/20」で充電した場合の何れについても、充放電特性は大きく乖離していた。つまり、劣化後の電池番号(II)の正極の充放電特性は、劣化していない電池番号(I)の正極の充放電特性と比べて大きく劣化していることが示された。
【0046】
一方、負極に関しては、「C/10」「C/20」で充電した場合の何れについても、充放電特性は近似していた。つまり、劣化後の電池番号(II)の負極の充放電特性は、劣化していない電池番号(I)の負極の充放電特性と比べてほとんど劣化していないことが示された。
【0047】
以上に説明したように、本発明の全固体電池の電極の評価方法によれば、全固体電池の劣化を、正極及び負極の個別の電極容量に基づいて評価することができる。すなわち、図8(a)に示したように全固体電池の電池容量が低下した要因を、図8(b)及び図8(c)に示した正極及び負極の個別の電極容量によって評価することができる。また、本発明は、全固体電池1から分割して得た正極片3a及び負極片3bに対極60を接合する。すなわち、元の全固体電池1に対極が設けられていることを前提としない。したがって、本発明は、対極を有さない一般的な全固体電池に対して汎用的に適用することができる。
【0048】
また、本発明の全固体電池の電極の評価方法は、正極片3aの分割面S、及び負極片3bの分割面Sのそれぞれに、固体電解質からなる粉体50、及び対極60をこの順で接合する。このように粉体50を用いることで、正極ハーフセル5aの正極20と対極60とが短絡してしまうことをより確実に回避することができる。同様に、負極ハーフセル5bの負極40と対極60とが短絡してしまうことをより確実に回避することができる。
【0049】
なお、正極ハーフセル5aは、元の全固体電池1の固体電解質層30aが正極20と対極60の間に存在していることから、基本的にはそれらが短絡することはない。しかしながら、固体電解質層30で分割する際や、分割後に研磨するなどの原因で、固体電解質層30の一部が欠け、正極20と対極60が短絡するおそれがある。本発明では、固体電解質からなる粉体50を正極20と対極60の間に接合するので、そのような欠けがあったとしても粉体50で埋められるため、短絡をより確実に回避することができる。このような効果は負極ハーフセル5bについても同様である。
【0050】
また、短絡を引き起こさないにしても固体電解質層30aにクラックが生じる虞がある。しかしながら、粉体50を設けることで固体電解質層30aを補強することができる。これにより固体電解質層30aの破壊を防ぐことができる。このような効果は負極ハーフセル5bについても同様である。
【0051】
さらに、粉体50は、対極60と固体電解質層30aとの密着性を向上させる効果がある。そして、粉体50を用いない場合、対極60と固体電解質層30aとの接触抵抗がばらつく虞がある一方、粉体50を用いる場合は対極60と粉体50との接触抵抗を均一化することができる。これにより正極ハーフセルから得られる電極容量などの測定値をより精度よく得ることができる。このような効果は負極ハーフセル5bについても同様である。
【0052】
また、本発明の全固体電池の電極の評価方法は、全固体電池から電池片2を適切なサイズに切り出す。図2の例では縦横三等分とした電池片を作製した。このように電池片を作製することで、任意の電極面積を有する正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製することができ、様々な電極面積の全固体電池について評価することができる。
【0053】
また、本発明の全固体電池の電極の評価方法は、積層体を加圧する際の圧力は、全固体電池の製造時の圧力とする。すなわち、一度、加圧して成形された全固体電池を分割した正極片及び負極片であっても、過大な圧力を掛けることもなく新品電池と大差ない充放電特性を有する正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製することができる。
【0054】
なお、正極片や負極片は、既に加圧して成形されたものであるから、これに固体電解質の粉体50及び対極60を接合して再度セル化することは、過大な圧力を要すると考えられるものである(第62回電池討論会3E11(2021)「硫化物系全固体LIBの抵抗解析」(LIBTEC 大西仁志ら))。実際、製造時の圧力の数倍を掛けて評価用のセルを製造する先行研究もある。しかしながら、本発明では、そのような過大な圧力を掛けずとも適正な評価を行えることを見出した。このように過大な圧力を掛ける必要がないので、正極ハーフセル及び負極ハーフセルにダメージを与えてしまうことを回避できる。
【0055】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、正極片及び負極片に粉体を設けて正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製したが、粉体を設けなくてもよい。すなわち、正極片及び負極片に残った固体電解質層に対極を接合した正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製してもよい。
【0056】
また、正極ハーフセル5a及び負極ハーフセル5bは、図5及び図6に示した構成に限定されない。すなわちスリーブ70、正極部材71、負極部材72は例示である。
【符号の説明】
【0057】
S…分割面、1…全固体電池、2…電池片、3a…正極片、3b…負極片、4a、4b…積層体、5a…正極ハーフセル、5b…負極ハーフセル、20…正極、30、30a、30b…固体電解質層、40…負極、50…粉体、60…対極
図1
図2
図3
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図6
図7
図8
図9